JP4045818B2 - ポリイミド樹脂無端ベルト、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリイミド樹脂無端ベルト、及びその製造方法に関する。ポリイミド樹脂無端ベルトは、電子写真複写機やレーザープリンタ等の画像形成装置における転写体や定着体として好ましく使用される。
【0002】
【従来の技術】
電子写真装置における転写体や定着体には、金属やプラスチック、またはゴム製の各種回転体が使用されているが、機器の小型化或いは高性能化のために、例えば特開平8−262903号や特開平11−133776号に記載のように、回転体は変形可能なものが好ましいことがあり、それには肉厚が薄い樹脂製ベルトが用いられる。この場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。その材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂が好ましい。
【0003】
また、無端ベルトを定着体として使用するには、表面に接触するトナーの剥離性向上のため、ベルト表面に離型性の樹脂被膜を形成する。その材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が挙げられる。該樹脂被膜には、耐久性や静電オフセット向上、オイルとの親和性向上等のために、カーボン粉末や無機粉体等、フッ素樹脂以外の材料が含有されていてもよい。
ポリイミド樹脂無端ベルトの厚さは25〜200μmの範囲が好ましい。また、フッ素樹脂被膜の厚さは2〜30μmの範囲が好ましい。
【0004】
ポリイミド樹脂無端ベルトを作製するには、例えば、特開昭57−74131号公報記載のように、円筒体の内面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法や、特開昭62−19437号公報記載のように、円筒体内面にポリイミド前駆体溶液を展開する内面塗布法があった。但し、これらの内面に成膜する方法では、円筒体の内面からポリイミド前駆体溶液の溶剤を乾燥させる必要があるため、乾燥に時間がかかる問題がある。
【0005】
他の無端ベルトの製造方法として、例えば、特開昭61−273919号公報記載のように、芯体の表面に、浸漬塗布法によってポリイミド前駆体溶液を塗布して乾燥し、加熱させた後、ポリイミド樹脂皮膜を芯体から剥離する方法もある。この方法では、芯体の外面から溶剤を乾燥させるので、乾燥時間は短縮できる利点がある。
【0006】
ところで、ポリイミド前駆体は、非プロトン系極性溶剤に酸無水物とジアミンを溶解して合成される。非プロトン系極性溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。合成時の濃度、粘度等は、適宜選択されるが、好ましい濃度は、10〜25重量%、粘度は10〜1000Pa・s程度である。
ここで、非プロトン性極性溶剤は、いずれも沸点が高く、乾燥が非常に遅いという性質がある。更に、ポリイミド樹脂はガス透過性の低い樹脂であるため、溶剤を乾燥させても一部が残留する。そのため、芯体表面にポリイミド前駆体溶液を塗布すると、溶剤乾燥工程において除去されなかった溶剤や、イミド化反応が進行する段階で発生する水が、皮膜内部や芯体と皮膜との間に滞留し、加熱時の熱で膨張し、膜厚や外径が不均一になったり、変形をきたしやすい。それは、膜厚が50μmに厚くなるほど生じ易かった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記溶剤や水をポリイミド前駆体皮膜から抜けやすくするために、本発明者等は先に、特願平2000−360969において、芯体表面を粗面化し、ガスを通過しやすくさせる方法を提案した。この方法を用いれば、ポリイミド前駆体の加熱時に変形をきたすことはないものの、できた無端ベルトの内面は粗面になる。無端ベルトの用途として、特開平5−150679号記載のように、内面にロールを介して回転させる定着ベルトの場合には、ベルト内面は粗面であるほうが有利であるが、特開平8−262903号記載のように、内面に押圧物を接触させて回転させる定着ベルトでは、ベルト内面は平滑である方が好ましい場合もある。
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、膜厚が厚くても、製造過程にて変形を生じることなく、且つ内面が平滑なポリイミド樹脂無端ベルトを得ることができるポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法、及びそれにより得られるポリイミド樹脂無端ベルトを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、本発明は、
<1>ポリイミド前駆体溶液を、表面粗さRa0.1μm未満の円柱又は円筒状金属芯体表面に塗布し、ポリイミド前駆体塗膜を形成する工程と、
前記ポリイミド前駆体塗膜を前記円柱又は円筒状金属芯体から取り外すことができる程度に乾燥した後、前記円柱又は円筒状金属芯体上でずらす工程と、
前記ポリイミド前駆体塗膜を、加熱させ、ポリイミド樹脂皮膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂皮膜を前記円柱又は円筒状金属芯体から剥離する工程と、
を有し、
