JP4336111B2 - 複合部材、切削工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長尺状の芯材が被覆層で被覆された複合硬質焼結体を複数本集束した構造を有する複合部材と、これを用いた切削工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、材料の硬度および強度とともに靱性を改善するために、金属の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物等の焼結体で形成される長尺状の芯材の外周面を他の焼結体からなる被覆層で被覆した複合硬質焼結体の研究がなされ、例えば、特許文献1〜3にて提案されている。これらに記載された複合硬質焼結体は、硬度を低下させることなく、構造体の破壊抵抗を増大して靭性を高められることが記載されている。
【0003】
また、ドリル等の切削工具として超硬合金が常用されており、例えば、下記特許文献4では表1にあるように超硬合金中の結合金属の含有量を5重量%以下にすることによりヤング率の高い超硬合金からなるドリルを作製できると記載されている。
【0004】
〔特許文献1〕
米国特許6063502号明細書
〔特許文献2〕
米国特許5645781号明細書
〔特許文献3〕
特表2001−506930号公報
〔特許文献4〕
特開平10−138027号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献4のように単純に結合金属量を減じた場合には、超硬合金の靭性が低下するためにドリルの加工条件によってドリルのつけ根から折損してしまう場合があった。これに対して、上記特許文献1〜3に記載されるような従来の複合硬質焼結体をそのままドリル等の切削工具に使用すると、芯材および/または被覆層間に剥離が生じたり、剛性が低下してドリルの穴位置精度が低下したりドリルおよびそれ以外の切削工具の変形が顕在化し、いずれの場合においても切削工具、特にドリルやエンドミル等の切削性能を充分に満足できるものではなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記長尺状の芯材が被覆層で被覆された複合硬質焼結体およびこれを複数本集束された構造を有する複合部材全体が剥離しない程度に剛性を高めて、優れた耐欠損性、耐摩耗性、耐折損性および高い穴位置精度を備えた複合硬質焼結体を用いた複合部材、さらにはこれを利用したドリル等の切削工具を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題に対して複合硬質焼結体の芯材と表皮部材の構成について検討した結果、芯材に結合金属量の少ない超硬合金、被覆層に結合金属量の多い超硬合金またはコバルトやニッケルの結合金属を組み合わせたり、または芯材に熱膨張の小さい超硬合金、被覆層に熱膨張の大きい超硬合金または結合金属を組み合わせる等、焼結における収縮過程および実使用環境における高温時に複合硬質焼結体中に残留応力が付与されて複合硬質焼結体のヤング率を高める組み合わせを選択することにより、複合硬質焼結体が剥離せず、かつ剛性が向上して、変形しにくい切削工具、特に耐欠損性、耐摩耗性、耐折損性および穴位置精度の高いドリルを作製できることを知見した。
【0008】
すなわち、本発明の複合部材は、炭化タングステン粒子をコバルトおよび/またはニッケルからなる結合金属にて結合した超硬合金からなる直径5〜50μmの長尺状の芯材の外周面を、該芯材とは異なる組成からなる超硬合金あるいは結合金属からなり、前記芯材の直径d の被覆層の厚さd に対する比率d /d が5〜100の被覆層によって被覆してなる複合硬質焼結体が複数本集束された構造を有する複合部材であって、前記複合硬質焼結体全体のヤング率Eが理論ヤング率Etに対して85%以上であることを特徴とするものである。
【0009】
また、前記芯材をなす超硬合金中の炭化タングステン粒子の平均粒径が0.7μm以下であることにより耐摩耗性および耐折損性の高いドリル等の切削工具となる。
【0010】
さらに、前記芯材として結合金属量が10体積%未満の超硬合金を、かつ前記被覆層として結合金属量が10体積%以上の超硬合金または結合金属を用いること、または、前記芯材の室温(25℃)における熱膨張係数αcと前記被覆層の室温(25℃)における熱膨張係数αsの比(αs/αc)が1.1以上であることによって、前記複合硬質焼結体全体のヤング率Eを理論ヤング率Etに対して85%以上とすることができる。
【0011】
また、上記の複合硬質焼結体は、1本の芯材の外周を被覆層で被覆した構造のシングルフィラメントからなるが、本発明の複合部材は、このシングルフィラメントを複数本集束させた構造のマルチフィラメント構造からな
【0012】
