JP4424862B2 - ゴルフボール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はゴルフボール、特に反発性及び耐久性に優れたソリッドゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ゴルフボールのコアはポリブタジエンを主体とするゴム成分に、共架橋剤として不飽和カルボン酸金属塩等、更に有機過酸化物等の架橋開始剤を混合したゴム組成物を加熱し、ゴム分子主鎖に架橋を形成することにより製造されている。そして上記不飽和カルボン酸金属塩として一般にアクリル酸亜鉛が用いられている。ゴム組成物の加熱によって、ジクミルパーオキサイドのような架橋開始剤が開裂し遊離基を生成し、この遊離基がゴム分子主鎖や共架橋剤を攻撃してゴム分子主鎖への共架橋剤のグラフト重合や、ゴム分子主鎖間の架橋が形成されると考えられる。不飽和カルボン酸金属塩等の共架橋剤のゴム組成物中における分散状態およびゴム分子主鎖への架橋反応速度は、架橋後のゴム組成物の基本物性、さらにこれをソリッドコアに用いたゴルフボールの特性に大きく影響する。
【0003】
そこで従来アクリル酸亜鉛の粒子表面を高級脂肪酸あるいは高級脂肪酸金属塩でコーティングし、ゴム組成物中でのアクリル酸亜鉛の分散性を向上することが提案されている(特開昭59−141961号公報、特開昭60−92781号公報)。
【0004】
また、平均粒度5μm以下の不飽和カルボン酸金属塩や、粒度分布が0.1〜5μmで、平均粒度が1〜4.5μmの不飽和カルボン酸塩を共架橋剤に用いて、ゴム組成物中での不飽和カルボン酸金属塩の分散性を高めることも提案されている(特開平8−196661号公報、特開平9−235413号公報、特開平11−57068号公報、特開平11−57069号公報)。
【0005】
これらの技術では、共架橋剤のゴム組成物中における分散性が向上し、ゴム組成物の硬度を高めるには好ましい方法であるが、共架橋剤が微分散してしまう為、反発性に最も寄与するゴム分子主鎖相互間の架橋密度が減少する一方、反発性にあまり寄与しないゴム分子主鎖と共架橋剤のグラフト重合の形態が増加し、反発性が充分発揮されない。
【0006】
一方、反発性を改善する為、α,β−不飽和カルボン酸金属塩に有機硫黄化合物を併用する技術が提案されている(特開平2−297384号公報、特開平4−109970号公報、特開平9−122273号公報、特開平10−244019号公報、特開2000−102627号公報)。かかる技術において、有機硫黄化合物を添加すると、有機硫黄化合物が架橋開始剤の遊離基を捕捉し、架橋開始剤の働きを抑制してしまうために、反応時間が長くなったり、添加しない場合に比べ架橋開始剤を多量に配合する必要があり、ゴム組成物の基本特性を犠牲にする場合がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はゴルフボールのソリッドコアに用いられるゴム組成物において、マイクロカプセルを用いることにより共架橋剤の均一分散性を改善する。更に有機硫黄化合物を共架橋剤の一部と共にマイクロカプセル化することにより、共架橋剤によるゴム分子主鎖へのグラフト重合反応速度を適度に抑制すると共に、ゴム分子主鎖相互間の架橋反応を優先させ、反発性と耐久性を一層改善したゴルフボールを提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明はソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆するカバーとを有するゴルフボールにおいて、前記ソリッドコアは、共架橋剤と有機硫黄化合物を熱可塑性樹脂で被覆したマイクロカプセルとマイクロカプセル化されていない共架橋剤を含有するゴム組成物で構成されることを特徴とするゴルフボールである。そしてマイクロカプセル化された共架橋剤は、好ましくは共架橋剤全体の70〜99重量%である。ここで共架橋剤はα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が好適に使用される。また有機硫黄化合物はポリスルフィド類、チオフェノール類またはチオフェノール類の二価の金属塩が好ましい。そして熱可塑性樹脂は軟化点が80℃〜250℃の範囲の材料が好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係るゴルフボールは、ソリッドコアに、アイオノマー樹脂あるいはトランス1,4−ポリイソプレン(TPI)などの熱可塑性樹脂等のカバー材を被覆して構成され、前記ソリッドコアのゴム組成物は共架橋剤の一部を有機硫黄化合物と共に熱可塑性樹脂で被覆したマイクロカプセルを含有する。
