ところで上記ノックセンサには、ノッキングに伴う振動以外に、インジェクタの燃料噴射に伴う作動音や吸排気バルブといった機関バルブの開閉時の着座音、ピストンの上死点及び下死点における動作方向の転換に伴い発生するピストンスラップ音等もノイズとして検出されてしまう。
こうしたインジェクタの作動音、機関バルブの着座音、ピストンスラップ音等の機械ノイズは、ノッキングの検出精度を悪化させる要因となる。特にそうした機械ノイズがノック判定ゲート外に有る状態から同ゲート内に有る状態へと移行する遷移期間には、実際にはノッキングが発生していない状態で有るにも拘わらず、ノッキング有りと誤検出することがある。
図24(a)は、上記インジェクタの作動に伴う機械ノイズ、すなわちインジェクタノイズが上記ノックセンサによって検出される時期が、完全にノック判定ゲート外に有るときのノックセンサ出力の推移を示している。このときのノック判定ゲート内のノックセンサ出力には、燃焼に伴う振動のみが検出される。
一方、同図24(b)には、上記インジェクタノイズの検出時期がノック判定ゲート内に侵入するときのインジェクタのニードルバルブのリフト量及びノックセンサ出力の推移が示されている。インジェクタのニードルバルブの開閉弁に際しての同ニードルバルブの着座に伴う振動がノックセンサに到達することで、その出力に同図に示すようなインジェクタノイズが検出される。よってインジェクタノイズの検出レベルがバックグランドノイズの検出レベルに比して大きければ、インジェクタノイズ検出時期のノック判定ゲート内への侵入に応じて、ノック判定ゲート内のノックセンサ出力のピークホールド値は、インジェクタノイズの検出レベルに応じた値に増大する。
図25は、ノック判定ゲート外から同ゲート内へとインジェクタノイズの検出時期が移行する前後の上記ノック強度LVPK及びノック判定レベルVKDの推移を示している。同図の時刻t10にノック判定ゲート内にインジェクタノイズ検出時期が侵入すると、ノック強度LVPKは、インジェクタノイズの検出レベルに応じた値へと増大する。
こうしてノック強度LVPKが増大すると、それに応じてノック判定レベルVKDも徐々に増大されるようになる。ただし、上記のようにノック判定レベルVKDは、増大前も含めたノック強度LVPKの分布に基づいて設定されるため、その増大はノック強度LVPKの増大に対して大きく遅れることとなる。その結果、上記インジェクタノイズの侵入直後には、ノック判定レベルVKDは、増大したノック強度LVPKに対応した適切な値に比して小さい値を取ることとなり、上述したようなノッキングの誤検出が生じてしまうようになる。
なおノックセンサによるインジェクタノイズの検出時期には若干のばらつきがあり、またノック強度LVPKが増大しても、それはノッキングの発生によるものである可能性は否定できないことから、インジェクタノイズの侵入を正確に確認することは困難となっている。またノック判定ゲート内にインジェクタノイズが部分的に侵入した状態では、その侵入に伴うノック強度LVPKの増大量についても正確に予測することは困難である。そのため、ノック判定ゲートへのインジェクタノイズの出入りに応じたノッキング検出の精度低下の抑制は、非常に困難なものとなっている。
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、機械ノイズの影響によるノッキング検出の精度低下の抑制を容易とすることのできるエンジンのノック制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、予め設定されたノック判定期間のノックセンサの出力信号に基づいてノッキング検出を行い、その検出結果に基づきノック抑制制御を実施するエンジンのノック制御装置において、機械ノイズが前記ノックセンサにより検出される時期を機械ノイズの検出時期として、この検出時期を推定する推定手段と、その推定された機械ノイズの検出時期が前記ノック判定期間の開始時期を含む所定の期間として設定された侵入判定区間または前記ノック判定期間の終了時期を含む所定の期間として設定された侵入判定区間にあるとき、同機械ノイズが前記ノック判定期間内に確実に検出されるように、すなわち前記ノック判定期間内において機械ノイズ分のノック強度の増大が生じるように同機械ノイズの発生時期及び前記ノック判定期間の少なくとも一方を変更する変更手段とを備えることを要旨としている。
上記構成では、ノックセンサによる機械ノイズの検出時期がノック判定期間の開始時期及び終了時期の近傍に存在する状態となると、機械ノイズの発生時期やノック判定期間が強制的に変更される。そしてそれにより、その機械ノイズがノック判定期間内で確実に検出されるように、すなわち機械ノイズの検出時期のばらつき等を考慮した上で、その機械ノイズによるノックセンサの検出レベルの増大がノック判定期間内のノックセンサの出力に確実に表れるようにしている。
これにより上記構成では、機械ノイズは、ノック判定期間内で確実に検出されるか、全く検出されないかの何れかとなる。すなわち、ノック判定期間の内外の何れにあるか不明瞭な状態や、ノック判定期間のノックセンサの出力に機械ノイズが限定的に検出され、機械ノイズ分のノックセンサ出力の変化度合を予測し難い状態等の、機械ノイズ侵入に伴う過渡状態となることが回避される。そのため、ノック判定期間への機械ノイズの侵入及びその侵入に伴うノックセンサ出力の変化度合を正確に予測することができ、ノック判定期間への機械ノイズの出入りに応じた対応を容易且つ的確に行えるようになる。したがって上記構成によれば、機械ノイズの影響によるノッキング検出の精度低下の抑制を容易とすることができる。
なお機械ノイズの影響によるノッキング検出の精度低下を回避するには、ノックセンサによる機械ノイズの検出時期とノック判定期間とを完全に隔離することが理想的ではある。しかしながら、エンジンの各種制御等の制約により、必ずしもすべての運転条件でそうした隔離を図れるとは限らない。またそうした隔離を行うために他のエンジン制御に悪影響を与える虞もある。その点、上記構成では、機械ノイズの検出時期とノック判定期間との隔離が不能な場合や困難な場合にも、ノッキング検出の精度低下の抑制を許容することができる。
ちなみに対象とする機械ノイズが上記インジェクタノイズの場合には、燃料噴射時期や燃料噴射量の変更によりその発生時期を変更することができる。また対象とする機械ノイズが吸排気バルブといった機関バルブの開閉に伴う着座ノイズの場合、機関バルブの開閉時期を可変とする可変動弁機構をエンジンに搭載して、その開閉時期を変更することで、該着座ノイズの発生時期を変更することができる。
(2)請求項2に記載の発明は、予め設定されたノック判定期間におけるノックセンサの出力信号に基づいてノッキング検出を行い、その結果に基づいてノック抑制制御を実行するエンジンのノック制御装置において、機械ノイズが前記ノックセンサにより検出される時期を機械ノイズの検出時期として、この検出時期を推定する推定手段と、前記ノック判定期間の開始時期よりも進角側にある所定の進角時期A1と前記ノック判定期間の開始時期よりも遅角側にある所定の遅角時期B1との間を侵入判定区間として設定し、前記推定手段により推定される機械ノイズの検出時期がこの侵入判定区間内にある旨判定したとき、前記ノック判定期間の開始時期をそのときに設定されている開始時期よりも進角する制御、及び機械ノイズの発生時期をそのときの発生時期よりも遅角する制御の少なくとも一方を行う変更手段を備えることを要旨としている。
(3)請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の開始時期の進角として、前記ノック判定期間の開始時期を前記所定の進角時期A1よりも進角することを要旨としている。
(4)請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の開始時期の進角として、前記ノック判定期間の開始時期を機械ノイズの発生が終了する時期よりも進角することを要旨としている。
(5)請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記推定手段により推定される機械ノイズの検出時期が前記侵入判定区間内にある旨判定した後、前記所定の進角時期A1よりも進角側にある所定の進角時期A2と前記所定の遅角時期B1よりも遅角側にある所定の遅角時期B2との間を新たな侵入判定区間として設定することを要旨としている。
(6)請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記ノック判定期間の開始時期から前記所定の進角時期A1までの期間と、前記ノック判定期間の開始時期から前記所定の遅角時期B1までの期間とが互いに異なる大きさに設定されることを要旨としている。
(7)請求項7に記載の発明は、予め設定されたノック判定期間におけるノックセンサの出力信号に基づいてノッキング検出を行い、その結果に基づいてノック抑制制御を実行するエンジンのノック制御装置において、機械ノイズが前記ノックセンサにより検出される時期を機械ノイズの検出時期として、この検出時期を推定する推定手段と、前記ノック判定期間の終了時期よりも進角側にある所定の進角時期C1と前記ノック判定期間の終了時期よりも遅角側にある所定の遅角時期D1との間を侵入判定区間として設定し、前記推定手段により推定される機械ノイズの検出時期がこの侵入判定区間内にある旨判定したとき、前記ノック判定期間の終了時期をそのときに設定されている終了時期よりも遅角する制御、及び機械ノイズの発生時期をそのときの発生時期よりも進角する制御の少なくとも一方を行う変更手段を備えることを要旨としている。
(8)請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の終了時期の遅角として、前記ノック判定期間の終了時期を前記所定の遅角時期D1よりも遅角することを要旨としている。
(9)請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の終了時期の進角として、前記ノック判定期間の終了時期を機械ノイズの発生が開始する時期よりも遅角することを要旨としている。
(10)請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記推定手段により推定される機械ノイズの検出時期が前記侵入判定区間内にある旨判定した後、前記所定の進角時期C1よりも進角側にある所定の進角時期C2と前記所定の遅角時期D1よりも遅角側にある所定の遅角時期D2との間を新たな侵入判定区間として設定することを要旨としている。
(11)請求項11に記載の発明は、請求項7〜10のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記ノック判定期間の終了時期から前記所定の進角時期C1までの期間と、前記ノック判定期間の終了時期から前記所定の遅角時期D1までの期間とが互いに異なる大きさに設定されることを要旨としている。
(12)請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の長さを一定に維持しつつ、その開始時期及び終了時期を変更することにより前記変更を行うことを要旨としている。
上記構成では、ノック判定期間の長さを一定に維持しつつ、その全体を進角側又は遅角側にずらすことで、機械ノイズが前記ノック判定期間内に確実に検出されるようにノック判定期間が変更される。
(13)請求項13に記載の発明は、請求項12に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記開始時期及び前記終了時期の変更量をエンジン回転速度及びエンジン負荷の少なくとも一方に応じて可変設定することを要旨としている。
ノックセンサによる機械ノイズの検出期間や検出時期のばらつき度合は、エンジン回転速度やエンジン負荷によって変化する。よって上記構成のように開始時期及び終了時期の変更量をエンジン回転速度やエンジン負荷に応じて可変設定することで、上記ノック判定期間の変更をより適切に行うことができる。
(14)請求項14に記載の発明は、請求項12または13に記載のエンジンのノック制御装置において、当該エンジンは、燃料噴射時期の算出態様の異なる複数の算出モードから運転状況に応じて前記燃料噴射時期の算出に用いる算出モードを選択して燃料噴射時期の設定を行うものであり、前記変更手段は、前記開始時期及び前記終了時期の変更量の算出態様を前記選択された算出モードに応じて変更するものであることを要旨としている。
燃料噴射時期の算出モードが変更されれば、許容されるノック判定期間の変更範囲や機械ノイズの発生態様等に変化が生じることがある。特に上記インジェクタノイズを対象とする場合、算出モードの変更による変化が顕著に表れる。その点、上記構成では、上記ノック判定期間の開始時期及び終了時期の変更量の算出態様が、選択された燃料噴射時期の算出モードに応じて変更されるため、そうした変化に対する柔軟且つ適切な対応が可能となる。
(15)請求項15に記載の発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間を拡大することにより前記ノック判定期間の開始時期または終了時期を変更することを要旨としている。
上記構成では、進角側及び遅角側の少なくとも一方に対してノック判定期間を拡大することで、機械ノイズがノック判定期間内に確実に検出されるようにノック判定期間が変更される。
