JP4192282B2 - 焼鈍分離剤用MgOの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器や発電機などの鉄心に使用される方向性電磁鋼板の製造時に用いる、フォルステライト系絶縁被膜形成のために好適な焼鈍分離用MgO とその製造方法を提案するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、鋼板を構成する結晶の方向を磁化させるのに有利な(110) 001 方位に、2次再結晶現象を利用して揃えた鋼板である。2次再結晶生成の方法は、微細に分散析出したAIN, MnSおよびMnSeなどのインヒビターが1次再結晶粒の成長を抑制する作用を用い、結晶方位の優れた核のみを異常粒成長させることにより方位の優れた粒からなる結晶組織の製品を得るものである。
【0003】
かかる方向性電磁鋼板は一般的に、熱間圧延工程によりインヒビターを鋼中に微細に分散させ、冷間圧延工程によって最終板厚にすると同時に、結晶組織の適正化を図り、最終仕上げ焼鈍において2次再結晶させると同時に鋼板表面にフォルステライト系のセラミックス被膜を形成させるものであるが、このフォステライト系絶縁被膜は次に述べる方法により形成される。
【0004】
すなわち、所望の板厚に冷間圧延した電磁鋼板は湿水素中で700 〜900 ℃の温度で1次再結晶焼鈍(必要により脱炭焼鈍も兼ねる)され、その後MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布しコイル状に巻取って2次再結晶と鋼の純化とを目的とする最終仕上げ焼鈍が施される。この時、1次再結晶焼鈍で鋼板表面に生成した SiO2 を含むサブスケールと塗布されたMgO とが反応することで絶縁被膜が形成される。
【0005】
かかる絶縁被膜は少量のスピネル(MgAl2O4)や窒化チタン(TiN) を含有することはあっても、主成分としてフォルステライト(Mg2SiO4)からなるので、フォルステライト被膜、フォルステライト質あるいはフォルステライト系被膜と呼称されており、この被膜が製品の外観や電気絶縁性の良否を決定するもので、不均一な被膜の場合は製品の製造歩止りを低下させる。また、フォルステライト系被膜の生成過程は鋼板表層のインヒビター分解挙動にも影響を与え2次再結晶ともかかわってくるので、この被膜の良否が製品の磁気特性の良否にも少なからぬ影響を及ぼす。
したがって、かかる被膜の特性を向上させることは方向性電磁鋼板の製造技術として極めて重要な位置をしめている。
【0006】
フォルステライト系被膜形成反応の一方の原料である焼鈍分離剤について、その主要構成物であるMgO はかかる被膜形成反応に多大な影響を及ぼすことが知られており、これに関してはこれまで数多くの研究がなされてきた。
【0007】
例えば、特公昭41−3726号公報(けい素鋼材料を被覆する方法)では焼鈍分離剤として用いるMgO の1次粒子粒度に着目し、1次粒子の粒径が170 〜280 Å(0.017 〜0.028 μm )の範囲に入るような水和反応が容易に進行する種類のMgO をスラリーとして塗布し鋼板を実質的に純粋な水酸化マグネシウムで被覆する方法が、特公昭45−14162号公報(けい素鋼板の表面に電気絶縁被膜を生成させる方法)によれば、不純物の含有量が0.2 %以下の水酸化マグネシウムを低温と高温の2段階で焼成して得られた3μm 以下の大きさの粒子を少なくとも70%以上含むMgO を用いることがそれぞれ提案されている。また、特公昭54−14566号公報(方向性けい素鋼板にMgO − SiO2 系被膜を形成する方法)には44μm 以上の粒子を1〜20%含有する不活性MgO が、これに対し特公昭57−45472号公報(方向性珪素鋼板のフォルステライト絶縁被膜形成方法)には所定の純度と比表面積および1次粒子径を有する低活性のMgO で、クエン酸との反応における活性度において活性度分布の狭いMgO がそれぞれ提案されている。
【0008】
さらに、特公昭56−15787号公報(方向性珪素鋼板のフォルステライト絶縁被膜の形成方法)にはMgO 中のCaO と水和量の合計値を所定範囲以下に制御する技術が、特開平1−177376号公報(均一なグラス被膜と優れた磁気特性を得るための方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤)には水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、高純度酸化マグネシウムを原料として焼成するMgO 中のCaO とBの含有量の積の値およびクエン酸活性度の値を所定範囲に制御したMgO が、そして、特公平7−45322号公報(酸化マグネシウム組成物の製造方法)にはClを含有したMg(OH)2 にホウ素化合物を所定量添加し高水蒸気分圧下で焼成したMgO がそれぞれ提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これらの技術によって、被膜の点状欠陥(ベアスポット)、密着性不良、被膜形成不良(テンパーカラー)、被膜模様および白膜等の問題が解決されてきたが、近年下記のような新たな問題が発生するようになった。
【0010】
すなわち、方向性電磁鋼板製造コストの低減のためコイルの大型化が進行したこと、ならびにMgO の製造コストの低減のためその焼成法として従来のマッフル炉を用いる方法からロータリキルンを採用するようになってきたこと、これらによって鋼板板幅方向中央部において被膜の変色や密着性の劣化および磁気特性の劣化が頻繁に生じるようになった。
【0011】
