JP4157953B2 - 耐カジリ性,塗膜密着性に優れた塗装鋼板及び塗料組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、プレス加工等の際に金型が昇温しても塗膜にカジリが発生することなく、表面状態が良好な成形品に加工できる塗装鋼板及び該塗装鋼板製造に使用される塗料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
塗膜によって種々の色調や模様が塗膜に付与された塗装鋼板は、外装材,内装材,表装材,自動車部品等として広範な分野で使用されている。なかでも、ステンレス鋼板を塗装原板とする塗装鋼板は、基材が耐食性に優れていることを活用し、過酷な腐食雰囲気に曝される機材,機器等として使用されている。
鋼板表面に形成される塗膜は、プレス成形等の加工時における保護膜としても機能する。たとえば、潤滑性に優れたアルカリ可溶型の塗膜を設けたステンレス鋼板をプレス加工すると、プレス金型との接触に起因する疵付きから鋼板表面が保護され、成形後のアルカリ洗浄によってステンレス鋼特有の美麗な表面をもった成形品が得られる。
【0003】
アルカリ可溶型樹脂塗膜としては、耐カジリ性に優れたエポキシ変性アクリル樹脂皮膜を下層、耐ブロッキング性に優れたアクリル樹脂を上層とする2層塗膜が知られている(特開平8−252887号公報)。酸価40〜90,弾性率1000〜40000N/cm2のカルボキシル基含有ウレタン樹脂塗料を使用すると、塗膜の形成作業が複雑な2コートを必要とせず、耐カジリ性の良好な1層塗膜が形成される(特開平9−254312号公報)。
【0004】
本発明者等も、酸価40〜300,ガラス転移温度0〜20℃のエポキシ変性アクリル樹脂を下層塗膜とし、酸価40〜300,ガラス転移温度40〜80℃のの上層塗膜を設けることにより、耐カジリ性が改善された塗装鋼板を特開平8−252887号公報で紹介した。また、酸価40〜90,イソシアネート換算のウレタン含有量12〜20質量%,弾性率1000〜60000N/cm2(100℃),流動開始温度75〜170℃の樹脂を含む塗料組成物を用いて塗膜を形成すると、1層塗膜であっても温間加工時にカジリが発生しない塗装鋼板が得られることを見出し、特開平11−268184号公報で紹介した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
エポキシ変性アクリル樹脂/アクリル樹脂の二層構造をもつ塗膜は、エポキシ変性アクリル樹脂塗膜(下層)によって下地鋼に対する密着性が確保され、アクリル樹脂塗膜(上層)によって加工性が改善される。しかし、塗装ラインの膜厚制御との関係から薄膜化が困難であり、安定した耐カジリ性,加工性を発現させるために、ある程度の膜厚が要求される。厚い塗膜では、スポット溶接時に樹脂成分の分解に起因して作業環境を悪化するばかりか、溶接条件自体も不安定になる。
【0006】
他方、ウレタン樹脂の単層塗膜は、熱安定性に優れ、プレス加工時においても鋼板の変形に追従できる柔軟性及び皮膜強度を備えている。しかし、金型温度が40℃以下となる加工条件では、エポキシ変性アクリル樹脂/アクリル樹脂の二層塗膜に比較して耐カジリ性が劣る場合がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、エポキシ変性アクリル樹脂塗膜,ウレタン樹脂塗膜それぞれのを長所を発現させることによって、単層塗膜であっても下地鋼に対する密着性に優れ、加工性,耐カジリ性も良好な塗膜が形成された塗装鋼板を提供すること目的とする。
【0008】
本発明の塗装鋼板は、その目的を達成するため、ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂からなる混合樹脂の単層塗膜が化成処理皮膜を介して下地鋼板の表面に形成されており、単層塗膜と化成処理皮膜との界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化していることを特徴とする。混合樹脂の単層塗膜には、ワックス,合成樹脂粉末,金属石鹸等の有機潤滑剤やシリカ,アルミナ,二硫化モリブデン,二硫化タングステン,黒鉛等の無機潤滑剤を分散させてもよい。