なお、上記複合硬質焼結体からなるシングルフィラメント構造は、芯材/被覆層の選択材料によって耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができるが、複数の複合焼結体を束ねたマルチフィラメント構造は、全周方向に隣接する焼結体間に連続的に結合金属の濃度勾配が生じるため、芯材と被覆層の分布が平均化して局所的な特性バラツキがならされるため、構造体全体としての特性が安定する結果、耐欠損性が著しく向上し、また選択材料の結合金属量および硬質相の粒径を制御することにより耐摩耗性の向上も容易にはかることが出来る。このため、マルチフィラメント構造は、フライス切削やドリル、エンドミル等の幅広い切削工具に有用である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の複合部材を構成する複合硬質焼結体の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の複合硬質焼結体11を示す斜視図である。同図に示すように、複合硬質焼結体11は、長尺状の芯材12の外周面が被覆層13で被覆された構造を有している。
【0014】
そして、この芯材12は、硬質結晶粒子を結合金属にて結合した硬質焼結体からなり、被覆層13は、この芯材12とは異なる材質から構成されている。
【0015】
(芯材材質)
この芯材12を形成する超硬合金は、具体的には、硬質結晶粒子である炭化タングステン粒子をCoおよび/またはNiからなる結合金属にて結合したものからなり、また、硬質結晶粒子として、他に、炭化タングステンを除く周期律表第4a,5a,6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物、具体的には、TiC、TiCN、TiN、TaC、NbC、ZrC、ZrN、VC、CrCおよびMoCからなる群より選ばれる少なくとも1種が分散含有されていてもよい。
【0016】
芯材中における硬質結晶粒子は、平均粒径が0.7μm以下、さらに0.2〜0.5μmであるのがドリルの耐欠損性、耐摩耗性、耐折損性を高める点で望ましく、また、この硬質焼結体においては、芯材として結合金属量が10体積%未満、特に6〜8体積%で、かつ被覆層13として結合金属量が10体積%以上、特に12〜16体積%の割合で存在することが、耐摩耗性および耐折損性を高めるとともに、複合硬質焼結体のヤング率を高めてドリルの穴位置精度向上および切削工具全般の耐変形性を高める上で有効である。
【0017】
(被覆層材質)
一方、被覆層13は、結合金属単体、または芯材12と組成の異なる超硬合金からなるものである。
【0018】
なお、被覆層13中の硬質結晶粒子は、複合焼結体11に期待する性能によって異なるが、例えば切削工具として最適な特性を達成するためには平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは1〜3μmであるのがよい。
【0019】
(ヤング率)
本発明によれば、複合硬質焼結体11全体としてのヤング率を高める上では、芯材12として結合金属量が10体積%以下の超硬合金を、かつ被覆層13として結合金属量が15体積%以上の超硬合金または結合金属を用いること、または、芯材12の室温(25℃)における熱膨張係数αcと被覆層13の室温(25℃)における熱膨張係数αsの比(αs/αc)が1.1以上であること等によって芯材12と被覆層13との間に残留応力を生ぜしめて複合硬質焼結体11のヤング率Eを高めることができる。
【0020】
ここで、本発明における複合硬質焼結体11の実測ヤン率EはJISZ2280のひずみゲージ法によって求めることができ、また、理論ヤング率Etは、下記式1にて算出することができる。
【0021】
【数1】
Figure 0004336111
【0022】
なお、式1のfWC(炭化タングステン粒子の含有体積比率)は走査型電子顕微鏡写真から画像解析法により測定することができる。また、硬質結晶粒子として炭化タングステン粒子以外に、4a、5aおよび6a族金属の他の炭化物であるいわゆるβ相が30体積%以下、特に10体積%以下の割合で少量存在する場合には、本発明においては計算の簡便のために炭化タングステン粒子とみなして計算する。
【0023】
本発明によれば、複合硬質焼結体11の構成を制御して組み合わせた複合部材15とすることにより、芯材12と被覆層13との間に圧縮残留応力を付与することができる結果、上記ヤング率の比(実測ヤング率E/理論ヤング率Et)×100(%)を85%以上、特に90%以上と高めることができ、これによって、複合部材15が剥離せず、かつ剛性が向上して、変形しにくい切削工具、特に耐欠損性、耐摩耗性、耐折損性および穴位置精度の高いドリルを作製できる。
【0024】
すなわち、上記ヤング率の比(E/Et)が85%より低くなると切削工具の変形が顕在化して加工寸法精度が低下したり、ドリル加工等の穴あけ加工においては穴位置精度が低下する。
【0025】
また、本発明によれば、芯材12および被覆層13の両方に結合金属が存在し、両者間で若干結合金属の移動が生じるために、芯材12および被覆層13間、または隣接する複合硬質焼結体11,11間で剥離が生じることなく良好な密着性を有するものである。
【0026】
なお、芯材12の熱膨張係数αcと被覆層13の熱膨張係数αsの比(αs/αc)を1.1以上とするには、芯材12と被覆層13の炭化タングステン粒子の平均粒径、結合金属量(炭化タングステン粒子量)、および製造方法を後述する方法に制御することが必要である。
【0027】
ここで、複合硬質焼結体11を構成する芯材12の直径dの被覆層13の厚さdに対する比率d/dは用途によって異なるが、5〜100であり、切削工具に使用する際には、好ましくは10〜50、より好ましくは20〜30であるのがよい。特に、芯材12の直径は、その用途に応じて適宜設定されるが、5〜50μmであり、切削工具に用いる場合には、特に10〜30μmが適当である。