前述のようにフォルステライト被膜は脱炭焼鈍後の鋼板表面に生成した SiO2 を含むサブスケールとMgO との反応により最終仕上げ焼鈍時に形成されるが、この反応の時期が被膜や磁気特性の制御のためには重要である。例えば低温度から被膜形成反応が進行する場合には、被膜はテンパーカラー、黒色模様や点状欠陥が発生し、磁気特性は方位の劣る2次再結晶粒が成長して劣化する。逆に高温度になって被膜形成反応が進行する場合、被膜は白膜や密着性不良となり、磁気特性は2次再結晶不良のため劣化する。
【0012】
したがって、被膜形成反応の活性を調節することが重要であり、反応の一翼を担うMgO の活性度を制御することが従来より行われてきたが、この反応の活性は当然のことながらMgO の活性度によるのみでなく、脱炭焼鈍板表面に生成した SiO2 を含むサブスケールの活性度、および最終仕上げ焼鈍時のコイル層間の雰囲気とも関連している。
【0013】
1次再結晶焼鈍時の酸化によって鋼板表面に生成したサブスケールの活性度は1次再結晶焼鈍温度や雰囲気酸化性が低くなるにしたがい低下する。また、鋼中にSbやAlが含有されることによってもサブスケールの活性度は低下する。最終仕上げ焼鈍時のコイル層間雰囲気に関しては焼鈍分離剤中のMgO の水和水から発生するH2O の分圧や通入雰囲気のH2分圧によって変化し雰囲気の酸化性が高くなると反応が抑制される。特に、コイルが大型になるとコイルの中心部のコイル層間の雰囲気の酸化性が過剰に高くなり、被膜欠陥や磁気特性の劣化が発生する傾向が強くなる。
【0014】
従来、マッフル炉で焼成されたMgO の活性度分布は極めて広く、また従来は、方向性電磁鋼板のコイルも小型のため、鋼板成分の差異や脱炭焼鈍温度や雰囲気酸化性の変化によるサブスケールの活性度の変化に対して十分対応でき上述の問題は発生しなかった。
【0015】
しかしながら、ロータリキルンで焼成されたMgO では特公昭57−45472号公報に示されるように活性度分布が極めて狭く、コイルの大型化や脱炭焼鈍板表面サブスケールの活性度の変化に対して十分な対応ができず、上述のような鋼板板幅方向の中央部における被膜欠陥や磁気特性の劣化などの問題が発生し大きな問題となってきた。また、ロータリキルンで焼成したMgO については、焼成ロット内における均一性は極めて優れるが、焼成時間が短いためロット間でのバラツキが大きいということから、製造チャンスによって製品の良、不良の大きな波が発生するという問題も起きている。これらの問題に対して前述の先行技術の適用は有効な効果をあげることができず、その解決が必要とされてきた。
【0016】
さらに、ロータリキルンで焼成されたMgO 特有の問題として焼成分離剤をコイルに塗布する際、MgO がスラリー中で凝集しやすく、スラリーの粘度が低下して不均一に塗布されたり、配管の詰まりを起こしたり、鋼板表面に凝集物が付着して鋼板に押し傷の欠陥を生成する不具合が発生したりし、これらの解決が必要とされてきた。
【0017】
したがって、この発明は上記した問題点を有利に解決し、大型のコイルにおいて、ロータリキルン焼成のMgO を焼鈍分離剤の主成分として用いた場合にも、優れた被膜特性と磁気特性とが得られる方向性電磁鋼板製造のための焼鈍分離剤用MgO 製造方法を提案することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前述の問題に関し、ロータリキルンで焼成されたMgO の表面性状を詳細に調査した結果、MgO の表面が平滑であり、例えば酸との反応性にも弱い極めて化学的に安定した活性度の低いものであることがわかり、これが、諸々の問題の原因ではないかと考えた。これに対し従来のマッフル炉で焼成した、MgO の表面は多種多様で個々のMgO 粒子によって異なり、上記ロータリキルンで焼成のMgO の表面性状に近いものも存在するが、凹凸の激しい、酸との反応性の高いMgO 粒子が多数存在していた。
【0019】
かかる酸との反応性の高いMgO 粒子をロータリキルンで焼成するためには焼成温度を低下すればよいことは容易に考えられるが、焼成温度を低下する手法によっては表面活性の高いMgO を得ても、CAA値やIg・loss、比表面積など他のMgO の粉体特性も大きく変化し、方向性電磁鋼板製造のための焼鈍分離剤用のMgO としては有利に適合するものが得られなかった。
【0020】
そこで、他の手法を鋭意探索するうち、MgO 焼成の原料となるMg(OH)2 のサイズを適正に粗大化しかつ、結晶子サイズを適正化することにより、MgO の粉体特性をさほど変化させずにMgO の表面活性を高め得ることを発見した。かかる発見をもとにロータリキルン焼成によるMgO の使用時における諸々の問題を有利に解決し、さらに粉体特性の均一性というこのロータリキルン焼成MgO の長所を有効に生かし、この発明は完成されたものである。
すなわち、この発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0023】
(1)方向性電磁鋼板の製造時に用いる焼鈍分離剤用MgO の製造方法であって、Mg成分を含有する物質を原料として、850 ℃以上で焼成してMgO としたのち、水和させてMg(OH) 2 とする際、前記焼成の温度と時間を調整することにより、比表面積 :4.0 〜15.0m2/g、c軸平均結晶子径:25〜150 nmおよびa軸平均結晶子径:50〜1200nmを満たすサイズのMg(OH)2 とし、上記サイズに調整したMg(OH)2 をロータリキルンで最終焼成してMgO とする際、前記最終焼成の焼成温度と焼成時間を調整することにより、40%CAA:60〜100 秒間、80%CAA:250 〜400 秒間、比表面積 :12〜35m2/gおよびIg・loss :0.7 〜1.8 wt%を満たす特性のMgO することとからなる焼鈍分離剤用MgO の製造方法(第1発明)。
【0024】
(2)原料からロータリキルンでの最終焼成前までの中間材料に有効微量分を添加調整し、最終焼成後のMgO 中の有効微量成分の含有量を制御することを特徴とする第1発明に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法(第2発明)。
