JP4160769B2 - 炭化珪素単結晶インゴット及びウエハ - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化珪素単結晶インゴット及びウエハに関し、特に、電力デバイスや高周波デバイスなどの基板ウエハとなる良質で大型の単結晶インゴット及びウエハに関する。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、放射線に強いなどの物理的、化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されている。また近年、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波高耐圧電子デバイス等の基板ウエハとして、SiC単結晶ウエハの需要が高まっている。しかしながら、大面積を有する高品質のSiC単結晶を、工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は、いまだ確立されていない。それゆえ、SiCは、上述のような多くの利点及び可能性を有する半導体材料にもかかわらず、その実用化が阻まれていた。
【0003】
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)でSiC単結晶を成長させ、半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では、得られた単結晶の面積が小さく、その寸法及び形状を高精度に制御することは困難である。また、SiCが有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。また、化学気相成長法(CVD法)を用いて珪素(Si)などの異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の炭化珪素単結晶を成長させることも行われている。この方法では、大面積の単結晶は得られるが、基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥(〜107cm-2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶を得ることは容易でない。これらの問題点を解決するために、SiC単結晶{0001}ウエハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vol.52 (1981) pp.146〜150)。この方法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また不活性ガスにより雰囲気圧力を100Paから15kPa程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。改良レーリー法の原理を図1を用いて説明する。種結晶となるSiC単結晶と原料となるSiC結晶粉末は坩堝(通常黒鉛)の中に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中(133Pa〜13.3kPa)、摂氏2000〜2400度に加熱される。この際、原料粉末に比べ種結晶がやや低温になるように温度勾配が設定される。原料は、昇華後、濃度勾配(温度勾配により形成される)により種結晶方向へ拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶に到着した原料ガスが種結晶上で再結晶化することにより実現される。この際、結晶の抵抗率は、不活性ガスからなる雰囲気中に不純物ガスを添加する、あるいは、原料のSiC結晶粉末中に不純物元素あるいはその化合物を混合することにより、制御可能である。SiC単結晶中の置換型不純物として代表的なものに、窒素(n型)、ホウ素、アルミニウム(p型)がある。改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)及び形状、キャリア型及び濃度を制御しながら、SiC単結晶を成長させることができる。
【0004】
現在、上記の改良レーリー法で作製したSiC単結晶から口径2インチ(50mm)から3インチ(75mm)の{0001}面SiC単結晶ウエハが切り出され、エピタキシャル薄膜成長、デバイス作製に供されている。しかしながら、これらのSiC単結晶ウエハには、成長方向に貫通する直径数μmのピンホール欠陥(マイクロパイプ欠陥)が50〜200cm-2程度含まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、従来の技術で作られたSiC単結晶にはマイクロパイプ欠陥が50〜200cm-2程度含まれていた。P. G. Neudeck et al., IEEE Electron Device Letters, vol.15 (1994) pp.63〜65に記載されているように、これらの欠陥は素子を作製した際に、漏れ電流等を引き起こし、その低減はSiC単結晶のデバイス応用における最重要課題とされている。
【0006】
