JP4137398B2 - 浸漬塗工装置およびそれにより形成された電子写真感光体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は浸漬塗工装置に関し、詳しくは円筒状またはシームレス状の基体の外周面に形成する塗膜の塗膜ムラを防止した浸漬塗工装置及びそれにより形成された電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
円筒状の基体外周に感光体塗布液を塗布する代表的な方法として浸漬塗工法が広く実用化されている。しかし、浸漬塗工法により塗布された感光体塗膜には、塗布開始端である塗工上端部が薄くなる、いわゆるタレ現象が生じるという問題がある。そのためこの様なタレをなくす方法が種々提案されているが、いずれも塗工装置が複雑になる、塗膜ムラが生じ易い、垂れ対策効果が充分でないなどの欠点を有している。例えば、特開昭59−127049号公報には、円筒状基体を感光体塗布液から発生する溶媒蒸気を減少させる方法が開示されているが、この方法によると、溶媒蒸気濃度を減少させる為の気体通路を塗工槽上部に取付けねばならず、塗工装置が複雑となり、また気流の流れ方向は円筒状気体に対して横方向であり、従って、風上側と風下側で円筒状基体に対して気流の当たり方が異なり、塗布ムラが生じ易いという問題がある。
【0003】
また特開昭59−225771号公報には、円筒状基体引上げ時に塗工槽内部の塗布液面上に位置させたリング状エアードクターから気流を円筒状基体に当てる方法が、また特開昭63−7873号公報には、塗工槽上部に設けた伸縮フードにより蒸気濃度を上から下へ減少させることが、また特開平1−107874号公報では、円筒状基体の引上げ時に水平方向の気流を発生させている、また特開平3−213171号公報には、円筒状基体引上げ時に、塗工槽上部で周方向に回転する気流を吹き付ける方法が、特開平4−29773号公報には、円筒状基体引上げ時に円筒状基体の接線方向にノズルから気流を吹き付ける方法が、その他塗工上端部のタレ防止を目的とする方法として、特開平5−7812号公報、特開平5−88385号公報など数多く開示されているが、いずれも装置の構造が複雑になる、塗布ムラが生じ易い等の欠点を有している。
【0004】
また、電子写真感光体の感光体塗布液の溶媒として塩化メチレン等の塩素系溶媒が使用されることがあるが、塩素系溶媒は地球のオゾン層を破壊する等の問題があるため、その使用の削減、全廃が要請されている。そこで、感光体塗布液の溶媒として使用可能な溶媒を検討してみると、バインダー樹脂の溶解性、および人体に対する安全性等を満足する溶媒は少なく、使用可能な溶媒はテトラヒドロフラン等に限られる。しかし、これらの溶媒は、現在電子写真感光体に使用されている塩素系溶媒に比べ、溶媒の沸点が低いため、塗工時に塗膜の乾燥が遅くなり、塗工時の塗膜上端部のタレが現状より大きくなるという問題がある。
【0005】
更に、電子写真感光体を複写機、プリンターあるいはファクシミリ等の感光体として使用すると、繰返し使用するに伴って電子写真感光体の感光体塗膜が摩減して薄くなり、それが電子写真感光体の短寿命化の原因となるため、感光体塗膜の構成樹脂成分として耐摩耗性のある高分子物質を用いる。あるいは電荷輸送剤を高分子化して耐摩耗性を持たせることが試みられている。電子写真感光体の高耐久化法としてこのような方法を取った場合、従来の塗布液処方と同じ固形分濃度では塗布液粘度が上昇するため固形分濃度を下げて塗工しなければならないが、この場合、塗工時に塗膜上端付近でのタレが多くなるという問題が発生する。
【0006】
このような問題を解決し、円筒状基体表面上の感光体塗膜の塗膜ムラや塗膜上端付近でのタレをなくし、均一な感光体塗膜を有する電子写真感光体を製造することができる浸漬塗工装置として、特開平9−265193号公報には、被塗工基体治具に円筒状多孔質体からなる送気孔部を設け、送気孔部から放出された気体を塗布液面に向けた下降気流とするようにした浸漬塗工装置が開示されている。しかしながら、この浸漬塗工装置を用いて電子写真感光体を製造した場合においても、基体表面上の感光体塗膜に膜厚ムラや膜厚荒れが発生する場合があるという不具合がみられた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記背景に鑑み、浸漬塗工装置において、▲1▼塗工基体を塗工槽に浸漬させた時に発生する気流によるオーバーフロー液槽内蒸気相の乱れ、▲2▼塗工基体を塗工槽内に浸漬させたことにより塗工液がオーバーフロー槽に放出された時に発生する液流れによる蒸気相の乱れを防止して、膜厚ムラや膜厚荒れのない塗膜を基体外周面に形成することができる浸漬塗工装置を提供すること、また同装置により形成された画像ムラのない優れた電子写真感光体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記本発明の目的は次の手段により達成される。