(16)請求項16に記載の発明は、請求項15に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の拡大量をエンジン回転速度及びエンジン負荷の少なくとも一方に応じて可変設定することを要旨としている。
上記構成のようにノック判定期間の拡大量をエンジン回転速度やエンジン負荷に応じて可変設定することで、上記ノック判定期間の変更をより適切に行うことができる。
(17)請求項17に記載の発明は、請求項15または16に記載のエンジンのノック制御装置において、当該エンジンは、燃料噴射時期の算出態様の異なる複数の算出モードから運転状況に応じて前記燃料噴射時期の算出に用いる算出モードを選択して燃料噴射時期の設定を行うものであり、前記変更手段は、前記拡大量の算出態様を前記選択された算出モードに応じて変更するものであることを要旨としている。
上記構成では、上記ノック判定期間の拡大量の算出態様が、選択された燃料噴射時期の算出モードに応じて変更されるため、その算出モードの変更に伴う許容されるノック判定期間の変更範囲や機械ノイズの発生態様等に変化に対する柔軟且つ適切な対応が可能となる。
(18)請求項18に記載の発明は、請求項15〜17のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の開始時期を含む侵入判定区間及び前記ノック判定期間の終了時期を含む侵入判定区間のうちの前者のみに前記機械ノイズの検出時期がある旨推定されるときには前記開始時期のみの変更を通じて前記ノック判定期間を拡大し、前記ノック判定期間の開始時期を含む侵入判定区間及び前記ノック判定期間の終了時期を含む侵入判定区間のうちの後者のみに前記機械ノイズの検出時期がある旨推定されるときには前記終了時期のみの変更を通じて前記ノック判定期間を拡大することを要旨としている。
上記構成では、ノック判定期間の拡大が、機械ノイズの検出時期の無い側に対しては行われないようになる。そのため、機械ノイズを確実に検出するためのノック判定期間の拡大をより効率的に行うことができる。
(19)請求項19に記載の発明は、請求項1〜18のいずれか一項に記載のエンジンのノック抑制装置において、前記変更手段は、エンジン回転速度及びエンジン負荷の少なくとも一方に応じて設定された量だけ前記機械ノイズの発生時期を変更することを要旨としている。
上記構成では、機械ノイズの発生時期を変更することで、機械ノイズがノック判定期間内に確実に検出されるようにノック判定期間が変更される。そしてこのときの機械ノイズの発生時期の変更量が、エンジン回転速度やエンジン負荷に応じて可変設定されるため、上記ノック判定期間の変更をより適切に行うことができる。
(20)請求項20に記載の発明は、請求項18または19に記載のエンジンのノック抑制装置において、当該エンジンは、燃料噴射時期の算出態様の異なる複数の算出モードから運転状況に応じて前記燃料噴射時期の算出に用いる算出モードを選択して燃料噴射時期の設定を行うものであり、前記変更手段は、前記機械ノイズの発生時期の変更量の算出態様を前記選択された算出モードに応じて変更するものであることを要旨としている。
上記構成では、上記機械ノイズの発生時期の変更量の算出態様が、選択された燃料噴射時期の算出モードに応じて変更されるため、その算出モードの変更に伴う許容されるノック判定期間の変更範囲や機械ノイズの発生態様等に変化に対する柔軟且つ適切な対応が可能となる。
(21)請求項21に記載の発明は、請求項1〜20のいずれか一項に記載のエンジンのノック抑制装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更を実行した状態のもと、前記機械ノイズが前記ノック判定期間内にあることが確認されるときには前記変更を解除することを要旨としている。
ノック判定期間や機械ノイズの発生時期を変更せずとも、ノック判定期間内で機械ノイズが確実に検出されるのであれば、それらの変更は不要となる。上記構成では、そうした状況となることが確認されると、ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更が解除され、それらの設定が平常に戻される。そのため、上記構成によれば、不必要なノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更を抑え、それらの変更がエンジンの運転状態や他のエンジン制御に与える影響を低減することができる。
(22)請求項22に記載の発明は、請求項1〜21のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更を実行するにあたり、当該変更を実行しても前記ノック判定期間内において前記機械ノイズの検出が不能である旨推定されるときには前記変更を解除することを要旨としている。
ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更範囲は、エンジンの運転状態や他のエンジン制御により制限を受けることがあり、その結果、許容範囲内でのそれらの変更では、ノック判定期間内での機械ノイズの確実な検出を設定することができないことがある。そうした場合、上記構成では、そうした状態での無意味なノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更が解除される。そのため、ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の無駄な変更が抑えられ、それらの変更がエンジンの運転状態や他のエンジン制御に与える影響を低減することができる。
(23)請求項23に記載の発明は、請求項1〜22のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記機械ノイズは、インジェクタの燃料噴射の実施に伴い発生するインジェクタノイズであり、前記変更手段は、通常の燃料噴射に加えて前記ノック判定期間内に前記インジェクタからの更なる燃料噴射を強制実施するものであることを要旨としている。
上記構成では、通常の燃料噴射に伴うインジェクタノイズの侵入判定区間への侵入が確認されたとき、そうした通常の燃料噴射に加え、更なる燃料噴射がノック判定期間内で強制実施される。そしてそうした更なる燃料噴射に伴うインジェクタノイズを、ノック判定期間内にてノックセンサに検出させるようにしている。この場合にも結果として、ノック判定期間にインジェクタノイズが確実に検出されるようになり、またその侵入に伴うノックセンサ出力の変化も、通常の燃料噴射に伴うインジェクタノイズの侵入と同様に生じることとなる。よって上記構成によっても、インジェクタノイズの影響によるノッキング検出の精度低下の抑制を容易とすることができる。
(24)請求項24に記載の発明は、請求項23に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段は、前記更なる燃料噴射を強制実施するときにその燃料噴射量を燃焼に影響しない量に限定することを要旨としている。
上記構成では、インジェクタノイズをノック判定期間内に確実に検出させるべく強制実施される更なる燃料噴射の燃料噴射量が、燃焼に影響しない量に限定されるため、エンジンの運転状態に与える影響を抑えつつ、そうした更なる燃料噴射を実施することができる。
(25)請求項25に記載の発明は、請求項1〜24のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更が実行されたときにノッキング検出にかかるノック判定レベルを嵩上げする嵩上手段を更に備えることを要旨としている。
ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更により、ノック判定期間内で機械ノイズが検出されない状態から検出される状態へと強制的に移行されれば、機械ノイズの検出レベル分、ノック判定期間のノックセンサの出力レベルが増大する。そうしたノックセンサ出力レベルの増大に対してノッキングの有無の判定を適切に行うには、その増大分に応じてノック判定レベルも増大させる必要がある。その点、上記構成では、ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更に応じてノック判定レベルが嵩上げされるため、機械ノイズの影響に依らずノッキングの検出を的確に行うことができるようになる。
なお上記構成では、上記のようにノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更を通じてノック判定期間内に機械ノイズが検出されない状態からそれが確実に検出される状態へと強制的に移行させており、その移行に伴うノックセンサ出力の変化度合は、容易且つ正確に予測できる。そのため、上記ノック判定レベルの嵩上量を、容易且つ適切に設定することができるようにもなっている。
(26)請求項26に記載の発明は、請求項25に記載のエンジンのノック制御装置において、前記ノック判定レベルは、前記ノック判定期間における前記ノックセンサの出力分布に応じて設定されるものであり、前記嵩上手段は、前記ノック判定レベルの嵩上げとして、前記嵩上げの実施中に限り前記ノック判定レベルを前記ノックセンサの出力分布に応じて設定される値に所定の嵩上量を加算した値とするものであることを要旨としている。
上記構成では、ノック判定期間における前記ノックセンサの出力分布に応じてノック亜判定レベルを設定することで、エンジンの個体差や経時変化等に拘わらず、精度良くノッキングの検出を行えるようにしている。このように上記出力分布に応じてノック判定レベルを設定する場合、ノック判定期間への機械ノイズの侵入に応じてノックセンサの出力レベルが増大しても、その増大前の出力も含めた分布に基づきノック判定レベルの設定が行われるため、直ちにはノック判定レベルが適切な値に更新されないことがある。その点、上記構成では、ノックセンサの出力分布に応じて設定される値に所定の嵩上量を加算した値にノック判定レベルを設定することで、ノック判定期間への機械ノイズの侵入に応じたノック判定レベルの嵩上げが行われる。そのため、ノック判定レベルを、ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更後、速やかに適切な値とすることができる。
(27)請求項27に記載の発明は、請求項26に記載のエンジンのノック制御装置において、前記嵩上手段は、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更が開始された直後から前記嵩上量を徐々に減衰させることを要旨としている。
ノック判定期間に機械ノイズが侵入してノックセンサの出力レベルが増大されると、ノックセンサの出力分布に応じて設定されるノック判定レベルの嵩上量以外の項の値は、その増大に応じて徐々に増大されるようになる。そのため、上記嵩上量を一定の値のまま保持すれば、そうした嵩上量以外の項の値の増大により、ノック判定レベルが過剰に嵩上げされる虞がある。その点、上記構成では、ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更の開始直後から嵩上量が徐々に減衰されるため、そうしたノック判定レベルの過剰な嵩上げを好適に回避することができる。
(28)請求項28に記載の発明は、請求項26または27に記載のエンジンのノック制御装置において、前記嵩上手段は、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更が開始されてから一定の時間が経過した時点で前記ノック判定レベルの嵩上げを解除することを要旨としている。
上記のように、機械ノイズの侵入によるノックセンサ出力レベルの増大に応じて、ノック判定レベルの嵩上量以外の項の値は徐々に増大され、やがてノック判定レベルは嵩上げを行わずとも適切な値となるようになる。よって、上記構成のようにノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更の開始から所定の時間が経過した時点でノック判定レベルの嵩上げを解除することで、嵩上げの不必要な継続が回避され、平常のノック制御に早期復帰を図ることができるようになる。なお上記一定の時間としては、ノック判定期間内への機械ノイズの強制移行に伴うノックセンサ出力レベルの増大に対する、嵩上げの無い状態でのノック判定レベルの追従遅れが、ノッキングの誤検出が生じない程度まで十分に縮小可能な時間を設定すれば良い。
(29)請求項29に記載の発明は、請求項25に記載のエンジンのノック制御装置において、前記ノック判定レベルは、前記ノック判定期間における前記ノックセンサの出力分布に応じて設定されるものであり、前記嵩上手段は、前記ノック判定レベルの嵩上げとして、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更の開始時に前記ノック判定レベルに所定の嵩上量を直接加算するものであることを要旨としている。
上記構成では、ノック判定レベルに所定の嵩上量を直接加算することで、その嵩上げが行われる。このような態様によっても、機械ノイズによるノックセンサ出力レベルの増大に応じたノック判定レベルの嵩上げを行うことができる。
なおこうして嵩上げを行う場合には、機械ノイズの侵入に伴うノックセンサ出力レベルの増大に対するノック判定レベルの追従遅れを極小さくすることができるようにもなる。
