JP4362924B2 - フェノール樹脂積層板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種電子機器に用いられるプリント配線材料のうちフェノール樹脂積層板に関するものであり、具体的には紙基材フェノール樹脂積層板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紙基材積層板は打抜き加工性が良好であるため、各種民生用電子機器に広く利用されている。なかでもフェノール樹脂積層板は、安価で量産性に優れているものであるが、最近の高密度実装の進展にともない、より一層信頼性が要求されているものである。そして、このフェノール樹脂積層板については、火災に対する安全性の確保という観点から難燃性を向上させることが検討されている。
【0003】
上記の積層板を形成するフェノール樹脂組成物中には、加工性を向上させるという目的で不飽和脂肪酸などの変性剤が用いられているが、これまでにこのような変性剤が難燃性を向上させる上で支障となっていることが判明している。このようなことから、ハロゲン化エポキシ樹脂をフェノール樹脂中に添加して難燃化させる方法が採られている。
【0004】
ところが、この方法で難燃性を得るためにはハロゲン化エポキシ樹脂を多量に配合させる必要があり、これによって積層板が硬くなり加工性が低下したり、積層板の製造コストが増大して経済的にも不利になったりするなどの問題が生じるものであった。
【0005】
また、旧東ドイツ特許DD230709やDD273640に開示されているように、上記の不飽和脂肪酸に直接臭素分子を付加させてフェノール樹脂積層板に難燃性を付与し、加工性と難燃性との両立を図ることが検討されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記の方法であっても、樹脂化させる工程から積層板を製造する工程の間に臭素が脱気してしまって、実際には難燃性を向上させることが困難であった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた難燃性及び加工性を有するフェノール樹脂積層板を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るフェノール樹脂積層板は、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルと下記式(1)で表されるハロゲン化物との反応により得られる生成物と、フェノール類と、アルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂組成物を、基材に含浸して積層成形して成ることを特徴とするものである。
【化3】
【0009】
また請求項2の発明は、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルと下記式(1)で表されるハロゲン化物とフェノール類とを反応させて得られる生成物と、アルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂組成物を、基材に含浸して積層成形して成ることを特徴とするものである。
【化4】
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、ハロゲン含有率が5〜15質量%であることを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
まず本発明において、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、桐油、アマニ油、大豆油、ナタネ油、ゴマ油、エノ油等を用いることができる。これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0016】
またハロゲン化物としては、式(1)で表されるものを用いる。このものは難燃性を向上させる他に、上記の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルと特に反応し易いことから、さらに加工性を高めることができるものである。具体的には、ブロムフェノール(R=OH,X=Br,n=1)、ジブロモフェノール(R=OH,X=Br,n=2)、クロロフェノール(R=OH,X=Cl,n=1)、ジクロロフェノール(R=OH,X=Cl,n=2)、ブロモベンゼン(R=H,X=Br,n=1)、ジブロモベンゼン(R=H,X=Br,n=2)等を用いることができる。これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0017】
ここでハロゲン含有率は、紙基材を含めたフェノール樹脂積層板全量中の5〜15質量%であることが好ましい。ハロゲン含有率が5質量%未満であると、難燃性を十分に高めることができないおそれがあり、逆に15質量%を超えると、加工性が悪化するおそれがあるものである。
【0018】
またフェノール類としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、プロピルフェノール、ノニルフェノ−ル等を用いることができる。これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0019】
またアルデヒド類としては、特に限定されるものではないが、例えば、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド溶液等を用いることができる。これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0020】
そして、本発明に係るフェノール樹脂積層板は、以下に説明する3通りの方法で、まずフェノール樹脂組成物を調製し、次にこのものを基材に含浸させた後、積層成形することによって得られるものである。
【0021】
フェノール樹脂組成物を調製する第1の方法は、まず上記の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとハロゲン化物とを反応させるものである。この反応に用いる不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとハロゲン化物との好ましい配合比は、質量比で1:(0.6〜1.5)である。また、この反応は酸性条件下、60〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる酸性触媒としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、パラトルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、硝酸等を挙げることができ、これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0022】
