JP4529206B2 - 繊維強化樹脂組成物および成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、流動性、耐衝撃性、表面外観、低バリ性、そり変形性、電磁シールド性および薄肉難燃性に優れた繊維強化樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多くのポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂は、その優れた諸特性を生かし、射出成形材料として機械機構部品、電気電子部品、自動車部品などの幅広い分野に利用されつつある。一方、成形品への要求が技術の進歩と共に高くなり、より複雑形状のものが要求され、そのため流動性向上が望まれるようになってきた。
【0003】
そこで分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性ポリマーが優れた流動性と機械的性質を有する点で注目され、熱可塑性樹脂の流動性および機械特性を向上させるために数々のアロイ化技術が検討されている。末端基濃度を規定したポリカーボネートとのアロイの例として特開平6−200129号公報がある。また、熱可塑性樹脂とのアロイが数々検討されており、例えばPOLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1991,Vol.31,No.6やJournal of applied Polymer Science,Vol.62,(1996)などがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
強化系で特開平6−200129号公報のようにポリカーボネートの末端基を制御したものを用いても確かに流動性は若干向上するものの、衝撃強度が改良されず、単純にブレンドしただけでは、そり変形性、電磁波シールド性が改良されない。また、上記文献記載の液晶ポリエステルを用いて単純にブレンド検討を行った場合、上記公報と同様の結果が得られ、耐衝撃性、そり性等が改良されない。また、相溶性を上げすぎた場合、熱可塑性樹脂と反応が起こるためと推察されるが、衝撃性の低下は抑制されるものの、熱可塑性樹脂と混ざりすぎ流動性向上効果が発現しない、あるいは成形時の残留応力による変形等がかえっておこることがわかった。
【0005】
単純にブレンドしたアロイ材では繊維長分布が広すぎるため、得られる成形品の表面外観等を始めとする成形品特性のばらつきや良品を得るために狭い成形条件で成形しなければならず、また、流動性が悪いためにオーバーパック気味で成形を行うために成形時のそりやバリなどの発生しやすくなる。そのため、得られた成形品のバリ取りなど2次加工が必要となり、筐体(ハウジング)などの薄肉で大型の成形品用途では使用が限定されてしまう。
【0006】
よって本発明は、上述の問題を解消し、従来の熱可塑性樹脂の加工温度で加工可能であり、かつ熱可塑性樹脂本来の特性を損なうことなく、高流動かつ新規に耐衝撃性、表面外観、低バリ性、電磁シールド性および薄肉難燃性に優れた繊維強化樹脂組成物およびその成形品の取得を課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は
(1)スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)99.5〜70重量%と液晶性樹脂(B)0.5〜30重量%とからなる樹脂組成物100重量部および炭素繊維5〜300重量部からなる繊維強化樹脂組成物であって該組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.15mm以上である繊維強化樹脂組成物、
(2)該繊維強化樹脂組成物において繊維長0.10mm以下のものが15重量%未満である上記(1)記載の繊維強化樹脂組成物、
(3)液晶性樹脂(B)がエチレンジオキシ単位を含有する上記(1)または(2)記載の繊維強化樹脂組成物、
(4)液晶性樹脂(B)が下記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなる液晶ポリエステルである上記(1)〜(3)のいずれか記載の繊維強化樹脂組成物、
【0008】
【化5】
【0009】
(ただし式中のR1は
【0010】
【化6】
【0011】
から選ばれた1種以上の基を示し、R2は
【0012】
【化7】
【0013】
から選ばれた1種以上の基を示す。ただし式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)
(5)構造単位(I) および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III) の合計に対して30〜95モル%、構造単位(III)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70〜5モル%であり、構造単位(I)と(II)のモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5であり、構造単位(IV)と構造単位(II)および(III)の合計とが末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとして等モルである上記(4)記載の繊維強化樹脂組成物、
(6)2軸押出機を用い、樹脂原料フィーダーから熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)とを共に供給し、炭素繊維を押出機の先端部部分のサイドフィーダーから供給して炭素繊維の受けるせん断履歴を制御する請求項1〜5いずれか記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法、
(7)(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して導電率が0.1〜1000μS/cmである赤リン(ただし、導電率は赤リン5gに純水100mLを加え、121℃で100時間抽出処理し、赤リンをろ過した後ろ液を250mLに希釈した抽出水の導電率とする。)および/または下記一般式(1)で表される燐酸エステル0.1〜30重量部を配合せしめてなる上記(1)〜(5)いずれか記載の繊維強化樹脂組成物、
【0014】
【化8】
【0015】
(上記式中、R3〜R10は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。またAr1、Ar2、Ar3、Ar4は同一または相異なる芳香族基を表す。また、Yは直接結合、O、S、SO2、C(CH3)2、CH2、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。またnは0以上の整数である。またk、mはそれぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは0以上2以下の整数である。)。
(8)スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)の一部もしくは全部、または液晶性樹脂(B)の一部もしくは全部または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部と赤燐および/またはリン酸エステルを一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル配合量よりも濃度の高い樹脂組成物を作製した後、上記(7)記載の繊維強化樹脂組成物を製造することを特徴とする繊維強化樹脂組成物の製造方法、
(9)該繊維強化樹脂組成物が板状あるいは箱型などの筐体に用いられることを特徴とする上記(1)〜(5)および(7)のいずれか記載の繊維強化樹脂組成物、
(10)上記(1)〜(5)および(7)のいずれか記載の繊維強化樹脂組成物を成形してなる成形品であって、該成形品が板状あるいは箱形でかつ厚み1.2mm以下の薄肉部を成形品全面積に対して10%以上有することを特徴とする成形品を提供するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる(A)の熱可塑性樹脂としてはスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上のものである。
【0017】
スチレン系樹脂はスチレン及び/またはその誘導体から生成した単位を含有するものである。
【0018】
