JP4204776B2 - 梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法、抗菌剤および抗菌剤の使用方法 - Google Patents

梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法、抗菌剤および抗菌剤の使用方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法および抗菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年食塩摂取量を低減することが高血圧等の生活習慣病の予防に望ましいことが明らかになり、消費者の低塩食品を嗜好する傾向が強くなっている。従来塩が多用されていた伝統的保存食品である梅干しおよび漬物類もこの例外ではなく、塩分濃度の低減された低塩梅干しおよび低塩漬物が商品化されている。
【0003】
たとえば梅干しは、梅の果実重量に対する重量百分率で18〜22%の塩を用いて製造するけれども、低塩化された商品では、塩分をほぼ20%程度含んで製造された梅干しを水に浸漬する脱塩処理を行って塩分濃度7〜12%に薄め、その後種々の成分を含む調味料を用いて味付けされている。
【0004】
本来長期間の保存に耐えうる食品であった梅干しおよび漬物類が前述のように低塩化されることによって、従来に比べて製造後の短い期間経過でかびや細菌などの微生物の発生を起こすことがあり、これらの微生物発生による品質劣化が問題とされるようになっている。このような問題を解決する手段として、低塩化された梅干しおよび漬物類には、抗菌剤や日持ち向上剤などが添加され、微生物の発生を防止している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
低塩梅干しおよび低塩漬物類などの抗菌および防かびを目的として従来用いられている抗菌剤および日持ち向上剤は、たとえばビタミンB1ラウリル硫酸塩および酢酸などである。これらの抗菌剤および日持ち向上剤は、その添加量を多くすることによって低塩梅干しおよび低塩漬物類であってもかびなどの微生物の発生を防止することができるけれども、添加量の増加にともなって抗菌剤および日持ち向上剤特有の臭気および味が顕著に現れるので、梅干しおよび漬物類本来の味および香気が損なわれるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、梅干しおよび漬物類など食品本来の味および香気を損なうことなく、食品の抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性を向上することができる抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤、抗変異原剤の製造方法および抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤、抗変異原剤を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、梅の果実を塩漬けして生成される漬け液である梅酢を吸着剤に接触させ、梅酢から抽出される抗菌活性成分を含む抽出成分を吸着剤に吸着し、
吸着剤に吸着された抽出成分を脱着剤によって脱着し、
抽出成分と脱着剤とを分離することを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法である。
【0008】
ここで抗菌とは、かび、酵母および細菌類の発生を防止し、その増殖を抑制する抗かび、抗酵母および抗細菌を含む広い意味で用いられる。
【0012】
本発明に従えば、自然食品である梅酢を原料とし、梅酢から抽出される抗菌活性成分を含む抽出成分を吸着剤に吸着させた後、吸着剤から脱着し、さらに脱着剤と分離するという効率的な方法で、抗菌剤を製造することができる。このことによって、梅干しの副生物として生成しその用途が少なく経済的価値の低い梅酢を有効に利用することができるとともに、食品衛生の観点から安全であり、また食品本来の味および香気を損なうことのない抗菌剤を提供することができる。
【0013】
また本発明は、前記の方法によって製造される抗菌剤を食品の調味液または漬け液に添加し、
前記調味液または漬け液を食品の調味または漬け汁に使用した後の調味廃液または漬け廃液を吸着剤に接触させて前記抽出成分を吸着剤に吸着し、
吸着剤に吸着された前記抽出成分を脱着剤によって脱着し、
前記抽出成分と脱着剤とを分離することを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法である。
【0014】
