JP4673528B2 - 炭化珪素単結晶インゴットおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化珪素単結晶およびその製造方法に係わり、特に、青色発光ダイオードや電子デバイスなどの基板ウエハとなる良質で大型の単結晶インゴットおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は耐熱性および機械的強度も優れ、放射線に強いなどの物理的、化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されている。SiCは化学組成が同じでも多数の異なった結晶構造をとる結晶多形(以下、ポリタイプともいう)構造を持つ代表的物質である。ポリタイプとは、結晶構造においてSiとCとが結合した分子を一単位として考えた場合、この単位構造分子が結晶のc軸方向([0001]方向)に積層する際の周期構造が異なることにより生じる。代表的なポリタイプとしては6H、4H、15Rまたは3Cがある。ここで最初の数字は積層の繰り返し周期を示し、アルファベットは結晶系(Hは六方晶系、Rは菱面体晶系、Cは立方晶系)を表す。各ポリタイプはそれぞれ物理的、電気的特性が異なり、その違いを利用して各種用途への応用が考えられている。たとえば6Hは近年、青色から紫外にかけての短波長光デバイス用基板として用いられ、4Hは高周波高耐圧電子デバイス等の基板ウエハとしての応用が考えられている。
【0003】
しかしながら、大面積を有する高品質のSiC単結晶を、工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は、いまだ確立されていない。それゆえ、SiCは、上述のような多くの利点および可能性を有する半導体材料にもかかわらず、その実用化が阻まれていた。
【0004】
従来、研究室程度の規模で、半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶が、例えば昇華再結晶法、いわゆるレーリー法で、SiC単結晶を成長させることにより得られることが報告されている。しかしながら、この方法では、得られた単結晶の面積が小さく、その寸法および形状を高精度に制御することは困難であることに加え、SiCが有する結晶多形および不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。また、化学気相成長法(CVD法)を用いて例えば珪素からなる異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の炭化珪素単結晶を成長させることも行われている。この方法では、大面積の単結晶は得られるが、基板との格子不整合が約20%も存在する等、多くの欠陥(〜107cm-2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶を得ることは容易でない。
【0005】
これらの問題点を解決するために、SiC単結晶{0001}ウエハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(Yu.M. Tairov and V.F. Tsvetkov,Journal of Crystal Growth, vol. 52 (1981) pp. 146-150)。この方法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また不活性ガスにより雰囲気圧力を100Paから15kPa程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。改良レーリー法の原理を図1を用いて説明する。種結晶となるSiC単結晶と原料となるSiC結晶粉末は坩堝(通常黒鉛)の中に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中(133〜13.3kPa)、2000〜2400℃に加熱される。この際、原料粉末に比べ種結晶がやや低温になるように温度勾配が設定される。原料は昇華後、濃度勾配(温度勾配により形成される)により種結晶方向へ拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶に到着した原料ガスが種結晶上で再結晶化することにより実現される。この際、結晶の抵抗率は、不活性ガスからなる雰囲気中に不純物ガスを添加する、あるいはSiC原料粉末中に不純物元素あるいはその化合物を混合することによりSiC単結晶構造中のシリコンまたは炭素原子の位置を不純物元素にて置換させる(ドーピング)ことで制御可能である。SiC単結晶中の置換型不純物として代表的なものに、窒素(n型)、ホウ素、アルミニウム(p型)がある。キャリア型および濃度を制御しながら、SiC単結晶を成長させることができる。
【0006】
現在、上記の改良レーリー法で作製したSiC単結晶から、口径2インチ(50mm)から3インチ(75mm)のSiC単結晶ウエハが切り出され、エピタキシャル薄膜成長、デバイス作製に供されている。
【0007】
