JP4161494B2 - 難燃性樹脂組成物、その長繊維ペレットおよびその成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い難燃性(特にドリップ防止性)、高い薄肉成形性、および高い導電性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物、およびその成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、樹脂の難燃化の多くは、有機ハロゲン系難燃剤と酸化アンチモン系難燃助剤の組合せにより成されてきた。しかし近年、前記難燃剤に起因する有毒ガスが問題とされ、非ハロゲン系難燃剤による難燃化が強く要望されている。
【0003】
非ハロゲン系難燃剤としては、窒素化合物系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤などが多く用いられているが、これらもそれぞれに問題を有する。
【0004】
窒素化合物系難燃剤は、基本的に耐熱性に劣り、300℃程度で成形する場合には発泡などが起こり、成形上大きな問題を有する。また、無機充填材を添加している場合は、ドリップ促進による難燃化効果が、逆に難燃性を大きく阻害する結果を招く。
【0005】
リン系難燃剤は、優れた難燃効果を示すが、特に低粘度樹脂に適応した場合、ドリップを抑制することができず、単独では高い難燃化を達成できない。
【0006】
金属水酸化物系難燃剤は、環境負荷が小さくクリーンな難燃剤であるが、難燃化のためには他の難燃剤に較べて多量の添加が必要となり、力学的特性の低下もさることながら、成形時の流動性に大きく劣り、特に薄肉成形品の成形時には成形自体が困難となる。
【0007】
これらの問題を解決するため、リン系難燃剤と金属水酸化物系難燃剤が併用される場合がある。例えば、特開昭63−243158号公報(先行例1)には赤リンと水酸化マグネシウムとを特定比にて配合し、難燃性と耐トラッキング性を両立できた旨が記述されている。
【0008】
しかし先行例1では、1.5〜3mm厚の難燃性に関しては記載されているものの、0.8mm厚以下の薄肉成形品の難燃性に関しては一切の記述が見られない。そこで本発明者らが、先行例1のポリアミド組成物、特に鉱物質補強繊維の配合量が少ない組成物による0.8mm(1/32インチ)厚の成形品でUL94規格の難燃性を評価した結果、燃焼時のドリップによりV−0の難燃性を達成できないことが判明した。
【0009】
また、先行例1でもカーボンブラックが少量添加されてもよい旨が記載されているが、顔料としての着色を目的としており、カーボンブラック添加によるドリップ防止効果に関して、一切記載が見られない。ドリップ防止剤としてカーボンブラックを必須成分とする本発明とは根本的に着想が異なる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、高い難燃性(特にドリップ防止性)、高い薄肉成形性、および高い導電性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物、およびその成形品を提供せんとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。即ち、本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも(A)硫酸相対粘度ηrが2.7以下であるポリアミド樹脂、(B)赤リン系難燃剤、(C)金属水酸化物系難燃剤、(D)カーボンブラック、(E)炭素繊維、および(F)フェノール系重合体からなり、UL94規格において0.8mm(1/32インチ)(本明細書では、基礎出願明細書において非SI単位で記載された値はすべてSI単位に換算し直した)厚での難燃性がV−0であることを特徴とする。また、本発明の難燃性成形品は、上記難燃性樹脂組成物から成形されたことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、即ち、高い難燃性(特にドリップ防止性)、高い薄肉成形性、および高い導電性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物について鋭意検討し、ドリップ防止効果が小さい赤リン系難燃剤と、成形時の流動性を大きく阻害するものの、ドリップ防止効果を有する金属水酸化物系難燃剤と、ドリップ防止効果と導電性付与効果を有するカーボンブラック、および炭素繊維を、ある特定の割合でしてみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0013】
本発明における難燃性樹脂組成物は、少なくとも(A)硫酸相対粘度ηrが2.7以下であるポリアミド樹脂、(B)赤リン系難燃剤、(C)金属水酸化物系難燃剤、(D)カーボンブラック、(E)炭素繊維、および(F)フェノール系重合体からなり、UL94規格(Underwriters Laboratories Incで考案された米国燃焼試験法)において0.8mm(1/32インチ)厚での難燃性がV−0であることを特徴とする。
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物を100重量%とすると、各成分は、成分(B)が2〜12重量%、成分(C)が1〜10重量%、成分(D)が0.7〜10重量%、および成分(E)が5〜35重量%であるのがよい。成分(B)は2重量%より少なくても、12重量%より多くても高い難燃性が達成できない。成分(C)は1重量%より少ない場合はドリップ防止効果に劣り、10重量%より多い場合には成形時の流動性に劣る。成分(D)、(E)は、上記配合量より少ない場合はドリップ防止効果、および導電性付与効果に劣り、上記配合量より多い場合には成形時の流動性に劣る。
【0015】
望ましくは、成分(B)が2.5〜10重量%、成分(C)が1.5〜9重量%、成分(D)が0.5〜8重量%、および成分(E)が8〜32重量%からなり、更に望ましくは、成分(B)が3〜9重量%、成分(C)が2〜8重量%、成分(D)が1〜7重量%、および成分(E)が10〜30重量%である。
【0016】
また、上記の各成分の各重量%について、((B)+(C)+(D))/((A)+(B)+(C)+(D))が0.08以上であるのがよい。0.08未満であると難燃剤の絶対量が不足し、高い難燃性が達成できない。0.35を超えると難燃剤の絶対量が多すぎ、成形時の流動性を阻害するだけでなく、成形品の力学的特性も大きく損なう。
【0017】
本発明における成分(A)とは、薄肉成形品を得るために成形時の流動性に優れるものがよく、硫酸相対粘度ηrが2.7以下であるポリアミド樹脂である。より望ましくはηrが2.6以下であり、更に望ましくはηrが2.5以下であるポリアミド樹脂である。ηrが2.7を超える場合は成形時の流動性に劣り、本発明の一つの効果である成形時の流動性が有効に発現しない。ηrの下限は特にないが、一般的に2.0以上である。ここで、硫酸相対粘度ηrは、98%硫酸で溶液濃度が1g/100mlになるように溶かした後、25℃の恒温槽内でオストワルド粘度計で流下速度を測定し、98%硫酸に対する試料溶液の粘度比(流下秒数比)で表される。
【0018】
本発明で用いられるポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするナイロンである。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−アミノカプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナンメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0019】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたナイロン樹脂であり、具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタラミドコポリマー(ナイロン12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0020】
