本発明は、移動する被測定物にレーザ光を照射し、被測定物の移動速度に応じた光の周波数偏移量を物体からの散乱光を受光して被測定物の速度を検出する速度計に関する。
一般に光源と観測者が相対的な運動をしている時、ドップラー効果により光は周波数の変化を受ける。レーザドップラー速度計(以下、LDV(Laser Doppler Velocimeter)と言う。)はこの効果を利用して、移動する被測定物にレーザ光を照射して、その被測定物からの散乱光のドップラー周波数偏移を測定し、被測定物の移動速度を測定するものである。このLDVは1964年にYehとCumminsによって発表され(Appl. Phys. Lett. 4‐10 (1964) 176)、現在では一般に広く知られており、実用化されている。
図13に従来の代表的なLDVの光学系図を示す。
図13において、101は半導体レーザ(以下、LD(Laser Diode)と言う。)、102は受光素子であるフォトダイオード(以下、PD(Photo Diode)と言う。)、103は回折格子、104はコリメータレンズ(以下、CLと言う。)、105はミラー、106は集光レンズ、107は回折格子3による+1次回折光の第1の光束、108は回折格子3による−1次回折光の第2の光束、113は被測定物である。
上記構成の光学系では、LD101から出射したレーザ光はCL104により平行光束に変換された後、回折格子103により角度θの回折角で±1次回折光に分割されて第1,第2の光束107,108となる。そして、第1,第2の光束107,108はそれぞれミラー105で反射した後、被測定物113の表面に入射角θでもって入射して再度重ね合わせられる。被測定物113により散乱された第1,第2の光束107,108はドップラー周波数偏移を受けており、LD101の発振周波数と若干異なる。このため、被測定物113により散乱された第1,第2の光束107,108の干渉波はうなりを生じる。このうなりをビート信号と呼ぶ。このビート信号のうなり周波数をPD102でヘテロダイン検波することにより、被測定物113の移動速度を求めることができる。以下詳細に説明する。
いま、被測定物113の移動方向を図13のように右向きを正方向とすると、第1の光束107に対しては−f
d、第2の光束108に対しては+f
dのドップラー周波数偏移を受け、第1の光束107の見かけの周波数は(f
0−f
d)、第2の光束8の見かけの周波数は(f
0+f
d)となる。ただし、f
0はLD1の発振周波数である。このとき、LD101から出射する光の電場は、E
0・cos(2πf
0t)と表すことができるので、第1の光束107は次の式1で、第2の光束108は次の式2で表わすことができる。
(式1)
(式2)
ただし、f0はLD101の出射光の周波数、E0はLD101の出射光の振幅、EAは第1の光束107の振幅、EBは第2の光束108の振幅、φAは第1の光束107の位相、φBは第2の光束108の位相である。
光の周波数は一般に100THz(〜10
14Hz)であるので、式1や式2の周波数情報を直接測定することができない。このため、上記のようにヘテロダイン検波が一般に用いられ、f
0≫f
dが成り立つので、式1と式2の干渉波は、
(式3)
と表すことができる。ただし、式3で左辺の<>は時間平均を表す。よって、PD102によりこの干渉波の周波数を測定することができる。
図14は被測定物113が速度Vで移動するとき、2つの光束がそれぞれ任意の角度α,βで被測定物113に入射し、任意の角度γで散乱光を受光した時の図である。
ドップラー効果による周波数の偏移量は厳密には相対論によるローレンツ変換を用いて求めるが、移動速度Vが光速cに比べて十分小さいときには、近似的に以下のように求めることができる。光源A、光源Bからの光と移動物体の相対速度V
A1,V
B1は、
(式4)
と表せる。また、上記被測定物113から見たそれぞれの光の見かけの周波数f
A1,f
B1は、
(式5)
それぞれの散乱(反射)光と移動物体の相対速度V
A2,V
B2は、
(式6)
となる。よって、観測点から見た光の周波数f
A2,f
B2は、
(式7)
と表すことができる。式7の周波数と入射光の周波数 との差がドップラー周波数偏移量2f
dになる。いま、観測点で測定される2つの光束のうなり周波数f
dは、c≫Vを用いて、
(式8)
となり、観測点の位置(角度:γ)に依らないことがわかる。図13においてはα=β=θであるので、図13の一般的なLDV光学系において、式8より、
(式9)
が成立する。よって、式3で表される周波数2f
dを測定し、式9を用いて計算することにより、被測定物の移動速度Vを求めることができる。
また、式9は幾何学的に次のように考えることも可能である。図15は図13の2つの光束(第1,第2の光束7,8)が再度重なり合う領域の拡大図である。それぞれ入射角θで2光束が交差しており、図中の破線はそれぞれの光束の等波面の一部を示している。この破線と破線との間隔が光の波長λとなる。また、垂直の太線が干渉縞の明部であり、その間隔をΔとすると、このΔは次の式10で求まる。
(式10)
図15のように、物体(●で図示)が速度Vで干渉縞に垂直に通過するとき、その周波数fは
(式11)
となり、式9と等しくなる。
また、以上のような一般的なLDVにおいては上記のようにして移動速度を求めることはできるが、被測定物の移動方向を検知することはできない。これに対して、特開平3−235060号公報(特許文献1)では図13の回折格子3を速度V
gで回転させることにより移動方向検知を可能としている。これにより、回折格子103で光が反射する際、それぞれの光束はV
gに比例したドップラー周波数偏移を受けるので、PD102で測定されるうなりの周波数2f
dは、
(式12)
で得られる。よって、既知の速度V
gに対し、移動速度Vの符号(正負)により2f
dの大小関係が決まるので移動方向を求めることができる。しかし、このような光学系においては、回折格子103の回転機構が必要であるため、装置の大型化、コスト増大となる。また、回折格子103の回転速度を精密に保つ必要があるが、偏心等による誤差、回転による振動等も問題となるため精密な測定に用いることは困難であるという問題がある。
このような問題を解決する速度計が特開平4−204104号公報(特許文献2)に開示されている。この特開平4−204104号公報では周波数シフタを用い、入射光束の周波数を変化させることにより被測定物の移動方向の検出を可能にしている。
図16に特開平4−204104号公報の速度計の光学系図を示す。
上記速度計によれば、LD101より出射した光は、CL104で平行光束となり、ビームスプリッタ(以下、BSと言う。)109にて2つの光束に分割される。それぞれの光束はミラー105で反射された後、音響光学素子(以下、AOMと言う。)110によりf
1,f
2の周波数シフトを受ける。そして、回折格子3により被測定物113の表面に再び集光されて、PD102を用いて被測定物113からの散乱光のうなり周波数を検出する。このとき検出される周波数2f
dは、
(式13)
となる。よって、被測定物113の移動方向によりVの符号が変わるので、既知の周波数シフト量|f
1−f
2|に対する2f
dの大小関係により、被測定物の移動方向を検知することができる。
また、特開平8−15435号公報(特許文献3)では、特開平4‐204104号公報と同様の原理によって、図17に示す電気光学素子(以下、EOMと言う。)111を用いて周波数を変化させている。より詳しくは、レーザ光源であるLD101より出射した光は、CL104で平行光束となった後、回折格子103にて2つの第1,第2の光束107,108に分割される。その第1,第2の光束107,108はともにEOM111に入射する。このとき、第2の光束108に対してはバイアスを印加してf
Rだけ周波数をシフトさせる。そして、第1,第2の光束107,108はミラー105で反射された後、被測定物113の表面に集光する。その表面からの散乱光のうなり周波数をPD102で検出する。このとき検出される周波数2f
dは、
(式14)
となる。よって、式13と同様、被測定物113の移動方向によりVの符号が変わるので、既知の周波数シフト量f
Rに対する2f
dの大小関係により移動方向を検出することができる。
しかしながら、上記のような周波数シフタを用いて移動方向を検知する光学系においては、光学系が複雑になり、また周波数シフタを駆動するための電源等が必要となり、例えばAOM110により周波数変調を与えるために必要な電圧は約数十V、EOM111により周波数変調を与えるために必要な電圧は約百Vであり、大型の電源が必要となるため装置が大型化してしまうという問題がある。
また、LDVを含め各種センサに対する装置小型化、低消費電力化への要望は高まる一方で、殊に民生用機器においてはそのトレンドは非常に強い。LDVでは光の散乱光を検出するため、測定する物体により異なるが、一般にその物体からの信号光は微弱である。光感度の高い光検出器である光電子増倍管を用いる方法もあるが、光電子増倍管をLDVに用いると装置自体が大きくなってしまう。つまり、光電子増倍管を備えたLDVを小型の民生機器に応用するには不適である。このため、装置の小型化を阻害しないように、光検出器としては光感度が劣るもののフォトダイオードを一般に用いている。そのため、できるだけ多くの信号光を光検出器に入射させることが望ましい。しかしながら、光学部品の配置等の問題により、被測定物の光の散乱面から集光レンズ6までの距離に制限があることが多く、単に受光系を接近させるには限界がある。また、入射光量を増加させることも考えられ、高出力レーザ光源としてHe−NeやAr