【0010】
本発明において共架橋剤は炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸、および/またはその金属塩が用いられる。α,β−不飽和カルボン酸として、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられるが、特に反発性を高めるうえでアクリル酸が好適である。また上記金属塩として、亜鉛、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の金属塩が挙げられ、特に亜鉛塩が好ましい。共架橋剤として、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられ、前記2種類以上を併用することもできる。
【0011】
本発明において、有機硫黄化合物とは金属を含有する有機硫黄化合物を含む概念である。有機硫黄化合物としては、例えばペンタクロロチオフェノール、4−t−ブチルチオフェノール、2−ベンズアミドチオフェノール等のチオフェノール類、チオ安息香酸等のチオカルボン酸類、モノスルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド等のスルフィド類が使用できる。また金属を含有する有機硫黄化合物としては、例えばチオフェノール類あるいはチオカルボン酸類の亜鉛、マグネシウム、ナトリウム塩等が使用できる。前記モノスルフィドとしてジフェニルモノスルフィド、前記ジスルフィドとしてジフェニルジスルフィド、前記ポリスルフィドとしてジフェニルポリスルフィド、例えばジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィドが挙げられる。更にこれらのスルフィド類は、前記フェニル基にメチル基、エチル基、アミノ基、水酸基等の各種置換基を含むことができる。
【0012】
マイクロカプセルの膜材に使用される熱可塑性樹脂は、その軟化点が80〜250℃、好ましくは100〜200℃、特に120〜160℃の温度範囲にあるものを使用する。なお、軟化点が80℃よりも低いとゴム組成物の混練の際にマイクロカプセルが破壊する可能性がある。一方軟化点が250℃を超えると、ゴム組成物の通常の架橋温度において、マイクロカプセルの膜材である熱可塑性樹脂が融解せずマイクロカプセルから共架橋剤および有機硫黄化合物が放出されない。したがって熱可塑性樹脂の種類は加硫温度との関係で選定されることが好ましい。
【0013】
本発明でマイクロカプセルの膜材として用いられる熱可塑性樹脂は、たとえば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、ブテン樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、AS樹脂などを使用することが可能である。なお、塩化ビニル樹脂などのように塩素系の樹脂を使用する場合にあっては、有機溶剤に可溶でありしかも意図する温度域付近に軟化点を有するものが好適である。
【0014】
共架橋剤と有機硫黄化合物を熱可塑性樹脂で被覆してマイクロカプセルを製造する方法としては、一般に知られるマイクロカプセル化の手法が採用される。好適には、液中乾燥法すなわち水中や油中をカプセル化の媒体とし、その中に、芯物質を含有する壁膜物質溶液を滴状に分散し、溶剤を飛ばして固いカプセル膜を形成する方法が採用される。この方法では、まず沸点が水のそれより低く、蒸気圧が大きく、しかも水と混和しない溶剤を選び、この溶剤中に壁材ポリマーを溶かす。この溶液中に芯物質となる水溶液を分散して(W/O)型の乳化物をつくる。別にカプセル化媒体として保護コロイドを含む水溶液を用意し、これをかきまわしながら先の乳化物を入れて分散し、〔(W/O)/W〕型の複合エマルジョンを作る。この系は水溶液滴がポリマー溶液で囲まれた形のたまが、水中に浮遊している。この系に加温、減圧、溶媒抽出などの操作を施してポリマーの溶媒を乾燥させると、ポリマーの固い膜が形成され、マイクロカプセルができる。
