以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、車両用自動変速機10の骨子図で、(b) は複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の前後方向(縦置き)に搭載するFR車両に好適に用いられるもので、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸であり、出力軸24は出力部材に相当するもので、プロペラシャフトや差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
図2は、上記自動変速機10の第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の回転速度を直線で表すことができる共線図で、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度であり、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態(係合、解放)に応じて第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の8つの前進変速段が成立させられるとともに、第1後進変速段「Rev1」および第2後進変速段「Rev2」の2つの後進変速段が成立させられる。図1の(b) の作動表は、上記各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。なお、図1(a) の符号26はトランスミッションケースで、符号48は機械式のオイルポンプである。
上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図3参照)に設けられたソレノイドバルブやリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁、或いは電流値制御などにより、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるとともに、そのアクセル操作量Accを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力軸24の回転速度NOUT に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2の回転速度NS2を検出するためのNS2回転速度センサ77、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、サンギヤ回転速度NS2、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
上記シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、図4に示すように4つの操作ポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ運転者により手動操作されるようになっている。「R」は後進走行を行うための後進走行ポジションで、「N」は動力伝達を遮断するニュートラルポジションで、「D」は自動変速による前進走行を行うための前進走行ポジションで、「S」は変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジションであり、シフトレバー72がどの操作ポジションへ操作されているかがレバーポジションセンサ74によって検出される。
そして、「D」ポジションおよび「S」ポジションでは、前進変速段である第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」で変速しながら前進走行することが可能となり、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。すなわち、前記油圧制御回路98に設けられたソレノイドバルブやリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、クラッチCおよびブレーキBの係合、解放状態を切り換えて、第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の何れかの前進変速段を成立させるのである。この変速制御は、例えば図5に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ(変速条件)に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の変速段を成立させる。