スチレン、その誘導体(これらを総称して芳香族ビニル系単量体と称する場合がある)から生成した単位の具体例としては、下記構造単位のものが挙げられる。
【0019】
【化9】
【0020】
R12〜R16は、水素、塩素等のハロゲン、炭素数1〜10の脂肪族基、芳香族基、脂環式、スルホニル基、ニトロ基などの基を示し、これらはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
R12〜R16の具体例としては、水素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、アリル、ブチル、フェニル、ベンジル、メチルベンジル、クロルメチル、シアノメチル、シアノメトキシ、エトキシ、フェノキシ、ニトロなどの基が挙げられ、これらはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
スチレン、その誘導体の好ましい例として、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。また、これらを併用することもできる。
【0023】
スチレン系樹脂としては、スチレン系(共)重合体、ゴム強化スチレン(共)重合体が挙げられる。スチレン系(共)重合体としては芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上を重合した重合体、芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上とそれと共重合可能な単量体の1種または2種以上を共重合した共重合体が挙げられる。ゴム強化スチレン(共)重合体としては、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上をグラフト重合したゴム強化グラフト重合体、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上とそれと共重合可能な単量体の1種または2種以上をグラフト共重合したグラフト共重合体が挙げられる。
【0024】
上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニルなどが挙げられる。
【0025】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられるが、メタクリル酸メチルが好ましく用いられる。また、シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0026】
上記ゴム状重合体としては、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴムおよびエチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)などのポリオレフィン系ゴムが挙げられ、なかでもポリブタジエン、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)が好ましく用いられる。
【0027】
好ましいゴム強化スチレン系(共)重合体を更に詳しく説明すると、ゴム状重合体(a)に芳香族ビニル化合物(b)から選ばれる少なくとも一種、またはそれと共単量体であるメタクリル酸エステル(c)およびシアン化ビニル化合物(d)から選ばれる少なくとも1種とがグラフト重合したグラフト(共)重合体(重合体(i))に芳香族ビニル化合物(b)、メタクリル酸エステル(c)等から選ばれる少なくとも1種のビニル化合物とシアン化ビニル化合物(d)が重合した共重合体(重合体(ii))を配合した樹脂である。
【0028】
重合体(i)として、上記(a)に上記(b)ならびに上記(c)および/または(d)とグラフト重合する場合、ゴム状重合体(a)の共重合量は5〜80重量%が好適である。グラフト成分中、芳香族ビニル化合物(b)、メタクリル酸エステル(c)などから選ばれるビニル化合物の1種または2種以上の合計が50〜97重量%であり、シアン化ビニル化合物(d)が3〜50重量%が好ましい。
【0029】
重合体(i)の重合方法は特に限定されず、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合および塊状−懸濁重合などの公知の方法を用いることができる。
【0030】
一方、重合体(ii)中のシアン化ビニル化合物(d)の共重合量としては3〜50重量%が適当である。
【0031】
重合体(ii)の重合方法は特に限定されず、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合および塊状−懸濁重合などの公知の方法を用いることができる。
【0032】
ゴム状重合体を共重合させたスチレン系樹脂は重合体(i)を必須成分とし、重合体(ii)を任意の割合で配合して用いることができる。
【0033】
本発明において好ましいスチレン系樹脂としては、PS(ポリスチレン)等のスチレン系重合体、HIPS(高衝撃ポリスチレン)等のゴム強化スチレン系重合体、AS(アクリロニトリル/スチレン共重合体)等のスチレン系共重合体、AES(アクリロニトリル/エチレン・プロピレン・非共役ジエンゴム/スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)、MBS(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)などのゴム強化(共)重合体等が挙げられ、なかでも特にPS(ポリスチレン)等のスチレン系重合体、AS(アクリロニトリル/スチレン共重合体)等のスチレン系共重合体、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体が好ましい。
【0034】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記構造単位で表される熱可塑性樹脂であり、クロロホルム中、30℃で測定した固有粘度が0.01〜0.80dl/gの重合体が好ましく用いられる。
【0035】
【化10】
【0036】
R17〜R20は、水素、ハロゲン、炭素数1〜10の脂肪族基、芳香族基、脂環式、スルホニル基、ニトロ基などの基が挙げられ、これらはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0037】
R17〜R20の具体例としては、水素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、アリル、ブチル、フェニル、ベンジル、メチルベンジル、クロルメチル、シアノメチル、シアノメトキシ、エトキシ、フェノキシ、ニトロなどの基が挙げられ、これらはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0038】
具体的には、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノール/2,4,6−トリメチルフェノール共重合体、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリエチルフェノール共重合体などが挙げられる。
【0039】
また、(A)熱可塑性樹脂は2種以上を併用してもよく、具体的には、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンまたは耐衝撃ポリスチレンなどとの組合せの例を好ましく挙げることができる。また、その他特性例えば耐薬品性等を付与させるために熱可塑性樹脂(A)の一部(通常、(A)成分の70重量%以下、好ましくは60重量%以下、特に好ましくは50重量%以下)を結晶性または非晶性の熱可塑性樹脂に置き換えることが可能であり、このような結晶性の熱可塑性樹脂としては例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、非晶性の熱可塑性樹脂としてはポリカーボネートなどが挙げられる。具体的には、ABS樹脂とポリカーボネートの組合せ、ポリフェニレンエーテルとナイロン6の併用、ポリフェニレンエーテルとナイロン66の併用などが挙げられる。
【0040】
本発明の液晶性樹脂(B)とは、溶融時に異方性を形成し得るポリマーであり、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリカーボネート、液晶性ポリエステルエラストマーなどが挙げられ、なかでも液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドなどが好ましく用いられる。
