JP4175188B2 - ダイオキシン類分析用試料の調製方法および調製装置並びにダイオキシン類分析用試料の採取装置 - Google Patents
ダイオキシン類分析用試料の調製方法および調製装置並びにダイオキシン類分析用試料の採取装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、分析用試料調製方法および調製装置並びに分析用試料採取装置、特に、ダイオキシン類分析用試料の調製方法および調製装置並びに流体試料中に含まれるダイオキシン類を分析するために、流体試料からダイオキシン類の分析用試料を採取するための装置に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
ダイオキシン類は毒性の強い環境汚染物質であることから、ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)は、廃棄物焼却施設からの排気ガス、大気、工場排水や河川水などの水、廃棄物焼却施設において発生する飛灰(フライアッシュ)および土壌等に含まれるダイオキシン類を定期的に分析することを義務付けている。なお、本明細書において、ダイオキシン類は、ダイオキシン類対策特別措置法第2条の規定に倣い、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)およびポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)に加え、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co−PCBs)を含む意味として用いる。
【0003】
排気ガスや水等の流体中や土壌中に含まれるダイオキシン類を分析する場合は、先ず、排気ガスや土壌等の検体中に含まれるダイオキシン類を分析用試料として確保する必要がある。例えば、排気ガス中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を確保する方法として、非特許文献1に記載されたガラス製インピンジャーを用いる方法や特許文献1および2等に記載のフイルタを用いる方法が知られているが、これらの方法において、一般に、ダイオキシン類の分析用試料は、最終的にトルエンやn−ヘキサン等の疎水性溶媒を用いた数十〜百数十mlの抽出液として得られる。そして、得られた抽出液は、多層シリカゲルカラム等を用いて精製処理された後、通常、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて分析される。
【0004】
ところで、ダイオキシン類は、多種類の化合物の総称であり、毒性の強いものと弱いものとが存在している。したがって、ダイオキシン類の分析は、全体的な定量的評価をするよりも、毒性等量(TEQ値)として定量化し、それに基づいて評価する方が実用的で有益な場合が多い。そこで、ダイオキシン類のTEQ値を簡便かつ迅速に評価するための方法として、イムノアッセイ法(例えばELISA法)、EROD法およびDR−CALUX法等のバイオアッセイ法が提案されている(例えば、特許文献3および非特許文献2〜12参照)。
【0005】
バイオアッセイ法は、抗原抗体反応等の生体反応を応用した分析手法であり、それを実施するためには、通常、上述の抽出液において、疎水性溶媒をジメチルスルホキシド(DMSO)やアルコール等のバイオアッセイ法に適した親水性溶媒に置換すると共に抽出液量を数ml程度若しくは1ml以下の少量に濃縮する必要がある。ここで、上述の抽出液において疎水性溶媒を親水性溶媒に置換すると共に濃縮するための方法は、例えば、非特許文献11および非特許文献12に記載されている。これらの文献に記載の方法では、基本的に、エバポレーターを用いて減圧下で抽出液から疎水性溶媒を除去し、その残留物(すなわち、ダイオキシン類試料)にDMSO等の親水性溶媒を少量加えて残留物を溶解している。また、必要に応じ、得られた親水性溶媒溶液に窒素ガスを吹き付け、当該親水性溶媒溶液をさらに濃縮している。これにより、少量のダイオキシン類の親水性溶媒溶液、すなわち、バイオアッセイ法に適したダイオキシン類の分析用試料が得られる。
【0006】
しかし、非特許文献11、12に記載の方法は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から疎水性溶媒を除去するための操作と、疎水性溶媒を除去後のダイオキシン類試料を親水性溶媒に溶解するための操作とが必要であるため、操作が煩雑であり、ダイオキシン類の分析用試料を入手するまでに長時間を要する。また、検体に含まれるダイオキシン類を簡便かつ迅速に分析するため、特許文献4には、検体からのダイオキシン類の採取から、採取されたダイオキシン類のバイオアッセイ法による分析までに至る一連の操作を自動化可能なダイオキシン類の測定装置が提案されているが、上述のような操作は、自動化に馴染みにくいか、自動化を実現するための複雑な機械的構成を必要とするため、そのような自動測定装置を実現する上で不都合である。
【0007】
本発明の目的は、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、親水性のダイオキシン類分析用試料を簡便に調製することにある。
【0008】
【非特許文献1】
1999年9月20日制定の日本工業規格JIS K 0311:1999
【非特許文献2】
大塚製薬株式会社「エコアッセイダイオキシンELISAキット」のニュースリリース、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.otsuka.co.jp/annai/release/011212.htm>
【非特許文献3】
大塚製薬株式会社「エコアッセイダイオキシンELISAキット」の商品情報、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.iwai-chem.co.jp/products/otuka/index.htm>
【非特許文献4】
和光純薬株式会社「ダイオキシンELISAキットワコー」の商品情報、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/anal/pdf/anal27.pdf>
【非特許文献5】
コスモ石油株式会社「イムノエコDXN」のニュースリリース、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_021218/menu.html>
【非特許文献6】
コスモ石油株式会社「イムノエコDXN」の技術資料、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_021218/1.pdf>
【非特許文献7】
米国ケープテクノロジーズ社(CAPE Technologies L.L.C.)の「DF1 ダイオキシン/フラン イムノアッセイキット用技術情報マニュアル(Technical Information Manual for DF1 Dioxin/Furan Immunoassay Kit)」、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.cape-tech.com/>
【非特許文献8】