このマイクロパイプ欠陥は、{0001}面に垂直な面を種結晶として用いて、<0001>方向と垂直方向にSiC単結晶を成長させることにより、完全に防止できることが、特開平5−262599号公報に開示されている。{0001}面に垂直な面は、デバイス製造にとっても有用な面である。H. Yano et al., Materials Science Forum, vol.338-342 (2000) pp.1105〜1108に示されているように、例えば{0001}面に垂直な面である(11−20)面を用いたMOS(金属−酸化膜−半導体)型電界効果トランジスタは、(0001)Si面上に作製したものと比べて、格段に高いチャネル移動度を示す。このように、{0001}面に垂直な面に成長したSiC単結晶はマイクロパイプ欠陥を含まず、さらに、[11−20]方向に成長したSiC単結晶インゴットを切断研磨して得られる(11−20)ウエハは高性能のSiCデバイスを作製するのに適している。しかしながら、この方向にSiC単結晶を成長した場合、J. Takahashi et al., Journal of Crystal Growth, vol.181 (1997) pp.229〜240に記載されているように、結晶中に多量の(0001)面積層欠陥が導入されてしまう。この結果、特開平5−262599号公報に開示されている方法を用いても、マイクロパイプ欠陥は抑制できるものの、今度はデバイスに悪影響を与える積層欠陥が多量に発生してしまっていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、欠陥の少ない良質の大口径4H型SiC単結晶インゴット及びウエハを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1) 4H型炭化珪素単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上60度以下傾いた面を単結晶成長面とする炭化珪素単結晶育成用種結晶を用いて、昇華再結晶法により前記種結晶上に4H型炭化珪素単結晶を成長させる製造方法により得られた4H型炭化珪素インゴットであって、該インゴットの積層欠陥密度が平均で4個/cm以下である4H型炭化珪素インゴット、
(2) 前記種結晶が、該単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上30度以下傾いた面を単結晶成長面とする(1)記載の4H型炭化珪素単結晶インゴット、
(3) 前記インゴットの口径が20mm以上である(1)又は(2)に記載の4H型炭化珪素単結晶インゴット、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の4H型炭化珪素単結晶インゴットを加工、研磨してなる(11−20)面炭化珪素単結晶ウエハであって、かつ、ウエハ径が20mm以上である4H型炭化珪素単結晶ウエハ、
(5) (4)に記載の4H型炭化珪素単結晶ウエハにエピタキシャル成長してなり、エピタキシャル薄膜中の積層欠陥密度が平均で4個/cm以下である4H型炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハ、
である。
【0009】
【発明の実施の形態】
【発明の実施の形態】
本発明は、4H型炭化珪素単結晶からなる炭化珪素単結晶育成用種結晶であって、該単結晶の、(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上60度以下傾いた面を単結晶育成面とするSiC単結晶育成用種結晶を用いる。このようなSiC単結晶育成用種結晶をSiC単結晶育成用種結晶として用いることにより、マイクロパイプ欠陥、積層欠陥の発生を防止することができる。なお、本発明において、該種結晶は六方晶SiC単結晶からなる単結晶であり、面指数はミラー指数表示法に基いて記載される。参考として、図2に六方晶SiC単結晶の面指数を説明する概略図を示す。
【0010】
{0001}面に垂直方向にSiC単結晶を成長させた場合に積層欠陥が発生するメカニズムについては、J. Takahashi and N. Ohtani, phys. stat. sol. (b), vol.202 (1997) pp.163〜175に記載されている。改良レーリー法によるSiC単結晶の成長においては、原料から昇華したSiC分子が種結晶表面(成長が進行して行った段階では、結晶成長表面)に吸着し、これが結晶に規則正しく取り込まれていくことによって結晶が成長する。積層欠陥は、この吸着されたSiC分子が結晶に取り込まれる際に、正規の配位ではなく、誤った配位で取り込まれることによって誘起される。誤った配位で取り込まれたSiC分子は、結晶中に局所的な歪をもたらし、この歪が原因となって積層欠陥が発生する。ここで問題とされている積層欠陥は、結晶成長中においてのみ発生する結晶成長誘起欠陥であり、結晶成長後に成長結晶に機械的応力、電気的ストレス等が加えられることにより発生する結晶欠陥とは区別される。
【0011】