本発明に従えば、梅酢を原料として製造された抗菌剤を食品の調味液または漬け汁などに使用し、使用済みの廃液をさらに吸着剤に接触させて抽出成分を吸着させ、吸着させた抽出成分を脱着し、脱着剤と抽出成分とを分離する。すなわち使用された後の廃液中に含まれる抗菌剤を再び抽出し製造することができる。このことによって、梅酢という資源を無駄に消費することを防止し、また原料に梅酢の抽出成分を含む使用済みの廃液をリサイクルして利用できるので、製品である抗菌剤を安価に製造し提供することが可能になる。
【0015】
また本発明は、前記吸着剤は、ポリスチレンまたはポリアクリルとジビニルベンゼンとの共重合体であることを特徴とする。
【0016】
本発明に従えば、吸着剤はポリスチレンまたはポリアクリルとジビニルベンゼンとの共重合体からなる合成吸着剤である。この合成吸着剤は、汎用素材であるので入手が容易であり、また前記抽出成分の吸着性能にも優れるので、複雑な構成および過程を要することなく簡単に梅酢を原料とする抗菌剤の製造を実現することができる。
【0017】
また本発明は、前記の方法によって製造されることを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤である。
【0021】
本発明に従えば、自然食品である梅酢を原料とし、抗菌活性および梅の果実に由来する独特の香気性に加えて、さらに抗酸化活性をも備える抽出成分を得ることができ、この抽出成分は抗菌剤として利用することができる。このようにして得られる抗菌剤は、食品衛生上安全についてはまったく問題が無く、また食品本来の味と香気とを損なうことがないので、食品に対する添加剤として好適に使用することができる。また従来梅干しの副生物としてほとんど経済的価値の見出されていなかった梅酢の有効利用を実現することができる。
【0026】
また本発明は、前記の抗菌剤を食品に添加し、
食品の抗菌活性を向上することを特徴とする抗菌剤の使用方法である。
【0027】
本発明に従えば、自然食品である梅酢を原料とし、梅酢から抽出される抗菌活性成分を含む抽出成分からなる抗菌剤を食品に添加し、抗菌を実現するので、食品本来の味および香気を損なうことなく抗菌活性を向上することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態である梅酢を原料とする抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤および抗変異原剤の製造方法を説明するフローチャートである。図1に示すフローチャートを用いて梅酢を原料とする抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤および抗変異原剤の製造方法を説明する。
【0029】
ステップs1では、原料である梅酢を準備する。ここで梅酢とは、梅の果実を塩漬けして生成される漬け液であり、たとえばその組成の1例を表1に示す。なお梅酢は、紫蘇が加えられているものであっても良い。ステップs2では、梅酢を吸着剤に接触させて抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性成分を含む抽出成分を吸着させる。なお吸着剤が既使用のものである場合、梅酢を接触させる前にたとえば蒸留水によって平衡化すなわち洗浄するステップを設ける。
【0030】
図2は、抽出成分を吸着する吸着器1の構成を簡略化して示す斜視図である。本実施の形態の吸着器1は、ハウジング2と、蓋材3と、蓋材3に設けられる供給管4と、供給管4に設けられる第1フィルタ5と、ハウジング2内に収容される吸着剤6と、吸着剤6と同様にハウジング2内に収容される第2フィルタ7と、排出管8とを含む。
【0031】
ハウジング2は、外形が円筒状の形状を有する合成樹脂製の中空容器であり、その高さ方向の一端部9には底面部10が設けられて封止され、他端部11には開口部12が形成される。蓋材3は、ハウジング2の開口部12を覆うための部材であり、外形が円筒状の形状を有する合成樹脂製の中空容器であり、その高さはハウジング2よりも短い寸法に形成される。蓋材3の一端部は開口し、他端部には上板13が設けられて封止される。蓋材3の開口部の内径は、ハウジング2の他端部11と嵌合できる寸法に形成される。蓋材3の上板13のほぼ中央部には貫通孔が形成され、貫通孔には梅酢をハウジング2内に供給するための供給管4が装着される。
【0032】
供給管4は合成樹脂製の管であり、一端部14において前記蓋材3に装着され、他端部15は梅酢の供給源に接続される。また供給管4には第1フィルタ5が設けられ、第1フィルタ5は除塵フィルタであり、ハウジング2内に供給される梅酢に含まれる細かなごみ等を除去する。
【0033】
ハウジング2内に収容されて前記抽出成分を吸着する吸着剤6は、たとえばポリスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体からなる合成樹脂製の吸着剤である。ポリスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体からなる吸着剤6は、たとえばDIANON HP−20(商品名:三菱化学製)によって実現することができる。本実施の形態では、吸着器1の概略寸法は、直径:15cm,高さ:50cmでその内容積は約8.8リットルであり、ハウジング2内には吸着剤6を8〜8.5リットル収容することができる。8〜8.5リットルの吸着剤6によって、約150〜200リットルの梅酢の吸着処理を行うことができる。
