JP4183162B2 - 複合構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長尺状の芯材の外周を表皮部材にて被覆してなる複合構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、Al2O3とTiCとの複合セラミックスは高硬度および高強度を有する材料として知られ、構造材として広く用いられており、例えば、特開平2−229757号公報では、Al2O3に対して微粒のTiCを分散せしめた複合セラミックスがクラックの進展を抑制する効果を有すると記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のAl2O3とTiCの複合セラミックスでは、クラック進展の抑制効果が低く、例えば切削工具等として使用すると耐欠損性が劣るという問題があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、高硬度と高靭性とを兼ね備えた複合構造体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題について検討した結果、長尺状の芯材の外周を表皮部材にて被覆してなる複合構造体であって、前記芯材および前記表皮部材の双方を組成が異なるAl2O3とTiCとの複合セラミックスにて形成することにより、高硬度と高靭性を兼ね備えた複合構造体となることを知見した。
【0006】
すなわち、本発明の複合構造体は、Al2O3を90〜55重量%と、TiCを10〜45重量%との割合で含有する長尺状の芯材の外周を、Al2O3を10〜60重量%と、TiCを90〜40重量%との割合で含有するとともに、Al 2 O 3 の含有量が前記芯材のAl 2 O 3 の含有量よりも30重量%以上少ない表皮部材にて被覆してなることを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の複合構造体について、その一実施例である図1の概略斜視図を基に説明する。
【0009】
図1によれば、複合構造体1は長尺状の芯材4の外周を表皮部材(8)にて被覆した構造からなる。
【0010】
本発明によれば、芯材4および表皮部材8の双方を組成が異なるAl2O3とTiCとの複合セラミックスにて形成することが大きな特徴であり、これによって、複合構造体1の硬度を高めることができるとともに、表皮部材8の破壊を最低限に抑制できかつクラックの進路の変更、ブリッジング、ディボンディング、プルアウトの効果が発揮できることから構造体の靭性を高めることができる。
【0011】
また、本発明によれば、硬度を向上させることによって優れた耐摩耗性を発現させ、また靭性を向上させ耐欠損性を向上させるという点で、前記芯材4がAl2O3を90〜55重量%と、TiCを10〜45重量%との割合で含有するとともに、前記表皮部材8がAl2O3を10〜60重量%と、TiCを90〜40重量%との割合で含有することが重要である。また芯材のAl2O3の含有量は、表皮部材のAl2O3の含有量よりも30重量%以上多いことが重要である。
【0012】
本発明では、芯材4のAl2O3が90重量%を越え、TiCが10重量%未満になると、芯材4自体の靱性が低く、耐欠損性が向上する効果が低い。また、芯材4のAl2O3が55重量%未満になり、TiCが45重量%を越えると、芯材4の耐酸化性が劣化して耐摩耗性が劣るとともに、表皮部材8との組成が近くなって本構造の効果が弱くなる。
【0013】
一方、表皮部材8のAl2O3が10重量%未満になり、TiCが90重量%を越えると、表皮部材8が焼結不良となり、耐摩耗性が劣化する。また、表皮部材8のAl2O3が60重量%を越え、TiCが40重量%未満になると、芯材4との組成が近くなって本構造の効果が弱くなる。
【0014】
さらに、Al2O3とTiCとの複合セラミックス中には、助剤成分として、希土類酸化物、4a,5a,6aの酸化物、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化シリコンを含有することが望ましい。
【0015】
また、複合構造体1のクラックの進展の抑制のためには、例えば、芯材4の平均直径は5〜500μm以下、特に5〜300μm、表皮部材8の平均厚みは500μm以下、特に0.1〜200μm、さらに0.1〜30μmからなり、複合構造体1の直径が0.01〜5mmであることが望ましいが、高硬度と高靭性の両立のためには、芯材4の平均直径D1と表皮部材の平均厚みD2との比D2/D1が0.01〜0.5、特に0.02〜0.2であることが望ましい。
【0016】
さらに、図1では芯材4が1本、すなわち単体の周囲に表皮部材8が被覆された場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図3に示すように、図1の構造体1を例えば4本以上の複数本収束したマルチフィラメント構造であっても良い。
【0017】
