JP4160857B2 - タンタル酸リチウム結晶からなるウエハおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、弾性表面波素子などに用いられる、ウエハ上に金属電極でパターンを形成して電気信号を処理するための優れた特性をもつ単一分極化されたタンタル酸リチウム結晶からなるウエハに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タンタル酸リチウムは、弾性表面波(SAW)の信号処理といった電気的特性を利用する用途に使用され、この用途ではタンタル酸リチウム結晶は単一分極化されたものが使われる。この用途に適したタンタル酸リチウム結晶は、その結晶構造に起因するSAWデバイスに必要とされる圧電気応答(圧電性)を示すが、通常の方法で入手できるタンタル酸リチウム結晶は圧電性に加えて焦電気応答(焦電性)を生じる。
【0003】
タンタル酸リチウム結晶の圧電性はタンタル酸リチウム結晶をSAWデバイスとして利用する時に、不可欠となる特性であるが、一方、焦電性はタンタル酸リチウム結晶に温度変化を与えることで結晶の外側に発生する表面電荷として観察され、結晶を帯電させるものである。この表面電荷は、タンタル酸リチウム結晶をSAWデバイスとして使用するときに、タンタル酸リチウム結晶からなるウエハ上に形成された金属電極間で火花放電を起こし、SAWデバイスの著しい性能の欠陥を引き起こすとされている。このため、タンタル酸リチウム結晶を用いるSAWデバイスの設計では、表面電荷を発生させない工夫、発生した表面電荷を逃がす工夫、あるいは金属電極同士の間隔を広くするなどの工夫が必要とされ、これら工夫を取り入れるために、SAWデバイス自体の設計に制約が加わるといった不利益があった。
【0004】
また、タンタル酸リチウム結晶を用いたSAWデバイスの製造工程では金属膜の蒸着、レジストの除去といった工程でタンタル酸リチウム結晶に熱が加わる工程があり、これら工程で加熱あるいは降温といった温度変化がタンタル酸リチウム結晶に与えられるとタンタル酸リチウム結晶の焦電性により結晶外側に表面電荷が発生する。この表面電荷により、金属電極間に火花放電が生じ、電極パターンの破壊となるため、SAWデバイスの製造工程では出来るだけ温度変化を与えないように工夫をしたり、温度変化を緩やかにするといった工夫をしており、これら工夫のために製造工程のスループットが低下したり、あるいはSAWデバイスの性能を保証するマージンが狭くなるといった不利益が生じている。
【0005】
通常の方法で製造された単一分極化されたタンタル酸リチウム結晶では、焦電性により発生した外側表面の電荷は周囲環境からの遊離電荷により中和され、時間の経過とともに消失するが、この消失時間は数時間以上と長く、SAWデバイスの製造工程では、この自発的な焦電性の消失に期待できない。
【0006】
SAWデバイスのような用途に対してはデバイス特性を発揮するために必要とされる圧電性を維持した上で、上記背景により、結晶外側表面に電荷の発生が見られない圧電性結晶の要求が増大しており、このような用途に対して表面電荷の蓄積が見られない単一分極化されたタンタル酸リチウム結晶が必要とされている。
【0007】
【特許文献1】
特開平11−92147号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記された問題の解決方法を提供するものであり、タンタル酸リチウムに温度変化を与えることで発生する表面電荷をタンタル酸リチウムの導電率を向上することで発生した表面電荷を蓄積させることなく消失させるという原理に基づいており、この導電性を向上させ、かつ、SAWデバイスの特性の劣化がみられないタンタル酸リチウム結晶からなるウエハを提供するものである。
【0009】
この導電率を向上させたタンタル酸リチウム結晶としては特開平11−92147で紹介されているが、ここでは、ニオブ酸リチウム結晶あるいはタンタル酸リチウム結晶の導電率を増加させる技術が開示されており、また、結晶の色調としては明るい灰色から暗青色または黒色までの範囲の色を示すと開示されている(明細書[0015])。また、導電率が増加するする原因としては+5の酸化状態から+4の酸化状態へのニオブまたはタンタルの一部の酸化状態の有効な変化により生じるものと思われるとされている(明細書[0014])。
【0010】
