JP4372237B2 - 磁気記録媒体用基板の研磨方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体用基板や半導体ウェハ、光学レンズ、プリズム、ミラー等の被加工物の研磨方法に関し、更に詳しくは同一の研磨装置で連続的に多段の研磨を高速で且つ低表面粗さが達成されるように行い得る被加工物の研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
ガラス素材、カーボン基板及びセラミックス素材等のような脆性材料の表面研磨は、一般にサブミクロンから数10ミクロンサイズのダイヤモンドやアルミナ、SiCなどの研磨砥粒を水中に分散させた研磨液を用いて行われている(特開昭54−89389号公報、特開平1−205973号公報等)。
【0003】
しかし従来の研磨液では、研磨砥粒の分散の程度や研磨粉(研磨により発生した研磨屑)の分散除去・再付着防止が不十分であるため、被加工物の表面にピットやスクラッチ等の欠陥が生じたり、また、研磨速度が上げられず、低コスト化に限界があった。
【0004】
特に、被加工物が脆性材料からなる場合には、研磨後の加工表面には研磨砥粒による加工ダメージ層(即ち、一般に研磨砥粒の平均粒径サイズの微細なマイクロクラック等が存在する層)が残存する。この加工ダメージ層を除去するため、一般には研磨工程を3〜5工程の多段階のステップに分けて、研磨砥粒を順次細かいものに変更しながら、上記加工ダメージ層を薄くしていく作業が行われている。しかしながら、多段階の研磨工程を同一の研磨装置で行おうとして、粒径の異なる砥粒を同一装置内にシリーズ的に供給すると、大きいサイズの砥粒が残存してスクラッチ傷が発生し満足のゆく面質が得られなかった。小さな砥粒を一貫して用いればこのような問題は起こらないが、時間がかかり過ぎて実用的でなかった。そのため各段階の研磨工程は別個の研磨装置を用いて行わざるを得ず、加工ダメージ層の除去は、その工程が長いためコストアップの主要因となっている。
【0005】
従って、本発明の目的は、多段の研磨工程を、同一の研磨機を用いて、高速で且つ低表面粗さとなるように行い得る被加工物の研磨方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、特にガラス素材、カーボン基板及びセラミックス素材等のような脆性材料の研磨に適した被加工物の研磨方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討した結果、多段の研磨工程を有する被加工物の研磨方法において、各研磨工程において用いられる研磨液に含有される研磨助剤としてそれぞれ特定の化合物を用いることにより、各研磨工程を同一の研磨装置にて行い得ることを知見した。
【0007】
本発明は上記知見に基づきなされたもので、磨砥粒と研磨助剤と水とを含む研磨液を供給しながら磁気記録媒体用基板を研磨する方法において、
上記研磨助剤として研磨速度を向上させ得る研磨助剤(A−1)を含有する第一の研磨液を供給しながら第一の研磨工程を行い、次いで該第一の研磨液の供給を止めた後に、該第一の研磨工程と同一の研磨装置において、上記研磨助剤として磁気記録媒体用基板の表面粗さを低くし且つ研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させ得る研磨助剤(A−2)を含有する第二の研磨液を供給しながら第二の研磨工程を行い、
上記研磨助剤(A−1)が単量体型の酸化合物の金属塩からなり、上記研磨助剤(A−2)が、後述する化合物(c)及び(d)からなる群より選択される一種又は二種であることを特徴とする磁気記録媒体用基板の研磨方法を提供することにより上記目的を達成したものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の被加工物の研磨方法の好ましい実施形態を磁気記録媒体用基板として用いられるカーボン基板のポリッシング(仕上げ研磨)工程を例にとり図面を参照して説明する。ここで、図1は本発明の被加工物の研磨方法の第一の実施形態に好ましく用いられる両面加工機を示す要部概略正面図であり、図2は、図1におけるX−X線矢視図である。
【0009】
図1に示す両面加工機1は、下定盤2と、該下定盤2の上方に配設される上定盤3と、該上定盤3に接して該上定盤3を支持する定盤支持部4とを具備して構成されている。
【0010】
図1に示すように、上定盤3は、エアシリンダ11の出力ロッド11aの先端部にブラケット12を介して回転可能に取り付けられている。該上定盤3は該エアシリンダ11により昇降可能になされていると共に、下降時にはベース5側で図2に示す矢印D方向に回転するロータ13の溝に係合して同方向に回転するようになされている。また、上記上定盤3の下面には、研磨パッドが配設されている。また、該上定盤3は、上記定盤支持体4にボルト(図示せず)によって緊結固定されており、該定盤支持体4と共に回転自在に設けられている。
【0011】
図2に示すように、下定盤2は、上記ベース5上に矢印A方向に回転自在に設けられていて、その上面には、上記上定盤3に配設されている研磨パッドと同種の研磨パッド6が配設されている。また、該下定盤2には、中央の矢印B方向に回転する太陽歯車7と外周側の矢印C方向に回転する内歯歯車8とに噛み合って、公転しつつ自転する遊星歯車状のキャリア9が4機配設されていている。そして、各キャリア9に設けられた8個の穴内にそれぞれ被加工物であるカーボン基板10がセットされるようになっている。
【0012】
本実施形態において用いられるカーボン基板は、ディスク状であり、カーボン材料の一つであるガラス状カーボンからなっている。また、該カーボン基板は、本ポリッシング工程に付される前にラッピング(粗研磨)工程に付されており、その中心線平均粗さRaが約0.01〜0.1μmとなされている。
【0013】
上記上定盤3と上記下定盤2との間には、スラリー供給パイプ(図示せず)により研磨液が所定の量で供給されるようになっている。
そして、上記エアシリンダ11によって上記上定盤3を下降させることにより、上記キャリア9と一体に動く上記カーボン基板10は、上記下定盤2と上記上定盤3とに挟まれてポリッシングが行われる。
【0014】
而して、本発明においては、図1及び図2に示す両面加工機1を用いて二段階の研磨工程にてカーボン基板をポリッシングする。
【0015】
第一の研磨工程においては、上記両面加工機の上下定盤間に第一の研磨液を供給しながらカーボン基板の研磨を行う。第一の研磨工程の条件と第二のそれとは同じであってもよく或いは異なっていてもよい。本研磨工程は、カーボン基板の表面を所定の研磨取り代まで研磨する工程である。この目的のために、上記第一の研磨液は、研磨砥粒と研磨助剤と水とを含み、該研磨助剤として研磨速度を向上させ得る研磨助剤(A−1)が含有されている。この第一の研磨液の詳細については後述する。
【0016】
第一の研磨工程における研磨の条件は、一般的には下記の通りである。
即ち、加工圧力は、好ましくは10〜2000gf/cm2 であり、更に好ましくは50〜500gf/cm2 である。
加工時間は、好ましくは2〜120分であり、更に好ましくは2〜30分である。
上記両面加工機の上下定盤にそれぞれ装着される上記研磨パッドのショアー硬度〔JIS A(JIS K−6301)に準拠〕は、被加工物の材質により適宜選択され、カーボン基板の場合には好ましくは88〜98であり、更に好ましくは88〜95である。該研磨パッドとして、例えば発泡ポリウレタン等の樹脂からなる研磨パッドや、ポリエステル不織布とポリウレタンとの複合体からなる研磨パッドが有効に用いられる。
上記両面加工機の下定盤回転数は加工機サイズに依存するが、例えばSPEED FAM社製 9B型両面加工機であれば、好ましくは5〜100rpmであり、更に好ましくは10〜60rpmである。
第一の研磨液の供給流量は、加工機サイズに依存するが、例えばSPEEDFAM社製9B型両面加工機であれば、好ましくは5〜300cc/minであり、更に好ましくは10〜150cc/minである。
【0017】
上記の条件で第一の研磨工程を行った後、第一の研磨液の供給を止めて第一の研磨工程を完了させる。次いで、カーボン基板を上記両面加工機のキャリア内に装着させたままで、第二の研磨液を該両面加工機の上下定盤間に供給し、第二の研磨工程を開始する。本研磨工程は、第一の研磨工程によって研磨されたカーボン基板の表面に生じた加工ダメージ層を除去し、カーボン基板の表面品質を向上させる工程である。この目的のために、上記第二の研磨液は研磨砥粒と研磨助剤と水とを含み、該研磨助剤として被加工物の表面粗さを低くし且つ研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させ得る研磨助剤(A−2)が含有されている。この第二の研磨液の詳細については後述する。
【0018】
尚、第一の研磨工程の完了後、第二の研磨工程を行うに際しては、被加工物であるカーボン基板を移しかえたり或いは洗浄したりする手間が必要でなく、同じ粒径の研磨砥粒でカーボン基板を高速で且つ低表面粗さに研磨することができるので、製造コスト等の点から有利である。