内面粗さがRa0.1μm未満であるポリイミド樹脂無端ベルトを製造することを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法は、内面粗さがRa0.1μm未満であるポリイミド樹脂無端ベルトを製造するために、ポリイミド前駆体溶液を、表面粗さRa0.1μm未満の円柱又は円筒状芯体表面に塗布し、ポリイミド前駆体塗膜を形成する工程(以下、「ポリイミド前駆体塗膜形成工程」と称する。)と、ポリイミド前駆体塗膜を前記円柱又は円筒状芯体から取り外すことができる程度に乾燥した後、前記円柱又は円筒状芯体上でずらす工程(以下、「ポリイミド樹脂塗膜乾燥工程」と称する。)と、ポリイミド前駆体塗膜を、加熱させ、ポリイミド樹脂皮膜を形成する工程(以下、「ポリイミド樹脂皮膜形成工程」と称する。)と、ポリイミド樹脂皮膜を前記円柱又は円筒状芯体から剥離する工程(以下、「ポリイミド樹脂皮膜剥離工程」と称する。)と、を要する。また、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
【0012】
―ポリイミド前駆体塗膜形成工程―
ポリイミド前駆体塗膜形成工程では、
円柱又は円筒状芯体の材質としては、アルミニウムや亜鉛、マグネシウムといった熱膨張率の大きい金属が、ベルトを取り外しやすいという点で適用される。熱膨張率はアルミニウムが23×10-6/K、マグネシウムが26×10-6/K、亜鉛が31×10-6/Kであるが、価格の点ではアルミニウムが好ましい。また、特に熱膨張率が大きい観点から、ポリテトラフルオロエチレン:PTFE(熱膨張率は1×10-4/K)等のフッ素樹脂の成形体も用いることができる。
【0013】
円柱又は円筒状芯体が金属で構成される場合、その表面は、クロムやニッケルでメッキしたり、あるいは表面にポリイミド樹脂被膜が接着しないよう、フッ素樹脂やシリコーン樹脂で表面を被覆したり、離型剤を塗布することが有効である。
【0014】
円柱又は円筒状芯体の表面粗さRaは0.1μm未満であるが、好ましくは0.08μm未満である。なお、芯体表面とベルト内面との粗さの関係はほぼ直線的で、芯体表面の粗さが大きくなるに従い、ベルト内面粗さも大きくなる。芯体の表面粗さがRa0.1μm以上の場合、得られるベルトの内面粗さは、Ra0.1μm以上の粗面になり易く、芯体の表面粗さがRa0.2μm以上では、ベルト内面粗さは、確実にRa0.15μm以上になる。なお、本発明において、表面粗さは、中心線平均表面粗さRaを示す。
【0015】
ポリイミド前駆体は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン系極性溶剤に、両者を溶解して合成される。合成時の濃度、粘度等は、適宜選択して行われる。
【0016】
ポリイミド前駆体塗膜形成工程おいて、前記ポリイミド前駆体溶液を円柱又は円筒状芯体表面に塗布してポリイミド前駆体塗膜を形成するが、その塗布方法としては、円柱又は円筒状芯体をポリイミド前駆体溶液に浸漬して引き上げる浸漬塗布法、円柱又は円筒状芯体を回転させながらその表面にポリイミド前駆体溶液を吐出する流し塗り法、その際にブレードで皮膜をメタリングするブレード塗布法など、既存の公知せるのの方法が採用できる。上記流し塗り法やブレード塗布法では塗布部を水平移動さで皮膜はらせん状に形成されるが、ポリイミド前駆体溶液は乾燥が遅いために継ぎ目は自然に平滑化される。なお、「円柱又は円筒状芯体表面に塗布する」とは、円柱も含まれる円筒状芯体の側面の表面、及び該表面に層を有する場合は、その層の表面に塗布することを意味する。
【0017】
ポリイミド前駆体塗膜形成工程おいて、ポリイミド前駆体溶液の塗布を浸漬塗布法で行う場合、ポリイミド前駆体溶液は粘度が非常に高いので、膜厚が所望値より厚くなりすぎることがある。そこで、円柱又は円筒状芯体の外径よりも一定の間隙だけ大きい径を有する孔を設けた環状体を、ポリイミド前駆体溶液液面上に自由移動可能状態で配置し、環状体の液面からの高さが一定範囲におさまるように、円柱又は円筒状芯体の引上げ速度を調節しながら、環状体の孔を通して円柱又は円筒状芯体をポリイミド前駆体溶液ぁら相対的に上昇させる浸漬塗布法を行うことが好適である。具体的には、例えば、以下に示す環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法が適用できる。
【0018】
環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法を、図1〜3を参照して説明する。
図1は、環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。ただし、図は塗布主要部のみを示し、他の装置は省略する。
図1に示すように、この浸漬塗布法は、塗布槽3に満たされたポリイミド前駆体溶液2に、円筒状芯体1の外径よりも大きな孔を設けた環状体5を浮かべ、該孔を通して円筒状芯体1をポリイミド前駆体溶液2に浸漬し、次いで、引き上げる塗布法である。
【0019】
図2は、図1に示す環状体5の設置状態を説明するための要部拡大斜視図を示す。図2に示すように、ポリイミド前駆体溶液2液面に、円筒状芯体1の外径よりも一定の間隙だけ大きい径を有する孔6を設けた環状体5を浮かべてある。
【0020】