(30)請求項30に記載の発明は、請求項25〜29のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記嵩上手段は、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更を通じて前記ノック判定期間内に検出されるようなる前記機械ノイズについて、この機械ノイズの発生する気筒に応じて前記ノック判定レベルの嵩上量を可変設定することを要旨としている。
ノックセンサによる機械ノイズの検出レベルは、ノックセンサの配設位置とその機械ノイズが発生する気筒との位置関係によって変化する。よって上記構成のように機械ノイズの発生する気筒に応じて前記ノック判定レベルの嵩上量を可変設定すれば、より的確に嵩上量を設定することができるようになる。
(31)請求項31に記載の発明は、請求項30に記載のエンジンのノック制御装置において、前記嵩上手段は、前記嵩上量の可変設定の基礎となる前記気筒の位置と前記ノックセンサの位置との距離が近いときには、この距離が遠いときに比して前記ノック判定レベルの嵩上量が大きくなるように前記可変設定を行うことを要旨としている。
通常、ノックセンサの位置と機械ノイズの発生する気筒との距離が遠くなるほど、ノックセンサによる機械ノイズの検出レベルは小さくなる。そのため、上記構成のように機械ノイズの発生する気筒に応じた嵩上量の可変設定を行うことで、的確な嵩上量の設定が可能となる。
(32)請求項32に記載の発明は、請求項25〜31のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記嵩上手段は、エンジン回転速度及びエンジン負荷の少なくとも一方に応じて前記ノック判定レベルの嵩上量を可変設定することを要旨としている。
機械ノイズの大きさは、エンジン回転速度やエンジン負荷によって変化することがある。またエンジン回転速度やエンジン負荷によってノックセンサのバックグランドノイズの検出レベルが変化するため、たとえ機械ノイズの大きさが変化しなくても、必要な嵩上量はエンジン回転速度やエンジン負荷により変化するようになる。その点、上記構成では、エンジン回転速度及びエンジン負荷の少なくとも一方に応じてノック判定レベルの嵩上量が可変設定されるため、ノック判定レベルの嵩上げをより的確に行うことができるようになる。
(33)請求項33に記載の発明は、請求項1〜24のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、前記変更手段による前記ノック判定期間の開始時期の変更または前記ノック判定期間の終了時期の変更または前記機械ノイズの発生時期の変更の開始から一定の時間が経過するまでは前記ノッキングの検出結果に基づく前記ノック抑制制御の実行を禁止する禁止手段を更に備えることを要旨としている。
上述したようにノック判定期間に機械ノイズが侵入すると、ノック判定期間のノックセンサの出力レベルは増大する。これに対してノック判定レベルは徐々にしか増大されないため、上記ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更から一定の時間が経過するまでは、ノック判定レベルが不適切となり、ノッキングを適正に検出できなくなることがある。その点、上記構成では、上記ノック判定期間や機械ノイズの発生時期の変更の開始から一定の時間が経過する迄は、そのノッキングの検出結果に基づくノック抑制制御の実施を禁止するようにしている。そのため、上記のような不適切なノック判定レベルにてノッキングの検出がなされ、たとえその結果としてノッキングの誤検出が生じても、エンジン制御には影響されないようになる。なお上記一定の時間としては、ノック判定期間内への機械ノイズの強制移行に伴うノックセンサ出力レベルの増大に対するノック判定レベルの追従遅れが、ノッキングの誤検出が生じない程度まで十分に縮小可能な時間を設定すれば良い。
(34)請求項34に記載の発明は、請求項1〜33のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、当該エンジンは、通常の燃料噴射量の算出時期後に加速要求が生じたときには通常の燃料噴射に加えて更なる燃料噴射を実行する再噴射制御を行うものであり、当該ノック制御装置は、前記更なる燃料噴射の実行に伴うインジェクタノイズが前記ノックセンサにより検出される時期が前記変更手段により変更された前記ノック判定期間と重なるか否かを判定する判定手段と、この判定手段により肯定判定がなされたときに前記更なる燃料噴射の実行を禁止する再噴射禁止手段とを更に備えるものであることを要旨としている。
加速要求に応じて臨機に実施される、通常の燃料噴射とは別の更なる燃料噴射、すなわち再噴射については、その実施に伴い発生するインジェクタノイズの発生時期、検出時期を推定することが困難である。そのため、そのインジェクタノイズが確実にノック判定期間内に検出されるようにノック判定期間やその発生時期を変更することも困難となっている。その点、上記構成では、再噴射の実施に伴うインジェクタノイズの検出時期がノック判定期間と重なるような状況では、再噴射の実施が禁止されるため、そのインジェクタノイズの影響によるノッキング検出精度の低下の回避を容易に行うことができる。
(35)請求項35に記載の発明は、請求項1〜34のいずれか一項に記載のエンジンのノック制御装置において、当該エンジンは、通常の燃料噴射量の算出時期後に加速要求が生じたときには通常の燃料噴射に加えて更なる燃料噴射を実施する再噴射制御を行うものであり、当該ノック制御装置は、前記更なる燃料噴射に伴うインジェクタノイズが前記ノックセンサにより検出される時期が前記変更手段により変更された前記ノック判定期間と重ならないように、前記更なる燃料噴射の量及び時期の少なくとも一方の許容設定範囲を制限する制限手段を更に備えるものであることを要旨としている。
上記構成では、上記再噴射の噴射量や噴射時期の許容設定範囲の制限により、その実施に伴うインジェクタノイズがノック判定期間に重なることが回避されるようになっている。そのため、再噴射の実施に伴うインジェクタノイズの影響によるノッキング検出精度の低下を比較的容易に回避することができる。
以下、本発明を具体化したエンジンのノック制御装置の一実施形態を、図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るノック制御装置の適用されるエンジン1の模式構造を示す。同図に示すようにエンジン1のシリンダブロックは、第1バンク2a及び第2バンク2bの2つのバンクを備えて構成されている。そしてエンジン1は、シリンダブロックの各バンクにそれぞれ3つずつ、都合6つの気筒が配設されたV型6気筒エンジンとして構成されている。ここでは上記6つの気筒を点火順序の順に、第1気筒#1、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5、第6気筒#6と記載して区別する。なおこのエンジン1では、第1バンク2aには、第1気筒#1、第3気筒#3及び第5気筒#5の奇数番の気筒が配置され、第2バンク2bには、第2気筒#2、第4気筒#4及び第6気筒#6の偶数番の気筒が配置されている。
なお、このエンジン1では、上述したようなノックセンサ21a,21bが上記バンク毎に設けられている。第1バンク2aのノックセンサ21aは上記第3気筒#3の近傍に配設され、第2バンク2bのノックセンサ21bは上記第4気筒#4の近傍に配設されている。
エンジン1の吸気通路3には、吸入空気量GAを検出するエアフローメータ4及び吸入空気量GAを調整するスロットルバルブ5が配設されている。吸気通路3は、スロットルバルブ5下流の吸気マニホールド6にて気筒#1〜#6毎に分岐され、吸気ポート7を介して各気筒#1〜#6にそれぞれ接続されている。吸気ポート7は2つに分岐され、吸気バルブ8を介して気筒#1〜#6に接続されている。吸気バルブ8は、所定のタイミングにて開閉動作され、吸気ポート7と気筒#1〜#6とを接続/遮断する。
なおこのエンジン1の吸気マニホールド6には、気筒#1〜#6毎にスワールコントロールバルブ9が配設されている。スワールコントロールバルブ9は、その閉弁に応じて上記分岐後の吸気ポート7の片側を閉鎖し、各気筒#1〜#6への吸気の流入を偏倚させることで筒内気流を強化する。
各気筒#1〜#6には、インジェクタ10及び点火プラグ11がそれぞれ配設されている。インジェクタ10は、気筒内に燃料を噴射し、点火プラグ11は、その噴射された燃料と空気との混合気を火花着火する。更に各気筒#1〜#6は、それぞれ2つの排気バルブ12を介して排気ポート13に接続されている。排気バルブ12は、所定のタイミングにて開閉動作され、排気ポート13と気筒#1〜#6とを接続/遮断する。
以上のように構成されたエンジン1の制御は、電子制御装置20により行われる。電子制御装置20は、エンジン制御に係る各種演算処理を実行するCPU、エンジン制御用のプログラムやデータ等の記憶されるメモリ、外部と信号を授受するための入力ポート及び出力ポートを備えて構成されている。
電子制御装置20の入力ポートには、上記ノックセンサ21a,21b及びエアフローメータ4に加え、アクセル操作量ACCPを検出するアクセルセンサ22、エンジン回転速度NEを検出するNEセンサ23、冷却水温を検出する水温センサ24等のエンジン運転状態を検出する各種センサが接続されている。また電子制御装置20の出力ポートには、上記スロットルバルブ5やスワールコントロールバルブ9、インジェクタ10、点火プラグ11等のアクチュエータの駆動回路が接続されている。そして電子制御装置20は、上記各種センサにより検出されたエンジン1の運転状態に基づき上記アクチュエータを制御することで、吸気制御やスワール制御、燃料噴射量制御、燃料噴射時期制御、点火時期制御といったエンジン制御を実行する。
例えば電子制御装置20は、エンジン回転速度やエンジン負荷等のエンジン運転状態に基づき上記スワールコントロールバルブ9の開閉を制御して、筒内気流の強度をエンジン運転状態に応じた最適な燃焼状態が得られるように調整することで、上記スワール制御を実行する。なおそうしたスワール制御の結果、筒内気流の強度が変更されると、気筒内での燃料と吸気との混合状態が変化して最適な燃料噴射時期が変化する。なお電子制御装置20は、上記スワールコントロールバルブ9の開閉は基本的にはスロットル開度TAに基づき決定し、大きくはスロットル開度TAが所定のSCV開許可判定値以上であればスワールコントロールバルブ9を開弁し、そうでなければスワールコントロールバルブ9を開弁するようにしている。
そこで本実施形態では、燃料噴射時期の算出マップとして、スワールコントロールバルブ9の閉弁時、低中負荷での開弁時、高負荷での開弁時にそれぞれ対応した3つの算出マップ、すなわちSCV閉マップ、SCV開マップ、SCV開高負荷マップを用意するようにしている。各算出マップには、エンジン回転速度及びエンジン負荷により決まる運転条件毎に、該当するスワール制御状況及びエンジン負荷状態に応じた最適な燃料噴射時期が記憶されている。そして電子制御装置20は、現状の上記スワール制御の状況及びエンジン負荷に対応した算出マップを選択し、燃料噴射時期を算出することで、スワール制御状況を含むエンジン1の運転状態に応じた最適な燃料噴射時期を設定するようにしている。
上記SCV閉マップは、スワールコントロールバルブ9の閉弁時に使用される。また上記SCV開マップは、スワールコントロールバルブ9が開弁され、且つエンジン負荷KLが所定の高負荷判定値AINJKL(例えば62%)未満のときに使用される。更に上記SCV開高負荷マップは、スワールコントロールバルブ9が開弁され、且つエンジン負荷KLが上記高負荷判定値AINJKL以上のときに使用される。このようにエンジン1では、算出態様の異なる3つの算出モードから、スワール制御の状態やエンジン負荷KLといったエンジン1の運転状況に応じて燃料噴射時期の算出に用いる算出モードを選択して燃料噴射時期の設定が行われるようになっている。
更に電子制御装置20は、上記エンジン制御の一環としてノック制御を実行する。ノック制御は、上記ノックセンサ21a,21bの出力信号に基づくノッキング検出の結果に応じて点火時期を調整することで、ノッキングの発生を防止すべく実行される。以下、そうした本実施形態におけるノック制御の詳細を、図2〜図18を併せ参照して説明する。
(ノッキング検出処理の概要)
まず本実施形態でのノッキング検出処理の概要を説明する。
ノッキング検出処理ではまず、各気筒#1〜#6の点火後にそれぞれ設定されたノック判定期間(ノック判定ゲート)における上記ノックセンサ21a,21bの出力のピークホールド値が取得され、更にその対数変換値であるノック強度LVPKが求められる。ノック判定ゲートは、検出対象気筒のノッキングの発生時期を含むように、予めその期間が設定されている。
そして上記ノック強度LVPKの分布に基づき設定されたノック判定レベルVKDと今回取得されたノック強度LVPKとの比較により、ノッキングの有無を判定する。具体的には、今回取得されたノック強度LVPKが、上記ノック判定レベルVKD以上であればノッキング有りと判定し、同ノック判定レベルVKD未満であればノッキング無しと判定する。
本実施形態では、上記ノック強度LVPKが正規分布を示すことを利用して、上記ノック判定レベルVKDを下式(2)に基づき求めている。なお下式(2)のVMED、SGMM、uは上式(1)と同様に、上記ノック強度LVPKの分布の中央値、同分布の標準偏差、u値と呼ばれる係数をそれぞれ示している。一方、下式(2)のKDUPは、上記ノック判定ゲートへのインジェクタノイズの侵入に応じて設定されるノック判定レベルVKDの嵩上量であり、その詳細については後述する。