【0025】
(3)最終焼成後のMgO 中の有効微量成分がCaおよび/またはClであり、それらの含有量をそれぞれ
Ca:0.10〜1.0 wt%、
Cl:0.01〜0.08wt%
を満たす範囲に制御することを特徴とする第2発明に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法(第3発明)。
【0026】
(4)Mgを含有する物質として、海水、鹹水または塩基性炭酸マグネシウムのうちの1種または2種以上を用いることを特徴とする第1、2または3発明に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法(第4発明)。
【0027】
ここで、CAA(Citric Acid Activity) とは、クエン酸とMgO との反応活性度を測定するもので、温度:30℃、0.4 Nのクエン酸水溶液中に40%(40%CAA)または80%(80%CAA)の最終反応当量のMgO を投与し攪拌しつつ、最終反応までの時間(クエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間)を測定し、この時間で活性度を評価する方法である。
【0028】
また、Ig・lossとは、MgO を1000℃の温度まで加熱した際の重量減少百分率( wt%: 以下単に%であらわす) である。これによって主としてMgO 中に含まれる微量なMg(OH)2 の含有率を推定することがてきるものである。
【0029】
さらに、Mgを含有する物質とは、食塩などの製造過程で発生する苦汁や海水および鹹水などを初期原料として、これに石灰乳などを投入して生成するMg(OH)2 やMgCl、そのほか塩基性炭酸マグネシウムや炭酸マグネシウムなど、焼成によりMgO が生成する物質のことをいう。
なお、Mg(OH)2 のc軸結晶子径およびa軸結晶子径とは、Mg(OH)2 の6角板状粒子を構成する単結晶体の<001 >方向および<100 >方向の軸径を表わすもので、X線の回折ピーク幅の拡がりのうち、装置固有の拡がりの寄与を除いて測定されるものである。
さらに、比表面積はBET法など1点や多点のガス吸着量を基に粉体の表面積を求める一般的測定により得られる。
【0030】
【発明の実施の形態】
まず、この発明に至った実験例について以下に述べる。
Siを3.44wt%(以下単に%であらわす)、インヒビター成分としてAlを0.022 %、Nを0.0085%、Mnを0.07%、Seを0.016 %およびSbを0.036 %含有する鋼板板厚:0.22mm、板幅:1200mmおよび総重量:15トンの脱炭焼鈍後の鋼板を10コイル用意し、鋼板表面に下記する10種類のMgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、再び巻取ったのち、最終仕上げ焼鈍を施した。
この時、焼鈍分離剤はいずれも8%の TiO2 と2%のSnO2をMgO 中に配合したものを用いたが、MgO については下記(A)から(G)までの7種類のMg(OH)2 を焼成前の原料とし、いずれもロータリキルンで950 ℃・20分間焼成し、また、(H)〜(J)は従来例として、マッフル炉で焼成したMgO をそれぞれ用いた。
【0031】
(A):イオン苦汁を出発原料として、これと石灰乳とを反応させることによりMg(OH)2 を造りロータリキルン焼成前の原料とした。
(B):上記で作製したMg(OH)2 (A)をロータリキルンで900 ℃の温度で30分間焼成しMgO とし、さらにこのMgO を水中で水和させMg(OH)2 としてロータリキルン焼成前の原料とした。
(C):海水中に石灰乳を投与し、沈殿物を洗浄濾過することによりMg(OH)2 を回収し、これをロータリキルン焼成前の原料とした。
(D):上記で作製したMg(OH)2 (C)をロータリキルンで950 ℃の温度で30分間焼成しMgO とし、さらにこのMgO を水中で水和させMg(OH)2 としてロータリキルン焼成前の原料とした。
(E):鹹水中に石灰乳を投与し、沈殿物を洗浄濾過することによりMg(OH)2 を回収し、これをロータリキルン焼成前の原料とした。
(F):上記で作製したMg(OH)2 (E)をロータリキルンで920 ℃の温度で30分間焼成しMgO とし、さらにこのMgO を水中で水和させMg(OH)2 としてロータリキルン焼成前の原料とした。
(G):塩基性炭酸マグネシウムをロータリキルンで980 ℃の温度で30分間焼成しMgO とし、さらにこのMgO を水中で水和させMg(OH)2 としてロータリキルン焼成前の原料とした。
(H):イオン苦汁を出発原料として、これと石灰乳とを反応させることによりMg(OH)2 を造りマッフル炉で950 ℃の温度で1時間焼成しMgO とした。
(I):塩基性炭酸マグネシウムをマッフル炉で980 ℃の温度で1時間焼成しMgO とした。
(J):海水中に石灰乳を投与し、沈殿物を洗浄濾過することによりMg(OH)2 を回収し、これをマッフル炉で950 ℃の温度で1時間焼成しMgO とした。
【0032】
かくして得られた各MgO の粉体特性ならびにこれらのMgO を主成分とする焼鈍分離剤を用いて製造した各方向性電磁鋼板の被膜特性および磁気特性の調査結果を表1にまとめて示す。
【0033】
【表1】
Figure 0004192282
【0034】
なお、表1において、被膜密着性は、円筒に製品板を巻き付けたときに、被膜が剥離しなかった円筒の最小径(mmφ)であらわした。以後の被膜密着性は全てこの最小径であらわすものとする。
【0035】
表1に示されるように(A)〜(G)のいずれのMgO も粉体特性にはさほど差異がないが、一度焼成したMgO をさらに水和しMg(OH)2 とし再度ロータリキルンで焼成したMgO (B),(D),(F)および(G)のMgO を用いて焼鈍分離剤とした場合は格段に優れた磁気特性や被膜特性が安定して得られている。