なお、アクセル操作量Accや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断し、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の中で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるシーケンシャルモードを電気的に成立させる。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って図6に示すように最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる8つの変速レンジ「D」、「7」、「6」、「5」、「4」、「3」、「2」、「L」の何れかを電気的に成立させるとともに、各変速範囲内において例えば図5の変速マップに従って自動的に変速制御を行う。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ繰り返し操作すると、変速レンジが例えば「4」レンジから、「3」レンジ、「2」レンジ、「L」レンジへ切り換えられ、第4変速段「4th」から第3変速段「3rd」、第2変速段「2nd」、第1変速段「1st」へ順次ダウンシフトされて、エンジンブレーキが段階的に増大させられる。このシーケンシャルモードで成立させられる第1変速段「1st」は、エンジンブレーキ作用が得られるように前記第2ブレーキB2が係合させられる。
上記アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
一方、図7は、油圧制御回路98のうち、第2後進変速段「Rev2」を成立させる際に係合させられる第4クラッチC4および第2ブレーキB2の油圧を制御する部分を示す回路図で、第4クラッチC4の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34には、ライン油圧PLがリニアソレノイドバルブSLC4により調圧されて、そのまま供給されるとともに、第2ブレーキB2の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)36には、マニュアルバルブ38から出力されたリバース油圧PR がインヒビット切換バルブ40を経て供給されるようになっている。第4クラッチC4は第1摩擦係合装置に相当し、第2ブレーキB2は第2摩擦係合装置に相当する。なお、自動変速機10は、後進走行用の変速段として第1後進変速段「Rev1」および第2後進変速段「Rev2」が可能であるが、本実施例では通常の変速制御において第2後進変速段「Rev2」が用いられ、上記第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合させられるようになっている。
上記リニアソレノイドバルブSLC4は、リバースコントロールバルブに相当するもので、本実施例ではノーマリクローズ型のものが用いられており、図8に示すように、励磁電流に応じて電磁力を発生するソレノイド100、スプール102、スプリング104、ライン油圧PLが供給される入力ポート106、調圧した油圧を出力する出力ポート108、ドレーンポート110、出力油圧が供給されるフィードバック油室112を備えている。そして、フィードバック油室112に供給されるフィードバック油圧Pf、その受圧面積Af、スプリング104の荷重Fs、ソレノイド100による電磁力Fが、次式(1) を満足するように、その電磁力Fに応じて3つのポート106、108、110の連通状態が変化させられて出力油圧(フィードバック油圧Pf)が調圧制御され、前記油圧アクチュエータ34等に供給される。上記ソレノイド100の電磁力Fは、前記電子制御装置90によって励磁電流の電流値が制御されることによって連続的に変化させられる。ライン油圧PLは、リニアソレノイドバルブSLTの出力油圧PSLTを信号油圧として、図示しないレギュレータバルブにより例えばエンジン負荷等に応じて調圧制御される。
F=Pf×Af+Fs ・・・(1)
上記リニアソレノイドバルブSLC4による油圧(フィードバック油圧Pf)の調圧範囲は、優れた応答性や制御精度が得られるように、第4クラッチC4が例えば通常の運転状態で必要な所定の係合トルクを得られる範囲で、できるだけ低い範囲となるように設定されている。例えば、図9に示すように励磁電流の制御範囲が0〜1.0Aの場合に、油圧を0〜0.8MPaの範囲で調圧する場合と0〜1.2MPaの範囲で調圧する場合とでは、0〜0.8MPaの範囲で調圧する方が、調圧範囲が狭い分だけ優れた応答性できめ細かく高い精度で調圧することが可能である。そして、変速過渡時の係合、解放時には、変速ショックができるだけ少なくなるように、その油圧範囲で第4クラッチC4の係合油圧を調圧制御する。
