JP4162064B2 - 多分岐高分子化合物およびその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な多分岐高分子化合物(以下「多分岐高分子」という)およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、従来の多分岐高分子と比較して、より精密に合成することができ、化学分野、医薬分野、電子材料分野などに関連する種々の高機能材料の創製に有用な多分岐高分子およびそれを工業的に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多分岐高分子のなかで、規則的な分岐構造をもち、分子量分布のそろったデンドリマーは、従来の高分子にない構造をもち、広範な分野への応用が期待されている。ここで、デンドリマーとは、樹木の枝が規則的に分岐していくような形で成長した樹状分岐ポリマーであり、その合成法には、2官能性もしくはそれ以上の開始核(core)から順次枝を延ばしていく「divergent法」と、分岐ユニットを外側から順次つなぎ合わせて最後に中心核に結合させる「convergent法」がある。一方、ABx型の多官能性モノマー(ここで、AとBは互いに反応する官能基、Bの数xは2以上)を重合させると、不規則な分岐構造を有する多重分岐ポリマーが得られる。これらは多分岐高分子(hyperbranched polymer)と呼ばれている。
【0003】
ところで、ポリアミド系のデンドリマーの合成が、例えば、Macromol.Symp.,77,1(1994)に報告されている。しかしながら、その合成には、官能基を保護したAB2型モノマーを用い、一段階毎に単離精製を繰り返す製造工程が必要で、これが大量合成の際の障害となり、今のところ工業的に実用化された例はない。不規則な分岐構造を有するポリアミド系多分岐高分子の合成は、例えば、J.Am.Chem.Soc.,114,4947(1992)に報告されている。しかし、得られる重合体の構造は不明確であり、分子量分布が広く、望みの構造の重合体を製造することができず、用途が限定されるという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、保護基を持たないAB2型モノマーを用い、また一段階毎の単離精製の工程を必要としないため、容易に製造可能であり、かつ分岐構造の規則性の高い、比較的分子量分布のそろった多分岐高分子であって、化学分野、医薬分野、電子材料分野などに関連する、種々の高機能材料の創製に有用な多分岐高分子を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記式(3)および(4)で表わされる基本繰り返し単位からなり、重量平均分子量200以上、分子量分布3以下の多分岐高分子を提供するものである。
【0006】
【化3】
【化4】
【0007】
また、本発明のもう1つは、上記の多分岐高分子を製造する方法であって、5−アミノイソフタル酸を、4−アミノフェニルプロピオン酸とともに、段階的に縮合させることにより、上記式(3)および(4)で表わされる基本繰り返し単位からなり、重量平均分子量200以上、分子量分布3以下である多分岐高分子を製造する方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の多分岐高分子は、上記式(3)で表わされる基本繰り返し単位と上記式(4)で表わされる基本繰り返し単位からなる構造を有し、該重量平均分子量が200以上で、かつ、分子量分布3以下の樹状分岐ポリマーである。
【0009】
本発明の上記式(3)および(4)で表わされる各基本繰り返し単位の含量の比は特に制限されないが、上記式(3)で表わされる単位の含量が70モル%を超えないことが好ましい。上記式(3)で表わされる単位の含量が70モル%を超えると、立体障害により反応性が低下するなどの問題があり好ましくない。
【0010】
本発明の多分岐高分子は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0011】
製造方法1:
中心核となる、カルボン酸を1個以上有する芳香族化合物を有機溶媒に溶解させ、このカルボン酸と等量の縮合剤を加えて活性化する。このとき、必要があれば、酸受容剤をともに加える。次に、活性化されたカルボン酸に対して等量のAB2型モノマー(芳香族アミノジカルボン酸)を加えて縮合させる。次に、モノマーのカルボン酸の活性化、次のモノマーとの縮合を繰り返す。このモノマーのカルボン酸の活性化と次のモノマーとの結合の操作を、必要な分子量が得られるまで行う。このとき、AB2型モノマーのみではなく、AB型モノマー(芳香族アミノカルボン酸)をさらに用いることもできる。また、異なる構造のAB2型モノマーやAB型モノマーを用いることもできる。末端には、必要に応じて、1個のアミノ基のみを有する化合物を縮合させることもできる。生成した多分岐高分子は、例えば、反応溶液を、これの貧溶媒に注いで沈殿させ単離することができる。別の製造方法として、次のような方法を挙げることもできる。