すなわち、本発明によれば、第一に、請求項1では、円筒状またはシームレス状の基体の外周面に塗布液を塗工する電子写真感光体の塗工装置であって、基体を浸漬する塗工槽および該塗工槽外周に設けられたオーバーフロー液槽を有する浸漬塗工装置において、該オーバーフロー液槽の体積が、オーバーフロー液量の2倍以上の体積を有することを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0009】
第二に、請求項2では、上記請求項1記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の上端が塗工槽上端より高いことを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0010】
第三に、請求項3では、上記請求項1または2記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有することを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0011】
第四に、請求項4では、上記請求項1、2または3記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部が塗工槽の中央または中央より下部に位置することを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0012】
第五に、請求項5では、上記請求項1、2、3または4記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部がフラットまたはオーバーフロー液排出口に向かって10°以下の下向きの傾斜を有することを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0013】
第六に、請求項6では、上記請求項1、2、3、4または5記載の浸漬塗工装置において、塗工槽外径端部とオーバーフロー液槽内径端部との間隔と塗工槽間の最接近間隔とが同間隔であることを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0014】
第七に、請求項7では、上記請求項1、2、3、4、5または6記載の浸漬塗工装置において、塗工装置上部にある塗工槽蓋の穴径が塗工槽内径と同じか、または塗工槽内径より大きく、かつ、オーバーフロー液槽内径より小さいことを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0015】
第八に、請求項8では、上記請求項1、2、3、4、5、6または7記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽側面に塗工槽上端部と同じ高さか、またはそれより高い位置に開口部を設け、かつ上記塗工槽蓋上に移動可能な開閉蓋を設けることを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0016】
第九に、請求項9では、上記請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽排出口と液回収タンク回収口とが2°以上10°以内の配管傾斜を有し、該配管傾斜が前記液回収タンク回収口より低い位置に形成されていることを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0017】
第十に、請求項10では、上記請求項1〜9のいずれか1項記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽下部側面部にオーバーフロー液排出口を有することを特徴とする浸漬塗工装置が提供される。
【0018】
第十一に、請求項11では、上記請求項1〜10のいずれか1項記載の浸漬塗工装置により円筒状基体上に少なくとも下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成した電子写真感光体が提供される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず比較のため、従来の浸漬塗工装置の一例を図3により説明する。塗工基体保持治具で保持された塗工基体1が塗工槽3内に下降し、所定の位置まで下降した後、停止あるいは上昇する。塗工基体1が下降することにより、塗工槽内の塗工液はオーバーフロー液槽2に放出され、放出された液はオーバーフロー液排出口11から液回収配管を通り、オーバーフロー液戻り口12から液回収タンク5に回収される。回収された液は攪拌機等で均一化および所定の液物性に調整された後、循環ポンプ7にてフィルター8を介して塗工液供給配管9を通して塗工槽3に塗工液が供給される。塗工液は塗工基体1が浸漬塗工を終了し塗工槽3およびオーバーフロー液槽の外に出た後、該装置内に入る間に供給される。
【0020】