+の気体レーザ等を使用することができるが、装置の小型化や低消費電力化という観点からは半導体レーザを用いることが望ましい。
特開平3−235060号公報
特開平4−204104号公報
特開平8−15435号公報
そこで、本発明は、大型化を阻止できると共に、被測定物の2次元の移動速度および移動方向を検出できる小型な速度計を提供することにある。
上記目的を達成するため、第1の発明の速度計は、
前端面から第1の光束を出射すると共に、後端面から第2の光束を出射する半導体発光素子と、
上記第1,第2の光束を分岐する第1の光分岐素子群と、
上記第1の光分岐素子群と被測定物との間の複数の光軸上に配置され、上記第1の光分岐素子群からの光束を分岐する第2の光分岐素子群と、
上記被測定物による散乱光を受ける受光素子と、
上記受光素子の出力から周波数偏移量を算出する信号処理回路部とを備え、
上記第2の光分岐素子群で分岐した複数の光束を上記被測定物の表面に照射して、上記被測定物の表面を含む平面内において互いに交差するx,y軸のうち、上記x軸上に第1,第2検出点を形成すると共に、上記y軸上に第3,第4検出点を形成し、
上記第1検出点に入射する2つの光束の光軸を含む第1平面と、上記第2検出点に入射する2つの光束の光軸を含む第2平面と、上記被測定物の表面を含む第3平面とが二等辺三角柱を形成し、かつ、上記第1,第2検出点のそれぞれに入射する2つの光束は上記第3平面に対して略同じ入射角であり、
上記第3検出点に入射する2つの光束の光軸を含む第4平面と上記第3平面とがなす角と、上記第4検出点に入射する2つの光束の光軸を含む第5平面と上記第3平面とがなす角とが略等しく、かつ、上記第3,第4検出点のそれぞれに入射する2つの光束は上記第3平面に対して略同じ入射角であり、
上記x,y軸に対して垂直なz軸を設定し、上記x,z軸を含む面をxz平面とし、上記y,z軸を含む面をyz平面としたとき、上記第1,第2の光分岐素子群のそれぞれが、上記xz平面に対して対称性を有し、かつ、上記yz平面に対して対称性を有することを特徴としている。
上記構成の速度計によれば、上記半導体発光素子が、前端面から第1の光束を出射すると共に、後端面から第2の光束を出射する。この第1,第2の光束は、第1,第2の光分岐素子群を順次経由して複数の光束に分割される。この複数の光束を被測定物の表面に照射して、少なくともx軸上に第1,第2検出点を形成すると共に、少なくともy軸上に第3,第4検出点を形成する。このように形成した第1,第2,第3,第4検出点からの散乱光は、被測定物の速度に応じた周波数偏移量を有している。したがって、上記第1,第2検出点の少なくとも一方からの散乱光の周波数偏移量を信号処理回路部で算出することにより、被測定物のx軸方向の移動速度を検出することができる。また、上記第3,第4検出点の少なくとも一方からの散乱光の周波数偏移量を信号処理回路部で算出することにより、被測定物のy軸方向の移動速度を検出することができる。
また、上記第1検出点からの散乱光の周波数と、第2検出点からの散乱光の周波数との位相ずれに基づいて、x軸方向における被測定物の移動方向を検出することができる。
また、上記第3検出点からの散乱光の周波数と、第3検出点からの散乱光の周波数との位相ずれに基づいて、x軸方向における被測定物の移動方向を検出することができる。
また、上述したように、上記半導体発光素子の出射光の周波数を例えばAOMやEOM等で変えなくても、被測定物の2次元の移動速度および移動方向を検出できるので、大型化を阻止することができる。
一実施形態の速度計は、上記第1の光分岐素子群は第1,第2回折格子を含む。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2回折格子は1次回折光の光量よりも0次回折光の光量が小さい。
一実施形態の速度計は、上記第2の光分岐素子群は第1,第2,第3,第4ビームスプリッタを含む。
一実施形態の速度計は、上記第2の光分岐素子群は第3,第4,第5,第6回折格子を含む。
一実施形態の速度計は、上記第3,第4,第5,第6回折格子は1次回折光の光量よりも0次回折光の光量が小さい。
一実施形態の速度計は、上記第2の光分岐素子群は第1,第2,第3,第4光分岐素子を含み、
上記第1光分岐素子により分岐された一つの光束と、上記第3光分岐素子により分岐された一つの光束とが上記第1検出点を形成し、
上記第2光分岐素子により分岐された一つの光束と、上記第4光分岐素子により分岐された一つの光束とが上記第2検出点を形成し、
上記第1光分岐素子により分岐された他の一つの光束と、上記第2光分岐素子により分岐された他の一つの光束とが上記第3検出点を形成し、
上記第3光分岐素子により分岐された他の一つの光束と、上記第4光分岐素子により分岐された他の一つの光束とが上記第4検出点を形成する。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2,第3,第4検出点は、上記光束同士を上記被測定物の表面上で重ね合わせて形成する。
一実施形態の速度計は、上記x軸と上記y軸とは直交する。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2,第3,第4検出点のそれぞれから上記受光素子に入射する光の光軸は、上記第1,第2,第3,第4検出点のそれぞれに入射する2つの光束がなす角の2等分線と略一致する。
一実施形態の速度計は、上記x,y軸に対して垂直なz軸を設定したとき、上記第1,第2,第3,第4検出点のそれぞれに入射する2つの光束が重なる領域の上記z軸方向の長さは、上記被測定物の表面が位置する領域の上記z軸方向の長さよりも長い。
一実施形態の速度計は、上記第2回折格子による−1次回折光が通過するように配置され、上記第2回折格子の−1次回折光の位相を変更する位相変更部を備えている。
一実施形態の速度計は、上記第1回折格子による+1次回折光が通過するように配置され、上記第1回折格子の+1次回折光の位相を変更する第1位相変更部と、
上記第1回折格子による−1次回折光が通過するように配置され、上記第1回折格子の−1次回折光の位相を変更する第2位相変更部と、
上記第2回折格子による+1次回折光が通過するように配置され、上記第2回折格子の+1次回折光の位相を変更する第3位相変更部とを備えている。
一実施形態の速度計は、上記位相変更部による光の位相変更量をφ0としたとき、上記φ0が0<φ0<λ/2を満たす。
一実施形態の速度計は、上記φ0がλ/4である。
一実施形態の速度計は、上記位相変更部の材料として複屈折材料が用いられている。
一実施形態の速度計は、上記第1検出点を形成する各光束の位相差と、上記第2検出点とを形成する各光束の位相差との差の絶対値はπ/2より小さく、
上記第3検出点を形成する各光束の位相差と、上記第4検出点を形成する各光束の位相差との差の絶対値はπ/2より小さい。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2,第3,第4検出点と上記受光素子との間に配置された集光レンズを備えている。
一実施形態の速度計は、上記集光レンズがレンズアレイからなる単一部品である。
一実施形態の速度計は、上記第2の分岐素子群が含む複数の素子は同一の第1基板に形成されている。
一実施形態の速度計は、上記第2の分岐素子群が含む複数の素子が同一の第1基板に形成され、上記位相変更部が上記第1基板上に配置されている。
一実施形態の速度計は、上記第2の分岐素子群が含む複数の素子が同一の第1基板に形成され、上記集光レンズは上記第1基板に形成されている。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2,第3,第4検出点と上記受光素子との間に配置された集光レンズを備え、上記集光レンズは上記第1基板に形成されている。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子と上記第1の光分岐素子群との間に配置され、上記第1の光束の光軸の方向を変える第1光軸向変更部と、
上記半導体発光素子と上記第1の光分岐素子群との間に配置され、上記第2の光束の光軸の方向を変える第2光軸向変更部とを備え、
上記第1の分岐素子群が含む複数の素子は同一の第2基板に形成されている。
一実施形態の速度計は、上記第1基板と上記第2基板とが平行に配置される。
一実施形態の速度計は、上記第1基板と第2基板が同一の光学ブロックに含まれる。
一実施形態の速度計は、上記受光素子は、少なくとも上記第1,第2,第3,第4検出点からの散乱光を受ける1チップの素子である。
一実施形態の速度計は、上記受光素子は分割型フォトダイオードである。
一実施形態の速度計は、上記受光素子は信号処理回路を内蔵している。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子は、上記第1光軸向変更部と上記第2光軸向変更部との間の略中点に配置されている。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子と上記受光素子とは同一の基板を共有して一体化している。
一実施形態の速度計は、上記第1,第2,第3,第4検出点のそれぞれに入射する複数の光束の光量が略等しくなるように、上記半導体発光素子の端面に処理が施されている。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子と上記第1光軸向変更部との間には、上記第1の光束が通過する第1絞りが配置され、
