JP4150898B2 - 樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、押出成形性、射出成形性に優れ、かつ耐熱性、溶融時の流動性及び強度、靭性、摺動特性に優れた新規な樹脂組成物に係わる。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリアミドイミド樹脂(以下、PAI樹脂と略記)は、耐熱性、機械的強度、電気特性、及び耐薬品性に優れ、しかも自己潤滑性をもつプラスチック材料である。しかしながら、ワニス、フィルム用途以外は、溶融流動性が劣るため、ほとんどの場合、射出成形による成形品の製造が困難な場合が多い。そのため、コンプレッションモールド法による成形を行われているのが現状である。
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPSと略記)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記)は、耐熱性、電気特性、及び耐溶剤性に優れ、特に溶融流動性が優れているのが特徴である。また、充填材等を用いて強化することにより、優れた機械強度、剛性及び寸法安定性を付与せしめることが知られている。
これらPAI樹脂およびPAS樹脂を複合化することにより、耐熱性、機械強度、流動性に優れた樹脂組成物を得られることが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第2868043号公報
【特許文献2】
特開平11−293109号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の樹脂組成物においてもPAI樹脂が良好に相溶化しておらず、複合化後、良好な強度、靭性のある材料は得られていない。本発明は、樹脂組成物の相溶性が改善され、溶融時に複合化が容易となり、溶融時の流動性、強度、靭性、耐熱性、及び摺動特性に優れた材料を得ることを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、(A)芳香族トリカルボン酸無水物(一部、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含む。)とジイソシアネート化合物とを反応させるに際し、アミド化反応が70%以上終了してから、イミド基の生成反応を行わせて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂と、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂との合計量100重量部に対して、(C)分子中にエポキシ基を少なくとも1個以上含有する化合物0.001〜20重量部を含有してなる樹脂組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の(A)成分の芳香族ポリアミドイミド樹脂の製造は、一般には、重合温度、反応時間、触媒添加方法を適切に行うことによりアミド化反応とイミド化反応を制御することにより行うことが出来るが、基本的にはアミド基の生成反応が実質的に終了するまでイミド基の生成反応が起こらない条件でアミド化反応を行い、ついでイミド化反応を行う条件で実施するのであれば差し支えない。
【0007】
本発明で使用される芳香族ポリアミドイミド樹脂を得るため、アミド化反応終了後、イミド化反応をさせる方法としては、重合温度を制御する方法が簡便である。即ち、芳香族トリカルボン酸無水物(一部芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含む)とジイソシアネート化合物を溶媒中50〜100℃、好ましくは60〜100℃、更に好ましくは、80〜100℃の温度範囲で反応させ、アミド化反応が70%以上、好ましくは80%、更に好ましくは90%、最も好ましくは、95%以上終了してから、通常100〜200℃、好ましくは、105〜180℃、更に好ましくは110〜180℃の温度範囲でイミド化反応を行わせる方法である。
【0008】
芳香族トリカルボン酸無水物(一部、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む場合も含む。)とジイソシアネート化合物との反応温度は、重要な条件であり、これを制御することにより、本発明に使用される樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造することが出来る。各段における温度は、その温度範囲内であれば、いかように設定しても構わない。例えば、昇温させても、一定温度に保っても、またこの組み合わせであっても構わないが、一定温度に保つのが望ましい。各段の温度がこの範囲より低い場合は、アミド及び、イミド基の生成反応が完結せず、その結果、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂の重合度があがらないため、本発明の樹脂組成物が脆いものとなる。アミド化の温度が上記範囲より高い場合は、アミド基の生成反応とイミド基の生成反応が同時期に起こるため、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂は溶融流動性及び滞留安定性の劣ったものになる。
【0009】
芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物との反応時間は、アミド化反応は30分〜5時間、好ましくは、30分から2時間であり、イミド化反応は、30分から10時間、好ましくは1時間から8時間である。反応時間がこれよりも短すぎると、得られた芳香族ポリアミドイミドの重合度があがらないため、本発明の樹脂組成物が脆いものとなる。一方、反応時間が長すぎると、得られた芳香族ポリアミドイミド樹脂は溶融流動性の劣ったものとなる。アミド基の成分とイミド基の成分を重合反応の間追跡する必要があるが、この方法は、公知の赤外分光法、ガスクロマトグラム法等により可能である。