図1は本発明の浸漬塗工装置の一例を示すものである。この装置は、従来問題であった塗工基体に浸漬させた時に発生する気流によるオーバーフロー液槽2内の蒸気相の乱れを極度に低減した装置であり、オーバーフロー液槽2の体積が塗工槽3からオーバーフローした液量の2倍以上の体積を有する。塗工基体1が塗工槽3内に下降する際、塗工基体1が浸漬する容量分の液がオーバーフローする。オーバーフローした液はオーバーフロー液槽2底部に落液しオーバーフロー液排出口に向かって液に流れが生じ、その流れが速い程、該液上部は気流が発生し、気流が発生することにより、該液上の蒸気も乱れ、素管基体1表面の濡性が変化し塗工ムラ、膜厚ムラ、膜厚荒れが生じるが、図1の装置によればこのような問題点が最小限に抑制される。すなわち、オーバーフロー液槽の体積が塗工基体浸漬体積分のオーバーフロー量の2倍以上を有することで効果を発揮し、オーバーフロー液槽体積が大きいほど良好である。2倍以下では効果はあるものの、種々のムラは皆無にならない。
【0021】
前記種々のムラの発生をさらに抑制する手段として、塗工槽3上端部よりオーバーフロー液槽2上端部を高くすることで、オーバーフロー液槽の体積が大きくなることと、塗工基体1が塗工槽3に下降した時液流に伴い蒸気流が発生し、その蒸気は塗工槽外に放出されたり、オーバーフロー液槽内を蒸気流と気流が対流し蒸気の濃淡差が発生し、塗工槽3上部と同等もしくは同等以上にすることで、種々のムラの抑制がさらに軽減される。
【0022】
またオーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有することで、オーバーフロー液槽内の蒸気濃度の高い相は緩やかな流れで、上部の蒸気濃度の薄い相あるいは蒸気相のない気流のみの相は激しい流れとなり、その流れをオーバーフロー槽内へ最小限にする。これらにより、塗工基体1が下降する際に発生する気流の影響による種々のムラは皆無になり余裕度も向上する。
【0023】
上述したオーバーフロー液槽がオーバーフローした液量の2倍以上の体積を有すること、またオーバーフロー液槽2の上端部を塗工槽3上端部より高くすること、さらにオーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有すること、これらの特徴を塗工装置が同時に有することで、大きな効果を表す。付け加えるならば、塗工槽3上端部よりオーバーフロー液槽2が低くなると、塗工基体1を浸漬塗工する際、塗工基体1周辺の気流が乱れ、塗工ムラが多く発生したり、膜厚を制御することが難しくなり、塗工槽3上部外周面に液が付着して固化しやすくなり、塗工ムラの原因となる。
【0024】
また塗工槽3上に有する塗工槽蓋4に開口した穴径を塗工槽3の内径以上の大きさにすることで、塗工素管1が浸漬下降して発生するオーバーフロー液流による蒸気相の乱流が防止できる。穴径が塗工槽3の内径より小さくなるとオーバーフロー液槽2からの蒸気流が速くなり、塗工ムラの原因となる。
【0025】
オーバーフロー液槽上部に設ける開口部が塗工槽上端部と同じ高さまたは同高さより高く、その範囲で移動可能な開口機能を有することで、気流を逃がし種々のムラ防止を図ることができる。開口部がないと、気流が対流しムラの原因となる。
【0026】
上述したように、オーバーフロー液槽の体積、オーバーフロー液槽の上端の高さ、オーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有すること、また塗工槽蓋の穴径、オーバーフロー液槽の上部開口の大きさに特徴を有する装置により種々のムラに対する余裕度が向上したが、もう一方の塗工槽からのオーバーフロー液流によるオーバーフロー液槽内の対流防止装置として、オーバーフロー液槽2底部が塗工槽3の長さに対し中央部以下にしたことで高濃度蒸気相を下部に設け、乱れを防止する。さらにオーバーフロー液槽2の底部がオーバーフロー液排出口11に向かって10°の傾斜を持ち、或いはフラットにすることで液流を最少限に抑えることができ、種々のムラを最大限に抑制可能である。底部はフラットとすることが種々のムラには効果的であり、多少の傾きがあっても効果に変化が無かったが、傾きを10°より大きくすると液流れが速くなり、オーバーフロー液槽2内で蒸気相の対流が激しくなり、種々のムラ原因となった。
【0027】
さらに塗工槽3外径端部と該塗工槽外周面に設けたオーバーフロー液槽2内径端部との間隔と塗工槽間の最接近間隔を同間隔にすることで、オーバーフロー液流や周辺の蒸気相流の不均一な蒸気濃度差を極力抑制することができ、それにより種々なムラを改善することが出来る。
【0028】
また前記と同様の理由で、オーバーフロー液排出口11からオーバーフロー戻り口12の液配管傾斜をオーバーフロー戻り口側に2°〜10°に低くなるよう配備した。ここではオーバーフロー液槽2底部より多少傾きを急にした方が液詰まり防止による塗工ムラが発生しない。さらにオーバーフロー液槽2下部側面にオーバーフロー液排出口11を設けることで、オーバーフローした塗工液が下部に溜り、オーバーフロー液槽2内の蒸気濃度を安定化させている。排出口を底部に設けると、液回収タンクからの蒸気圧がオーバーフロー液槽2に戻る塗工液にて封じているため、脈動を起こし、塗工ムラの原因となる。
【0029】
次に本発明の浸漬塗工装置により塗布される電子写真感光体の被塗工基体および各塗布層材料について説明する。
