この種の排気ガス循環装置では、バルブが全開状態で固着した場合、特に軽負荷走行時において内燃機関の燃焼が不安定になり、ドライバビリティが悪化し易い。従って、排気ガス循環装置の故障を診断するに際しては、特にバルブが全開状態で固着していることを速やかに検出する必要がある。
ところが、従来の技術では、EGRバルブが全開状態の場合、還流する排気ガスの量は、バルブが固着しているか否かに関係なく、それ以上増加しない。このため、従来の技術では、係る全開状態において、EGRバルブが正常に動作する場合と固着している場合との区別を、バイパス通路の通過空気量を増加させた際の機関回転数から判断することが困難である。即ち、従来の技術には、排気ガス循環装置の故障を正確且つ効率的に診断することが困難であるという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、排気ガス循環装置におけるバルブの故障を正確且つ効率的に診断することが可能な排気ガス循環装置の故障診断装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置(以下、適宜「故障診断装置」と称する)は、車両における内燃機関に、開度の増加に伴って該内燃機関の吸気系における吸入空気量を増加させることが可能な第1のバルブと共に備わり、少なくとも(i)前記内燃機関の排気系と前記吸気系とを相互に連通させる管路及び(ii)該管路の一部に設けられ、所定種類の開度制御信号によって開度が制御される第2のバルブを有し、前記管路を介して前記内燃機関における排気ガスを前記第2のバルブの開度に応じた量前記吸気系に循環させることが可能な排気ガス循環装置の故障を診断するための排気ガス循環装置の故障診断装置であって、前記第1のバルブの開度を特定する開度特定手段と、前記内燃機関におけるトルク変動の度合いを特定するトルク変動特定手段と、前記第2のバルブに対し前記開度制御信号を供給する開度制御信号供給手段と、前記第1のバルブの開度が全開開度及び全閉開度のいずれにも該当しない開度として規定される中間開度であり、前記第2のバルブに対し前記第2のバルブの開度を前記全開開度又は前記中間開度に制御する旨の前記開度制御信号が供給され、且つ前記トルク変動の度合いが所定の第1閾値以上である場合として規定される第1診断条件が満たされる場合に、(i)前記第2のバルブに対し前記第2のバルブの開度を減少させる旨の前記開度制御信号を供給するように前記開度制御信号供給手段を制御する第1処理及び(ii)前記第1処理に引き続いて行われ、前記トルク変動の度合いに基づいて、前記故障の少なくとも一つとして前記第2のバルブの故障を診断する第2処理を含む診断処理を実行する診断手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る内燃機関とは、車両に備わると共に燃料の燃焼を動力に変換する機関を包括する概念であり、例えば、ガソリン又は軽油などを燃料とするエンジンなどを指す。ここで、本発明に係る第1のバルブとは、開度(以降、適宜「第1開度」と称する)の増加に伴って内燃機関の吸気系を介して吸入される空気量(即ち、吸入空気量)を増加させることが可能なバルブを包括する概念であり、例えば、スロットルバルブなどを指す。
本発明に係る「排気ガス循環装置」とは、内燃機関の排気系と吸気系とを相互に連通させる管路及び係る管路に設置された第2のバルブを備え、係る第2のバルブの開度(以下、適宜「第2開度」と称する)に応じた量の排気ガスを吸気系に循環させることが可能な機構、装置及びシステムを包括する概念であり、典型的にはEGR装置を指す。この場合、管路及び第2のバルブは、夫々、例えば「EGRパイプ」及び「EGRバルブ」などと呼称される。
第2のバルブは、排気系から吸気系へ、所定種類の開度制御信号によって制御される第2開度に応じた量の排気ガスを循環させ得る限りにおいて如何なる態様を有していてもよい。例えば、ソレノイドバルブなどの電磁制御弁とダイアフラムを含む複合弁であってもよい。この場合、ダイアフラムは吸気系側の圧力と排気系側の圧力(背圧)との圧力差に応じて開閉し、電磁制御弁は、少なくとも係るダイアフラムの作動可否を決定するためのスイッチング手段として、好適には更に背圧を制御する背圧制御弁として機能してもよい。この場合、所定種類の開度制御信号とは、即ち電磁制御弁を制御する制御信号であり、電磁制御弁を単にスイッチング手段として機能させるならば、オン又はオフの二値信号となる。また、背圧を制御する場合には、電磁制御弁の開度を連続的或いは段階的に制御する多値信号となる。このような開度制御信号は、例えば電圧、電流又はパルスなどの態様を有していてもよいし、第2開度を増減させる旨を表す信号である限りにおいて、これに限らず多様な形態を有していてよい。また、第2のバルブは、単に電磁制御弁であってもよいし、機械的又は機構的な開閉弁であってもよい。尚、「開度に応じた量」とは、即ち第2開度が増加又は減少するのに伴って夫々増加又は減少する量を表す。
また、上記概念が担保される限りにおいて、本発明に係る排気ガス循環装置には、循環する排気ガスを冷却するための冷却装置(例えば、EGRクーラ)など他の機能要素が備わっていてもよい。
また、本発明において「故障を診断する」とは、排気ガス循環装置に何らかの故障が発生しているか否かの言わば二値的な判断を行うことの他に、排気ガス循環装置における故障の内容或いはその発生部位などを特定することを含む概念である。
本発明に係る故障診断装置によれば、その動作時には、開度特定手段によって第1開度が特定される。ここで、本発明における「特定」とは、例えば機械的、機構的、物理的、電気的又は化学的な検出手段によって、対象となる値を直接検出することの他に、例えば、これら検出された値を電気的な信号として間接的に取得することを含み、更には、これら検出された又は取得された値を基に何らかのアルゴリズム又は算出式に従って算出又は導出することを含む概念である。従って、第1開度を特定する開度特定手段とは、例えば、スロットルポジションセンサなどの各種センサの如き態様を有していてもよいし、これら各種センサから出力される、第1開度を表す電気信号を取得することが可能に構成された、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)などの処理装置であってもよい。