前記したようにSiCは各種ポリタイプ構造を呈するが、その中でも4Hは高周波、高耐圧電子デバイス向けの基板ウエハとしての特性(絶縁破壊電界強度、電子移動度)に優れているため有用である。改良レーリー法を用いて4Hを作製するためには、種結晶に4Hを使用する必要がある。しかしながら、改良レーリー法以前の製法(レーリー法等)では、得られる単結晶は殆どが6Hまたは15Rであり、4Hの収率は極めて小さいために、種結晶として使用できる大きさを持つ基板が得られない。このため、4H種結晶を得るためには、改良レーリー法による6H種結晶を用いた成長にて、何らかの手法で4Hへポリタイプ変換させる、という方法を採らざるを得なかった。従って、このような事情から、6Hから4Hへ確実にポリタイプ変換させる技術を確立することが重要課題となっていた。しかし、改良レーリー法によるSiC単結晶作製において、6Hから4Hに安定して、かつ結晶品質劣化を抑制してポリタイプ変換し得る成長条件はいまだ確立されていない。
【0008】
例えば、K. F. Knipppenberg, Philips Research Reports vol.18(1963)pp.161-274に報告されているように、結晶成長時の成長温度を低温(2000℃以下)にすることで4Hの発生確率を増加させることができる。しかしながら、低温では結晶成長速度が著しく減少するため、生産性の点で問題がある。
【0009】
また、Yu. A. Vodakov, G. A. Lomakina and E. N. Mokhov, Soviet Physics-Solid State vol.24(5) (1982) pp. 780-784 に報告されているように、遷移元素であるスカンジウムを原料に添加することでも4H型の発生確率を増加させることができる。しかしながらこの場合、結晶中に金属不純物が混入するため、例えば半導体デバイス作製時にデバイス特性に悪影響を及ぼす(例えば禁制帯内に深いトラップ準位を形成してデバイスの特性を劣化させる)ことが問題となる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の技術を用いて6Hより変換して作られた4H SiC単結晶は、成長速度が小さい、金属不純物の混入によるデバイス作製時の悪影響が避けられない、といった問題を有していた。
【0011】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、SiC単結晶のポリタイプ変換を、十分な成長速度を確保しつつ結晶品質劣化を抑制することによって得られる、一つの単結晶インゴットの結晶成長方向に複数のポリタイプを有するSiC単結晶インゴット、およびその製造方法を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1)種結晶を用いた昇華再結晶法で得られる炭化珪素単結晶インゴットであって、該インゴット中に異種元素含有層を少なくとも1層有し、該異種元素含有層に接して成長した部分のポリタイプが前記異種元素含有層のポリタイプと異なることを特徴とする炭化珪素単結晶インゴット、
(2)前記異種元素含有層に含有される異種元素が、窒素、硼素、アルミニウム、または、窒素および硼素である、(1)に記載の炭化珪素単結晶インゴット、
(3)前記異種元素含有層中の異種元素含有量が、1×1017〜1×1020atom/cm3である、(1)または(2)に記載の炭化珪素単結晶インゴット、
(4)50mm以上の口径を有する、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶インゴット、
(5)原料炭化珪素を加熱して昇華再結晶法により種結晶上に単結晶を成長させる工程を包含する(1)〜(4)のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法であって、単結晶成長の途中で結晶構成元素以外の異種元素を結晶成長の所定期間導入して、異種元素含有層を少なくとも1層形成して、その後に成長する単結晶のポリタイプを前記異種元素含有層のポリタイプから変換することを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの製造方法、
である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、SiC単結晶のポリタイプ変換を十分な成長速度を確保しつつ結晶品質劣化を抑制することによって得られた、異種元素含有層を少なくとも1層有するSiC単結晶インゴット、好ましくは一つの単結晶インゴット中に複数のポリタイプを有するSiC単結晶インゴット、該インゴットからなるエピタキシャルウェハ、および、該インゴットの製造方法である。本発明におけるポリタイプ変換手法は、結晶成長時に成長結晶表面において異種元素を添加した層と無添加層との界面を形成することにより、結晶構造に歪を導入することを特徴としている。このポリタイプ変換手法によれば、目的とするポリタイプ(種結晶のポリタイプと異種のポリタイプ)を有するSiC単結晶を作製することができる。さらに、目的とする厚さに成長させたのち、結晶構造に歪を再度導入することでポリタイプ変換できるため、高品質の種結晶一枚より複数種類のポリタイプを有する高品質単結晶ウエハを得られるので、本発明のSiC単結晶インゴット製造方法は生産歩留まり向上を実現できる、優れた結晶成長方法と言える。上記異種元素として好ましくは、窒素、硼素、アルミニウム、または、窒素および硼素である。