図7に戻って、前記マニュアルバルブ38は、前記シフトレバー72に機械的に接続されて、そのシフトレバー72の操作ポジションに応じて油圧回路を機械的に切り換えるもので、シフトレバー72が後進走行ポジションである「R」ポジションへ操作されると、リバース油圧出力ポート42が図示しない入力ポートに接続されて、その入力ポートに供給されるライン油圧PLを、そのリバース油圧出力ポート42からリバース油圧PR として出力する。リバース油圧出力ポート42は、「R」ポジション以外では図示しないドレーンポートに連通させられて作動油をドレーンする。
また、前記インヒビット切換バルブ40は、接続油路44を介して上記マニュアルバルブ38のリバース油圧出力ポート42に接続された入力ポート120と、前記第2ブレーキB2の油圧アクチュエータ36に接続された出力ポート122と、作動油をドレーンするドレーンポート124とを備えている。そして、図示しないスプールがスプリング126の付勢力に従って一方の移動端へ移動させられると、入力ポート120と出力ポート122とを連通させるとともにドレーンポート124を遮断する油圧供給状態とされ、シフトレバー72が「R」ポジションへ操作されることによりマニュアルバルブ38から出力されるリバース油圧PR が油圧アクチュエータ36に供給されて第2ブレーキB2が係合させられるとともに、シフトレバー72が「R」ポジション以外の操作ポジションへ操作されると、油圧アクチュエータ36の作動油が接続油路44を経てマニュアルバルブ38のドレーンポートから排出されて第2ブレーキB2が解放される。接続油路44には、作動油の流通を制限するオリフィス46が設けられて、油圧アクチュエータ36に対する作動油の供給、および油圧アクチュエータ36からの作動油の排出がそれぞれ制限され、第2ブレーキB2の係合トルクが徐々に増減させられるとともに、その間に前記リニアソレノイドバルブSLC4により第4クラッチC4の油圧が制御されることにより、第2後進変速段「Rev2」の成立時や第2後進変速段「Rev2」から他の変速段(ニュートラルなど)への変速時のショックが低減される。
上記インヒビット切換バルブ40には、ON−OFFソレノイドバルブSLが接続されており、そのON−OFFソレノイドバルブSLのソレノイドが前記電子制御装置90によってON(励磁)されることにより、モジュレータ油圧Pmodが信号油圧としてインヒビット切換バルブ40に供給される。そして、この信号油圧が供給されると、前記スプリング126の付勢力に抗してスプールが他方の移動端へ移動させられ、出力ポート122とドレーンポート124とが連通させられるとともに入力ポート120が遮断される油圧排出状態とされる。これにより、シフトレバー72が「R」ポジションへ操作されてマニュアルバルブ38からリバース油圧PR が出力されても、インヒビット切換バルブ40により油圧アクチュエータ36への供給が阻止されるとともに、その油圧アクチュエータ36の作動油はインヒビット切換バルブ40のドレーンポート124から排出され、第2ブレーキB2が解放されて第2後進変速段「Rev2」の成立が阻止される。インヒビット切換バルブ40およびON−OFFソレノイドバルブSLにより、所定の条件下で後進変速段の成立を制限するリバースインヒビットバルブ128が構成されている。
また、上記リニアソレノイドバルブSLC4およびインヒビット切換バルブ40の各ドレーンポート110、124には、接続油路135を介してドレーン切換バルブ130が接続されている。ドレーン切換バルブ130は、前記マニュアルバルブ38からリバース油圧PR が供給される入力ポート132と、上記接続油路135が接続された出力ポート134と、作動油をドレーンするドレーンポート136とを備えている。そして、図示しないスプールがスプリング138の付勢力に抗してモジュレータ油圧Pmodにより一方の移動端へ移動させられると、出力ポート134とドレーンポート136とが連通させられるとともに入力ポート132が遮断される油圧排出状態とされ、リニアソレノイドバルブSLC4のドレーンポート110およびインヒビット切換バルブ40のドレーンポート124がそれぞれドレーン切換バルブ130のドレーンポート136に連通させられて、そのドレーンポート136から作動油がドレーンされることにより、リニアソレノイドバルブSLC4による第4クラッチC4の油圧制御や解放制御、およびリバースインヒビットバルブ40による第2ブレーキB2の解放制御が、共に許容される。
