JP4169245B2 - カフェー酸誘導体を有効成分とする抗アレルギー剤 - Google Patents
カフェー酸誘導体を有効成分とする抗アレルギー剤 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な抗アレルギー剤、それを含有する医薬品、飲食品または化粧品に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患の患者が増大し、大きな社会問題になっている。一般的にアレルギー反応には、アナフィラキシー(I型)、細胞障害型(II型)、アルサス型(III型)および細胞介在型(遅延型)(IV型)の4つの型があるが、最近特に問題になっている花粉症はI型アレルギーに分類される。また、アトピー性皮膚炎もI型アレルギー反応が主体といわれている。
【0003】
このI型アレルギーにおいては、抗原の侵入により産生されたIgE抗体が肥満細胞上のFcレセプターに結合し、再び侵入した抗原がこのIgE抗体と結合すると肥満細胞内顆粒中のヒスタミン、マクロファージ中のロイコトリエンなどの化学物質が遊離され、直接的あるいは間接的に喘息や鼻炎などの症状を伴う急性炎症反応を引き起こす。従って、I型アレルギー反応を防ぐためには、上記経路のいずれかを切断すればよいことになる。
【0004】
従来より、抗アレルギー作用を有する医薬成分の研究は数多く行われており、該作用を有する数多くの合成化合物が報告されている。しかし、抗アレルギー活性を有する天然物質はあまりしられていない。さらに十分な抗アレルギー活性を有する安全な天然物質はほとんど得られていなかった。
このため、医療の現場では、十分な抗アレルギー活性を有する化合物の探索および抗アレルギー剤の開発が求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、新規な抗アレルギー剤、それを含む医薬品、飲食品または化粧品を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、アレルギー性疾患の治療に有効となる指標を、ヒスタミン遊離抑制活性とし、I型アレルギーおよびこれから引き起こされる急性炎症反応等を抑制する物質を探索するべく鋭意研究を重ねた。
その結果、カフェー酸誘導体である、トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸が、ヒスタミン遊離抑制活性、すなわち抗アレルギー活性を有することを見出した。そして、これらの化合物の抗アレルギー活性は、該活性を有することが知られている他のカフェー酸誘導体(カフェー酸またはジカフェオイルキナ酸)よりも強いことを見出した。また、発明者等は、トリカフェオイルキナ酸がロイコトリエン遊離抑制(「ロイコトリエン産生抑制」ということがある)活性を有することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成された。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸、またはそれらの塩を有効成分とする、ヒスタミン遊離抑制剤。
を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
〔抗アレルギー剤〕
以下に本発明の抗アレルギー剤,その製造法およびその用途について説明する。
本発明の抗アレルギー剤は、トリカフェオイルキナ酸またはその誘導体を有効成分とする。トリカフェオイルキナ酸は、下記構造式(1)で示される物質である。
構造式(1):
【0009】
【化1】
(式中のR1、R2、R3、R4のうち、1つが水素原子、残りの3つが構造式(2)に相当するカフェオイル基を表す。)
構造式(2):
【0010】
【化2】
【0011】
抗アレルギー活性を有する限り、トリカフェオイルキナ酸におけるカフェオイル基の位置は特に限定されず、R1〜R4のうち3つがカフェオイル基であればよい。使用可能なトリカフェオイルキナ酸としては、例えば、実施例記載の3,4,5−トリカフェオイルキナ酸が挙げられる。この化合物は、下記構造式(3)で示される。
構造式(3):
【化3】
また、別の形態では、本発明の抗アレルギー剤は、ジカフェオイルスクシニルキナ酸、またはその誘導体を有効成分とする。ジカフェオイルスクシニルキナ酸は、下記構造式(4)で示される物質である。
構造式(4):
【0012】
【化4】
(式中のR1、R2、R3、R4のうち、1つが水素原子、1つが構造式(5)に相当するスクシニル基、2つが構造式(2)に相当するカフェオイル基を表す。
