JP2004339380A - 摺動部材用耐熱性樹脂複合材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】芳香族ポリアミドイミド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び高密度ポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物の相溶性を改善し、成形時のモールドデポジット及び成形品の層剥離の発生を低減し、かつ溶融時の流動性、強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)重量平均分子量Mwが1,000〜100,000であり、かつ分子中に含まれるアミン基が0.02〜0.0002mol/gである芳香族ポリアミド樹脂 1〜99重量%、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂 0.1〜95重量%、及び(C)高密度ポリエチレン樹脂 0.1〜10重量%からなる摺動部材用樹脂組成物。
【選択図】 なし
【解決手段】(A)重量平均分子量Mwが1,000〜100,000であり、かつ分子中に含まれるアミン基が0.02〜0.0002mol/gである芳香族ポリアミド樹脂 1〜99重量%、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂 0.1〜95重量%、及び(C)高密度ポリエチレン樹脂 0.1〜10重量%からなる摺動部材用樹脂組成物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、押出成形性、射出成形性に優れ、かつ溶融時の流動性及び強度、靭性に優れる新規な摺動部材用耐熱性樹脂組成物に係わる。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリアミドイミド樹脂(以下、PAI樹脂と略記する。)は、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性に優れ、しかも自己潤滑性をもつプラスチック材料である。しかしながら、ワニス、フィルム用途以外は、溶融流動性に劣り、ほとんどのものは射出成形が困難な場合が多い。そのため、コンプレッションモールド法による成形を行っているのが現状である。
【0003】
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPSと略記する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記する。)は、耐熱性、電気特性、耐溶剤性に優れ、特に溶融流動性が優れているのが特徴である。
【0004】
そして、PAI樹脂およびPAS樹脂を複合化することにより、耐熱性、機械強度、流動性に優れた樹脂組成物を得られることが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
しかし、上記の樹脂組成物においてもPAI樹脂が良好に相溶化しておらず、複合化後、良好な溶融流動性、靭性、機械的強度のある材料は得られていない。そのため、精密成形や薄物成形等の用途に不適である。さらに、動摩擦係数及び磨耗量等の摺動性の改善も不十分である。
【0006】
動摩擦係数、磨耗量を低下させる手段としては、ポリアミド樹脂や非晶性熱可塑性樹脂に、粉末状高密度ポリエチレンを添加すると、機械的特性、熱変形温度及び成形収縮率が良好となり、動摩擦係数及び摩耗量が低下し、相手材を磨耗しないことが知られている(特許文献3及び特許文献4参照)。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂にα―オレフィン系共重合体を添加することで、耐衝撃性及び靭性を改良できることが知られている(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながらポリエチレンを添加する場合、マトリックスの熱可塑性樹脂と摺動性付与剤であるポリエチレンとが、射出成形時に相分離を起こし、金型表面にポリエチレン皮膜を形成し易いという問題がある。そのため、射出成形を重ねるに伴い、金型付着分(モールドデポジット)が成長して、次第に寸法精度が出なくなり寸法不良が生じ、また金型付着物の除去については適当な溶媒がなく、金型の分解掃除が不可欠となる。また、ポリエチレンを添加することで、樹脂組成物の耐熱性が著しく低下することが判明した。
【0008】
【特許文献1】
特許第2868043号公報
【特許文献2】
特開平11−293109号公報
【特許文献3】
特公平2−54853号公報
【特許文献4】
特公平5−45629号公報
【特許文献5】
特開平6−93180号
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、PAS樹脂、PAI樹脂およびポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物の相溶性を改善し、溶融時の複合化を容易とし、成形時のモールドデポジット及び成形品の層剥離の発生を低減し、かつ溶融時の流動性、強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、(A)重量平均分子量Mwが1,000〜100,000であり、かつ分子中に含まれるアミン基が、0.02〜0.0002mol/gである芳香族ポリアミドイミド樹脂 1〜99重量%、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂 0.1〜95重量%、及び(C)高密度ポリエチレン樹脂 0.1〜10重量%とからなる樹脂組成物である。
