排気還流弁に開故障が発生した場合、スロットルバルブの開度が比較的小さい低負荷領域では、吸気管負圧が増加するのに伴って正常時よりも大量の排気ガスが循環する。一方で、吸入空気量に対する排気ガスの循環量には、エンジンにおける燃焼を阻害しないように上限が設けられるが、従来の技術の如くエンジン出力に制限を設けたとしても、低負荷領域における排気ガスの循環量は何ら制限されないため、循環量が上限値を超え、失火の発生など燃焼が不安定となる可能性がある。即ち、従来の技術には、排気ガス循環装置におけるバルブの故障に伴って、エンジンの燃焼状態が劣化しかねないという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、排気ガス循環装置においてバルブが故障した場合の燃焼状態の劣化を防止し得る車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、スロットルバルブと、(i)排気系及び吸気系を相互に連通させる管路及び(ii)該管路の一部に設けられ、開度に応じた量の排気ガスを前記排気系から前記吸気系へ循環させることが可能な循環量制御バルブを備えた排気ガス循環装置とを備える内燃機関を動力源の少なくとも一つとする車両を制御するための車両の制御装置であって、前記循環量制御バルブが、所定値以上の前記開度を有する状態で固着している状態として規定される開固着状態であるか否かを判別する判別手段と、前記内燃機関に対する要求トルクを特定する要求トルク特定手段と、前記循環量制御バルブが前記開固着状態であると判別された場合に、ドライバが要求する前記車両の走行性能が提供されるように、前記要求トルクに応じて(i)前記スロットルバルブが全開開度を含む所定値以上の開度を有する状態で前記内燃機関を動作させる第1制御又は(ii)前記内燃機関を停止させる第2制御を選択的に実行する第1制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る車両は、動力源の少なくとも一つとして内燃機関を備える。本発明に係る「内燃機関」とは、燃料の燃焼を動力に変換する機関を包括する概念であり、例えば、ガソリン又は軽油などを燃料とするエンジンなどを指す。
本発明に係る「排気ガス循環装置」とは、排気系と吸気系とを相互に連通させる管路及び係る管路に設置された循環量制御バルブを備え、係る循環量制御バルブの開度に応じた量の排気ガスを吸気系に循環させることが可能な機構、装置及びシステムを包括する概念であり、典型的にはEGR装置を指す。尚、「開度に応じた量」とは、即ち循環量制御バルブの開度が増加又は減少するのに伴って夫々増加又は減少する量を表す。尚、上記概念が担保される限りにおいて、本発明に係る排気ガス循環装置には、循環する排気ガスを冷却するための冷却装置(例えば、EGRクーラ)など他の機能要素が備わっていてもよい。
本発明に係る車両の制御装置によれば、その動作時には、判別手段によって、循環量制御バルブが開固着状態であるか否かが判別される。
ここで、「開固着状態」とは、循環量制御バルブが所定値以上の開度を有する状態で固着している状態として規定される。尚、「固着」とは、物理的、機械的、機構的、電気的又は化学的な何らかの要因などによって、循環量制御バルブの開閉動作が不能となった状態を包括する概念である。即ち、電気的な故障、機械的又は機構的な故障或いは物理的な癒着などを含む概念である。
排気ガス循環装置では、管路を循環する排気ガスの量(以下、適宜「排気循環量」と称する)が吸気系を介して吸入される新気の量(即ち、吸入空気量)に対して過大であると、内燃機関の燃焼が不安定になり、場合によっては失火が発生するなど燃焼状態の劣化が生じかねない。従って、循環量制御バルブの開度は、少なくとも燃焼状態を良好に維持し得る程度の排気循環量となるように決定される。逆に言えば、係る開度は、燃焼状態を良好に維持し得る限りにおいて、基本的にはどのように制御されてもよい。但し、排気温度の低下によるNOx(窒素酸化物)排出量の低下又は燃料消費率の向上と言った、排気ガス循環装置に顕著に期待される効果に鑑みれば、排気循環量は多い程良いから、必然的に、循環量制御バルブの開度は、燃焼状態を良好に維持し得る限り大きくなるように、スロットルバルブの開度に応じて、即ち、スロットルバルブの開度が増加及び減少するのに伴って夫々増加及び減少するように制御されるのが好適である。
ここで述べられる「所定値以上の開度」とは、循環量制御バルブが固着状態となった場合に、スロットルバルブの開度によっては燃焼状態の劣化を招きかねない開度として規定される。このような所定値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、予め燃焼状態の劣化を招く可能性のある開度として設定されていてもよい。
判別手段の態様は、循環量制御バルブが開固着状態であるか否かを判別することが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、内燃機関のトルク変動に基づいて係る判別を行ってもよい。この場合、スロットルバルブが中間開度(即ち、トルク変動の生じないWOT及び全閉を除いた開度)であり且つトルク変動が大きい場合に循環量制御バルブの開度を所定量減じ、その結果として得られるトルク変動の収束状態に基づいて循環量制御バルブが開固着状態であるか否かが判別されてもよい。尚、この際、トルク変動は、トルク変動に伴う機関回転数の変動によって代替されてもよいし、内燃機関に筒内圧センサの如き燃焼圧検出手段が備わる場合には、係る燃焼圧検出手段によって検出される燃焼圧の変動によって代替されてもよい。
本発明に係る車両の制御装置によれば、要求トルク特定手段によって、内燃機関に対する要求トルクが特定される。ここで、「要求トルク」とは、内燃機関が出力すべきトルクを包括する概念であり、例えば、車速及びアクセル開度に対応付けられて設定される要求出力に基づいて決定される。例えば、内燃機関の動作点が予め機関回転数及びトルクを各軸に配してなる座標系で動作線として与えられている場合、動作線上で要求出力に対応する動作点に相当するトルクを要求トルクとしてもよい。尚、係る動作線は通常、要求出力の低い領域において、機関回転数を概ね維持した状態で主としてスロットルバルブの開度によってトルクを上昇させるように設定される。従って、スロットルバルブが中間開度に設定されている領域では、通常要求トルクは要求出力に応じて変化する。係る事情に鑑みれば、また要求トルクが要求出力に基づいて決定される場合には特に、要求トルクは実質的に要求出力と同様に扱われてもよい。
尚、本発明における「特定」とは、例えば機械的、機構的、物理的、電気的又は化学的な検出手段によって、対象となる値を直接検出することの他に、例えば、これら検出された値を電気的な信号として間接的に取得することを含み、更には、これら検出された又は取得された値を基に何らかのアルゴリズム又は算出式に従って算出又は導出することを含む概念である。従って、要求トルク特定手段とは、例えば、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)などの処理装置であってもよい。
