JP4222082B2 - 繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体およびその製造方法 - Google Patents

繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維に対する塗れ性に優れ、特に各種繊維を不織布に加工する際のバインダーとして好適に用いることができる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エポキシ樹脂やフェノール樹脂の水分散体に代表される熱硬化性樹脂組成物水分散体は、硬化後の耐熱性に優れ様々な工業用分野に応用されている。とりわけ、各種繊維を不織布に加工する際にはこれら熱硬化性樹脂組成物水分散体がバインダーとして用いられており、例えば、芳香族エポキシ樹脂とカルボキシル基含有アクリル樹脂とを有機溶媒中で塩基性化合物の存在下にて反応を行い、これを水性媒体中に分散させた自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に示された熱硬化性樹脂組成物水分散体は、対象とする各種繊維との親和性、すなわち「塗れ性」の制御が困難であり、相性の悪い繊維とバインダーの組み合わせではそれらの性能を活かしきれないと云う欠点がある。やむを得ず塗れ性の改良に表面張力低下作用のある添加剤を用いる場合では加熱処理後も添加剤が系内に残存することがあり、このときはイオン分が高濃度で残ることから特に電子材料用途等には使用できず、また該添加剤の可塑化効果により、強度や耐熱性が低下するという欠点がある。また、生産ラインでは動的な環境でバインダーが使用されため、該バインダーとしての工程適性把握も不十分な点が多いのが実情である。
【0004】
【特許文献1】
特公平7−094338号公報(第2−3頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような実情に鑑み、本発明の課題は、塗れ性が良好となる適性を判断してこれを最適化し、バインダーとして好適に用いることができる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整した際の静的表面張力と動的表面張力が下記の特定の値を有する繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体が繊維との相性やバインダーとしての工程適性に優れること、及び沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物を用いることによって、熱硬化性樹脂組成物の有する特性を損なうことなく、下記の静的表面張力と動的表面張力を併せ持つ繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート(B)と、フェノール樹脂(C)としてトリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂(c1)と、沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物(D)とを含有する繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体であって、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整した際に、ウィルヘルミ法における静的表面張力が33〜54mN/mであり、かつ、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10で、前記「Fa」が65mN/cm以下であることを特徴とする繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を提供するものである。
【0008】
更に、本発明は、沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物を用いて、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整した際に、ウィルヘルミ法における静的表面張力が33〜54mN/mであり、かつ、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10で、前記「Fa」が65mN/cm以下である繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の製造方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体は、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整した際に、ウィルヘルミ法における静的表面張力(以下、静的表面張力と記す。)が33〜54mN/mであり、且つ、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10で、前記「Fa」が65mN/m以下であることを必須とするものである。
【0010】
前記静的表面張力は、クルス社製の自動表面張力計「K12」を用いて測定した値であり、バインダーとして繊維や基材との相性(塗れ性)を判断する際の重要な項目である。この静的表面張力が54mN/mを超えると基材に対する塗れ性が悪くなり、付着量が低下し、不職布等の最終加工物の強度を発現できない。また、静的表面張力が33mN/m未満の場合は、水分散体の流動性が高くなり、この場合も付着量が低下し、強度を発現できないため、静的表面張力が33〜54mN/mの範囲内である事を必須とする。この範囲であれば、バインダーの流動性を制御でき、加工条件の最適化によって最終加工物の強度の最大化を図ることも可能となる。
【0011】
