図1に、本発明に係る無機粒子の製造方法の好適なフローチャートを示す。図示の如く、原材料の製紙スラッジは、洗浄→アルカリ金属化合物添加→脱水→乾燥→造粒の各工程からなる前処理を経た上で、一次燃焼工程と二次燃焼工程とからなる少なくとも2段階の燃焼処理に供される。そして、この燃焼処理後の焼成物は、懸濁液化→炭酸化→脱水→分散→粉砕の各工程からなる後処理を経て白色の無機粒子として回収される。
原材料の製紙スラッジは、既述のように、パルプの如き繊維成分、澱粉や合成樹脂接着剤を主とする有機物、塗工紙用顔料の如き無機物などが利用されずに廃水中へ移行したものと、パルプ化工程などで発生するリグニンや微細繊維、古紙由来の製紙用填料や印刷インキ、生物廃水処理工程から生じる余剰汚泥などからなり、古紙処理工程において印刷インキなどを除去する脱墨工程や製紙用原料を回収して洗浄する洗浄工程に由来する固形成分などを含んでいる。また、この製紙スラッジの一部には、再利用困難な低級古紙やそれに付随するプラスチックを主としたRPF(Refused Paper & Plastic Fuel)を含んでいてもよい。
そして、該製紙スラッジ中の有機成分は、パルプや接着剤、前記RPFなどに由来して分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基などの官能基を有する易燃焼性のものと、古紙再生における印刷インキ由来のカーボンブラックの如き官能基を殆ど有しない難燃焼性のものとが混在している。一方、該製紙スラッジ中の無機成分(灰分)は、製紙用填料や塗工紙用顔料に由来するカオリン(クレー)および炭酸カルシウムが無機成分全体の約90〜95重量%を占める主成分であるが、タルクや二酸化チタンなどが少量混在している。
前記無機成分の主成分であるカオリンと炭酸カルシウムの比率は、処理する古紙の種類などによって多少のばらつきはあるが、概ねカオリン/炭酸カルシウムの重量比で30/70〜70/30の範囲である。また、製紙スラッジ中の有機成分と無機成分の比率は、処理する古紙の種類や脱墨工程の程度によって多少は変動するが、概ね無機成分/有機成分の重量比で30/70〜70/30の範囲である。
本発明では、前記の少なくとも2段階の燃焼処理により、製紙スラッジに含まれる全ての有機成分を確実に燃焼除去する。すなわち、本発明における燃焼処理は、原料の製紙スラッジを筒型熱処理炉内で移送しつつ行うが、その一次燃焼工程を過剰空気雰囲気下でスラッジ温度650℃以下の燃焼条件に、二次燃焼工程を過剰空気雰囲気下でスラッジ温度700〜850℃の燃焼条件に、それぞれ設定するものである。なお、過剰空気雰囲気とは、有機成分の燃焼に対して充分な酸素量を与えて不完全燃焼を生じさせない空気雰囲気を意味する。
まず、一次燃焼工程では、過剰空気雰囲気下で比較的低温の燃焼条件になるから、製紙スラッジ中の易燃焼性有機成分が、分子中の官能基を起点として容易に熱分解・発火し、炭化することなく燃焼して消失する。次の二次燃焼工程では、過剰空気雰囲気下で高温の燃焼条件になるから、一次燃焼工程で燃焼しきらずに残っていた難燃焼性有機成分も確実に燃焼して消失する。このような2段階の燃焼処理では、易燃焼性有機成分を燃焼しにくい炭化物に変化させずに燃焼除去できて合理的であり、製紙スラッジ中の有機成分全体の燃焼除去も短時間で効率よく行える。そして、得られる焼成物は、煤や炭などの未燃焼の有機成分を含まないために白色度が高く、製紙用填料や塗工用顔料の如き製紙用材料に好適に利用できるものとなる。
なお、一次燃焼工程のスラッジ温度が650℃を越えると、前述したように、易燃焼性有機成分が炭化して難燃焼性有機成分に変化し、燃焼効率が悪化することになる。また、この一次燃焼工程の燃焼温度があまりに低過ぎては易燃焼性有機成分でも熱分解・発火しにくくなって燃焼効率が悪化するため、スラッジ温度の下限を250℃とすることが望ましい。更に、一次燃焼工程の最も好適な焼成条件は、スラッジ温度350〜630℃となる範囲である。
一方、二次燃焼工程のスラッジ温度が700℃未満になると、難燃焼性有機成分の燃焼に時間がかかり、燃焼効率が悪化することになる。逆に該スラッジ温度が850℃を超える高温燃焼になった場合は、一般的にゲーレナイトと呼ばれる硬質の焼結物の生成によって製紙用材料としての適性が損なわれる。すなわち、このような硬質の焼結物が混入した焼成物から調製した製紙用填料や塗工用顔料に用いた場合、抄紙用ワイヤーや塗工用のブレードなどの製造設備を傷つけて製造操業性を悪化させ、製品品質にも悪影響を与えることになる。しかして、二次燃焼工程の最も好適な焼成条件は、スラッジ温度750〜800℃となる範囲である。
また、燃焼処理は、上記の一次及び二次燃焼工程からなる2段階で行う以外に、これら一次燃焼工程から二次燃焼工程への移行区間としての燃焼工程を挟んだり、一次及び二次燃焼工程の一方又は両方を更に燃焼温度(スラッジ温度)の異なる複数の燃焼工程に分けたりして、3段階以上とすることも可能である。
一次燃焼工程の燃焼処理時間は、少なくとも10分以上で8時間以内とすることが好ましく、15分以上で2時間以内とすることが特に好ましく、短過ぎては製紙スラッジ中の易燃焼性有機成分の燃焼除去が不充分になる恐れがあり、長過ぎては熱エネルギーの無駄になる。ともかく全ての易燃焼性有機成分が燃焼除去されるのに充分な時間をかけることが重要である。また、二次燃焼工程の燃焼処理時間は、少なくとも10分以上で8時間以内とすることが好ましく、20分以上で2時間以内とすることが特に好ましく、短過ぎては製紙スラッジ中の難燃焼性有機成分の燃焼除去が不充分になる恐れがあり、長過ぎては熱エネルギーの無駄になる。そして、一次燃焼工程と二次燃焼工程の燃焼処理時間の比率は、一次燃焼工程/二次燃焼工程で1/10〜10/1の範囲とすることが好ましい。
燃焼処理に用いる筒型熱処理炉は、被処理物の移送方式により、ロータリーキルンと称される回転式キルン炉と、スクリュー式キルン炉とがあるが、燃焼効率面から回転式キルン炉が好適である。また、前記の少なくとも2段階の燃焼処理は、1基の筒型熱処理炉内で行う他、段階ごとに異なる複数基の筒型熱処理炉を用いて行うことも可能であるが、当然に1基で行う方が設備効率及び設備コスト面で有利である。
なお、燃焼処理を前記1基の筒形熱処理炉を用いて行う場合の一次燃焼工程と二次燃焼工程との間に生じる昇温領域、具体的には燃焼温度が650℃から700℃へ上昇する領域については、できるだけ短くすることが好ましく、10分以内とすることが特に好ましい。このように一次燃焼工程と二次燃焼工程との間の昇温領域を短くすることは、筒型熱処理炉の全長短縮によるコンパクト化に繋がり、設備効率及び設備コスト面で有利である。
筒型熱処理炉の加熱方式としては、直接的加熱方式(内熱式)よりも間接的加熱方式(外熱式)の方が好ましい。すなわち、直接的加熱方式では、処理炉内で熱源ガスを燃焼させるのに大量の空気(酸素)を消費するため、製紙スラッジに含まれる有機成分の燃焼が空気不足で不完全になる懸念がある上、熱源ガスの燃焼によって炉内温度(スラッジ温度)の制御が非常に困難になる。これに対し、間接的加熱方式では、熱源のために炉内空気を消費することがないから、炉内を過剰空気雰囲気に確実に設定できることに加え、外部からの加熱度合を自在に変化できるので、炉内温度の制御が極めて容易になる。
上記の間接的加熱方式における加熱手段としては、電気的ヒータや誘導電流による加熱も可能ではあるが、エネルギーコスト面より、筒型の炉本体を包囲する加熱ジャケット内に、灯油や重油などの燃焼ガス、既存の焼却設備から排出される燃焼排ガス、高温空気、過熱水蒸気などを導入したり、該処理炉の周壁にガスバーナーからの燃焼ガスを吹き付けて加熱する方法が推奨される。また、炉本体内での燃焼処理を経た高温の排気や前処理の乾燥工程からの燃焼排ガスも、当該加熱手段の熱媒や熱源の一部として利用できる。
筒型熱処理炉の炉本体内への燃焼用空気の供給は、高品質の焼成物を製出する上で、焼成物排出口側から行うことが推奨される。すなわち、焼成物排出口側からの空気供給により、炉本体内での空気の流れ方向が被処理物(製紙スラッジとその焼成物)の移送方向に対して逆向きになり、燃焼に伴って未燃焼の難燃焼性有機成分が煤の如き状態となってたまたま炉内に飛散しても、煤の如き浮遊性物質は空気の流れに乗って原料供給口側へ戻されて燃焼するか、あるいは更に排気に付随して筒型熱処理炉外へ排出されるため、焼成物に黒色の未燃焼の難燃焼性有機成分が混入するのを防止でき、もって白色度の高い焼成物が得られる。しかして、排気に付随して筒型熱処理炉外へ排出される未燃焼の難燃焼性有機成分は、バグフィルターなどで捕集して除去するか、排気と共に適当な加熱手段によって燃焼処理して消失させるのがよい。
上述のように炉本体内への燃焼用空気を焼成物排出口側から供給するには、該焼成物排出口側から空気を吹き込んでもよいが、原料供給口側の排気によって空気を吸入する方法が好適である。すなわち、原料供給口側から強制的に排気することによって炉内が負圧になるから、焼成物排出口の近傍に給気口を設けておけば、該負圧によって空気が給気口から自動的に炉内へ吸入される。しかして、このような原料供給口側の排気による空気供給では、排気量によって空気供給量を容易に制御できると共に、安定した空気流によって長い炉本体の全長にわたって空気を確実に行き渡らせることができる。
上記の空気供給量は、炉本体内を過剰空気雰囲気とする上で、製紙スラッジに含まれる有機成分の完全燃焼に要する理論酸素量に対し、1.1〜5倍の酸素量を与える量に設定することが好ましく、特に2〜5倍の酸素量を与える量が望ましい。この空気供給量が少な過ぎては、炉本体内を過剰空気雰囲気にすることが困難になり、有機成分の不完全燃焼で残留した炭化物によって焼成物の白色度が低下する恐れがある。また、逆に空気供給量が多過ぎては、供給空気によって炉内が過度に冷やされるため、燃焼温度を維持する上で加熱手段による加熱度合を強める必要があり、それだけエネルギーコストが嵩むことになる。しかして、この燃焼用の空気は、有機成分を充分に燃焼させる酸素を含んでおればよいから、通常の外気よりも二酸化炭素の含有量が多いものでも支障はない。
本発明方法による製紙スラッジの好適な燃焼処理状態が現出すれば、一次燃焼工程では、スラッジ中の有機成分の大部分を占める多量の易燃焼性有機成分が充分な酸素の存在下で炎を上げて燃焼し、この燃焼が当該一次燃焼工程の1/2〜2/3まで連続する状態となる。同じく二次燃焼工程では、残留した難燃性有機成分が燃焼するが、その含有量が少ないために炎を上げることはなくとも、700〜850℃の高温であるためにスラッジが灼熱しながら持続的に燃焼する状態となる。