また、本発明に係る故障診断装置によれば、トルク変動特定手段によって、内燃機関におけるトルク変動の度合いが特定される。ここで、「トルク変動の度合い」とは、トルク変動の大きさを表す概念である。従って、トルク変動の度合いは、好適には何らかの定量化がなされた値(以降、適宜「変動指標値」と称する)として表される。このような変動指標値は、トルク変動の度合いを規定する値である限りにおいて如何なる値であってもよい。例えば、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、トルク変動の度合いを好適に規定し得るものに定められていてもよい。例えば、このような変動指標値とは、トルクの変化率又は変化量であってもよい。また、トルクの変動は機関回転数の変動を伴うため、変動指標値は、機関回転数に基づいて得られる、例えば、機関回転数の変化率又は変化量などであってもよい。また、トルクの変動は燃焼圧の変動と相関するものであるから、内燃機関に筒内圧センサなどに代表される燃焼圧検出手段が備わる場合には、係る変動指標値とは、筒内圧の如き燃焼圧の変化率又は変化量などであってもよい。即ち、トルクの変動に対応して変動する物理量である限りにおいて、トルク変動の度合いは、必ずしもトルクに基づいて得られる値でなくてもよい。尚、このようなトルク、機関回転数又は燃焼圧などの変動は、所定の周波数領域について特定されてもよい。尚、トルク変動の度合いは、その大小が夫々トルク変動の大小に対応するが、トルク変動の度合いを変動指標値として表す場合は、必ずしもその大小がトルク変動の大小に対応せずともよい。即ち、トルク変動の大小が夫々変動指標値の小大に対応してもよい。
本発明に係る故障診断装置では更に、開度制御信号供給手段によって、第2のバルブに対し前述した開度制御信号が供給される。尚、通常、開度制御信号によって指示すべき第2開度の目標値或いは開度制御信号自身の値は、予め内燃機関の動作条件に対応付けられて設定される。この場合、動作条件としては、機関回転数及び負荷(典型的には、第1開度)などが適当であり、例えば、機関回転数及び負荷を夫々各軸に配してなるマップにおいて、その時点における内燃機関の動作条件に応じて一義的に定まる座標点に相当する値が、第2開度の目標値或いは開度制御信号の値として採用される。但し、開度制御信号供給手段によって制御される第2開度の目標値は、このように予め設定されておらずともよく、例えば、何らかのアルゴリズム又は算出式に従ってその都度算出されてもよい。
排気ガス循環装置では、管路を循環する排気ガスの量(以下、適宜「排気循環量」と称する)が吸気系を介して吸入される新気の量(即ち、吸入空気量)に対して過大であると、内燃機関の燃焼状態が不安定になり易く、場合によっては内燃機関が失火しかねない。従って、開度制御信号によって制御される第2開度は、少なくとも燃焼状態を良好に維持し得る程度の排気循環量となるように決定される。逆に言えば、第2開度は、燃焼状態を良好に維持し得る限りにおいて、基本的にはどのように制御されてもよい。但し、排気温度の低下によるNOx(窒素酸化物)排出量の低下又は燃料消費率の向上と言った、排気ガス循環装置に顕著に期待される効果に鑑みれば、排気循環量は多い程良いから、必然的に、第2開度は、燃焼状態を良好に維持し得る限り大きくなるように、第1開度に応じて、即ち、第1開度が増加及び減少するのに伴って夫々増加及び減少するように制御されるのが好適となる。
尚、ここで述べられる「燃焼状態が良好に維持される」とは、例えば、ドライバビリティの悪化が実用上問題とならない程度の燃焼状態であることを指し、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいてその基準が設けられていてもよい。この際、燃焼状態の悪化はトルクの変動を伴うから、燃焼状態が良好であるか否かは、本発明に係るトルク変動の度合い或いは前述した変動指標値などに予め対応付けて数値的に規定されていてもよい。
ここで特に、何らかの原因によって、第2のバルブが全閉開度以外の第2開度を有する状態で、言い換えれば第2のバルブが幾らかなりとも開いた状態で動作不能になった(例えば、固着した)場合、第1のバルブの動作状態によっては、前述した如く燃焼状態が悪化しかねない。従って、第2のバルブが、幾らかなりとも開いた状態で予め設定された正常な動作が不能となったか否かは、速やかに検出される必要がある。一方、経済的な観点からは、第2開度の実開度を検出する検出手段を設置することは好ましくない。
そこで、本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置は、診断手段を備えることによって、正確且つ効率的に第2のバルブの故障を診断することが可能に構成されている。即ち、診断手段は、第1開度が中間開度であり、第2のバルブに対し第2開度を全開開度又は中間開度に制御する旨を表す開度制御信号が供給され且つトルク変動の度合いが所定の第1閾値以上である場合として規定される第1診断条件が満たされる場合に、診断処理を実行する。
ここで、「中間開度」とは、全開開度及び全閉開度のいずれにも該当しない開度として規定される。尚、第1のバルブが全開開度を有する状態とは、例えば、スロットルバルブがWOT(Wide Open Throttle)である場合などを指す。排気循環量は、吸気系と排気系との圧力差に依存する。即ち、第2開度が同じであれば、吸気管負圧が大きい程排気循環量は増加する。従って、第1開度が、吸気管負圧が比較的小さい(即ち、大気圧に漸近する)全開開度に制御された状態では、吸入空気量に対する排気循環量は、第2開度が全開開度であったとしても過大とはならず、燃焼状態は良好に維持される。
第1診断条件が満たされる場合、第2バルブには、第2開度を全開開度又は中間開度に制御する旨の開度制御信号が供給されているから、第2のバルブは少なくとも閉じてはいないはずである。第1開度は中間開度であり、特に第1開度は小さい程吸気管負圧を大きくし得るから、このように第2のバルブが少なくとも開いている場合、第2開度の値によっては、排気循環量が吸入空気量に対して過大となる可能性がある。
このように排気循環量が過大となる場合、トルク変動の度合いは通常時よりも大きくなる。第1閾値とは、このように、通常起こり得る範囲のトルク変動の度合いよりも大きい値として、好適には予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて設定される。
これら第1診断条件を構成する各要件に鑑みれば、結局、第1診断条件が満たされた場合、第2のバルブが固着などによって制御不能に陥っている可能性がある。但し、排気ガス循環装置に何ら起因しない別個の要因によって、第2のバルブが正常に作動していても第1診断条件に係る要件は満たされる場合があるから、第1診断条件が満たされた場合に以下の如く診断処理が実行される。