また、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整したときの最大泡圧法による動的表面張力はクルス社製のバブルプレッシャー動的表面張力計「BP−2」を用いて測定したものであり、生産ライン(製造工程)におけるバインダーの繊維に対する塗れ性の良否を判断できる値である。
【0012】
動的表面張力は、泡発生速度によってその値が変動するものである。固形分濃度を15重量%に水含有量を調整したときの前記速度が0.2Hzの時の動的表面張力「Fa」と、5Hzの時の動的表面張力「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10の範囲から外れる場合、または「Fa」が65mN/mを超える場合には、製造工程における生産ライン速度に対する表面張力の変化率が過大であり、かつ、水に近い挙動となるために付着量の制御が極めて困難になる。このため、得られる不織布等の最終加工物の耐熱性や強度等の性能が悪くなり、また、製品品質の一様性が著しく失われ、好ましくない。
【0013】
本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体としては、前述の特性を有するものであれば、用いる熱硬化性樹脂やその他の成分に対して何等制限されるものではなく、従来水分散体として使用されている熱硬化性の樹脂組成物を用いることができ、例えばフェノール樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、メラミン樹脂組成物、尿素樹脂組成物等の水分散体を挙げることができる。
【0014】
これらの中でも、高度の特性を要求される用途、例えば電気絶縁用、強化セメント用、エンジニアリングプラスティック強化用等では、耐熱性、密着性等に優れる点から自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)を用いることが好ましく、特に自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)とブロックイソシアネート(B)を含む組成物を用いることが好ましい。
【0015】
前記自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)としては、例えば、水酸基とカルボキシル基とを有するアクリル化芳香族エポキシ樹脂中のカルボキシル基の一部または全部を塩基性化合物で中和することにより自己水分散化された樹脂が挙げられる。
【0016】
前記自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0017】
▲1▼芳香族エポキシ樹脂(a1)と、(メタ)アクリル酸(a2)を含有する不飽和単量体類(i)を有機溶媒中で重合させて得られるカルボキシル基含有アクリル系樹脂とを、エポキシ基に対してカルボキシル基が過剰となる反応基濃度(当量比)で、塩基性化合物の存在下でエステル化反応させる方法。
▲2▼芳香族エポキシ樹脂(a1)と(メタ)アクリル酸(a2)を含有する不飽和単量体類(i)とを、エポキシ基に対してカルボキシル基が過剰となる反応基濃度(当量比)で、重合開始剤の存在下、有機溶媒中で重合させてカルボキシル基含有アクリル化芳香族エポキシ樹脂を得た後、塩基性化合物でカルボキシル基の一部または全部を中和する方法。
▲3▼無水(メタ)アクリル酸(a3)を用いて芳香族エポキシ樹脂(a1)にアクリロイル基を導入して得られる変性芳香族エポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸(a2)を含有する不飽和単量体類(i)とを、エポキシ基に対してカルボキシル基が過剰となる反応基濃度(当量比)で、重合開始剤の存在下で、有機溶媒中で重合させてカルボキシル基含有アクリル化芳香族エポキシ樹脂を得た後、塩基性化合物でカルボキシル基の一部または全部を中和する方法。
【0018】
なお、自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂の製造時に用いた有機溶媒は、必要に応じて、蒸留除去することができる。また、それぞれの手法で得られた樹脂を水性媒体中に分散させることにより、水分散体を得ることができる。
【0019】
前記芳香族エポキシ樹脂(a1)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、脂肪酸変性芳香族エポキシ樹脂、フェノール系化合物変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂等が挙げられ、単独でも、2種以上の混合物として使用することも可能である。
【0020】
これらの中でも、得られる水分散体を用いた最終加工物の耐熱性に優れる点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、1分子中に平均1.1〜2.0個のエポキシ基を有し、数平均分子量が2,000以上、特に3,000〜6,000のものが特に好ましい。市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート1007」、「エピコート1009」、「エピコート1010」、「エピコート1100L」、大日本インキ化学工業株式会社製の「EPICLON 7050」、「EPICLON HM−091」、「EPICLON HM−101」等が挙げられる。また、これらの芳香族エポキシ樹脂は、必要に応じて、有機溶媒に溶解して用いることもできる。
【0021】
前記有機溶媒としては、用いる芳香族エポキシ樹脂を均一に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ダイアセトンアルコール等の親水性有機溶媒、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等の親油性有機溶媒が挙げられる。これらは単独でも2種以上を併用してもよく、必要に応じて水と併用してもよい。これらの中でも、n−ブタノール、ブチルセロソルブが好ましい。
