明 細 書
熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および継目無管製造用プラグ 技術分野
[0001] 本発明は、熱間加工用工具鋼と熱間加工用工具に関する。本発明の工具鋼は、 高 Cr合金鋼および Ni基合金からなる継目無管の製造において使用される穿孔圧延 機、例えば、マンネスマンピアサ、のプラグ用の素材として好適である。高 Cr合金鋼と は、 13%以上の Crを含有するステンレス鋼に代表される鋼である。
背景技術
[0002] 従来、継目無鋼管を製造するための圧延機、中でもマンネスマンピアサに代表され る穿孔圧延機用のプラグは、基本組成が 3%Cr— l%Ni—残 Feである鋼から作られ、 そのプラグは表面に酸化スケール付け熱処理を施して使用されてきた。このプラグは 、普通鋼からなる継目無鋼管を製造する際の穿孔用のものである。
[0003] し力し、 13%以上の Crを含有するステンレス鋼に代表される高 Cr合金鋼および Ni 基合金からなる継目無管を穿孔圧延する場合には、プラグ表面の温度上昇や面圧 上昇が起こるため、プラグの寿命が著しく短くなる。たとえば、 JISの SUS304材の穿 孔では 1パスでプラグに変形が生じる。
[0004] 穿孔圧延においては、穿孔圧延機の主ロールに水を吹き付けて冷却する。その冷 却水は穿孔直後の高温になったプラグにまで飛散する。このため、プラグの表面が 急激に冷却されて表面の酸化スケールの部分剥離が発生し、この剥離部が次回の 穿孔圧延時における焼付き発生の原因となる。さらに、使用後のプラグは、次回の使 用に備えるために、通常、冷却水中に浸漬して冷却されるが、このときの急冷により プラグの地金に変態割れが発生することもある。
[0005] 13%以上の Crを含有するステンレス鋼に代表される高 Cr合金鋼や Ni基合金から なる継目無管などを製管するための穿孔圧延機用のプラグとしては、次のようなもの が提案されている。
[0006] (a)Cr量を低減して耐焼付き性を向上させ、 Moや Wなどを添加して高温強度と酸 化スケールの密着性を高めた鋼からなるプラグ (特許文献 1)。
[0007] (b)Niの多量添加により酸化スケールの潤滑性、耐剥離性および耐摩耗性を向上 させ、かつ、多量の Moまたは/および Wの添カ卩により高温強度を高めた鋼からなる プラグ (特許文献 2)。
[0008] (c)上記 (b)のプラグと同様の鋼からなり、地金の酸化スケール界面粗さを特定するこ とにより、耐焼付き性と潤滑性を高めたプラグ (特許文献 3)。
[0009] (d)Ni、 Cr、 Co、 Wまたは Zおよび Moに加え、 Cuを必須成分として含む鋼からな る耐摩耗性に優れたプラグ (特許文献 4)。
[0010] (e)Cr、 Ni、 Co、 Cu、 Wまたは/および Moに加え、 Tほたは Zrを必須成分として 含む鋼からなる循環使用に際しての急熱急冷に対する耐割れ性を向上させたプラグ
(特許文献 5)。
特許文献 1 :特開昭 63 - 282241号公報
特許文献 2:特開平 4 - 74848号公報
特許文献 3:特開平 4 - 270003号公報
特許文献 4 :特開昭 57— 152446号公報
特許文献 5:特開昭 60 - 208458号公報
[0011] しかし、(a)のプラグは、地金の高温強度および酸化スケールの密着性が不十分で
、長尺ビレットを穿孔する場合、すなわち穿孔長さが長い穿孔圧延の場合には十分 な寿命が確保できない。
[0012] (a)から (c)までのプラグは、最も面圧が高くて温度が上昇するプラグ先端部の酸化ス ケールが穿孔中に溶融して、断熱効果および耐摩耗性が失われ、プラグ先端の溶 損および変形が発生しやすレ、。
[0013] (d)および (e)のプラグは、 Crの含有量が高すぎるために耐焼付き性が劣るだけでな ぐ高温強度が不十分で、プラグ先端の溶損および変形が発生しやすいという欠点 力 Sある。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0014] 本発明の第一の目的は、変形抵抗の大きい材料を熱間加工する際に使用しても寿 命の長い工具鋼およびその鋼で製造した工具を提供することにある。
[0015] 本発明の第二の目的は、 13%以上の Crを含有するステンレス鋼に代表される高 C r合金鋼や Ni基合金のような材料力 継目無管を製造する際の穿孔圧延機用プラグ であって、寿命が長ぐ焼付きが発生しにくいプラグを提供することにある。
課題を解決するための手段
[0016] 本発明者らは、上記の課題を達成するために種々検討をおこなレ、、以下の知見を 得た。
[0017] (a) Cr含有量が 13%以上の高 Cr合金鋼を製管する場合、プラグ表面に形成させ た酸化スケールの物性とその素材である熱間加工用工具鋼(以下、「プラグ素材」と いう)の強度がプラグ寿命に多大な影響を与える。