上記半導体発光素子と上記第2光軸向変更部との間には、上記第2の光束が通過する第2絞りが配置されている。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子と上記第1光軸向変更部との間には、上記第1の光束が通過する第1のレンズ群が配置され、
上記半導体発光素子と上記第2光軸向変更部との間には、上記第2の光束が通過する第2のレンズ群が配置されている。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子がレーザダイオードである。
一実施形態の速度計は、上記半導体発光素子が複数の発光点を有する。
第2の発明の変位計は、上記第1の発明の速度計を備え、上記被測定物に関する速度情報および時間情報に基づいて上記被測定物の位置情報を算出することを特徴としている。
第3の発明の振動計は、上記第1の発明の速度計を備え、上記被測定物に関する速度情報および時間情報に基づいて上記被測定物の位置情報を算出することを特徴としている。
第1の発明の速度計によれば、第1,第2の光分岐素子群で得た複数の光束によって少なくとも第1,第2,第3,第4検出点を形成するので、第1,第2,第3,第4検出点の散乱光の周波数偏移量から、被測定物の2次元の移動速度と移動方向を検出できる。
また、半導体発光素子の出射光の周波数を例えばAOMやEOM等で変えなくても、被測定物の2次元の移動速度および移動方向を検出できるので、大型化を阻止することができる。
本発明の実施の形態を説明する前に、まずこの発明をより理解し易くするために参考例を説明する。
参考例1
図1に、本発明の参考例1の速度計の概略構成図を示す。図1では、各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。
上記速度計は、LD1、PD2、CL4a,4b、ミラー5a,5b、集光レンズ6、信号処理回路部10および絞り12a,12bを備えている。
上記LD1は(0,0,z1)に設置される。このLD1の代わりとしては、LED(Laser Emission Diode:発光ダイオード)等があるが、LEDを用いるよりもLDを用いる方が好ましい。これは、LDはLEDに比べてコヒーレンス性が非常によく、上記式3で示される2つの光束の干渉によるうなりを容易に生じるからである。また、上記PD2は(0,0,z2)、CL4aは(0,−y4,z1)、CL4bは(0,y4,z1)、ミラー5aは(0,−y5,z1)、ミラー5bは(0,y5,z1)、絞り12aは(0,−y12,z1)、絞り12bは(0,y12,z1)に設置される。また、上記信号処理回路部10はPD2の出力Sから周波数偏移量を算出する。
また、図1において、7は第1の光束、8は第2の光束、14は検出点(ビーム重なり領域)、15はz軸上に進行するビート信号を示している。上記第1,第2の光束7,8はLD1から端面からy軸と平行に出射する。また、x軸およびy軸を含む平面、つまりxy平面は被測定物の表面と略一致している。そして、(x,y,z)=(0,0,0)、つまり原点には検出点14が位置する。
上記LD1は、一般に、ウエハに所定の工程を施した後、ウエハをある長さでへき開してチップ状に切り分けられて作製される。通常、ほとんどの電子機器においては、LDの前端面(前方の端面)より出射するレーザ光を各種用途に応じて使用し、LDの後端面(後方の端面)より出射するレーザ光を直接PDで受光している。このPDの出力はLDのドライバーにフィードバックされて、LDの発光強度の安定化が図られている。
以下、図1の光学系の構成および機能を説明する。
LD1の前端面から第1の光束7がy軸と平行に出射すると共に、半導体素子1の後端面から第2の光束8がy軸と平行に出射する。そして、第1,第2の光束7,8は絞り12およびCL4a,4bを介して理想的な平行光束となる。一般に、LD1より出射した光の強度分布は光軸を中心にガウス分布をしており、そのガウス分布の裾の広がり方は光の変更方向に対して異なるファーフィールドパターン(FFP)となる。このため、上記LD1が出射した光をそのまま検出点14に照射すると、検出点14上で光強度のムラができ、図15で示した干渉縞の強度が一様でなくなるため、ビート信号を高精度に評価することが困難になる。このため、図1のように絞り12a,12bを設けることにより、LD1が出射した光束の外側の光強度の弱い部分をカットし、光強度の一様な光束を形成できる。
また、LD1より出射する光はある角度でもって広がりをもって進行する。その光をそのまま被測定物13に照射すると、進行距離が長くなるほど、その光は波面が球面状になり、平面波でなくなるため検出点14で図15のような干渉縞を形成しなくなってしまう。また、上記光の光束は広がるため、光強度が分散されてしまい、信号のS/Nが悪くなるという問題もある。このため、図1のようにCL4a,4bを適切な位置に設けることにより、LD1より出射する光を平行光束にできるため、その光の波面はその進行距離によらず平面波となる。
以上、図1の各構成要素について説明した内容は、以下全ての参考例および実施例においても該当するが、その説明は本参考例のみで行い、以降においては省略する。
LD1から出射された光は、CL4a,4bにより平行光束にビーム整形されて第1,第2の光束7,8となる。その後、第1,第2の光束7,8はミラー5a,5bによりそれぞれ反射角θ
1、θ
2で反射し、被測定物13の表面の検出点14にそれぞれ入射角θ
3、θ
4で照射される。そして、被測定物13の移動速度Vに比例した周波数偏移を受けた散乱光は、集光レンズ6にて集光されてPD2で受光する。このPD2の出力Sに基づいてうなり周波数2f
dが検知される。このとき、検出される2f
dは上記式8より、
(式15)
となる。本参考例の光学系では、図1のようにLD1が出射する2つの光束がy軸と平行になるように設置されており、ミラー5a,5bでの反射はその反射角が第1の光束7と第2の光束8とで等しくミラー5aにおいて第1の光束7は反射角θ
1で反射する一方、ミラー5bにおいて第2の光束8は反射角θ
2で反射する。この反射角θ
1と反射角θ
2とが等しくなっているため、第1の光束7の被測定物13への入射角と第2の光束8の被測定物13への入射角とが等しくなる。つまり、θ
3=θ
4となる。また、図2(a)のように反射後の2つの第1,第2の光束7,8はyz平面内にあり、被測定物13の表面はxy平面内にある。よって、このとき、検出される2f
dは上記式15より、
(式16)
となり、各光学部品の設置角度の調整項目を一つ減らすことができる。
また、上記式3で示されるように、ビート信号は2つの光束の干渉で生じる。2つの光束の重ね合わせ領域が図2(b)のようにずれると、重ね合わされていない領域からの散乱光はDCノイズとなってPD2で検出されるため、S/Nを低下させる要因となってしまう。LD1が出射した2つの光束はy軸に平行に出射され、ミラー5a,5bで同じ角度で、かつ同一平面内に反射されるため、両光束は検出点14上で良好に重ね合わせられる。
この条件に合致して重ね合わせる場合に限らず、任意の角度でもって重ね合わせても信号を得ることはできるが、上記条件が信号を高精度に検出できる。
さらに、図1のように被測定物13の移動方向がy軸と平行になるように光学系全体を設置することにより、図14に示したように検出点14の干渉縞方向と被測定物13の移動方向が垂直になるため、被測定物13の移動速度を精度よく測定することができる。
また、本参考例においてPD2がビート信号を連続的に検知するには、図3に示すようにz軸方向において被測定物13の凹凸のばらつき(=h)が、第1の光束7と第2の光束8との重なり領域のz軸方向の長さ(=d)よりも小さい必要がある。いま、図1のように2つの光束のなす角度は2・θ
3であるので、dは次の式17で表すことができる。
(式17)
上記式17を用いて、h<dを満たすように、角度θ3を設定してビート信号の不連続を防止することができる。この条件は以後すべての参考例および実施例において成立し、今後の説明は省略する。
また、検出点14からPD2へ入射する光軸が検出点14への第1,第2の光束7,8の交差角の2等分線上(xy平面内)にある。このとき、第1,第2の光束7,8からの散乱光の強度が略等しくなるため、ビート信号15が鮮明化するため、高精度に移動速度を検出できる。
さらに、図1では、PD2に入射する2つの光束の形成する平面(yz平面)内にPD2がある。つまり、PD2はz軸上に設置されている。このとき、上記のようにビート信号が鮮明化する効果に加えて、その信号強度も最大となるため、S/Nを向上させることができる。
さらに、図1では、LD1がミラー5a,5b間の中点に位置するように設置されている。このとき、LD1とPD2は、同じz軸上に配置されているため、同一基板の表と裏側にそれぞれ組み込むことができる。つまり、LD1とPD2を同一基板に作りこんで一体化できる。これにより、装置構成全体を小型化することができる。