【0022】
前記(メタ)アクリル酸(a2)を含有する不飽和単量体類(i)としては、必要に応じてその他のエチレン性不飽和カルボン酸(a4)、及びその他のラジカル重合が可能な単量体類(a5)との混合物であっても良いが、該不飽和単量体類(i)中に(メタ)アクリル酸(a2)を50重量%以上含有していることが好ましく、80重量%以上含有することが特に好ましく、(メタ)アクリル酸(a2)単独であることが最も好ましい。
【0023】
ここで併用することができるその他のエチレン性不飽和カルボン酸(a4)としては、例えば、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノn−プチル等の不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル等を挙げることができる。
【0024】
またその他のラジカル重合が可能な単量体類(a5)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸プチル、(メタ)アクリル酸ベンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、2,4−ジブロムスチレン等のエチレン性不飽和芳香族化合物、1,2−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロブレン等の脂肪族共役ジエン単量体、(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のビニリデンハライド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等を挙げることができ、これらの中でも(メタ)アクリル酸エステル、スチレンを用いることが好ましい。
【0025】
前記不飽和単量体類(i)中の(メタ)アクリル酸(a2)、その他のエチレン性不飽和カルボン酸(a4)、その他のラジカル重合可能な単量体類(a5)の混合比としては、得られる自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂の水性媒体中における分散安定性が良好である点から、不飽和単量体類(i)100重量部中、(メタ)アクリル酸(a2)とその他のエチレン性不飽和カルボン酸(a4)の合計(a2)+(a4)が20重量部以上であることが好ましい。
【0026】
これらの不飽和単量体類(i)の重合反応に用いる重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤の使用量としては、不飽和単量体類(i)の総量100重量部に対して、0.01〜20重量部の範囲であることが好ましい。
【0027】
前記カルボキシル基の中和に使用される塩基性化合物としては、各種の物がいずれも使用できるが、揮発性のアミンを用いることが好ましく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン類、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類、モルホリン等が挙げられる。また、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の多価アミンも使用できる。塩基性化合物の使用量としては、水性媒体のpHが5〜8となる量が好ましい。
【0028】
前記の▲1▼の製造方法における芳香族エポキシ樹脂(a1)とカルボキシル基含有アクリル系樹脂との重量比、▲2▼の製造方法における芳香族エポキシ樹脂(a1)と不飽和単量体類(i)との重量比、および▲3▼の製造方法における変性芳香族エポキシ樹脂と不飽和単量体類(i)との重量比としては、いずれも40/60〜90/10の範囲であることが好ましい。また、▲3▼の製造方法における芳香族エポキシ樹脂(a1)と無水(メタ)アクリル酸(a3)との重量比(a1)/(a3)としては90/10〜99.95/0.05の範囲であることが好ましい。
【0029】
また、カルボキシル基(COOH)とエポキシ基(EP)の当量比としては、(COOH/EP)=4/1〜30/1であることが好ましく、特に6/1〜15/1であることが好ましい。
【0030】
また、得られる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の分散安定性が良好で、かつ、これを用いた最終加工物の耐熱性に優れる点から、溶媒を除く総原料中の芳香族エポキシ樹脂(a1)または変性芳香族エポキシ樹脂の使用割合が40重量%以上であることが好ましい。
【0031】
前記▲1▼〜▲3▼の製造方法の中でも、得られる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の硬化性に優れ、且つ自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂の分子量の調整が容易である点から▲1▼の製造方法が好ましい。
【0032】
前記ブロックイソシアネート(B)としては、ポリイソシアネート化合物をブロック剤でブロックして得られる化合物が挙げられる。ここで用いるポリイソシアネート化合物としては、例えば、有機ジイソシアネートと多官能アルコールのアダクト、有機ジイソシアネートと水とのビュレット結合体、有機ジイソシアネートのイソシアヌレート結合体、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0033】