ここで特に、既に述べたように、循環量制御バルブが開固着状態である場合、スロットルバルブが中間開度となる運転領域では内燃機関の燃焼状態が劣化し、例えばドライバビリティの悪化などを招きかねない。そこで、本発明に係る車両の制御装置は、第1制御手段を備えることによって係る問題を解決している。
第1制御手段は、循環量制御バルブが前記開固着状態であると判別された場合に、要求トルクに応じて第1制御又は第2制御を選択的に実行する手段である。ここで、第1制御とは、スロットルバルブが全開開度を含む所定値以上の開度を有する状態で内燃機関を動作させる制御であり、第2制御とは、内燃機関を停止させる制御を指す。
第1制御における所定値以上の開度とは、全開開度(即ち、WOT)を含む比較的大きい開度であり、典型的にはWOTのみであってもよい。但し、係る所定値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、WOTとみなし得る程度に、言い換えれば循環量制御バルブが開固着していても燃焼状態の劣化が生じない程度の値に設定されていてもよい。
このように、第1制御が実行されることによって、内燃機関は、スロットルバルブがWOT近傍の開度領域で固定された状態で、即ち、燃焼状態が良好に維持され得る開度領域に制限された状態で動作する。従って、循環量制御バルブが開固着した場合に、燃焼状態の劣化を防止することが可能となるのである。
一方、このようにスロットルバルブの開度が上限付近に制限された場合、元々スロットルバルブをWOTに制御するべき運転条件では内燃機関には何ら影響はなく、内燃機関は正常時の動作と変わりないが、本来スロットルバルブを中間開度に制御するべき運転領域では、動作線に従って動作点を設定すると内燃機関の出力トルクが必然的に要求トルクよりも大きくなり得る。この場合、運転者がアクセルペダルの操作などを介して要求する動力以上の動力が車両に供給されるため、運転者は違和感を覚えかねない。
そこで、第1制御手段は、ドライバが要求する前記車両の走行性能が提供されるように、要求トルクに応じて第1制御又は第2制御を選択的に実行するように構成される。第2制御は、内燃機関を停止する制御であり、実質上、スロットルバルブの開度が全閉状態に制御された状態と等価である。この場合、逆に運転者が要求する動力は全く得られない訳であるが、第2制御を実行する従前の状態として第1制御を実行すれば、第1制御に付随する余剰な動力を利用して、第2制御の実行中に車両を走行させることは可能である。即ち、第1制御及び第2制御を選択的に実行することによって、運転者が要求する走行性能を提供することが可能となる。この場合、このような第1制御と第2制御の切り替え頻度が要求トルクに応じて決定されてもよい。
尚、要求トルクに応じて制御を選択する態様は、一の要求トルクに応じて適宜第1制御及び第2制御を交互に切り替える態様の他に、例えば、要求トルクが比較的大きい場合に第1制御が、また要求トルクが比較的小さい場合に第2制御が夫々選択されることを含む。この場合、予め設定された閾値との比較に基づいて係る選択がなされてもよい。このような閾値としての要求トルクは、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、ドライバビリティの低下を極力抑制し得るように設定されていてもよい。尚、このように閾値を境に制御が切り替わる場合、要求トルクが小さい領域ではアクセルペダルの踏み込みに対し車両が無反応となり、要求トルクが大きい領域では期待以上の動力が得られることになって、車両のドライバビリティは通常時よりも低下し易い。但し、この場合も、内燃機関の燃焼状態が劣化することはなく、本発明に係る効果は担保されている。
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記車両は、前記動力源の一つであるモータジェネレータ及び該モータジェネレータに電力を供給するための充電可能なバッテリを備えるハイブリッド車両であり、前記内燃機関の制御装置は更に、(i)前記第1制御が実行される期間において前記内燃機関の出力トルクが前記要求トルクよりも大きい場合に、余剰となるトルクの少なくとも一部が吸収されるように前記モータジェネレータを制御する第3制御及び(ii)前記第2制御が実行される期間において前記要求トルクの少なくとも一部が出力されるように前記モータジェネレータを制御する第4制御を実行する第2制御手段を更に具備する。
この態様によれば、車両は動力源の一つとして内燃機関の他にモータジェネレータを備えるハイブリッド車両である。本発明におけるモータジェネレータは、バッテリから供給される電気エネルギを機械エネルギに変換することによって、電動機として動作する機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換することによって、バッテリに充電のための電力を供給する発電機として動作する機能とを有する。尚、モータジェネレータは予め、主として電動機(モータ)として使用されるモータジェネレータと、主として発電機(ジェネレータ)として使用されるモータジェネレータの二種類搭載されていてもよい。このような内燃機関とモータジェネレータとを具備する本発明に係るハイブリッド車両においては、モータジェネレータによって適宜内燃機関の動力をアシストすることが可能な所謂パラレル方式の制御が好適に行われる。この場合、発電機として機能するモータジェネレータは、バッテリのみならず電動機として機能するモータジェネレータに対し電力を供給してもよい。
この態様によれば、第2制御手段によって、第3制御及び第4制御が実行される。第3制御は、第1制御が実行される期間において内燃機関の出力トルクが要求トルクよりも大きい場合に、余剰となるトルクの少なくとも一部が吸収されるようにモータジェネレータを制御する処理である。即ち、第3制御とは、第1制御が実行される期間のうち、主としてスロットルバルブが本来中間開度に設定されるべき期間で実行される制御である。また、第4制御は、第2制御が実行される期間において要求トルクの少なくとも一部が出力されるようにモータジェネレータを制御する処理を指す。
前述したように、スロットルバルブの開度をWOT付近に限定する場合、本来スロットルバルブを中間開度に設定すべき領域では、出力トルクが要求トルクに対して過剰になり易く、また内燃機関を停止してしまえば内燃機関の出力トルクがゼロとなるから、結果的に燃焼状態の劣化は防止されてもドライバビリティが低下し易い。
この態様によれば、第3制御によって、余剰となるトルクの少なくとも一部が吸収され、第4制御によって、不足するトルク(即ち、要求トルク)の少なくとも一部が出力されるように夫々モータジェネレータが制御されるため、車両のドライバビリティの低下をも防止し得、効率的である。
