JP4181797B2 - イソシアヌル酸環を有する新規なエステル化合物および該化合物を用いたエポキシ樹脂組成物 - Google Patents

イソシアヌル酸環を有する新規なエステル化合物および該化合物を用いたエポキシ樹脂組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、エポキシ樹脂の硬化剤として有用なイソシアヌル酸環を有する新規なエステル化合物および該化合物を配合したエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂組成物は、種々のタイプのエポキシ樹脂と硬化剤、また必要に応じて硬化促進剤を組み合わせることにより、優れた電気特性、機械特性、熱特性を発揮させることができるため、多くの分野で使用されている。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、一般的に酸無水物、フェノール化合物等の酸性化合物や、アミン、尿素、イミダゾール類等の塩基性化合物等が、硬化物の求められる特性に応じて使い分けされている。
【0004】
酸性化合物の一つである1,3,5−トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート(以下、CIC酸という)を硬化剤として配合したエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特開昭59−107742号、特表平8−506134号、特開平11−293187号、同11−293189号、特表2001−502003号等)。
【0005】
しかしながら、CIC酸をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合、CIC酸が高融点(223〜226℃)であり且つエポキシ樹脂との相溶性が悪いため、均一な硬化物を得るためには200℃以上の高い硬化温度を必要とすると云う難点がある。
即ち200℃未満の硬化温度では、エポキシ樹脂に添加したCIC酸が固体状態のままであるので硬化反応が完結せず、得られる硬化物の諸特性が悪いのは無論であるが、未反応のCIC酸が残るので硬化物が不透明なものとなり、その外観も悪い。
【0006】
一方、150℃程度の比較的低い温度で硬化させるためには、CIC酸をエポキシ樹脂に溶解させるために、ジメチルスルフォキシドやジメチルホルムアミド等の極性の高い高沸点有機溶剤を併用しなければならないと云う問題点があった。
【0007】
このような問題点を解決するために、特開2001−11057号公報にはイソシアヌル環に結合している2−カルボキシエチル基の代わりに2−カルボキシプロピル基を置換させたイソシアヌレート化合物が提案されている。
【0008】
また、特開2000−63489号公報には、CIC酸のフェノールエステル化合物が、同2000−319267号公報には、CIC酸とビニルエーテル化合物とを反応させて得られるイソシアヌレート化合物が各々提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、CIC酸が発揮し得る優れた硬化特性を維持しながら、CIC酸が高融点であって、且つエポキシ樹脂に対する溶解性が低いことに由来する問題点、即ちエポキシ樹脂の硬化に200℃以上の高温を必要とすると云う問題点あるいは150℃程度の比較的低い温度で硬化させるためには、極性が高い高沸点の溶剤を配合しなければならないと云う問題点を解決することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、CIC酸のt−ブチルエステル化合物が、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は化2で示されるイソシアヌル酸環を有する新規なエステル化合物及び、該化合物を硬化剤として配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関する。
【0011】
【化2】
Figure 0004181797
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
化2で示される本化合物の1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートは、下記のA工程およびB工程を経ることで製造できる。
【0013】
A工程:CIC酸を塩化チオニルと反応させて、化3で表される1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレートを製造する工程。
【0014】
【化3】
Figure 0004181797
【0015】
B工程:前記の1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレートとt−ブチルアルコールを反応させる工程。
【0016】
A工程の反応は、CIC酸1モルに対して、塩化チオニルを3〜5モル用い、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中で、60℃以下の反応温度、1〜2時間の反応時間で行うことができる。
【0017】
続いてB工程の反応は、A工程で得られた1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレート1モルに対して、t−ブチルアルコールを3〜5モル用い、ピリジン等の塩基性化合物を3モル加え、クロロホルム等の不活性溶媒中で、60〜70℃の温度で1〜5時間の反応時間で行うことができる。
【0018】
このようにして得られた1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートは、イソプロピルアルコール、酢酸エチル等の低沸点溶媒に可溶な115〜120℃の融点を有する白色の結晶である。
【0019】
本発明の1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートをエポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合、一分子内に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に対して、1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートを、エポキシ基/エステル基の当量比で0.5〜4.0の割合で配合し、また必要に応じてイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等の三価のリン化合物、三級アミン類および四級アンモニウム塩や四級ホスホニウム塩等の第四オニウム塩等から選ばれる1種類または2種類以上を混合したものを硬化促進剤として、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部の割合で添加することができる。
【0020】
本発明で使用するエポキシ樹脂は、特に限定されるものではなく平均して一分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであれば良い。