前記有機ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられ、これらの中でもトリレンジイソシアネートが好ましい。
【0034】
前記ブロック剤としては、アルコール類、フェノール類、有機アミン類、オキシム類、ラクタム類等が挙げられる。具体的には、例えば、n−ブタノール、フェノール、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルエチルケトキシム、ε−カプロラクタム等が挙げられ、これらの中でも、加工時の温度条件や安全性に優れる点からメチルエチルケトキシムまたはジメチルエタノールアミンを用いることが好ましい。
【0035】
本発明で用いるブロックイソシアネート(B)の製造方法としては、各種の方法があり特に限定されるものではないが、例えば、有機溶剤中でポリイソシアネート化合物にブロック剤を付加反応させる方法が挙げられる。前記有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等が挙げられ、これらは単独使用でも2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)とブロックイソシアネート(B)の使用割合としては、固形分の重量比で(A)/(B)=100/(20〜50)の範囲で配合することが好ましい。
【0037】
本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物として、前述の自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)とブロックイソシアネート(B)を用いる場合は、必要に応じて、最終加工物の耐熱性を挙げる等の目的の為に、更にフェノール樹脂(C)を用いることが好ましい。
【0038】
前記フェノール樹脂(C)としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合して製造されるノボラック型フェノール樹脂、フェノール類とトリアジン類とアルデヒド類とを反応させて得られるトリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ性または酸性触媒中で反応して得られるレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0039】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノール−A、ナフトール等が挙げられ、これらを単独で用いても、または2種類以上を併用しても良い。前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール等が挙げられ、2種類以上を併用しても良い。前記酸性触媒としては、シュウ酸、酢酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸亜鉛等が挙げられ、これらの中でもイオン性不純物含有量が少ないフェノール樹脂が得られることから、シュウ酸を用いることが好ましい。
【0040】
前記ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、大日本インキ化学工業株式会社製の「フェノライト TD−2090」、「フェノライト VH−4170」、「フェノライト KA−1053L」等が挙げられる。
【0041】
更に耐熱性の優れた最終加工物を得るためには、フェノール樹脂(C)としてトリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることがより好ましい。
【0042】
前記トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とトリアジン環を有する化合物とアルデヒド類との混合物または縮合物からなり、該混合物または縮合物中に未反応アルデヒド類を含まないものが好ましく、フェノール類とトリアジン類とアルデヒド類の縮合物(p)、トリアジン類とアルデヒド類の縮合物(q)、フェノール類とアルデヒド類との縮合物(r)、フェノール類(s)及びトリアジン類(t)の混合物からなり、且つ該縮合物(p)及び該縮合物(q)の中に、下記一般式(1)
(−X−NH−CH−NH−) (1)
(式中、Xはトリアジン類の残基である。)
で示される構成単位(v)と下記一般式(2)
(−X−NH−CH−Y−) (2)
(式中、Xは前記と同じであり、Yはフェノール類の残基である。)
で示される構成単位(w)が、モル比率で[構成単位(w)]/[構成単位(v)]≧1.5を満足する状態で含まれていることが特に好ましく、[構成単位(w)]/[構成単位(v)]≧2であることが最も好ましい。
【0043】
また、トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂中の前記縮合物(p)及び前記縮合物(q)中のトリアジン類の含有率としては、特に制限されるものではないが、得られる最終加工物の耐熱性や耐湿性が良好な点から、フェノール類とトリアジン類とアルデヒド類の縮合物(p)、トリアジン類とアルデヒド類の縮合物(q)、フェノール類とアルデヒド類との縮合物(r)、フェノール類(s)及びトリアジン類(t)の混合物に対して20モル%以上であることが好ましく、100モル%であってもよい。用途によって、所望の最終加工物の物性から適宜調整することができる。
【0044】
前記トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、フェノール類とトリアジン類とアルデヒド類とを任意の順に順次仕込んで反応させる方法が挙げられる。また、前記フェノール類とトリアジン類とアルデヒド類以外の物質を反応させたものを中間体として経由してもよい。反応系の触媒としても、無触媒であっても、金属水酸化物、金属塩、3級アミン、有機カルボン酸等の中から選択して単独や混合で用いてもよい。