尚、余剰となるトルクをモータジェネレータによって吸収するとは、即ち、余剰となるトルクをバッテリの充電に使用することを意味する。従って、余剰となるトルクをどの程度吸収することが可能であるかは、バッテリの充電状態に応じて適宜決定されるものであり、必ずしも余剰となるトルクの全てが吸収可能であるとは限らない。また不足トルクをモータジェネレータの出力によって補う場合も同様であり、不足するトルクの全てをモータジェネレータによって補うことが可能であるとは限らない。しかしながら、モータジェネレータをこのように制御することによって、少なくとも何らこのような制御がなされない場合よりは、動力源の出力トルクは要求トルクに近付くのであり、明らかに有利である。
尚、この態様では、前記第2制御手段は、前記第3制御及び前記第4制御を実行する場合に、前記動力源の出力トルクが前記要求トルクとなるように前記モータジェネレータを制御してもよい。
この場合、動力源の出力トルクが要求トルクとなるようにモータジェネレータによるトルクの吸収及び出力が制御されるため、スロットルバルブの開度をWOT近傍に制限したとしても、運転者へ与えるドライバビリティは何ら変化することがなく、効果的である。
尚、「要求トルクとなるように」とは、モータジェネレータがバッテリから電力を供給さされることに鑑みれば、動力源の出力トルクが必ずしも要求トルクと常に一致しておらずともよい趣旨である。即ち、このような制御が何らなされない場合と比較して、幾らかなりとも動力源の出力トルクを要求トルクに追従させ得る限りにおいて、必ずしも、第3制御及び第4制御の実行期間の全てにおいて、出力トルクと要求トルクとが一致しておらずともよい。
尚、第2制御手段を有する態様では、前記第1制御手段は更に、前記要求トルクが(i)予め設定された閾値以上である場合に前記第1制御を実行し、(ii)前記閾値未満である場合に前記第2制御を実行してもよい。
この態様によれば、第1制御及び第2制御の切り替えタイミングを規定する要求トルクの閾値が設定されるため、制御の切り替えに関する第1制御手段の負荷が軽減される。係る閾値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、モータジェネレータによるトルクの吸収及び出力(即ち、第3及び第4制御)を夫々好適に実行し得る値に設定されていてもよい。
尚、この場合、前記バッテリの蓄電状態を特定する蓄電状態特定手段と、前記蓄電状態に基づいて前記閾値を設定する閾値設定手段とを更に具備してもよい。
この場合、蓄電状態特定手段によって、バッテリの蓄電状態が特定される。尚、前述した「特定」の概念に鑑みれば、係る蓄電状態特定手段とは、バッテリの蓄電状態を検出するSOC(State Of Charge)センサなどであってもよいし、係るSOCセンサなどの検出手段から検出結果を電気信号として受け取ることが可能に構成されたECUなどの制御装置であってもよい。
閾値設定手段は、係るバッテリの充電状態に基づいて閾値を設定する。この場合、閾値は可変の値となり、第1制御又は第2制御を効果的に選択することが可能となるので好適である。
尚、「充電状態に基づいて」とは、好適には、バッテリが比較的満充電に近い状態では、第2制御の実行期間が相対的に長くなるように、またバッテリの残量が比較的少ない状態では、第2制御の実行期間が相対的に短くなるように、夫々閾値を設定することを指す。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記内燃機関は、少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変に構成されており、前記内燃機関の制御装置は更に、前記第1制御が実行される期間の少なくとも一部において前記内燃機関の出力トルクが増加又は減少するように前記閉弁時期を制御する閉弁時期制御手段を更に具備する。
この態様によれば、内燃機関は少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変に構成される。尚、通常、吸気弁及び排気弁の開閉タイミングは、クランク角に基づいて規定されており、閉弁時期が可変とは、即ち、実質的には開弁時期が可変であることを伴う。尚、ここで述べられる「時期」とは、単なる時刻概念であると言うよりは、クランクシャフトの回転角或いはクランク位相を基準とする相対的な時刻概念である。従って、係る閉弁時期を規定する表現としては、「遅角」或いは「進角」なる単語を含む用語(例えば、「遅角量」、「遅角制御」など)が好適に使用される。例えば、「遅角制御」された状態とは、即ち、バルブの閉じる時期が、クランクシャフトの回転に対応付けられて設定された基準となる位相に対し相対的に遅れるように制御された状態であり、例えば「遅角量」とは、その際の角度或いは位相値である。また、「進角制御」された状態とは、その逆であって、バルブの閉じる時期がクランクシャフトの回転角に対応付けられて設定された基準となる位相に対し相対的に進むように制御された状態を指す。このような閉弁時期を可変とする手段としては、例えば、ヘリカルギア制御方式、ベーン制御方式、或いは電磁制御方式など公知の可変動弁機構が使用される。尚、吸気弁の閉弁時期を可変とする限りにおいて、内燃機関は更に、排気弁の開閉時期が可変であってもよいし、例えば、VVTLなどのようにバルブのリフト量が可変であってもよい。
この態様によれば、係る吸気弁の閉弁時期は、閉弁時期制御手段によって制御される。閉弁時期制御手段は、第1制御が実行される期間の少なくとも一部において、内燃機関の出力トルクが増加又は減少するように吸気弁の閉弁時期を制御する。
内燃機関では、一般に吸気弁の閉弁時期が下死点(BDC)に設定されている場合に出力トルクが最大となり下死点から遅角及び進角する方向に夫々トルクが減少する。従って、吸気弁の閉弁時期を係る下死点から遅角又は進角させることによって、或いは現時点において設定された閉弁時期から遅角又は進角させることによって、出力トルクをある程度可変に制御することが可能である。
係る作用に鑑みれば、例えば、第1制御を実行している場合に、比較的余剰なトルクが大きくなる領域では、現時点の閉弁時期が(i)下死点よりも進角側に設定されているならば、より進角側に、また(ii)下死点よりも遅角側に設定されているのならば、より遅角側に夫々閉弁時期を設定することによって、或いは予めトルクが比較的小さくなるような閉弁時期に設定しておくことによって、余剰なトルクを低減させ得る。一方で、この態様によれば、このような制御に加え、前述した如くモータジェネレータを第3制御及び第4制御に従って制御する場合、モータジェネレータによる吸収及び出力が必要となるトルクの範囲(入出力範囲)を小さくし得るため効果的である。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<1:第1実施形態>
<1−1:実施形態の構成>
<1−1−1:ハイブリッドシステムの構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係るハイブリッドシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッドシステム10のブロック図である。
図1において、ハイブリッドシステム10は、ECU100、エンジン200、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、動力分割機構300、インバータ400及びバッテリ500を備え、ハイブリッド車両20を制御するシステムである。