【0010】
本発明を構成する樹脂組成物に使用する芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するために使用する芳香族トリカルボン酸は、次の一般式で示される化合物である。
【0011】
【化2】
(式中、Arは、少なくとも1つの炭素6員環を含む3価の芳香族基を示す。)
【0012】
Arの具体例としては、以下のものが例示されるが、2種以上の化合物を混合して使用することもできる。
【0013】
【化3】
これらのうち、芳香族トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物が好ましい。
【0014】
上記芳香族トリカルボン酸無水物の0〜50モル%を芳香族テトラカルボン酸無水物に代えることも可能である。しかし、上記範囲より、芳香族テトラカルボン酸無水物が多いと、得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂が脆くなる傾向がある。芳香族テトラカルボン酸無水物は、下記一般式で表される化合物である。
【0015】
【化4】
(式中、Ar1は、少なくとも1つの炭素6員環を含む3価の芳香族基を示す。)
【0016】
芳香族テトラカルボン酸無水物の具体例としては、以下のものである。
【0017】
【化5】
【0018】
本発明を構成する樹脂組成物に用いられる芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するために使用するジイソシアネート化合物とは下記一般式で示される化合物である。
【0019】
O=C=N−R−N=C=O
(式中、Rは、2価の芳香族及び/または脂肪族基)
【0020】
その具体例としては、以下のものが上げられるが、2種以上の化合物を混合して用いることもできる。
【0021】
【化6】
【0022】
上記の中、特に好ましいものとして、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、メチレンジ(4−フェニルイソシアネート)を挙げることが出来る。
【0023】
本発明に用いる樹脂組成物に好適な芳香族ポリアミドイミド樹脂を製造するためには、芳香族トリカルボン酸無水物成分(前述のテトラカルボン酸無水物を含む。)とジイソシアネート成分は、それぞれのモル数をA、Bとしたとき両者のモル比は、0.9<A/B<1.1に保たれることが望ましく、より好ましくは、0.99<A/B<1.01に保たれることである。
【0024】
本発明においては、芳香族ポリアミドイミド樹脂を円滑に製造するため、溶媒が使用される。使用される溶媒は、ジイソシアネート化合物に対して、不活性なものであれば、特に限定無く、具体的には、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の生成する芳香族ポリアミドイミドに相溶性を有する溶媒及びニトロベンゼン、ニトロトルエン等の生成する芳香族ポリアミドイミドと相溶性を有しない極性溶媒を挙げることが出来る。これらは単独で使用しても、混合して使用しても差し支えない。好ましいものは、ポリアミドイミドと相溶性を有するN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の溶媒である。また、これらの溶媒は、モノマー原料の溶媒に対する割合で、0.1〜4モル/リットルで使用する。
【0025】
本発明に用いる樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂の製造には、各種触媒を使用できるが、溶融時の成形加工性を損なわないためには、その使用量は最小限に止めるべきであり、重合速度が十分な水準にある限りは、使用しないことが望ましい。触媒の具体例を例示するならば、ピリジン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、N,Nージエチルアミン、トリエチルアミン、等の第3級アミン、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト等の弱酸の金属塩、重金属塩、アルカリ金属塩等を挙げることが出来る。
【0026】
また、溶媒、モノマー等から構成される重合系の含有水分は、500PPM以下に保つことが望ましく、より好ましくは、100PPM以下、最も好ましくは、50PPM以下に保たれる。系内の含有水分量がこれらより多いと、溶融成形性を損なう。
【0027】
本発明に用いる樹脂組成物に好適な芳香族ポリアミドイミド樹脂の重合度は、ジメチルホルムアミド中30℃で濃度1g/dlで測定した還元粘度で表示するならば、0.15dl/g〜1.0dl/gが好適に用いいられ、より好ましくは、0.2dl/g〜0.6dl/gが、最も好ましくは、0.2〜0.5dl/gである。
【0028】
本発明の樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミドイミド樹脂は、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘプタン、トルエン等の脂肪族、芳香族炭化水素類により沈殿、洗浄することにより粉末として回収されるが、重合溶媒を直接濃縮してもかなわない。さらには、ある程度まで濃縮した後、押出機等で減圧下に溶媒を除去しペレット化する方法を行うこともできる。
【0029】
また、本発明の樹脂組成物に使用される(B)成分であるPAS樹脂とは、式[−Ar−S−](但し、Arは、アリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p、p’−ジフェニレンスルホン基、p、p’−ビフェニレン基、p、p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PASとしては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0030】