【0034】
吸着器1内を梅酢が流過する流過方向の吸着剤6の下流側には、さらに第2フィルタ7が設けられる。第2フィルタ7はグラスフィルタであり、前記第1フィルタ5を通過した微細な塵埃等が第2フィルタ7によって除去される。ハウジング2の底面部10のほぼ中央部には貫通孔が形成され、貫通孔には排出管8が装着される。排出管8は合成樹脂製の管であり、その他端部においてハウジング2の底面部10に装着され、一端部16の排出口からは抽出成分が吸着剤6によって吸着された残余の梅酢が排出される。吸着器1への梅酢の供給手段は、手作業によって梅酢を供給管4に注いでも良く、また梅酢の貯留槽からポンプによって供給管4に送給しても良い。
【0035】
再び図1を参照してステップs3では、抽出成分を吸着した吸着剤6に脱着剤を接触させて抽出成分を脱着する。脱着剤にはエチルアルコール(CH3CH2OH)を用いた。図2に示す吸着器1に梅酢に代えてエチルアルコールを流過させ、エチルアルコールによって吸着剤6に吸着している抽出成分を脱着する。抽出成分を脱着し、排出管8から排出されるエチルアルコールを図示しない容器に収容する。なおエチルアルコールによる脱着処理の前に、吸着器1に蒸留水を流過させて吸着剤6を洗浄しても良い。
【0036】
ステップs4では、抽出成分と脱着剤であるエチルアルコールとを分離する。エチルアルコールの沸点は約78℃であり、抽出成分の沸点との差異を利用してエチルアルコールのみを気化させて抽出成分と分離することができる。気化分離に際しては、たとえば0.2〜0.3気圧程度の減圧雰囲気において実施することによって、エチルアルコールの沸点をさらに低下させることができるので、一層容易にエチルアルコールと抽出成分との分離を実現することができる。
【0037】
このようにして、梅酢を原料として抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性成分を含む抽出成分を抽出し、抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤および抗変異原剤を製造することができる。
【0038】
【表1】
Figure 0004204776
【0039】
前述のようにして得られる梅酢からの抽出成分には、有機酸および塩類たとえば表1に示すクエン酸およびNaClは含有されていないので、抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性を発現するのは、有機酸および塩類ではない。
【0040】
発明者らは、抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性を発現する有効成分について、有機酸および塩類を除く梅酢の残余の成分をさらに詳細に検討の結果、未だ全容を明らかにするには至っていないけれども、少なくとも以下の一般式(I)によって示される化学構造を有するアリルテトラリン骨格を有するリグナン類が寄与していると考えられる。
【0041】
抽出成分に含まれるアリルテトラリン骨格を有するリグナン類の代表的なものは、一般式(I)におけるR1=R2=H,R3=R5=R6=R8=OCH3,R4=R7=OHからなるリオニレシノールである。リオニレシノールは、化学的および熱的に安定な物質であり、食品に添加された場合、経時的に変化することがなくまた加熱等によって変化することがないので、抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性の効果を安定して持続させるとともに、これを含有する液体からの抽出と利用とを繰返し行うことを可能にする。
【0042】
なお本発明の抽出成分による抗菌活性、香気性、抗酸化活性および抗変異原活性の効果は、リオニレシノールによって代表されるアリルテトラリン骨格を有するリグナン類のみによって発現されるものではなく、未だ不分明であるけれどもさらなる有効成分との重畳作用ないし相乗作用による効果であると考えられる。
【0043】
【化1】
Figure 0004204776
【0044】
(前記一般式(I)において、置換基R1,R2はメチル基またはプロトンのいずれか一種で構成される。置換基R3,R4,R5,R6,R7,R8は、メトキシル基、水酸基またはプロトンのいずれか一種で構成される。代表的なものとしてリオニレシノール(Lyoniresinol:R1=R2=H,R3=R5=R6=R8=OCH3,R4=R7=OH)があげられる。)
【0045】
以下本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