ECU100は、ハイブリッドシステム10の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例として機能するように構成されている。ECU100は、図示せぬROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えており、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する退避走行処理を実行することが可能に構成されている。また、RAMには、係る退避走行処理の実行過程において取得された各種データが一時的に格納される構成となっている。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両20の主たる動力源として機能する。尚、エンジン200の詳細な構成については後述する。
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「モータジェネレータ」の一例であり、バッテリ500を充電するための発電機として、或いはエンジン200の駆動力をアシストする電動機として機能するように構成されている。
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「モータジェネレータ」の他の一例であり、エンジン200の出力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能するように構成されている。
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。
動力分割機構300は、図示せぬサンギア、プラネタリキャリア、ピニオンギア、及びリングギアを備えた遊星歯車機構である。これら各ギアのうち、内周にあるサンギアの回転軸はモータジェネレータMG1に連結されており、外周にあるリングギアの回転軸は、モータジェネレータMG2に連結されている。サンギアとリングギアの中間にあるプラネタリキャリアの回転軸はエンジン200に連結されており、エンジン200の回転は、このプラネタリキャリアと更にピニオンギアとによって、サンギア及びリングギアに伝達され、エンジン200の動力が2系統に分割されるように構成されている。ハイブリッド車両20において、リングギアの回転軸は、ハイブリッド車両20における伝達機構21に連結されており、この伝達機構21を介して車輪22に駆動力が伝達される。
インバータ400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されている。
バッテリ500はモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を駆動するための電源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。バッテリ500には、バッテリ500の残容量を検出するSOCセンサ510が設置されており、ECU100と電気的に接続されている。
<1−1−2:エンジンの詳細構成>
次に、図2を参照して、エンジン200の詳細な構成を、その基本動作と共に説明する。ここに、図2は、エンジン200の半断面システム系統図である。
図2において、エンジン200は、シリンダ201内において点火プラグ202により混合気を爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクションロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成を動作と共に説明する。
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気(即ち、吸入空気)は吸気管206(即ち、本発明に係る「吸気系」の一例)を通過し、インジェクタ207から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。インジェクタ207には、燃料(ガソリン)が燃料タンク223からフィルタ224を介して供給されており、インジェクタ207は、この供給される燃料を、ECU100の制御に従って吸気管206内に噴射することが可能に構成されている。尚、燃料タンク223には、燃料残量を検出するための燃料センサ225が設置されている。
シリンダ201内部と吸気管206とは、吸気バルブ208の開閉によって連通状態が制御されている。シリンダ201内部で燃焼した混合気は排気ガスとなり吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ209を通過して排気管210(即ち、本発明に係る「排気系」の一例)を介して排気される。
吸気管206上には、クリーナ211が配設されており、外部から吸入される空気が浄化される。クリーナ211の下流側(シリンダ側)には、エアフローメータ212が配設されている。エアフローメータ212は、ホットワイヤー式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。吸気管206には更に、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ213が設置されている。
吸気管206におけるエアフローメータ212の下流側には、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214が配設されている。このスロットルバルブ214には、スロットルポジションセンサ215が電気的に接続されており、その開度が検出可能に構成されている。更に、スロットルバルブ214の周囲には、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ216、及びスロットルバルブ214を駆動するスロットルバルブモータ217も配設されており、ECU100は、通常、スロットルバルブ214の開度がアクセルポジションセンサ216によって検出されるアクセルペダル226の踏み込み量に応じた開度となるように、スロットルバルブモータ217を駆動している。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転角(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ218が設置されている。クランク角は、シリンダ201内部におけるピストン203の位置と相関するため、インジェクタ207から噴射される燃料の噴射タイミングは、係るクランク角に基づいて制御される構成となっている。また、ECU100は、クランクポジションセンサ218の出力値に基づいて、エンジン200の機関回転数Neを算出することが可能に構成されている。
また、シリンダ201を収容するシリンダブロックには、エンジン200のノック強度を測定可能なノックセンサ219が配設されており、係るシリンダブロック内のウォータージャケット内には、エンジン200の冷却水温度を検出するための水温センサ220が配設されている。
