JP4118434B2 - シラン化合物の不均化反応用触媒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒、及び該不均化反応用触媒を用いて、各種水素化ハロゲン化シランを不均化させることを特徴とするシラン化合物の不均化反応生成物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
モノシラン、ジクロロシラン等のシラン化合物は、シリコン単結晶の原料、シリコンのエピタキシャル成長等の半導体工業において重要な物質であり、近年急激に需要が増大している。
【0003】
これらの化合物の製造方法としては、様々な方法が知られているが、水素化ハロゲン化シランを不均化して目的とするシラン化合物を含む多くの不均化反応生成物を得、その中から目的の化合物を蒸留等の手段により分別して得る方法が、最も経済的であるとされる。
【0004】
水素化ハロゲン化シランの不均化反応とは、該水素化ハロゲン化シランの分子間で、水素とハロゲンを交換することにより、原料の水素化ハロゲン化シランとは各々異なるシラン化合物を生成させる反応である。新しく生成した化合物が、更に同様の交換反応を繰り返すので、反応系は数種類のシラン化合物からなる混合組成となる。
【0005】
例としてトリクロロシランの不均化を説明する。ある適当な触媒の存在下では、下式のように、まずトリクロロシラン同士が水素と塩素を交換し合い、ジクロロシランと四塩化ケイ素を生成する。ジクロロシランは同様にモノクロロシランとトリクロロシランを生成する。モノクロロシランも同様に、モノシランとジクロロシランを生成する。これらの反応が繰り返され、系はモノシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、四塩化ケイ素の5成分からなる混合組成となる。
【0006】
【化1】
【0007】
例えば、目的物がモノシランの場合、この混合物の中から蒸留などの方法によって分別すれば良い。なお、この不均化反応は平衡反応であり、十分な反応時間(接触時間)をとると、反応系は平衡組成に達する。但し、目的物を分別して得る際に、必ずしも系が平衡に達している必要はない。
【0008】
水素化ハロゲン化シランの不均化反応に使用する触媒については、多くの技術が特許等に開示されている。例えば、特開昭60−96518号公報では、ハロゲン化第四級アンモニウムやハロゲン化第四級ホスホニウムを、液相均一系触媒として作用させる方法が示されている。また、特開昭60−60915号公報にも、第四級ホスホニウム塩を触媒として使用することが記載され、具体的にハロゲン化第四級ホスホニウムが挙げられ、これを活性炭、アルミナ、シリカ-アルミナなどの担体に担持させて使用しても良いことが示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように、ハロゲン化第四級ホスホニウムを使用した場合、かなり良好な触媒活性で不均化反応を行うことが可能であるが、さらにその活性を高め、該反応を効率良く行うことが課題であった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒として、第四級ホスホニウムイオンと硫酸イオンまたは硫酸水素イオンとからなるイオン結合性化合物を用いることにより、該不均化反応を高い反応活性で行うことができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、陽イオンが第四級ホスホニウムイオンであるイオン結合性化合物と、陰イオンが硫酸イオンまたは硫酸水素イオンであるイオン結合性化合物とからなる水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒である。
【0012】
また、本発明は、上記不均化反応用触媒を用いて、水素化ハロゲン化シランを不均化させるシラン化合物の不均化反応生成物の製造方法も提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において使用される水素化ハロゲン化シランは、ケイ素に結合した水素原子およびハロゲン原子をそれぞれ少なくとも一つ有するシラン化合物である。かかる水素化ハロゲン化シランとしては、一般には、下記の一般式(1)で表わされる化合物が使用される。
【0014】
Y(4-m-n)SiHnXm (1)
ここで、Yはアルキル基またはアリール基を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。また、mおよびnは1以上3以下の整数で、かつm+nは4以下である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基等の炭素数1〜4のものが好ましく、アリール基としては、フェニル基等が好ましい。具体例としては、トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシラン、メチルジクロロシラン、メチルモノクロロシラン、ジメチルモノロロシラン、エチルジクロロシラン、エチルモノクロロシラン、ジエチルモノロロシラン、フェニルジクロロシラン、フェニルモノクロロシラン、ジフェニルモノクロロシランおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0015】