試験に供される梅酢を原料とする抽出成分は次のようにして作成された。図3は、梅酢を原料とする抽出成分の作成手順を示す図である。図3を参照して抽出成分の作成手順を説明する。20リットルの梅酢と吸着剤である前記DIAION HP−20のコラム(内径:10cm,高さ:11cm)とを準備した。吸着剤を蒸留水によって平衡化した後、梅酢を吸着剤に流過させて抽出成分を吸着させた。20リットルの蒸留水によって吸着剤を洗浄し、脱着剤として1.5リットルのエチルアルコールを吸着剤に流過させて抽出成分を脱着させた。約0.3気圧の減圧環境下において、抽出成分とエチルアルコールとを60℃に加熱し、エバポレータを用いてエチルアルコールと抽出成分とを分離するとともに抽出成分を濃縮した。その結果20gの抽出成分を製造することができた。
【0046】
(実施例2)
梅干しおよび梅酢中には、耐塩性を備える酵母が存在する。酵母は梅干しの食味の一要素でもあり、その存在は必要であるけれども、過剰に増殖すると発酵が進み品質劣化の原因となる。ここでは実施例1によって得られた抽出成分の抗菌活性を酵母の増殖抑制効果の有無を調べることによって試験した。
【0047】
試験は以下の方法によった。蒸留水によって2倍に希釈した梅酢(以後、2倍希釈梅酢と呼ぶ)と4倍に希釈した梅酢(以後、4倍希釈梅酢と呼ぶ)とに産膜酵母(S13株)を植え付けて106cell/mL(ミリリットル)になるようにし、28℃で24時間培養した。この産膜酵母を接種した2倍希釈梅酢および4倍希釈梅酢の培地に、実施例1によって得た抽出成分の濃度を4段階に変化させたもの、すなわち0.2g/L(リットル)、1.0g/L、5.0g/Lおよび25g/Lの濃度の抽出成分を含む液を添加したものと、抽出成分を添加しないものとを準備した。4段階に変化させた各濃度の抽出成分を添加したものと、抽出成分を添加しないものとを、28℃で48時間それぞれ培養した。
【0048】
培養の後、培地における産膜酵母の状態を観察した。観察の結果、産膜酵母の生育が認められなかったものを「−」とし、生育が認められたものを「+」として抗菌活性を評価した。評価結果を表2に示す。なお表2中で抽出成分濃度「0g/L」は、抽出成分の添加されていないことを示す。
【0049】
4倍希釈梅酢培地および2倍希釈梅酢培地のいずれにおいても濃度5.0g/L以上の抽出成分を添加することによって産膜酵母の増殖が阻害された。このことから、抽出成分は高い抗菌活性を有し、抗菌剤として有用であることが明らかである。
【0050】
【表2】
Figure 0004204776
【0051】
(実施例3)
実施例1によって得られた抽出成分の抗菌活性を試験した。試験は以下の方法によった。3種類のかびと5種類の細菌と1種類の酵母とをそれぞれ培地に植え付け、さらに各培地に実施例1によって得た抽出成分の濃度を3段階に変化させたもの、すなわち5g/L、10g/Lおよび20g/Lの濃度の抽出成分を含む液を添加したものと、抽出成分を添加しないものとを準備した。3段階に変化させた各濃度の抽出成分を添加したものと、抽出成分を添加しないものとを、28℃で48時間それぞれ培養した。なお培地は、ペプトンとグルコースとを添加した2%寒天溶液により作成した。
【0052】
培養の後、培地におけるかび、酵母および細菌の生育の状態を観察した。観察の結果、かび、酵母および細菌がそれぞれ生育が認められなかったものを「−」とし、生育が認められたものを「+」として抗菌活性を評価した。評価結果を表3に示す。なお表3中で抽出成分濃度「0g/L」は、抽出成分の添加されていないことを示す。
【0053】
細菌類であるProteus vulgaris IFO3851においてのみ、増殖阻害効果の発現が認められていないけれども、その他の細菌類、かびおよび酵母に対しては、5g/Lないし20g/Lの濃度の抽出成分を添加することによって生育阻害効果が発現された。このことから、抽出成分は高い抗細菌活性、防かび活性および防酵母活性を有し、抗菌剤として有用であることが明らかである。
【0054】
【表3】
Figure 0004204776
【0055】
(実施例4)
梅の果実を塩漬けにした後紫蘇を加えた梅酢20Lを準備し、その他は実施例1と同様の作成手順によって得られた抽出成分の香気性および色調を試験した。試験は以下の方法によった。塩分濃度が約10%の低塩梅干しを調味する調味液として、本実施例4には、アミノ酸系調味料、還元水あめ、甘味剤および酸味料等を調整した調味液に対して1重量%になるように前記抽出成分を添加したものを準備し、比較例1には、前記抽出成分に代えてビタミンB1ラウリル硫酸塩を調味液に対して0.5重量%になるように添加したものを準備した。
【0056】
低塩梅干しを、実施例4の調味液と比較例1の調味液のそれぞれに21日間浸漬し、浸漬後の低塩梅干しの香気と色調とを官能検査によって試験して香気性および色調を評価した。評価結果を表4に示す。
【0057】