構造式(5):
【0013】
【化5】
抗アレルギー活性を有する限り、ジカフェオイルスクシニルキナ酸におけるカフェオイル基またはスクシニル基の位置は特に限定されず、R1〜R4のうち2つがカフェオイル基、1つがスクシニル基であればよい。
使用可能なジカフェオイルスクシニルキナ酸としては、例えば、実施例記載の3,5−ジカフェオイル−4−スクシニルキナ酸が挙げられる。この化合物は、下記構造式(6)で示される。
構造式(6):
【化6】
【0014】
これらの化合物は、下記構造式(7)で示されるカフェー酸の誘導体の一種である。
構造式(7):
【0015】
【化7】
カフェー酸が抗アレルギー作用を有することは公知であった。また、抗アレルギー作用を有するカフェー酸誘導体としては、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸、クロロゲン酸メチルが知られていた。(特開昭60-192555号)。
【0016】
実施例に示す通り、トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸は、優れた肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制活性を示す。またその活性は、カフェー酸またはジカフェオイルキナ酸より強い。したがって、これらの化合物を有効成分とする抗アレルギー剤は、種々のアレルギー性疾患の予防・治療剤、抗炎症剤あるいはヒスタミン遊離抑制剤として有用である。アレルギー性疾患とは、例えば、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性喘息、食物アレルギー、炎症、アナフィラキシー等である。
さらに、トリカフェオイルキナ酸は、マクロファージからのロイコトリエン遊離抑制活性、およびアナフィラキシー抑制活性を示す。本発明の抗アレルギー剤は、ロイコトリエン遊離抑制剤としても有用である。
【0017】
なお、抗アレルギー剤としての活性を有する限り、トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸は、それらの構造の一部が改変あるいは修飾されていている、誘導体であってもよい。該誘導体としては、例えば、薬理上許容される塩、エステルあるいはプロドラック等が挙げられる。
【0018】
薬理上許容される塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)。これらの水酸化物または炭酸塩、アルカリ金属アルコキサイド(ナトリウムメトキサイド、カリウムt-プトキサイド等)との塩が挙げられる。また、塩としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸)や有機酸(マレイン酸、クエン酸、フマル酸等)を付加した酸付加塩、更にはアミンの付加塩、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。なお、上記の塩の水和物もここでいう塩に含まれる。
【0019】
エステルは、アルコールまたはカルボン酸とのエステル化反応で生じるエステルであれば特に限定されない。アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられ、またはカルボン酸としてはギ酸、酢酸、乳酸等が挙げられる。
プロドラックとは、生体に投与された後にトリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸に変化して、抗アレルギー剤としての作用を発現する化合物を意味する。安定性や吸収性の改善、副作用の低減等を目的としてプロドラック化された化合物も本発明でいう誘導体に含まれる。
2.抗アレルギー剤の製造法
本発明の抗アレルギー剤の有効成分であるトリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸は、どのような方法で製造されたものであってもよく、これらの化合物を含有する生物から精製する方法、化学合成法、半合成法等が広く採用できる。
【0020】
トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸は植物、例えばトマトやシュンギクより、有機溶媒を含む溶剤により抽出することができる。トマトよりトリカフェオイルキナ酸を精製する場合は、トマト果皮あるいは搾汁粕に、10倍量の60%エタノールを加え、60度の温水中で3時間抽出を行う。トリカフェオイルキナ酸を含む抽出物が得られるので、該抽出物を高速液体クロマトグラフィーに供する。ヒスタミン遊離抑制活性を示す画分を採取した後、各画分に含まれる化合物の構造を確認する。以上によりトリカフェオイルキナ酸を精製することができる。