【0045】
前記トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂としては、メチロール基を含有していてもよく、メチロール基含有の有無は耐熱性に影響しないが、他の樹脂との混合時の安定性が損なわれる場合は、メチロール基を実質的に含まない樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
前記トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂を得るためのフェノール類としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、オクチルフェノールなどのアルキルフェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシンなどの多価フェノール類等が挙げられ、その使用にあたって一種類のみに限定されるものではなく、2種以上の併用も可能である。トリアジン類としても、トリアジン環を含有すればその構造として特に制限されるものではないが、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンが好ましく、使用に際しても、1種類に限定されるものではなく、2種類以上を併用することも可能である。アルデヒド類としても特に限定されるものではないが、取り扱いの容易さの点から、ホルムアルデヒドが好ましく、その代表的供給源としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。上記条件を満たす市販品としては、大日本インキ化学工業(株)製「フェノライトKA−1356」等が挙げられる。
【0047】
前記レゾール型フェノール樹脂としては、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを、アルカリ水酸化物やアンモニア等のアルカリ触媒下で縮合して得られるレゾール型フェノール樹脂、PH4〜7の条件で2価の金属塩類(例えば、Ca、Mg、Zn、Cd、Pb、Co、Niの酢酸塩、ギ酸塩等)を触媒として反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂、低分子のノボラック型フェノール樹脂とアルデヒド類とをアルカリ触媒下で縮合反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0048】
これらのレゾール型フェノール樹脂の中でも、アンモニア等のアミン類を触媒として縮合して得られるレゾール型フェノール樹脂が、自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)よりも疎水性となり、金属イオン不純物も低減でき、さらに自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)に内包される点から特に好ましい。
【0049】
また、前記レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類と更にトリアジン環を有する化合物とをアルカリ水酸化物やアンモニア等のアルカリ触媒下で縮合して得られるトリアジン類変性レゾール型フェノール樹脂も用いることができる。
【0050】
上述のフェノール樹脂(C)を併用する場合の、前記自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)とブロックイソシアネート(B)とフェノール樹脂(C)の使用割合としては、特に限定されるものではないが、得られる最終加工物の耐熱性、機械的物性等に優れる点から、固形分重量比(A)/(B/(C)が90/5/5〜60/20/20となる範囲であることが好ましい。
【0051】
前述の自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)を用いて、本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸基と一部または全部が塩基性化合物で中和されたカルボキシル基と水酸基とを有する自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)と、該自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)より疎水性であるブロックイソシアネート(B)とフェノール樹脂(C)とが溶解している有機溶剤溶液を、撹拌下で水性媒体中に添加して、あるいは、該有機溶剤溶液中に水性媒体を添加して、転相乳化する方法が挙げられ、転相乳化に際しては、親水性のより高い自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)が、これより疎水性の高いブロックイソシアネート(B)とフェノール樹脂(C)とを内包した状態で安定に分散させることができる。ここで用いる自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)中のカルボキシル基の中和度は、該樹脂(A)が自己水分散化するのに十分な中和度であればよく、特に限定されないが、該カルボキシル基の40モル%以上が中和されている状態であることが分散安定性に優れることから好ましい。また、得られる水分散体のpHとしては5〜8であることが分散安定性に優れることから好ましい。また、用いた有機溶剤は蒸留等によって除去することが好ましい
【0052】
また、水分散体を得るには前述の方法に特に限定されるものではなく、固体状のブロックイソシアネート(B)とフェノール樹脂(C)とをホモジナイザーの等の機械を使用して強制的に水分散化する方法、水溶性のブロックイソシアネート(B)またはフェノール樹脂(C)を予め水分散体とした自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)と混合する方法でも良い。
