JP4222047B2 - 転がり軸受の固定構造 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、ハンドルコラム用の転がり軸受等の転がり軸受の固定に用いれば好適な転がり軸受の固定構造に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、転がり軸受の固定構造としては、特開平１１−３４２８５３号公報（特許文献１）に示されたものがある。この転がり軸受の固定構造は、車両用ステアリングのハウジングであるコラムチューブに転がり軸受を固定している。
【０００３】
上記コラムチューブには、軸方向にコ字状の開口部が打ち抜きにより形成されており、上記コ字状の開口部の内側に舌片が形成されている。また、上記舌片と対向する上記コ字状の開口部の反対側には、ストッパが形成されており、上記コ字状の開口部の周方向の両側には、一対の押圧部が形成されている。上記ストッパおよび一対の押圧部は、上記舌片以外のコ字状の開口部の縁部を、コラムチューブの径方向の内側に窪ませて形成している。
【０００４】
この転がり軸受の固定構造では、転がり軸受の外輪の軸方向の一方の端面が上記ストッパに突き当たるまで転がり軸受をコラムチューブの内側に挿入した後、上記舌片の先端が、上記外輪の他方の端面に接触するまで、舌片をコラムチューブの内周面より内側に折り曲げると共に、上記一対の押圧部が、上記外輪の外周面に接触して上記外輪を強固に押圧するまで、上記一対の押圧部をコラムチューブの内周面より内側に更に窪ませて、転がり軸受をコラムチューブに固定している。
【０００５】
また、他の転がり軸受の固定構造に用いられる転がり軸受としては、図２に示すようなものがある。この転がり軸受は、外輪３１と内輪３２とを有する。上記外輪３１の内周の断面円弧状の軌道面３１ａと内輪３２の外周の断面円弧状の軌道面３１ｂとの間に、保持器３４によって保持された複数の玉３３,３３,３３・・・を、周方向に一定の間隔を隔てて配置している。上記転がり軸受は、外輪３１の外周面に設けられた環状溝３５と、外輪３１の外周側に存在する図示しないハウジングとの間にＯリング３６を介装して、このＯリング３６で外輪３１およびハウジングの双方を段発付勢するようにして、外輪３１をハウジングに固定するようにしている。上記Ｏリング３６は、内輪３１の内側に存在する図示しないシャフトからの衝撃を吸収して減衰させる役割も担っている。上記転がり軸受では、外輪３１の径方向の肉厚を確保するために、環状溝３５を、外輪３１の径方向の肉厚が厚い外輪３１の軸方向の端部の外周面に設けている。
【０００６】
【特許文献１】
特開平１１−３４２８５３号公報（第１図、第４図）
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献１の転がり軸受の固定方法では、コラムチューブにコ字状の貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要があるので、コラムチューブを製造するときの工数が多大になり、コラムチューブの製造コストが増大するという問題がある。
【０００８】
また、上記従来の転がり軸受の固定方法では、上記一対の押圧部が上記外輪の外周面を強固に押圧するまで、押圧部をコラムチューブの内周面より内側に押圧するようにしたので、転がり軸受の外輪が径方向の内側に変形して、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きるという問題がある。
【０００９】
一方、図２に示すＯリングを有する転がり軸受をハウジングに固定する転がり軸受の固定方法では、外輪の肉厚を確保するために環状溝を小さくする必要があるので、これに応じてＯリングの径が小さくなり、結果としてシャフトからの衝撃を吸収して減衰させるダンパー効果が小さくなるという問題がある。
【００１０】
そこで、本発明の目的は、製造コストが小さく転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きなくて、ダンパー効果が大きな転がり軸受の固定構造を提供することにある。
【００１１】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項１の発明の転がり軸受の固定構造は、
複列の軌道を有するプレス鋼板製の外輪と、上記外輪の複列の軌道の各々に対応する軌道を有する複数の単列の内輪と、上記外輪の複列の軌道と上記複数の単列の内輪の軌道との間に配置される複列の玉列とを有する転がり軸受を、この転がり軸受の外輪が内嵌されるハウジングに固定する転がり軸受の固定構造であって、
上記外輪は、外周面における上記複列の軌道面の間に対応する部分に、略同じ肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部をプレス成形によって、径方向の内側に全周に亘って窪ませて形成した環状の凹部を有し、
上記外輪の軸方向の断面において、上記外輪の凹部は、その凹部の軸方向の一端部から他端部まで滑らかな曲線状の形状を有し、
上記外輪の凹部と上記ハウジングとで挟持するように、上記外輪の凹部と上記ハウジングとの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装したことを特徴としている。
【００１２】
