JP4199557B2 - 複合焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維状の芯材が表皮材で被覆された複合焼結体の製造方法およびこれを用いた複合部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、材料の硬度および強度とともに靱性を改善するために、金属の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物等の焼結体で形成される長尺状の芯材の外周面を他の焼結体からなる表皮材で被覆した複合焼結体の研究がなされ、例えば、特許文献1〜3、および非特許文献1にて提案されている。これらに記載された単一の芯材と表皮材とからなるシングルフィラメント状またはこれらを複数本集束したマルチフィラメント状の複合繊維体を焼成した複合焼結体は、硬度を低下することなく、構造体の破壊抵抗を増大して靭性を高められることが記載されている。
【0003】
また、上記文献においては、シングルフィラメント状の複合繊維体を配列させて柱状等の所定形状に成形し焼成して複合焼結体が作製され、構造部材として有用であることが記載され、特に、非特許文献1においては、また、シングルフィラメント状の複合成形体(複合繊維体)を配列する際に、繊維体同士を接着剤で固定することが記載されている。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第5645781号公報、
【特許文献2】
米国特許第6063502号公報、
【特許文献3】
特開平11−139884号公報
【非特許文献1】
“ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサイアティ(Journal of American Ceramic Society)”(米国),(1997),Vol.80,No.10,p.2471-2487
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されるように複合繊維体を単に配列する方法では、取り扱いによって繊維体同士の配列状態がずれやすく、均一に整列した繊維体を作製することが困難で部分的に繊維体の密度が密な部分と粗な部分が生じてしまい、複合焼結体の特性が部分的にばらついてしまうとともに、できるだけ均一に配列しようと慎重な取り扱いが必要なために配列工程に非常に時間がかかるという問題があった。
【0006】
また、非特許文献1のように接着剤を用いて繊維体同士を固定する方法では、繊維体同士の固定性は向上するもののその固定力が不十分であり上記問題が解消できず、逆に固定力を高めるために多量の接着剤を使用すると有機物成分の含有率が増して脱バインダ処理が困難となったり、焼結体中に残留炭素が残存してしまうという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記長尺状の芯材が表皮材で被覆された複合繊維体を複数本集束して焼成した複合焼結体において焼結体中の密度ばらつきを低減して特性バラツキを抑制できるとともに、製造時の取り扱い性に優れ、工程時間の短縮化が可能な複合焼結体の製造方法、およびこれを用い優れた耐欠損性および耐摩耗性を備えた複合部材を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく複合繊維体から所定形状の構造体を作製すべく配列して集束する方法について検討した結果、複合繊維体を平面方向に複数本配列した状態で熱圧着することによって、成形体中の有機物成分の含有量を増すことなく複合繊維体同士の密着力を高め、取り扱いによっても繊維体同士の配列状態がずれることなく、均一に整列した繊維体を作製することができて複合焼結体の特性が局所的にばらつくことなく均一化できるとともに、取り扱いが容易となるために複合繊維体の配列工程にかかる時間を短縮できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の複合焼結体の製造方法は、(a1)芯材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、円柱形状に成形して芯材用成形体を作製する工程と、(a2)表皮材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体を作製する工程と、(a3)前記芯材用成形体の外周面を前記表皮材用成形体によって覆うように配置した複合成形体を作製する工程と、(a4)前記複合成形体を押出成形して、繊維状の芯材用成形体の周囲に、該芯材用成形体とは異なる組成からなる表皮材用成形体が被覆された複合繊維体を作製する(a)工程と、(b)該複合繊維体を平面方向に複数本配列して熱圧着しシート状成形体を作製する工程と、(c)前記シート状成形体を焼成する工程と、を具備することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、前記(b)工程において、温度:80〜200℃、圧力:0.1kPa〜20MPa、時間:2〜20秒の条件で熱圧着することが複合繊維体同士の密着性を高めることができるとともに、複合繊維体の構成を保持し断面形状の変形を抑制する点で望ましい。