本発明で使用するポリアミド樹脂として、更に有用なものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン9T、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン6/12コポリマー、ナイロン9T、ナイロン6T/6コポリマー、ナイロン66/6Tコポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン66/6T/6I、ナイロン12/6T、ナイロン6T/M5Tコポリマー、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)などの例を挙げることができる。更に、これらのポリアミド樹脂を成形性、耐熱性、低吸水性などの必要特性に応じて、これらの共重合体、および2種類以上混合した樹脂も本発明で使用できる。また、更に耐衝撃性向上などのために、上記樹脂にエラストマー、もしくはゴム成分を添加した樹脂や、樹脂を混合するときの相溶性制御などのために末端基を変性したり、封止した樹脂も、本発明で使用できるポリアミド樹脂に含まれる。
【0021】
本発明で使用するポリアミド樹脂として、最も有用なものとしては、ナイロン6が挙げられる。ナイロン6を使用した場合、本発明の一つの効果である成形時の流動性を更に一層高く発現することができる。
【0022】
特に、ポリアミド樹脂、とりわけナイロン6と成分(F)が混合されているので、本発明の一つの効果である成形時の流動性をより高く発現する。かかる成分(F)とはフェノール系重合体であり、例えばフェノールノボラック、クレゾールノボラック、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、アルキルベンゼン変性フェノール、カシュー変性フェノール、テルペン変性フェノール、テルペン・フェノール重合体などの例が挙げられる。フェノール系重合体の添加量は、力学的特性・成形性の面からポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜20重量部が好ましく、特に好ましくは3〜15重量部である。
【0023】
同様に、ポリアミド樹脂、とりわけナイロン6と成分(G)が混合されていても、本発明の一つの効果である成形時の流動性をより高く発現することが出来きる。かかる成分(G)とは液晶性樹脂であり、溶融時に異方性を形成し得る樹脂のことを指す。液晶性樹脂としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリカーボネート、液晶ポリエステルエラストマーなどの例が挙げられ、なかでも分子鎖中にエステル結合を有するものが好ましく、特に液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドなどが好ましく用いられる。但し、液晶性樹脂を混合する場合には、ポリアミド樹脂の末端基(特にアミド基)を、例えば酸無水物などで封止しておくのが好ましい。
【0024】
本発明に好ましく使用できる液晶性樹脂は芳香族オキシカルボニル単位としてp−ヒドロキシ安息香酸からなる構造単位を含む液晶性ポリエステルであり、また、エチレンジオキシ単位を必須成分とする液晶性ポリエステルも好ましく使用できる。さらに好ましくは下記構造単位(I) 、(III) 、(IV)からなるポリエステルあるいは(I) 、(II)、(III) 、(IV)の構造単位からなるポリエステルであり、最も好ましいのは(I) 、(II)、(III) 、(IV)の構造単位からなるポリエステルである。
【化1】
(ただし式中のR1は
【化2】
の(a)〜(j)から選ばれた一種以上の基を示し、R2は
【化3】
の(A)〜(F)から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)
なお、構造単位(II)および(III) の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルであることが望ましい。
【0025】
上記構造単位(I) はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4´−ジヒドロキシビフェニル、3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III) はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。これらのうちR1が
【化4】
であり、R2が
【化5】
であるものが特に好ましい。
【0026】
上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合比率は任意である。しかし、本発明の特性を発揮させるためには次の共重合比率であることが好ましい。
【0027】
すなわち、上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる共重合体の場合は、上記構造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して30〜95モル%が好ましく、40〜93モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70〜5モル%が好ましく、60〜7モル%がより好ましい。また、構造単位(I)と(II)のモル比[(I)/(II)]は好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルであることが好ましい。
【0028】
一方、上記構造単位(II) を含まない場合は流動性の点から上記構造単位(I)は構造単位(I)および(III)の合計に対して40〜90モル%であることが好ましく、60〜88モル%であることが特に好ましく、構造単位(IV)は構造単位(III)と実質的に等モルであることが好ましい。
【0029】
また液晶性ポリエステルアミドとしては、上記構造単位(I)〜(IV)以外にp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドが好ましい。
【0030】
なお、上記好ましく用いることができる液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドは、上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノ安息香酸などを液晶性を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0031】
本発明で使用する液晶性樹脂は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能である。その際、0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.5〜15.0dl/gが好ましく、1.0〜3.0dl/gが特に好ましい。
【0032】
また、本発明における液晶性樹脂の溶融粘度は0.5〜500Pa・sが好ましく、特に1〜250Pa・sがより好ましい。また、流動性により優れた組成物を得ようとする場合には、溶融粘度を50Pa・s以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0034】
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。
【0035】
液晶性樹脂の融点は、特に限定されないが、ポリアミド樹脂への分散性の点から好ましくは340℃以下、より好ましくは330℃以下である。
【0036】
本発明において使用する上記液晶性ポリエステルの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0037】
例えば、上記液晶ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。
【0038】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
【0039】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0040】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0041】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0042】
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0043】
液晶性ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0044】
本発明で用いるポリアミド樹脂、および液晶性樹脂の配合比は、ポリアミド樹脂100重量部に対して液晶性樹脂が0.1〜30重量部、好ましくは、0.5〜25重量部、より好ましくは1〜20重量部である。ポリアミド樹脂に対し、液晶性樹脂の添加量が少なすぎたり、多すぎたりする場合、良流動、薄肉難燃性かつ耐衝撃性などの機械特性のバランスのとれた材料が得られないので好ましくない。