図2は本発明に用いる筒型熱処理炉の第一構成例である間接的加熱方式の回転式キルン炉K1を模式的に示す縦断側面図である。図示のように、この回転式キルン炉K1は、炉本体である横円筒型の回転胴1の外周が加熱ジャケット2で包囲されており、該回転胴1の一端の原料供給口1a側に、排気口3とやや離間して原料投入口4とが設けられると共に、この原料投入口4と回転胴1の原料供給口1aとの間に、スクリューフィーダーの如き原料供給手段5が配設され、また回転胴1の他端の焼成物排出口1bに臨んで、給気口6Aと焼成物取出口7とが設けられている。
そして、加熱ジャケット2内には、一次燃焼用及び二次燃焼用の2系統の間接的加熱手段8A,8Bにより、それぞれの熱風ブロア81を介して送出される熱風が各々複数本のバルブ付き放出口82…から、原料供給口1a側の前部加熱空間2aと焼成物排出口1b側の後部加熱空間2bとに分けて導入される。また、排気口3には排気ファンの如き排気手段9が介装されており、その稼働によって破線矢印aで示すように回転胴1内の空気が排気されると共に、この排気に伴う減圧作用で給気口6Aより外部の空気が回転胴1内へ吸入される。10は排気口3の下流側に設けた排気循環ブロアである。
なお、回転胴1は、厳密な図示を省略しているが、原料供給口1a側から焼成物排出口1b側に向かって非常に緩やかな下り勾配に傾斜しており、この回転胴1の傾斜と回転により、内部の被処理物が重力作用で原料供給口1a側から焼成物排出口1b側へ徐々に移動するようになっている。
上記構成の回転式キルン炉K1によって製紙スラッジSの燃焼処理を行うには、実線矢印bで示すように、原料投入口4に投入された原料の製紙スラッジSを、原料供給手段5によって回転胴1の原料供給口1aへ送り込み、該回転胴1の回転によって焼成物排出口1b側へ移送する過程で、加熱ジャケット2内へ導入される熱風による間接加熱により、当該スラッジS中の有機成分を既述焼成条件の一次燃焼工程と二次燃焼工程の2段階で燃焼させる。
すなわち、この2段階の燃焼処理は、排気手段9の稼働による排気口3からの排気に伴う給気口6Aからの空気の吸入により、回転胴1内全体を過剰空気雰囲気に維持しつつ、2系統の間接的加熱手段8A,8Bから加熱ジャケット2内の前部加熱空間2aと後部加熱空間2bに各々導入される熱風の温度と導入速度によって加熱度合を調整し、図中の仮想線cで分かつように、その前部加熱空間2aに対応した回転胴1内の前側領域を一次燃焼区間Z1としてスラッジ温度650℃以下(好適には650℃以下で250℃以上、最適には350〜630℃)に制御すると共に、後部加熱空間2bに対応した回転胴1内の後側領域を二次燃焼区間Z2としてスラッジ温度700〜850℃(好適には750〜800℃)に制御する。
これにより、製紙スラッジSは、一次燃焼区間Z1を通過する過程で含有する易燃焼性有機成分が炭化することなく燃焼除去され、次いで二次燃焼区間Z2を通過する過程で含有する難燃焼性有機成分が燃焼除去され、もって未燃焼の有機成分ならびに硬質の焼結物を含まない高白色度の焼成物として、回転胴1の焼成物排出口1bから排出され、焼成物取出口7を通して炉外に取り出される。
なお、両燃焼区間Z1,Z2における処理時間(通過時間)は、回転胴1の回転速度と傾斜度合によって設定すればよい。また、回転胴1内における両燃焼区間Z1,Z2の長さ比率は、前述の如く一次燃焼工程/二次燃焼工程で1/10〜10/1の範囲とすることが好ましいが、2系統の間接的加熱手段8A,8Bから加熱ジャケット2内へそれぞれ熱風を導入する領域の大きさの相対比率によって任意に調整できる。しかして、両燃焼区間Z1,Z2の燃焼温度(スラッジ温度)を制御するための温度計測には、熱電対や赤外線温度センサーを始めとする様々な計測手段を利用できるが、作動の信頼性とコスト面より熱電対が好適である。
一方、排気口3からの排気は、燃焼による高温状態であるから、排気循環ブロアー10によって熱風循環系へ送られ、図1のフローチャートで示す前処理の乾燥工程における熱源としたり、間接的加熱手段8A,8Bの熱風又は熱源の一部として循環利用される。なお、間接的加熱手段8A,8Bの熱風やその熱源には、前処理の乾燥工程などからの燃焼排ガスも利用可能である。
図3は、本発明に用いる筒型熱処理炉の第二構成例である間接的加熱方式の回転式キルン炉K2を模式的に示す縦断側面図であり、既述の図2で示す第一構成例の回転式キルン炉K1と共通する構成要素には同一符号を附している。この回転式キルン炉K2は、第一構成例の回転式キルン炉K1とほぼ同様の構成であるが、加熱ジャケット2内の前部加熱空間2aと後部加熱空間2bとが仕切り部材11によって遮断されている。なお、この仕切り部材11としては、金属、陶磁器、煉瓦などの燃焼処理の高温に耐え得る材料を所要形状に整形加工したものが用いられる。
この第二構成例の回転式キルン炉K2では、間接的加熱手段8Aによって加熱ジャケット2内の前部加熱空間2aへ導入される比較的温度の低い熱風と、間接的加熱手段8Bによって加熱ジャケット2内の後部加熱空間2bへ導入される高温の熱風とが混じり合わないため、回転胴1内の一次燃焼区間Z1と二次燃焼区間Z2の熱処理温度の制御がより容易になり、両区間Z1,Z2の温度差を安定に維持できて高品質の焼成物が得られると共に、両区間Z1,Z2の間で温度が変化する移行領域の長さを短くできるから、回転胴1内に占める一次及び二次燃焼工程の領域の比率が高くなり、それだけ回転胴1をコンパクトに構成できて設備コストの低減に繋がるという利点がある。
図4は、本発明に用いる筒型熱処理炉の第三構成例である間接的加熱方式の回転式キルン炉K3を模式的に示す縦断側面図であり、既述の図2及び図3で示す第一及び第二構成例の回転式キルン炉K1,K2と共通する構成要素には同一符号を附している。この第三構成例の回転式キルン炉K3は、回転胴1の外周が原料供給口1a側と焼成物排出口1b側とに分離した加熱ジャケット2A,2Bで包囲され、両加熱ジャケット2A,2Bの境界部分に中間の給気口6Bが設けられている。
この回転式キルン炉K3では、前記第一及び第二構成例の回転式キルン炉K1,K2と同様に、2系統の間接的加熱手段8A,8Bによる熱風を両加熱ジャケット2A,2B内の各加熱空間2a,2bに別々に導入することにより、その前部加熱空間2aに対応した回転胴1内の前側領域がスラッジ温度650℃以下(好適には650℃以下で250℃以上、最適には350〜630℃)の一次燃焼区間Z1に、同じく後部加熱空間2bに対応した回転胴1内の後側領域がスラッジ温度700〜850℃(好適には750〜800℃)の二次燃焼区間Z2に、それぞれ設定される。
しかるに、この回転式キルン炉K3においては、排気手段9によって回転胴1内の空気を原料供給口1a近傍の排気口3から強制的に排気し、これに伴って回転胴1内に生じた負圧により外部から空気を吸入するが、焼成物排出口1b側と中間の2ヶ所に給気口6A,6Bをそれぞれ設けている。このため、両給気口6A,6Bからの吸入により、回転胴1内では給気口6Aからの空気流a1に中間位置で給気口6Bからの空気流a2が加わり、両空気流a1,a2を合流した空気流a3が回転胴1内の一次燃焼区間を通って排気口3から排出される。
このように、回転胴1内への燃焼用空気の供給を焼成物排出口1b側の給気口6Aと中間の給気口6Bの2ヶ所から行う構成とすれば、一次燃焼工程が行われる回転胴1内の一次燃焼区間Z1へ充分に酸素を含んだ新鮮な空気( 外気) が供給されるから、一次燃焼区間Z1での過剰空気雰囲気が安定に維持され、もって製紙スラッジSに含まれる易燃焼性有機成分を炭化させることなく確実に燃焼除去できる。また、一次燃焼区間Z1には燃焼処理温度が高い二次燃焼区間Z2の空気流が移動してくるが、中間の給気口6Bを通じて温度の低い空気(外気)を供給することにより、一次燃焼区間Z1を設定した比較的低い燃焼温度に安定して維持し易くなる。なお、このような給気口を手動や遠隔操作にて開口度を調整可能にすることが燃焼温度を安定に制御する上で好ましい。
図5は、上記第三構成例の回転式キルン炉K3における回転胴1部分の構造例を示す。この回転胴1は、径が異なる円筒体1A,1Bを、径小の円筒体1Aが原料供給口1a側になる形で、一部重なるように同心に配置した構造を有しており、その重なり部分に構成される環状間隙を中間の空気供給口6Bとしている。この場合、原料供給口1aに供給された製紙スラッジSは、回転胴1全体の回転によって矢印bで示すように径小の円筒体1A内及び径大の円筒体1B内を順次移動する過程で有機成分を燃焼除去され、焼成物排出口1bから排出される。また、回転胴1内には、排気手段9(図4参照)による強制的な排気により、焼成物排出口1b側の給気口6Aからの空気流a1に加えて、中間の給気口6Bからの空気流a2としても新鮮な空気が吸入される。
なお、第三構成例の回転式キルン炉K3のような回転胴1の中間位置からの空気供給には、図5に例示した以外の種々の構造を採用できる。
本発明に用いる筒型熱処理炉の炉本体としては、既述の第一〜第三構成例の回転式キルン炉K1〜K3における回転胴1のような横円筒型に限らず、内部に仕切りや隔壁を設けることにより、内部を複数の区分室に区画した多分割構造や多胴多室構造とした回転胴も採用可能である。これら多分割構造や多胴多室構造とした回転胴の例を図6〜図8に示す。なお、これら図6〜図8はいずれも、横長の回転胴の長手方向に対して直交する方向の断面図(径方向断面図)であり、図の上下方向が実際の上下方向に一致している。
図6(a)に示す回転胴1は、略6角形外殻12aを有する6分割隔壁構造であり、その内部が断面六方放射状をなす隔壁12bによって断面正三角形の6個の区分室13…に分割されている。図6(b)は、製紙スラッジSの造粒物を供給した同回転胴1が矢印d方向に回転している場合の、各区分室13における該製紙スラッジSの積層・ 堆積状態を示している。
図7(a)に示す回転胴1は、6本の管部14…をドーナツ板状の管部固定部材15によって略円環状に束ねた6胴型多胴構造であり、6本の管部14…に囲まれた中央の空洞部16が管部固定部材15の中心孔15aを通して軸心方向に連通している。図7(b)は、製紙スラッジSの造粒物を供給した同回転胴1が矢印d方向に回転している場合の、各管部14における該製紙スラッジSの積層・ 堆積状態を示している。
図8(a)に示す回転胴1は、12分割隔壁構造であり、二重管をなす内筒部17aと外筒部17bとの間の環状空間を12枚の隔壁17c…で放射状に仕切ることにより、12個の区分室18…を形成しており、内筒部17aの内側は空洞部16をなしている。図8(b)は、製紙スラッジSの造粒物を供給した同回転胴1が矢印d方向に回転している場合の、各区分室18における該製紙スラッジSの積層・ 堆積状態を示している。
