JP4113004B2 - 圧電基板用単結晶、それを用いた弾性表面波フィルタおよびその製造方法 - Google Patents

圧電基板用単結晶、それを用いた弾性表面波フィルタおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、弾性表面波フィルタの圧電基板として用いられるタンタル酸リチウム単結晶に関し、該単結晶から作製された圧電基板を用いた弾性表面波フィルタ、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)は、圧電基板の表面に、微細な櫛形電極を形成したものであり、テレビ、携帯電話等に広く用いられている。弾性表面波フィルタは、圧電基板表面にアルミニウム等からなる電極薄膜を形成し、該電極薄膜を、フォトリソグラフィにより所定形状の電極とすることで製造される。具体的には、まず、圧電基板表面に、スパッタリング法等により電極薄膜を形成する。次いで、フォトレジストである有機樹脂を塗布し、高温下でプリベイクする。続いて、ステッパー等により露光して電極膜のパターンニングを行う。そして、高温下でのポストベイクの後、現像し、フォトレジストを溶解する。最後に、ウエットあるいはドライエッチングを施して所定形状の電極を形成する。
【0003】
圧電基板の材料には、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶や、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶等が多く用いられる。これらの単結晶は、焦電性係数が大きく、抵抗が高いという特性を有する。そのため、わずかな温度変化により表面に電荷が発生する。そして、一旦発生した電荷は蓄積され、外部から除電処理を施さない限り帯電状態が続いてしまう。そのため、これらの単結晶からウエーハを作製する過程では、静電気放電によりウエーハ表面、ウエーハエッジの欠けやチッピングが生じ易く、生産性が低くなるという問題があった。
【0004】
また、上述したように、弾性表面波フィルタの製造工程では、電極薄膜の形成や、フォトリソグラフィでのプリベイクやポストベイク等、いくつかの温度変化を伴う工程がある。そのため、上記タンタル酸リチウム単結晶等を圧電基板として用いる場合には、弾性表面波フィルタの製造過程において、圧電基板における静電気の発生が問題となる。圧電基板が帯電すると、圧電基板内で静電気放電が生じ、クラックや割れの原因となる。また、形成された電極が、静電気によりショートするおそれもある。さらに、製造過程にて生じる微細な金属粉や塵、埃等が、静電気により圧電基板表面に引き寄せられ、それらの粒子により電極がショートし、また、電極がオープン状態となることで破壊されるおそれもある。
【0005】
このような圧電基板の帯電を抑制するため、弾性表面波フィルタを製造する際には、種々の対策が講じられている。例えば、電基板表面の電荷の中和を図るイオナイザー等の除電設備の設置や、塵等の粒子を測定するパーティクルカウンターや顕微鏡等の付帯設備の設置が挙げられる。また、弾性表面波フィルタの製造工程においては、電極薄膜を形成する前に、予め圧電基板の裏面に帯電除去を目的とした導電性膜を形成する導電性膜形成工程や、電極薄膜を形成した後に圧電基板を洗浄する再洗浄工程を加えることが行われている。さらに、圧電基板の温度を50℃以上変化させる加熱冷却工程を、圧電基板に帯電する電荷を除去しながら行う方法も開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−9569号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1に記載の方法では、圧電基板を加熱・冷却させる工程にて、圧電基板と該圧電基板を載置する試料台とを電気的に接続し、圧電基板に帯電した電荷を接地電位に逃がしている。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、除電のための作業が別途必要となり、作業が煩雑となる。また、圧電基板の加熱冷却工程以外での帯電を抑制することはできない。一方、イオナイザー等の除電設備等の設置にはコストがかかり、スペースの問題もある。また、製造工程を増やすと、作業が煩雑となり生産性が低下する。
【0008】