【0014】
以下、図2〜図4を用いて、本発明の効果を説明する。SiCは化学組成が同じでも多数の異なった結晶構造をとるポリタイプ構造を持つ代表的物質である。SiC単結晶は、SiとCとが一対一の組成比で互いに正四面体配置を取り結合した構造を有している。ポリタイプは、結晶構造においてSiとCとが結合した分子を一単位として考えた場合、この単位構造分子が結晶のc軸方向([0001]方向)に積層する際の周期構造が異なることにより生じる。
【0015】
図2に代表的ポリタイプである4Hと6Hの両ポリタイプの結晶単位構造の模式図を示す。図2の長方形図形におけるa軸方向の長さ、およびc軸方向の長さは、それぞれ結晶単位構造におけるSiまたはC原子同士の各軸方向での間隔を表している。両ポリタイプは積層構造の違いより、結晶構造の基本単位となる格子定数のc軸方向の値とa軸方向([11−20]方向)の値の比率が微妙に異なっている(6Hにてa=0.3081nm、c=1.5120nm、4Hにてa=0.3080nm、c=1.0084nm)。図2中に(c/n)/a(ここでnはSi−C結合分子を一単位とした際の単位格子中の積層数であり、格子定数をこの積層数にて除した値が単位SiC分子層におけるc軸方向の長さとなる)の値として示したように、4Hの方が6Hに対してよりc軸方向に延びた構造を有している。
【0016】
6Hポリタイプを有するSiC単結晶の{0001}面種結晶上に昇華再結晶法によりSiC単結晶を成長させる場合、成長中に異種元素としてアルミニウムを添加すると、成長表面に到達したアルミニウム原子は結晶構造中のシリコン原子の位置を置換して組み込まれる。ここでアルミニウム原子の原子半径がシリコン原子のそれよりも大きいため、結晶構造はc軸方向(結晶の成長する方向)およびa軸方向(結晶成長方向に対して垂直の方向)のいずれの方向にも膨張しようとする力がはたらく。この時、成長方向であるc軸方向には成長表面が自由表面であるため膨張に対して何も制約が存在しないが、a軸方向への膨張に対しては、すでに成長した下地のアンドープ層(アルミニウムを含まない構造)により制約を受け膨張が抑制される。言い替えれば、本来膨張すべき寸法から見ると収縮されたのと同様の力を受ける。この結果、図3に示すようにa軸方向の膨張が抑制された(収縮された)影響により、その分c軸方向への膨張分の増加率が大きくなり、結晶構造のc/a比が増加する。このためドーピング直後の結晶構造としては4Hに近い構造となり、構造変化により4Hへの変換が誘起される。SiC単結晶成長は螺旋転位に起因する渦巻成長機構にて行われ、成長最表面に形成されるファセットから結晶表面全体に向け渦巻ステップが供給されるステップフロー成長が進行する。このため上記の結晶構造変換がファセット上で起きれば、ファセットから供給されるステップの構造が4Hに変換されるため全面に渡るポリタイプ変換が実現される。
【0017】
また、6H種結晶に異種元素として窒素をドーピングした場合、窒素原子は結晶構造中の炭素の位置を置換して組み込まれる。この場合窒素の原子半径が炭素のそれよりも小さいため、ドーピングされた結晶構造はc、a両軸方向において格子定数が小さくなる。このような窒素添加層を形成した後にドーピングを停止した場合、図4に示すように結晶構造はc軸方向(結晶の成長する方向)およびa軸方向(結晶成長方向に対して垂直の方向)のいずれの方向にも膨張しようとする力がはたらく。ここでも成長方向であるc軸方向へは制約なく膨張するが、a軸方向は格子定数の小さい下地のドーピング層の影響で膨張が抑制される。この影響でc軸方向への膨張分の増加率が大きくなり、結晶構造のc/a比が増加する。このためドーピング停止直後の結晶構造としては4Hに近い構造となり、構造変化により4Hへの変換が誘起される。
【0018】
以上の例では二つとも6Hから4Hポリタイプへと変換する場合を示したが、異種元素を交換する手法にて(上記例中の窒素とアルミニウムを逆にする)反対方向の変換、即ち4Hから6Hポリタイプへと変換することも可能である。また、6Hポリタイプよりもさらにc軸方向に縮んだ構造を有する15Rポリタイプと6Hポリタイプとの間での変換も上記手法により可能である。
【0019】
以上のように、成長時に成長結晶表面において異種元素を添加した層と無添加層との界面を形成することで結晶構造に歪を導入し、種結晶と異なるポリタイプの構造に(c/n)/a比を近づける手法で異種ポリタイプを発生させることができる。また、一回の成長中のある時間帯のみ全面異種ポリタイプ変換させ、後に再びもとのポリタイプに戻し、前記異種元素含有層を介して隣り合う炭化珪素単結晶のポリタイプが異なるSiC単結晶インゴットを作成することも可能である。これにより、結晶品質劣化を抑制しつつ一つの単結晶インゴット中に複数のポリタイプを有するSiC単結晶インゴットを作製でき、高品質の種結晶一枚より複数の種類のポリタイプについて高品質単結晶ウエハを得られる点で生産歩留まり向上を図れる。また、本手法はポリタイプ変換に際して従来法の様に成長温度を低く設定する必要が無く結晶成長速度が低下しないため、充分な生産性を確保することが可能である。