界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化した混合樹脂の単層塗膜は、エポキシ変性アクリル樹脂及びウレタン樹脂を混合・調整した塗料組成物を塗装原板に塗布し、焼き付けることによって形成される。
【0009】
また、塗料組成物は、互いに相溶性のあるウレタン樹脂とエポキシ変性アクリル樹脂とを混合して調製され、エポキシ変性アクリル樹脂を1〜60質量%の範囲で含む。ウレタン樹脂としては、ウレタン結合含有量がイソシアネート換算で12〜20質量%,100℃での弾性率が1000〜60000N/cm2,流動開始温度が75〜170℃の範囲にあるものが使用される。エポキシ変性アクリル樹脂には、ガラス転移温度が−10〜30℃,エポキシ変性量が1〜20質量%の範囲にあるものが使用される。また、ウレタン樹脂の酸価を40〜90,エポキシ変性アクリル樹脂の酸価を40〜300の範囲に調整すると、アルカリ可溶性に優れた塗膜が形成される。
【0010】
【作用】
本発明者等は、耐カジリ性,加工性,塗膜密着性に良好な塗膜を形成するため、塗料の組成,塗装原板の表面状態等について種々調査検討した。その結果、エポキシ変性アクリル樹脂とウレタン樹脂とを混合した塗料組成物をアルカリ脱脂等で表面を清浄化した塗装原板又は更に化成処理した塗装原板に塗布すると、下地鋼板/樹脂塗膜の界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化し、単層塗膜であるにも拘らず2層近似の塗膜構成となり、優れた耐カジリ性,加工性,塗膜密着性を呈する塗膜が形成されることを見出した。
【0011】
下地鋼板/樹脂塗膜の界面でのエポキシ変性アクリル樹脂の濃化は、従来の塗料組成物から予想できないことであるが、次のようなメカニズムでエポキシ変性アクリル樹脂が濃化すると推察される。
塗料組成物の成分であるエポキシ変性アクリル樹脂は、極性の強い官能基をもっているため、ウレタン樹脂に比較して表面自由エネルギーが大きく、下地鋼板の表面との間で表面エネルギー差がより小さくなる。そのため、エポキシ変性アクリル樹脂,ウレタン樹脂を配合した塗料組成物を鋼板表面に塗布すると、樹脂塗膜と下地鋼との界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化する。エポキシ変性アクリル樹脂の濃化傾向は、鋼板表面に水酸基等の極性基が配向して表面自由エネルギーが大きくなるほど強化され、下地鋼板の表面に設けた化成処理皮膜によっても助長される。
【0012】
下地鋼板/樹脂塗膜の界面に濃化したエポキシ変性アクリル樹脂は、化成処理皮膜の表面に配向している水酸基と水素結合し、下地鋼板に対する樹脂塗膜の密着性を向上させる。
他方、塗装原板に塗布された塗料組成物が空気に接触する状態で凝集することによって形成される樹脂塗膜の表層では、エポキシ変性アクリル樹脂よりもウレタン樹脂の方が表面を低いエネルギー状態に維持できる。そのため、表層がウレタン樹脂リッチになり、ウレタン樹脂特有の熱安定性,柔軟性,高皮膜強度等に優れた特性をもつ樹脂塗膜となる。
【0013】
【実施の形態】
塗装原板には、普通鋼鋼板,低合金鋼板,ステンレス鋼板,亜鉛めっき鋼板,アルミニウムめっき鋼板,Zn−Al合金めっき鋼板,Zn−Al−Mg合金めっき鋼板等、各種鋼板が使用される。塗装原板は、常法に従って脱脂,酸洗,Ni析出処理等の表面調整を施した後、化成処理される。
化成処理には、クロメート処理,リン酸塩処理,クロムフリー処理等が採用される。
【0014】
クロメート処理には反応型,塗布型,電解型等、何れの処理方法も採用可能であり、下地鋼板の表面にクロム水酸化物が形成できる条件で処理される。クロメート皮膜は、Cr6+とCr3+との比率に制約が加わるものではなく、シリカゾル等の無機ゾルや有機樹脂等をクロメート皮膜に添加することも可能である。クロメート皮膜は、Cr換算付着量1〜200mg/m2で形成することが好ましい。1mg/m2未満のCr換算付着量では塗膜/クロメート皮膜の界面でエポキシ変性アクリル樹脂の濃化促進効果が不十分となる。逆に、200mg/m2を超えるCr換算付着量では、加工時にクロメート皮膜に歪が加わると凝集剥離が生じてカジリが発生する場合がある。