本参考例においては、LD1から出射した光をCL4a,4bにて平行光束にするケースを例にとって説明したが、例えばビート信号強度が弱いとき、CL4a,4bとLD1との間の距離を本レンズの焦点距離よりずらして、光束が緩やかに集光するようにし、検出点14で光束が十分絞られている状態になるようにCL4a,4bを配置してもよい。また、検出点14に入射する2つの光束を介するように、レンズを配置してもよい。つまり、ミラー5a,5bと検出点14との間の光路上にレンズを配置してもよい。こうすると、光束は検出点14へ入射するとき十分絞られるので、検出点14での単位面積あたりの光量が増大して、PD2で得られる信号強度が増大する。このためS/Nの向上したビート信号を検知することができ、高精度な速度の検知が可能となる。以後の参考例および実施例についても、検出点14に入射する光束が平行光束になるようCL4a,4bを配置し、検出点14に入射する光束を集光するレンズを省略して説明するが、本参考例と同様に平行光束とするように限定したものではない。
さらに、図1では、PD2と検出点14との間に集光レンズ6が設置されている。この集光レンズ6により、検出点14から散乱するビート信号をPD2へと集光するので、PD2で得られる信号強度が増大する。この集光レンズ6についても、以後の参考例および実施例で共通に設置されているが、説明は省略する。
また、ビート信号15は検出点14に入射する2つの光束の光量が等しいほど鮮明になり、PD2で移動速度を高精度に検出できる。上記式3において、EA+EBの値はLD1からの出射光量であるため一定値であるから、EA=EBのときビート信号のうなり強度(Peak to Peak)が最大になり、そのバランスが崩れる程うなり強度が小さくなる。本参考例においては、LD1の両端面を適切に処理することにより、検出点14に入射する第1の光束7および第2の光束8の光量を等しくすることができ、ビート信号15を鮮明に検出できるため、移動速度を高精度に検知することができる。以後の全ての参考例および実施例においても、各検出点に入射する2つの光束の光強度が等しくなるようにLD1の両端面に処理が施されている。以後、全ての参考例および実施例においても同様に上記両端面処理がなされているが、説明は省略する。
参考例2
図4に、本発明の参考例2の速度計の概略構成図を示す。図4では、各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等の図示を省略している。また、図4の破線の矢印は座標軸を示す。
上記速度計は、LD1、PD2a,2b、回折格子3a,3b、CL4a,4b、集光レンズ6a,6b、信号処理回路部10および絞り12a,12bを備えている。
上記LD1は(0,0,z1)に、PD2a,2bは(0,0,z2)に、回折格子3a,3bは(0,±y3,z1)に、CL4a,4bは(0,±y4,z1)に、集光レンズ6a,6bは(0,±y6,z6)に、絞り12a,12bは(0,±y12,z1)に設置される。また、上記信号処理回路部10は、PD2aの出力Saと、PD2bの出力Sbとから周波数偏移量を算出する。
また、図4において、7は第1の光束、7a,7bは回折格子3aの±1次回折光、8は第2の光束、8a,8bは回折格子3bの±1次回折光、13は被測定物、14a,14bは検出点(ビーム重なり領域)、15a,15bはビート信号を示している。なお、上記検出点14a,14bは(0,±y14,0)に形成される。そして、上記被測定物13の表面は第3平面の一例としてのxy平面と略一致する。
以下、図4の光学系の構成と機能を説明する。
LD1の前端面から第1の光束7が出射すると共に、半導体素子1の後端面から第2の光束8が出射する。第1,第2の光束7,8は、絞り12a,12bを通過した後、CL4a,4bを介して平行光束となる。その後、第1,第2の光束7,8は回折格子3a,3bによりそれぞれ複数の光束に分割される。ここで、回折格子3a,3bは入射光束を等角に分割し、その分割角度は入射光束の波長に依存するため、各検出点14a,14bにおいて2つの光束の重ね合わせが容易になる。したがって、回折格子3a,3bは本参考例において光分岐素子として好適である。
図4には±n次回折光(nは零を含む自然数)のうち±1次回折光7a,7b,8a,8bのみ図示している。この±1次回折光7a,7b,8a,8bによって検出点14a,14bが形成される。検出点14aから散乱されるビート信号15aは集光レンズ6aを介してPD2aで検出される一方、検出点14bから散乱されるビート信号15bは集光レンズ15bを介してPD2bで検出される。このように検出してビート信号を用いて、上記参考例1と同様に被測定物13の移動速度を検出する。
一般に、コヒーレントな光が光学的に粗い面に入射したとき、その面からの散乱光は様々な方向に反射するため、それらの散乱光の干渉によりスペックルパターンと呼ばれる明暗の模様が現れる。明部がPD2a,2bに入射している間はPD2a,2bはビート信号を検出し、被測定物13の移動速度を検知することができるが、暗部が連続的にPD2a,2bへ入射されると所謂ドロップアウトと呼ばれる信号不感状態になってしまう。本参考例においては、2つの検出点14a,14bを形成し、2つの受光系にて信号を検出しているため、一方の出力がドロップアウトにより検出不可能な場合でも、他方の出力を検知して信号不感状態を防ぐことができる。
また、本参考例の光学系においては、光束の分割に回折格子3a,3bを用いているが、ビート信号強度を大きくするために、検出点14a,14bに入射する光量を大きくする必要がある。一般に、回折格子により光束は0次回折光、±1次回折光、・・・±n次回折光と各次等角に分割されるが、回折格子の溝深さによる光学的距離差を入射光の波長の1/4にすると、反射による光路長差が波長の1/2となり、光の位相がπずれるため0次回折光はほとんど出射しない。このような条件を回折格子3a,3bに適用すると、±1次回折光7a,7b,8a,8bの強度は入射光量に対して片側約40.5%となり最大となり、検出点14a,14bへの入射光量が最大となるため、ビート信号15a,15bを高感度に検知できる。以上のことは、回折格子3a,3bに垂直に光が入射し、回折格子3a,3bがその光の光軸に対して垂直に配置される場合であるが、図4に示す本参考例では、入射光束である第1,第2の光束7,8を被測定物13へ入射させるために回折格子3a,3bを−z方向に傾けているため、厳密には回折格子3a,3bの溝深さをこの角度に合わせた調整が必要となる。
また、本参考例の光学系では、図4に示すように、LD1から出射する2つの光束がy軸と平行になるようにLD1を設置しており、回折格子3a,3bの溝が延びる方向はyz平面と平行に切ってあるため、第1,第2,第3平面が二等辺三角柱を形成する(図中左右両端(±y方向)に破線で、その二等辺三角柱の天面,底面となる二等辺三角形を図示)。ここで、上記第1平面とは、回折格子3aによる+1次回折光束7aと、回折格子3bによる+1次回折光束8aとを含む平面である。また、上記第2平面とは、回折格子3aによる−1次回折光束7bと、回折格子3bによる−1次回折光束8bとを含む平面である。また、上記第3平面とは、被測定物13の表面を含む平面を指し、xy平面に相当する。
第1,第2,第3平面が二等辺三角柱を形成する場合、図15に示す干渉縞の間隔と向きが検出点14aと検出点14bとで等しくなるため、上記のように検出点14a,検出点14bの一方からの信号がドロップアウトにより信号不感になっても、両検出点14a,14bから検知される速度の誤差を最小にすることができる。
さらに、両検出点14a,14bを結ぶ線がx軸、被測定物13の移動方向がy軸方向となるように光学系全体を設置することにより、図15に示すように、干渉縞が延びる方向と、被測定物13の移動方向とが垂直になるため、被測定物13の移動速度を高精度に測定することができる。
また、検出点14aからPD2aへ入射する光束の光軸は、検出点14aへ入射する2つの光束(+1次回折光7a,8a)の交差角の2等分線と略一致すると共に、検出点14bからPD2bへ入射する光束の光軸は、検出点14bへ入射する2つの光束(−1次回折光7b,8b)の交差角の2等分線と略一致する。このような場合、上記2つの光束からの散乱光の強度が略等しくなるため、ビート信号15a,15bが鮮明化するため、被測定物13の移動速度を高精度に検出できる。
また、本参考例の光学系では、図4のようにPD2a,2bはそれぞれ上記第1平面および第2平面においてxy平面に対する正反射方向(入射角=反射角)に設置している。一般に、直進する光が反射するとき、その強度は正反射方向に最も強く反射する。よって、上記のように受光系を設置することにより、ビート信号を最も高感度に検知することが可能である。
図5に、本参考例の速度計の変形例の概略構成図を示す。図5では各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、図5の破線の矢印は座標軸を示している。また、図5において、図4に示した構成部と同一構成部は、図4における構成部と同一参照番号を付して説明を省略する。
図5の速度計は、回折格子3bによる−1次回折光8bが通過する1/4波長板16を(−x16,y16,z16)に設けている点が図4の速度計と異なる。
一般に、1/4波長板16の光学軸を入射する偏光方向に対して45°傾けて設置することにより、遅相軸成分の光の位相が進相軸成分に比べてπ/2だけ遅れるので直線偏光は円偏光に変換される。図5において、1/4波長板16より、1/4波長板16と被測定物13との間において−1次回折光8bは円偏光になっている。このような状態で4つの光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)が図5のように被測定物13に入射するときのPD2a,2bで検出されるビート信号について説明する。