【0041】
上記液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドとしては、異方性溶融相を形成し得るポリエステル、ポリエステルアミドであり、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相をを形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられるる。
【0042】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位、芳香族ジオキシ単位としては、例えば、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどから生成した構造単位、芳香族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸などから生成した構造単位、芳香族イミノオキシ単位としては、例えば、4−アミノフェノールなどから生成した構造単位が挙げられる。
【0043】
液晶性ポリエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0044】
異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルの好ましい例としては、下記(I)、(II)、(III) および(IV)の構造単位からなる液晶ポリエステル、または、(I)、(III) および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルなどが挙げられる。なかでも特に(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルが好ましい。
【0045】
【化11】
【0046】
(ただし式中のR1は
【0047】
【化12】
【0048】
から選ばれた1種以上の基を示し、R2は
【0049】
【化13】
【0050】
から選ばれた1種以上の基を示す。ただし式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。これらのうちR1が
【0051】
【化14】
【0052】
であり、R2が
【0053】
【化15】
【0054】
であるものが特に好ましい。
【0055】
本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは、上記したとおり構造単位(I)、(III)、(IV)からなる共重合体、または上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、本発明の特性を発揮させるためには次の共重合量であることが好ましい。
【0056】
すなわち、上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる共重合体の場合は、上記構造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して30〜95モル%が好ましく、40〜90モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して70〜5モル%が好ましく、60〜10モル%がより好ましい。また、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]は好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルであることが好ましい。
【0057】
ここで実質的に等モルとは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットが等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0058】
一方、上記構造単位(II) を含まない場合は流動性の点から上記構造単位(I)は構造単位(I)および(III)の合計に対して40〜90モル%であることが好ましく、60〜88モル%であることが特に好ましく、構造単位(IV)は構造単位(III)と実質的に等モルであることが好ましい。
【0059】
また液晶性ポリエステルアミドとしては、上記構造単位(I)〜(IV)以外にp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドが好ましい。
【0060】
上記好ましく用いることができる液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドは、上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸などを液晶性を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0061】
本発明で使用する液晶性樹脂(B)は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能である。その際、0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.5〜15.0dl/gが好ましく、1.0〜3.0dl/gが特に好ましい。
【0062】
また、本発明における液晶性樹脂(B)の溶融粘度は0.5〜200Pa・sが好ましく、特に1〜100Pa・sがより好ましい。また、流動性により優れた組成物を得ようとする場合には、溶融粘度を50Pa・s以下とすることが好ましい。
【0063】
なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0064】
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。
【0065】
液晶性樹脂(B)の融点は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂(A)への分散性の点から好ましくは330℃以下、より好ましくは320℃以下である。
【0066】
本発明において使用する上記液晶性樹脂の基本的な製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0067】
例えば、上記液晶ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−ヒドロキシ安息香酸などオキシカルボニル単位形成性単量体を除く成分のみから得られたポリエステルとp−アセトキシ安息香酸とを乾燥窒素気流下で加熱溶融し、アシドリシス反応によって共重合ポリエステルフラグメントを生成させ、次いで減圧し増粘させることによって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(5)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(6)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(2)または(3)の方法により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0068】
液晶性ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0069】
本発明で用いるスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)の配合比は(A)と(B)の合計に対し、(A)99.5〜30重量%、(B)0.5〜70重量%、好ましくは(A)97〜75重量%、(B)3〜25重量%、より好ましくは(A)95〜80重量%、(B)5〜20重量%である。
【0070】
液晶性樹脂(B)が少なすぎる場合、本発明の効果、特に流動性が発揮されず、液晶性樹脂が多すぎる場合、特に成形時に樹脂が会合するウエルド部の強度および耐衝撃性が低下し、好ましくない。
【0071】
本発明に用いる炭素繊維は、PAN系またはピッチ系の炭素繊維であり、一般に樹脂の強化用に用いられているものならば特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョプドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができるが、成形時などの繊維折損を抑えるため高強度・高伸度タイプのものを用いることが望ましい。強度が低いものは脆く、コンパウンド、成形時の繊維折損で繊維長が極めて短くなってしまい、結果として補強効果、導電性など、また難燃化処方を施した場合、液滴の落下(ドリップ)により難燃化効果などの特性を得にくくなる。
