JP4119065B2 - ポリエステルマルチフィラメント - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリエステルマルチフィラメント、その製造方法及び前記ポリエステルマルチフィラメントを用いた編織物に関する。更に詳しくは、編織物にした際に軽量で、優れた保温性と柔軟な風合いを兼ね備えたポリエステルマルチフィラメント、その製造方法及び前記ポリエステルマルチフィラメントを用いた編織物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレート繊維は、ウオッシュアンドウエアー(W&W)性や取扱の容易性から衣料用合成繊維として世界中で大量に生産されている。
このW&W性に加えて、光沢や吸水速乾性などの機能を付与する目的で、繊維横断面を異型断面とすることが盛んに行われている。
近年、軽量性や保温性を改良する目的で、繊維横断面に中空部を設けた中空断面糸が開発され、商業生産されている。
【0003】
例えば、特開平11−241216号公報には、フィラメント横断面に1個の中空部を有する、軽量で保温性に優れたポリエステルマルチフィラメントが開示されている。
特公平2−52004号公報(イ)及び特開昭56−49070号公報(ロ)には、繊維横断面に2個ないしそれ以上の中空部を有する中空断面繊維を用いた立毛布帛が、特開平11−200188号公報(ハ)には、8字状繊維横断面に2個の中空部を有する中空断面繊維を用いたパイル布帛が開示されている。
(イ)〜(ハ)には、繊維横断面を8字状とすることにより、柔軟性及び毛倒れを改良した立毛布帛を提供できることが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、(イ)〜(ハ)は、いずれもステープル繊維からなる糸及び布帛の開示であり、それらを使用して得られるパイル布帛,即ち、起毛や立毛布帛の風合い改良に関するものである。これらの先行技術には、メガネ型横断面のマルチフィラメントに関しては何ら開示がない。
(イ)は、複数の中空部を有し、かつ、断面異方性を有する捲縮中空繊維であるが、マルチフィラメントにおいてはこのような捲縮があると、編織工程で糸切れなどのトラブルが生じたり、得られる編織物の表面に凹凸が生じ風合いがざらつくなどの障害が起こる。
【0005】
(ロ)及び(ハ)は共に、ステープル繊維の横断面に中空を有する8字型の繊維が開示されているものの、その中空率は約10%以下と極めて低く、これ以上に中空率を大きくした場合については何ら言及されていない。
本発明者らの研究によれば、マルチフィラメントの軽量性及び保温性を向上させるには、フィラメントの中空率を大きくすることが有効であるが、反面、フィラメントの曲げの応力が高くなり、風合いの柔軟性が損なわれることが明らかになった。即ち、軽量性、保温性と風合いの柔軟性とは相反する関係にあることがわかった。
【0006】
軽量で、保温性を発揮するには、フィラメントの中空率が約20%以上であることが必要である。しかし、単に中空率を約20%以上にすると、風合いが硬くなり、柔軟な風合いの編織物が得られないという問題があった。
更に、製造方法に関しても、(イ)及び(ロ)は、ステープル繊維である故に、繊維を混合して紡績に供されるために、繊維の長さ方向の均一な染色性が要求されない。従って、糸質の均一性に優れたマルチフィラメントを、糸切れなく安定に製造する方法については、記載も示唆もされていない。
糸長方向の糸質の均一性は、編織物にした際に、染めスジや染め斑などの欠点となるので、工業的には極めて重要な課題である。
中空率が約20%以上と大きなフィラメントを得るには、使用するポリマーの重合度を高めたり、大きな断面積を有する紡糸孔を使用したり、または紡口直下を急冷する方法が採用される。しかし、かかる紡糸方法はいずれもマルチフィラメントの糸質斑を生じ易いことや、紡糸時に糸切れなどが生じ易く糸長方向に均質で、かつ、工業的水準で安定した紡糸を実現することが困難であるという問題があった。
【0007】
従って、軽量で保温性を発揮しうるに十分な20%以上の中空率を有し、かつ、柔軟な風合いを兼ね備えたマルチフィラメント及び、編織物に用いた場合にも染めスジや染め斑などの問題がない中空マルチフィラメントを工業的水準で安定しての製造する方法の出現が強く求められていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、メガネ型横断面形状で、フィラメント横断面に2つの中空部を有するポリエステルマルチフィラメントの特性を生かしつつ、軽量性、保温性及び風合いの柔軟性が両立したポリエステルマルチフィラメントを提供するために鋭意検討を行った。その結果、フィラメントの横断面形状の特定に加えて、繊維特性を特定することにより、上記の問題が解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