まず、ここで使用される被塗工基体としては、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、などの金属のドラム及びシート、紙、プラスチック又はガラス上にアルミニウム、銅、金、銀、白金、パラジウム、チタン、ニッケル−クロム、ステンレス、銅−インジウムなどの金属を蒸着するか、酸化インジウム、酸化錫などの導電性金属酸化物を蒸着するか、金属箔をラミネートするか、又はカーボンブラック、酸化インジウム、酸化錫−酸化アンチモン粉、金属粉、ヨウ化銅などを結着樹脂に分散し、塗布することによって導電処理したドラム状、シート状、プレート状のものなど、公知の材料を用いることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。更に、必要に応じて導電性支持体の表面は、画像に影響のない範囲で各種の処理を行なうことができる。例えば、鏡面の酸化処理、薬品処理、着色処理等を行なうことができる。
【0030】
また、導電性支持体と電荷発生層の間に更に下引き層を設けることが出来る。この下引き層は帯電時において、積層構造からなる感光層における導電性支持体から感光層への電荷の注入を阻止すると共に、感光層を導電性支持体に対して一体的に接着保持せしめる接着層としての作用、或いは導電性支持体からの反射光の防止作用等を示す。この下引き層に用いる樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビ二ルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル、ニトロセルロース又はカゼイン、ゼラチン、など公知な樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、下引き層の厚みは0.01〜10μm、好ましくは0.3〜7μmが適当である。下引き層を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビ-ドコーティング法、エアーナイフ法、カーテンコーティング法などの通常の方法が挙げられる。
【0031】
電荷発生層(キャリア発生層)は例えばモノアゾ色素、ジスアゾ色素、トリスアゾ色素、などのアゾ系色素、ぺリレン酸無水物、ぺリレン酸イミドなどのぺリレン色素、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ系色素、アンスラキノン、ピレンキノン及びフラパンスロン類などの多環キノン類、キナグリドン系色素、ビスベンゾイミダゾール系色素、イミダスロン系色素、スクエアリリウム系色素、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、ピリリウム塩色素、チアピリリウム塩色素とポリカーボネートから形成される共晶錯体等、公知各種の電荷発生物質を適当なバインダー樹脂及び必要により電荷輸送層(キャリア輸送層物質)と共に溶媒中に溶解或いは分散し、塗布することによって形成することができる。電荷発生層物質を樹脂中に分散させる方法としてはボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法などを用いることができる。この際、電荷発生物質は体積平均粒径で5μm以下、好ましくは2μm以下、最適には0.5μm以下の粒子サイズにすることが有効である。
【0032】
これらの分散に用いる溶剤として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、キシレンなどの通常の有機溶剤を単独或いは2種類以上混合して用いることができる。
【0033】
本発明で用いる電荷発生層の膜厚は、一般的には0.1〜5μm、好ましくは0.2〜2μmが適当である。
【0034】
本発明における電子写真感光体の電荷輸送層は、電荷輸送物質を適当なバインダー中に含有させて形成される。電荷輸送物質としては、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノフェニル)ピラゾリンなどのピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、スチリルトリフェニルアミン、ジベンジルアニリンなどの芳香族、第3アミノ化合物、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4'−ジアミンなどの芳香族第3級ジアミン化合物、3−(4'−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4'−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジンなどの1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キンゾリンなどのキンゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)−ベンゾフランなどのベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N'−ジフェニルアニリンなどのα−スチルベン誘導体、“Journal