【0045】
さらに、本発明の難燃性樹脂組成物、もしくはその成形品には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤としては赤リンが好ましく用いられるが他の難燃剤(例えばブロム化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、水酸化マグネシウム、メラミンおよびシアヌール酸またはその塩など)、難燃助剤、摺動性改良剤(グラファイトなど)、帯電防止剤、紫外線吸収剤などの通常の添加剤を添加して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0046】
また、更なる特性改良の必要性に応じて無水マレイン酸などによる酸変性オレフィン系重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)、ASA(アクリロニトリル/スチレン/アクリルゴム共重合体)、MBS(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)などのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマーなどのエラストマーから選ばれる1種または2種以上の混合物を添加して所定の特性をさらに付与することができる。
【0047】
本発明における成分(B)とは赤リン系難燃剤である。赤リンはそのままでは不安定であり、また、水に徐々に溶解したり、水と徐々に反応する性質を有するので、赤リン系難燃剤としては、これを防止する処理を施したものがよい。このような赤リンの処理方法としては、特開平5−229806号公報に記載の赤リンの粉砕を行わず、赤リン表面に水や酸素との反応性が高い破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンに水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを微量添加して赤リンの酸化を触媒的に抑制する方法、赤リンをパラフィンやワックスで被覆し、水分との接触を抑制する方法、ε−カプロラクタムやトリオキサンと混合することにより安定化させる方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法、赤リンを銅、ニッケル、銀、鉄、アルミニウムおよびチタンなどの金属塩の水溶液で処理して、赤リン表面に金属リン化合物を析出させて安定化させる方法、赤リンを水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛などで被覆する方法、赤リン表面に鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、スズなどで無電解メッキ被覆することにより安定化させる方法およびこれらを組合せた方法が挙げられるが、好ましくは、赤リンの粉砕を行わずに赤リン表面に破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法、赤リンを水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛などで被覆することにより安定化させる方法であり、特に好ましくは、赤リン表面に破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法である。これらの熱硬化性樹脂の中で、フェノール系熱硬化性樹脂、エポキシ系熱硬化性樹脂で被覆された赤リンが耐湿性の面から好ましく使用することができ、特に好ましくはフェノール系熱硬化性樹脂で被覆された赤リンである。
【0048】
また、赤リンの平均粒径は、難燃性、力学的特性、耐湿熱特性およびリサイクル使用時の粉砕による赤リンの化学的・物理的劣化を抑える点から、0.01〜35μmのものが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜30μmのものである。
【0049】
なお赤リンの平均粒径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することが可能である。粒度分布測定装置には、湿式法と乾式法があるが、いずれを用いてもかまわない。湿式法の場合は、赤リンの分散溶媒として、水を使用することができる。この時アルコールや中性洗剤により赤リン表面処理を行ってもよい。また分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムやピロリン酸ナトリウムなどのリン酸塩を使用することも可能である。また分散装置として超音波バスを使用することも可能である。
【0050】
また、本発明で使用される赤リンの平均粒径は上記のごとくであるが、赤リン中に含有される粒径の大きな赤リン、すなわち粒径が75μm以上の赤リンは、難燃性、力学的特性、耐湿熱性、リサイクル性を著しく低下させるため、粒径が75μm以上の赤リンは分級などにより除去することが好ましい。粒径が75μmの赤リン含量は、難燃性、力学的特性、耐湿熱性、リサイクル性の面から、10重量%以下が好ましく、さらに好ましくは8重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。下限に特に制限はないが、0に近いほど好ましい。
【0051】
ここで赤リンに含有される粒径が75μmの赤リン含量は、75μmのメッシュにより分級することで測定することができる。すなわち赤リン100gを75μmのメッシュで分級した時の残さ量Z(g)より、粒径が75μm以上の赤リン含量はZ/100×100(%)より算出することができる。
【0052】
また、本発明で使用される赤リンの熱水中で抽出処理した時の導電率(ここで導電率は赤リン5gに純水100mlを加え、例えばオートクレーブ中で、121℃で100時間抽出処理し、赤リンろ過後のろ液を250mlに希釈した抽出水の導電率を測定する)は、得られる成形品の耐湿性、機械的強度、耐トラッキング性、および表面性の点から通常0.1〜1000μS/cmであり、好ましくは0.1〜800μS/cm、さらに好ましくは0.1〜500μS/cmである。
【0053】
また、本発明で使用される赤リンのホスフィン発生量(ここでホスフィン発生量は、赤リン5gを窒素置換した内容量500mlの例えば試験管などの容器に入れ、1.3kPa(10mmHg)に減圧後、280℃で10分間加熱処理し、25℃に冷却し、窒素ガスで試験管内のガスを希釈して1.0×102kPa(760mmHg)に戻したのちホスフィン(リン化水素)検知管を用いて測定し、つぎの計算式で求める。ホスフィン発生量(ppm)=検知管指示値(ppm)×希釈倍率)は、得られる組成物の発生ガス量、押出し、成形時の安定性、溶融滞留時機械的強度、成形品の表面外観性、成形品による端子腐食などの点から通常100ppm以下のものが用いられ、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。
【0054】
好ましい赤リンの市販品としては、燐化学工業社製“ノーバエクセル”140、“ノーバエクセル”F5等、およびそれら相当品が挙げられる。
【0055】
本発明における成分(C)とは金属水酸化物系難燃剤である。本発明で使用される金属水酸化物系難燃剤は、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛などのII族の金属、およびアルミニウムなどのIII 族の金属からなる水酸化物であり、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、これらは単独でも、混合して用いてもよい。
【0056】
本発明で使用される金属水酸化物系難燃剤として好ましくは、耐熱性に優れる水酸化マグネシウムがよい。本発明で使用される水酸化マグネシウムは天然型であっても、合成型であってもよいが、好ましくは平均結晶粒径の分布範囲が小さく、成分(A)中での分散性に優れる合成型のものがよい。水酸化マグネシウムの平均結晶粒径は、力学的特性の低下を抑える点から、0.2〜50μmが好ましい。更に好ましくは0.5〜10μmであり、より好ましくは、0.7〜5μm、特に好ましくは1〜3μmである。平均結晶粒径が0.2μm未満である場合、ポリアミド樹脂とのコンパウンド時の押出機へのフィード性に劣るといった製造プロセス上での問題が生じる場合がある。また、50μmを超える場合は、成分(A)中での分散性に劣り、難燃性に劣るといった問題が生じる場合がある。