すなわち本発明においては、上記のメカニズムを解析した結果見出されたものであり、種結晶として、(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に6度以上60度以下傾いた面を単結晶育成面とする4H型SiC単結晶を用いることにより、吸着分子が誤った配位で結晶中に取り込まれることを防止し、積層欠陥の発生を抑制したものである。なお、以下の説明において、(11−20)面からの単結晶育成面の傾き角度を「オフ角度」(図4中、αで示される)、該オフ角度が導入される方向を「オフ方向」と称する。
【0012】
図3を用いて、本発明の効果を説明する。オフ角度の導入されていない(11−20)面種結晶上に結晶を成長させた場合、結晶成長表面上でSiC分子は結合配位として複数の配位形態を取り得る(例えば、模式的に図3(a)の(1)および(2)で示される)。複数の配位形態の内、結晶内部と全く同一の結合配位がエネルギー的には最も安定な配位であるが、SiC単結晶の場合、配位間のエネルギー差が極めて小さいために、吸着されるSiC分子は正規の配位(最安定配位)とは異なった配位で結晶中に取り込まれてしまうことがしばしば起こる。このように誤った配位で取り込まれたSiC分子が起点となって積層欠陥がSiC単結晶中に発生する。
【0013】
一方、オフ角度を有する(11−20)面種結晶上に結晶を成長させる場合には、図3(b)に示すように、成長表面にはステップが形成されている。ステップ間隔(密度)はオフ角度の大きさに依存し、オフ角度が小さくなるほどステップ間隔は大きくなり、逆にオフ角度が大きくなるとステップ間隔は小さくなる。成長表面のステップ間隔が或る値以上小さくなると、原料より飛来するSiC分子は全てステップで取り込まれるようになる。ステップにSiC分子が吸着し、取り込まれる場合には、その配位は一義的に決定され、誤った配位で結晶中に取り込まれることはない。結果、積層欠陥発生が抑制される。なお、オフ角度が小さい場合には、ステップ密度が低下し、その結果SiC分子がステップとステップの間に存在するテラス(図3(a)のオフ角度の導入されていない(11−20)面に相当)上でも結晶に取り込まれるようになるため、本発明の効果が期待できない。
【0014】
従来、結晶成長表面にオフ角度を付けることは、他の材料系でも行われてきた。しかしながら今回、本発明者等は、数多くの実験および考察の結果として、数ある条件の中から特に、SiC単結晶の(11−20)面において、オフ方向を、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向とすることによって積層欠陥が効果的に抑制できることを見出した。なおここで、前記[0001]Si軸とは、<0001>軸には[0001]Siと[000−1]Cとの2方向があり(すなわち<0001>軸とはこれら2方向の総称)、その内の[0001]Si方向のことである。(11−20)面におけるオフ方向としては、[1−100]方向(<0001>方向の垂直方向)も結晶学的には考えられるが、この方向にオフ角度を付けた場合には、本発明の効果は得られない。これは、<0001>方向にオフ角度を付けた場合と[1−100]方向にオフ角度を付けた場合とで、形成されるステップの構造等がそれぞれ異なり、[1−100]方向にオフ角度を付けた場合には、ステップでのSiC分子の吸着配位に任意性が残ってしまうためであると考えられる。
【0015】
SiC単結晶の(11−20)面におけるオフ方向とオフ角度との関係を図4に示す。本発明の効果を得るには、オフ方向が、[0001]Si軸を中心に、[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある必要がある。すなわち、図4に示すβが、−45°≦β≦45°である必要がある。ここでオフ方向が[0001]Si軸から−45度未満または45度超の場合には、ステップの構造が[1−100]方向にオフ角度を付けた場合と類似した構造となり、ステップでのSiC分子の吸着配位に任意性が残ってしまうため、本発明の効果が期待できない。
【0016】
また、オフ角度(図4中、αで示される)は、6度以上60度以下(6°≦α≦60°)であり、好ましくは6度以上30度以下(6°≦α≦30°)である。オフ角度(α)が6度未満では、種結晶表面のステップ間隔が大きくなり過ぎ、テラス上でSiC分子が取り込まれるようになるため、積層欠陥が発生する。また、オフ角度が60度超になると、従来の<0001>方向へのSiC単結晶成長と類似の成長様式となり、マイクロパイプ欠陥が発生してしまい、好ましくない。
【0017】
以上説明した、本発明に用いるSiC単結晶育成用種結晶の好ましい実施形態を以下に具体的に例示する。
【0019】
本発明に用いる種結晶の第1実施形態は、4H型SiC単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上60度以下傾いた面を単結晶育成面とするSiC単結晶育成用種結晶である。
【0023】
本発明に用いる種結晶の第2実施形態は、4H型SiC単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上30度以下傾いた面を単結晶育成面とするSiC単結晶育成用種結晶である。