本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、温度変化による静電気の発生が少なく、電荷が発生しても速やかに自己中和できるタンタル酸リチウム単結晶を圧電基板として用いることにより、使用中等においても静電気による不良の発生が少ない弾性表面波フィルタを提供することを課題とする。さらに、静電気による不良品の発生が少なく、生産性および安全性の高い弾性表面波フィルタの製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶は、鉄からなる添加元素を、0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有することを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明のタンタル酸リチウム単結晶(以下、適宜「本発明の単結晶」と称す。)は、ともに、所定の添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有する。後に詳しく説明するが、所定の添加元素を上記割合で含有することにより、本発明の単結晶は、温度が変化しても電荷を生じ難く、静電気が発生し難い。また、仮に単結晶表面に電荷が発生しても速やかに自己中和して、電荷を除去することができる。ここで、「自己電荷中和特性」とは、単結晶表面に発生した電荷を自己中和し除去できる特性である。自己電荷中和特性の有無は、例えば、以下の手法で確認することができる。まず、所定の単結晶、あるいは該単結晶から作製されたウエーハを、所定の温度まで昇温する。その後、該単結晶あるいはウエーハを降温する。降温後に該単結晶あるいはウエーハの表面電位がほぼ0kVとなれば、該単結晶は自己電荷中和特性を有するものとする。
【0011】
したがって、本発明の単結晶は、その製造時におけるクラックの発生が少ない。また、単結晶からウエーハを作製する際にも、静電気放電によるウエーハ表面等の欠けやチッピングが生じ難いため、生産性が向上する。さらに、本発明の単結晶は、帯電し難いため取り扱いが容易で安全性も高い。そして、本発明の単結晶から作製されたウエーハを圧電基板として弾性表面波フィルタを製造すれば、除電設備等の設置が不要となり、コストが大幅に削減できる。また、除電のための製造工程も不要となるため、生産性が向上する。さらに、本発明の単結晶から圧電基板を作製することにより、保管時や使用中においても静電気による不良の発生が少ない弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0012】
本発明の弾性表面波フィルタは、鉄からなる添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有するタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を有することを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明の弾性表面波フィルタは、上記本発明のタンタル酸リチウム単結晶から圧電基板が作製されたものである。上述したように、本発明の単結晶では、いずれも温度変化による電荷の発生が少なく、発生した電荷も速やかに除去される。したがって、そのような本発明の単結晶から圧電基板が作製された弾性表面波フィルタは、保管時や、使用中においても静電気の発生が少なく、電極破壊のおそれが少ない。
【0014】
本発明の弾性表面波フィルタの製造方法は、鉄からなる添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有するタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を準備する圧電基板準備工程と、前記圧電基板の表面に電極薄膜を形成する電極薄膜形成工程と、前記電極薄膜をフォトリソグラフィにより所定形状の電極とする電極形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
すなわち、本発明の弾性表面波フィルタの製造方法では、上記本発明のタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を用い、該圧電基板の表面に電極を形成する。本発明の単結晶から作製された圧電基板を用いることにより、電極形成工程はもちろんのこと、搬送、保管、検査等の圧電基板を扱うあらゆる工程における除電設備が不要となる。また、除電を目的とした工程も不要となる。具体的には、電極薄膜を形成する前に、予め圧電基板の裏面に帯電除去を目的とした導電性膜を形成する導電性膜形成工程や、電極薄膜を形成した後に圧電基板を洗浄する再洗浄工程等を省略することができる。このように、除電設備や除電を目的とした工程が不要となるため、製造コストを大幅に削減することができ、生産性を向上させることができる。また、静電気放電による圧電基板のクラックや割れ、形成された電極の破壊等も抑制されるため、不良率が低下して生産性が向上する。
【0016】