【0057】
水酸化マグネシウムの一次結晶粒子の形状は、六角板状、針状のいずれでもよく、それらの混合物であってもよい。この場合の一次結晶粒子のアスペクト比は200以下のものが好ましい。アスペクト比が200を越えると、一般的に特に衝撃強度の低下を招く場合がある。また、成形時の流動性に優れるためには、一次結晶粒子の形状が六角板状で、特にc軸が発達した球状に近い形状であることが好ましく、この場合の一次結晶粒子のアスペクト比は100以下である。
【0058】
水酸化マグネシウムとしては、公知の表面処理剤で表面処理がしてあっても、無処理でもよい。表面処理剤としては、例えば、ステアリン酸などの飽和高級脂肪酸、オレイン酸などの不飽和高級脂肪酸、そのアルカリ金属塩、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルトリン酸とステアリルアルコールとのモノ、またはジエステルであって、それらの酸、またはアルカリ金属塩などのリン酸部分エステル、アミド系やウレタン系などの高極性樹脂などが挙げられる。また、熱安定性向上のために、フェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆してもよい。あるいは、成形品の表面白化現象を抑え、耐酸性、および難燃性を更に向上させるために、金属元素を表面に固溶させてもよい。金属元素としては、例えば、ニッケル、亜鉛、鉄などが挙げられる。より好ましくは、成形中に成分(A)と化学的反応を起こさない表面処理剤で表面処理が施されているのがよい。化学的反応を起こす表面処理が施されている場合、成形時の流動性に劣り、本発明の効果を十分に発現できない。表面処理剤の表面処理量は、水酸化マグネシウム100重量部当たり0.1〜10重量部が好ましい。
【0059】
好ましい水酸化マグネシウムの市販品としては、協和化学工業社製“キスマ5E”粉末品、粒状品等、およびその相当品が挙げられる。
【0060】
本発明における成分(D)とはカーボンブラックである。本発明で使用するカーボンブラックとしては、少なくとも次の条件[CB1]、[CB2]のいずれか、もしくは両方を満たすものを選択して使用するのが好ましい。
【0061】
[CB1]:ラマン散乱強度比I2/I1 が、0.4〜0.8の範囲である。
[CB2]:ラマン散乱強度比I2/I3 が、0.4〜0.7の範囲である。
I1:ラマンシフト1360cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極大値
I2:ラマンシフト1480cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極小値
I3:ラマンシフト1580cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極大値
なお、前記I1、I2 、I3は、ベースライン補正後のラマン散乱強度についてのものである。上記ベースライン補正とは、600cm-1〜2200cm-1のラマンシフト範囲において、ラマンスペクトルのベースラインを直線近似し、その近似直線からの距離をラマン散乱強度とし、測定時のベースラインの傾きを補正する操作のことをいう。
【0062】
かかる特定なラマンスペクトルを有するカーボンブラックを使用した場合、特異的に導電性、薄肉成形性(特に成形時の流動性)、高い力学的特性、および外観品位を兼ね備えた難燃性樹脂組成物を得ることができるため好ましい。
【0063】
かかるカーボンブラックとしては、その一つの選択要件である条件[CB1]は、I2 /I1 が、0.4〜0.8であるが、望ましくは0.5〜0.77、さらに望ましくは0.65〜0.75の範囲にあるものを使用するのがよい。とりわけ好ましくは0.66〜0.71の範囲である。すなわち、このI2 /I1 が、0.4〜0.8の範囲外のカーボンブラックを用いた場合には、導電性、高い力学的特性はある程度達成できるものの、薄肉成形性(成形時の流動性)、外観品位に著しく劣るものとなり、導電性と薄肉成形性と外観品位とを兼ね備えた難燃性樹脂組成物が得られない。特に、I2 /I1 が0.4未満であるカーボンブラックの場合は、導電性はともかく、成形時の流動性が大きく劣るものとなる。
【0064】
また、本発明で使用するカーボンブラックとしての別の選択方法の一つである条件[CB2]は、I2 /I3 が、0.4〜0.7、好ましくは0.5〜0.67、更に好ましくは0.56〜0.65の範囲にあるカーボンブラックを選択して使用するのがよい。とりわけ好ましくは0.57〜0.61の範囲である。
【0065】
かかるカーボンブラック、つまりI2 /I3 が、0.4〜0.7の範囲にあるカーボンブラックと、その範囲外のカーボンブラックとの効果的な違いは、前記方法で選択したもの場合と同様であり、該範囲外のものは、高い導電性はある程度達成できるものの、成形時の流動性に著しく劣り、導電性と薄肉成形性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物が得られない。流動性において、該範囲内のものに比して、範囲外の場合には極めて低い流動性を示す点で、更に流動性にシビアな性質を示すカーボンブラックを選ぶことができる。
【0066】
ラマンスペクトルの測定法は、レーザーラマン分光法により測定する。ラマンスペクトルの測定は、樹脂に配合する前のカーボンブラックから測定してもよいし、樹脂組成物、もしくはその成形品中からカーボンブラックを分離した後に測定してもよい。前者から測定する場合は、マクロラマン(レーザースポット径が100μm程度)、後者から測定する場合は、顕微ラマン(レーザースポット径が5μm程度)にて測定を行うのが好ましい。本発明では、JobinYvon社製Ramaonor T−64000を用いて測定を行った。
【0067】
成形品からのカーボンブラックの分離は、配合物の比重差を利用して行うのがよい。かかるカーボンブラックの分離手法の具体的手段の一例を以下に記述する。
【0068】
まず、樹脂成形品をカーボンブラックを侵さずに樹脂を溶解する溶媒に浸漬し、完全に樹脂を溶解させる。その後、5000rpmにて30分間遠心分離を行い、更に遠心分離後の上澄み液を30000rpmにて30分間超遠心分離を行う。超遠心分離後の上澄み液を、PTFEフィルター(0.2μm)などで濾過することによりカーボンブラックを分離する。この場合のラマンスペクトルの測定は、顕微ラマンにより上記分離による回収物中の黒色微粒子部分について行うのが好ましい。なお、上述の分離した場合のカーボンブラックのラマンスペクトルは、PTFEフィルターなどのラマンスペクトルを差し引いたものを指す。
【0069】
かかるカーボンブラックは、上述の各条件の範囲であるカーボンブラックであれば種類は特に限定されず、例えば、ファーネスブラック(原料油を高温炉で燃焼させて製造)、アセチレンブラック(アセチレンガスの発熱分解により製造)、サーマルブラック、チャンネルブラック等を使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックでもよい。供給・価格の面から、生産量が多く低価格であるファーネスブラックが好ましい。
【0070】
本発明における成分(E)とはPAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維である。また、炭素繊維にニッケルや銅などの金属を被覆した金属被覆炭素繊維なども本発明で使用できる。
【0071】
本発明で使用する炭素繊維としては、広角X線回折法により測定された結晶サイズ(以下、Lcと記す)が、1〜4nmの範囲であることが望ましい。Lcが1nm未満である場合、炭素繊維の炭化が十分ではなく、炭素繊維自体の導電性が低くなる。このことに起因して得られた成形品の導電性が劣る場合があるため好ましくない。一方、Lcが4nmを越える場合、炭素繊維の炭化もしは黒鉛化は十分であり、炭素繊維自体の導電性には優れるが、その一方で脆くなる。このことに起因して、成形品中の繊維長さが短くなり、高い導電性が期待できないため好ましくない。より好ましくは1.3〜3.5nmの範囲であり、さらに好ましくは1.6〜3nmの範囲である。とりわけ好ましくは1.8〜2.5nmの範囲であるものがよい。なお、広角X線回折法によるLcの測定は、日本学術振興会第117委員会、炭素、36、p25(1963)に記載された方法で測定した。
【0072】