排気管210には、三元触媒222が設置されている。三元触媒222は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。排気管210における三元触媒222の上流側には、空燃比センサ221が配設されている。空燃比センサ221は、排気管210から排出される排気ガスから、エンジン200の空燃比を検出することが可能に構成されている。
エンジン200には、EGR装置229が設置される。EGR装置229は、EGRパイプ227及びEGRバルブ228を備える。
EGRパイプ227は、排気管210と、吸気管206におけるスロットルバルブ214下流側とを繋ぐ管状部材であり、本発明に係る「管路」の一例である。
EGRバルブ228は、EGRパイプ227に設けられた電磁制御弁であり、本発明に係る「循環量制御バルブ」の一例である。EGRバルブ228は、ECU100から供給される開度制御信号によってその開度が制御され、係る開度に応じて、EGRパイプ227における排気管210側と吸気管206側との連通面積が変化する構成となっている。
尚、開度制御信号によって指示すべきEGRバルブ228の開度の目標値は、予め機関回転数及びスロットルバルブ214の開度に対応付けられて設定されており、ECU100によって、その時点におけるエンジン200の動作条件に対応する値に設定される。
係る構成の下、EGR装置229は、排気管210に排出される排気ガスの一部を、EGRバルブ228の開度に応じて吸気管206に循環させることが可能に構成されている。即ち、EGR装置229は、本発明に係る「排気ガス循環装置」の一例である。
<1−2:実施形態の動作>
<1−2−1:ハイブリッドシステムの基本動作>
図1のハイブリッドシステム10においては、主として発電機として機能するモータジェネレータMG1、主として電動機として機能するモータジェネレータMG2及びエンジン200の夫々の駆動力配分がECU100及び動力分割機構300により制御され、ハイブリッド車両20の走行状態が制御される。以下に、幾つかの状況に応じたハイブリッドシステム10の動作について説明する。
<1−2−1−1:始動時>
例えば、ハイブリッド車両20の始動時においては、バッテリ500の電気エネルギを用いて駆動されるモータジェネレータMG1が電動機として機能する。この動力によって、エンジン200がクランキングされエンジン200が始動する。
<1−2−1−2:発進時>
発進時には、バッテリ500の蓄電状態に応じて2種類の態様を採り得る。バッテリ500の蓄電状態は、SOCセンサ510の出力信号に基づいてECU100が把握している。例えば、通常の(即ち、SOCが良好な)発進時においては、モータジェネレータMG1によってバッテリ500を充電する必要は生じないため、エンジン200は暖機のためだけに始動し、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力により発進する。一方、蓄電状態が良好ではない(即ち、SOCが低下している)場合、エンジン200の動力によりモータジェネレータMG1が発電機として機能し、バッテリ500が充電される。
<1−2−1−3:軽負荷走行時>
例えば、低速走行や緩やかな坂を下っている場合には、比較的エンジン200の効率が悪い為、エンジン200は停止され、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力のみで走行する。尚、この際、SOCが低下していれば、エンジン200はモータジェネレータMG1を駆動するために始動し、モータジェネレータMG1によりバッテリ500の充電が行われる。
<1−2−1−4:通常走行時>
エンジン200の効率が比較的良好な運転領域においては、ハイブリッド車両20は主としてエンジン200の動力によって走行する。この際、エンジン200の動力は、動力分割機構300によって2系統に分割され、一方は、伝達機構21を介して車輪22に伝達され、他方は、モータジェネレータMG1を駆動して発電を行う。更に、この発電された電力により、モータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2によりエンジン200の動力がアシストされる。尚、この際、SOCが低下している場合には、エンジン200の出力を上昇させて、モータジェネレータMG1により発電された電力の一部がバッテリ500へ充電される。
<1−2−1−5:制動時>
減速が行われる際には、車輪22から伝達される動力によってモータジェネレータMG2を回転させ、発電機として動作させる。これにより、車輪22の運動エネルギが電気エネルギに変換され、バッテリ500が充電される、所謂「回生」が行われる。
<1−2−2:エンジンの基本制御>
次に、エンジン200の基本的な制御動作について説明する。
ECU100は、エンジン200に要求される出力であるエンジン要求出力を、一定の周期で繰り返し演算している。この際、ECU100は、アクセルポジションセンサ216によって検出されるアクセル開度及び不図示の車速センサによって検出される車速に基づいて、予めROMに格納されたマップから現時点におけるアクセル開度及び車速に対応した出力軸トルク(伝達機構21に出力されるべきトルク)を算出する。更に、ECU100は、SOCセンサ510の出力信号に基づいて要求発電量を求め、要求発電量と各種の補機類(A/Cやパワーステアリングなど)の要求量とを参照して出力軸トルクを補正することによって、エンジン要求出力を算出する。なお、エンジン要求出力の演算方法は公知のハイブリッド車両で実行されている通りでよく、その細部は必要に応じて種々変更されてよい。
<1−2−3:エンジン動作線の詳細>
ここで、図3を参照して、エンジン200の動作条件を決定する動作線について説明する。ここに、図3は、エンジン200の動作線の模式図である。
図3において、エンジン200の動作線は、縦軸及び横軸に夫々エンジントルク及び機関回転数Neを表したマップ上で規定される。この動作線は、エンジン200の複数の要求出力各々に対応する複数の動作点によって規定されている。ECU100は、要求出力が決定されると、係る動作線上で要求出力に対応する動作点によって規定されるエンジントルク及び機関回転数となるように、エンジン200を制御するように構成されている。
エンジン200の動作線には、主として機関回転数Neによって出力を上昇させる運転領域(図示、「WOT領域」参照)と、スロットルバルブ214の開度(以降、適宜「スロットル開度」と称する)によって出力を上昇させる運転領域(図示、「中間開度領域」参照)とが存在する。前者に係る運転領域では、スロットル開度はWOTに固定され、後者に係る運転領域では、スロットル開度は中間開度で推移する。尚、中間開度領域では、機関回転数Neは、ほぼ一定であり、スロットル開度の増加に伴ってエンジントルクを増加させることによってエンジン出力を増加させている。即ち、中間開度領域では、概ねエンジン出力とエンジントルクとが相互に比例して変化する。