of Imaging Science”29:7〜10(1985)に記載されているエナミン誘導体、N−エチルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールなどのポリ−N−ビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタナート及びその誘導体、更にはピレン、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ−9−ビフェニルアントラセン、ピレン−ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂など公知の電荷輸送物質を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの電荷輸送物質は単独或いは2種以上混合して用いることができる。
【0035】
更に、電荷輸送層における結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ブチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾールなどの公知の樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの結着樹脂は単独或いは2種以上混合して用いることができる。電荷輸送材料と結着樹脂との配合比(重量比)は10:1〜1:5が好ましい。
【0036】
本発明で用いる電荷輸送層の膜厚は一般的には5〜50μm、好ましくは10〜30μmが適当である。
【0037】
更に、電荷輸送層を設ける際に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、などの芳香族系炭化水素類、アセトン、2−ブタノンなどのケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレンなどのハロゲン化脂肪族系炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテルなどの環状若しくは直鎖状のエーテル類などの通常の有機溶剤を単独或いは2種以上混合して用いることができる。
【0038】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、部はすべて重量部を表わす。
【0039】
以下では実施例の浸漬塗工装置で用いる各塗布液の処方および各塗布層の厚さ等をまず示し、次いで該浸漬塗工装置によりそれら塗布液を基体上に塗布して形成した各塗布層の評価結果を示した。
(1)下引き層塗布液の作製
以下の材料を溶解して下引き層塗布液を調合した。
可溶性ナイロン(アラミンCM−8000、東レ製) 5部
メタノール 95部
(2)電荷発生層塗布液の作製
構造式1(化1)に示す電荷発生剤 10部
【化1】
Figure 0004137398
ポリビニルブチラール 7部
テトラヒドロフラン 145部
をボールミルに入れ、72時間ミリングした。更にシクロヘキサノン200重量部を加えて、1時間分散を行なった。分散を終了した液を更にシクロヘキサノンで希釈、調製し電荷発生層塗布液とした。
(3)電荷輸送層塗布液の作製
構造式2(化2)に示す電荷輸送剤 7部
【化2】
Figure 0004137398
ポリカーボネート(パンライトC−1400、帝人化成社製) 10部
ジクロロメタン 83部
を溶解して電荷輸送層塗布液を調合した。
【0040】
外径30mm、長さ360mmのアルミニウム製の円筒状基体(塗工基体)に、上記で調合した下引き層塗布液を浸漬塗布し、100℃で10分間乾燥して、厚さ0.5μmの下引き層を形成した。次に、この上に電荷発生層(CGL)を浸漬塗布し、100℃で10分間乾燥して0.1μmの電荷発生層を形成した。次いで、CGL上に電荷輸送層(CTL)を浸漬塗布し、120℃で30分間乾燥し、28μmになるような条件で電荷輸送層を形成し、積層感光体試料を作製した。
▲1▼下引き層、電荷発生層、電荷輸送層の3層をあわせた膜厚を渦電流式膜厚計フィッシャー560Cを用いて測定し、平坦部分の平均膜厚と平坦部分の膜厚バラツキ(R=max−min)を算出し、この感光体をコピーマシンに搭載して画像を出した。
▲2▼外径60mm、長さ360mmのアルミニウム製の円筒状基体に、上記で調合した下引き層を浸漬塗布し、100℃で10分乾燥して、厚さ0.5μmの下引き層を形成した。これを目視観察にて塗工ムラの評価をした。
▲3▼外径60mm、長さ360mmのアルミニウム製の円筒状基体に、上記で調合したCGLを浸漬塗布し、厚さ0.1μmの電荷発生層を形成した。これを目視にて塗工ムラの評価をした。
▲1▼〜▲3▼の評価用試料として連続塗工を5回実施し、1回で試料採取する箇所を塗工槽の四隅とし、各20本評価用試料とした。