【0021】
同様の方法により、凍結乾燥後に粉砕したシュンギクから、ジカフェオイルスクシニルキナ酸を精製することができる。
なお、本発明の抗アレルギー剤は、精製された有効成分のみを含むものに限定されず、トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸を含む粗精製物であってもよい。
【0022】
また、薬理上許容される塩は、トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属アルコキサイド、無機酸あるいは有機酸を作用させることにより製造できる。さらに、エステルは、酸触媒の存在下で、トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸にアルコールまたはカルボン酸を作用させることにより製造できる。
【0023】
〔本発明の抗アレルギー剤の用途〕
本発明の抗アレルギー剤は、実施例に示す通り、ヒスタミンおよびロイコトリエン遊離抑制活性を示す。したがって、該抗アレルギー剤は、種々のアレルギー性疾患の予防・治療剤、抗炎症剤、ヒスタミン遊離抑制剤あるいはロイコトリエン遊離抑制剤として有用である。本発明の抗アレルギー剤は、特にI型アレルギー反応に起因するアレルギー性疾患の予防、治療に有用である。
該抗アレルギー剤は、抗アレルギー活性、抗炎症活性、ヒスタミンあるいはロイコトリエン遊離抑制活性を有する医薬品、飲食品または化粧品として、そのままであるいはこれらの製品に添加して使用できる。
【0024】
本発明の抗アレルギー剤は、単独で医薬品、飲食品または化粧品として使用してもよく、また、他の抗アレルギー剤と併用してもよい。さらに、トリカフェオイルキナ酸とジカフェオイルスクシニルキナ酸の混合物を本発明の抗アレルギー剤としてもよい。
【0025】
1.医薬品
本発明の抗アレルギー剤は、そのまま、若しくはこれを公知の医薬用担体と共に製剤化することにより医薬品として使用できる。本発明の抗アレルギー剤は、例えば、錠剤、顆粒剤、粉剤、シロップ剤等の経口剤や、坐剤、外用剤等の非経口剤として製剤化できる。医薬用担体としては、特に制限はなく、例えば、固形担体(デンプン、乳糖、カルボキシメチルセルロース等)、液体担体(蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール、プロピレングリコール等)、油性担体(各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン等)が挙げられる。
【0026】
上記医薬品は、人および人以外の動物(ペット、家畜)用として使用できる。上記医薬の服用量は、それを使用する患者等の症状、性別、年齢に応じて適宜設定すればよいが、例えば、成人一人あたり一日に0.1〜1000 mg 程度摂取できるよう服用すればよい。
【0027】
2.飲食品
本発明の抗アレルギー剤を飲食品に添加することにより、その飲食品に、抗アレルギー活性・抗炎症活性、あるいはヒスタミン遊離抑制活性を付与することができる。
添加されるべき飲食品は特に限定されないが、肉製品、加工野菜、惣菜類、乳製品、菓子、パン、清涼飲料、果実飲料、酒類等が挙げられる。食品に対する本発明の抗アレルギー剤の配合率も特に限定されない。
【0028】
また、本発明の抗アレルギー剤とその他の食品素材を混合して、顆粒状・粉末状・錠剤状あるいはブロック状などに成形し、食品素材や健康食品等としてもよい。その他の食品素材とは、例えば、糖類、食用たんぱく質、アルコール、ビタミン、増粘多糖類、アミノ酸、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等である。
【0029】
3.化粧品
本発明の抗アレルギー剤は、化粧品に添加し、その化粧品に抗アレルギー活性・抗炎症活性、あるいはヒスタミン遊離抑制活性を付与することができる。化粧品とは、特に限定されないが、例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、ファンデーション、口紅、整髪料、ヘアトニック、育毛料、歯磨き、洗口料、シャンプー、リンス等である。化粧品を調製する場合には、植物油等の油脂類、ラノリンやミツロウ等のロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物・動物抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、保存剤等、通常の化粧品原料として使用されているものを適宜配合して製造することができる。