<1−2−4:EGR装置の制御>
次に、図4を参照して、EGR装置229の動作について説明する。ここに、図4は、スロットル開度に対する吸気管負圧、EGRバルブ228の開度(以下、適宜「EGRバルブ開度」と称する)及びEGR率各々の特性図である。
図4において、上段、中段及び下段に示される特性X1、X2及びX3が夫々吸気管負圧、EGRバルブ開度及びEGR率の特性に対応している。
図4において、スロットル開度が大きい程吸気管負圧は小さくなり、吸気管206の圧力は、大気圧に漸近する(特性X1参照)。EGRバルブ228の開度は、概ねスロットル開度が増加するのに伴って増加するように制御される。スロットル開度が全開開度(WOT)である場合には、EGRバルブ開度は全開開度に制御される(特性X2参照)。このように、スロットル開度とEGRバルブ開度とが、相互に連動して増減制御されることに伴い、EGR率は、スロットル開度に対し概ね一定に維持される(特性X3参照)。即ち、EGRバルブ開度は、EGR率が一定に維持されるように、スロットル開度に応じて制御される。
このようなEGRバルブ228の開度の目標値は、予めECU100に機関回転数Ne及びスロットル開度に対応付けられたマップとして保持されており、ECU100は、係るマップから、現時点における機関回転数及びスロットル開度に対応するEGRバルブ目標開度を取得し、EGRバルブ開度を係るEGRバルブ目標開度に制御するための開度制御信号を生成し、EGRバルブ228に供給している。
一方、EGRバルブ228は、開度制御信号に応じて開閉状態が制御される過程において固着することがある。EGRバルブ228が固着した場合、より具体的には、全開固着した場合(特性X2太破線参照)、吸入空気量に対する排気ガスの循環量が相対的に大きくなり、特にスロットル開度が中間開度である場合にEGR率が過大となる(特性X3太破線参照)。
一般に、燃料消費率を向上させる観点からは、EGR率は無論大きい程良いが、その反面、EGR率には、燃焼を良好に維持し得る上限値が存在する。従って、図示太破線の如くEGR率が推移した場合には、EGR率は明らかに過大であり、特に吸気管負圧が大きくなる低負荷領域(即ち、図3における中間開度領域)において、燃焼が不安定となり易い。係る問題は、EGRバルブ228が、より大きい開度で固着している場合に顕著であり、EGRバルブ228が全閉開度で固着している場合には、エンジン200の燃焼に関して何ら問題は生じない。
このように、EGRバルブ228が開固着している場合、エンジン200の燃焼状態が劣化し、エンジン200に失火又は大きなトルク変動が発生することによってドライバビリティが悪化しかねない。そこで、ECU100は、以下に説明する退避走行処理を実行することによって、EGRバルブ228が開固着している場合に燃焼状態が劣化することを防止している。
<1−2−5:退避走行処理の詳細>
次に、図5を参照して、退避走行処理の詳細について説明する。ここに、図5は、退避走行処理のフローチャートである。
図5において、ECU100は、開固着診断処理を実行し、EGRバルブ228が開固着状態にあるか否かを診断する(ステップA10)。ここで、図6を参照して、係る開固着診断処理の詳細について説明する。ここに、図6は、開固着診断処理のフローチャートである。
図6において、始めに、ECU100は、スロットル開度がWOTであるか否かを判別する(ステップB10)。スロットル開度がWOTではない場合(ステップB10:NO)、ECU100は、ステップB10を繰り返し、処理を診断待機状態に制御する。
一方、スロットル開度がWOTである場合(ステップB10:YES)、ECU100は、エンジン200のトルク変動が小さいか否かを判別する(ステップB11)。ここで、ECU100は、予めROMに格納されたトルク変動閾値と、現時点のトルク変動値とを比較し、トルク変動値がトルク変動閾値未満である場合に、トルク変動が小であると判別する。尚、係るトルク変動閾値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、エンジン200の燃焼状態を良好に維持し得る上限を規定する値として設定されている。
ここで、トルク変動値は、所定の周波数領域におけるエンジン200のトルク変動の大きさ(例えば、トルクの最大値と最小値との差分)を指し、大きい程トルク変動の度合いが大きいことを表す値である。本実施形態に係るハイブリッドシステム10において、エンジン200のトルクは、モータジェネレータMG1を介しトルク反力として取得される。既に述べたように、エンジン200の出力は、動力分割機構300によって、リングギア及びサンギアを介し夫々モータジェネレータMG2及びモータジェネレータMG1に分配されている。モータジェネレータMG1には、係る分配されたトルクを打ち消す向きに、即ち、モータジェネレータMG1が発電機として使用される回転方向に、係る分配されたトルクと等しいトルクを発生させている。この際、ECU100は、モータジェネレータMG1の回転数が維持されるようにトルクを発生させるため、エンジン200のトルクは、モータジェネレータMG1を介して得られるトルク反力に基づいて絶えずECU100に把握されている。ハイブリッドシステム10では、ECU100が、このモータジェネレータMG1を介して特定されたトルクに基づいてトルク変動値を算出するため、トルク変動を正確に特定することが可能である。
トルク変動が大である場合(ステップB11:NO)、ECU100は、EGR装置229に起因しない他の異常が発生していると診断する(ステップB18)。スロットル開度がWOTの場合、既に述べたように、EGRバルブ開度は全開開度であったとしてもEGR率は過大とはならないはずであり、エンジン200にはEGR装置229に起因しない何らかの異常が発生している可能性が高い。但し、この場合も、EGR装置229が故障していないと判断し得る積極的な理由はないため、その他の異常とは言え、必ずしもEGR装置229が正常であるとは診断され得ない。
トルク変動が小である場合(ステップB11:YES)、ECU100は、スロットル開度が中間開度であるか否かを判別する(ステップB12)。即ち、スロットル開度がWOTである期間中(ステップB12:NO)は、故障診断処理は待機状態に制御される。
スロットル開度が中間開度となった場合(ステップB12:YES)、ECU100は、トルク変動値が大であるか否かを判別する(ステップB13)。図4に示すように、EGRバルブ開度は、スロットル開度の減少に伴って減少するように制御される(正確には、開度制御信号が供給される)から、EGR装置229が正常に動作していれば、スロットル開度が中間開度である場合には、相応にEGRバルブ228も閉じられ、トルク変動は小のまま推移するはずである。従って、トルク変動が小である場合(ステップB13:NO)、EGR装置229は正常に作動していると診断される(ステップB17)。