東洋紡績株式会社「Dioxin ELISA Kit」の商品情報、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/xr/olul/upld71/new/dioxinelis71nr06.pdf>
【非特許文献9】
株式会社クボタ「Ahイムノアッセイ」の商品情報、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://tdh.kubota.co.jp/ahi/main1.html>
【非特許文献10】
アヅマックス株式会社「RISc ダイオキシン検査キット」の商品情報、[平成15年5月30日検索]、インターネット<URL:http://www.azmax.co.jp/idx02_product/kensa/field_10/product_01_index.htm>
【非特許文献11】
「ダイオキシン類の脱塩素化処理におけるバイオアッセイモニタリング」、第11回環境化学討論会講演要旨集、日本環境化学会、2002年6月3日〜5日、430−431頁
【非特許文献12】
Organohalogen Compounds,45,200−203(2000)
【0009】
【特許文献1】
特許第3273796号公報
【特許文献2】
WO01/91883号公報
【特許文献3】
特開2001−226371公報
【特許文献4】
特開2002−340882公報
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の調製方法は、アルミナを充填したカラムにダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給して通過させる工程と、疎水性溶媒溶液が通過後のカラムに対し、ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給する工程と、カラムを通過した親水性溶媒を確保する工程とを含んでいる。親水性溶媒は、ジメチルスルホキシドまたはアルコール類である。
【0011】
この調製方法において、疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類は、疎水性溶媒溶液がカラムを通過する際、アルミナにより捕捉され、カラム内に留まる。そして、アルミナにより捕捉されたダイオキシン類は、カラムに対して親水性溶媒を供給すると、当該親水性溶媒に溶解され、親水性溶媒と共にカラムから排出される。したがって、カラムを通過した親水性溶媒を確保すると、親水性のダイオキシン類分析用試料を得ることができる。
【0012】
また、親水性溶媒の供給工程では、例えば、カラムに対し、疎水性溶媒溶液の通過方向とは逆方向に親水性溶媒を供給する。また、当該供給工程では、例えば、カラムを加熱しながらカラムに対して親水性溶媒を供給する。さらに、当該供給工程では、例えば、カラムに供給する疎水性溶媒溶液の量に比べ、カラムに対する親水性溶媒の供給量を少量に設定する。
【0013】
また、この調製方法は、例えば、親水性溶媒を供給する前に、疎水性溶媒溶液が通過後のカラムに対して不活性ガスを供給する工程をさらに含んでいる。
【0014】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の調製装置は、アルミナを充填したカラムと、カラムに対し、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給するための溶液供給部と、カラムに対し、ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給するための親水性溶媒供給部とを備えている。親水性溶媒は、ジメチルスルホキシドまたはアルコール類である。
【0015】
この調製装置において、溶液供給部からカラムに対して供給された疎水性溶媒溶液に含まれるダイオキシン類は、疎水性溶媒溶液がカラムを通過する際、カラムに充填されたアルミナにより捕捉され、カラム内に留まる。そして、アルミナにより捕捉されたダイオキシン類は、カラムに対して親水性溶媒供給部から親水性溶媒を供給すると、当該親水性溶媒に溶解され、親水性溶媒と共にカラムから排出される。したがって、カラムからの親水性溶媒を確保すると、親水性のダイオキシン類分析用試料を得ることができる。
【0016】
なお、この調製装置において、親水性溶媒供給部は、例えば、溶液供給部による疎水性溶媒溶液の供給方向とは逆方向に、カラムに対して親水性溶媒を供給可能に設定されている。
【0017】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の採取装置は、流体試料中に含まれるダイオキシン類を分析するために、流体試料からダイオキシン類の分析用試料を採取するためのものであり、流体試料中に含まれるダイオキシン類を捕捉して採取するためのフイルタを有する採取部と、フイルタに対して流体試料を案内するための案内部と、フイルタにより採取されたダイオキシン類をフイルタから抽出するための疎水性溶媒を、フイルタに対して供給するための第一溶媒供給部と、フイルタからダイオキシン類を抽出した疎水性溶媒を引き続いて供給可能に設定された、極性物質を捕捉可能でありかつダイオキシン類が通過可能な第一固定相が充填された第一カラムを有する第一処理部と、第一カラムを通過しかつダイオキシン類を含む疎水性溶媒を引き続いて供給可能に設定された、ダイオキシン類を捕捉可能なアルミナが充填された第二カラムを有する第二処理部と、第二カラムに対し、ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給可能な第二溶媒供給部とを備えている。親水性溶媒は、ジメチルスルホキシドまたはアルコール類である。
【0018】
このような採取装置において、案内部によりフイルタに対して案内される流体試料中に含まれるダイオキシン類は、流体試料がフイルタを通過する際に当該フイルタにより捕捉される。そして、フイルタに捕捉されたダイオキシン類は、第一溶媒供給部からフイルタに供給される疎水性溶媒により抽出され、続いて疎水性溶媒溶液として第一処理部の第一カラムに供給される。第一カラムに供給された疎水性溶媒溶液は、第一カラムを通過する際、極性物質、すなわち、ダイオキシン類以外の不純物が第一固定相により捕捉され、精製される。精製された疎水性溶媒溶液は、続いて第二処理部の第二カラムに供給される。第二カラムに供給された疎水性溶媒溶液は、第二カラムを通過する際、ダイオキシン類がアルミナにより捕捉されて取り除かれる。そして、第二カラムに対し、第二溶媒供給部から親水性溶媒を供給すると、第二カラムに捕捉されたダイオキシン類は、親水性溶媒により抽出される。したがって、第二カラムからの親水性溶媒を確保すれば、親水性のダイオキシン類分析用試料を得ることができる。
【0019】
なお、この採取装置において、第二溶媒供給部は、例えば、第二カラムに対する疎水性溶媒の供給方向とは逆方向に親水性溶媒を供給可能に設定されている。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係るダイオキシン類分析用試料の調製装置を採用したダイオキシン類分析用試料の採取装置の一例を説明する。図において、分析用試料採取装置1は、廃棄物の焼却炉の煙道2を流れる排気ガス中に含まれるダイオキシン類を採取すると共に、その分析用試料を調製するためのものであり、採取部3、案内部4、第一溶媒供給部5、精製部31(第一処理部の一例)、濃縮部41(第二処理部の一例)、第二溶媒供給部44および不活性ガス供給部55を主に備えている。