次に上記の反応で得られた生成物に、フェノール類とアルデヒド類とを加えて反応させるものである。このときフェノール類は、上記の生成物100質量部に対して、10〜70質量部であることが好ましい。10質量部未満であると、積層板を形成する基板の強度が低下するおそれがあり、逆に70質量部を超えると、硬くなってパンチング加工の際クラックが発生するおそれがあるものである。またこのときのアルデヒド類は、フェノール類1モルに対して、0.4〜2.0モルであることが好ましい。0.4モル未満であると、未反応のフェノールが多量に残存しフェノール臭気が多くなるおそれがあり、逆に2.0モルを超えると、ホルマリン臭気が多くなるおそれがあるものである。そして、この反応は塩基性条件下、50〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる塩基性触媒としては、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジ−n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン、トリエタノールアミン、トリメタノールアミン、ピリジン、ジベンジルアミン、ベンジルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウム等を挙げることができ、これらは1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。そして、このようにしてフェノール樹脂組成物(レゾール樹脂)を得ることができる。
【0023】
またフェノール樹脂組成物を調製する第2の方法は、まず上記の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとハロゲン化物とフェノール類とを反応させるものである。この反応に用いる不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとハロゲン化物とフェノール類との好ましい配合比は、質量比で1:(0.6〜1.5):(0.4〜1.2)である。また、この反応は酸性条件下、60〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる酸性触媒としては、上記と同じものを挙げることができ、1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0024】
次に上記の反応で得られた生成物に、アルデヒド類を加えて反応させるものである。このときのアルデヒド類は、フェノール類1モルに対して、0.4〜2.0モルであることが好ましい。0.4モル未満であると、未反応のフェノールが多量に残存しフェノール臭気が多くなるおそれがあり、逆に2.0モルを超えると、ホルマリン臭気が多くなるおそれがあるものである。そして、この反応は塩基性条件下、50〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる塩基性触媒としては、上記と同じものを挙げることができ、1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。そして、このようにしてフェノール樹脂組成物(レゾール樹脂)を得ることができるものであるが、特にこの第2の方法は、反応の制御が容易であるため好ましいものである。
【0025】
またフェノール樹脂組成物を調製する第3の方法は、まず上記の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとフェノール類とを反応させるものである。この反応に用いる不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルとフェノール類との好ましい配合比は、質量比で1:(0.4〜1.2)である。また、この反応は酸性条件下、60〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる酸性触媒としては、上記と同じものを挙げることができ、1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0026】
次に上記の反応で得られた生成物に臭素分子を反応させ、二重結合などの不飽和性の炭素間多重結合に臭素を付加させた後、余分な臭化水素を脱気させるものである。この反応は中性条件下で行うことが好ましい。このような反応を行うと、不飽和性の多重結合を形成する炭素原子に臭素を結合させることができて、良好な加工性を維持しつつ、難燃性を高めることができるものである。
【0027】
その後、このようにして得られた生成物に、アルデヒド類を加えて反応させるものである。このときのアルデヒド類は、フェノール類1モルに対して、0.4〜2.0モルであることが好ましい。0.4モル未満であると、未反応のフェノールが多量に残存しフェノール臭気が多くなるおそれがあり、逆に2.0モルを超えると、ホルマリン臭気が多くなるおそれがあるものである。そして、この反応(レゾール化反応)は、まずトリエタノールアミン等を用いて中和し、次に塩基性条件下、50〜150℃で行うことが好ましい。ここで用いる塩基性触媒としては、上記と同じものを挙げることができ、1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0028】
そして、このようにして得られたフェノール樹脂組成物は、縮合水等の水を留去した後、メタノール等の溶剤に溶解し、希釈することによってワニス状とすることができる。次いでこのワニスをクラフト紙などの基材に含浸させた後、加熱乾燥させることによって溶剤を除去すると共に、樹脂成分を半硬化(Bステージ化)させると、レジンペーパーを得ることができるものである。こうして得られたレジンペーパーを1枚又は2枚以上重ねて積層板を形成し、必要に応じてこの積層板の片面又は両面に金属箔を重ねる。ここで用いる金属箔としては、銅箔等を用いることができる。その後、この積層板を金属箔と共に加熱加圧成形することによって、フェノール樹脂積層板を得ることができるものである。
【0029】
このようにして形成されるフェノール樹脂積層板は、難燃性を付与するハロゲン化物が、難燃性以外の特性に悪影響を及ぼさないように不飽和脂肪酸などの変性剤と直接反応することによって、良好な加工性を維持しつつ、難燃性を向上させることができるものである。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
桐油232g、パラブロモフェノール(和光純薬製特級)395gとメタノール20gとパラトルエンスルホン酸0.1gを四ツ口フラスコに採り、撹拌下30分かけて65℃まで昇温し、30分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを0.03g添加して中和した。生成物は暗褐色の溶液となった。この生成物にフェノール136gと37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温し、60分反応させた後、アンモニア1.4gを入れてさらに同温度で20分反応させた。続いて20kPaで80℃になるまで減圧脱水し、常圧に戻した後、65℃でメタノール130gを添加して難燃性桐油変性樹脂ワニスを得た。
【0031】
