JP4244638B2 - ポリイミド樹脂無端ベルトおよびその製造方法 - Google Patents
ポリイミド樹脂無端ベルトおよびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機やレーザープリンタ等の電子写真装置の加熱定着体等として使用されるポリイミド樹脂無端ベルトおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子写真装置では、トナー像を記録用紙上に加熱定着するための定着体として、金属やプラスチック、またはゴム製の回転体が使用されるが、装置の小型化や省電力化のために、例えば、回転体として、変形が可能な、肉厚が薄い樹脂製ベルトが用いられることがある(例えば、特許文献1および2参照)。この場合、ベルトに継ぎ目があると、継ぎ目に起因する欠陥が出力画像に生じるので、継ぎ目のない無端ベルトが好ましい。その材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂が好ましい。
【0003】
ポリイミド樹脂は、その前駆体を加熱して得られる。該前駆体は、非プロトン系極性溶剤に酸無水物とジアミンとを溶解して合成される。非プロトン系極性溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。合成時の濃度、粘度等は、適宜選択される。
【0004】
ポリイミド樹脂無端ベルトを定着体として使用するには、表面に付着するトナーの剥離性のため、ベルト表面に非粘着性の層を設けることが好ましい。その層の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が好ましい。非粘着性の層には、耐摩耗性や静電オフセットの向上、トナーの付着防止用オイルとの親和性等のために、カーボン粉体や、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機化合物粉体等、フッ素樹脂以外の材料を含んでもよい。
【0005】
定着ベルトとしてのポリイミド樹脂層の厚さは、25〜200μmの範囲が好ましく、非粘着層の厚さは5〜50μmの範囲が好ましい。
【0006】
ポリイミド樹脂で無端ベルトを作製するには、例えば、円筒体の内面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法(例えば、特許文献3参照)や、円筒体内面にポリイミド前駆体溶液を展開する内面塗布法(例えば、特許文献4参照)がある。
但し、これら内面に成膜する方法では、ポリイミド前駆体皮膜が、管状体として強度を保持できる状態になるまで熱処理した後、円筒体から抜いて外型に載せ換える必要があり、工数が増える問題があった。表面にフッ素樹脂層を塗布する場合も、外型に載せ換えた後で塗布する必要があった。
【0007】
ポリイミド樹脂無端ベルトの他の製造方法として、芯体の表面に、浸漬塗布法によってポリイミド前駆体溶液を塗布して乾燥し、加熱することにより、芯体外面上にポリイミド樹脂皮膜を形成する方法もある。ポリイミド前駆体溶液が高粘度のために、膜厚が厚くなりすぎる場合には、芯体の外径よりも大きな孔を設けたフロートをポリイミド前駆体溶液に浮かべて、ポリイミド前駆体溶液の膜厚を制御する方法がある(例えば、特許文献5参照)。
この方法では、外型に載せ換える工数が不要のため、ポリイミド樹脂層の表面にフッ素樹脂層を塗布する場合は、そのままで塗布することができる。
【0008】
一方、ポリイミド樹脂層の表面にフッ素樹脂層を形成するには、フッ素樹脂が溶剤に不溶性であるため、フッ素樹脂の粉体を、界面活性剤を用いて、水等の溶媒に分散した塗料を塗布した後、溶媒を乾燥し、焼成して加熱溶融する方法がとられる。
【0009】
フッ素樹脂分散液の塗布方法として、スプレー塗布法は、表面の平滑性が劣るほか、高価なフッ素樹脂分散液の塗着効率が悪いために、あまり好ましくない。また、芯体を回転させながら、フッ素樹脂分散液をディスペンサーにより供給し、かつディスペンサーを芯体の回転軸方向に移動させることにより、らせん状に巻回して塗布する方法(例えば、特許文献6参照)もある。しかし、かかる方法では、フッ素樹脂分散液が流延性に乏しいために、らせん状の筋が消えにくく、特に膜厚が25μm以上と厚い場合、らせん筋が顕著になる問題がある。
【0010】
他のフッ素樹脂分散液の塗布方法として、芯体の軸方向を水平方向に対し垂直にして、フッ素樹脂分散液に浸漬し、次いで引き上げることにより塗布する浸漬塗布方法もあり、平滑な被膜を形成する場合に好ましい。ところが、フッ素樹脂分散液は、主溶媒が水であるために乾燥が比較的遅く、浸漬塗布方法で塗布すると、芯体の引き上げ最中に、図10に示すように、塗膜19に不規則な垂れ24が発生したり、軸方向上下で膜厚のむらを生じることもある。また、塗布後の被膜の溶媒を速やかに乾燥させるために、被膜に熱風を吹き付けると、乾燥の筋目やむらが生じることもある。これらの問題は、膜厚が25μm以上の場合に特に発生しやすい。
【0011】
軸方向に膜厚むらを防止するには、本出願人が以前開示したように、引き上げ速度を段階的に遅くなるように制御する方法があるが、塗膜に発生する垂れを充分に防止することはできなかった(例えば、特許文献7参照)。
また、フッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂粉体が低表面エネルギーであることや、比重が重いこと等のため、分散液の安定性が十分ではなく、粉体が沈降したり、凝集しやすい問題がある。また、混入されている界面活性剤のために、液が泡立ちやすい問題もある。
【0012】
【特許文献1】
特開平8−262903号公報
【特許文献2】
特開平11−133776号公報
【特許文献3】
特開昭57−74131号公報
【特許文献4】
特開昭62−19437号公報
【特許文献5】
特開2002−91027号公報
【特許文献6】
特開平9−297482号公報
【特許文献7】
