JP5245277B2 - 焼鈍分離剤用のマグネシアおよび方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

焼鈍分離剤用のマグネシアおよび方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、変圧器その他の電気機器の鉄心材料に用いられる方向性電磁鋼板の製造過程で使用される焼鈍分離剤用のマグネシアおよび方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に、フォルステライト質被膜形成のための焼鈍分離剤の主成分として使用されるマグネシアの粉体特性に工夫をこらすことによって、方向性電磁鋼板の被膜特性および磁気特性の有利な向上を図ろうとするものである。
方向性電磁鋼板は、主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、磁気特性として磁束密度が高く、鉄損および磁気歪が小さいことが要求される。
磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を得るには、結晶方位をゴス方位すなわち{110}<001>方位に高度に集積させた二次再結晶組織を得ることが肝要である。
このような二次再結晶を効果的に発現させるためには、まず一次再結晶粒の正常粒成長を抑制するインヒビターと呼ばれる析出分散相を、均一かつ適切なサイズに分散させることが必要とされる。このようなインヒビターとしては、MnS,MnSe,AlNおよびBNに代表される硫化物、Se化合物、窒化物のような鋼中への溶解度が低いものが用いられており、熱間圧延前のスラブ加熱時にかようなインヒビターを完全に固溶させ、その後の工程で微細に析出させる方法が採用されている。
また、最近では、二次再結晶発現の重要なポイントして、インヒビターの存在の他に、一次再結晶組織において隣り合う結晶粒の方位差角が注目されるようになってきており、方位差角が20〜45°である粒界(高エネルギー粒界)が重要な役割を果たしていることが、非特許文献1に報告されている。これに基づいて、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板の研究が再び盛んに行われるようになってきており、鋼スラブにインヒビター成分が含有されていなくても、工業的に方向性電磁鋼板が製造できる技術(インヒビターレス法)が開発されている。
「Acta Material 45巻(1997)1285頁」
但し、いずれの場合も、方向性電磁鋼板の製造方法としては、鋼スラブを、熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、脱炭焼鈍後、鋼板表面にマグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶および純化を目的とした仕上げ焼鈍を行うという工程が一般的である。この方向性電磁鋼板の表面には、特殊な場合を除いて、フォルステライト(Mg2SiO4)を主体とする絶縁被膜、いわゆるフォルステライト質被膜といわれる被膜が形成されているのが普通である。
このフォルステライト質被膜は、焼鈍分離剤として塗布されたマグネシアと、脱炭焼鈍時に鋼板表層に生成したSiO2(シリカ)を主体とする酸化層が反応することにより形成される。この被膜は、表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨張性に起因する引張応力を鋼板に付与することにより、鉄損さらには磁気歪をも効果的に改善する。
さらに、方向性電磁鋼板には、一般に、フォルステライト質被膜の上にガラス質の絶縁コーティングが施されるが、フォルステライト質被膜は、絶縁コーティングと地鉄部分とを密着させる一種のバインダーとしての働きもある。そして、絶縁コーティングは非常に薄く透明であるため、フォルステライト質被膜が製品の最終的な外観を決定する。
そのため、その外観の良否は製品価値を大きく左右し、例えば地鉄が一部露出したような被膜を持つものは製品として不適当とされるなど、被膜性状が製品歩留まりに及ぼす影響は極めて大きい。従って、形成されたフォルステライト質被膜は、外観が均一で欠陥がないこと、またせん断、打ち抜き、曲げ加工などにおいて被膜のはく離が生じないように、密着性に優れていることが要求される。さらに、その表面は平滑で、鉄心として積層したときに高い占積率を有することが必要とされる。
また、マグネシアには、上記の働き以外に、鋼板中の析出物の分解・成長挙動や結晶粒の成長挙動を変化させて、磁気特性に影響を及ぼす働きもある。例えば、マグネシアをスラリー化したときに持ち込まれる水分が多すぎると、鋼板が酸化されて磁気特性が劣化したり、被膜に点状欠陥が生成したりする。さらに、マグネシア中に含まれる不純物が焼鈍中に鋼中に侵入することにより、二次再結晶挙動が変化すること等も知られている。従って、焼鈍分離剤の不純物成分や粉体特性の良否は、方向性電磁鋼板の被膜特性と磁気特性を左右する重要な要因となっている。
このため、従来から焼鈍分離剤用マグネシアの品質改善のために、様々な工夫がなされている。
例えば、特許文献1には、マッフル炉で高温焼成されたマグネシアの不純物濃度、水和量、ふるい通過性を特定することによって、良好なフォルステライト被膜を形成させる方法が提案されている。
特公昭54−14566号公報