[0018] (b) 現在使用されているステンレス鋼製管用のプラグの素材は、高温強度を向上さ せる目的で添加された Crを含有している。しかし、 Crは酸素との親和力が高いため、 Crを含有する素材で作られたプラグでは、焼付き防止の酸化スケール付け熱処理を おこなうと、酸化スケールの地金側に Cr酸化物が濃縮したスピネル型スケール、即ち 、 Fe CrOを多く含む内層スケール層が形成される。このスピネル型スケールは、内
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層スケールの 20— 90質量0 /0程度に達する。
[0019] 内層スケール中の Crの濃縮割合は、地金の Cr濃度が高いほど高くなる。たとえば 地金に 0. 5%の Crが含有されている場合、内層スケール中の Cr濃度は 1一 5%程 度となる。
[0020] (c) 一般に焼付きが発生しやすいのは、被加工材料と工具とが同種の成分を含む 場合である。ステンレス鋼には Crが含まれるので、その穿孔圧延においては、プラグ の内層スケール層中の Cr濃縮度合が高いほど焼付きが発生しやすくなる。従って、 焼付きを防止するためには内層スケール中の Cr濃度の上昇を抑制する必要がある。
[0021] 上記の知見に基づけば、 Crを含有しない鋼をプラグ素材とするのが焼付き防止の 一つの手段であると考えられる。しかし、プラグ素材中の Crは、プラグの地金の組織 安定性、高温強度の向上、形成された酸化スケールの密着性向上および耐摩耗性 の向上に有用な成分である。従って、従来、プラグ素材を Cr無添加の鋼とすることは 、困難であった。
[0022] そこで、本発明者らは、 Crをプラグ素材の強化元素としないステンレス鋼製管用の
プラグについて鋭意研究した結果、以下のことが判明した。
[0023] (d) Mnは、従来、組織安定性の改善に用いられていた元素である。しかし、他の 合金成分と組み合わせることにより、次に述べるように、ステンレス鋼の穿孔を行うプ ラグの素材の構成成分としてきわめて有効な働きをする。
[0024] Mnは、 Crと同様に、オーステナイト安定化元素であり、高温での組織を安定させる とともに、高温強度を向上させる。また、プラグ素材に多量の Mnを添加すると、酸化 スケール付け熱処理によって形成される酸化スケールの地金側に Mn酸化物を含有 するスピネル型スケール、即ち、 Fe Mn〇を多く含む内層スケールが形成される。こ
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の Fe Mn〇は、内層スケールの 20 90質量%程度になる。
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[0025] 上記の Mn酸化物を含有するスピネル型スケール(Fe MnO )を多く含む内層スケ
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ールは、実質的に Crを含有していなレ、か、または Crを含有している場合でも Mnによ り希釈されているため、ステンレス鋼を穿孔する時の耐焼付き性が大幅に向上する。 一方、 Mnの濃縮とともに、内層スケールの耐摩耗性が向上し、穿孔中の酸化スケー ル層の摩滅が減少し、プラグ寿命が向上する。
[0026] (e) Mnは、 Crと異なり、鋼の酸化を抑制する元素ではなレ、。従って、 Crを含まず、 Mnを含む鋼を素材とするプラグには、低温で短時間の酸化スケール付け熱処理に よっても十分な厚さの酸化スケール層を形成させることができる。また、 Crを含有する 従来のプラグ素材に比較して酸化しやすいため、穿孔作業終了後の冷却時にもブラ グ表面に容易に酸化スケールが形成され、この酸化スケールの存在によりプラグ寿 命が向上する。
[0027] (f) しかし、 Mnを極端に多く添加すると鋼の割れ感受性が著しく高くなり、穿孔圧 延に使用した直後のプラグ表面に冷却水等が飛散した場合、プラグ表面に割れが発 生すること力 Sある。従って、その添加量には限界がある。また、高温強度の向上元素 として Wと Moを複合添カ卩する必要がある。
[0028] (g) Mn酸化物を含んだ内層スケールの融点は 1200°C以上であり、穿孔中に溶融 しない。そのため、潤滑効果が現れず、穿孔に要する時間が長くなつてプラグの表面 温度が上昇し、溶損する。従って、酸化スケールに潤滑性を付与するためには、酸 化スケールの融点の適正化が必要となる。この融点の適正化には、 W酸化物と Fe酸
化物とが 1100°C付近で共晶反応を起こすこと、および Feと Siとの複合酸化物の融 点が 1170°C付近であることが利用できる。即ち、 Wと Siの含有量を適正に調整すれ ば、酸化スケール中の W酸化物および Feと Siとの複合酸化物の形成を促すことがで き、酸化スケールの融点の適正化が可能である。