【0015】
また他の方法として採用し得る気中懸濁法では芯物質(粉末)を気流によって流動化し懸濁させて、懸濁粒子表面に熱可塑性樹脂の膜材を乳化させた乳液として噴霧する。そして懸濁化空気を加熱して溶媒を蒸発させてカプセル膜を形成させることができる。また噴霧乾燥法では、熱可塑性樹脂の膜材を乳化させた乳液に芯材を懸濁させて、その懸濁液を噴霧、微粒子化して瞬間的に乾燥させて、カプセル化膜を形成させることができる。さらに粉体どうしを乾式でカプセル化する方法(芯材粒子とそれより細かい膜材粒子を混合後、遠心力などにより衝撃を与え芯材の表面に膜剤を埋め込むようにしてカプセル化する方法)などが採用でき、マイクロカプセルの製造方法は特に限定されない。
【0016】
上記方法で得られたマイクロカプセルは共架橋剤を70〜95重量%含有することが好ましい。70重量%未満の場合、共架橋剤の放出が不充分であり、一方95重量%を超えると、均一なマイクロカプセルの製造が困難になる。マイクロカプセル化した共架橋剤のソリッドコアのゴム組成物への配合量は、共架橋剤換算でゴム成分100重量部に対して10〜70重量部、好ましくは15〜40重量部の範囲である。10重量部未満では充分な架橋密度が得られず、一方70重量部を超えると、硬くなりすぎるとともに、ゴム分子の主鎖に共架橋剤がグラフト重合する割合が増加し反発性に不利となる。
【0017】
次に前記マイクロカプセルは有機硫黄化合物を0.3〜10重量%、特に0.3〜7重量%含有することが好ましい。0.3重量%未満の場合、有機硫黄化合物の配合の効果が不充分であり、一方10重量%を超えるとゴム組成物の物性低下を伴う。マイクロカプセル化した有機硫黄化合物のソリッドコアのゴム組成物への配合量は、有機硫黄化合物換算でゴム成分100重量部に対して0.05〜5.0重量部、さらに0.1〜3.0重量部、特に好ましくは0.3〜1.5重量部の範囲である。
【0018】
有機硫黄化合物のS−S結合またはC−S結合は加熱下で解離して遊離基を生成しやすく、これがゴム分子主鎖および共架橋剤に作用して架橋形態に影響を及ぼす。したがって有機硫黄化合物が0.05重量部未満の場合、有機硫黄化合物の配合の効果は認められず、一方5.0重量部を超えると架橋密度が低下し、ソフト感が得られず、また反発性も低下する。
【0019】
有機硫黄化合物はマイクロカプセル化されていない場合、加熱下でそのS−S結合またはC−S結合が解離して遊離基を生ずるが、これが架橋開始剤の遊離基を捕捉し架橋反応を抑制する。そこで本発明は有機硫黄化合物をマイクロカプセル化することにより架橋開始剤の遊離基の捕捉を制限し、ゴム分子の主鎖間に効果的に架橋反応を促進することができ、より短時間での架橋反応のため高温架橋あるいは多量の架橋開始剤を配合する必要がない。
【0020】
一方有機硫黄化合物を配合するとゴム分子主鎖はシス構造からトランス構造に転移することが知られているが、マイクロカプセル化することにより、かかる転移を抑制することができる。ゴム分子主鎖はシス構造の方がトランス構造よりも反発性が高いため、本発明ではトランス構造への転移を抑制することでマイクロカプセル化しない有機硫黄化合物を配合したゴム組成物よりも高い反発性が得られる。
【0021】
しかしマイクロカプセルを使用することにより高反発性となるもののゴム分子主鎖と共架橋剤の架橋点も相対的に少なくなり耐久性が低下する。そこで本発明ではマイクロカプセル化していない共架橋剤を少量配合することにより、反発性を低下させない程度に共架橋剤によりゴム分子主鎖にグラフト重合をさせ耐久性を向上させたものである。
【0022】
本発明では共架橋剤として前述の特定温度で融解する熱可塑性樹脂によってマイクロカプセル化した共架橋剤とマイクロカプセル化していない共架橋剤を併用する。マイクロカプセル化した共架橋剤を用いることによってゴム分子主鎖と共架橋剤のグラフト重合速度を制御し、ゴム分子相互間の架橋密度の最適化が可能となり、反発性が向上する。一方、マイクロカプセル化していない共架橋剤を少量配合することによって、前述のごとく反発性を低下させない程度にグラフト重合させることによって、耐久性を高めることができる。
