JP4264755B2 - 熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および継目無管製造用プラグ - Google Patents

熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および継目無管製造用プラグ Download PDF

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Description

本発明は、熱間加工用工具鋼と熱間加工用工具に関する。本発明の工具鋼は、高Cr合金鋼およびNi基合金からなる継目無管の製造において使用される穿孔圧延機、例えば、マンネスマンピアサ、のプラグ用の素材として好適である。高Cr合金鋼とは、13%以上のCrを含有するステンレス鋼に代表される鋼である。
従来、継目無鋼管を製造するための圧延機、中でもマンネスマンピアサに代表される穿孔圧延機用のプラグは、基本組成が3%Cr−1%Ni−残Feである鋼から作られ、そのプラグは表面に酸化スケール付け熱処理を施して使用されてきた。このプラグは、普通鋼からなる継目無鋼管を製造する際の穿孔用のものである。
しかし、13%以上のCrを含有するステンレス鋼に代表される高Cr合金鋼およびNi基合金からなる継目無管を穿孔圧延する場合には、プラグ表面の温度上昇や面圧上昇が起こるため、プラグの寿命が著しく短くなる。たとえば、JISのSUS304材の穿孔では1パスでプラグに変形が生じる。
穿孔圧延においては、穿孔圧延機の主ロールに水を吹き付けて冷却する。その冷却水は穿孔直後の高温になったプラグにまで飛散する。このため、プラグの表面が急激に冷却されて表面の酸化スケールの部分剥離が発生し、この剥離部が次回の穿孔圧延時における焼付き発生の原因となる。さらに、使用後のプラグは、次回の使用に備えるために、通常、冷却水中に浸漬して冷却されるが、このときの急冷によりプラグの地金に変態割れが発生することもある。
13%以上のCrを含有するステンレス鋼に代表される高Cr合金鋼やNi基合金からなる継目無管などを製管するための穿孔圧延機用のプラグとしては、次のようなものが提案されている。
(a)Cr量を低減して耐焼付き性を向上させ、MoやWなどを添加して高温強度と酸化スケールの密着性を高めた鋼からなるプラグ(特許文献1)。
(b)Niの多量添加により酸化スケールの潤滑性、耐剥離性および耐摩耗性を向上させ、かつ、多量のMoまたは/およびWの添加により高温強度を高めた鋼からなるプラグ(特許文献2)。
(c)上記(b)のプラグと同様の鋼からなり、地金の酸化スケール界面粗さを特定することにより、耐焼付き性と潤滑性を高めたプラグ(特許文献3)。
(d)Ni、Cr、Co、Wまたは/およびMoに加え、Cuを必須成分として含む鋼からなる耐摩耗性に優れたプラグ(特許文献4)。
(e)Cr、Ni、Co、Cu、Wまたは/およびMoに加え、TiまたはZrを必須成分として含む鋼からなる循環使用に際しての急熱急冷に対する耐割れ性を向上させたプラグ(特許文献5)。
特開昭63−282241号公報 特開平4−74848号公報 特開平4−270003号公報 特開昭57−152446号公報 特開昭60−208458号公報
しかし、(a)のプラグは、地金の高温強度および酸化スケールの密着性が不十分で、長尺ビレットを穿孔する場合、すなわち穿孔長さが長い穿孔圧延の場合には十分な寿命が確保できない。
(a)から(c)までのプラグは、最も面圧が高くて温度が上昇するプラグ先端部の酸化スケールが穿孔中に溶融して、断熱効果および耐摩耗性が失われ、プラグ先端の溶損および変形が発生しやすい。
(d)および(e)のプラグは、Crの含有量が高すぎるために耐焼付き性が劣るだけでなく、高温強度が不十分で、プラグ先端の溶損および変形が発生しやすいという欠点がある。
本発明の第一の目的は、変形抵抗の大きい材料を熱間加工する際に使用しても寿命の長い工具鋼およびその鋼で製造した工具を提供することにある。