【0030】
〔本発明のヒスタミン遊離抑制剤〕
本発明のヒスタミン遊離抑制剤は、トリカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルスクシニルキナ酸またはそれらの誘導体のいずれかを有効成分とする。該ヒスタミン遊離抑制剤は、アレルギー性疾患のみならず、ヒスタミン遊離を抑制することが有効な疾患の予防、治療に有用であり、医薬品、飲食品または化粧品として、そのままであるいはこれらの製品に添加して使用できる。
ヒスタミン遊離抑制活性剤としての活性を有する限り、トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸は、その構造の一部が改変あるいは修飾されていている誘導体であってもよい。トリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸の誘導体としては、例えば、薬理上許容される塩、エステルあるいはプロドラック等が挙げられる。誘導体の詳細については前記抗アレルギー剤の項に記載した通りである。
〔本発明のロイコトリエン遊離抑制剤〕
実施例に示す通り、トリカフェオイルキナ酸は、ロイコトリエン遊離抑制活性を示すので、ロイコトリエン遊離抑制(「ロイコトリエン産生抑制」とも言う)剤として有用である。
したがって、トリカフェオイルキナ酸は、そのままで、あるいは医薬品、飲食品または化粧品に添加して、ロイコトリエン遊離抑制が有効である疾患の予防治療のために使用できる。トリカフェオイルキナ酸は、薬剤の有効成分として単独で使用してもよく、また2種以上を混合してもよい。
ロイコトリエン遊離抑制活性剤としての活性を有する限り、トリカフェオイルキナ酸は、その構造の一部が改変あるいは修飾されていている誘導体であってもよい。トリカフェオイルキナ酸の誘導体としては、例えば、薬理上許容される塩、エステルあるいはプロドラック等が挙げられる。誘導体の詳細については前記抗アレルギー剤の項に記載した通りである。
【実施例】
以下に、本発明の抗アレルギー剤の製造方法、ヒスタミンおよびロイコトリエン遊離抑制試験、アナフィラキシー抑制試験、並びに本発明の抗アレルギー剤を含有する医薬品・飲食品・化粧品の製造に関する実施例を示す。
【0031】
[実施例1]本発明の抗アレルギー剤の製造方法:
(1)トリカフェオイルキナ酸の精製法
トマトの果皮を60%エタノール、60度の温水中で2時間抽出を行った。これをろ過し、得たろ液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して、トマト果皮の抽出物を得た。これを20 %エタノールに溶解し、YMCゲルODS−AM120−S50(YMC Co.Ltd. 製)のカラムクロマトグラフィーに供して、30 %エタノール溶液にて溶出される成分を集めた。
【0032】
さらにこれを減圧濃縮し高速液体クロマトグラフィー(カラムSHISEIDO CAPCELL PAK C18 15 mmφ×250 mm; 溶離液, 1% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/水=28/72)で分画して、ヒスタミン遊離抑制活性を有する化合物を得た。次いで、LC-MS、NMRなどを用いて該化合物の同定を行った。1H-NMRスペクトルを図1、13C-NMRスペクトルを図2、LC-MS(日立サイエンスシステムズ、テクノリサーチセンタ)を図3に示した。
【0033】
以上により、該化合物は、3,4,5−トリカフェオイルキナ酸であると判断した。なお、精製の各段階で得られた画分のヒスタミン遊離抑制活性は、実施例2記載の方法により行なった。
【0034】
(2)ジカフェオイルスクシニルキナ酸の精製法
文献(Chuda et.al., J.Argric. Food Chem.46;1437-1439, 1998)に記載されている方法を参考に、ジカフェオイルスクシニルキナ酸を精製した。
まず、凍結乾燥後に粉砕したシュンギクに60%エタノールを加え、50度の温水中で2時間抽出を行った。抽出液をろ過して得たろ液を減圧濃縮した後、高速液体クロマトグラフィー(カラムSHISEIDO CAPCELL PAK C18 15 mmφ×250 mm; 溶離液, 0.1% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/水=23/77)を用いてヒスタミン遊離抑制活性を有する化合物を精製した。LC-MSなどを用いて該化合物が、3,5−ジカフェオイル−4−スクシニルキナ酸であることを確認した。