これら図6〜図8に例示したように、横長の回転胴1を多分割構造や多胴多室構造とすれば、供給される製紙スラッジSが複数の区分室や胴部に少量ずつ分配されることになるから、全体が単一の炉内空間をなす単なる横円筒型の回転胴に比較して、当該回転胴1内の移送過程における被処理物(製紙スラッジS,焼成物)の堆積厚さが格段に小さくなると共に、回転胴1の回転に伴う被処理物の攪拌作用が強くなり、有機成分を燃焼させるための空気(酸素)と被処理物との接触効率が著しく向上し、もって有機成分の燃焼効率が飛躍的に高まり、高品質の焼成物ひいては無機粒子が得られる。
なお、このような多分割構造や多胴多室構造における移送経路の分割数は、上記の作用効果を充分に発揮させる上で、少なくとも6以上とすることが推奨される。また、回転胴の分割構造は、図6〜図8に例示した構造に限らず、例えば特願2006−252751号に紹介されている18分割型、24分割型、36分割型などの多分割隔壁構造や、特願2006−279813号に紹介されている多胴型構造の各管状部材に対して隔壁あるいは仕切りを設けて、総分割数として6〜126分割した多胴・多分割構造とした回転胴構造など、種々の構造が可能である。更に、これらのような回転胴、および管状部材の内部を隔壁で複数の区分室に区画する構造の他に、隔壁に類似した形状の回動型攪拌翼を回転胴内、および管状部材内に非固定状態に挿入することにより、回転胴内を複数の区分室に分割し、該回転胴内に供給される製紙スラッジSを複数の区分室に分配させるようにしてもよい。
また、図7及び図8に示すように、軸心方向に沿う空洞部16を設けた多分割構造や多胴構造の回転胴1を採用する場合、外側からの間接的加熱に加えて、空洞部16を利用して内側(中心側)からも間接的加熱を行うようにすれば、より精度よく燃焼温度を制御できる上、より高い熱処理効率を達成できる。この内側からの間接的加熱手段としては、既述した外側からの間接的加熱手段と同様の種々の熱媒及び熱源を採用できる。
図9は本発明に用いる筒型熱処理炉の第四構成例である間接的加熱方式の回転式キルン炉K4を模式的に示す縦断側面図であり、既述の図2〜図4で示す第一〜第三構成例の回転式キルン炉K1〜K3と共通する構成要素には同一符号を附している。
この回転式キルン炉K4では、回転胴1が既述の図7,図8に示すような軸心方向に沿う空洞部16を有するものからなり、回転胴1の外側から加熱する間接的加熱手段8A、8Bに加えて、空洞部16にも回転胴1を内側から加熱する間接的加熱手段8C、8Dを備えている。これら内側用の間接的加熱手段8C,8Dは、それぞれの熱風ブロア81を介して送出される熱風を、外部から給気口6Aを通して空洞部16内へ挿通された配管の各々複数の放出口82から、空洞部16内における原料供給口1a側の前部加熱空間16aと、焼成物排出口1b側の後部加熱空間16bとに分けて導入するようになっている。しかして、図9の仮想線cで前後に分かつように、空洞部16内の前部加熱空間16aは、加熱ジャケット2内の間接的加熱手段8Aによる熱風が導入される前部加熱空間2aに対応し、同じく後部加熱空間16bは加熱ジャケット2内の間接的加熱手段8Bによる熱風が導入される後部加熱空間2bに対応している。
従って、この回転式キルン炉K4による製紙スラッジSの燃焼処理では、内外の前部加熱空間16a,2aに挟まれた回転胴1内の前側領域を一次燃焼区間Z1として、間接的加熱手段8A、8Cによる内外からの間接的加熱により、スラッジ温度650℃以下(好適には650℃以下で250℃以上、最適には350〜630℃)に設定する。また、同じく内外の後部加熱空間16b,2bに挟まれた回転胴1内の後側領域は、間接的加熱手段8B、8Dによる内外からの間接的加熱により、二次燃焼区間Z2としてスラッジ温度700〜850℃(好適には750〜800℃)に設定する。
なお、この第四構成例の回転式キルン炉K4のように、回転胴1の軸心方向に沿う空洞部16を利用して内側からも間接加熱する場合に、外側の間接加熱と同様に一次燃焼用と二次燃焼用の2系統の間接加熱手段8C,8Dを採用すれば、その内側からの間接加熱による熱処理効率の向上に加え、一次燃焼工程(一次燃焼区間Z1)と二次燃焼工程(一次燃焼区間Z2)の燃焼処理温度の制御がより容易になるという利点がある。
前記の如き燃焼処理においては、原料の製紙スラッジに含まれていた炭酸カルシウムが熱分解(脱炭酸)するが、その分解率は燃焼処理前の炭酸カルシウム全量の50%以上とするのがよく、特に該分解率を90%以上、更に好ましくは実質的に100%とすることが好ましい。これは、本発明では、上記熱分解後のカルシウム成分を後述する後処理の炭酸化工程で全て元の炭酸カルシウムに戻せるため、燃焼処理での炭酸カルシウムの分解を抑える必要がなく、もって燃焼処理を炭酸カルシウムの熱分解温度525℃よりも高い温度として有機成分の燃焼除去を優先的に行えることによる。燃焼処理における炭酸カルシウムの分解率が50%未満であると、前にも述べたように、二次燃焼工程において燃焼温度700℃以上でスラッジ中の有機成分を燃焼除去させながら、その燃焼温度よりも低い温度525℃程度から生じる炭酸カルシウムの熱分解を抑制するという相反する作用を期待することになるので、非効率的にならざるを得ず、所望とする高品位なスラッジ焼却灰を高率で得るには不向きとなる。
次に、原料の製紙スラッジSに対し、上述した燃焼処理に供する前に施す各種の前処理について、既述の図1のフローチャートで示す工程順に説明する。なお、最初の洗浄工程は原料とする製紙スラッジに水洗を施すものである。
〔原料スラッジ〕
まず、原料の製紙スラッジは、前記したように、パルプ化工程、紙製造工程、古紙再生工程などの各種工程から排出されるが、古紙再生工程からのスラッジについては、脱墨工程の前段工程である離解工程の白水からのスラッジを回収することが推奨される。これは、離解工程の白水からのスラッジ回収により、以降の脱墨工程、漂白処理、洗浄処理の負荷が軽減され、もって古紙処理コストの低減に加え、排水処理の負荷も小さくなることによる。また、白色度の低い古紙原料からのスラッジ回収では、古紙再生工程における脱墨処理及び浮選処理を充分に行って、難燃焼性有機成分となるカーボンブラックなどを含むインク粒子をできるだけ事前にスラッジから除去しておくのがよい。
〔アルカリ金属化合物添加工程〕
これは、本発明者らが見出した前処理技術であり、原料とする製紙スラッジに対してアルカリ金属化合物を添加することにより、後の燃焼処理においてアルカリ金属が有機成分の熱分解及び燃焼に対して一種の触媒的に作用し、もって燃焼効率が向上する。そして、このような作用効果は、易燃焼性有機成分に対しては無論のこと、熱分解・発火の起点となる官能基に乏しい難燃焼性有機成分に対しても有効に働くことが判明している。
添加するアルカリ金属化合物としては、特に制約はないが、水に対する溶解性やアルカリ金属の安全性(劇毒物性)などの面から、ナトリウム又はカリウムの水酸化物及び炭酸塩が好ましい。これに対し、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどのハロゲン化物、更には硝酸ナトリウムや硝酸カリウムの如き硝酸塩、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムの如き硫酸塩などのアルカリ金属強酸塩類は、アルカリ金属化合物としての燃焼効率の向上効果はあるものの、燃焼処理過程でハロゲン化水素(塩化水素)や硝酸、硫酸などの強酸類が発生し、筒型熱処理炉を構成する金属材質を腐蝕する恐れがあるために望ましくない。また、これらアルカリ金属化合物は、粒状や粉末状の固形形態と水溶液形態のいずれでもよく、脱水処理前のスラッジを含む排水中や脱水処理後のスラッジに添加すればよいが、添加の均一性と添加量調整の容易さより、水溶液形態で脱水処理前に原料スラッジに添加する方法や乾燥処理前のスラッジに噴霧する方法などが好適である。
製紙スラッジに対するアルカリ金属化合物の添加量は、アルカリ金属水酸化物の場合、スラッジ絶乾重量100重量部に対して、絶乾重量で0.001〜5.0重量部の範囲が好ましく,特に同0.1〜1.0重量部の範囲が最適である。しかして、この添加量が少な過ぎては充分な作用効果が得られない。逆に該添加量が多過ぎては、無駄になる上、アルカリ金属化合物が水酸化物である場合に、過剰のアルカリによってスラッジのpHが強いアルカリ性となり、スラッジの取り扱いにも注意が必要となるために好ましくない。
〔脱水工程〕
製紙スラッジ含有排水から、濾過、遠心分離、加圧脱水、圧搾等により、所要の含水率の製紙スラッジを得るものである。好適な脱水装置として、スクリュープレスと称される加圧・圧搾脱水装置やデンカターと称される遠心脱水装置がある。
〔乾燥工程〕
製紙スラッジの水分を蒸発させて固形分濃度を高めるものである。すなわち、本発明においては、燃焼処理する際の製紙スラッジの固形分濃度は、特に限定されないが、熱エネルギー効率を高め、また装置をコンパクト化する観点から、なるべく高い方がよく、特に70質量%以上とすることが好ましい。しかるに、前記の脱水工程のみでは、脱水装置機の能力によって異なるものの、固形分濃度は概ね5〜60質量%程度であるため、更に乾燥処理して固形分濃度を高めることが推奨される。
このような乾燥工程に用いる乾燥機としては、特に限定はなく、例えば、直接加熱型ロータリーキルン、間接加熱型ロータリーキルン、気流乾燥機、流動層乾燥機、回転・通気回転乾燥機等を用いることができる。また、これら乾燥機の熱源として前述した燃焼処理の排熱を使用することにより、エネルギーコストを低減することが可能である。
乾燥処理の温度は、気流乾燥機や回転・通気回転乾燥機のような熱風を利用して乾燥させる装置においては、スラッジの燃焼や炭化を防止するために熱風温度を500℃以下とすることが好ましく、250℃以下とすることが特に好ましい。この熱風温度が高過ぎては、スラッジが発火し、その際の燃焼条件が適切でなければ、易燃焼性の有機成分が炭化して難燃焼性に変化する懸念がある。
〔造粒工程〕
前記乾燥後の製紙スラッジを適当な手段で適度な粒子サイズに成形するものである。すなわち、本発明で原料とする製紙スラッジは、筒型熱処理炉内を移送しつつ空気(酸素)と接触して有機成分を燃焼できる形態及び粒子サイズであればよいが、細か過ぎると堆積層が高密度化し、その層内に空気が入り込みにくくなり、逆に塊状のような粗大になっても塊状物内部まで空気が行き渡りにくくなり、共に有機成分の燃焼性が悪化して未燃焼炭化物による焼成物の白色度の低下を招くため、ある程度の大きさに造粒することが好ましい。