【0028】
また、本発明によれば、複合硬質焼結体は、上記した複合硬質焼結体11単体からなる構造からなるが、複合部材15は、図2に示すように、(a)複合硬質焼結体11を複数本集束した複合部材15、(b)複合硬質焼結体11または集束された複合硬質焼結体を複数本配列してシート化した複合部材15a、さらに、(c)このシート化した複合部材15aを複数枚積層した複合部材15bなどが挙げられる。複合部材15bの場合、(d)に示すように、上下のシートの向きを変えることも可能である。
【0029】
(製法)
次に、本発明の複合部材15を構成する複合硬質焼結体11の製造方法について図3の工程図を、本発明の複合部材15の製造方法について図4の模式図を参照して説明する。
【0030】
<芯材用成形体の成形工程>
まず、望ましくは平均粒径0.7μm以下の前記硬質粒子と、平均粒径が0.5〜3μmの結合金属粉末とを混合し、必要に応じて、さらにこの混合物に焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤、分散剤、滑剤等を添加して混練した後、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により円柱形状に成形して芯材用成形体12aを作製する(図3(a)参照)。ここで、後述する共押出成形によって均質な複合成形体を得るためには、前記有機バインダの添加量を30〜70体積%、特に40〜60体積%とするのが望ましい。
【0031】
有機バインダ、可塑剤としては、パラフィンワックス、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレン‐エチルアクリレート、エチレン‐ビニルアセテート、ポリブチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等を使用することができる。溶剤、分散剤および滑剤としてはポリエチレングリコール、ミネラルオイル、ブチルオリエート、ステアリン酸等を使用することができる。
【0032】
<被覆層用成形体の成形工程>
また、被覆層13を、芯材12と同様の硬質焼結体によって形成する場合、平均粒径が0.1〜2μmの炭化タングステン原料と、平均粒径が2μm以下の結合金属粉末とを混合して混合物を得、必要に応じて、さらにこの混合物に上記した焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤等を添加し、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形して2つの被覆層用成形体13a,13aを作製する(図3(b)参照)。
【0033】
さらに、被覆層13を金属によって形成する場合、平均粒径が1〜10μmの金属粉末をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形して2つの被覆層用成形体13a、13aを作製する。
【0034】
その後、上記のようにして得られた芯材用成形体12aの外周面を被覆層用成形体13a、13aによって覆うように配置して複合成形体11aを作製する(図3(c)参照)。
【0035】
(共押出成形工程)
ついで、図3(d)に示すように、押出機100を用いて、上記複合成形体13aを押出成形(芯材用成形体12aと被覆層用成形体13a,13aを同時に押出す共押出成形)することによって、芯材用成形体12aの周囲に被覆層用成形体13aが被覆され、細い径に伸延された複合成形体11bを作製する。このとき、複合成形体11bの断面は、押出機100の出口形状を変えることによって、円形の他、三角形、四角形、五角形、六角形、楕円形等の任意形状に成形することもできる。
【0036】
なお、上記共押出成形において、複合成形体11aの最大径D1と共押出成形後の複合成形体11bの最大径D2との比率D2/D1は、0.02〜0.2が適当である。
【0037】
(マルチフィラメント構造の作製)
また、本発明によれば、図3に示したような、複合硬質焼結体を束ねた複合部材、いわゆるマルチフィラメント構造を有する部材を形成する場合には、図4(a)に示すように、前述のようにして作製した複合成形体11bを束ねて集束成形体14を形成する。その場合、複合成形体11b間に上記バインダなどの接着材を介在させ、さらに、この集束成形体14にCIPなどによって圧力を印加するものであってもよいが、必要に応じ、集束成形体14を押出成形して、集束成形体14を細い径に伸延することもできる。この方法によれば、成形体中の複合硬質焼結体同士のより強固な密着性を得ることもできる。
【0038】
さらには、複合成形体11bまたは集束成形体14を平面方向に複数本配列してシート化することも、またそのシートを積層することも可能である。シートを積層する場合、各複合成形体11bの軸方向をシート間で任意の角度(例えば0°、45°、90°等)に変化させて積層することも可能である。その場合、図4(b)に示すように、シート単体やシート積層体からなる複合成形体14をロール圧延することもできる。
【0039】