このワニスをクラフト紙に含浸させ、150℃の乾燥機で100秒間乾燥させレジンペーパーを得た。次にこのレジンペーパーを8枚重ね、最上層に厚さ0.035mmの銅箔を接着剤を介して配設し、これを9.8MPa、160℃、70分間成形し1.6mmの積層板を得た。
(実施例2)
桐油232g、ブロモベンゼン(和光純薬製特級)586gとメタノール23gとパラトルエンスルホン酸0.8gを実施例1と同様にして、30分かけて90℃まで昇温し、180分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを0.03g添加して中和した。この生成物にフェノール239gと37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温し、60分反応させた後、アンモニア2.4gを入れて20分反応させた。続いて20kPaで80℃になるまで減圧脱水し、常圧に戻した後、65℃でメタノール250gを添加して難燃性桐油変性樹脂ワニスを得た。このワニスを用いて実施例1と同様にして積層板を得た。
(実施例3)
桐油232g、パラブロモフェノール395gとメタノール20gとフェノール136gとパラトルエンスルホン酸0.1gを30分かけて75℃まで昇温し、30分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを0.03g添加して中和した。この生成物に37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温し、60分反応させた後、さらにアンモニア1.4gを入れて20分反応させた。続いて20kPaで80℃になるまで減圧脱水し、常圧に戻した後、65℃でメタノール130gを添加して難燃性桐油変性樹脂ワニスを得た。このワニスを用いて実施例1と同様にして積層板を得た。
(実施例4)
桐油232g、ジブロモフェノール250gとメタノール20gとパラトルエンスルホン酸0.1gを30分かけて65℃まで昇温し、30分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを0.03g添加して中和した。生成物は暗褐色の溶液となった。この生成物にフェノール240gと37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温し、60分反応させた後、アンモニア1.4gを入れて20分反応させた。続いて20kPaで80℃になるまで減圧脱水し、常圧に戻した後、65℃でメタノール130gを添加して難燃性桐油変性樹脂ワニスを得た。このワニスを用いて実施例1と同様にして積層板を得た。
(比較例1)
桐油232gとフェノール350gとメタノール20gとパラトルエンスルホン酸2gを30分かけて85℃まで昇温し、120分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを1.5g添加して中和した。この生成物に37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温し、60分反応させた後、さらにアンモニア1.4gを入れて20分反応させた。続いて20kPaで80℃になるまで減圧脱水し、常圧に戻した後、65℃でメタノール220gとテトラブロムビスフェノールAグリシジルエーテル390gを添加して難燃性桐油変性樹脂ワニスを得た。このワニスを用いて実施例1と同様にして積層板を得た。
(比較例2)
桐油に直接Brを付加した化合物を合成するために、桐油232gをフラスコに入れて、10〜15℃に冷却後、Br2を30g撹拌しながら約40分かけて導入した。この後15℃に保ち60分撹拌し、反応を終了した。生成物は、暗褐色でクリアーな液体として得られた。これにフェノール170gとメタノール20gとパラトルエンスルホン酸0.1gを30分かけて80℃まで昇温し、60分反応させた後、冷却し、これにトリエタノールアミンを0.03g添加して中和した。その後、フェノール180gと37%ホルムアルデヒド310gとトリエチルアミン4.5gを添加し、30分かけて90℃まで昇温したところ、ゲル化が起こりワニスを得ることはできなかった。ゲル化物を水で抽出したものをイオンクロマトで分析した結果、Brイオンが検出されたことから、脱HBrによるノボラック反応が進行したものと推測される。
(評価)
難燃性の評価は、UL94V−0の試験法に基づいて行った。また加工性の評価は、金型を用いて図1に示すように、50℃で積層板1に160個の穴2を打抜き、クラック3の発生した穴2の個数を数えて行った。
【0032】
【表1】
【0033】
表1にみられるように、各実施例のものは難燃性と加工性とが共に良好であった。また比較例1のものは、難燃性を高めることはできたものの加工性が悪化してしまった。
【0034】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係るフェノール樹脂積層板は、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルと上記式(1)で表されるハロゲン化物との反応により得られる生成物と、フェノール類と、アルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂組成物を、基材に含浸して積層成形して成るので、難燃性を付与するハロゲン化物が、難燃性以外の特性に悪影響を及ぼさないように不飽和脂肪酸などの変性剤と直接反応することによって、良好な加工性を維持しつつ、難燃性を向上させることができるものである。
また請求項1の発明は、ハロゲン化物が式(1)で表されるので、難燃性を向上させる他に、不飽和脂肪酸などの変性剤と特に反応し易いことから、さらに加工性を高めることができるものである。
【0035】
また請求項2の発明は、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸エステルと上記式(1)で表されるハロゲン化物とフェノール類とを反応させて得られる生成物と、アルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂組成物を、基材に含浸して積層成形して成るので、難燃性を付与するハロゲン化物が、難燃性以外の特性に悪影響を及ぼさないように不飽和脂肪酸などの変性剤と直接反応することによって、良好な加工性を維持しつつ、難燃性を向上させることができるものである。しかも、上記のフェノール樹脂組成物を得る反応は、容易に制御することができるものである。
【0036】
また請求項2の発明は、ハロゲン化物が式(1)で表されるので、難燃性を向上させる他に、不飽和脂肪酸などの変性剤と特に反応し易いことから、さらに加工性を高めることができるものである。
【0038】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、ハロゲン含有率が5〜15質量%であるので、優れた難燃性と加工性との両立を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】穴を打抜いた後の積層板の一部を示す平面図である。
【符号の説明】
1 積層板
2 穴
3 クラック
Claims (3)
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