【0021】
採取部3は、フイルタ保持体6と、このフイルタ保持体6を回転させるための第一駆動装置7とを備えている。フイルタ保持体6は、一定の厚みを有する円板状に形成されており、軸方向が水平になるように配置されている。また、フイルタ保持体6は、図2に示すように、同一の円周上において、中心を挟んで対向する2つの貫通孔6aを有している。各貫通孔6aは、フイルタ保持体6の厚さ方向に開口しており、フイルタ8が装着されている。すなわち、この実施の形態において、フイルタ保持体6には、2つのフイルタ8が装着されている。
【0022】
フイルタ8は、排気ガス中に含まれるダイオキシン類を捕捉して採取するためのものであり、流体通過性(この実施の形態では通気性)を有する、三次元網目構造の成形体からなる。因みに、このフイルタ8は、JIS K 0311:1999に例示されたダイオキシン類の採取装置と同等にダイオキシン類を採取可能なものであり、JIS K 0311:1999に例示された採取装置に代えて利用可能なものである。
【0023】
このようなフイルタ8は、例えばWO01/91883号公報(上述の特許文献2)において既に知られており、通常、図3に示すように、一端が閉鎖された円筒状に形成されている。なお、フイルタ8は、開口側が後述する第一移送管10に連絡するよう貫通孔6a内に挿入されている。
【0024】
フイルタ8を構成する上述の成形体は、繊維材料(繊維材料の群)と無機系結合材とを含んでいる。ここで用いられる繊維材料は、ダイオキシン類と実質的に化学反応しないものであり、通常、繊維状活性炭、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維(好ましくは活性アルミナ繊維)、シリカ繊維およびフッ素樹脂繊維(例えばテフロン繊維:テフロンは登録商標)のうちの少なくとも一つである。一方、無機系結合材は、繊維材料同士を結合して繊維材料からなる群を一体化し、繊維材料からなる群に一定の成形形状を付与する性質を有するもの、すなわち、繊維材料からなる群を一定の成形形状に保持するバインダーとして機能するものである。この実施の形態においてより具体的には、繊維材料からなる群を、フイルタ8の形状、すなわち一端が閉鎖された円筒状に設定するためのものである。
【0025】
ここで利用可能な無機系結合材は、上述の性能を有し、しかも繊維材料と同様にダイオキシン類と実質的に化学反応しないものであれば特に限定されるものではないが、吸着性能、特にダイオキシン類に対する吸着性能を有するものが好ましい。このような無機系結合材としては、例えば、アルミナ(好ましくは活性アルミナ)、ゼオライト(好ましくは合成ゼオライト)、二酸化ケイ素(シリカ)、酸性白土およびアパタイトなどを挙げることができ、これらの無機系結合材は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。また、無機系結合材は、形態が特に限定されるものではないが、通常は粒子状のものが用いられる。また、無機系結合材は、タールの吸着性を有するものが特に好ましい。このような特徴を有する無機系結合材を用いた場合、フイルタ8は、例えば排気ガス中に含まれる一酸化炭素に由来して生成するタールを効果的に吸着することができ、そのようなタール中に溶け込んだダイオキシン類をもより確実に捕捉して採取することができる。なお、タールを吸着可能な無機系結合材としては、アルミナ、ゼオライトおよび二酸化ケイ素を例示することができる。これらのタールを吸着可能な無機系結合材は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。
【0026】
また、上述の成形体は、通常、嵩密度が0.1〜1g/cm3に設定されているのが好ましく、0.3〜0.7g/cm3に設定されているのがより好ましい。成形体の嵩密度が0.1g/cm3満の場合は、排気ガス中に含まれるダイオキシン類の一部がフイルタ8を通過してしまう場合があり、排気ガス中に含まれるダイオキシン類を安定かつ確実に採取するのが困難になる可能性がある。逆に、嵩密度が1g/cm3を超える場合は、フイルタ8において、排気ガス中に含まれる粒子状物を捕捉した際に圧損が高まるおそれがあり、その結果、排気ガスが通過しにくくなって上述のJIS規格(JIS K 0311:1999)で規定されている等速吸引が困難になる可能性がある。また、フイルタ8により採取されたダイオキシン類を抽出する際において、抽出率の低下を招くおそれがある。
【0027】
フイルタ8を構成する成形体として好ましいものは、繊維材料として活性アルミナ繊維を用い、無機系結合材として粒子状の活性アルミナを用いたものである。特に、このような成形体であって、さらに嵩密度が0.3〜0.7g/cm3の範囲に設定されているものが最も好ましい。
【0028】
なお、上述のようなフイルタ8の製造方法は、上に挙げたWO01/91883号公報に記載の通りである。
【0029】
第一駆動装置7は、フイルタ保持体6を図2の時計回りに回転させるためのものであり、フイルタ保持体6の中心に装着された回転軸9aとモータ9とを主に備えている。モータ9は、回転軸9aを180度ずつ断続的に回転させることができるものである。
【0030】
案内部4は、煙道2内を流れる排気ガスの一部(流体試料の一例であり、以下、試料ガスという)を採取して採取部3に案内するためのものであり、採取部3のフイルタ保持体6を挟んで配置された、第一移送管10と第二移送管11とを備えている。第一移送管10は、一端が煙道2内に配置されており、他端がフイルタ保持体6に設けられた貫通孔6aのうちの一つ(図1および図2において、フイルタ保持体6の上部に位置する貫通孔6a)に連絡している。また、第一移送管10は、試料ガスの温度が100〜120℃になるよう設定するための温度調節装置12を有している。一方、第二移送管11は、第一移送管10が連絡している貫通孔6aの反対側に一端が連絡しており、また、他端にはドレントラップ13と吸引ポンプ14とをこの順に有している。ここで、ドレントラップ13は、試料ガス中の水分を捕集するためのものであり、また、吸引ポンプ14は、煙道2内を流れる排気ガスを安定に吸引するためのものである。
【0031】
また、第二移送管11は、温度センサー15を有している。この温度センサー15は、第二移送管11内を流れる試料ガスの温度を測定するためのものであり、温度調節装置12に電気的に連絡している。そして、温度調節装置12は、温度センサー15による測定結果に基づいて、第一移送管10内を流れる試料ガスの温度を調節可能に設定されている。
【0032】
第一溶媒供給部5は、フイルタ保持体6に保持されたフイルタ8に対してダイオキシン類の抽出用溶媒を供給するためのものであり、フイルタ保持体6を挟んで配置された、第一溶媒供給路19と第一溶媒排出路20とを備えている。第一溶媒供給路19は、第一供給ポンプ21を有しており、一端がフイルタ保持体6に設けられた貫通孔6aのうち、案内部4が連絡しているものとは異なる別の貫通孔6a(図1および図2において、フイルタ保持体6の下部に位置する貫通孔6a)に連絡している。なお、第一溶媒供給路19は、第一移送管10の反対側(すなわち、第二移送管11の連絡側)から貫通孔6aに連絡している。
【0033】