【0019】
第二の研磨工程における研磨の条件は、第一の研磨工程における研磨の条件の中から適宜選択される。従って、第二の研磨工程における研磨の条件については特に説明しないが、第一の研磨工程における研磨の条件に関して詳述した説明が適宜適用される。
【0020】
上述の第一の研磨工程及び第二の研磨工程を行うことにより、カーボン基板のポリッシングが完了し、その中心線平均粗さRaは約3〜20Åとなる。
【0021】
尚、第二の研磨工程は、分割して多段階の工程となしてもよい。例えば、研磨助剤の濃度を徐々に落としながら多段階に分けて第二の研磨工程を行ってもよい。最終仕上研磨として、研磨砥粒の配合量をゼロとし研磨助剤および水のみを供給しながら研磨を行い表面粗さを改良する方法も有効に用いることができる。
【0022】
次に、本実施形態の方法に用いられる第一の研磨液について説明する。
第一の研磨液は、上述の通り、研磨砥粒と研磨助剤と水とを含み、該研磨助剤として研磨速度を向上させ得る研磨助剤(A−1)が含有されている。
【0023】
上記研磨助剤(A−1)としては、研磨速度を向上させ得る機能を有するものであればその種類に特に制限はない。
上記研磨助剤(A−1)として特に好ましく用いられるものは、単量体型の酸化合物の金属塩(以下、この単量体型の酸化合物の金属塩を「単量体型助剤」という)又は過酸化水素などの酸化剤等である。
【0024】
上記単量体型の酸化合物の金属塩(単量体型助剤)とは、重合性を有さない(即ち、単量体)酸化合物の金属塩を意味する。但し、無機酸、脂肪族系および芳香族系の有機酸、アルキルサルフェート並びにエーテルサルフェートは除かれる。
該酸化合物としては何等かの酸化作用を有するものであれば特段制限されるものではない。該酸化合物の具体例としては、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ピロリン酸、炭酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸および安息香酸、並びにこれらを官能基として有する有機酸等が挙げられる。
また、該酸化合物の金属塩の金属としては、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル及び鉄などが挙げられ、好ましくはアルミニウム及びマグネシウムが用いられる。
上記単量体型助剤は、一種又は二種以上を組み合わせて配合することが出来る。
特に、上記単量体型助剤として、硝酸の金属塩、硫酸の金属塩、シュウ酸の金属塩及び乳酸の金属塩、安息香酸の金属塩からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましく、とりわけ硝酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、又は安息香酸ニッケル等を用いると研磨速度の向上効果が一層高くなるので好ましい。
【0025】
上記研磨助剤(A−1)は第一の研磨液中に、好ましくは0.01〜20重量%配合され、更に好ましくは0.05〜10重量%配合され、一層好ましくは0.1〜5重量%配合される。該研磨助剤(A−1)の配合量が上記範囲内であれば研磨速度の向上が十分であり、20重量%を超えて用いても研磨速度は飽和し、排水処理の負担が増加してコストも高くなってしまう。
【0026】
上記研磨砥粒としては研磨用として一般に使用されている砥粒を使用することができる。該研磨砥粒の具体例としては、アルミナ系粒子、SiC粒子、ダイヤモンド粒子、ZrO2 粒子、MgO粒子及びコロイダルシリカ粒子等が挙げられる。これらの研磨砥粒のうち、アルミナ系粒子又はSiC粒子を使用すると研磨速度が一層速くなるので好ましく、特に、アルミナ系粒子として中間アルミナ粒子を使用すると被加工物の表面粗さを極めて低くできるので好ましい。尚、本明細書において、中間アルミナ粒子とは、α−アルミナ粒子以外のアルミナ粒子の総称であり、具体的にはγ−アルミナ粒子、δ−アルミナ粒子、θ−アルミナ粒子、η−アルミナ粒子、及び無定型アルミナ粒子等が挙げられる。
【0027】
上記研磨砥粒は、第一の研磨液中において水を媒体としたいわゆるスラリー状の状態で使用される。第一の研磨液における該研磨砥粒の配合量は、研磨液の粘度や被加工物の要求品質などに応じて種々選択することが出来るが、一般的な範囲としての配合量は好ましくは0.01〜30重量%であり、更に好ましくは0.02〜10重量%である。該研磨砥粒の配合量が上記範囲内であれば、生産効率良く低表面粗さが達成される。
【0028】
上記研磨砥粒の一次粒子の平均粒径は0.002〜100μmであることが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.002μmに満たないと研磨速度が著しく低下することがあり、100μmを超えると被加工物を研磨した際、特にガラス、カーボン及びセラミックスのような高硬度・脆性材料からなる被加工物を研磨した際にクラックが入りやすく、深い加工ダメージ層が残り後工程の負担が増す場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。上記研磨砥粒の一次粒子の平均粒径は0.005〜40μmであることが更に好ましく、0.01〜5μmであることが一層好ましい。
尚、上記研磨砥粒の一次粒子の平均粒径は、該研磨砥粒0.1gに所定の分散剤(例えば、ポリスチレンスルホン酸ソーダ等)を加え、次いで超音波を印加して該研磨砥粒を分散させ、更に乾燥させて得られたものをSEM観察して画像解析により求めたものである。また、該平均粒径が2μm以上のものなら、コールターカウンター〔型式MULTISIZER−II、(株)コールター社製〕で測定しても良い。
【0029】
上記研磨砥粒は、そのヌープ硬度(JIS Z−2251)が700〜9000であることが好ましい。ヌープ硬度が700に満たないと十分な研磨速度を得ることができず生産性が低下することがあり、9000を超えると被加工物の表面に発生する加工ダメージ層の厚さが大きくなり表面品質が低下することがあるので上記範囲内とすることが好ましい。上記ヌープ硬度は、1500〜5000であることが更に好ましく、1500〜3000であることが一層好ましい。
【0030】
また、上記研磨砥粒は、分散性および研磨装置への供給性が回収再利用性の点から、その比重が2〜6であることが好ましく、2〜4であることが更に好ましい。
【0031】
特に好ましく用いられる研磨砥粒は、ヌープ硬度1500〜3000である純度99.9wt%以上のα−Al2 O3 粒子又はγ−Al2 O3 粒子である。斯かる研磨砥粒は、高純度アルミニウム塩を用いた結晶成長法(ベルヌーイ法など)により製造することができるもので、一般に利用される粉砕法により製造されるアルミナとは形状、純度の点で大きく異なる。斯かる研磨砥粒を用いると、理由は必ずしも明確ではないが、上記研磨助剤との添加相乗効果が顕著となるので好ましい。
【0032】
本発明の研磨材組成物に配合される水は、媒体として用いられるものであり、その配合量は好ましくは70〜99.8重量%であり、更に好ましくは90〜99.4重量%である。水の配合量が上記範囲内であれば被加工物を生産効率良く研磨することができる。
【0033】
第一の研磨液においては、上述の必須成分に加えて必要に応じて他の成分を添加剤として配合することができる。該添加剤としては、例えば、各種界面活性剤、アルカリ性物質、各種増粘剤、各種分散剤、各種防錆剤、キレート剤、有機溶媒等が挙げられる。これらの添加剤は、第一の研磨液中に好ましくはそれぞれ0.01〜5重量%配合される。
【0034】
第一の研磨液は、シリコンからなる被加工物を除く被加工物を研磨する場合、そのpHが1〜6であることが好ましい。pHが斯かる範囲内であると被加工物の表面が酸化され易くなるので研磨速度が向上し、表面品質も良好となり、生産性と品質のバランスが良くなる。第一の研磨液のpHは2〜6であることが更に好ましく、3〜5であることが一層好ましい。第一の研磨液のpHを上記範囲内にするためには、例えば、上記研磨助剤(A−1)を所定量配合すればよい。
一方、被加工物としてシリコンからなる被加工物が用いられる場合には、第一の研磨液のpHはアルカリサイドであることが好ましく、例えば8〜13、特に9〜11のpHが好ましく用いられる。この場合、第一の研磨液のpHは水酸化カリウムやアンモニア水等の添加で調整される。
【0035】
次に、第二の研磨液について説明する。尚、第二の研磨液については、第一の研磨液と異なる部分についてのみ説明し、同じ部分については特に説明しないが第一の研磨液に関して詳述した説明が適宜適用される。
【0036】
第二の研磨液は、上述の通り、研磨砥粒と研磨助剤と水とを含み、該研磨助剤として被加工物の表面粗さを低くし且つ研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させ得る研磨助剤(A−2)が含有されている。
【0037】