特許文献2には、マグネシア中のCaOと水和量の合計を所定範囲以下に制御する技術が、また特許文献3には、CaO,SO3,B等の不純物濃度や比表面積、粒径、クエン酸活性度の分布を所定の範囲におさめることによって、良好な被膜を形成する技術が提案されている。
特公昭56−15787号公報 特公昭57−45472号公報
また、特許文献4には、BET比表面積が30m2/g以下の水酸化マグネシウムを焼成し 、引き続き吸湿させて、表面積:100Å2当たりOH基の数を15〜30の範囲にした、BET比表面積が15〜30m2/gの酸化マグネシウム:70〜90wt%と、BET比表面積が1〜10m2/gの酸化マグネシウム:10〜30wt%とを成分とするMgOを用いることにより、鋼板との接着力を高めることによって、被膜特性と磁気特性を向上させる方法が開示されている。
特公昭57−8188号公報
特許文献5には、X線回折の回折線幅の拡がりから測定したMgOの粒径が0.08〜0.18μmであるMgOを用いることによって、磁気特性を改善する方法が開示されている。
特開昭58−193373号公報
特許文献6には、CAA70%が250〜1000秒、CAA70%/CAA40%値が1.5〜6.0であり、粒子径20%値が1.2μm以下、BET値が20.5〜35であるマグネシアが提案されている。
特許第3650525号公報
これらの技術によって、被膜の点状欠陥(ベアスポット)、密着性不良、被膜形成不良(テンパーカラー)、被膜模様および白膜等の問題が解決されたが、近年、以下のような新たな問題が発生してきた。
すなわち、方向性電磁鋼板の製造コスト低減のためにコイルの大型化が進行したこと、ならびにマグネシアの製造コスト低減のために、その最終焼成方法として従来のマッフル炉を用いる方法からロータリーキルンを採用するようになってきたことから、鋼板の長手方向、幅方向で被膜特性や磁気特性のばらつきが大きくなる問題が生じるようになった。
上記の間題を解決するために、特許文献7には、MgOとして、MgOを生成するMg元素含有原料を焼成してMgOとし、このMgOを再水和させて比表面積:4〜15m2/g、結晶子のc軸平均径:25〜150nm、a軸平均径:50〜1200nmのMg(OH)2とし、このMg(OH)2をロータリーキルンで再焼成して得られた40%CAA値が40〜100秒、80%CAA値が120〜400秒、比表面積が 12〜35m2/g、Ig.lossが0.7〜2.8%であるMgOが提案されている。
特開平11−181525号公報
また、特許文献8には、最終段階の焼成が直火式ロータリーキルンで焼成されるMgOの1種または2種以上の混合物からなり、かさ比重が4〜9、粒径:0.5μm以下の粒子が5%以上、粒径:1μm以下の粒子が15%以上、Cl含有量が350ppm未満で、かつスラリー調整段階での水中へのClの溶出割合が70%以上であるMgOが提案されている。
特許第3549492号公報
上記の各技術により、MgOとしてロータリーキルン焼成品を用いた場合の方向性電磁鋼板の特性は向上、安定化してきたものの、従来のマッフル炉焼成品に比べると、未だ十分な特性が得られているとは言い難い。すなわち、従来のマッフル炉焼成品を用いた場合より、依然として、鋼板の長手方向、幅方向での被膜特性や磁気特性のばらつきが大きいという問題があった。
このため、マグネシアのさらなる改善が望まれていた。
本発明は、上記の要請に有利に応えるもので、大型の電磁鋼板のコイルにおいても、ロータリーキルン焼成のマグネシアを焼鈍分離剤を主剤として用いた場合に、コイル全長にわたって優れた被膜特性および磁気特性が得られる焼鈍分離剤用のマグネシアを提案することを目的とする。
また、本発明は、上記の焼鈍分離剤用マグネシアを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の目標を達成すべく、従来のマッフル炉焼成品およびロータリーキルンで焼成されたマグネシアの表面性状を、電子顕微鏡を用いて詳細に観察、調査した。
その結果、マッフル炉焼成品では、少量ではあるものの、非常に微細な一次粒子径(結晶子径)を有するマグネシアが存在していることが分かった。同時に、かなり粗大な一次粒子径(結晶子径)のマグネシアもわりと多く存在していることが判明した。
一方、ロータリーキルン品では、一次粒子径(結晶子径)のばらつきは小さく、平均的な一次粒子径(結晶子径)はマッフル炉焼成品より小さいものの、マッフル炉品に見られたような非常に微細な一次粒子径(結晶子径)のものは見られなかった。
上記の観察結果は、前掲特許文献7などに記載されているように、マッフル炉で焼成されたマグネシアの活性度分布は極めて広いのに対し、ロータリーキルンで焼成されたマグネシアは活性度分布が狭いことに対応している。
従って、ロータリーキルン焼成品において、コイルの大型化や脱炭焼鈍板表面サブスケールの活性度の変化などに対して十分に対応できず、鋼板の長手方向、幅方向で被膜特性や磁気特性のばらつきが大きくなるという問題が生じ易くなる原因の一つは、反応性の高い微細な一次粒子径(結晶子径)を有するマグネシアが少ないためと考えられる。
しかしながら、ロータリーキルン焼成品で反応性を高くするために、例えば低温で焼成するなどして比表面積を大きくすると、水和量が多くなりすぎて、逆に点状被膜欠陥の発生を招いてしまう。例えば、特許文献7では、比表面積が35m2/gを超える、またはCAA40%が40秒より短いと、多数の点状被膜欠陥が発生すると記されている。
但し、マッフル炉焼成品で観察された微細な一次粒子径(結晶子径)を有するマグネシアが、全体に占める割合そのものは多くなかったので、非常に高活性な、すなわち反応性が極めて高いマグネシアの量は比較的少量であればよいと考えられる。