さらに、従来の製造方法では、急激な温度変化による圧電基板の帯電を抑制するため、温度変化を伴う工程における昇温・降温速度を遅くしていた。つまり、圧電基板の加熱・冷却をゆっくり行っていたため、当該工程の処理には時間を要していた。本発明の製造方法では、帯電し難い圧電基板を用いるため、温度変化を伴う工程における昇温・降温速度を速くすることができる。その結果、当該工程の処理スピードが速くなり、弾性表面波フィルタを効率よく生産することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のタンタル酸リチウム単結晶、弾性表面波フィルタ、およびその製造方法を詳細に説明する。なお、本発明のタンタル酸リチウム単結晶、弾性表面波フィルタ、およびその製造方法は、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明のタンタル酸リチウム単結晶、弾性表面波フィルタ、およびその製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
〈タンタル酸リチウム単結
本発明のタンタル酸リチウム単結晶は、鉄、銅、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン、イットリウムから選ばれる一種の添加元素を、0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有する。
【0019】
つまり、本発明の単結晶は、所定の添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有する。添加元素は、鉄、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、イットリウム、チタンが好適である。
【0020】
添加元素の含有割合は、本発明のタンタル酸リチウム単結晶の質量全体を100wt%とした場合の、添加元素の質量割合である。添加元素の含有割合が0.01wt%未満の場合には、帯電抑制効果が低くなる。帯電抑制効果をより大きくするという観点から、添加元素の含有割合を0.02wt%以上とすることが望ましい。また、添加元素の含有割合が1.00wt%を超えると、結晶中に添加元素が偏析し、結晶欠陥が生じやすくなる。また、組成も不均一になり易い。より均一な組成の単結晶を得るという観点から、添加元素の含有割合を0.50wt%以下とすることが望ましい。
【0021】
本発明の単結晶の製造方法は、特に限定されるものではない。チョクラルスキー法等の既に公知の方法に従って製造すればよい。すなわち、所定の原料を混合、焼成して原料混合物とした後、該原料混合物を溶融し、該融液の中に種結晶を浸し、引き上げることで単結晶を得ればよい。
【0022】
〈弾性表面波フィルタ〉
本発明の弾性表面波フィルタは、上記本発明のタンタル酸リチウム単結晶から圧電基板が作製されたものである。なお、いずれの単結晶を用いる場合であっても、単結晶における添加元素の割合は0.02wt%以上0.50wt%以下であることが望ましい。以下、本発明の一実施形態である弾性表面波フィルタについて説明する。
【0023】
まず、本実施形態の弾性表面波フィルタの構成を説明する。図1に、本実施形態の弾性表面波フィルタの一例を斜視図で示す。図1に示すように、弾性表面波フィルタ1は、ケース本体2と、チップ3とを備える。
【0024】
ケース本体2は、セラミックス製であり、上面が開口した直方体箱状を呈する。ケース本体2は、上面の開口を、蓋部(図略)により覆うことで密閉される。
【0025】
チップ3は、ケース本体2の内部に収容される。チップ3は、圧電基板31と入力側電極32a、32bと出力側電極33a、33bとを備える。圧電基板31は、平板状を呈する。圧電基板31は、鉄を0.10wt%の割合で含むタンタル酸リチウム単結晶から作製される。
【0026】
入力側電極32a、32bは、アルミニウム製であり、櫛歯状を呈する。入力側電極32a、32bは、圧電基板31の表面に、互いの歯同士が噛み合うように、短手方向に対向して配置される。入力側電極32a、32bは、ケース本体2に埋設された入力端子21と、導線320a、320bを介して電気的に接続される。
【0027】
同様に、出力側電極33a、33bは、アルミニウム製であり、櫛歯状を呈する。出力側電極33a、33bは、圧電基板31の表面に、互いの歯同士が噛み合うように、短手方向に対向して配置される。また、出力側電極33a、33bは、入力側電極32a、32bと長手方向に対向して配置される。出力側電極33a、33bは、ケース本体2に埋設された出力端子22と、導線330a、330bを介して電気的に接続される。
【0028】
次に、本実施形態の弾性表面波フィルタの動作を説明する。まず、入力端子21から導線320a、320bを介して入力側電極32a、32bへ電圧を印加する。すると、圧電効果により、入力側電極32a、32b間に互いに逆位相の歪みが生じ、弾性表面波が励起される。この弾性表面波は、圧電基板31表面を伝搬する。圧電基板31の表面では、伝搬された弾性表面波により歪みが生ずる。その歪みにより電荷が生じる。生じた電荷は、出力側電極33a、33bから導電330a、330b、および出力端子22を介して電気信号として取り出される。