本発明者らは、導電率の増加に伴って生じる結晶欠陥に着目し、これを結晶の明度でとらえ、試行錯誤の結果、品質の最適化に成功した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、良好なSAWデバイス特性を与えることができるタンタル酸リチウム結晶からなるウエハを提供するものであり、これはJIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値が25〜70の範囲であることを特徴とする表面弾性波素子用タンタル酸リチウム結晶からなるウエハに関するものであり、また、 JIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値を縦軸とし、ウエハの厚さ(単位;mm)を横軸とした時に、座標点(0.15,70)、(0.15,35)、(0.55,60)、(0.55,25)で囲まれた範囲にあることを特徴とするタンタル酸リチウム結晶からなる表面弾性波素子用ウエハに関するものである。また、このようのウエハの製法は、単一分域化処理されたタンタル酸リチウム結晶のウエハを水素ガス雰囲気中で400℃以上600℃以下の温度で1時間以上8時間以下保持することを特徴とする。
【0012】
本発明でタンタル酸リチウム結晶は、炭酸リチウムと五酸化タンタルとを秤量し、混合し、電気炉で1000℃以上に加熱することで得られた多結晶のタンタル酸リチウムをイリジウムなどの貴金属製のルツボに入れ、加熱、溶融後に種結晶を用いて回転引上げ(いわゆるチョクラルスキー法)にて育成することでたとえば直径が4インチのタンタル酸リチウム結晶が得られる。
【0013】
このようにして得られた多分域状態の4インチのタンタル酸リチウム結晶に貴金属製電極を設置し、キュリー点以上の温度、たとえば650℃にて電圧を印加することで単一分域化処理ができ、この単一分域化処理がなされた結晶を、たとえばワイヤソーを用いてスライスすることで直径4インチ、厚さ0.5mmのスライス処理がおこなわれたウエハが得られ、さらにこのウエハをラップ機で処理することで直径4インチ、厚さ0.4mmのラップウエハが得られる。
【0014】
本発明で目的とする、JIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値が25〜70の範囲であるタンタル酸リチウム結晶を得る方法としては、たとえば、単一分域化処理がおこなわれたタンタル酸リチウム結晶ラップウエハをステンレススチールからなる圧力計がついた容器に入れ、大気を水素ガスで十分に置換して圧力0.2MPaで封入し、このステンレススチールの容器を管状の電気炉中に設置し、炉の温度を室温から毎分約6.7℃の速度で昇温させ、タンタル酸リチウム結晶のキュリー点以下の温度、たとえば550℃に6時間保持後に炉を毎分約6.7℃の速度で降温し、30℃以下となったところでウエハをステンレススチールの容器から取り出すことで得られる。
【0015】
本発明で得られた単一分域化されたタンタル酸リチウム結晶に対するJIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値は、たとえば、日本電色工業株式会社製ハンディ型分光色差計 NF777を用いて測定した。測定条件としては、白色タイル(L*=91.6、a*=1.0、b*=4.1)の上に片面を鏡面としたタンタル酸リチウム ウエハを鏡面を上にして置き、鏡面側にセンサ部を固定して測定した。この時、光源設定はD65とし、視野設定は2°とした。
【0016】
また、導電率に対しては次のように測定した。導電率は体積抵抗率の逆数である。体積抵抗率はHewlett Packard社製、4329A High Resistance Meter及び16008A Resistivityを用いて測定した。体積抵抗率は次式により得ることができる。
ρ=(πd2/4t)・R
ρ: 体積抵抗率(Ω・cm)
π: 円周率
d: 中心電極直径(cm)
t: タンタル酸リチウムのウエハ厚さ(cm)
R: 抵抗値(Ω)
500ボルトの電圧を印加し、電圧を印加してから1分後の抵抗値を測定した。
【0017】