特開2001−198930号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、定着ベルトは、定着ロールと当接させて回転させるようにして定着装置に組み付けられるが、定着ベルトの表面は鏡面のような平滑面であるよりは、ある程度、粗面になっている方が、摺動性や定着オイルの保持性の面で好ましい場合がある。但し、粗面になりすぎると、定着画像に乱れを生ずる場合もあり、使用する定着プロセスに応じて表面粗さが選択される。また、粗面を形成している凸部の先端が角型となっている場合は、回転時に定着ベルトに摺動する部材に傷を付けたり、定着される画像面にへこみ欠陥を転写する、という問題が生じることがある。
【0014】
以上から本発明は、表面状態に起因する定着画像乱れ等を生じないポリイミド樹脂無端ベルトおよび該ポリイミド樹脂無端ベルトを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、フッ素樹脂分散液を浸漬塗布法により塗布する際に、被膜に泡や垂れやむらを発生させることなく、フッ素樹脂層を形成することが可能なポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法を提供することを目的する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、本発明者は、下記本発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、
【0016】
<1> ポリイミド皮膜の外表面にフッ素樹脂層が形成されているポリイミド樹脂無端ベルトであって、前記フッ素樹脂層表面に複数の微小な凸部が形成されており、前記複数の微小な凸部が、その凸面が球形面となっている球形凸部と、その凸面の頂上部が平坦となっている平坦凸部とからなり、前記球形凸部の高さが前記平坦凸部の高さ以下であることを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルトである。
【0017】
<2> ポリイミド樹脂(ポリイミド皮膜)およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された芯体を、少なくとも粒径が5〜20μmである大粒径のフッ素樹脂粉体および粒径が0.1〜2μmである小粒径のフッ素樹脂粉体を含有する分散液中に浸漬し、浸漬後の芯体を引き上げてフッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂層形成工程と、該フッ素樹脂層の表面を研磨する研磨工程と、を含むことを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0018】
<3> ポリイミド樹脂(ポリイミド皮膜)およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された複数の芯体を同数づつ2組に分け、一方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽から引き上げる際、他方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽に浸漬して、塗布槽内の液量が変化しないようにしてそれぞれ塗布操作を行い、フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂層形成工程を含むことを特徴とする<2>に記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0019】
<4> 前記フッ素樹脂層形成工程に先立って、前記ポリイミド前駆体皮膜が形成された芯体を水に浸して、前記ポリイミド前駆体皮膜に残留する溶剤を水に滲出させる滲出工程を含むことを特徴とする<2>または<3>に記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0020】
<5> 前記フッ素樹脂層形成工程において、前記芯体をフッ素樹脂粉体分散液から引き上げる際に、塗膜に気流を当てることを特徴とする<2>〜<4>のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0021】
<6> 前記フッ素樹脂層形成工程において、ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された前記芯体をフッ素樹脂粉体の分散液を浸漬塗布した後、前記芯体を、その軸方向を鉛直方向と平行に立設させた状態とし、前記芯体の上方から熱風を供給して、乾燥を行うことを特徴とする<2>〜<4>のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0022】
<7> 前記フッ素樹脂層形成工程において、ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された前記芯体をフッ素樹脂粉体の分散液を浸漬塗布した後、前記芯体を、その軸方向を鉛直方向と平行に立設させた状態とし、前記芯体を前記軸を中心に回転させながら前記芯体の周面側から熱風を供給して、乾燥を行うことを特徴とする<2>〜<4>のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリイミド樹脂無端ベルト(以下、単に「無端ベルト」ということがある)およびその製造方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
<ポリイミド樹脂無端ベルト>
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトは、図2に示すように、ポリイミド皮膜10の外表面(図面上、上側)にフッ素樹脂層11が形成されている。フッ素樹脂層11表面に複数の微小な凸部12、14が形成されており、前記複数の微小な凸部が、その凸面が球形面となっている球形凸部12と、その凸面の頂上部が平坦となっている平坦凸部14とからなり、球形凸部12の高さが平坦凸部14の高さ以下となっている。