また、第一溶媒供給路19の他端は、ダイオキシン類の抽出用溶媒が貯留された第一溶媒タンク22内に配置されている。第一溶媒タンク22内に貯留されている抽出用溶媒は、フイルタ8により捕捉されたダイオキシン類を抽出することができる疎水性溶媒であれば特に限定されるものではないが、通常はダイオキシン類を含む各種の炭化水素化合物を効率的に抽出可能な炭化水素系の有機溶媒、例えばn−ヘキサンが好ましい。
【0034】
なお、第一溶媒供給路19および第一溶媒タンク22は、図示しない温度調節装置を備えており、フイルタ8に供給する抽出用溶媒の温度を所望の温度に設定することができる。例えば、抽出用溶媒としてn−ヘキサンを用いる場合、当該抽出用溶媒の温度は、後述する理由により、40〜65℃に設定するのが好ましく、55〜65℃(特に、60℃)に設定するのがより好ましい。
【0035】
第一溶媒排出路20は、第一溶媒供給路19が連絡している貫通孔6aの反対側に一端が連絡しており、また、他端が開口している。
【0036】
精製部31は、第一カラム保持体32と、この第一カラム保持体32を回転させるための第二駆動装置33とを主に備えている。第一カラム保持体32は、一定の厚みを有する円板状に形成されており、軸方向が垂直になるよう第一溶媒供給部5の第一溶媒排出路20の下方に配置されている。また、第一カラム保持体32は、図4(平面図)に示すように、同一の円周上において、中心を挟んで対向する2つの貫通孔32aを有している。各貫通孔32aは、第一カラム保持体32の厚さ方向に開口しており、それぞれに第一カラム34が装着されている。すなわち、この実施の形態において、第一カラム保持体32には、2つの第一カラム34が装着されている。
【0037】
第一カラム34は、上下方向に開口する筒状体内に固定相(第一固定相)を充填したものである。ここで用いられる固定相は、極性物質を捕捉可能でありかつダイオキシン類を捕捉しないものである。このような固定相としては、例えば、シリカゲルを用いることができる。特に、硫酸シリカゲルを用いるのが好ましい。また、固定相として用いられるシリカゲルは、種類の異なるシリカゲルを多層に配置したもの、例えば、硝酸銀シリカゲルと硫酸シリカゲルとを多層に配置した多層シリカゲルであってもよい。固定相として硫酸シリカゲル若しくは異種のシリカゲルを多層に配置したものを用いると、後述する精製処理をより効果的かつ迅速に実施することができる。
【0038】
なお、第一カラム保持体32に設けられた2つの貫通孔32aのうちの一つは、その上方に、第一溶媒排出路20の開口端側が配置されている。また、当該貫通孔32aの下方には、第二溶媒排出路35(溶液供給部の一例)が配置されている。
【0039】
第二駆動装置33は、第一カラム保持体32を、図4の時計回りに回転させるためのものであり、第一カラム保持体32の中心に装着された回転軸36とモータ37とを主に備えている。モータ37は、回転軸36を180度ずつ断続的に回転させることができるものである。
【0040】
濃縮部41は、第二カラム保持体42と、この第二カラム保持体42を回転させるための第三駆動装置43とを主に備えている。第二カラム保持体42は、一定の厚みを有する円板状に形成されており、軸方向が垂直になるよう精製部31の第二溶媒排出路35の下方に配置されている。また、第二カラム保持体42は、図5(平面図)に示すように、同一の円周上において、中心を挟んで対向する2つの貫通孔42aを有している。各貫通孔42aは、第二カラム保持体42の厚さ方向に開口しており、それぞれに第二カラム45が装着されている。すなわち、この実施の形態において、第二カラム保持体42には、2つの第二カラム45が装着されている。
【0041】
第二カラム45は、上下方向に開口する筒状体内に固定相としてアルミナを充填したものである。ここで用いられるアルミナは、ダイオキシン類を捕捉可能なものであれば種類が特に限定されるものではなく、例えば、酸性、中性若しくは塩基性のいずれのものでもよいが、通常、活性アルミナが好ましい。また、アルミナの形態は、通常、粒子状または粉末状が好ましい。
【0042】
なお、第二カラム保持体42に設けられた2つの貫通孔42aのうちの一つは、その上方に、第二溶媒排出路35が配置されている。
【0043】
第三駆動装置43は、第二カラム保持体42を、図5の時計回りに回転させるためのものであり、第二カラム保持体42の中心に装着された回転軸46とモータ47とを主に備えている。モータ47は、回転軸46を90度ずつ断続的に回転させることができるものである。
【0044】
第二溶媒供給部44(親水性溶媒供給部の一例でもある)は、第二カラム保持体42に保持された第二カラム45に対してダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給するためのものであり、第二カラム保持体42を挟んで配置された、第二溶媒供給路50と分析用試料排出路51とを備えている。第二溶媒供給路50は、第二供給ポンプ52を有しており、一端が第二カラム保持体42に設けられた貫通孔42aのうち、第二溶媒排出路35が配置されているものとは異なる別の貫通孔42aの下方に連絡している。また、第二溶媒供給路50の他端は、親水性溶媒が貯留された第二溶媒タンク53内に配置されている。第二溶媒タンク53内に貯留されている親水性溶媒は、第二カラム45の固定相(アルミナ)に捕捉されたダイオキシン類を少量で効果的に抽出することができる、水との相溶性を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常はジメチルスルホキシド(DMSO)やアルコール類が好ましい。
【0045】
分析用試料排出路51は、第二溶媒供給路50が連絡している貫通孔42aの上側に一端が連絡しており、また、他端が第二カラム保持体42の下方に延びかつ開口している。
【0046】
不活性ガス供給部55は、第二カラム保持体42に保持された第二カラム45に対して窒素ガス等の不活性ガスを供給するためのものであり、第二カラム保持体42を挟んで配置された、ガス供給路56とガス排出路57とを備えている。ガス供給路56は、ガスボンベなどのガス排出制御弁59を有する不活性ガス供給装置58から延びており、一端が第二カラム保持体42の上部に位置するよう配置されている。一方、ガス排出路57は、第二カラム保持体42の下部に位置しており、ガス供給路56から第二カラム45に供給された不活性ガスを外部に排出するためのものである。なお、ガス供給路56およびガス排出路57は、第二カラム保持体42が第三駆動装置43の動作により図5の状態から90度回転した場合において、第二カラム45を挟む位置に配置されている。
【0047】
上述の分析用試料採取装置1において、モータ9,37,47、吸引ポンプ14、第一供給ポンプ21、第二供給ポンプ52およびガス排出制御弁59等は、シーケンス制御やコンピュータ制御により、以下に説明するような順序で自動的に作動する。
【0048】
次に、本発明の実施の一形態に係るダイオキシン類分析用試料の調製方法に触れながら、上述の分析用試料採取装置1の動作、すなわち、分析用試料採取装置1を用いたダイオキシン類の分析用試料採取方法を説明する。
先ず、採取部3において、モータ9が作動し、フイルタ保持体6が回転する。これにより、フイルタ保持体6の各貫通孔6aに保持された2つのフイルタ8のうちの一つが案内部4の第一移送管10と第二移送管11との間に挟まれるように配置される。このとき、フイルタ保持体6に保持された他のフイルタ8は、第一溶媒供給部5の第一溶媒供給路19と第一溶媒排出路20との間に挟まれるように配置される(図1)。