[0029] (h)前記の Mn酸化物を含有するスピネル型スケール (Fe MnO )を多く含む内層ス
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ケールは、 Cr酸化物が濃縮したスピネル型スケール、即ち Fe CrOを多く含む内層
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スケールに比較して密着力が低く、製管中に酸化スケール層が剥離して焼付きや溶 損が発生しやすい。
[0030] (i) しかし、内層スケールをその層中に金属粒子が分散するものにすると、酸化スケ ールの変形能が増大して密着力が向上し、穿孔中に酸化スケールの剥離が生じず、 し力、も加熱冷却の繰り返し環境下での酸化スケールの剥離も大幅に抑制され、潤滑 性ゃ耐摩耗性も向上する。
[0031] (j) 前記の金属粒子としては、 Ni、 Cuおよび Coの粒子を挙げることができる。これ らの金属粒子は、これらを含有する鋼を素材とするプラグに酸化スケール付け熱処 理を施す際にも酸化されないので、金属粒子のままで酸化スケール層中に分散析出 する。
[0032] (k) しかし、 Niの多量添加は、地金のマルテンサイト変態温度を上昇させる。従つ て、ロール冷却水の飛散等によってプラグが急冷された時に変態割れを誘発し、ブラ グの損傷を招くことがある。従って、 Ni含有量には限界がある。しかし、 Ni含有量を 減らすと、その分だけ酸化スケールの密着力が低下する。
[0033] また、 Cuを単独で、即ち、 Ni添加なしで、添加すると、酸化スケールと地金との界 面に低融点の Cu金属層が形成されて Cu脆ィ匕を引き起こし、プラグ表面が損傷する 。ところが、適量の Niと Cuを併せて添加すると、酸化スケール中に分散する金属粒 子および酸化スケールと地金との界面に形成される金属層が Ni— Cu合金となり、前 記の Cu脆ィ匕が抑制される。それだけでなぐ Mn酸化物を含有するスピネル型スケー ノレ、即ち Fe MnOの地金に対する密着性が向上する。
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[0034] (1) Coの酸化スケール密着力向上効果は、 Niに比べて低ぐ Co添カ卩により酸化ス ケールの密着力を向上させようとすると多量添カ卩が必要になる。この Coの多量添カロ
は素材価格の高騰を招く。従って、プラグ素材としては、 Niと Cuの複合添加鋼とする のが好ましぐ Coは必要に応じて添カ卩するのがよい。
[0035] 上記の多くの知見に基づいてなされた本発明の要旨は、下記(1)の熱間加工用ェ 具鋼、下記(2)の熱間加工用工具、および下記(3)の継目無管製造の製造に使用さ れる穿孔圧延機用のプラグにある。以下の記述において、成分含有量についての% は、質量%を意味する。
[0036] (1)C:0.05—0.5%、Si:0.1 1%、Μη:1.6—3.5%、Ni:0.05—0.5%、
Mo:2 5%、 W:2 5%、 Cu:0.05—0.5%、残部: Feおよび不純物力、らなる熱 間加工用工具鋼。
[0037] (2)上記(1)に記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け 熱処理により形成された厚さ 50 1500 μ mの酸化スケールで覆われている熱間加 ェ用工具。
[0038] (3)上記(1)に記載の熱間加工用工具鋼からなり、その表面が酸化スケール付け 熱処理により形成された厚さ 50— 1500 β mの酸化スケールで覆われてレ、る継目無 管の製造に使用される穿孔圧延機用のプラグ。
[0039] 上記(1)の熱間加工用工具鋼は、前記の成分に加えて、下記の(A)—(D)群のう ちの少なくと 1群のうちから選ばれた少なくとも 1種の成分を含むものであってもよい。
(A) Cr:0.05— 1%、
(B) Co:0.05— 5%、
(C) Ti、 Nb、 V、 Zrおよび Bの 1種以上:合計で 0· 05-0.5%、
(D) REM:0.001— 0.2%。
但し、 REMとは、 Laから Luまでのランタニド 15元素と Scおよび Yを含めた 17元素 のことである。
発明を実施するための最良の形態
[0040] 以下、本発明の熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および継目無管の製造に使 用する穿孔機用プラグを前記のように定めた理由について詳細に説明する。
[0041] 1.熱間加工用工具鋼
C:0.05-0.5%