【0072】
また、本発明における繊維強化樹脂組成物中の炭素繊維は、重量平均繊維長が0.15mm以上であることが必須であり、好ましくは0.17mm以上、より好ましくは0.20mm以上である。平均繊維長が短かすぎると流動性は向上するものの電磁波シールド性、耐衝撃性などが低下し、また難燃処方を施した場合、ドリップしやすくなり難燃性が低下する可能性がある。また、上限については特に規定しないが、流動性、成形品の表面外観の点から、3mm以下であることが好ましい。また、電磁波シールド性および耐衝撃性、難燃性などの効果をより発揮するために繊維長0.10mm以下のものが15重量%未満であることが好ましく、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満である。上記重量平均繊維長および繊維長分布は、少なくとも成形に供する前の繊維強化樹脂組成物(例えばペレットの状態)での範囲であり、かかる繊維強化樹脂組成物を成形した成形品においてもかかる範囲であることが望ましい。
【0073】
特にこれらの特性を得ることのできるPAN系炭素繊維がより望ましい。
【0074】
本発明において上記炭素繊維の添加量は組成物の流動性、耐衝撃性、表面外観のバランスから、(A)成分および(B)成分からなる樹脂組成物((A)成分と(B)成分の合計)100重量部に対して5〜300重量部、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは25〜100重量部である。
【0075】
組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長の測定方法は、例えば、組成物約5gをるつぼ中で550℃×7時間処理し灰化した後、残存した充填剤のうちから100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させる。ついで、分散液をスポイトを用いて1〜2滴スライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影する。写真に撮影された充填剤の繊維長を測定する。測定は500本行い、繊維長分布を求める方法(炭素繊維の繊維長を求める際には灰化条件を誤ると繊維そのものが酸化、燃焼してしまう場合があるので注意が必要であり、窒素雰囲気下で灰化することが望ましい)、あるいは用いる熱可塑性樹脂が可溶な溶媒を用いて組成物を溶かし繊維を取り出したのち、上記方法と同様に石鹸水で分散させて繊維長を測定する方法などを用いることができる。
【0076】
特に本発明のように繊維長が短い部分についてより知りたい場合には、焼成法より溶解法を用いた方がより正確に繊維長分布を知ることができるので好ましい。
【0077】
また、繊維強化樹脂組成物の機械強度その他の特性を付与するために必要に応じて炭素繊維以外の充填剤を使用することが可能であり、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状など非繊維状の充填剤を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填剤、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填剤が挙げられる。
【0078】
また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0079】
上記の充填剤の添加量は熱可塑性樹脂(A)および液晶性樹脂(B)からなる樹脂組成物((A)成分と(B)成分の合計)100重量部に対し0.5〜300重量部であり、好ましくは10〜250重量部、より好ましくは20〜150重量部である。
【0080】
本発明において繊維強化樹脂組成物に薄肉難燃性などの特性を付与するために赤リンおよび/または下記一般式(1)で表される燐酸エステルを使用することができる。
【0081】
本発明で使用される赤リンは、そのままでは不安定であり、また、水に徐々に溶解したり、水と徐々に反応する性質を有するので、これを防止する処理を施したものが好ましく用いられる。このような赤リンの処理方法としては、特開平5−229806号公報に記載の如く赤リンの粉砕を行わず、赤リン表面に水や酸素との反応性が高い破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンに水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを微量添加して赤リンの酸化を触媒的に抑制する方法、赤リンをパラフィンやワックスで被覆し、水分との接触を抑制する方法、ε−カプロラクタムやトリオキサンと混合することにより安定化させる方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法、赤リンを銅、ニッケル、銀、鉄、アルミニウムおよびチタンなどの金属塩の水溶液で処理して、赤リン表面に金属リン化合物を析出させて安定化させる方法、赤リンを水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛などで被覆する方法、赤リン表面に鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、スズなどで無電解メッキ被覆することにより安定化させる方法およびこれらを組合せた方法が挙げられるが、好ましくは、赤リンの粉砕を行わずに赤リン表面に破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法、赤リンを水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛、などで被覆することにより安定化させる方法であり、特に好ましくは、赤リンの粉砕を行わず、表面に破砕面を形成させずに赤リンを微粒子化する方法、赤リンをフェノール系、メラミン系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂で被覆することにより安定化させる方法あるいはこれらの両者を組み合わせた方法である。これらの熱硬化性樹脂の中で、フェノール系熱硬化性樹脂、エポキシ系熱硬化性樹脂で被覆された赤リンが耐湿性の面から好ましく使用することができ、特に好ましくはフェノール系熱硬化性樹脂で被覆された赤リンである。
【0082】
なお、本発明において用いる赤燐として好ましい赤燐である未粉砕赤燐は、破砕面を形成させずに製造された赤燐を指す。
【0083】
また樹脂に配合される前の赤リンの平均粒径は、難燃性、機械特性、耐湿熱特性およびリサイクル使用時の粉砕による赤燐の化学的・物理的劣化を抑える点から35〜0.01μmのものが好ましく、さらに好ましくは、30〜0.1μmのものである。
【0084】
なお赤燐の平均粒径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することが可能である。粒度分布測定装置には、湿式法と乾式法があるが、いずれを用いてもかまわない。湿式法の場合は、赤リンの分散溶媒として、水を使用することができる。この時アルコールや中性洗剤により赤リン表面処理を行ってもよい。また分散剤として、ヘキサメタ燐酸ナトリウムやピロ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩を使用することも可能である。また分散装置として超音波バスを使用することも可能である。
【0085】
また本発明で使用される赤リンの平均粒径は上記のごとくであるが、赤リン中に含有される粒径の大きな赤リン、すなわち粒径が75μm以上の赤リンは、難燃性、機械的特性、耐湿熱性、リサイクル性を著しく低下させるため、粒径が75μm以上の赤リンは分級とうにより除去することが好ましい。粒径が75μm以上の赤リン含量は、難燃性、機械的特性、耐湿熱性、リサイクル性の面から、10重量%以下が好ましく、さらに好ましくは8重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。下限に特に制限はないが、0に近いほど好ましい。
【0086】
ここで赤リンに含有される粒径が75μm以上の赤リン含量は、75μmのメッシュにより分級することで測定することができる。すなわち赤リン100gを75μmのメッシュで分級した時の残さ量Z(g)より、粒径が75μm以上の赤リン含量は(Z/100)×100(%)より算出することができる。