VKD=VMED+u×SGMM+KDUP ・・・(2)
上記中央値VMEDは、統計的に求めることもできるが、ここでは演算負荷軽減のため、次の近似により求めている。すなわちここでは、今回取得されたノック強度LVPKが現状の中央値VMEDを上回っているときには(LVPK>VMED)、下式(3)のように現状の中央値VMEDに所定の更新量Δ1を加算した値に同中央値VMEDを更新する。また今回取得されたノック強度LVPKが、現状の中央値VMED以下のときには(LVPK≦VMED)、現状の中央値VMEDから上記更新量Δ1を減算した値に同中央値VMEDを更新する(VMED=VMED−Δ1)。こうした中央値VMEDの更新を続けると、正規分布の確率的性質によりその値は実際の中央値近傍に収束されていく。なおここでは上記更新量Δ1として、上記ノック強度LVPKと現状の中央値VMEDとの差を所定の係数(例えば4)で割ったものをその値として用いている(Δ1=|VMED−LVPK|/4)。
〔LVPK>VMEDのとき〕
VMED(更新後)=VMED(更新前)+Δ1 ・・・(3)
〔LVPK≦VMEDのとき〕
VMED(更新後)=VMED(更新前)−Δ1 ・・・(4)
また上記標準偏差SGMMについても、演算負荷軽減のため、やはり統計的に求めるのではなく、次のような近似により求めている。すなわちここでは、今回取得されたノック強度LVPKがその分布における図2の領域Aにある場合には(LVPK≦VMED−SGMM、又はLVPK≧VMED)、下式(5)のように現状の標準偏差SGMMに所定の更新量Δ2を加算した値に同標準偏差SGMMの値を更新する。また同図2の領域Bにある場合(VMED−SGMM<LVPK<VMED)、下式(6)のように上記更新量Δ2を2倍したものを現状の標準偏差SGMMから減算した値に同標準偏差SGMMを更新する。こうした標準偏差SGMMの更新を続けると、正規分布の確率的性質により、その値はやがて、上記領域Bの確率が概ね1/3となる値に、すなわち実際の標準偏差近傍の値に収束されていく。なおここでは上記更新量Δ2として、上記中央値VMEDの更新量Δ1を8で割ったものをその値として用いている(Δ2=Δ1/8=|VMED−LVPK|/32)。
〔LVPK≦VMED−SGMM、又はLVPK≧VMEDのとき〕
SGMM(更新後)=SGMM(更新前)+1×Δ2 ・・・(5)
〔VMED−SGMM<LVPK<VMEDのとき〕
SGMM(更新後)=SGMM(更新前)−2×Δ2 ・・・(6)
なお本実施形態では、上記ノック判定レベルVKDは、気筒#1〜#6毎に個別に求められている。そして各気筒#1〜#6のノッキングの検出は、該当気筒のノック判定レベルVKDを用いて行われるようになっている。
電子制御装置20は、こうしたノッキングの検出結果に応じてノッキングを抑制すべく点火時期の調整を行う。次に本実施形態でのノッキングの検出結果に応じた点火時期の調整態様について説明する。
電子制御装置20は、各気筒#1〜#6の点火時期の制御目標値である要求点火時期AOPを、下式(7)に基づき算出する。ここでKLMFは、現状のエンジン運転状態における点火時期の遅角限界である最大遅角点火時期で、その値はエンジン回転速度及びエンジン負荷に応じて求められる。また下式(7)のAKCSはKCSフィードバック補正値を示し、AGKNKはノック学習値を示している。
AOP=KLMF+AGKNK−AKCS ・・・(7)
電子制御装置20は、上記検出の結果、ノッキングの発生が確認されると、すなわち今回取得されたノック強度LVPKが上記ノック判定レベルVKD以上であると、該当気筒の要求点火時期AOPを遅角すべく、KCSフィードバック補正値AKCSに所定の遅角量ΔAを加算する。一方、ノッキングが発生しなくなったことが確認されると、すなわち今回取得されたノック強度LVPKが上記ノック判定レベルVKD未満であると、要求点火時期AOPを進角すべく、上記KCSフィードバック補正値AKCSから所定の進角量ΔBを減算する。この進角量ΔBは通常、上記遅角量ΔAに比して小さい値に設定されている。電子制御装置20は、こうしたKCSフィードバック補正値AKCSの調整を通じて、ノッキングの発生に応じて点火時期を遅角させ、ノッキングが発生しなくなると点火時期を進角させるようにしている。
一方、電子制御装置20は、上記KCSフィードバック補正値AKCSの絶対値が所定値よりも大きい状態(|AKCS|>A)が所定時間以上継続したときに、該KCSフィードバック補正値AKCSの絶対値を徐々に縮小するようにその値を更新する。すなわち電子制御装置20は、KCSフィードバック補正値AKCSがある正の値よりも大きい状態(AKCS>A)が継続したときには、ノック学習値AGKNKの値から所定値Bを減算する。また電子制御装置20は、これとともにKCSフィードバック補正値AKCSの値からも上記所定値Bを減算する。一方、KCSフィードバック補正値AKCSがある負の値よりも小さい状態(AKCS<−A)が継続したときには、電子制御装置20は、ノック学習値AGKNK及びKCSフィードバック補正値AKCSの値にそれぞれ所定値Bを加算する。よってノッキングの発生頻度が高く、要求点火時期AOPが遅角された状態が継続されると、上記ノック学習値AGKNKは小さい値となる。
こうして更新されたノック学習値AGKNKの値は、電子制御装置20のバックアップメモリに記憶され、機関停止中もその値が保持される。なおノック学習値AGKNKは、気筒毎、エンジン回転速度NEによって区分けされた学習領域毎に別途に求められ、記憶されている。
図3には、バックグランドノイズレベル、ノック判定レベルVKD及びノックレベルとエンジン回転速度NEとの関係が示されている。ここでバックグランドノイズレベルは、ノッキングが発生しておらず、且つ上記ノック判定ゲート内に上述の機械ノイズが全く無い状態における上記ノック強度LVPKの大きさを表し、同図におけるノック判定レベルVKDは、そうした状態で定常運転されたときのその設定値を表している。またノックレベルは、検出の必要な最小レベルのノッキングが発生したときの上記ノック強度LVPKを表している。同図に示すようにバックグランドノイズ、ノック判定レベルVKD及びノックレベルはエンジン回転速度NEの上昇と共に大きくなる。
更に同図3には、ノッキングが発生しておらず、且つ上記ノック判定ゲート内にインジェクタノイズが位置するときの上記ノック強度LVPKであるインジェクタノイズレベルとエンジン回転速度NEとの関係が併せ示されてもいる。このインジェクタノイズレベルと上記バックグランドノイズレベル、ノック判定レベルVKD及びノックレベルとの関係から、エンジン1の運転領域は、上記ノック判定ゲートへのインジェクタノイズの進入がノッキング検出に与える影響度合に応じて、次の3つの領域I〜III に区分けすることができる。
(領域I)この領域では、インジェクタノイズレベルがノックレベルと同程度、或いはノックレベルよりも大きく、インジェクタノイズとノッキングとの識別が困難であるため、ノック判定ゲート内にインジェクタノイズが存在するとノッキングを検出不能となる。したがってインジェクタノイズの発生時期を常にノック判定ゲート外としておく必要がある。このエンジン1では、エンジン回転速度NEが1400rpm未満のエンジン運転領域がこの領域Iとなっている。
(領域II)この領域では、インジェクタノイズレベルは、ノックレベルより十分小さく、両者の識別は可能である。ただし、本来のバックグランドノイズレベルよりは十分に大きいため、ノック判定ゲート内にインジェクタノイズが無い状態から有る状態へと移行した直後に、上述したような誤判定を招く虞がある。このエンジン1ではエンジン回転速度NEが1400rpm以上、且つ3900rpm以下のエンジン運転領域がそうした領域IIとなっている。
(領域III )この領域では、インジェクタノイズレベルがバックグランドノイズレベルと同程度、或いはそれよりも小さく、ノッキング検出に対するインジェクタノイズレベルの影響は十分許容できる範囲内となっている。このエンジン1では、エンジン回転速度NEが3900rpmを超えるエンジン運転領域がそうした領域III となっている。
このように上記領域I及び領域IIでは、インジェクタノイズの影響でノッキングを誤検出する虞がある。そこでノック判定ゲート内にインジェクタノイズが存在すること自体が許容できない上記領域Iでは、インジェクタノイズの発生時期が常にノック判定ゲート外となるように燃料噴射時期を予め設定しておくことで、ノッキングの誤検出を回避している。
また上記領域IIについても、可能な限りは、燃料噴射時期の設定によってインジェクタノイズの発生時期をノック判定ゲート外とするようにしてはいる。しかしながら、燃焼性の確保や上記スワール制御等の都合により、すべての運転状況でインジェクタノイズをノック判定ゲート外とすることは非常に困難となっている。
そこで本実施形態では、そうした上記領域IIでのノック判定ゲート内へのインジェクタノイズの出入りに伴うノッキングの誤検出を回避すべく、次の対策(A)、(B)を行っている。
(A)ノックセンサ21a,21bによるインジェクタノイズの検出時期を推定する。そしてその推定された検出時期が上記ノック判定ゲート外から同ゲート内への移行直前の時期にある場合、ノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更を通じて、インジェクタノイズがノック判定ゲート内で確実に検出されるようにする。
(B)インジェクタノイズの検出時期がノック判定ゲート外から同ゲート内に移行した直後に、該インジェクタノイズによる上記ノック強度LVPKの増大分、上記ノック判定レベルVKDを嵩上げする。
上記対策(A)によれば、インジェクタノイズは、ノック判定ゲートから完全に外れた状態か、完全にノック判定ゲート内に入った状態かのいずれかに規定される。すなわち、インジェクタノイズがノック判定ゲート外にあるか同ゲート内にあるかが不確かな状態や、インジェクタノイズが部分的にノック判定ゲート内に入った状態が排除され、インジェクタノイズのノック判定ゲート出入りに伴うノック強度LVPKの変化を確実に把握することができるようになる。そしてそうしたノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更直後に、上記対策(B)によるノック判定レベルVKDの嵩上げを行うことで、上記領域IIにおいてもインジェクタノイズの影響によるノッキングの誤検出を回避するようにしている。
図4は、そうした対策の施された上記領域IIでのノッキング検出処理のフローチャートを示す。同図の処理は、上記領域IIでのエンジン1の運転中、電子制御装置20により実行される。
電子制御装置20は、まずステップ10において、ゲート設定処理を実行する。このゲート設定処理において電子制御装置20は、エンジン回転速度NE等に基づき、ノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLを設定する。
次に電子制御装置20は、ステップ20においてノイズ位置算出処理を実行する。このノイズ位置検出処理において電子制御装置20は、別ロジックにて算出された燃料噴射時期及び燃料噴射量に基づき、上記ノックセンサ21a,21bによるインジェクタノイズの検出時期を算出し、推定する。本実施形態では、この処理が上記推定手段の処理に相当する。
更に続くステップ30において電子制御装置20は、ノイズ侵入判定処理を実行する。このノイズ侵入判定処理において電子制御装置20は、ノック判定ゲート内のインジェクタノイズの侵入の有無を判定する。この判定は、上記ゲート設定処理にて設定されたノック判定ゲートの開始時期及び終了時期、上記ノイズ位置算出処理にて算出されたインジェクタノイズの検出時期とに基づき行われる。
電子制御装置20は、上記ノイズ侵入判定処理にてインジェクタノイズの侵入無しと判定されたときには、処理をステップ60に進め、ノッキング発生の有無を判定するノック判定処理を実行する。このときの判定は、上述した通りに行われる。
一方、上記ノイズ侵入判定処理にてインジェクタノイズの侵入有りと判定されたときには、電子制御装置20は、ステップ40のゲート入れ処理及びステップ50の嵩上量算出処理を実行した後、ステップ60に処理を進める。
ステップ40のゲート入れ処理において電子制御装置20は、ノック判定ゲート内でインジェクタノイズが確実に検出されるようにノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更を行う。本実施形態では、この処理が上記変更手段の処理に相当する。
またステップ50の嵩上量算出処理において電子制御装置20は、ノック判定レベルVKDの嵩上量KDUPの算出を行う。本実施形態では、ここでの処理が上記嵩上手段の処理に相当する。
そしてこのときのノック判定処理は、上記ゲート入れ処理にて拡大されたノック判定ゲート、及び上記上記嵩上量算出処理にて算出された嵩上量KDUP分、嵩上げされたノック判定レベルVKDを用いて行われる。
(ゲート設定処理)
次に上記ノッキング検出処理におけるゲート設定処理(S10)の詳細を説明する。電子制御装置20は、エンジン運転中、予め設定された制御周期毎に上記ゲート設定処理を周期的に実行する。本処理において、ディフォルト状態、すなわち上記ゲート入れ処理による拡大がなされていない状態でのノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLが、図5に示す態様で設定される。