上記研磨助剤(A−2)は、被加工物の表面粗さや端面のたれ(ロールオフ)を低くし且つ研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させ得る機能を有するものであればその種類に特に制限はない。
【0038】
上記研磨助剤(A−2)は第二の研磨液中に、好ましくは0.01〜10重量%配合され、更に好ましくは0.05〜5重量%配合され、一層好ましくは0.1〜3重量%配合される。該研磨助剤(A−2)の配合量が上記範囲内であれば低表面粗さの達成に十分であり、10重量%を超えて用いても面質の改良効果が飽和し、排水処理の負担増となってしまう。
【0039】
上記研磨助剤(A−2)として用いられるものは、下記化合物(c)及び(d)からなる群より選択される一種又は二種である。なお下記化合物(a)、(b)、(e)〜(h)は化合物(c)及び(d)に対して付加的に用いられる。
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
【化9】
【0044】
【化10】
【0045】
(f)重量平均分子量が500〜100万で且つ三核体以上の縮合環を有する水溶性又は水分散性の有機化合物。
【0046】
(g)重量平均分子量1000〜100万で且つ分子量500単位当たりにフェニルプロパン骨格を平均1個以上有する水溶性又は水分散性のリグニン又はその誘導体。
【0047】
(h)重量平均分子量300〜2000で且つ水溶性又は水分散性の石油スルホネート化合物又はその誘導体。
【0048】
以下、上記化合物(a)〜(h)についてそれぞれ説明する。
【0049】
化合物(a)
化合物(a)は、上記式(A)で表されるものであり、一般にアニオン界面活性剤として知られている水溶性のものが用いられる。上記式(A)で表される化合物(a)は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
上記式(A)においてRの炭素数は、8〜14であることが好ましく、10〜14であることが更に好ましい。Rは酸化安定性、機械摩耗による耐分解性の点からアルキル基であることが特に好ましい。また、上記式(A)において、nは0〜10であることが好ましい。上記式(A)におけるMの例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0051】
上記式(A)で表される化合物(a)の具体例としては、特に制限されるものではないが、トデシル硫酸塩、ミリスチル硫酸塩、ペンタデシル硫酸塩、パルミチル硫酸塩、ヘプタデシル硫酸塩、ステアリル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、トリデシル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が1〜3個)、ポリオキシエチレントリデシルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が1〜3個)、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりのオキシプロピレン基が1〜3個)、ポリオキシエチレンペンタデシルエーテル硫酸塩(1分子中のオキシエチレン基が1〜3個)、ポリオキシエチレンカプリルフェニルエーテル硫酸塩(1分子中のオキシエチレン基が1〜3個)等が挙げられ、これらのうち特にラウリル硫酸塩、トリデシル硫酸塩、ミリスチル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンカプリルフェニルエーテル硫酸塩等を用いることが好ましい。上記式(A)で表される化合物(a)として、エマール0、エマール10パウダー、エマール10ニードル、エマール2Fペースト、エマール2Fニードル、エマール40ペースト、エマール40パウダー、エマール71、エマールAD−25R、エマール20C、エマール20CM、エマール20T、エマールNC−35及びエマールE−27C、エマールE70C〔以上、商品名、花王(株)製〕等の市販品を用いることもできる。
【0052】
化合物(b)
化合物(b)は、上記式(B)で表される骨格単位を主とする重量平均分子量500〜100万の重合体化合物である。該重合体化合物は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。上記重合体化合物は、その分子中において、上記式(B)で表される骨格単位を主とすることが必須である。本明細書において、「主とする」とは、上記重合体化合物の分子中に、上記式(B)で表される骨格単位が、他の分子式で表される骨格単位よりもモル比で多く存在することを意味する。他の分子式で表される骨格単位としては、上記重合体化合物を合成する過程において、不可避的に不純成分として分子内に残ってしまった部位等が挙げられる。上記重合体化合物は、例えば、上記式(B)で表される骨格単位の繰り返し構造のみで表される化合物であることが、研磨速度の向上効果が大きいので好ましい。この場合、該重合体化合物の分子末端は水素で封鎖されていることが好ましい。
【0053】
上記重合体化合物の重量平均分子量は500〜100万である。該分子量が500未満であると被加工物から発生する研磨屑を研磨液中へ分散させる性能が不十分であり、100万を超えると研磨液中で上記重合体化合物の凝縮が起こるため、上記研磨屑を研磨液中へ分散させる性能が不十分となる。上記分子量は、研磨層分散性の効果の点から1000〜10万であることが好ましく、2000〜5万であることが更に好ましい。
【0054】
上記式(B)中、Mは同一の又は異なるH、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は有機性カチオン性分子を表す。上記アルカリ金属としては、ナトリウム及びカリウムが好ましい。また、上記アルカリ土類金属としては、マグネシウム及びカルシウムが好ましい。また、上記有機性カチオン性分子としては、アミン類、例えばエチレンジアミン及びジエチレンテトラミン等が好ましい。
【0055】
また、上記式(B)中、mは2以上の整数を表し、上記重合体化合物の重量平均分子量が500〜100万の範囲となる様に選択すれば良い。更にnは、0より大きく2以下の数であり、1であることが好ましい。上記重合体化合物全体としては、nは、その平均値が0.5以上1.5以下であることが好ましい。また、上記式(B)中、SO3 M基はナフチレン基のうちの何れの位置に結合していてもよいが、好ましくは6位又は7位に結合していることが好ましく、特に6位に結合していることが好ましい。
【0056】
上記重合体化合物は、公知の方法、例えばナフタレンモノマーに濃硫酸等のスルホン化剤を用いてスルホン基を導入し、次いで縮合用の水とホルマリン水とを加えて縮合させ、更にCa(OH)2 やNa2 SO4 等の無機塩で中和することにより合成できる。上記重合体型促進剤として、デモールNやマイティ150(何れも花王株式会社製)等の市販品を用いることもできる。
【0057】
化合物(c)
化合物(c)は上述の通りの有機高分子であり、極性基を有していることが、研磨屑及び研磨砥粒の分散性が良くなり、また、金属定盤の防錆性の点から好ましい。該極性基の数は、分子量500単位当たりに平均0.1〜5個であることが好ましく、1〜3個であることが更に好ましい。上記極性基としては、極性を有するものであれば特に制限は無いが、好ましくはスルホン基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン基、亜ホスフィン基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、又はニトロ基が用いられ、特に好ましくはスルホン基、カルボキシル基が用いられる。これらの極性基は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
上記有機高分子が、その主鎖中に重合性のビニル系単量体(即ちC=C結合を有する重合性の単量体)から誘導される2価の基を有する場合、該有機高分子は該ビニル系単量体のホモポリマーでもよく或いはコポリマーでもよい。この種の有機高分子として好ましく用いられるものはヒドロキシスチレン系重合体又はその誘導体(以下、「ヒドロキシスチレン系重合体類」という)である。該ヒドロキシスチレン系重合体類は、その重量平均分子量が1000〜100万であることが好ましく、1500〜5万であることが更に好ましく、2000〜2万であることが一層好ましい。該重量平均分子量が1000に満たないと研磨屑や研磨砥粒の分散性が低下して、研磨速度の低下を招き、100万を超えると水溶性に乏しくなり、研磨助剤としての機能が著しく低下するので上記範囲内とすることが好ましい。
【0059】
特に、上記ヒドロキシスチレン系重合体類は下記式(C)で表されることが好ましい。
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