【0011】
【発明の実施の形態】
(A)成分の芳香族ポリアミドイミド樹脂は、下記一般式で表される。
【化1】
(Ar1は炭素数6〜18の2価の芳香族基を表し、Ar2は炭素数6〜18の3価の芳香族基を表し、nは4〜400の整数を表す。)
【0012】
Ar1の具体例としては、以下のものが上げられるが、2種以上の化合物を混合して用いることもできる。
【化2】
【0013】
特に好ましいものとして、以下のものが例示される。
【化3】
【0014】
Ar2の具体例としては、以下のものが例示されるが、2種以上の化合物を混合して使用することもできる。
【化4】
【0015】
PAI樹脂の製造方法は、例えば芳香族ジアミンと無水トリメリット酸モノクロリドを重合反応させる酸クロリド法(例えば、特公昭46−15513号公報)、芳香族ジイソシアネートと無水トリメリット酸を重合反応させるイソシアネート法(例えば、特公昭44−19274号公報)、芳香族ジアミンと無水トリメリット酸を200〜250℃に加熱する直接重合法(例えば、特公昭49−4077号公報)など、公知のいずれの製造方法でも用いることができる。
【0016】
本発明に使用されるPAI樹脂は、GPCを用いたPEG換算重量平均分子量が1,000〜100,000であるものが使用できる。好ましくは、PEG換算重量平均分子量が1,000〜50,000であり、より好ましくは1,000〜30,000である。
【0017】
また、本発明に使用されるPAI樹脂の分子中に含まれるアミン基が、塩酸を使用した中和滴定で測定して0.02〜0.0002mol/gであるものが使用できる。好ましくは、0.005〜0.0002mol/gである。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物に使用される(B)成分であるPAS樹脂とは、式[−Ar−S−](但し、−Ar−は、アリーレン基を示す。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p、p’−ジフェニレンスルホン基、p、p’−ビフェニレン基、p、p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PAS樹脂としては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0019】
これらのPAS樹脂の中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPAS樹脂は、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度の観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63−33775号公報)により得ることができる。
【0020】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p、p’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
PAS樹脂に多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0022】
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。本発明で使用するPASは、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、通常、10〜600Pa・s、好ましくは50〜550Pa・s、より好ましくは70〜550Pa・sである。溶融粘度が異なる2種以上のPAS樹脂をブレンドして使用する場合には、ブレンド物の溶融粘度が前記範囲内にあることが好ましい。また、PAS樹脂の溶融粘度が100Pa・s以上であることが、機械的強度や靭性などの観点から特に望ましい。PAS樹脂の溶融粘度が小さすぎると、機械的強度や靭性などの物性が不充分となる恐れがある。PAS樹脂の溶融粘度が大きすぎると、溶融流動性が不充分となり、射出成形性や押し出し成形性が不充分となる恐れがある。
【0023】
本発明で使用するPAS樹脂は、重合終了後の洗浄したものを使用することができるが、さらに、塩酸、酢酸などの酸を含む水溶液、あるいは水−有機溶剤混合溶液により処理したものや、塩化アンモニウムなどの塩溶液で処理を行ったものなどを使用することが好ましい。特に、アセトン:水=1:2(容積比)に調整した混合溶媒中でのpHが8以下を示すようになるまで洗浄処理したPASを用いると、樹脂組成物の溶融流動性及び機械的物性をより一層向上させることができる。
【0024】
本発明で使用するPAS樹脂は、100μm以上の平均粒子径を有する粒状物であることが望ましい。PAS樹脂の平均粒子径が小さすぎると、押出機による溶融押出しの際、フィード量が制限されるため、樹脂組成物の押出機内での滞留時間が長くなり、樹脂組成物の劣化等の問題が生じる恐れがある。また、製造効率上も望ましくない。
【0025】
本発明において、(C)成分として用いられる高密度ポリエチレン樹脂としては、例えば密度0.94〜0.97g/cm3、粘度平均分子量が2万〜20万程度のポリエチレン等を挙げることができる。
【0026】
上記高密度ポリエチレン樹脂としては、粉末状のものがよく、平均粒子径が200μm以下、好ましくは0.1〜20μmのものがよい。平均粒子径が上記範囲内にある粉末状ポリエチレンを使用すると、表面性や外観に優れ、寸法精度のよい樹脂成形品を得ることができる。
【0027】