同図に示すように、ディフォルト状態での上記開始時期GOPは、一定値(例えばBTDC350°)に設定される。またディフォルト状態での上記終了時期GCLについても、通常は一定値(例えばBTDC305°)に設定される。ただし、上記ノッキングの検出結果に応じた点火時期の変更により、点火時期がある程度以上遅角された状態ではノッキングの発生時期も遅れるため、高回転速度域(例えば2500rpm以上)では、上記終了時期GCLを所定角(例えば15°)遅らせている。ここでは、上記点火時期の遅角状態を、上記ノック学習値AGKNKにより判断するようにしている。すなわち、上記ノック学習値AGKNKが所定値以下であることを条件に、上記高回転速度域での終了時期GCLの遅角が行われる。
なお以下の説明では、上記ノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLの値を、ノッキングの検出対象気筒の圧縮上死点を基準「0」とし、遅角側を正としたのクランク角[°CA(BTDC)]で表すものとする。
(ノイズ位置算出処理)
次に上記ノイズ位置算出処理(S20)の詳細を説明する。
電子制御装置20は、このノイズ位置算出処理を上記ゲート処理に続き実行する。本実施形態では、本処理でのインジェクタノイズの検出時期の算出を、次の態様で行うようにしている。
図6に、インジェクタ10に対する指令信号とインジェクタ10のニードルバルブのリフト量及びノックセンサ21a,21bの出力との関係を示す。この指令信号は、エンジン運転状況に応じて算出された燃料噴射時期より、同じく算出された燃料噴射量分の燃料を噴射可能な時間が経過するまでオンとされる。インジェクタ10は、指令信号がオンとされたことに応じてニードルバルブを開弁して燃料噴射を開始し、同指令信号がオフとされたことに応じてニードルバルブを閉弁して燃料噴射を終了するようにしている。
同図に示すように、指令信号がオン、オフとされてから実際にニードルバルブが開弁、閉弁されるまでには、ある程度の遅れがある。インジェクタノイズは、インジェクタ10のニードルバルブの開弁、閉弁に応じて発生されるが、そうしたノイズがインジェクタ10からシリンダブロックを介してノックセンサ21a、21bに伝達される迄には更に遅れが生じる。
なお、そうしたインジェクタ10の作動遅れや振動の伝達遅れの時間及びノイズの発生時間を予め実験等で求めておくことができる。そして上記ノイズ位置算出処理では、そうして求められた時間に応じてインジェクタノイズの検出時期の算出を行うようにしている。
例えばインジェクタ10のニードルバルブの開弁に伴うインジェクタノイズ、すなわちインジェクタ開ノイズの検出の開始時期AONS及び終了時期AONEは、下式(8)、(9)によりそれぞれ算出される。なお下式(8),(9)にて求められる開始時期AONS及び終了時期AONEは、BTDCのクランク角、すなわちノッキングの検出対象気筒の圧縮上死点を基準「0」とし、遅角側を正としたクランク角[°CA]で表される。
AONS=AINJI−ONDLY ・・・(8)
AONE=AINJI−ONINT−ONDLY ・・・(9)
ここで上式(8)、(9)のAINJI、ONDLY、ONINTはそれぞれ次の値となっている。
AINJI:別途ルーチンにて算出される燃料噴射時期[°CA(BTDC)]。
ONDLY:上記インジェクタ10の指令信号がオンとされてから上記インジェクタ開ノイズがノックセンサ21a,21bにより検出されるまでの遅れ時間[秒]についての現状のエンジン回転速度NEに応じたクランク角換算値[°CA]。
ONINT:上記ノックセンサ21a,21bによるインジェクタ開ノイズの検出の継続時間[秒]についての現状のエンジン回転速度NEに応じたクランク角換算値[°CA]。
一方、上記インジェクタ10のニードルバルブの閉弁に伴うインジェクタノイズ、すなわちインジェクタ閉ノイズの検出の開始時期ACNS及び終了時期ACNEは、下式(10)、(11)によりそれぞれ算出される。下式(10),(11)にて求められる開始時期ACNS及び終了時期ACNEも、BTDCのクランク角で、すなわちノッキングの検出対象気筒の圧縮上死点を基準「0」とし、遅角側を正としたクランク角[°CA]で表される。
ACNS=AINJI−TAUINT−CNDLY ・・・(10)
ACNE=AINJI−TAUINT−CNINT−CNDLY ・・・(11)
ここで上式(10)、(11)のTAUINT、CNDLY、CNINTはそれぞれ次の値となっている。
TAUINT:別途ルーチンで算出された燃料噴射量指令値、すなわちインジェクタ10の要求燃料噴射時間[秒]についての現状のエンジン回転速度NEに応じたクランク角換算値[°CA]。
CNDLY:上記インジェクタ10の指令信号がオフとされてから上記インジェクタ閉ノイズがノックセンサ21a,21bにより検出されるまでの遅れ時間[秒]についての現状のエンジン回転速度NEに応じたクランク角換算値[°CA]。
CNINT:上記ノックセンサ21a,21bによるインジェクタ閉ノイズの検出の継続時間[秒]についての現状のエンジン回転速度NEに応じたクランク角換算値[°CA]。
ちなみに電子制御装置20は、上記ノイズ位置算出処理において、上記ノック判定ゲートへの侵入の可能性の有るインジェクタ開閉ノイズのすべてを対象として、その検出の開始時期及び終了時期を算出する。
(ノイズ侵入判定処理)
次に上記ノイズ侵入判定処理(S30)の詳細を説明する。
本実施形態では、上記ノック判定ゲートの開始時期近傍及び終了時期近傍にそれぞれ侵入判定区間を設定している。そして電子制御装置20は、本処理において、上記ノイズ位置算出処理にて算出されたインジェクタ開閉ノイズの検出時期がその侵入判定区間に位置するとき、インジェクタノイズのノック判定ゲートの出入り状態である旨示すゲート拡大フラグをオンにセットする。
図7は、本実施形態での上記侵入判定区間の設定態様を示している。同図に示すように侵入判定区間は、上記ゲート設定処理にて設定されたディフォルトのノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLをそれぞれ基準として設定されている。
例えばノック判定ゲートの開始時期GOPについての侵入判定区間であるゲート開側判定区間は、該開始時期GOPよりも所定のオフセット角OF1前から同開始時期GOPよりも所定のオフセット角OF2後の区間に設定される。そして上記ノイズ位置算出処理で算出されたインジェクタノイズ検出の終了時期AONE,ACNEが、その区間(GOP−OF1〜GOP+OF2)に位置することをもって開側ゲート拡大フラグXNOGAをオンとする。すなわち開側ゲート拡大フラグXNOGAは、下記条件(A1)、(A2)の少なくとも一方の満たされるときにオンにセットされ、それ以外ではオフにセットされる。
(A1)GOP+OF1+H1≧AONE≧GOP−OF2−H2のとき。
(A2)GOP+OF1+H1≧ACNE≧GOP−OF2−H2のとき。
ここでH1、H2は、上記開側ゲート拡大フラグXNOGAのオン・オフのハンチングを防止すべく設定されたヒステリシスとなっている。ここではヒステリシスH1,H2は、開側ゲート拡大フラグXNOGAのオフ時には0[°CA]に、オン時にはそれぞれ所定の値hys1,hys2(例えばhys1,hys2=3[°CA])に設定される。
一方、ノック判定ゲートの終了時期GCLについての侵入判定区間であるゲート閉側判定区間は、該終了時期GCLのオフセット角OF2前から同終了時期GCLのオフセット角OF1後までの区間に設定される。そして上記算出されたインジェクタノイズ検出の開始時期AONS,ACNSがこの区間(GCL−OF2〜GCL+OF1)に位置することをもって閉側ゲート拡大フラグXNCGAをオンとする。すなわち閉側ゲート拡大フラグXNCGAは、下記条件(B1)、(B2)の少なくとも一方の満たされるときにオンにセットされ、それ以外のときにオフにセットされる。
(B1)GCL+OF2+H4≧AONS≧GCL−OF1−H3のとき。
(B2)GCL+OF2+H4≧ACNS≧GCL−OF1−H3のとき。
ここでH3、H4は、上記閉側ゲート拡大フラグXNCGAのオン・オフのハンチングを防止すべく設定されたヒステリシスとなっている。ここではヒステリシスH3,H4は、閉側ゲート拡大フラグXNCGAのオフ時には0[°CA]に、オン時にはそれぞれ所定の値hys3,hys4(例えばhys3,hys4=3[°CA])に設定されている。
ちなみに上記オフセット角OF1は、インジェクタノイズの検出時期や検出時間のばらつきを考慮して、インジェクタノイズがノック判定ゲートに入る前に、確実に上記各ゲート拡大フラグがオンとなるようにその大きさが設定されている。また上記オフセット角OF2は、上記ディフォルト状態のノック判定ゲート内で確実に検出可能となるまでインジェクタノイズが侵入したときに、上記各ゲート拡大フラグがオフとされるようにその大きさが設定されている。
したがってインジェクタノイズがノック判定ゲート内に侵入する可能性の有る状態となったときに、上記開側ゲート拡大フラグXNOGA及び閉側ゲート拡大フラグXNCGAのいずれかがオンとされる。そしてそのオンとされた上記開側ゲート拡大フラグXNOGA及び閉側ゲート拡大フラグXNCGAのいずれかは、インジェクタノイズがノック判定ゲートから完全に外れるか、上記ディフォルト状態のノック判定ゲートにおいてインジェクタノイズが確実に検出可能な状態となったときにオフとされる。
(ゲート入れ処理)
次に上記ゲート入れ処理(S40)の詳細を説明する。
電子制御装置20は、上記ノイズ侵入判定処理においてインジェクタノイズの検出時期が上記侵入判定区間内にあると判定されたとき、上記ノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更により、該インジェクタノイズがノック判定ゲート内で確実に検出されるようにしている。
ここではまず、上記ゲート閉側判定区間(GCL+OF2−H4〜GCL−OF1−H3)にインジェクタノイズの検出時期が侵入したときのゲート入れ処理について、図8を参照して説明する。
図8(a)に示すように上記ゲート閉側判定区間にインジェクタノイズの検出時期が侵入したときには、ノック判定ゲートの終了時期を、上記ゲート設定処理にて設定された終了時期GCLから、ゲート拡大量AGCだけ遅らせた時期AGCLに変更する。ゲート拡大量AGCは、拡大後のノック判定ゲート内で上記侵入の確認されたインジェクタノイズが確実に検出可能となるようにその値が設定される。ここでのインジェクタノイズの確実な検出とは、インジェクタノイズの検出時期のばらつき等を考慮した上で、インジェクタノイズ分のノック強度LVPKの増大が確実に生じるようになることを指す。
なお本実施形態では、電子制御装置20は、上述のSCV閉用、SCV開用、SCV高負荷用の3つの燃料噴射時期算出マップにそれぞれ対応する3つの上記ゲート拡大量AGCの算出マップを備えている。これら算出マップは、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLの2次元マップとされており、電子制御装置20のメモリに予め記憶されている。そして電子制御装置20は、現在使用中の燃料噴射時期算出マップに応じ、対応するゲート拡大量AGCの算出マップを選択して、ゲート拡大量AGCを算出するようにしている。これにより、拡大に伴い上記侵入の確認されたインジェクタノイズとは別のインジェクタノイズのノック判定ゲート内への侵入の回避や、エンジン1の運転条件によるインジェクタノイズの発生態様に拘わらず、ノック判定ゲートを適切に拡大するようにしている。
一方、図8(b)に示すように上記算出されたインジェクタノイズの検出時期が拡大前のノック判定ゲート内に完全に入った場合には、ノック判定ゲートの終了時期を本来の終了時期GCLに戻すようにしている。すなわち本実施形態では、拡大を図らずともノック判定ゲート内でインジェクタノイズを確実に検出可能な状況となった場合には、ノック判定ゲートの拡大を解除するようにしている。この場合、ノック判定ゲートを拡大しても、拡大せずとも、いずれにせよ、ノック判定ゲート内でインジェクタノイズの確実な検出が可能であることから、上記解除により、ノック判定ゲートの拡大の頻度を必要最小限に抑えるようにしている。
これに対して上記ゲート開側判定区間(GOP+OF1+H1〜GOP−OF2−H2)にインジェクタノイズの検出時期が侵入したときにも、基本的には同様にノック判定ゲートの拡大が行われる。ところがこのエンジン1では、上記ディフォルト状態のノック判定ゲートの開始時期GOPよりも少しばかり前の時期に、ノックセンサ21a、21bによるピストンスラップノイズの検出時期が位置している。そのため、ノック判定ゲートの開始時期をある程度以上に早めると、ノック判定ゲート内でピストンスラップノイズが検出されてしまい、ノッキングの検出精度に悪影響を与える虞がある。
そこで本実施形態では、図9に示すように、ノック判定ゲートの開始時期が上記ピストンスラップノイズを回避可能な進角限界値GOPMXよりも遅角側となるように、開側へのゲート拡大量AGOに上限を設定している。
ただしこうしてゲート拡大量AGOを制限すると、インジェクタノイズを確実に検出可能とするには、ゲート拡大量AGOが不足する虞がある。すなわち、上記制限により設定されたゲート拡大量AGOが本来要求されるゲート拡大量tAGOよりも少ない場合、インジェクタノイズを確実には検出できなくなってしまう虞がある。本実施形態では、そうした場合、燃料噴射時期を遅角することで対処するようにしている。