上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間に対応する部分に凹部を形成する一方、上記外輪の外周面の凹部とハウジングの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装して、上記外輪をハウジングに固定しているので、上記ハウジングに従来のように貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がない。したがって、ハウジングを少ない工数で安価に形成できて、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００１３】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分に形成された凹部に適合するように、上記凹部とハウジングとの間に変形自在な弾性体を介装して、外輪をハウジングに固定しているので、外輪の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることもない。
【００１４】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面に対応する部分に上記凹部を形成したので、例えば、同じ径方向の肉厚を有する外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分を径方向の内側にへこますことによって上記凹部を形成できて、この場合、外輪の肉厚を小さくすることなしに、弾性体の大きさを従来に比べて格段に大きくできる。したがって、回転シャフトからの衝撃を、吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
また、請求項２の発明の転がり軸受の固定構造は、
請求項１に記載の転がり軸受の固定構造において、
上記玉は、上記外輪の軸方向において上記弾性体に重なる部分を有している。
【００１５】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【００１６】
図１は、この発明の一実施形態の転がり軸受の固定構造を示す軸方向の断面図である。
【００１７】
この転がり軸受の固定構造は、ハウジング１と、転がり軸受１０とを備える。上記転がり軸受１０は、二列のアンギュラ玉軸受であり、一つのプレス鋼板製の外輪３と、二つの同一の内輪５,６とを有する。
【００１８】
上記外輪３は、略同じ肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部をプレス成形によって径方向の内側に全周に亘って窪ませて形成した環状の凹部２０を有する一方、内周面には、二つの軌道面３ａ,３ｂが左右対称に形成されている。上記外輪３の外周面の軸方向の両端部は、ハウジング１の内周面に嵌合している。
【００１９】
一方、上記二つの内輪５,６は、夫々同じ肉厚を有する円筒の軸方向の一端部を、径方向の外側に湾曲させた形状を有している。上記二つの内輪５,６の湾曲させられた端部の内周面には、夫々一つの軌道面５ａ,６ａが形成されている。上記二つの内輪５,６の夫々を、環状のスペーサ８を介して図示しない回転シャフトに外嵌している。この環状のスペーサ８は、内輪５,６に締まり嵌め状態で嵌合し、内輪５,６が軸方向にばらけることを防止する役割を担っている。
【００２０】
上記二つの内輪５,６は、軌道面５ａ,６ａの夫々が外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの夫々に対向するように、湾曲部を軸方向の外側に配置した状態で、左右対称に配置されている。
【００２１】
上記外輪３の二列の軌道面３ａ,３ｂと、二つの単列の内輪５,６の軌道面５ａ,６ａとの間に、図示しない保持器によって保持された複数の玉７,７,７・・・を、二列に配置している。
【００２２】
この転がり玉軸受は、二つの内輪５,６の軌道面５ａ,６ａの夫々と、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの夫々を対向配置したとき、玉７と軌道面３ａ,３ｂ,５ａ,６ａとの接触角がθ（＞０°）になるように設計されており、スラスト荷重とラジアル荷重を受けることができるようになっている。
【００２３】
また、上記外輪３の環状の凹部２０とハウジング１との間には、弾性体の一例としてのニトリルゴム製のＯリング１５が介装されている。このＯリング１５は、外輪３およびハウジング１を弾発付勢して外輪３をハウジング１に強固に固定する役割と、上記回転シャフトからの衝撃を吸収減衰する役割とを担っている。
【００２４】
上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの間の部分に対応する外周面に環状の凹部２０を形成し、この環状の凹部２０とハウジング１との間に、外輪３およびハウジング１を弾発付勢するＯリング１５を介装して、外輪３をハウジング１に強固に固定する構造にしたので、ハウジング１に従来のように貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がない。したがって、ハウジング１を少ない工数で安価に形成できて、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００２５】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの間に対応する外周面の部分に形成された環状の凹部２０に適合するように、凹部２０とハウジング１との間にＯリング１５を介装するので、外輪３の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることがない。
【００２６】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、略同じ径方向の肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部を、径方向の内側に全周に亘って窪ませて外輪３の凹部２０を形成するので、外輪３の肉厚を小さくすることなしに、Ｏリング１５の大きさを従来に比べて格段に大きくできて、回転シャフトからの衝撃を吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