Cは、鋼の高温強度の向上に有効である。し力し、 0. 05%未満の含有量では十分 な高温強度が得られない。一方、 0. 5%を超えると工具として使用した後の表面に焼 きが入った部分の硬度が高くなりすぎ、焼割れが生じやすくなる。このため、 C含有量 は 0. 05-0. 5%とする。下限として好ましレヽのは 0. 07%、より好ましレヽのは 0. 1 % である。また、上限として好ましいのは 0. 3%、より好ましいのは 0. 2%である。
[0042] Si : 0. 1- 1%
Siは、鋼の脱酸剤として有効である。また、 Ac変態点の上昇および表面に生成す
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る酸化スケールの緻密化に有効であるだけでなぐフェアライト(Fe SiO )を生成さ
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せて酸化スケールの高温変形能を増大させ、密着性を向上させる。 0. 1%未満の含 有量ではこれらの効果が得られない。一方、 1 %を超えるとフェアライトが過剰に生成 し、酸化スケールの融点が低下するだけでなぐ高温硬度も低下する。これらの理由 により、 Si含有量は 0. 1 1%が適正である。下限として好ましいのは 0. 15%、より 好ましいのは 0. 2%である。また、上限として好ましいのは 0. 6%、より好ましいのは 0. 5%である。
[0043] Mn: l . 6—3. 5%
Mnは、鋼の表面に生成する酸化スケールの形態制御のため、および鋼の高温強 度を向上させるために本発明鋼にとって最も重要な元素の 1つである。 1. 6%未満 の含有量では酸化スケールの密着性の改善効果が認められなレ、だけでなぐ高温強 度の向上効果も小さぐ工具として使用した場合、寿命向上が認められない。一方、 3 . 5%を超えると、地金の耐焼割れ性が低下し、工具として使用した後の冷却時に表 面に割れが発生し、寿命が短くなる。これらの理由から、適正な Mn含有量は 1. 6— 3. 5%である。下限として好ましいのは 2%、より好ましいのは 2. 5%である。また、上 限として好ましいのは 3. 25%、より好ましレ、のは 3. 2%である。
[0044] Ni: 0. 05—0. 5%
Niは、酸化スケール層中、なかでも Fe MnOを多く含む内層スケール層中に金属
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粒子として分散析出し、酸化スケールの耐剥離性を向上させるのに有効である。この 効果は、後述する Cuと併せて添加した場合に特に著しい。しかし、 0. 05%未満の 含有量では上記の効果は得られない。一方、 0. 5%を超えると、鋼の耐変態割れ性
が低下する。このため、 Ni含有量は 0. 05-0. 5%が適正である。下限として好まし いのは 0· 15%、より好ましいのは 0. 2%である。また、上限として好ましいのは 0· 45 %、より好ましいのは 0· 4%である。
[0045] Mo : 2— 5%
Moは、鋼の高温強度を向上させるのに有効なだけでなぐ Niおよび Cuとの複合 添カ卩により酸化スケールの密着性を向上させるのに有効な成分でもある。これらの効 果は 2%以上で得られる力 S、その効果は 5%で飽和する。従って、適正な Mo含有量 は 2 5%である。下限として好ましいのは 2. 25%、より好ましいのは 2. 5%である。 また、上限として好ましいのは 4. 5%、より好ましいのは 4%である。
[0046] W: 2— 5%
Wは、鋼の高温強度を向上させる。また、酸化スケールの潤滑性を制御するのに極 めて重要な元素である。従って、少なくとも 2%の含有量が必要である。一方、 5%を 超えると、酸化スケールの融点が低下しすぎて使用中に酸化スケール層が剥離しや すくなり、焼付きが発生するようになる。このため、 Wの適正な含有量は 2— 5%であ る。下限として好ましいのは 2. 5%、より好ましいのは 3%である。また、上限として好 ましいのは 4· 5%、より好ましいのは 4%である。
[0047] Cu : 0. 05—0. 5%
Cuは、酸化スケールの密着性や潤滑性などを向上させるうえで本発明鋼において は上記の Niとともに最も重要な元素の一つである。特に Niとの複合添加で酸化スケ ールの密着性や潤滑性などを大幅に向上させることは前述したとおりである。
[0048] Cuがスケールの密着性を向上させることは、先に挙げた特許文献 4および特許文 献 5によって知られている。し力し、これらの文献に開示されている鋼は、いずれも M nが 1. 5%以下の鋼である。また、特許文献 5に開示される鋼は、 Cr含有量が 1一 3 %と多い。これに対して、本発明の鋼では、 Mnは 1. 6-3. 5%であり、かつ Cr含有 量は、添加する場合でも 0. 05-0. 5%である。
[0049] 上記のように Mn含有量を多くした鋼においては、 Mn酸化物を含有するスピネル 型スケール(Fe MnO )を多く含む内層スケールが形成される。このスケールは、前