上記式(C)において、m,n,k,pはそれぞれ整数とは規定せず、ある一定の範囲の任意の数(実数)である。重合体を構成する単量体について考えるならば、k、pは当然整数であり、構成単位のブロックごとに考えるならば、mは整数であり、そして分子ごとに考えるならば、nは整数である。しかしながら重合体はその本質において、混合物であり、そして重合体の性質はその混合物の性質としてとらえる方が、その個々の構成単位を問題にするよりも正しい。従って、本発明において、上記式(C)は平均組成として表示してある。
【0062】
上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類は、該式(C)においてY又はZで表されるような置換基を有するか又は有しないところの、ヒドロキシスチレン、イソプロペニルフェノール(ヒドロキシ−α−メチルスチレン)、若しくはヒドロキシ−α−エチルスチレン等のヒドロキシスチレン系単量体の単独重合体;該ヒドロキシスチレン系単量体同士の共重合体;又は該ヒドロキシスチレン系単量体と他の重合性のビニル系単量体(X)との共重合体であり得る。上記ヒドロキシスチレン系重合体類中の重合単位であるヒドロキシスチレンやイソプロペニルフェノールはオルト体、メタ体若しくはパラ体又はこれらの混合物であってもよいが、特にパラ体又はメタ体であることが好ましい。
【0063】
上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類が共重合体である場合、他の重合性のビニル系単量体(X)の例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メチルメタクリレート、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、イタコン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルギンエチルフォスフェート、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アクリロニトリル、マレイミド、ビニルピリジン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フマル酸エステルあるいは各種有機酸のビニルエステルなどが挙げられる。この場合、上記ヒドロキシスチレン系単量体と、他の重合性のビニル系単量体(X)との割合(前者/後者)は、モル比で1/10〜20/1であることが適当である。
【0064】
上記ヒドロキシスチレン系単量体における置換基(C1)及び(C2)においては、Mで表されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属としてLi,Na,K,Mg,Ca,Sr,Ba等を用いることが適当である。上記ヒドロキシスチレン系単量体にスルホン基を導入するには、発煙硫酸又は無水硫酸等をスルホン化剤として用いる通常のスルホン化法を用いることができる。
【0065】
上記ヒドロキシスチレン系単量体における置換基(C5)及び(C6)においては、R4 、R5 及びR6 は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜36の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基;ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、ホスホアルキル基、メルカプトアルキル基等のアルキル誘導体基;又は炭素数1〜16の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換されたベンジル基等の芳香族基から選択されることが好ましく、上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類が水溶性でなくなるまでの鎖長の炭素鎖を有するものである。またR4 とR5 とは環を形成していてもよい。特に好ましくは、R4 及びR6 は、同一又は異なっていてもよく、直鎖若しくは分岐鎖アルキル基;ヒドロキシアルキル基;又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換された芳香族基である。
【0066】
上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類の水溶性を向上させるためには、置換基(C5)のアミン部分を有機酸又は無機酸で中和することが好ましい。該有機酸又は無機酸としては、例えば酢酸、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、フェニルホスホン酸、クロルメチルホスホン酸、モノ、ジ及びトリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、塩酸、ホウ酸、硝酸、沸化水素酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸が挙げられる。これらの酸は単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
尚、置換基(C5)の導入は、例えばジアルキルアミンとホルムアルデヒドとを用いるマンニッヒ反応により容易に行うことができる。置換基(C6)の導入は、例えば置換基(C5)の第3級アミノ化物とハロゲン化アルキルとのメンシュトキン反応により容易に行うことができる。
【0068】
上記ヒドロキシスチレン系単量体における置換基(C7)及び(C8)においては、R7 〜R10は同一又は異なっていてもよく、H;炭素数1〜36の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基;ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基、ホスホアルキル基等のアルキル誘導体基;又は炭素数1〜16の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換されたフェニル基等の芳香族基から選択されることが好ましく、上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類が水溶性又は水分散性でなくなるまでの鎖長の炭素鎖を有するものである。特に好ましくは、R7 〜R13は同一又は異なっていてもよく、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基;ヒドロキシアルキル基;又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基で置換された芳香族基である。化合物(C)に関して、「水溶性」及び「水分散性」とは、本発明の方法を実施する温度において上記ヒドロキシスチレン系重合体類が水中に溶解又は分散する状態をいい、具体的には0.01重量%以上溶解することが好ましい。
【0069】
尚、置換基(C7)は、例えば特開昭53−71190号公報に開示されているように、ヒドロキシスチレン系重合体をメチロール化した後にリン酸又はリン酸エステル基導入体と反応させることによって得られる。置換基(C8)は、例えば特開昭53−47489号公報に開示されているように、ヒドロキシスチレン系重合体をまずハロゲン化またはハロメチル化し、それに3価のリン化合物を反応(アルブゾフ反応)させ、ついでそれを熱転位させることによって得られる。
【0070】
上記ヒドロキシスチレン系単量体における置換基(C9)は、例えば特開昭61−34444号公報に開示されているように、ハロゲン化水素とホルムアルデヒドとを作用させてハロゲノメチル化(例えば−CH2 Cl化)を行い、次いで3価の亜リン酸エステル類を作用すれば容易に得られる。
【0071】
上記式(C)で表されるヒドロキシスチレン系重合体類の調製方法は、得られる重合体(有機高分子)の加工用助剤としての機能を損なわない限り特に制限されず、例えば特公平3−19319号公報や特公平3−51799号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0072】
上記有機高分子が、その主鎖中に−Ar−CH2 −(Arは官能基で置換されていてもよいヒドロキシフェニレン基を表す)で表される基を含む場合、該有機高分子は、−Ar−CH2 −で表される基を繰り返し単位とし、該繰り返し単位のみから構成されている高分子でもよく、或いは−Ar−CH2 −で表される基を含む基を繰り返し単位とし、該繰り返し単位から構成されている高分子でもよい。上記有機高分子の重量平均分子量は、上記ヒドロキシスチレン系重合体類の場合と同様の理由により、1000〜100万であることが好ましく、1500〜10万であることが更に好ましく、2000〜5万であることが一層好ましい。−Ar−CH2 −で表される基において、Arで表されるフェニレン基はヒドロキシフェニレン基であることが好ましい。また、Arで表されるフェニレン基における官能基としては、アルキル基、アルキルスルホン酸(塩)基の他、上述した種々の極性基が挙げられる。