【0053】
本発明で用いることができる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体としては、必要に応じて、更に沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物(D)を配合することが好ましい。
【0054】
前記化合物(D)は、繊維に対するバインダーの塗れ性を向上させる作用を有するものであり、特に水分散体をバインダーとして用いる場合には、静的及び動的表面張力を低下させる効果を有し、その添加量と沸点を適切に選択することにより、得られる熱硬化性樹脂組成物水分散体を使用した加工工程において除去することが出来、その結果、硬化物特性を低下させることなく、塗れ性を柔軟に最適化できるものである。
【0055】
前記化合物(D)としては、沸点が300℃以下のものであり、前記効果を有するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アセチレンジオール系化合物、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0056】
前記陰イオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等が挙げられる。
【0057】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0058】
前記陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
【0059】
上記の界面活性剤の他に、特殊界面活性剤として、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤を使用することもできる。
【0060】
これらの中でも、特に電気用途等の高度の特性を求められる場合には、非イオン性のアセチレンアルコール系化合物を用いることが好ましい。このタイプの化合物は対イオンとしてのアルカリ金属系陽イオン等を含有しないために繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体中のイオン不純物を増加させることがなく、かつ、加工工程における除去が容易である。更に取り扱い上の容易さの観点から、水の凝固点である0℃以上の融点を持つものが特に好ましく、市販品でこのような特性を満たすものとして、エアープロダクツジャパン株式会社製「サーフィノール61」、「サーフィノール82」等が挙げられる。
【0061】
前記化合物(D)の使用量としては、繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の繊維に対する塗れ性が良好であれば特に限定される物ではないが、前記水分散体の固形分100重量部に対して0.1〜2重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0062】
本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の製造方法としては、該分散体の固形分濃度を15重量%に含有量を調整した際に、ウィルヘルミ法における静的表面張力が33〜54mN/mの範囲内であり、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と、0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10で、「Fa」が65mN/m以下である場合にはこれ以上の操作を必要としないが、前記特性を満たさない場合には、沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物(D)を配合することにより、前記特性を有した本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を得ることができる。
【0063】
前記化合物(D)としては、前述のものが何れも使用することができるが、表面張力の調整が容易で、かつ、加工工程における該化合物(D)の除去が可能である点から、アセチレンアルコール系化合物を用いることが好ましく、高度の特性が求められる電気材料用途にも好適に用いることができる点から特に非イオン性のアセチレンアルコール系化合物を用いることが好ましい。
【0064】
更に、熱硬化性樹脂組成物としては、前記自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)と前記ブロックイソシアネート(B)を含有するものを用いることが好ましい。
【0065】
前記化合物(D)の配合方法としては特に制限されるものではなく、熱硬化性樹脂組成物を水分散する際に水性媒体中に予め添加しておく方法、熱硬化性樹脂組成物に添加し均一化させてから水分散体にする方法等が挙げられる。
【0066】
また、自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)とブロックイソシアネート(B)を用いる場合には、前記自己分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)中に予め混合しておく方法、前記ブロックイソシアネート(B)に予め混合しておく方法、水性媒体中に予め添加しておく方法の何れでも良く、水分散体とした後に添加し混合する方法でも良い。
【0067】
【実施例】
以下に合成例、実施例を挙げて本発明を説明する。なお、実施例中の部および%は特に断りのない限り重量基準である。
【0068】