本発明でのタンタル酸リチウム結晶からなるウエハは、導電率が向上しているばかりでなく、SAWデバイスを製造したときに特性の劣化がないものとなっており、SAWデバイス製造上極めて有利な材料である。これは、フィルタなどのSAWデバイスを製造したときに、重要な特性として最小損失があるが、この損失はタンタル酸リチウム結晶の結晶欠陥と関係すると考えられる。ここでの、結晶欠陥はタンタル酸リチウム結晶中に生じる着色中心によるものと考えられ、この着色中心の発生をある程度抑えたウエハとすることで最小損失といったフィルタ特性を劣化させないものができると考えられる。
【0018】
本発明はこの着色中心という結晶欠陥を明度L*で定量的に規定することで
表面弾性波素子の歩留りが向上するという結果に基づくものである。
【発明の実施の形態】
【0019】
実施例、比較例
タンタル酸リチウム結晶からなるウエハ作製は次の通り行った。y方向40゜回転の直径
4インチ、長さ50mmのタンタル酸リチウム結晶を、チョクラルスキー法で育成し、単一分域化処理をおこなった。この単一分域化されたタンタル酸リチウム結晶をワイヤソーにて切断、ラップ加工を行い、厚さ0.4mmの両面ラップウエハを得た。この単一分域化されたタンタル酸リチウム結晶からなる両面ラップウエハ100枚を、外径150mm内径130mmの圧力計付ステンレススチール製容器中に積み重ねるようにして置き、水素置換をおこなった後、水素圧力を0.2MPaとして封入した。この容器を発熱体がカンタル線である管状炉に円筒部分を挿入し、上部をアルミナシリケートからなるウールで保温し、炉の温度を室温から毎分約6.7℃の速度で550℃まで昇温した。温度550℃での保持時間を試料に応じて0〜50時間と変化させた。保持時間経過後、炉の電源を切り、放冷し、30℃以下となったところで容器からウエハを炉から取り出すことで褐色状の還元処理タンタル酸リチウム結晶からなる両面ラップウエハを得た。
【0020】
このウエハをさらにラップ機で各々の面を片面15μ以上ラップした後、SAWデバイス用基板として標準的な仕様である片面鏡面とするため片面を15μ以上研磨機で研磨し、導電率が向上した単一分極化されたタンタル酸リチウム製品ウエハを得た。
【0021】
この製品ウエハについて、JIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値は、日本電色工業株式会社製ハンディ型分光色差計 NF777を用いて測定し、導電率については次のように測定した。導電率は体積抵抗率の逆数である。体積抵抗率はHewlett Packard社製、4329A High Resistance Meter 及び16008A Resistivityを用いて測定した。体積抵抗率は次式により得ることができる。
ρ=(πd2/4t)・R
ρ: 体積抵抗率(Ω・cm)
π: 円周率
d: 中心電極直径(cm)
t: タンタル酸リチウムのウエハ厚さ(cm)
R: 抵抗値(Ω)
500ボルトの電圧を印加し、電圧を印加してから1分後の抵抗値を測定した。なお、表において導電率の「9.3E−14」というような記載は、「9.3x10−14」という意味である。
表1 タンタル酸リチウム結晶からなるウエハの明度と導電率及びSAWデバイス歩留まり
【表1】
SAWデバイスの歩留まりはフィルタを試作した時の最小損失値が−2.5dBを越える割合である。
比較例1,2は導電率が小さいため、その他の実験品と異なり、SAWデバイス製造工程で電極間にスパークが発生し、非常に作り難い現象が見られた。
表2 タンタル酸リチウム結晶からなるウエハの明度と導電率及びSAWデバイス歩留まり
【表2】
SAWデバイスの歩留まりはフィルタを試作した時の最小損失値が−2.5dBを越える割合である。
比較例6,7は導電率が小さいため、その他の実験品と異なり、SAWデバイス製造工程で電極間にスパークが発生し、非常に作り難い現象が見られた。
Claims (2)
- JIS Z8729で規定されるL*a*b*表色系における明度L*の値を縦軸とし、ウエハの厚さ(単位;mm)を横軸とした時に、座標点(0.15,70)、(0.15,35)、(0.55,60)、(0.55,25)で囲まれた範囲にあることを特徴とする単一分域化されたタンタル酸リチウム結晶からなるウエハ。
- 単一分域化処理されたタンタル酸リチウム結晶のウエハを水素ガス雰囲気中で400℃以上600℃以下の温度で1時間以上8時間以下保持することを特徴とする、請求項1のウエハの製造方法。
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