回折格子3a,3bにより分割された各光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)は、回折格子3a,3bから検出点14a,14bまでの距離が等しいとすると、以下のように表すことができる。ただし、1/4波長板16を通過する光束(−1次回折光8b)については、1/4波長板16通過後の遅相軸成分のみを示す。
(式18)
(式19)
(式20)
(式21)
ここで、E1a,E1b,E2a,E2bは光の振幅、f0は光の周波数、tは時間である。
次に、被測定物13の移動方向は+y軸方向を正とすると、被測定物13で散乱後の各光束の成分は、被測定物13の移動速度Vに起因したドップラー周波数偏移成分をf
dとすると、上記式18〜21は、
(式22)
(式23)
(式24)
(式25)
となる。よって、PD2a,2bで検出されるビート信号15a,15bは、
(式26)
(式27)
となる。上記式27において、第2項の余弦の中の位相成分の符号は被測定物13の移動方向により異なり、+y方向に移動するとき+π/2、−y方向に移動するとき−π/2となる。
図6(a)〜(c)にビート信号15a,15bを示す。より詳しくは、図6(a)には上記式26で表されるビート信号15aを示す。このビート信号15aは被測定物13の移動方向に依存しない。図6(b)には被測定物13が左方向(−y方向)に移動するときビート信号15bを示し、図6(c)には被測定物13が右方向(+y方向)に移動するときのビート信号15bを示している。
図6(a)〜(c)から、ビート信号15bは被測定物13の移動方向により位相がπ/2ずれることがわかる。したがって、PD2bと検出点14bとの間に直線偏光子(図示せず)を上記遅相軸成分が通過する方向に設置してビート信号15a,15bを検出することにより、被測定物13の移動方向を検出できる。このように、−1次回折光8bが通過する1/4波長板16を設けることにより、被測定物13の速度と移動方向を検知することができる。また、以後の参考例および実施例において、移動方向を検出するための直線偏光子の図示および説明は同様であるため省略する。
ただし、被測定物13の移動方向を検知するには、ビート信号15aの位相に対し、ビート信号15bの位相が進んでいるのか、遅れているのかが判断できればよいので、ビート信号15aとビート信号15bとの位相差をξとすると、
(式28)
の範囲にあればよい。このとき、位相変更手段による位相変更量:φは、
(式29)
であることが必要である。このような光の位相差を与える部材の材料としては、一般的には光の入射方向に対し屈折率が異なる複屈折材料が用いられる。この複屈折材料は位相変更手段の材料として適している。
しかし、実際の光学系においては各光学部品の設置によるズレ等により、各光束の検出点までの距離が異なってくる。このとき、各検出点からの散乱光は、
(式30)
(式31)
(式32)
(式33)
となる。ただし、−1次回折光8bについては、1/4波長板16通過後の遅相軸成分のみを示してあり、φ
1a、φ
1b、φ
2a、φ
2bは各光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)の位相成分であり、φ
0は位相変更手段による位相変更量である。よって、PD2a,2bで検出されるビート信号15a,15bは、
(式34)
(式35)
となる。上記式28、式34および式35より、移動方向検知に求められる位相条件は、
(式36)
となる。上記式36を満たすように各光学部品を設置することにより、被測定物13の移動方向の検知が可能となる。位相変更手段の一例として1/4波長板16を用いるとき、上記式36は、
(式37)
となり、各光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)の位相成分ばらつきに対し、各光学部品配置におけるマージンをとることができる。
また、1/4波長板16を−1次回折光8b以外の3つの光束(±1次回折光7a,7b,8a)に設け、−1次回折光8bにだけ設けないような構成にすることにより、上記と同じ位相差の論理により被測定物13の移動方向を検知できる。つまり、±1次回折光7a,7b,8aのそれぞれが1/4波長板を通過するようにすると、−1次回折光8bは1/4波長板を通過させなくても、被測定物13の移動方向を検知できる。
本参考例の速度計の変形例における被測定物13の移動方向の検知と位相差とに関する議論は、この後の参考例および実施例においても同様であり、以後の参考例および実施例においては省略する。
図7に、本参考例の速度計の他の変形例の概略構成図を示す。図7では各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、破線の矢印は座標軸を示している。また、図7において、図5に示した構成部と同一構成部は、図5における構成部と同一参照番号を付して説明を省略する。
図7の速度計は、2つのビート信号15a,15bを検出するための集光レンズ6a,6bの代わりに単一部品の集光レンズアレイ17を用いた点と、ビート信号15a,15bを検出するPD2をLD1と同一チップ内に形成している点とが図5の速度計と異なっている。
上記構成により、図7に示す光学系では部品点数を削減でき、また、PD2をLD1と1チップ化しているため、装置の小型化が可能となる。さらに、1チップ化した複数のPDの代わりに分割型PDを用いることにより、受光素子面積をさらに縮小できるため、PDの製造コストを低減でき、さらに装置のさらなる小型化が可能である。図7における部品点数削減の装置構成は、この後の参考例および実施例においても同様であり、以後の参考例および実施例においては説明を省略する。
図8に、図7の速度計を上方から見た概略図(+z軸方向から見た図)を示す。また、図8の下方においては、図8の上方において点線で描いた小円内を拡大した図を示す。つまり、図8の下方の図は検出点14a,14b付近の拡大図である。
検出点14aと検出点14bとの間の距離が大きいほど装置が大型化し、また集光レンズアレイ17で受光できる光量も小さくなる。また、各光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)の位相差の点においても、検出点同士が離れると位相差が大きくなり、被測定物13の移動方向の検出が困難になる。検出点14aと検出点14bとの間の距離は回折格子3a,3bによる回折角αによって決定される。検出点14aと検出点14bとが重なり合うと、各検出点14a,14bからのビート信号がノイズとなってPD2にて検出されてしまうため、図8より、
(式38)
を満たすように、各回折格子3a,3bのピッチや、絞り12a,12bの径W、各部品間距離L等を設定する必要がある。この後の参考例および実施形態においても検出点間の距離に関して同様であり、以後の参考例および実施例においては説明を省略する。
図9に、本発明の実施例1の速度計の概略構成図を示す。図9では、各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、図9の破線の矢印は座標軸を示している。また、図9において、図7に示した構成部と同一構成部には、図7における構成部と同一参照番号を付している。
図9の速度計は、LD1、PD2、回折格子3a,3b、CL4a,4b、BS9a,9b,9c,9d、信号処理回路部10、絞り12a,12b、1/4波長板16および集光レンズアレイ27を備えている。上記LD1は(0,0,z1)に、PD2は(0,0,z2)に、回折格子3a,3bは(0,±y3,z1)に、CL4a,4bは(0,±y4,z1)に、BS9a,9b,9c,9dで(±x9,±y9,z9)に、絞り12は(0,±y12,z1)に、1/4波長板16は(−x16,y16,z16)に、集光レンズアレイ17は(0,0,z17)にそれぞれ設置されている。また、上記信号処理回路部10はPD2の出力Sから周波数偏移量を算出する。
また、図9において、7は第1の光束、7a,7bは回折格子3aによる±1次回折光、7c,7dは+1次回折光7aをBS9aで分割して得る光束、7e,7fは−1次回折光7bをBS9bで分割して得る光束、8は第2の光束、8a,8bは回折格子3bによる±1次回折光、8c,8dは+1次回折光8aをBS9cで分割して得る光束、8e,8fは−1次回折光8bをBS9dで分割して得る光束、13は被測定物、14a,14b,14c,14dは検出点(ビーム重なり領域)、15a,15b,15c,15dはビート信号を示している。なお、検出点14a,14bは(±x14,0,0)に形成され、検出点14c,14dは(0,±y14,0)に形成される。そして、光束7c,…,7fおよび光束8c,…,8fを照射する被測定物13の表面は、第3平面の一例としてのxy平面と略一致する。
以下、図9の光学系の構成および機能について説明する。
LD1の前端面から第1の光束7が出射すると共に、LD1の後端面から第2の光束8が出射する。第1,第2の光束7,8は、絞り12a,12bを通過した後、CL4a,4bを通過することによって平行光束となる。その後、第1,第2の光束7,8は回折格子3a,3bによりそれぞれ複数の光束に分割される。