また、特定の紡糸口金とこれからの吐出条件の特定により、長さ方向の染色性が均一なマルチフィラメントを、糸切れなく安定して製造することが可能であることを見出した。
本発明の第1の発明は、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートフィラメントからなり、フィラメントの横断面は、フィラメントの長手方向に延びる独立した二つの中空部を有する8の字形状であって、以下の要件(1)〜(3)を満足することを特徴とするポリエステルマルチフィラメントである。
【0010】
(1)フィラメント横断面の扁平度:1.3〜3.0
(2)フィラメント横断面の中空率:20〜40%
(3)マルチフィラメントの熱収縮応力:0.05〜0.2cN/dte
x
(但し、扁平度はフィラメント横断面の外接長方形の長辺と短辺の比である)
本発明の第2の発明は、以下の要件(a)〜(d)を満足することを特徴とする第一の発明のポリエステルマルチフィラメントの製造方法である。
【0011】
(a)紡糸孔がメガネフレーム状のスリットを有し、かつ、扁平度が2〜 4の孔を複数個穿孔した紡口を使用し、
(b)紡糸孔から重合体を吐出線速度2〜10m/分で吐出し、
(c)紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度を200℃ 以下として冷却、固化し、仕上げ剤を付与し、
(d)未延伸糸を一旦巻き取ることなく、連続して延伸するに際し、紡糸 速度(m/分)と延伸倍率の積が3000〜4500(m/分)で 延伸して巻取る。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1の発明のポリエステルマルチフィラメントを一部または全部に用いたことを特徴とする編織物である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるポリエステルは、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。
本発明のポリエステルには、10モル%未満の他のポリエステル成分が含まれていてもよい。他のポリエステル成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカン二酸、スルホイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノールなどの酸成分や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール成分などがあげられる。
必要によって、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、顔料などを含有してもよい。
【0013】
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの固有粘度[η]は、0.60〜0.80であることが好ましい。固有粘度[η]が0.60未満又は0.80を越えると、以下に述べる紡口孔形状や紡口直下の冷却条件の選定が難しく、製造を安定して行うことが難しくなる。
(イ)本発明の中空糸の横断面形状
本発明におけるフィラメントの横断面形状は、フィラメントの長手方向に延びる独立した二つの中空部を有するメガネ型である。
本発明のメガネ型とは、単糸断面に独立した二つの中空部が存在する形状をいう。単糸断面の外形は、8字型のように二つの中空部の間にくびれを有するものや、小判型のようにくびれを有しないものであってもよい。
【0014】
本発明のマルチフィラメントを構成するフィラメント横断面の代表的な形状を図1に示す。
図1(a)は、いわゆる8字型のメガネ型断面の模式図であり、図1(b)は小判型のメガネ型断面の模式図である。
本発明のメガネ型断面では、そのフィラメント横断面において、フィラメントの長手方向に延びる中空部を有することが必要である。
図2(a)や図2(b)に模式的に例示するように、そのフィラメント横断面に中空部を有しないか、1つの中空部しか有しない場合は、軽量性及び保温性が劣り、本発明の目的が達成されない。