本発明の(A)成分であるPAI樹脂、(B)成分のPAS樹脂、(C)成分である高密度ポリエチレン樹脂の比率は、(A)/(B)が1/95〜99/0.1重量比、好ましくは5/95〜80/20重量比、さらに好ましくは10/90〜70/30重量比の範囲である。(A)成分のPAI樹脂が少なすぎると、耐熱性および動摩擦係数等摺動性が低下する。多すぎると、流動性が低下する。((A)+(B))/(C)の比率は、99.9/0.1〜90/10重量比、好ましくは99.8/0.2〜92/8重量比、さらに好ましくは99.5/0.5〜93/7重量比である。(C)成分の高密度ポリエチレン樹脂が少なすぎると、動摩擦係数や比摩擦量等の摺動性が低下する。多すぎると、耐熱性が低下する。
【0028】
本発明に使用する樹脂組成物は、芳香族ポリアミドイミド樹脂、PAS樹脂を溶融混練りして製造される。溶融混練り温度は250〜400℃、好ましくは280〜360℃である。混練り方法は、押し出し機、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールその他で行うことが出来るが、好ましい方法は、2軸押し出し機による方法である。
【0029】
本発明に使用される樹脂組成物には、所望に応じて、充填材、顔料、滑剤、可塑剤、安定剤、紫外線剤、難燃剤、難燃助剤の添加剤、他の樹脂などその他の成分が適宣配合され得る。
【0030】
充填材の例としては、ガラスビーズ、ウオラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、二酸化珪素、クレー、アスベスト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、ケイソウ土、グラファイト、カーボランダム、二硫化モリブデンに代表される鉱物質充填材;ガラス繊維、ミルドファイバー、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、等を挙げることが出来る。充填材は、樹脂組成物の1〜70重量%使用することが出来る。好ましい充填材は、ガラス繊維、ミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維であり、ウレタン、アミノ系等のシランカップリング剤で処理したものも好適に使用できる。
【0031】
顔料としては、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛等が例示できる。
【0032】
滑剤としては、鉱物油、シリコン油、エチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ステアリン酸ナトリウムなどの金属塩、モンタン酸ナトリウム等の金属塩、モンタン酸アミドなどが代表的なものとして例示される。
【0033】
また可塑剤として、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基、及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を含有するアルコキシシラン化合物またはハロシラン化合物が使用できる。
これらの官能基含有シラン化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の可塑材として、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸化合物等、エピスルフィド基を持つ化合物等が挙げられる。また、一般に用いられる紫外線吸収剤、着色剤等を用いることができる。
【0034】
難燃剤としては、トリフェニルフォスフェートのようなリン酸エステル類、デカブロモビフェニル、ペンタブロモトルエン、ブロモ化エポキシ樹脂、等の臭化化合物;メラミン誘導体などの含窒素リン化合物等が挙げられる。難燃助剤を使用しても良く、その例としては、アンチモン、ほう素、亜鉛等の化合物等が挙げられる。
【0035】
他樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、4フッ化エチレンをはじめとするフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の芳香族樹脂が挙げられる。
【0036】
本発明においては、上記のような(A)芳香族ポリアミドイミド樹脂と(B)PAS樹脂と(C)粉末状高密度ポリエチレンよりなる樹脂組成物を得るが、成形は、通常の射出成形法によって行われ、シリンダー温度は、290〜360℃の範囲で行い、金型は十分な耐熱性を得るために120〜160℃にすることが望ましい。また、耐熱性を改良し、且つ残留応力を取り除く目的で成形後に熱処理することが望ましい。特に、金型温度が120℃より低い温度で成形した場合は熱処理するのが好ましい。熱処理の方法は、特に限定されるものではなく、例えば通常の熱風式オーブン、電子レンジまたはオーブンレンジを用いられる。熱処理温度は、150〜300℃、好ましくは、180〜280℃、最も好ましくは、200〜260℃で30秒〜48時間、好ましくは1時間〜36時間常圧もしくは減圧で行うこともできる。
【0037】
【実施例】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例に用いる物質は下記のもの及び合成例で製造したものである。
【0038】
合成例1