上記ドレーン切換バルブ130にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、その出力油圧PSLTがスプールに対して前記スプリング138と同じ向きに作用させられるようになっている。リニアソレノイドバルブSLTはノーマリオープン型で、前記電子制御装置90によりモジュレータ油圧Pmodを基準圧として出力油圧PSLTが連続的に変化させられることにより、前記ライン油圧PLをエンジン負荷等に応じて調圧制御するものであり、通常は出力油圧PSLTはモジュレータ油圧Pmodよりも十分に低く、スプリング138の荷重αおよびモジュレータ油圧Pmodに対して次式(2) の関係となり、ドレーン切換バルブ130は前記油圧排出状態に保持される。(2) 式のa、bは、受圧面積に応じて定められる係数である。しかし、電子制御装置90によりリニアソレノイドバルブSLTに対する励磁電流の出力が停止(OFF)され、出力油圧PSLTが最高圧MAX(=Pmod)になると、次式(3) の関係になり、スプールが他方の移動端へ移動させられて、出力ポート134と入力ポート132とが連通させられるとともにドレーンポート136が遮断される油圧供給状態となり、リバース油圧PR がドレーン切換バルブ130を経てリニアソレノイドバルブSLC4およびインヒビット切換バルブ40のドレーンポート110、124にそれぞれ供給される。このため、リニアソレノイドバルブSLC4については、その調圧制御が不可になり、リニアソレノイドバルブSLC4の作動状態に拘らず油圧アクチュエータ34に作動油が供給されて、リバース油圧PR (=PL)による高い係合トルクで第4クラッチC4が係合させられる。また、リバース切換バルブ40についても、その作動状態に拘らずリバース油圧PR がリバース切換バルブ40を経て油圧アクチュエータ36に供給され、第2ブレーキB2が係合させられる。ドレーン切換バルブ130およびリニアソレノイドバルブSLTによりドレーンコントロールバルブ140が構成されている。
a×PSLT+α<b×Pmod ・・・(2)
a×PSLT+α>b×Pmod ・・・(3)
なお、リニアソレノイドバルブSLTの制御範囲(スプールが釣り合う範囲)の最大の出力油圧PSLTで(3) 式を満足する場合には、必ずしも励磁電流の出力をOFFにする必要はなく、制御範囲内で出力油圧PSLTを制御してドレーン切換バルブ130を切り換えるようにしても良い。
次に、以上のように構成された車両用自動変速機10の後進変速段に関連する制御について、図10のフローチャートを参照しつつ具体的に説明する。前記電子制御装置90は、信号処理により図10のフローチャートの各ステップを実行する機能を備えている。なお、ON−OFFソレノイドバルブSLは常にはOFF(非励磁)で、インヒビット切換バルブ40は特に言及しない限り入力ポート120と出力ポート122とを連通する油圧供給状態とされている一方、リニアソレノイドバルブSLTの出力油圧PSLTは常には前記(2) 式を満足し、ドレーン切換バルブ130は特に言及しない限り出力ポート134とドレーンポート136とを連通する油圧排出状態とされている。
図10のステップS1では、シフトレバー72を「N」ポジションから「R」ポジションへ切り換えるN→Rシフト操作が行われたか否かを、レバーポジションセンサ74によって検出されるレバーポジションPSHの変化に基づいて判断し、N→Rシフト操作が行われた場合は、ステップS2でN→Rシフトが可能か否かを、予め定められた許可条件を満足するか否かによって判断する。許可条件は、例えば前進走行の場合に車速Vが所定値以下であることなどで、許可条件を満足する場合はステップS3を実行し、リニアソレノイドバルブSLC4による第4クラッチC4の係合制御で第2後進変速段「Rev2」を成立させる。第2ブレーキB2は、シフトレバー72が「R」ポジションへ操作されることにより、マニュアルバルブ38が機械的に切り換えられてリバース油圧PR が出力され、インヒビット切換バルブ40を経て油圧アクチュエータ36に供給されることにより、オリフィス46の流量に応じて機械的に係合させられるため、上記リニアソレノイドバルブSCL4は、この第2ブレーキB2が係合するタイミングに合わせて第4クラッチC4を滑らかに係合させることにより、ショックを抑制しつつ第2後進変速段「Rev2」を成立させる。
ステップS4では、フェールか否か、すなわち所定時間経過しても第2後進変速段「Rev2」が成立しないか否かを判断する。これは、例えばタービン回転速度NT(=入力回転速度NIN)、車速V(=出力回転速度NOUT )、およびサンギヤ回転速度NS2などから判断することが可能で、車速V=0であるにも拘らずNT=NS2>0である場合は第2ブレーキB2がフェール(解放)と判断でき、NT>0であるにも拘らずV=NS2=0である場合は第4クラッチC4がフェール(解放)と判断できる。そして、フェールでなければそのまま終了するが、フェールの場合はステップS5で第2ブレーキB2がフェールか否かを判断し、第2ブレーキB2がフェールの場合はステップS7を実行するが、そうでない場合すなわち第4クラッチC4がフェールの場合は直ちにステップS6を実行する。