造粒手段としては、ブリケットマシンやローラーコンパクターの如き圧縮成形機、ディスクペレッターの如き押出成形機、及び転動造粒法や攪拌造粒法等によってペレット造粒する一般的な造粒方法の他、脱水処理後の含水した製紙スラッジを乾燥装置や筒型熱処理炉置へ投入する際に、スクリューフィーダの如き剪断作用のある搬送装置を用いて搬送を兼ねて造粒したり、乾燥工程中での製紙スラッジの搬送運動を利用して造粒することも可能である。
なお、造粒の粒子サイズとしては、長さ又は直径で2〜30mm程度の範囲が好適であり、3〜20mmの範囲が更に好適である。この範囲を外れて例えば1mm程度の粒子サイズにした場合は、燃焼の際に周囲の空気と充分に接触できず、未燃焼になり易くなる。また、30mmを越えると中心部まで完全に燃焼させることが困難になってくる。造粒の粒子形状としては、円柱状、球状、楕円、三角形、その他の多角形や、凹凸を有するもの等、特に制約はない。
次に、前記の燃焼処理にて得られた焼成物に対する各種の後処理について、既述の図1のフローチャートで示す工程順に説明する。
〔懸濁液化工程・炭酸化工程〕
燃焼処理にて得られた焼成物を水に混合・攪拌して懸濁液とし、この懸濁液中に炭酸ガスを吹き込んで焼成物を炭酸化処理する。これは、原料の製紙スラッジに炭酸カルシウムを含む場合、燃焼処理において炭酸カルシウム(CaCO3 )が熱分解され、その熱分解されたカルシウム成分を含む無機粒子を製紙用填料や塗工用顔料等の製紙用材料に用いた際、アルカリ性が非常に強くなったり、粘度の上昇や顔料の分散不良等を生じたりする懸念があるため、燃焼処理後のカルシウム成分を懸濁液化で水和物に変換し、更に炭酸化処理して炭酸カルシウムに戻すものである。
懸濁液化工程は、上述のように燃焼処理で熱分解したカルシウム成分を炭酸カルシウムに戻す前に一旦水和物に変換することが目的であるから、特に条件的な制約はないが、低い処理温度では懸濁液化に長時間を要する一方、高い処理温度では温度維持のための加熱コストが嵩んで不経済であるため、処理温度を20〜80℃とすることが好ましく、40〜60℃とすることが特に好ましい。因みに、処理温度が60℃程度であれば、懸濁液化を60分程度で完了できる。また、懸濁液の固形分濃度は、後続する炭酸化工程における炭酸化処理を効率的に行い、また懸濁液の粘度を低く維持して流動攪拌性や送液性を良好に維持する上で、5〜20質量%とすることが好ましい。
炭酸化工程では、焼成物の懸濁液に対して炭酸ガスを吹き込むが、高純度の二酸化炭素ガスは不経済であるため、工業的には二酸化炭素濃度としては5〜40容量%程度、特に好適には10〜35容量%程度の二酸化炭素含有ガスを用いるのがよい。このような二酸化炭素含有ガスとしては、例えば、スラッジ燃焼排ガス、石灰石焼成排ガス、石灰焼成排ガス、ゴミ焼却排ガス、発電ボイラー排ガス、或いはパルプ製造工程で用いられる苛性化炭酸カルシウム焼成キルンからの排出ガス等、種々の燃焼排ガスを適当な手段で除塵して用いることができる。なお、吹き込みガスの二酸化炭素濃度が低過ぎては、炭酸化に長時間を要し、それだけ無機粒子の生産性が低下する一方、高い二酸化炭素濃度に設定するには調製コストが高く付く。
炭酸化工程での炭酸ガスの吹き込み量は、焼成物中の熱分解されたカルシウム成分固形物1kgに対し、二酸化炭素ガスとして0.5〜15リットル/分の割合が好適であり、少な過ぎては炭酸化に時間を要して無機粒子の生産性を低下させ、逆に多過ぎては吹き込み用の動力負荷が大きくなって不経済である。また、炭酸化の際の焼成物懸濁液の温度(炭酸化反応温度)は、30〜80℃程度、特に40〜70℃の範囲がよく、低過ぎては炭酸化反応の効率が低下し、逆に高過ぎても二酸化炭素ガスが懸濁液中に充分に溶解しなくなって炭酸化反応の効率低下を招く。
なお、炭酸化工程では、製出させる炭酸カルシウムを所望の結晶形状とするために、焼成物懸濁液中に当該結晶形状を持つ炭酸カルシウムの種結晶を添加してもよい。
前記のように焼成物を炭酸化して得られた炭酸化処理物は、製紙用填料に適した粒子径の大きい白色の無機粒子となっているから、炭酸化処理物の懸濁液をそのまま製紙用填料としてパルプなどの製紙用原材料に配合して用いることもできる。
〔脱水工程・分散工程・粉砕工程〕
前記の炭酸化工程から得られた炭酸化処理物を脱水処理したのち、分散及び粉砕処理することにより、塗工紙用顔料として適した微細な白色の無機粒子の高濃度スラリーを得る。その脱水工程では、既述の前処理における脱水工程と同様に、炭酸化処理物の懸濁液から、濾過、遠心分離、加圧脱水、圧搾等により、所要の含水率の炭酸化処理物とする。そして、次の分散工程では、脱水されたケーキ状の炭酸化処理物に水分を加えて高濃度スラリーとするが、その分散操作には通常の分散処理で行われている攪拌、解砕、分散などの各種手法を採用できる。また、この分散操作に際して分散剤を添加することにより、無機粒子が良好な分散状態になり、製紙用材料としての品質及び取り扱い性が向上する。このような分散剤としては、製紙用材料の製造の際に用いられる一般的な分散剤を使用でき、その具体例としてポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子系の分散剤が挙げられる。
好適に用いることができる分散装置として、混合容器が自転し、アジテータのような攪拌工具が別駆動で回転する分散機、例えば日本アイリッヒ製のインテンシブミキサを用いるのが好ましい。このように、攪拌工具が駆動するだけでなく、混合容器も回転する分散装置を用いれば、容器内の脱水ケーキが複雑に動き、激しい内部せん断力が発生するため、分散スラリーの粘度が低くなると想定される。なお、混合容器の自転方向は、攪拌工具と同じ方向、逆方向のどちらを採用することも可能である。さらに、容器内部の原料固着を防ぐためにスクレーパーを配置しておくのがよい。
上記のような分散装置を用いた好ましい分散方法としては、粘度の高い硬いペースト状で混練した後に分散剤並びに希釈水を添加し、スラリー化することで粘度が低い分散スラリーを得ることができる。なお、分散させる炭酸化処理物は、脱水後のケーキ状のまま、あるいは少量の分散剤を添加して形で用いることが好ましい。これは、炭酸化処理物を硬い状態で混合することで、攪拌工具からの強力なせん断力により炭酸化処理物がほぐされ、スラリーの粘度がより低下すると推定されることによる。なお、ケーキ状の炭酸化処理物の大きさは、分散装置に投入することができる大きさであれば問題はなく、特に解砕機等で細かく解砕する必要はない。
なお、炭酸化工程を経た炭酸化処理物の懸濁液は、脱水処理する前に振動篩等の篩でろ過処理するのがよく、更に該ろ過処理の前に液体サイクロンを用いた分級処理を行うことが好ましい。すなわち、前記のろ過処理により、炭酸化処理物中に混入するα−クオーツなどの珪素を含む粒子や粗大粒子が除去されるから、抄紙用ワイヤーの摩耗を低減できる。また、該ろ過処理前に液体サイクロンによる分級処理を行えば、後続するろ過処理の篩の目詰まりを防止できるという利点がある。
粉砕工程では、前記の分散処理後の無機粒子を粉砕して微粒子化することにより、該無機粒子を塗工用顔料として好適な高品質の白色無機粒子とする。この粉砕工程の粉砕装置としては、製紙用材料の製造において一般的に用いられるサンドミル、湿式ボールミル、振動ミル、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、コボールミルなどを使用できる。
この無機粒子の大きさ(粒子径)は、レーザー回折粒度分布測定による平均粒子径(D50)として、最終的に0.1〜20μmとすることが好ましく、塗工用顔料として用いる場合には0.3〜5μm、内添填料として用いる場合には3〜15μmとすることが特に好ましい。
本発明によって製紙スラッジを原料として得られる無機粒子は、白色度が高く、且つ硬質の焼結物を含まないため、上述のようにそのまま製紙用填料や塗工用顔料などの製紙用材料として使用できると共に、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、焼成カオリン、二酸化チタン、サチンホワイト、シリカ等の製紙用材料として用いられる各種無機顔料に混合して使用できる。
〔得られた無機粒子の用途〕
本発明方法により得られる無機粒子(以下、「本発明の無機粒子」と呼ぶ)は、主として、炭酸化処理により新たに析出した炭酸カルシウム粒子と、カオリンが熱処理により変性した非晶質成分粒子とで構成されている。なお、この非晶質成分は焼成カオリンによく似た性質を示す。このため、本発明の無機粒子は、焼成カオリンと炭酸カルシウムの各々の特長である不透明度、平滑度、高吸油度、およびインキ乾燥性に優れ、そのまま製紙用填料、塗工紙用顔料などの製紙用材料として使用できる。
本発明の無機粒子の特徴を最大限に有効活用できる用途としては、不透明度および平滑度が発現し難く、白色度も要求されるオフセット印刷、グラビア印刷等の各種印刷用紙がある。本発明の無機粒子の用途としては、例えば、(1)坪量が75g/m2以下の非塗工印刷用紙または塗工用原紙の内添填料(以下、「第1の用途」と呼ぶ)、(2)坪量が75g/m2以下の片面あたり1層塗工された微塗工〜軽量塗工紙(A3塗工紙、B3塗工紙)の塗工用顔料(以下、「第2の用途」と呼ぶ)の他、嵩高性、高被覆性(平滑性)、インキ乾燥性等が要求される洋紙として、(3)片面あたり2層塗工の塗工紙(A2塗工紙、B2塗工紙)、アート紙(A0塗工紙、B0塗工紙、A1塗工紙、B1塗工紙)などの塗工用顔料(以下、「第3の用途」と呼ぶ)などが挙げられる。以下、これら三つの態様について説明する。
(1)第一の用途(内添填料としての用途)
本発明の無機粒子は、填料として単独または他の製紙用填料とともに用いることができる(以下、これらを総称して「本発明の填料」と呼ぶ)。他の製紙用填料としては、クレー、焼成クレー、ケイソウ土、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、パルプ製造プロセスの苛性化工程から生成する炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等の無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの有機填料等が挙げられる。本発明の無機粒子は、これらの填料の中から選択される1種以上の填料とともに使用することができる。
本発明の無機粒子を他の製紙用填料とともに用いる場合の配合量は、特に制限しないが、原料コスト低減の観点からは、填料総量に対して10質量%以上含有させるのが好ましい。
本発明の填料の内填紙中の含有率(灰分)は、特に制限はないが、1質量%未満の場合には、目的とする不透明度等の紙質が低くなるおそれがあり、30質量%を超える場合には、引き裂き強さ、紙の層間強度、およびブリスタ等の紙質が低下するおそれがある。従って、本発明の填料の含有率は1〜30質量%の範囲とするのが好ましい。特に好ましいのは5〜20質量%である。この範囲で含有させることにより、紙の散乱表面積を増加させて、紙の不透明性を高めることができる。