図9には±n次回折光(nは零を含む自然数)のうち±1次回折光7a,7b,8a,8bのみ図示している。一般に、回折格子により光束は0次回折光、±1次回折光、……、±n次回折光と各次等角に分割されるが、回折格子の溝深さによる光学的距離差を波長の1/4にすると反射による光路長差が波長の1/2となり、光の位相がπずれるため0次回折光はほとんど出射しない。つまり、回折格子の溝で反射する光と、回折格子の溝以外の部分で反射する光とは、光路長差が入射光の波長の1/2であると、位相がπずれるため、0次回折光がほとんど生じない。このような条件を回折格子3a,3bに適用すると、回折格子3a,3bの±1次回折光7a,7b,8a,8bの強度は入射光量に対して片側(+n次回折光または−n次回折光)において約40.5%と最大となる。その結果、検出点14a,14b,14c,14dに入射する光の光量が最大となるため、ビート信号15a,15b,15c,15dを高感度に検知できる。以上のことは、回折格子3a,3bに垂直に光を入射し、回折格子3a,3bがその光の光軸に対し垂直に配置される場合であるが、図9に示す本実施例では、入射光束(第1,第2の光束7,8)を被測定物13へ入射させるために回折格子3a,3bを−z方向に傾けているため、厳密には回折格子3a,3bの溝深さをこの角度に合わせた調整が必要となる。
第1の光束7は回折格子3aで2つの光束(±1次回折光7a,7b)に分割され、第2の光束8は回折格子3bで2つの光束(±1次回折光8a,8b)に分割される。この4つの光束(±1次回折光7a,7b,8a,8b)は、BS9a,9b,9c,9dによって8つの光束7c,7d,7e,7f,8c,8d,8e,8f)とされる。より詳しくは、+1次回折光7aはBS9aによって光束7c,7dに分割され、−1次回折光7bはBS9bによって光束7e,7fに分割される。同様に、+1次回折光8aはBS9cによって光束8c,8dに分割され、−1次回折光8bはBS9dによって光束8e,8fに分割される。この場合、BS9a,9b,9c,9dは、光分岐素子として、入射光を光強度が1:1の2つの光束に分割する。また、BS9a,9b,9c,9dは分割による光量のロスを少なくすることが可能なため、検出点14a,14b,14c,14dに照射する光量が大きくなり、ビート信号15a,15b,15c,15dの信号強度の低下を防ぐことができる。
本実施例の光学系では、検出点14a,14bは各々に入射する光束が±y方向から入射するため、図15のようにx軸方向に明暗の干渉縞ができ、その干渉縞を横切る成分の速度が検出される。このため、検出点14a,14bより検出されるビート信号15a,15bに基づいて、被測定物13の移動に対するy軸成分を検出できる。つまり、被測定物13のy軸方向の速度Vyを検出できる。
また、本光学系においては、BS9a,9b,9c,9dにより分割された光束7c,7e,8c,8eが検出点14c,14dを形成する。この検出点14c,14dに入射する光束7c,7e,8c,8eは何れも±x方向から入射するため、干渉縞の明暗はy軸方向に形成される。このため、検出点14c,14dより検出されるビート信号15c,15dに基づいて被測定物13の移動速度のx軸成分を検出することができる。つまり、被測定物13のx軸方向の速度Vxを検出できる。
このように、本実施例の光学系においては2次元の移動速度を測定することができ、移動速度を求めるために被測定物の移動方向と、検出点に入射する光の光軸を調整する必要がない。
また、上記参考例1で説明したように、検出点14a,14b,14c,14dのそれぞれに入射する2つの光束の重なり領域がずれると、図2(b)に示されるようにずれた領域(2つの光束が重なっていない領域)からの散乱光はDCノイズとなって検出され、S/Nを低下させてしまう。図9に示すように、本実施例の光学系では、LD1から出射する2つの光束がy軸と平行になるように設置されており、回折格子3a,3bの溝方向はyz平面と平行に切ってあるため、上記参考例2と同様に第1平面、第2平面およびxy平面が二等辺三角柱を形成する。ここで、上記第1平面とは、回折格子3aによる+1次回折光束7aと、回折格子3bによる+1次回折光束8aとを含む平面である。すなわち、上記第1平面は、検出点14aに入射する2つの光束7d,8dの光軸を含んでいる。また、上記第2平面とは、回折格子3aによる−1次回折光束7bと、回折格子3bによる−1次回折光束8bとを含む平面である。すなわち、上記第2平面は、検出点14bに入射する2つの光束7f,8fを含んでいる。このような第1平面、第2平面およびxy平面が二等辺三角柱を形成する場合、図15に示す干渉縞の間隔と向きが検出点14aと検出点14bとで等しくなるため、上記のように検出点14a,14bの一方からの信号がドロップアウトにより信号不感になっても、両検出点14a,14bから検知される速度の誤差を最小にすることができる。
また、検出点14cに入射する2つの光束を含む平面とxy平面とがなす角と、検出点14dに入射する2つの光束を含む平面とxy平面とがなす角とが等しく、検出点14c、14dのそれぞれに入射する2つの光束の入射角が全て等しくなるようにBS9a,9b,9c,9dを設置している。これにより、検出点14a,14bを用いて被測定物13のy軸方向の速度Vyを検出する場合と同様に、検出点14c,14dの一方からの信号がドロップアウトにより信号不感になっても、両検出点14c,14dから検知される速度の誤差を最小にすることができる。
また、検出点14aからPD2へ入射する光束の光軸は、検出点14aへ入射する2つの光束7d,8dの交差角の2等分線と略一致する。また、検出点14bからPD2へ入射する光の光軸は、検出点14bへ入射する2つの光束7f,8fの交差角の2等分線と略一致する。また、検出点14cからPD2へ入射する光の光軸は、検出点14bへ入射する2つの光束7c,7eの交差角の2等分線と略一致する。また、検出点14dからPD2へ入射する光の光軸は、検出点14bへ入射する2つの光束8c,8eの交差角の2等分線と略一致する。このような場合、各検出点14a,14b,14c,14dに入射する2つの光束からの散乱光の強度が略等しくなるため、ビート信号15a,15b,15c,15dが鮮明化するため、被測定物13の移動速度を高精度に検出できる。
また、回折格子3bによる−1次回折光8bはBS9dで分割される前に、1/4波長板16にて直線偏光から円偏光に変換されている。このため、BS9dからの光束8e,8fは円偏光で被測定物13に入射する。BS9a,9b,9c,9dからの光束7c,7d,7e,7f,8c,8d,8e,8fが検出点14a,14b,14c,14dを形成する。具体的には、光束7dと光束8dとが検出点14aを形成し、光束7fと光束8fとが検出点14bを形成し、光束7cと光束7eとが検出点14cを形成し、光束7cと光束7fとが検出点14cを形成し、光束8cと光束8fとが検出点14dを形成する。各検出点14a,14b,14c,14dから散乱されるビート信号15a,15b,15c,15dは、集光レンズアレイ27を介してPD2で検出される。このPD2の出力Sに基づいて被測定物13の移動速度を検出する原理は、上記参考例1,2と同様である。
本実施例の光学系では、ビート信号15aとビート信号15bとは信号強度が異なるが、被測定物13の移動速度や移動方向の検知の点では上記参考例2と同様で、被測定物13の移動速度と、被測定物13の移動方向のy軸成分とを検出する。また、検出点14c,14dより検出されるビート信号15c,15dは被測定物13のx軸成分を検出することができる。また、検出点14dに入射する光束8eの位相は1/4波長板16を通って円偏光となっているため、上記参考例2における被測定物13の移動方向の検出と同様の原理にて被測定物13のx軸方向に対する移動方向の検知も可能となる。このように、本実施例における光学系では、被測定物13の移動方向と光学系の軸を調整して配置する必要がなく、任意のxy平面運動に関する速度情報および移動方向を検知することができる。また、x成分、y成分ともに移動方向検知に関する位相を扱う条件等は上記参考例2と同様である。
また、図9のように、被測定物13の移動速度のy方向成分を検出するための検出点14a,14bをx軸上に形成すると共に、被測定物13の移動速度のx方向成分を検出するための検出点14c,14dをy軸上に形成することにより、被測定物13において互いに直交する2つの方向の速度成分を検出することができる。その結果、被測定物13の移動速度を高精度に検出することができる。
図10に、本実施例1の速度計の変形例の概略構成図を示す。図10では各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、図10中の破線の矢印は座標軸を示している。また、図10において、図9に示した構成部と同一構成部には、図9における構成部と同一参照番号を付している。
図10の速度計は、LD1、PD2、回折格子3a,3b、CL4a,4b、信号処理回路部10、絞り12a,12bおよび第1基板19を備えている。この第1基板19には、1/4波長板16、回折格子18a,18b,18c,18dおよび集光レンズアレイ37を設けている。回折格子18d上には1/4波長板16が配置されている。
上記LD1は(0,0,z1)に、PD2は(0,0,z2)に、回折格子3a,3bは(0,±y3,z1)に、CL4a,4bで(0,±y4,z1)に、絞り12a,12bは(0,±y12,z1)に、1/4波長板16は(−x16,y3,z16)に設置される。また、集光レンズアレイ37は(0,0,z16)に位置している。また、上記信号処理回路部10はPD2の出力Sから周波数偏移量を算出する。