代表的なエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ヒダントイン型を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、カテコールやレゾルシノール等の多価フェノールまたはグリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテル、フタル酸またはイソフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、更にはエポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、水溶性エポキシ樹脂、その他ウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて希釈剤、可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、消泡剤、レベリング剤、充填剤、顔料、染料等の各種添加剤を加えることができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
なお、実施例および比較例における評価試験は、次に示した試験規格および条件によって行ったものである。
【0023】
[評価試験方法]
▲1▼エポキシ樹脂の硬化性
・ゲル化時間:JIS C−2105〔熱板法(150℃)〕
・ポットライフ:JIS K−6838〔初期粘度の2倍に達する時間〕
▲2▼硬化物の外観:目視
▲3▼エポキシ樹脂硬化塗膜の物性
・耐屈曲性:JIS K−5400〔折り曲げ試験、測定温度25℃〕
・密着性:JIS K−5400〔碁盤目試験、測定温度25℃〕
・硬さ:JIS K−5400〔鉛筆引っかき試験、測定温度25℃〕
【0024】
〔実施例1〕
<1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレートの合成>
攪拌機、温度計および冷却管を備えたフラスコに、N,N−ジメチルホルムアミド140mlを仕込み、CIC酸55.24g(0.160モル)を加え、室温で攪拌しながら溶解させた。次いで、攪拌下塩化チオニル40.6ml(0.528モル)を1時間で滴下した。この間液温は26℃から58℃まで上昇し、滴下途中で白色結晶が析出し始め、滴下終了時には反応液がスラリー状になった。
滴下終了後、さらに室温で1時間攪拌を続け、その後冷却し析出した結晶を濾取し、クロロホルム50mlで洗浄してエバポレータで乾燥することにより、1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレート59.87gを得た。原料であるCIC酸に対する収率は93.4%であった。
【0025】
得られた化合物のスペクトルデータは以下のとおりであった。
IR(KBr法)/ν(cm−1)
1815,1796 C=O伸縮
1462 イソシアヌル酸環
【0026】
<1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートの合成>
攪拌機、温度計および冷却管を備えたフラスコに、クロロホルム100ml、t−ブタノール25.0g(0.331モル)およびピリジン25ml(0.306モル)を仕込み、攪拌して均一な溶液にした。次いで攪拌を行いながら、前記1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレート40.06g(0.100モル)を1時間かけて添加した。この間液温は25℃から30℃に上昇した。添加終了後、さらに65℃で1時間反応させた。
反応終了後、反応液を濃縮し、濃縮物にクロロホルム70mlを加えて、水50mlで洗浄した。クロロホルム相を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮して乳白色の結晶を得た。この結晶をメタノールから再結晶させて1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレート31.8gを得た。原料である1,3,5−トリス(2−クロロホルミルエチル)イソシアヌレートに対する収率は61.9%であった。
得られた化合物の性状、融点、スペクトルデータは表1に示したとおりであった。
【0027】
【表1】
Figure 0004181797
【0028】
〔実施例2〕
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ社製、商品名「エピコート828」、エポキシ当量186)と、硬化剤として実施例1で得られた1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートをエポキシ基/エステル基の当量比が1:1になる割合で配合し、更に硬化促進剤として2−フェニルイミダゾールをエポキシ樹脂100重量部に対して4重量部の割合で添加した後、乳鉢で粉砕・混合し、均一に分散したエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0029】
得られたエポキシ樹脂組成物について、150℃におけるエポキシ樹脂の硬化性(ゲル化時間)、25℃における保存安定性(ポットライフ)を評価した結果は、表2に示したとおりであった。
また、得られたエポキシ樹脂組成物を、アルミ板の表面に刷毛で均一に塗り、150℃のオーブンを用いて30分間加熱硬化させ、得られた塗膜の外観を目視にて確認した。次いでアルミ板を所定の寸法に切り出し、塗膜の物性(耐屈曲性、密着性、硬さ)を調べたところ、これらの結果は表2に示したとおりであった。
なお、アルミ板の場合と同様にして、前記エポキシ樹脂組成物を銅板の表面に塗布し、塗膜の外観および物性を評価したところ、材質の違いによる塗膜の外観および物性の差は認められなかった。
【0030】
〔比較例1〕
エポキシ樹脂およびCIC酸をエポキシ基/カルボキシル基の当量比が1:1になる割合で配合し、乳鉢で粉砕・混合し、均一に分散したエポキシ樹脂組成物を調製した。得られた組成物について、実施例2と同様にして各種評価試験を行ったところ、これらの試験結果は、表2に示したとおりであった。
【0031】
〔比較例2〕
エポキシ樹脂およびCIC酸をエポキシ基/カルボキシル基の当量比が1:1になる割合で配合し、さらに2−フェニルイミダゾールをエポキシ樹脂100重量部に対して4重量部の割合で添加した後、乳鉢で粉砕・混合し、均一に分散した樹脂組成物を調製した。得られた組成物について、実施例2と同様にして各種評価試験を行ったところ、これらの試験結果は、表2に示したとおりであった。
【0032】
【表2】
Figure 0004181797
【0033】
実施例2と比較例2を比べると、本発明の1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートを配合したエポキシ樹脂組成物の硬化物は、CIC酸を配合した場合よりもゲル化時間が短くなっているので硬化性が優れ、またポットライフが著しく長くなっており、保存安定性が飛躍的に改善されているものと認められる。
また、エポキシ樹脂硬化塗膜についても、透明で均質なものであり、耐屈曲性および密着性に優れ、硬度も高く優れた物性を有しているものと認められる。
【0034】
【発明の効果】
本発明の1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートは、CIC酸と比較して融点が低く、有機溶剤に対する溶解性およびエポキシ樹脂への相溶性が良好である。また、本発明の1,3,5−トリス〔2−(t−ブトキシカルボニル)エチル〕イソシアヌレートを硬化剤に使用したエポキシ樹脂組成物は、硬化性および常温における保存安定性が良好であって、且つ透明で金属への密着性に優れた硬化物を与えるので、塗料、接着剤などの分野において好適なものである。

Claims (2)

  1. 化1で表されるイソシアヌル酸環を有する新規なエステル化合物。
    Figure 0004181797
  2. 一分子内に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、請求項1に記載のエステル化合物を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
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