【0036】
このように良好な結果を得た理由として、発明者らが鋭意研究を進めて得た知見としては、MgO を水和し、Mg(OH)2 となし再度焼成して得た(B),(D),(F)および(G)の各MgO の表面は凹凸が激しく、化学的にも表面活性が大きいことが明らかとなった。また、これらの焼鈍分離剤の鋼板への塗布は極めて容易であり、再焼成して得たMgO のスラリー中での分散状態は極めてよいことがわかった。
【0037】
MgO の表面状態として凹凸が激しく、化学的にも活性が高いものは低温焼成して得られることが分かっており、従来マッフル炉で焼成したMgO は焼成温度分布が広いため、このような表面の化学的活性の高いMgO 粒子が一定範囲で存在することが知られている。しかしながら、これまでロータリキルンで焼成したMgO はMgO 粒子の均一性が良好なため方向性電磁鋼板製造のための焼鈍分離剤用として調整したMgO の表面活性は低下していた。これは、表面活性を高めるべく低温焼成したMgO は粉体諸特性があまりにも異なるため方向性電磁鋼板製造のための焼鈍分離剤用のMgO として使用できなかったことによる。
【0038】
ここにおいて、発明者らは、焼成前のMg(OH)2 の6角板状粒子(結晶系:hcp)のサイズを粗大化する、すなわち比表面積を低減し、かつ、結晶子サイズc軸径とa軸径を適正化することで、焼成後のMgO の粉体特性をほぼ同一としたままMgO の表面の凹凸を増加し化学的活性を高めることができることを発見した。
このような方法によって、ロータリキルン焼成のMgO 固有の問題とされていた方向性電磁鋼板コイル内の磁気特性や被膜特性の不均一性やコイルチャンスごとのバラツキなどが解消され、ロータリキルン特有の均一性のよい粉体特性によって安定して優れた品質特性を有する方向性電磁鋼板の製造が可能となつた。さらに、焼成前のMg(OH)2 のサイズを粗大化することは、焼鈍分離剤スラリー中のMgO の分散性を向上させ、MgO の凝集に関わる諸問題の発生を解消することも可能になった。
【0039】
一方焼成前のMg(OH)2 のサイズを粗大化するには、一般にはMg(OH)2 生成時に低温で長時間結晶成長のために保持すればよいが、それでもこの発明の適正とするサイズに成長させることは困難である。そこで、高温で焼成した粗大なMgO を原料として、それを用い水和させることによって容易に粗大なMg(OH)2 を生成させることができることを発見した。このためのMgO としては、Mg成分を含有する物質を850 ℃以上の高温で焼成する必要があることがわかった。ここでMgを含有する物質とは、前記したようにMgCl2 、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、Mg(OH)2 などである。
また、焼成前のMg(OH)2 サイズを粗大化させた場合、焼成時のMgO の焼結性が増加し、所望のMgO の粉体特性を制御することが困難となるが、これに対し、Mg(OH)2 粒子を構成するMg(OH)2 結晶子サイズを適正に制御することで、焼成時のMgO の焼結速度を制御することが可能であることを見出した。これは結晶方位の異なるMg(OH)2 からは結晶方位の異なるMgO が焼成され各々の焼結速度が抑えられるためである。
また、高温で焼成することにより、Cl, SO3 およびCO2 といった成分が気相中に散逸し、高純度化が図れることが方向性電磁鋼板製造のための焼鈍分離剤用MgO として適していること、および高純度化が過度に進行し、低減し過ぎた微量成分については、Mg(OH)2 中に適量含有させることでより好適な焼鈍分離剤用MgO とすることが可能であることなどを見出した。
この発明はこのような知見をもとに、鋭意努力の結果なし得たものである。
【0040】
次にこの発明の焼鈍分離剤用MgO 製造方法と、そのMgO を主成分とする焼鈍分離剤を用いた方向性電磁鋼板の製造方法について、構成要件とその限定理由について述べる。
【0041】
この発明の焼鈍分離剤用MgO を適用する方向性電磁鋼板は、通常公知なC,Si, Mnおよび通常公知なAl, S,Se, Sb, Bなどのインヒビター成分などを含有する鋼を熱間圧延とそれに続く冷間圧延工程により最終板厚としたのち、1次再結晶焼鈍を施し、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布し、コイル状に巻き取り最終仕上げ焼鈍を施す一連の公知な製造工程によって製造される。
【0042】
ここで、この発明は鋼板表面に塗布される焼鈍分離剤の主要成分であるMgO と、その製造方法について限定した点に特徴があり、このMgO を用いることによって安定して優れた磁気特性と被膜特性の方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0043】
すなわち、この発明の焼鈍分離剤用MgO 製造方法は、焼鈍MgO を水和したMg(OH)2 を最終焼成して得られるMgO 粉末であるが、最終焼鈍前のMg(OH)2 について、そのサイズを特に厳密に管理することが必須であり、比表面積として4.0 〜15.0m2/g、結晶子c軸の平均軸径として25〜150 nm、a軸の平均軸径として50〜1200nmの範囲とすることが必要である。Mg(OH)2 の比表面積がこの範囲より大きい場合には、最終焼成後のMgO の表面の活性が低下し、方向性電磁鋼板の磁気特性や被膜特性のコイル内の不均質や、コイルチャンスごとの品質の劣化が発生するようになる。逆に、この範囲より小さい場合には最終焼成後のMgOの流動性が低下し、搬送などの扱いが困難となる。また、結晶子のc軸、a軸の軸径がこの範囲より小さいとMgO 焼結の進行が遅く、微細なMgO となる傾向があり、逆に、大きいと、MgO の焼結が進行し過ぎ、粗粒MgO となるので、いずれも焼成によって適正な特性のMgO を得ることが困難となる。したがって上記範囲に調整する。