また、図10において、7は第1の光束、7a,7bは回折格子3aによる±1次回折光、7c,7dは+1次回折光7aを回折格子18aで分割した光束、7e,7fは−1次回折光7bを回折格子18bで分割した光束、8は第2の光束、8a,8bは回折格子3bによる±1次回折光、8c,8dは+1次回折光8aを回折格子18cで分割した光束、8e,8fは−1次回折光8bを回折格子18dで分割した光束、13は被測定物、14a,14b,14c,14dは検出点(ビーム重なり領域)、15a,15b,15c,15dはビート信号を示している。上記検出点14a,14bは(±x14,0,0)に形成され、検出点14c,14dは(0, ±y14,0)に形成される。そして、光束7c,…,7fおよび光束8c,…,8fを照射する被測定物13の表面は、第3平面の一例としてのxy平面と略一致する。
以下、図10の光学系の構成と機能を説明する。
LD1の前端面から第1の光束7が出射すると共に、半導体素子1の後端面から第2の光束8が出射する。第1,第2の光束7,8は、絞り12a,12bを通過した後、CL4a,4bを通過することによって平行光束となる。その後、第1,第2の光束7,8は回折格子3a,3bによりそれぞれ複数の光束に分割される。図9には±n次回折光(nは零を含む自然数)のうち±1次回折光7a,7b,8a,8bのみ図示している。
第1の光束7は回折格子3aで2つの光束(±1次回折光7a,7b)に分割され、第2の光束8は回折格子3bで2つの光束(±1次回折光8a,8b)に分割される。そして、回折格子3aからの2つの光束(±1次回折光7a,7b)は回折格子18a,18bで4つの光束7c,7d,7e,7fに分割され、回折格子3aの+1次回折光7aは回折格子18aで2つの光束7c,7dに分割される共に、回折格子3aの−1次回折光7bは回折格子18bで2つの光束7e,7fに分割される。また、回折格子3bの+1次回折光8aは回折格子18cで2つの光束8c,8dに分割されると共に、回折格子3bの−1次回折光8bは回折格子18dで2つの光束8e,8fに分割される。ここで、回折格子18a,18b,18c,18dは、回折格子3a,3bと同様に、溝の深さが入射光の波長の1/4となっているため0次回折光はほとんど出射せず、±1次回折光の強度が最大となっている。その結果、各検出点14a,14b,14c,14dへの入射光量が最大となり、ビート信号強度を最大にすることができている。
また、回折格子3bの−1次回折光8bは回折格子18dで分割される前に、1/4波長板16にて直線偏光から円偏光に変換されている。このため、光束8e,8fは円偏光で被測定物13に入射する。回折格子18a,18b,18c,18dはそれぞれ第1基板19内でx軸、y軸方向に対して任意の角度で傾いている。回折格子18a,18b,18c,18dから出射された各光束7c,7d,7e,7f,8c,8d,8e,8fは、検出点14a,14b,14c,14dを形成する。より詳しくは、光束7dと光束8dとが検出点14aを形成し、光束7fと光束8fとが検出点14bを形成し、光束7cと光束7eとが検出点14cを形成し、光束8cと光束8eとが検出点14dを形成する。回折格子18a,18b,18c,18dを第1基板19内で傾ける角度と、第1基板19から被測定物13まで距離とは、上記のように検出点14a,14b,14c,14dが形成されるように設定されている。つまり、被測定物13の表面において、光束7dと光束8dとが重なり合い、光束7fと光束8fとが重なり合い、光束7cと光束7eとが重なり合い、そして光束8cと光束8eとが重なり合うように、上記角度と上記距離を設定している。
図10の速度計は、回折格子18a,18b,18c,18dが同一基板に形成するので、回折格子18a,18b,18c,18dの設置による位置ずれを防ぐことができる。したがって、図10の速度計は、図9の速度計に比べて検出点14a,14b,14c,14dにおける光束の重なり不具合を低減できる。
また、図10の速度計では、検出点14a,14b,14c,14dから散乱されるビート信号15a,15b,15c,15dは集光レンズアレイ37を介してPD2で検出される。このPDの出力に基づいて被測定物13の移動速度の検出原理は上記参考例1と同様である。
また、図10の速度計は、図9の速度計と同様に、被測定物13の表面に4つの検出点14a,14b,14c,14dを形成するので、被測定物13の2次元の移動速度および移動方向の検知が可能である。
また、図10の速度計では、回折格子群18a,18b,18c,18d、1/4波長板16および集光レンズアレイ37は第1基板19に組み込まれて単一部品となっているので、部品点数を少なくできる。したがって、図10の速度計の組み立て工程数を低減して、製造コストの下げることができる。
また、図10の速度計では、回折格子18a,18b,18c,18d、1/4波長板16および集光レンズアレイ37が一つの部品になっているので、回折格子18a,18b,18c,18d、1/4波長板16および集光レンズアレイ37を光学系に設置する精度が図9の速度計に比べて高く、また、被測定物13の移動方向の検出において上記式35で与えられる条件式を満足する設計マージンが増大する。
本実施例では、上記参考例2に比べx方向の速度検出のために検出点の数が増えている。上記参考例2において、上記式36でy方向の速度を検知する検出点同士が分離する条件を指定した。本実施例において被測定物のx方向の移動速度を検出するための2つの検出点も同様に、それぞれ分離していることが条件である。その条件式は上記式36と異なり、回折格子18a,18b,18c,18dの設置角度や、被測定物13とLD1との距離、LD1と回折格子3との距離、回折格子3a,3bの設置角度に起因する。その導出については省略する。また、以後の実例についても同様に本条件が必要となるが、以後の実施例ではその条件の説明を省略する。
また、上記実施例1およびこの変形例では、LD1が半導体発光素子の一例で、PD2が受光素子の一例で、回折格子3aが第1回折格子の一例で、回折格子3bが第2回折格子の一例で、CL4aが第1のレンズ群の一例で、CL4bが第2のレンズ群の一例で、絞り12aが第1絞りの一例で、絞り12bが第2絞りの一例で、BS9aが第1BSの一例で、BS9bが第2BSの一例で、BS9cが第3BSの一例で、BS9dが第4BSの一例で、1/4波長板16が位相変更部の一例で、検出点14aが第1検出点の一例で、検出点14bが第2検出点の一例で、検出点14cが第3検出点の一例で、検出点14dが第4検出点の一例で、回折格子18aが第3回折格子の一例で、回折格子18bが第4回折格子の一例で、回折格子18cが第5回折格子の一例で、回折格子18dが第6回折格子の一例で、第1基板19が第1基板の一例で、集光レンズアレイ27,37がレンズアレイの一例である。
また、上記実施例1およびこの変形例では、回折格子3bの−1次回折光8bが1/4波長板16を通過していたが、回折格子3aの+1次回折光7a、回折格子3aの−1次回折光7bおよび回折格子3bの+1次回折光8aのみが1/4波長板を通過するようにしてもよい。すなわち、回折格子3aの+1次回折光7aが通過するように配置され、+1次回折光7aの位相を変更する第1位相変更部と、回折格子3aの−1次回折光7bが通過するように配置され、−1次回折光7bの位相を変更する第2位相変更部と、回折格子3bの+1次回折光8aが通過するように配置され、+1次回折光8aの位相を変更する第3位相変更部とを設けてもよい。
また、上記実施例1およびこの変形例において、検出点14cに入射する2つの光束7c,7eの光軸を含む第4平面がxy平面に対してなす角と、検出点14dに入射する2つの光束8c,8eの光軸を含む第5平面がxy平面に対してなす角とが略等しくなるようにし、かつ、xy平面に対する光束7c,7eの入射角が略同じになるようにし、かつ、xy平面に対する光束8c,8eの入射角が略同じなるようにしてもよい。この場合、検出点14c,14dの一方からの信号がドロップアウトにより信号不感になっても、両検出点14c,14dから検知される速度の誤差を最小にすることができる。このような設定は、以下の実施例2においても用いてもよい。
図11に、本発明の実施例2の速度計の概略構成図を示す。図11では各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、図11の破線の矢印は座標軸を示している。また、図11において、図1,図10に示した構成部と同一構成部には、図1,図10における構成部と同一参照番号を付している。
図11の速度計では、LD1、PD2、CL4a,4b、ミラー5a,5b、新処理回路部10、集光レンズ6および絞り12a,12b、第1基板19および第2基板20を備えている。上記第1基板19には、1/4波長板16、回折格子18a,18b,18c,18dおよび集光レンズアレイ37を設けている。そして、回折格子18d上には1/4波長板16が配置されている。また、上記第2基板20には、回折格子23a,23bおよび集光レンズアレイ47を設けている。
上記LD1は(0,0,z1)に、PD2は(0,0,z2)に、CL4a,4bは(0,±y4,z1)に、ミラー5a,5bは(0,±y5,z1)に、絞り12a,12bは(0,±y12,z1)に、1/4波長板16は(−x16,y16,z16)に、回折格子18a,18b,18c,18dは(±x18,±y18,z16)に、第1基板19は(0,0,z16)に、第2基板20は(0,0,z3)に、回折格子23a,23bは(0,±y3,z3)に、集光レンズアレイ37は(0,0,z16)に、集光レンズアレイ47は(0,0,z3)にイ位置している。また、上記信号処理回路部10はPD2の出力Sから周波数偏移量を算出する。