【0011】
また、前記(b)工程において、前記複数本の複合繊維体を並列に配列すること、前記並列に配列した複合繊維体を複数段積層すること、前記複数本の複合繊維体をドラム状の巻取り機にて並列に整列させて並列に配列し、その後、前記ドラム表面に巻き取られた複合繊維体を該ドラムの断面方向でカットすることによって、より均一な複合繊維体を集束した複合成形体を作製できる。
【0012】
さらに、前記(b)工程において、前記シート状成形体をさらに複数枚積層したシート状積層成形体を作製する工程を具備することによって、作製できる複合成形体の構成の自由度が増し、より多様な構成の複合焼結体を作製することができる。
【0013】
また、前記(a)工程が、(a1)芯材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、円柱形状に成形して芯材用成形体を作製する工程と、(a2)表皮材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体を作製する工程と、(a3)前記芯材用成形体の外周面を前記表皮材用成形体によって覆うように配置した複合成形体を作製する工程と、(a4)前記複合成形体を押出成形して、繊維状の前記芯材用成形体の周囲に前記表皮材用成形体が被覆された前記複合繊維体を作製する工程と、を具備することによって、簡便な工程、安価な装置で大量の複合焼結体を製造できるとともに、芯材および表皮材とも高密度でサイズ制御も容易にできる。
【0014】
さらに、前記(a1)および(a2)工程における有機バインダの添加量を30〜70体積%とすること、前記(a1)および(a2)工程において、前記有機バインダとともに、可塑剤、溶剤、分散剤および滑剤を添加することによって、成形性良く、均一で容易に所望の太さに制御された複合繊維体および複合焼結体を製造することができる。
【0015】
さらにまた、前記(a4)工程の後に、(a5)前記複合繊維体を束ねて再度押出成形してマルチフィラメント状の複合繊維体を作製する工程を具備することによって、硬度を維持したまま、より破壊靱性の高い複合焼結体を作製することができる。
【0016】
また、前記芯材および表皮材が、硬質合金、セラミックスおよび金属のいずれかからなることが、破壊エネルギー、抗折強度および破壊靱性に優れた構造材料として好適である。
【0017】
さらに、上記複合焼結体を構造部材として用いることにより、破壊エネルギーが高く、かつ高靭性の優れた性能を発揮するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の複合焼結体の製造方法について、その一例について詳細に説明する。
【0019】
(工程(a))
<芯材用成形体の成形工程>
まず、繊維状の芯材用成形体の周囲に、該芯材用成形体とは異なる組成からなる表皮材用成形体が被覆された複合繊維体を作製する工程(a)について、その好適な一例である図1の工程図を基に説明する。
【0020】
初めに、芯材1を超硬合金、サーメット、ダイヤモンド焼結体またはcBN焼結体等の硬質粒子を鉄族金属で結合した硬質合金にて作製する場合、例えば、平均粒径が0.1〜10μmの前記硬質粒子70〜95質量%、好ましくは80〜90質量%と、平均粒径が0.1〜3μmの結合金属粉末5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%とを混合し、必要に応じて、さらにこの混合物に焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤、分散剤、滑剤等を添加して混練した後、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により円柱形状に成形して芯材用成形体1を作製する(図1(a1)参照)。
【0021】
ここで、後述する共押出成形によって成形性良く、均質な複合成形体を所望の太さで得るためには、前記有機バインダの添加量を30〜70体積%、特に40〜60体積%とするのが望ましく、また、有機バインダとともに可塑剤、溶剤、分散剤および滑剤の少なくとも1種、特に2種以上を添加することがのぞましい。
【0022】
有機バインダ、可塑剤としては、パラフィンワックス、セルロース、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレン‐エチルアクリレート(エチレン−エチルアクリレートコポリマー)、エチレン‐ビニルアセテート(エチレン酢酸ビニル−コポリマー)、ポリブチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等を使用することができる。溶剤、分散剤および滑剤としてはメトキシポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ミネラルオイル、ブチルオリエート、ステアリン酸等を使用することができる。