本発明の第二の目的は、13%以上のCrを含有するステンレス鋼に代表される高Cr合金鋼やNi基合金のような材料から継目無管を製造する際の穿孔圧延機用プラグであって、寿命が長く、焼付きが発生しにくいプラグを提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を達成するために種々検討をおこない、以下の知見を得た。
(a) Cr含有量が13%以上の高Cr合金鋼を製管する場合、プラグ表面に形成させた酸化スケールの物性とその素材である熱間加工用工具鋼(以下、「プラグ素材」という)の強度がプラグ寿命に多大な影響を与える。
(b) 現在使用されているステンレス鋼製管用のプラグの素材は、高温強度を向上させる目的で添加されたCrを含有している。しかし、Crは酸素との親和力が高いため、Crを含有する素材で作られたプラグでは、焼付き防止の酸化スケール付け熱処理をおこなうと、酸化スケールの地金側にCr酸化物が濃縮したスピネル型スケール、即ち、FeCrOを多く含む内層スケール層が形成される。このスピネル型スケールは、内層スケールの20〜90質量%程度に達する。
内層スケール中のCrの濃縮割合は、地金のCr濃度が高いほど高くなる。たとえば地金に0.5%のCrが含有されている場合、内層スケール中のCr濃度は1〜5%程度となる。
(c) 一般に焼付きが発生しやすいのは、被加工材料と工具とが同種の成分を含む場合である。ステンレス鋼にはCrが含まれるので、その穿孔圧延においては、プラグの内層スケール層中のCr濃縮度合が高いほど焼付きが発生しやすくなる。従って、焼付きを防止するためには内層スケール中のCr濃度の上昇を抑制する必要がある。
上記の知見に基づけば、Crを含有しない鋼をプラグ素材とするのが焼付き防止の一つの手段であると考えられる。しかし、プラグ素材中のCrは、プラグの地金の組織安定性、高温強度の向上、形成された酸化スケールの密着性向上および耐摩耗性の向上に有用な成分である。従って、従来、プラグ素材をCr無添加の鋼とすることは、困難であった。
そこで、本発明者らは、Crをプラグ素材の強化元素としないステンレス鋼製管用のプラグについて鋭意研究した結果、以下のことが判明した。
(d) Mnは、従来、組織安定性の改善に用いられていた元素である。しかし、他の合金成分と組み合わせることにより、次に述べるように、ステンレス鋼の穿孔を行うプラグの素材の構成成分としてきわめて有効な働きをする。
Mnは、Crと同様に、オーステナイト安定化元素であり、高温での組織を安定させるとともに、高温強度を向上させる。また、プラグ素材に多量のMnを添加すると、酸化スケール付け熱処理によって形成される酸化スケールの地金側にMn酸化物を含有するスピネル型スケール、即ち、FeMnOを多く含む内層スケールが形成される。このFeMnOは、内層スケールの20〜90質量%程度になる。
上記のMn酸化物を含有するスピネル型スケール(FeMnO)を多く含む内層スケールは、実質的にCrを含有していないか、またはCrを含有している場合でもMnにより希釈されているため、ステンレス鋼を穿孔する時の耐焼付き性が大幅に向上する。一方、Mnの濃縮とともに、内層スケールの耐摩耗性が向上し、穿孔中の酸化スケール層の摩滅が減少し、プラグ寿命が向上する。
(e) Mnは、Crと異なり、鋼の酸化を抑制する元素ではない。従って、Crを含まず、Mnを含む鋼を素材とするプラグには、低温で短時間の酸化スケール付け熱処理によっても十分な厚さの酸化スケール層を形成させることができる。また、Crを含有する従来のプラグ素材に比較して酸化しやすいため、穿孔作業終了後の冷却時にもプラグ表面に容易に酸化スケールが形成され、この酸化スケールの存在によりプラグ寿命が向上する。
(f) しかし、Mnを極端に多く添加すると鋼の割れ感受性が著しく高くなり、穿孔圧延に使用した直後のプラグ表面に冷却水等が飛散した場合、プラグ表面に割れが発生することがある。従って、その添加量には限界がある。また、高温強度の向上元素としてWとMoを複合添加する必要がある。