本発明に係る診断処理は、第1処理及び第2処理を含み、排気ガス循環装置の故障の少なくとも一つとして、第2のバルブの故障を診断する処理である。ここで、第1処理は、第2のバルブに対し、第2開度を減少させる旨の開度制御信号を供給するように開度制御信号供給手段を制御する処理であり、第2処理は、第1処理に引き続いて行われ、トルク変動の度合いに基づいて第2のバルブの故障を診断する処理である。
第1処理に係る制御によって、第2のバルブに対し第2開度を減少させる旨の開度制御信号が供給された場合、第2のバルブが正常に作動しているならば第2開度は減少する。第2開度が減少した場合、トルク変動の度合いは、第2開度の減少に伴う排気循環量の減少に応じて減少する。即ち、トルク変動の度合いは小さくなる。一方、第2のバルブが故障している場合、第2開度を減少させる旨の開度制御信号が供給されても、第2開度は、少なくとも期待された程には減少しない。或いは第2のバルブが固着している場合全く減少しない。この場合、トルク変動の度合いは、小さくなったとしても、開度制御信号によって促される開度の減少に対応する程ではなく、第2のバルブが固着していれば無論、殆ど或いは全く収束しない。即ち、トルク変動の度合いは、第1閾値以上或いはそれに近い程度に大きいはずである。
このように、第2のバルブが故障しているか否かによって、第1処理後に特定されるトルク変動の度合いは異なったものとなるため、本発明に係る故障診断装置によれば、トルク変動の度合いに基づいて第2バルブの故障を正確に診断することが可能となるのである。また、故障の診断は、内燃機関の通常の動作期間中に実行することが可能であり、効率的である。
尚、第2のバルブが固着している場合、第2開度が大きい程、第1開度が中間開度である場合のトルク変動が顕著に現れ易いから、本発明に係る故障診断装置によれば、特に第2のバルブが全開状態で固着していることを正確に診断することが可能となる。
尚、第2のバルブが正常に作動しているのであれば、トルク変動の度合いは、第2開度を減少させる旨の開度制御信号に応じて、第2開度の減少量に係る目標値の大小とは無関係に少なくとも小さくなる方向に推移するはずであるから、第1処理における第2開度の目標減少量は特に限定されない。但し、トルク変動の度合いに基づいて故障を診断する事情に鑑みれば、第2開度の目標減少量は大きい程良い。従って、第1処理では、第2のバルブに対し、第2のバルブを全閉状態にする旨の開度制御信号を供給するように開度制御信号供給手段が制御されてもよい。
尚、第2処理を行うに際しての診断基準は、何ら限定されない。例えば、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、第2のバルブが正常に作動する状態で第2開度を減少させた際の、トルク変動の度合いの推移が判明している、又は推定し得る場合には、実際に第2処理において得られたトルク変動の度合いと係る診断基準となるトルク変動の度合いとの相互比較に基づいて係る診断がなされてもよい。
尚、第1診断条件に係る第1閾値とは、好適には、燃焼状態(或いは、ドライバビリティ)が良好であると判断し得るトルク変動の度合いの上限値を指し、内燃機関又は係る内燃機関を搭載する車両の仕様又は要求性能などに応じて、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて設定される値である。但し、診断処理の概念に鑑みれば、内燃機関の燃焼状態が良好であると許容され得る領域で設定されても、良好ではないと判断し得る領域で設定されても、本発明に係る効果は何ら問題なく担保される。即ち、第2開度を減少させるべき制御を行った場合に第2のバルブが正常に作動していると診断し得る程度にトルク変動の度合いが小さくなる余裕がある限りにおいて、第1閾値とはどのような値であってもよい。
本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置の一の態様では、前記診断手段は、前記第2処理において前記トルク変動の度合いが所定の第2閾値以上である場合に前記第2のバルブが故障していると診断する。
この態様によれば、第2処理における診断基準として第2閾値が設定されるため、正確且つ効率的に、第2のバルブの故障を診断することが可能となる。
尚、ここで述べられる第2閾値とは、第2のバルブが故障していると診断し得るトルク変動の度合いである限りにおいて、どのような値であってもよい。即ち、前述した第1閾値と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、固定値であってもよいし、可変の値であってもよい。例えば、第2閾値は、第1処理における第2開度の減少目標値に対応付けられる形で予め複数用意されていてもよい。或いはその都度何らかのアルゴリズムに基づいて算出されてもよい。
本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置の他の態様では、前記開度制御信号供給手段は、前記第2のバルブに対し、前記吸入空気量に対する前記循環させる排気ガスの量の比率が所定値に維持されるように前記開度制御信号を供給する。
この態様によれば、開度制御信号供給手段によって、第2開度が、吸入空気量に対する排気循環量の比率(以下、適宜「循環比率」と称する)が所定値となるように開度制御信号が供給されるため、排気ガス循環装置に期待される効果を顕著に発揮させ得る。係る所定値は、内燃機関が良好な燃焼状態を維持し得る限りにおいて、如何なる値であってもよいが、好適には、内燃機関が良好な燃焼状態を維持し得る上限値又はそれに近い(例えば、マージンを考慮した)値に設定される。例えば、概ね20%程度の値であってもよい。
尚、排気ガス循環装置において、第2のバルブの実開度(即ち、実際の第2開度)が不明であることに鑑みれば、「所定値となるように」とは、必ずしも実際の循環比率が厳密に係る所定値に制御されずともよい趣旨である。即ち、実際の循環比率は変動してもよい。また、第1開度の増減に応じて吸入空気量が夫々増減することを考えれば、本態様に係る開度制御信号供給手段は、第1開度の増減に伴って第2開度を夫々増減させるように開度制御信号を供給することによって、循環比率を所定値に維持してもよい。但し、この場合、必ずしも第2開度が第1開度の制御範囲の全域で第1開度と連動しておらずともよく、第1開度がWOTに到達する以前に第2開度が全開状態に制御されてもよい。このような第2開度の目標値又は開度制御信号の値は、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、循環比率が所定値に維持されるように決定されていてもよい。例えば、開度制御信号供給手段は、第1開度と第2開度の目標値又は開度制御信号の値とを対応付けたマップなどを参照して、その時点における第1開度に対応する第2開度となるように開度制御信号を供給してもよい。