【0049】
また、モータ37が作動し、第一カラム保持体32に装着された2つの第一カラム34のうちの一方が第一溶媒排出路20の下方に位置しかつ第二溶媒排出路35の上方に位置するよう配置される。さらに、モータ47が作動し、第二カラム保持体42に装着された2つの第二カラム45のうちの一つが第二溶媒排出路35の下方に位置するように配置される。この際、他方の第二カラム45は、第二溶媒供給路50と分析用試料排出路51との間に位置するように配置される。
【0050】
以上のような初期動作の後、吸引ポンプ14が作動する。この結果、煙道2内の排気ガスの一部は、試料ガスとして第一移送管10内に連続的に吸引され、温度調節装置12において上述のように温度調節された後、フイルタ8を通過して第二移送管11内に移動する。この際、試料ガス中に含まれるガス状態および粒子状態の両方のダイオキシン類は、フイルタ8により捕捉され、試料ガス中から取り除かれる。第二移送管11内に移動した試料ガスは、引き続き吸引ポンプ14により吸引され、ドレントラップ13により水分が捕集された後に排出される。
【0051】
上述のような試料ガスの採取工程は、吸引ポンプ14を予め定めた一定時間作動させることにより実施する。これにより、フイルタ8は、一定量の試料ガスが通過することになり、また、当該一定量の試料ガス中に含まれるダイオキシン類を捕捉して採取することになる。なお、ここでの一定時間は、焼却炉において焼却する廃棄物の種類に応じて適宜設定するのが好ましく、通常は、上述のJIS
K 0311:1999に規定された時間に設定するのが好ましい。
【0052】
上述の一定時間の経過後、モータ9が作動し、図2に矢印で示すように、フイルタ保持体6を図の時計回りに180度回転させる。これにより、ダイオキシン類を採取したフイルタ8は、第一溶媒供給部5の第一溶媒供給路19と第一溶媒排出路20との間に挟まれるように配置される。また、同時に、他方のフイルタ8は、案内部4の第一移送管10と第二移送管11との間に挟まれるように配置される。すなわち、採取部3は、他方のフイルタ8が試料ガスを案内可能に設定され、同時に、ダイオキシン類を採取したフイルタ8が第一溶媒供給路19からの抽出用溶媒(疎水性溶媒)を供給可能な状態に設定されることになる。換言すると、採取部3は、煙道2からの異なる試料ガスを採取するために、フイルタ8を切り替えた状態に設定されることになる。
【0053】
このような状態で、吸引ポンプ14が上述の一定時間再度作動する。この結果、他方のフイルタ8は、煙道2からの異なる試料ガスが通過し、当該試料ガス中に含まれるダイオキシン類を採取することができる。
【0054】
一方、このような状態において、第一供給ポンプ21が同時に作動する。この結果、第一溶媒タンク22内に貯留されている疎水性溶媒は、第一溶媒供給路19を通じ、先にダイオキシン類を採取したフイルタ8に対して連続的に供給される。フイルタ8に供給された疎水性溶媒は、フイルタ8を第一溶媒排出路20方向に通過し、第一溶媒排出路20を経由して精製部31に供給される。この際、フイルタ8に捕捉されているダイオキシン類は、フイルタ8を通過する疎水性溶媒により抽出され、疎水性溶媒と共に(すなわち、疎水性溶媒溶液として)第一溶媒排出路20を経由して精製部31に供給される。
【0055】
このような供給工程において用いる疎水性溶媒、すなわち、第一溶媒タンク22に貯留されている疎水性溶媒は、図示しない上述の温度調節装置により温度調節されたもの、特に、60℃に加熱されたn−ヘキサンが好ましい。また、そのように温度調節されたn−ヘキサンを疎水性溶媒として用いる場合、当該疎水性溶媒は、第一供給ポンプ21の動作を制御することにより、フイルタ8への供給時の流速を2〜5ml/分に設定するのが好ましい。疎水性溶媒の流速をこのように設定すると、フイルタ8により捕捉されたダイオキシン類は、100ml程度の必要最小限量の疎水性溶媒の使用により、フイルタ8から効果的に抽出されることになる。なお、当該流速が2ml/分未満の場合、フイルタ8に捕捉されたダイオキシン類の全量を抽出するための時間が長くなり、抽出効率が低下するおそれがある。逆に、5ml/分を超える場合、フイルタ8に捕捉されたダイオキシン類の全量を抽出するために必要な疎水性溶媒の量が100mlを超えて大幅に増加するおそれがあり、不経済になる可能性がある。
【0056】
第一溶媒排出路20からのダイオキシン類を含む疎水性溶媒溶液(以下、便宜上、ダイオキシン類抽出液という)は、精製部31において、第一カラム保持体32に装着された一方の第一カラム34に対して供給される。第一カラム34に供給されたダイオキシン類抽出液は、第一カラム34内に充填された第一固定相を通過し、第二溶媒排出路35を通じて濃縮部41に供給される。この際、ダイオキシン類抽出液中に含まれる、ダイオキシン類以外の不純物、すなわち、フイルタ8により上述の試料ガス中からダイオキシン類と共に除去された各種の極性物質は、第一固定相に捕捉され、ダイオキシン類抽出液から除去される。
【0057】
なお、上述のようにしてダイオキシン類抽出液が精製された後、モータ37は、図4に矢印で示すように、第一カラム保持体32を時計回りに180度回転させる。これにより、第一溶媒排出路20と第二溶媒排出路35との間には、別の第一カラム34が配置されることになり、当該別の第一カラム34は、採取部3における別のフイルタ8に由来するダイオキシン類抽出液を続いて精製することができる。すなわち、この分析用試料採取装置1では、フイルタ8毎に、第一カラム34を切り替えることができる。
【0058】
続いて、第一カラム34を通過した疎水性溶媒溶液、すなわち、精製部31において精製されたダイオキシン類抽出液(ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液の一例であり、以下、精製抽出液という)は、濃縮部41において、第二溶媒排出路35に対応する第二カラム45に対して引き続き供給される。
【0059】
第二カラム45に供給された精製抽出液は、第二カラム45内に充填された固定相、すなわちアルミナを通過する。この際、精製抽出液中に含まれるダイオキシン類は、アルミナに捕捉され、第二カラム45内、特に、第二カラム45の主として上部に留まる。一方、精製抽出液中の疎水性溶媒は、アルミナを通過し、第二カラム45の下部から排出される。
【0060】
精製部31からの精製抽出液の全量が第二カラム45を通過した後、モータ47は、図5に矢印で示すように、第二カラム保持体42を時計回りに90度回転させる。これにより、精製抽出液の全量が通過した第二カラム45は、不活性ガス供給部55のガス供給路56とガス排出路57との間に位置するように配置される。そして、この状態でガス排出制御弁59が作動し、ガス供給路56に不活性ガス供給装置58からの不活性ガスが供給される。ガス供給路56に供給された不活性ガスは、第二カラム45内を通過し、ガス排出路57から排出される。この結果、第二カラム45内に残留している疎水性溶媒が除去され、第二カラム45内のアルミナは乾燥処理される。
【0061】