【0015】
リン酸塩処理では、Zn,Ni,Mn等のリン酸塩を含む処理液が使用される。リン酸塩皮膜の付着量は0.1〜3.0mg/m2の範囲が好ましく、0.1mg/m2未満の付着量では下地鋼板/塗膜の界面におけるエポキシ変性アクリル樹脂の濃化促進効果が不十分で、逆に3.0mg/m2を超える付着量ではリン酸塩皮膜の凝集破壊により加工時に塗膜が剥離しやすくなる。
【0016】
クロムフリー処理では、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W等のバルブメタルの酸化物又は水酸化物とフッ化物が共存する皮膜を形成させる。クロムフリー皮膜の付着量としては、たとえばチタン系では1〜200mg/m2のTi換算付着量で形成することが好ましい。Ti換算付着量が1mg/m2未満では下地鋼板/塗膜の界面でエポキシ変性アクリル樹脂の濃化促進効果が不十分となり、逆に200mg/m2を超えるTi換算付着量ではクロムフリー皮膜の凝集破壊によって加工時に塗膜が剥離する虞がある。クロムフリー皮膜は、更に可溶性又は難溶性の金属リン酸塩,複合リン酸塩等を含むことができる。可溶性の金属リン酸塩,複合リン酸塩には、アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩,Mn等の塩が挙げられる。難溶性の金属リン酸塩,複合リン酸塩には、Al,Ti,Zr,Hf,Zn等の金属塩が挙げられる。
【0017】
ステンレス鋼板を塗装原板に使用する場合、前述の化成処理以外に、リン酸塩処理液やリン酸又はリン酸化合物を含む水溶液で鋼板表面を洗浄すると、表層のクロム酸化物がクロム水酸化物に変化するため、下地鋼板/塗膜の界面におけるエポキシ変性アクリル樹脂の濃化反応を一層加速できる。
【0018】
ステンレス鋼板表面の清浄程度は、XPS分析により表面から10nm以内の深さにおけるFe2O3とFeとのFe2p3/2ピーク強度比をFe2O3/Feで0.1〜0.9の範囲にできる時間での洗浄が好ましい。Fe2p3/2ピーク強度比がFe2O3/Feで0.1未満になるまで洗浄すると、部分的にエッチング過剰となって外観が損なわれる。逆に0.9を超える程度に洗浄すると、下地鋼板/塗膜の界面でエポキシ変性アクリル樹脂の濃化向上効果が不十分になる。リン酸又はリン酸化合物の濃度は、洗浄時間を短縮し作業性を向上する上で1g/l以上にすることが好ましい。更に、リン酸又はリン酸化合物含有水溶液に硝酸を添加すると、ステンレス鋼板表面のエッチング作用が向上し、一層短時間の洗浄が可能になる。このような効果は、0.1g/l以上の硝酸濃度で顕著になる。
【0019】
本発明で使用する塗料組成物は、相溶性のあるウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂を混合することによって調製される。エポキシ変性アクリル樹脂は、下地鋼板に対する塗膜の密着性及び塗膜の熱安定性を確保するため、1〜60質量%の比率でウレタン樹脂と混合される。塗膜密着性はエポキシ変性アクリル樹脂の配合比率が増加するに従って向上するが、過剰量のエポキシ変性アクリル樹脂を配合すると熱安定性が低下する。ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂の合成方法は特に制約を受けるものではなく、本発明の効果が損なわれない限り常法に従って合成できる。樹脂の形態に関しても特段の制約はないが、塗装作業性を重視すると有機溶剤可溶型,水分散性,水溶性等が好ましく、作業環境に与える影響を考慮すると水分散性,水溶性が好ましい。
【0020】