本発明で使用する炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあるものが望ましい。O/Cが0.05より小さいことは、炭素繊維表面に樹脂との接着に寄与するような官能基が非常に少ないことを意味している。炭素繊維と樹脂の接着性が劣ると、成形品に高い力学特性が期待できない。逆にO/Cが0.4より大きいことは、炭素繊維表面の酸化、もしくはアルカリ処理などが必要以上に行われており、炭素の結晶構造が破壊されて、炭素繊維表面に脆弱層が形成されていることを意味している。この場合もO/Cが低すぎる場合と同様、繊維表層付近で破壊が生じやすいため、成形品に高い力学的特性が期待できない。更に、O/Cを0.05〜0.4の範囲にすることは、成形品中の炭素繊維の分散性など、炭素繊維と樹脂との接着性以外にも好ましい効果をもたらす。
【0073】
表面官能基(O/C)は、X線光電子分光法により次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などの樹脂を除去した炭素繊維、もしくは炭素繊維束をカットして、銅製の試料支持台上に拡げた状態でならべた後、光電子脱出角度を90度とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、前記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0074】
また、本発明で使用する炭素繊維として望ましくは、引張破断伸度は少なくとも1.5%以上の炭素繊維がよい。引張破断伸度が1.5%未満である場合、成形工程で繊維が切断されやすく、樹脂組成物、およびその成形品中の繊維長さを大きくすることができないため、高い力学的特性(特に衝撃強度)が達成できない。高い力学的特性を付与するためには、引張破断伸度が1.5%以上、より望ましくは引張破断伸度が1.7%以上、更に望ましくは引張破断伸度が1.9%以上の炭素繊維を用いるのがよい。本発明で使用する炭素繊維の引張破断伸度に上限はないが、一般的には5%未満である。炭素繊維として更に望ましくは、強度と弾性率とのバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。
【0075】
また、本発明で使用する炭素繊維は、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系重合体、液晶性樹脂、アルコールまたは水可溶性樹脂、などで集束処理されていてもよい。
【0076】
本発明では、成分(E)の他にも充填材を使用することができる。ここでいう充填材とは、力学的特性(例えば強度、弾性率、伸度、衝撃強度、線膨張率、熱変形温度など)、熱的特性(例えば熱膨張率、熱伝導率など)、成形加工性(例えばスクリューへの噛込、粘度、充填度、成形収縮、バリ、ヒケ、表面平滑性など)、比重、異方性などの制御や、コストの低減など、本発明の難燃性樹脂組成物に用途に応じた効果を付与するために配合される。かかる充填材としては、例えば、マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化錫、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、高分子などを使用できる。これらの充填材は単独でも、2種類以上ブレンドしたものでもよい。かかる充填材の形状は粒子状(中実、中空)、粉末状、鱗片状、フレーク状、バルーン状、ウイスカ状(二次元、三次元)、繊維状、などの任意の形状を目的に応じて選択できる。また、かかる充填材は天然型であっても、合成型であってもよく、目的に応じて任意に選択できる。本発明で用いられる充填材としては、ポリアミド樹脂との相性、力学的特性、コスト、導電性などのバランスから、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、チタン酸カリウムが好ましい。
【0077】
また、充填材の平均粒径は0.1〜100μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満である場合、本発明の効果である薄肉成形性(特に成形時の流動性)が阻害されるといった問題だけでなく、該構成要素[C]とのコンパウンド時の押出機へのフィード性に劣るといった製造プロセス上での問題をも生じることがある。また、100μmを超える場合は、該構成要素[C]中での分散性に劣り、所望の効果を得られにくいといった問題が生じることがある。より好ましくは0.3〜80μmの範囲であり、更に好ましくは0.5〜60μmの範囲である。とりわけ1〜50μmの範囲であることが好ましい。また、充填材が繊維状である場合には、アスペクト比が1.5〜250の範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜200の範囲であり、更に好ましくは3〜150の範囲である。これらの範囲未満であると、成形品中における分散性に劣りやすく、さらに成形時の流動性が低下し、薄肉成形性に劣るなどの問題を生じることがある。一方、これらの範囲を超えると、力学的特性、特に衝撃強度に劣り、所望の力学的特性付与効果などが得られないことがある。
【0078】
本発明の難燃性樹脂組成物は、該樹脂組成物100重量%に対して、充填材が0.05〜30重量%の範囲で配合されていることが好ましい。充填材が0.05重量%未満であると、所望の効果(例えば力学的特性やコスト低減など)が得られにくく、30重量%を越えると、成形時の流動性が低下し、薄肉成形性に劣るため好ましくない。より好ましくは0.1〜20重量%の範囲であり、更に好ましくは0.15〜10重量%の範囲である組成がよい。
【0079】
また、本発明では充填材の他にも導電性付与剤を使用することができる。かかる導電性付与剤とは、導電性を有しているものを指し、例えば金属(例えば粒子状、フレーク状、リボン状など)、金属化合物(例えば粒子状など)、カーボン(例えば粉末状など)、グラファイト(例えば鱗片状、膨張粒子状、微細粉末状など)、そのもの自体が導電性を有する充填材や、充填材の表面に導電体を被覆したもの、導電性高分子などが挙げられ、これらを単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
前述の充填材に被覆される導電体とは、導電性を有しているものを指し、例えば金属、金属化合物、カーボンなどが挙げられるが、その中でも最も導電性の高い金属または金属酸化物が好ましい。前記金属または金属酸化物としては、例えばニッケル、チタン、アルミニウム、クロム、亜鉛、アンチモン、錫、銅、銀、金等を単独もしくは併用することができ、前記金属は少なくとも1層、必要に応じて複数層にて充填材に被覆されるのが好ましい。
【0081】
上記充填材への導電体の被覆方法については特に制限はないが、好ましくは電解や無電解によるメッキ法、イオンプレーティング法、CVD法、PVD法、蒸着法などにより高い密着強度で被覆されているのが好ましい。
【0082】
本発明で用いられる導電性付与剤の平均粒径は0.5〜150μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは1〜100μmの範囲であり、更に好ましくは1.5〜50μmの範囲である。とりわけ2〜25μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満では、成形品中における分散性に劣りやすく、さらに成形時の流動性が低下し、薄肉成形性に劣るなどの問題を生じるため好ましくない。一方、平均粒径が150μmを超えると、導電性付与効果に劣り、所望の導電性付与効果が得られないため好ましくない。
【0083】
本発明で用いられる導電性付与剤としては、より高い導電性付与効果を発現するために、高い導電性を有していることが好ましく、中でも金属、金属化合物、グラファイトの少なくとも1種類であるのが好ましい。
【0084】
かかる金属としては、例えばニッケル、チタン、アルミニウム、クロム、鉄、ステンレス、アルミニウム、錫、鉛、アンチモン、亜鉛、カドミウム、マグネシウム、タングステン、リチウム、モリブデン、ベリリウム、コバルト、バナジウム、マンガン、アンチモン、銅、黄銅、銀、金、白金、およびこれら2種類以上の組み合わせた合金、これらを主成分とする合金、これらとリンとの化合物やそれらの酸化物などが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。中でも、銀、ニッケル、チタンが導電性付与効果が大きいため好ましい。
【0085】
また、かかる金属は、例えば粒子状、フレーク状、リボン状などの任意の形態をとることができるが、導電性付与効果の面から、粒子状および/またはフレーク状であるのが好ましい。特に粒子状である場合、球状粉、粒状粉、樹枝状粉、片状粉、角状粉、海綿状粉、不規則型粉などの任意の形状をとることができるが、中でも樹枝状粉、片状粉、角状粉が導電性付与効果、加工コスト抑制効果に優れるため好ましい。