第二カラム45に対して不活性ガスが一定時間供給された後、モータ47は、図5に矢印で示すように、第二カラム保持体42を時計回りにさらに90度回転させる。これにより、アルミナの乾燥処理が施された第二カラム45は、第二溶媒供給路50と分析用試料排出路51との間に位置するように配置される。そして、この状態で第二供給ポンプ52が作動し、当該第二カラム45の下方から、第二溶媒供給路50を通じて第二溶媒タンク53内の親水性溶媒が第二カラム45に対して供給される。第二カラム45に供給された親水性溶媒は、アルミナに捕捉されたダイオキシン類を溶解して抽出しながら第二カラム45を通過し、分析用試料排出路51を通じて排出される。したがって、分析用試料排出路51から排出される、ダイオキシン類の親水性溶媒溶液を確保すると、目的とする親水性のダイオキシン類分析用試料を入手することができる。
【0062】
ここで、第二カラムのアルミナにより捕捉されたダイオキシン類は、(1)主に、分析用試料排出路51に近い第二カラム45の上部に留まっていること、(2)不活性ガス供給工程においてアルミナから疎水性溶媒が除去されていること、および(3)親水性溶媒が疎水性溶媒よりもダイオキシン類を溶解し易いこと、等の理由により、第二カラム45に対して供給された精製抽出液の量に比べて少量(通常は数ml若しくは1ml以下)の親水性溶媒を第二カラム45の下方から上方に向けて供給するだけで、速やかにアルミナから抽出され得る。
【0063】
この結果、ここで得られる分析用試料は、親水性溶媒の含有量が第二カラム45において捕捉されたダイオキシン類を抽出するための必要最少量に設定されるため、精製部31からの精製抽出液に比べて分量が少なくなり、結果的にダイオキシン類が濃縮された状態になる。したがって、この分析用試料は、バイオアッセイ法によるダイオキシン類の分析用試料としてそのまま利用することができる。より具体的には、当該分析用試料は、バイオアッセイ法によりダイオキシン類のTEQ値を測定するための市販のキット(例えば、上述の非特許文献2〜10参照)に対してそのまま適用することができる。
【0064】
なお、第二カラム45からのダイオキシン類の抽出動作時において、第二カラム保持体42に保持された他方の第二カラム45は、第二溶媒排出路35の下方に配置された状態にあるため、精製部31の別の第一カラム34からの精製抽出液を同時に受け入れることができる。すなわち、この分析用試料採取装置1では、精製部31の第一カラム34毎に第二カラム45を切り替えることができ、第二カラム45に対する精製部31からの精製抽出液の供給と、他の第二カラム45で先に捕捉されたダイオキシン類の抽出とを並行して同時に実施することができる。
【0065】
上述のような分析用試料採取装置1は、試料ガス中に含まれるダイオキシン類の採取から、親水性のダイオキシン類分析用試料の調製までを連続的に実施することができるので、ダイオキシン類を含む試料ガスの存在現場において、ダイオキシン類の分析用試料、特に、バイオアッセイ法用の分析用試料を容易にかつ迅速に確保することができる。
【0066】
また、この分析用試料採取装置1では、採取部3のフイルタ保持体6が上述のように回転可能に構成され、しかもフイルタ8を2つ有しているので、採取部3において、フイルタ8による試料ガスからのダイオキシン類の採取と、他のフイルタ8により採取されたダイオキシン類の分析用試料の調製作業とを並行して効率的に実施することができる。
【0067】
さらに、分析用試料採取装置1において、分析用試料排出路51をバイオアッセイ法を利用したダイオキシン類の自動分析装置に接続すれば、試料ガス中に含まれるダイオキシン類の採取から、バイオアッセイ法によるダイオキシン類の分析までを、試料ガスの存在現場において、オンライン状態で迅速にかつ簡便に実施することができる。
【0068】
なお、この分析用試料採取装置1において用いられるフイルタ8は、採取したダイオキシン類が抽出用溶媒により抽出されたとき、実質的に洗浄された状態になる。したがって、ダイオキシン類が抽出された後のフイルタ8は、異なる試料ガス中に含まれるダイオキシン類を採取するために繰り返し再利用することができる。
【0069】
[他の実施の形態]
(1)上述の分析用試料採取装置1において、フイルタ保持体6は、図2に一点鎖線で示すように、貫通孔6aの周囲にフイルタ8を加熱するためのヒータ6bを内蔵していてもよい。フイルタ8に対して第一溶媒供給部5から疎水性溶媒を供給する際に、このヒータ6bによりフイルタ8を加熱すると、フイルタ8で捕捉されたダイオキシン類をより少量の疎水性溶媒で抽出することができる。特に、疎水性溶媒として60℃に加熱されたn−ヘキサンを用いる場合は、フイルタ8での抽出操作時において、n−ヘキサンの温度を維持することができ、抽出効率を高めることができる。
【0070】
(2)上述の分析用試料採取装置1において、第一カラム保持体32は、図4に一点鎖線で示すように、各貫通孔32aの周囲に第一カラム34を加熱するためのヒータ38を内蔵していてもよい。このヒータ38により第一カラム34を加熱すると、第一溶媒排出路20からのダイオキシン類抽出液中に含まれる不純物が第一固定相においてより効果的に捕捉されるため、第一カラム34におけるダイオキシン類抽出液の精製効率をより高めることができる。
【0071】
(3)上述の分析用試料採取装置1において、第二カラム保持体42は、図5に一点鎖線で示すように、各貫通孔42aの周囲に第二カラム45を加熱するためのヒータ63を内蔵していてもよい。このヒータ63により第二カラム45を加熱すると、第二カラム45で捕捉されたダイキシン類をより少量の親水性溶媒で抽出することができ、分析用試料の濃縮効率を高めることができる。
【0072】
(4)上述の各実施の形態では、採取部3において2つのフイルタ8を装着しているが、必要に応じて採取部3には3つ以上のフイルタ8を装着してもよい。この場合、精製部31および濃縮部41においてそれぞれ装着する第一カラム34および第二カラム45の個数は、フイルタ8の個数に応じて設定するのが好ましい。
【0073】
(5)上述の実施の形態では、フイルタ8、第一カラム34および第二カラム45をそれぞれ複数個用い、フイルタ8による試料ガスからのダイオキシン類の採取と、他のフイルタ8により採取されたダイオキシン類の分析用試料の調製作業とを並行して実施する場合について説明したが、分析用試料採取装置1は、フイルタ8、第一カラム34および第二カラム45を一つずつ用い、試料ガスからのダイオキシン類の採取と当該ダイオキシン類の分析用試料の調製作業とからなる一連の作業を試料ガス毎に個別に繰り返しながら実施するように変更することもできる。
【0074】
(6)上述の各実施の形態では、フイルタ8として、繊維材料と無機系結合材とを含む成形体からなるものを用いているが、フイルタ8は、JIS K 0311:1999に例示されたダイオキシン類の採取装置と同等にダイオキシン類を採取可能なもの、すなわち、ガス状態および粒子状態の両方のダイオキシン類を同時に捕捉して採取可能なものであれば、他の形態のものが用いられてもよい。因みに、他の形態のフイルタとしては、例えば、特許第3273796号公報において開示されたもの、例えば、無機質ファイバーと活性炭とを含む成形体からなるものを挙げることができる。
【0075】
