JP4245301B2 - 水性塗料組成物及び食品用缶 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風味保持性、衛生性、耐蝕性に極めて優れる水性塗料組成物及び該塗料組成物を用いてなる食品用缶に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から缶内面用の水性塗料としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂とカルボキシル基含有アクリル系樹脂部分とが化学的に結合してなるいわゆる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を水性媒体中に分散させた塗料組成物が知られている。該塗料組成物は、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含有するそれまでの塗料組成物に比して、衛生性に優れる塗膜を形成し得るものであった。
しかし、この自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂を含有する水性塗料組成物は、エポキシ樹脂に由来する低分子量成分を含有していた。このような低分子量成分は、衛生面からは減らす方が望ましい。
そこで、衛生性の向上を目的に、エポキシ樹脂に由来する低分子量成分を低減もしくは除去してなる精製ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いてなる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂を含有する水性塗料組成物が提案された(特開平01−230678号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記水性塗料組成物から形成した塗膜は、確かに衛生性に優れるものではあった。しかし、上記水性塗料組成物を食品用缶の内面に塗布して形成した塗膜は、缶に収容される内容物である食品中の香気成分が塗膜に吸着され易いため、例えば清涼飲料水等の内容物の風味が変化するという新たな問題が生じた。
【0004】
本発明は、耐蝕性、衛生性等に優れるともに、香気成分が吸着されにくい塗膜を形成し得る水性塗料組成物及びその塗料組成物を内面の被覆に用いた食品用缶を提供することを目的とする。
なお、本発明における「食品」とは、固形や半固形の食品に制限されず、清涼飲料水や酒類等の飲料、油類を含むものとする。すなわち、食品用缶とは、飲料缶、食品缶詰用缶(食缶)を含むものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、水性塗料組成物と塗膜の香気成分吸着について検討を重ねた結果、精製エポキシ樹脂を必須成分とするエポキシ樹脂と、特定組成のカルボキシル基含有アクリル系共重合体とを反応せしめてなる、自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、第1の発明は、自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)及びフェノール樹脂(B)をアミンもしくはアンモニアの存在下に水性媒体中に分散して含む水性塗料組成物であって、
前記自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)が、
アクリル酸もしくはメタクリル酸/スチレン/メチルメタクリレート/エチルアクリレートを35〜65/15〜35/5〜25/5〜15(重量%)の組成で共重合してなるカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)と、
重量平均分子量が4,000〜14,000で分子量800以下の成分を含有するビスフェノール型エポキシ樹脂を該樹脂の親溶剤の溶液中で、もしくは該樹脂を加熱溶融して、アルキル基の炭素数1〜4のアルキルアルコールと接触させて前記分子量800以下の成分を低減もしくは除去してなる精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)を必須成分として含むエポキシ樹脂(A2)とを、
カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)/エポキシ樹脂(A2)=50/50〜10/90の重量比で、エステル化反応せしめてなる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)であることを特徴とする水性塗料組成物である。
【0007】
第2の発明は、エポキシ樹脂(A2)が、重量平均分子量が15,000〜70,000のビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)を含み、精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)、及びビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)の重量比が、(A2−1)/(A2−2)=50/50〜95/5である第1の発明に記載の水性塗料組成物である。
【0008】
さらに、第3の発明は、第1または第2の発明いずれかに記載の水性塗料組成物を含む塗料で内面を被覆してなることを特徴とする食品用缶である。