また、複合構造体1は、図2に示すように、長尺状のものを所定長さとして並列に配列することによってシート状とすることもでき、さらに、該シートを(a)長尺状の複合構造体1が各層とも同じ方向を向くように積層する方法、(b)長尺状の複合構造体1が各層間で直交する(交差角90°)ように積層する方法、(c)長尺状の複合構造体1が各層間で例えば45°等の所定角度となるように交差して積層する方法等によって整列された構造体を作製することができ、用途に応じて異方性の度合いの異なる構造体とすることができる。
【0018】
他方、複合構造体1を、例えば0.01〜10mmの所定長さとして、これをランダムにお互いが絡み合った組織とすることもでき、かかる構造体によれば硬度や靭性等の特性の異方性が生じることなく均一な特性を有する構造体となる。
【0019】
次に、本発明の複合構造体1を製造する方法の一例について図4の模式図をもとに説明する。
【0020】
まず、平均粒径0.1〜3μmのAl2O3粉末と、平均粒径0.5〜5μmのTiC粉末と、所望により上述した助剤成分粉末とを所定の割合で添加、混合して、これにパラフィンワックス、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレ−ト、エチレン−ビニルアセテート、ポリブチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等の有機バインダを添加、混錬した後、プレス成形、押出成形または鋳込成形等の成形方法により芯材用に円柱形状の成形体4’を作製する(工程(a))。
【0021】
一方、平均粒径0.1〜3μmのAl2O3粉末と、平均粒径0.5〜5μmのTiC粉末と、所望により上述した助剤成分粉末とを所定の割合で添加、混合して、これに前述のバインダ等を添加、混錬して、プレス成形、押出成形または鋳込成形等の成形方法により半割円筒形状の2本の表皮部材用成形体8’を作製し、該表皮部材用成形体8’を前記芯材用成形体4’の外周を覆うように配置した複合成形体を作製する(工程(a))。
【0022】
そして、上記複合成形体を共押出成形することにより芯材4’の周囲に表皮部材8’が被覆された細い径に伸延された複合成形体1’を作製する(工程(b))。また、マルチフィラメント構造の構造体を作製するには、上記共押出しした長尺状の成形体1’を複数本収束して再度共押出し成形すれば良い(工程(c))。
【0023】
さらに、上記伸延された長尺状の成形体1’を所望により円柱や三角柱、四角柱、六角柱等の多角形に成形することもできる。また、長尺状の成形体1’を整列させてシートとなし、該シート同士が平行、直行または45°等の所定の角度をなすように積層させた積層体とすることもできる。また、公知のラピッドプロトダイビング法等の成形方法によって任意の形状に成形することも可能である。さらには、上記整列したシートまたは該シートを断面方向にスライスした複合構造体シートを従来の超硬合金等の硬質合金焼結体(塊状体)の表面に貼り合わせ、または接合することも可能である。
【0024】
なお、本発明によれば、上記方法以外にも繊維状の芯材用成形体を先に作製し、これを表皮部材用のスラリー中にディッピング(浸漬して引き上げ)することによって上述したような複合構造成形体を作製することも可能である。
【0025】
その後、前記成形体を脱バインダ処理した後、不活性ガス雰囲気例えばArガス中、1300〜2000℃で焼成することにより本発明の複合構造体1を作製することができる。また、焼成に際しては、所望により、1000℃〜1900℃でHIP焼成してもよい。
【0026】
さらに、得られた構造体1に対して、CVD法やPVD法等の薄膜形成法により構造体の表面に周期律表第4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物等の皮膜を形成することも可能である。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
平均粒径0.3μmのAl2O3粉末80重量%と、平均粒径0.8μmのTiC粉末19wt%と、平均粒1μmのY2O3粉末1重量%とを秤量し、これに有機バインダおよび溶媒を添加、混練した混練物を押出成形機に充填して直径500μmの繊維状に押出し成形し芯材用の成形体とした。
【0028】
一方、平均粒径1μmのAl2O3粉末20重量%と、平均粒径1μmのTiC粉末78wt%と、平均粒径1μmのY2O3粉末2重量%とを秤量し、これに有機バインダおよび溶媒を添加、混合してスラリー状とし、上記繊維状の芯材用成形体をスラリー内に浸漬、引き上げして芯材用成形体の外周に厚さ15μmの表皮部材をコーティングし、空気中で24時間乾燥して複合構造体を作製した。
【0029】
その後、複合構造体を50mm毎にカットし並列に整列させたシートを複数枚作製し、各シート間の複合構造体同士が45°となるように積層した積層体を作製し、所定形状にカットした。そして、この積層体を600℃で5時間脱バインダ処理し、1600℃で300MPaの圧力を付与してホットプレスを行った。
【0030】
得られた複合構造体は、芯材の平均直径が400μm、表皮部材の厚みが10μmであった。
【0031】
さらに、上記焼結体をSNGN120420の切削工具形状に切り出し、以下の条件で8000m切削した結果、ノーズ摩耗0.15mmで欠損は発生しなかった。
(切削条件)
被削材 FCD450
切削速度 400m/min
送り 0.3mm/rev.