【0086】
かかるグラファイトは、鱗片状、膨張粒子状、微細粉末状など任意の形態をとることができるが、導電性付与効果の面から、鱗片状、微細粉末状であるのが好ましい。
【0087】
本発明の難燃性樹脂組成物は、該樹脂組成物100重量%に対して、導電性付与剤が0.01〜15重量%の範囲で配合されていることが好ましい。導電性付与剤が0.01重量%未満であると、所望の導電性付与効果が得にくく、15重量%を越えると、成形時の流動性が低下し、薄肉成形性に劣るだけでなく、高コスト・高比重となり好ましくない。より好ましくは0.05〜10重量%の範囲であり、更に好ましくは0.1〜8重量%の範囲である組成がよい。
【0088】
かかる充填材や導電性付与剤などは、表面処理剤で表面処理がしてあっても、無処理でもよい。表面処理剤としては、例えば、ステアリン酸などの飽和高級脂肪酸、オレイン酸などの不飽和高級脂肪酸、そのアルカリ金属塩、オルトリン酸とステアリルアルコールとのモノ、またはジエステルであって、それらの酸、またはアルカリ金属塩などのリン酸部分エステルなどが挙げられる。また、樹脂との接着性向上のために、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、ウレタン系、アミド系などの高極性樹脂で被覆してもよく、集束のために、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、液晶性樹脂などで被覆されていてもよい。より好ましくは、成形中に樹脂と化学的相互反応を起こさない表面処理剤で表面処理が施されているのがよい。成形中に化学的相互反応を起こす表面処理が施されている場合、成形時の流動性に劣り、本発明の効果を十分に発現できない可能性がある。表面処理剤の表面処理量は、充填材または導電性付与剤100重量部当たり0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。
【0089】
また、かかる充填材などは、膨潤化剤により膨潤されていてもよいし、有機化剤により有機化されていてもよい。膨潤化剤または有機化剤としては、イオン交換などにより充填材などを膨潤化または有機化し得るものなら特に制限はなく、具体的にはε−カプロラクタム、12−アミノドデカン酸、12−アミノラウリン酸、アルキルアンモニウム塩(ジメチルジアルキルアンモニウムなど)などが挙げられる。特にポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などに膨潤化もしくは有機化された充填材(好ましくはモンモリロナイト、マイカ、サポナイト、ヘクトライト、セピオライト)が配合されていると、充填材のナノオーダーでの分散が可能となり、より少ない配合量で所望の特性が得られるため好ましい。
【0090】
本発明の難燃性樹脂組成物は、更に成分(H)として金属酸化物を含有してもよい。金属酸化物を添加することにより、押出性、成形時の安定性や強度、耐熱性、成形品の端子腐食性などを向上させることができる。かかる金属酸化物としては、例えば、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタン、ITO(イソジウム・錫酸化物)、ATO(アンチモン・錫酸化物)などが挙げられるが、なかでも酸化カドミウム、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化チタンなどのI族および/またはII族の金属以外の金属酸化物が好ましく、特に酸化第一銅、酸化第二銅、酸化チタンが好ましいが、I族および/またはII族の金属酸化物であってもよい。押出性、成形時の安定性や強度、耐熱性、成形品の端子腐食性の他に、非着色性をさらに向上させるためには酸化チタンが最も好ましい。
【0091】
金属酸化物の添加量は力学的特性、成形性の面からポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜10重量部である。但し、力学的特性や比重の面から、全組成物に対しては0.01〜10重量%であることが好ましく、特に好ましくは0.05〜8重量%である。
【0092】
本発明の難燃性成形品は、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形なども含まれる)、ブロー成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形(RTM成形、RIM成形、SCRIMP成形など)、フィラメントワインディング成形などによって成形されるが、最も望ましい成形法は、生産性の高い射出成形である。
【0093】
前記成形法に用いられる難燃性樹脂組成物の形態としては、ペレット、BMC、SMC、スタンパブルシート、プリプレグ(シート、ヤーンなど)などが挙げられるが、望ましい形態はペレットであり、最も望ましい形態は長繊維ペレットである。
【0094】
本発明でいうペレットとは、成分(A)〜(F)、および必要に応じて(G),(H)、その他の成分が、所望量配合されるように、それぞれ、もしくは幾つかの成分を必要回数だけ押出機などを用いて混練・押出・ペレタイズ(以下、この一連の工程をコンパウンドと記す)したもの、あるいはそれらをドライブレンドすることによって得られたものを指す。この場合、成分(E)は、チョップド糸であっても連続糸であってもよい。
【0095】
本発明では、前述のペレットの中でも長繊維ペレットの形態をとることが望ましい。本発明でいう長繊維ペレットとは、少なくとも特公昭63−37694号公報に示されるような、成分(E)がペレットの長手方向にほぼ平行に配列し、ペレット中の成分(E)の長さがペレット長さと同一もしくはそれ以上であるペレットが含まれるものを指す。この場合、少なくとも成分(A)を含む本発明中の成分は、成分(E)の束中に含浸されていても、成分(E)の束に被覆されていてもよい。
【0096】
特に、少なくとも成分(A)を含む本発明中の成分が、成分(E)の束に被覆された長繊維ペレットの場合、成分(E)の束中には、被覆されている成分(A)、あるいは被覆されている成分(A)よりも低分子量の樹脂が予め含浸されているのが望ましい。前記の予め含浸されている樹脂としては、水、またはアルコール可溶性ポリアミド樹脂、低分子量ポリアミド樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系重合体(例えばフェノールノボラック、クレゾールノボラック、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、アルキルベンゼン変性フェノール、カシュー変性フェノール、テルペン変性フェノール、成分(F)など)、成分(G)などの例が挙げられる。
【0097】
本発明において望ましくは、成分(A)〜(D)、(必要に応じて成分(G)、(H))がコンパウンドされたペレットと、少なくとも成分(A)が成分(E)束に被覆され、成分(E)に予め成分(F)が含浸されている長繊維ペレットとを、ドライブレンドしたものがよい。特に成分(D)に関しては、成分(E)束中に予め混合していても、成分(E)のサイジング剤中に予め混合していても、前記の予め含浸されている樹脂に混合されていてもよい。
【0098】
前記ペレットを用いた射出成形による難燃性成形品において、高い難燃性(特にドリップ防止性)、高い導電性、および高い力学的特性(特に耐衝撃性)を同時に達成するためには、本発明の難燃性成形品中での成分(E)の長さをできるだけ高く維持することが有効である。
【0099】
長繊維ペレット(好ましくは2〜26mm、より好ましくは4〜15mm)を用いて成形した場合、成形品中での成分(E)の長さを高く維持することができるため、導電性や耐衝撃性の他に、特に燃焼時のドリップ防止性を飛躍的に改善することが できる。このドリップ防止性の改善効果により、通常のペレットではドリップにより高い難燃性を達成できない場合でも、長繊維ペレットを用いた場合には、UL94規格における0.8mm(1/32インチ)厚でのV−0といった高い難燃性の達成が可能である。特に、成分(E)の配合量が20重量%以下のような低い配合量の場合には、通常のペレットに比べてドリップ防止性の改善効果は顕著であり、このような範囲の配合量で長繊維ペレットを用いることは、高い難燃性を達成するためには非常に有効である。もちろん、導電性や、耐衝撃性の改善に関しても、同様にその改善効果は絶大である。
【0100】
一方、成分(E)の配合量が25重量%以上のような高い配合量の場合には、通常のペレットでもドリップ防止性の改善効果はある程度発現するため、高い難燃性の達成は可能である。但し、導電性や、耐衝撃性の改善に関しては、その効果は小さく、長繊維ペレットの改善効果には及ばない。