合成例1〔自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)の合成〕
撹拌装置、温度計、滴下ロートを付し、窒素ガス置換した2リットルの4つ口フラスコにn−ブタノール513部を仕込み、撹拌溶解しながらリフラックス温度に保ち、この中に、スチレン20部とアクリル酸エチル120部とメタクリル酸260部との混合物、および、t−ブチルパーオキシオクトエート14.4部とn−ブタノール109部の混合溶解物を2時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、更に同温度で3時間撹拌し、固形分40%のカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液を得た。
【0069】
撹拌装置、温度計を付し、窒素ガス置換した1リットルの4つ口フラスコにエピコート1010〔ジャパンエポキシレジン株式会社製エポキシ樹脂〕160部と前記で得られたカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液100部とn−ブタノール128部を仕込み、リフラックス温度で2時間撹拌することによって完全に溶解した後、105℃に冷却した。この溶液に、ジメチルエタノールアミン16.9部を仕込み、2時間撹拌することによって固形分53.6%の自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂のn−ブタノール溶液(A−1)を得た。
【0070】
合成例2〔ブロックイソシアネート化合物(C)の合成〕
撹拌装置、温度計を付し、窒素ガス置換した1リットルの4つ口フラスコにバーノックD−750〔大日本インキ化学工業株式会社製ポリイソシアネート化合物〕323部と、メチルエチルケトキシム89部を仕込み、撹拌混合しながら70℃に保ち、発熱終了後、更に同温度で1時間撹拌した。更にn−ブタノール207部を加えて1時間撹拌して、固形分53.5%のブロックイソシアネートのn−ブタノール溶液(C−1)を得た。
【0071】
合成例3[水分散体の調整]
撹拌装置、温度計を付し、窒素ガス置換した1リットルの4つ口フラスコに、合成例1で得られた自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂のn−ブタノール溶液(A−1)200部を仕込み、これを90℃まで加熱し撹拌しながら、トリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂KA−1356〔大日本インキ化学工業株式会社製〕の粉末20部を投入し、30分攪拌した後、合成例2で得られたブロックイソシアネートのn−ブタノール溶液(C−1)40部を投入し、更に15分間撹拌した。続いて、30分間かけてイオン交換水397部を滴下し、更に、減圧下にてn−ブタノールを水蒸気蒸留により留去して、固形分20%、pH7.4の水分散体を得た。
【0072】
実施例1
合成例3で得られた水分散体100部に、サーフィノール61〔エアープロダクツジャパン株式会社製〕を0.2部添加し撹拌によって均一にし、本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体(Z−1)を得た。
【0073】
実施例2
合成例3で得られた熱硬化性樹脂組成物水分散体100部に、サーフィノール104〔エアープロダクツジャパン株式会社製〕を0.2部添加し撹拌によって均一にし、本発明の繊維バインダー用熱硬化性水性樹脂組成物水分散体(Z−2)を得た。
【0074】
参考例1
撹拌装置、温度計、滴下ロートを付し、窒素ガス置換した1リットルの4つ口フラスコに、合成例1で得られた自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂200部を仕込み、ここにイオン交換水335部を30分かけて滴下して、固形分20%の水性分散体535部を得た。更にCR−62B〔大日本インキ化学工業株式会社製ブロックイソシアネート樹脂の水分散体、固形分44%〕49部とイオン交換水58部を加えて撹拌し、均一にすることで固形分20%の本発明の繊維バインダー用熱硬化性水性樹脂組成物水分散体(Z−3)を得た。
【0075】
比較例1
合成例3で得られた熱硬化性樹脂組成物水分散体をそのまま用いた[繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体(Z−4)と記す]。
【0076】
実施例1〜2、参考例1及び比較例1で得られた繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体(Z−1)〜(Z−4)100部に更にイオン交換水33.3部を加え均一に撹拌し、固形分15%に調整した。これを用いて、ウィルヘルミ法における静的表面張力と、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」、0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
Figure 0004222082
【0078】
比較例である、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」、0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比が1.11である熱硬化性樹脂組成物水分散体(Z−4)にサーフィノール61、サーフィノール104を添加することによって、本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物分散体に調整できることを確認した。
【0079】
試験例1〜3、及び比較試験例1