【0023】
マイクロカプセル化された共架橋剤は、共架橋剤全体の70〜99重量%、好ましくは80〜97重量%、特に80〜94重量%の範囲である。ここで70重量%未満の場合はマイクロカプセルによる反発性向上の効果が小さく、一方99重量%を超えると耐久性の改善が十分期待できない。
【0024】
ソリッドコアのゴム組成物には、マイクロカプセル化した共架橋剤および有機硫黄化合物、さらにマイクロカプセル化されていない共架橋剤のほか、ゴム成分、有機過酸化物、充填剤などを含有する。ゴム成分としては、天然ゴム、合成ゴムいずれのジエン系ゴムを用いてもよいが、好ましくはシス−1,4結合を40%以上、好ましくは70%以上、特に90%以上含有するハイシスポリブタジエンゴムを用いることが好ましい。また、必要に応じて上記ハイシスポリブタジエンゴムに、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などのジエン系ゴムを混合することができる。
【0025】
上記有機過酸化物は主に架橋開始剤として配合され、ゴム分子主鎖間に架橋を形成する。そして有機過酸化物による架橋形態が、主に反発性に寄与するため、有機過酸化物の配合量は所望のソリッドコアの特性を勘案して決定する。有機過酸化物は、例えばジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が用いられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましい。有機過酸化物の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜3.0重量部である。0.1重量部未満の場合、架橋密度が低く、硬度が不充分であり、反発性が充分でない。一方5.0重量部を超えると架橋密度が高くなり、硬くなりすぎる。
【0026】
上記充填剤としては、主として比重調整のために用いられる酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの金属塩、タングステン粉末あるいはモリブデン粉末などの高比重金属粉末が挙げられ、更に必要に応じて老化防止剤などを配合してもよい。
【0027】
ソリッドコアの外径は、30〜42mmとすることが望ましく、特に32〜40mmの範囲が好ましい。ソリッドコアの外径が30mmよりも小さい場合は相対的にカバーが厚くなり、カバーを厚くすると反発性が低下する傾向があるからである。一方、ソリッドコアの外径が42mmよりも大きい場合はカバーが薄くなり、その結果ゴルフボールの成形が困難になるとともに耐久性が悪くなる。
【0028】
さらにソリッドコアは初荷重98Nから終荷重1275Nをかけたときの変形量が2.5〜5.0mm、好ましくは2.8〜4.5mmの範囲に調整される。2.5mm未満の場合、硬度が高く打球感が好ましくない。一方、5.0mmを超えると柔らかくなりすぎる。
【0029】
本発明では、ソリッドコアはソリッドコア単体のほか、ソリッドコアに糸ゴムを巻きつけた糸巻きコアのいずれも採用できる。ソリッドコアとしては単一層のコアはもとより、2層以上の多層コアであってもよい。
【0030】
なお、本発明におけるマイクロカプセルを配合したソリッドコアの体積はゴルフボール全体の体積に対して、30〜90%の範囲、さらに60〜85%の範囲とするのが好ましい。30%未満になると本発明の効果は充分認められない。一方90%を超えると、カバーが相対的に薄くなり、ゴルフボールの耐久性に劣ることとなる。
【0031】
前記ソリッドコアのゴム組成物の架橋反応は、たとえば120〜230℃の温度で10〜50分、好ましくは130〜200℃で10〜40分、さらに好ましくは140〜180℃で10〜40分の条件で行われる。そして加熱温度(A)とマイクロカプセルの膜材である熱可塑性樹脂の軟化点(B)の関係は、(A−B)が10〜100℃の範囲、さらに20〜90℃、特に30〜80℃の範囲に設定することが好ましい。
【0032】
(A−B)が10℃未満になると共架橋剤および有機硫黄化合物のマイクロカプセルからの放出が遅くなって、架橋時間が長くなって生産性が低下する。一方、(A−B)が100℃を超えると、ゴム組成物の混練中にマイクロカプセルが破壊し、本発明の効果は達成できない。