【0073】
特に、主鎖中に−Ar−CH2 −で表される基を含む上記有機高分子として、下記式(C20)〜(C22)の何れかで表される高分子を用いることが好ましい。
【0074】
【化13】
【0075】
上記式(C21)中、Ar’で表される2価の芳香族基としては、フェニレン基(例えば1,3−フェニレン基)及びナフチレン基(例えば1,4−フェニレン基)が挙げられる。上記式(C22)中、Ar”で表される1価の芳香族基としては、フェニル基等が挙げられる。Ar’で表される2価の芳香族基及びAr”で表される1価の芳香族基における官能基としては、上記式(C20)におけるArで表されるヒドロキシフェニレン基の官能基と同様のものが挙げられる。
【0076】
主鎖中に−Ar−CH2 −で表される基を含む有機高分子の具体例としては、m−クレゾールメチルスルホン酸のホルマリン縮合物のNa塩、m−クレゾールベークライトメチルスルホン酸−シェファー酸のホルマリン縮合物のNa塩等が挙げられる。
【0077】
上記式(C20)〜(C22)で表される有機高分子の調製方法は、得られる共重合体の加工用助剤としての機能を損なわない限り特に制限されず、例えばホルマリン縮合反応、カチオン重合、ラジカル重合、熱重合、或いは有機酸による重合反応により合成することができる。
【0078】
化合物(d)
化合物(d)は、上述の通りの共重合体である。
上記式(D1)において、R1 及びR2 は、上述の通り水素原子又はメチル基を示し、同一でも異なってもよい。特に、R1 及びR2 が両方とも水素原子であるか又はR1 が水素原子でR2 がメチル基であることが好ましい。m1 は、0〜2の整数を示し、好ましくは0又は1である。AOは、炭素数2〜3のオキシアルキレン基(即ち、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基)を示し、好ましくはオキシエチレン基である。nは2〜300の整数を示し、好ましくは2〜150の整数である。Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0079】
上記式(D1)で表される化合物として好ましいものの具体例としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、プロポキシポリエチレングリコール、プロポキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールとアクリル酸、メタクリル酸又は脂肪酸の脱水素(酸化)反応物とのエステル化物や、アクリル酸、メタクリル酸又は脂肪酸の脱水素(酸化)反応物へのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物が挙げられる。上記式(D1)で表される化合物において、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの双方を付加させる場合には、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれでも用いることができる。この場合、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの付加モル比(前者:後者)は、1/100〜100/1であることが好ましく、5/100〜100/5であることが更に好ましい。
【0080】
上記式(D2)で表される化合物として好ましいものの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸及びクロトン酸並びにこれらの金属塩や、不飽和ジカルボン酸系単量体である無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸及びフマル酸並びにこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が挙げられる。
【0081】
上記式(D3)で表される化合物として好ましいものの具体例としては、アリルスルホン酸及びメタリルスルホン酸並びにこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が挙げられる。
【0082】
上記共重合体においては、上記単量体(d1)及び(d2)のモル比〔単量体(d1)/単量体(d2)〕が0.1/100〜100/1であることが好ましく、10/100〜100/100であることが更に好ましく、10/100〜60/100であることが一層好ましい。該単量体(d1)及び(d2)のモル比をかかる範囲内とすることにより、研粒や研磨屑の分散性が良好となるので好ましい。上記単量体(d2)は、(D2)のみからなるか、(D3)のみからなるか又は(D2)と(D3)とが任意のモル比で混在する化合物である。上記式(D2)で表される化合物と、上記式(D3)で表される化合物とを組合わせて用いる場合モル比〔式(D2)/式(D3)〕は、90/10〜60/40であることが好ましい。特に、上記単量体(d2)として、上記式(D2)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0083】
上記共重合体においては、その加工用助剤としての機能を損なわない範囲内で他の共重合可能な単量体と更に共重合させてもよい。該単量体としては、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0084】
上記単量体(d1)及び(d2)の共重合様式は、ランダム共重合、ブロック共重合、交互共重合、グラフト共重合の共重合様式をとることができ、得られる共重合体の加工用助剤としての機能を損なわない限り特に制限されない。
【0085】
特に、上記共重合体の中でも、砥粒や研磨屑の分散性向上の点から、オキシアルキレン基を好ましくは2〜300モル、更に好ましくは2〜150モル導入したポリアルキレングリコールモノエステル系単量体(特に、アクリル酸又はメタクリル酸のポリアルキレングリコールエステル)とアクリル酸系又はメタクリル酸系単量体とを重合して得られる共重合体を用いることが望ましい。
【0086】
上記共重合体は、水溶性又は水分散性である。その結果、水に溶解又は分散された状態で用いられて、被加工物の研磨に効果的に作用する。尚、該共重合体を水溶性又は水分散性にするためには、例えば後述する該共重合体の調製条件等を適宜コントロールすればよい。
【0087】
上記共重合体は、その重量平均分子量が500〜100万である(GPCによるポリスチレンスルホン酸換算)。該重量平均分子量が500に満たないと分散安定性が不十分となってしまい、100万を超えると水溶性が低下してしまう。該重量平均分子量は、1000〜50万であることが好ましく、1000〜10万であることが更に好ましい。該重量平均分子量を上記範囲内にするためには、例えば後述する該共重合体の調製条件等を適宜コントロールすればよい。
【0088】
上記共重合体の調製方法は、得られる共重合体の加工用助剤としての機能を損なわない限り特に制限されることなく従来公知の調製方法が用いられる。調製方法の具体例としては、特開平7−223852号公報の第4欄42行〜第5欄11行に記載の方法等が挙げられる。
【0089】
化合物(e)
化合物(e)は、上記式(E)で表されるものであり、一般に両性界面活性剤として知られている水溶性のものが用いられる。上記式(E)で表される化合物(e)は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
上記式(E)においてR1 、R2 及びR3 は、直鎖又は分岐のアルキル基、アルキル誘導体基、アルケニル基、水素又はR5 −Ar−基を表し、このうち、アルキル基、アルキル誘導体基、アルケニル基は、研磨により発生した研磨屑の分散除去能や再付着防止能、上記両性界面活性剤自身の研磨材組成物中での溶解性・分散安定性の観点から、それぞれ炭素数1〜24が好ましく、8〜16がさらに好ましい。具体的に、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、t−ブチル基、イソオクチル基、イソドデシル基等が挙げられる。また、アルキル誘導体基の例としては、水酸基、アミノ基、メルカプト基、アミド基、ホスホ基等の官能基を有する上記のアルキル基が挙げられる。また、アルケニル基の例としては、プロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、オクテニル基等が挙げられる。
【0091】
上記R5 −Ar−基において、R5 で表されるアルキル基、アルケニル基、アルキル誘導体基の例としては、それぞれ上記R1 、R2 及びR3 が表すアルキル基、アルケニル基、アルキル誘導体基の例と同様である。また、Arで表される芳香族基の例としては、フェニレン基、トリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基等が挙げられる。
【0092】