【0101】
難燃性成形品中での成分(E)の長さをできるだけ高く維持するためには、前述のように長繊維ペレットを用いて成形することの他に、成形条件、射出成形機、および金型について最適化することも有効である。成形条件に関しては、背圧が低いほど、射出速度が遅いほど、スクリュー回転数が遅いほどが難燃性成形品中の成分(E)の長さが長くなる傾向があり、特に背圧は計量性が不安定にならない程度にできるだけ低く設定するのが望ましい。望ましい背圧は0.1〜1MPa(1〜10kg/cm2)である。射出成形機については、ノズル径が太いほど、スクリュー溝深さが深いほど、圧縮比が低いほど、難燃性成形品中の成分(E)の長さが長くなる傾向がある。金型については、スプルー径、ランナー径、ゲート径を大きくするほど、難燃性成形品中の成分(E)の長さが長くなる傾向がある。
【0102】
本発明の難燃性成形品が、高い力学的特性と、高い導電性を両立するためには、成分(E)が成形品中で、(数式1)の値が7〜600であることが望ましい。
(数式1) Σ(lw×Wf)
ここで、
lwは難燃性成形品中に含まれる成分(E)の重量平均繊維長(mm)、
Wfは難燃性成形品中に含まれる成分(E)の配合率(重量%)を示し、
Σは難燃性成形品中に含有される成分(E)の種類が複数である場合、それぞれについての括弧内の値を合計することを意味する。
【0103】
lwは、難燃性成形品から少なくとも成分(A)を除去して、成分(E)のフィラメントのみを任意に少なくとも400本以上抽出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて測定して、下記の(数式2)、もしくは(数式3)を用いて算出する。但し、Wiは長さliの成分(E)の重量、Niは長さliの成分(E)の数とする。
(数式2) lw=Σ(Wi×li)/ΣWi
(数式2)は一定直径の成分(E)に対しては、(数式3)の様に表すことができる。
(数式3) lw=Σ(Ni×li2)/Σ(Ni×li)
本発明では、lwを測定する際の成分(A)を除去する方法として、成分(A)のみを溶解させ、含有される成分(E)は溶解させない溶媒などに難燃性成形品を一定時間浸漬し、成分(A)を十分溶解させた後、濾過などにより成分(E)と分離する手法を採用した。また、難燃性成形品を窒素雰囲気中で550℃にて約1時間程度保持することによりよっても成分(A)を除去することが可能である。
【0104】
(数式1)の値が7未満の成分(E)を含有する難燃性成形品は、成形時の難燃性樹脂組成物の流動性は良好なため成形性に優れる。また、難燃性成形品の強度・剛性についても、含有される成分(E)の(数式1)の値が7未満であってもWfが20重量%以上であれば、ある程度高い値を有することも可能である。しかし、耐衝撃性については、含有される成分(E)の(数式1)の値が7以下の場合は大幅に劣り、高強度・高剛性と耐衝撃性の両立ができないといった問題を有する。
【0105】
ところが、(数式1)の値が7以上の成分(E)を含有する難燃性成形品は、強度・剛性については大幅な改善が見られないが、耐衝撃性については大幅に改善される。また、含有される成分(E)の(数式1)の値が600以下であれば、成形時の難燃性樹脂組成物の流動性の低下は僅かであるため、成形時の流動性を高く維持することが可能である。しかし、(数式1)の値が600を超える場合には、高強度・高剛性と耐衝撃性の両立は可能なものの、その成形時の流動性は大幅に低下し、それと共に生産性も大きく低下する。つまり、(数式1)の値が7〜600である成分(E)で難燃性成形品を強化することにより、高強度・高剛性と耐衝撃特性とを高い次元で両立させ、しかも成形性にも優れた難燃性成形品が得られる。成分(E)の(数式1)の値は8〜500であることが好ましい。更に好ましくは成分(E)の(数式1)の値が10〜400である。
【0106】
難燃性成形品中に含有される成分(E)の(数式1)の値が7以上である場合でも、Wfが8〜32重量%、もしくはlwが0.1〜10mmである場合、高強度・高剛性・高耐衝撃性などの力学的特性が最も適したバランスで両立できるだけでなく、該難燃性成形品を成形する際の成形時の流動性に特別に優れるので望ましい。更に望ましくは、難燃性成形品中に含有される成分(E)の(数式1)の値が7以上である場合でも、Wfが10〜30重量%、且つlwが0.2〜7mmである。
【0107】
また、成分(E)の平均繊維径は1〜20μmであることが好ましく、2〜12μmであることがより好ましく、3〜10μmであることが更に好ましい。平均繊維径が1μm未満では、成分(A)の成分(E)束中への含浸が困難となり、成形品中での成分(E)の分散性に劣るなどの問題を生じる。一方、平均繊維径が20μmを超えると、力学的特性に優れる炭素繊維が得られず、所望の補強効果が得られない。
【0108】
本発明における難燃性樹脂組成物、およびその成形品として望ましい体積固有抵抗値は、100Ω・cm以下である。体積固有抵抗値が100Ω・cm以上の場合、電磁波シールド材などの用途には適応しにくく、用途が限定されるといった問題を有する。より望ましい体積固有抵抗値は50Ω・cmであり、更に望ましい体積固有抵抗値は10Ω・cmである。とりわけ1Ω・cmが望ましい。
【0109】
ここでいう体積固有抵抗値とは、直方体形状を有している試験片の導電ペーストを塗布された両端部の電気抵抗値から、測定機器、治具などの接触抵抗値を減じた値について、前記試験片の端部面積を乗じ、試験片長さで除すことにより算出する。本発明では、単位はΩ・cmを用いた。
【0110】
本発明における難燃性樹脂組成物は、高い難燃性(特にドリップ防止性)に加え、高い成形時の流動性を兼ね備えているので、従来の難燃性成形品より肉厚を小さくすることが可能であり、肉厚が4mm以下の薄肉成形品として用いるのが最適である。好ましくは、肉厚2mm以下の薄肉成形品として用いるのが本発明の効果をより発揮できる。更に好ましくは、肉厚1.5mm以下、特に好ましくは1.4mm以下の薄肉成形品として用いるのがよい。ここでいう成形品の肉厚とは、成形品のうち、リブ部分やボス部分などの突起物などを除いた平板部分の肉厚を指す。
【0111】
本発明における難燃性成形品の用途としては、高い難燃性、高い薄肉成形性、高い導電性、および力学的特性が求められる電子・電気機器、OA機器、家電機器、自動車用部材、例えばハウジングやその部品などが好ましい例として挙げられ、特に軽量化と電磁波シールド性の要求が高い携帯用の電子・電気機器のハウジングなどがとりわけ好ましい例として挙げられる。より具体的には、大型ディスプレイ、ノート型パソコン、携帯用電話機、PHS、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯用ラジオカセット再生機、インバーターなどのハウジングなどである。
【0112】
また、高い導電性を有しているため、炭素繊維の少量添加で帯電/放電防止性を付与することができ、それらの特性が必要とされる部材、例えばICトレー、シリコンウェーハー運搬用バスケットなどへの適応にも有用である。
【0113】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の主旨を逸脱しない範囲で変更実施することは、全て本発明の技術範囲に包含される。
【0114】
得られた難燃性成形品の評価項目、およびその方法は下記の通り。
【0115】
(a)難燃性(表1中ではUL94と表記)
0.8mm(1/32インチ)厚試験片についてUL94試験(Underwriters Laboratories Incで考案された米国燃焼試験法)を行い、その難燃性を評価した。
【0116】
(b)薄肉成形性(表1中ではIPと表記)
ファンゲートにて、幅150mm×長さ150mm×厚さ1mmの薄肉平板を射出成形する際の射出圧力で薄肉成形性を評価した(単位はMPa)。射出圧力が低いほど、薄肉成形性が高いといえる。なお射出成形は、射出成形機J150EII−P(日本製鋼所製、型締力150t)を用いて、シリンダ温度290℃、金型温度70℃にて行った。
【0117】
(c)体積固有抵抗値(表1中ではVRと表記)
ファンゲートにて射出成形した幅70mm×長さ70mm×厚さ2mmの平板中から、幅12.7mm×長さ60mm×厚さ2mmの試験片を、成形流動方向を長手方向として切り出し、絶乾状態(水分率0.1%以下)で測定に供した。まず幅×厚さ面に導電性ペースト(藤倉化成(株)製ドータイト)を塗布し、その面を電極に圧着し、電極間の電気抵抗値をデジタルマルチメーター(FLUKE社製)にて測定する。前記電気抵抗値から測定機器、治具などの接触抵抗を減じた値に、導電性ペースト塗布面の面積を乗じ、次いでその値を試験片長さで除したものを体積固有抵抗値とした(単位はΩ・cm)。