【0009】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の水性塗料組成物を構成する成分の1つである自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)について説明する。
自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)は、後述する特定組成のカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)中のカルボキシル基の一部と、エポキシ樹脂(A2)中のエポキシ基の一部とを常法に従いエステル化反応して得られる。エポキシ樹脂(A2)は、後述する精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)を必須成分として含有する。
【0010】
カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)とエポキシ樹脂(A2)とは、(A1)/(A2)=50/50〜10/90の重量比で反応させる必要があり、30/70〜15/85(重量比)で反応させることが好ましい。
疎水性樹脂であるエポキシ樹脂(A2)に比して親水性樹脂であるカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)が過量になると、エポキシ樹脂とアクリル樹脂のエステル反応が進みにくくなり、安定した水性樹脂分散体が得にくくなる。さらにエポキシ樹脂(A2)に比してアクリル系共重合体(A1)が過量の場合、生成する自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の親水性が高くなり過ぎて、塗膜性能において耐蝕性、耐水性が劣る問題が生じる。
他方、エポキシ樹脂(A2)に比してカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)が少なすぎると、生成される自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の親水性が低くなり過ぎて水中で安定した分散体とならず、経時で上記樹脂(A)が沈降してしまう問題が生じる。
【0011】
エステル化反応後、残存しているカルボキシル基の少なくとも一部をアミンもしくはアンモニアで中和することによって自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)を水性媒体中に分散せしめることができる。
用いられるアミンとしては、ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン類、モルホリン等の揮発性アミン等が挙げられる。
【0012】
本発明における水性媒体とは、少なくとも50容積%以上、好ましくは80容積%以上が水である、水と親水性溶剤との混合物である。親水性溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、ペンタノール等のアルコール系溶剤の他、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤、及びエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物等が挙げられる。
【0013】
次に自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)を生成する成分の1つである、カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)について説明する。
カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)は、アクリル酸もしくはメタクリル酸/スチレン/メチルメタクリレート/エチルアクリレートを35〜65/15〜35/5〜25/5〜15(重量%)の組成で共重合してなるものである。
香気成分の吸着を低減するという点から、スチレンとメチルメタクリレートとを併用することが本発明の特徴である。スチレン及びメチルメタクリレートは、それぞれ同程度のガラス転移温度を示すホモポリマーを生成しうる。詳細な理由はまだ解明されてはいないが、同程度のガラス転移温度を呈するモノマーであるスチレン及びメチルメタクリレートを併用する事は、カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)の共重合性、更には該アクリル系共重合体(A1)及び自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の結晶性に好ましい影響を与え、どちらか一方のみを使用する場合に比して香気成分の吸着量が著しく低下する。
そして、後述するエポキシ樹脂(A2)と反応した後に水性化させるという観点、形成される塗膜の加工性等の観点から、カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)は、上記のような共重合比で共重合されたものであることが重要である。
【0014】
次に自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)を生成する成分の他の1つである、エポキシ樹脂(A2)について説明する。
エポキシ樹脂(A2)は、精製エポキシ樹脂(A2−1)を必須成分とするものである。