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記のように顕著な焼付き防止の効果を有するが、 Crが濃縮したスケールに比べると
密着性に劣る。 Cuはその密着性の向上に役立つのである。し力し、 0. 05%未満の 含有量ではこの効果が得られない。一方、 0. 5%を超えると、酸化スケールと地金と の界面に Cu含有量の多い軟質な合金層が生成して、酸化スケールの耐剥離力が低 下し、穿孔作業中に酸化スケールが地金力 被カ卩ェ材料側にもっていかれ、焼付き が発生しやすくなる。これらの理由で、 Cu含有量の適正範囲は 0. 05-0. 5%であ る。下限として好ましいのは 0. 07%、より好ましいのは 0. 075%である。また、上限と して好ましいのは 0. 4%、より好ましいのは 0. 3%である。
[0050] 以上が、本発明の工具鋼の必須成分である。本発明の工具鋼の一つは、上記の成 分の他、残部が Feと不純物からなる。
本発明の工具鋼の他の一つは、上記の成分に加えて、以下に述べる成分の中から 選んだ少なくとも 1種の成分を含み、残部が Feと不純物からなるものである。
[0051] Cr : 0. 05—0. 5%
Crは添加しなくてもよいが、酸化スケールの密着性を向上させるのに有効な元素で あるので、必要に応じて添加してもよい。し力し、 0. 05%未満の含有量では上記の 効果が得られない。一方、 0. 5%を超えると焼割れが発生しやすくなる。また、前述 のように、 Cr含有量が多いと Crが濃縮したスピネル型スケールが生成して、ステンレ ス鋼の加工の際に焼付きが発生しやすくなる。これらの理由から、添加する場合の Cr 含有量は 0· 05-0. 5%とするのがよい。
[0052] Co : 0. 05—5%
Coも添加しなくてもよいが、靭性を向上させるのに有効な元素であるとともに、上記 の Niと同様に、酸化スケール層中に金属粒子として分散析出し、酸化スケールの耐 剥離性などを向上させるのに有効な元素である。従って、必要に応じて添加してもよ レ、。しかし、 0. 05%未満の含有量では前記の効果は得られなレ、。一方、 5%を超え ると金属粒子が多くなりすぎて焼付きが発生しやすくなるとともに、工具の熱疲労特 性が低下して、工具が加熱と冷却をくり返されたときに、その表面に熱疲労による亀 裂が生じやすくなる。また、過剰の Coは酸化スケール形成を抑制する。このため、添 加する場合の Co含有量は 0. 05 5%とするのがよい。
[0053] Ti、 Nb、 V、 Zr、 B :それぞれ、または 2種以上の合計で 0. 05—0. 5%
これらの元素も添加しなくてもよいが、いずれの元素も、細粒化作用を有し、靭性を 向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて 1種または 2種以上を添カ卩して もよレ、。しかし、含有量がそれぞれ、または合計で 0. 05%未満では上記の効果が得 られなレ、。一方、 0. 5。/0を超えると脆ィ匕相が現れ、地金の強度が低下する。このため 、添加する場合のこれら元素の含有量は、それぞれ、または 2種以上の合計で 0. 05 一 0. 5%とするのがよい。
[0054] REM : 0. 001 0. 2%
REM、即ち、 Laから Luまでのランタニド 15元素と Scおよび Yを含めた 17元素、は 添加しなくてもよいが、いずれの元素も酸化スケールの密着性を改善するのに有効 な成分であるから、必要に応じて 1種以上を添カ卩してもよい。しかし、それぞれ、また は合計の含有量が 0. 001%未満では前記の効果は得られず、 0. 2%を超えると脆 化相が現れ強度が低下する。このため、添加する場合の含有量は、それぞれ、また は 2種以上の合計で 0· 001— 0. 2%とするのがよい。
[0055] 本発明の熱間加工用工具鋼の残部は Feと不純物である。不純物としての Pと Sの 含有量は、この種の鋼に不純物として含まれる通常のレベルであれば特に問題なレヽ 。但し、 Pおよび Sは酸化スケールの密着性を低下させる場合があるので、いずれも 0 . 01 %以下に抑えるのが望ましい。
[0056] 2.熱間加工用工具および穿孔圧延機用プラグの酸化スケール厚さ
本発明の熱間加工用工具と継目無管製造のための穿孔圧延機用プラグは、前記 の化学組成を有する熱間加工用工具鋼からなる。そして、その表面は「酸化スケール 付け熱処理」によって形成される厚さ 50— 1500 μ mの酸化スケール層で覆われて レ、る必要がある。その理由は次のとおりである。
[0057] 酸化スケール層の厚さが 50 μ m未満では、断熱効果が不十分で、地金の温度上 昇を十分に抑制できないだけでなぐ酸化スケール層の摩滅消耗が早ぐ早期にェ 具形状が変形するとともに、潤滑性が消失して焼付きが発生する。