【0020】
上記した本発明の効果については、上記した窒素またはアルミニウムも好ましいが、これ異種元素を用いる場合も有効である。例えば硼素原子をドーピングする場合、同原子は結晶構造中シリコン原子を置換し、シリコン原子よりも硼素原子の方が原子半径が小さいことから窒素と同様の効果を発現させることが可能である。ドーピングに関しては、同様の効果を有する異種元素を2種類同時に使用することも可能である。
【0021】
さらに本発明の手法により、前記異種元素含有層を介して隣り合う炭化珪素単結晶のポリタイプが異なる構造、例えば6Hと4Hが任意の間隔で積層したような構造を有する単結晶インゴットを作製することもでき、各種電子デバイス構造への応用が考えられる。
【0022】
本発明の製造方法で作製されたSiC単結晶インゴットは、50mm以上の大口径を有し、全面に渡り単一のポリタイプを有する層を少なくとも1層有する、という特徴を有する。このSiC単結晶インゴットを切断、研磨して作製したSiC単結晶基板、およびその基板上に高品質SiCエピタキシャル層を作製したSiCエピタキシャルウエハについては、青色から紫外にかけての短波長光デバイス用基板、あるいは高周波高耐圧電子デバイス等の基板ウエハとして、用途に応じた高品質の大口径ウエハを生産性良く供給することができる。
【0023】
さらに本発明は、原料炭化珪素を加熱して昇華再結晶法により種結晶上に単結晶を成長させる工程を包含する上述したSiC単結晶インゴットの製造方法であって、単結晶成長の途中で結晶構成元素以外の異種元素を結晶成長の所定期間導入して、異種元素含有層を少なくとも1層形成することを特徴とする。
【0024】
本発明の製造方法において異種元素の導入および導入停止には、異種元素を含んだドーピング用ガスを用いる。成長時に圧力制御用として用いられる不活性ガス中へ、ドーピング用ガスを導入および導入停止の操作を行うことにより目的とする異種元素含有/非含有界面を形成する。ドーピング濃度については、通常アンドープ(特にドーピングガスを使用せずに成長した場合を指す)成長においても原料の純度等の制約から1×1016atom/cm3程度の窒素原子濃度となっているため、ポリタイプ変換を起こすためには少なくともそれ以上の濃度が得られる条件が必要である。ただし、ドーピングする元素の濃度が1×1021atom/cm3程度となると結晶成長時に多結晶発生等の悪影響を及ぼす確率が増加することから、1×1017〜1×1020atom/cm3の範囲のドーピングが適当といえる。またドーピングガスの導入時間については、結晶成長においてポリタイプ変換を起こさせるために、少なくとも10分子(Si−C分子)層(0.0025mm)以上のドーピング層が形成されるのに充分な時間を確保する必要がある。この時間は結晶成長速度、および成長装置の排気能力等から計算した最適な値を選ぶのが望ましい。
【0025】
【実施例】
図5は、本発明の製造装置であり、種結晶を用いた改良型レーリー法によってSiC単結晶を成長させる装置の一例である。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、種結晶として用いたSiC単結晶1の上に原料であるSiC粉末原料2を昇華再結晶化させることにより行われる。種結晶のSiC単結晶1は、黒鉛製坩堝3の黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けられる。原料のSiC粉末原料2は、黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛の支持棒6により設置される。黒鉛製坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をArガスにより圧力制御することができる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱し、原料および種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝上部および下部を覆うフェルトの中央部に直径2〜4mmの光路を設け坩堝上部および下部からの光を取りだし、二色温度計を用いて行う。坩堝下部の温度を原料温度、坩堝上部の温度を種温度とする。製造装置へのガス配管9へは、内部雰囲気制御用のArガスのほかに各種ドーピング用ガス(窒素、トリメチルアルミニウム、トリメチルボロン)がドーピングガス用マスフローコントローラ10を通って導入される。
【0026】
次に、この結晶成長装置を用いたSiC単結晶の製造について実施例を説明する。まず、種結晶として、口径50mmの(000−1)C面を有した六方晶系、6Hポリタイプを有するSiC単結晶ウエハを用意した。次に、種結晶1を黒鉛製坩堝3の黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、SiC粉末原料2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、種結晶を取り付けた黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとしてArガスを流量140sccm流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は摂氏15度/cmで、成長速度は約1mm/時であった。