水分含有量15ppmのN−メチルピロリドン3リットルを、5リットルの攪拌機、温度計、及び先端に塩化カルシウムを充填した乾燥管を装着した還流冷却器を備えた反応器に仕込んだ。ここに無水トリメリット酸555g(50モル%)、次いで2,4−トリレンジイソシアネート503g(50モル%)を加えた。無水トリメリット酸添加時の系内水分は30ppmであった。最初、室温から30分を要して内容物温度を120℃とし、この温度に保ったまま8時間継続した。重合終了後N−メチルピロリドンの2倍容量のメタノール中に強力な攪拌下で重合液を滴下し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーを吸引ろ別し、さらにメタノールでよく洗浄し、200℃で減圧乾燥を行いポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=9,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.001mol/gであった。
【0039】
合成例2
5リットルの攪拌機を備えた反応器にアセトン1.5リットル、および水1.5リットルを仕込み、次いでトリエチルアミン202g、次いで無水トリメリット酸クロリド421g(50モル%)、さらにm−トリレンジアミン244g(50モル%)を加えた。室温で2時間攪拌し、析出したポリマーを吸引ろ別し、さらにメタノールでよく洗浄し、200℃で減圧乾燥を24時間行いポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=7,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.0007mol/gであった。
【0040】
合成例3
合成例1で無水トリメリット酸および2,4−トリレンジイソシアネートを加えた後に室温から50分を要して内容物温度を200℃とし、この温度を保ったまま6時間継続した。その後ポリマーを析出させた以降は合成例1と同様の方法にてポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=120,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.0008mol/gであった。
【0041】
合成例4
合成例1で無水トリメリット酸および2,4−トリレンジイソシアネートを加えた後に室温から20分を要して内容物温度を90℃とし、この温度を保ったまま50分継続した。ついで115℃に昇温し、この温度に保ったまま8時間継続した。その後は合成例1と同様の方法にてポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=8,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.00001mol/gであった。
【0042】
実施例1
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂47。5重量%とPAS樹脂(呉羽化学工業(株)製、W−205A)47.5重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)5重量%をブレンドし、2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化して樹脂組成物を製造した。
このペレットを射出成形し、1/8インチ厚の抗折試験片を得た。この試験片を用いて、曲げ強度、曲げ歪み(島津製作所(株)製、オートグラフ AG5000B)を測定した。熱変形温度(18.6kg/cm2荷重)もこの試験片を用いて、窒素雰囲気下で測定(安田精機(株)製、HD−500−PC)した。摺動特性については、摺動用リングを成形し、スラスト摩擦摩耗試験機(オリエンテック製)を用いて測定した。相手材には鋼(S45C)を用いた。結果を表1に示した。
【0043】
実施例2
合成例2で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0044】
実施例3
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂49.5重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)49.5重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)1重量%をブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0045】
比較例1
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂40重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)40重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)20重量%ブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0046】
比較例2
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂50重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)50重量%をブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0047】
比較例3
合成例3で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0048】
比較例4