[0058] 一方、酸化スケール層の厚さが 1500 z mを超えると、空隙やマイクロクラックの多 レ、スケール層となって地金との密着力が低下し、使用前のハンドリング中にスケール が剥離しやすくなるだけでなぐ使用中に内外層スケールの層間剥離が生じやすくな
つて製品に疵が発生する。その疵は、プラグによる穿孔の場合は穿孔後の管内面の 疵である。従って、酸化スケール層の適正な厚さは 50— 1500 /i mである。
[0059] 酸化スケール層の厚さとは、内層スケールとその上に形成された外層スケールの両 方を合わせた厚さのことである。外層スケールは、 Fe〇と Fe Oが主体で、その最外
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層は Fe Oである。
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[0060] 3.熱間加工用工具鋼、熱間加工用工具および穿孔圧延機用プラグの製造
本発明の熱間加工用工具鋼は、大気溶解法、 A〇D法および V〇D法などの公知 のプロセスにより溶製し、得られた溶鋼を造塊法や連続錡造法により鋼塊または铸片 となし、その後、必要に応じて熱間圧延などの熱間加工を施して所定形状の鋼片と することにより製造する。その際の製造条件に特別な制約はない。
[0061] 本発明の熱間加工用工具および継目無管製造用の穿孔圧延機用のプラグは、上 記のようにして得られた溶鋼を直接所定の工具またはプラグの形状に铸込む力、、ま たは鋼片に熱間鍛造を施して所定の工具またはプラグの形状に成形することにより 製造すること力 Sできる。この場合の製造条件にも特別な制約はない。ただし、酸化ス ケール付けの熱処理は、次の条件でおこなうのが望ましい。
[0062] 4.酸化スケール付け熱処理の条件
(1)加熱雰囲気
スケール付け処理においては加熱雰囲気中に含まれる水蒸気が重要であり、炉内 の水蒸気濃度を 5体積%以上に保つ必要がある。この条件は、 LNG、 LPG、 Cガス およびブタン等の燃料を空気と混合して燃焼させることにより得られる。
[0063] (2)加熱温度
スケールの厚さは、加熱温度と加熱時間に依存する。 Mn酸化物を多く含むスピネ ル型スケールを均一な厚さに形成させるためには 800°C以上での処理が望ましい。 また、 1200°Cを超えると、生成したスケールが溶融するので、加熱温度は 1200°C以 下が望ましい。
[0064] (3)加熱時間
加熱時間は、加熱温度に応じて所定のスケール厚さが得られるように決定すればよ レ、。
実施例
[0065] 表 1および表 2に示す化学組成を有する 60種類の合金鋼を、大気溶解により溶製 し、得られた鋼塊を熱間鍛造した後、外削し、継目無管製造用の穿孔圧延機用のプ ラグに仕上げた。
[0066] 所定の形状に仕上げたプラグを、 LNG燃焼雰囲気(体積%で、 10%CO
2、 2%0 2
、 20 %H〇、残: N )中で、表 3および表 4に示す種々の温度と時間で加熱し、同じく
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表 3および表 4に示す種々の厚さの酸化スケール層を形成させた。
[0067] 得られた各プラグを使用して穿孔圧延を行った。穿孔圧延は、下記の寸法の SUS 304製の丸ビレットから、下記の寸法のホロ一シェルに成形する穿孔圧延である。プ ラグは、多数のビレットの穿孔に連続して供した。穿孔条件は下記のとおりである。
[0068] ビレットおよびホロ一シェルの寸法:
パラレル用
ビレット · ·直径 70mm X長さ 1000mm
ホロ一シェル · ·直径 72mm X長さ 2200mm
拡管用
ビレット · ·直径 65mm X長さ 1000mm
ホロ一シェル · ·直径 93mm X長さ 2200mm
ビレットの加熱温度: 1200。C
交叉角: 15°
傾斜角: 10°
プラグ寸法:
パラレル用 · ·直径 54mm
拡管用 · · · ·直径 75mm
[0069] 上記の「パラレル」とはビレット直径と穿孔後の素管(ホロ一シェル)の外径とがほぼ 同じであることを意味し、「拡管」とはビレットの直径よりも素管の外径が大きいことを意 味する。
[0070] 穿孔圧延に供し得た各プラグの使用回数 (穿孔圧延本数)と、使用後のプラグの表 面状況を調べた。使用不能の判定は、プラグの酸化スケール層も剥離もしくは摩耗
消滅、プラグの割れもしくは焼付きの発生、プラグ先端の溶損もしくは変形の状態を 観察することによって行った。
[0071] 調べた結果を、酸化スケール付け熱処理条件、酸化スケール層の厚さ、および素 材鋼の 1000°Cにおける引張強さ(TS : N/mm2)と併せて、表 3および表 4に示す。