このように第2開度制御信号が供給される場合、第1開度がWOTであれば、必然的に第2開度も全開又はそれに近い値に制御される。一方で、第1開度がWOTから中間開度に減じられた場合、第2のバルブが係る全開又はそれに近い値で固着していれば、循環率が過大となって燃焼が不安定になり、トルク変動の度合いは大きくなる。
従って、この場合、第1閾値の設定如何によっては、第2のバルブの固着に伴って必然的に第1診断条件の要件は満たされることとなる。即ち、この態様によれば、効率的に第2のバルブの故障を診断することが可能となるのである。
本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置の他の態様では、前記診断手段は、前記第1のバルブの開度が前記全開開度であり、且つ前記トルク変動の度合いが前記第1閾値未満である場合として規定される第2診断条件が満たされた後に前記第1診断条件が満たされる場合に、前記診断処理を実行する。
この態様によれば、第1開度が全開開度であり且つトルク変動の度合いが第1閾値未満である場合として規定される第2診断条件が満たされた後に第1診断条件が満たされる場合に診断処理が実行される。
第2診断条件の要件が満たされない場合、第1開度が全開であるにも拘らずトルク変動の度合いが大きいことになるから、内燃機関には、排気ガス循環装置の故障に起因しない何らかの故障が発生している公算が大きい。このような場合、例え第1開度が中間開度の状態でトルク変動が大きくなったとしても、診断処理を実行する意義は低いものとなりかねない。即ち、この態様によれば、トルク変動が大きくなる要因を限定する(即ち、トルク変動が大きくなる他の要因を幾らかなりとも排除する)ことによって、正確且つ効率的に第2のバルブの故障を診断することが可能となるのである。
尚、この態様において、前記診断手段は、(i)前記第1のバルブの開度を前記全開開度となるように制御する第3処理及び(ii)前記第3処理が実行された結果前記第2診断条件が満たされた場合に前記第1のバルブの開度を前記中間開度となるように制御する第4処理を含む診断準備処理を実行してもよい。
この場合、診断手段が診断準備処理を実行することによって、所望されるタイミングで第2のバルブの故障診断を実行することが可能となるため効率的である。例えば、車両がアイドリング状態にある場合(即ち、第1開度は中間開度である)などに診断準備処理を実行することにより、車両の走行を何ら阻害することなく第2のバルブの故障を診断することが可能となる。
尚、診断手段は、第3処理において、第1開度を全開開度に制御することが可能である。従って、この場合、診断手段は、少なくとも第1のバルブを間接的に制御することが可能に構成される。ここで、間接的に制御するとは、第1のバルブの動作を直接制御する制御系が別途存在してもよい趣旨であり、係る診断準備処理を実行する場合に限って、係る制御系を上位に制御することが可能であるように診断手段が構成されていてもよい趣旨である。また、このように間接的に第1のバルブを制御するのと異なり、診断手段は、例えば、ECUなどの電子制御ユニットの少なくとも一部として、第1のバルブの制御系と同一のハードウェア構成を有していてもよい。
本発明に係る排気ガス循環装置の故障診断装置の他の態様では、前記車両は、前記内燃機関を補助するためのモータジェネレータを備えるハイブリッド車両であり、前記トルク変動特定手段は、前記モータジェネレータを介して取得される前記内燃機関のトルク反力に基づいて前記トルク変動の度合いを特定する。
この態様によれば、ハイブリッド車両に備わるモータジェネレータが、トルク反力として内燃機関のトルクを検出することが可能となるから、トルク変動特定手段は、係る検出されたトルクに基づいて、トルク変動の度合いを比較的正確に特定することが可能となり、故障診断の精度が向上し得る。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<1:実施形態の構成>
<1−1:ハイブリッドシステムの構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッドシステム10のブロック図である。
図1において、ハイブリッドシステム10は、ECU100、エンジン200、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、動力分割機構300、インバータ400及びバッテリ500を備え、ハイブリッド車両20を制御するシステムである。
ECU100は、ハイブリッドシステム10の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「排気ガス循環装置の故障診断装置」の一例として機能するように構成されている。ECU100は、図示せぬROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えており、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する故障診断処理を実行することが可能に構成されている。また、RAMには、係る故障診断処理の実行過程で各種データが一時的に格納される構成となっている。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両20の主たる動力源として機能する。尚、エンジン200の詳細な構成については後述する。
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「モータジェネレータ」の一例であり、バッテリ500を充電するための発電機として、或いはエンジン200の駆動力をアシストする電動機として機能するように構成されている。
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「モータジェネレータ」の他の一例であり、エンジン200の出力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能するように構成されている。
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。