【0012】
製造方法2:
多分岐高分子の外郭となる1個のカルボン酸を持つ芳香族化合物を有機溶媒に溶解させ、これのカルボン酸と等量の縮合剤を加えて活性化する。このとき、必要があれば、酸受容剤をともに加える。次に、活性化されたカルボン酸に対して0.5等量のAB2型モノマー(ジアミノカルボン酸)を加えて縮合させる。次に、モノマーの芳香族カルボン酸の活性化、次のモノマーとの縮合を繰り返す。このモノマーの芳香族カルボン酸の活性化と次のモノマーとの結合の操作を、必要な分子量が得られるまで行う。このとき、AB2型モノマーのみではなく、AB型モノマー(芳香族アミノカルボン酸)をさらに用いることもできる。また、異なる構造のAB2型モノマーやAB型モノマーを用いることもできる。最後に、中心核として1個以上のアミノ基を有する芳香族化合物を縮合させることもできる。生成した多分岐高分子は、例えば、反応溶液を、これの貧溶媒に注いで沈殿させ単離することができる。
【0013】
本発明の製造方法では、AB2型モノマーとして、5−アミノイソフタル酸が用いられる。
【0014】
また、本発明の製造方法で用いることのできるAB型モノマーとしては、4−アミノフェニルプロピオン酸を挙げることができる。
【0015】
これらのAB型モノマーは、AB2型モノマーに対して任意の割合で用いることができる。しかしながら、その割合は70モル%を超えないことが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法において、用いられる縮合剤は、カルボン酸の活性化により、アミノ基との縮合反応を促進することのできる化合物であれば、特に限定されない。具体的な縮合剤の例として、例えば、ジシクロへキシルカルボジイミド、N−エチル−N−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、カルボニルジイミダゾール、亜リン酸トリフェニル、ジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾキサゾリル)ホスホナートなどを挙げることができる。
【0017】
また、本発明の製造方法において用いられる反応溶媒は、特に制限はないが、用いるモノマーと生成する多分岐高分子とがともに溶解し、反応を阻害しないものが好ましい。具体的な例として、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメトルアセトアミド、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0018】
さらに、本発明の製造方法において、用いられる酸受容剤の例としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ピリジン、キノリンなどを挙げることができる。
【0019】
本発明の製造方法1において、中心核となる化合物としては、1個以上のカルボン酸を有する化合物であって、縮合反応を阻害しない、いかなる化合物を用いてもよい。具体的な例として、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸などを挙げることができる。また、本発明の製造方法1において、末端に結合させることのできる化合物としては、1個のアミノ基を有する化合物であって、縮合反応を阻害しない、いかなる化合物を用いてもよい。具体的な例として、アニリン、p−アニシジン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ドデシルアミンなどを挙げることができる。
【0020】
一方、本発明の製造方法2において、末端基として用いることのできる化合物としては、1個のカルボン酸を有する化合物であって、縮合反応を阻害しないものであれば、いかなる化合物を用いてもよい。具体的な例として、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、オクタン酸などを挙げることができる。また、本発明の製造方法2において、中心に結合できる化合物としては、1個以上のアミノ基を有する化合物であって、縮合反応を阻害しないものであれば、いかなる化合物を用いてもよい。具体的な例として、アニリン、p−アニシジン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、トリ(アミノエチル)アミンなどを挙げることができる。
【0021】
このようにして製造される本発明の多分岐高分子の重量平均分子量は、200以上、好ましくは500〜1,000,000、分子量分布は3以下、好ましくは1.0〜2.0である。重量平均分子量が200未満であると、例えば、フィルム形成能などの高分子としての性質を持たないことが多く、また、分子量分布が3を超えると、例えば、球状の3次元構造などデンドリマーにみられる特徴を持たなくなり、用途が制限されるため好ましくない。ここで、本発明の多分岐高分子の重量平均分子量を200以上に調整するには、モノマーの分子量にもよるが、モノマーの縮合の操作を2回以上繰り返すことが好ましい。また、本発明の多分岐高分子の分子量分布を3以下に調整するには、反応させる縮合剤やモノマーをできるだけ等量に近い量で反応させることが必要である。