【0023】
また、芯材1をセラミックスによって形成する場合、例えば、平均粒径が0.05〜3μmの前記セラミック粒子90〜99質量%、好ましくは95〜99質量%と、平均粒径が0.1〜5μm程度の焼結助剤粉末1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%とを混合して混合物を得、これをプレス成形または鋳込み成形等の成形法により円柱形状に成形して芯材用成形体1を作製する。
<表皮材用成形体の成形工程>
また、表皮材2を、芯材1と同様の硬質焼結体によって形成する場合、平均粒径が0.1〜10μmの前述した硬質粒子70〜95質量%、好ましくは80〜90質量%と、平均粒径が0.1〜5μm程度の結合金属粉末5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%とを混合して混合物を得、必要に応じて、さらにこの混合物に上記した焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤等を添加し、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体2、2を作製する(図1(a2)参照)。
【0024】
また、表皮材2をセラミックスによって形成する場合、平均粒径が0.05〜3μmの前記セラミック粒子90〜99質量%、好ましくは95〜99質量%と、平均粒径が0.1〜5μm程度の焼結助剤粉末1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%とを混合して混合物を得、これをプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体2、2を作製する。
【0025】
さらに、表皮材2を金属によって形成する場合、平均粒径が1〜10μmの金属粉末をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体2、2を作製する。
【0026】
その後、上記のようにして得られた芯材用成形体1の外周面を表皮材用成形体2、2によって覆うように配置して複合成形体3を作製する(図1(a3)参照)。
(共押出成形工程)
ついで、図1(a4)に示すように、押出機100を用いて、上記複合成形体3を押出成形(芯材用成形体1と表皮材用成形体2、2を同時に押出す共押出成形)することによって、図2に示すような芯材用成形体1の周囲に表皮材用成形体2が被覆され、細い径に伸延された複合繊維体4を作製する。このとき、複合繊維体4の断面は、押出機100の出口形状を変えることによって、円形の他、三角形、四角形、五角形、六角形、楕円形等の任意形状に成形することもできる。
【0027】
なお、上記共押出成形において、複合成形体3の最大径D1と共押出成形後の複合繊維体4の最大径D2との比率D2/D1は、0.02〜0.2が適当である。
【0028】
また、本発明によれば、図3に示すように、前述のようにして作製した複合繊維体4を束ねた集束繊維体:5、およびいわゆるマルチフィラメント構造を有するマルチフィラメント繊維体6を形成することもできる。その場合、複合繊維体4間に上記バインダなどの接着材を介在させて、さらに、この集束した繊維体5にCIPなどによって圧力を印加するものであってもよいが、必要に応じ、図3(a5)に示すように、複合繊維体4を複数本集束して再度押出成形して、集束した繊維体5を細い径に伸延したマルチフィラメント繊維体6(図3(a6)参照)とすることもできる。この方法によれば、成形体中の複合構造体同士のより強固な密着性を得ることもできる。
【0029】
なお、図1乃至図3においては芯材用成形体1と表皮材用成形体2とを共押出成形により複合繊維体4を作製する方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、繊維状の芯材用成形体を作製した後、塗布、引き上げ・浸漬、スプレー、蒸着または溶射等によりこの芯材用成形体の外周面に表皮材となる物質を被着形成する方法であってもよい。また、上記共押出成形法により複合繊維体を作製すれば、簡便な工程、安価な装置で大量の複合焼結体を製造できるとともに、芯材および表皮材とも高密度でサイズ制御も容易にできるという優位性がある。さらに、図3乃至図5においては複合繊維体の斜視図においては芯材と表皮材との構成を省略して記載した。
【0030】
(工程(b))
次に、本発明によれば、図4に示すように、シングルフィラメント状の複合繊維体4、集束された集束繊維体5またはマルチフィラメント状の複合繊維体6を平面方向に複数本配列してシート化する。本発明によれば、複合繊維体4(または5、6)を平面方向に複数本配列して熱圧着機101にて熱圧着しシート状成形体7を作製することが大きな特徴であり、これによって、成形体中の有機物成分の含有量を増すことなく複合繊維体4、4同士の密着力を高め、取り扱いによっても繊維体4、4同士の配列状態がずれることなく、均一に整列した繊維体からなるシート状成形体7を作製することができて複合焼結体の特性を均一にできるとともに、取り扱いが容易となるために配列工程にかかる時間を短縮できる。