【0035】
[実施例2]ラット肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制活性の測定:
実施例1で精製したトリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸について、下記方法でヒスタミン遊離抑制活性を測定した。その結果を表1および図1に示した。
【0036】
(1)ラットを放血致死後直ちに腹腔よりヘパリン含有肥満細胞用緩衝液(組成:0.150 M NaCl、3.7 mM KCl、3.0 mM Na2HPO4、3.5 mM KH2PO4、0.9 mM CaCl2、5.6 mM D-glucose、0.1% (w/v) gelatin)を用いて細胞を採取した(生物薬科学実験講座12 炎症とアレルギーII、大内和雄 編集、廣川書店、1993年、372ページ)。細胞を洗浄後、2.0×105個/ ml になるようヘパリン含有肥満細胞用緩衝液を加え、細胞浮遊液とした。
一方、実施例1で得たトリカフェオイルキナ酸、抗アレルギー活性を有することが知られているカフェー酸およびフマル酸ケトチフェンを、それぞれ0.08%エタノール(終濃度)を含有するヘパリン含有肥満細胞用緩衝液に溶解し、25 〜250μg/mlの濃度の試料溶液とした。
試料溶液20μlに、上記の細胞浮遊液80μlを加えて37℃10分間インキュベートした。次いで、脱顆粒誘発剤としてコンパウンド48/80(5 μg/ml)を20 μl 加えて10 分インキュベートした。その後いったん氷冷して遠心分離(1,500×g、5分、4度)し、上清中に遊離されたヒスタミンを蛍光検出器付き高速クロマトグラフィーにより測定した。
ヒスタミン遊離抑制活性は、測定されたヒスタミン値から計算式(1)を用いて算出した。
【0037】
ヒスタミン遊離抑制率(%)=(1-(S-B)/(C-B))×100 ・・・(1)
B:誘発剤を加えない対照の細胞から遊離されるヒスタミン量
C:誘発剤を加えたときに細胞から遊離されるヒスタミン量
S:被験試料を共存させて誘発剤を加えたときに細胞から遊離されるヒスタミン量
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果から明らかなように、トリカフェオイルキナ酸は、少量で、非常に高いヒスタミン遊離抑制活性を示した。
また、公知の抗アレルギー剤であるフマル酸ケトチフェンと比較した場合、トリカフェオイルキナ酸のIC50(50%阻害率)は約25 μg/ml、カフェー酸およびフマル酸ケトチフェンは約250 μg/mlであり、その活性は約10倍であった。
【0040】
(2)次に、トリカフェオイルキナ酸の構成部分であるカフェー酸、キナ酸、およびカフェー酸誘導体である、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸、スクシニルジカフェオイルキナ酸についても評価を行った。それぞれ濃度100μg/mlの試料溶液で評価した結果、図4に示すとおり、キナ酸、クロロゲン酸はヒスタミン遊離を抑制しなかった。また、ヒスタミン遊離抑制活性は、カフェー酸、ジカフェオイルキナ酸の順に強くなり、ジカフェオイルスクシニルキナ酸およびトリカフェオイルキナ酸は飛躍的に高い活性を示した。
【0041】
(3)上記の通り、トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸が、少量で高いヒスタミン遊離抑制活性を示すことから、これらの化合物が抗アレルギー剤あるいはヒスタミン遊離抑制剤として有用であることが明らかとなった。
【0042】
[実施例3]細胞毒性試験:
実施例3と同様の方法で調製した細胞浮遊液(1〜2×106個/ml )80μlに、各濃度のトリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸を含有する試料溶液20μlを加え、37℃で培養した。培養開始から、0,10,20,60,120分後に各10μlずつ取り出し、予め用意しておいた20μlの0.4%トリパンブルー液に加えた。青色色素で染まる細胞を死細胞と判定し、血球計算盤を用いて、顕微鏡下で細胞数を測定し, cell viability(全細胞数に対する生存細胞数の割合)と生存細胞数を測定した。その結果、トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸には、細胞毒性は見られなかった。