(7)上述の各実施の形態では、廃棄物の焼却炉から排出される排気ガス中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を採取する場合について説明したが、本発明の分析用試料採取装置は、排気ガス以外の流体中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を採取する場合についても同様に実施することができる。例えば、環境大気中に含まれるダイオキシン類、並びに工場廃水、海水、淡水および水道水等の水中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を採取する場合においても、本発明の分析用試料採取装置は同様に利用することができる。
【0076】
(8)上述の実施の形態では、排気ガス等の流体中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を調製する場合を例に説明したが、本発明の分析用試料調製方法は、土壌や飛灰中に含まれるダイオキシン類の分析用試料を調製するために利用することもできる。
【0077】
この場合に用いられる分析用試料の調製装置の一例を図6に示す。図6において、調製装置100は、第一カラム101、第二カラム102、試料抽出液供給部103、カラム連結管104、溶媒排出管105、親水性溶媒供給部106、疎水性溶媒供給部107、分析用試料排出管108および不活性ガス供給部109を主に備えている。
【0078】
第一カラム101は、上述の実施の形態において用いられる第一カラム34と同様の固定相、例えば多層シリカゲルが充填されており、また、加熱用のヒータ110を備えている。第二カラム102は、上述の実施の形態において用いられる第二カラム45と同様にアルミナが充填されており、また、加熱用のヒータ111を備えている。第一カラム101と第二カラム102は、縦方向に並列して配置されている。試料抽出液供給部103は、土壌や飛灰中に含まれるダイオキシン類をトルエンを用いて抽出した後にn−ヘキサンに転溶するか、あるいは、n−ヘキサンを用いて直接抽出すること等により得られたダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を貯留するための試料タンク112と、試料タンク112の底部から延びかつ第一カラム101の上端側に接続された試料供給管113とを主に備えている。なお、試料タンク112は、第一カラム101の上方に配置されている。試料供給管113は、試料タンク112内の疎水性溶媒溶液を第一カラム101に対して流下させながら供給する際に、その流量を調節するための流量調節弁114を有している。
【0079】
カラム連結管104は、第一カラム101と第二カラム102とを連結するためのものであり、一端が第一カラム101の下端側に接続されており、また、他端が第二カラム102の下端側に接続されている。また、カラム連結管104は、第一カラム101の近傍に第一切替弁115を有しており、また、第二カラム102の近傍に第二切替弁116を有している。
【0080】
溶媒排出管105は、一端が第二カラム102の上端側に接続されており、他端が溶媒の回収容器117に延びている。また、溶媒排出管105は、第三切替弁118を有している。親水性溶媒供給部106は、ジメチルスルホキシド等の親水性溶媒を貯留した親水性溶媒タンク119と、親水性溶媒タンク119から延びかつ第三切替弁118に接続された親水性溶媒供給管120とを有している。親水性溶媒供給管120は、親水性溶媒タンク119内に貯留された親水性溶媒を第三切替弁118に向けて送り出すための第一ポンプ121を有している。疎水性溶媒供給部107は、n−ヘキサン等の疎水性溶媒を貯留した疎水性溶媒タンク122と、疎水性溶媒タンク122から延びかつ第四切替弁123を介して試料供給管113に接続された疎水性溶媒供給管124とを有している。疎水性溶媒供給管124は、疎水性溶媒タンク122内に貯留された疎水性溶媒を第四切替弁123に向けて送り出すための第二ポンプ125を有している。分析用試料排出管108は、第二切替弁116に接続されている。
【0081】
不活性ガス供給部109は、窒素等の不活性ガスのガスボンベ126と、ガスボンベ126から延びかつ第一切替弁115に接続されたガス供給管127とを有している。なお、第一切替弁115、第二切替弁116、第三切替弁118および第四切替弁123は、それぞれ三方弁である。
【0082】
上述の調整装置100を用いてダイオキシン類の分析用試料を調製する場合は、先ず、第一カラム101と第二カラム102とがカラム連結管104を通じて連絡するよう、第一切替弁115および第二切替弁116を設定する。第三切替弁118は、第二カラム102と回収容器117とが溶媒排出管105を通じて連絡するように設定する。第四切替弁123は、第一カラム101と疎水性溶媒供給管124とが試料供給管113を通じて連絡するように設定する。また、ヒータ110により第一カラム101を加熱する。
【0083】
次に、試料タンク112内にダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を貯留し、第四切替弁123を切り替えて試料タンク112と第一カラム101とが試料供給管113を通じて連絡するように設定する。これにより、試料タンク112内に貯留された疎水性溶媒溶液は、流量調節弁114で設定された流量で第一カラム101へ流下して供給される。試料タンク112から一定量の疎水性溶媒溶液の供給が終わると、疎水性溶媒供給管124と第一カラム101とが試料供給管113を通じて連絡するよう第四切替弁123を切り替える。この状態で第二ポンプ125を作動させると、疎水性溶媒タンク122内に貯留された疎水性溶媒が第二溶媒供給管124および試料供給管113を通じて第一カラム101の上端側から供給される。先に、第一カラム101に供給された疎水性溶媒溶液は、第一カラム101を通過する際に夾雑物が除去されて精製され、引き続いて疎水性溶媒タンク122から供給される疎水性溶媒で押し出されつつ、カラム連結管104を通じて第二カラム102に供給される。第二カラム102に供給された疎水性溶媒溶液は、第二カラム102を下から上方向に移動し、その際、そこに含まれるダイオキシン類がアルミナにより捕捉される。そして、第二カラム102を通過した疎水性溶媒は、溶媒排出管105を通じて回収容器117に回収される。
【0084】
次に、第一切替弁115を切り替え、カラム連結管104とガス供給管127とを連絡させる。この結果、ガスボンベ126からの不活性ガスは、ガス供給管127およびカラム連結管104を通じて第二カラム102に供給される。これにより、第二カラム102に充填されたアルミナに残留している疎水性溶媒が不活性ガスにより除去され、当該アルミナが乾燥処理される。
【0085】
次に、第一切替弁115を元に戻し、第三切替弁118を切り替えて親水性溶媒供給管120と第二カラム102とが溶媒排出管105を通じて連絡するように設定する。また、第二切替弁116を切り替え、第二カラム102と分析用試料排出管108とがカラム連結管104を通じて連絡するように設定する。そして、ヒータ111により第二カラム102を加熱する。この状態で第一ポンプ121を作動させると、親水性溶媒タンク119内に貯留された親水性溶媒が親水性溶媒供給管120および溶媒排出管105を通じて第二カラム102の上端側から供給される。第二カラム102に供給された親水性溶媒は、第二カラム102のアルミナにより捕捉されたダイオキシン類を溶解して抽出し、カラム連結管104および分析用試料排出管108を通じて排出される。したがって、分析用試料排出管108からの親水性溶媒を確保すれば、親水性のダイオキシン類分析用試料を入手することができる。