これらのPASの中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度の観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63−33775号公報)により得ることができる。
【0031】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p、p’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
PASに多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0033】
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。本発明で使用するPASは、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、通常、10〜600Pa・s、好ましくは50〜550Pa・s、より好ましくは70〜550Pa・sである。溶融粘度が異なる2種以上のPASをブレンドして使用する場合には、ブレンド物の溶融粘度が前記範囲内にあることが好ましい。また、PASの溶融粘度が100Pa・s以上であることが、機械的強度や靭性などの観点から特に望ましい。PASの溶融粘度が小さすぎると、機械的強度や靭性などの物性が不充分となる恐れがある。PASの溶融粘度が大きすぎると、溶融流動性が不充分となり、射出成形性や押し出し成形性が不充分となる恐れがある。
【0034】
本発明で使用するPASは、重合終了後の洗浄したものを使用することができるが、さらに、塩酸、酢酸などの酸を含む水溶液、あるいは水−有機溶剤混合溶液により処理したものや、塩化アンモニウムなどの塩溶液で処理を行ったものなどを使用することが好ましい。特に、アセトン:水=1:2(容積比)に調整した混合溶媒中でのpHが8以下を示すようになるまで洗浄処理したPASを用いると、樹脂組成物の溶融流動性及び機械的物性をより一層向上させることができる。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、溶融混練により製造するため、本発明で使用するPASは、100μm以上の平均粒子径を有する粒状物であることが望ましい。PASの平均粒子径が小さすぎると、押出機による溶融押出しの際、フィード量が制限されるため、樹脂組成物の押出機内での滞留時間が長くなり、樹脂組成物の劣化等の問題が生じる恐れがある。また、製造効率上も望ましくない。
【0036】
本発明の樹脂組成物の(C)成分であるエポキシ化合物は、下記構造のものが使用できる。
【化7】
(式中、Eはエポキシ基を表し、R1 は炭素数1〜18の炭化水素を表し、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、又はアミド結合を表し、Yはそれぞれ独立に水素原子、ビニル基、水酸基、アミノ基、ウレイド基、イソシアネート基及びメルカプト基のいずれかを表し、R2 は炭素数1〜18の炭化水素を表す。nは1以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、nとmとの和は5以下である。)
【0037】
具体的には、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2,3−エポキシ−1−プロパノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、4,5−エポキシ−2−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、5,6−エポキシ−2−ヘキサノールなどが例示される。そして、好ましくは、エポキシ基および水酸基を有する脂肪族炭化水素が好ましく、具体的には、2,3−エポキシ−1−プロパノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、4,5−エポキシ−2−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、5,6−エポキシ−2−ヘキサノールである。
【0038】
これらのエポキシ化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。エポキシ化合物の配合割合は、PAI樹脂とPAS樹脂の合計量100重量部に対して、0.001〜20重量部、好ましくは0.005〜10重量部、より好ましくは0.05〜5重量部である。これらのエポキシ化合物の配合割合が小さすぎると、添加による押出成形時の加工性の改良効果が小さく、逆に、大きすぎると、成形加工過程でガスを発生しやすく、成形品にボイドが生じやすくなる。
【0039】
エポキシ化合物の添加方法は、PAI樹脂あるいは/およびPAS樹脂と混合して使用しても良く、樹脂とエポキシ化合物を混合後加熱し使用しても良く、溶融混練時に添加し使用しても良い。好ましい方法は、樹脂とエポキシ化合物を混合後加熱処理した後、溶融混練を行なう方法である。
【0040】
本発明に使用する樹脂組成物は、PAI樹脂、PAS樹脂、およびエポキシ化合物を溶融混練りして製造される。溶融混練り温度は250〜400℃、好ましくは280〜360℃である。混練り方法は、押し出し機、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールその他で行うことが出来るが、好ましい方法は、2軸押し出し機による方法である。
【0041】