【0025】
フッ素樹脂層11表面に複数の微小な凸部12、14が形成されていることで、例えば定着ベルトとして使用する場合にトナーの剥離性を向上させることができる。特に、凸部12の凸面が球形面となっていることで、摩擦が低下することの他、定着画像が粗くなることがない、といった効果を得ることができる。特に、凸部14のように、その凸面の頂上部を平坦にすることで、表面の摩擦をより低減させる、といった効果が得られる。
フッ素樹脂層11の厚さは、5〜50μmであることが好ましく、20〜45μmであることがより好ましい。
【0026】
ここで、「複数の微小な凸部」とは、表面粗さRa(算術平均粗さ)で0.05〜1.2μm(好ましくは、0.1〜1.0μm)の凹凸が形成された状態における当該凸部を意味する。表面粗さRaがかかる範囲にあることで、定着画像を荒らすことなく、摩擦を低減させるといった効果が得られる。
また、本明細書にいう「球形面」とは、凸部(突出している面)12の凸面が部分的な球形の面を形成していることをいう。かかる凸部の存在は無端ベルトの断面を電子顕微鏡で観察することで確認することができる。
【0028】
当該無端ベルトは、図1に示すような凸面の曲率が大きいものと、小さいものとの少なくとも2種の凸部12、13を有する無端ベルトの外表面にある比較的大きな凸部13を、図2に示す微小な凸部14のように、ポリイミド皮膜10の表面と平行になるように研磨することで得られる。
【0029】
また、本発明のポリイミド樹脂無端ベルトにおいては、表面の凹部には、定着オイルが保持されるので、これがすぐに消費されることがない。
【0030】
<ポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法>
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトを製造するには、まず、ポリイミド樹脂皮膜形成工程およびポリイミド前駆体皮膜形成工程のいずれかの工程を経て、ポリイミド樹脂皮膜もしくはポリイミド前駆体皮膜が形成された芯体を、少なくとも粒径が5〜20μmである大粒径のフッ素樹脂粉体および粒径が0.1〜2μmである小粒径のフッ素樹脂粉体を含有する分散液中に浸漬し、浸漬後の芯体を引き上げてフッ素樹脂層を形成(フッ素樹脂層形成工程)する。その後、焼成処理等を施して(加熱焼成工程)、更に前記フッ素樹脂層の表面を研磨(研磨工程)することで製造される。
以下、各工程について説明する。
【0031】
まず、本発明の無端ベルトの製造に使用される芯体の材質は、アルミニウムや、ニッケル、ステンレス鋼等の金属が好ましい。なかでも熱膨張率が大きいという観点から、アルミニウムが特に好ましい。芯体の表面は、クロムやニッケルでメッキしたり、フッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆してもよい。
【0032】
芯体の表面は、表面粗さRaが0.2〜2μm程度に粗面化することが好ましい。粗面化方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法があるが、ポリイミド樹脂無端ベルト内面を摺動性のよい球形面状で凸形状の微小な凹凸が形成された状態とするために、芯体の表面は、球状の粒子を用いてブラスト処理を施すことが好ましい。
ブラスト処理とは、直径0.1〜1mm程度のガラス、アルミナ、ジルコニア等からなる粒子を、圧縮空気によって芯体に吹き付けて圧痕を形成させる方法である。吹き付ける粒子の形状が球状であると、球状の圧痕、すなわち球状の凹部が芯体表面に形成される。
ところで、ブラスト粒子として、不定形のアルミナ粒子(例えば一般的な研磨粒子)を用いた場合には、芯体表面の粗面形状も不定形となり、特に鋭角の突起や窪みが形成されやすく、作製されるポリイミド樹脂無端ベルトの内面にも鋭角の突起や窪みが形成されて好ましくない。
【0033】
また、後述するポリイミド樹脂皮膜等を形成してこれを乾燥する際に、残留している溶剤、あるいは加熱反応時に樹脂から生成する水が除去しきれないことがある。このような場合、ポリイミド樹脂皮膜に膨れが生じることがあり、特にポリイミド樹脂皮膜の膜厚が50μmを越えるような厚い場合に顕著であるが、そのような場合でも、芯体表面の粗面化は有効である。
すなわち、ポリイミド樹脂皮膜から生じる残留溶剤または水の蒸気は、芯体とポリイミド樹脂皮膜との間にできるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れが生じなくなる。
ブラスト処理後の芯体表面には、ポリイミド樹脂が接着しないよう、離型剤を塗布することが好ましい。
【0034】
(ポリイミド前駆体皮膜形成工程)
ポリイミド前駆体皮膜形成工程は、芯体にポリイミド前駆体を塗布するポリイミド前駆体塗布工程と、その後乾燥してポリイミド前駆体皮膜を形成するポリイミド前駆体乾燥工程と、を含む。なお、ポリイミド前駆体としては、既述の通りである。
【0035】
ポリイミド前駆体塗布工程:
ポリイミド前駆体塗布工程において、塗布方法の一つとしては、ポリイミド前駆体溶液をノズルから芯体表面に流下させつつ、へらでポリイミド前駆体溶液を平坦化し、ノズルとへらを円筒状芯体の一端から他の一端へ水平方向に移動させることにより、芯体表面にポリイミド前駆体溶液を塗布する方法がある(螺旋塗布法)。
へらがない場合、流下したポリイミド前駆体溶液は、筋状のまま芯体上に付着し、平坦になりにくい。
【0036】
他の塗布方法としては、浸漬塗布方法がある。特開2002−91027号公報に開示されているように、芯体の外径よりも大きな孔を設けたフロートをポリイミド前駆体溶液に浮かべて、ポリイミド前駆体溶液の膜厚を制御するのが好ましい。この方法について、塗布工程の概略断面図である図3により説明する(図は塗布主要部のみを示し、周辺部は省略)。