ステップS7では、ON−OFFソレノイドバルブSLをON(励磁)する励磁電流の電源をOFFにし、これによりフェールが解消したか否かをステップS8で判断する。すなわち、第2ブレーキB2がフェール(解放)の場合は、ON−OFFソレノイドバルブSLやインヒビット切換バルブ40のスプールが異物を噛み込んで移動不能となるバルブステックの他に、ON−OFFソレノイドバルブSLのソレノイドがショートなどでON(励磁)となる場合があるため、励磁電流の電源をOFFにすることによりフェールの解消を試みるのである。これによりフェールが解消すれば、そのまま終了するが、フェールが解消しない場合には、機械的なバルブスティック等が原因と考えられるため、ステップS6を実行する。
ステップS6では、リニアソレノイドバルブSLTに対する励磁電流の出力を停止(OFF)することにより、出力油圧PSLTを最高圧MAX(=Pmod)とし、ドレーン切換バルブ130を油圧供給状態とする。これにより、マニュアルバルブ38から出力されるリバース油圧PR がドレーン切換バルブ130を経てリニアソレノイドバルブSLC4およびインヒビット切換バルブ40のドレーンポート110、124にそれぞれ供給される。このため、リニアソレノイドバルブSLC4のフェールで油圧アクチュエータ34の油圧がドレーンポート110からドレーンされて第4クラッチC4が解放されている場合には、そのドレーンポート110からリバース油圧PR が油圧アクチュエータ34に供給されて、第4クラッチC4が係合させられる。また、リバースインヒビットバルブ128のフェールで油圧アクチュエータ36の油圧がインヒビット切換バルブ40のドレーンポート124からドレーンされて第2ブレーキB2が解放されている場合には、そのドレーンポート124からリバース油圧PR が油圧アクチュエータ36に供給されて、第2ブレーキB2が係合させられる。このように、リニアソレノイドバルブSLC4およびリバースインヒビットバルブ128の何れか一方或いは両方が油圧排出状態でフェールした場合には、リニアソレノイドバルブSLTをOFFにしてドレーン切換バルブ130を油圧供給状態に切り換えることにより、第4クラッチC4および第2ブレーキB2を共に係合させて第2後進変速段「Rev2」を成立させて後進走行を行うことができる。
なお、コネクタの接続不良などで電源OFFとなり、総てのON−OFFソレノイドバルブやリニアソレノイドバルブの作動が停止した場合、前記リニアソレノイドバルブSLC4およびON−OFFソレノイドバルブSLは共にノーマリクローズ型であるため、第2ブレーキB2は油圧供給状態となり、第4クラッチC4はドレーン状態(油圧排出状態)となる。しかしながら、リニアソレノイドバルブSLTはノーマリオープン型であるため、ドレーン切換バルブ130は油圧供給状態となり、シフトレバー72が「R」ポジションへ操作されてマニュアルバルブ38からリバース油圧PR が出力されることにより、第2ブレーキB2および第4クラッチC4は共に係合させられて第2後進変速段「Rev2」が成立させられ、如何なる制御も必要とすることなく後進の退避走行を行うことができる。
一方、前記ステップS2の判断がNO(否定)の場合、すなわちN→Rシフトが不可の場合には、ステップS9でN→Rシフトを禁止(制限)する。すなわち、第4クラッチC4および第2ブレーキB2の何れか一方を解放すれば第2後進変速段「Rev2」の成立を阻止することが可能で、例えばリニアソレノイドバルブSLC4をOFF(非励磁)として第4クラッチC4を解放するだけでも良いが、本実施例ではON−OFFソレノイドバルブSLをON(励磁)することにより、インヒビット切換バルブ40を油圧排出状態として第2ブレーキB2も解放する。したがって、前記許可条件を満足してステップS2の判断がYES(肯定)となり、ステップS3で第2後進変速段「Rev2」を成立させる際には、ON−OFFソレノイドバルブSLをOFF(非励磁)としてインヒビット切換バルブ40を油圧供給状態とし、第2ブレーキB2を係合させるとともに、リニアソレノイドバルブSLC4により、その第2ブレーキB2の係合タイミングに合わせて第4クラッチC4を滑らかに係合させることにより、ショックを抑制しつつ第2後進変速段「Rev2」を成立させることができる。