そこで、最終的に使用するマグネシアを、ロータリーキルンで焼成したマグネシアの2種以上の混合物とし、その1種について、非常に反応性の高いマグネシアを必要量だけ配合することを検討した。
その結果、混合に用いるマグネシアの1種としては、BET比表面積が36〜50m2/g、不純物のCl濃度が0.02〜0.04%、CAA40%が35〜65秒、CAA80%が80〜160秒のものを用いて、それを10mass%以上配合すれば、反応性の高いマグネシアの必要量は満たされることを新規に見出した。
なお、2種以上混合したマグネシアの平均特性としては、従来の知見どおり、あまりに高活性であるのは、かえって被膜欠陥の発生を招いて好ましくない。
すなわち、ロータリーキルンで粉体特性の異なるマグネシアを2種以上製造し、そのうちの1種については、かなり反応性の高いマグネシアとし、かつ、平均的には、それより反応性の低い特性にすればよいことが新たに知見されたのである。
この場合、粉体特性の均一性の良さというロータリーキルン焼成の長所は、混合前のマグネシア各単品の特性を制御する点で、極めて有効に作用する。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.方向性電磁鋼板の製造に用いる焼鈍分離剤用マグネシアであって、
苦汁、かん水または海水を原料として製造した水酸化マグネシウムを、最終段階で直火または間接式ロータリーキルンにより焼成したマグネシアの2種以上の混合物からなり、
そのうちの少なくとも1種のマグネシアとして、BET比表面積が36〜50 m2/g、不純物のCl濃度が0.02〜0.04%、CAA40%が35〜65秒、CAA80%が80〜160秒のものを、10mass%以上配合し、
かつ、2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積:20〜35 m2/g、不純物のCl濃度:0.01〜0.04%、CaO濃度:0.25〜0.70%、B濃度:0.05〜0.15%、SO3濃度:0.05〜0.50%、CAA40%:55〜85秒、CAA80%:100〜250秒および20℃,60分の水和試験による水和量:1.5〜3.5mass%を満足することを特徴とする焼鈍分離剤用のマグネシア。
2.方向性電磁鋼板用素材を、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍を施して鋼板表層にSiO2を含む酸化膜を形成したのち、該酸化膜上にマグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、乾燥してから、最終仕上げ焼鈍を施すことからなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤の主成分であるマグネシアとして、請求項1に記載のマグネシアを用い、水でスラリー状にして鋼板表層の酸化膜上に塗布し、乾燥させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
ここで、CAA(Citric Acid Activity)とは、クエン酸とマグネシアとの反応活性度を測定するもので、本発明では、温度:30℃、0.4Nのクエン酸水溶液中に、40%(CAA40%)または80%(CAA80%)の最終反応当量のマグネシアを投与し、撹拌しつつ、最終反応までの時間(クエン酸が消費され、溶液が中性となるまでの時間)を測定し、この時間で活性度を評価する方法である。
焼鈍分離剤用マグネシアとして、本発明で規定した粉体特性を有するものを用いることにより、最終ロータリーキルン焼成品で、コイル全長にわたって、被膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
以下、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
(実験1)
C:0.072%,Si:3.41%,酸可溶性Al:0.025%,N:0.0085%,Mn:0.070%,Se:0.017%,Sb:0.041%およびCu:0.09%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる方向性電磁鋼板用スラブ15本を、1400℃で30分間加熱後、熱間圧延して2.3mmの板厚にした。ついで、1000℃,45秒間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により1.5mn厚としたのち、 1100℃,45秒間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.22mmの冷延板とした。このとき、最終冷間圧延は、少なくとも1パスは圧延ロール出側直後の鋼板温度が180〜250℃になるような圧延とした。その後、H2−H20−N2雰囲気中にて840℃の温度で脱炭・一次再結晶焼鈍を施したのち、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布、乾燥してから、最終仕上げ焼鈍を行った。
このとき、焼鈍分離剤用のマグネシアは次のようにして製造した。まず、海水を初期原料とし、水酸化マグネシウムを得て、ロータリーキルンで焼成して純度の高いマグネシアを得たのち、再度、再水和させて最終ロータリーキルン焼成の原料となる水酸化マグネシウムを得た。その際、同時に最終焼成での飛散量などを考慮して、Cl,B等の必要不純物を添加した。最後に、直火式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表1に示す6種類の粉体(記号A〜F)を製造した。