【0086】
ここで、試料タンク112から第一カラム101に対して供給した疎水性溶媒溶液の量に比べ、第二カラム102に対して供給する親水性溶媒の量を捕捉されたダイオキシン類を溶解可能な少量に設定すると、濃縮された親水性のダイオキシン類分析用試料を入手することができる。
【0087】
【実施例】
上述の他の実施の形態(8)において説明した調製装置100を用い、ダイオキシン類として7種類のPCDDsおよび10種類のPCDFsをそれぞれ所定量含むn−ヘキサン溶液から親水性のダイオキシン類分析用試料を調製した。ここでは、第二カラム102に充填するアルミナとして、アイ・シー・エヌ製薬社製の塩基性活性アルミナ(商品名「スーパーI」)を用いた。また、第二カラム102は、内径が7.6mmで長さが50mmのものを用い、ヒータ111による第二カラム102の加熱温度を50℃に設定した。さらに、親水性溶媒タンク119に親水性溶媒としてジメチルスルホキシドを貯留し、第二カラム102に対して供給するジメチルスルホキシドの流速を2.5ml/分に設定した。そして、第一カラム101に対するn−ヘキサン溶液の流速を2ml/分、供給量を100mlに設定し、また、分析用試料排出管108から排出されるジメチルスルホキシド溶液は、フラクションコレクターを用いて1mlずつ分画して採取した。
【0088】
フラクションコレクターにより採取された最初の1mlの分析用試料をGC/MS法により分析した結果を図7に示す。図7によると、第一カラム101に対して供給したn−ヘキサン溶液に含まれていたダイオキシン類の全量は、実質的に最初の1mlの分析用試料中に含まれていることがわかる。したがって、上述の調製装置100を用いれば、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液をダイオキシン類のジメチルスルホキシド溶液に容易に転換しかつ濃縮することができ、バイオアッセイ法に適した親水性のダイオキシン類分析用試料を容易に得ることができる。
【0089】
【発明の効果】
本発明に係るダイオキシン類の分析用試料調製方法は、アルミナのカラムを用いた上述の工程を含んでいるため、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、親水性のダイオキシン類分析用試料を容易に調製することができる。
【0090】
本発明に係るダイオキシン類の分析用試料調製装置は、アルミナを充填したカラムに対し、上述の溶液供給部と親水性溶媒供給部とを組合せているため、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液から、親水性のダイオキシン類分析用試料を容易に調製することができる。
【0091】
本発明に係るダイオキシン類分析用試料の採取装置は、本発明の分析用試料調製方法を実施することができるため、ダイオキシン類を含む流体の存在現場において、当該流体中に含まれるダイオキシン類の親水性分析用試料を容易にかつ迅速に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態に係るダイオキシン類分析用試料の採取装置の概略図。
【図2】前記採取装置において用いられるフイルタ保持体の右側面図。
【図3】前記採取装置において用いられるフイルタの断面図。
【図4】前記採取装置において用いられる第一カラム保持体の平面図。
【図5】前記採取装置において用いられる第二カラム保持体の平面図。
【図6】本発明の実施の一形態に係るダイオキシン類分析用試料の調製装置の概略図。
【図7】実施例の分析結果を示すグラフ。
【符号の説明】
1 分析用試料採取装置
3 採取部
4 案内部
5 第一溶媒供給部
8 フイルタ
31 精製部
34,101 第一カラム
41 濃縮部
44 第二溶媒供給部
45,102 第二カラム
100 調製装置
103 試料抽出液供給部
106 親水性溶媒供給部
Claims (8)
- アルミナを充填したカラムにダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給して通過させる工程と、
前記疎水性溶媒溶液が通過後の前記カラムに対し、前記ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給する工程と、
前記カラムを通過した前記親水性溶媒を確保する工程とを含み、
前記親水性溶媒がジメチルスルホキシドまたはアルコール類である、
ダイオキシン類分析用試料の調製方法。 - 前記カラムに対し、前記疎水性溶媒溶液の通過方向とは逆方向に前記親水性溶媒を供給する、請求項1に記載のダイオキシン類分析用試料の調製方法。
- 前記カラムを加熱しながら前記カラムに対して前記親水性溶媒を供給する、請求項1または2に記載のダイオキシン類分析用試料の調製方法。
- 前記親水性溶媒を供給する前に、前記疎水性溶媒溶液が通過後の前記カラムに対して不活性ガスを供給する工程をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のダイオキシン類分析用試料の調製方法。
- アルミナを充填したカラムと、
前記カラムに対し、ダイオキシン類の疎水性溶媒溶液を供給するための溶液供給部と、
前記カラムに対し、前記ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給するための親水性溶媒供給部とを備え、
前記親水性溶媒がジメチルスルホキシドまたはアルコール類である、
ダイオキシン類分析用試料の調製装置。 - 前記親水性溶媒供給部は、前記溶液供給部による前記疎水性溶媒溶液の供給方向とは逆方向に、前記カラムに対して前記親水性溶媒を供給可能に設定されている、請求項5に記載のダイオキシン類分析用試料の調製装置。
- 流体試料中に含まれるダイオキシン類を分析するために、前記流体試料から前記ダイオキシン類の分析用試料を採取するための装置であって、
前記流体試料中に含まれる前記ダイオキシン類を捕捉して採取するためのフイルタを有する採取部と、
前記フイルタに対して前記流体試料を案内するための案内部と、
前記フイルタにより採取された前記ダイオキシン類を前記フイルタから抽出するための疎水性溶媒を、前記フイルタに対して供給するための第一溶媒供給部と、
前記フイルタから前記ダイオキシン類を抽出した前記疎水性溶媒を引き続いて供給可能に設定された、極性物質を捕捉可能でありかつ前記ダイオキシン類が通過可能な第一固定相が充填された第一カラムを有する第一処理部と、
前記第一カラムを通過しかつ前記ダイオキシン類を含む前記疎水性溶媒を引き続いて供給可能に設定された、前記ダイオキシン類を捕捉可能なアルミナが充填された第二カラムを有する第二処理部と、
前記第二カラムに対し、前記ダイオキシン類を溶解可能な親水性溶媒を供給可能な第二溶媒供給部とを備え、
前記親水性溶媒がジメチルスルホキシドまたはアルコール類である、
ダイオキシン類分析用試料の採取装置。 - 前記第二溶媒供給部は、前記第二カラムに対する前記疎水性溶媒の供給方向とは逆方向に前記親水性溶媒を供給可能に設定されている、請求項7に記載のダイオキシン類分析用試料の採取装置。
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