なお、「芯体上に塗布する」とは、芯体の表面上、及び該表面に層を有する場合は、その層上に塗布することを示す。また、「芯体を上昇」とは、塗布液面との相対関係であり、「芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0037】
図3に示すように、溶液(ポリイミド前駆体溶液)2を塗布槽3に入れ、その中に芯体1を浸漬し、次いで上昇させることにより塗布が行われ、塗膜4が形成される。溶液2上には、芯体1の外径よりも大きな円形の孔6を設けた環状体5を自由移動可能状態で設置する。塗膜4の濡れ膜厚は、芯体1と孔6との間隙により定まるので、孔6の内径は、所望の膜厚を鑑みて設定する。すなわち、乾燥後の膜厚は、濡れ膜厚と溶液の不揮発分濃度の積であり、これから所望の濡れ膜厚が求められる。
環状体5は中空構造でもよい。また、環状体5の沈没防止のために、環状体5の外周面または塗布槽3に、環状体5を支える足や腕を設けてもよい。
【0038】
図3に示す塗布方式を改良した方式について、図4に示す。この場合、溶液2を環状塗布槽7に入れ、図面上、その下部から上部へ芯体1を通過させて塗布を行う。環状塗布槽7の底部には、溶液2が漏れないように、ポリエチレンやシリコーンゴム等の柔軟性板材から成る環状のシール材8を設ける。芯体1の上下には、中間体9が取り付けられる。
環状塗布槽7を用いる環状塗布方式は、図3に示した浸漬塗布方法より、溶液2の量が少なくて済む利点がある。環状体5を溶液2上に自由移動可能状態で設置するのは、図3の場合と同じである。
【0039】
環状体5は、溶液2上でわずかの力で動くことができるよう、自由移動可能状態で設置するが、その方法としては、液上に浮遊させる方法のほか、環状体5をロールやベアリングで支える方法、環状体5をエア圧で支える方法、などがある。環状体5の孔6を通して芯体1を溶液から上昇させると、溶液2の介在により、芯体1と環状体5との間に摩擦抵抗が生じ、環状体5には上昇力が作用し、環状体5は少し持ち上げられる。この時、環状体5は芯体1との摩擦抵抗が周方向で一定になるように移動し、間隙が一定になるので、塗布される膜厚は周方向で均一になる。すなわち、均一な膜厚の塗膜4が芯体1上に形成される。
【0040】
ポリイミド前駆体乾燥工程:
芯体上にポリイミド前駆体溶液を塗布後、乾燥をすると、ポリイミド前駆体の皮膜が形成される。乾燥温度は50〜200℃、乾燥時間は30〜200分間とすることが好ましい。乾燥時の温度により、乾燥前の塗膜は粘度が低下し、重力の影響を受けて、垂れが生じやすいが、その場合には、芯体の軸方向を水平にして、10〜60rpm程度で回転させるのがよい。
【0041】
乾燥後の時点では、ポリイミド前駆体皮膜には溶剤が、最初の含有量の10〜40%程度は残っており、皮膜はまだ柔軟性を有している。そのため、ポリイミド前駆体皮膜は芯体から取り外せるわけではなく、管状物としての強度を保持していないが、管状物としての強度を保持できるほど皮膜を乾燥させた場合には、フッ素樹脂の塗布中に皮膜に割れが生じるおそれがある。
ポリイミド前駆体の塗布時、芯体の端部に不塗布部を設けた場合はもちろんであるが、芯体の全面にわたって塗布した場合でも、乾燥によりポリイミド前駆体皮膜が収縮するので、芯体の端部に露出部が生じることとなる。
【0042】
(フッ素樹脂層形成工程)
この工程では、ポリイミド樹脂(ポリイミド皮膜)およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された芯体を、その中心軸を水平方向に対し垂直にした際に、下端側となる部分のポリイミド前駆体皮膜の端部、および芯体表面の露出部分に被覆処理を施した後、芯体をフッ素樹脂の分散液に浸漬して塗布する。
【0043】
被覆処理には、少なくとも、ポリイミド前駆体皮膜の端部と芯体表面露出部に粘着テープを貼り付ける方法;幅広のゴムバンドを拡張して被せる方法;芯体の下端をすっぽり覆うキャップ(例えばゴム栓)を取り付ける方法;等を適用することができる。粘着テープやゴムバンドを取り付ける際、芯体の下端に、円筒体または蓋を取り付けてもよい。
【0044】
次いで、図5に示すように、被覆処理15を施した側を下側にして芯体1を水平方向に対し垂直にし、塗布槽17内のフッ素樹脂分散液16に浸漬し、引き上げることにより、フッ素樹脂分散液16の被膜19が塗布される。フッ素樹脂分散液16は、塗布槽17に溜め置きするほか、図6に示すように、塗布槽17の外側に、芯体1の体積以上の容量を有する外部槽21を設け、ポンプ22により、図面上、塗布槽17の下部から供給し、上部から溢流させて、循環させてもよい。
このようにして循環をさせると、フッ素樹脂分散液16の沈降や凝集を防止でき、液の表面を常に新鮮な状態に確保することができる。外部槽21との間で循環させることは、外部に別の塗料タンクを設けて循環するよりも、高価なフッ素樹脂分散液の総量を少なくできるほか、塗布槽17上部から溢流するフッ素樹脂分散液が、落流することによる泡立ちが起きにくい利点もある。循環経路にはフィルター23や、粘度計、希釈液追加装置等を付加することも好ましい。
【0045】
フッ素樹脂分散液には、粒径が0.1〜20μmのフッ素樹脂粉体が分散されている。当該フッ素樹脂粉体は、粒径が5〜20μmの大粒径のフッ素樹脂粉体(以下、「大粒子」ということがある)と0.1〜2μmの小粒径のフッ素樹脂粉体(以下、「小粒子」ということがある)とが主成分(90質量%以上)として含まれており、その間の粒径の粉体があってもよい。
大粒子と小粒子との質量比は、粗さの適切化の観点から、1:10〜10:1であることが好ましく、1:5〜5:1であることがより好ましい。
【0046】
主に、大粒子の粒径により、焼成後の表面粗さが定まる。複数種の粉体を用いることで、先述したように表面粗さの調整が可能となり、また、大粒子と小粒子を混合した方が、凝集や沈降が起こりにくくなるほか、焼成後の被膜が密になる効果もある。