【0024】
これら第1〜第2実施形態に係るSiC単結晶育成用種結晶はいずれも、上述したように、吸着分子が誤った配位で結晶中に取り込まれることを防止し、積層欠陥の発生を抑制したものである。
【0025】
次に、本発明に用いるSiC単結晶育成用種結晶の製造方法について説明する。
【0026】
本発明に用いるSiC単結晶育成用種結晶は、まず、[000−1]C方向に成長した4H型のSiC単結晶(マイクロパイプ欠陥を含むが積層欠陥は存在しない)から、(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、オフ角度が6度以上60度以下になるようにウエハを切り出し、鏡面研磨することによって製造することができる。なお切り出しの際、オフ角度の前記任意の方向からのずれは±1度以内であることが好ましい。
【0027】
また本発明は、上記で説明したような特徴を有する本発明に用いるSiC単結晶育成用種結晶を用いた、SiC単結晶の製造方法を用いる。当該製造方法は、昇華再結晶法により、前記種結晶上にSiC単結晶を成長させる工程を包含することを特徴とするものであり、当該方法によって、マイクロパイプ欠陥、積層欠陥等の結晶欠陥が少ない良質のSiC単結晶を再現性良く得ることができる。したがって、当該製造方法によれば、20mm以上の口径を有するSiC単結晶インゴットを製造することができる。該SiC単結晶インゴットは、20mm以上という大口径を有しながら、デバイスに悪影響を及ぼすマイクロパイプ欠陥が皆無で、且つ積層欠陥が極めて少ないという利点を有する。
【0028】
以下、本発明における種結晶を用いたSiC単結晶インゴットの製造方法について具体的に説明する。
【0029】
まず本発明で用いられる製造装置について説明する。図5は、本発明で用いる製造装置であり、種結晶を用いた改良型レーリー法によってSiC単結晶を成長させる装置の一例である。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶として用いたSiC単結晶1の上に原料であるSiC粉末2を昇華再結晶化させることにより行われる。種結晶のSiC単結晶1は、黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けられる。原料のSiC粉末2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛の支持棒6により設置される。黒鉛製坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をArガスにより圧力制御することができる。Arガスによる圧力制御は、Arガス配管9およびArガス用マスフローコントローラ10によりなされる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部を覆うフェルトの中央部に直径2〜4mmの光路を設け坩堝上部及び下部からの光を取りだし、二色温度計を用いて行う。坩堝下部の温度を原料温度、坩堝上部の温度を種温度とする。
【0030】
このような結晶成長装置を用いて、本発明に係るSiC単結晶を製造する。まず、本発明に用いるSiC単結晶育成用種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付ける。黒鉛製坩堝3の内部には、原料2を充填する。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置する。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し原料温度を所定温度(通常摂氏2000度程度)に上げる。その後、雰囲気ガスとしてArガスを流入させ、石英管内圧力を所定圧力(通常約80kPa)に保ちながら、原料温度を目標温度(通常摂氏2400度程度)まで上昇させる。所定の成長圧力(通常1.3kPa程度)に時間をかけて減圧し、その後、口径が20mm以上になるように所定時間単結晶成長を続け、本発明に係るSiC単結晶を得ることができる。
【0031】
また一方で本発明は、前記SiC単結晶の製造方法によって製造されたSiCインゴットを加工、研磨してなる、口径20mm以上のSiC単結晶ウエハである。本発明のSiC単結晶ウエハは、まず、上記で得られたSiC単結晶インゴットを切り出し、従来汎用の手段によって研磨することによって製造される。このようにして製造されるウエハを用いることによって、光学的特性の優れた青色発光素子、電気的特性の優れた電子デバイスを製作することができる。
【0032】