【0022】
なお、本発明の多分岐高分子の分岐度は、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上である。ここで、分岐度(DB)とは、次の式で算出される値をいう。
DB=(D+T)/(D+T+L)
D;AB2型繰り返し単位のデンドリック単位(dendric unit)の数
T;AB2型繰り返し単位のターミナル単位(terminal unit)の数
L;AB2型繰り返し単位のリニアー単位(linear unit)の数
分岐度が0.5未満では、高い溶解性や低い溶液粘度などの多分岐高分子としての性質を示しにくくなる。
【0023】
本発明の多分岐高分子の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、3,100〜3,500cm−1、および1,650〜1,750cm−1のアミド基の吸収により確認することができる。また、その組成比は、元素分析により知ることができる。さらに、核磁気共鳴スペクトルにより、6〜10ppmのアミドプロトンに由来するピークから、その構造を確認することができる。
【0024】
本発明の多分岐高分子は、上記のように、上記式(3)および(4)で表わされる基本繰り返し単位からなり、重量平均分子量が200以上、かつ分子量分布3以下の樹状分岐ポリマーであり、保護基を持たないAB2型モノマーを用い、また一段階毎の単離精製の行程を必要としないため、容易に製造可能であり、かつ分岐構造の規則性が高く、比較的分子量分布の揃った多分岐高分子である。したがって、本発明の多分岐高分子は、化学分野、医薬分野、電子材料分野などに関連する種々の高機能材料の創製に有用であり、具体的には、包接材料、リソグラフィー材料、液晶、選択透過膜、高分子触媒、光学分割剤、導電性材料、診断薬、マイクロカプセル、ドラッグデリバリーシステム担体などの用途に有用である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。実施例中、重量平均分子量,数平均分子量,分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(溶媒;0.4重量%塩化リチウム含有ジメチルホルムアミド、標準物質;ポリスチレン)により測定した。また、分岐度(DB)は、1H−NMRスペクトルにおいて、芳香族領域全体のシグナル強度(TPIA)と、末端に由来するシグナル強度(A)との比である、A/TPIAの実験値(E)を求めた。構造の欠陥のない場合のA/TPIAの理論値Cを求め、これらの比(E/C)を分岐度(DB)とした。
【0026】
なお、以下の実施例は、中心核にトリメシン酸(T)を用いて、ポリアミドデンドリマーの合成(One−pot
Divergent合成)を行ったものである。TとAB2型モノマーである5−アミノイソフタル酸(I)からなるデンドリマーは、立体障害が原因で第2世代までしか合成できないことが報告されている。そこで、以下の実施例では、立体障害を緩和する目的でAB型モノマーである4−アミノフェニルプロピオン酸(P)を、Iとともに用い、下記モデル反応式に示すように、Tのジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾキサゾリル)ホスホナート(DBOP)による活性化、Pとの縮合、活性化、Iとの縮合を段階的に行い、末端にはp−アニシジン(A)を結合させたものである。なお、下記モデル反応式において、TEAはトリエチルアミン、NMPはN−メチルピロリドン、nは縮合回数を示す。
【0027】
【化5】
【0028】
実施例1
トリメシン酸42mg(0.2mmol)を、N−メチルピロリドン(以下「NMP」という)1.2mlに溶解させた。次いで、トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、ジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾキサゾリル)ホスホナート(以下「DBOP」という)236mg(0.618mmol)を加えて30分間撹拌し、カルボン酸の活性化を行った。次に、4−アミノフェニルプロピオン酸99.1mg(0.6mmol)を加えて30分間反応させた。続いて、NMPを1.2ml、トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、DBOPを236.7mg(0.618mmol)加えて30分間撹拌した。次に、5−アミノイソフタル酸108.7mg(0.6mmol)を加え、24時間反応させた。次いで、NMPを1.2ml、トリエチルアミン167.3μl(1.2mmol)、DBOPを505.6mg(1.32mmol)を加えて室温で30分間反応させた。さらに、p−アニシジン295.6mg(2.4mmol)を加えて1時間反応させた。次いで、反応溶液に約50mlのメタノールを加えた。沈殿した生成物をろ過し、メタノールで洗浄、乾燥して目的物を得た。収率100%、重量平均分子量4,532、数平均分子量3,260、分子量分布1.39、分岐度(A/TPIA)0.90であった。1H−NMRスペクトル測定により、式(3)、式(4)の構造を繰り返し単位に持つ多分岐高分子であることを確認した。その 1H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0029】