(g) Mn酸化物を含んだ内層スケールの融点は1200℃以上であり、穿孔中に溶融しない。そのため、潤滑効果が現れず、穿孔に要する時間が長くなってプラグの表面温度が上昇し、溶損する。従って、酸化スケールに潤滑性を付与するためには、酸化スケールの融点の適正化が必要となる。この融点の適正化には、W酸化物とFe酸化物とが1100℃付近で共晶反応を起こすこと、およびFeとSiとの複合酸化物の融点が1170℃付近であることが利用できる。即ち、WとSiの含有量を適正に調整すれば、酸化スケール中のW酸化物およびFeとSiとの複合酸化物の形成を促すことができ、酸化スケールの融点の適正化が可能である。
(h) 前記のMn酸化物を含有するスピネル型スケール(FeMnO)を多く含む内層スケールは、Cr酸化物が濃縮したスピネル型スケール、即ちFeCrOを多く含む内層スケールに比較して密着力が低く、製管中に酸化スケール層が剥離して焼付きや溶損が発生しやすい。
(i) しかし、内層スケールをその層中に金属粒子が分散するものにすると、酸化スケールの変形能が増大して密着力が向上し、穿孔中に酸化スケールの剥離が生じず、しかも加熱冷却の繰り返し環境下での酸化スケールの剥離も大幅に抑制され、潤滑性や耐摩耗性も向上する。
(j) 前記の金属粒子としては、Ni、CuおよびCoの粒子を挙げることができる。これらの金属粒子は、これらを含有する鋼を素材とするプラグに酸化スケール付け熱処理を施す際にも酸化されないので、金属粒子のままで酸化スケール層中に分散析出する。
(k) しかし、Niの多量添加は、地金のマルテンサイト変態温度を上昇させる。従って、ロール冷却水の飛散等によってプラグが急冷された時に変態割れを誘発し、プラグの損傷を招くことがある。従って、Ni含有量には限界がある。しかし、Ni含有量を減らすと、その分だけ酸化スケールの密着力が低下する。
また、Cuを単独で、即ち、Ni添加なしで、添加すると、酸化スケールと地金との界面に低融点のCu金属層が形成されてCu脆化を引き起こし、プラグ表面が損傷する。ところが、適量のNiとCuを併せて添加すると、酸化スケール中に分散する金属粒子および酸化スケールと地金との界面に形成される金属層がNi−Cu合金となり、前記のCu脆化が抑制される。それだけでなく、Mn酸化物を含有するスピネル型スケール、即ちFeMnOの地金に対する密着性が向上する。
(l) Coの酸化スケール密着力向上効果は、Niに比べて低く、Co添加により酸化スケールの密着力を向上させようとすると多量添加が必要になる。このCoの多量添加は素材価格の高騰を招く。従って、プラグ素材としては、NiとCuの複合添加鋼とするのが好ましく、Coは必要に応じて添加するのがよい。
上記の多くの知見に基づいてなされた本発明の要旨は、下記(1)の熱間加工用工具鋼、下記(2)の熱間加工用工具、および下記(3)の継目無管の製造に使用される穿孔圧延機用のプラグにある。以下の記述において、成分含有量についての%は、質量%を意味する。
(1)C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1%、Mn:1.6〜3.5%、Ni:0.05〜0.5%、Mo:2〜5%、W:2〜5%、Cu:0.05〜0.5%、残部:Feおよび不純物からなる熱間加工用工具鋼。
(2)上記(1)に記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け熱処理により形成された厚さ50〜1500μmの酸化スケールで覆われている熱間加工用工具。
(3)上記(1)に記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け熱処理により形成された厚さ50〜1500μmの酸化スケールで覆われている継目無管の製造に使用される穿孔圧延機用のプラグ。
上記(1)の熱間加工用工具鋼は、前記の成分に加えて、下記の(A)〜(D)群のうちの少なくと1群のうちから選ばれた少なくとも1種の成分を含むものであってもよい。
(A)Cr:0.05〜0.5%、
(B)Co:0.05〜5%、