上記ステップS9では、リニアソレノイドバルブSLC4およびリバースインヒビットバルブ128が共に油圧供給状態でフェールした場合には、第2後進変速段「Rev2」の成立を阻止することができないが、何れか一方だけがフェールするシングルフェールの場合には、制御可能な方を油圧排出状態とすることにより、第4クラッチC4および第2ブレーキB2の何れか一方を解放すれば動力伝達遮断状態となり、第2後進変速段「Rev2」の成立を阻止することができる。本実施例では、第4クラッチC4および第2ブレーキB2を共に解放するようになっているため、何れか一方が油圧供給状態でフェールしても、特別な制御を必要とすることなく他方が解放されて第2後進変速段「Rev2」の成立が阻止される。
また、前記ステップS1の判断がNO(否定)の場合、すなわちN→Rシフト操作でない場合には、ステップS10を実行し、シフトレバー72を「R」ポジションから「N」ポジションへ切り換えるR→Nシフト操作が行われたか否かを判断する。そして、R→Nシフト操作が行われた場合には、ステップS11でR→Nシフトを実行する。このR→Nシフトは、例えば図11のフローチャートに従って行われ、先ずステップR1−1でAT油温TOIL が所定値β以上か否かを判断し、TOIL ≧βであればステップR1−3を実行し、リニアソレノイドバルブSLC4による第4クラッチC4の解放制御でニュートラル「N」にする。第2ブレーキB2は、シフトレバー72が「N」ポジションへ操作されることにより、マニュアルバルブ38が機械的に切り換えられてリバース油圧出力ポート42がドレーンポートに連結され、油圧アクチュエータ36内の作動油がオリフィス46によって定まる所定の流量でドレーンされることにより解放されるため、上記リニアソレノイドバルブSCL4は、この第2ブレーキB2がトルク容量を持っている間に第4クラッチC4のトルク容量を緩やかに低下させることにより、ショックを抑制しつつニュートラル「N」すなわち動力伝達遮断状態に切り換える。
上記ステップR1−1の判断がNO(否定)の場合、すなわちAT油温TOIL が所定値βより低い場合は、ステップR1−2でON−OFFソレノイドバルブSLをON(励磁)してインヒビット切換バルブ40を油圧排出状態に切り換えた後、前記ステップR1−3を実行する。すなわち、TOIL <βの場合は、作動油の粘性が高くて前記オリフィス46やリニアソレノイドバルブSLC4を通過するのに時間がかかり、ニュートラル「N」になるのが遅くなるため、本実施例ではインヒビット切換バルブ40を油圧排出状態に切り換えることにより、オリフィス46を介することなく油圧アクチュエータ36の作動油を大きな流量で排出するようにしたのであり、これにより作動油の粘性が大きい場合でも第2ブレーキB2が速やかに解放してニュートラル「N」を速やかに成立させることができる。上記所定値βは、作動油の粘性が小さくなって所定の流量すなわち応答性が得られる最低の温度で、作動油の粘性特性等に応じて定められる。
図10に戻って、前記ステップS10の判断がNO(否定)の場合、すなわちR→Nシフト操作でない場合には、ステップS12で「R」ポジションか否かを判断し、「R」ポジションでなければ後進変速段と関係ないためそのまま終了するが、「R」ポジションの場合は、ステップS13を実行して第2後進変速段「Rev2」を維持する。この第2後進変速段「Rev2」の維持制御は、例えば図12のフローチャートに従って行われ、先ずステップR2−1でリニアソレノイドバルブSLC4を最大電流MAXでON(励磁)とし、制御可能な最大油圧で第4クラッチC4を係合させるとともに、ON−OFFソレノイドバルブSLをOFF(非励磁)として、第2ブレーキB2をリバース油圧PR (=PL)で係合させる。ステップR2−2では、高トルクが必要か否かを判断し、高トルクが必要でなければそのまま終了するが、高トルクが必要な場合にはステップR2−3を実行し、リニアソレノイドバルブSLTに対する励磁電流の出力を停止(OFF)することにより、出力油圧PSLTを最高圧MAX(=Pmod)とし、ドレーン切換バルブ130を油圧供給状態とする。これにより、マニュアルバルブ38から出力されるリバース油圧PR がドレーン切換バルブ130を経てリニアソレノイドバルブSLC4のドレーンポート110に供給され、第4クラッチC4がリバース油圧PR (=PL)により高トルク容量で係合させられる。
すなわち、リニアソレノイドバルブSLC4の調圧範囲は、優れた応答性や制御精度が得られるように例えば0〜0.8MPa等の比較的低油圧の範囲に設定されるため、ステップR2−1において制御可能な最大油圧で第4クラッチC4を係合させても、その係合トルクは必ずしも十分でない場合があり、例えばブレーキON状態でアクセルペダル50が大きく踏込み操作されてトルクコンバータがストール状態となった場合などに、第4クラッチC4がスリップする可能性がある。このため、そのような高トルクを必要とする場合には、ステップR2−3で第4クラッチC4をリバース油圧PR (=PL)により高トルク容量で係合させて、第4クラッチC4のスリップを防止するのである。