本発明に使用される樹脂組成物には、所望に応じて、充填材、顔料、滑剤、可塑剤、安定剤、紫外線剤、難燃剤、難燃助剤の添加剤、他の樹脂などその他の成分が適宣配合され得る。
【0042】
充填材の例としては、ガラスビーズ、ウオラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、二酸化珪素、クレー、アスベスト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、ケイソウ土、グラファイト、カーボランダム、二硫化モリブデンに代表される鉱物質充填材;ガラス繊維、ミルドファイバー、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、等を挙げることが出来る。充填材は、樹脂組成物の1〜70重量%使用することが出来る。好ましい充填材は、ガラス繊維、ミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維であり、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、グリシドキシアルコキシシランに代表されるシランカップリング剤で処理したものも好適に使用できる。
【0043】
顔料としては、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛が代表的なものとして例示できる。
【0044】
滑剤としては、鉱物油、シリコン油、エチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ステアリン酸ナトリウムなどの金属塩、モンタン酸ナトリウム等の金属塩、モンタン酸アミドなどが代表的なものとして例示される。
【0045】
可塑剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基を含有するシラン化合物;γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルメチルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルメチルトリエトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基を含有するシラン化合物;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどのエポキシ基を含有するシラン化合物;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、 γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基を含有するシラン化合物;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、β−メルカプトエチルトリメトキシシラン、β−メルカプトエチルトリエトキシシラン、β−メルカプトエチルジメトキシシランなどのメルカプト基を含有するシラン化合物;が代表例として挙げられる。その他の可塑剤として、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレートに代表されるフタル酸化合物が挙げられる。また、一般に用いられる紫外線吸収剤、着色剤を用いることができる。
【0046】
難燃剤としては、トリフェニルフォスフェートのようなリン酸エステル類、デカブロモビフェニル、ペンタブロモトルエン、ブロモ化エポキシ樹脂、等の臭化化合物;メラミン誘導体などの含窒素リン化合物等が挙げられる。難燃助剤を使用しても良く、その例としては、アンチモン、ほう素、亜鉛等の化合物等が挙げられる。
【0047】
他樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、4フッ化エチレンをはじめとするフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の芳香族樹脂が挙げられる。
【0048】
本発明においては、上記のような(A)PAI樹脂と(B)PAS樹脂とを含有する樹脂成分100重量部に対して、(C)エポキシ化合物0.001〜20重量部を含有してなる樹脂組成物を得るが、成形は、通常の射出成形法によって行われ、シリンダー温度は、290〜360℃の範囲で行い、金型は十分な耐熱性を得るために120〜160℃にすることが望ましい。また、耐熱性を改良し、且つ残留応力を取り除く目的で成形後に熱処理することが望ましい。特に、金型温度が120℃より低い温度で成形した場合は熱処理するのが好ましい。熱処理の方法は、特に限定されるものではないく、例えば通常の熱風式オーブン、電子レンジまたはオーブンレンジを用いられる。熱処理温度は、150〜300℃、好ましくは、180〜280℃、最も好ましくは、200〜260℃で30秒〜48時間、好ましくは1時間〜36時間常圧もしくは減圧で行うこともできる
。
【0049】
【実施例】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例に用いる物質は下記のもの及び合成例で製造したものである。
【0050】
合成例1
水分含有量15ppmのN−メチルピロリドン3リットルを、5リットルの攪拌機、温度計、先端に塩化カルシウムを充填した乾燥管を装着した還流冷却器を備えた反応器に仕込んだ。ここに無水トリメリット酸555g(50モル%)、次いで2,4−トリレンジイソシアネート503g(50モル%)を加えた。無水トリメリット酸添加時の系内水分は30ppmであった。最初、室温から20分を要して内容物温度を90℃とし、この温度に保ったまま50分継続した。ついで115℃に昇温し、この温度に保ったまま8時間継続した。重合終了後N−メチルピロリドンの2倍容量のメタノール中に強力な攪拌下で重合液を滴下し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーを吸引ろ別し、さらにメタノールでよく洗浄し、200℃で減圧乾燥を行いポリアミドイミド樹脂を得た。ジメチルホルムアミド溶液(濃度1.0g/dl)でこのものの30℃における還元粘度を測定したところ、0.25dl/gであった。