(C)Ti、Nb、V、ZrおよびBの1種以上:合計で0.05〜0.5%、
(D)REM:0.001〜0.2%。
但し、REMとは、LaからLuまでのランタニド15元素とScおよびYを含めた17元素のことである。
以下、本発明の熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および継目無管の製造に使用する穿孔機用プラグを前記のように定めた理由について詳細に説明する。
1.熱間加工用工具鋼
C:0.05〜0.5%
Cは、鋼の高温強度の向上に有効である。しかし、0.05%未満の含有量では十分な高温強度が得られない。一方、0.5%を超えると工具として使用した後の表面に焼きが入った部分の硬度が高くなりすぎ、焼割れが生じやすくなる。このため、C含有量は0.05〜0.5%とする。下限として好ましいのは0.07%、より好ましいのは0.1%である。また、上限として好ましいのは0.3%、より好ましいのは0.2%である。
Si:0.1〜1%
Siは、鋼の脱酸剤として有効である。また、Ac変態点の上昇および表面に生成する酸化スケールの緻密化に有効であるだけでなく、フェアライト(FeSiO)を生成させて酸化スケールの高温変形能を増大させ、密着性を向上させる。0.1%未満の含有量ではこれらの効果が得られない。一方、1%を超えるとフェアライトが過剰に生成し、酸化スケールの融点が低下するだけでなく、高温硬度も低下する。これらの理由により、Si含有量は0.1〜1%が適正である。下限として好ましいのは0.15%、より好ましいのは0.2%である。また、上限として好ましいのは0.6%、より好ましいのは0.5%である。
Mn:1.6〜3.5%
Mnは、鋼の表面に生成する酸化スケールの形態制御のため、および鋼の高温強度を向上させるために本発明鋼にとって最も重要な元素の1つである。1.6%未満の含有量では酸化スケールの密着性の改善効果が認められないだけでなく、高温強度の向上効果も小さく、工具として使用した場合、寿命向上が認められない。一方、3.5%を超えると、地金の耐焼割れ性が低下し、工具として使用した後の冷却時に表面に割れが発生し、寿命が短くなる。これらの理由から、適正なMn含有量は1.6〜3.5%である。下限として好ましいのは2%、より好ましいのは2.5%である。また、上限として好ましいのは3.25%、より好ましいのは3.2%である。
Ni:0.05〜0.5%
Niは、酸化スケール層中、なかでもFeMnOを多く含む内層スケール層中に金属粒子として分散析出し、酸化スケールの耐剥離性を向上させるのに有効である。この効果は、後述するCuと併せて添加した場合に特に著しい。しかし、0.05%未満の含有量では上記の効果は得られない。一方、0.5%を超えると、鋼の耐変態割れ性が低下する。このため、Ni含有量は0.05〜0.5%が適正である。下限として好ましいのは0.15%、より好ましいのは0.2%である。また、上限として好ましいのは0.45%、より好ましいのは0.4%である。
Mo:2〜5%
Moは、鋼の高温強度を向上させるのに有効なだけでなく、NiおよびCuとの複合添加により酸化スケールの密着性を向上させるのに有効な成分でもある。これらの効果は2%以上で得られるが、その効果は5%で飽和する。従って、適正なMo含有量は2〜5%である。下限として好ましいのは2.25%、より好ましいのは2.5%である。また、上限として好ましいのは4.5%、より好ましいのは4%である。
W:2〜5%
Wは、鋼の高温強度を向上させる。また、酸化スケールの潤滑性を制御するのに極めて重要な元素である。従って、少なくとも2%の含有量が必要である。一方、5%を超えると、酸化スケールの融点が低下しすぎて使用中に酸化スケール層が剥離しやすくなり、焼付きが発生するようになる。このため、Wの適正な含有量は2〜5%である。下限として好ましいのは2.5%、より好ましいのは3%である。また、上限として好ましいのは4.5%、より好ましいのは4%である。
Cu:0.05〜0.5%