二つの独立した中空部の大きさは、必ずしも同一である必要はないが、紡糸の安定性からほぼ同一であることが好ましい。また、外形も二つの独立した中空部を挟んで対象であることが好ましい。
【0015】
本発明におけるフィラメント横断面の扁平度は1.3〜3.0でなければならない。扁平度が1.3未満では、風合いが硬くなり本発明の目的が達成されない。扁平度が3.0を越えると、風合いは柔らかくなるが、中空率を大きくすることが困難になることや、フィラメント製造時に紡口直下で糸曲がりなどが生じて安定した製造ができなくなる。扁平度は、後述する方法により求める。
本発明のマルチフィラメントは、編織物にした場合に、編織物中で扁平形状の長辺が編織物の面方向となるため(いわゆるレンガ積み構造)、曲げやすくなり、柔らかさを発現するものと思われる。扁平度は、好ましくは、1.5〜2.5、より好ましくは1.8〜2.5である。
【0016】
本発明におけるフィラメントの中空率は、20〜40%であることが必要である。中空率が20%未満では、軽量性や保温性が劣り、本発明の目的が達成されない。中空率が40%を越えると、軽量性が増し、保温性が向上するが、曲げ応力が過度に高くなり、布帛にした際の風合いが硬いものになる。また、製造時に紡口直下での糸切れが増加し、安定した製造が困難となるばかりか、糸長方向の繊度変動値U%が増加する。布帛にした際の軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼備えるためには、中空率は25〜35%であることが好ましい。
【0017】
ポリエチレンテレフタレートの比重は約1.35〜1.38であることから、中空率が25〜27%の場合に見掛け比重がおよそ1.0になる。
中空率は、後述する方法により求めることができる。
(ロ)本発明のマルチフィラメントの特性
本発明のマルチフィラメントは、前記の横断面形状特性に加えて、熱収縮応力及び、好ましくは、更に、フィラメントの曲げ特性を特定することにより、軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼ね備えた中空糸を実現することができる。
【0018】
本発明のマルチフィラメントは、熱収縮応力が0.05〜0.2cN/dtexであることが必要である。
前述の先行技術に示された、及び公知のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの熱収縮応力は、通常0.2〜0.5cN/dtexであることから、本発明のマルチフィラメントの熱収縮応力は特異的に低い値を示すことが大きな特徴である。
【0019】
マルチフィラメントの熱収縮応力が0.05cN/dtex未満の場合、より柔軟な風合いとなるが、製編織に使用する際に生機の収縮力がきわめて小さく、ペーパーライクな風合いになる。熱収縮応力が0.2cN/dtexを越えると、曲げ応力が大きくなり本発明の目的が達成されない。好ましい熱収縮応力は0.05〜0.15cN/dtex、より好ましくは、0.05〜0.10cN/dtexである。
【0020】
本発明で規定する熱収縮応力は、後述する方法により測定される、マルチフィラメントを加熱した際の収縮応力である。繊維軸方向の配向度が測定できない特殊な異型断面フィラメントに於いては、配向度の指標とみなせる。
本発明のマルチフィラメントのかかる低い熱収縮応力は、微細構造的には繊維軸方向の分子配向が公知のポリエステル繊維に比較して極めて低いことを意味する。
【0021】
本発明におけるフィラメントは、フィラメント軸方向の分子配向度が低いことに基づいて、高い中空率にも係わらず曲げ応力が小さいために、従来のマルチフィラメントでは達成できなかった軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼ね備えることができる。
本発明のマルチフィラメントの曲げ応力は、10×10ー3cN/dtex以下であることが好ましい。曲げ応力は、後述の「連続ベンデイング測定機」によって測定されるマルチフィラメントの曲げ硬さの指標である。
【0022】
曲げ応力が10×10ー3cN/dtexを越えると、柔軟な風合いの発現が困難になる傾向がある。曲げ応力は、フィラメントデシテックスが一定であれば、中空率が高くなるにしたがって大きくなる。曲げ応力が小さいほど、編織物に柔軟な風合いをもたらすことができる。フィラメント曲げ応力は、より好ましくは6×10ー3cN/dtex以下、更に好ましくは5×10ー3 cN/dtex以下である。
【0023】