【0043】
[実施例4]マウス耳介浮腫モデルにおけるアナフィラキシー抑制作用の評価:
実施例1で得たトリカフェオイルキナ酸について、下記方法でアナフィラキシー抑制作用を測定した。その結果を図5に示した。
マウスは15〜20gの体重の C3H/Hecrj、7週齢、雌を一群当り5匹用いた。トリカフェオイルキナ酸は0.5%CMC−Na(カルボキシメチルセルロースナトリウム)溶液に懸濁したものを調製し、対照として0.5 % CMC-Naを投与した。トリカフェオイルキナ酸の投与量は、マウスの体重1kg当たり4mgとした。
1%の抗TNP-IgE溶液を眼底静脈から0.2ml投与し、30分後に試料溶液を腹腔内投与した。さらに30分後に左右の耳の厚さを測定し、この直後に塩化ピクリルの0.8%アセトン・オリーブオイル(1:1)溶液を各耳10μlずつ塗布した。塗布2時間後にマウスの左右の耳の厚さを測定し、塗布前後の耳の厚さの差をアナフィラキシーによる浮腫とした。有意差の検定はStudentのT検定によった。
図5の結果から明らかなように、トリカフェオイルキナ酸はアナフィラキシー抑制作用を示した。アナフィラキシーは、I型アレルギー症状であることから、トリカフェオイルキナ酸が抗アレルギー剤として有用であることがさらに示された。
[実施例5]マウス耳介浮腫モデルにおけるトリカフェオイルキナ酸の経口投与によるアナフィラキシー抑制作用の評価:
実施例1で得たトリカフェオイルキナ酸について、下記方法でアナフィラキシー抑制作用を測定した。その結果を図6に示した。
実験例4と投与方法以外同様に行った。試料の投与は5日間かけて6回行い、5日目に測定を行った。1日目から4日目までは1日一回投与し、5日目のみ抗TNP-IgE溶液投与4時間前と30分後の2回試料を経口投与した。トリカフェオイルキナ酸の投与量は、マウスの体重1kg当たり20mg、4mg、0.8mg、0.16mgとした。
図6の結果から明らかなように、トリカフェオイルキナ酸はアナフィラキシー抑制作用を示した。
[実施例6]ラットマクロファージからのロイコトリエン遊離抑制活性の測定:
実施例1で得たトリカフェオイルキナ酸を被験試料として、下記方法でラットマクロファージからのロイコトリエンB4遊離抑制活性を測定し、その結果を表2に示した。
可溶性でんぷん(和光、一級)およびバクトペプトン(DIFCO)を生理食塩水(0.9%NaCl、大塚製薬)にそれぞれが5%になるように懸濁した。オートクレーブにて滅菌(121℃、20分)した後、室温に冷却した。エーテル麻酔下のラットに体重100gあたり5mL腹腔内投与した(21G針使用)。
4日後、エーテル麻酔下のラットの頚動脈を切断し放血した。十分に放血した後、ラットにエタノールを噴霧し、クリーンベンチに入れた。CMF-HBSS(Ca,Mg free HBSS)を腹腔内に25mL投与し、腹部をよくもんだ。滅菌した器具を用いてラットの腹部を開き、腹腔内の溶液を回収した。回収した溶液は3枚重ねのガーゼを用いてろ過した。再びCMF-HBSS(Ca,Mg free HBSS)25mLにて腹腔内を洗浄し、同様に回収した。採取した細胞を氷冷0.1%BSA-PBSにて3回洗浄した後、細胞を10%FBS-RPMI1640培地に懸濁し、6cmシャーレに4.5x106 cells/3mL/シャーレになるようにまきこみ、5%CO2、37℃インキュベータ内で2時間培養した。
その後、上清を捨て、PBSにてシャーレ内を3回洗浄して非付着性細胞を洗い流し、シャーレ内に付着した細胞をマクロファージとして用いた。1%FBS-RPMI1640培地にて20分間プレインキュベートした後、ラットの血清を用いてオプソニン化したザイモサンを添加し、5%CO2、37℃インキュベータ内で一定時間培養した。また、サンプルはザイモサンを加える30分前に添加した。培養終了後、培養上清を回収ELISA kit(Leukotriene B4 EIA Kit Cayman)を用いて上清中のLTB4量を測定した。ロイコトリエンB4遊離抑制活性は、測定されたロイコトリエンB4値から下記の計算式(2)を用いて算出した。
ロイコトリエンB4遊離抑制率(%)=(1-(S-B)/(C-B))×100 ・・・(2)
B:誘発剤を加えない対照の細胞から遊離されるロイコトリエンB4量
C:誘発剤を加えたときに細胞から遊離されるロイコトリエンB4量
S:被験試料を共存させて誘発剤を加えたときに細胞から遊離されるロイコトリエンB4量