【0087】
また、本発明で使用される赤リン(P)の熱水中で抽出処理した時の導電率(ここで導電率は赤リン5gに純水100mLを加え、例えばオートクレーブ中で、121℃で100時間抽出処理し、赤リンろ過後のろ液を250mLに希釈した抽出水の導電率を測定する)は、得られる成形品の耐湿性、機械的強度、耐トラッキング性、およびリサイクル性の点から0.1〜1000μS/cmが好ましく、より好ましくは0.1〜800μS/cm、さらに好ましくは0.1〜500μS/cmである。
【0088】
このような好ましい赤リンの市販品としては、燐化学工業社製“ノーバエクセル”140、“ノーバエクセル”F5が挙げられる。
【0089】
本発明に使用される燐酸エステルとは、下記式(1)で表されるものである。
【0090】
【化16】
【0091】
まず前記式(1)で表される難燃剤の構造について説明する。前記式(1)の式中nは0以上の整数であり、好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。上限は難燃性の点から40以下が好ましい。
【0092】
またk、mは、それぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは、0以上2以下の整数であるが、好ましくはk、mはそれぞれ0以上1以下の整数、特に好ましくはk、mはそれぞれ1である。
【0093】
また前記式(1)の式中、R3〜R10は同一または相異なる水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す。ここで炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−イソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、2ーイソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、3−イソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、ネオイソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基などが挙げられるが、水素、メチル基、エチル基が好ましく、とりわけ水素が好ましい。
【0094】
またAr1、Ar2、Ar3、Ar4は同一または相異なる芳香族基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換された芳香族基を表す。かかる芳香族基としては、ベンゼン骨格、ナフタレン骨格、インデン骨格、アントラセン骨格を有する芳香族基が挙げられなかでもベンゼン骨格、あるいはナフタレン骨格を有するものが好ましい。具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、インデニル基、アントリル基などの芳香族基が挙げられるが、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基が好ましく、特にフェニル基、トリル基、キシリル基が好ましい。
【0095】
またYは直接結合、O、S、SO2、C(CH3)2、CH2、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。
【0096】
このような燐酸エステルとしては、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−130、CR−733S、TPP、CR−741、CR747、TCP、TXP、CDPから選ばれる1種または2種以上が使用することができ、好ましくはPX−200、TPP、CR−733S、CR−741、CR747から選ばれる1種または2種以上、特に好ましくはPX−200、CR−733S、CR−741を使用することができるが、この中で特に好ましくはPX−200である。
【0097】
本発明において赤燐および燐酸エステルのいずれか1種、または2種以上の混合物であってもよい。
【0098】
上記赤燐および/または燐酸エステルの添加量は、熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)からなる樹脂組成物((A)成分と(B)成分の合計)100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは0.1〜25重量部、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは2〜20重量部である。なかでも4〜15重量部が、特に好ましい。
【0099】
赤燐の添加量が上記の範囲より少なすぎる場合、添加による難燃性付与効果が小さく、多すぎる場合、かえって燃焼促進剤として働く、または機械物性が低下する傾向にある。
【0100】
燐酸エステルの添加量が本発明の範囲より多すぎる場合、機械物性の低下およびガス発生による噛み込み不良あるいはガス焼け等が発生し、少なすぎる場合、添加による難燃性付与効果が小さい。
【0101】
また、赤燐を添加した場合、難燃性の他に成形時の熱安定性が向上するなどの効果も同時に発現し、燐酸エステルを添加した場合には、流動性がさらに向上する。
【0102】
本発明の繊維強化樹脂組成物はさらに赤燐の安定剤として金属酸化物を添加することにより、押出し、成形時の安定性や強度、耐熱性、成形品の端子腐食性などを向上させることができる。このような金属酸化物の具体例としては、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどが挙げられるが、なかでも酸化カドミウム、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化チタンなどのI族および/またはII族の金属以外の金属酸化物が好ましく、特に酸化第一銅、酸化第二銅、酸化チタンが好ましいが、I族および/またはII族の金属酸化物であってもよい。押出し、成形時の安定性や強度、耐熱性、成形品の端子腐食性の他に、非着色性をさらに向上させるためには酸化チタンが最も好ましい。
【0103】
金属酸化物の添加量は機械物性、成形性の面からスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)からなる樹脂組成物((A)成分と(B)成分の合計)100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜10重量部である。
【0104】
本発明の繊維強化樹脂組成物の電磁波シールド性をさらに向上させるために導電性フィラー及び/又は導電性ポリマーを使用することが可能であり、特に限定されるものではないが、導電性フィラーとして、通常樹脂の導電化に用いられる導電性フィラーであれば特に制限は無く、その具体例としては、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、金属酸化物、導電性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。
【0105】
金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0106】
金属繊維の金属種の具体例としては鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、黄銅などが例示できる。
【0107】
かかる金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0108】
金属酸化物の具体例としてはSnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)、ZnO(アルミニウムドープ)などが例示でき、これらはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0109】
導電性物質で被覆された無機フィラーにおける導電性物質の具体例としてはアルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛系ウィスカー、酸化チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0110】