本発明の填料を内添する紙のパルプ原料には、特に制限はなく、通常、紙の製造に使用される公知の製紙用パルプを使用することができる。具体的には、広葉樹材、針葉樹材の制限はなく両者の原料から得られるパルプとして、サルファイトパルプ、クラフトパルプ、ソーダパルプ等のケミカルパルプ、砕木パルプ、リファイナーパルプ砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミグランドパルプ、セミケミカルパルプ等の機械パルプ、楮、三椏、麻等の非木材パルプ、および新聞古紙、印刷古紙、雑誌古紙、OA古紙等の古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらのパルプから選択される1種以上に、本発明の填料を混合して抄紙することができる。
本発明の填料をパルプ原料に添加する際には、パルプ原料を充分に攪拌しながら製紙用填料を添加することが好ましい。その際の撹拌速度は100〜5000rpm程度とすることが好ましい。
パルプ原料に添加する際の本発明の填料の濃度は、パルプ原料に混合してから抄紙されるため、抄紙機のインレット濃度の範囲内となるような濃度とすればよい。パルプ原料への本発明の填料の添加は、出来る限り抄紙機の直前で行うのが望ましい。これは、カチオン性高分子等の歩留り向上剤の添加によって凝集形成させた本発明の填料のフロック(凝集粒子)が剪断力等により破壊されるのを抑制し、製紙用填料が凝集状態を維持したままで紙に内添させるためである。
パルプ原料には、本発明の填料の他、通常の抄紙で用いられる添加剤、例えば、サイズ剤、消泡剤、スライムコントロール剤、染料、着色顔料、蛍光染料、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、濾水性向上剤、定着剤及び歩留り向上剤等を、適宜必要に応じて添加することができる。
かくして調製された紙料は、目的に応じた公知の抄紙機によって抄造することができる。湿式抄紙機としては、例えば、丸網式抄紙機、短網式抄紙機、長網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機等の商業規模の抄紙機を用いることができる。
本発明の填料を内添した紙の表面には、紙力、塗工適性、印刷適性等を改善または向上させるために一般的に用いられる各種デンプン類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、各種表面サイズ剤等を主体とする塗被液を塗布することも可能である。
上記の塗被液に対しては、塗工用に一般的に使用される各種顔料として、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、二酸化チタン、合成シリカ、水酸化アルミニウム等の無機顔料、およびポリスチレン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等の合成高分子微粒子等の1種以上を必要に応じて配合することができる。なお、本発明の無機粒子を配合することも可能である。
本発明の填料を内添した紙の坪量については、特に限定はないが、所望する効果が発揮されるのは、40〜200g/m2 程度の範囲である。特に、40〜75g/m2程度の範囲とする場合に、本発明の効果が顕著となる。ただし、この範囲を越えた板紙、カード等の厚紙へ当然ながら添加できる。
このようにして抄造された紙は、本発明の無機粒子を含んでいるために、紙の白色度、不透明度および平滑度に優れており、そのまま印刷用紙、筆記用紙、事務用紙等の非塗工紙として使用できるほか、塗工用原紙としても好適に使用できる。
(2)第2の用途(塗工用顔料としての用途)
本発明の無機粒子は、塗工用顔料として、単独または他の塗工用顔料とともに用いることができる(以下、これらを総称して「本発明の顔料」と呼ぶ)。他の塗工用顔料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、パルプ製造プロセスの苛性化工程から生成する炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、サチンホワイト、タルク、酸化チタン、水酸化アルミニウム、アルミナ、ゼオライト、シリカ、酸化亜鉛、活性白土、珪藻土、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の無機顔料、および密実型、中空型、お椀型、ドーナツ型などの各種プラスチックピグメント、バインダピグメント等が挙げられる。本発明の無機粒子は、これらの顔料から選択される1種以上とともに使用することができる。
本発明の無機粒子を他の製紙用顔料とともに用いる場合の配合量は、特に制限しないが、原料コスト低減の観点からは、顔料の総量中の10質量%以上を占める範囲で含有させることが好ましい。
本発明の顔料には、塗工紙用の一般的な接着剤が添加され塗工紙用塗被液とされるが、この接着剤には特に制限はなく、例えば、分散液型接着剤として、アクリル系、スチレン−アクリル系、スチレン−ブタジエン系、酢酸ビニル−アクリル系、ブタジエン−メチルメタクリル系、酢酸ビニル−ブチルアクリレート系等の各種共重合体ラテックス、水溶性接着剤として、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酵素変性澱粉等の各種変性澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらの接着剤から選択される1種以上を使用することができる。
上記接着剤は、本発明の顔料100質量部あたり5〜50質量部含有させるのが好ましい。接着剤の配合量が本発明の顔料100質量部あたり5質量部未満であると、顔料塗工層の強度が低下して、ストリーク、スクラッチ、ピッキング等の問題を引き起こす。逆に接着剤の上記配合量が50質量部を超えると、顔料塗工層の強度は充分に発現されるものの、平滑性の低下、インキ乾燥性の悪化等の問題が生じる。接着剤のより好ましい配合量は、本発明の顔料100質量部あたり8〜30質量部である。
なお、上記塗工紙用塗被液中には、本発明の効果が損なわれない範囲で、サイズ剤、染料、増粘剤、保水剤、流動変性剤、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤、導電剤、離型剤など一般に使用されている添加剤を添加してもよい。
本発明の顔料を用いて、坪量75g/m2以下の片面あたり1層塗工の塗工紙を調製する際には通常の塗工方式を用いることができる。塗工方式としては、例えば、2本ロールサイズプレス、ゲートロールサイズプレスコーター、メタリングサイズプレスコーター、シムサイザー等のトランスファーロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイコーター、スプレーコーターなどが挙げられる。特に、複数のロールを介してアプリケーターロールに塗工液を転写し、このアプリケーターロールに所定量付着した塗工液を原紙表面に付与する塗工方式である、トランスファーロールコーター方式を採用するのが好ましい。
トランスファーロールコーターは、前計量塗工方式とも呼ばれ、原紙に塗工する前に塗工液を所定量に調整することを特徴としている。このため、原紙に付着させた塗工液を掻き取る塗工方式(後計量塗工方式)であるブレードコーター、バーブレードコーターなどと比較して、コーター条件設定が容易であり、ブレード等の消耗部品の交換が不要である。このため、安定した塗工条件をできるので、長時間安定操業が可能である。そのほか、ストリーク欠陥が少ないこと、1000m/min以上での高速塗工が可能であること、原紙の両面に同時に塗工層を設けることができること等の利点もあるため、生産性を大幅に向上させ、塗工紙を安価に製造できる。
トランスファーロールコーターには、オンマシンコーターおよびオフマシンコーターの各種方式があるが、いずれの方式を採用してもよい。なお、オンマシンコーターとは、原紙の製造機(抄紙機など)上に設置されて原紙の製造と同じラインで塗工するコーター設置形式であり、オフマシンコーターとは、原紙の製造機とは別に設置され、製造された原紙を一旦巻き取った後に、別ラインに設置したコーターで塗工する設置形式である。生産効率を向上させてコストダウンを図る点では、オンマシン方式のトランスファーロールコーターを用いるのが好ましい。
上記塗工紙用塗被液の粘度は、ハーキュレス粘度を5〜30mPa・sにすることが好ましい。塗被液のハーキュレス粘度が5mPa・s未満であると、充分な塗工量を得ることができなくなるおそれがあり、ハーキュレス粘度が30mPa・sを超えると、例えば、トランスファーロールコーターによる塗工時にはジャンピングと呼ばれる塗被液が飛散する不具合が生じ、例えば、ブレードコーターによる塗工時にはストリークが生じて塗工不良となるおそれがあるからである。
なお、ハーキュレス粘度とは、流体(塗被液)に対して高いズリ速度を与えたときの流体の粘度であり、本件明細書においては、Tappi T648準拠し、ハーキュレス粘度計(回転子:Fボブ)を用い、回転数8800rpmの条件で測定した粘度を意味する。上記塗工紙用塗被液のハーキュレス粘度を前記範囲とすると、トランスファーロールコーターによる高速塗工を安定して行うことが可能になる。
ハーキュレス粘度の調整方法としては、例えば、塗工紙用塗被液に使用する各顔料の平均粒子径、濃度などの調整、塗工紙用塗被液へ添加する接着剤の配合量の調整、増粘剤、保水剤、流動変性剤などの種類、配合量などの調節が挙げられる。これらの何れを採用してもよい。
上記塗工紙用塗被液の塗工量(乾燥後塗工量)は、原紙の片面当り2〜7g/m2 とするのが好ましい。塗工量が2g/m2 未満であると、塗工ムラが生じ、原紙表面に塗工層を均一に形成 しにくく、塗工量が7g/m2を超えると、乾燥負荷が過大となって操業性が低下するおそれがあるからである。
トランスファーロールコーターによって塗工する場合には、上記塗工紙用塗被液中の固形分濃度を10〜60%とすることが好ましい。上記塗工紙用塗被液中の固形分濃度が10%未満の場合には十分な塗工量を確保できなくなるおそれがあり、60%を超える場合には、上記塗工紙用塗被液の粘度が過大となり、塗工量の制御が困難になるなどの実用上の問題が生じるおそれがあるからである。特に好ましい固形分濃度の範囲は、30〜50%である。