Cuは、酸化スケールの密着性や潤滑性などを向上させるうえで本発明鋼においては上記のNiとともに最も重要な元素の一つである。特にNiとの複合添加で酸化スケールの密着性や潤滑性などを大幅に向上させることは前述したとおりである。
Cuがスケールの密着性を向上させることは、先に挙げた特許文献4および特許文献5によって知られている。しかし、これらの文献に開示されている鋼は、いずれもMnが1.5%以下の鋼である。また、特許文献5に開示される鋼は、Cr含有量が1〜3%と多い。これに対して、本発明の鋼では、Mnは1.6〜3.5%であり、かつCr含有量は、添加する場合でも0.05〜0.5%である。
上記のようにMn含有量を多くした鋼においては、Mn酸化物を含有するスピネル型スケール(FeMnO)を多く含む内層スケールが形成される。このスケールは、前記のように顕著な焼付き防止の効果を有するが、Crが濃縮したスケールに比べると密着性に劣る。Cuはその密着性の向上に役立つのである。しかし、0.05%未満の含有量ではこの効果が得られない。一方、0.5%を超えると、酸化スケールと地金との界面にCu含有量の多い軟質な合金層が生成して、酸化スケールの耐剥離力が低下し、穿孔作業中に酸化スケールが地金から被加工材料側にもっていかれ、焼付きが発生しやすくなる。これらの理由で、Cu含有量の適正範囲は0.05〜0.5%である。下限として好ましいのは0.07%、より好ましいのは0.075%である。また、上限として好ましいのは0.4%、より好ましいのは0.3%である。
以上が、本発明の工具鋼の必須成分である。本発明の工具鋼の一つは、上記の成分の他、残部がFeと不純物からなる。
本発明の工具鋼の他の一つは、上記の成分に加えて、以下に述べる成分の中から選んだ少なくとも1種の成分を含み、残部がFeと不純物からなるものである。
Cr:0.05〜0.5%
Crは添加しなくてもよいが、酸化スケールの密着性を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて添加してもよい。しかし、0.05%未満の含有量では上記の効果が得られない。一方、0.5%を超えると焼割れが発生しやすくなる。また、前述のように、Cr含有量が多いとCrが濃縮したスピネル型スケールが生成して、ステンレス鋼の加工の際に焼付きが発生しやすくなる。これらの理由から、添加する場合のCr含有量は0.05〜0.5%とするのがよい。
Co:0.05〜5%
Coも添加しなくてもよいが、靭性を向上させるのに有効な元素であるとともに、上記のNiと同様に、酸化スケール層中に金属粒子として分散析出し、酸化スケールの耐剥離性などを向上させるのに有効な元素である。従って、必要に応じて添加してもよい。しかし、0.05%未満の含有量では前記の効果は得られない。一方、5%を超えると金属粒子が多くなりすぎて焼付きが発生しやすくなるとともに、工具の熱疲労特性が低下して、工具が加熱と冷却をくり返されたときに、その表面に熱疲労による亀裂が生じやすくなる。また、過剰のCoは酸化スケール形成を抑制する。このため、添加する場合のCo含有量は0.05〜5%とするのがよい。
Ti、Nb、V、Zr、B:それぞれ、または2種以上の合計で0.05〜0.5%
これらの元素も添加しなくてもよいが、いずれの元素も、細粒化作用を有し、靭性を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて1種または2種以上を添加してもよい。しかし、含有量がそれぞれ、または合計で0.05%未満では上記の効果が得られない。一方、0.5%を超えると脆化相が現れ、地金の強度が低下する。このため、添加する場合のこれら元素の含有量は、それぞれ、または2種以上の合計で0.05〜0.5%とするのがよい。
REM:0.001〜0.2%
REM、即ち、LaからLuまでのランタニド15元素とScおよびYを含めた17元素、は添加しなくてもよいが、いずれの元素も酸化スケールの密着性を改善するのに有効な成分であるから、必要に応じて1種以上を添加してもよい。しかし、それぞれ、または合計の含有量が0.001%未満では前記の効果は得られず、0.2%を超えると脆化相が現れ強度が低下する。このため、添加する場合の含有量は、それぞれ、または2種以上の合計で0.001〜0.2%とするのがよい。