【0047】
フッ素樹脂分散液の溶媒は、水のほか、エタノールやブタノール等のアルコールや、エチレングリコール等のグリコール、またそのエステル類を併用してもよい。
また、界面活性剤や粘度調整剤等も添加してもよい。カーボン粉体や、酸化チタン、硫酸バリウム等のフッ素樹脂以外の材料を含ませる場合、上記フッ素樹脂分散液の中にこれらを混ぜて分散すればよい。
【0048】
フッ素樹脂分散液の固形分濃度は、塗布する膜厚にもよるが、10〜70%であることが好ましく、粘度は0.1〜1Pa・s程度であることが好ましい。溶媒の蒸発により、フッ素樹脂分散液の濃度が変化した場合には、アルコール等を加えて調整すればよい。
フッ素樹脂分散液を塗布槽に入れる前には、脱泡処理により、液中から泡を除去しておくのがよい。界面活性剤が添加されていると、フッ素樹脂分散液は泡立ちが起こりやすく、液中に泡があると塗膜に欠陥が生じるからである。
脱泡の方法には、時間をかけて静置することのほか、減圧や遠心分離、ろ過、超音波印加、等の方法がある。
なお、水には20℃で窒素が約1.19体積%、酸素が約0.64体積%の溶解度があり、フッ素樹脂分散液にはこれらの気体が溶存するが、溶存気体も減圧によって減じておくことが好ましい。
【0049】
フッ素樹脂分散液を塗布する際、芯体の引き上げ速度は、所望の膜厚にもよるが、50〜500mm/分程度である。引き上げの際、フッ素樹脂分散液の塗膜に垂れが生じる場合、図5および図6に示すように送風装置20を設けて、塗膜に気流を当て、溶媒の乾燥を促進することが好ましい。塗膜に当てる気流は、一方向からよりは、周方向で均一になるよう、周回または環状に当てるのがよい。そのような送風装置として、特許第2844784号公報や、特許第2629417号公報に記載されているものが好ましい。
【0050】
気流の風速は、1〜10m/分程度が好ましい。これが弱いと乾燥促進の効果が小さく、強すぎると塗膜に筋やむら等の欠陥を生じる虞がある。また、塗膜に当たった気流が塗布槽に流れると、液面が揺れたり、液面で溶媒の乾燥が生じるので、気流が塗布槽に流れないよう、上向きに当てるのが好ましい。気流としては空気流を使用することができる。
【0051】
フッ素樹脂分散液の塗膜に気流を当てることにより、水を主体とする溶媒の乾燥が促進されるので、被膜は垂れを生じる間もなく、乾燥される。これにより、膜厚むらも解消されるので、膜厚むらを防止するための引き上げ速度の制御は、しなくてもよい。
【0052】
ところで、ポリイミド前駆体皮膜をフッ素樹脂分散液に浸漬すると、ポリイミド前駆体皮膜に残留している非プロトン系極性溶剤が、フッ素樹脂分散液に滲出することがある。前述したように非プロトン系極性溶剤は乾燥が遅いため、その滲出量が多くなると、フッ素樹脂分散液の塗膜の乾燥も遅くなって、ますます垂れが生じやすくなる問題が生じる。
そこで、フッ素樹脂分散液の浸漬塗布回数が多い場合には、ポリイミド前駆体皮膜の残留溶剤を減少させておくことが好ましい。そのためには、ポリイミド前駆体皮膜の乾燥をよく行うことのほか、非プロトン系極性溶剤が水とよく相溶する性質を利用し、フッ素樹脂層形成工程に先立って、ポリイミド前駆体皮膜が形成された芯体を水に浸し、ポリイミド前駆体皮膜に残留する溶剤を水に滲出させる滲出工程を設けることが好ましい。ポリイミド前駆体皮膜を水に浸す時間は、5〜60秒程度が好ましい。その水には非プロトン系極性溶剤が蓄積していくが、およそ30%の濃度までは問題なく滲出に使うことができる。
ここで使用する水は、水道水や地下水でもよく、不純物を除去したイオン交換水(純水)も好ましいが、洗浄能力を高めるために、水を電気分解したアルカリイオン水も好ましい。さらに、pH12〜13のアルカリイオン水に、pH緩衝液を加えた超還元水がより好ましい。なお、超還元水は、芯体の表面の洗浄に使用してもよい。
【0053】
後述の加熱焼成後において、フッ素樹脂層とポリイミド樹脂層との密着性が不足する場合は、フッ素樹脂分散液の塗布前に中間層を設けてもよい。その材料としては、加熱焼成時の熱により、酸化物のような無機化合物に変化する、シリコーン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、等の有機金属化合物が好ましい。
中間層は、0.05〜1μm程度の厚みに塗布される。膜厚が薄いので、塗布方法は、浸漬塗布法、スプレー塗布法、らせん状塗布法など、任意の方法でよく、乾燥は自然乾燥でも、温熱乾燥でもよい。
有機金属化合物の中間層を設けた場合、フッ素樹脂分散液は、ポリイミド前駆体皮膜の上に塗布する場合より垂れが少なくなることもあるが、その場合はフッ素樹脂分散液の塗布時に当てる気流は弱めてもよい。
以上のようにして形成されるポリイミド前駆体皮膜は、大粒子や小粒子に起因する凸部が形成され、先端が尖った角型の凸部が形成されることはない。
【0054】
なお、ポリイミド前駆体皮膜を形成し、350〜450℃で加熱してポリイミド樹脂皮膜を形成(ポリイミド樹脂被膜形成工程)した後に、当該フッ素樹脂層形成工程を設けてもよい。
【0055】
フッ素樹脂分散液の塗布後、室温から150℃の間で5〜20分間置いて溶媒を乾燥させる。乾燥を促進するために、熱風を供給することが有効であるが、熱風が当たった部分と当たらなかった部分とで、筋目を生じたり、粗さなどがむらになることがある。これを防止するためには、被膜に熱風が直に当たらないように、芯体の軸方向を鉛直方向と平行に立設させた状態とし、芯体の上方から熱風を供給して、乾燥を行うことが好ましい。
すなわち、ポリイミド前駆体皮膜上にPFA塗膜10を形成し、下端被覆(被覆処理)を除去した後、芯体1を図8に示すような、50〜150℃の熱風27が上方から下降する乾燥炉26に5〜20分間入れて乾燥する。これにより、PFA被膜に筋目やむらを生じることなく、乾燥時間を短縮することができた。
【0056】
また、上記立設させた状態で、芯体を軸を中心に回転させながら、芯体の周面側から熱風を供給して、乾燥を行ってもよい。