合成例4で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、PAS樹脂、芳香族ポリアミドイミド樹脂、及び高密度ポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物に対して、該芳香族ポリアミドイミド樹脂として、分子中にアミン基をある特定量含有するものを使用することによって、樹脂の相溶性が改善され、溶融時に複合化が容易となり、成形時のモールドデポジット及び成形品の層剥離の発生を低減することができ、かつ溶融時の流動性、強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料を提供するものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、押出成形性、射出成形性に優れ、かつ溶融時の流動性及び強度、靭性に優れる新規な摺動部材用耐熱性樹脂組成物に係わる。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリアミドイミド樹脂(以下、PAI樹脂と略記する。)は、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性に優れ、しかも自己潤滑性をもつプラスチック材料である。しかしながら、ワニス、フィルム用途以外は、溶融流動性に劣り、ほとんどのものは射出成形が困難な場合が多い。そのため、コンプレッションモールド法による成形を行っているのが現状である。
【0003】
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPSと略記する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略記する。)は、耐熱性、電気特性、耐溶剤性に優れ、特に溶融流動性が優れているのが特徴である。
【0004】
そして、PAI樹脂およびPAS樹脂を複合化することにより、耐熱性、機械強度、流動性に優れた樹脂組成物を得られることが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
しかし、上記の樹脂組成物においてもPAI樹脂が良好に相溶化しておらず、複合化後、良好な溶融流動性、靭性、機械的強度のある材料は得られていない。そのため、精密成形や薄物成形等の用途に不適である。さらに、動摩擦係数及び磨耗量等の摺動性の改善も不十分である。
【0006】
動摩擦係数、磨耗量を低下させる手段としては、ポリアミド樹脂や非晶性熱可塑性樹脂に、粉末状高密度ポリエチレンを添加すると、機械的特性、熱変形温度及び成形収縮率が良好となり、動摩擦係数及び摩耗量が低下し、相手材を磨耗しないことが知られている(特許文献3及び特許文献4参照)。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂にα―オレフィン系共重合体を添加することで、耐衝撃性及び靭性を改良できることが知られている(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながらポリエチレンを添加する場合、マトリックスの熱可塑性樹脂と摺動性付与剤であるポリエチレンとが、射出成形時に相分離を起こし、金型表面にポリエチレン皮膜を形成し易いという問題がある。そのため、射出成形を重ねるに伴い、金型付着分(モールドデポジット)が成長して、次第に寸法精度が出なくなり寸法不良が生じ、また金型付着物の除去については適当な溶媒がなく、金型の分解掃除が不可欠となる。また、ポリエチレンを添加することで、樹脂組成物の耐熱性が著しく低下することが判明した。
【0008】
【特許文献1】
特許第2868043号公報
【特許文献2】
特開平11−293109号公報
【特許文献3】
特公平2−54853号公報
【特許文献4】
特公平5−45629号公報
【特許文献5】
特開平6−93180号
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、PAS樹脂、PAI樹脂およびポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物の相溶性を改善し、溶融時の複合化を容易とし、成形時のモールドデポジット及び成形品の層剥離の発生を低減し、かつ溶融時の流動性、強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、(A)重量平均分子量Mwが1,000〜100,000であり、かつ分子中に含まれるアミン基が、0.02〜0.0002mol/gである芳香族ポリアミドイミド樹脂 1〜99重量%、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂 0.1〜95重量%、及び(C)高密度ポリエチレン樹脂 0.1〜10重量%とからなる樹脂組成物である。
【0011】
【発明の実施の形態】
(A)成分の芳香族ポリアミドイミド樹脂は、下記一般式で表される。
【化1】
(Ar1は炭素数6〜18の2価の芳香族基を表し、Ar2は炭素数6〜18の3価の芳香族基を表し、nは4〜400の整数を表す。)
【0012】
Ar1の具体例としては、以下のものが上げられるが、2種以上の化合物を混合して用いることもできる。
【化2】
【0013】
特に好ましいものとして、以下のものが例示される。
【化3】
【0014】
Ar2の具体例としては、以下のものが例示されるが、2種以上の化合物を混合して使用することもできる。
【化4】
【0015】
PAI樹脂の製造方法は、例えば芳香族ジアミンと無水トリメリット酸モノクロリドを重合反応させる酸クロリド法(例えば、特公昭46−15513号公報)、芳香族ジイソシアネートと無水トリメリット酸を重合反応させるイソシアネート法(例えば、特公昭44−19274号公報)、芳香族ジアミンと無水トリメリット酸を200〜250℃に加熱する直接重合法(例えば、特公昭49−4077号公報)など、公知のいずれの製造方法でも用いることができる。