このときの開側へのゲート拡大量AGO及び上記燃料噴射時期の遅角量AINJNについても、電子制御装置20は、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに基づいてそれぞれ算出するようにしている。また電子制御装置20は、上記閉側へのゲート拡大量AGCと同様に、それらゲート拡大量AGO及び遅角量AINJNのそれぞれの算出用に、SCV閉用、SCV開用及びSCV高負荷用の3つの燃料噴射時期算出マップに各対応する3つの算出マップを備えている。そして電子制御装置20は、現在使用中の燃料噴射時期算出マップに対応した算出マップを選択して、ゲート拡大量AGO及び遅角量AINJNを算出している。
なお電子制御装置20は、上記開側へのノック判定ゲートの拡大及び燃料噴射時期の遅角を行う前の状態においても、インジェクタノイズの検出時期がノック判定ゲート内で確実に検出し得ることが確認されたときには、ノック判定ゲートの開始時期及び燃料噴射時期を、拡大、遅角前の本来の開始時期GOPに戻すようにしている。
ちなみに燃焼上の燃料噴射時期変更量の制限やピストンスラップノイズの干渉等によるノック判定ゲート拡大量の制限により、その制限一杯まで燃料噴射時期の変更及びノック判定ゲートの拡大を図っても、状況によっては、ノック判定ゲート内でインジェクタノイズが確実に検出されるようにすることが不能な場合もある。そうした場合、本実施形態では、ノック判定ゲートや燃料噴射時期を本来の設定とすることで、エンジン1の運転状態や制御性の保持を図るようにしている。
図10は、以上説明したゲート入れ処理のフローチャートを示している。本フローチャートの処理は、上記ノイズ侵入判定処理に引き続いて、電子制御装置20により実行される。
さて本処理に移行すると、電子制御装置20はまず、ステップ410において、上記開側及び閉側へのゲート拡大量AGO,AGC及び燃料噴射時期の遅角量AINJNのすべてを値0に設定し、ステップ420の処理に進む。
ステップ420において電子制御装置20は、開側ゲート拡大フラグXNOGAがオンであるか否かを判断する。ここで電子制御装置20は、開側ゲート拡大フラグXNOGAがオンであれば(YES)、ステップ425の処理を行った後、ステップ430の処理に進む。一方、開側ゲート拡大フラグXNOGAがオフであれば(S420:NO)、電子制御装置20は、ステップ425の処理をパスして、そのままステップ430の処理に進む。
ステップ425において電子制御装置20は、現在使用中の燃料噴射時期算出マップに対応した算出マップを用い、上記開側へのゲート拡大量AGO及び燃料噴射時期の遅角量AINJNを算出する。
ステップ430において電子制御装置20は、閉側ゲート拡大フラグXNCGAがオンであるか否かを判断する。ここで閉側ゲート拡大フラグXNCGAがオンであれば(YES)、電子制御装置20は、ステップ435の処理を行った後、ステップ440の処理に進む。一方、閉側ゲート拡大フラグXNCGAがオフであれば(S430:NO)、電子制御装置20は、ステップ435の処理をパスしてそのままステップ440の処理に進む。
ステップ435では、電子制御装置20は、現在使用中の燃料噴射時期算出マップに対応した算出マップを用い、上記閉側へのゲート拡大量AGCを算出する。
ステップ440において電子制御装置20は、以上により設定された開側及び閉側へのゲート拡大量AGO,AGC及び燃料噴射時期の遅角量AINJNに基づいて、最終的なノック判定ゲート及び燃料噴射時期AINJFを決定する。そしてその後、電子制御装置20は本処理を一旦終了する。
ここでの最終的なノック判定ゲートの開始時期、終了時期及び燃料噴射時期AINJFの算出は、下式(12)〜(14)に従って行われる。なお下式(14)においてAINJは、別途ルーチンで算出された本来の燃料噴射時期を示している。
最終的なノック判定ゲートの開始時期[°CA(BTDC)]
=GOP−AGO …(12)
最終的なノック判定ゲートの終了時期[°CA(BTDC)]
=GCL−AGC …(13)
最終的な燃料噴射時期AINJF=AINJ+AINJIN …(14)
(嵩上げ処理)
次に上記嵩上げ処理(S50)の詳細を説明する。電子制御装置20は、上記ノイズ侵入判定において、侵入判定区間へのインジェクタノイズの検出時期の侵入有りと判定されたときにのみ、本処理を実行する。
さて、上記ゲート入れ処理によってノック判定ゲート内でインジェクタノイズが確実に検出されるようになると、ノック強度LVPKは自ずと増大することとなる。そのため、ノック判定レベルVKDも、そうしたノック強度LVPKの増大に応じて増大させる必要がある。ただし中央値VMED及び標準偏差SGMMがそれまでのノック強度LVPKの分布に基づいて設定されており、そのままでは直ちにはノック判定レベルVKDがノック強度LVPKの増大に対して対応した適切な値とはならないことから、ノッキングの誤検出を招く虞がある。
一方、本実施形態では、上記ゲート入れ処理にて、インジェクタノイズが検出されない状態から確実に検出される状態へと強制的に一気に移行させている。そのため、このときのノック強度LVPKの変化は、概ねその予測が可能となっている。そこで本実施形態では、上記ゲート拡大及び燃料噴射時期の遅角に伴うノック強度LVPKの増大量を予測し、ノック判定レベルVKDをその分嵩上げすることで、ノッキング検出精度の悪化を回避するようにしている。ちなみに上式(2)のノック判定レベルVKDの算出式では、嵩上量KDUPがそうした嵩上げに係る項となっている。
ノック判定ゲート内でインジェクタノイズが検出されない状態から検出される状態への移行に伴うノック強度LVPKの増大量は、既存のバックグランドノイズとインジェクタノイズの検出レベルの差として求められる。ここで既存のバックグランドノイズの検出レベルは、エンジン回転速度NEやエンジン負荷KLといったエンジン1の運転条件に応じてほぼ一義的に求まる。一方、ノックセンサ21a,21bによるインジェクタノイズの検出レベルは、インジェクタノイズの発生気筒とそれを検出するノックセンサ21a,21bとの位置関係によって決まる。
本実施形態の適用されるエンジン1でのインジェクタノイズの発生位置とその検出レベルとの関係は、次のようになっている。
すなわちこのエンジン1では、上述したように第1バンク2a及び第2バンク2bにおいてそれぞれ第3気筒#3の近傍、第4気筒#4の近傍にノックセンサ21a、21bが配設されている。また各気筒#1〜#6のノッキングの検出は、検出対象となる気筒の位置するバンクに配設されたノックセンサ21a、21bの出力に基づいて行われる。ここで第1バンク2aのノックセンサ21aでのインジェクタノイズの検出レベルは、第3気筒#3>第4気筒#4>第1気筒#1及び第5気筒#5>第2気筒#2及び第6気筒#6の順となっている。また第2バンク2bのノックセンサ21bでのインジェクタノイズの検出レベルは、第4気筒#4>第3気筒#3>第2気筒#2及び第6気筒#6>第1気筒#1及び第5気筒#5の順となっている。
ここでは、各ノックセンサ21a、21bにおいて検出レベルの最も大きいの第3気筒#3、第4気筒#4のインジェクタノイズを同バンクノイズといい、次いで検出レベルの大きい第4気筒#4、第3気筒#3のインジェクタノイズを別バンクノイズという。なおこのエンジン1では、両ノックセンサ21a、21bのいずれにおいても、それら以外の気筒(#1,#2,#5,#6)で発生したインジェクタノイズの検出レベルは、元から存在するバックグランドノイズの検出レベルに対してあまり大きい差は無く、その影響は無視できる範囲となっている。
こうしたインジェクタノイズの発生位置と検出レベルとの関係を踏まえ、本実施形態では、次の3つのパターン(A)〜(C)に場合分けして上記嵩上量KDUPを算出するようにしている。
(A)ノック判定ゲート内にインジェクタノイズが全く存在しない状態から上記別バンクノイズがノック判定ゲート内に侵入したとき。
(B)ノック判定ゲート内にインジェクタノイズが全く存在しない状態から上記同バンクノイズがノック判定ゲート内に侵入したとき。
(C)ノック判定ゲート内に上記別バンクノイズが既に存在している状態から上記同バンクノイズがノック判定ゲート内に更に侵入したとき。
本実施形態では、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLとにより決まるエンジン1の運転条件毎に上記同バンクノイズ、別バンクノイズ、及びバックグランドノイズの検出レベルを予め実験等でそれぞれ求めておくようにしている。そして上記パターン(A)については、運転条件毎の別バンクノイズとバックグランドノイズとの検出レベルの差を上記嵩上量KDUPの算出マップAとして電子制御装置20のメモリに予め記憶しておき、その算出マップAを用いて嵩上量KDUPの算出を行うようにしている。また上記パターン(B)についても同様に、運転条件毎の同バンクノイズとバックグランドノイズとの検出レベルの差を上記嵩上量KDUPの算出マップBとして電子制御装置20のメモリに予め記憶しておき、その算出マップBを用いて嵩上量KDUPの算出を行うようにしている。
一方、上記パターン(C)は、図12の状態(I)から状態(II)へと移行した場合を示している。状態(I)から状態(II)へと移行すると、図13に示すように、ノック強度LVPKが増大する。上記状態(I)では、既に別バンクノイズがノック強度LVPKに折り込み済みであることから、このときのノック強度LVPKの増大量は、同バンクノイズの検出レベルβと別バンクノイズの検出レベルαとの差(β−α)となる。そこで上記パターン(C)については、運転条件毎の同バンクノイズと別バンクノイズとの検出レベルの差を上記嵩上量KDUPの算出マップCとして電子制御装置20のメモリに予め記憶しておき、その算出マップCを用いて嵩上量KDUPの算出を行うようにしている。
なお上記各算出マップA〜Cの嵩上量KDUPのマップ値には、上記各ノイズの検出レベルのばらつきを考慮して、上記各ノイズの検出レベルの差に余裕代を加えた値が記憶されている。ちなみにこのエンジン1では、上記パターン(A)〜(C)以外のインジェクタノイズの侵入パターンでは、上記ノック強度LVPKの増大はほとんど生じないため、特にノック判定レベルVKDの嵩上げは行わないようにしている。すなわち、上記パターン(A)〜(C)以外の侵入パターンでは、嵩上量KDUPは値0のまま保持される。
図14は、ノック判定レベルVKDの嵩上げに係る電子制御装置20の制御態様の一例を示している。同図の例では、時刻t1に侵入判定区間へのインジェクタノイズの侵入が確認されている。これに伴い、上記の如くノック判定ゲート内でインジェクタノイズを確実に検出可能とすべく、上記ゲート入れ処理にてノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の遅角が行われ、その結果、ノック強度LVPKが増大している。
ここで同図に破線で示すように、そのまま成り行きに任せ、上記嵩上げを行わずにノック判定レベルVKDの更新を続ければ、上記ノック強度LVPKの増大に追従できずに、ノッキングの誤検出を招いてしまうようになる。そこで本実施形態では、時刻t1において、インジェクタノイズの侵入パターン及びエンジン1の運転条件に応じて、上記ノック強度LVPKの増大量を予測し、その分(+余裕代)のノック判定レベルVKDの嵩上げを実施する。これにより、インジェクタノイズ侵入に伴う上記ノック強度LVPKの増大に対応してノック判定レベルVKDも十分に増大されることから、インジェクタノイズ侵入直後のノッキングの誤検出は回避されるようになる。
時刻t1以降、ノック強度LVPKの分布の中央値VMED及び標準偏差SGMMは、インジェクタノイズの侵入に伴うノック強度LVPKの増大に応じて更新されていく。そしてその結果、上式(2)のノック判定レベルVKDの算出式における嵩上量KDUP以外の項(VMED+u×SGMM)の値が徐々に増大されるようになる。そのため、時刻t1以降も、上記嵩上量KDUPの値を一定のまま保持すれば、同図に二点鎖線で示すようにノック判定レベルVKDの値が不必要に増大してしまうようになる。
そこで本実施形態では、時刻t1以降、嵩上量KDUPの値を徐々に減衰させていくように、すなわち徐々に値0に近づけていくようにしている。ここでは、そうした嵩上量KDUPの減衰を、次の態様で行うようにしている。
まず電子制御装置20は、上記インジェクタノイズの侵入が確認され、上記の如く嵩上量KDUPが算出されると、その算出された値を今回のインジェクタノイズの侵入に際してのノック判定レベルVKDの初期値として設定する。そしてその嵩上量KDUPの初期値に応じ、減衰量KDUPDECを算出する。そしてノッキング検出処理の制御周期毎に、その減衰量KDUPDECずつ、嵩上量KDUPを低減させるようにしている。こうした嵩上量KDUPの低減は、上式(2)の嵩上量KDUP以外の項(VMED+u×SGMM)の値が、インジェクタノイズの侵入に伴い増大したノック強度LVPKを十分に上回り、嵩上げを行わずともノッキングの誤検出が生じなくなるまで継続される。