動力分割機構300は、図示せぬサンギア、プラネタリキャリア、ピニオンギア、及びリングギアを備えた遊星歯車機構である。これら各ギアのうち、内周にあるサンギアの回転軸はモータジェネレータMG1に連結されており、外周にあるリングギアの回転軸は、モータジェネレータMG2に連結されている。サンギアとリングギアの中間にあるプラネタリキャリアの回転軸はエンジン200に連結されており、エンジン200の回転は、このプラネタリキャリアと更にピニオンギアとによって、サンギア及びリングギアに伝達され、エンジン200の動力が2系統に分割されるように構成されている。ハイブリッド車両20において、リングギアの回転軸は、ハイブリッド車両20における伝達機構21に連結されており、この伝達機構21を介して車輪22に駆動力が伝達される。
インバータ400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されている。
バッテリ500はモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を駆動するための電源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。バッテリ500には、バッテリ500の残容量を検出するSOCセンサ510が設置されており、ECU100と電気的に接続されている。
<1−2:エンジンの詳細構成>
次に、図2を参照して、エンジン200の詳細な構成を、その基本動作と共に説明する。ここに、図2は、エンジン200の半断面システム系統図である。
図2において、エンジン200は、シリンダ201内において点火プラグ202により混合気を爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクションロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成を動作と共に説明する。
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気(即ち、吸入空気)は吸気管206(即ち、本発明に係る「吸気系」の一例)を通過し、インジェクタ207から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。インジェクタ207には、燃料(ガソリン)が燃料タンク223からフィルタ224を介して供給されており、インジェクタ207は、この供給される燃料を、ECU100の制御に従って吸気管206内に噴射することが可能に構成されている。尚、燃料タンク223には、燃料残量を検出するための燃料センサ225が設置されている。
シリンダ201内部と吸気管206とは、吸気バルブ208の開閉によって連通状態が制御されている。シリンダ201内部で燃焼した混合気は排気ガスとなり吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ209を通過して排気管210を介して排気される。
吸気管206上には、クリーナ211が配設されており、外部から吸入される空気が浄化される。クリーナ211の下流側(シリンダ側)には、エアフローメータ212が配設されている。エアフローメータ212は、ホットワイヤー式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。吸気管206には更に、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ213が設置されている。
吸気管206におけるエアフローメータ212の下流側には、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214(即ち、本発明に係る「第1のバルブ」の一例)が配設されている。このスロットルバルブ214には、スロットルポジションセンサ215が電気的に接続されており、その開度(即ち、前述した第1開度)が検出可能に構成されている。更に、スロットルバルブ214の周囲には、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ216、及びスロットルバルブ214を駆動するスロットルバルブモータ217も配設されており、ECU100は、スロットルバルブ214の開度が、アクセルポジションセンサ216によって検出されるアクセルペダル226の踏み込み量に応じた開度となるように、スロットルバルブモータ217を駆動している。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転角(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ218が設置されている。クランク角は、シリンダ201内部におけるピストン203の位置と相関するため、インジェクタ207から噴射される燃料の噴射タイミングは、係るクランク角に基づいて制御される構成となっている。また、ECU100は、クランクポジションセンサ218の出力値に基づいて、エンジン200の機関回転数Neを算出することが可能に構成されている。
また、シリンダ201を収容するシリンダブロックには、エンジン200のノック強度を測定可能なノックセンサ219が配設されており、係るシリンダブロック内のウォータージャケット内には、エンジン200の冷却水温度を検出するための水温センサ220が配設されている。
排気管210には、三元触媒222が設置されている。三元触媒222は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。排気管210における三元触媒222の上流側には、空燃比センサ221が配設されている。空燃比センサ221は、排気管210から排出される排気ガスから、エンジン200の空燃比を検出することが可能に構成されている。
エンジン200には、EGR装置229が設置される。EGR装置229は、EGRパイプ227及びEGRバルブ228を備える。
EGRパイプ227は、排気管210と、吸気管206におけるスロットルバルブ214下流側とを繋ぐ管状部材であり、本発明に係る「管路」の一例である。
EGRバルブ228は、EGRパイプ227に設けられた電磁制御弁であり、本発明に係る「第2のバルブ」の一例である。EGRバルブ228は、ECU100から供給される開度制御信号によってその開度(即ち、前述した第2開度)が制御され、係る開度に応じて、EGRパイプ227における排気管210側と吸気管206側との連通面積が変化する構成となっている。