【0044】
MgO 製造時の最終焼成前の上記Mg(OH)2 はMg成分を含む物質を850 ℃以上の高温で焼成したMgO を水和したものであることが必要で、これにより上記Mg(OH)2 のサイズ調整が容易となる。すなわち、850 ℃未満のMgO 焼成温度の場合、MgO のサイズが小さいため、水和によってもMg(OH)2 を粗大化させることが甚だ困難となるためである。
【0045】
ここで、Mg成分を含む物質とは、前記したように、食塩などの製造過程で発生する苦汁、海水や鹹水を初期原料として、これに石灰乳などを投入して生成するMg(OH)2 やMgCl、塩基性炭酸マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなど焼成によりMgO が生成する物質をいう。このうち、初期原料として海水、鹹水、苦汁もしくは塩基性炭酸マグネシウムを用いることが品質的にも純度がよく、望ましい。
【0046】
最終焼成前のMg(OH)2 の純度がこの発明の製造方法では極めてよく、そのため微量成分の含有量が低下する場合があるので、この時には、初期原料からロータリキルンによる最終焼成前までの中間物質に有効微量成分含有物を添加することが、方向性電磁鋼板の磁気特性や被膜特性の向上のため好ましい。好ましい微量成分としては、Ca, Cl, BおよびSなどであり、それぞれ、MgO 中に0.10〜1.0 %、0.01〜0.08%、0.04〜0.5 %および0.01〜0.4 %の範囲で調整されることが被膜特性の安定化のために好ましいが、このうち特に、CaとClとは良好な被膜性状を得る上で重要な微量成分である。
【0047】
このようにして生成したMg(OH)2 は、ロータリキルンを用いて最終焼成することがよい。ここでロータリキルンは、炉床が回転しつつ被焼成物を移動させながら焼成する炉の総称であるが、これによって、MgO は均一に焼成することが可能となり、極めて安定して優れた品質物性を有する方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。
【0048】
このとき、MgO の焼成温度や時間などの条件を、MgO の下記粉体特性を満たすように調整する。
【0049】
すなわち、40%および80%CAAの値を、それぞれ60〜100 秒間と250 〜400 秒間にする。ここで各CAAの値が上記下限値未満の場合には、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化し、鋼板の被膜中に多数の点状被膜欠陥が発生するようになり、逆に各CAAの値が上限値を超えると、同じく磁気特性が劣化し、被膜の密着性が劣化する。したがって、上記範囲に制御することが必要である。
【0050】
比表面積の値としては12〜35m2/gの範囲に制御することが必要である。比表面積の値が12m2/g未満の場合には被膜が白膜状となり密着性が劣化する。逆に、35m2/gを超える場合には被膜中に多数の点状被膜欠陥が発生するようになる。
【0051】
Ig・lossの値として0.7 〜1.8 %の範囲に調整することが必要である。MgO 中の微量Mg(OH)2 は被膜形成反応を促進するために微量の存在が必要であるが、過剰に存在すると、点状被膜欠陥の原因となるので、上記範囲に制御することが必要になる。
【0052】
このようにして製造されたこの発明の焼鈍分離剤用MgO は TiO2 ,SrSO4 およびSnO2など公知の焼鈍分離剤用添加物を添加・混合して、最終仕上げ焼鈍前の方向性電磁鋼板に塗布されるが、塗布の方法としてはスラリー状にしたのち塗布・乾燥する方法や静電塗装など従来公知の方法が利用できる。塗布後の鋼板はコイル状に巻かれて、最終仕上げ焼鈍に供される。最終仕上げ焼鈍では2次再結晶と被膜形成および鋼中不純物の純化が行われ、基本的な方向性電磁鋼板の製品特性がここで得られる。この後は未反応の焼鈍分離剤を除去したのち必要に応じて平坦化焼鈍を兼ね絶縁コーティングを塗布焼き付けて方向性電磁鋼板製品とする。
【0053】
また、方向性電磁鋼板表面には磁区細分化のためコイル長手方向を横切る方向に多数の溝を鋼板表面に設けてもよく、また、最終仕上げ焼鈍後の鋼板表面にレーザーやプラズマジェットを照射し歪付与による磁区細分化処理や突起ロールでの溝付与による磁区細分化処理を施してもよい。
【0054】
【実施例】
実施例1
0.001 %のC、3.03%のSi、0.07%のMn、0.018 %のSe、0.024 %のAl、0.035 %のSbおよび0.008 %のNを含有し、残部が不可避的不純物とFeとからなる0.22mmの板厚で板幅:1000mm、総重量:15トンの脱炭焼鈍後の鋼板で鋼板表面に磁区細分化処理として幅:100 μm 深さ:20μm の板幅方向への多数の溝を有する鋼板を10コイル用意し、前述の実験で用いた(A)〜(J)の10種類のMgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、再び巻取ったのち、それぞれ最終仕上げ焼鈍を施した。
【0055】
この時、焼鈍分離剤はいずれも8%の TiO2 と2%のSnO2とをMgO 中に配合したものを用いた。
【0056】
最終仕上げ焼鈍として800 ℃の温度まではN2 雰囲気で、800 ℃から1050℃の温度までは25%のN2 と75%のH2 の混合雰囲気で、1050℃から1150℃の温度おび1150℃の温度で5時間の均熱まではH2 雰囲気で行い、降温は800 ℃の温度までH2 中で強制冷却を行い、800 ℃の温度以下をN2 中で冷却する熱サイクルと雰囲気とを採用した。最終仕上げ焼鈍後は未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムとからなる張力コートを塗布し焼きつけてそれぞれ製品とした。各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を板幅方向の全体から切り出し800 ℃の温度で3時間の歪取焼鈍を施したのち、1.7 Tの磁束密度における鉄損の値 W17/50 および磁束密度B8 を測定した。さらに被膜特性の最も不良となる製品板幅中央部の被膜外観と被膜密着性を調査した。これらの調査の結果を表2にまとめて示す。