環状体5は、ポリイミド前駆体溶液2液面に浮くもので、その材質は、ポリイミド前駆体溶液2によって侵されないものがよく、例えば、種々の金属、種々のプラスチック等が挙げられる。また、ポリイミド前駆体溶液2液面に浮きやすいように、環状体5の構造は、例えば、中空構造であってもよい。
【0021】
また、環状体5が塗布槽3の中央部に位置するように、環状体5を一時的に固定する固定手段を設けてもよい。このような固定手段として環状体5に足を設ける手段、塗布槽3と環状体5とを固定する手段などがある。但し、これらの固定手段を用いた場合、後述するように、円筒状芯体1を浸漬した後、引き上げる際に、環状体5が自由に動き得るように、該固定手段は取り外し可能なように配置される。
【0022】
円筒状芯体1の外径と、孔6の径との間隙は、所望の塗布膜厚を鑑みて調整する。所望の塗膜厚、即ち乾燥膜厚は、濡れ膜厚とポリイミド前駆体溶液2の不揮発分濃度の積になる。これから、所望の濡れ膜厚が求められる。また、円筒状芯体1の外径と、孔6の径との間隙は、所望の濡れ膜厚の1倍〜2倍であるのがよい。1倍〜2倍とするのは、ポリイミド前駆体溶液2の粘度及び/又は表面張力、また、塗膜乾燥或いは加熱時の収縮などにより、間隙の距離が濡れ膜厚になるとは限らないからである。このように、所望の乾燥膜厚及び所望の濡れ膜厚などから、所望の孔6の径が求められる。
【0023】
環状体5に設けられる孔6の壁面は、浮かべるポリイミド前駆体溶液2の液面に対してほぼ垂直となるように構成されてもよい。例えば、図1に示す断面図にある直線状であり且つその直線がポリイミド前駆体溶液2の液面に垂直であるものでもよいし、他の形態に構成されてもよい。例えば、図3(a)に示すように、ポリイミド前駆体溶液2に浸る下部が広く、上部が狭い、傾斜状7であるもの、図3(b)に示すように、ポリイミド前駆体溶液2に浸る下部が広く、上部が狭い、曲面状8であるもの、また、図3(c)に示すように、ポリイミド前駆体溶液2に浸る下部が広く、上部が狭い、屈曲面状10であるものが挙げられる。特に、図3(a)〜(c)に示すように、ポリイミド前駆体溶液2に浸る下部が広い形状が好ましい。また、環状体5に設けられる孔6の壁面に、円筒状芯体浸漬・引上げ方向に沿った筋状突起物が設けられているものも好適に用いられる。ここで、図3は環状体に設けられる孔の壁面の形状を示しており、(a)は傾斜面状の壁面、(b)は曲面状の壁面、(c)は屈曲面状の壁面を示す概略断面図である。
【0024】
浸漬塗布を行う際、円筒状芯体1を、孔6を通してポリイミド前駆体溶液2に浸漬する。その際、円筒状芯体1が環状体5に接触しないようにする。次いで、孔6を通して円筒状芯体1を引き上げる。この際、円筒状芯体1と孔6との間隙により塗膜4が形成される。引き上げ速度としては100〜1500mm/min程度であるのが好ましい。この塗布方法に好ましいポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は10〜40質量%、粘度は1〜100Pa・sである。
【0025】
環状体5はポリイミド前駆体溶液2液面を自由に動くことができる。また、環状体の孔6が円形であり、且つ、円筒状芯体1の外周も円形である。従って、円筒状芯体1を、孔6を通して引き上げる際、円筒状芯体1と環状体5との摩擦抵抗が一定になるように、環状体5が動く。即ち、円筒状芯体1を引き上げる際、ある位置で、環状体5と円筒状芯体1との間隙が狭まろうとした場合、狭まろうとした部分では摩擦抵抗が大きくなる。一方、その反対側では摩擦抵抗が小さくなり、一時的に摩擦抵抗が不均一な状態が生じうる。しかしながら、環状体5が自由に動くこと、円筒状芯体1の外周が円形であること、及び、環状体の孔6が円形であることから、そのような摩擦抵抗が不均一な状態から均一な状態になるように、環状体5が動く。従って、環状体5が円筒状芯体1と接触するようなことはなく、環状体5が円筒状芯体1との間隔は一定に保たれる。
【0026】
また、摩擦抵抗が均一となる位置は、円筒状芯体1の外周の円形と、環状体5の孔6の円形とがほぼ同心円となる位置である。よって、円筒状芯体1断面の円の中心が、軸方向において、許容範囲内でずれている場合であっても、環状体5はそれに追随するように動く。従って、円筒状芯体1に一定の濡れ膜厚を提供することができる。
【0027】
環状体5は、溶液上でわずかの力で動くことができるよう、自由移動可能状態で設置するが、その方法としては、図1に示すように環状体5を浮遊させる方法のほか、環状体5をロールやベアリングで支える方法、環状体5をエア圧で支える方法、などがある。
【0028】
環状体5の孔6を通して円筒状芯体1をポリイミド前駆体溶液2から上昇させると、ポリイミド前駆体溶液2の介在により、円筒状芯体1と環状体5との間に摩擦抵抗が生じ、環状体には上昇力が作用し、環状体は少し持ち上げられることがある。このように環状体5が少し持ち上げられた際、環状体5と円筒状芯体1との間隙が変化するので、上述のように、環状体5は円筒状芯体1との摩擦抵抗が周方向で一定になるように水平方向に移動し、間隙が一定になる。このように環状体5が作用するには、環状体5がある程度、持ち上げられなくてはならず、好ましくは2mm以上持ち上げらた場合である。その上昇力は、円筒状芯体1の上昇速度(引上げ速度)が速いほど強くなる。但し、環状体5が持ち上げられてポリイミド前駆体溶液2の液面から離れてしまうと、円筒状芯体1の上昇終了時に、環状体5が当該液面に落下することになり、そうなると、ポリイミド前駆体溶液2のに泡が巻き込まれて、塗布作業を繰り返す際には非常に不都合である。