本実施形態では、嵩上げ開始からの経過時間を嵩上カウンタCKDUPの値で表すようにしている。嵩上カウンタCKDUPは、嵩上げ開始時に値0に設定され、その後、ノッキング検出処理の制御周期毎にインクリメントされている。そして嵩上カウンタCKDUPが嵩上終了判定値γ以上となるまで、上記減衰量KDUPDECによる嵩上量KDUPの低減を繰返し実行する。なお嵩上終了判定値γは、ノッキングの誤検出が生じなくなるまで、嵩上量KDUPの減衰が継続されるようにその値が予め設定されている。本実施形態では、嵩上終了判定値γを固定値としているが、上記嵩上量KDUPの初期値等に応じてその値を可変設定するようにしても良い。
なお、上記減衰量KDUPDECは、嵩上量KDUPの初期値に拘わらず、上記嵩上量KDUPの減衰の終了時に同嵩上量KDUPがほぼ値0となるようにその値が設定されるようになっている。すなわち同図に線L1で示すように嵩上量KDUPの初期値が比較的大きいときにも、同図に線L2で示すように嵩上量KDUPの初期値が比較的小さいときにも、減衰終了時の同嵩上量KDUPはほぼ一律の小さい値となるように、上記減衰量KDUPDECの値が設定されている。そのため、初期値が大きいときには嵩上量KDUPは速やかに減衰され、初期値が小さいときには嵩上量KDUPは緩やかに減衰されるようになる。
図15は、本実施形態における嵩上量算出処理のフローチャートを示している。電子制御装置20は、本フローチャートの処理を、上記開側ゲート拡大フラグXNOGA及び閉側ゲート拡大フラグXNCGAのいずれかがオンとされているときに、上記ノイズ侵入判定処理後に実行する。
さて本処理に移行すると、電子制御装置20はまずステップ510において、現在燃料カット中であるか否かを判断する。燃料カット中は燃料噴射が停止されるため、インジェクタノイズは発生しない。ただし燃料噴射量や燃料噴射時期の算出は燃料カット中も継続されるため、計算上は、上記侵入判定区間へのインジェクタノイズの侵入有りと判定されることがある。そうした状態で不必要にノック判定レベルVKDの嵩上げを行っても、燃料カット復帰時のノッキング検出に好ましくない影響を与えるだけであるため、嵩上げは実施しないようにしている。すなわち燃料カット中であれば(S510:YES)、電子制御装置20は、ステップ515において、嵩上量KDUPを値0に設定してそのまま本処理を一旦終了する。
電子制御装置20は、燃料カット中でなければ(S510:NO)、処理をステップ520に進める。そしてステップ520において電子制御装置20は、上記開側ゲート拡大フラグXNOGA及び閉側ゲート拡大フラグXNCGAのいずれかが今回の制御周期においてオフからオンに切替えられたか否かを判断する。電子制御装置20は、ここで否定判断されたときには(NO)、処理をステップ540に進め、肯定判断されたときには(YES)、処理をステップ530に進める。
ステップ530、532において電子制御装置20は、今回のインジェクタノイズの侵入パターンが上記パターン(A)〜(C)のいずれであるかの識別を行う。
ここで今回の侵入パターンが上記パターン(A)にあると判断されたときには(S530:YES)、電子制御装置20は、ステップ534において上記算出マップAを用いて、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに基づき上記嵩上量KDUPを算出した後、処理をステップ550に進める。また今回の侵入パターンが上記パターン(B)にあると判断されたときには(S530:NO、S532:NO)、電子制御装置20は、ステップ536において上記算出マップBを用いてエンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに基づき上記嵩上量KDUPを算出した後、処理をステップ550に進める。更に今回の侵入パターンが上記パターン(C)であれば(S530:NO、S532:YES)、電子制御装置20は、ステップ538にて上記算出マップCを用いて、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに基づき上記嵩上量KDUPを算出した後、処理をステップ550に進める。そして電子制御装置20は、ステップ550において、上記嵩上カウンタCKDUPを初期化、すなわちその値を0とした後、本処理を一旦終了する。以上のステップ534、536、538にて算出される嵩上量KDUPは、今回のインジェクタノイズの侵入に対するノック判定レベルVKDの嵩上げ処理における嵩上量KDUPの初期値となる。
さてこうして嵩上量KDUPの初期値が設定された後の制御周期においても上記侵入判定区間へのインジェクタノイズの侵入が継続されている場合には、電子制御装置20の処理はステップ540に移行される。
ステップ540において電子制御装置20は、嵩上カウンタCKDUPの値が嵩上終了判定値γ以上であるか否かを判断する。ここで電子制御装置20は、嵩上カウンタCKDUPの値が嵩上終了判定値γ以上であれば(YES)、処理をステップ515に進め、嵩上量KDUPを上記の如く値0に設定して、今回のインジェクタノイズの侵入に対するノック判定レベルVKDの嵩上げを終了する。
一方、嵩上カウンタCKDUPの値が未だ嵩上終了判定値γ未満であれば(S540:NO)、電子制御装置20は、処理をステップ550に進める。そしてステップ550において電子制御装置20は、上記の如く設定された減衰量KDUPDECを現状の嵩上量KDUPから減算した値に、嵩上量KDUPを更新する。そして電子制御装置20は、ステップ544において嵩上カウンタCKDUPをインクリメントした後、本処理を一旦終了する。
(再噴射制限処理)
なおこのエンジン1では、再噴射制御が実行されている。再噴射制御は、通常の燃料噴射量の算出時期後に加速要求があったとき、通常の燃料噴射に加えて更なる燃料噴射(再噴射)を実施することで、急な加速要求に対するエンジン出力の応答性を確保するために行われる。
再噴射制御では、例えば下記の条件(C1)〜(C3)等がすべて満たされたことをもって上記再噴射を実施する。
(C1)エンジン回転速度NEが一定値(例えば3200rpm)以下である。
(C2)アイドル運転時でない。
(C3)通常の燃料噴射についての燃料噴射量、燃料噴射時期の算出が完了する時期(例えばBTDC450°CA)から再噴射実行時期(例えばBTDC180°CA)までに、要求負荷が所定値以上増大された。
こうした再噴射実施の可否は、上記要求負荷の増大が確認された時点で不定期に判断される。そのため、再噴射の実施に伴うインジェクタノイズ(以下、再噴射ノイズと記載する)の検出時期の予測は困難であり、再噴射ノイズを対象としては、演算時間を確保できず、上記ノック判定ゲートの拡大やノック判定レベルVKDの嵩上げ等によっても対処し切れなくなる虞がある。
一方、上記エンジン1では、上記ディフォルト状態の、すなわち拡大前のノック判定ゲートは、再噴射ノイズの検出時期を避けるように設定されているが、ノック判定ゲートが拡大されると再噴射ノイズの検出時期が同ゲート内に侵入することがある。具体的には、このエンジン1では、上記閉側のゲート拡大量AGCが所定値F(例えば4°CA)以上となると、再噴射ノイズの検出時期がノック判定ゲート内となる。
本実施形態では、そうした再噴射ノイズによるノッキングの誤検出を回避すべく、再噴射の実施や再噴射時期、再噴射量を制限する再噴射制限処理が電子制御装置20によって実行されている。図16はそうした再噴射制限処理のフローチャートを示している。本処理は、エンジン1の運転中、電子制御装置20により周期的に繰返し実行されている。
さて本処理が開始されると、電子制御装置20はまずステップ700において、再噴射ノイズの検出時期がノック判定ゲート内に有るか否かを判断する。ここでは、上記閉側のゲート拡大量AGCが所定値F(例えば4°CA)以上であるとき、再噴射ノイズの検出時期がノック判定ゲート内に有る旨判断するようにしている。電子制御装置20は、ここで肯定判断されたときには(YES)、処理をステップ710に進める。一方、電子制御装置20は、ここで否定判断されたときには(NO)、処理をステップ740に進め、そのステップ740において再噴射を許可した後、本処理を一旦終了する。
ステップ710において電子制御装置20は、上記同バンクノイズが既にノック判定ゲート内に存在しているか否かを判断する。ここで電子制御装置20は、上記同バンクノイズがノック判定ゲート内に存在していなければ(NO)、ステップ720において再噴射の実施を禁止して本処理を一旦終了する。
一方、上記同バンクノイズがノック判定ゲート内に存在していれば(S710:YES)、処理をステップ730に進める。ここで図17に示すように、上記同バンクノイズが既にノック判定ゲート内に存在しているときには、ノック強度LVPKは既に増大しており、そこに再噴射ノイズが更に加わったとしてもノック強度LVPKの更なる増大は無く、ノッキングの誤検出を招くことはない。そのため、ここでは、たとえ再噴射ノイズの検出時期がノック判定ゲート内に有ったとしても、同バンクノイズが既存であれば、再噴射の実施を禁止することまではしないようにしている。
ただしその場合にも、再噴射の実施期間が長くなると、次に点火順序を迎える気筒のノッキング検出用のノック判定ゲートに再噴射ノイズの検出時期が重なってしまう虞がある。そこで電子制御装置20は、再噴射の実施は許可するものの、ステップ730において次のノック判定ゲートに重なることの無いように再噴射の噴射量に上限条件を設定して、本処理を一旦終了する。
なおこのエンジン1では、冷却水温が上記KCS許可温度未満ではノッキングの検出は行うものの、その検出結果に基づく点火時期の調整は行われておらず、再噴射ノイズがエンジン1の運転状態に影響を与えることは無い。そのため、不必要に再噴射の制限を回避すべく、たとえ再噴射ノイズの検出時期がノック判定ゲート内に有る場合にも、冷却水温が上記KCS許可温度未満の時には、上記のような再噴射の実施の可否やその噴射量に対する制限は行わないようにしている。
ちなみに本実施形態では、図16のステップ700が上記判定手段の処理に相当し、ステップ720が上記再噴射禁止手段の処理に相当する。またステップ730が上記制限手段の処理に相当する。
(スワール制御の制限)
上述したようにエンジン1では、燃料噴射時期の算出用にSCV閉マップ、SCV開マップ、SCV開高負荷マップの3つの算出マップを備え、スワール制御の状態に応じてそれら算出マップを選択的に切替えつつ、燃料噴射時期を算出するようにしている。
一方、図3のように区分けされたエンジン1の3つの運転領域のうち、低エンジン回転速度の上記領域Iは、インジェクタノイズの検出レベルに比してバックグランドノイズの検出レベルが著しく小さいため、ノック判定ゲート内のインジェクタノイズの存在が一切許容できない領域となっている。ところがそうした領域IでのSCV開マップでは、燃焼性確保の都合、インジェクタノイズの検出時期を完全にノック判定ゲート外とするような燃料噴射時期を設定することができず、そのままではノッキングの誤検出は避け難い状態となっている。
そこで本実施形態では、スワールコントロールバルブ9の閉弁条件を下記のように設定することで、上記領域Iでの上記SCV開マップの使用を禁止するようにしている。すなわち、電子制御装置20は、下記条件(E1)が成立するとき、下記条件(E2)が成立するときのいずれかであれば、スワールコントロールバルブ9を閉弁する。一方、電子制御装置20は、下記条件(E1)、(E2)のいずれも成立しないのであれば、スワールコントロールバルブ9を開弁するようにしている。
(E1)スロットル開度TAが、上記SCV開許可判定値TASCV未満である(TA<TASCV)。
(E2)エンジン負荷KLが、上記SCV開高負荷マップ使用の下限条件である上記高負荷判定値AINJKL(例えば62%)未満であり、且つエンジン回転速度NEが所定の低回転判定値AINJNE未満である(KL<AINJKL、且つNE<AINJNE)。なお上記低回転判定値AINJNEは、上記領域Iと領域IIとの境界条件となるエンジン回転速度(1500rpm)よりも若干高いエンジン回転速度(例えば1700rpm)に設定されている。
したがって本実施形態での上記3つの燃料噴射時期算出マップの使用領域の区分けは、図18に示す通りとなる。このように上記領域Iでは、SCV開マップが使用されることの無いようにスワール制御が行われるため、ノック判定ゲート内へのインジェクタノイズの検出時期の侵入を回避し、ノッキングの検出精度を好適に確保することができる。
以上説明した本実施形態によれば、次の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、インジェクタノイズの検出時期を予測すると共に、そのインジェクタノイズの上記侵入判定区間への侵入に応じて、ノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の遅角を通じて該インジェクタノイズがノック判定ゲート内で確実に検出されるようにしている。これによりインジェクタノイズのノック判定ゲートへの侵入の有無、その侵入に伴うノック強度LVPKの変化を容易且つ確実に予測可能となり、その影響によるノッキング検出の精度低下の抑制を容易とすることができる。
(2)本実施形態では、ノック判定ゲート内へのインジェクタノイズの強制移行に係るノック判定ゲートの拡大量や点火時期の変更量を、エンジン回転速度やエンジン負荷に応じて可変設定するようにしている。そのため、エンジン運転状態の変化に伴うインジェクタノイズの検出期間や検出時期のばらつき度合の変化に拘わらず、上記強制移行を的確に行うことができる。