【0057】
【表2】
Figure 0004192282
【0058】
表2に示されるようにこの発明に適合するMgO :(B)、(D)、(F)および(G)を焼鈍分離剤用のMgO として使用した場合には被膜特性に優れ、かつ磁気特性にも優れた方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。
【0059】
実施例2
0.04%のC、3.25〜3.35%のSi、0.07%のMn、0.02%のSb、0.016 〜0.020 %のSeおよび0.012 %のMoを含有し、残部が不可避的不純物とFeとからなる0.30mmの板厚で板幅:1000mm、総重量:30トンの冷間圧延鋼板を820 ℃の温度でP(H2O)/P(H2)が0.55の酸化性雰囲気中で均熱時間:2分間の連続脱炭焼鈍を行ったのち3分割し、各鋼板の表面にそれぞれ3種類の焼鈍分離剤を塗布し、1200℃の温度で8時間の最終仕上げ焼鈍を行い、その後平坦化焼鈍を兼ねる張力コーティングの塗布と焼き付けを行い製品とした。
【0060】
ここで、焼鈍分離剤としては下記する(K)〜(M)の3種類のMgO を用意し2%の TiO2 と3%の SrSO4とをMgO 中に添加して用いた。
【0061】
(K):イオン苦汁から製造した各Mg(OH)2 のロットで、比表面積として18〜22m2/g、結晶子径としてc軸平均径:17〜22nm、a軸平均径:30〜42nmをロータリキルンで980 ℃の温度で20分間焼成した各ロットのそれぞれ1/3を粉砕後、焼鈍分離剤用MgO として用いた(比較例)。
(L):上記各ロットのそれぞれ残り2/3 のMgO を、水中で再び水和させ比表面積として8.0 〜9.8 m2/g、平均結晶子径として、c軸平均径:32〜43nm、a軸平均径:65〜120 nmのMg(OH)2 とした。この各ロットのMg(OH)2 を2分割し、一方をロータリキルンで950 ℃の温度で20分間焼成し粉砕後焼鈍分離剤用MgO として用いた(適合例)。
(M):上記(L)の残り1/2 の各ロットのMg(OH)2 をマッフル炉に挿入し、950 ℃の温度で3時間焼成し粉砕後焼鈍分離剤用MgO として用いた(従来例)。
【0062】
MgO の粉体特性(平均値)としては、40%CAAの値として(K)が72〜92秒間、(L)が75〜96秒間、(M)が68〜98秒間であり、80%CAAの値として、(K)が264 〜352 秒間、(L)が255 〜368 秒間、(M)が220 〜980 秒間であった。また、比表面積の値としては、(K)が16〜22m2/g、(L)が17〜23m2/g、(M)が17〜22m2/gであり、さらに、Ig・lossの値としては(K)が0.8 〜1.2 %、(L)が0.8 〜1.1 %、(M)が0.8 〜1.2 %であった。
【0063】
かかるMgO を用いて長期間にわたり方向性電磁鋼板の製造を行い、各40コイルを製造し、それらの磁気特性および被膜特性を調査した。これらの結果を図1に示す。図1は、この発明の焼鈍分離剤用MgO と従来製法による焼鈍分離剤用MgO とを長期比較試験に使用した場合の、コイル通板順における磁気特性および被膜特性の変動を示すグラフである。ここで、図1における磁気特性は鋼板板幅方向全体の試料についてのものであり、被膜特性は最も不良率が高い製品板幅中央部について行ったものである。
【0064】
図1に示されるように、従来例に比較して、適合例は磁気特性も被膜特性においても極めて安定して良好な値が得られている。
【0065】
実施例3
0.05%のC、3.25%のSi、0.08%のMn、0.0012%のBおよび0.008 %のNを含有し、残部が不可避的不純物とFeとからなる0.35mmの板厚で板幅:1000mm、総重量:15トンの冷間圧延鋼板コイル24個を、830 ℃の温度でP(H2O)/P(H2)が0.50の酸化性雰囲気中で均熱時間:2分間の連続脱炭焼鈍を行ったのち、各鋼板の表面に下記する(N)〜(S)の6種類のMgO にそれぞれ4%の TiO2 と3%のSnO2と2%のSr(OH)2 とを添加した焼鈍分離剤をそれぞれ4コイルずつ、塗布チャンスを変え、塗布チャンスの度に新たにMgO を焼成し、鋼板表面に塗布しコイル状に巻き取ったのち、1200℃の温度で5時間の最終仕上げ焼鈍を施し、さらに平坦化焼鈍を兼ねて張力コーティングを塗布焼き付けて製品とし、それらの磁気特性および被膜特性を調査した。
【0066】
(N):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を700 ℃温度で焼成したのち水和し、比表面積:27m2/g、結晶子のc軸平均径:25nm、a軸平均径:25nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性(平均値)は、40%CAA;85秒間、80%CAA;345 秒間、比表面積;16m2/gおよびIg・loss:0.85%であった。(比較例)
【0067】
(O):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を750 ℃の温度で焼成したのち水和し、比表面積:18.2m2/g、結晶子のc軸平均径:28nm、a軸平均径:36nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性は、40%CAA;72秒間、80%CAA;324 秒間、比表面積;17m2/gおよびIg・loss:0.88%であった。(比較例)