【0029】
このような理由により、円筒状芯体1を上昇させる際には、環状体5は高すぎず低すぎず、一定範囲の高さに持ち上げられることが好適である。そのためには、環状体5のポリイミド前駆体溶液2液面からの高さを検出して、円筒状芯体1の上昇速度を調節するのがよい。すなわち、環状体5が高く持ち上げらて、ポリイミド前駆体溶液2液面から離れようとした場合には、上昇速度を遅くし、逆に環状体5の持ち上げ量が小さい場合は速くする。環状体5のポリイミド前駆体溶液2液面からの高さを検出するには、機械式や光学式の各種検出装置を使用すればよい。簡便には、目視で環状体5のポリイミド前駆体溶液2液面からの高さを判断し、手動で速度を調整することもできる。
【0030】
更に、浸漬塗布法に用いる塗布装置は、円筒状芯体を保持する円筒状芯体保持手段、並びに、所望により、該保持手段を上下方向に移動する第1の移動手段及び/又はポリイミド前駆体溶液を入れる容器を上下方向に移動する第2の移動手段を有してもよい。それらの保持手段、第1の移動手段及び/又は第2の移動手段が、移動の際に引き上げ方向と横断する面でブレを有する場合がある。そのような場合であっても、そのブレに追随して、環状体5は動くことができる。
【0031】
このような、環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法を適用することで、高粘度のポリイミド前駆体溶液を用いることによる、円筒状芯体上端部でのタレは少なくなり、簡易に膜厚を均一にすることができる。
【0032】
また、ポリイミド前駆体塗膜形成工程おいて、上記の浸漬塗布法を用いる他にも、図4に示すような環状塗布法も適用できる。ここで、図4は、環状塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
図4において、図1との違いは、環状塗布槽3’の底部に、円筒状芯体1を通過させることの可能な環状シール材9が設けられていることである。環状塗布槽3’の底部には環状シール材9が取り付けられ、円筒状芯体1を環状シール材9の中心に挿通させたところに、環状塗布槽3’にポリイミド前駆体溶液2を収容する。これにより、ポリイミド前駆体溶液2が漏れないようになっている。円筒状芯体1は、環状塗布槽3’の下部から上部に順次つき上げられ、環状シール材9を挿通させることにより、表面に塗膜4が行われる。環状体5の機能は、前述と同様である。なお、ポリイミド前駆体溶液2は、例えば、環状塗布槽3’に取りつけた環状シール材9の中心孔を中間体(図示せず)で塞いだ後入れて、その後、円筒状芯体1を当該中心孔から挿入してもよい。
このような環状塗布法では、環状塗布槽3’が浸漬塗布槽3よりも小さくできるので、溶液の必要量が少なくても済む利点がある。
【0033】
また、ポリイミド前駆体塗膜形成工程おいて、上記の浸漬塗布法を用いる他にも、ポリイミド前駆体溶液を円柱又は円筒状芯体表面に流下させつつ、へらでポリイミド前駆体溶液を平坦化し、ポリイミド前駆体溶液の流下点とへらを円筒状芯体の一端から他の一端へ水平方向(芯体軸方向)に移動させることにより、円柱又は円筒状芯体の表面にポリイミド前駆体溶液を塗布する回転塗布法も適用できる。ここで、図5は、回転塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
【0034】
図5において、円柱状芯体1を矢印方向(円周方向)に回転させながら、ポリイミド前駆体溶液2を容器11から、ノズル12を通して流下させる。流下したポリイミド前駆体溶液2は、へら13により平坦化される。へら13を通過した直後は、ポリイミド前駆体塗膜4にはまだ筋が残ることがあるが、時間とともに液の粘性により筋は消滅する。容器11とへら13を連結しておき、同時に円筒状芯体1の一端から他の一端へ水平方向(軸方向)に移動させることにより、円筒状芯体1の表面全面にわたって塗布することができる。該移動速度が塗布速度である。
【0035】
ここで、塗布時の条件としては、円筒状芯体1の回転速度が20〜200rpm、塗布速度Vは、円筒状芯体1の外径k、ポリイミド前駆体溶液の流下量f、所望の濡れ膜厚tと関係があり、V=f/(t・k・π)の式で表わされる。πは円周率を示す。
【0036】
また、ポリイミド前駆体溶液2を流下させる場合、高粘度のために重力だけでは流下しにくい時は、エア圧やポンプで押し出すことが有効である。ノズル13と円筒状芯体1の距離は任意でよいが、流下液が途切れることがないよう、10〜100mm程度が好ましい。液の途切れが生じると、泡を巻き込むことがある。
【0037】
へら13は、溶剤に侵されないポリエチレンやフッ素樹脂等のプラスチック、または、真鍮やステンレス等の金属の薄い板から成り、弾力性を有するものである。これを幅10〜50mmに成形し、軽く円筒状芯体1に押し当てておく。ポリイミド前駆体溶液2が通過すれば、へら13は円筒状芯体1からある隙間をもって離れ、その際にポリイミド前駆体溶液2を押し広げるのである。
【0038】
―ポリイミド前駆体塗膜乾燥工程―