【0031】
ここで、上記熱圧着工程において、温度80〜200℃、特に120〜160℃、圧力0.1kPa〜20MPa、特に1〜10kPa、時間2〜20秒、特に3〜10秒の条件で熱圧着することが複合繊維体4、4同士の密着性を高めることができるとともに、複合繊維体4の構成(芯材成形体1の外周面に確実に表皮材成形体2が存在する構成)および整列状態を保持し複合繊維体4の断面形状の変形を抑制する点で望ましい。
【0032】
なお、熱圧着工程においては、配列した複合繊維体4、4の上下面を覆うように離型紙103を配設することが望ましい。また、離型紙103と複合繊維体4との間には適度の粘着力を有する粘着剤(図示せず)を塗布しておくことが複合繊維体4、4の配列状態を均一に保てる点で望ましい。
【0033】
また、前記(b)工程において、複合繊維体4の配列方法としては、ランダムな配列または織物のように編み込んだ配列であってもよいが、図4に示すように、複数本の複合繊維体4、4を隙間なく並列に配列することによって、より均一な複合繊維体4を集束したシート状成形体7を作製できる。
【0034】
さらに、図5に示すように、並列に配列した複合繊維体4、4を複数段積層する構成として熱圧着することにより、複合繊維体4、4同士の密着性がより向上し、取り扱いがより容易になる。ここで、上記並列に配列した複合繊維体4の望ましい積層数は、後述するシート状成形体7の強度向上、前記離型紙103による複合繊維体4の固定が容易な点で2段とすることが望ましい。また、このとき、複合繊維体4、4を複数段積層する配置としては、▲1▼1段目の複合繊維体と2段目の複合繊維体とが直交するように積層する方法、▲2▼1段目の複合繊維体と2段目の複合繊維体とが並行(並列)するように積層する方法、▲3▼1段目の複合繊維体と2段目の複合繊維体とが所定の角度α(例えば45°)またはランダムな角度をなすように積層する方法が挙げられる。
【0035】
さらに、複数本の複合繊維体4、4を並列に配列するには、図6に示すように、押出し成形された複合繊維体4を糸道105等を経由させて巻き取り機のロール状のドラム104表面に隙間を開けず巻き取ることによって複合繊維体4をドラム102表面に並列に整列させることができ、その後、このドラム102表面に巻き取られた複合繊維体4をドラム104の断面方向Lでカットすることによって、容易に形成可能である。この時、ドラム102表面に予め離型紙103を巻いておけばドラム102から整列した複合繊維体4の整列状態を維持したまま取り外しすることが可能である。
【0036】
さらに、前記(b)工程において、一旦熱圧着したシート状成形体7をさらに複数枚積層することによって、作製できる複合成形体の構成の自由度が増し、より多様な構成の複合焼結体を作製することができる。その場合、図7(b2)に示すように、シート状成形体7、7を積層して再度熱圧着しても良く、または図7(b3)に示すように、シート状成形体7やシート状積層成形体8をロール106によって圧延することもできる。
【0037】
上記のようにして得られたシート状成形体7、またはこれを積層したシート状積層成形体8は、図8に示すように、さらに所定形状の金型107内に積層・充填してさらにプレス成形等により所定形状とすることもでき、シート状成形体同士を積層して冷間静水圧プレス(CIP)成形により所定形状とすることも可能である。さらには、上記所定形状に集束された成形体を断面方向にスライスして従来の超硬合金等の硬質焼結体の表面に貼り合わせ、または接合することも可能である。
【0038】
(工程(C))
ついで、上記シート状成形体7、もしくはシート状成形体7をさらに集束・積層したシート状積層成形体8を300〜700℃で10〜200時間昇温または保持して脱バインダ処理した後、真空中または不活性雰囲気中において、使用する材質に応じた所定温度および所定時間で焼成することにより、複合焼結体を作製することができる。
【0039】
特に、芯材1を周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物からなる硬質結晶粒子と、鉄族金属からなる結合金属相によって形成する場合には、Ar、N2または真空雰囲気中で1300〜1600℃で0.5〜2時間程度焼成することが望ましい。
【0040】
また、芯材1をAl2O3、Al2O3−TiC(TiCN)、Si3N4またはSiCのいずれかと焼結助剤とする場合にはArまたはN2雰囲気中で1500〜2000℃で0.5〜2時間程度焼成することが望ましい。
【0041】
(複合焼結体)
上述した方法によって得られた複合焼結体10の構成について説明する(図9参照)。
(芯材材質)