【0118】
(d)衝撃強度(表1中ではIZODと表記)
ASTM D 256に準拠したモールドノッチ有りIZOD衝撃強度で評価した(単位はJ/m)。用いた試験片の板厚は3mm厚で、絶乾状態で試験に供した。なお射出成形は、射出成形機IS100(東芝機械製、型締力100t)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃にて行った。
【0119】
実施例1〜5、および比較例1〜4、6
まず、所望量の成分(A)、(C)、(D)、(F)、(G)を2軸押出機にてコンパウンドし、難燃マスターペレット1を製造する。
【0120】
次いで難燃マスターペレット1と成分(A)とを所望比率にてドライブレンドしたものを1軸押出機にて、その先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に十分溶融混練された状態で押し出し、同時に成分(E)束も連続して前記クロスヘッドダイ中に供給することによって溶融した成分(A)などを成分(E)束中に十分含浸させる。前記クロスヘッドダイとは、そのダイ中で繊維束を開繊させながら溶融樹脂などを含浸させる装置のことをいう。前述のようにして得られた連続した成分(E)束を含有した樹脂ストランドを、カッターで7mmの長さに切断して長繊維ペレットを得る。
【0121】
また、所望量の成分(A)と成分(B)とを1軸押出機にてコンパウンドし、難燃マスターペレット2を製造する。
【0122】
得られた長繊維ペレットと難燃マスターペレット2とを所望比率にてドライブレンドし、80℃にて5時間以上真空中で乾燥させた後、各試験の射出成形に供した。
【0123】
成形品への各成分の配合率、および評価結果を表1に示す。
【0124】
実施例1〜5のいずれの材料も、0.8mm(1/32インチ)厚の難燃性はV−0であった。体積固有抵抗値が1Ω・cmよりも低く、高い電磁波シールド効果が期待される。また、特に成分(G)を加えた場合、薄肉成形性に優れた。
【0125】
一方、比較例1〜4のいずれの材料も、難燃性はV−1、もしくはV−2であり、且つ体積固有抵抗も実施例1〜5に較べて劣っていた。特に比較例2〜4に関しては、燃焼時間はV−0レベルであったが、綿発火を伴うドリップが発生したためV−2判定となった。つまり、ドリップ発生さえ防止することができれば、V−0の難燃性を達成が可能である。また、比較例6は、難燃性はV−0であるものの、薄肉平板が成形不能であり、薄肉成形性に大幅に劣った。
【0126】
実施例6、比較例5、7
前記難燃マスターペレット1と成分(A)とを所望比率にてドライブレンドしたものと、チョップド糸にされた成分(E)とを2軸押出機にて押し出し、溶融した成分(A)などを成分(E)束中に含浸させる。前述のようにして得られた不連続の成分(E)のみを含有する樹脂ストランドをカッターで5mmの長さに切断してペレットを得る。
【0127】
得られたペレットと前記難燃マスターペレット2とを所望比率にてドライブレンドし、80℃にて5時間以上真空中で乾燥させた後、各試験の射出成形に供した。
【0128】
成形品への各成分の配合率、および評価結果を表1に示す。実施例6では、0.8mm(1/32インチ)厚の難燃性はV−0であった。体積固有抵抗値が2Ω・cmよりも低く、高い電磁波シールド効果が期待される。また、薄肉成形性も優れていた。
【0129】
一方、比較例5、7は、難燃性はV−2であり、且つ、体積固有抵抗も実施例6に較べて劣っていた。比較例5、7は、比較例2〜4と同様に燃焼時間はV−0レベルであったが、綿発火を伴うドリップが発生したため、V−2判定となった。
【表1】
表1における各成分は下記材料を用いた。
成分(A)
N6 :ナイロン6樹脂 [ηr=2.4]
N66:ナイロン66樹脂[ηr=2.8]
成分(B)
RP :赤リン[燐化学工業(株)製ノーバエクセル140:平均粒径=約30μm、フェノール系熱硬化性樹脂被覆、導電率=約180〜200μS/cm]
成分(C)
MG :水酸化マグネシウム[協和化学工業(株)製キスマ5E−U:合成型、平均結晶粒径=約1.0μm、アミド系高極性樹脂被覆、粒状品]
成分(D)
CB :カーボンブラック[I2 /I1 =0.68、I2 /I3 =0.60]成分(E)
CF1:炭素繊維[東レ(株)製トレカT700SC−12K−50C、PAN系、平均単繊維直径=7μm、引張破断伸度=2.1%]
CF2:炭素繊維[東レ(株)製トレカT300B−12K−50B、PAN系、平均単繊維直径=7μm、引張破断伸度=1.5%]
成分(F)
TP :テルペン・フェノール樹脂[ヤスハラケミカル(株)製YP90L]成分(G)
LCP:液晶ポリエステル樹脂[芳香族オキシカルボニル単位42.5モル%、芳香族ジオキシ単位7.5モル%、エチレンジオキシ単位50モル%、芳香族ジカルボン酸単位57.5モル%からなる融点208℃、溶融粘度15Pa・s]
【発明の効果】
本発明によれば、高い難燃性(特にドリップ防止性)、高い薄肉成形性、および高い導電性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物、およびその成形品を提供することができる。このような難燃性樹脂組成物、およびその成形品は、特に電子機器類のハウジングなどを始め、前記特性を必要とする幅広い産業分野に好適であり、その工業的な効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の難燃性樹脂組成物を構成するカーボンブラックの一例のラマンスペクトルである。
【符号の説明】
I1 :ラマンシフト1360cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極大値。
I2 :ラマンシフト1480cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極小値。
I3 :ラマンシフト1580cm-1付近に現れるラマン散乱強度の極大値。
Claims (13)
- 少なくとも(A)硫酸相対粘度ηrが2.7以下であるポリアミド樹脂、(B)赤リン系難燃剤、(C)金属水酸化物系難燃剤、(D)カーボンブラック、(E)炭素繊維、および(F)フェノール系重合体からなり、UL94規格において0.8mm(1/32インチ)厚での難燃性がV−0であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
- 全組成物を100重量%とした場合、成分(B)が2〜12重量%、成分(C)が1〜10重量%、成分(D)が0.7〜10重量%、および成分(E)が5〜35重量%である請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
- 請求項2の各成分の各重量%について、((B)+(C)+(D))/((A)+(B)+(C)+(D))が0.08以上0.35以下である請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
- 成分(A)がナイロン6である請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 成分(B)がフェノール系熱硬化性樹脂で被覆された赤リンである請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 成分(C)が水酸化マグネシウムである請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 成分(G)として液晶性樹脂をさらに含有する請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 成分(H)として金属酸化物を、ポリアミド樹脂100重量部に対して0 . 01〜10重量部含有する請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物よりなる長繊維ペレット。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を射出成形してなる難燃性成形品。
- 体積固有抵抗値が100Ω・cm以下である請求項10に記載の難燃性成形品。
- 肉厚が4mm以下の形状である請求項10または11に記載の難燃性成形品。
- 電気・電子機器、OA機器、家電機器、自動車分野用途のハウジングまたはそれらの部品である請求項10〜12のいずれかに記載の難燃性成形品。
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