ポリイミド前駆体塗膜乾燥工程では、まず、ポリイミド前駆体塗膜を前記円柱又は円筒状芯体から取り外すことができる程度に乾燥する。ポリイミド前駆体塗膜を前記円柱又は円筒状芯体から取り外すことができる程度に乾燥するとは、その時点で、ポリイミド前駆体塗膜の一部が反応して、ポリイミド樹脂塗膜が半形成状態になることを意味する。当然、乾燥温度が高いほど反応が進むのであるが、反応が進み過ぎると、半形成状態のポリイミド樹脂塗膜(皮膜)の変形が生じやすいので、ほどほどである必要がある。具体的に、乾燥条件としては、乾燥温度が50〜250℃で、乾燥時間が30〜200分であることが好ましく、より好ましくは、乾燥温度が100〜230℃で、乾燥時間が60〜150分である。その際、溶剤の乾燥が遅くて、乾燥中にポリイミド前駆体塗膜が重力の影響により、垂れが生じる場合には、塗布された芯体を、軸方向を水平にして、10〜60rpm程度で回転させることも好ましい。
【0039】
そして、半形成状態のポリイミド樹脂塗膜(皮膜)を円柱又は円筒状芯体上でずらす。これらの操作により、円柱又は円筒状芯体と半形成状態のポリイミド樹脂塗膜(皮膜)との間に、隙間が生じ、これが溶剤ガスの流通路になるのである。その際の半形成状態のポリイミド樹脂塗膜(皮膜)の内面は、塗布した芯体の表面粗さを受け継いで、平滑性が保たれている。溶剤ガスの流通路が形成されれば、後述するように半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を加熱しても、もはや溶剤ガスの膨張により、ポリイミド樹脂皮膜が変形することはなくなる。形成されたポリイミド樹脂皮膜の内面は、塗布した芯体の表面粗さを受け継いで、平滑性が保たれている。
【0040】
ポリイミド樹脂前駆体溶液の塗布時の円柱又は円筒状芯体として、アルミニウムで構成されたものを用いた場合、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)は円柱又は円筒状芯体上でずらすだけで取り外す必要はない。
また、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)は円柱又は円筒状芯体上でずらす場合は、芯体軸方向にずらしてもよいし、芯体円周方向にずらしてもよく、そのずらす方向は特に制限はない。
【0041】
−ポリイミド樹脂皮膜形成工程−
ポリイミド樹脂皮膜形成工程において、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)を、好ましくは300〜450℃、より好ましくは350〜450℃で、20〜60分間、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)を加熱させることで、ポリイミド樹脂皮膜を形成することができる。加熱の際、溶剤が残留しているとポリイミド樹脂皮膜に膨れが生じることがあるため、加熱前には、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、加熱前に、200〜250℃の温度で、10〜30分間加熱乾燥して残留溶剤を除去し、続けて、温度を段階的、又は一定速度で上昇させて、加熱してポリイミド樹脂皮膜を形成することが好ましい。
【0042】
−ポリイミド樹脂皮膜剥離工程−
加熱後、形成されたポリイミド樹脂皮膜を円柱又は円筒状芯体から剥離する工程を経てポリイミド樹脂無端ベルトが得られる。かかる無端ベルトには、更に、必要に応じて、端部の切断加工、穴あけ加工、テープ巻き付け加工等が施されることがある。
【0043】
このようにして得られるポリイミド樹脂無端ベルト(本発明のポリイミド樹脂無端ベルト)は、電子写真複写機やレーザープリンタ等の画像形成装置における感光体、帯電体、転写体、定着体等の無端ベルト等に利用することができる。
【0044】
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトを転写体や接触帯電器のような導電体として使用する場合、導電性物質を含有させ抵抗値を調整すればよいが、そのような導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In2O3複合酸化物、導電性酸化チタン等の導電性金属酸化物等が挙げられる。
【0045】
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトを定着体として使用する場合には、表面に付着するトナーの剥離性の向上のため、ベルト表面に離型性の樹脂被膜を形成することが有効である。その離型性の樹脂被膜の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が好ましい。また、離型性の樹脂被膜には、耐久性や静電オフセットの向上のためにカーボン粉末などを分散してもよい。
【0046】
これらフッ素樹脂被膜を形成するには、その水分散液を無端ベルトの表面に浸漬塗布して焼き付け処理する方法が好ましい。また、フッ素樹脂被膜の密着性が不足する場合には、必要に応じて、ベルト表面にプライマー層をあらかじめ塗布形成する方法がある。プライマー層の材料としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミド及びこれらの誘導体挙げられ、さらにフッ素樹脂から選ばれる少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
【0047】