【0029】
本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。すなわち、圧電基板31が鉄を含むタンタル酸リチウム単結晶から作製されている。本単結晶は、温度が変化しても電荷を生じ難く、仮に電荷が生じても速やかに自己中和して除去することができる。そのため、上記実施形態の弾性表面波フィルタは、保管時や、使用中においても静電気の発生が少なく、静電気放電による電極破壊のおそれも少ない。
【0030】
なお、上記実施形態では、圧電基板を鉄を含むタンタル酸リチウム単結晶から作製した。しかしながら、含まれる添加元素は鉄に限定されるものではなく、上述した元素から適宜選択すればよい。また、圧電基板は、所定の添加元素を含むニオブ酸リチウム単結晶から作製されたものでもよい。さらに、入力側電極と出力側電極の材質もアルミニウムに限定されるものではなく、アルミニウム合金、銅、金等の金属を用いることができる。また、上記実施形態では、セラミックス製のケース本体を使用した。しかし、ケース本体は、樹脂等の他の絶縁材料から形成されたものであってもよい。
【0031】
〈弾性表面波フィルタの製造方法〉
本発明の弾性表面波フィルタの製造方法は、圧電基板準備工程と、電極薄膜形成工程と、電極形成工程とを含んで構成される。以下、各工程について説明する。
【0032】
(1)圧電基板準備工程
本工程は、鉄、銅、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン、イットリウムから選ばれる一種の添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有するタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を準備する工程である。
【0033】
例えば、上記本発明のタンタル酸リチウム単結晶から所定の厚さに切り出して、その両面を鏡面研磨してウェーハとしたものを、圧電基板として準備すればよい。なお、単結晶における添加元素の割合は0.02wt%以上0.50wt%以下であることが望ましい。また、本工程において、後の工程の前処理として、圧電基板表面の洗浄や、圧電基板の表面処理等を行ってもよい。
【0034】
(2)電極薄膜形成工程
本工程は、圧電基板の表面に電極薄膜を形成する工程である。電極薄膜の材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、金等の金属を用いればよい。材料となる金属を、圧電基板表面に成膜して電極薄膜を形成する。成膜方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、化学的気相成長法(CVD法)等の既に公知の方法を用いればよい。
【0035】
なお、本工程の前に、圧電基板の裏面に帯電除去を目的とした導電性膜を形成する導電性膜形成工程を含めても構わない。本製造方法では、導電性膜形成工程は不要である。しかし、導電性膜形成工程を含めて本製造方法を構成した場合には、圧電基板の帯電をより効果的に抑制することができる。さらに、本工程の後に、圧電基板を洗浄する再洗浄工程を含めても構わない。この場合も、上記同様に、圧電基板の帯電をより効果的に抑制することができる。
【0036】
(3)電極形成工程
本工程は、圧電基板の表面に形成された電極薄膜を、フォトリソグラフィにより所定形状の電極とする工程である。フォトリソグラフィは、通常行われる手順に従えばよい。例えば、まず、フォトレジストである有機樹脂を、電極薄膜の上から塗布する。そして、70〜90℃程度の温度下でプリベイクする。次に、金属電極等のパターンが形成されたフォトマスク等を用いて、フォトレジストを露光する。続いて、約130℃でポストベイクする。その後、現像して、フォトレジストの露光された領域を除去する。最後に、ウエットあるいはドライエッチングを施して、所定形状の電極とする。
【0037】
なお、本工程にて電極を形成した後、圧電基板を所定の大きさに切断し、ケースに収容すればよい。そして、所定の端子と電極とを接続し、ケースを密閉して弾性表面波フィルタとすればよい。
【0038】
【実施例】
上記実施の形態に基づいて、本発明のタンタル酸リチウム単結晶を種々製造した。また、比較例として、添加元素の含有割合の異なるタンタル酸リチウム単結晶を製造した。そして、製造したタンタル酸リチウム単結晶について種々の測定を行うことにより、帯電性等を評価した。以下、タンタル酸リチウム単結晶の製造、種々の測定および帯電性等の評価について説明する。なお、以下、タンタル酸リチウム単結晶を、適宜「LT単結晶」と略称する。