【００２７】
尚、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、外輪３の内周に軸方向に隣接する二つのアンギュラ型の軌道面３ａ,３ｂを形成すると共に、二つの内輪５,６の外周の夫々にアンギュラ型の軌道面５ａ,５ｂを形成したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、外輪の内周に軸方向に隣接する二つの円弧状の軌道面を形成すると共に、内輪の外周に円弧状の軌道面を形成しても良い。
【００２８】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、外輪３の内周に軸方向に隣接する二つの軌道面３ａ,３ｂを形成して、この二つの軌道面３ａ,３ｂの間に対応する外周に環状の凹部２０を形成したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、外輪の内周に軸方向に隣接する三つ以上の軌道面を形成して、任意の隣接する二つの軌道面の間に環状の凹部を形成するようにしても良い。
【００２９】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、二つの内輪５,６と回転シャフトの間に環状のスペーサ１８を挿入したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、環状のスペーサを省略して、内輪を回転シャフトに直接嵌合しても良い。
【００３０】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、弾性体の一例としてのＯリング１５の材質としてニトリルゴムを採用したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、弾性体の一例としてのＯリングの材質として、シリコンゴム、フッ素ゴムまたはエチレンプロピレンゴム等のニトリルゴム以外のゴム材質を採用しても良い。また、この発明の転がり軸受の固定構造では、弾性体として、エラストマーや銅や銅に銀メッキを施した金属等の軟性の金属材質を採用しても良い。また、弾性体の断面形状としては、球形に限らず、楕円回転体であっても良い。
【００３１】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、環状の凹部２０とハウジングとの間に、弾性体の一例としてのＯリング１５を介装させたが、この発明の転がり軸受の固定構造では、環状の凹部とハウジングとの間に、弾性体の一例としての角リングを介装しても良い。
【００３２】
尚、この発明の転がり軸受の固定構造を、車両（自転車、自動車等のステアリングを備えた乗物）のステアリングコラム用の転がり軸受等の回転速度が小さい回転シャフトを支持する転がり軸受に適用すると、コスト低減等の効果が得られて特に有益であるが、この発明の転がり軸受の固定構造は、回転速度が小さい回転シャフトを支持する転がり軸受に限定されるものではなく、この発明の転がり軸受の固定構造を、回転速度が大きなシャフトを支持する転がり軸受に適用しても良いことは勿論である。
【００３３】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、外輪の外周面における複列の軌道面の間に対応する部分に凹部を形成し、上記外輪の外周面の凹部とハウジングの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装して、上記外輪を上記ハウジングに固定するので、上記ハウジングに貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がなくて、上記ハウジングを少ない工数で安価に形成でき、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００３４】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分に形成された凹部に適合するように、上記凹部とハウジングとの間に弾性体を介装して、外輪をハウジングに固定するので、外輪の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることもない。
【００３５】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面に対応する部分に上記凹部を形成したので、同じ径方向の肉厚を有する外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分を径方向の内側にへこますことによって上記凹部を形成できて、外輪の肉厚を小さくすることなしに、弾性体の大きさを従来に比べて格段に大きくできる。したがって、回転シャフトの衝撃を、吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の一実施形態の転がり軸受の固定構造の軸方向の断面図である。
【図２】 従来の転がり軸受の固定構造を構成する転がり軸受の軸方向の断面図である。
【符号の説明】
１ ハウジング
３ 外輪
３ａ,３ｂ,５ａ,６ａ 軌道面
５,６ 内輪
７ 玉
１０ 玉軸受
１５ Ｏリング
２０ 凹部
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、ハンドルコラム用の転がり軸受等の転がり軸受の固定に用いれば好適な転がり軸受の固定構造に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、転がり軸受の固定構造としては、特開平１１−３４２８５３号公報（特許文献１）に示されたものがある。この転がり軸受の固定構造は、車両用ステアリングのハウジングであるコラムチューブに転がり軸受を固定している。