一方、EGRバルブ開度は、スロットル開度が中間開度である場合には、同じく中間開度となるように制御されているから、ステップB13に係る処理では、EGRバルブ228を制御する開度制御信号は、中間開度に対応したものとなっている。従って、ステップB13においてトルク変動が大である場合(ステップB13:YES)、EGRバルブ228が正常に動作していない可能性がある。
ここで、トルク変動が大である場合、ECU100は、EGRバルブ228に対し、EGRバルブ開度が更に減少するように開度制御信号を供給する(ステップB14)。尚、この際、開度制御信号によって促されるEGRバルブ目標開度は、現時点で供給されている開度制御信号によって促されるEGRバルブ開度よりも小さい限りにおいて何ら限定されないが、トルク変動の変化を監視する観点からは、全閉開度であるのが好適である。
係る開度制御信号が供給されると、ECU100は、再びトルク変動値を算出し、トルク変動値がトルク変動閾値以上であるか否かを判別することによって、トルク変動が大であるか否かを判別する(ステップB15)。
トルク変動が大ではない場合(ステップB15:NO)、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御信号に応じてトルク変動が収束したことになるため、EGRバルブ228は正常に作動したものとみなされ、ステップB13において検出されたトルク変動は、EGR装置229に起因しない故障によるものであると診断される(ステップB18)。一方、トルク変動が大である場合(ステップB15:YES)、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御信号が供給されたにも拘らずトルク変動が収束しないことになるから、ECU100は、EGRバルブ228が開固着状態であると診断する(ステップB16)。尚、ステップB12においてスロットル開度が中間開度に制御された際にトルク変動が大となり、ステップB14においてEGRバルブ228をEGRバルブ開度が減少するよう制御したにも拘らずトルク変動が大であることになるから、EGRバルブ228は、全開開度或いはそれに近い、比較的大きな開度で固着している可能性が高い。ステップB16、B17又はB18のいずれかに係る処理を経ると、開固着診断処理が終了する。
図5に戻り、開固着診断処理が終了すると、ECU100は、EGRバルブ228が開固着状態であるか否かを判別する(ステップA11)。EGRバルブ228が開固着状態ではない場合(ステップA11:NO)、ECU100は、再び、開固着診断処理を実行する。即ち、EGRバルブ228が開固着状態となるまでは、ハイブリッドシステム10は通常通り制御される。
一方、EGRバルブ228が開固着状態である場合(ステップA11:YES)、ECU100は、退避走行モードを起動する(ステップA12)。退避走行モードとは、燃焼状態の劣化を招かないように、エンジン200及びモータジェネレータMG2を制御するモードである。
退避走行モードを起動すると、ECU100は、始めにエンジン200に要求されるトルクである要求トルクTnの閾値Tthを設定する(ステップA13)。尚、閾値Tthの詳細については後述する。
閾値Tthを設定すると、ECU100は、要求トルクTnが、係る閾値Tth以上であるか否かを判別する(ステップA14)。要求トルクTnが閾値Tth以上である場合(ステップA14:YES)、ECU100は、スロットルバルブ214をWOTに固定した状態でエンジン200を動作させる(ステップA15)。具体的には、エンジン200の出力トルク(エンジントルク)を、図3に示すTr1(Tr1>Tth)に設定する。
エンジントルクTr1は、図3に示す動作線において、中間開度領域とWOT領域との境界を規定するトルク値である。ステップA15において、エンジントルクをWOT領域のトルクTr1に設定した場合、エンジントルクは明らかに中間開度領域における要求トルクよりも過剰となる。そこで、ECU100は、モータジェネレータMG2を発電機として駆動させ、余剰となるエンジントルクを吸収し、バッテリ500を充電する。
一方、要求トルクTnが閾値Tth未満である場合(ステップA14:NO)、ECU100は、エンジン200を停止させる(ステップA16)。エンジン200を停止させた場合、必然的にエンジントルクはゼロとなるから、要求トルクTnに対し、ハイブリッドシステム10の出力トルクが不足する。そこで、ECU100は、ステップA16においてモータジェネレータMG2を電動機として駆動させ、要求トルクTnを出力させる。ステップA15又はステップA16に係る処理によって要求トルクが出力されると、処理は再びステップA13に戻され、ステップA13以降の一連の処理が繰り返されることによって、要求トルクに応じた退避走行が実現される。
ここで、図7を参照して、係る退避走行モードにおけるエンジントルク、モータジェネレータMG2の出力トルク(以後、適宜「モータトルク」と称する)及びハイブリッドシステム10の出力トルク(以後、適宜「出力トルク」と称する)の特性について説明する。ここに、図7は、要求トルクに対するこれら各トルクの特性図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図7において、上段、中段及び下段に示される特性Y1、Y2及びY3が夫々エンジントルク、モータトルク及び出力トルクに対応している。尚、横軸の要求トルクはTr1まで表されているが、これ以上の要求トルクについては、通常通りにスロットルバルブ214をWOTに制御することによってエンジン200から出力することが可能であり、本実施形態に係る退避走行の説明要旨から外れるため図示が省略されている。
特性Y1において、エンジントルクは、要求トルクがTr0未満の領域では、ゼロである。即ち、要求トルクTr0とは前述の閾値Tthの一例であり、特性Y1は、要求トルクがTr0未満となる領域でエンジン200が停止されることを表している。尚、図7において、閾値となるトルクTr0は、トルクTr1のちょうど半分の値に設定されている。
特性Y2において、モータトルクは、正負いずれの値も採り得る。モータトルクが正の状態とは、即ち、トルクが出力される状態であり、モータトルクが負の状態とは、即ち、トルクが吸収される状態を表している。
特性Y2において、要求トルクTnがゼロからTr0に至るまでの期間では、モータジェネレータMG2は、電動機として駆動される。それに伴い、要求トルクTnがTr0となった時点で、モータジェネレータMG2からはトルクTr0が出力されている。即ち、図6におけるステップA16に係る処理が実行される。
一方で、要求トルクTnがTr0以上且つTr1以下となる期間では、上述したようにエンジン200からトルクTr1が出力されるため、要求トルクTnに対しエンジントルクが過剰となる。そこで、モータジェネレータMG2は発電機として使用され、要求トルクTr0でエンジン200からトルクTr1が出力された瞬間に、モータトルクは−Tr0に制御される。以後、要求トルクTnに対し、要求トルクがTr1となるまでモータジェネレータMG2によるトルク吸収量は徐々に減少制御され、要求トルクがTr1となった時点で、要求トルクの全てがエンジン200から出力されることになる。