すなわち、ポリイミド前駆体皮膜上にPFA塗膜10を形成し、下端被覆(被覆処理)を除去した後、芯体1を図9に示すような、50〜150℃の熱風27が横方向から吹き出る乾燥炉26に5〜20分間入れて乾燥する。その際、芯体1は回転台28の上で、10〜100rpmで回転させることが好ましい。この方法でも、PFA被膜に筋目やむらを生じることなく、乾燥時間を短縮することができる。
一般的に既製の乾燥炉は、内部の側面(または背面)から熱風が吹き出る構造が多いが、この場合でも回転台を付加すれば、上記のようにフッ素樹脂被膜の乾燥に使用可能である。
【0057】
以上のように上記いずれかの方法により、筋目やむらの発生を防ぐことが可能となり、溶媒の乾燥が促進される。なお、熱風としては特に限定されず、空気などを使用することができる。
【0058】
(加熱焼成工程)
上記乾燥の前後に、先に形成した被覆処理を取り外す。乾燥後、または乾燥して被覆処理を取り外した後、350〜450℃の温度で20〜60分間加熱すると、ポリイミド前駆体は縮合反応し、フッ素樹脂粉体は溶融焼成されてフッ素樹脂層となる。この時、ポリイミド前駆体皮膜中に溶剤が残留していると、皮膜に膨れを生じることがあるため、前記温度に達するまでに、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、温度を段階的に上昇させたり、ゆっくりと上昇させることが好ましい。
有機金属化合物の中間層がある場合、加熱焼成工程において、有機成分は分解して飛散し、金属化合物の層が形成される。
【0059】
その後、常温に冷やすと、ポリイミド樹脂皮膜が形成された芯体が得られ、芯体を取り外すことでポリイミド樹脂無端ベルトが製造される。
【0060】
(研磨工程)
図2に示す本発明の無端ベルトを作製するには、加熱焼成工程を経た後に凸面の頂上部が平坦(下層にあるポリイミド皮膜の表面と平行)になるように、研磨処理を施す。
研磨処理としては、乾式法および湿式法のいずれでもよい。乾式法としてはサンドペーパや研磨フィルムを使用して研磨する方法がある。湿式法としては、上記と同じことを、水等の液体を介して行う方法がある。本発明のポリイミド樹脂無端ベルトは、必要に応じて、端部の長さを揃える切断加工、表面の粗さを調整する研磨加工、等が施され、画像形成装置に使用される定着ベルト等に供される。
【0061】
また、本発明のポリイミド樹脂無端ベルトの他の製造方法は、ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された複数の芯体を同数づつ2組に分け、一方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽から引き上げる際、他方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽に浸漬して、塗布槽内の液量が変化しないようにしてそれぞれ塗布操作を行い、フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂層形成工程を含む。フッ素樹脂層形成工程を上記工程とする以外は、既述の本発明のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法と同様である。
【0062】
図5の溜め置き塗布槽を使用した塗布方法を適用する場合、芯体1を浸漬すると、フッ素樹脂分散液16の液面が上下に変動するが、そのような液面変動があると、フッ素樹脂分散液16が塗布槽17の内面に付着した部分が乾燥して、次第に塗布に支障がでるようになる。
そこで、図7に示すように、2つの塗布槽を連通させ、一方の塗布槽25’から芯体1を引き上げて塗布するとき、他方の塗布槽25に芯体1を同じ速度で浸漬するようにすれば、フッ素樹脂分散液の液面の変動はなくなる。
さらに、生産数を増すために、複数の芯体を1組として、一つの塗布槽で塗布しても良いが、この場合は、他方の塗布槽に同じ本数の1組の芯体を浸漬する。
このような連通式塗布槽の場合も、フッ素樹脂分散液を循環させることは有効である。
なお、フッ素樹脂分散液に既述の製造方法に使用する大小異なる粒径のフッ素樹脂粉体を含有させれば、図2に示される無端ベルトを作製することができる。
【0063】
【実施例】
以下、本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
〔参考例1〕
ポリイミド前駆体溶液として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとが、N,N−ジメチルアセトアミド中で合成された、固形分濃度18%(重量%、以下同じ)、粘度約20Pa・sの溶液を用意した。
【0065】
外径70mm、長さ400mmの素管を350℃で10分間加熱し、自然冷却した後、表面を切削して外径を68mmにしたアルミニウム製円筒を用意した。その表面を、球形アルミナ粒子(不二製作所社製、粒径105〜125μm)によるブラスト処理により、Ra0.8μmに粗面化した後、シリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、300℃で1時間の焼き付け処理し、芯体とした。
【0066】
芯体の軸方向を水平にして120rpmで回転させ、幅20mm、厚さ1mmのポリエチレン板からなり、弾力性を有するへらを芯体に押し付け、ポリイミド前駆体溶液を口径4mmのノズルから、エア圧0.4MPaにて、23ml/minの流量で押し出した。ポリイミド前駆体溶液がへらを通過する際、へらが押し上げられ、へらと芯体との間には隙間ができた。
次いで、ノズルとへらを180mm/分の速度で、芯体の一端から他端へ移動させてポリイミド前駆体溶液を塗布した。この条件で、芯体1回転あたり、ノズルとへらは1.5mmずつ移動する。なお、塗布の際には、芯体の両端に5mmずつの不塗布部分を設けた。
【0067】