ウレタン樹脂は、ウレタン結合含有量がイソシアネート基(NCO)換算で12〜20質量%,100℃での弾性率が1000〜60000N/cm2,流動開始温度が75〜170℃の範囲にあるものが好適である。ウレタン結合含有量がイソシアネート基(NCO)換算で12質量%に満たないと皮膜の熱安定性及び強度が不足し、逆に20質量%を超えると塗膜の凝集力が大きくなりすぎて柔軟性が低下し、耐カジリ性が劣る塗膜になりやすい。100℃での弾性率が1000N/cm2未満では塗膜強度が不足し、プレス加工時にカジリが発生しやすくなる。逆に60000N/cm2を超える弾性率では、塗膜の柔軟性が低下して耐カジリ性が不十分になる。流動開始温度が75℃未満ではプレス加工時に金型との摺動によって材料温度が高くなると塗膜が軟化してカジリが発生しやすくなり、逆に170℃を超える流動開始温度ではウレタン樹脂の凝集力が強くなり過ぎて塗膜の柔軟性が低下し耐カジリ性が不十分となる。
【0021】
更に、塗膜をアルカリ水溶液に対して塗膜を可溶にするためには、樹脂構造にカルボキシル基を導入してウレタン樹脂の酸価を40〜90の範囲に調整することが好ましい。ウレタン樹脂の酸価が40未満では塗膜の溶解性が不十分で、90を超える酸価では塗膜が脆弱になって耐カジリ性が低下する。
【0022】
エポキシ変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂のガラス転移温度が−10〜30℃の範囲にあるものが好ましい。ガラス転移温度が−10℃より低いと塗膜強度が不足し、30℃を超えるガラス転移温度では下地鋼板に対する塗膜の密着性が低下しやすい。アルカリ可溶な塗膜とする場合には、分子量500〜2000のエポキシオリゴマーを用いエポキシ変性量1〜20質量%で変性させ、樹脂の酸価を40〜300の範囲に調節することが好ましい。分子量500未満のエポキシオリゴマーでは塗膜の密着性向上効果が不十分であり、2000を超える分子量では塗膜のアルカリ可溶性が低下する。また、1質量%未満のエポキシ変性量では下地鋼板に対する塗膜の密着性が不十分で、20質量%を超えるエポキシ変性量では塗膜のアルカリ可溶性が低下する。エポキシ変性アクリル樹脂の酸価が40未満では塗膜の溶解性が不十分で、300を超える酸価では塗膜が脆弱となって耐カジリ性が低下する。
【0023】
ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂を配合した塗料組成物に固形潤滑剤粒子を分散させると、耐カジリ性及び加工性を向上できる。固形潤滑剤粒子としては、ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂粉末や二硫化モリブデン,二硫化タングステン,黒鉛等の無機粉末が使用される。耐カジリ性及び加工性は、1質量%以上の割合で固形潤滑剤粒子を分散させることによって顕著に改善される。しかし、30質量%を超える過剰量の固形潤滑剤粒子を配合すると、塗料組成物の安定性が低下する。そのため、固形潤滑剤粒子を分散させる場合には、その配合量を1〜30質量%の範囲に設定することが好ましい。
【0024】
また、シリカゾル、アルミナゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾルを塗料組成物に配合すると、塗膜の熱安定性が向上する。そのため、たとえば金型を100〜200℃に加熱する温間加工時等においても塗膜の軟化が防止され,更に良好な耐カジリ性が発現される。塗膜の熱安定性は,1質量%以上の割合で無機ゾルを配合したとき顕著に向上する。しかし,30質量%を超える過剰量の無機ゾルを配合すると、塗料組成物がゲル化しやすくなる。
【0025】
塗料組成物には、目的に応じて各種添加材を適宜添加できる。この種の添加材としては、カーボンブラック,二酸化チタン,フタロシアニンブルー等の着色剤、炭酸カルシウム,クレー,タルク等の体質顔料や各種潤滑剤が挙げられる。
所定組成に調製された塗料組成物は、常法に従って下地鋼板表面に塗布され、焼成・乾燥することにより塗膜となる。塗布方法に関しては特段の制約がなく、たとえばブラシ,ローラ,ロールコータ,バーコータ,フローコータ,シャワーリング,スプレー等から経済性及び生産性を考慮して塗装方法を選択し、均一塗膜が形成されるように下地鋼板表面に塗料組成物を塗布し、常温乾燥,強制乾燥等で乾燥することによって塗膜が形成される。