塗工紙用の原紙としては、木材セルロース繊維を原料とする一般的な塗工用原紙を用いることができる。塗工用原紙に用いる木材セルロースとしては抄紙用パルプを用いることができ、具体的には、広葉樹材、針葉樹材の制限はなく両者の原料から得られるパルプとして、サルファイトパルプ、クラフトパルプ、ソーダパルプ等のケミカルパルプ、砕木パルプ、リファイナーパルプ砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミグランドパルプ、セミケミカルパルプ等の機械パルプ、楮、三椏、麻等の非木材パルプ、および新聞古紙、印刷古紙、雑誌古紙、OA古紙等の古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられ、前記各種パルプを単独、または2種類以上を併用して抄紙した原紙を用いることができる。
前記塗工用原紙には、本発明の填料または前掲の製紙用填料として通常使用されている各種填料を添加することができ、また、通常の塗工用原紙の抄紙で用いられる前掲の添加剤を必要に応じて添加することができる。
本発明において、無機粒子を含む塗工用顔料を用いた第2用途の塗工紙の坪量については特に限定はないが、被覆性、表面平滑性、嵩高性、光沢度、インキ乾燥性等の効果が顕著になるのは、40〜75g/m2程度の範囲とする場合である。
上記塗工用塗被液を原紙に塗工した後は、塗被層を乾燥させ、塗工紙を得る。この乾燥方法としては、例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法を任意に選択して使用することができる。塗工紙は、乾燥後、さらに必要に応じて、後加工として所望の面質、白紙光沢となるように加圧平滑化処理が施された後、巻取り製品もしくは枚葉製品として仕上げてもよい。加圧平滑化処理方法としては、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、マットカレンダー、ソフトカレンダー等を任意に選択して使用することができる。
(3)第3の用途(塗工用顔料としての用途)
片面2層塗工の塗工紙、アート紙には白色度、平滑度および不透明度に加えて、嵩高性、高被覆性(平滑性)、インキ乾燥性等の各種性能が要求される。これらの性能を満たすために、本発明の顔料を下塗り層および上塗り層の一方又は双方に配合することができる。特に、下塗り層に配合することが好ましい。これは、本発明の無機粒子が焼成カオリンとよく似た性質を有するものであり、この無機粒子を顔料塗工層に配合すると塗工紙の嵩高性、インキ吸収性、およびインキ乾燥性が向上させることができ、特に原紙面に近い下塗り層に対して本無機粒子を配合することにより、前記効果を顕著、かつ効果的に発現させることができる。
下塗り層、上塗り層ともに、本発明の無機粒子の顔料の総量に対する配合量は第2の用途の場合と同様である。ただし、下塗り層に用いる顔料としては、平均粒子径1.2μm以上の顔料が顔料の総量に対して40質量%以上含まれていることが好ましい。下塗り層の顔料の総量に対する平均粒子径1.2μm以上の顔料の配合量が40質量%未満の場合、下塗り層の平滑度が高くなりすぎてストリークを誘発してしまうおそれがあるからである。なお、顔料の平均粒子径は、大きすぎると、所望とする平滑性、白紙光沢等が発現しにくくなるので、5μm以下のものを使用するのが好ましい。
上塗り層および下塗り層の顔料に添加する接着剤の種類及び上塗り層の顔料に添加する接着剤の配合量は、第2の用途の場合と同様である。また、塗工紙用塗被液には、サイズ剤等の助剤を添加できることも第2の用途の場合と同様である。ただし、下塗り層の顔料に添加する水溶性接着剤の配合量は、本発明の顔料100質量部あたり6質量部以下とすることが好ましい。これを超えて配合すると、水溶性接着剤が本発明の顔料によって形成された塗工層空隙の連接部分に埋められ、塗工層空隙による吸収が阻害されて、インキ吸収性、インキ乾燥性等が低下するおそれがあるからである。
下塗り層の塗工方式については、第2の用途の場合と同様である。ただし、上塗り層の塗布方式については、第2の用途で掲げた塗布方式のうち、ブレードコーター方式を採用するのが特に好ましい。下塗り層においてトランスファーロールコーター方式を採用することにより、前述のように、下塗り層の平滑性を適度に保ちつつ、塗工紙の生産性・操業性を向上でき、また上塗り層においてブレードコーター方式を用いることにより、上塗り層の平滑性を最大限に発現させることができ、これらによって白紙光沢度、印刷の均一性、印刷再現性などを向上させることができる。
下塗り層、上塗り層ともに塗工紙用塗被液の粘度は、第2の用途の場合と同様に、ハーキュレス粘度(8800rpm)を5〜30mPa・sにすることが好ましい。その理由も前掲の通りである。
下塗り層および上塗り層のそれぞれについての塗工紙用塗被液の塗工量(乾燥塗工量)は、原紙片面当り2〜12g/m2 とし、2層塗工によって原紙の少なくとも片面に、乾燥塗工量(片面あたりの総塗工量)が4〜24g/m2 となるように塗布・乾燥することが好ましい。各塗工 層の塗工量が2g/m2未満では、塗工ムラが生じ、塗工層を均一に形成しにくく、各塗工層の 塗工量が12g/m2を超えると、乾燥負荷が過大となって操業性が低下するおそれがあるから である。
下塗り層をトランスファーロールコーターによって塗工する場合の塗工紙用塗被液中の固形分濃度については、第2の用途の場合と同様、10〜60%とすることが好ましい。ただし、上塗り層をブレードコーターによって塗工する場合の塗工紙用塗被液の固形分濃度は、30〜65%とすることが好ましい。上記塗工紙用塗被液中の固形分濃度が30%未満の場合には十分な塗工量を確保できなくなる、十分な平滑性が発現しなくなるなどのおそれがあり、65%を超える場合には、顔料塗被液の粘度が過大となり、ストリークの発生や塗工量の制御が困難になるなど、実用上の問題が生じるおそれがあるからである。特に好ましいのは40〜60%である。
塗工紙用原紙の原料、内添する填料および助剤については、第2の用途の場合と同様である。本発明において、無機粒子を含む塗工用顔料を用いた塗工紙の坪量については特に限定はないが、所望する効果が発揮されるのは、40〜200g/m2 程度の範囲である。特に40〜100g/m2 程度の範囲とする場合に、本発明の効果が顕著となる。ただし、この範囲を越えた板紙、カード等の厚紙へ当然ながら添加できる。
〔実施例・比較例〕
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、勿論、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
実施例1
洋紙、板紙の抄紙機および塗工機、さらに脱墨パルプ化設備を有する製紙工場の廃水を廃水処理クラリファイヤーで分離して得られた固形分および活性汚泥処理などの余剰汚泥からなる製紙スラッジを原料とし、脱水機を用いて固形分約50%まで脱水したのち、乾燥機を用いて固形分約75%になるように乾燥し、次いでディスクペレッターを用いて直径約5mm、長さ約15mmのペレットに造粒成形し、前処理を終えた。そして、この前処理後の製紙スラッジ造粒物を、既述の図3で示す第二構成例の回転キルン炉K2(高砂工業製の外熱式ロータリーキルン、回転胴の径300mm,長さ2400mm)を用いて燃焼処理した。
この燃焼処理では、原料の製紙スラッジ造粒物をホッパを用いて3.5Kg/ hの供給速度で原料投入口4から供給し、原料供給手段5であるスクリューフィーダーによって回転胴1の原料供給口1aに送り込み、該回転胴1内を移送しつつ、一次燃焼区間Z1及び二次燃焼区間Z2での2段階の燃焼処理を行った。そして、両燃焼区間Z1,Z2では、図示を省略した燃焼ボイラーからの燃焼ガスを熱源として、間接的加熱手段8A,8Bによる加熱ジャケット2の前部及び後部加熱空間2a,2bへの該燃焼ガスの導入量で熱処理温度を制御し、一次燃焼区間Z1をスラッジ温度600℃で処理時間(スラッジ滞留時間)を約40分、二次燃焼区間Z2をスラッジ温度800℃で処理時間を約90分に設定した。一方、排気手段9の排気ファンによって回転胴1内から燃焼排ガスを100L/分(空気温度20℃換算)で排出し、これに伴う減圧作用で排気口3から排出される排ガスと同量の外気を給気口6Aから吸入し、もって回転胴1内全体を常に過剰空気雰囲気に維持した。
この燃焼処理で得られた焼成物の組成をX線回折によって調べた結果、硬質の高温焼結物(ゲーレナイト)は含まれておらず、燃焼処理前の製紙スラッジに含有されていた炭酸カルシウムは全て分解していた。また、炭酸カルシウム以外の成分では、カオリンが全て非晶質に変化していたが、タルクは全く変化していなかった。
次いで、前記燃焼処理によって得られた焼成物を懸濁液化槽(消和槽)を用いて60℃の温水と混合し、この懸濁液化槽の温度を60℃に保持しながら60分間攪拌して、固形分濃度が約12%の焼成物懸濁液を調製した。そして、この焼成物懸濁液10kgを炭酸化反応槽に仕込み、この炭酸化反応槽の温度を60℃に保持しつつ、懸濁液中に25容量%の二酸化炭素含有ガスを20リットル/分で吹き込みながら60分間攪拌を行って炭酸化処理した。この炭酸化処理後の無機粒子の組成をX線回折で調べた結果、燃焼処理によって分解していたカルシウム成分の全量が炭酸カルシウムまで転化していた。
次に、前記炭酸化処理にて得られた炭酸化処理物の懸濁液をフィルタープレスで脱水処理し、得られた固形分濃度が約48%のケーキ状の炭酸化処理物をコーレスミキサーにて水に分散させることにより、固形分濃度が約46%の白色の無機粒子スラリーを調製した。なお、この分散させる水には、分散剤としてポリアクリル酸系分散剤(商品名:アロンT−50、東亜合成株式会社製)を炭酸化処理物の固形分100重量部に対して1.0重量部添加した。そして、最後にサンドグラインダーを用いて上記の無機粒子スラリーを湿式粉砕し、塗工用顔料に適した微粒子状の白色無機粒子を得た。
実施例2
燃焼処理における一次燃焼区間Z1のスラッジ温度を450℃とした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
実施例3
原料の製紙スラッジを直径約15mm、長さ約15mmのペレットに造粒成形した以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
実施例4
乾燥処理前の製紙スラッジに対して水酸化ナトリウムを添加することにより、スラッジ固形分100部に対して約0.01部の水酸化ナトリウムを含有させた以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
実施例5