上記のようにして得られた複合硬質成形体は、さらに公知のラピッドプロトダイビング法等の成形方法によって任意の形状に成形することも可能である。また、上記したシートまたはこのシートを断面方向にスライスしたものを従来の超硬合金等の硬質焼結体の表面に貼り合わせ、または接合することも可能である。
【0040】
(焼成工程)
ついで、上記各種の成形体を300〜700℃で10〜200時間昇温または保持して脱バインダ処理した後、真空中または不活性雰囲気中において、使用する材質に応じた所定温度および所定時間で焼成することにより、図1に示すようなシングルフィラメント構造の複合硬質焼結体11または図2のマルチフィラメント構造の複合部材15を作製することができる。
【0041】
特に、芯材12を周期律表第4a,5a,6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物からなる硬質結晶粒子と、鉄族金属からなる結合金属によって形成する場合には、Ar、Nまたは真空雰囲気中で1300〜1600℃で0.5〜2時間程度焼成することが望ましい。
【0042】
また、芯材12と被覆層13とは、上記のように同時焼成されることから、芯材12を形成する材料と被覆層13を形成する材料の各最適焼成温度が100℃以内に近似した材質からなることが望ましい。
【0043】
本発明の複合硬質焼結体は、耐欠損性および耐摩耗性に優れているので、例えばドリル、フライス、エンドミル、ドリルビット等の切削工具等の材料として使用した場合であっても、充分な耐欠損性および耐摩耗性が得られる。
【0044】
特に略円柱状で高い穴位置精度が要求されるプリント基板加工用または金属加工用ドリルの材料として好適である。この場合、ドリルは、図2(a)のように複合焼結体を集束させた円柱状の複合部材を用いて形成され、ドリルの長手方向と複合焼結体の長手方向とが平行になるようにして用いられる。これらの切削工具は、例えば上記した手順で円柱形状や直方体形状に成形された複合硬質焼結体を、公知の方法により切削加工して切削工具形状に成形することにより製造することができる。
【0045】
【実施例】
実施例1〜4,比較例1
平均粒径が0.3〜0.5μmの炭化タングステン、平均粒径1.5μmの他金属炭化物、平均粒径が1.0〜2.0μmのCo粉末を用いて、表1に示す組成物からなる芯材および被覆層の組み合わせにおいて複合硬質焼結体を以下の手順で作製した。
【0046】
まず、表1に示した調合組成において芯材用および被覆層用の原料粉末を秤量混合し、これに有機バインダ(セルロースおよびポリエチレングリコール)30体積%と溶剤(ポリビニルアルコール)20体積%の割合で添加して混合物を得た。この混合物を芯部材については直径が20mmの円柱形状に押出成形して図3(a)に示すような芯材用成形体12aを作製した。
【0047】
ついで、被覆層用の混合物を半割円筒形状に押出成形して図3(b)に示すような厚みが1mmの被覆層用成形体13aを2つ作製した。得られた2つの被覆層用成形体13a,13aを上記芯材用成形体12aの外周面を覆うように配置して、図3(c)に示すような成形体11aを作製した。
【0048】
ついで、この成形体11aを共押出成形して、図2(d)に示すような伸延された直径が1mmの複合成形体11bを作製した。
【0049】
さらに複合成形体11bを380本集束して集束成形体を得、この集束成形体を図4(a)に示すように、上記した押出成形工程と同様にして再度共押出成形してマルチフィラメント構造の複合成形体11cを得た。この際マルチフィラメント構造の複合成形体11c中の単一構造体セル径は約30μmであった。
【0050】
ついで、この複合成形体11cを300〜700℃まで72時間で昇温させることによって脱バインダ処理を行った後、昇温速度2.5℃/分でさらに昇温し、真空中、1500℃で2時間焼成し、さらに3℃/分で降温することにより、図2(a)に示すような形状で、長さ55mm、直径5mmの複合硬質焼結体15を作製した。得られた焼結体を波長分散型X線マイクロアナリシス分析を行い、鉄族金属結合相(Co)硬質相(WC、B1型固溶体相)の体積比率を算出した。EPMAの条件は、加速電圧15kV、プローブ電流3×10−7A、スポットサイズ2μmである。
【0051】
得られた複合硬質焼結体15をドリル形状に加工し、外径0.3mmφのドリルを得た。
【0052】
【表1】
Figure 0004336111
【0053】
比較例2
平均粒径1μmのWC粉末を90質量%、平均粒径1.5μmのCo粉末を10質量%の割合で秤量混合し、これに有機バインダ(パラフィンワックス)を15体積%の割合で添加して、円柱形状に圧粉成形し、これを実施例1と同様の条件で焼成して硬質焼結体を得た。この硬質焼結体から実施例1と同様にしてドリルを得た。
【0054】
実施例1〜4および比較例1,2で得たドリルについて、ひずみゲージ法にて実測ヤング率Eを測定し、また、このドリルの芯材および被覆層の結合金属の含有比率を走査型電子顕微鏡写真から画像解析法にて求め、理論ヤング率Etを算出し、その比率(E/Et)を求めた。
【0055】
また、実施例1〜4および比較例1,2で得た各ドリルを取り付けた穴あけ工具を用いて、下記条件にて、穴あけ加工試験を行った。
【0056】
主軸回転数:12krpm
送り:2.0m/min.