芯材1を形成する硬質焼結体は、硬質合金、セラミックスおよび金属のいずれかからなり、具体的には、硬質結晶粒子が、周期律表第4a、5a、6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物、具体的には、WC、TiC、TiCN、TiN、TaC、NbC、ZrC、ZrN、VC、Cr2CおよびMo2Cからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのうち、特にWC、TiCまたはTiCNを主成分とする超硬合金、サーメットが好ましい。芯材中における硬質粒子は、平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは0.1〜2μm、特に0.2〜0.5μmであるのがよい。また、結合金属としては、例えばFe、CoおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのうち、特にCoおよび/またはNiを主成分とするのが好ましい。この硬質焼結体における前記硬質結晶粒子は、70〜95質量%、結合金属相は5〜30質量%の割合で存在することが、耐摩耗性を高める上で有効である。
【0042】
セラミックスとしては、周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Si並びにZnの群から選ばれる少なくとも1種の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物および硼化物からなる群より選ばれる少なくとも1種等が挙げられる。セラミックスの具体例としては、例えばAl2O3、Al2O3−ZrO2、Al2O3−TiC(TiCN)、SiC、Si3N4、ZrO2、TiB2、ZnO−TiC等が挙げられる。これらのうち、特にAl2O3−TiC(TiCN)、Al2O3−ZrO2、SiC、Si3N4が好適に使用可能である。
【0043】
硬質合金またはセラミックスとしては、上記した材質の他、多結晶ダイヤモンド焼結体、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)焼結体、cBN(立方晶窒化ホウ素)焼結体をも用いることができる。
(表皮材材質)
一方、表皮材2は、芯材1と組成の異なる硬質合金、セラミックスまたは金属単体のうちのいずれかからなるものである。金属単体としては、特に鉄族金属が好適に使用可能である。
【0044】
なお、表皮材13が硬質焼結体からなる場合、硬質結晶粒子は、複合焼結体に期待する性能によって異なるが、例えば切削工具として最適な特性を達成するためには平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは0.5〜3μmであるのがよく、セラミックスからなる場合におけるセラミック粒子は、平均粒径が0.05〜10μm、好ましくは0.1〜3μmであるのがよい。
【0045】
また、芯材1の直径dcの表皮材2の厚さdsに対する比率dc/dsは用途によって異なるが、切削工具に使用する際には、5〜100、好ましくは10〜50、より好ましくは20〜30であるのがよい。特に、芯材1の直径は、その用途に応じて適宜設定されるが、切削工具に用いる場合には、5〜50μm、特に10〜30μmが適当である。
【0046】
本発明の複合焼結体は、耐欠損性および耐摩耗性に優れているので、例えば金属切削用工具、掘削用工具、航空機エンジン用耐熱部品等の構造部材として好適に使用可能であり、中でも航空機エンジン用耐熱部品、Ni基合金、Ti合金等の難削材加工用等の切削工具等の材料として使用した場合であっても、充分な耐欠損性および耐摩耗性が得られる。
【0047】
【実施例】
実施例1
平均粒径0.6μmのSi3N4粉末88質量%と、平均粒径0.5μmのY2O3粉末9質量%と、平均粒径0.5μmのAl2O3粉末3質量%の割合で添加し、これに有機バインダ(エチレン酢酸ビニル−コポリマーとエチレン−エチルアクリレートコポリマー)40体積%と滑材(ポリエチレングリコール)10体積%の割合で添加して混合物を得た。この混合物を芯部材については直径が20mmの円柱形状に押出成形して図1(a1)に示すような芯材用成形体1を作製した。
【0048】
一方、平均粒径5μmのBN粉末90質量%と、平均粒径0.5μmのY2O3粉末6質量%と、平均粒径0.5μmのAl2O3粉末2質量%と、平均粒径1.5μmのSiO2粉末2質量%との割合で添加し、これに、上記同様の有機バインダを加えて混練し、図1(a2)に示すような厚みが1mmの半割円筒形状の表皮部材用成形体2つを押出成形にて作製し、図1(a3)に示すように前記芯材用成形体1の外周を覆うように配置して複合成形体3を作製した。
【0049】
ついで、この複合成形体3を共押出成形して、図1(a4)に示すような伸延された直径が1mmの複合繊維体4を作製した。この時、複合繊維体4は、図6に示すように、表面に離型紙を配設した長さ80cm×直径30cmのドラム表面に繊維体間の隙間が0.3mm以下となるように複合繊維体4を並列に配列させながら巻き取った。なお、離型紙表面には複合繊維体4の付着および剥離がともに支障ない適度な接着力を有するスプレー状の接着剤を塗布しておき、複合繊維体4の配列がずれないように固定した。