本発明の熱間加工用工具鋼の残部はFeと不純物である。不純物としてのPとSの含有量は、この種の鋼に不純物として含まれる通常のレべルであれば特に問題ない。但し、PおよびSは酸化スケールの密着性を低下させる場合があるので、いずれも0.01%以下に抑えるのが望ましい。
2.熱間加工用工具および穿孔圧延機用プラグの酸化スケール厚さ
本発明の熱間加工用工具と継目無管製造のための穿孔圧延機用プラグは、前記の化学組成を有する熱間加工用工具鋼からなる。そして、その表面は「酸化スケール付け熱処理」によって形成される厚さ50〜1500μmの酸化スケール層で覆われている必要がある。その理由は次のとおりである。
酸化スケール層の厚さが50μm未満では、断熱効果が不十分で、地金の温度上昇を十分に抑制できないだけでなく、酸化スケール層の摩滅消耗が早く、早期に工具形状が変形するとともに、潤滑性が消失して焼付きが発生する。
一方、酸化スケール層の厚さが1500μmを超えると、空隙やマイクロクラックの多いスケール層となって地金との密着力が低下し、使用前のハンドリング中にスケールが剥離しやすくなるだけでなく、使用中に内外層スケールの層間剥離が生じやすくなって製品に疵が発生する。その疵は、プラグによる穿孔の場合は穿孔後の管内面の疵である。従って、酸化スケール層の適正な厚さは50〜1500μmである。
酸化スケール層の厚さとは、内層スケールとその上に形成された外層スケールの両方を合わせた厚さのことである。外層スケールは、FeOとFeが主体で、その最外層はFeである。
3.熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および穿孔圧延機用プラグの製造
本発明の熱間加工用工具鋼は、大気溶解法、AOD法およびVOD法などの公知のプロセスにより溶製し、得られた溶鋼を造塊法や連続鋳造法により鋼塊または鋳片となし、その後、必要に応じて熱間圧延などの熱間加工を施して所定形状の鋼片とすることにより製造する。その際の製造条件に特別な制約はない。
本発明の熱間加工用工具および継目無管製造用の穿孔圧延機用のプラグは、上記のようにして得られた溶鋼を直接所定の工具またはプラグの形状に鋳込むか、または鋼片に熱間鍛造を施して所定の工具またはプラグの形状に成形することにより製造することができる。この場合の製造条件にも特別な制約はない。ただし、酸化スケール付けの熱処理は、次の条件でおこなうのが望ましい。
4.酸化スケール付け熱処理の条件
(1)加熱雰囲気
スケール付け処理においては加熱雰囲気中に含まれる水蒸気が重要であり、炉内の水蒸気濃度を5体積%以上に保つ必要がある。この条件は、LNG、LPG、Cガスおよびブタン等の燃料を空気と混合して燃焼させることにより得られる。
(2)加熱温度
スケールの厚さは、加熱温度と加熱時間に依存する。Mn酸化物を多く含むスピネル型スケールを均一な厚さに形成させるためには800℃以上での処理が望ましい。また、1200℃を超えると、生成したスケールが溶融するので、加熱温度は1200℃以下が望ましい。
(3)加熱時間
加熱時間は、加熱温度に応じて所定のスケール厚さが得られるように決定すればよい。
表1および表2に示す化学組成を有する60種類の合金鋼を、大気溶解により溶製し、得られた鋼塊を熱間鍛造した後、外削し、継目無管製造用の穿孔圧延機用のプラグに仕上げた。
所定の形状に仕上げたプラグを、LNG燃焼雰囲気(体積%で、10%CO、2%O、20%HO、残:N)中で、表3および表4に示す種々の温度と時間で加熱し、同じく表3および表4に示す種々の厚さの酸化スケール層を形成させた。
得られた各プラグを使用して穿孔圧延を行った。穿孔圧延は、下記の寸法のSUS304製の丸ビレットから、下記の寸法のホローシェルに成形する穿孔圧延である。プラグは、多数のビレットの穿孔に連続して供した。穿孔条件は下記のとおりである。