切り込み 2mm
乾式切削
(実施例2)
平均粒径2μmのAl2O3粉末90重量%とTiC粉末8重量%に対し、平均粒径2μmの酸化コバルト粉末を2重量%添加し、これにバインダ、滑剤を添加、混錬した後、プレス成形により直径0.220mmの芯材用成形体を作製した。また、平均粒径2μmのAl2O3粉末6040重量%とTiC粉末55重量%に対し、平均粒径2μmの酸化コバルト粉末を2重量%、酸化イットリウム粉末を2重量%、酸化マグネシウムを1重量%添加し、これにバインダ、滑剤を添加、混錬した後、プレス成形により肉厚1mmで半割円筒状の表皮部材用成形体を2本作製し、前記芯材用成形体の周囲に被覆した複合成形体を作製した。
【0032】
そして、前記複合成形体を共押出して伸延した後、該伸延された成形体100本を収束して再度共押出し成形し、マルチフィラメントタイプの成形体を作製した。その後、該成形体に対して脱バインダ処理を行い、続いて超高圧装置内にセットして、アルゴン雰囲気中、圧力5GPaにて、1700℃で焼成して複合構造体を作製した。構造体の断面を顕微鏡にて観察したところ、平均で芯材の直径140〜160μm、表皮部材の平均厚み8〜12μmであった。
【0033】
得られた複合構造体に対して、実施例1と同様にヴィッカース硬度(JISR1601に準じる)およびIF法にて試料の靭性を測定した結果、硬度20GPa、破壊靭性8MPa√mであり、切削特性を評価した結果、ノーズ摩耗0.14mm、欠損は発生しなかった。
【0034】
(比較例)
実施例2の複合構造体に対して、表皮部材用成形体を実施例2の芯材用成形体と同じ混練物を用い、すなわち芯材用成形体と表皮部材用成形体とを同じ組成の混練物にて作製する以外は実施例2と同様にして複合構造体を作製し、同様に評価した結果、硬度18GPa、破壊靭性4MPa√m、ノーズ摩耗0.25mm、微小欠損が発生した。
【0035】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明の複合構造体によれば、芯材および表皮部材を、Al2O3を90〜55重量%と、TiCを10〜45重量%との割合で含有する芯材とAl2O3を10〜60重量%と、TiCを90〜40重量%との割合で含有するとともに、Al 2 O 3 の含有量が前記芯材のAl 2 O 3 の含有量よりも30重量%以上少ない表皮部材との組成が異なるAl2O3とTiCとの複合セラミックスにて形成することにより、高硬度と高靭性を兼ね備えた複合構造体となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合構造体の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1の複合構造体の平板状に組み合わせた例を示す図である。
【図3】本発明の複合構造体のマルチフィラメント状に組み合わせた例を示す図である。
【図4】本発明の複合構造体の製造方法を説明するための概念図である。
【符号の説明】
1 複合構造体
4 芯材
8 表皮部材
Claims (1)
- Al2O3を90〜55重量%と、TiCを10〜45重量%との割合で含有する長尺状の芯材の外周を、Al2O3を10〜60重量%と、TiCを90〜40重量%との割合で含有するとともに、Al 2 O 3 の含有量が前記芯材のAl 2 O 3 の含有量よりも30重量%以上少ない表皮部材にて被覆してなることを特徴とする複合構造体。
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