[0072] 表 3および表 4からわかるように、本発明の工具鋼からなるプラグ(符号 1一 31)は、
8回以上の使用(穿孔圧延)が可能であり、しかも使用後の表面状況も良好で、優れ た性能を示した。
[0073] これに対して、符号 32および 33の鋼からなるプラグは、 Cuの含有量が少なすぎる ために、酸化スケールの密着力が低ぐ穿孔中に酸化スケールが剥離し溶損が発生 した。一方、符号 34の鋼からなるプラグは、 Cu含有量が多すぎるために、穿孔中に 酸化スケール直下の地金が変形し、先端焼付きが発生した。
[0074] 符号 35の鋼からなるプラグは、 Mnの含有量が少なすぎるために高温強度が不足 で、 3本の穿孔圧延で先端部が変形した。一方、符号 36の鋼からなるプラグは Mn含 有量が多すぎるために、穿孔時に胴部に焼割れが発生した。
[0075] 符号 37の鋼からなるプラグは、 Ni含有量が少なすぎるために酸化スケールの密着 性が悪ぐ 4回の穿孔で先端溶損が発生した。他方、符号 38の鋼からなるプラグは N i含有量が多すぎるために穿孔後の水冷時に焼割れが発生した。
[0076] 符号 39の鋼からなるプラグは Mo含有量が少なすぎるために高温強度が不足で、 4 回の穿孔で先端変形が発生した。符号 40の鋼からなるプラグは Niと Moの含有量が 多すぎるために耐変態割れ性に劣り、 3回の穿孔で変態割れが発生した。
[0077] 符号 41の鋼からなるプラグは W含有量が少なすぎるために高温強度が不足で、 3 回の穿孔で先端変形が発生した。一方、符号 42の鋼からなるプラグは W含有量が多 すぎるために、穿孔中に酸化スケールが軟ィ匕し、 4回の穿孔で溶損が発生した。
[0078] 符号 43の鋼からなるプラグは、 C含有量が少なすぎるために高温強度が不十分で 、 4回の使用で先端が変形した。一方、符号 44の鋼からなるプラグは、 C含有量が多 すぎるために穿孔後の水冷時に胴部に割れが発生した。
[0079] 符号 45の鋼からなるプラグは、 Siの含有量がすくなすぎるために酸化スケールの 密着力が不足で、 3回の穿孔で先端焼付きが発生した。他方、符号 46の鋼からなる
プラグは、 Si含有量が多すぎるために酸化スケールが穿孔中に軟化し、 4回の穿孔 で先端変形が発生した。
[0080] 符号 47の鋼からなるプラグは、 Crの含有量が多すぎるために穿孔後の水冷時に胴 部に割れが発生した。符号 48と 49の鋼からなるプラグは、 Coの含有量が多すぎるた めに穿孔中に先端に欠損が発生した。
[0081] 符号 50— 54の鋼からなるプラグは、 Ti、 Nb、 V、 Zrおよび Bの中のいずれか 1種以 上の含有量が多すぎるために、穿孔中に先端に欠損が発生した。また、符号 55— 5 8の鋼からなるプラグは、 REM量が多すぎるために穿孔中に先端に欠損が発生した
[0082] 符号 59と 60の鋼からなるプラグは、いずれも、地金の化学組成は本発明で規定す る範囲内であるが、前者の鋼からなるプラグは、酸化スケール層の厚さが 45 x mと薄 すぎるために断熱効果がほとんどなぐ 2回の使用で先端が変形した。一方、後者の 鋼からなるプラグは、酸化スケール層の厚さが 1600 μ mと厚すぎてポーラスなため に密着力が低ぐ先端部の酸化スケール層が早期に剥離脱落した結果、 4回の使用 で先端が溶損した。
[0083] [表 1]
表 1
区符 化学組成 (質量%、 残部: Feおよび不純中 n)
分 つ c Si Mn Ni Mo W Cu Cr Co その他
1 0.15 0.28 2. 0 0.32 2.95 3.90 0.05
2 0.13 0.29 3.10 0, 32 3.30 4.15 0.10
3 0.15 0.30 2.85 0.25 3· 00 3.60 0.30
4 0.14 0.28 2.95 0.30 2.95 4.20 0.48
5 0.06 0.29 1· 75 0.20 2.85 4.12 0.20
Q 0.20 0.35 3.04 0.30 3.00 4.13 0.15
7 0.30 0.25 3.20 0.07 2.87 3.89 0.30 0.10
8 0.35 0 45 2.98 0.20 3.21 4· 02 0.10 0.20
g 0.36 0, 32 3.25 0.45 3.11 3.98 0, 12
本 10 0.35 0.65 3.20 0.10 3.10 2.55 0.09 0.50
11 0.10 0.85 3.45 0· 23 3.30 3, 00 0.12 0.30
12 0.20 0.20 2.50 0.30 2.90 4.25 0.22 4.50
13 0.25 0.55 2.22 0.25 2.40 3.55 0.33 0.40 3.50
14 0.30 0.25 3.20 0.07 2.05 3.89 0.28 Ti :0.30
15 0.35 0.30 3.11 0.45 4.21 3.25 0.19 Nb:0.40