【表2】
表2に示す通り、トリカフェオイルキナ酸は、用量依存的に、ロイコトリエン遊離抑制活性を示した。
[実施例7]本発明の抗アレルギー剤を含有する医薬品
実施例1で精製したトリカフェオイルキナ酸またはジカフェオイルスクシニルキナ酸(以下「抗アレルギー剤」という。実施例5、6も同様)を、以下の方法で製剤化し、医薬品とした。
【0044】
(1)抗アレルギー剤100gに同量の乳糖及びステアリン酸マグネシウム5gと混合し、この混合物を単発式打錠機にて打錠し、直径10mm、重量300mgの錠剤を製造した。
【0045】
(2)上記(1)で得た錠剤を粉砕、整粒し、篩別して20〜50メッシュの顆粒剤を得た。
【0046】
[実施例8]本発明の抗アレルギー剤を含有する飲食品
本発明の抗アレルギー剤を含有する食品を、以下の方法で製造した。
【0047】
(1)以下の組成(重量部)のキャンデーを製造した。
砂糖(47.0)、水飴(49.76)、香料(1.0)、水(2.0)、抗アレルギー剤(0.24)。
【0048】
(2)以下の組成(重量部)のジュースを製造した。
濃縮温州みかん果汁(5)、果糖ブドウ糖液糖(11)、クエン酸(0.2)、L−アスコルビン酸(0.02)、抗アレルギー剤(0.1)、水を加え100とした。
【0049】
[実施例9]本発明の抗アレルギー剤を含有する化粧品
(1)以下の組成(重量部)の歯磨き粉を製造した。
第二リン酸カルシウム(42)、グリセリン(18)、カラギーナン(0.9)、ラウリル硫酸ナトリウム(1.2)、サッカリンナトリウム(0.09)、パラオキシ安息香酸ブチル(0.005)、抗アレルギー剤(0.1)、香料(1)、水を加え100とした。
【0050】
(2)以下の組成(重量部)の化粧水を製造した。
グリセリン(5.0)、プロピレングリコール(4.0)、抗アレルギー剤(0.3)、ポリオキシエチレンソルビタン モノラウリン酸エステル(2.0)、エタノール(10.0)、香料(0.1)、精製水を加え100とした。
【0051】
(3)以下の組成(重量部)のヘアーリンスを製造した。
塩化ステアリルジメチル(1.4)、ベンジルアンモニウム ステアリルアルコール(0.6)、グリセリンモノステアレート(1.5)、食塩(0.1)、抗アレルギー剤(0.1)、精製水を加え100とした。
【0052】
【発明の効果】
本発明により、トリカフェオイルキナ酸、ジカフェオイルスクシニルキナ酸またはそれらの誘導体をいずれかを有効成分とする抗アレルギー剤が提供された。また、上記化合物のいずれかを有効成分とするヒスタミン遊離抑制剤が提供された。また、本発明によりトリカフェオイルキナ酸またはその誘導体を有効成分とするロイコトリエン遊離抑制剤が提供された。さらに、本発明により、上記の抗アレルギー剤、ヒスタミン遊離抑制剤またはロイコトリエン遊離抑制剤を含有することを特徴とする、医薬品、飲食品または化粧品が提供された。
【0053】
本発明の抗アレルギー剤は、種々のアレルギー性疾患の予防・治療剤、抗炎症剤あるいはヒスタミン遊離抑制剤として有用である。また、本発明の抗アレルギー剤は、I型アレルギー反応における、肥満細胞からのヒスタミン遊離を阻害することから、これに起因するアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症おまたはアレルギー性喘息等の予防、治療に、特に有用である。
【0054】
本発明の抗アレルギー剤は、医薬品のほか、飲食品、化粧品に添加することにより、これらの製品に抗アレルギー活性、抗炎症活性あるいはヒスタミン遊離抑制活性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1(1)に記載したヒスタミン遊離抑制活性を有する化合物の1H-NMRスペクトル
【図2】実施例1(1)に記載したヒスタミン遊離抑制活性を有する化合物の13C-NMRスペクトル
【図3】実施例1(1)に記載したヒスタミン遊離抑制活性を有する化合物のLC-MS
【図4】実施例2(2)に記載したヒスタミン遊離抑制活性の測定結果
【図5】マウス耳介浮腫モデルにおける、トリカフェオイルキナ酸のアナフィラキシー抑制作用を示す図
【図6】マウス耳介浮腫モデルにおけるトリカフェオイルキナ酸の経口投与によるアナフィラキシー抑制作用を示す図
Claims (1)
- トリカフェオイルキナ酸およびジカフェオイルスクシニルキナ酸、またはそれらの塩を有効成分とする、ヒスタミン遊離抑制剤。
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