精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)は、原料ビスフェノール型エポキシ樹脂を精製したものであり、原料ビスフェノール型エポキシ樹脂は重量平均分子量が4,000〜14,000の範囲にあり、分子量800以下の成分を含有するものである。
原料ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量は、7,000〜11,000の範囲にあるものが好ましい。また、原料ビスフェノール型エポキシ樹脂の数平均分子量は2,000〜6,000の範囲にあることが好ましく、数平均分子量が3,000〜5,000の範囲にあることがより好ましい。
【0015】
重量平均分子量が4,000より小さいビスフェノール型エポキシ樹脂を精製した精製エポキシ樹脂を用いた場合、塗膜の加工性が低下し耐蝕性が劣化するばかりでなく、原料エポキシ樹脂の重量平均分子量が低くなるにつれて低分子量領域の成分が多くなるため、このような原料エポキシ樹脂を洗浄しても低分子量成分の残存割合が高くなるので好ましくなく、低分子量成分を十分除去するための工程が煩雑になったり、精製エポキシ樹脂の収量が少なくなったりしてしまう。一方、原料エポキシ樹脂の重量平均分子量が14,000を越えると、自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の反応性が低下し、焼付乾燥後の塗膜架橋レベルが低くなり、缶内面塗料として使用した場合、缶内容物中への抽出物量が増加し、フレーバーや衛生性が劣化する場合がある。また製造中の自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の樹脂溶液粘度が高くなり製造が困難になる、塗工に適する塗料粘度、固形分を有する塗料組成物が得られなくなる等の問題が生じるため好ましくない。
【0016】
使用される原料ビスフェノール型エポキシ樹脂は、工業用に製造されているものであって、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類とエピクロルヒドリンとを強アルカリの存在下で反応せしめる一段法、あるいは、この一段法により製造されたエポキシ樹脂にさらにビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類を付加重合せしめる二段法で得られるものが使用される。
これら原料となるビスフェノール型エポキシ樹脂は、種々の重合度の分子が混合している状態にあり、分子量に分布がある。重量平均分子量が4,000〜14,000の範囲にあっても分子量800以下の成分も含まれており、上記のような工業的製造方法をとる限り、分子量800以下の成分の混入は避けられない。
ビスフェノール型エポキシ樹脂として、例えば下式(1)で示される構造のビスフェノールA型の他、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型等が挙げられる。
【0017】
【化1】
(ただし、nは、0以上の整数。)
エポキシ樹脂中に占める分子量800以下の成分(以下、低分子量成分という。)として、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂一般式(1)中のn=0成分(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、BADGE)、n=1成分が挙げられる。上記一般式においてn=0成分の分子量は340であり、n=1成分の分子量は624である。
エポキシ樹脂中に占めるこれら低分子量成分の含有量の定量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定でき、測定各成分の含有量を各ピークごとの面積比率の%で示すことができる。
【0018】
通常市販されているビスフェノール型エポキシ樹脂には、例えばエピコート1007(重量平均分子量(以下、Mwという。)=5000、数平均分子量(以下、Mnという。)=2600)、エピコート1009(Mw=10000、Mn=3700)、エピコート1010(Mw=14000、Mn=4900)(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製品名)、AER−667(Mw=5500、Mn=2700)、AER−669(Mw=11000、Mn=3900)(以上、旭チバ(株)製品名)等がある。
【0019】
原料ビスフェノール型エポキシ樹脂を精製して、本発明において用いられる精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)を得るには、例えば第一の方法として、上記したような工業用の原料ビスフェノール型エポキシ樹脂の100重量部を、該エポキシ樹脂の親溶剤500重量部以下、好ましくは200重量部以下に溶解し、さらにアルキル基の炭素数1〜4のアルキルアルコールを加え、溶媒抽出を行って分子量800以下の低分子量成分を抽出、除去して得ることができる。
あるいは、第二の方法として、原料ビスフェノール型エポキシ樹脂を軟化点以上の温度に加熱溶融した状態でアルキル基の炭素数1〜4のアルキルアルコールと接触させ、低分子量成分を抽出、除去して得てもよい。
アルキル基の炭素数1〜4のアルキルアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。
【0020】
エポキシ樹脂の親溶剤とは、エポキシ樹脂を溶解し、透明な樹脂溶液を作製できる溶剤を言う。エポキシ樹脂の親溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、トルエン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0021】