乾燥処理前の製紙スラッジに対して水酸化ナトリウムを添加することにより、スラッジ固形分100部に対して約1部の水酸化ナトリウムを含有させると共に、燃焼処理における一次燃焼区間Z1及び二次燃焼区間Z2の各処理時間をそれぞれ30分及び70分に短縮した以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
実施例6
フィルタープレスで脱水処理したケーキ状の炭酸化処理物をインテシブミキサ(日本アイリッヒ株式会社製)で分散した以外は、実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例1
燃焼処理における一次燃焼区間Z1と二次燃焼区間Z2のスラッジ温度を共に600℃とし、もって燃焼処理全体を1段階(燃焼処理時間として130分)にした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例2
燃焼処理における一次燃焼区間Z1と二次燃焼区間Z2のスラッジ温度を共に700℃とし、もって燃焼処理全体を1段階(燃焼処理時間として130分)にした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例3
燃焼処理における一次燃焼区間Z1と二次燃焼区間Z2のスラッジ温度を共に800℃とし、もって燃焼処理全体を1段階(燃焼処理時間として130分)にした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例4
燃焼処理における一次燃焼区間Z1と二次燃焼区間Z2のスラッジ温度を共に900℃とし、もって燃焼処理全体を1段階(燃焼処理時間として130分)にした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例5
燃焼処理における一次燃焼区間Z1のスラッジ温度を200℃とした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例6
燃焼処理における一次燃焼区間Z1のスラッジ温度を660℃とした以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
比較例7
燃焼処理における一次燃焼工程と二次燃焼工程を2基の回転キルン炉を用いて個別に行うと共に、一次燃焼工程では回転キルン炉の回転胴内への空気供給を停止して貧酸素雰囲気下で燃焼処理(炭化処理)した以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
参考例1
原料の製紙スラッジを直径約1mm、長さ約5mmのペレットに造粒成形した以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
参考例2
原料の製紙スラッジを直径約30mm、長さ約30mmのペレットに造粒成形した以外は、前記実施例1と同様にして白色無機粒子を得た。
以上の実施例と比較例および参考例について、燃焼処理の一次燃焼工程得られる焼成物の白色度、二次燃焼工程で得られる焼成物の白色度と未燃焼炭化物の有無、最終的に得られる無機粒子の白色度と硬質焼結物の有無、スラリー粘度及び総合評価、についてそれぞれ調べた結果を、各処理条件と共に後記表1に記載する。なお、各項目の測定及び評価は次の通りである。
〔白色度〕
燃焼処理による焼成物の約10gを、乳鉢で粗い粒子がなくなるまで磨り潰した後、粉体錠剤成形機(理化学電気工業社製 Cat9302/30型)を用いて圧力100kNにて30秒加圧して成形した。次いで、この成形試料の白色度を、分光白色度測色計(スガ試験機社製 SC−10WT型)を用いてJIS P8148(2001年)に準拠して測定した。
〔未燃焼炭化物の有無〕
上記白色度の測定では焼成物を粉砕しているが、その焼成物の粉砕前における未燃焼炭化物の残存状態を目視観察し、次の3段階で評価した。
○・・・焼成物粒子の内奥部及び外部共に、未燃焼炭化物がない
△・・・焼成物粒子の内奥部に未燃焼炭化物が残留している
×・・・焼成物粒子の内奥部及び外部共に、未燃焼炭化物が残留している
〔硬質焼結物の有無〕
乳鉢で粗い粒子がなくなるまで磨り潰した無機粒子試料について、X線回折装置(MO3XHF 前出)を用いて、40KV、20mA、回折角測定範囲:〜50度の条件で測定し、硬質焼結物(ゲーレナイト)の有無を調べた。この硬質焼結物の「なし」は品質が優れ、「有り」は品質が劣ることになる。
〔B型粘度測定〕
調製したスラリーを攪拌機で攪拌し、30秒静置後、B型回転粘度計BM型(株式会社東京計器製)を用いて、60回転の粘度を測定した。
〔総合評価〕
試料の無機粒子について、前記白色度や硬質焼結物の有無のデータから製紙用材料としての品質を総合的に次の3段階で評価した。なお、白色度は最終的に得られる無機粒子の段階で78%未満を品質未達とする。
○・・・白色度が充分に高く、硬質焼結物も含んでいない
△・・・白色度はやや低いが、硬質焼結物を含んでいない
×・・・白色度が不足か、硬質焼結物を含むか、の一方及び両方
表1の結果から、製紙スラッジを原料として本発明の製造方法によって得られる無機粒子は、特定条件での2段階の燃焼処理を経ることから、高白色度で硬質焼結物を含まず、塗工用顔料や製紙用填料などの製紙用材料として充分に再利用できる高い品質を備えることが明らかである。これに対し、各種温度での1段階の燃焼処理を経て得られる無機粒子(比較例1〜4)、2段階でも一次燃焼工程の熱処理温度が低過ぎたり高過ぎる燃焼処理を経て得られる無機粒子(比較例5,6)、2段階における一次燃焼工程を貧酸素雰囲気とした燃焼処理を経て得られる無機粒子(比較例7)では、白色度が低かったり、硬質焼結物を含むことにより、製紙用材料として使用困難であることが判る。また、原料とする製紙スラッジの造粒物があまりにも小さ過ぎたり(参考例1),逆にあまりにも大き過ぎたり(参考例2)する場合は、得られる無機粒子の品質が劣る結果になることも示唆される。
〔燃焼処理後の炭酸カルシウム分解率〕
次に、表1に挙げた項目以外の評価として、各実施例について、燃焼処理後の炭酸カルシウム分解率を、以下i)〜vi)の手順にて燃焼処理前の製紙スラッジ中の炭酸カルシウムとスラッジ焼成物中の残存炭酸カルシウムの量等を求めて評価した。その結果、全ての実施例のX線回折測定において炭酸カルシウムのピークが認められず、燃焼処理工程においてスラッジ焼成物中の炭酸カルシウムは全て分解していた。このため、下記手順を基に求めた全実施例におけるスラッジ焼成物中の炭酸カルシウム量(A)は、スラッジ焼成物1g当たり0.0g(0質量%)であり、したがって下記算出式を基に求めた全実施例における燃焼処理後の炭酸カルシウムの分解率は全て100%であった。
i)カルサイト炭酸カルシウムの検量線の作成
結晶構造がカルサイトの炭酸カルシウム(奥多摩工業社製 タマパール222H)に対して、内部標準物質として酸化亜鉛(キシダ化学社製 試薬特級)を、重量比1:5、1:1、5:1となるようにそれぞれ混合した。次いで、各混合物について、乳鉢を用いて充分に磨り潰したのちに、X線回折装置(マックスサイエンス社製 MO3XHF)を用いて、40KV、20mA、回折角測定範囲5〜50度の条件で測定し、カルサイト炭酸カルシウムと酸化亜鉛のそれぞれのX線回折100%ピーク面積を基にして、カルサイト炭酸カルシウムの検量線を作成した。
ii)アラゴナイト炭酸カルシウムの検量線の作成
結晶構造がアラゴナイトの炭酸カルシウム(奥多摩工業社製タマパール123)を用いた以外は、前記カルサイト炭酸カルシウムの検量線作成と同様にして、アラゴナイト炭酸カルシウムの検量線を作成した。
iii)燃焼処理前の製紙スラッジ中の炭酸カルシウムの定量
秤量した絶乾の製紙スラッジに対して、秤量した酸化亜鉛(試薬特級 前出)を添加混合した。次いで、該混合物について、乳鉢を用いて充分に磨り潰したのちに、X線回折装置(MO3XHF 前出)を用いて、40KV、20mA、回折角測定範囲5〜50度の条件で測定し、酸化亜鉛に対するカルサイト炭酸カルシウム及びアラゴナイト炭酸カルシウムのX線回折100%ピーク面積を求め、前記した各炭酸カルシウムの検量線を基にして、製紙スラッジ1g中に含まれる炭酸カルシウム量(g)を算出した。
iv)製紙スラッジの灰分の測定
秤量した絶乾の製紙スラッジを、マッフル炉を用いて実施例における回転キルン炉の各燃焼処理条件と同条件となるように燃焼処理し、得られたスラッジ焼成物の重量を秤量し、下式によってスラッジの灰分含有量(%)を測定した。
灰分含有量(%)=(スラッジ焼成物重量/絶乾の製紙スラッジ重量)×100
v)スラッジ焼成物中の炭酸カルシウムの定量
秤量したスラッジ焼成物に対して、秤量した酸化亜鉛(試薬特級 前出)を添加混合した。次いで、該混合物について、乳鉢を用いて充分に磨り潰したのちに、X線回折装置(MO3XHF 前出)を用いて、40KV、20mA、回折角測定範囲5〜50度の条件で測定し、酸化亜鉛に対するカルサイト炭酸カルシウム及びアラゴナイト炭酸カルシウムのX線回折100%ピーク面積を求め、前記した各炭酸カルシウムの検量線を基にして、スラッジ焼成物1g中に含まれる炭酸カルシウム量(g)を算出した。
vi)燃焼処理後の炭酸カルシウムの分解率
スラッジ焼成物1g中の炭酸カルシウム量(g)をA、製紙スラッジ1g中の炭酸カルシウム量(g)をB、灰分含有量(%)をCとし、下式によって燃焼処理後の炭酸カルシウムの分解率を算出した。
炭酸カルシウム分解率(%)=100−〔A×(C/100)〕÷B×100
〔炭酸カルシウム未再生化物の有無〕
更に、表1に挙げた項目以外の評価として、各実施例で最終的に得られた無機粒子について、乳鉢で粗い粒子がなくなるまで磨り潰した無機粒子試料を、X線回折装置(MO3XHF 前出)を用いて、40KV、20mA、回折角測定範囲5〜50度の条件で測定し、炭酸カルシウム未再生化物と想定される酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの有無を調べた。その結果、全実施例の無機粒子は、炭酸カルシウム未再生化物を含まず、いずれも品質的に優れていることが判った。
本発明の白色無機粒子を製紙用填料に用いた場合の効果を確認するべく、下記の実験を行った。
実施例7
実施例6において得られた脱水処理前の無機粒子(平均粒子径12.8μm)30%および軽質炭酸カルシウム(商品名:TP−121、奥多摩工業社製、平均粒子径6μm)70%を混合して、固形分濃度10%の填料懸濁液を調製した。