このように、ベルト(ポリイミド樹脂被膜)上にプライマー層、及びフッ素樹脂被膜を形成するには、ポリイミド樹脂皮膜の表面にこれらを塗布形成してもよいが、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(被膜)を形成し、円柱又は円筒状芯体上でずらした後、プライマー層、及びフッ素樹脂被膜を塗布し、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(被膜)と共に加熱し焼成してもよい。この場合、プライマー層がなくてもフッ素樹脂被膜の密着性が強固になることもある。具体的には、例えば、円柱或いは円筒状芯体を垂直にしてフッ素樹脂分散液が入れられた塗布槽に浸漬して引き上げることにより、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)上にフッ素樹脂分散液を塗布し、その後加熱してポリイミド樹脂被膜を形成すると共に、フッ素樹脂の焼成を行う。
このような浸漬塗布による際は、円柱又は円筒状芯体をその中心軸を垂直にした下端側となる部分全体に、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜も含めて被覆処理を行いうことがよい。フッ素樹脂分散液の浸漬塗布時に、下端側の円柱或いは円筒状芯体表面に露出部分があると、円筒状芯体表面にフッ素樹脂分散液が塗布され、また、ポリイミド前駆体皮膜と円柱又は円筒状芯体の間に隙間があれば、その隙間にフッ素樹脂分散液が侵入することになり、いずれの場合もフッ素樹脂が円柱又は円筒状芯体に固着するために、ポリイミド樹脂皮膜が取り外せなくなったり、円柱又は円筒状芯体の再利用ができない問題が生じる。
また、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(皮膜)を円柱又は円筒状芯体上でずらす際、下端側となる部分の芯体表面の露出部分はなるべく少なくなる位置に合わせることよい。
【0048】
被覆処理の方法としては、粘着テープを巻いて張り付ける方法、幅広のゴムバンドを被せる方法、芯体の下端をすっぽりと覆うキャップを取り付ける方法等が挙げられる。粘着テープやゴムバンドを取り付ける際、芯体と同じ外径の短い円筒体または蓋を、芯体の下端に取り付けてもよい。ゴムバンドやキャップ等は、使用後に洗浄すれば、繰り返し使うこともできる。
【0049】
なお、円柱又は円筒状芯体の上端側になる部分は、フッ素樹脂分散液への浸漬時、その部分まで浸漬しなければ、芯体表面にはフッ素樹脂分散液が付着しないので、被覆しなくてもかまわない。もちろんその部分も被覆すれば、より確実である。
【0050】
フッ素樹脂膜を浸漬塗布法により形成する方法を、図6を参照してさらに説明する。
図6に示すように、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜(図示せず)を有する円筒状芯体1の一端に被覆処理17を施し、円筒状芯体1の中心軸を垂直にして、被覆処理17をした側からフッ素樹脂分散液15が入れられた塗布槽16に浸漬し、引き上げることにより、フッ素樹脂分散液15の塗膜18が塗布される。フッ素樹脂分散液15は、塗布槽16に溜め置いてもよいが、塗布槽16の下部から供給し、上部から溢流させて回収し、ポンプで循環させてもよい。その場合、循環経路にはフィルター、粘度計、希釈液追加装置等を付加することもできる。
【0051】
ここで、引き上げ速度は、所望の膜厚にもよるが、50〜500mm/分が好ましい。引き上げ後、常温から100℃の間に5〜20分間置いて、被膜から水を乾燥させる。乾燥の前後に、先に形成した被覆処理を取り外す。
【0052】
そして、上述のように、350〜450℃の温度で20〜60分間、フッ素樹脂の塗膜18を塗布した半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を加熱すると、ポリイミド樹脂被膜の形成と同時にフッ素樹脂が溶融して焼成され、フッ素樹脂膜を形成することができる。加熱焼成後、円筒状芯体1を常温に冷やすと、円筒状芯体1から取り出すことができ、無端定着ベルトを得ることができる。定着ベルトには、必要に応じて、端部の長さを揃えるための切断加工、表面の粗さを調整するための研磨加工、表面検査等が施される。
【0053】
本発明のポリイミド樹脂無端ベルトにおいて、ポリイミド樹脂被膜の厚さは25〜200μmの範囲が好ましく、より好ましくは40〜150μmの範囲であり、さらに好ましくは50〜100μmの範囲である。必要に応じて設けられるプライマー層の厚さは0.5〜10μmの範囲が好ましい。また、フッ素樹脂被膜の厚さは2〜30μmの範囲が好ましい。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0055】
(実施例1)
−ポリイミド前駆体塗膜形成工程−
ポリイミド前駆体溶液として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)をN,N−ジメチルアセトアミド中で合成した溶液を用意した。固形分濃度は18%(重量%、以下同じ)、粘度は約20Pa・sに調整した。
【0056】
このポリイミド前駆体溶液を用い、図1に示すような浸漬環状塗布法により、ポリイミド前駆体塗膜を形成した。
まず、ポリイミド前駆体溶液を内径80mm、高さ500mmの円筒容器(図1における塗布槽3)に入れた。