特に、R1 、R2 及びR3 のうち何れか1つが炭素数5〜24、好ましくは8〜16の長鎖のアルキル基であり且つ他の2つが炭素数1〜5、好ましくは1〜3の短鎖のアルキル基であることが望ましい。
【0093】
R2 とR3 とから環が形成されている場合には、該環は、R2 及びR3 に含まれる原子のみから形成されたものでもよく、またR2 及びR3 に含まれる原子に他の原子を含めて形成されたものでもよい。このように形成された環の例としては、イミダゾリン環等が挙げられる。
【0094】
上記式(E)においてR4 で表されるアルキレン基の例としては、炭素数1〜24、好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜3のアルキレン基であり、具体的にはメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、セチレン基、エイコシレン基等が挙げられる。これらのアルキレン基は、水酸基等の官能基を有していても良い。
【0095】
上記式(E)におけるY- の例としては、リン酸、硫酸、硝酸、スルフォン酸等の無機酸に由来する無機陰イオン基、酢酸、クエン酸、ギ酸等の有機酸に由来する有機陰イオン基、塩素イオン基や臭素イオン基等のハロゲンイオン基が挙げられる。
【0096】
上記式(E)で表される化合物(e)の具体例としては、特に制限されるものではないが、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のカルボキシベタイン型、ラウリルジメチルアミンオキサイド、酢酸オクタデシルアミン等のアミノカルボン酸塩、2−ラウリル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリニウムベタイン等が挙げられ、これらのうち特にラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、酢酸オクタデシルアミン、ラウリルジメチルアミンオキサイドを用いることが好ましい。
また、上記一般式(3)で表される両性界面活性剤として、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20BS、アンヒトール20N、アンヒトール20Y、アンヒトール20Z及びMX−968〔以上、商品名、花王(株)製〕等の市販品を用いることもできる。
【0097】
化合物(f)
化合物(f)は、上述の通りの重量平均分子量を有する有機化合物である。この有機化合物の重量平均分子量が500に満たないと分散安定性が不足してしまい、100万を超えると水溶性又は水分散性が低下し、効果が不十分となってしまう。上記重量平均分子量は、1,000〜50万であることが好ましく、1,000〜10万であることが更に好ましい。上記重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)により測定された値である。
【0098】
上記有機化合物は、芳香族環が3個以上縮合した縮合環(即ち、三核体以上の縮合環)を有するものである。上記有機化合物が斯かる構造を有することにより分解安定性が増し、第二の研磨液の耐熱性及び耐圧性が向上するので、高加圧条件下での加工が可能となり、加工時間が短縮される。また、その分解安定性に起因して、後述するように厳しいpH条件下でも使用可能であるので、加工時間が一層短縮される。更に、防錆性も良好であるため、加工機の耐久性も向上する。
【0099】
上記有機化合物の具体例としては、アントラセンのスルホン酸ソーダ、フェナントロリンのスルホン酸ソーダ等の比較的低分子量の縮合環化合物や、ニトロフミン酸、フミン酸のスルホン酸ソーダ、タンニン酸、縮合タンニン酸のスルホン酸ソーダ、アントラセンのホルマリン縮合物のスルホン酸ソーダ、フェナントロリンのホルマリン縮合物のスルホン酸ソーダ等の高分子量の縮合環化合物が挙げられる。これらの有機化合物は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特にニトロフミン酸、アントラセンのホルマリン縮合物のスルホン酸ソーダを用いると、分解安定性、耐圧性が向上するので好ましい。
【0100】
また、上記有機化合物は、分子量500単位当たりに三核体以上の縮合環を1個以上(特に、1〜2個)含有することが分解安定性の点から好ましい。
【0101】
上記有機化合物は、水への溶解性、研磨材や加工屑への吸着性の点から極性基を含有していることが好ましい。特に、該極性基として、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、又はニトロ基を一種又は二種以上含有することが好ましく、とりわけスルホン酸基、カルボキシル基、第3級アミノ基を含有することが好ましい。上記有機化合物にこれらの極性基を導入するには、例えばスルホン酸基の導入には、スルホン化剤として発煙硫酸を用いるスルホン化方法、第3級アミノ基や第4級アンモニウム塩基の導入には、マンニッヒ反応を用いるアミノ化方法等の公知の方法を用いることができる。
【0102】
上記有機化合物は、これらの極性基を分子量500単位当たりに平均0.1〜4個含有することが好ましく、0.1〜3個含有することが更に好ましく、0.3〜2個含有することが一層好ましい。極性基の含有量が0.1個に満たないと水への溶解性が悪化したり、研磨材や加工屑への吸着性が低下して、研磨速度が著しく減少する場合があり、4個を超えると上記有機化合物の合成条件が過酷となり、工業生産上コストアップとなる場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0103】
化合物(g)
化合物(g)は上述の通りのリグニン又はその誘導体(以下、「リグニン類」という)である。該リグニン類としては、木材パルプ製造の際の副生物として一般に知られている、フェニルプロパンを骨格とする構成単位が縮合してできた三次元網状高分子化合物であって、水溶性又は水分散性のものが用いられる。尚、上記リグニン類が木材パルプ製造時の不純物を含有していても本発明の効果は損なわれるものではないが、該不純物の量は少なければ少ないほど好ましい。
【0104】
上記リグニン類は、上述の通り、フェニルプロパンを骨格とする構成単位が縮合してできた三次元網状高分子化合物の混合物である。該リグニン類は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、「リグニンの誘導体」とは、(イ)リグニンに種々の極性基を導入したもの(これについては後述する)、(ロ)Fe、Cr、Mn、Mg、Zn、Al等の重金属イオンをキレートさせたもの、(ハ)ナフタレンやフェノール等の有機化合物や有機高分子を付加させたもの、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加させたもの等を意味する。
【0105】
上記リグニン類を使用することにより、研磨材及び研磨屑の分散性が向上し、被研磨物(特にカーボン材料)への再付着が一層効果的に防止され、研磨速度が向上し且つ表面粗さが低くなる。また、該リグニン類は価格も低いため、低コスト化も可能となる。
【0106】
上記リグニン類は、その重量平均分子量が1000〜100万である。該重量平均分子量が1000に満たないと分散安定性が不足してしまい、100万を超えると水溶性又は水分散性が低下し、効果が不十分となってしまう。上記重量平均分子量は、2,000〜50万であることが好ましく、5,000〜5万であることが更に好ましい。本明細書において、「重量平均分子量が1000〜100万である」とは、重量平均分子量1000未満の低分子量成分及び重量平均分子量100万超の高分子量成分が除去されている場合、又は重量平均分子量1000未満の低分子量成分及び重量平均分子量100万超の高分子量成分が非常に少ないもので分子量分布のピークを1000〜100万の間にもち、少なくとも50%以上の成分がこの分子量領域に存在する場合をいう。上記重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)により測定された値である。
【0107】
上記リグニン類は、研磨材や研磨屑への吸着安定性、つまり研磨材や研磨屑の分散性の向上、研磨屑の再付着防止性の点から、分子量500単位当たりにフェニルプロパン骨格を平均1個以上有しており、好ましくは平均1〜4個有する。
【0108】
上記リグニンは、研磨材組成物への溶解性の点から極性基を含有していることが好ましい。特に、該極性基として、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、又はニトロ基を一種又は二種以上含有することが好ましく、とりわけスルホン酸基、カルボキシル基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基を含有することが好ましい。上記リグニンにこれらの極性基を導入するには、例えばスルホン酸基の導入には、スルホン化剤として発煙硫酸を用いるスルホン化方法、第3級アミノ基や第4級アンモニウム塩基の導入には、マンニッヒ反応を用いるアミノ化方法等の公知の方法を用いることができる。