【0016】
本発明に使用されるPAI樹脂は、GPCを用いたPEG換算重量平均分子量が1,000〜100,000であるものが使用できる。好ましくは、PEG換算重量平均分子量が1,000〜50,000であり、より好ましくは1,000〜30,000である。
【0017】
また、本発明に使用されるPAI樹脂の分子中に含まれるアミン基が、塩酸を使用した中和滴定で測定して0.02〜0.0002mol/gであるものが使用できる。好ましくは、0.005〜0.0002mol/gである。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物に使用される(B)成分であるPAS樹脂とは、式[−Ar−S−](但し、−Ar−は、アリーレン基を示す。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p、p’−ジフェニレンスルホン基、p、p’−ビフェニレン基、p、p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PAS樹脂としては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0019】
これらのPAS樹脂の中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPAS樹脂は、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度の観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63−33775号公報)により得ることができる。
【0020】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p、p’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
PAS樹脂に多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0022】
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得られやすいので好ましい。本発明で使用するPASは、温度310℃、剪断速度1200/秒で測定した溶融粘度が、通常、10〜600Pa・s、好ましくは50〜550Pa・s、より好ましくは70〜550Pa・sである。溶融粘度が異なる2種以上のPAS樹脂をブレンドして使用する場合には、ブレンド物の溶融粘度が前記範囲内にあることが好ましい。また、PAS樹脂の溶融粘度が100Pa・s以上であることが、機械的強度や靭性などの観点から特に望ましい。PAS樹脂の溶融粘度が小さすぎると、機械的強度や靭性などの物性が不充分となる恐れがある。PAS樹脂の溶融粘度が大きすぎると、溶融流動性が不充分となり、射出成形性や押し出し成形性が不充分となる恐れがある。
【0023】
本発明で使用するPAS樹脂は、重合終了後の洗浄したものを使用することができるが、さらに、塩酸、酢酸などの酸を含む水溶液、あるいは水−有機溶剤混合溶液により処理したものや、塩化アンモニウムなどの塩溶液で処理を行ったものなどを使用することが好ましい。特に、アセトン:水=1:2(容積比)に調整した混合溶媒中でのpHが8以下を示すようになるまで洗浄処理したPASを用いると、樹脂組成物の溶融流動性及び機械的物性をより一層向上させることができる。
【0024】
本発明で使用するPAS樹脂は、100μm以上の平均粒子径を有する粒状物であることが望ましい。PAS樹脂の平均粒子径が小さすぎると、押出機による溶融押出しの際、フィード量が制限されるため、樹脂組成物の押出機内での滞留時間が長くなり、樹脂組成物の劣化等の問題が生じる恐れがある。また、製造効率上も望ましくない。
【0025】
本発明において、(C)成分として用いられる高密度ポリエチレン樹脂としては、例えば密度0.94〜0.97g/cm3、粘度平均分子量が2万〜20万程度のポリエチレン等を挙げることができる。
【0026】
上記高密度ポリエチレン樹脂としては、粉末状のものがよく、平均粒子径が200μm以下、好ましくは0.1〜20μmのものがよい。平均粒子径が上記範囲内にある粉末状ポリエチレンを使用すると、表面性や外観に優れ、寸法精度のよい樹脂成形品を得ることができる。
【0027】
本発明の(A)成分であるPAI樹脂、(B)成分のPAS樹脂、(C)成分である高密度ポリエチレン樹脂の比率は、(A)/(B)が1/95〜99/0.1重量比、好ましくは5/95〜80/20重量比、さらに好ましくは10/90〜70/30重量比の範囲である。(A)成分のPAI樹脂が少なすぎると、耐熱性および動摩擦係数等摺動性が低下する。多すぎると、流動性が低下する。((A)+(B))/(C)の比率は、99.9/0.1〜90/10重量比、好ましくは99.8/0.2〜92/8重量比、さらに好ましくは99.5/0.5〜93/7重量比である。(C)成分の高密度ポリエチレン樹脂が少なすぎると、動摩擦係数や比摩擦量等の摺動性が低下する。多すぎると、耐熱性が低下する。
【0028】
本発明に使用する樹脂組成物は、芳香族ポリアミドイミド樹脂、PAS樹脂を溶融混練りして製造される。溶融混練り温度は250〜400℃、好ましくは280〜360℃である。混練り方法は、押し出し機、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールその他で行うことが出来るが、好ましい方法は、2軸押し出し機による方法である。
【0029】