16 0.48 0.40 2.89 0.30 3.21 3.65 0.07 V:0.10
17 0.35 0.25 3.11 0.45 3.33 3.90 0.36 Zr:0.45
B月 18 0.25 0.60 3.45 0.50 4.25 3.99 0.40 B:0.20
19 0.15 0.30 3.00 0.29 3.33 3.25 0.36 Ti+Nb:0.36
20 0.30 0.30 3.20 0.20 4.80 3.89 0.28 0.40 V:0.10
21 0.35 0.25 3.11 0.45 3.33 3.25 0.19 0.43 Nb+B:0.23 例 22 0.35 0.25 2.22 0.25 2.40 3.55 0.19 2.00 Ti+V:0.35
23 0.15 0.30 3.00 0.33 3.00 3.33 0.07 4.50 Zr:0.25
24 0.15 0.30 3.20 0.20 4.80 3.89 0· 36 0.38 3.70 Ti+V+Nb:0.35
25 0.35 0.25 2.95 0.30 2.95 4.20 0.36 REM:0.02
26 0.25 0.95 3.10 0.45 3.33 3.25 0. 0 REM :0.01
27 0.30 0.30 3.20 0.20 4.80 3.89 0.36 REM:0.005
28 0.30 0.30 2.50 0· 30 3.09 3.55 0.19 0.49 REM:0.10
29 0.35 0.25 3.11 0.30 2.95 4.20 0.07 4.50 REM :0.15
30 0.15 0.30 3, 00 0.20 4· 80 3. Β9 0.07 0.10 0.09 REM:0.13
31 0.35 0.25 3.11 0.45 3.33 3.25 0.19 0.10 0.09 Zr:0.25、 REM:0.15
表 2
鋼 31囲気中 加熟 加熱 1000¾での 酸化スケ プラグ プ ラ グ 符の H20濃度 ; ffi度 時 M 引張強さ ール厚さ 寿 命 の 号 (Vo l . %) (¾) ( h ) ( N/itm2) ( jLi m) (本/個) 損傷状況
1 20 1050 6 120 800 9 良好
2 20 1100 4 115 800 8 良好
3 20 1050 6 120 800 8 良好
4 20 1050 6 100 800 9 良好
5 20 1050 6 105 800 8 良好
6 20 1050 6 120 800 9 良好
7 20 1050 6 115 800 10 良好
8 20 1050 6 115 800 11 良好
9 20 1050 6 120 800 10 良好 本 10 20 1050 6 122 800 9 良好
11 20 1050 6 124 800 10 良好
12 20 1050 6 121 800 10 良好
13 20 1100 6 118 1200 10 良好 発 14 20 1050 6 110 800 10 良好
15 20 1050 6 105 800 10 良好
16 20 1050 6 104 800 10 良好
17 20 1050 4 121 900 11 良好 明 18 20 1050 6 110 800 10 良好
19 20 1050 6 105 800 10 良好
20 20 1050 6 104 800 10 良好
21 20 1050 8 110 970 10 良好 例 22 20 1050 6 112 800 10 良好
23 20 1050 8 108 970 10 良好
24 20 1050 6 120 800 10 良好
25 20 1050 6 118 800 10 良好
26 20 1050 6 121 800 10 良好
27 20 1050 8 108 970 10 良好
28 20 1000 6 111 900 10 良好
29 20 1050 6 110 800 10 良好
30 20 1050 6 105 800 10 良好
31 20 1050 6 105 800 10 良好
表 4
本発明の熱間加工用工具鋼は高温強度に優れる。また、酸化スケール付け熱処理 によりその表面に形成される酸化スケールは、地金との密着性が高ぐし力も高 Cr含 有鋼に対する耐焼付き性および潤滑性に優れている。従って、その表面が酸化スケ
ール付け熱処理により付与された所定厚さの酸化スケールで覆われた本発明の熱 間加工用工具は、使用寿命が長いだけでなぐ製品に焼付き疵等の表面欠陥を生じ させるおそれがなレ、。本発明の工具鋼は、 Cr含有量が 13%以上のステンレス鋼に 代表される高 Cr合金鋼または Ni基合金からなる継目無管の製造に使用される穿孔 圧延機のプラグの素材として特に好適である。そのプラグは、使用寿命が長ぐし力、も 内面疵の少ない継目無管を低い工具原単位で製造するのに寄与する。