円筒状芯体1として、外径30mm、長さ400mmの円筒を用意した。この円筒状芯体1は、外径32mm、長さ400mmのアルミニウム製素管を300℃で10分間加熱し、自然に冷却させた後、表面を鏡面切削して外径を30mmにし、表面をRa0.04μmにして作製したものである。その表面にはシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
一方、環状体5として、外径65mm、内径40mm、高さ30mmのステンレス製の中空体を作製し、この内側に、外径40mm、断面が三角形で、最も狭い部分の内径が31mmのテフロン(R)製リングを嵌合させたもの(図3(c)に示す屈曲面状の壁面を有するもの)を用意し、溶液に浮かべた。
【0057】
次に、環状体5を動かないよう固定し、円筒状芯体1を長手方向を垂直にしてその中に1m/分の速度で挿入し、溶液に浸漬した。次いで環状体5の固定を解除し、0.3m/分の速度で円筒状芯体1を引き上げた。引き上げ途中では環状体5が円筒状芯体1に接触することはなく、円筒状芯体1には濡れ膜厚が約500μmのポリイミド前駆体塗膜4が形成された。
【0058】
―ポリイミド前駆体塗膜乾燥工程―
次いで円筒状芯体を水平にし、20rpmで回転させながら、50℃の乾燥炉に入れた。20分後に芯体を垂直にし、1時間後に220℃になるよう、徐々に温度を上昇させ、更に220℃で10分間放置して乾燥して、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を得た。その後、円筒状芯体を取り出し、常温に冷えてから、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜をひねって円筒状芯体上にて円周方向に約30°回転させた。これにより、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜と円筒状芯体との間には隙間ができた。
【0059】
―ポリイミド樹脂被膜形成工程―
次いで、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を、2時間後に380℃になるよう、徐々に温度を上昇させ、更に380℃で10分間放置して加熱し、ポリイミド樹脂皮膜を形成した。
【0060】
―ポリイミド樹脂被膜剥離工程―
円筒状芯体が室温に冷えた後、皮膜を抜き取ることにより、膜厚が60μmでほぼ均一なポリイミド樹脂無端ベルトを得ることができた。その内面の粗さを測定すると、Raで0.03μmであり、光沢を持った平滑面であった。
【0061】
(比較例1)
実施例1のポリイミド前駆体塗膜乾燥工程において、220℃で半形成状態のポリイミド前駆体塗膜にすることなく、そのまま連続的に3時間で380℃まで昇温して、ポリイミド樹脂被膜を形成させた、以外は、実施例1と同様にして無端ベルトを得た。得られた無端ベルトを見ると、1cmほどの大きさの膨れが数箇所あり、形状が劣ったものであった。これは、ポリイミドの加熱時に、残留溶剤と水分のために生じたものと考えられる。
【0062】
(比較例2)
比較例1におけるベルトの膨れを防止するため、円柱状芯体の表面を、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、Ra0.8μmに粗面化した。この芯体を用いてた以外は。比較例1と同様にして無端ベルトを作製したところ、皮膜に膨れはなかったが、内面の粗さはRa0.6μmであり、非光沢の粗面になった。
【0063】
(参考例2)
―ポリイミド前駆体塗膜形成工程―
ポリイミド前駆体溶液として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)をN,N−ジメチルアセトアミド中で合成した溶液を用意した。固形分濃度は22%、粘度は約20Pa・sに調整した。このポリイミド処方は、加熱後の熱膨張率が20×10-6/Kであり、実施例1のもの(12×10-6/K)より大きいが、材料費は安価であるものである。
【0064】
このポリイミド前駆体溶液を用い、図4に示すような環状塗布法により、ポリイミド前駆体塗膜を形成した。
円筒状芯体1として、外径70mm、長さ400mmの亜鉛管の表面を切削して外径68mm、Ra0.04μmにした円筒を用意した。その表面にシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学(株)製)を塗布し、300℃で1時間、焼き付け処理して芯体とした。亜鉛管は、熱膨張率がアルミニウムより大きいものである。
一方、環状体5として、内壁が屈曲面状で、外径80mm、最小部の内径69.2mm、高さ30mmのアルミニウム製の中空体(図3(c)に示す屈曲面状の壁面を有するもの))を作製した。
【0065】
底面に内径66mmの中心孔を有するポリエチレン製の環状シール材9が取り付けられている、内径150mm、高さ50mmの環状塗布槽3’に、ポリイミド前駆体溶液2を入れて、環状体5を浮かべた。なお、ポリイミド前駆体溶液2は、環状塗布槽3’に取りつけた環状シール材9の中心孔を、外径68mm、長さ60mmのポリエーテル樹脂製の中間体(図示せず)で塞いだ後、入れた。次いで、円筒状芯体1を、環状シール材9の中心孔から挿入し、最初は0.6m/minの速度で上昇させた。環状体は液面から5mm上昇し、徐々に高さが高くなったので、液面から10mm上昇した時点(芯体が約半分通過後)で、速度を低下させ、0.4m/minとした。そして、塗布終了後、芯体には濡れ膜厚が約600μmのポリイミド前駆体塗膜4が形成された。
【0066】