【0068】
(P):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を800 ℃の温度で焼成したのち水和し、比表面積:17.3m2/g、結晶子のc軸平均径:31nm、a軸平均径:47nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性は、40%CAA;75秒間、80%CAA;298 秒間、比表面積;18m2/gおよびIg・loss:0.95%であった。(比較例)
【0069】
(Q):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を850 ℃の温度で焼成したのち水和し、比表面積:10.2m2/g、結晶子のc軸平均径:33nm、a軸平均径:95nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性は、40%CAA;73秒間、80%CAA;282 秒間、比表面積;19m2/gおよびIg・loss:1.05%であった。(適合例)
【0070】
(R):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を900 ℃の温度で焼成したのち水和し、比表面積:8.5 m2/g、結晶子のc軸平均径:48nmm 、a軸平均径:132 nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性は、40%CAA;68秒間、80%CAA;274 秒間、比表面積;20m2/gおよびIg・loss:1.12%であった。(適合例)
【0071】
(S):海水に石灰乳を投入して生成したMg(OH)2 を950 ℃の温度で焼成したのち水和し、比表面積:6.4 m2/g、結晶子のc軸平均径:63nm、a軸平均径:520 nmのMg(OH)2 を製造し、ロータリキルンで930 ℃の温度で30分間焼成して得たMgO で、その特性は、40%CAA;65秒間、80%CAA;263 秒間、比表面積;21m2/gおよびIg・loss:1.15%であった。(適合例)
【0072】
それらの調査結果を表3にまとめて示すとともに、図2にロータリキルン焼成前のMg(OH)2 のa軸平均径が磁気特性および被膜密着性に及ぼす影響のグラフを示す。
【0073】
【表3】
Figure 0004192282
【0074】
表3に示されるようにこの発明のMgO ((Q)〜(S))を用いた場合は、被膜特性においても磁気特性においても極めて安定して良好な製品が得られている。
また、図2から明らかなように、Mg(OH)2 のa軸平均径が50nm以上で、磁気特性および被膜密着性に優れる製品が得られている。
【0075】
実施例4
0.07%のC、3.43%のSi、0.07%のMn、0.020 %のSe、0.024 %のAl、0.045 %のSb、0.008 %のNおよび0.23%のNiを含有し、残部が不可避的不純物とFeとからなる0.22mmの板厚で板幅:1200mm、総重量:15トンの脱炭焼鈍後の鋼板で、鋼板表面に磁区細分化処理として幅:100 μm 深さ:20μm の板幅方向への多数の溝を有する鋼板を5コイル用意し、下記する(T)〜(X)の5種類のMgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、再び巻取ったのち、最終仕上げ焼鈍を施した。
この時、焼鈍分離剤にはいずれれも8%の TiO2 と2%のSnO2とをMgO 中に配合したものを用いた。
【0076】
最終仕上げ焼鈍としては、800 ℃の温度まではN2 雰囲気で、800 〜1050℃の温度までは25%のN2 と75%のH2 の混合雰囲気で、1050〜1150℃の温度までおよび1150℃の温度で5時間の均熱まではH2 雰囲気で行い、降温は800 ℃の温度までH2 中で強制冷却を行い、800 ℃の温度以下をN2 中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。最終仕上げ焼鈍後は未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムとからなる張力コートを塗布焼きつけて製品とした。各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を板幅方向の全体から切り出し800 ℃の温度で3時間の歪取焼鈍を施したのち、1.7 Tの磁束密度における鉄損の値 W17/50 および磁束密度B8 を測定した。さらに被膜特性の最も不良となる製品板幅中央部の被膜外観と被膜密着性とを調査した。
【0077】
(T):MgCl2 を960 ℃の温度で焼成して得たMgO を水中で水和して、比表面積:6.8 m2/g、結晶子のc軸径:63nm、a軸径:850 nmのMg(OH)2 を生成させ、これをロータリキルンで940 ℃の温度で30分間焼成しMgO を得た。このMgO の40%CAAは75秒間、80%CAAは326 秒間、比表面積は22m2/gおよびIg・lossは1.02%であった。
【0078】
(U):イオン苦汁を石灰乳と反応させ、得られたMg(OH)2 をロータリキルンで900 ℃の温度で焼成して得たMgO を水中で水和し、比表面積:9.6 m2/g、結晶子のc軸径:52nm、a軸径:1100nmのMg(OH)2 を生成させ、これをロータリキルンで920 ℃の温度で30分間焼成しMgO を得た。このMgO の40%CAAは82秒間、80%CAAは358 秒間、比表面積は23m2/gおよびIg・lossは1.35%であった。
【0079】