【0109】
上記リグニンが上記極性基として酸基を有している場合、該酸基は塩となっていてもよい。斯かる塩の種類としては、Na塩、K塩、Ca塩、Mg塩、Cr塩、Fe塩、Al塩、Mn塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0110】
上記リグニン類は、上記極性基を分子量500単位当たりに平均0.3〜4個含有することが好ましく、0.3〜3個含有することが更に好ましく、0.5〜2個含有することが一層好ましい。極性基の含有量が0.3個に満たないと研磨材組成物への溶解性が低下し、研磨材や研磨屑の分散性が悪くなり、4個を超えると上記リグニン類の合成上コストアップとなる場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0111】
化合物(h)
化合物は(h)は上述の通りの石油スルホネート化合物又はその誘導体(以下、「石油スルホネート化合物類」という)である。該石油スルホネート化合物類としては、石油精製の際に副成する石油と硫酸との反応物として一般に知られている炭化水素のスルホン酸混合物であって、水溶性又は水分散性のものが用いられる。
【0112】
上記石油スルホネート化合物類の主成分はアルキルアリールスルホン酸塩であり、水に溶解可能な水溶性スルホネート(一般にグリーン酸と呼ばれる)、及び水に分散可能な油溶性スルホネート(一般にマホガニー酸と呼ばれる)を含む混合物である。該石油スルホネート化合物類は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、「石油スルホネート化合物の誘導体」とは、石油スルホネート化合物に種々の極性基を導入したもの(これについては後述する)、及び付加反応等により修飾された石油スルホネート化合物を意味する。
【0113】
上記石油スルホネート化合物類を使用することにより、研磨材及び研磨屑の被研磨物への再付着が一層効果的に防止され、研磨速度が向上し且つ表面粗さが低くなる。また、該石油スルホネート化合物類は価格も低いため、低コスト化も可能となる。
【0114】
上記石油スルホネート化合物類は、その重量平均分子量が300〜2000である。該重量平均分子量が300に満たないと分散安定性が不足してしまい、2000を超えると水溶性又は水分散性が低下し、効果が不十分となってしまう。上記重量平均分子量は、300〜700であることが好ましく、300〜500であることが一層好ましい。上記重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)により測定された値である。
【0115】
上記石油スルホネート化合物類は、本発明の研磨材組成物中に好ましくは0.01〜30重量%配合される。該石油スルホネート化合物類の配合量が0.01重量%満たないと研磨速度の向上及び表面粗さの低下の効果が十分に発現しないことがあり、30重量%を超えると研磨材組成物が増粘して作業性が低下したり、研磨材組成物の排水負荷が増えることがあるので上記範囲内とすることが好ましい。上記石油スルホネート化合物類の配合量は更に好ましくは0.05〜10重量%であり、一層好ましくは0.1〜5重量%である。
【0116】
本発明において用いられる石油スルホネート化合物類は下記一般式(H1)で表される。
【0117】
(Cn H2n-10 SO3 )X M (H1)
(式中、nは15〜40の数を表し、
Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は有機カチオンを表し、
xはMの価数を表し、
炭化水素部分はアルキル基が結合した3〜6個の閉環基からなる。)
【0118】
上記一般式(H1)において、nは上述の通り15〜40の数であり、上記石油スルホネート化合物類の重量平均分子量が300〜2000となるように選択される。nは更に好ましくは15〜35の数である。また、上記一般式(H1)において、Mの例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられ、特に、ナトリウム、カルシウム及びバリウム等が好ましい。尚、上記一般式(H1)で表される石油スルホネート化合物類は本発明の研磨材組成物中に一種又は二種以上を組み合わせて配合することができる。
【0119】
上記式(H1)で表される石油スルホネート化合物類は、水溶性になるにつれて数個の閉環基が芳香族性のものとなると共に、炭化水素部分の分子量が小さくなり、しかも油溶性のものに比して多くの縮合環を有するようになる。油溶性スルホネート(即ち、上記マホガニー酸)が、一般に、分子量400以上であり、ただ1個の芳香族環を有する構造であるのに対して、水溶性スルホネート(即ち、上記グリーン酸)は、一般に、分子量が400以下であり、短アルキル鎖を有するフェニレン族又はナフテン族のモノ又はジスルホン酸が大部分を占める。
【0120】
特に、上記石油スルホネート化合物類として、主成分が水溶性成分のもの、即ち上記グリーン酸を用いると、砥粒の分散性および研磨屑の分散性が良くなるので好ましい。ここで、上記水溶性成分は、上記石油スルホネート化合物類中に20重量%以上含有されていることが好ましく、40重量%以上含有されていることが更に好ましい。特に好ましくは、上記石油スルホネート化合物類は水溶性成分のみからなっている。
【0121】
上記石油スルホネート化合物類は、水溶性、砥粒の分散性および研磨屑の分散性の向上の点から極性基を含有していることが好ましい。特に、該極性基として、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、又はニトロ基を一種又は二種以上含有することが好ましく、とりわけカルボキシル基、第3級アミノ基または第4級アンモニウム塩基を含有することが好ましい。上記有機化合物にこれらの極性基を導入するには、例えばマンニッヒ反応等の公知の方法を用いることができる。
【0122】
上記石油スルホネート化合物類は、これらの極性基を分子量300単位当たりに平均0.5〜2個含有することが好ましく、1〜2個含有することがより好ましい。極性基の含有量が0.5個に満たないと水溶性および水分散性に欠ける場合があり、2個を超えると研磨時に微小ピットが発生する場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0123】
以上、化合物(a)〜(h)についてそれぞれ詳述したが、これらの化合物に関する説明において用いた化学式中における置換基の記号や添字等は、それぞれの化合物についてのみ適用されるものである。
【0124】
上記化合物(c)及び(d)は、これらのうちの何れか一種又は二種を組み合わせて用いることができる。また上記化合物(c)及び(d)に上記化合物(a)、(b)、(e)〜(h)を組み合わせてもよい。
【0125】
上記化合物(c)及び(d)のうち、特に好ましく用いられるものは、(c)であり、その中でもポリヒドロキシスチレンスルホン酸ソーダ等を用いることがとりわけ好ましい。
【0126】
第二の研磨液における研磨砥粒の種類及び粒径は、第一の研磨液における研磨砥粒と同じであることが好ましいが、必要に応じて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において異なっていてもよい。しかし、砥粒径の差は小さいほど好ましい。
また、第二の研磨液における研磨砥粒の濃度は、第一の研磨液における研磨砥粒の濃度よりも低いことが好ましく、第一の研磨液における研磨砥粒の濃度の5〜50%程度であることが望ましく、10〜30%程度であることが更に望ましい。
【0127】
本発明の方法において、第一の研磨工程と第二の研磨工程とにおいて、研磨液中の研磨助剤としてそれぞれ上記研磨助剤(A−1)及び(A−2)を用いることにより同一の研磨装置で連続的に多段の研磨工程を高速で且つ低表面粗さとなるように行うことができる理由は必ずしも明確ではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、上述の通り、第一の研磨工程における第一の研磨液は研磨速度を向上させる作用を有するので第1の研磨工程においては、研磨速度が向上する。一方、第二の研磨工程における第二の研磨液は表面粗さを低くする作用を有する。これに加えて、第二の研磨液は研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させる作用も有するので、第二の研磨工程において研磨砥粒や第一の研磨工程で発生した研磨屑が研磨パッドに詰まることが防止される。従って、第二の研磨工程を第一の研磨工程と同一の研磨装置を用いて行っても第二の研磨工程における研磨効率が低下せず、低表面粗さを達成できると考えられる。
【0128】
次に、本発明の被加工物の研磨方法の第二の実施形態について説明する。尚、第二の実施形態について第一の実施形態と同じ部分については特に説明しないが第一の実施形態について詳述した説明が適宜適用される。