エポキシ樹脂の親溶剤の溶液を用いる上記第一の方法では、親溶剤と、貧溶剤である上記アルキルアルコールとは、互いに相溶しないものの組み合わせを選択する必要があり、このような溶剤系を選択して、通常の抽出操作を行う。好ましい溶剤系として、例えば、シクロヘキサノンとイソプロパノール、キシレンとエタノールの組み合わせが挙げられる。
この抽出操作では、通常、親溶剤にエポキシ樹脂が溶解した溶液が下層に、上記アルキルアルコールに低分子量成分が溶解した溶液が上層に、分離するので、上層を除去すれば、目的とする精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)を得ることができる。
1回の抽出操作で所望の程度まで低分子量成分が除去されないときは複数回の抽出操作を繰り返して行うことができる。
【0022】
精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)において低分子量成分の除去レベルの確認は、低分子量成分含有量の測定または数平均分子量の測定により行なうことができる。
低分子量物としてはビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE、分子量340)等が挙げられる。例えば精製前のエピコート1009(ジャパンエポキシレジン(株)製)には1.3重量%程度のBADGEが含まれるが、精製後においてはBADGEの含有量が精製前の30%以下になるまで精製する事が好ましく、20%以下になるまで精製する事がより好ましい。
一方、精製の前後でエポキシ樹脂の重量平均分子量はさほど変わらないが、数平均分子量には精製による低分子量物の低減もしくは除去の影響が現れる。精製前のエポキシ樹脂の数平均分子量は、例えばエピコート1009では3700程度であるが、少なくとも精製前の20%程度数平均分子量が増加するまで精製することが好ましく、30%程度増加するまで精製することがより好ましい。
【0023】
本発明においては、カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)とエポキシ樹脂(A2)とを反応させて自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)を生成する際に、エポキシ樹脂(A2)中に精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)の他にビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)を含有させることもできる。
【0024】
ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)は、一般にはフェノキシ樹脂とも呼ばれる樹脂であり、重量平均分子量15,000〜70,000が好ましく、16,000〜50,000であることがより好ましい。
例えば、Union Carbide Chem. 社製品名PKHH(Mw=16000)、ジャパンエポキシレジン(株)製品名エピコート1256(Mw=17000)、東都化成(株)製品名エポトートYP−55L(Mw=25000)等が好適に用いられる。
【0025】
このようなビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)を上記精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)と併用して、上述のアクリル系共重合体(A1)と反応せしめてなる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)においては、更なる香気成分の吸着量低減が望め、加工性、耐蝕性の向上も図れるため、精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)とビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)とを併用することが好ましい。
【0026】
このような精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)とビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)と併用する場合、その比率は、(A2−1)/(A2−2)=50/50〜95/5(重量比)であることが好ましく、70/30〜90/10であることがより好ましい。
ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)の量がこれより多い場合、カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)との反応性が低下し、反応中溶液粘度が増加する。さらに得られる塗料組成物製品においては塗工に適する塗料粘度、固形分の塗料が得られない問題が生じる。またビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)の量がこれより少ない場合、併用の効果がほとんど期待出来ない。
【0027】
本発明の水性塗料組成物には、上記自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)に対して、フェノール樹脂(B)、アミノ樹脂などの硬化剤をさらに含有できるが、塗膜の衛生性及び耐水性という点からは、フェノール樹脂(B)を使用することが好ましい。