本実施例4の低塩梅干しは、梅の香りが豊かであり鮮紅色の明るい色調を呈するのに対して、比較例1の低塩梅干しは、顕著なビタミン臭を有し暗紫色の暗い色調を呈した。このことから、抽出成分は高い香気性を有し、香気増強剤として有用であることが明らかである。また抽出成分は色調を明るくする効果のあることから、自然素材の着色料としても好適である。
【0058】
【表4】
Figure 0004204776
【0059】
(実施例5)
実施例1によって得られた抽出成分の抗酸化活性を試験した。抗酸化活性は、リノール酸の自動酸化により生成された過酸化脂質を測定することにより行った。試験に供する試料は以下のようにして準備した。
【0060】
抽出成分と1.3%リノール酸とを含むエチルアルコール(99.5%)1mLと、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)0.5mLと、蒸留水1mLと、ラジカル発生剤として0.5M2,2´-アゾビス-2-アミジノプロパン塩酸塩(AAPH)0.01mLとを10mL容の試験管に採取し、良く撹拌混合した後密栓した。エチルアルコール中に含まれる抽出成分は、調整後の試料液において濃度が16ppm,80ppmおよび400ppmの3段階になるように変化させたものをそれぞれ準備した。
【0061】
なお比較例2〜4として、次の試料を準備した。比較例2には、抽出成分に代えて抗酸化剤であるジ第3ブチルパラクレゾール(BHT)を濃度16ppmになるように加えたもの、比較例3には、抽出成分に代えて抗酸化剤であるα−トコフェロール(以後、α−Tocと呼ぶ)を濃度16ppmになるように加えたもの、また比較例4には、抽出成分、BHTおよびα−Tocのいずれをも含まない試料(以後、ブランク:Blankと呼ぶ)を準備した。本実施例および比較例2〜4を40℃の恒温器内に20時間放置し、放置後の試料から抗酸化活性の指標である過酸化脂質生成量およびラジカル消去率を測定し、過酸化脂質生成量およびラジカル消去率によって抗酸化活性を評価した。
【0062】
過酸化脂質生成量の測定は、ロダン鉄法により500nmにおける前記試料の吸光度を測定することにより行った。各試料について吸光度の測定をそれぞれ3回ずつ行い、3回の測定値a1,a2,a3の平均値{=(a1+a2+a3)/3}を各試料の測定値とした。比較例4であるブランク試料の吸光度(1.0を超えた状態にある)の測定値を100とし、ブランク試料の吸光度に対する各試料の吸光度測定値の百分率を求め、百分率の小さい方が抗酸化活性に優れていると評価した。
【0063】
ラジカル消去率は、次のようにして求めた。75%エチルアルコール2mLと、前記各試料50μLと、0.5mM1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)0.5mLとを良く混和し、混和したものを室温に30分間放置した後、517nmの吸光度を測定した。
【0064】
前記比較例4に代えてエチルアルコールをブランク試料に用いて測定したブランク試料の吸光度と各試料について測定した吸光度とを用い、次の式(1)によってDPPHラジカル消去率を求めた。すなわち被測定物中においてDPPHが消去することによって、吸光度の減衰する度合いを測定してDPPHラジカル消去率を求めた。式(1)によるDPPHラジカル消去率の値が大きいほど抗酸化活性が高いと評価した。
DPPHラジカル消去率(%)={1−(試料の吸光度/ブランク試料の吸光度)}×100 …(1)
【0065】
図4は過酸化脂質生成量の測定結果を示す図であり、図5はラジカル消去率を測定した結果を示す図である。試験結果を図4および図5に示す。過酸化脂質生成量については、80ppm濃度の抽出成分を添加することによって、BHTとほぼ同等の過酸化脂質生成抑制能を発現することが認められた。またラジカル消去率についても、80ppm濃度の抽出成分を添加することによって、α−To cとほぼ同等のDPPHの消去能を発現することが認められた。このことから、抽出成分は抗酸化活性を有し、抗酸化剤として有用であることが明らかである。
【0066】
(実施例6)
実施例1によって得られた抽出成分の抗変異原活性を試験した。試験は以下のAmes法によった。指示菌にはSalmonella typhimurium TA100を用い、このSalmonella typhimurium TA100を予めニュートリエンプロス溶液中で37℃、16時間振とう培養した。直接変異原物質には、エチルメタンスルホン酸(EMS)を用い、間接変異原物質には、変異原活性発現に薬物代謝酵素(S-9max)による代謝活性化を必要とする3−アミノ−1−メチル−5H−ピリド[4,3−b]インドール(Trp-P-2)を用いて変異誘導を行わせた。培養した指示菌と変異原性物質であるEMSまたはTrp-P-2とを混合し、混合したものに3種類の濃度すなわち65ppm,650ppmおよび6500ppmに調整された抽出成分をそれぞれ加え、軟寒天をさらに加えて混合しプレートに重層した。
【0067】