【0041】
実施例1
図1に示す浸漬塗工装置において、塗工槽3の内径が60mm、塗工槽蓋4の穴の内径が60mmの浸漬塗工装置を用い、オーバーフロー液槽2の体積をオーバーフロー液量の2倍の体積にした。また底部傾斜はフラットに設定し、塗工槽の中心部に底部が来るよう設定し、液回収タンクに接続の配管傾斜を2°に設定した。また、液排出口11を底面より30mm上部に配備した。高さは塗工槽3上端部より20mm高くし、側面上方の全周面に10mmの開口を設け、側面の傾斜は10°下部に向かって漸増させた。図2に示す塗工槽間距離及びオーバーフロー液槽2最短距離をそれぞれ40mm間隔にさせた塗工装置とした。試料の評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
Figure 0004137398
【0043】
実施例2
図1に示す浸漬塗工装置において、塗工槽3の内径が60mm、塗工槽蓋4の穴の内径が60mmの浸漬塗工装置を用い、オーバーフロー液槽2の体積をオーバーフロー液量の5倍の体積にした。
オーバーフロー液槽2の底部傾斜は10°に設定し、底部は塗工槽の下部と同位置とし、液回収タンク5に接続の配管傾斜を10°に設定した。また、液排出口11を底部より30mm上部に配備した。高さは塗工槽3上端部より100mm高くし、側面上方の全周面に10mmの開口を設け、側面の傾斜は10°下部に向かって漸増させた。図2に示す塗工槽間距離及びオーバーフロー液槽2最短距離をそれぞれ60mm間隔にさせた塗工装置とした。試料の評価結果は表2に示す。
【0044】
【表2】
Figure 0004137398
【0045】
比較例
図3に示す浸漬塗工装置において、塗工槽3の内径が60mm、塗工槽蓋4の穴の内径が50mmの浸漬塗工装置を用い、オーバーフロー液槽2体積がオーバーフロー液量の1.5倍の体積にした。
底部傾斜は20°に設定し塗工槽3の上部に底部が来るよう設定し、回収タンクに接続の配管傾斜を20°に設定した。また、液排出口11を底部に配備させた。高さは塗工槽3上端部10mm高くし、側面上方に全周面に10mmの開口を設け、側面の傾斜は無く塗工槽側面と平行に設定した。図2に示す塗工槽間距離は60mmと等間隔であるが、塗工槽3とオーバーフロー液槽2最短距離を30mmにさせた塗工装置とした。試料評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
Figure 0004137398
【0047】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の浸漬塗工装置によれば、オーバーフロー液槽の体積がオーバーフロー液量の2倍以上の体積を有することから、塗工基体が浸漬下降の際発生する気流による膜厚ムラ、膜厚荒れや各種の塗工ムラを防止することができる。ことに塗工ムラの内、スパイラル状のアバラムラ及び塗工スジムラに効果的であることは上記実施例の結果からも明らかである。
【0048】
請求項2の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽の上端が塗工槽上端より高いことから、塗工基体の浸漬下降の際発生する気流の影響による膜厚ムラや膜厚乱れがなく、バラツキも極度に抑制する効果が得られる。
【0049】
請求項3の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有することから、塗工槽側面と平行に設定した装置と比較して上述した効果の信頼性をより高くすることができ、浸漬塗工の際発生しやすい、塗工スジムラやアバラムラを全く発生させない。
【0050】
請求項4の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部が塗工槽長さの中央または中央より下部に位置することから、すなわち、オーバーフロー液槽をより大きく設けているため、蒸気濃度の高い相は大きな乱れもなくスパイラル状のアバラムラの発生を抑制することができる。
【0051】
請求項5の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部がフラットまたはオーバーフロー液排出口に向かって10°以下の下向きの傾斜を有することから、液流を最少限に抑えることができ、種々のムラを最大限に抑制することができる。
【0052】
請求項6の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、塗工槽外径端部とオーバーフロー液槽内径端部との間隔と塗工槽間の最接近間隔とが同間隔であることから、オーバーフロー液流や周辺の蒸気相流の不均一な蒸気濃度差を極力抑制することができ、それにより種々なムラを改善することができる。
【0053】
請求項7の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、塗工装置上部にある塗工槽蓋の穴径が塗工槽内径と同じか、または塗工槽内径より大きく、かつ、オーバーフロー液槽内径より小さいことから、塗工基体の浸漬下降により発生するオーバーフロー液流による蒸気相の乱流を防止することができる。