カーボン粉末はその原料、製造法からアセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックなどに分類される。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、その原料、製造法は特に限定されないが、アセチレンブラック、ファーネスブラックが特に好適に用いられる。またカーボン粉末は、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分などの特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、これら特性に特に制限は無いが、強度、電気伝導度のバランスの点から、平均粒径が500nm以下、特に5〜100nm、更には10〜70nmが好ましい。また表面積(BET法)は10m2 /g以上、更には30m2 /g以上が好まし。またDBP給油量は50ml/100g以上、特に100ml/100g以上が好ましい。また灰分は0.5%以下、特に0.3%以下が好ましい。
【0111】
かかるカーボン粉末はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。また溶融混練作業性を向上させるために造粒されたものを用いることも可能である。
【0112】
得られる成形品は、しばしば表面の平滑性が求められる。かかる観点から、本発明で用いられる導電性フィラーは、高いアスペクト比を有する繊維状フィラーよりも、粉状、粒状、板状、鱗片状、或いは樹脂組成物中の長さ/直径比が200以下の繊維状のいずれかの形態であることが好ましい。
【0113】
本発明で用いられる導電性ポリマーの具体例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどが例示できる。
【0114】
上記導電性フィラー及び/又は導電性ポリマーは、2種以上を併用して用いても良い。かかる導電性フィラー、導電性ポリマーの中で、特にカーボンブラックが強度、コスト的に特に好適に用いられる。
【0115】
本発明で用いられる導電性フィラー及び/又は導電性ポリマーの含有量は、用いる導電性フィラー及び/又は導電性ポリマーの種類により異なるため、一概に規定はできないが、導電性と流動性、機械的強度などとのバランスの点から、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対し、1〜250重量部、好ましくは3〜100重量部の範囲が好ましく選択される。
【0116】
またさらに、本発明の繊維強化樹脂組成物には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤としては赤燐および/または燐酸エステルが好ましく用いられるが他の難燃剤(例えばブロム化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、水酸化マグネシウム、メラミンおよびシアヌール酸またはその塩など)、難燃助剤、摺動性改良剤(グラファイト、フッ素樹脂)、帯電防止剤などの通常の添加剤を添加して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0117】
また、更なる特性改良の必要性に応じて無水マレイン酸などによる酸変性オレフィン系重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体などのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー等のエラストマーから選ばれる1種または2種以上の混合物を添加して所定の特性をさらに付与することができる。
【0118】
本発明の繊維強化樹脂組成物はさらに燃焼時の液滴の落下(ドリップ)抑制剤としてフェノール系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂を用いてさらに難燃性を付与することができる。特にフッ素系樹脂がその効果を好ましく発揮する。そのようなフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、(ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体が好ましい。
【0119】
上記の落下(ドリップ)抑制剤の添加量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜25重量部が好ましく、中でもフッ素系樹脂を用いる場合には、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0120】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、本発明で規定する範囲のものが得られる限りにおいて、特に制限されないが、溶融混練において、好ましい無機充填材の重量平均繊維長を実現するためには、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合に樹脂原料フィーダーから熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)と共に供給し、炭素繊維および無機充填材を押出機の先端部分のサイドフィーダーから供給して炭素繊維および無機充填材の受けるせん断履歴を制御する方法などが挙げられる。
【0121】
また、赤燐および/または燐酸エステルを添加する場合には、例えば、熱可塑性樹脂(A)および液晶性樹脂(B)成分中、炭素繊維、およびその他必要に応じて用いられる赤燐および/またはリン酸エステルなどのその他の添加剤および充填材を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。また、炭素繊維の配合は、いわゆるマスターチップ法によりマスターチップを予め作製して製造することが好ましい。なお、炭素繊維マスターチップ法の場合、予め本発明の繊維長分布範囲の中でも長めの繊維長分布範囲としておき、必要に応じて用いられる赤燐および/または燐酸エステルなどのその他の添加剤および充填材をさらに混練あるいはドライブレンドして成形品とした場合に本発明の重量平均繊維長(好ましくは繊維長分布をも)を実現できるような繊維長をコントロールする必要がある。さらに、赤燐および/または燐酸エステルを配合する場合には、これらもマスターチップ法によりマスターチップを予め作製して配合に供することが好ましい。これらマスターチップ法を採用することはハンドリング性や生産性の面から好ましい。かかる方法の具体例を下記に例示する。
【0122】
熱可塑性樹脂(A)、液晶性樹脂(B)の一部(例えば(A)の一部もしくは全部、(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部)を一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル添加量よりも濃度の高い樹脂組成物(D)を製造し、残りの熱可塑性樹脂(A)もしくは液晶性樹脂(B)成分中に赤燐および/またはリン酸エステル濃度の高い樹脂組成物(D)、炭素繊維およびその他の任意に用いることができる添加剤および充填材を溶融混練することにより調製される。
【0123】
あるいは、熱可塑性樹脂(A)、液晶性樹脂(B)の一部(例えば(A)の一部もしくは全部、(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部)を一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき炭素繊維の添加量よりも高い炭素繊維高濃度品(C)を製造し、赤燐および/またはリン酸エステルおよびその他の任意に用いることができる添加剤および充填材を溶融混練することにより調製される。
【0124】
あるいは、熱可塑性樹脂(A)、液晶性樹脂(B)の一部(例えば(A)の一部もしくは全部、(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部)を一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に実際に配合されるべき炭素繊維の添加量よりも高い繊維強化繊維強化樹脂組成物(C)を製造し、それとは別に熱可塑性樹脂(A)、液晶性樹脂(B)の一部(例えば(A)の一部もしくは全部、、(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部)を一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル添加量よりも濃度の高い樹脂組成物(D)を製造し、残りの熱可塑性樹脂(A)もしくは液晶性樹脂(B)成分中に炭素繊維の添加量の高い繊維強化樹脂組成物および赤燐および/またはリン酸エステル濃度の高い樹脂組成物(D)およびその他の任意に用いることができる添加剤および充填材を溶融混練することにより調製される。