フェノール樹脂(B)は、石炭酸、クレゾール類、エチルフェノール類その他のアルキルフェノール類或いはビスフェノール類など、2官能、3官能或いは4官能性のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類とを塩基性触媒の存在下で反応させたレゾール型フェノール樹脂或いは、それらをアルコール類と反応させたアルキルエーテル化反応物を使用することが好ましい。
このようなレゾール型フェノール樹脂を使用することにより、フェノール樹脂(B)中のメチロール基或いはアルコキシル化メチル基濃度を高くすることができ、焼付塗膜の緻密性を向上させることにより、衛生性を低下させることなく塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0028】
フェノール樹脂(B)は、自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、1〜15重量部配合することが好ましく、1重量部よりも少ないとフェノール樹脂(B)の硬化への寄与が認めにくく、15重量部を越えると塗膜の加工性が低下することがあるので好ましくない。
他の硬化剤、例えばアミノ樹脂の場合は、自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、1〜15重量部配合することが好ましい。
【0029】
本発明の水性塗料組成物は、そのままで、または必要に応じて塗工性を改良するための界面活性剤、消泡剤などを添加して、塗料、特に缶の内面用の塗料として用いることができる。
【0030】
本発明の塗料組成物及びそれを含む塗料が適用される基材としては、未処理鋼板、処理鋼板、亜鉛鉄板、ブリキ板、アルミ板などの金属板が適しており、塗装方法としては、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレーなどのスプレー塗装や浸漬塗装ロールコーター塗装、電着塗装なども可能である。
基材上に塗膜を定着させる焼付条件は、温度150℃〜230℃、時間としては10秒〜30分の範囲から選ぶことができる。
本発明の食品用缶は、上記のような本発明の水性塗料組成物を含む塗料で内面を被覆したもので、所定の工程により、缶内へ食品を充填した食品缶詰の製品とした後、保管中に該塗料の塗膜が、食品中の香気成分、例えば飲料中のフレーバー類を吸着しにくいため、食品の香気保持性が優れている。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、例中「部」、「%」はそれぞれ「重量部」、「重量%」を示す。
製造例1〔カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−1)の製造〕
1)ブチルセロソルブ 400部、2)n−ブタノール 300部、3)メタクリル酸 165部、4)スチレン 75部、5)エチルアクリレート 15部、6)メチルメタクリレート 45部、7)過酸化ベンゾイル 4部
窒素ガス置換した4ッ口フラスコに、ブチルセロソルブ 400部、n−ブタノール 300部、及び上記3)〜7)のモノマー及び重合開始剤の混合液の1/4を仕込んだ。次に、100℃に加熱して30分間撹拌の後、100℃を保ちながら前記モノマー混合液の残りの3/4を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に2時間撹拌して固形分30.0%のアクリル系共重合体(A1−1)溶液を得た。
【0032】
製造例2〜6〔カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−2)〜(A1−6)の製造〕
成分3)〜6)を表1に示す組成とした以外は上記製造例1と同様にしてモノマー混合液から固形分30.0%のアクリル系共重合体(A1−2)〜(A1−6)溶液を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
製造例7〔精製エポキシ樹脂(A2−1−1)の製造〕
エピコート1009(ジャパンエポキシレジン(株)製)300部、シクロヘキサノン200部を窒素ガス置換した4ッ口フラスコに仕込み、125℃に加熱して1時間かけて溶解した。次に系内の温度を80℃としてから、イソプロパノール400部を添加し、30分間撹拌した後静置して、完全に2層に分離したところで上層のイソプロパノール溶液を除去した。さらに、イソプロパノールによる同様の洗浄操作を5回行ない50℃に冷却した。次に、加熱、減圧下においてシクロヘキサノンを留去した後取り出し、さらに減圧下80℃で10時間保持したところ淡黄色の固形エポキシ樹脂245部を得た。
この精製エポキシ樹脂(A2−1−1)のMn、Mw、Mw/Mn値を精製処理前の原料エポキシ樹脂(エピコート1009)とともに表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
エポキシ樹脂中に占める分子量800以下の成分として、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂一般式(1)中のn=0成分(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、BADGE、分子量は340)およびn=1成分(分子量は624)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、測定各成分の含有量を各ピークごとの面積比率の%で示して表2に併記した。