【0027】
成長開始から1時間が経過した時点でドーピング用ガスである窒素を分圧554Paにて2分間導入した。これにより成長表面に窒素ドープ層(窒素濃度3×1019atom/cm3)が約33μm形成された。その後窒素ガスの導入を停止してアンドープ層(窒素濃度1×1017atom/cm3)を形成し、下地の窒素ドープ層とアンドープ層との界面を形成した。
【0028】
その後の成長はアンドープ条件下で成長終了時まで維持した。得られた結晶の口径は51mmで、高さは20mm程度であった。
【0029】
こうして得られたSiC単結晶をX線回折およびラマン散乱により分析したところ、種結晶の6Hポリタイプと異なる4HポリタイプのSiC単結晶が発生していることが分かった。また、本実験の効果を調べる目的で、成長した単結晶インゴットを成長方向と垂直方向に縦切りする形で切断、研磨することにより{0001}面に垂直な面を有するウェハを取り出した。顕微鏡によりドーピングした部分を観察したところ、窒素ドープを停止した部分の近傍で6Hポリタイプから4Hポリタイプへの変換が発生していることが確認できた。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、種結晶を用いた改良型昇華再結晶法(レーリー法)において、結晶成長時に異種元素を含むドープ層と含まないアンドープ層との界面を成長表面に形成することで結晶構造に歪を導入し、結晶構造変化を誘起することで目的とするポリタイプ(種結晶のポリタイプと異種のポリタイプ)を有する高品質SiC単結晶を再現性良く成長させることができる。さらに、複数ポリタイプ間で任意に変換が可能となるため、一枚の高品質種結晶より複数の異種ポリタイプの高品質ウエハが得られるため、生産性に非常に優れた手法と言える。
【0031】
このようなSiC単結晶ウエハを用いれば、電気的特性の優れた高耐圧・耐環境性電子デバイス、光学的特性の優れた青色発光素子、を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 改良昇華再結晶法の原理を説明する図である。
【図2】 代表的ポリタイプである4Hおよび6Hの両ポリタイプの結晶単位構造の模式図を示す。
【図3】 SiC単結晶成長時に、アルミニウム原子をドープすることによる結晶構造の変化を示した図である。
【図4】 SiC単結晶成長時に、窒素原子のドープからアンドープに切り替えた場合の結晶構造の変化を示した図である。
【図5】 本発明の製造方法に用いられる単結晶成長装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 種結晶(SiC単結晶)
2 SiC粉末原料
3 黒鉛製坩堝
4 黒鉛製坩堝蓋
5 二重石英管
6 黒鉛製支持棒
7 黒鉛製フェルト
8 ワークコイル
9 ガス配管
10 ドーピングガス用マスフローコントローラ
11 真空排気装置
Claims (5)
- 種結晶を用いた昇華再結晶法で得られる炭化珪素単結晶インゴットであって、該インゴット中に異種元素含有層を少なくとも1層有し、該異種元素含有層に接して成長した部分のポリタイプが前記異種元素含有層のポリタイプと異なることを特徴とする炭化珪素単結晶インゴット。
- 前記異種元素含有層に含有される異種元素が、窒素、硼素、アルミニウム、または、窒素および硼素である、請求項1に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
- 前記異種元素含有層中の異種元素含有量が、1×1017〜1×1020atom/cm3である、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
- 50mm以上の口径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
- 原料炭化珪素を加熱して昇華再結晶法により種結晶上に単結晶を成長させる工程を包含する請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法であって、単結晶成長の途中で結晶構成元素以外の異種元素を結晶成長の所定期間導入して、異種元素含有層を少なくとも1層形成して、その後に成長する単結晶のポリタイプを前記異種元素含有層のポリタイプから変換することを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
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JPH0521358A (ja) * | 1991-07-11 | 1993-01-29 | Sharp Corp | 炭化珪素体の製造方法 |
JPH1067600A (ja) * | 1996-08-26 | 1998-03-10 | Nippon Steel Corp | 単結晶炭化珪素インゴット及びその製造方法 |
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