【0026】
下地鋼板表面に形成される塗膜は、膜厚を0.2〜10μmの範囲に調整することが好ましい。膜厚が0.2μm未満では、塗装鋼板に高面圧が加わる加工条件下でカジリが発生しやすい。逆に、10μmを超える厚膜では、下地鋼板の変形に追従することで生じる塗膜の内部応力が大きくなって塗膜が剥離しやすくなるため、耐カジリ性が低下する。
【0027】
下地鋼板表面に形成された塗膜は、下地鋼板/塗膜の界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化し、その上にウレタン樹脂,エポキシ変性アクリル樹脂が混在した塗膜構造をもっている。このような塗膜構造は、飛行時間型二次イオン質量分析計(TDF−SIMS)を用いて塗膜を深さ方向に分析することにより確認できる。この分析法では、ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂それぞれに特徴的なピークを予め求めておき、下地鋼板表面にある塗膜の断面についてそれぞれの特徴的なピーク成分で二次イオンマッピングすることにより、ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂の分布状態が把握される。たとえば、本発明者等による調査結果では、アルカリ脱脂によって表面を清浄化したステンレス鋼板,更にリン酸/硝酸の混酸で洗浄したステンレス鋼板に塗料組成物を塗布・乾燥して形成した塗膜の断面をTDF−SIMS分析すると、下地鋼板/塗膜の界面に濃化したエポキシ変性アクリル樹脂が検出される。
【0028】
【実施例1】
2,2-ジメチロールプロピオン酸,ヘキサメチレンジイソシアネート,アジピン酸,1,4-ブチレングリコール,エチレングリコール系ポリエステルポリオールの各成分を変化させて反応させることによりウレタン結合含有量,100℃での弾性率,流動開始温度,酸価を調整したウレタン樹脂のエマルジョン処理液を用意した。また、メチルメタクリレート,ブチルアクリレート,メタクリル酸の各成分を変化させて共重合させることにより、ガラス転移温度,酸価が異なるアクリル樹脂を合成し、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーを反応させることによりエポキシ変性アクリル樹脂のエマルジョン処理液を用意した。
両エマルジョン処理液を混合し、表1の組成をもつ塗料組成物を調整した。比較のため、ウレタン樹脂単独の塗料,ウレタン樹脂とアクリル樹脂を混合した塗料も用意した。
【0029】
【0030】
塗装原板には、BA仕上げした板厚0.8mmのSUS304ステンレス鋼板を用い、アルカリ脱脂によって表面を清浄化したステンレス鋼板,更にリン酸/硝酸の混酸水溶液(リン酸12g/l,硝酸1.7g/l,浴温60℃)に10秒間浸漬して水洗・乾燥することにより鋼板表面から10nm以内の深さにおけるFe2O3とFeのFe2p3/2ピーク強度比がFe2O3/Feで0.3のステンレス鋼板を用意した。
各塗装原板に塗料組成物をロールコータで塗布し、到達板温が120℃となるように乾燥することにより塗膜を形成した。
【0031】
各塗装鋼板から試験片を切り出し、カジリ試験,加工試験,塗膜溶解試験に供した。
カジリ試験では、金型温度を種々変化させてポンチ径40mm,絞り比2.45,皺押え圧力20kNの条件下で円板状試験片を円筒絞り加工し、加工部の塗膜残存率が80%以上を◎,60〜80%を○,40〜60%を△,40%未満を×として耐カジリ性を評価した。
【0032】
加工試験では、金型温度20℃,ポンチ径40mm,絞り比2.30,皺押え圧力18kNの条件下で円板状試験片を円筒絞り加工し、加工前の試験片直径D1に対する加工後の試験片直径D2の比D2/D1が0.85未満を◎,0.85〜0.90を○,0.90〜0.95を△,0.95以上を×として加工性を評価した。
塗膜溶解試験では、pH12,液温40℃のNaOH溶液に試験片を浸漬し、2分以内で塗膜が溶解除去されたものを○,塗膜の溶解除去に要した時間が2〜5分を△,5分以上かかったものを×として塗膜のアルカリ可溶性を評価した。