【0033】
たとえば、140℃〜170℃で架橋反応をする場合、軟化点が100〜120℃近傍であるポリスチレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。架橋反応は発熱反応である為、架橋温度は金型への加熱温度よりも高くなる。したがって、架橋温度はソリッドコア内部の実測値で管理することが好ましい。
【0034】
ソリッドコアのゴム組成物が熱可塑性樹脂の軟化点以下にある場合、ゴム組成物において共架橋剤よるグラフト重合反応がおこらないので、混練りから成形までの時間調整の必要性も少なくなる。
【0035】
なお、前記熱可塑性樹脂の軟化点は分析装置TMAを使用して測定を行う。具体的な軟化点の測定方法は、板状の熱可塑性樹脂サンプルに対して荷重をかけた測定針を載置し、5℃/minなどの所定の昇温速度にて昇温させ、何℃にて測定針がサンプル内に侵入するかを測定する。
【0036】
本発明のゴルフボールは前記ソリッドコアにカバーを被覆して構成される。ここで前記カバー組成物はトランス1,4−ポリイソプレン、アイオノマー樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー等を単独または混合して用いることができる。
【0037】
前記トランス1,4−ポリイソプレンとはポリマー分子中、トランス構造が60%以上含まれるものをいう。トランス構造が60%未満のものでは結晶部分が少なく、したがって軟化点が低すぎてカバーとしての基本特性が満足できない。
【0038】
また、アイオノマー樹脂としては、たとえば、α−オレフィンと炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和して得られるものや、α−オレフィンと炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数2〜22のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和して得られるものなどが挙げられる。上記のα−オレフィンとしては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテンなどが用いられ、特にエチレンが好ましく、炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが用いられ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。また、炭素数2〜22の不飽和カルボン酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが用いられ、特にアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが好ましい。
【0039】
そして、上記α−オレフィンと炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸との共重合体またはα−オレフィンと炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数2〜22のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、たとえば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。
【0040】
なお本発明のカバー組成物には耐久性と反発性を高める観点から、熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマーを主体とするポリマー成分を使用することが好ましい。特に、アイオノマー樹脂がカバー組成物のポリマー成分中に50重量%以上、好ましくは70重量%以上とすることにより耐久性と反発性が向上する。
【0041】
ここでカバーの厚さは0.35〜6.35mm、さらに0.7〜5.35mm、特に1.0〜4.0mmの範囲が好ましい。0.35mm未満ではカバー強度、耐久性が低下し、一方6.35mmを超えるとカバー成分のボール全体における体積分率が大きくなってボールの反発性が低下するからである。