また、図11において、7は第1の光束、7a,7bは回折格子3aによる±1次回折光、7c,7dは+1次回折光7aを回折格子18aで分割した光束、7e,7fは−1次回折光7bを回折格子18bで分割した光束、8は第2の光束、8a,8bは回折格子3bによる±1次回折光、8c,8dは+1次回折光8aを回折格子18cで分割した光束、8e,8fは−1次回折光8bを回折格子18dで分割した光束、13被測定物、14a,14b,14c,14dは検出点(ビーム重なり領域)、15a,15b,15c,15dはビート信号を示している。光束7c,…,7fおよび光束8c,…,8fが照射する被測定物13の表面は、第3平面の一例としてのxy平面と略一致する。
また、図示しないが、図11の速度計は、PD2の出力Sから周波数偏移量を算出する信号処理回路部を備えている。
図11に示す本実施例の速度計では、図10で示した速度計に比べて、回折格子3a,3bを用いずに、LD1の両端面から出射した第1,第2の光束7,8を反射するミラー5a,5bと、第2基板20とを追加されている。また、回折格子23a,23bが同一基板の第2基板20に一体に形成されている。つまり、回折格子23a,23bは第2基板20に組み込まれている。そして、第2基板は第1基板19に対して平行に設置されている。
このような本実施例の速度計において、被測定物13の移動速度や移動方向検知に関する原理等は上記実施例1の速度計およびこの変形例と同じである。本実施例の速度計では、光束を分割する素子をすべてプレート状に配置しているため、回折格子23a,23bの設置による位置ずれや角度ずれ等を防ぐことができる。さらには、第1基板19および第2基板20を例えばガラスのプレートで作製した場合、光束を分割する素子を筐体に組み込むときの設置誤差等も大幅に低減できる。このように、本実施例の速度計は各光学部品の設置に関し、その設置誤差による検出点14a,14b,14c,14dでの光束重なり不具合を大幅に低減でき、装置組み立て工程における歩留まりを大幅に向上させることができる。
図12に、本実施例の速度計の変形例の概略構成図を示す。図12では各光学部品等の配置のみを表示してあり、その他の各光学部品を保持する部品や検出した信号の信号処理回路等は省略している。また、図12の破線の矢印は座標軸を示している。また、図12おいて、図11に示した構成部と同一構成部には、図11における構成部と同一参照番号を付している。
図12の速度計は、図11の速度計の第1基板19と第2基板20を一体化したものを備えている。すなわち、図12の速度計は、第1基板19および第2基板20の代わりに光学ブロック21を備えている。この光学ブロック21が各光束の分割を行っている。光学ブロック21の上面には回折格33a,33bが形成され、光学ブロック21の下面には回折格子28a,28b,28c,18dが形成されている。さらに、光学ブロック21の中心付近にはビート信号15a,15b,15c,15dをPD2へ導く集光レンズアレイ57が上面から下面を通して形成されている。また、光学ブロック21の下面の一部には回折格子28dを覆うように1/4波長板16を設置している。光学ブロック21の厚さは任意に設定できる。これらの構成により、被測定物13の移動速度および移動方向を検知できる。被測定物13の移動速度および移動方向を検知する原理は上記実施例1およびその変形例と同様である。
図12の速度計においては、図11の速度計に比べて、第1基板19と第2基板20とが一体化されているため、さらに光学部品の設置誤差を生じる組み立て工程を削減でき、装置組み立て工程の歩留まりを向上させることができる。
また、上記実施例2およびこの変形例では、LD1が半導体発光素子の一例で、PD2が受光素子の一例で、回折格子23a,33aが第1回折格子の一例で、回折格子23b,33bが第2回折格子の一例で、CL4aが第1のレンズ群の一例で、CL4bが第2のレンズ群の一例で、ミラー5aが第1光軸変更部の一例で、ミラー5bが第2光軸変更部の一例で、絞り12aが第1絞りの一例で、絞り12bが第2絞りの一例で、1/4波長板16が位相変更部の一例で、検出点14aが第1検出点の一例で、検出点14bが第2検出点の一例で、検出点14cが第3検出点の一例で、検出点14dが第4検出点の一例で、回折格子18a,28aが第3回折格子の一例で、回折格子18b,28bが第4回折格子の一例で、回折格子18c,28cが第5回折格子の一例で、回折格子18d,28dが第6回折格子の一例で、第1基板19が第1基板の一例で、第2基板20が第2基板の一例で、光学ブロック21が光学ブロック21の一例で、集光レンズアレイ37,47,57がレンズアレイの一例である。
また、上記実施例2およびこの変形例では、回折格子23b,33bの−1次回折光8bが1/4波長板16を通過していたが、回折格子23a,33aの+1次回折光7a、回折格子23a,33aの−1次回折光7bおよび回折格子23b,33bの+1次回折光8aのみが1/4波長板を通過するようにしてもよい。すなわち、回折格子23a,33aの+1次回折光7aが通過するように配置され、+1次回折光7aの位相を変更する第1位相変更部と、回折格子23a,33aの−1次回折光7bが通過するように配置され、−1次回折光7bの位相を変更する第2位相変更部と、回折格子23b,33bの+1次回折光8aが通過するように配置され、+1次回折光8aの位相を変更する第3位相変更部とを設けてもよい。
以上の実施例1,2にのLD1は同一チップから複数の発光点、例えばモノリシック型で片面から複数の光束を出射する光源であってもよい。しかし、本発明においては、LD1の前端面より出射した第1の光束7と、LD1の後端面より出射した第2の光束8とを速度のセンシングに用いている。そして、LD1の光強度を安定化させるための光量のモニタリングは、絞り12a,12bでカットされる光量をモニターするように設置した例えば受光素子(図示せず)で行う。このような構成にすることで、LD1から出射する光のエネルギーを最も効率よく速度のセンシングに用いることができ、LD1を高出力化させることなく十分なビート信号15の出力を得ることができる。
また、上記実施例1,2のPD2は回路内蔵受光素子であってもよい。つまり、PD2は信号処理回路を内蔵してもよい。そして、PD2からの出力を同一チップ内で増幅、波形整形や周波数カウント等の信号処理を行うことにより、これらのICを別個に構成する場合に比べ、部品点数が減少するため装置が小型化するばかりでなく、各部品をつなぐワイヤー等からの電磁ノイズ等を削減できるため、高精度に被測定物の速度を検知することも可能である。
また、上記実施例1,2において、参考例1,2における好ましい条件や設定を適宜用いてもよい。
また、上記実施例1,2では、x,y軸が90°の角度交差するようにしてもよいし、x,y軸が90°以外の角度で交差するようにしてもよい。つまり、x,y軸は、直交していても、直交してなくてもよい。
また、以上の全ての実施例におけるドップラー速度計は、被測定物13の移動速度を検知するものであるが、後段の信号処理において、その時間情報を取り込むことによって、速度情報から容易に変位量に換算することができる。例えば、一般に普及している電子機器においては、プリンターやコピー機の紙送り量を検出する変位計に応用可能である。また、現在広く普及している光学式のマウスは、CCD(電荷結合素子)等により検出面のスペックルパターンの移動情報を画像として認識し、移動量を検出しているが、この速度計を用いて光学式マウスに適用することも可能である。このように、これらの全ての実施例の速度計は変位を検出する変位計や振動計に応用可能である。
また、本発明の速度計は、被測定物の速度情報および時間情報をもとに変位情報を算出する変位情報検出装置に用いることができる。
図1は本発明の参考例1の速度計の概略構成図である。
図2(a)は上記参考例1における理想的な条件を示す検出点近傍の概略図であり、図2(b)は上記参考例1における検出点の概略図である。
図3は被測定物の凹凸と検出点近傍における条件を説明するための図である。
図4は本発明の参考例2の速度計の概略構成図である。
図5は上記参考例2の速度計の変形例の概略構成図である。
図6(a)〜(c)はビート信号の位相情報による被測定物の移動方向の検出を説明するための図である。
図7は上記参考例2の速度計の他の変形例の概略構成図である。
図8は検出点に求められる条件を説明するための概略図である。
図9は本発明の実施例1の速度計の概略構成図である。
図10は上記実施例1の速度計の変形例の概略構成図である。
図11は本発明の実施例2の速度計の概略構成図である。
図12は上記実施例2の速度計の変形例の概略構成図である。
図13は従来のLDVの要部の概略構成図である。
図14は被測定物の移動速度とドップラー偏移周波数とを結びつける式を説明するための図である。
図15は上記従来のLDVの検出点近傍における光束の重なりを示す拡大図である。
図16は他の従来のLDVの要部の概略構成図である。
図17はさらに他の従来のLDVの要部の概略構成図である。
符号の説明
1 半導体発光素子
2 PD(受光素子)
3a,3b 回折格子
7 第1の光束
8 第2の光束
9a,9b,9c,9d BS(ビームスプリッタ)
10 信号処理回路部
14a,14b,14c,14d 検出点
18a,18b,18c,18d 回折格子
23a,23b 回折格子
28a,28b,28c,28d 回折格子
33a,33b 回折格子