測定条件:装置は、日本分光(株)製装置名 TRI ROTERを使用し、カラムとしては東洋曹達(株)製品名 TSK G2500H、TSK G3000Hの組み合わせを用いた。カラム温度40℃、流量1ml/分、ディテクター UV(254nm)の条件で測定した。分子量(Mn、Mw)の計算には、システム・インスツルメンツ(株)製型番ラブチャート180を用い、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂一般式(1)中のn=0〜6成分を用いて作製した検量線を用いて算出した。
【0037】
製造例8〔精製エポキシ樹脂(A2−1−2)の製造〕
シクロヘキサノン200部の代わりにキシレン100部、イソプロパノール400部の代わりエタノール400部を用いた以外製造例6と同様にして精製エポキシ樹脂(A2−1−2)を製造した。精製エポキシ樹脂(A2−1−2)の特性値を精製処理前の原料エポキシ樹脂(エピコート1009)とともに次に示した。尚、測定条件は製造例7と同様に行った。
【0038】
【表3】
【0039】
製造例9〔フェノール樹脂(B)の製造〕
窒素ガス置換した4ッ口フラスコに、1)イオン交換水 80部、2)21.5%水酸化ナトリウム水溶液 72 部、3)ビスフェノールA 130部、4)37%ホルマリン 400部を仕込み、50℃で2時間、さらに70℃で1時間反応させたところ赤褐色透明な溶液を得た。次いで40℃まで冷却してからこの赤褐色透明な溶液に、5)20%塩酸 70部を加えたところ、数分間で上層が無色透明の水層、下層が褐色の有機層に分離した。上層をデカンテーションにより分離した後、6)n−ブタノール180部を加え、固形分50%のフェノール樹脂(B)溶液を得た。
【0040】
実施例1〔水性塗料組成物の製造〕
窒素ガス置換した4ッ口フラスコに、上記精製エポキシ樹脂(A2−1−1)171部、ブチルセロソルブ80部を仕込み、120℃で完全に溶解した後、100℃で、上記カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−1)溶液130部 、ジメチルエタノールアミン11部を加え、1時間撹拌した。次に50℃まで冷却し、イオン交換水588部を30分かけて滴下した後、上記フェノール樹脂(B)溶液20部を加え、固形分22.0%の水性塗料組成物を得た。
【0041】
実施例2〜6〔水性塗料組成物の製造〕
上記カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−1)に代りカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−2)〜(A1−6)溶液を用いた以外は上記実施例1と同様にして製造し、実施例2〜6の水性塗料組成物を得た。
【0042】
実施例7〔水性塗料組成物の製造〕
上記精製エポキシ樹脂(A2−1−1)に代り前記精製エポキシ樹脂(A2−1−2)を用いた以外は前記実施例1と同様にして製造し、実施例7の水性塗料組成物を得た。
【0043】
実施例8〔水性塗料組成物の製造〕
窒素ガス置換した4ッ口フラスコに、上記精製エポキシ樹脂(A2−1−1)131部、ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)PKHH(Union Cabide Chem.社製)40部、ブチルセロソルブ80部を仕込み、120℃で完全に溶解した後、100℃で、上記カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−1)溶液130部 、ジメチルエタノールアミン11部を加え、1時間撹拌した。次に50℃まで冷却し、イオン交換水588部を30分かけて滴下した後、上記フェノール樹脂(B)溶液20部を加え、固形分22.0%の水性塗料組成物を得た。
【0044】
製造例10〜13〔カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−7)〜(A1−10)の製造〕
成分3)〜6)を表4に示す組成とした以外は前記製造例1と同様にして固形分30.0%のアクリル系共重合体(A1−7)〜(A1−10)溶液を得た。
【0045】
【表4】
【0046】
比較例1〜4〔水性塗料組成物の製造〕
上記カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−1)に代りカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1−7)〜(A1−10)溶液を用いた以外は前記実施例1と同様にして製造し、比較例1〜4の水性塗料組成物を得た。
【0047】
比較例5〔水性塗料組成物の製造〕
上記精製エポキシ樹脂(A2−1−1)に代りエピコート1009(ジャパンエポキシレジン(株)エポキシ樹脂製品名)を用いた以外は前記実施例1と同様にして製造し、比較例5の水性塗料組成物を得た。
【0048】
(塗膜性能試験パネル作製)
上記実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた水性塗料組成物を、焼付乾燥後の塗膜厚が5μmになる様に0.1mm厚のアルミ板上にバーコーターにて塗装し、200℃×2分の焼付乾燥を行って塗膜を形成して試験用パネルを作製した。各試験パネルについては以下の試験項目に従い塗膜性能の評価を行い、表5に試験結果を表記した。