また一方で本発明は、前記SiC単結晶ウエハにエピタキシャル成長してなるSiC単結晶エピタキシャルウエハである。該エピタキシャルウエハは、上記で得られたSiC単結晶ウエハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行うことによって製造される。SiCのエピタキシャル成長条件は、特には限定されず適宜好ましい条件を選択することが好ましいが、具体的には、成長温度摂氏1500度、シラン(SiH4)、プロパン(C3H8)、水素(H2)の流量が、それぞれ0.1〜10.0×10-9m3/sec、0.6〜6.0×10-9m3/sec、1.0〜10.0×10-5m3/secである条件が挙げられ、本発明において好ましく用いることができる。成長圧力は、他の成長条件に応じて適宜選択されることが好ましく、一般的には大気圧である。成長時間は所望の成長膜厚が得られる程度行えばよく特には限定されないが、例えば1〜20時間で、1〜20μmの膜厚が得られる。このようにして製造されるエピタキシャルウエハは、ウエハ全面に渡って非常に平坦で、マイクロパイプ欠陥、積層欠陥に起因する表面欠陥の非常に少ない良好な表面モフォロジーを有する。
【0033】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を述べる。
【0034】
(実施例)
上記発明の実施の形態において図5を参照しながら説明した結晶成長装置を用いて、SiC単結晶を製造した。まず、[000−1]C方向に成長した4H型のSiC単結晶(マイクロパイプ欠陥を含むが積層欠陥は存在しない)から、(11−20)面から[0001]Si方向([0001]Si方向からのずれは±1度以内)に10度オフしたウエハを切り出し、鏡面研磨した後、種結晶とした(口径は、一番小さいところで20mmであった)。この後、種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、原料2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとしてArガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は摂氏15度/cmで、成長速度は約0.8mm/時であった。得られた結晶の口径は22mmで、高さは16mm程度であった。
【0035】
こうして得られたSiC単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4H型のSiC単結晶が成長したことを確認できた。また、マイクロパイプ欠陥と積層欠陥を評価する目的で、成長した単結晶インゴットから(0001)面ウエハと(1−100)面ウエハを切り出し、研磨した(これら2つのウエハは、単結晶インゴットを成長方向に平行に切断することによって得られた)。その後、摂氏約530度の溶融KOHでウエハ表面をエッチングした。続いて、顕微鏡観察により、(0001)ウエハにおいてはマイクロパイプ欠陥に対応する大型の六角形エッチピットの数を、(1−100)面ウエハにおいては積層欠陥に対応する線状のエッチピットの数を調べたところ、マイクロパイプ欠陥は全く存在せず、また積層欠陥は平均で4個/cmであることがわかった。
【0036】
次に、同様にして製造した4H型のSiC単結晶インゴットから、今度は(11−20)面ウエハを切り出し(成長方向と垂直に切断。口径は22mm)、厚さ300μmまで研磨しSiC単結晶(11−20)面鏡面ウエハを作製した。さらに、このSiC単結晶鏡面ウエハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度摂氏1500度、シラン(SiH4)、プロパン(C3H8)、水素(H2)の流量が、それぞれ5.0×10−9m3/sec、3.3×10−9m3/sec、5.0×10−5m3/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は4時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0037】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、ウエハ全面に渡って非常に平坦で、マイクロパイプ欠陥、積層欠陥に起因する表面欠陥の非常に少ない良好な表面モフォロジーを有するSiCエピタキシャル薄膜が成長されているのが分かった。
【0038】
また、このエピタキシャルウエハを(1−100)面でへき開し、へき開面を溶融KOHでエッチングしエピタキシャル薄膜中の積層欠陥密度を調べたところ、基板ウエハと同様に平均で4個/cmであった。
【0039】
(比較例)
比較例として、オフ角度を有しない(11−20)面種結晶上へのSiC単結晶成長について述べる。種結晶として、[000−1]C方向に成長した4H型のSiC単結晶(マイクロパイプ欠陥を含むが積層欠陥は存在しない)から、(11−20)面ウエハ((11−20)面からのずれは±0.5度以内)を切り出し、鏡面研磨した後、種結晶とした(口径は、一番小さいところで20mmであった)。次に、種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付け、黒鉛製坩堝3の内部に、原料粉末2を充填した。原料を充填した黒鉛製坩堝3を、蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は摂氏15度/cmで、成長速度は約0.8mm/時であった。得られた結晶の口径は22mmで、高さは16mm程度であった。