一方、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)60%および古紙再生パルプ40%から成る混合パルプのスラリー(パルプ濃度2.5%)を調製した。次いでパルプ絶乾質量あたりの添加量として、カチオン化澱粉(商品名:王子エースK100、王子コーンスターチ社製)0.8部、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・18H2O)0.5部、アルキルケテンダイマー(商品名:SPK903、荒川化学工業社製)0.1部および前記填料懸濁液を原紙灰分としての填料の添加量が約13質量%となるように、前記パルプスラリーに対して、パルプスラリーを攪拌しながらそれぞれ2分毎に順次添加して充分に混合した後、このパルプスラリーを固形分濃度0.5%となるように希釈し試料とした。
次いでこの試料を用いて、実験用角形手抄きシートマシン(東西精機社製)によって風乾坪量69g/m2 のシートに抄いた後、温度100℃のシリンダードライヤーによって乾燥させて手抄きシートを調製した。この手抄きシートを23℃、50%RH環境下で24時間調湿したのち、実験用マシンカレンダー(熊谷理機工業社製)を用いて線圧10kg/cmにて1回通紙仕上げ処理して無機粒子内添紙を得た。
参考例3
軽質炭酸カルシウム(商品名:TP−121、奥多摩工業社製、平均粒子径6μm)100%として、固形分濃度10%に調製した填料懸濁液を用いたこと以外は、実施例7と同様にして無機粒子内添紙を得た。
参考例4
タルク(商品名:SK−2、東洋化成社製、平均粒子径12.8μm)100%として、固形分濃度10%の填料懸濁液を調製した。なお、この参考例4では、手抄き填料内添紙を作製せず、填料分散液のワイヤー磨耗度測定のみを行っている。
実施例7および参考例3、4について、下記の方法により、填料分散液のワイヤー磨耗度、紙の灰分、坪量、厚さ、密度、平滑度、白色度および不透明度を調査した。その結果を表2に示す。
〔填料分散液のワイヤー磨耗度〕
ワイヤー摩耗試験機(王子工営製)を使用し、固形分濃度:5%の填料分散液をポンプ循環させながら、試験条件(加重=650g,ワイヤー=プラスチックワイヤ/SS−40…日本フィルコン社製を使用,試験時間=3時間)で摩耗度試験を行い、減量したワイヤーの重量(mg)をもってワイヤー摩耗度とした。数値が大きい程、ワイヤー摩耗性が大きいことを示す。
〔紙の灰分〕
ISO2144に準拠して、紙の灰分を測定した。
〔紙の坪量〕
ISO536に準拠して、紙の坪量を測定した。
〔紙の厚さ、および密度(緊度)〕
ISO534に準拠して、紙の厚さ、および密度(緊度)を測定した。
〔紙の平滑度(PPS平滑度)〕
パーカープリントサーフ(PPS)表面平滑度試験機(機種名:MODEL M−569型、Messmer Buchel社製、英国)を用い、バッキングディスク:ソフトラバー、クランプ圧力:0.98MPaの条件で、5回平滑度測定を行い、その平均値を求めた。
〔紙の白色度〕
ISO2470に準拠して、紙の白色度を測定した。
〔紙の不透明度〕
ISO2471に準拠して、紙の不透明度を測定した。
表2に示すように、実施例7の無機粒子内添紙では、参考例3の無機粒子内添紙に比べて、嵩高であり、不透明度も良好であった。
本発明の白色無機粒子を軽量塗工紙用顔料に用いた場合の効果を確認するべく、下記の実験を行った。
実施例8
実施例6において得られた無機粒子(平均粒子径1.5μm)40%と、平均粒子径0.3μmのカオリン(商品名:ミラグロスJ、エンゲルハード社製)20%および平均粒子径1.3μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーブK−9、備北粉化製)40%を配合した顔料100部に対して、ポリアクリル酸ナトリウム分散剤(商品名:アロンT50、東亜合成社製)を0.05部添加し、コーレス分散機で水中に前記顔料を分散して顔料スラリーを得た。この顔料スラリー100部に対して、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ1000、JSR社製)10部(固形分)、予め糊化した酸化澱粉(商品名:王子エースB、王子コーンスターチ製)6部(固形分)を添加して混合攪拌し、最終的に固形分濃度が56%であり、かつハーキュレス粘度が17mPa・sである軽量塗工紙用顔料塗被液を調製した。
この軽量塗工紙用顔料塗被液を、坪量52g/m2の上質原紙の両面に、ゲートロールコーターを用いて塗工速度600m/minで塗工し、乾燥させて両面塗工紙を得た。塗工量(固形分)は片面あたり7g/m2であった。得られた塗工紙には更にスーパーカレンダー処理を行い、両面1層軽量塗工紙を得た。
参考例5
平均粒子径0.3μmのカオリン(商品名:ミラグロスJ、前出)50%および平均粒子径1.3μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーブK−9、前出)50%から成る顔料を用い、最終的に固形分濃度が59%であり、かつハーキュレス粘度が20mPa・sである軽量塗工紙用顔料塗被液を調製したこと以外は、本発明例8と同様にして両面1層軽量塗工紙を得た。
実施例8および参考例5について、上記の方法により紙の坪量、厚さ、密度、平滑度、白色度および不透明度を調査し、更に、下記の方法により、顔料塗被液のハーキュレス粘度、ならびに、紙の白紙光沢度、印刷光沢度、印刷強度およびインキ乾燥性を調べた。
その結果を表3に示す。
〔顔料塗被液のハーキュレス粘度〕
ハーキュレスハイシェア粘度計(熊谷理機工業製)を用いて、Fボブによる8800rpm時の粘度(mPa・s)を測定した。
〔紙の白紙光沢度〕
ISO 8254−1 Part1(1999)(JIS P8142)に準拠して、75度における紙の白紙面の光沢度(白紙光沢度)を測定した。
〔紙の印刷光沢度〕
RI−II型印刷試験機(明製作所製)を用い、オフセット印刷用インク(商品名:Fusion−G 墨 Sタイプ、大日本インキ化学社製)を0.7cc使用して各軽量塗工紙に印刷を施し、印刷物を24時間静置乾燥した。その後、JIS Z8741に準拠して、各軽量塗工紙の印刷面の60度における光沢度(印刷光沢度)を測定した。
〔紙の印刷強度〕
RI印刷試験機にて、印刷インキ(商品名:紙試験用SD50 紅、東洋インキ社製)を0.6cc使用して印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視評価した。ただし、表中の各記号の意味は、下記の通りである。
○:ピッキングが全く発生せず、表面強度が良好である。
△:ピッキングが少し発生しており、表面強度がやや劣る。
×:ピッキングが多く発生しており、表面強度がかなり劣る。
〔紙のインキ乾燥性〕
RI印刷試験機にて、印刷インキ(商品名:Fusion−G 墨 Sタイプ、前出)を1.0cc使用して印刷を行い、3分後に白紙(商品名:ユポFPG−80、ユポ・コーポレーション社製)と印刷面を重ねて、再度RI印刷試験機にてニップし、白紙に転写したインキの濃度(裏移り汚れ)を目視評価した。ただし、白紙に転写したインキ濃度(裏移り汚れ)が高濃度なほど、紙のインキ乾燥性が遅いことを示す。表中の各記号の意味は、下記の通りである。
○:白紙への裏移り汚れがほとんどなく、インキ乾燥性が良好である。
△:白紙への裏移り汚れが少し発生しており、インキ乾燥性がやや劣る。
×:白紙への裏移り汚れが多く発生しており、インキ乾燥性がかなり劣る。
表3に示すように、実施例8の軽量塗工紙は、参考例5の軽量塗工紙に比べて、低緊度であり、高い平滑性、および不透明度を有し、しかも、インキ乾燥性も良好であった。
本発明の白色無機粒子を2層塗工紙用顔料に用いた場合の効果を確認するべく、下記の実験を行った。
実施例9
実施例6において得られた無機粒子(平均粒子径1.5μm)30%と、平均粒子径2.0μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーブK−6、備北粉化社製)70%とを配合した顔料100部に対して、ポリアクリル酸ナトリウム分散剤(商品名:アロンT50、東亜合成社製)を0.05部添加し、コーレス分散機で水中に前記顔料を分散して顔料スラリーを得た。この顔料スラリー100部に対して、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ1000、前出)6部(固形分)、予め糊化した酸化澱粉(商品名:王子エースB、王子コーンスターチ製)4部(固形分)を添加して混合攪拌し、最終的に固形分濃度が59%であり、かつハーキュレス粘度が21mPa・sの下塗り層用塗被液を調製した。
一方、平均粒子径1.3μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーブK−9、前出)40%および平均粒子径0.3μmのカオリン(商品名:ミラグロスJ、前出)60%からなる顔料100部に対して、ポリアクリル酸ナトリウム分散剤(商品名:アロンT50、東亜合成社製)を0.05部添加し、コーレス分散機で水中に前記顔料を分散して顔料スラリーを得た。この顔料スラリー100部に対して、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ1000、前出)11部(固形分)、予め糊化した酸化澱粉(商品名:王子エースB、王子コーンスターチ製)2部(固形分)を添加して混合攪拌し、最終的に固形分濃度が62%であり、かつハーキュレス粘度が23mPa・sの上塗り層用塗被液を調製した。
下塗り層用塗被液を、坪量52g/m2の上質原紙の両面に、ゲートロールコーターを用いて塗工速度600m/minで塗工し、乾燥させて両面塗工紙を得た。塗工量(固形分)は片面あたり7g/m2であった。次いで、下塗り塗被液を塗工した塗工紙に、上塗り層用塗被液を、片面あたりの乾燥塗工量が9g/m2 になるようにブレードコーターを用いて塗工速度600m/minで片面ずつ順次塗工、乾燥した後、スーパーカレンダー処理を行い、両面2層塗工紙を作製した。
参考例6
平均粒子径2.0μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーブK−6)100%から成る顔料を用い、最終的に固形分濃度が61%であり、かつハーキュレス粘度が22mPa・sである下塗り層用塗被液を調製したこと以外は、実施例9と同様にして両面2層塗工紙を得た。
実施例9および参考例6について、上記の方法により顔料塗被液のハーキュレス粘度、紙の坪量、厚さ、密度、平滑度、白紙光沢度、白色度および不透明度、印刷光沢度、印刷強度ならびにインキ乾燥性を調査した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、実施例9の両面2層塗工紙は、参考例6の両面2層塗工紙に比べて、低緊度であり、高い平滑性、光沢度および不透明度を有し、しかも、インキ乾燥性も良好であった。