【0125】
あるいは、熱可塑性樹脂(A)の一部もしくは全部、液晶性樹脂(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部と炭素繊維およびその他の任意に用いることができる添加剤を一旦溶融混練して、実際に配合されるべき炭素繊維の添加量よりも高い炭素繊維高濃度品(C)を製造し、赤燐および/または燐酸エステル、残りの熱可塑性樹脂(A)もしくは液晶性樹脂(B)成分中および実際に配合されるべき炭素繊維の添加量よりも高い炭素繊維高濃度品(C)の段階で添加した任意に用いることができる添加剤以外の添加剤および充填材を溶融混練することにより調製される。
【0126】
あるいは、熱可塑性樹脂(A)の一部もしくは全部、液晶性樹脂(B)成分の一部もしくは全部、または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部と赤燐および/または燐酸エステルおよびその他の任意に用いることができる添加剤を一旦溶融混練して、実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル添加量よりも濃度の高い樹脂組成物(D)を製造し、炭素繊維、残りの熱可塑性樹脂(A)もしくは液晶性樹脂(B)成分中および赤燐および/またはリン酸エステル添加量よりも濃度の高い樹脂組成物(D)の段階で添加した任意に用いることができる添加剤以外の添加剤および充填材を溶融混練することにより調製される。
【0127】
上記のように実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき炭素繊維添加量よりも濃度の高い炭素繊維高濃度品(C)を製造する段階で、その他の任意に用いることができる添加剤を配合する場合、これらの任意に用いることができる添加剤はあらかじめ熱可塑性樹脂あるいは液晶性樹脂と混合しておくことが好ましい。また、実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル添加量よりも濃度の高い樹脂組成物(D)を製造する段階で、その他の任意に用いることができる添加剤を配合する場合、これらの任意に用いることができる添加剤はあらかじめ赤燐および/またはリン酸エステルと混合しておくことが好ましい。
【0128】
特に任意に用いることができる添加剤の中でも、赤燐の安定剤として使用される金属酸化物、特に酸化チタンを添加する場合、酸化チタンは赤燐の高濃度品を製造する段階で配合することが好ましく、さらにあらかじめ赤燐と酸化チタンをヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合しておくと、赤燐の安定性、赤燐の分散性や得られる樹脂組成物の非着色性を向上することができる。
【0129】
かかる炭素繊維高濃度品(C)の配合量は、炭素繊維高濃度品の製造面、分散性の面、および最終的に得られる繊維強化樹脂組成物の流動性、機械特性、成形性の面から、熱可塑性樹脂(A)および/または液晶性樹脂(B)からなる樹脂(組成物)100重量部に対して、5〜300重量部が好ましく、特に好ましくは25〜200重量部である。
【0130】
炭素繊維高濃度品(C)および赤燐高濃度品(D)としては、(1)熱可塑性樹脂(A)のみからなる高濃度品、(2)液晶性樹脂(B)のみからなる高濃度品、(3)熱可塑性樹脂(A)および液晶性樹脂(B)からなる高濃度品のいずれも、本効果を発現する。赤燐高濃度品(D)の場合、好ましくは液晶性樹脂(B)のみからなる赤燐高濃度品を用いたものが熱可塑性樹脂組成物中での赤燐の分散性が高く、薄肉難燃性、耐熱性が向上する。
【0131】
このような炭素繊維高濃度品(C)あるいは赤燐および/またはリン酸エステル高濃度品(D)の熱可塑性樹脂(A)および液晶性樹脂(B)の配合量は、炭素繊維高濃度品あるいは赤燐および/またはリン酸エステル高濃度品の製造時の製造性の面、分散性の面、および最終的に得られる繊維強化樹脂組成物の難燃性、機械物性、成形性、耐熱性の面から、熱可塑性樹脂(A)および液晶性樹脂(B)の合計100重量部に対して、0.5〜250重量部が好ましく、さらに好ましくは1〜220重量部、より好ましくは2〜200重量部である。
【0132】
繊維強化樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0133】
かくして得られる繊維強化樹脂組成物は、流動性、薄肉難燃性および耐衝撃性に優れた組成物であるが、特に薄肉難燃性においては、多くの場合、1/32インチ(0.8mm)厚でもUL−94規格V−0を達成することが可能である。
【0134】
また、成形品を成形するにあたっての成形方法は通常の成形方法(射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により、三次元成形品、シート、フィルム、容器パイプなどのあらゆる形状の成形品とすることができる。なかでも射出成形品用途に特に好適であり、各種機械機構部品、電気電子部品または自動車部品に好適である。特にその優れた流動性を生かし、薄肉部を有する成形品(例えば板状成形品あるいは箱形成形品)、特に1.2mm以下の薄肉部を有する成形品に好ましく適用できる。具体的には厚みが1.2mm以下の部分を成形品の全表面積に対して、10%以上有する成形品、より好ましくは1.2mm以下の部分を15%以上有する成形品に、さらに好ましくは1.0mm以下の部分を10%以上有する成形品に有効である。また、成形方法としては射出成形あるいはインジェクションプレス成形等が好ましい。
【0135】
かくして得られる成形品は、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、用紙用分離爪、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ部品、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、ICベーキングトレー、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、パワーシートギアハウジング、イグニッションコイル用部品、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途に有用である。特に各種ケース、スイッチ、ボビン、コネクター、ソケット類コネクターおよび携帯電話用ハウジング等の筐体およびパソコンハウジング等、各種機器の筐体(ハウジング)など薄肉部を有する成形品である場合に特に有用であり、なかでも成形品の表面積全体の10%以上の1.2mm以下の薄肉部を有する成形品である場合に極めて有効にその効果を発揮する。
【0136】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0137】
参考例1(LCP1)
p−ヒドロキシ安息香酸777重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト519重量部及び無水酢酸816重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重合を行った。芳香族オキシカルボニル単位62.5モル当量、芳香族ジオキシ単位7.5モル当量、エチレンジオキシ単位30モル当量、芳香族ジカルボン酸単位37.5モル当量からなる融点225℃、16Pa・s(235℃、オリフィス0.5mmφ×10mm、ずり速度1,000(1/秒))の液晶性樹脂が得られた。
【0138】
参考例2(LCP2)
p−ヒドロキシ安息香酸995重量部、4,4´−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト216重量部及び無水酢酸969重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重合を行った。芳香族オキシカルボニル単位80モル当量、芳香族ジオキシ単位7.5モル当量、エチレンジオキシ単位12.5モル当量、芳香族ジカルボン酸単位20モル当量からなる融点314℃、20Pa・s(324℃、オリフィス0.5mmφ×10mm、ずり速度1,000(1/秒))のペレットを得た。