【０００３】
上記コラムチューブには、軸方向にコ字状の開口部が打ち抜きにより形成されており、上記コ字状の開口部の内側に舌片が形成されている。また、上記舌片と対向する上記コ字状の開口部の反対側には、ストッパが形成されており、上記コ字状の開口部の周方向の両側には、一対の押圧部が形成されている。上記ストッパおよび一対の押圧部は、上記舌片以外のコ字状の開口部の縁部を、コラムチューブの径方向の内側に窪ませて形成している。
【０００４】
この転がり軸受の固定構造では、転がり軸受の外輪の軸方向の一方の端面が上記ストッパに突き当たるまで転がり軸受をコラムチューブの内側に挿入した後、上記舌片の先端が、上記外輪の他方の端面に接触するまで、舌片をコラムチューブの内周面より内側に折り曲げると共に、上記一対の押圧部が、上記外輪の外周面に接触して上記外輪を強固に押圧するまで、上記一対の押圧部をコラムチューブの内周面より内側に更に窪ませて、転がり軸受をコラムチューブに固定している。
【０００５】
また、他の転がり軸受の固定構造に用いられる転がり軸受としては、図２に示すようなものがある。この転がり軸受は、外輪３１と内輪３２とを有する。上記外輪３１の内周の断面円弧状の軌道面３１ａと内輪３２の外周の断面円弧状の軌道面３１ｂとの間に、保持器３４によって保持された複数の玉３３,３３,３３・・・を、周方向に一定の間隔を隔てて配置している。上記転がり軸受は、外輪３１の外周面に設けられた環状溝３５と、外輪３１の外周側に存在する図示しないハウジングとの間にＯリング３６を介装して、このＯリング３６で外輪３１およびハウジングの双方を段発付勢するようにして、外輪３１をハウジングに固定するようにしている。上記Ｏリング３６は、内輪３１の内側に存在する図示しないシャフトからの衝撃を吸収して減衰させる役割も担っている。上記転がり軸受では、外輪３１の径方向の肉厚を確保するために、環状溝３５を、外輪３１の径方向の肉厚が厚い外輪３１の軸方向の端部の外周面に設けている。
【０００６】
【特許文献１】
特開平１１−３４２８５３号公報（第１図、第４図）
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献１の転がり軸受の固定方法では、コラムチューブにコ字状の貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要があるので、コラムチューブを製造するときの工数が多大になり、コラムチューブの製造コストが増大するという問題がある。
【０００８】
また、上記従来の転がり軸受の固定方法では、上記一対の押圧部が上記外輪の外周面を強固に押圧するまで、押圧部をコラムチューブの内周面より内側に押圧するようにしたので、転がり軸受の外輪が径方向の内側に変形して、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きるという問題がある。
【０００９】
一方、図２に示すＯリングを有する転がり軸受をハウジングに固定する転がり軸受の固定方法では、外輪の肉厚を確保するために環状溝を小さくする必要があるので、これに応じてＯリングの径が小さくなり、結果としてシャフトからの衝撃を吸収して減衰させるダンパー効果が小さくなるという問題がある。
【００１０】
そこで、本発明の目的は、製造コストが小さく転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きなくて、ダンパー効果が大きな転がり軸受の固定構造を提供することにある。
【００１１】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項１の発明の転がり軸受の固定構造は、
複列の軌道を有するプレス鋼板製の外輪と、上記外輪の複列の軌道の各々に対応する軌道を有する複数の単列の内輪と、上記外輪の複列の軌道と上記複数の単列の内輪の軌道との間に配置される複列の玉列とを有する転がり軸受を、この転がり軸受の外輪が内嵌されるハウジングに固定する転がり軸受の固定構造であって、
上記外輪は、外周面における上記複列の軌道面の間に対応する部分に、略同じ肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部をプレス成形によって、径方向の内側に全周に亘って窪ませて形成した環状の凹部を有し、
上記外輪の軸方向の断面において、上記外輪の凹部は、その凹部の軸方向の一端部から他端部まで滑らかな曲線状の形状を有し、
上記外輪の凹部と上記ハウジングとで挟持するように、上記外輪の凹部と上記ハウジングとの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装したことを特徴としている。
【００１２】
上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間に対応する部分に凹部を形成する一方、上記外輪の外周面の凹部とハウジングの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装して、上記外輪をハウジングに固定しているので、上記ハウジングに従来のように貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がない。したがって、ハウジングを少ない工数で安価に形成できて、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００１３】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分に形成された凹部に適合するように、上記凹部とハウジングとの間に変形自在な弾性体を介装して、外輪をハウジングに固定しているので、外輪の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることもない。