【0040】
こうして得られたSiC単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4H型のSiC単結晶が成長したことを確認できた。また、マイクロパイプ欠陥と積層欠陥を評価する目的で、成長した単結晶インゴットから(0001)面ウエハと(1−100)面ウエハを切り出し、研磨した。その後、摂氏約530度の溶融KOHでウエハ表面をエッチングし、顕微鏡により、(0001)ウエハにおいてはマイクロパイプ欠陥に対応する大型の六角形エッチピットの数を、(1−100)面ウエハにおいては積層欠陥に対応する線状のエッチピットの数を調べたところ、マイクロパイプ欠陥は全く存在しなかったものの、積層欠陥密度は平均で170個/cmと多かった。
【0041】
次に、同様にして製造した4H型のSiC単結晶インゴットから、今度は(11−20)面ウエハを切り出し(口径22mm)、厚さ300μmまで研磨しSiC単結晶(11−20)面鏡面ウエハを作製した。さらに、このSiC単結晶鏡面ウエハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度摂氏1500度、シラン(SiH4)、プロパン(C3H8)、水素(H2)の流量が、それぞれ5.0×10−9m3/sec、3.3×10−9m3/sec、5.0×10−5m3/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は4時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0042】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、積層欠陥に起因すると思われる表面欠陥がウエハ表面に観測された。
【0043】
また、このエピタキシャルウエハを(1−100)面でへき開し、へき開面を溶融KOHでエッチングしエピタキシャル薄膜中の積層欠陥密度を調べたところ、基板ウエハと同様に平均で170個/cmであった。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のSiC単結晶育成用種結晶を用いた改良型レーリー法により、マイクロパイプ欠陥、積層欠陥等の結晶欠陥が少ない良質のSiC単結晶を再現性良く成長させることができる。このようなSiC単結晶から製造されたウエハを用いれば、光学的特性の優れた青色発光素子、電気的特性の優れた電子デバイスを製作することができる。また、このようなSiC単結晶から製造された4H型のSiC単結晶ウエハを用いれば、従来に比べ格段に低損失な電力デバイスが作製可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 改良レーリー法の原理を説明するための概略図である。
【図2】 六方晶SiC単結晶の面指数を説明する概略図である。
【図3】 本発明の効果を説明する図である。
【図4】 本発明の種結晶のオフ方向とオフ角度の関係を説明する図である。
【図5】 本発明の製造方法に用いられる単結晶成長装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 種結晶(SiC単結晶)
2 SiC結晶粉末
3 黒鉛製坩堝
4 黒鉛製坩堝蓋
5 二重石英管
6 支持棒
7 黒鉛製フェルト
8 ワークコイル
9 Arガス配管
10 Arガス用マスフローコントローラ
11 真空排気装置
Claims (5)
- 4H型炭化珪素単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上60度以下傾いた面を単結晶育成面とする炭化珪素単結晶育成用種結晶を用いて、昇華再結晶法により前記種結晶上に4H型炭化珪素単結晶を成長させる製造方法により得られた4H型炭化珪素インゴットであって、該インゴットの積層欠陥密度が平均で4個/cm以下である4H型炭化珪素インゴット。
- 前記種結晶が、該単結晶の(11−20)面から、[0001]Si軸を中心に[1−100]軸方向に−45度以上45度以下の範囲にある任意の一方向に、6度以上30度以下傾いた面を単結晶育成面とする請求項1記載の4H型炭化珪素単結晶インゴット。
- 前記インゴットの口径が20mm以上である請求項1又は2に記載の4H型炭化珪素単結晶インゴット。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の4H型炭化珪素単結晶インゴットを加工、研磨してなる(11−20)面炭化珪素単結晶ウエハであって、かつ、ウエハ径が20mm以上である4H型炭化珪素単結晶ウエハ。
- 請求項4に記載の4H型炭化珪素単結晶ウエハにエピタキシャル成長してなり、エピタキシャル薄膜中の積層欠陥密度が平均で4個/cm以下である4H型炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハ。
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