その後、表2に示す配合で各粉体を混合して、焼鈍分離剤用マグネシアとした。なお、一部は、混合せずに、単品のままで実験に供した。そして、実験に供する焼鈍分離剤用マグネシアとしては表2に示す粉体特性をもつ15種類のマグネシア(No.1〜15)を用いた。
なお、各マグネシア:100質量部に対してTiO2を9質量部、Sr(OH)2・8H20を3質量部、Sn02を2質量部添加して、焼鈍分離剤とした。
その後、仕上げ焼鈍として、850℃から1150℃までを12℃/hの昇温速度で加熱し、引き続き1200℃,5時間の純化焼鈍を施した。その後、未反応分離剤を除去してから、りん酸マグネシウム、コロイダルシリカおよびクロム酸を主成分とするコーティングを施した。
かくして得られた試料の磁気特性(磁束密度B8、鉄損W17/50)および被膜特性(被膜欠陥発生率、被膜の曲げ密着性)について調査した。
得られた結果を表3に示す。
なお、磁気特性は、コイル全長にわたる鉄損変化を連続鉄損計で測定し、最も鉄損が劣る箇所を切り出して評価した。
また、被膜欠陥発生率は、レーザー式の表面検査装置を用いて評価した。
さらに、被膜密着性は、最も被膜外観の劣った箇所を切り出し、被膜の曲げ密着性として、5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試料を巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。
Figure 0005245277
Figure 0005245277
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表3から、最終段階の焼成がロータリーキルンにより焼成されるマグネシアの2種以上の混合物からなり、そのうち少なくとも1種のマグネシアとして、BET比表面積が36〜50 m2/g、不純物のCl濃度が0.02〜0.04%、CAA40%が35〜65秒、CAA80%が80〜160秒のものを用い、それらを併せて10mass%以上配合し、かつ2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積が20〜35m2/g、不純物のCl濃度が0.01〜0.04%、CaO濃度が0.25〜0.70%、B濃度が0.05〜0.15%、SO3濃度が0.05〜0.50%、CAA40%が55〜85秒、CAA80%が100〜250秒、20℃,60分の水和試験による水和量が1.5〜3.5mass%を満足する特性のマグネシアを塗布した場合に、良好な特性が得られていることが分かる。
(実験2)
C:0.068%,Si:3.37%,酸可溶性Al:0.027%,N:0.0088%,Mn:0.071%,Se:0.016%,Sb:0.037%およびCu:0.12%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる方向性電磁鋼板用スラブ10本を、1430℃で30分間加熱後、熱間圧延して2.4mmの板厚にした。ついで、1000℃,60秒間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により1.6mm厚としたのち、 1100℃,30秒間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.22mmの冷延板とした。このとき、最終冷間圧延は、少なくとも1パスは圧延ロール出側直後の鋼板温度が180〜250℃になるような圧延とした。その後、H2−H20−N2雰囲気中にて850℃の温度で脱炭・一次再結晶焼鈍を施したのち、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布,乾燥してから、最終仕上げ焼鈍を行った。
このとき、焼鈍分離剤用のマグネシアは次のようにして製造した。まず、海水を初期原料とし、水酸化マグネシウムを得て、ロータリーキルンで焼成して純度の高いマグネシアを得たのち、再度、再水和させて最終ロータリーキルン焼成の原料となる水酸化マグネシウムを得た。その際、同時に最終焼成での飛散量などを考慮して、Cl,B等の必要不純物を添加した。最後に、直火式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表4に示す2種類の粉体(記号X,Y)を製造した。
その後、表5に示すように、XとYの配合比を種々に変化させて混合し、9種の焼鈍分離剤用マグネシアを用意して実験に供した。
なお、各マグネシア:100質量部に対してTiO2を10質量部、Sr(OH)2・SH20を3質量部、Sn02を4質量部添加して、焼鈍分離剤とした。
その後、仕上げ焼鈍として、850℃から1150℃までを15℃/hの昇温速度で加熱し、引き続き1200℃,5時間の純化焼鈍を施した。その後、未反応分離剤を除去してから、りん酸マグネシウム、コロイダルシリカおよびクロム酸を主成分とするコーティングを施した。
かくして得られた試料の磁気特性(磁束密度B8、鉄損W17/50)および被膜特性(被膜欠陥発生率、被膜の曲げ密着性)について調査した。
得られた結果を表5に併記する。
なお、磁気特性は、コイル全長にわたる鉄損変化を連続鉄損計で測定し、最も鉄損が劣る箇所を切り出して評価した。
また、被膜欠陥発生率は、レーザー式の表面検査装置を用いて評価した。