なお、前記ステップS3のN→Rシフト実行時においても、必要に応じてドレーン切換バルブ130を切り換えて第4クラッチC4をリバース油圧PR (=PL)により高トルク容量で係合させるようにすることもできる。また、リニアソレノイドバルブSLC4による油圧制御で第4クラッチC4が完全係合させられた後は、常にリニアソレノイドバルブSLTをOFF(非励磁)にしてドレーン切換バルブ130を油圧供給状態に切り換え、第4クラッチC4をリバース油圧PR (=PL)により高トルク容量で係合させるようにしても良い。リニアソレノイドバルブSLTをOFFにするとライン油圧PLが最大になって燃費が悪化するため、リニアソレノイドバルブSLTの代わりに、専用或いは後進変速段において制御が必要ない他のソレノイドバルブを用いて、ドレーン切換バルブ130を切り換えるようにすることも可能である。
このように、本実施例の車両用自動変速機10は、リバースコントロールバルブとしてのリニアソレノイドバルブSLC4、およびリバースインヒビットバルブ128の何れか一方が油圧供給状態でフェールしても、他方を油圧排出状態として対応する摩擦係合装置、すなわち第4クラッチC4または第2ブレーキB2を解放することにより、第2後進変速段「Rev2」の成立を阻止(制限)することができる。
また、リニアソレノイドバルブSLC4およびリバースインヒビットバルブ128の何れか一方或いは両方が油圧排出状態でフェールした場合には、ドレーンコントロールバルブ140を油圧供給状態とすることにより、ドレーンポート110、124にリバース油圧PR を供給して第4クラッチC4、第2ブレーキB2を何れも係合させることが可能で、第2後進変速段「Rev2」を成立させることができる。
また、リニアソレノイドバルブSLC4により第4クラッチC4に対する供給油圧を連続的に変化させることができるため、ステップS3で第2後進変速段「Rev2」を成立させたり、ステップS11で第2後進変速段「Rev2」からニュートラル「N」に切り換えたりする際のショックを低減することができる。本実施例ではステップS9のN→Rシフト禁止時に、リニアソレノイドバルブSLC4およびリバースインヒビットバルブ128を共に油圧排出状態として第4クラッチC4および第2ブレーキB2を何れも解放するため、そのN→Rシフトの禁止が解除されて第2後進変速段「Rev2」を成立させる際にも、リニアソレノイドバルブSLC4による油圧制御でショックを低減できる。
また、リニアソレノイドバルブSLC4の調圧範囲が、例えば0〜0.8MPa等の比較的低油圧の範囲に設定されているため、優れた応答性や制御精度が得られる反面、第4クラッチC4の係合トルクが不足する可能性があるが、本実施例ではステップR2−2で高トルクが必要か否かを判断し、高トルクが必要な場合にはステップR2−3でリニアソレノイドバルブSLTをOFF(非励磁)にしてドレーン切換バルブ130を油圧供給状態とし、リバース油圧PR をリニアソレノイドバルブSLC4のドレーンポート110に供給して第4クラッチC4を高トルク容量で係合させるため、その第4クラッチC4のスリップが防止される。
また、本実施例ではマニュアルバルブ38と第2ブレーキB2の油圧アクチュエータ36との間にリバースインヒビットバルブ128が配設され、リバース油圧PR の供給を阻止して第2後進変速段「Rev2」の成立を阻止するようになっているが、その接続油路44にはオリフィス46が設けられているため、第2ブレーキB2の係合、解放時に係合トルクが徐々に変化させられてショックが低減される。
また、このようにオリフィス46が設けられると、低油温時に第2ブレーキB2の油圧アクチュエータ36からの作動油の抜けが遅くなり、ニュートラル「N」が成立するまでの時間が長くなる可能性があるが、R→Nシフト時にステップR1−1でAT油温TOIL が所定値β以上か否かを判断し、TOIL <βの時にはステップR1−2でON−OFFソレノイドバルブSLをON(励磁)にしてインヒビット切換バルブ40を油圧排出状態に切り換え、オリフィス46を介することなく大流量で油圧アクチュエータ36内の作動油を排出するようになっているため、第2ブレーキB2を速やかに解放してニュートラル「N」を速やかに成立させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
10:車両用自動変速機 38:マニュアルバルブ 42:リバース油圧出力ポート 46:オリフィス 90:電子制御装置 98:油圧制御回路 128:リバースインヒビットバルブ 140:ドレーンコントロールバルブ SLC4:リニアソレノイドバルブ(リバースコントロールバルブ) C4:第4クラッチ(第1摩擦係合装置) B2:第2ブレーキ(第2摩擦係合装置) PR :リバース油圧