【0042】
前記カバーには、繊維強化ゴム、繊維強化樹脂、無機単結晶成分、比重調整剤、金属粉、金属酸化物、顔料、色粉、比重調整剤、蛍光増白剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤あるいは老化防止剤などを適宜混合することが可能である。
【0043】
次に本発明のゴルフボールの製造方法は、まずカバー組成物をロールやニーダーによって混練する。そして、カバー組成物をソリッドコアに被覆するには予め半殻状のハーフシェルを作製し、それを2枚用いてソリッドコアを包み、130〜170℃で1〜5分間、加圧成形するか、上記カバー組成物をソリッドコア上に直接射出成形してソリッドコアを被覆する。
【0044】
【実施例】
(1) マイクロカプセルの製造
(A)マイクロカプセルA
ポリスチレン(軟化点100℃)5gを塩化メチレン50mlに溶解し、この溶液に共架橋剤としてアクリル酸亜鉛と有機硫黄化合物としてジフェニルジスルフィドの水溶液を100g(アクリル酸亜鉛濃度:20重量%、ジフェニルジスルフィド濃度:0.3重量%)加え、30分間攪拌し、(W/O)型エマルジョンとした。次に4重量%PVA水溶液1リットルを用意し、攪拌しながら前述の(W/O)型エマルジョンを添加し、〔(W/O)/W〕型複合エマルジョンとした。系の温度を40℃までに徐々に昇温させ、塩化メチレンを蒸発させた後、55℃で1時間攪拌し、膜材を硬化させ、更に0.1気圧の減圧下、60℃で加熱し、カプセル内の水を除去してマイクロカプセルAを得た。マイクロカプセルAはアクリル酸亜鉛を78重量%、ジフェニルジスルフィドを1.2重量%含んでいる。
(B)マイクロカプセルB
前記マイクロカプセルAの製造方法において、ジフェニルジスルフィドを添加しないことを除いて、同様な条件でマイクロカプセルBを製造した。得られたマイクロカプセルBはアクリル酸亜鉛を78重量%含んでいる。
【0045】
(2) ソリッドコアの作成
表1に示すゴム組成物をニーダーおよびロールを用いて混練し、160℃で30分間、加熱加圧成形し、外径は38.4mm、重量34.6gのソリッドコアを製造した。混練時は、ゴム組成物の温度が100℃を超えないように温度を制御した。ソリッドコアの初期荷重98Nから終荷重1275Nをかけた時の圧縮変形量(mm)は表1に示す。
【0046】
(3) カバー組成物およびゴルフボールの製造
表1で示すカバー組成物を射出成形で前記ソリッドコアに厚さ2.3mmのカバーを被覆し、その上にウレタン製のクリアペイントを塗布した。
得られたゴルフボールは直径42.7mm、重さ45.4gであった。
【0047】
【表1】
【0048】
表1のコア組成物およびカバー組成物に用いたポリマー成分と配合剤の内容は以下の通りである。
注1:ポリブタジエンはJSR社製のBR01を用いた。シス−1,4結合含量96%である。
注2:マイクロカプセルは実施例で製造したマイクロカプセルAおよびBを使用した。
注3:アクリル酸亜鉛は日本蒸留社製のZNDA−90Sを用いた。
注4:酸化亜鉛は東邦亜鉛社製ものを用いた。
注5:ジクミルパーオキサイドは日本油脂社製のパークミルDを用いた。
注6:ハイミラン1605は三井デュポンポリケミカル社製のナトリウム中和型アイオノマーを用いた。
注7:ハイミラン1706は三井デュポンポリケミカル社製の亜鉛中和型アイオノマーを用いた。
注8:二酸化チタンは石原産業社製のA−220を用いた。
【0049】
得られたソリッドコアおよびゴルフボールの物性測定は次の方法で行ない、その結果を表1に示す。
【0050】
(1) 圧縮変形量
初荷重98Nから終荷重1275Nかけたときのソリッドコアの変形量(mm)を測定した。
【0051】
(2) 反発係数
重さ198.4gのアルミニウム製円柱を用いて初速度45m/sでゴルフボールを打ち出し、ゴルフボールを打撃した際のゴルフボールの打ち出し速度から計算した。数値が大きい程、反発性に優れていることを示す。
【0052】
(3) 耐久性指数
ゴルフボールをドライバーウッドでヘッドスピード45m/sで繰返し打撃した場合に破壊されるまでの回数を比較例1を100として指数で示す。数値が大きいほど耐久性に優れていることを示す。
【0053】
(4) トランス構造の割合