本発明のマルチフィラメントは、糸長方向の均質性の指標である繊度変動値U%が1.4%以下であることが好ましい。繊度変動値U%が1.4%を越えると、編織物に加工したとき、染めスジや染め斑などの欠点が生じ易くなる。繊度変動値U%は、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
本発明におけるフィラメントのデシテックスは、0.5〜4dtexであることが好ましく、より好ましくは、1〜3dtexである。フィラメントデシテックスが5dtexを越えると、風合いが硬くなる傾向がある。
【0024】
次に、本発明のマルチフィラメントの製造方法の一例について説明する。
本発明のマルチフィラメントの製造方法において、紡糸孔がメガネフレーム状のスリットを有し、かつ、扁平度が2〜4の孔を複数個穿孔した紡口を使用する。
図3(a)〜(c)に、本発明に使用する紡糸孔の例を示す。
フィラメント横断面において、繊維の長手方向に延びる中空部を形成する目的から、紡糸孔はスリットがメガネフレーム状で、フィラメントの長手方向に延びる円形を有する紡口が使用される。この2つの円形部は、中空糸製造時の紡糸安定性や糸質の均一性を確保する目的からほぼ対称であることが好ましい。好ましくは、図3(a)の紡糸孔が採用される。
【0025】
紡糸孔の扁平度が2未満では、紡糸して得られるマルチフィラメントの扁平度が2未満となる。紡糸孔の扁平度が4を越えると、中空糸の製造時に糸曲がりなどの障害が生じ安定した製造が困難となる。
図3(a)〜(c)に例示する紡糸孔において、スリットからなる独立した二つの円形S1とS2の面積の合計が0.5〜5.0mm2 であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜3.5mm2 である。
【0026】
スリットの幅は、0.04〜0.1mmが好ましい。スリットの開口部(図3(a)〜(c)中のh)は0.1〜0.3mmが好ましい。
紡糸孔から重合体を吐出線速度2〜10m/分で吐出することが必要であり、好ましくは、3〜8m/分である。吐出線速度が2m/分未満では、紡糸孔の円形部をいかに大きくしても中空率を20%以上に形成することが困難となる。吐出線速度が10m/分を越えると、中空率を高く形成することが可能となるが、吐出孔周辺の汚染が早くなり紡口直下での糸曲りによる紡糸糸切れが多発し、安定した製造が困難となるばかりか、糸質斑が大きくなり本発明の目的が達成されない。吐出線速度は、紡糸孔の穿孔面積と孔当たりのポリマーの吐出量によって設定する。
【0027】
紡糸孔より吐出されたマルチフィラメントを、紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度を200℃以下として冷却、固化し、仕上げ剤を付与する。
紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度が200℃を越えると、紡口形状や孔の扁平度をいかに大きくしても、本発明の中空糸を得ることが困難となるばかりか、繊度変動値U%が1.4%を越え均質なマルチフィラメントとすることが困難となる。紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度は180℃以下が好ましく、更に好ましくは170℃以下である。
【0028】
吐出されたマルチフィラメントを冷却固化し、仕上げ剤を付与した後、一旦巻き取ることなく、連続して延伸するに際し、紡糸速度(m/分)と延伸倍率の積が3000〜4500(m/分)で延伸する。
この紡糸速度と延伸倍率の積は、本発明のマルチフィラメントの熱収縮応力と曲げ応力という繊維特性を特異的な範囲に特定する重要な要件である。
この積が3000(m/分)未満では、熱収縮応力が0.05cN/dtex未満となり、本発明の目的が達成されない。この積が4500(m/分)を越えると、熱収縮応力が0.2cN/dtexを越え、本発明の目的が達成されない。紡糸速度と延伸倍率の積は、好ましくは、3500〜4200(m/分)、より好ましくは、3700〜4100(m/分)である。
【0029】
ここでいう紡糸速度とは、紡糸―延伸を連続して行う連続延伸方式において、引取ロールの周速度によって決まる速度である。
通常、ポリエステルマルチフィラメントを連続延伸する場合、紡糸速度として約1000〜3000m/分が採用される。紡糸速度1000m/分の場合の延伸倍率が約4.5〜5倍であることから、この積は約4500〜5000(m/分)となる。紡糸速度が3000m/分の場合には延伸倍率が約1.5〜2倍であることから、この積は約4500〜6000(m/分)となる。