【0039】
〈タンタル酸リチウム単結晶の製造〉
(1)鉄含有LT単結晶
添加元素として鉄(Fe)を用い、その含有割合が0〜1.20wt%であるLT単結晶を、チョクラルスキー法により9種類製造した。まず、鉄源となる酸化鉄(Fe23)と、リチウム源となる炭酸リチウム(Li2CO3)と、タンタル源となる五酸化タンタル(Ta25)とを所定量ずつ混合し、1000℃で10時間焼成して原料混合物とした。なお、炭酸リチウムおよび五酸化タンタルは、純度99.99%の純度のものを使用した。次いで、原料混合物を、イリジウム製の坩堝に入れ、高周波誘導加熱により溶融させた。溶融温度は1700℃とした。この原料混合物融液の中に、所定の方位に切り出した種結晶を浸し、回転数10rpm、引き上げ速度5mm/hrで引き上げて、直径約80mm、長さ約60mmの単結晶を得た。得られたLT単結晶を、鉄の含有割合が小さい方から順に#11〜#19のLT単結晶と番号付けした。
【0040】
(2)鉄以外の添加元素を含有するLT単結晶
添加元素として銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)を用い、添加元素の異なる6種類のLT単結晶を、上記鉄含有LT単結晶と同様にして製造した。各LT単結晶における添加元素の含有割合は0.10wt%とした。得られたLT単結晶を、#21〜#26のLT単結晶と番号付けした。
【0041】
〈LT単結晶についての種々の測定および帯電性等の評価〉
製造した上記#11〜#19、#21〜#26の各LT単結晶について、単結晶の上端から5mmおよび60mmの位置から、それぞれ厚さ1mmの結晶ブロックを切り出した。なお、単結晶の上端とは、単結晶における軸方向の種結晶側の端部、すなわち、先に引き上げられた側の端部を意味する。次いで、切り出した結晶ブロックの片面を鏡面研磨してウェーハを作製した。つまり、製造したLT単結晶ごとに、切り出し位置が上部、下部と異なる二種類のウェーハを作製した。なお、切り出し位置が上部のものを結晶上部ウエーハと、下部のものを結晶下部ウエーハとした。LT単結晶ごとに作製した結晶上部ウエーハおよび結晶下部ウェーハを使用して、種々の測定を行った。まず、測定した項目を説明し、その後に測定結果および評価について述べる。
【0042】
(1)キュリー点測定
結晶上部ウエーハおよび結晶下部ウェーハのキュリー点を、示差熱分析装置(DTA)により測定した。ウエーハにおけるキュリー点の測定位置を図2に示す。図2に示すように、キュリー点は、ウエーハ600の中心部(a)、およびウエーハエッジより5mm内側周部における(b)〜(e)の四箇所の合計五箇所にて測定した。また、結晶上部ウエーハのキュリー点と、結晶下部ウエーハのキュリー点との差を算出した。なお、キュリー点の差の算出には、各ウエーハの中心部にて測定された値を用いた。
【0043】
(2)添加元素の偏析の有無
結晶上部ウエーハおよび結晶下部ウェーハ(以下、単に「ウエーハ」と称す。)における添加元素の偏析の有無を目視で観察した。また、白色蛍光灯下にて、ウエーハの内部および外周部を目視で観察し、クラック、気泡、双晶等の結晶欠陥の有無を調べた。
【0044】
(3)クラックフリー率
上記LT単結晶の製造の際、どれ位の割合でクラックが発生したかを調査した。#11〜#19のLT単結晶を、上記同様にしてそれぞれ100個製造し、クラックが発生しなかったものの割合を算出してクラックフリー率(%)とした。
【0045】
(4)表面電位の測定
各々のLT単結晶から作製されたウエーハについて、温度変化によるウエーハ表面電位の変化を測定した。ウエーハ表面電位の測定は、表面電位測定装置を用いて行った。図3に、表面電位測定装置の概略を示す。図3に示すように、表面電位測定装置100は、ステージ200と絶縁ケース300と表面電位測定器400と非接触型放射温度計500とを備える。
【0046】
ステージ200の上面は、種々の温度に調整可能である。ステージ200の上面には、後述する絶縁ケース300を介して、測定対象となるウエーハ601、602が載置される。絶縁ケース300は、テフロン(登録商標:デュポン社製)製であり、ステージ200の上面に裁置される。絶縁ケース300により、ウエーハ601、602から生じた電荷が絶縁される。表面電位測定器400は、ウエーハ601、602の上方に配置される。表面電位測定器400とウエーハ601、602との距離は50mmである。表面電位測定器400によりウエーハ601、602の表面電位が測定される。非接触型放射温度計500は、ウエーハ601、602の上方に配置される。非接触型放射温度計500によりウエーハ601、602の温度が測定される。
【0047】