(V):イオン苦汁を石灰乳と反応させ、得られたMg(OH)2 をロータリキルンで900 ℃の温度で焼成して得たMgO を水和し、比表面積:12.3m2/g、結晶子のc軸径:36nm、a軸径:230 nmのMg(OH)2 を生成させたMgO(U)の原料Mg(OH)2 のCaおよびClの含有量が低いので、Mg(OH)2 中にCa成分として0.12%、Cl成分として2.3 %添加し、これをロータリキルンで920 ℃の温度で30分間焼成しMgO を得た。このMgO の40%CAAは75秒間、80%CAAは315 秒間、比表面積は22m2/gおよびIg・lossは1.21%であった。MgO 中の微量不純物として、MgO(U)が、Ca:0.05%、B:0.08%、Cl:0.005 %およびS:0.25%であったのに対し、MgO(V)は、Ca:0.19%、B:0.09%、Cl:0.043 %およびS:0.24%であった。
【0080】
(W):海水を石灰乳と反応させ、得られたMg(OH)2 をロータリキルンで930 ℃の温度で焼成して得たMgO を水中で水和し、比表面積:7.5 m2/g、結晶子のc軸径:98nm、a軸径:1050nmのMg(OH)2 を生成させ、これをロータリキルンで920 ℃の温度で30分間焼成しMgO を得た。このMgO の40%CAAは76秒間、80%CAAは287 秒間、比表面積は22m2/gおよびIg・lossは1.02%であった。
【0081】
(X):MgO(W)の原料となったMg(OH)2 と同様にして海水を石灰乳と反応させ、得られたMg(OH)2 をロータリキルンで930 ℃の温度で焼成して得たMgO を水中で水和し、Mg(OH)2 としたが、このMgO のCa, BおよびCl成分の含有量が少ないため、焼成前のMg(OH)2 にCaを0.22%、Bを0.04およびClを1.5 %添加しMgO を焼成し、その後水和させた。この結果、Mg(OH)2 のサイズは比表面積12.5m2/g、結晶子のc軸径:28nm、a軸径:830 nmとなり、これをロータリキルンで920 ℃の温度で30分間焼成しMgO を得た。このMgO の40%CAAは78秒間、80%CAAは290 秒間、比表面積は22m2/gおよびIg・lossは1.03%であった。MgO 中の微量成分の含有量は、MgO(W)がCa:0.04%、B:0.03%、Cl:0.003 %およびS:0.28%であったのに対しMgO(X)は、Ca:0.28%、B:0.08%、Cl:0.053 %およびS:0.28%であった。
【0082】
これらの調査結果を表4にまとめて示す。
【0083】
【表4】
Figure 0004192282
【0084】
表4に示されるようにこの発明のMgO を用いた場合には、極めて安定した磁気特性ならびに被膜特性に優れる製品が得られており、特に、海水やイオン苦汁を初期原料としたものならびにCaやClの含有量を調整したものは、被膜特性においても磁気特性においても極めて優れた製品が得られている。
【0085】
【発明の効果】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造時に用いる焼鈍分離剤用MgO であって、MgO を水和して得られる特定結晶サイズのMg(OH)2 を焼成したMgO のCAA値、比表面積およびIg・lossを特定したものであり、この発明になる焼鈍分離剤用MgO を使用して方向性電磁鋼板を製造すれば、極めて優れた磁気特性ならびに被膜特性を有する方向性電磁鋼板を安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の焼鈍分離剤用MgO と従来製法による焼鈍分離剤用MgO とを長期比較試験に使用した場合のコイル通板順における磁気特性および被膜密着性の変動を示すグラフである。
【図2】ロータリキルン焼成前のMg(OH)2 のa軸平均径が磁気特性および被膜特性に及ぼす影響のグラフである。

Claims (4)

  1. 方向性電磁鋼板の製造時に用いる焼鈍分離剤用MgO の製造方法であって、
    Mg成分を含有する物質を原料として、850 ℃以上で焼成してMgO としたのち、水和させてMg(OH) 2 とする際、前記焼成の温度と時間を調整することにより、
    比表面積 :4.0 〜15.0m2/g
    c軸平均結晶子径:25〜150 nmおよび
    a軸平均結晶子径:50〜1200nm
    を満たすサイズのMg(OH)2 とし、
    上記サイズに調整したMg(OH)2 をロータリキルンで最終焼成してMgO とする際、前記最終焼成の温度と時間を調整することにより、
    40%CAA:60〜100 秒間、
    80%CAA:250 〜400 秒間、
    比表面積 :12〜35m2/gおよび
    Ig・loss :0.7 〜1.8 wt%
    を満たす特性のMgO することとからなる焼鈍分離剤用MgO の製造方法。
  2. 原料からロータリキルンでの最終焼成前までの中間材料に有効微量分を添加調整し、最終焼成後のMgO 中の有効微量成分の含有量を制御することを特徴とする請求項1に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法。
  3. 最終焼成後のMgO 中の有効微量成分がCaおよび/またはClであり、それらの含有量をそれぞれ
    Ca:0.10〜1.0 wt%、
    Cl:0.01〜0.08wt%
    を満たす範囲に制御することを特徴とする請求項2に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法。
  4. Mgを含有する物質として、海水、鹹水または塩基性炭酸マグネシウムのうちの1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項1、2または3に記載の焼鈍分離剤用MgO の製造方法。
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