【0030】
繊度変動値U%を小さくするためには、冷風の吹き出し方向に対して、全ての紡糸孔Nの扁平の長軸(L2)を直角に配置することが好ましい。この様子を、図4に例示する。
本発明のマルチフィラメントを編織物に加工するには、マルチフィラメントをそのまま用いてもよいし、撚糸、仮撚加工およびタスラン加工などを施してもよい。
【0031】
本発明の編織物には、本発明のマルチフィラメントを100%使用したもの、編織物の一部に使用したものがある。一部に使用した編織物には、他の繊維と混繊することなく編織物に加工したもの、他の繊維と混繊複合し布帛に特殊断面ポリエステルを使用したもの、混繊複合ありなしの糸を併用して特殊断面ポリエステルを使用したものがある。
ここで、編織物における本発明のマルチフィラメントの含有率は、30%以上が好ましい。本発明のマルチフィラメントの含有率が多いほど、本発明の特徴である軽量性及び保温性及び風合いの柔軟性が増大する。
【0032】
編織物に用いる本発明のマルチフィラメントは、単独および混繊複合のどちらの場合も、風合の調整をするために、無撚のままか、100〜2500回/mの撚りを入れることが好ましい。必要に応じて、撚り数を更に増す場合には、フィラメントの中空率を本発明の範囲内に維持するためには、3000回/m以下にすることが好ましい。撚数が増加すると中空部が閉塞され、軽量性及び保温性能が低下する。
【0033】
本発明のマルチフィラメントを100%使用した編織物は、従来のポリエステル繊維を用いて得られる布帛とは異なり、優れた軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼ね備えている。
本発明のマルチフィラメントと混繊複合したり、編織物加工時に併用する他の繊維として、ポリエステル、セルロース、ナイロン6、ナイロン66、アセテート、アクリル、ポリウレタン弾性繊維、ウール、絹等のフィラメント及びステープル繊維などある。
【0034】
次に、本発明のマルチフィラメントと他の繊維とを混繊複合した編織物の製造方法について説明する。
本発明に用いる混繊複合糸は、本発明のマルチフィラメントと他の繊維をインターレース混繊、インターレース混繊後延伸仮撚、どちらか一方のみ仮撚し、その後インターレース混繊、両方を別々に仮撚後、インターレース混繊、どちらか一方をタスラン加工後、インターレース混繊、インターレース混繊後、タスラン加工、タスラン混繊、等の方法によって製造することができる。
【0035】
かかる方法によって得た混繊複合糸は、交絡が10個/m以上あることが好ましい。交絡が10個/m未満では、後工程での工程安定性が悪くなる傾向がある。
本発明の編織物は、本来、疎水性のポリエステルに吸水性能を発現させるため親水加工を施すことも可能である。親水加工には、一般に市販されている親水処理剤を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコール系の親水加工剤(高松油脂製のSR1000など)を用い、5%owf水溶液にて布帛又は原糸を30分間沸水中で処理することにより親水加工を行うことができる。加工された編織物に、吸水速乾性編織物の製造に用いることができる。
【0036】
本発明の編織物は、汗等の吸水機能を維持するため、雨等の外側からの水を吸水し難くする必要があり、そのために、表面に撥水加工を施こしてもよい。
撥水加工は、一般に市販されている撥水処理剤を用いることができる。具体的には、フッ素樹脂系、メラミン樹脂系、その他の撥水処理剤などを利用できる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0037】
【実施例】
(1)紡口直下雰囲気温度の測定
フィラメント近傍温度は、安立計器社製 HFTー50型温度測定器を用いて、紡糸中の紡口直下3cmにおけるフィラメントに近傍1cmの位置の雰囲気温度を測定する。
(2)中空率
フィラメントから任意に5点の横断面写真を撮影し、その横断面写真を図積分して、下記式1により求めた。
【0038】
【数1】
【0039】
(3)扁平度
フィラメントの横断面写真上に、図1に示すように断面に外接する長方形を描き、この長方形の短軸(L1)と長軸(L2)の比を下記式2により算出した。
【0040】
【数2】
【0041】
(4)熱収縮応力極値温度