係る構成の下、EGR装置229は、排気管210に排出される排気ガスの一部を、EGRバルブ228の開度に応じて吸気管206に循環させることが可能に構成されている。即ち、EGR装置229は、本発明に係る「排気ガス循環装置」の一例である。
<2:実施形態の動作>
<2−1:ハイブリッドシステムの基本動作>
図1のハイブリッドシステム10においては、主として発電機として機能するモータジェネレータMG1、主として電動機として機能するモータジェネレータMG2及びエンジン200の夫々の駆動力配分がECU100及び動力分割機構300により制御され、ハイブリッド車両20の走行状態が制御される。以下に、幾つかの状況に応じたハイブリッドシステム10の動作について説明する。
<2−1−1:始動時>
例えば、ハイブリッド車両20の始動時においては、バッテリ500の電気エネルギを用いて駆動されるモータジェネレータMG1が電動機として機能する。この動力によって、エンジン200がクランキングされエンジン200が始動する。
<2−1−2:発進時>
発進時には、バッテリ500の蓄電状態に応じて2種類の態様を採り得る。バッテリ500の蓄電状態は、SOCセンサ510の出力信号に基づいてECU100が把握している。例えば、通常の(即ち、SOCが良好な)発進時においては、モータジェネレータMG1によってバッテリ500を充電する必要は生じないため、エンジン200は暖機のためだけに始動し、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力により発進する。一方、蓄電状態が良好ではない(即ち、SOCが低下している)場合、エンジン200の動力によりモータジェネレータMG1が発電機として機能し、バッテリ500が充電される。
<2−1−3:軽負荷走行時>
例えば、低速走行や緩やかな坂を下っている場合には、比較的エンジン200の効率が悪い為、エンジン200は停止され、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力のみで走行する。尚、この際、SOCが低下していれば、エンジン200はモータジェネレータMG1を駆動するために始動し、モータジェネレータMG1によりバッテリ500の充電が行われる。
<2−1−4:通常走行時>
エンジン200の効率が比較的良好な運転領域においては、ハイブリッド車両20は主としてエンジン200の動力によって走行する。この際、エンジン200の動力は、動力分割機構300によって2系統に分割され、一方は、伝達機構21を介して車輪22に伝達され、他方は、モータジェネレータMG1を駆動して発電を行う。更に、この発電された電力により、モータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2によりエンジン200の動力がアシストされる。尚、この際、SOCが低下している場合には、エンジン200の出力を上昇させて、モータジェネレータMG1により発電された電力の一部がバッテリ500へ充電される。
<2−1−5:制動時>
減速が行われる際には、車輪22から伝達される動力によってモータジェネレータMG2を回転させ、発電機として動作させる。これにより、車輪22の運動エネルギが電気エネルギに変換され、バッテリ500が充電される、所謂「回生」が行われる。
<2−2:エンジンの基本制御>
次に、エンジン200の基本的な制御動作について説明する。
ECU100は、エンジン200に要求される出力であるエンジン要求出力を、一定の周期で繰り返し演算している。この際、ECU100は、スロットルポジションセンサ215によって検出されるアクセル開度(即ち、負荷)及び不図示の車速センサによって検出される車速に基づいて、予めROMに格納されたマップから現時点におけるアクセル開度及び車速に対応した出力軸トルク(伝達機構21に出力されるべきトルク)を算出する。更に、ECU100は、SOCセンサ510の出力信号に基づいて要求発電量を求め、要求発電量と各種の補機類(A/Cやパワーステアリングなど)の要求量とを参照して出力軸トルクを補正することによって、エンジン要求出力を算出する。なお、エンジン要求出力の演算方法は公知のハイブリッド車両で実行されている通りでよく、その細部は必要に応じて種々変更されてよい。
<2−3:EGR装置の制御>
次に、図3を参照して、EGR装置229の動作について説明する。ここに、図3は、スロットルバルブの開度(以下、適宜「スロットル開度」と称する)に対する吸気管負圧、EGRバルブ228の開度(以下、適宜「EGRバルブ開度」と称する)及びEGR率(即ち、前述した「循環比率」の一例)各々の特性図である。
図3において、上段、中段及び下段に示される特性X1、X2及びX3が夫々吸気管負圧、EGRバルブ開度及びEGR率の特性に対応している。
図3において、スロットル開度が大きい程吸気管負圧は小さくなり、吸気管206の圧力は、大気圧に漸近する(特性X1参照)。EGRバルブ228の開度は、概ねスロットル開度が増加するのに伴って増加するように制御される。スロットル開度が全開開度(WOT)である場合には、EGRバルブ開度は全開開度に制御される(特性X2参照)。このように、スロットル開度とEGRバルブ開度とが、相互に連動して増減制御されることに伴い、EGR率は、スロットル開度に対し概ね一定に維持される(特性X3参照)。即ち、EGRバルブ開度は、EGR率が一定に維持されるように、スロットル開度に応じて制御される。
このようなEGRバルブ228の開度の目標値(以降、適宜「EGRバルブ目標開度」と称する)は、予めECU100に機関回転数Ne及び負荷(即ち、スロットル開度)に対応付けられたマップとして保持されており、ECU100は、係るマップから、現時点における機関回転数Ne及びスロットル開度に対応するEGRバルブ目標開度を取得し、EGRバルブ開度を係るEGRバルブ目標開度に制御するための開度制御信号を生成し、EGRバルブ228に供給している。
一方、EGRバルブ228は、開度制御信号に応じて開閉状態が制御されるが、その開閉過程において主として固着などによって動作不能に陥り、故障することがある。EGRバルブ228が固着した場合、より具体的には、全開開度で固着した場合(特性X2太破線参照)、吸入空気量に対する排気ガスの循環量が相対的に大きくなり、特にスロットル開度が中間開度である場合にEGR率が過大となる(特性X3太破線参照)。