ビレットおよびホローシェルの寸法:
パラレル用
ビレット・・直径70mm×長さ1000mm
ホローシェル・・直径72mm×長さ2200mm
拡管用
ビレット・・直径65mm×長さ1000mm
ホローシェル・・直径93mm×長さ2200mm
ビレットの加熱温度:1200℃
交叉角:15°
傾斜角:10°
プラグ寸法:
パラレル用・・直径54mm
拡管用・・・・直径75mm
上記の「パラレル」とはビレット直径と穿孔後の素管(ホローシェル)の外径とがほぼ同じであることを意味し、「拡管」とはビレットの直径よりも素管の外径が大きいことを意味する。
穿孔圧延に供し得た各プラグの使用回数(穿孔圧延本数)と、使用後のプラグの表面状況を調べた。使用不能の判定は、プラグの酸化スケール層も剥離もしくは摩耗消滅、プラグの割れもしくは焼付きの発生、プラグ先端の溶損もしくは変形の状態を観察することによって行った。
調べた結果を、酸化スケール付け熱処理条件、酸化スケール層の厚さ、および素材鋼の1000℃における引張強さ(TS:N/mm)と併せて、表3および表4に示す。
表3および表4からわかるように、本発明の工具鋼からなるプラグ(符号1〜31)は、8回以上の使用(穿孔圧延)が可能であり、しかも使用後の表面状況も良好で、優れた性能を示した。
これに対して、符号32および33の鋼からなるプラグは、Cuの含有量が少なすぎるために、酸化スケールの密着力が低く、穿孔中に酸化スケールが剥離し溶損が発生した。一方、符号34の鋼からなるプラグは、Cu含有量が多すぎるために、穿孔中に酸化スケール直下の地金が変形し、先端焼付きが発生した。
符号35の鋼からなるプラグは、Mnの含有量が少なすぎるために高温強度が不足で、3本の穿孔圧延で先端部が変形した。一方、符号36の鋼からなるプラグはMn含有量が多すぎるために、穿孔時に胴部に焼割れが発生した。
符号37の鋼からなるプラグは、Ni含有量が少なすぎるために酸化スケールの密着性が悪く、4回の穿孔で先端溶損が発生した。他方、符号38の鋼からなるプラグはNi含有量が多すぎるために穿孔後の水冷時に焼割れが発生した。
符号39の鋼からなるプラグはMo含有量が少なすぎるために高温強度が不足で、4回の穿孔で先端変形が発生した。符号40の鋼からなるプラグはNiとMoの含有量が多すぎるために耐変態割れ性に劣り、3回の穿孔で変態割れが発生した。
符号41の鋼からなるプラグはW含有量が少なすぎるために高温強度が不足で、3回の穿孔で先端変形が発生した。一方、符号42の鋼からなるプラグはW含有量が多すぎるために、穿孔中に酸化スケールが軟化し、4回の穿孔で溶損が発生した。
符号43の鋼からなるプラグは、C含有量が少なすぎるために高温強度が不十分で、回の使用で先端が変形した。一方、符号44の鋼からなるプラグは、C含有量が多すぎるために穿孔後の水冷時に胴部に割れが発生した。
符号45の鋼からなるプラグは、Siの含有量がすくなすぎるために酸化スケールの密着力が不足で、3回の穿孔で先端焼付きが発生した。他方、符号46の鋼からなるプラグは、Si含有量が多すぎるために酸化スケールが穿孔中に軟化し、4回の穿孔で先端変形が発生した。
符号47の鋼からなるプラグは、Crの含有量が多すぎるために穿孔後の水冷時に胴部に割れが発生した。符号48と49の鋼からなるプラグは、Coの含有量が多すぎるために穿孔中に先端に欠損が発生した。
符号50〜54の鋼からなるプラグは、Ti、Nb、V、ZrおよびBの中のいずれか1種以上の含有量が多すぎるために、穿孔中に先端に欠損が発生した。また、符号55〜58の鋼からなるプラグは、REM量が多すぎるために穿孔中に先端に欠損が発生した。
符号59と60の鋼からなるプラグは、いずれも、地金の化学組成は本発明で規定する範囲内であるが、前者の鋼からなるプラグは、酸化スケール層の厚さが45μmと薄すぎるために断熱効果がほとんどなく、2回の使用で先端が変形した。一方、後者の鋼からなるプラグは、酸化スケール層の厚さが1600μmと厚すぎてポーラスなために密着力が低く、先端部の酸化スケール層が早期に剥離脱落した結果、4回の使用で先端が溶損した。