さらに、被膜密着性は、最も被膜外観の劣った箇所を切り出し、被膜の曲げ密着性として、5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試料を巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。
Figure 0005245277
Figure 0005245277
表5から、粉体Xに、活性度の高い粉体Yを10%以上配合することで、被膜特性と磁気特性が大きく向上していることがわかる。しかしながら、粉体Yの比率が50%以上となり、水和量が3.5%を超えると、再び被膜・磁気特性は劣化することが分かる。
この理由は、マグネシアはスラリー状にして鋼板に塗布されるが、マグネシアは水と反応して水酸化マグネシウムが生成し、これが鋼板への持込み水分となり、それが多すぎるとフォルステライト被膜の形成や磁気特性に悪影響を及ぼすものと考えられる。従って、BET比表面積が36〜50m2/gである高活性なマグネシアを配合する場合、混合後の粉体の水和量が3.5%を超えないようにすることが肝要である。
次に、本発明の対象とする方向性電磁鋼板について説明すると、成分組成については特に制限はなく、通常公知の鋼板いずれもが適合する。代表組成について述べると、次のとおりである。
Cは、0.01%以上 0.10%以下が好適範囲である。すなわち、Cが0.01%に満たないと良好な一次再結晶組織が得られず、一方0.10%を超えると脱炭焼鈍時の脱炭負荷が増大して生産性が低下する。
Siは、2.0%以上 4.0%以下が好適範囲である。すなわち、Siは製品の電気抵抗を高めて渦電流損を低減させる上で重要な成分であり、含有量が2.0%に満たないと最終仕上げ焼鈍中にα−γ変態によって結晶方位が損なわれ、一方4.0%を超えると冷延性に問題が生じる。
上記したC,Siの他にインヒビター形成元素を添加する。インヒビターとしては、AlN,MnS,MnSe等が良く知られているが、これらのいずれを用いてもよい。たとえば、MnSおよび/またはMnSeを用いる場合には、Mn:0.05〜0.20%、Seおよび/またはS:0.01〜0.03%が好適範囲である。すなわち、Mn量が0.05%未満、またはS,Seの単独または合計量が0.01%未満であると、インヒビタ一機能が不十分となり、一方Mn量が0.20%を超え、またSeやS量が0.03%を超えると、スラブ加熱の際に必要とする温度が高くなりすぎて実用的でない。また、AlNをインヒビターとして用いる場合には、Al:0.01〜0.04%、N:0.0050〜0.012%が好適範囲である。これを超える量では、AlNの粗大化を招いて抑制力を失い、一方これ未満ではAlNの量が不足する。
また、磁気特性を向上させるための補助インヒビターとして、SbまたはSnを添加することが可能である。Sbは、含有量が0.005%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.10%を超えると脱炭性が非常に悪くなるので、0.005〜0.10%が好適範囲である。また、Snは、含有量が0.03%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.30%を超えると良好な一次再結晶組織が得がたくなるので、0.03〜0.30%が好適範囲である。
さらに、Cuも、磁気特性の向上、安定化に有効な元素である。しかしながら、含有量が0.05%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20%を超えると酸洗性が劣化するだけでなく熱間圧延時の脆性が劣化するので、0.05〜0.20%が好適範囲である。
また、上記元素の他に、磁気特性や被膜特性の改善成分として、Mo,Cr,Ni,P,Biなどを単独または複合して添加することができる。
Moは、含有量が0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.10%を超えると脱炭性が悪化するので、0.005〜0.10%が好適範囲である。
Crは、含有量が0.04%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.30%を超えると良好な一次再結晶組織が得られにくいので、0.04〜0.30%が好適範囲である。
Niは、含有量が0.03%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.50%を超えると熱間強度が低下するので、0.03〜0.50%が好適範囲である。
Pは、含有量が0.008%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.40%を超えると良好な一次再結晶組織が得られないので、0.008〜0.40%が好適範囲である。
Biは、含有量が0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.20%を超えると良好な一次再結晶組織が得られないので、0.005〜0.20%が好適範囲である。
次に、本発明で対象とする方向性電磁鋼板の製造条件について説明する。
従来から用いられている製鋼法で、上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法あるいは造塊法で鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
ついで、スラブは、常法に従い、スラブ加熱に供された後、熱間圧延により熱延コイルとされる。