これらのうち、下記の一般式(2)
SiHnXm (2)
で表わされるトリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシランから選ばれるクロロシラン化合物、またはこれらの混合物が特に好適である。
【0016】
なお、モノシランやメチルシランのようなケイ素に結合したハロゲン原子を有さない水素化シランおよび、四塩化ケイ素やメチルトリクロロシランのようなケイ素に結合した水素原子を有さないハロゲン化シランは、それ単独では不均化反応を起こさない。しかし、上記の水素化ハロゲン化シランと共存する場合は、不均化反応に関与し、対応した混合物を与える。したがって、本発明では原料として、水素化ハロゲン化シランを用いる他、これらのものと上記ハロゲン化シランや水素化シランとを混合して用いても良い。また、上記ケイ素に結合したハロゲン原子を有さない水素化シランとケイ素に結合した水素原子を有さないハロゲン化シランとを混合して用いても、良好に水素化ハロゲン化シランの不均化反応が開始される。
【0017】
本発明では、上記水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒として、陽イオンが第四級ホスホニウムイオンであるイオン結合性化合物と、陰イオンが硫酸イオンまたは硫酸水素イオンであるイオン結合性化合物とからなる水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒を用いる。このようにして、第四級ホスホニウムイオンと硫酸イオンまたは硫酸水素イオンとを共存させることにより、前記不均化反応の触媒活性は、大きく向上する。
【0018】
ここで、陽イオンが第四級ホスホニウムイオンであるイオン結合性化合物と、陰イオンが硫酸イオンまたは硫酸水素イオンであるイオン結合性化合物とからなる触媒は、これらの各イオン結合性化合物の混合物、即ち、硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の混合物の形態で用いる他、これらの各イオンが結合された単一の化合物、即ち、第四級ホスホニウム硫酸塩や第四級ホスホニウム硫酸水素塩の形態で用いても良い。さらに、硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と硫酸の混合物の形態であっても良い。
【0019】
このように、第四級ホスホニウムイオンが陽イオンであるものと、硫酸イオンまたは硫酸水素イオンが陰イオンであるものとを、別々のイオン結合性化合物として混合して用いても、第四級ホスホニウム硫酸塩や第四級ホスホニウム硫酸水素塩を用いた場合と同等の高い触媒活性が得られる。市販されている第四級ホスホニウム化合物は、塩化物や臭化物等のハロゲン化物がほとんどであり、硫酸塩や硫酸水素塩の形態のものは入手し難いため、本発明では、このような別々のイオン結合性化合物として混合して用いるのが、実施する上で有利である。
【0020】
無論、上記硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の混合物には、第四級ホスホニウム硫酸塩や第四級ホスホニウム硫酸水素塩が混合されていても良い。硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の溶液を担体に含浸させた後乾燥させる方法により、本発明の触媒を調製した際には、該担体に担持される触媒成分はこのような混合物になっている。
【0021】
本発明において、第四級ホスホニウムイオンは、公知のものが制限なく使用される。ホスホニウムイオンの中心リン原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが好ましく、これらはそれぞれ同種または異種であっても良い。アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。アルケニル基としてはビニル基、アリル基、ヘキセニル基等が挙げられる。アリール基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、これらの基は、アルコキシル基やアルコキシカルボニル基等の置換基を有するものであっても良い。なお、第四級ホスホニウムイオンは、中心リン原子に上記のような一価の炭化水素基とともにアルキレン基等の多価の炭化水素基が結合し、該多価の炭化水素基を介して複数の第四級ホスホニウム基が分子内に存在する多価の第四級ホスホニウムイオンであっても良い。
【0022】