Figure 0004264755
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本発明の熱間加工用工具鋼は高温強度に優れる。また、酸化スケール付け熱処理によりその表面に形成される酸化スケールは、地金との密着性が高く、しかも高Cr含有鋼に対する耐焼付き性および潤滑性に優れている。従って、その表面が酸化スケール付け熱処理により付与された所定厚さの酸化スケールで覆われた本発明の熱間加工用工具は、使用寿命が長いだけでなく、製品に焼付き疵等の表面欠陥を生じさせるおそれがない。本発明の工具鋼は、Cr含有量が13%以上のステンレス鋼に代表される高Cr合金鋼またはNi基合金からなる継目無管の製造に使用される穿孔圧延機のプラグの素材として特に好適である。そのプラグは、使用寿命が長く、しかも内面疵の少ない継目無管を低い工具原単位で製造するのに寄与する。

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1%、Mn:1.6〜3.5%、Ni:0.05〜0.5%、Mo:2〜5%、W:2〜5%およびCu:0.05〜0.5%を含み、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1%、Mn:1.6〜3.5%、Ni:0.05〜0.5%、Mo:2〜5%、W:2〜5%およびCu:0.05〜0.5%を含み、さらに下記の元素の中の少なくとも1種を含み、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
    Cr:0.05〜0.5% および
    REM:0.001〜0.2%。
    但し、REMはランタニド元素、ScおよびYの17元素である。
  3. 質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1%、Mn:1.6〜3.5%、Ni:0.05〜0.5%、Mo:2〜5%、W:2〜5%、Cu:0.05〜0.5%およびCo:0.05〜5%を含み、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
  4. 質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:0.1〜1%、Mn:1.6〜3.5%、Ni:0.05〜0.5%、Mo:2〜5%、W:2〜5%およびCu:0.05〜0.5%およびCo:0.05〜5%を含み、さらに下記の元素の少なくとも1種を含み、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
    Cr:0.05〜0.5% および
    REM:0.001〜0.2%。
    但し、REMはランタニド元素、ScおよびYの17元素である。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれかに記載の成分に加えて、さらに、それぞれ、または2種以上の合計で0.05〜0.5質量%のTi、Nb、V、ZrおよびBの中から選ばれた少なくとも1種を含み、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする熱間加工用工具鋼。
  6. 請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け熱処理により形成された厚さ50〜1500μmの酸化スケールで覆われていることを特徴とする熱間加工用工具。
  7. 請求項1から請求項5までのいずれかに記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け熱処理により形成された厚さ50〜1500μmの酸化スケールで覆われていることを特徴とする継目無管の製造に使用される穿孔圧延機用のプラグ。
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