【0050】
そして、この並列に配列した複合繊維体4を離型紙103に貼り付けたシートを2枚作製し、これら2枚のシートを複合繊維体4,4同士が互いに接触するように向き合うように、かつ1枚目のシートの複合繊維体4と2枚目の複合繊維体4とが直交する(繊維体同士の方向が90°ずれる)ように積層して、熱圧着機101にて温度140℃、圧力0.05kg/cm2(4.9kPa)、時間5秒の条件で圧着した。
【0051】
熱圧着後、離型紙103は容易にはがすことができ、保形性および取り扱い性の良いシート状成形体7が得られた。そして、このシート状成形体50枚を隣接するシート状成形体7内の複合繊維体4,4同士が直交する(90°の角度となる)ように断面が10cm×10cmの空間部を有する金型107内に積層して直方体形状の積層成形体を作製した。なお、前記複合繊維体から前記直方体形状の集束成形体を作製するまでに要した時間は1時間であった。
【0052】
その後、この積層成形体をカーボン型に入れて、100〜700℃まで70時間で昇温することによって脱バインダ処理を行った後、昇温速度10℃/分で昇温し、N2雰囲気中、1725℃で1時間ホットプレスにて焼成することによって、100mm×100mm×厚み5mmの板状の複合焼結体を作製した。なお、複合焼結体の断面を観察したところ、芯材の直径は200μm、表皮材の厚みは5μmであり、芯材と表皮材との間に剥離等は見られなかった。また、幅3mm×厚み2.5mm×長さ(スパン)10mmの試験片形状に切り出し、前記テストピースの形状以外はJISR1601に準じて3点曲げ強度を測定したところ500MPaであった。また、さらに、上記強度測定の試験片の引っ張り面中央部に幅0.1mm、深さ1mmの切り込み(スリット)をつけて3点曲げ試験を行い、この時の荷重−変位曲線で囲まれた面積を破断部の断面積1.5mm(厚み:2.5mm−切り込み:1mm)×幅3mmで除すことによって破壊エネルギー(Work of Fracture)を測定したところ、1500J/m2であった。
【0053】
(実施例2)
実施例1の表皮部材用原料を、平均粒径0.3μmのSiC粉末90質量%、平均粒径1.5μmのY2O3粉末8質量%、平均粒径0.5μmのAl2O3粉末2質量%の割合からなる混合粉末に換える以外は実施例1と同様にして複合構造体を作製した。
【0054】
実施例1と同様に評価したところ複合部材の3点曲げ強度を測定した結果900MPaであり、破壊エネルギー(WOF)は1400J/m2であった。
【0055】
(実施例3)
実施例1に対して、▲1▼芯材用成形体の原料として平均粒径が0.2μmの炭化タングステン粉末93質量%、平均粒径2μmの炭化クロム粉末0.6質量%、平均粒径1.5μmの炭化バナジウム粉末0.4質量%、平均粒径が1μmのCo粉末6質量%の混合粉末を用いること、▲2▼表皮材用成形体の原料として平均粒径が1μmの金属Ni粉末を用いること、▲3▼実施例1の直径が1mmの複合繊維体4aを380本集束し、図3(a5)に示すように、上記した押出成形工程と同様にして再度共押出成形して図3(a6)に示すようなマルチフィラメント状の複合繊維体を作製すること、▲4▼熱圧着する際、1段目の複合繊維体と2段目の複合繊維体とが45°をなすように積層して熱圧着すること、▲5▼300〜700℃まで72時間で昇温させることによって脱バインダ処理を行った後、昇温速度2.5℃/分でさらに昇温し、真空中、1400℃で1時間焼成し、さらに3℃/分で降温すること以外は実施例1と同様に複合焼結体を作製した。
【0056】
実施例1と同様に評価したところ、3点曲げ強度2500MPa、破壊エネルギー(WOF)は1800J/m2であった。
【0057】
(比較例)
実施例1に対して、並列に配列した複合繊維体を離型紙に貼り付けたシートを熱圧着することなく実施例1の金型内に繊維体が同じ向きとなるように重ねて離型紙を剥がすことによってシート状に配列した複合繊維体を積層する以外は実施例1と同様に複合焼結体を作製した。なお、前記金型内への積層の際には複合繊維体がずれやすいために、すでに積層した複合繊維体の表面に接着剤を塗布してから次のシートを重ねる方法とした。この方法によっても複合繊維体の配列にずれが生じやすく手作業で修正しながら積層した。
【0058】
得られた複合焼結体に対して、実施例1と同様に評価したところ、3点曲げ強度400MPa、破壊エネルギー(WOF)は800J/m2であった。なお、前記複合繊維体から前記直方体形状の集束成形体を作製するまでに要した時間は8時間であった。
【0059】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、複合繊維体を平面方向に複数本配列した状態で熱圧着することによって、成形体中の有機物成分の含有量を増すことなく複合繊維体同士の密着力を高め、取り扱いによっても繊維体同士の配列状態がずれることなく、均一に整列した繊維体を作製することができて複合焼結体の特性を均一にできるとともに、取り扱いが容易となるために配列工程にかかる時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合焼結体の製造方法について(a)工程を説明するための工程図(a1〜a4)である。