塗布後、芯体を20rpmで回転させながら、100℃の乾燥炉に入れた。60分後に取り出すと、約150μm厚のポリイミド前駆体皮膜が形成され、残留溶剤は約40%(重量比)であった。この状態ではまだ、皮膜を芯体から取り外すことはできなかった。
次いで、芯体の一端に円錐形の蓋を取り付け、幅20mmの粘着テープを一周巻き付け、芯体の不塗布部分とポリイミド前駆体皮膜の端部に被覆処理を施した。
【0068】
一方、溶媒として水のほかに、エタノール、t−ブタノールを含むPFA水性塗料(フッ素樹脂分散液、濃度60%、粘度400mPa・s、)を用意した。この中の固形分は、粒径約17μmのPFA粉体(大粒子)が55質量%、粒径約1μmのPFA粉体(小粒子)が40質量%、粒径約0.1μmのカーボン粉体が5質量%であった。
これを図5に示すように、内径90mm、高さ480mmの塗布槽17に入れた。なお、この液(PFA水性塗料)はあらかじめ20hPaの減圧下で12時間置いて脱泡処理を施したものである。塗布槽17の上部には、環状に風速5m/分の気流が上方45°に向けて吹き出される環状送風装置20を取り付けた。
【0069】
被覆15を下側にして芯体1を垂直にし、ポリイミド前駆体皮膜18を上部から5mm残して塗料16に浸漬した。次いで気流を当てながら、0.2m/分の速度で芯体1を引き上げ、PFAの塗膜19を形成した。
【0070】
引き上げ終了後、粘着テープを除去し、下部の蓋を取り外した後、80℃の無風乾燥炉で10分間乾燥した。
加熱焼成工程として、150℃で20分間、220℃で20分間、及び380℃で30分間、芯体を加熱して、ポリイミド樹脂皮膜を形成すると共に、PFA塗膜を焼成した。芯体が室温に冷えた後、ポリイミド樹脂皮膜を取り外し、75μm厚のポリイミド樹脂上に、40μm厚のPFA層を有する無端ベルトを得た。PFA層の表面は、図1に示すように、大粒子に起因する大きい凸部13と、小粒子に起因する小さい凸部12とが混在し、表面粗さRaは、0.8μmであった。
【0071】
〔実施例1〕
参考例1にて得られた無端ベルトを、外径68mmの金型ロールに嵌め、100rpmで回転させながら、#1000のサンドペーパーを当てて、表面を研磨した。この場合、研磨工数はかかるが、PFA層の表面は、図2に示すように、大きい凸部が平坦化されて凸部14のようになり、表面粗Raは、0.2μmに小さくなった。それにより、定着画像はより平滑になるものであった。
【0072】
〔比較例1〕
参考例1において、ポリイミド前駆体皮膜の上に、PFA水性塗料を塗布する際に、ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法と同じ方法で当該塗布を試みた。かかる塗布方法では、垂れを生じにくく、塗布幅をポリイミド前駆体皮膜より狭くすることで、被覆処理も不必要になることが期待される。
しかし、PFA水性塗料は、塗布後の流動性が悪いので、らせん状模様が平坦化されずに残った無端ベルトしか得られなかった。これを定着ベルトとして使用したところ、定着画像にはらせん状模様が転写されてしまい、実用に供することが不可能であることが確認された。
【0073】
〔比較例2〕
参考例1において、PFA塗布の際、気流を当てずに浸漬塗布を行って、無端ベルトを作製したところ、芯体を200mmほど引き上げた時点で、図10に示すように、PFA塗膜19の上部から約50mmの部分に、垂れ24が徐々に生じてきた。垂れがある部分は、膜厚が厚くなっており、定着ベルトとしては実用に供することはできなかった。
【0074】
〔比較例3〕
参考例1において、芯体の露出部分とポリイミド前駆体皮膜に被覆処理を施さずに、PFAの浸漬塗布を行った。芯体の露出部分に塗布されたPFA被膜は、水で洗浄して除去することができたが、芯体とポリイミド前駆体皮膜の間に染み込んだPFAは除去できなかった。そのまま加熱焼成を行ったところ、ポリイミド樹脂皮膜が芯体に貼り付いて、取り外すことができず、実用に供する無端ベルトを作製することができなかった。
【0075】
〔比較例4〕
PFA水性塗料(フッ素樹脂分散液)として、大粒子を含まず、小粒子のみを含む以外は参考例1と同様にして無端ベルトを作製した。塗膜の厚さが50μm以上に塗布され、垂れの発生が抑えられなかった。希釈して膜厚を下げようとしたが、塗料は凝集が起こって、ゲル化して塗布できなくなった。
【0076】
〔比較例5〕
PFA水性塗料(フッ素樹脂分散液)として、小粒子を含まず、大粒子のみを含む以外は参考例1と同様にして無端ベルトを作製した。PFA層(フッ素樹脂層)の表面粗さRaが3μm前後になり、定着ベルトとして使用すると、定着画像に乱れを生じた。
【0077】
〔参考例2〕
参考例1において、PFA水性塗料の塗布槽として、図6に示すように、内径90mm、高さ480mmの塗布槽17の外側に、内径150mm、高さ160mmの外部槽21を取り付けた。
参考例1と同様にあらかじめ脱泡処理したPFA水性塗料であるフッ素樹脂分散液16を塗布槽17に満たし、更に外部槽21の下部から30mmまで入れ、ギヤポンプ22にて、2リットル/分の流量で循環した。
PFA水性塗料は乾くと凝集粉になるので、塗布槽17の内壁は常に塗料で満たしておいた。特に、多数本の塗布をする場合は、実施例1のように液を溜め置くより、この方がよい。
なお、循環経路には、200メッシュのフィルター23を介し、凝集粉を除くようにした。
一方、純水10リットルを入れた容器を用意し、塗布・乾燥後のポリイミド前駆体皮膜をその中に20秒間、浸漬した。これにより、皮膜中の残留溶剤は約40%から約25%(重量比)に減少した(その際、純水に代えて、超還元水(日本電子アクティブ製)を用いた場合でも、溶剤の滲出が促進されて、14秒間の浸漬で上記と同じ効果を得ることができた。)。
その後、参考例1と同様の操作を行って、PFA層の塗布を50本行ったが、参考例1と同等の無端ベルトを連続的に製造することができた。
【0078】
〔参考例3〕