【0033】
表2の試験結果にみられるように、本発明に従って塗膜を形成した試験番号1〜12では、何れも耐カジリ性,加工性に優れ、短時間で溶解除去できた。また、TOF−SIMS分析の結果、下地鋼板/塗膜の界面に濃化したエポキシ変性アクリル樹脂が検出された。
これに対し、ウレタン樹脂単独の塗膜を形成した試験番号13,15は、下地鋼板に対する塗膜の密着性が十分でなく、耐カジリ性,加工性に劣っていた。また、エポキシ変性していないエポキシ変性アクリル樹脂をウレタン樹脂に配合した塗料組成物から作製された試験番号14,16の塗膜でも、密着性向上効果が不十分で、依然として耐カジリ性,加工性に劣っていた。
【0034】
【0035】
【実施例2】
実施例1と同じステンレス鋼板を塗装原板に使用し、アルカリ脱脂によって表面を清浄化した。塗料組成物としては、表1の処理液No.2,3,4,6に合成樹脂粉末を分散させることにより調製した。
塗料組成物をロールコータで塗装原板に塗布した後、乾燥オーブンに装入し、到達板温140℃で焼き付けることにより塗膜を形成した。
【0036】
得られた塗膜の組成を表3に、実施例1と同様な試験で調査した塗膜の物性を表4に示す。表4から明らかなように、本発明に従って調整した混合樹脂に潤滑剤を配合した試験番号20〜24は、何れも良好な耐カジリ性,塗膜溶解性を維持しながら、加工性が一層向上していることが判る。
【0037】
【0038】
【0039】
【実施例3】
処理液No.4(表1)に平均粒径1.0μmの合成樹脂粉末(ポリエチレン樹脂粉末/フッ素樹脂粉末=9/1の混合物)を10質量%添加した後、更に表5に示す割合でシリカ粉末を添加した塗料組成物を用意した。
塗装原板には実施例1と同じステンレス鋼板を使用し、アルカリ脱脂によって表面を清浄化した。バーコータで塗料組成物を塗装原板に塗布し、オーブンに装入し、到達板温100℃で乾燥することにより乾燥膜厚3μmの塗膜を形成した。得られた塗装鋼板の特性を実施例1と同様の試験によって調査した。
表5の調査結果にみられるように、何れの塗装鋼板も良好な塗膜溶解性を示すと共に、金型温度200℃でもカジリがほとんど発生せず、優れた加工性を呈することが判った。
【0040】
【0041】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の塗装鋼板は、エポキシ変性アクリル樹脂が濃化した界面を介してエポキシ変性アクリル樹脂/ウレタン樹脂の混合樹脂塗膜が下地鋼板の表面に形成されている。そのため、単層塗膜であるにも拘らず2層塗膜と同様な性状を呈し、過酷な条件下で加工した場合にもカジリ疵が発生せず、良好な表面状態をもつ成形品に加工できる。しかも、塗膜密着性に優れているため、成形品の耐久性も向上する。このような長所を活用し、外装材,内装材,表装材,自動車用部品等、広範な分野に使用される塗装鋼板が提供される。
Claims (4)
- ウレタン樹脂及びエポキシ変性アクリル樹脂からなる混合樹脂の単層塗膜が直接又は化成処理皮膜を介して下地鋼板の表面に形成されており、単層塗膜と下地鋼板との界面又は単層塗膜と化成処理皮膜との界面にエポキシ変性アクリル樹脂が濃化していることを特徴とする耐カジリ性,塗膜密着性に優れた塗装鋼板。
- 単層塗膜に潤滑剤が分散している請求項1記載の塗装鋼板。
- ウレタン樹脂と、該ウレタン樹脂に相溶可能なエポキシ変性アクリル樹脂1〜60質量%とを混合した塗料組成物であり、前記ウレタン樹脂のウレタン結合含有量がイソシアネート換算で12〜20質量%,100℃での弾性率が1000〜60000N/cm2,流動開始温度が75〜170℃の範囲にあり、前記エポキシ変性アクリル樹脂のガラス転移温度が−10〜30℃,エポキシ変性量が1〜20質量%の範囲にあることを特徴とする塗料組成物。
- ウレタン樹脂の酸価が40〜90,エポキシ変性アクリル樹脂の酸価が40〜300の範囲に調整されている請求項3記載の塗料組成物。
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