熱応力測定装置(例えばカネボウエンジニアリング社製、商品名KEー2)を用いて測定する。糸(マルチフィラメント)を20cmの長さに切り取り、これの両端を結んで輪を作り、測定器に装填する。初荷重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分の条件で測定し、熱応力の温度変化を示すチャートっから熱応力曲線のピーク値を読みとる。その値が熱収縮応力の極値温度である。
(5)曲げ応力
マイクロニクス社製 連続ベンデイング測定機 CV−101型 を使用して、マルチフィラメントの曲げ応力を測定する。
測定は、糸長方向に50cmごとに計25回測定し、この平均値をマルチフィラメントのデシテックスで除して、曲げ応力とする。
【0042】
(6)繊度変動値U%
USTER TESTER 3(zellweger社製)により、以下の条件により測定する。
・測定条件:
ハイパスフィルター 有り
測定速度 100m/分
測定スロット 3
テスト時間 5分
圧力 2.5bar
撚り 1500t/mS
【0043】
(7)破断強度、破断伸度
JIS−L1015に準じて測定する。
(8).軽量性
下記式3により、見掛け比重を算出し、見掛け比重が1.1〜1.0のものを○、1.0以下のものを◎とし、見掛け比重が1.1を越えるものは×とする。
但し、ポリエステル延伸糸の密度=1.37として算出する。
【0044】
【数3】
【0045】
(9)風合い
以下の基準で熟練者が判定する。
◎ :非常に柔軟
○ :柔軟
× :劣る(硬い)
(10)総合評価
軽量性と柔軟性のバランスを評価して、以下の基準で判定する。
【0046】
◎ :軽量性と柔軟性を兼ね備えていて非常に優れている
○ :軽量性と柔軟性を兼ね備えている
× :軽量性か柔軟性の一方を欠いている
【0047】
(11)紡糸安定性
メガネ型断面の孔を24ホール穿孔した紡口を16個装着した紡糸設備により紡糸する。この紡糸において、連続的に紡糸ー延伸を行った際の糸切れ回数により1日当たりの糸切れ回数を測定する。
1回以内:良好
1〜3回:ほぼ良好
3回以上:不良
【0048】
【実施例1〜4、比較例1〜3】
本実施例では、マルチフィラメントの紡糸にあたり、紡口直下の雰囲気温度の影響と、得られた中空糸の中空率が風合いに及ぼす影響について説明する。
酸化チタンを0.5重量%を含む、固有粘度[η]0.65のポリエチレンテレフタレートを公知の紡糸機ー連続延伸機を用いて下記に示す条件で紡糸し、巻き取ることなく連続して延伸を行った。
【0049】
紡糸にあたっては、図3(a)に示す形状に穿孔された孔を、図4に示す様な畝状に24個配列した紡糸口金を使用した。この時、孔の扁平度は2.2、孔の中空部の面積が1.57mm2 であった。
紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍温度を表1のように変化させて、中空率及び[紡糸速度×延伸倍率]を異ならせた場合の結果を表1に示す。
【0050】
(紡糸条件)
紡糸温度 295 ℃
紡糸孔配列 図4の配列紡口を使用
吐出量 巻取デシテックスを一定になるよう変化
孔からの吐出線速度 3.1〜5.0 m/分
冷風速度 第1表の中空率となるように調整
仕上げ剤付着率 0.7重量%
(延伸条件)
第1ゴデットロール速度 2400 m/分
(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度 85 ℃
第2ゴデットロール速度 延伸糸の破断伸度が30%となるように設定
第2ゴデットロール温度 130 ℃
巻取速度/第2ゴデット 0.983
ロール速度
(延伸糸デシテックス)
72dtex/24f
【0051】
得られたマルチフィラメントの中空率、扁平度等の物性、及びこれらをコース数47本/インチ、ウエル数35本/インチの筒編みにして、精練ー染色ー仕上げセットしたものの特性を表1に示す。
この表から明らかなように、本発明の実施例1〜4のマルチフィラメントは、中空率20%以上であるにもかかわらず、軽量で柔軟な風合いを兼ね備えている。
これに対し、比較例1及び2のマルチフィラメントは、中空率が小さいために、柔軟な風合いは有するが、軽量性に欠けている。また、比較例3は中空率が40%を越えており、軽量であるが、曲げ応力が大きく柔軟な風合いに欠けている。
【0052】
【実施例5〜7、比較例4〜6】
本実施例では、紡糸孔の形状及び扁平度を異ならせた場合の影響について説明する。
扁平度の異なる、図3(a)、(b)及び(c)の形状の紡糸孔を準備し、紡糸ー延伸を行った。
紡糸条件及び[紡糸速度×延伸倍率]は、実施例2に準じ、破断伸度が30%となる条件にてマルチフィラメントを製造した。