ウエーハ601、602の表面電位の測定方法は以下の手順で行った。まず、ステージ200の温度を調整することにより、ステージ200の上面に載置されたウエーハ601、602の温度を、室温から約150℃まで約48分間で上昇させた。次いで、ウエーハ601、602を、約30℃の温度となるまで放冷した。この間、所定の時間ごとに、ウエーハ601、602の表面電位を測定した。
【0048】
(5)静電気スパーク現象の観察
上記(4)におけるウエーハ表面電位の測定と同様の方法で、ウエーハの温度を変化させ、静電気によるスパークが発生するかどうかを観察し、その発生回数を数えた。観察は、20℃の暗室内で行った。
【0049】
(6)表面抵抗の測定
各LT単結晶から作製されたウエーハについて、25℃におけるウエーハ表面の抵抗値を、表面抵抗測定計により測定した。
【0050】
(7)粒子の付着し易さについて
塵や埃等の粒子のウエーハへの付着し易さを測定した。クリーンルーム内で、ウエーハを縦置き型ウエーハカセットに入れ、該ウエーハカセットの上部を開放した状態で、10時間放置した。その後、各ウエーハに付着した粒子の数を、顕微鏡により測定した。
【0051】
(8)測定結果および評価
上記(1)〜(6)の測定および観察結果を、まとめて表1に示す。表1において、「表面電位:150℃」は、ウエーハを昇温し、ウエーハの温度が約150℃になった時の表面電位値である。この値は、各ウエーハにて測定された表面電位の最高値である。また、「表面電位:30℃」は、ウエーハを降温し、ウエーハの温度が約30℃になった時の表面電位値である。さらに、「電荷中和時間」とは、ウエーハの昇温後、降温を開始してから、ウエーハの表面電位がほぼ0kVになるまでの時間である。
【0052】
【表1】
Figure 0004113004
【0053】
まず、製造したLT単結晶の組成の均一性について述べる。組成の均一性は、LT単結晶から切り出した結晶上部ウエーハのキュリー点と、結晶下部ウエーハのキュリー点との差(キュリー点上下差)で評価することができる。すなわち、単結晶の上部と下部とでキュリー点の差が小さいほど、単結晶の軸方向における組成は均一であるといえる。また、組成が均一であれば、添加元素の偏析や結晶欠陥も生じない。
【0054】
表1に示すように、添加元素が含まれていない#11のLT単結晶では、キュリー点上下差は0.5℃であった。つまり、単結晶の上下でキュリー点の差がほとんどないため、#11のLT単結晶の組成は均一であることがわかる。一方、鉄の含有割合が1.20wt%の#19のLT単結晶では、キュリー点上下差が6.2℃であった。これより、#19のLT単結晶では、上下で組成のばらつきがあるといえる。このことは、添加元素の偏析の有無等でも明らかである。添加元素が結晶中に均一に含まれていない場合には、添加元素の偏析が現れ、結晶欠陥が生じ易い。#19のLT単結晶では、添加元素である鉄の偏析が観察され、結晶欠陥も生じていた。
【0055】
また、鉄の含有割合が0.01〜1.00wt%の#12〜#18のLT単結晶では、キュリー点上下差は0.2〜3.5℃であった。これより、#12〜#18のLT単結晶の組成は均一であることがわかる。加えて、#12〜#18のLT単結晶では、鉄の偏析は観察されず、結晶欠陥も生じていなかった。このように、キュリー点上下差が上記範囲の単結晶は、組成が均一であるため、弾性表面波フィルタの圧電基板を作製するのに好適といえる。特に、鉄の含有割合が0.01〜0.50wt%の#12〜#17のLT単結晶では、キュリー点上下差はより小さくなっていた。したがって、#12〜#17のLT単結晶の組成は、より均一であり、弾性表面波フィルタの圧電基板を作製するのにより好適である。
【0056】
さらに、#11および#15のLT単結晶の結晶上部ウエーハおよび結晶下部ウエーハについて、上記(a)〜(e)の測定位置におけるキュリー点の値を表2に示す。
【0057】
【表2】
Figure 0004113004
【0058】
表2から明らかなように、両LT単結晶における各ウエーハでは、測定位置によるキュリー点の値の変動はほとんどなかった。これより、ウエーハ面においても、組成が均一であることがわかる。以上より、添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含む本発明のLT単結晶は、組成が均一であることが確認された。
【0059】
次に、クラックフリー率について述べる。添加元素を含まない#11のLT単結晶では、クラックフリー率は90%であった。また、鉄を0.01〜0.05wt%含む#12〜#17のLT単結晶のクラックフリー率は、#11のLT単結晶と同様、もしくはそれ以上となった。これらのLT単結晶は、帯電し難いため、製造中におけるクラックの発生が抑制されたと考えられる。
【0060】