【0051】
実施例1
合成例1で製造したPAI樹脂50重量部およびPAS樹脂(呉羽化学工業(株)製 W−205A、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、100Pa・s)50重量部に対し、エポキシ化合物として2,3−エポキシ−1−プロパノール1.0重量部をブレンドし、2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し、樹脂組成物を製造した。
このペレットを射出成形し、1/8インチ厚の抗折試験片を得た。この試験片を用いて、曲げ強度、曲げ歪み(島津製作所(株)オートグラフ AG5000B)を測定した。熱変形温度(18.6kg/cm2 荷重)もこの試験片を用いて、窒素雰囲気下で測定(安田精機(株)HD−500−PC )した。溶融流動値は350℃、シェアレート1000sec-1の条件で測定した(東洋精機製作所(株)キャピログラフ)。結果を、表1に示した。
【0052】
実施例2
合成例1で製造したPAI樹脂50重量部に対し、エポキシ化合物として2,3−エポキシ−1−プロパノール1.0重量部をブレンドし、得られた混合物を130℃で24時間加熱を行なった。その後PAS樹脂(呉羽化学工業(株)製W−205A、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、100Pa・s)50重量部と共に2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し、樹脂組成物を製造した。
樹脂組成物の製造方法以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、評価した。結果を、表1に示した。
【0053】
実施例3
エポキシ化合物としてフェニルグリシジルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造した。実施例1と同様の方法にて、評価した。結果を、表1に示した。
【0054】
実施例4
エポキシ化合物としてアリルグリシジルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造した。実施例1と同様の方法にて、評価した。結果を、表1に示した。
【0055】
比較例1
合成例1で製造したPAI樹脂50重量部およびPAS樹脂(呉羽化学工業(株)製 W−205A、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、100Pa・s)50重量部を、2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し、樹脂組成物を製造した。実施例1と同様の方法にて、評価した。結果を、表1に示した。
【0056】
比較例2
合成例1で製造したPAI樹脂50重量部およびPAS樹脂(呉羽化学工業(株)製 W−205A、310℃における剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、100Pa・s)50重量部に対して、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン1.0重量部をブレンドし、2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化し、樹脂組成物を製造した。実施例1と同様の方法にて、評価した。結果を、表1に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
【発明の効果】
本発明は、上記のように(A)PAI樹脂と(B)PAS樹脂とを含有する樹脂成分100重量部に対して、(C)エポキシ化合物0.001〜20重量部を含有してなる樹脂組成物とすることにより、押出成形時の加工性に優れ、かつ耐熱性、溶融時の流動性及び強度、靭性に優れたもので、特に、従来の技術で得られるPAI樹脂とPAS樹脂からなる樹脂組成物の押出成形時の加工性を大幅に改良した。これは、本明細書記載のエポキシ化合物を配合することにより初めて得られる効果に基づくものと考えられる。
Claims (2)
- (A)芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させるに際し、アミド化反応が70%以上終了してから、イミド化反応を行わせて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂と、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂との合計量100重量部に対して、(C)フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2,3−エポキシ−1−プロパノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、4,5−エポキシ−2−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、又は5,6−エポキシ−2−ヘキサノール0.001〜20重量部を含有してなる樹脂組成物。
- アミド化反応を50〜10℃、イミド化反応を100〜200℃で行って得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂(A)を使用する請求項1記載の樹脂組成物。
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