参考例1において、ポリイミド前駆体皮膜上にPFA塗膜10を形成し、下端被覆を除去した後、芯体を図8に示すような、120℃の熱風27が上方から下降する乾燥炉26に5分間入れて乾燥した。これにより、PFA被膜に筋目やむらを生じることなく、乾燥時間を短縮することができた。他は同様にして、参考例1と同じベルトを得ることができた。
【0079】
〔参考例4〕
参考例1において、ポリイミド前駆体皮膜上にPFA塗膜10を形成し、下端被覆を除去した後、芯体を図9に示すような、120℃の熱風27が横方向から吹き出る乾燥炉26に5分間入れて乾燥した。その際、芯体1は回転台28の上で、30rpmで回転させた。この方法でも、PFA被膜に筋目やむらを生じることなく、乾燥時間を短縮することができた。他は同様にして、参考例1と同じベルトを得ることができた。
【0080】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、表面状態に起因する定着画像乱れ等を生じないポリイミド樹脂無端ベルトおよび該ポリイミド樹脂無端ベルトを効率よく製造する方法を提供するができる。
また、フッ素樹脂分散液を浸漬塗布法により塗布する際に、被膜に泡や垂れを発生させることなく、フッ素樹脂層を形成することが可能なポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例のポリイミド樹脂無端ベルトの部分拡大断面図である。
【図2】 表面を研磨した本発明のポリイミド樹脂無端ベルトの部分拡大断面図である。
【図3】 ポリイミド前駆体の塗布方法を示す概略断面図である。
【図4】 他のポリイミド前駆体の塗布方法を示す概略断面図である。
【図5】 フッ素樹脂分散液の浸漬塗布方法を示す概略図である。
【図6】 循環式塗布槽を用いたフッ素樹脂分散液の浸漬塗布方法の概略図である。
【図7】 連通式塗布槽を用いたフッ素樹脂分散液の浸漬塗布方法の概略図である。
【図8】 フッ素樹脂分散液の塗膜を乾燥する乾燥炉の例を示す概略図である。
【図9】 フッ素樹脂分散液の塗膜を乾燥する別の乾燥炉の例を示す概略図である。
【図10】 フッ素樹脂分散液の塗膜に生じる垂れの状態を説明するための図である。
【符号の説明】
1…芯体
2…溶液
3…塗布槽
4…塗膜
5…環状体
6…環状体の孔
7…環状塗布槽
8…環状シール材
9…中間体
10…ポリイミド樹脂層
11…フッ素樹脂層
12…(小さい)凸部
13…(大きい)凸部
14…(研磨された)凸部
15…被覆処理
16…フッ素樹脂分散液
17…塗布槽
18…ポリイミド前駆体皮膜
19…塗膜
20…送風装置
21…外部槽
22…ポンプ
23…フィルター
24…垂れ
25、25’…連通式塗布槽
26…乾燥炉
27…熱風
28…回転台
Claims (7)
- ポリイミド皮膜の外表面にフッ素樹脂層が形成されているポリイミド樹脂無端ベルトであって、前記フッ素樹脂層表面に複数の微小な凸部が形成されており、前記複数の微小な凸部が、その凸面が球形面となっている球形凸部と、その凸面の頂上部が平坦となっている平坦凸部とからなり、前記球形凸部の高さが前記平坦凸部の高さ以下であることを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルト。
- ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された芯体を、少なくとも粒径が5〜20μmである大粒径のフッ素樹脂粉体および粒径が0.1〜2μmである小粒径のフッ素樹脂粉体を含有する分散液中に浸漬し、浸漬後の芯体を引き上げてフッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂層形成工程と、該フッ素樹脂層の表面を研磨する研磨工程と、を含むことを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
- ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された複数の芯体を同数づつ2組に分け、一方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽から引き上げる際、他方の組をフッ素樹脂粉体分散液の塗布槽に浸漬して、塗布槽内の液量が変化しないようにしてそれぞれ塗布操作を行い、フッ素樹脂層を形成するフッ素樹脂層形成工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
- 前記フッ素樹脂層形成工程に先立って、前記ポリイミド前駆体皮膜が形成された芯体を水に浸して、前記ポリイミド前駆体皮膜に残留する溶剤を水に滲出させる滲出工程を含むことを特徴とする請求項2または3に記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
- 前記フッ素樹脂層形成工程において、前記芯体をフッ素樹脂粉体分散液から引き上げる際に、塗膜に気流を当てることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
- 前記フッ素樹脂層形成工程において、ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された前記芯体をフッ素樹脂粉体の分散液を浸漬塗布した後、前記芯体を、その軸方向を鉛直方向と平行に立設させた状態とし、前記芯体の上方から熱風を供給して、乾燥を行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
- 前記フッ素樹脂層形成工程において、ポリイミド樹脂およびポリイミド前駆体皮膜のいずれかが形成された前記芯体をフッ素樹脂粉体の分散液を浸漬塗布した後、前記芯体を、その軸方向を鉛直方向と平行に立設させた状態とし、前記芯体を前記軸を中心に回転させながら前記芯体の周面側から熱風を供給して、乾燥を行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
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