本発明に使用される樹脂組成物には、所望に応じて、充填材、顔料、滑剤、可塑剤、安定剤、紫外線剤、難燃剤、難燃助剤の添加剤、他の樹脂などその他の成分が適宣配合され得る。
【0030】
充填材の例としては、ガラスビーズ、ウオラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、二酸化珪素、クレー、アスベスト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、ケイソウ土、グラファイト、カーボランダム、二硫化モリブデンに代表される鉱物質充填材;ガラス繊維、ミルドファイバー、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、等を挙げることが出来る。充填材は、樹脂組成物の1〜70重量%使用することが出来る。好ましい充填材は、ガラス繊維、ミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維であり、ウレタン、アミノ系等のシランカップリング剤で処理したものも好適に使用できる。
【0031】
顔料としては、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛等が例示できる。
【0032】
滑剤としては、鉱物油、シリコン油、エチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ステアリン酸ナトリウムなどの金属塩、モンタン酸ナトリウム等の金属塩、モンタン酸アミドなどが代表的なものとして例示される。
【0033】
また可塑剤として、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基、及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を含有するアルコキシシラン化合物またはハロシラン化合物が使用できる。
これらの官能基含有シラン化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の可塑材として、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸化合物等、エピスルフィド基を持つ化合物等が挙げられる。また、一般に用いられる紫外線吸収剤、着色剤等を用いることができる。
【0034】
難燃剤としては、トリフェニルフォスフェートのようなリン酸エステル類、デカブロモビフェニル、ペンタブロモトルエン、ブロモ化エポキシ樹脂、等の臭化化合物;メラミン誘導体などの含窒素リン化合物等が挙げられる。難燃助剤を使用しても良く、その例としては、アンチモン、ほう素、亜鉛等の化合物等が挙げられる。
【0035】
他樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、4フッ化エチレンをはじめとするフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の芳香族樹脂が挙げられる。
【0036】
本発明においては、上記のような(A)芳香族ポリアミドイミド樹脂と(B)PAS樹脂と(C)粉末状高密度ポリエチレンよりなる樹脂組成物を得るが、成形は、通常の射出成形法によって行われ、シリンダー温度は、290〜360℃の範囲で行い、金型は十分な耐熱性を得るために120〜160℃にすることが望ましい。また、耐熱性を改良し、且つ残留応力を取り除く目的で成形後に熱処理することが望ましい。特に、金型温度が120℃より低い温度で成形した場合は熱処理するのが好ましい。熱処理の方法は、特に限定されるものではなく、例えば通常の熱風式オーブン、電子レンジまたはオーブンレンジを用いられる。熱処理温度は、150〜300℃、好ましくは、180〜280℃、最も好ましくは、200〜260℃で30秒〜48時間、好ましくは1時間〜36時間常圧もしくは減圧で行うこともできる。
【0037】
【実施例】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例に用いる物質は下記のもの及び合成例で製造したものである。
【0038】
合成例1
水分含有量15ppmのN−メチルピロリドン3リットルを、5リットルの攪拌機、温度計、及び先端に塩化カルシウムを充填した乾燥管を装着した還流冷却器を備えた反応器に仕込んだ。ここに無水トリメリット酸555g(50モル%)、次いで2,4−トリレンジイソシアネート503g(50モル%)を加えた。無水トリメリット酸添加時の系内水分は30ppmであった。最初、室温から30分を要して内容物温度を120℃とし、この温度に保ったまま8時間継続した。重合終了後N−メチルピロリドンの2倍容量のメタノール中に強力な攪拌下で重合液を滴下し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーを吸引ろ別し、さらにメタノールでよく洗浄し、200℃で減圧乾燥を行いポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=9,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.001mol/gであった。
【0039】
合成例2
5リットルの攪拌機を備えた反応器にアセトン1.5リットル、および水1.5リットルを仕込み、次いでトリエチルアミン202g、次いで無水トリメリット酸クロリド421g(50モル%)、さらにm−トリレンジアミン244g(50モル%)を加えた。室温で2時間攪拌し、析出したポリマーを吸引ろ別し、さらにメタノールでよく洗浄し、200℃で減圧乾燥を24時間行いポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=7,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.0007mol/gであった。