基板:エポキシ系0.8mm厚みの3枚重ね
寿命評価:上記条件によりドリルが折れるまで加工できた穴数を測定した。
【0057】
穴位置評価:上記条件により1500穴を加工し、基板上面での穴位置に対する基板下面でのそれぞれ穴位置分布から平均ばらつき:X、標準偏差3σを算出することによって穴位置精度を求めた。なお、今回の試験では平均ばらつきXが70μm未満、標準偏差3σが65未満を合格とした。また、穴開け終了後のドリルの刃先を顕微鏡で観察し、切刃の欠損の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
Figure 0004336111
【0059】
表2の結果から、複合硬質焼結体のヤング率比(E/Et)が85%以上の実施例1〜4については耐折損性およびチッピングに対して優れた性能を示すとともに高い穴位置精度を示した。これに対し複合硬質焼結体のヤング率比(E/Et)が85%より低い比較例1、および単一の材質からなり複合硬質焼結体のヤング率比(E/Et)が85%より低い比較例2には折損やチッピングが生じ、穴位置精度についても劣る結果であった。
【0060】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、芯材に結合金属量の少ない超硬合金、被覆層に結合金属量の多い超硬合金またはコバルトやニッケルの結合金属を組み合わせたり、または芯材に熱膨張の小さい超硬合金、被覆層に熱膨張の大きい超硬合金または結合金属を組み合わせる等、焼結における収縮過程および実使用環境における高温時に複合硬質焼結体中に残留応力が付与されて複合部材のヤング率を高める組み合わせを選択することにより、複合部材が剥離せず、かつ剛性が向上して、変形しにくい切削工具、特に耐欠損性、耐摩耗性、耐折損性および穴位置精度の高いドリルを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の複合部材を構成する複合硬質焼結体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】 本発明の複合部材の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】 (a)〜(d)は、本発明の複合部材を構成する複合硬質焼結体の製造方法を説明するための工程図である。
【図4】 本発明の複合部材の製造方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
11 複合硬質焼結体(シングルフィラメント構造)
12 芯材
13 被覆層
15 複合部材(マルチフィラメント構造)

Claims (5)

  1. 炭化タングステン粒子をコバルトおよび/またはニッケルからなる結合金属にて結合した超硬合金からなる直径5〜50μmの長尺状の芯材の外周面を、該芯材とは異なる組成からなる超硬合金あるいは結合金属からなり、前記芯材の直径d の被覆層の厚さd に対する比率d /d が5〜100の被覆層によって被覆してなる複合硬質焼結体が複数本集束された構造を有する複合部材であって、前記複合硬質焼結体全体のヤング率Eが理論ヤング率Etに対して85%以上であることを特徴とする複合部材
  2. 前記芯材をなす超硬合金中の炭化タングステン粒子の平均粒径が0.7μm以下であることを特徴とする請求項1記載の複合部材
  3. 前記芯材として結合金属量が10体積%未満の超硬合金を、かつ前記被覆層として結合金属量が10体積%以上の超硬合金または結合金属を用いることを特徴とする請求項1または2記載の複合部材。
  4. 前記芯材の室温(25℃)における熱膨張係数αcと前記被覆層の室温(25℃)における熱膨張係数αsの比(αs/αc)が1.1以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の複合部材
  5. 請求項1乃至4のいずれか記載の複合部材からなる切削工具。
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