一般に、燃料消費率を向上させる観点からは、EGR率は無論大きい程良いが、その反面、EGR率には、燃焼を良好に維持し得る上限値が存在する。従って、図示太破線の如くEGR率が推移した場合には、EGR率は明らかに過大であり、特に低負荷(スロットル開度が低い領域)において、燃焼が不安定となり易い。係る問題は、EGRバルブ228が、より大きい開度で固着している場合に顕著であり、EGRバルブ228が全閉開度で固着している場合には、エンジン200の燃焼に関して何ら問題は生じない。そこで、本実施形態では、ECU100が故障診断処理を実行することによって、EGRバルブ228が開いた状態で固着している(以後、適宜「開固着」と称する)ことを正確且つ効率的に診断することが可能となっている。
<2−4:故障診断処理の詳細>
次に、図4を参照して、故障診断処理の詳細について説明する。ここに、図4は、故障診断処理のフローチャートである。
図4において、始めに、ECU100は、スロットル開度がWOTであるか否かを判別する(ステップA10)。スロットル開度がWOTではない場合(ステップA10:NO)、ECU100は、ステップA10を繰り返し、処理を診断待機状態に制御する。
一方、スロットル開度がWOTである場合(ステップA10:YES)、ECU100は、エンジン200のトルク変動が小さいか否かを判別する(ステップA11)。ここで、ECU100は、予めROMに格納されたトルク変動閾値Trth(即ち、本発明に係る「第1閾値」の一例)と、現時点のトルク変動値Tr(即ち、本発明に係る「トルク変動の度合い」の一例)とを比較し、トルク変動値Trがトルク変動閾値Trth未満である場合に、トルク変動が小であると判別する。尚、係るトルク変動閾値Trthは、予め実験的に、経験的に或いはシミュレーションなどに基づいて、エンジン200の燃焼状態を良好に維持し得る上限を規定する値として設定されている。
ここで、トルク変動値Trは、所定の周波数領域におけるエンジン200のトルク変動の大きさ(例えば、トルクの最大値と最小値との差分)を指し、大きい程トルク変動の度合いが大きいことを表す値である。本実施形態に係るハイブリッドシステム10において、エンジン200のトルクは、モータジェネレータMG1を介しトルク反力として取得される。既に述べたように、エンジン200の出力は、動力分割機構300によって、リングギア及びサンギアを介し夫々モータジェネレータMG2及びモータジェネレータMG1に分配されている。モータジェネレータMG1には、係る分配されたトルクを打ち消す向きに、即ち、モータジェネレータMG1が発電機として使用される回転方向に、係る分配されたトルクと等しいトルクを発生させている。この際、ECU100は、モータジェネレータMG1の回転数が維持されるようにトルクを発生させるため、エンジン200のトルクは、モータジェネレータMG1を介して得られるトルク反力に基づいて絶えずECU100に把握されている。
ハイブリッドシステム10では、ECU100が、このモータジェネレータMG1を介して特定されたトルクに基づいて、トルク変動値Trを算出するため、正確にトルク変動値Trを特定することが可能である。尚、エンジン200の動作点は、出力毎にトルク及び機関回転数Neの組み合わせとして所定のマップ上に規定されており、エンジン200のトルク変動は、機関回転数Neの変動を伴う。従って、トルク変動値Trは、機関回転数Neの変動として算出されてもよい。
トルク変動が大である場合(ステップA11:NO)、ECU100は、EGR装置229に起因しない他の異常が発生していると診断する(ステップA18)。スロットル開度がWOTの場合、既に述べたように、EGRバルブ開度は全開開度であったとしてもEGR率は過大とはならないはずであり、エンジン200にはEGR装置229に起因しない何らかの異常が発生している可能性が高い。但し、この場合も、EGR装置229が故障していないと判断し得る積極的な理由はないため、その他の異常とは言え、必ずしもEGR装置229が正常であるとは診断され得ない。
尚、ステップA10及びA11に規定される判別条件は、本発明に係る「第2診断条件」の一例であり、ステップA10及びA11に係る処理は、即ち、本発明に係る第2診断条件が満たされるか否かを判別する処理の一例である。
トルク変動が小である場合(ステップA11:YES)、ECU100は、スロットル開度が中間開度であるか否かを判別する(ステップA12)。即ち、スロットル開度がWOTである期間中(即ち、全負荷走行時、ステップA12:NO)は、故障診断処理は待機状態に制御される。
スロットル開度が中間開度となった場合(ステップA12:YES)、ECU100は、トルク変動値Trが大であるか否かを判別する(ステップA13)。図3に示すように、EGRバルブ開度は、スロットル開度の減少に伴って減少するように制御される(正確には、開度制御信号が供給される)から、EGR装置229が正常に動作している場合、スロットル開度が中間開度である場合には、相応にEGRバルブ228も閉じられ、トルク変動は小のまま推移するはずである。従って、トルク変動が小である場合(ステップA13:NO)、EGR装置229は正常に作動していると診断される(ステップA17)。
一方、EGRバルブ開度は、スロットル開度が中間開度である場合には、同じく中間開度となるように制御されているから、ステップA13に係る処理では、EGRバルブ228を制御する開度制御信号は、中間開度に対応したものとなっている。従って、ステップA13においてトルク変動が大である場合(ステップA13:YES)、EGRバルブ228が正常に動作していない可能性がある。尚、ステップA12及びステップA13に規定される条件は、本発明に係る「第1診断条件」の一例であり、ステップA13に係る処理において、トルク変動が大である場合とは、即ち、第1診断条件が満たされる場合の一例となる。
ここで、トルク変動が大である場合、ECU100は、EGRバルブ228に対し、EGRバルブ開度が更に減少するように開度制御信号を供給する(ステップA14)。この場合、マップに基づいた通常のEGRバルブ開度制御から外れ、単にEGRバルブ開度が減少するように、EGRバルブ228に対し開度制御信号が供給される。即ち、本発明に係る第1処理の一例が実行される。尚、この際、開度制御信号によって促されるEGRバルブ目標開度は、現時点で供給されている開度制御信号によって促されるEGRバルブ開度よりも小さい限りにおいて何ら限定されないが、トルク変動の変化を監視する観点からは、全閉開度であるのが好適である。即ち、この場合、EGRバルブ開度を全閉開度に制御する旨の開度制御信号が供給されるのが好適である。