実施例1〜3、及び比較例1で得られた固形分20%の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体(Z−1)〜(Z−4)を用いて、最終加工物の耐熱性の目安となる動的粘弾性試験を実施した。また、繊維等との相性の良否を判断する方法として厚みの異なる2種のアプリケーターを用いた塗装によるハジキの有無を確認し、更に密着性の試験を実施し、バインダーとしての性能を評価した。これらの試験結果を試験例1〜3及び比較試験例1として表2にまとめて記す。尚、各種の試験方法及び評価方法は以下の通りである。
【0080】
動的粘弾性試験(DMA)の試験方法
ガラス板に両面テープを用いて貼り付けたポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)の上に、繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体の固形分100部に対して15部のDBE(デュポン社製造膜助剤)を加えたものを、乾燥膜厚が70μmになるようにアプリケーターで塗布し、90℃で2時間乾燥させ、更に250℃で30分間加熱硬化させた後、フィルムを単離したものを試料として、歪み制御方式による固体粘弾性測定装置RSA−2(レオメトリックス社製)を用い、大きさ7×22mm、周波数1Hz、負荷歪み0.05%(長さ基準)、昇温速度3℃/分、測定温度50〜300℃での条件で測定したデータから、tanδが最大となる温度〔tanδ(max)〕を求める。
【0081】
濡れ性試験(ハジキ)の試験方法
繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を固形分濃度を15%に水分含有量を調整し、これを用いて、無処理のPETフィルム上に幅50mm、0.5mm厚及び0.25mm厚のアプリケーターを用いて常温にて塗布する。この時アプリケーターは、30cmの長さを1秒で移動するように動かし、その時の塗膜の状態が幅50mmより狭く変化することによる、ハジキの有無を目視にて確認する。
【0082】
密着性試験(剥がし耐性)
前述のDMA測定用サンプルと同一の方法でフィルムを作成し、JIS K5400 8.5.2に規定のある碁盤目テープ法により評価を行う。
【表2】
Figure 0004222082
【0083】
本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を用いた試験例1〜3では、塗れ性・密着性に優れており、バインダーとして好適に用いることができることを確認した。特に塗装の厚みを変えて実施した「ハジキ」の試験結果より、本発明の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体では繊維に対して薄く均一にレベリングすることが可能であり、繊維バインダー用として好適に用いることができることを示唆するものである。また、フェノール樹脂を併用している繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体を用いた試験例1〜2では、耐熱性に優れている事も確認した。一方、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比が1.10を超える比較例で用いた繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体では、塗れ性・密着性に劣り、実用的なレベルではないことを確認した。
【0084】
【発明の効果】
本発明によれば、塗れ性が良好となる適性を判断してこれを最適化し、バインダーとして好適に用いることができる繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体、およびその製造方法を提供することができる。

Claims (4)

  1. 自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート(B)と、フェノール樹脂(C)としてトリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂(c1)と、沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物(D)とを含有する繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体であって、固形分濃度を15重量%に水含有量を調整した際に、ウィルヘルミ法における静的表面張力が33〜54mN/mであり、かつ、最大泡圧法における泡発生速度が5Hzの時の動的表面張力値「Fa」と0.2Hzの時の動的表面張力値「Fb」との比Fa/Fbが1.00〜1.10で、前記「Fa」が65mN/cm以下であることを特徴とする繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体。
  2. 自己水分散型アクリル化芳香族エポキシ樹脂(A)が、ビスフェノール型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を含有する不飽和単量体類から得られるカルボキシル基含有アクリル系樹脂とを反応させて得られるものである請求項記載の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体。
  3. ブロックイソシアネート(B)のブロック剤がメチルエチルケトキシムまたはジアルキルアルカノールアミン類である請求項記載の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体。
  4. 沸点が300℃以下の表面張力調整作用のある化合物(D)がアセチレンアルコール系化合物である請求項記載の繊維バインダー用熱硬化性樹脂組成物水分散体。
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