37℃で48時間保持した後、プレート上に生じた復帰変異コロニー数を測定した。自然突然変異による復帰コロニー数をNegativeとし、直接または間接変異原物質により誘発させた復帰コロニー数をPositiveとし、各濃度の抽出成分添加時にEMSもしくはTrp-P-2により誘発された復帰コロニー数をSampleとし、次の式(2)によって求める復帰変異率によって抗変異原活性を評価した。復帰変異率の値が小さいほど抗変異原活性が高いと評価した。
復帰変異率(%)=100×(Sample−Negative)/(Positive−Negative) …(2)
【0068】
図6はEMSによる変異に対する抽出成分の抗変異原活性を示す図であり、図7はTrp-P-2による変異に対する抽出成分の抗変異原活性を示す図である。図6および図7に試験結果を示すように、抽出物質濃度の増加に伴って、EMSおよびTrp-P-2のいずれの変異原物質に対しても復帰変異率が減少する傾向があり、抽出成分の抗変異原活性が認められた。特に間接変異原物質であるTrp-P-2に対しては、抽出物質の濃度増加に伴って、復帰変異率は顕著に減少する傾向を示した。このことから、抽出成分は抗変異原活性を有し、抗変異原剤として有用であることが明らかである。
【0069】
以上に述べたように、本実施の形態では、ハウジング2の内部空間に吸着剤6を収容する吸着器1に梅酢を流過させることによって、梅酢と吸着剤とを接触させる構成であるけれども、これに限定されることなく、梅酢を貯留槽に準備し、吸着剤6を貯留槽内の梅酢に浸漬し、梅酢を撹拌することによって抽出成分を吸着剤に吸着させる構成であっても良い。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、梅干しの副生物として生成しその用途が少なく経済的価値の低い梅酢を有効に利用することができるとともに、食品衛生の観点から安全であり、また食品本来の味および香気を損なうことのない抗菌剤を提供することができる。
【0071】
また本発明によれば、使用された後の廃液中に含まれる抗菌剤を再び抽出し製造するので、梅酢という資源を無駄に消費することを防止できる。また原料に梅酢の抽出成分を含む使用済みの廃液をリサイクルして利用できるので、製品である抗菌剤を安価に製造し提供することが可能になる。
【0072】
また本発明によれば、梅酢を原料として製造される抗菌剤を食品に添加し、抗菌を実現するので、食品本来の味および香気を損なうことなく抗菌活性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態である梅酢を原料とする抗菌剤、香気増強剤、抗酸化剤および抗変異原剤の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2】抽出成分を吸着する吸着器1の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図3】梅酢を原料とする抽出成分の作成手順を示す図である。
【図4】過酸化脂質生成量の測定結果を示す図である。
【図5】ラジカル消去率を測定した結果を示す図である。
【図6】EMSによる変異に対する抽出成分の抗変異原活性を示す図である。
【図7】 Trp-P-2による変異に対する抽出成分の抗変異原活性を示す図である。
【符号の説明】
1 吸着器
2 ハウジング
3 蓋材
6 吸着剤

Claims (5)

  1. 梅の果実を塩漬けして生成される漬け液である梅酢を吸着剤に接触させて梅酢から抽出される抗菌活性成分を含む抽出成分を吸着剤に吸着し、
    吸着剤に吸着された抽出成分を脱着剤によって脱着し、
    抽出成分と脱着剤とを分離することを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法。
  2. 前記請求項に記載の方法によって製造される抗菌剤を食品の調味液または漬け液に添加し、
    前記調味液または漬け液を食品の調味または漬け汁に使用した後の調味廃液または漬け廃液を吸着剤に接触させて前記抽出成分を吸着剤に吸着し、
    吸着剤に吸着された前記抽出成分を脱着剤によって脱着し、
    前記抽出成分と脱着剤とを分離することを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法。
  3. 前記吸着剤は、
    ポリスチレンまたはポリアクリルとジビニルベンゼンとの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の梅酢を原料とする抗菌剤の製造方法。
  4. 前記請求項1記載の方法によって製造されることを特徴とする梅酢を原料とする抗菌剤。
  5. 前記請求項4記載の抗菌剤を食品に添加し、
    食品の抗菌活性を向上することを特徴とする抗菌剤の使用方法
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