係る開度制御信号が供給されると、ECU100は、再びトルク変動値Trを算出し、トルク変動値Trがトルク変動閾値Trth以上であるか否かを判別することによって、トルク変動が大であるか否かを判別する(ステップA15)。尚、ステップA15に係る処理は、本発明に係る「第2処理」の一例である。また、本実施形態において、トルク変動閾値Trthは、本発明に係る「第2閾値」の一例としての役割も担っている。
トルク変動が大ではない場合(ステップA15:NO)、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御信号に応じてトルク変動が収束したことになるため、EGRバルブ228は正常に作動したものとみなされ、ステップA13において検出されたトルク変動は、EGR装置229に起因しない故障によるものであると診断される(ステップA18)。一方、トルク変動が大である場合(ステップA15:YES)、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御信号が供給されたにも拘らずトルク変動が収束しないことになるから、ECU100は、EGRバルブ228が開固着していると診断する(ステップA16)。尚、ステップA12においてスロットル開度が中間開度に制御された際にトルク変動が大となり、ステップA14においてEGRバルブ228を閉じ制御したにも拘らずトルク変動が大であることになるから、EGRバルブ228は、全開開度で固着している可能性が高い。従って、ステップA16では、EGRバルブが全開固着していると診断されてもよい。また、トルク変動が大ではあっても、ステップA13に係るトルク変動値Trと、ステップA15に係るトルク変動値Trとは必ずしも等しいとは限らないから、両者の相対比較に基づいて、EGRバルブ228が中間開度で固着している旨が診断されてもよい。この際、EGRバルブ228がどの程度開いた状態で固着しているのかが、予め係る相対比較の結果に基づいて更に特定されてもよい。
ここで、図5を参照し、故障診断処理実行過程における、トルク変動値の推移について説明する。ここに、図5は、スロットル開度、EGRバルブ目標開度及びトルク変動値Tr各々の時間特性の例示図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図5において、上段、中段及び下段に示される特性Y1、Y2及びY3が、夫々時刻に対するスロットル開度、EGRバルブ目標開度及びトルク変動値Trの特性に対応している。
特性Y1において、スロットル開度は、時刻T0から時刻T1までの期間においてWOTに制御され、時刻T1から時刻T2までの期間で中間開度Asまで減じられ、時刻T2以後は中間開度Asに維持される。
一方、特性Y2において、EGRバルブ開度目標値は、スロットル開度がWOTであることに伴い、時刻T0から時刻T1に至る期間では全開開度に設定される。また、時刻T1から時刻T2に至る期間では、スロットル開度が減少制御されるのに応じて、EGRバルブ目標開度も減少し、時刻T2において、EGRバルブ目標開度は、中間開度Ae1に設定される。
他方、特性Y3において、時刻T1から時刻T2に至る期間でトルク変動値Trが上昇し、トルク変動閾値Trth未満である、即ちトルク変動が小であるトルク変動値Tr1から、トルク変動閾値Trth以上である、即ちトルク変動が大であるトルク変動値Tr2へ変化したとする。この場合、図4におけるステップA13に係る処理において、トルク変動が大であると判別されることになる。尚、時刻T0から時刻T1までの期間で既にトルク変動値Trがトルク変動閾値Trth以上となっている場合には、エンジン200には、EGR装置229に起因しない故障が発生していると診断される。また、時刻T2に至る期間、更にはその後も、トルク変動値TrがTr1のままである場合或いはトルク変動値Tr1付近で推移する場合(図示、一点鎖線参照)、EGR装置229は正常に作動していると診断される。
ここで、特性Y2を参照すると、図4のステップA14に係る処理として、時刻T3においてEGRバルブ目標開度が本来のスロットル開度に応じた制御から外れ、更にEGRバルブ開度を減少させるべく、時刻T4において、中間開度Ae2(Ae2<Ae1)に設定され、開度制御信号としてEGRバルブ228に供給される。
特性Y3に戻り、係る開度制御信号の供給が行われたにも拘らず、トルク変動値Trがトルク変動値Tr2付近で変わらず推移する場合(図示実線参照)、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御信号に対してトルク変動値Trが減少しないことになり、図4におけるステップA16に係る処理によって、EGRバルブ228が開(全開)固着していると診断される。また、EGRバルブ開度を減少させる旨の開度制御指示信号に伴ってトルク変動値Trが減少し、例えば、時刻T4においてトルク変動値Tr1まで減少した場合(図示太点線参照)、図4におけるステップA18に係る処理によって、エンジン200にはEGR装置229に起因しないその他の故障が発生していると診断される。
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッドシステム10によれば、ECU100が故障診断処理を実行することによって、EGR装置229の故障、端的にはEGRバルブ228の開故障を正確且つ効率的に診断することが可能である。
尚、本実施形態では、運転者によるアクセルペダル226の操作などによって指定されるエンジン200の運転条件に適合する形で故障診断処理が実行されているが、例えば、アイドリング時など走行を伴わない期間において、ECU100がスロットルバルブ214の開度をWOTに強制制御し(即ち、本発明に係る「第3処理」の一例)、トルク変動が小である場合に更にスロットル開度を中間開度に強制制御(即ち、本発明に係る「第4処理」の一例)することによって、即ち、ECU100が本発明に係る診断準備処理の一例を実行することによって、図4におけるステップA12に係る判別条件が強制的に満たされてもよい。この場合、故障診断処理に要する時間を短縮することが可能となり、また所望のタイミングで効果的に故障診断を実行することが可能となるので好適である。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う排気ガス循環装置の故障診断装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…ハイブリッドシステム、100…ECU、200…エンジン、214…スロットルバルブ、215…スロットルポジションセンサ、228…EGRバルブ、229…EGR装置。