ソリッドコアからサンプルを調製し、赤外吸収スペクトル(FT−IR)でゴム分子中のトランス構造の割合(%)を測定した。
【0054】
比較例1はマイクロカプセル化しないアクリル酸亜鉛を配合し、ジフェニルジスルフィドを配合しないゴム組成物、比較例2は全アクリル酸亜鉛とジフェニルジスルフィドをマイクロカプセル化して配合したゴム組成物、比較例3はアクリル酸亜鉛のみをマイクロカプセル化して配合し、ジフェニルジスルフィドを配合しないゴム組成物、さらに比較例4は、アクリル酸亜鉛をマイクロカプセル化して、ジフェニルジスルフィドをマイクロカプセル化しないで配合したゴム組成物をそれぞれソリッドコアに用いたものである。
【0055】
本発明の実施例1および実施例2は、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を、有機硫黄化合物としてジフェニルジスルフィドを含むマイクロカプセルとマイクロカプセル化されていないアクリル酸亜鉛を配合したゴム組成物のソリッドコアを用いている為、比較例1〜比較例4のいずれよりも耐久性および反発性を同時に満足していることが認められる。
【0056】
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0057】
【発明の効果】
本発明はソリッドコアのゴム組成物に配合される共架橋剤と有機硫黄化合物を熱可塑性樹脂でカプセル内に封入することにより、混練時に共架橋剤および有機硫黄化合物はマイクロカプセルの状態でゴム組成物中に均一に分散することが出きる。架橋反応時にはゴム組成物は加熱されるが、マイクロカプセルが融解し、閉じ込められていた共架橋剤が放出され、これが架橋開始剤の遊離基と接触して架橋反応を開始する。すなわちマイクロカプセルが融解後、共架橋剤は直ちにグラフト重合反応を開始する。
【0058】
架橋開始剤は遊離基を生成し、共架橋剤によるグラフト重合反応と同時並行してしゴム分子主鎖間の架橋を形成する。このゴム分子主鎖間の架橋は有機硫黄化合物による遊離基の捕捉が少ないため、共架橋剤によるゴム分子主鎖へのグラフト重合に優先しておこる。
【0059】
したがってゴム分子主鎖間の架橋密度が、ゴム分子主鎖へのグラフト重合点よりも相対的に多くなる。すなわち、マイクロカプセルが融解するまでは有機過酸化物の架橋開始によるゴム分子主鎖の架橋が形成される為、反発性に有利な架橋形態を形成することができ反発性が改善される。
【0060】
一方本発明の実施例はゴム分子主鎖のトランス構造への移行の割合も、マイクロカプセル化されていないジフェニルジスルフィドを配合した比較例4よりもかなり少なく、反発性に有利であることがわかる。
【0061】
また本発明では共架橋剤の一部をマイクロカプセル化したためゴム分子への共架橋剤のグラフト重合反応は抑制され、ゴム分子と共架橋剤の結合点を適度に調整することができ、ソフトで反発性および耐久性に優れたソリッドコアを得ることができる。またマイクロカプセルにより、共架橋剤と有機硫黄化合物の粒子の大きさを均一にできる為、均一な物性のソリッドコアが得られる。
Claims (5)
- ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆するカバーとを有するゴルフボールにおいて、
前記ソリッドコアは、共架橋剤と有機硫黄化合物を熱可塑性樹脂で被覆したマイクロカプセルとマイクロカプセル化されていない共架橋剤を含有するゴム組成物で構成され、
前記ゴム組成物は前記熱可塑性樹脂の軟化点より高い温度で加熱され、架橋されることを特徴とするゴルフボール。 - マイクロカプセル化された共架橋剤は、共架橋剤全体の70〜99重量%であることを特徴とする請求項1記載のゴルフボール。
- 共架橋剤はα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩であることを特徴とする請求項1記載のゴルフボール。
- 有機硫黄化合物はポリスルフィド類、チオフェノール類またはチオフェノール類の二価の金属塩であることを特徴とする請求項1記載のゴルフボール。
- 熱可塑性樹脂は、軟化点が80℃〜250℃の範囲であることを特徴とする請求項1記載のゴルフボール。
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