【0139】
各評価については、次に述べる方法にしたがって測定した。
【0140】
(1)流動性
下記成形機を用いて、射出速度99%の条件で1.2mm厚×150mm×150mmの角板の最低充填圧力(MPa)を測定した。
【0141】
(2)耐衝撃性
下記成形機を用いて1/8インチ(3.2mm)厚Izod衝撃試験片を成形し、ASTM D256に従い、衝撃強度を測定した。
【0142】
(3)表面外観
下記成形機を用いて表1に示す温度で5点ピンゲートの箱形成形品(1.0mm厚、外法寸法70mm×70mm×高さ20mm)を成形し、樹脂の会合部(ウエルド部の盛り上がりを目視で観察した。評価は、○:表面が平らなもの、×:盛り上がりのあるものとした。
【0143】
(4)バリ発生性
1.0mm厚、外法寸法70mm×70mm×高さ30mm(各側面に1.5mmφの穴4個付)の箱形成形品を最低充填圧力+0.5MPaで成形し、側面のふさがった穴の個数を測定し、バリ発生性とした。
【0144】
(5)勘合性(変形性)
0.8mm厚、外法寸法30mm×30mm×高さ10mmの壁部1点ゲート箱形成形品および1.0mm厚、外法寸法29mm×29mm×高さ30mmの壁部1点ゲート箱形成形品をそれぞれ最低充填圧力+0.98MPaで成形し、勘合試験を行った。評価は、○:勘合、×:勘合せずとした。
【0145】
(6)電磁波シールド性
150mm×150mm×1mm厚の角板を射出成形し、得られた成形品を用いてアドバンテスト法に基づいて電界波についてシールド性の測定をおこなった。具体的には(株)アドバンテスト製シールド材評価器TR17301Aとスペクトルアナライザを用い、プローブアンテナを用いることにより、この平板に電磁波を透過させた際の減衰率を、10〜1000MHzの周波数帯域で測定し、測定チャートより周波数300MHzでの電界シールド性を読みとった。
【0146】
(7)難燃性評価
UL−94に従い、1/32インチ(0.8mm)厚試験片の難燃性評価を行った。
【0147】
(8)充填材繊維長
ペレット約5gをるつぼ中で550℃×7時間処理し灰化した後、残存した充填剤のうちから100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させる。ついで、分散液をスポイトを用いて1〜2滴スライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影する。写真に撮影された充填剤の繊維長を測定する。測定は500本行い、重量平均繊維長を求めた。
【0148】
実施例1〜6、比較例1〜6
TEX−30型2軸押出機(日本製鋼所製)を用いて表1に示した割合で熱可塑性樹脂(A)、液晶性樹脂(B)をドライブレンドし、樹脂フィーダーより供給し、PAN系炭素繊維(6mm長)を樹脂フィーダー(比較例5)あるいは重量式サイドフィーダー(実施例1〜6、比較例1〜4、6)を用いて添加し、表1のシリンダー温度で溶融混練し、ペレットとした。次いでこのペレットをJSW150EII−P(日本製鋼所製)に供し、シリンダー温度および金型温度を表1の温度に設定し、各評価項目ごとの方法で試験片を成形した。
【0149】
表1からも明らかなように本発明の組成物は比較例に比べ、流動性と耐衝撃性が良好で、得られた成形品は低バリかつ良表面外観で高い電磁波シールド性を有することから、薄肉部を有する成形品特にハウジング用途の成形品を取得する場合に非常に優れていることがわかる。
【0150】
【表1】
【0151】
実施例7〜9、比較例7、8、参考例3、4
LCP1の100重量部に対して赤燐(ノーバエクセル140)を100重量部ドライブレンドし、30mmφの2軸押出機を用いて液晶性ポリエステルの融点+15℃で溶融混練して赤燐高濃度品(D1)を得た。また、上記方法と同様にLCP2で赤燐高濃度品(D2)を得た。
【0152】
次いで熱可塑性樹脂(A)に表2に示した割合で液晶性樹脂(B)、赤燐高濃度品(D1、D2)または燐酸エステル(大八化学社製(レゾルシン型ビスホスフェート”PX−200”)とポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル社製“テフロン6J”)、炭素繊維(6mm長)を実施例1と同様の方法で溶融混練ペレットとした。次いでこのペレットをJSW150EII−P(日本製鋼所製)に供し、シリンダー温度、金型温度を表2の温度条件で各評価項目ごとの方法で試験片を成形した。
【0153】
表2から赤燐または燐酸エステルを添加することで本組成物に新たに薄肉難燃性に優れ、特性低下も参考例に比べほとんどないことがわかる。
【0154】
【表2】
【0155】
【発明の効果】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、優れた流動性、耐衝撃性、表面外観、低バリ性、電磁波シールド性および薄肉難燃性が得られることから、これらの特性が要求される電機・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車などその他各種用途に好適な材料である。
Claims (10)
- スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)99.5〜70重量%と液晶性樹脂(B)0.5〜30重量%とからなる樹脂組成物100重量部および炭素繊維5〜300重量部からなる繊維強化樹脂組成物であって該組成物中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.15mm以上である繊維強化樹脂組成物。
- 該繊維強化樹脂組成物において繊維長0.10mm以下のものが15重量%未満である請求項1記載の繊維強化樹脂組成物。
- 液晶性樹脂(B)がエチレンジオキシ単位を含有する請求項1または2記載の繊維強化樹脂組成物。
- 構造単位(I)および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して30〜95モル%、構造単位(III)が構造単位(I)、(II)および(III) の合計に対して70〜5モル%であり、構造単位(I)と(II)のモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5であり、構造単位(IV)と構造単位(II)および(III)の合計とが末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとして等モルである請求項4記載の繊維強化樹脂組成物。
- 2軸押出機を用い、樹脂原料フィーダーから熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)とを共に供給し、炭素繊維を押出機の先端部部分のサイドフィーダーから供給して炭素繊維の受けるせん断履歴を制御する請求項1〜5いずれか記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。
- (A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して導電率が0.1〜1000μS/cmである赤リン(ただし、導電率は赤リン5gに純水100mLを加え、121℃で100時間抽出処理し、赤リンをろ過した後ろ液を250mLに希釈した抽出水の導電率とする。)および/または下記一般式(1)で表される燐酸エステル0.1〜30重量部を配合せしめてなる請求項1〜5いずれか記載の繊維強化樹脂組成物。
- スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂(A)の一部もしくは全部、または液晶性樹脂(B)の一部もしくは全部または、最終的に含有せしめる(A)および(B)のうちの一部と赤燐および/またはリン酸エステルを一旦溶融混練して実際に繊維強化樹脂組成物に配合されるべき赤燐および/またはリン酸エステル配合量よりも濃度の高い樹脂組成物を作製した後、請求項7記載の繊維強化樹脂組成物を製造することを特徴とする繊維強化樹脂組成物の製造方法。
- 該繊維強化樹脂組成物が板状あるいは箱型などの筐体に用いられることを特徴とする請求項1〜5および7のいずれか記載の繊維強化樹脂組成物。
- 請求項1〜5および7のいずれか記載の繊維強化樹脂組成物を成形してなる成形品であって、該成形品が板状あるいは箱形でかつ厚み1.2mm以下の薄肉部を成形品全面積に対して10%以上有することを特徴とする成形品。
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