【００１４】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面に対応する部分に上記凹部を形成したので、例えば、同じ径方向の肉厚を有する外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分を径方向の内側にへこますことによって上記凹部を形成できて、この場合、外輪の肉厚を小さくすることなしに、弾性体の大きさを従来に比べて格段に大きくできる。したがって、回転シャフトからの衝撃を、吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
また、請求項２の発明の転がり軸受の固定構造は、
請求項１に記載の転がり軸受の固定構造において、
上記玉は、上記外輪の軸方向において上記弾性体に重なる部分を有している。
【００１５】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【００１６】
図１は、この発明の一実施形態の転がり軸受の固定構造を示す軸方向の断面図である。
【００１７】
この転がり軸受の固定構造は、ハウジング１と、転がり軸受１０とを備える。上記転がり軸受１０は、二列のアンギュラ玉軸受であり、一つのプレス鋼板製の外輪３と、二つの同一の内輪５,６とを有する。
【００１８】
上記外輪３は、略同じ肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部をプレス成形によって径方向の内側に全周に亘って窪ませて形成した環状の凹部２０を有する一方、内周面には、二つの軌道面３ａ,３ｂが左右対称に形成されている。上記外輪３の外周面の軸方向の両端部は、ハウジング１の内周面に嵌合している。
【００１９】
一方、上記二つの内輪５,６は、夫々同じ肉厚を有する円筒の軸方向の一端部を、径方向の外側に湾曲させた形状を有している。上記二つの内輪５,６の湾曲させられた端部の内周面には、夫々一つの軌道面５ａ,６ａが形成されている。上記二つの内輪５,６の夫々を、環状のスペーサ８を介して図示しない回転シャフトに外嵌している。この環状のスペーサ８は、内輪５,６に締まり嵌め状態で嵌合し、内輪５,６が軸方向にばらけることを防止する役割を担っている。
【００２０】
上記二つの内輪５,６は、軌道面５ａ,６ａの夫々が外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの夫々に対向するように、湾曲部を軸方向の外側に配置した状態で、左右対称に配置されている。
【００２１】
上記外輪３の二列の軌道面３ａ,３ｂと、二つの単列の内輪５,６の軌道面５ａ,６ａとの間に、図示しない保持器によって保持された複数の玉７,７,７・・・を、二列に配置している。
【００２２】
この転がり玉軸受は、二つの内輪５,６の軌道面５ａ,６ａの夫々と、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの夫々を対向配置したとき、玉７と軌道面３ａ,３ｂ,５ａ,６ａとの接触角がθ（＞０°）になるように設計されており、スラスト荷重とラジアル荷重を受けることができるようになっている。
【００２３】
また、上記外輪３の環状の凹部２０とハウジング１との間には、弾性体の一例としてのニトリルゴム製のＯリング１５が介装されている。このＯリング１５は、外輪３およびハウジング１を弾発付勢して外輪３をハウジング１に強固に固定する役割と、上記回転シャフトからの衝撃を吸収減衰する役割とを担っている。
【００２４】
上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの間の部分に対応する外周面に環状の凹部２０を形成し、この環状の凹部２０とハウジング１との間に、外輪３およびハウジング１を弾発付勢するＯリング１５を介装して、外輪３をハウジング１に強固に固定する構造にしたので、ハウジング１に従来のように貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がない。したがって、ハウジング１を少ない工数で安価に形成できて、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００２５】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、外輪３の二つの軌道面３ａ,３ｂの間に対応する外周面の部分に形成された環状の凹部２０に適合するように、凹部２０とハウジング１との間にＯリング１５を介装するので、外輪３の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることがない。
【００２６】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造によれば、略同じ径方向の肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部を、径方向の内側に全周に亘って窪ませて外輪３の凹部２０を形成するので、外輪３の肉厚を小さくすることなしに、Ｏリング１５の大きさを従来に比べて格段に大きくできて、回転シャフトからの衝撃を吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
【００２７】
尚、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、外輪３の内周に軸方向に隣接する二つのアンギュラ型の軌道面３ａ,３ｂを形成すると共に、二つの内輪５,６の外周の夫々にアンギュラ型の軌道面５ａ,５ｂを形成したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、外輪の内周に軸方向に隣接する二つの円弧状の軌道面を形成すると共に、内輪の外周に円弧状の軌道面を形成しても良い。