次に、各LT単結晶から作製されたウエーハの表面電位について述べる。以下、便宜的に、各LT単結晶の番号をウエーハの番号として使用する。添加元素を含まない#11のウエーハでは、150℃での表面電位、すなわち表面電位の最高値が14.5kVであった。また、その後に降温され30℃程度となっても、表面電位は7.8kV程度までしか低下しなかった。つまり、#11のウエーハは、降温された後も帯電し続けた。これに対し、添加元素を含む#12〜#19、#21〜#26のウエーハでは、添加元素の種類によらず、150℃での表面電位は6.2kV以下となった。特に、添加元素の含有割合が0.02〜0.50wt%である#13〜#17、#21〜#26のウエーハでは、表面電位がより低い値となった。また、降温された後は、表面電位は速やかに低下し、極めて低い値となった。特に、鉄を0.10wt%以上含む#15〜#19のウエーハでは、表面電位が0kVとなり、完全に電荷が除去された。
【0061】
図4に、ウエーハの昇温・降温過程における表面電位の変化を示す。図4では、一例として、#11〜#16のウエーハについて示している。図4に示すように、温度の上昇に伴い、#11のウエーハの表面電位は高くなった。一方、#12〜#16のウエーハでは、温度が上昇しても、表面電位はあまり上昇しなかった。これより、#12〜#16のウエーハは、帯電し難いことがわかる。また、降温過程では、#11のウエーハの表面電位は、一旦低下するものの、高い値を維持し続けた。なお、#11のウエーハの表面電位は、48時間経過した後も、0kVにはならなかった。一方、#12〜#16のウエーハの表面電位は速やかに低下した。特に、#13〜#16のウエーハの表面電位は、降温過程に入った直後に、ほぼ0kVとなった。これは、生じた電荷が速やかに除去されたことを示すものである。
【0062】
ここで、各ウエーハにおける電荷中和時間について述べる。上述したように、電荷中和時間とは、ウエーハの昇温後、降温を開始してから、ウエーハの表面電位がほぼ0kVになるまでの時間である。#11のウエーハでは、48時間経過した後も表面電位が0kVにならなかった。このため、表1では、#11のウエーハの電荷中和時間を「>2880」と示している。これに対して、添加元素を含むすべてのウエーハでは、降温後、時間の経過とともに、表面電位がほぼ0kVとなった。特に、鉄を0.05wt%以上含む#14〜#19のウエーハでは、降温開始の数秒で表面電位がほぼ0kVとなった。
【0063】
このように、添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含む本発明のLT単結晶は、温度が変化しても帯電し難いことが確認された。また、本発明のLT単結晶は、電荷が生じた場合であっても、速やかに自己中和して除去できることが確認された。
【0064】
なお、図5に、LT単結晶における鉄の含有割合に対する表面電位およびキュリー点上下差の関係を示す。図5における表面電位の値は、ウエーハが降温され、その温度が約30℃になった時のウエーハの表面電位値である。図5に示すように、鉄の含有割合が大きくなると、ウエーハの表面電位は低くなる。一方、鉄の含有割合が大きくなると、キュリー点上下差も大きくなる。つまり、単結晶における組成の均一性が低下する。したがって、鉄の含有割合を0.01wt%以上1.00wt%以下とすることで、降温後の表面電位が低く、かつ組成が均一なLT単結晶を実現することが可能となる。
【0065】
次に、各ウエーハの表面抵抗について述べる。添加元素を含む#14、#15、#21〜#26のウエーハでは、表面抵抗が9.5×1013Ω以下の値であったのに対し、添加元素を含まない#11のウエーハでは、表面抵抗が測定範囲を超える大きな値(>1.0×1015Ω)であった。ウエーハの表面抵抗が小さいと、電荷が残存し難いため、電荷中和時間が短くなると考えられる。つまり、添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含む本発明のLT単結晶は、表面抵抗値が小さいため、電荷が生じた場合であっても、速やかに自己中和して除去できると考えられる。
【0066】
次に、上記ウエーハの昇温・降温過程における各ウエーハの静電気スパークの発生について述べる。添加元素を含まない#11のウエーハでは、降温過程において、合計32回のスパークが観察された。これに対して、#12、#21〜#23、#25、#26の各ウエーハではスパークの発生は1〜3回であった。さらに、#13〜#19、#24のウエーハでは、スパークは全く発生しなかった。
【0067】