【0129】
第二の実施形態においては、上記第一の研磨液及び上記第二の研磨液がそれぞれ、上記研磨助剤として上記研磨助剤(A−1)及び上記研磨助剤(A−2)を含有している。且つ、上記第一の研磨液における上記研磨助剤(A−1)と上記研磨助剤(A−2)との濃度比〔(A−1)/(A−2)〕が、上記第二の研磨液における上記研磨助剤(A−1)と上記研磨助剤(A−2)との濃度比〔(A−1)/(A−2)〕よりも大きくなされている。斯かる配合の研磨液を用いることにより、第一の研磨工程においては、研磨砥粒及び研磨屑が研磨パッドに目詰まりすることを防止しつつ研磨速度が向上し、一方、第二の研磨工程においては、表面粗さを低く抑えつつ研磨速度が向上するので、生産性が高くなり好ましい。但し、第二の研磨工程において上記研磨助剤(A−1)の配合量が多すぎると研磨速度は向上するものの、表面粗さが大きくなってしまう。従って、上記研磨助剤(A−1)と上記研磨助剤(A−2)との濃度比〔(A−1)/(A−2)〕を、第二の研磨工程よりも第一の研磨工程の方が大きくなるようにする。
【0130】
この場合、上記濃度比〔(A−1)/(A−2)〕の値に特に制限は無いが、第一の研磨工程においては、該濃度比は0.2〜50であることが好ましく、0.5〜25であることが更に好ましい。
一方、第二の研磨工程においては、上記濃度比は0.01〜10であることが好ましく、0.1〜5であることが更に好ましい。
また、第一の研磨工程において上記濃度比は、第二の研磨工程における上記濃度比の5〜50倍であることが好ましく、10〜25倍であることが更に好ましい。
【0131】
以上、本発明の磁気記録媒体用基盤の研磨方法をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更形態が可能である。
例えば、第一及び第二の研磨工程においては、上述の両面加工機に代えて他の加工機を用いてもよい。
また、上記研磨助剤(A−1)及び(A−2)は、少なくとも上述の作用を発揮し得るものであれば本発明において使用可能であり、これに加えて研磨に関する他の機能を発揮するものであってもよい。
また、第一の研磨工程の前、及び/又は第二の研磨工程の後には、必要に応じて他の研磨工程を行ってもよい。
また、上記第一及び第二の実施形態においては、ポリッシングを二段の工程で行う例について説明したが、これに代えて第一の研磨工程をラッピングとし、第二の研磨工程をポリッシングとしてもよい。
また、被加工物として、後述する実施例からも明らかなように、ガラス、Al2O3・TiCのようなセラミック材料、シリコンやNiPメッキされたアルミニウムのような金属材料、ガラス状カーボン以外のカーボン材料等を用いてもよい。
【0132】
【実施例】
以下、実施例により本発明の有効性を例証する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0133】
〔実施例1〜3及び比較例1〜5〕
表1及び表2に示す研磨砥粒及び研磨助剤を、表1及び表2に示す濃度で以て残部水と混合・撹袢し、第一の研磨液及び第二の研磨液をそれぞれ得た。尚、用いた研磨助剤の種類はそれぞれ表3及び表4に示す通りである。また、表1及び表2に示すα−Al2O3及びγ−Al2O3の純度はそれぞれ99.98wt%であった。
ラッピングにより中心線平均粗さRaを0.1μmとした直径1.8インチのガラス状カーボン(GC)基板、NiPメッキされたアルミニウム基板、ガラス基板、Al2O3・TiC基板、及びシリコンウェハーを、第一の研磨液及び第二の研磨液を用いて、両面加工機により二段階の研磨工程でポリッシングした。この際、該両面加工機は下記の条件にて使用し、研磨パッドの貼り替えは行わなかった。
【0134】
<両面加工機の設定条件>
第一の研磨工程:
使用両面加工機:SPEED FAM社製 9B型両面加工機
加工圧力:150gf/cm2
研磨パッドのショアー硬度:90
〔JIS A(JIS K−6301)に準拠、但し、実施例10〜12及び15並びに比較例2及び5においてはポリテックスDGパッド(ロデール・ニッタ社製)を使用した〕
下定盤回転数:40rpm
研磨液供給流量:50cc/min
第二の研磨工程:
使用両面加工機:同上
加工圧力:150gf/cm2
研磨パッドのショアー硬度:90
〔JIS A(JIS K−6301)に準拠、但し、実施例10〜12及び15並びに比較例2及び5においてはポリテックスDGパッド(ロデール・ニッタ社製)を使用した〕
下定盤回転数:40rpm
研磨液供給流量:50cc/min
【0135】
表1に示す各基板について、第一の研磨工程及び第二の研磨工程をそれぞれ90分間及び30分間ずつ行い、研磨による除去量を測定し、比較例を基準として相対研磨速度を求めた。その結果を表5に示す。また、研磨後の各基板の表面の中心線平均粗さRaを測定すると共に、スクラッチの発生の程度を下記の基準により評価した。その結果を表5に示す。
【0136】
〔中心線平均粗さRa〕
ランク・テーラーホブソン社製のTalystepを用いて以下の条件で測定した。
・針サイズ :2.5μm×2.5μm
・バイパスフィルター:80μm
・測定長 :0.64mm
【0137】
〔スクラッチ〕
光学顕微鏡観察(微分干渉顕微鏡)を用い倍率×50倍で各基板の表面を60度おきに6カ所測定した。スクラッチの深さはZygo(Zygo社製)により測定した。評価基準は下記の通りである。
S:深さ500Åを超えるスクラッチが0本/1視野
A:深さ500Åを超えるスクラッチが平均0.5本未満/1視野
B:深さ500Åを超えるスクラッチが平均0.5本以上1本未満/1視野
C:深さ500Åを超えるスクラッチが平均1本以上/1視野
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
表5に示す結果から明らかなように、各研磨工程において用いられる研磨液に含有される研磨助剤としてそれぞれ特定の化合物を用いて研磨を行った実施例1〜3においては、比較例1〜5に比し、研磨速度が向上し、表面粗さが低くなり、スクラッチの発生が抑えられることが分かる。
【0144】
【発明の効果】
本発明の被加工物の研磨方法によれば、多段の研磨工程を、同一の研磨機を用いて、高速で且つ低表面粗さとなるように行うことができる。特に、同一粒径の研磨砥粒を用いて二段階のポリッシングを行うことで、スクラッチの発生を防ぎながら上記目的を達成できる点にメリットがある。
本発明の被加工物の研磨方法は、特にガラス、カーボン及びセラミックスのような脆性材料からなる被加工物の研磨、とりわけポリッシングに好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の被加工物の研磨方法の第一の実施形態に好ましく用いられる両面加工機を示す要部概略正面図である。
【図2】図1におけるX−X線矢視図である。
【符号の説明】
1 両面加工機
2 下定盤
3 上定盤
4 基板支持部
5 ベース
6 研磨パッド
10 基板
Claims (6)
- 研磨砥粒と研磨助剤と水とを含む研磨液を供給しながら磁気記録媒体用基板を研磨する方法において、
上記研磨助剤として研磨速度を向上させ得る研磨助剤(A−1)を含有する第一の研磨液を供給しながら第一の研磨工程を行い、次いで該第一の研磨液の供給を止めた後に、該第一の研磨工程と同一の研磨装置において、上記研磨助剤として磁気記録媒体用基板の表面粗さを低くし且つ研磨砥粒及び研磨屑を研磨液中に分散させ得る研磨助剤(A−2)を含有する第二の研磨液を供給しながら第二の研磨工程を行い、
上記研磨助剤(A−1)が単量体型の酸化合物の金属塩からなり、上記研磨助剤(A−2)が、下記化合物(c)及び(d)からなる群より選択される一種又は二種であることを特徴とする磁気記録媒体用基板の研磨方法。
- 上記第一の研磨液における上記研磨助剤(A−1)の配合量が0.01〜20重量%であり、
上記第二の研磨液における上記研磨助剤(A−2)の配合量が0.01〜10重量%である、請求項1記載の磁気記録媒体用基板の研磨方法。 - 上記第一の研磨液及び上記第二の研磨液がそれぞれ、上記研磨助剤として上記研磨助剤(A−1)及び上記研磨助剤(A−2)を含有し、
上記第一の研磨液における上記研磨助剤(A−1)と上記研磨助剤(A−2)との濃度比〔(A−1)/(A−2)〕が、上記第二の研磨液における上記研磨助剤(A−1)と上記研磨助剤(A−2)との濃度比〔(A−1)/(A−2)〕よりも大きい、請求項1又は2記載の磁気記録媒体用基板の研磨方法。 - 上記研磨砥粒は、そのヌープ硬度(JIS Z−2251)が700〜9000である、請求項1〜3の何れかに記載の磁気記録媒体用基板の研磨方法。
- 上記研磨がポリッシングである、請求項1〜4の何れかに記載の磁気記録媒体用基板の研磨方法。
- 上記第二の研磨液における研磨砥粒の種類及び粒径が、上記第一の研磨液における研磨砥粒と同じである、請求項1〜5の何れかに記載の磁気記録媒体用基板の研磨方法。
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