【００２８】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、外輪３の内周に軸方向に隣接する二つの軌道面３ａ,３ｂを形成して、この二つの軌道面３ａ,３ｂの間に対応する外周に環状の凹部２０を形成したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、外輪の内周に軸方向に隣接する三つ以上の軌道面を形成して、任意の隣接する二つの軌道面の間に環状の凹部を形成するようにしても良い。
【００２９】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、二つの内輪５,６と回転シャフトの間に環状のスペーサ１８を挿入したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、環状のスペーサを省略して、内輪を回転シャフトに直接嵌合しても良い。
【００３０】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、弾性体の一例としてのＯリング１５の材質としてニトリルゴムを採用したが、この発明の転がり軸受の固定構造では、弾性体の一例としてのＯリングの材質として、シリコンゴム、フッ素ゴムまたはエチレンプロピレンゴム等のニトリルゴム以外のゴム材質を採用しても良い。また、この発明の転がり軸受の固定構造では、弾性体として、エラストマーや銅や銅に銀メッキを施した金属等の軟性の金属材質を採用しても良い。また、弾性体の断面形状としては、球形に限らず、楕円回転体であっても良い。
【００３１】
また、上記実施形態の転がり軸受の固定構造では、環状の凹部２０とハウジングとの間に、弾性体の一例としてのＯリング１５を介装させたが、この発明の転がり軸受の固定構造では、環状の凹部とハウジングとの間に、弾性体の一例としての角リングを介装しても良い。
【００３２】
尚、この発明の転がり軸受の固定構造を、車両（自転車、自動車等のステアリングを備えた乗物）のステアリングコラム用の転がり軸受等の回転速度が小さい回転シャフトを支持する転がり軸受に適用すると、コスト低減等の効果が得られて特に有益であるが、この発明の転がり軸受の固定構造は、回転速度が小さい回転シャフトを支持する転がり軸受に限定されるものではなく、この発明の転がり軸受の固定構造を、回転速度が大きなシャフトを支持する転がり軸受に適用しても良いことは勿論である。
【００３３】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、外輪の外周面における複列の軌道面の間に対応する部分に凹部を形成し、上記外輪の外周面の凹部とハウジングの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装して、上記外輪を上記ハウジングに固定するので、上記ハウジングに貫通穴、ストッパおよび押圧部を形成する必要がなくて、上記ハウジングを少ない工数で安価に形成でき、転がり軸受の固定構造の製造コストを大幅に低減できる。
【００３４】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分に形成された凹部に適合するように、上記凹部とハウジングとの間に弾性体を介装して、外輪をハウジングに固定するので、外輪の外周面が過度に変形することがなくて、転がり軸受のラジアル隙間詰まりが起きることもない。
【００３５】
また、上記請求項１の発明の転がり軸受の固定構造によれば、上記外輪の外周面における上記複列の軌道面に対応する部分に上記凹部を形成したので、同じ径方向の肉厚を有する外輪の外周面における上記複列の軌道面の間の部分を径方向の内側にへこますことによって上記凹部を形成できて、外輪の肉厚を小さくすることなしに、弾性体の大きさを従来に比べて格段に大きくできる。したがって、回転シャフトの衝撃を、吸収減衰するダンパー効果を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の一実施形態の転がり軸受の固定構造の軸方向の断面図である。
【図２】 従来の転がり軸受の固定構造を構成する転がり軸受の軸方向の断面図である。
【符号の説明】
１ ハウジング
３ 外輪
３ａ,３ｂ,５ａ,６ａ 軌道面
５,６ 内輪
７ 玉
１０ 玉軸受
１５ Ｏリング
２０ 凹部
Claims (2)
- 複列の軌道を有するプレス鋼板製の外輪と、上記外輪の複列の軌道の各々に対応する軌道を有する複数の単列の内輪と、上記外輪の複列の軌道と上記複数の単列の内輪の軌道との間に配置される複列の玉列とを有する転がり軸受を、この転がり軸受の外輪が内嵌されるハウジングに固定する転がり軸受の固定構造であって、
上記外輪は、外周面における上記複列の軌道面の間に対応する部分に、略同じ肉厚を有する円筒の軸方向の略中心部をプレス成形によって、径方向の内側に全周に亘って窪ませて形成した環状の凹部を有し、
上記外輪の軸方向の断面において、上記外輪の凹部は、その凹部の軸方向の一端部から他端部まで滑らかな曲線状の形状を有し、
上記外輪の凹部と上記ハウジングとで挟持するように、上記外輪の凹部と上記ハウジングとの間に、上記外輪および上記ハウジングを弾発付勢する弾性体を介装したことを特徴とする転がり軸受の固定構造。 - 請求項１に記載の転がり軸受の固定構造において、
上記玉は、上記外輪の軸方向において上記弾性体に重なる部分を有していることを特徴とする転がり軸受の固定構造。
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