図6に、ウエーハの昇温・降温過程における静電気スパークの発生回数を示す。図6では、一例として、#11〜#13のウエーハについて示している。図6に示すように、降温過程において、#11のウエーハでは、常にスパークが発生していた。一方、#12のウエハでは、降温開始後の直後に2回発生しただけであった。また、#13のウエーハでは、1回も発生しなかった。なお、上記ウエーハの昇温・降温を、昇温速度を2倍にし、ウエーハの最高温度を200℃として行ったところ、#11のウエーハにはクラックが生じた。その結果、#11のウエーハは割れてしまった。一方、#12〜#19、#21〜#26のウエーハでは、クラックは生じなかった。このように、添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含む本発明のLT単結晶は、静電気放電のおそれが少ないことが確認された。
【0068】
なお、表1には示さなかったが、添加元素を含む#12〜#19、#21〜#26の各ウエーハにおける粒子の付着数は、添加元素を含まない#11のウエーハと比較して、1/10程度であった。これより、添加元素を含むことにより、ウエーハ表面での静電気の発生が抑制されることがわかる。
【0069】
以上まとめると、鉄からなる添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含む本発明のLT単結晶は、組成が均一である。また、温度が変化しても帯電し難く、電荷が生じた場合であっても、速やかに自己中和して除去できる。つまり、温度変化があっても静電気放電のおそれが少ない。したがって、本発明のLT単結晶は、弾性表面波フィルタの圧電基板用に好適である。
【0070】
【発明の効果】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶は、ともに、所定の添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有する。そのため、温度が変化しても電荷を生じ難く、仮に単結晶表面に電荷が発生しても速やかに自己中和して、電荷を除去することができる。したがって、本発明のタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を用いて弾性表面波フィルタを製造すれば、除電設備等の設置が不要となり、コストが大幅に削減できる。また、除電のための製造工程も不要となるため、生産性が向上する。さらに、本発明の単結晶から作製された圧電基板を有する弾性表面波フィルタは、保管時や使用中においても静電気による不良の発生が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施形態の弾性表面波フィルタの一例を示す斜視図である。
【図2】 ウエーハにおけるキュリー点の測定位置を示す。
【図3】 表面電位測定装置の概略を示す。
【図4】 ウエーハの昇温・降温過程における表面電位の変化を示す。
【図5】 LT単結晶における鉄の含有割合に対する表面電位およびキュリー点上下差の関係を示す。
【図6】 ウエーハの昇温・降温過程における静電気スパークの発生回数を示す。
【符号の説明】
1:弾性表面波フィルタ
2:ケース本体 21:入力端子 22:出力端子
3:チップ
31:圧電基板
32a、32b:入力側電極 320a、320b:導線
33a、33b:出力側電極 330a、330b:導線
100:表面電位測定装置
200:ステージ 300:絶縁ケース 400:表面電位測定器
500:非接触型放射温度計 600、601、602:ウエーハ

Claims (6)

  1. からなる添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有するタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を有する弾性表面波フィルタ。
  2. 前記添加元素の含有割合は0.02wt%以上0.50wt%以下である請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
  3. 前記添加元素の含有割合は0.02wt%以上0.20wt%以下である請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
  4. からなる添加元素を0.01wt%以上1.00wt%以下の割合で含有し、表面電荷を自己中和し除去する自己電荷中和特性を有するタンタル酸リチウム単結晶から作製された圧電基板を準備する圧電基板準備工程と、
    前記圧電基板の表面に電極薄膜を形成する電極薄膜形成工程と、
    前記電極薄膜をフォトリソグラフィにより所定形状の電極とする電極形成工程と、
    を含む弾性表面波フィルタの製造方法。
  5. 前記添加元素の含有割合は0.02wt%以上0.50wt%以下である請求項に記載の弾性表面波フィルタの製造方法。
  6. 前記添加元素の含有割合は0.02wt%以上0.20wt%以下である請求項に記載の弾性表面波フィルタの製造方法。
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