実施例2
トリメシン酸21.01mg(0.1mmol)をNMP1.2mlに溶解させ、トリエチルアミン41.8μl(0.3mmol)、DBOPを118.35mg(0.31mmol)を加え、30分間反応させた。次に、4−アミノフェニルプロピオン酸49.56mg(0.3mmol)を加え、30分間反応させた。以下、トリエチルアミン41.8μl(0.3mmol)、DBOPを118.35mg(0.31mmol)、30分間攪拌。5−アミノイソフタル酸54.35mg(0.3mmol)、24時間攪拌。NMP1.2ml、トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、DBOPを236.69mg(0.62mmol)、30分間攪拌。4−アミノフェニルプロピオン酸99.115mg(0.6mmol)、30分間攪拌。トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、DBOPを236.69mg(0.62mmol)、30分間攪拌。p−アニシジン147.79mg(1.2mmol)、2時間撹拌の順に反応を行った。次いで、反応溶液に約50mlのメタノールを加えた。沈殿した生成物をろ過し、メタノールで洗浄、乾燥して目的物を得た。収率100%、重量平均分子量5,695、数平均分子量4,152、分子量分布1.37、分岐度(A/TPIA)0.90であった。1H−NMRスペクトル測定により、式(3)、式(4)の構造を繰り返し単位に持つ多分岐高分子であることを確認した。その 1H−NMRスペクトルを、図2に示す。
【0030】
実施例3
トリメシン酸21.01mg(0.1mmol)をNMP1.2mlに溶解させ、トリエチルアミン41.8μl(0.3mmol)、DBOPを118.35mg(0.31mmol)加え、30分間反応させた。次に、4−アミノフェニルプロピオン酸49.56mg(0.3mmol)を加え、30分間反応させた。以下、トリエチルアミン41.8μl(0.3mmol)、DBOPを118.35mg(0.31mmol)、30分間攪拌。5−アミノイソフタル酸54.35mg(0.3mmol)、24時間攪拌。NMP1.2ml、トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、DBOPを236.69mg(0.62mmol)、30分間攪拌。4−アミノフェニルプロピオン酸99.115mg(0.6mmol)、30分間撹拌。トリエチルアミン83.6μl(0.6mmol)、DBOPを236.69mg(0.62mmol)、30分間攪拌。5−アミノイソフタル酸108.69mg(0.6mmol)、24時間攪拌。NMP2.4ml、トリエチルアミン167.3μl(1.2mmol)、DBOPを505.56mg(1.32mmol)、30分間攪拌。p−アニシジン295.58mg(2.4mmol)、2時間攪拌の順に反応を行った。次いで、反応溶液に約50mlのメタノールを加えた。沈殿した生成物をろ過し、メタノールで洗浄、乾燥して目的物を得た。収率93%、重量平均分子量10,440、数平均分子量8,312、分子量分布1.26、分岐度(A/TPIA)0.85であった。1H−NMRスペクトル測定により、式(3)、式(4)の構造の繰り返し単位を持つ多分岐高分子であることを確認した。その 1H−NMRスペクトルを、図3に示す。
【0031】
【発明の効果】
本発明の多分岐高分子は、保護基を持たないAB2型モノマーおよびAB型モノマーを用い、また一段階毎の単離精製の行程を必要としないため、容易に製造可能であり、かつ分岐構造の規則性が高く、比較的分子量分布のそろった多分岐高分子であって、化学分野、医薬分野、電子材料分野などに関連する、種々の高機能材料の創製に有用な化合物の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1により得られる多分岐高分子の1H−NMRスペクトルである。
【図2】 実施例2により得られる多分岐高分子の1H−NMRスペクトルである。
【図3】 実施例3により得られる多分岐高分子の1H−NMRスペクトルである。
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JP25499298A JP4162064B2 (ja) | 1998-09-09 | 1998-09-09 | 多分岐高分子化合物およびその製造方法 |
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