【0040】
合成例3
合成例1で無水トリメリット酸および2,4−トリレンジイソシアネートを加えた後に室温から50分を要して内容物温度を200℃とし、この温度を保ったまま6時間継続した。その後ポリマーを析出させた以降は合成例1と同様の方法にてポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=120,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.0008mol/gであった。
【0041】
合成例4
合成例1で無水トリメリット酸および2,4−トリレンジイソシアネートを加えた後に室温から20分を要して内容物温度を90℃とし、この温度を保ったまま50分継続した。ついで115℃に昇温し、この温度に保ったまま8時間継続した。その後は合成例1と同様の方法にてポリアミドイミド樹脂を得た。GPCを用いてPEG換算重量平均分子量を測定したところ、Mw=8,000であった(溶媒ジメチルホルムアミド)。ポリアミドイミド樹脂をジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸を使用した中和滴定を行なったところ、分子中に含まれるアミン基が0.00001mol/gであった。
【0042】
実施例1
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂47。5重量%とPAS樹脂(呉羽化学工業(株)製、W−205A)47.5重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)5重量%をブレンドし、2軸押出機を用いて320℃で溶融混錬りしてペレット化して樹脂組成物を製造した。
このペレットを射出成形し、1/8インチ厚の抗折試験片を得た。この試験片を用いて、曲げ強度、曲げ歪み(島津製作所(株)製、オートグラフ AG5000B)を測定した。熱変形温度(18.6kg/cm2荷重)もこの試験片を用いて、窒素雰囲気下で測定(安田精機(株)製、HD−500−PC)した。摺動特性については、摺動用リングを成形し、スラスト摩擦摩耗試験機(オリエンテック製)を用いて測定した。相手材には鋼(S45C)を用いた。結果を表1に示した。
【0043】
実施例2
合成例2で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0044】
実施例3
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂49.5重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)49.5重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)1重量%をブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0045】
比較例1
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂40重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)40重量%と粉末状高密度ポリエチレン(三井化学(株)製、ミペロンXM−200)20重量%ブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0046】
比較例2
合成例1で製造した芳香族ポリアミドイミド樹脂50重量%とPAS樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、DIC−PPS−LR03)50重量%をブレンドし、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0047】
比較例3
合成例3で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0048】
比較例4
合成例4で示したポリアミドイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物を製造し、物性を測定した。結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、PAS樹脂、芳香族ポリアミドイミド樹脂、及び高密度ポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物に対して、該芳香族ポリアミドイミド樹脂として、分子中にアミン基をある特定量含有するものを使用することによって、樹脂の相溶性が改善され、溶融時に複合化が容易となり、成形時のモールドデポジット及び成形品の層剥離の発生を低減することができ、かつ溶融時の流動性、強度、靭性、摩擦磨耗特性に優れた耐熱性摺動材料を提供するものである。
Claims (2)
- (A)重量平均分子量Mwが1,000〜100,000であり、かつ分子中に含まれるアミン基が0.02〜0.0002mol/gである芳香族ポリアミドイミド樹脂 1〜99重量%、(B)ポリアリーレンスルフィド樹脂 0.1〜95重量%、及び(C)高密度ポリエチレン樹脂 0.1〜10重量%からなる摺動部材用樹脂組成物。
- 高密度ポリエチレン樹脂が粉末状であり、その平均粒子径が200μm以下である請求項1記載の摺動部材用樹脂組成物。
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