上記の熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により、最終板厚の冷延板とする。冷間圧延は、常温で行っても良いし、常温よりも高い温度、例えば150〜300℃程度で圧延する温間圧延としてもよい。また、冷間圧延途中で、150〜300℃の範囲での時効処理を1回または複数回行ってもよい。
ついで、最終冷間圧延板に、湿水素雰囲気中で一次再結晶・脱炭焼鈍を施す。この脱炭焼鈍により、残留C量を0.004%以下まで低減することが望ましい。また、その際、鋼板表層にシリカ(SiO2)を含む酸化膜を形成させることが必要である。なお、このような脱炭焼鈍に引き続いて、鋼板を30〜200ppm程度窒化させる処理を行ってもよい。
その後、この脱炭焼鈍を施した鋼板表面に、マグネシアを主体とした焼鈍分離剤を水でスラリー状にして塗布した後、乾燥させる。
ここで、良好な被膜特性を得るためには、マグネシアの粉体特性として、苦汁、かん水または海水を原料として水酸化マグネシウムを得て、最終段階の焼成が直火あるいは間接式ロータリーキルンにより焼成されるマグネシアの2種以上の混合物からなり、そのうち少なくとも1種のマグネシアとして、BET比表面積が36〜50m2/g、不純物のCl濃度が0.02〜0.04%、CAA40%が35〜65秒、CAA80%が80〜160秒のものを用い、それらを併せて10%以上配合し、かつ、2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積が20〜35m2/g、不純物のCl濃度が0.01〜0.04%、CaO濃度が0.25〜0.70%、B濃度が0.05〜0.15%、SO3濃度が0.05〜0.50%、CAA40%が55〜85秒、CAA80%が100〜250秒、20℃,60分の水和試験による水和量が0.5〜3.5%を満足する特性を有するマグネシアを使用することが肝要である。
ここで、BET比表面積が36〜50m2/gである反応性が高いマグネシアを10%以上配合する理由は、混合後の粉体(マグネシア)の高活性側の活性度分布を拡げるためである。これにより、コイルの大型化や脱炭焼鈍板表面サブスケールの活性度の変化などに対して、粉体特性が十分に対応でき、鋼板の長手方向、幅方向で被膜特性や磁気特性のばらつきを小さくすることができる。
しかしながら、このような高活性品を単品で用いた場合、あるいは配合量が過多になると、水和量が高くなるなどの理由で、かえって被膜特性は劣化する。従って、混合後の粉体特性としては、上記したような範囲にすることが必要となる。
また、磁気特性や被膜特性改善のために使用する焼鈍分離剤中の副剤は、従来から公知のものを用いることができるが、一般的には、TiO2,SnO2,Mo03,WO3,CuO,MnOのような酸化物、MgSO4・7H20,SrSO4,SnS04のような硫化物、Sr(0H)2・8H20やLiOHのような水酸化物、Na2B407のようなB系化合物、Sb203,Sb2(S04)3のようなSb系化合物などが知られている。これらの化合物を添加する場合の添加量は、マグネシア:100質量部に対して 0.5〜15質量部程度とすることが望ましく、1種または2種以上を、それぞれ単独または複合して添加してもよい。但し、トータルでの添加量は、マグネシア100重量部に対して 20質量部以下とすることが望ましい。
さらに、焼鈍分離剤の塗布量は、鋼板片面当り4〜10g/m2程度とするのが好適である。というのは、塗布量が4g/m2より少ないとフォルステライトの生成が不十分となり、一方10g/m2を超えると、フォルステライト質被膜が過剰に生成し厚くなるため、占積率の低下を招くからである。
その後、従来から公知の方法で、二次再結晶焼鈍および純化焼鈍からなる最終仕上げ焼鈍を行えばよい。その後、鋼板表面にりん酸塩系の絶縁コーティング、好ましくは鋼板に張力を付与する張力型絶縁コーティングを施して製品とする。
絶縁被膜の種類については、特に限定されることはないが、従来公知の絶縁被膜いずれもが適合する。例えば、特開昭50−79442号公報や特開昭48−39338号公報に記載されている、りん酸塩−クロム酸−コロイダルシリカを含有する塗布液を鋼板に塗布し、800℃程度で焼き付ける方法が好適である。
ちなみに、最終冷延後、最終仕上げ焼鈍後あるいは絶縁コーティングの被成後に、既知の磁区細分化処理を行ってもよく、これによりさらなる鉄損の低減に可能である。
実施例1
C:0.067%,Si:3.36%,Mn:0.068%,Se:0.019%,酸可溶性Al:0.023%.N:82ppm,Cu:0.12%,Sb:0.037%およびNi:0.15%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる複数の方向性電磁鋼板用スラブを、1420℃で30分間加熱後、熱間圧延を施して板厚2.3mmの熱延板とした。ついで、1000℃,1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:1.6mmとしたのち、1100℃,1分間の中間焼鈍後、2回日の冷間圧延により最終板厚:0.22mmの冷延板に仕上げた。このとき、2回目の冷間圧延は、少なくとも2パスは圧延ロール出側直後の鋼板温度が150〜250℃になるような圧延とした。
ついで、冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、H2−H20−N2雰囲気中にて830℃,2分間の一次再結晶・脱炭焼鈍を行って、鋼板表層にシリカ(SiO2)を含む酸化層を形成させたのち、マグネシア:100質量部に対して、TiO2を6質量部、Sr(OH)2・8H20を2質量部配合した焼鈍分離剤を、水でスラリー状にして鋼板表面に塗布した。
このとき、焼鈍分離剤用マグネシアは次のようにして製造した。まず、苦汁を初期原料とし、水酸化マグネシウムを得て、ロータリーキルンで焼成してマグネシアを得たのち、再度、再水和させて最終ロータリーキルン焼成の原料となる水酸化マグネシウムを得た。最後に、直火式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表6に示す4種類の粉体(記号G〜J)を製造した。
その後、表7に示す配合で各粉体を混合して、焼鈍分離剤用マグネシアとした。なお、一部は、混合せずに、単品のままで実験に供した。そして、実験に供する焼鈍分離剤用マグネシアとしては表7に示す特性をもつ10種類の粉体(No.1〜10)を用いた。
その後、窒素雰囲気中にて850℃,15hの保定焼鈍に続いて、窒素:25%,水素:75%の雰囲気中にて10℃/hの速度で1150℃まで昇温する二次再結晶焼鈍を施したのち、水素雰囲気中にて1200℃,5時間の純化焼鈍を行う最終仕上げ焼鈍を行った。その後、未反応分離剤を除去してから、りん酸マグネシウム、クロム酸およびコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティングを施した。
かくして得られた試料の磁気特性(磁束密度B8、鉄損W17/50)および被膜特性(被膜欠陥発生率、被膜の曲げ密着性)について調査した。
得られた結果を表8に示す。
なお、磁気特性は、コイル全長にわたる鉄損変化を連続鉄損計で測定し、最も鉄損が劣る箇所を切り出して評価した。
また、被膜欠陥発生率は、レーザー式の表面検査装置を用いて評価した。
さらに、被膜密着性は、最も被膜外観の劣った箇所を切り出し、被膜の曲げ密着性として、5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試料を巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。
Figure 0005245277
Figure 0005245277
Figure 0005245277
表8から明らかなように、本発明に従う条件で製造した発明例はいずれも、良好な磁気特性および被膜特性を示している。
実施例2
C:0.042%,Si:3.40%,Mn:0.068%,Se:0.021%,Cu:0.10%,Sb:0.023%およびMo:0.013%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる複数の方向性電磁鋼板用スラブを、1410℃で30分間加熱後、熱間圧延を施して板厚:2.4mmの熱延板とした。ついで、1000℃,1分間の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により板厚:0.6mmとしたのち、1000℃,1分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により最終板厚:0.22mmの冷延板に仕上げた。
ついで、冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、H2−H20−N2雰囲気中にて820℃,2分間の一次再結晶・脱炭焼鈍を行って、鋼板表層にシリカ(SiO2)を含む酸化層を形成させたのち、マグネシア:100質量部に対して、Ti02を1.5質量部、SrS04を2質量部、MgSO4・7H20を1.0質量部配合した焼鈍分離剤を、水でスラリー状にして鋼板表面に塗布した。
このとき、焼鈍分離剤用マグネシアは次のようにして製造した。まず、海水を初期原料とし、水酸化マグネシウムを得て、ロータリーキルンで焼成して純度の高いマグネシアを得た後、再度、再水和させて最終ロータリーキルン焼成の原料となる水酸化マグネシウムを得た。その際、同時に最終焼成での飛散量などを考慮して、Cl,B等の必要不純物を添加した。最後に、直火式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表9に示す4種類の粉体(記号K〜N)を製造した。
その後、表10に示す配合で各粉体の混合して、焼鈍分離剤用マグネシアとした。なお、一部は、混合せずに、単品のままで実験に供した。そして、実験に供する焼鈍分離剤用マグネシアとしては表10に示す特性をもつ10種類の粉体(No.1〜10)を用いた。
その後、860℃の窒素雰囲気中に50h保定して二次再結晶焼鈍を施し、ついで水素雰囲気中にて25℃/hの速度で1180℃まで昇温したのち、1180℃,5時間の純化焼鈍を行う最終仕上げ焼鈍を行った。その後、未反応分離剤を除去してから、りん酸マグネシウム、クロム酸およびコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティングを施した。
かくして得られた試料の磁気特性(磁束密度B8、鉄損W17/50)および被膜特性(被膜欠陥発生率、被膜の曲げ密着性)について調査した。
得られた結果を表11に示す。
なお、磁気特性は、コイル全長にわたる鉄損変化を連続鉄損計で測定し、最も鉄損が劣る箇所を切り出して評価した。
また、被膜欠陥発生率は、レーザー式の表面検査装置を用いて評価した。
さらに、被膜密着性は、最も被膜外観の劣った箇所を切り出し、被膜の曲げ密着性として、5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試料を巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。
Figure 0005245277
Figure 0005245277
Figure 0005245277
表11から明らかなように、本発明に従う条件で製造した発明例はいずれも、良好な磁気特性および被膜特性を示している。
実施例3
C:0.037%,Si:3.32%,酸可溶性Al:63ppm,N:42ppm,Sb:0.045%,Mn:0.10%,(S+0.405Se):20ppm,Cu:0.11%およびCr:0.04%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる複数の方向性電磁鋼板用スラブを、1200℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.2mmの熱延板とした。ついで、1050℃で1分間の熱延板焼鈍後、冷間圧延により最終板厚:0.29mmの冷延板とした。
ついで、冷延板を脱脂して表面を清浄化したのち、H2−H20−N2雰囲気中にて840℃,2分間の一次再結晶・脱炭焼鈍を行って、鋼板表層にシリカ(SiO2)を含む酸化層を形成させた後、マグネシア:100質量部に対して、Ti02を4質量部、SrS04を3質量部配合した焼鈍分離剤を、水でスラリー状にして鋼板表面に塗布した。
このとき、焼鈍分離剤用マグネシアは次のようにして製造した。まず、海水を初期原料とし、水酸化マグネシウムを得て、ロータリーキルンで焼成して純度の高いマグネシアを得たのち、再度、再水和させて最終ロータリーキルン焼成の原料となる水酸化マグネシウムを得た。その際、同時に最終焼成での飛散量などを考慮して、Cl,B等の必要不純物を添加した。最後に、間接式ロータリーキルンで最終焼成を行い、表12に示す4種類の粉体(記号O〜R)を製造した。
その後、表13に示す配合で各粉体を混合して、焼鈍分離剤用マグネシアとした。なお、一部は、混合せずに、単品のままで実験に供した。そして、実験に供する焼鈍分離剤用マグネシアとしては表13に示す特性をもつ10種類の粉体(No.1〜10)を用いた。
その後、850℃の窒素雰囲気中に50h保定して、二次再結晶焼鈍を施し、ついで水素雰囲気中にて25℃/hの速度で1100℃まで昇温したのち、アルゴン雰囲気中にて1200℃,5時間の純化焼鈍を行う最終仕上げ焼鈍を行った。その後、未反応分離剤を除去してから、りん酸マグネシウム、クロム酸およびコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティングを施した。
かくして得られた試料の磁気特性(磁束密度B8、鉄損W17/50)および被膜特性(被膜欠陥発生率、被膜の曲げ密着性)について調査した。
得られた結果を表14に示す。
なお、磁気特性は、コイル全長にわたる鉄損変化を連続鉄損計で測定し、最も鉄損が劣る箇所を切り出して評価した。
また、被膜欠陥発生率は、レーザー式の表面検査装置を用いて評価した。
さらに、被膜密着性は、最も被膜外観の劣った箇所を切り出し、被膜の曲げ密着性として、5mm間隔の種々の径を有する丸棒に試料を巻き付け、被膜が剥離しない最小径で評価した。
Figure 0005245277
Figure 0005245277
Figure 0005245277
表14から明らかなように、本発明に従う条件で製造した発明例は、いずれも良好な磁気特性および被膜特性を示している。

Claims (2)

  1. 方向性電磁鋼板の製造に用いる焼鈍分離剤用マグネシアであって、
    苦汁、かん水または海水を原料として製造した水酸化マグネシウムを、最終段階で直火または間接式ロータリーキルンにより焼成したマグネシアの2種以上の混合物からなり、
    そのうちの少なくとも1種のマグネシアとして、BET比表面積が36〜50 m2/g、不純物のCl濃度が0.02〜0.04%、CAA40%が35〜65秒、CAA80%が80〜160秒のものを、10mass%以上配合し、
    かつ、2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積:20〜35 m2/g、不純物のCl濃度:0.01〜0.04%、CaO濃度:0.25〜0.70%、B濃度:0.05〜0.15%、SO3濃度:0.05〜0.50%、CAA40%:55〜85秒、CAA80%:100〜250秒および20℃,60分の水和試験による水和量:1.5〜3.5mass%を満足することを特徴とする焼鈍分離剤用のマグネシア。
  2. 方向性電磁鋼板用素材を、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍を施して鋼板表層にSiO2を含む酸化膜を形成したのち、該酸化膜上にマグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、乾燥してから、最終仕上げ焼鈍を施すことからなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
    焼鈍分離剤の主成分であるマグネシアとして、請求項1に記載のマグネシアを用い、水でスラリー状にして鋼板表層の酸化膜上に塗布し、乾燥させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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