これらの第四級ホスホニウムイオンの具体例としては、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン、テトラペンチルホスホニウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン、ビニルトリフェニルホスホニウムイオン、(エトキシカルボニルメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、シクロプロピルトリフェニルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン、エチルトリフェニルホスホニウムイオン、プロピルトリフェニルホスホニウムイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、ペンチルトリフェニルホスホニウムイオン、ヘキシルトリフェニルホスホニウムイオン、ヘプチルトリフェニルホスホニウムイオン、およびオクチルトリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの第四級ホスホニウムイオンのうち、中心原子に結合する炭化水素基が、それぞれ同種または異種のアルキル基、特に炭素数は4〜18、より好ましくは4〜12のアルキル基であるものが良好である。
【0023】
本発明では、これらの第四級ホスホニウムイオンの硫酸塩または硫酸水素塩を、上記水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒として使用すればよい。また、硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の混合物の形態で用いる場合は、該第四級ホスホニウム化合物としては、対アニオンが、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等の無機酸イオン、あるいは、酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、クロコン酸イオン、ロジゾン酸イオン等の有機酸イオンを有するものを適宜用いればよい。
【0024】
これらの硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と併用する金属硫酸塩または金属硫酸水素塩としては、公知のものが得に制限なく使用される。具体的には、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸セリウム(III)、硫酸セリウム(IV)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、硫酸ジルコニウム、硫酸クロム(II)、硫酸クロム(III)、硫酸マンガン(II)、硫酸マンガン(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸コバルト(II)、硫酸コバルト(III)、硫酸ニッケル、硫酸銅(I)、硫酸銅(II)、硫酸銀(I)、硫酸亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸水銀(I)、硫酸水銀(II)、硫酸アルミニウム、および、硫酸鉛等が制限なく使用される。このうち、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム等の対カチオンがアルカリ金属イオンである硫酸塩や硫酸水素塩、及び硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等の対カチオンがアルカリ土類金属イオンである硫酸塩が好適に使用される。
【0025】
硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と、金属硫酸塩の混合割合は、該第四級ホスホニウム化合物1モルに対して金属硫酸塩が0.5モル以上である時に触媒活性が特に高くなる。好適な使用割合は、第四級ホスホニウム化合物1モルに対して金属硫酸塩が0.3〜3モル、好適には0.4〜2モルの範囲が好適である。他方、硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と、金属硫酸水素塩の混合割合は、該第四級ホスホニウム化合物1モルに対して金属硫酸塩が1モル以上である時に触媒活性が特に高くなる。好適な使用割合は、第四級ホスホニウム化合物1モルに対して金属硫酸塩が0.6〜6モル、好適には0.8〜4モルの範囲が好適である。
【0026】
本発明の不均化反応用触媒は、担体に担持させて使用するのが、触媒と反応物が分離し易く、効率的に反応を行うことができて好ましい。担体としては、一般に触媒用担体として用いられるものであれば、特に制限はない。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、アルミナ-ボリア、活性炭、ゼオライト、粘土鉱物等が挙げられるが、特にシリカや粘土鉱物が触媒活性の発現が著しく大きく好適に用いられる。
【0027】
ここで、シリカとしては、シリカゲル等の無定型シリカを用いるのが好ましい。特に細孔容積が0.1〜10ml/g、好適には0.3〜1.5ml/gであり、平均細孔径が0.5〜200nm、好適には2〜100nmであり、比表面積が10〜1000m2/g、好適には100〜800m2/gのものを用いるのが好ましい。また、粒子径は、30μm〜3mm、特に50μm〜1mmであるのが好ましい。なお、本発明においてシリカを用いる場合には、乾量基準でSiO2分の含有量が80重量%以上、好適には95重量%以上であり、不純物であるAl2O3分の含有量が2重量%以下であるのが特に好ましい。
【0028】
また、粘土鉱物としては、粘土の主成分として知られる公知の含水ケイ酸塩が制限なく使用される。これらは、結晶質のものでも、非晶質のものであっても良い。結晶質粘土鉱物の場合、通常、Si4+(一部、Al3+)イオンが酸化物イオン(O2-)に対して四配位をとる四面体シートと、Al3+、Fe2+、Fe3+、Mg2+などのイオンが酸化物イオン及び水酸化物イオン(OH-)に対して六配位をとる八面体シートとを基本的構造単位としている。また、これらは天然物の他、合成品であっても良く、さらにフッ素処理や熱処理等の改質処理を施されたものであっても良い。
【0029】
具体的には、結晶質のものとして、カオリン、クリソタイル、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、雲母、ドンバサイト、クロライト、クリノクロア、ニマイト等が挙げられ、非晶質のものとして、アロフェン、イモゴライト等が挙げられ、このうち結晶質のものが好ましく、特に、カオリン、パイロフィライト、クロライト、モンモリロナイト、雲母を用いるのが不均化反応の活性が高いため好ましい。これらの粘土鉱物は、通常、固体酸強度が+1.5≧H0>−5.6のものが好適に使用される。また、比表面積が0.5〜500m2/g、好適には1〜300m2/gのものを用いるのが好ましい。さらに、粒子径は、0.5〜500μm、好適には0.5〜200μmであるのが好ましい。
【0030】
本発明において、触媒成分の上記担体への担持方法は、特に限定されるものではなく公知の方法が採用できる。具体的には、第四級ホスホニウム硫酸塩または第四級ホスホニウム硫酸水素塩の溶液、或いは硫酸塩及び硫酸水素塩以外の第四級ホスホニウム化合物と金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の溶液を担体に含浸し、乾燥を行う含浸法の他、単に上記した触媒成分と担体とを機械的に混合する方法により行っても良い。好適には、含浸法がより高い触媒活性が得られるため好ましい。
【0031】
担体への触媒成分の担持量は、担持量が多いほど高活性である。好適な担持量は、第四級ホスホニウムイオンの種類によって異なるが、通常、前記触媒成分と担体の合計量に対して該触媒成分が0.01〜50重量%、好適には0.1〜20重量%の範囲であることが望ましい。
【0032】
本発明において不均化反応は、原料の水素化ハロゲン化シランを、上記触媒と接触させることにより実施される。接触の方法は特に制限されない。回分式でも、流通式でも良い。また、気相でも液相でも良い。
【0033】
本発明を最も有効に実施するためには、触媒を固定床とする流通式反応が望ましい。この反応は、減圧から加圧まで幅広い反応条件で行うことができるが、反応の効率と安全性を考慮すれば、0.5〜100気圧で行うことが望ましく、より好適には、常圧〜60気圧で行うことが望ましい。また、反応温度に関しても、幅広い範囲で反応が可能であるが、反応を速やかに進行させるためには、0℃以上であることが望ましく、触媒の安全性を考慮すれば、400℃以下が望ましい。より好ましくは、40〜300℃の範囲で反応を行うことが望ましい。
【0034】
接触時間は、反応系が平衡組成にほぼ到達する程度に設定することが望ましい。接触時間が短すぎる場合、十分に不均化反応が進行しないため、目的物の収率が低くなる。接触時間が必要以上に長い場合、平衡組成に十分達しているため、原料に対する目的物の収率は変わらないが、平衡組成以上に目的物の割合が増加することは有り得ず、結果として単位時間当たりの目的物の収量が少なくなる。適当な接触時間は、反応温度や圧力、原料、触媒、およびその他の要素によって異なるが、一般には0.01〜300秒から採択される。
【0035】
本発明の製造方法によれば、原料の水素化ハロゲン化シランは、上記不均化反応により、多くの不均化反応生成物を与える。従って、その混合物中から、必要な成分を蒸留などの一般的な方法を用いて分別し、取得すれば良い。特に、水素化ハロゲン化シランとして、トリクロロシラン、ジクロロシラン、およびモノクロロシランから選ばれる少なくとも一種を、必要により四塩化ケイ素と混合して用い、不均化反応生成物として、上記水素化ハロゲン化シランよりも高次に水素化されたシラン化合物を取得するのが好ましい。
【0036】
特に、水素化ハロゲン化シランとして、トリクロロシランを用い、以下説明する図1に示す2段の不均化反応を実施してモノシランを取得するのが好適である。
【0037】
原料のトリクロロシランは、ドラム6より不均化反応器1、例えば流動床式または固定床式の反応器に供され、該不均化触媒と接触させる。それにより、各種のクロロシラン化合物、主にジクロロシラン、トリクロロシランおよび四塩化ケイ素の混合系が生成する。この時点では目的物であるモノシランの割合は低い。不均化反応器1で生成した混合物は、次工程の分別装置である蒸留塔3へと送られる。蒸留塔3からは、ジクロロシランとトリクロロシランを中心とする低沸点成分がパイプライン8より、蒸留塔4へと送られ、蒸留塔3の低部からは四塩化ケイ素が排出される。蒸留塔4では、ジクロロシランを中心とする低沸点成分がパイプライン9より不均化反応器2に供給される。蒸留塔4の低部からはトリクロロシランがドラム6へと回収され、不均化反応に供される。不均化反応器2では、同様に触媒と接触させて、各種のクロロシラン化合物、主にモノシラン、モノクロロシラン、ジクロロシランおよびトリクロロシランの混合系が生成する。この時点では、目的物のモノシランが十分分別可能な割合で含まれていることが好ましい。この混合物は蒸留塔5へと送られ、モノシランをパイプライン10より取得する。蒸留塔5の低部からは主に、モノクロロシラン、ジクロロシランおよびトリクロロシランがドラム7へと回収され、さらに蒸留塔4でモノクロロシランとジクロロシランを中心とする低沸点成分とトリクロロシランを中心とする高沸点成分に分けられる。この低沸点成分と高沸点成分は、それぞれ不均化反応器2と不均化反応器1へと送られ、再び不均化反応に供される。このようにして、トリクロロシランを原料に用いて、モノシランを得ることが可能となる。
【0038】
もちろん、モノシラン以外のシラン化合物、例えばジクロロシランを目的物とする場合には、例えば分別工程として蒸留を採択する場合であれば、蒸留条件を変更することにより目的物であるジクロロシランのみを分取し、より高沸点または低沸点のクロロシラン化合物を不均化反応器へ循環する。このようにして、不均化反応生成物のいずれかの一種、または二種以上のクロロシラン化合物をも、目的物として取得することができるのである。
【0039】
【発明の効果】
本発明の不均化反応用触媒を用いれば、従来の方法に比べ、より短い接触時間で水素化ハロゲン化シランを不均化できる。即ち、本発明の触媒を使用すれば、反応速度が大きいため、十分に不均化反応を進行させるために必要な時間が、従来のものに比べて短く設定できる。従って、同じ触媒量ならば、従来方法に比べ、単位時間当たりの収量をより多くできる。逆に同じ収量を得るためには、触媒量がより少なくて済む。
【0040】
【実施例】
本発明を、具体例を用いて説明する。
【0041】
なお、以下の実施例及び比較例において触媒調製は、以下の方法により実施した。
【0042】
(触媒調製)
・含浸法
各種の第四級ホスホニウム化合物、金属硫酸塩または金属硫酸水素塩を水に溶解し、そこに担体を加えて、250℃で乾燥することによって調製した。
【0043】
・混合法
各種の第四級ホスホニウム化合物、金属硫酸塩または金属硫酸水素塩及び担体を、乳鉢により機械的に混合することによって調製した。
【0044】
実施例1
シリカを担体として、表1の触媒aに示す触媒を調製した。シリカには、西尾工業社製のIDゲル(粒子径250〜500μm,比表面積310m2/g,細孔容積1.2ml/g,平均細孔径15nm)を用いた。
【0045】
次いで、内径4mm及び8mmのガラス製反応管に、触媒aを4mmの反応管に0.5ml、8mmの反応管に2.0ml充填し、80℃に加熱した。ここに、トリクロロシランとヘリウムの1:1混合ガスを、4mmの反応管に60,30ml/分で流通させ、8mmの反応管に60および24ml/分で流通させた。この時の接触時間は、それぞれ 0.5,1.0,2.0,5.0秒であった。反応は常圧で行った。
【0046】
触媒層を通過したガスを、ガスクロマトグラフィーで分析し、各接触時間におけるトリクロロシランの転化率を求め、その値を80℃でのトリクロロシランの平衡転化率22.7%で除した。この値を平衡到達率とした。結果を表2に示した。接触時間1.0秒において、平衡到達率は99.4%の高率に達していた。
【0047】
尚、接触時間5.0秒におけるガス組成は、
モノシラン;0.1mol%
モノクロロシラン;0.5mol%
ジクロロシラン;10.8mol%
トリクロロシラン;77.3mol%
四塩化ケイ素;11.3mol%
であった。この組成は80℃におけるトリクロロシランの不均化反応の平衡組成と一致した。
【0048】
実施例2〜18
実施例1と同様にしてシリカを担体として、表1に示す触媒b〜rを調製した。次いで、得られた触媒b〜rを用いて実施例1に準じてトリクロロシランの不均化反応を行った。結果を表2に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
実施例19
実施例1に準じて、トリクロロシランの代わりに、ジクロロシランを用いて反応を行った。ここでの平衡到達率は、各接触時間におけるジクロロシランの転化率を80℃でのジクロロシランの平衡転化率65.0%で除して求めた。接触時間0.5,1.0,2.0,5.0秒での平衡到達率はそれぞれ81.1,96.4,99.9,100%であった。
【0052】
尚、接触時間5.0秒におけるガス組成は、
モノシラン;13.7mol%
モノクロロシラン;10.6mol%
ジクロロシラン;35.0mol%
トリクロロシラン;39.7mol%
四塩化ケイ素;0.9mol%
であった。この組成は80℃におけるジクロロシランの不均化反応の平衡組成と一致した。
【0053】
実施例20
内径4mmのガラス製反応管に、表1の触媒aを0.1および0.5ml充填し、200℃に加熱した。ここに、トリクロロシランとヘリウムの1:1混合ガスを、0.1ml充填した反応管に120,60,30ml/分で流通させ、0.5ml充填した反応管に60ml/分で流通させた。この時の接触時間は、それぞれ 0.05,0.10,0.20,0.50秒であった。反応は常圧で行った。
【0054】
触媒層を通過したガスを、ガスクロマトグラフィーで分析し、各接触時間におけるトリクロロシランの転化率を求め、その値を200℃でのトリクロロシランの平衡転化率29.9%で除した。この値を平衡到達率とした。接触時間0.05,0.10,0.20,0.50秒での平衡到達率はそれぞれ88.4,98.6,100,100%であった。
【0055】
尚、接触時間0.50秒におけるガス組成は、
モノシラン;0.1mol%
モノクロロシラン;0.9mol%
ジクロロシラン;13.0mol%
トリクロロシラン;70.1mol%
四塩化ケイ素;15.9mol%
であった。この組成は200℃におけるトリクロロシランの不均化反応の平衡組成と一致した。
【0056】
実施例21〜27
臭化テトラブチルホスホニウム/硫酸カリウムを表3に示したシリカや粘土鉱物に担持した触媒を調製した。臭化テトラブチルホスホニウムと硫酸カリウムの担持量は表1の触媒aと同様である。これらの触媒を用いて、実施例1に準じてトリクロロシランの不均化反応を行った。結果を表4に示した。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
比較例1
触媒として、ローム&ハース社製の弱塩基性陰イオン交換樹脂アンバーリストA−21(イオン交換容量;4.6meq/g)を用いて、実施例1に準じてトリクロロシランの不均化反応を行った。結果を表5に示した。接触時間2.0秒において、平衡到達率は63.2%にしか達していなかった。
【0060】
比較例2,3
シリカに臭化テトラフェニルホスホニウム、水酸化テトラブチルホスホニウムを担持した触媒を調製した。担持量はすべて5重量%であり、含浸法により担持させた。シリカには前述のIDゲルを用いた。
【0061】
これらの触媒を用いて、実施例1に準じてトリクロロシランの不均化反応を行った。結果を表5に示した。接触時間1.0秒において、どちらも平衡到達率は90%に達していなかった。
【0062】
比較例4
シリカに硫酸カリウムを担持した触媒を調製した。担持量は5重量%であり、含浸法により担持させた。シリカには前述のIDゲルを用いた。この触媒を用いて、実施例1に準じてトリクロロシランの不均化反応を行った。結果を表5に示した。硫酸カリウム単独では、全く触媒活性を示さなかった。
【0063】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明を実施するための製造プロセスの代表的形態を示す概略図である。
【符号の説明】
1,2;不均化反応器
3,4,5;蒸留塔
6,7;ドラム
8,9,10;パイプライン
Claims (5)
- 陽イオンが第四級ホスホニウムイオンであるイオン結合性化合物と、陰イオンが硫酸イオンまたは硫酸水素イオンであるイオン結合性化合物とからなる水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒。
- 少なくとも一部が硫酸塩及び硫酸水素塩以外の化合物である第四級ホスホニウム化合物と、金属硫酸塩または金属硫酸水素塩の混合物からなる請求項1記載の水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒。
- 第四級ホスホニウム硫酸塩または第四級ホスホニウム硫酸水素塩からなる請求項1記載の水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒。
- 担体に担持されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の水素化ハロゲン化シランの不均化反応用触媒。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の不均化反応用触媒の存在下で、水素化ハロゲン化シランを不均化させることを特徴とするシラン化合物の不均化反応生成物の製造方法。
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