【図2】本発明の複合焼結体の製造方法にて得られる複合繊維体の構成を説明するための概略斜視図である。
【図3】本発明の複合焼結体の製造方法についてマルチフィラメント状の複合繊維体の(a5)作成方法、(a6)構造を説明するための図である。
【図4】本発明の複合焼結体の製造方法について(b)工程を説明するための図(b−1)斜視図、(b−2)断面図である。
【図5】本発明の複合焼結体の製造方法について(b)工程における複合繊維体の配列例を説明するための図である。
【図6】本発明の複合焼結体の製造方法について(b)工程における複合繊維体の配列方法の一例を説明するための図である。
【図7】本発明の複合焼結体の製造方法について(b)工程の変形例を説明するための図である。
【図8】本発明の複合焼結体の製造方法について(b)工程の他の変形例を説明するための図である。
【図9】本発明の複合焼結体の製造方法によって得られた複合焼結体の一例についての概略斜視図である。
【符号の説明】
1 芯材用成形体
2 表皮材用成形体
3 複合成形体
4 複合繊維体(シングルフィラメント状)
5 集束した繊維体
6 マルチフィラメント繊維体
7 シート状成形体
8 シート状積層成形体
10 複合焼結体
11 芯材
12 表皮材
100 押出機
101 熱圧着機
103 離型紙
104 巻き取り機のドラム
105 糸道
106 ロール
107 金型
Claims (10)
- (a1)芯材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、円柱形状に成形して芯材用成形体を作製する工程と、(a2)表皮材用の原料粉末に有機バインダを添加して混練し、半割円筒形状に成形して2つの表皮材用成形体を作製する工程と、(a3)前記芯材用成形体の外周面を前記表皮材用成形体によって覆うように配置した複合成形体を作製する工程と、(a4)前記複合成形体を押出成形して、繊維状の芯材用成形体の周囲に、該芯材用成形体とは異なる組成からなる表皮材用成形体が被覆された複合繊維体を作製する(a)工程と、(b)該複合繊維体を平面方向に複数本配列して熱圧着しシート状成形体を作製する工程と、(c)前記シート状成形体を焼成する工程と、を具備することを特徴とする複合焼結体の製造方法。
- 前記(b)工程において、温度:80〜200℃、圧力:0.1kPa〜20MPa、時間:2〜30秒の条件で熱圧着することを特徴とする請求項1記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(b)工程において、前記複数本の複合繊維体を並列に配列することを特徴とする請求項1または2記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記並列に配列した複合繊維体を複数段積層することを特徴とする請求項3記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(b)工程において、前記複数本の複合繊維体をドラム状の巻取り機にて並列に整列させて並列に配列し、その後、前記ドラム表面に巻き取られた複合繊維体を該ドラムの断面方向でカットすることを特徴とする請求項3または4記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(b)工程において、前記シート状成形体をさらに複数枚積層したシート状積層成形体を作製する工程を具備することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(a1)および(a2)工程における有機バインダの添加量を30〜70体積%とすることを特徴とする請求項1記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(a1)および(a2)工程において、前記有機バインダとともに、可塑剤、溶剤、分散剤および滑剤の少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1または7記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記(a4)工程の後に、(a5)前記複合繊維体を束ねて再度押出成形してマルチフィラメント状の複合繊維体を作製する工程を具備することを特徴とする請求項1記載の複合焼結体の製造方法。
- 前記芯材および表皮材が、硬質合金、セラミックスおよび金属のいずれかからなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか記載の複合焼結体の製造方法。
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