―ポリイミド前駆体塗膜乾燥工程―
円筒状芯体を水平にし、20rpmで回転させながら、50℃の乾燥炉に入れ、20分後に芯体を垂直にし、1時間後に200℃になるよう、徐々に温度を上昇させ、更に200℃で10分間放置して乾燥し、半形成状態とした。芯体が常温に冷えてから、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を芯体から取り外した。そして、外径68mm、長さ400mm、表面を球形アルミナによるブラスト処理により、Ra0.8μmに粗面化したアルミニウム製円筒を用意し、これに、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を嵌めた。
【0067】
―ポリイミド樹脂被膜形成工程―
次いで、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜を、2時間後に350℃になるよう、徐々に温度を上昇させ、更に350℃で10分間放置してポリイミド樹脂皮膜を形成した。
【0068】
―ポリイミド樹脂被膜剥離工程―
円筒状芯体が室温に冷えた後、ポリイミド樹脂皮膜を抜き取ることにより、膜厚が70μmでほぼ均一なポリイミド樹脂無端ベルトを得ることができた。その内面の粗さを測定すると、Raで0.03μmであり、光沢を持った平滑面であった。
【0069】
(参考例3)
参考例2において、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜をアルミニウム製円筒に嵌めた後、円筒状芯体の一端に、幅20mmのポリエステルテープ(商品名:No.31B、日東電工)を一周にわたって張り付け、円筒状芯体の露出部分とポリイミド前駆体皮膜を被覆をした。
【0070】
その後、図6に示すように、PFAのディスパージョン水性塗料(商品名:AW5000、ダイキン工業製)(フッ素樹脂分散液15)を内径90mm、高さ480mmの塗布槽16に入れた。この中に円筒状芯体1を、被覆17を下側にして垂直にし、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜の上端部を5mmだけ残して浸漬した。次いで300mm/分の速度で引き上げ、PFAの塗膜18を形成した。次いで、80℃で10分間の乾燥後、ポリエステルテープを除去した。
【0071】
―ポリイミド樹脂被膜形成工程―
次いで、半形成状態のポリイミド前駆体塗膜、及びPFAの塗膜を、150℃で20分間、続いて200℃で20分間、加熱乾燥させた。その後、380℃で30分間加熱して、ポリイミド樹脂皮膜を形成すると共に、PFA塗膜を焼成した。
【0072】
―ポリイミド樹脂被膜剥離工程―
円筒状芯体が室温に冷えた後、ポリイミド樹脂皮膜を抜き取ることにより、膜厚が70μmでほぼ均一なポリイミド樹脂被膜上に、30μm厚のPFA膜を有するポリイミド樹脂無端ベルトを得ることができた。その内面の粗さを測定すると、Raで0.03μmであり、光沢を持った平滑面であった。
【0073】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、膜厚が厚くても、製造過程にて変形を生じることなく、且つ内面が平滑なポリイミド樹脂無端ベルトを得ることができるポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法、及びそれにより得られるポリイミド樹脂無端ベルトを提供することができる。
【0074】
【図面の簡単な説明】
【図1】 環状体により膜厚を制御する浸漬塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】 図1に示す環状体の設置状態を説明するための要部拡大斜視図である。
【図3】 環状体に設けられる孔の壁面の形状を示しており、(a)は傾斜面状の壁面、(b)は曲面状の壁面、(c)は屈曲面状の壁面を示す概略断面図である。
【図4】 環状塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】 回転塗布法に用いる装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】 フッ素樹脂分散液の浸漬塗布方法を説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
1 円筒状芯体
2 ポリイミド前駆体溶液
3 塗布槽
3’ 環状塗布槽
4 ポリイミド前駆体塗膜
5 環状体
6 環状体の孔
7 傾斜状の環状体内壁
8 曲面状の環状体内壁
9 環状シール材
10 屈曲面状の環状体内壁
Claims (1)
- ポリイミド前駆体溶液を、表面粗さRa0.1μm未満の円柱又は円筒状金属芯体表面に塗布し、ポリイミド前駆体塗膜を形成する工程と、
前記ポリイミド前駆体塗膜を前記円柱又は円筒状金属芯体から取り外すことができる程度に乾燥した後、前記円柱又は円筒状金属芯体上でずらす工程と、
前記ポリイミド前駆体塗膜を、加熱させ、ポリイミド樹脂皮膜を形成する工程と、
前記ポリイミド樹脂皮膜を前記円柱又は円筒状金属芯体から剥離する工程と、
を有し、
内面粗さがRa0.1μm未満であるポリイミド樹脂無端ベルトを製造することを特徴とするポリイミド樹脂無端ベルトの製造方法。
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