【0054】
請求項8の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー槽に塗工槽上端部と同じ高さか、またはそれより高い高さに開口部を設け、かつ前記塗工槽蓋上に移動可能な開閉蓋を有することから、浸漬塗工により発生する気流を上記開口部や開閉蓋より逃がすことができ、溶剤蒸気の乱れを防止して種々のムラ防止を図ることができる。
【0055】
請求項9の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽排出口と液回収タンク回収口とが2°以上10°以内の配管傾斜を有し、該配管傾斜が前記液回収タンク回収口より低い位置に形成されていることから、オーバーフロー液はゆっくりスムーズに流れ、オーバーフロー液が液回収タンクに戻る際発生する空気圧むらにより発生する円周状ムラが抑制される。
【0056】
請求項10の浸漬塗工装置によれば、上記塗工装置において、オーバーフロー液槽2下部側面にオーバーフロー液排出口11を設けたことから、オーバーフローした塗工液が下部に溜り、オーバーフロー液槽2内の蒸気濃度を安定化させ、これにより円周状ムラの発生を皆無にすることができる。
【0057】
請求項11の電子写真感光体によれば、上記塗工装置により製造されることから、感光層表面の平坦部の膜厚のバラツキが小さく、画像ムラのない電子写真感光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浸漬塗工装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明の浸漬塗工装置の塗工槽の間隔を表わす概略図。
【図3】従来の浸漬塗工装置の概略図。
【符号の説明】
1 塗工基体
2 オーバーフロー液槽
3 塗工槽
4 塗工槽蓋
5 液回収タンク
6 液回収配管
7 循環ポンプ
8 フィルター
9 塗工液供給配管
10 オーバーフロー槽上部開口
11 オーバーフロー液排出口
12 オーバーフロー戻り口
20 塗工槽間隔および塗工槽外径端とオーバーフロー槽内径端の距離

Claims (10)

  1. 円筒状またはシームレス状の基体の外周面に塗布液を塗工する電子写真感光体の塗工装置であって、基体を浸漬する塗工槽および該塗工槽外周に設けられたオーバーフロー液槽を有する浸漬塗工装置において、前記オーバーフロー液槽の体積が、オーバーフロー液量の2倍以上の体積を有し、かつ、オーバーフロー液槽が底部に向かって漸増する断面積を有することを特徴とする浸漬塗工装置。
  2. 請求項1記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の上端が塗工槽上端より高いことを特徴とする浸漬塗工装置。
  3. 請求項1、または記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部が塗工槽の中央または中央より下部に位置することを特徴とする浸漬塗工装置。
  4. 請求項1、2または記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽の底部がフラットまたはオーバーフロー液排出口に向かって10°以下の下向きの傾斜を有することを特徴とする浸漬塗工装置。
  5. 請求項1、2、3または記載の浸漬塗工装置において、塗工槽外径端部とオーバーフロー液槽内径端部との間隔と塗工槽間の最接近間隔とが同間隔であることを特徴とする浸漬塗工装置。
  6. 請求項1、2、3、4または記載の浸漬塗工装置において、塗工装置上部に設けた塗工槽蓋の穴径が塗工槽内径と同じか、または塗工槽内径より大きく、かつ、オーバーフロー液槽内径より小さいことを特徴とする浸漬塗工装置。
  7. 請求項1、2、3、4、5または記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽側面に塗工槽上端部と同じ高さ、またはそれより高い位置に開口部を設け、かつ前記塗工槽蓋上に移動可能な開閉蓋を設けることを特徴とする浸漬塗工装置。
  8. 請求項1、2、3、4、5、6または記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽排出口と液回収タンク回収口とが2°以上10°以内の配管傾斜を有し、該配管傾斜が前記液回収タンク回収口より低い位置に形成されていることを特徴とする浸漬塗工装置。
  9. 請求項1〜のいずれか1項記載の浸漬塗工装置において、オーバーフロー液槽下部側面部にオーバーフロー液排出口を有することを特徴とする浸漬塗工装置。
  10. 請求項1〜のいずれか1項記載の浸漬塗工装置により円筒状基体上に少なくとも下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成したことを特徴とする電子写真感光体。
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