その結果、特性Y3に示すように、エンジントルクとモータトルク(正負いずれも含む)とを合算した出力トルクは、要求トルクTnに対しリニアに推移する。即ち、ハイブリッドシステム10からは、要求トルクTnが出力される。このように、本実施形態に係る退避走行モードによれば、スロットル開度をWOTに制限した状態でエンジン200を動作させることによって燃焼状態の劣化を防止すると共に、それに伴って発生するトルクの過不足分をモータジェネレータMG2によって吸収又は出力することによって、効率的且つ効果的に、燃焼状態の劣化を防止することが可能である。
尚、更に図7を参照して、閾値Tthの設定(図6におけるステップA13に係る処理)について説明する。今、特性Y2において、実線の如くモータトルクが制御されているとする。この場合、モータジェネレータMG2は、吸収するトルクの最大値及び発生トルクの最大値は夫々Tr0及び−Tr0であり両者の絶対値は等しい。然るに、モータジェネレータMG2によって吸収及び出力可能なトルクは、バッテリ500の充電状態に大きく影響を受ける。そこで、ECU100は、図6ステップA13に係る処理において、SOCセンサ510の出力を基にバッテリ500の充電状態を取得する。
充電状態を取得した結果、バッテリ500の電力残量が十分でない場合、ECU100は閾値Tthを相対的に減少させる。例えば、特性Y2において、閾値TthがTr0から差分ΔTrだけ減じられたとする(図示一点鎖線参照)。この場合、モータジェネレータMG2によって吸収されるトルクの最大値は、−Tr0−ΔTrであり、出力されるトルクの最大値は、Tr0−ΔTrとなる。尚、必然的に、エンジントルクも係る変更された閾値に対応して変化する(図示は省略する)。従って、モータトルクは主としてバッテリ500を充電するように作用し、バッテリ500の充電状態が回復する。
一方、充電状態が取得された結果、バッテリ500が満充電に近い充電状態であった場合、ECU100は閾値Tthを相対的に増加させる。例えば、特性Y2において、閾値TthがTr0から差分ΔTrだけ増加されたとする(図示二点鎖線参照)。この場合、モータジェネレータMG2によって吸収されるトルクの最大値は、−Tr0+ΔTrであり、出力されるトルクの最大値は、Tr0+ΔTrとなる。尚、必然的に、エンジントルクも係る変更された閾値に対応して変化する(図示は省略する)。従って、モータトルクは主として動力をアシストするように作用し、バッテリ500が積極的に使用される。
このように、バッテリ500の充電状態に応じて、エンジン200を動作させるための要求トルクTnの閾値Tthを変更することにより、モータジェネレータMG2を効率的に使用することが可能となる。無論、このような閾値の変化幅は、モータジェネレータMG2の入出力限界を超えて設定することは出来ないが、閾値Tthが固定されている場合と比較すれば、明らかに有利である。
<2:第2実施形態>
次に、図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。ここに、図8は、本発明の第2実施形態に係るエンジン600の半断面システム系統図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図8において、エンジン600は、吸気バルブ208の閉弁時期が可変に構成されている点でエンジン200と相違している。吸気バルブ208は、吸気バルブを駆動する不図示の可変動弁系を介してECU100と電気的に接続されており、ECU100の制御によって、その閉弁時期が決定される。
ここで、図9を参照して、吸気バルブの閉弁時期が可変である場合の効果について説明する。ここに、図9は、吸気バルブの閉弁時期に対するエンジントルクの特性を表す模式図である。
図9において、縦軸及び横軸が夫々エンジントルク及びIVC(吸気バルブ閉弁時期)を表している。尚、IVCは、クランク角として規定されている。エンジントルクは、IVCがBDC(Bottom Death Center:下死点)に設定された時に最大値Trmaxを採る。また、IVCが進角制御(吸気バルブを相対的に早く閉じる制御)及び遅角制御(吸気バルブを相対的に遅く閉じる制御)された場合には夫々減少する。
本実施形態において、ECU100は、このIVCが可変であることを利用して、効果的に前述した退避走行処理を実行することが可能である。ここで、図10を参照し、前述の退避走行処理を実行するに際してIVCが可変であることの利点について説明する。ここに、図10は、要求トルクに対するエンジントルク、モータトルク及び出力トルクの特性図である。尚、同図において、図7と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図10において、上段、中段及び下段に示される特性Z1、Z2及びZ3が夫々エンジントルク、モータトルク及び出力トルクに対応している。要求トルクの閾値Tthは、Tr2(Tr2<Tr1)に設定されている。ECU100は、退避走行モードが起動された時点で通常時のIVCよりもエンジントルクが減少するようにIVCを設定しており、要求トルクがTr2となった時点で出力されるエンジントルクは、Tr3(Tr3=2Tr2<Tr1)となっている。ここで、要求トルクがTr3となった場合、ECU100は、IVCを徐々に元の制御値に戻す。これによって要求トルクがTr3からTr1となるまでの期間においては、エンジントルクが上昇する(特性Z1参照)。このようなIVC制御によって、要求トルクに対するエンジントルクの余剰分は、第1実施形態よりも小さいものとなる。
これに伴い、モータジェネレータMG2の制御態様も変化する。即ち、モータジェネレータMG2によってエンジントルクの過不足分を吸収及び出力することが要求される要求トルクの最大値はTr2であり、従って、モータジェネレータMG2の入出力範囲は、2Tr2(即ち、Tr3)となる(特性Z2参照)。これは、第1実施形態における入出力範囲である2Tr0(即ち、Tr1)よりも小さい値であり、モータジェネレータMG2に掛かる負荷が軽減され、モータジェネレータMG2が一層フレキシブルに使用される。尚、これらの結果、出力トルクは、第1実施形態と同様に、要求トルクTrに対しリニアに変化する(特性Z3参照)。
尚、上述した各実施形態と異なり、車両が動力源としてエンジンのみを有する場合、エンジンを停止させれば出力トルクはゼロとなり、スロットルバルブをWOTに制限したことによる余剰なトルクを吸収することも不可能である。このような場合には、要求トルクに応じて、エンジンの動作及び停止を頻繁に繰り返し、車両を走行させてもよい。この場合も、燃焼が不安定となることはなく、燃焼状態の劣化を防止する本発明に係る効果は担保される。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…ハイブリッドシステム、100…ECU、200…エンジン、214…スロットルバルブ、215…スロットルポジションセンサ、228…EGRバルブ、229…EGR装置、500…バッテリ、510…SOCセンサ、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ。