JP4191811B2 - 金属酸化物粉末の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物系セラミックスの原料として有用な金属酸化物粉末、特に2種以上の金属の複合酸化物粉末を噴霧焼成法により製造する方法に関し、組成が均一で且つ分散性、流動性に優れた球状粒子からなる金属酸化物粉末を高能率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属の酸化物粉末において、特に高度な製造技術が要求される複合酸化物粉末の工業的な製造方法には、固相法と液相法がある。固相法は、各金属の酸化物等の不均一混合粉を原材料とするので、原子、分子レベルの均一混合が得られ難い。一方、液相法は、金属の硫酸塩、塩化物、硝酸塩等のうち水に可溶の金属塩(金属イオン)の混合水溶液を原材料とするので、原子、分子レベルの均一混合が得られ、機能性を重視する各種セラミックスの製法として利点がある。この液相法による複合酸化物粉末の製造法には共沈法と噴霧焼成法が知られている。
【0003】
共沈法は、沈澱剤を加えた水溶液のpHを制御して複数の金属イオンを難溶性化合物として共沈させ、これを焼成して複合酸化物を得る方法である。しかし、この共沈法に用いる各金属イオンは、固有のpH適合域を有するため、複数の金属イオンを所定比率で同時に沈澱させることが容易でなく、また得られる複合酸化物粉末の形状は一般に不定形であり、分散性、流動性に難がある。
【0004】
これに対して噴霧焼成法は、混合水溶液を高温雰囲気中又は燃焼焔中に噴霧し、脱水と酸化を短時間内に完了させて複合酸化物粉末とする方法であり、原理的には組成のずれがない、球状に近い複合酸化物粒子が得られる方法として注目されている。具体的には、例えば、フェライトを構成する金属の塩化物の混合溶液を燃焼焔中に噴霧してフェライト微粉末を製造し、その際、生成する塩化水素ガスを回収、循環使用する方法が特公昭47−11550号公報に開示され、金属塩化物の混合水溶液を、還元性物質を殆ど含まない高温ガス流中に噴霧混合し、急速に所定の焙焼温度に保つと共に、原料と生成物の流れを熱ガス流に並流的に同伴させつつ金属塩化物の分解を行なう方法が特開平1−192708号公報に開示され、CeとZrの硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩のうちから選ばれた所定比率の混合水溶液あるいはこれに更に可燃性油と乳化剤を添加したエマルジョンを噴霧すると共に酸化雰囲気で加熱することにより、Ce−Zr系複合酸化物を製造する方法が特開平8−73221号公報に開示されている。また、噴霧焙焼装置としては、特開平2−59405号公報において、低温、中温の3段階加熱帯を有する外熱式装置の提案がなされている。しかし、工業的に安定して実施するためには未だ解決すべき課題が多く、十分に実用化されていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来例では、以下の▲1▼〜▲3▼の問題がある。
▲1▼生成した粉末が、反応炉の内壁面に付着、堆積し易く、回収性が極めて悪い。この傾向は外熱式の反応炉を用いた場合はもちろんのこと、生成物の流れを熱ガス流に同伴させた場合でも完全に解決できていない。しかも一度堆積した粉末は回収し得たとしても、焼結が進行して製品化できない。
▲2▼複数の金属イオンが複合酸化物として十分に固溶化反応を完了しておらず(固溶度が低く)、X線回折によれば、単独の金属酸化物が一部残留しており、期待した複合酸化物としての特性が得られない場合がある。この固溶化反応を完了させ、反応率を上げるために炉内温度を高めると前記▲1▼の傾向を更に助長する。
▲3▼回収した粉末がサラサラしておらず、分散性、流動性が不十分である。そのため使用時のハンドリングや成型性に難がある。
【0006】
本発明では、噴霧焼成法による金属酸化物粉末製造におけるこれらの問題点を解決し、特に、組成が均一で固溶度が高く、かつ分散性、流動性に優れた球状粒子からなる複合金属酸化物粉末を高収率、高能率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前述の▲1▼〜▲3▼の課題を解決するために鋭意検討した結果、従来技術における技術的思想から脱却し本発明を完成するに至った。
要するに、従来技術においては、炉内における反応を充分に行なわせることが主眼とされ、炉壁は保温が強化され、更には外部加熱をも併用して炉の内壁温度を上げることが目的とされている。本発明者は、このような従来技術の技術的思想に基づく場合には、前述の▲1▼の問題が回避できず、更には▲3▼の課題も解決しえないと考え、内壁面の過熱と生成する粉末粒子の内壁面への衝突とを抑制・防止すると共に炉内の反応を充分に行なわせうる手段を検討した。このような、炉の内壁面の過熱を抑制・防止することと、炉内の反応を充分に行なわせること(換言すれば、炉内の温度を充分高くすること)とは、全く相反することを同時に実現させることであって、従来においては、このような技術的思想は全く考えられていなかった。本発明者は、まず、内壁面の過熱を抑制・防止しうる手段として、種々の冷却手段を検討した。例えば、炉壁を水冷する方法が考えられるが、本発明が対象とする金属塩水溶液の噴霧焼成においては、金属塩の熱分解で生じる多量の酸根を含む露点の高い蒸気が内壁に結露し、これが粉末の付着の核となって、このような冷却法では前記▲1▼の課題も解決できない。そこで、本発明者は、炉の内壁側面に沿って空気層を形成する冷却手段に着目し、この空気層の存在にかかわらず、炉内における反応を充分に行なわせうる方法を見い出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、噴霧ノズルから金属イオンを含む水溶液を堅型反応炉内に噴霧して霧化物とし、該霧化物を焼成して金属酸化物粉末を製造する方法において、前記金属イオンを含む水溶液を霧化物とするために酸素富化ガスを用い、前記霧化物の焼成を行なうためのバーナーを、前記噴霧ノズルから噴霧される霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置に設け、前記堅型反応炉の内壁側面全周に沿って空気流層を常に形成した状態で、前記霧化物を、堅型反応炉の頂部から垂直下方向に噴霧して焼成し、前記堅型反応炉の下方に、該反応炉とは別に連結して設けた冷却通路内で、焼成され落下してくる金属酸化物粉末を、冷却用空気により冷却することを特徴とする金属酸化物粉末の製造方法が提供される。
また本発明によれば、前記バーナーを設ける、前記噴霧ノズルから噴霧される霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置が、噴霧ノズルを中心とする同心円上に位置し、且つ該ノズルに接する位置であることを特徴とする前記金属酸化物粉末の製造方法が提供される。
更に本発明によれば、前記冷却通路に連結した前記堅型反応炉の下方部が、中心部側にテーパーをなしている前記金属酸化物粉末の製造方法が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の製造方法を図面を参照して、装置に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこの装置による方法に限定されるものではない。
本発明の金属酸化物粉末の製造方法では、竪型反応炉を用い、噴霧焼成法により金属イオンを含む水溶液を霧化物として反応炉内で焼成して金属酸化物粉末を製造する。
【0010】
竪型反応炉としては、例えば、図1に示す下方部が中心部側にテーパーをなす鋼板からなる竪型反応炉を用いることができる。
図1において10は、竪型反応炉であり、20は、竪型反応炉から焼成され落下してくる金属酸化物粉末を冷却用空気により冷却する冷却通路であって、竪型反応炉10の下方に連結して設けている。
竪型反応炉10は、金属イオンを含む水溶液を霧化するための噴霧ノズル及び焼成のためのバーナーを備える、反応炉の頂部中心部に設けた霧化焼成器具11と、反応炉の内壁側面全周に沿って空気流層を形成しうる空気供給ノズル(12A,12B)とを備える。
【0011】
霧化焼成器具11は、本発明の製造方法における金属塩の分解、酸化、焼成(固溶化)の全過程を、バーナー火焔内で最も効率的に完結するため、反応炉頂部に設け、且つ霧化物の噴霧が、反応炉頂部から垂直下方向に行なわれるように設置する必要がある。加えて、霧化焼成器具11の構成は、金属イオンを含む水溶液を霧化するための噴霧ノズルを中心とし、この噴霧ノズルから噴霧される霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置にバーナーを設置する必要がある。好ましくは、噴霧ノズルを中心とする同心円上に位置し、且つ噴霧ノズルに接する位置にバーナーを設置する。このような好ましい態様としては、図2及び図3に示す態様が挙げられる。
図2(a)は霧化焼成器具11の垂直断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。また、図3は図2(b)のその他の態様を示す断面図である。図2及び図3において、11Aは金属イオンを含む水溶液を吐出する管、11Bは管11Aから吐出する水溶液を霧化物とするための酸素富化ガスを吐出する管、11Cは燃焼ガスを吐出する管、並びに11Dは燃焼酸素を吐出する管をそれぞれ示す。ここで、噴霧ノズルは管11A及び管11Bにより構成されており、バーナーは管11C及び管11Dにより構成されている。いずれの例もバーナーが、噴霧ノズルを中心とする同心円上に位置し、且つ噴霧ノズルに接して設けられた例である。従来技術では、噴霧ノズルとバーナーとを別の位置(45〜90度の関係にある位置、例えば図11に示す位置)に設け、バーナーの燃焼焔内に霧化物を噴霧ノズルから噴霧するものが主流であって、霧化物を火焔で覆うような位置にバーナーを設置するものは少ない。しかし、本発明においては、後述する空気流層を反応炉の内側壁面全周に沿って形成した状態で霧化物を効率良く焼成する必要があるため、霧化物を火焔で覆うような位置にバーナーを設置する構成を採用する。例えば図11に示すような位置にバーナー51を設置した場合には、後述する空気流層を常に形成した場合にも、内壁面に生成した粉末の付着、堆積が生じるという問題がある。本発明では、更に、霧化物の形成に、通常の空気でなく、酸素富化ガスを採用することにより、火焔内部を強度の酸化雰囲気としてはじめてバーナー火焔内で焼成を完結させることができる。
【0012】
図1において、内壁側面全周に沿って空気流層を形成する空気供給ノズル(12A,12B)は、内壁面の過熱を防ぐと共に焼成により生成する粉末粒子の内壁面への衝突を緩和し、粉末を内壁面に付着・堆積させることを抑制・防止して、該粉末粒子をスムーズに反応炉から排出するよう作用する。空気供給ノズルの構造及び設置位置は、内壁側面全周に沿って略均等に空気が流下して空気流層が形成される構造であれば良く、必ずしも内壁側面全体が隙間なく空気流層により覆われている必要はない。また、必ずしも図1における空気供給ノズル(12A,12B)の両方から空気を流下させる必要はなく、内壁側面全周に沿って反応炉の中心部から下方部に空気流層が形成されるように、片方のみの空気供給ノズルから空気を流下させても良い。従って、空気供給ノズルは、例えば内壁側面全周に等間隔に多数のノズルを配置するか、あるいは全周又は分割された円弧状にスリットノズルを形成した構造のものを好適に用いることができる。空気を流下させる方向、即ちノズルの向きは、鉛直方向のみならず、鉛直方向から内壁側面側に略45度以内の角度を与えて設置することができ、この場合、空気流は、図1に示すように旋回気流となって内壁側面を下降する空気流層13を形成する。また、ノズルから出る空気流が内壁側面に沿って旋回しながら下降するようにノズルの向きを決定することもでき、この場合、ノズルの数を少なくすることができる。空気供給ノズルを設置する位置は、炉内最上部の内周面に沿って1か所(図1の12Aに相当)でもよいが、炉本体の大きさに応じて下流側に更に1か所(図1の12Bに相当)又は更に複数箇所追加して設けても良い。
【0013】
図1において、前記反応炉10の下部に連結して設置される冷却通路20は、空気供給ダクト21及び通路22により主に構成されている。空気供給ダクト21の空気導入側にはダストフィルター23を設け、通路22の空気供給ダクト側には開度調整機構24を設け、冷却通路20内に清浄な空気を必要量取り込める機構としている。このような冷却通路20を設けることによって、反応炉で生成した未だ組成によっては一部溶融状態にある球状粒子を所望空気量によって冷却することができると共に、流動性及び分散性に優れた球状粒子をより多く含む粉末を、更に効率良く回収することができる。一般に、原料金属塩の成分に由来する酸根(硫酸根、硝酸根、塩素など)は、原理的にはバーナーの火焔温度で分解しガス化しているはずであるが、その分解生成ガスの分圧と粉末の温度(冷却速度)の兼ね合いにより、製品粉末の表面に酸根を含む蒸気が結露する条件が生じ、反応炉から排出される生成粉末粒子の表面に酸根が吸着し、粉末粒子の流動性及び分散性を劣化させるものと考えられる。しかし、前記冷却通路20を、反応炉10とは別に、且つ反応炉下部に連結して設ける構成を採用することによって酸根の粒子への吸着を防止することができ、より流動性及び分散性に優れる球状の粒子を多く含む粉末を得ることができる。
【0014】
本発明の製造方法は、図2又は3等に示すような霧化焼成手段を設けた、図1に示すような竪型反応炉、必要に応じて冷却通路を設けた装置を用いて実施することができる。通常は、図4に示すように、竪型反応炉10に、バグフィルター41、排ガス洗浄設備42及び吸引ファン43等を結合した構成の装置により実施することができる。
【0015】
本発明の製造方法においては、竪型反応炉10の空気供給ノズル(12A,12B)から空気を流下させ、反応を実施している間は、反応炉10の内壁側面全周に沿って空気流層13を常に形成した状態に維持する。この空気量は、炉の直径、長さ、金属イオンを含む水溶液の噴霧量に依存するため、反応炉の内壁面における粉末の堆積の有無を実際に確認することにより経験的にノズルの使用段数及び最適流量を求めて決定することができる。そして、反応炉10の頂部に設けた霧化噴霧器具11から酸素富化ガスで霧化された金属イオンを含む水溶液を噴霧すると共に、バーナーから燃料ガス及び燃焼用酸素を吐出させて、前記噴霧により発生する霧化物をバーナーからの火焔により覆い、急速に脱水、酸化、焼成して金属酸化物の球状粒子を生成させる。特に複合金属酸化物粉末の場合は固溶度の高い球状粒子を生成させることができる。
【0016】
金属酸化物粉末の原料としての金属イオンを含む水溶液は、例えば金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩等のうち水溶性のものを水溶液としたものであれば良く、特に2種以上の金属イオンを含む複合金属酸化物粉末の場合は、それら水溶液同士を混合しても水溶状態を保ちえるものであることが必要である。水溶液の濃度は、噴霧ノズルの構造にもよるが、目的とする粉末粒度を大きくする場合は濃度を高くし、小さくする場合は濃度を低く調整すれば良く、通常、0.5〜4mol/L程度の範囲から適宜選択することができる。
前記水溶液を霧化するための酸素富化ガス(図2及び3における管11Bから吐出する酸素富化ガス)としては、工業用純度の純酸素ガス又は酸素60容量%以上として窒素ガス等で希釈したもの等が好ましく使用できる。酸素60容量%未満のガスでは、複合金属酸化物粉末とした際の固溶度が不十分になる恐れがあるので好ましくない。
前記バーナーによる火焔の温度は、対象とする粉末の種類にもよるが、燃料ガス量及び燃焼用酸素ガスの調整により約2000℃前後に維持して行なうことができる。
【0017】
前記冷却用通路20内に送る空気量は、開度調整機構24により調整することができ、図4に示すバグフィルター41に到達するまでに粉末の温度が150〜250℃に冷却されうる空気量とするのが好ましい。
【0018】
【発明の効果】
本発明の製造方法では、原料である金属イオンを含む水溶液を霧化物とするために酸素富化ガスを用い、この霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置にバーナーを設け、堅型反応炉の内壁側面全周に沿って空気流層を常に形成した状態で霧化物を、堅型反応炉の頂部から垂直下方向に噴霧して焼成するので、特に、組成が均一で固溶度が高く、かつ分散性、流動性に優れた球状粒子からなる複合金属酸化物粉末を高収率、高能率で製造することができる。また、堅型反応炉の下方に冷却通路を設け、焼成され落下してくる金属酸化物粉末をこの冷却通路内で冷却用空気により冷却することにより更にこのような効果を向上させることができる。従って、各種金属酸化物粉末、特に複合金属酸化物粉末の製造に極めて有用である。
【0019】
【実施例】
以下本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
図2に示す霧化焼成器具11を設けた、図1に示す構成を有する竪型反応炉10及び冷却通路20を備えた図4に示す実験設備(反応炉円筒部の内径が300mm、長さ2500mm)を用い、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)水溶液を噴霧焼成してジルコニア(ZrO2)粉末の製造を行なった。噴霧は、濃度3mol/Lの水溶液0.3L/hrで管11Aから供給し、0.6m3/hrの酸素ガスを管11Bから噴霧し霧化して行なった。炉の内壁最上部には空気供給ノズル12Aを5cm間隔で円周状に設け、室温の空気を3m3/hrで流下させて常に空気流層が内壁側面全周に沿って形成された状態に維持した。バーナーにはLPG−酸素炎を用い火焔温度を約2000℃に維持した。噴霧焼成の開始と共にバクフィルター41の入口内部の粉末温度を監視し、150〜200℃で推移するよう空気供給ダクト21からの空気量を開度調整機構24で調整しながら行なった。
5時間の連続運転後、投入原料の量から換算した理論金属酸化物粉末量に対するバグフィルター41に回収された粉末重量の割合(以下、回収率という)を測定したところ95%であった。得られたジルコニア粉末は、図5の走査型電子顕微鏡写真で示されるように流動性に優れた球状粒子からなっており、残留塩素根を分析したところ63ppmと低いレベルであった。
【0020】
参考例
出発原料として、実施例1で用いたオキシ塩化ジルコニウム3mol/Lの水溶液に、硝酸イットリウム(Y(NO3)3)をモル比で、Zr:Y=92:8になるように添加した水溶液を用い、内壁側面に形成する空気流層を、図1に示す空気供給ノズル(12A,12B)(各々5cm間隔で円周状に設けられている)の2か所から各1.5m3/hr流下させて内壁側面全周に沿って形成し、更に冷却用通路20に冷却用空気を供給せずにバグフィルター41における温度管理を行なわなかった以外は、実施例1と同様な条件で噴霧焼成を行なった。その結果、複合金属酸化物粉末の回収率は72%であった。この際、粉末には1200ppmの塩素根の残留が認められた。
【0021】
実施例
バクフィルター41の入口内部の粉末温度を監視し、150〜200℃で推移するよう空気供給ダクト21からの空気量を開度調整機構24で調整して冷却用通路20に空気を供給しながら行なった以外は、参考例と同様にして噴霧焼成を行なった。得られた複合金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真を図6に、X線回折チャートを図7に示す。これらの結果から、該粉末は、イットリウムが十分に固溶した複合酸化物(イットリウム安定化ジルコニア)の球状粒子からなることが判る。また、粉末の回収率は96%、残留塩素根は87ppmと良好であった。
【0022】
実施例
出発原料として、モル比でLi:Co=1:1となるように硝酸リチウム(LiNO3)と硝酸コバルト(Co(NO3)3)とを合計で2.5mol/L溶解させた水溶液を用い、内壁側面に形成する空気流層を、図1に示す空気供給ノズル12B(5cm間隔で円周状に設けられている)に示す位置から3m3/hr流下させて内壁側面全周に沿って形成し、火焔温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様に噴霧焼成を行なった。得られた複合金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真を図8に、X線回折チャートを図9に示す。これらの結果から、この粉末は、LiイオンとCoイオンとが複合酸化物コバルト酸リチウム(LiCoO2)として十分に反応を完了した球状粒子からなることがわかる。また、粉末の回収率は92%と良好であった。
【0023】
比較例1
内壁側面に空気層を形成しなかった以外は、実施例と同様の条件で噴霧焼成を行なった。この際、内壁側面の温度は700℃以上に上昇した。1時間後に実験を中止して内壁を調べたところ、金属酸化物粒子が最高10mmの厚さに付着・堆積していた。その結果、粉末の回収率は27%と低かった。図10にこの粉末の走査型電子顕微鏡写真を示す。この写真から得られた粒子は変形した形状のものが多く混在していることがわかる。
【0024】
比較例2
図11は、図1における竪型反応炉10において、噴霧ノズルとバーナーとを一体化させず、噴霧ノズル50の噴霧方向と45度の角度に対向して設けた2基のバーナー51を霧化焼成器具11の代わりに設け、且つ空気供給ノズル12Aを設けていない反応炉の省略概念図であって、この図11に示す反応炉を用いて焼成を行なった以外は実施例と同様に噴霧焼成を行なった。このバーナー51の配置では、内壁側面全周に沿って空気流層を形成して焼成を行なったにもかかわらず、内壁側面への粉末の付着・堆積が生じ、バグフィルター41における粉末の回収率は54%と実施例4に比べて極めて低いものであった。
【0025】
比較例3
噴霧ノズルの管11Bに供給する霧化用ガスを、酸素ガスから空気に代えた以外は、実施例と同様に噴霧焼成を行なった。得られた粉末のX線回折チャートを図12に示す。図12の結果で示されるように、実施例(図9)に比べて固溶度の低いものであった。なお、固溶度を高めるために火焔温度を1300℃まで上昇させた追加実験を行なったが、粉末を構成する成分中Li元素の気化が生じ、設計通りの成分バランスが得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に好適に用いることができる冷却通路が連結された竪型反応炉の概略図である。
【図2】 図1に示す霧化噴霧器具11の構造を示す説明図であって、図2(a)は霧化噴霧器具11の垂直断面図、図2(b)は図2(a)におけるA−A断面図である。
【図3】 図1に示す霧化噴霧器具11の構造を示す図であって、図2(b)の他の実施の態様を示す断面図である。
【図4】 本発明に好適に用いることができる反応設備全体を示す概略図である。
【図5】 実施例1で得られた金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】 実施例で得られた金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】 実施例で得られた金属酸化物粉末のX線回折チャートである。
【図8】 実施例で得られた金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】 実施例で得られた金属酸化物粉末のX線回折チャートである。
【図10】 比較例1で得られた金属酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】 比較例2で用いた反応炉のバーナー配置を示す反応炉の省略図である。
【図12】 比較例3で得られた金属酸化物粉末のX線回折チャートである。
【符号の説明】
10:竪型反応炉
11:霧化焼成器具
12A,12B:空気供給ノズル
13:空気流層
20:冷却通路
21:空気供給ダクト
22:通路
23:ダストフィルター
24:開度調整機構
41:バグフィルター
42:排ガス洗浄設備
43:吸引ファン
50:噴霧ノズル
51:バーナー

Claims (3)

  1. 噴霧ノズルから金属イオンを含む水溶液を堅型反応炉内に噴霧して霧化物とし、該霧化物を焼成して金属酸化物粉末を製造する方法において、前記金属イオンを含む水溶液を霧化物とするために酸素富化ガスを用い、前記霧化物の焼成を行なうためのバーナーを、前記噴霧ノズルから噴霧される霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置に設け、前記堅型反応炉の内壁側面全周に沿って空気流層を常に形成した状態で、前記霧化物を、堅型反応炉の頂部から垂直下方向に噴霧して焼成し、前記堅型反応炉の下方に、該反応炉とは別に連結して設けた冷却通路内で、焼成され落下してくる金属酸化物粉末を、冷却用空気により冷却することを特徴とする金属酸化物粉末の製造方法。
  2. 前記バーナーを設ける、前記噴霧ノズルから噴霧される霧化物を火焔が覆うように焼成しうる位置が、噴霧ノズルを中心とする同心円上に位置し、且つ該ノズルに接する位置であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物粉末の製造方法。
  3. 前記冷却通路に連結した前記堅型反応炉の下方部が、中心部側にテーパーをなしている請求項1又は2に記載の金属酸化物粉末の製造方法。
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