(3)本実施形態では更に、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに基づくノック判定ゲートの拡大量や点火時期の変更量の算出マップを、燃料噴射時期の算出マップ毎に切替えるようにしている。すなわち燃料噴射時期の算出モードの変更に応じて、ノック判定ゲートの拡大量や点火時期の変更量の算出態様を変更するようにしている。そのため、燃料噴射時期の算出モードの変更に伴うノック判定期間の許容変更範囲やインジェクタノイズの発生態様等に変化に柔軟且つ適切な対応したノック判定ゲートの拡大量や点火時期の変更量の設定が可能となる。
(4)本実施形態では、インジェクタノイズの検出時期の有る側のみに向けて上記ノック判定ゲートの拡大を行うようにしているため、不必要なノック判定ゲートの拡大を抑え、上記強制移行を効率的に行うことができる。
(5)本実施形態では、ノック拝呈ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更の実施中に、それらの拡大、変更を行う前の初期状態においても、ノック判定ゲート内でのインジェクタノイズの確実な検出が可能なことが確認されたときには、それらの拡大や変更を解除するようにしている。これにより、ノック判定ゲートや燃料噴射時期の不必要な変更を防止して、それらの変更がエンジン1の運転状態や他のエンジン制御の制御性に与える影響を極力抑えるようにしている。
(6)本実施形態では、ノック判定ゲートでのインジェクタノイズの確実な検出を許容するノック判定ゲートや燃料噴射時期の変更が不能な場合には、それらの変更を一切行わず、本来の設定値とするようにしている。これによっても、ノック判定ゲートや燃料噴射時期の不必要な変更が防止され、それらの変更がエンジン1の運転状態や他のエンジン制御の制御性に与える影響が極力抑えられるようになる。
(7)本実施形態では、ノック判定ゲートの拡大や燃料噴射時期の変更によるインジェクタノイズのノック判定ゲート内への強制移行と共に、ノック判定レベルVKDを嵩上げするようにしている。そのため、上記強制移行時のノック強度LVPKの増大に対するノック判定レベルVKDの追従遅れに起因したノッキングの誤検出が好適に防止されるようになる。
(8)本実施形態では、上記強制移行の開始後、上記ノック判定レベルVKDの嵩上量KDUPを徐々に減衰させるようにしている。そのため、上記強制移行の開始以降のノック強度LVPKの増大に対するノック判定レベルVKDの追従の結果、ノック判定レベルVKDが過剰に増大されてしまうことが好適に回避されるようになる。
(9)本実施形態では、嵩上げ開始から一定の時間が経過した時点で、ノック判定レベルVKDの嵩上げを解除するようにしているため、嵩上げの不必要な継続が回避され、平常のノック制御に早期復帰を図ることができるようになる。
(10)本実施形態では、インジェクタノイズの発生する気筒とノックセンサ21a、21bの配設位置との関係に応じて、上記ノック判定レベルVKDの嵩上量KDUPの初期値の大きさを可変設定するようにしている。そのため、発生気筒によるインジェクタノイズの検出レベルの差異に拘わらず、嵩上量KDUPを的確に設定することができる。
(11)本実施形態では、上記嵩上量KDUPの初期値を、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLに応じて可変設定するようにしている。そのため、エンジン1の運転条件毎のバックグランドノイズやインジェクタノイズの検出レベルの差異に拘わらず、嵩上量KDUPを的確に設定することができる。
(12)本実施形態では、再噴射の実施時期がノック判定ゲートと重なる除去卯となったときには、再噴射の実施を禁止するようにしている。そのため、発生時期、検出時期の予測の困難な、再噴射に伴うインジェクタノイズの影響によるノッキング検出精度の低下についても、容易に回避することができる。
(13)本実施形態では、再噴射の実施に伴うインジェクタノイズの検出時期がノック判定ゲートと重なりを避けるべく、再噴射の噴射量を制限している。そのため、再噴射の実施に伴うインジェクタノイズの影響によるノッキング検出精度の低下を比較的容易に回避することができる。
(その他の実施形態)
次に上記実施形態の変形例を説明する。
(変形例1)
上記実施形態では、開始時期GOPの進角又は終了時期GCLの遅角によるノック判定ゲートの拡大を通じて、侵入判定区間に侵入したインジェクタノイズがノック判定ゲート内で検出されるようにノック判定ゲートの変更を行っていた。これに対してノック判定ゲートの長さを一定に維持したまま、その開始時期及び終了時期を変更することでも同様の変更を行うができる。例えば図19に示すように上記閉側の侵入判定区間にインジェクタノイズが侵入した場合、ノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLを同量ずつ遅角して、ゲート全体を遅角側にスライドさせるようにする。こうした場合にも、ノック判定ゲートを拡大する場合と同様に、侵入判定区間に侵入したインジェクタノイズが同ゲート内で確実に検出されるようにすることができる。
なおこうした場合のノック判定ゲートの開始時期GOP及び終了時期GCLの変更量についても、上記ゲート拡大量AGO、AGCと同様にエンジン回転速度NEやエンジン負荷に応じて可変設定するようにしても良い。そうした場合、エンジン回転速度やエンジン負荷の変化によるインジェクタノイズの検出期間や検出時期のばらつき度合に応じて、より適切にノック判定期間の変更を行うことができる。また上記ゲート拡大量AGO、AGCと同様に、燃料噴射時期の算出マップ毎に上記開始時期GOP及び終了時期GCLの変更量の算出マップを用意し、現在使用中の燃料噴射時期算出マップに応じて、使用する算出マップを切替えて同変更量の算出を行うようにしても良い。
(変形例2)
上記ノック判定ゲートの変更や燃料噴射時期の変更以外に、ノック判定ゲート内に通常の燃料噴射とは別の更なる燃料噴射(ダミー噴射)を実施することでも、ノック判定ゲート内でインジェクタノイズが確実に検出されるようにすることができる。
すなわち図20に示すように侵入判定区間に通常の燃料噴射に係るインジェクタノイズの侵入が確認されたとき、ノック判定ゲート内でインジェクタ10からダミー噴射を強制実施する。これにより、そのダミー噴射の実施に伴うインジェクタノイズがノック判定ゲート内で検出されるようになり、たとえ通常の燃料噴射に伴うインジェクタノイズがノック判定ゲート内で検出され無くとも、ノック強度LVPKはそれが検出された場合と同様に増大されるようになる。
なおここでは、上記ダミー噴射の燃料噴射量を燃焼に影響しない量に限定して行うようにしている。そのため出力等のエンジン1の運転状態に与える影響を抑えつつ、ダミー噴射を実施することができる。
(変形例3)
ノック判定ゲート内でインジェクタノイズが確実に検出されるようにノック判定ゲートや燃料噴射時期を変更したとき、ノック強度LVPKの分布の中央値VMEDや標準偏差SGMMに嵩上量を直接加算することで、ノック判定レベルVKDの嵩上げを行うこともできる。
例えば図21では、上記変更の行われた時刻t1に、上記中央値VMEDに嵩上量VMUPを直接加算することで、ノック判定レベルVKDの嵩上げを行っている。このときの嵩上量は、ノック判定ゲート内へのインジェクタノイズの侵入に伴うノック強度LVPKの増大量の予測値に、若干の余裕代を加えたものがその値に設定される。こうした嵩上量VMUPの値は、上記実施形態での嵩上量KDUPと同様に、エンジン回転速度NE、エンジン負荷KLや上記インジェクタノイズの侵入パターンに応じて可変設定するようにしても良い。
ちなみにこの場合には、時刻t1以降、嵩上量VMUPが中央値VMEDに加算された状態を基準としてノック判定レベルVKDの更新が行われるようになる。そのため、時刻t1における中央値VMEDへの上記嵩上量VMUPの加算後は、上記実施形態での嵩上量KDUPの減衰のような数値の操作は特に行う必要はない。
またこうした場合には、インジェクタノイズをノック判定ゲート内に強制移行させた直後に、ノック判定レベルVKDの中央値VMEDがその移行後の増大したノック強度LVPKに応じた値の近傍となるため、ノック強度LVPKの変化に対するノック判定レベルVKDの追従遅れを効果的に縮小することができるようにもなる。
(変形例4)
上記実施形態及びその変形例では、ノック判定ゲート内へのインジェクタノイズの強制移行後にノック判定レベルVKDを嵩上げすることで、ノッキングの誤検出を回避するようにしていたが、次のような対応によってもその回避は可能である。
上記のようなノック判定レベルVKDの嵩上げを行わない場合、ノック判定期間内にインジェクタノイズが強制移行に伴うノック強度LVPKの増大に対するノック判定レベルVKDの追従遅れのため、上記強制移行からある程度の時間が経過するまでは、ノッキングの誤検出が生じる虞がある。そこで、上記強制移行後、一定の時間が経過する迄は、ノッキングの検出結果に基づくノック抑制制御、すなわちノッキングの検出に応じた点火時期の遅角を禁止するようにしている。ちなみにこうした処理が、上記禁止手段の処理に相当する。
そのため、たとえノック判定レベルVKDの追従遅れによりノッキングが誤検出されたとしても、その検出結果に基づき不適切に点火時期が遅角されることはなく、エンジン1の運転には影響しないようになる。なお、ノッキングの検出結果に基づく点火時期の調整を禁止する上記一定の時間としては、ノック判定期間内へのインジェクタノイズの強制移行に伴うノック強度LVPKの増大に対するノック判定レベルVKDの追従遅れがノッキングの誤検出を生じさせない程度まで十分に縮小可能な時間に設定すれば良い。
(変形例5)
上記実施形態及びその変形例では、インジェクタノイズを対象としてノッキング検出の精度低下の抑制を図るようにしていたが、それ以外の機械ノイズを対象として上記実施形態及びその変形例に準じた態様で本発明を適用することができる。
図22は、例えば機関バルブ、すなわち吸気バルブ8や排気バルブ12の開閉時の着座音による機械ノイズを対象としてその影響によるノッキング検出の精度低下の抑制を図る場合の制御例を示している。同図に示すように、排気バルブ12及び吸気バルブ8の開弁及び閉弁に応じて、それらの弁体の着座に伴う機械ノイズ、すなわちバルブノイズがノックセンサ21a、21bの出力に検出される。
こうしたバルブノイズのノックセンサ21a,21bによる検出時期を推定し、上記インジェクタノイズと同様の対応をすることで、その影響によるノッキング検出精度の低下を抑制することができる。なお機関バルブの開閉時期を可変とする可変動弁機構を搭載するエンジンであれば、バルブノイズの発生時期を変更することが可能となり、その変更を通じてノック判定ゲート内にバルブノイズの検出時期を強制移行させることもできる。同図21の制御例では、吸気バルブ8の開閉時期を進角することで、その閉弁に伴うバルブノイズをノック判定ゲート内に強制移行させ、同ゲート内でそのバルブノイズをノックセンサ21a、21bにより確実に検出するようにしている。
以上説明した本発明の実施形態及びその変形例は、更に次のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態での再噴射制限処理、スワール制御の制限は、エンジン1の構成やその制御の態様によっては、特にそれらの制限は必要無いことがある。そうした場合、それらの制限の実施を省略しても良い。
・インジェクタノイズの侵入パターン毎のノック強度LVPKの増大度合の差異を吸収できるだけの十分な余裕代を設定して嵩上量KDUPを算出すれば、インジェクタノイズの侵入パターンに応じたその算出態様の変更を行わずとも、ノッキング検出の精度低下を抑制することはできる。
・燃料噴射時期の算出マップ毎で燃料噴射時期変更量の制限にあまり大きい差が無いのであれば、燃料噴射時期の算出マップに依らず、単一の算出マップでノック判定ゲートの拡大量や燃料噴射時期の変更量を算出しても良い。勿論、燃料噴射時期の算出マップの切替を行わない、すなわち燃料噴射時期の算出モードが固定されたエンジンに適用する場合には、ノック判定ゲート拡大量や燃料噴射時期変更量の算出マップの変更はそもそも不要である。
・上記ノック判定ゲートの拡大量や燃料噴射時期の変更量、ノック判定レベルVKDの嵩上量KDUPを、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLのいずれか一方に基づいて算出するようにしても良い。またエンジン回転速度NE、エンジン負荷KL以外のパラメータに基づいてそれらの算出を行うようにしたり、それらを固定値としたりするようにしても良い。
・ディフォルト状態でのノック判定ゲートの設定態様や侵入判定区間の設定態様は、上記実施形態で例示したものに限らず任意に変更することができる。またインジェクタノイズの検出時期の算出態様も、上記実施形態で例示した態様に限らず任意に変更しても良い。
・上記実施形態のノック制御は、図1に例示した構成以外のエンジンにも同様或いはそれに準じた態様で適用することができる。
1…エンジン、2a…第1バンク、2b…第2バンク、3…吸気通路、4…エアフローメータ、5…スロットルバルブ、6…吸気マニホールド、7…吸気ポート、8…吸気バルブ、9…スワールコントロールバルブ、10…インジェクタ、11…点火プラグ、12…排気バルブ、13…排気ポート、20…電子制御装置、21a,21b…ノックセンサ、22…アクセルセンサ、23…NEセンサ、24…水温センサ、#1〜#6…気筒。