【0049】
(試験項目)
以下に湿す方法で、(1)リモネン吸着率、(2)水フレーバー、(3)過マンガン酸カリウム消費量、(4)耐蝕性について試験を行った。
(1)リモネン吸着率は代表的な香気成分(オレンジフレーバー)であるリモネンの塗膜への吸着性を評価したものであり、吸着率が少ない程、フレーバー保持性が優れており、缶内面塗料としての性能が優れていると言える。
(2)水フレーバーは内容物に対する味覚変化を評価したものであり、変化が少ない程、缶内面塗料として良好な性能を有していると言える。
(3)過マンガン酸カリウム消費量は一般的な水質検査であるCODに相当する試験法であり、測定値が少ない程、衛生性が優れていると言える。
(4)耐蝕性は各種内容物に対する塗膜の腐蝕の有無を評価したものであり、塗膜変化が生じにくい程、缶内面塗料として優れていると言える。今回は腐蝕性の高い内容物に相当するものとして、クエン酸1%を含む10%エタノール水溶液を用い試験を行い、浸漬経過後の塗膜の表面状態変化を観察した。
【0050】
(試験方法)
(1)リモネン吸着率;各試験パネル500cm2を、リモネン5ppmを含む5%エタノール水溶液500ccに浸漬し、密栓した後、50℃×30日間経過させた。30日経過後の各試験パネルを取り出し、蒸留水で水洗した後、ジエチルエーテル100ccに塗膜を再浸漬し、試験パネルに吸着したリモネンを抽出し、吸着量をガスクロマトグラフィーにて定量した。上記のリモネン含有浸漬液500cc中に含まれるリモネン量(0.0025g)を100%とし、試験パネル塗膜に吸着したリモネン量からリモネン吸着率を評価し、以下の基準に従って評価した。
リモネン吸着率 10%以下・・・○
リモネン吸着率 10〜15%・・△
リモネン吸着率 15%以上・・・×
【0051】
(2)水フレーバー;各試験パネル500cm2を、活性炭処理水500ccに浸し密栓した後、125℃×30分の加熱処理を行った。塗装板を浸漬しないで同様の処理を行った活性炭処理水を標準として以下の基準にしたがって各処理水の味覚を評価した。
味覚に変化無し・・・・・・○
かすかに味覚に変化あり・・△
味覚に変化あり・・・・・・×
【0052】
(3)過マンガン酸カリウム消費量;各試験パネル500cm2を蒸留水500ccに浸し密栓した後、125℃×30分の加熱処理を行った。各処理水の過マンガン酸カリウム消費量を測定し以下の基準にしたがって評価した。
過マンガン酸カリウム消費量 2ppm以下・・・○
過マンガン酸カリウム消費量 2〜4ppm・・・△
過マンガン酸カリウム消費量 4ppm以上・・・×
【0053】
(4)耐蝕性;各試験パネルを、クエン酸1%を含む10%エタノール水溶液に浸漬し、50℃×1カ月経過させた後の塗膜の表面状態を観察し、以下の基準にしたがって評価した。
塗膜表面状態変化無し・・・・・・・○
塗膜表面に僅かな曇りが生じる・・・△
塗膜表面がマット状になる・・・・・×
【0054】
【表5】
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、香気成分の吸着量が少ないため極めて風味保持性に優れ、また衛生性や耐蝕性にも優れた塗膜を形成し得る水性塗料組成物及び該塗料組成物で内面を被覆した食品用缶が得られる。
Claims (3)
- 自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)及びフェノール樹脂(B)をアミンもしくはアンモニアの存在下に水性媒体中に分散して含む水性塗料組成物であって、
前記自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)が、
アクリル酸もしくはメタクリル酸/スチレン/メチルメタクリレート/エチルアクリレートを35〜65/15〜35/5〜25/5〜15(重量%)の組成で共重合してなるカルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)と、
重量平均分子量が4,000〜14,000で分子量800以下の成分を含有するビスフェノール型エポキシ樹脂を該樹脂の親溶剤の溶液中で、もしくは該樹脂を加熱溶融して、アルキル基の炭素数1〜4のアルキルアルコールと接触させて前記分子量800以下の成分を低減もしくは除去してなる精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)を必須成分として含むエポキシ樹脂(A2)とを、
カルボキシル基含有アクリル系共重合体(A1)/エポキシ樹脂(A2)=50/50〜10/90の重量比で、エステル化反応せしめてなる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)であることを特徴とする水性塗料組成物。 - エポキシ樹脂(A2)が、重量平均分子量15,000〜70,000のビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)を含み、精製ビスフェノール型エポキシ樹脂(A2−1)及びビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂(A2−2)の重量比が、(A2−1)/(A2−2)=50/50〜95/5である請求項1記載の水性塗料組成物。
- 請求項1または2記載の水性塗料組成物を含む塗料で内面を被覆してなることを特徴とする食品用缶。
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