【0053】
得られた中空糸の形状及び物性を表2に示す。
表2から明らかなように、紡口の扁平度が2以上の紡糸孔を用いて、中空率が20%以上、かつ、扁平度が本発明の範囲としたマルチフィラメントを用いると、軽量で柔軟な風合いを兼ね備えた編織物が得られた。
【0054】
【実施例8〜10、比較例7】
本実施例では、孔からの吐出線速度の影響について説明する。
図3(a)に示す形状で、孔のスリット幅を変えることにより、吐出線速度を表3のように異ならせて紡糸ー延伸を行った。
その他の紡糸条件は、下記通りに設定した。
このときの紡糸性と、得られたマルチフィラメントの物性及び繊度変動値U%を表3に示す。
【0055】
(紡糸条件)
紡糸温度 295 ℃
紡糸孔配列 図4の孔配列紡口
吐出量 28.8 g/分・エンド
冷風速度 0.7 m/分
仕上げ剤付着率 0.7重量%
(延伸条件)
第1ゴデットロール速度 2400 m/分
(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度 85 ℃
第2ゴデットロール速度 4150 m/分
第2ゴデットロール温度 130 ℃
巻取速度/第2ゴデット 0.983
ロール速度
巻取速度 4080 m/分
(延伸糸デシテックス)
72dtex/24f
表3から明らかなように、吐出線速度が本発明の範囲のとき、良好な紡糸性と、軽量で柔軟な風合いを有するマルチフィラメントが得られた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【発明の効果】
本発明のマルチフィラメントは、高い中空率であるにもかかわらず、特定の断面形状と特定の繊維特性を有することから、編織物に使用した場合、軽量で保温性と柔軟な風合いを兼ね備えた特性を発揮することができる。また、高い中空率であるにもかかわらず、マルチフィラメント方向の糸質の均一性に優れていることから、実用上も良好な品位の編織物を提供できる。
本発明の製造方法は、かかるマルチフィラメントを工業的水準で安定、かつ、均一に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマルチフィラメントの横断面形状を示す模式図。
【図2】本発明によらないマルチフィラメントの横断面形状を示す模式図。
【図3】本発明のマルチフィラメントを紡糸するのに使用する紡糸口金の孔形状を示す模式図。
【図4】本発明のマルチフィラメントを紡糸する紡糸口金の孔配列を示す模式図。
Claims (5)
- 90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートフィラメントからなり、フィラメントの横断面は、フィラメントの長手方向に延びる独立した二つの中空部を有するメガネ型であって、以下の要件(1)〜(3)を満足することを特徴とするポリエステルマルチフィラメント。
(1)フィラメント横断面の扁平度:1.3〜3.0
(2)フィラメント横断面の中空率:20〜40%
(3)マルチフィラメントの熱収縮応力:0.05〜0.2cN/dte
x
(但し、扁平度はフィラメント横断面の外接長方形の長辺と短辺の比である) - 曲げ応力が10×10ー3cN/dtex以下、繊度変動値U%が1.4以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルマルチフィラメント。
- 以下の要件(a)〜(d)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
(a)紡糸孔がメガネフレーム状のスリットを有し、かつ、扁平度が2〜 4の孔を複数個穿孔した紡口を使用し、
(b)紡糸孔から重合体を吐出線速度2〜10m/分で吐出し、
(c)紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度を200℃ 以下として冷却、固化し、仕上げ剤を付与し、
(d)未延伸糸を一旦巻き取ることなく、連続して延伸するに際し、紡糸 速度(m/分)と延伸倍率の積が3000〜4500(m/分)で延伸して巻取る - 紡糸孔の中空部の面積が0.5〜5.0mm2 であることを特徴とする請求項4に記載のポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
- 請求項1のポリエステルマルチフィラメントを編織物の一部もしくは全部に用いることを特徴とする編織物。
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