JP4108095B2 - 新規なニトリルヒドラターゼ - Google Patents

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Description

本発明は、自然界より新たに単離した微生物を由来とする新規なニトリルヒドラターゼの酵素触媒作用により、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する技術に関する。
ニトリル化合物のニトリル基を水和してアミド基に変換し対応するアミド化合物を製造する技術においては、従来の銅触媒による化学的な方法にかえて、微生物の酵素を触媒として用いる方法が主流となってきている。そのような酵素は一般にニトリルヒドラターゼと呼ばれるが、初めての報告以来、多数の酵素が様々な微生物より発見されている。例えば、アルスロバクター(Arthrobacter)属(Agricultural and Biological Chemistry Vol.44 p.2251−2252,1980)アグロバクテリウム(Agrobacterium)属(特開平05−103681)、アシネトバクター(Acinetobacter)属(特開昭61−282089)、エアロモナス(Aeromonas)属(特開平05−030983)、エンテロバクター(Enterobacter)属(特開平05−236975)、エルウィニア(Erwinia)属(特開平05−161496)、キサントバクター(Xanthobacter)属(特開平05−161495)、クレブシエラ(Klebsiella)属(特開平05−030982)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属(特開昭54−129190、後にロドコッカス属と判明)、シュードモナス(Pseudomonas)属(特開昭58−86093)、シトロバクター(Citrobacter)属(特開平05−030984)、ストレプトマイセス(Streptomyces)属(特開平05−236976)、バチルス(Bacillus)属(特開昭51−86186、特開平7−255494)、フザリウム属(特開平01−086889)、ロドコッッカス(Rhodococcus)属(特開昭63−137688、特開平02−227069、特開2002−369697、特開平2−470)、リゾビウム(Rhizobium)属(特開平05−236977)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属(特開平8−56684)等が挙げられる。これらの酵素はそのアミノ酸配列の多様性に基づき、その理化学的性質も多様であり、各種目的に沿って研究が進められて来た。理化学的性質の中でも、熱、あるいはアミド化合物およびニトリル化合物等への安定性に関する解明が進んでいる例としては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株に関する文献(European Journal of Biochemistry Vol.196 p.581−589,1991. Applied and Microbiology Biotechnology Vol.40 p.189−195,1993.)、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)JCM3095株に関する文献(特開平8−187092、Journal of Fermentation and Bioengineering Vol.83 p.474−477,1997)、バチルス(Bacillus)属BR449株に関する文献(WO 99/55719.Applied Biochemistry and Biotechnology Vol.77−79 P.671−679,1999.)、バチルス(Bacillus)属RAPc8株に関する文献(Enzyme and Microbial Technology Vol.26 p.368−373,2000.Extremophiles Vol.2 p.347−357,1998)、バチルス・パリダス(Bacillus palidus)Dac521株に関する文献(Biochimica et Biophysica Acta Vol.1431 p.249−260,1999)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)SC−J05−1株に関する文献(Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology Vol.20 220−226,1998)が挙げられる。
一方、これらユニークなニトリルヒドラターゼを用いてニトリル化合物よりアミド化合物を工業的に製造する際には、アミド化合物の製造コストに占める該酵素の製造コストが重要な問題であり、すでに工業レベルで培養法の確立した宿主を用いて生産を行うことが望ましい。そこで、遺伝子工学の手法によりニトリルヒドラターゼを大量に発現させることを目的として、遺伝子のクローニングする試みが検討されている。例えば、シュードモナス属(特開平3−251184)、ロドコッカス属(特開平2−119778、特開平4−211379、特開平09−00973、特開平07−099980、特開2001−069978)、リゾビウム属(特開平6−25296)、クレブシエラ属(特開平6−303971)、アクロモバクター属(特開平08−266277)、シュードノカルディア属(特開平9−275978)、バチルス属(特開平09−248188)等を挙げることができる。
酵素の理化学的性質としては熱安定性や基質であるニトリル化合物や生成物であるアミド化合物の高濃度存在下でも高い活性を保つニトリルヒドラターゼが望ましく、その目的の報告もあるが、皮応に用いる酵素の実施形態、ニトリル化合物の種類によりそれらの絶対値は変動することもあり、すべてを兼ね備えた酵素は見出されていない。また、今後の進化工学等を用いた理化学的性質の改良の題材としても、今までにない起源であり多様な酵素の開発が望まれる。
進化工学を用いた理化学的性質の改良に遺伝子のクローニングと発現が必要なのは言うまでもなく、上述のアミド化合物製造における酵素の生産にかかわるコスト的な制約からも培養法の確立された宿主を用いた遺伝子組換え菌の作製が望まれる。
すなわち、本発明の目的は、熱や高濃度化合物に対する安定性の高いニトリルヒドラターゼを自然界より単離し、該酵素の生産方法および該酵素を用いたニトリル化合物からの対応するアミド化合物の製造方法を提供することである。さらにその酵素のアミノ酸配列および遺伝子配列を提供し、該遺伝子を含む組換えプラスミド、該組換えプラスミドを含む形質転換菌株、該形質転換菌株を用いた該酵素の産生方法および該形質転換菌株を用いたニトリル化合物からの対応するアミド化合物の製造方法を提供することである。また、該組み換え体のニトリルヒドラターゼ酵素をより活性化する作用を持つタンパク質のアミノ酸配列及び遺伝子配列も提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、埼玉県の温泉近傍にある土壌よりニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物として、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)を見出した。なお、ジオバチルス属の微生物がニトリルヒドラターゼを有し、ニトリルヒドラターゼ活性を示すことはこれまで知られておらず、さらに本微生物の培養に通常用いる65℃という温度は、従来のニトリルヒドラターゼを持つ好熱菌の通常の培養温度(45℃〜60℃)を越えるものである。
また、該微生物よりニトリルヒドラターゼ酵素を精製し、そのニトリルヒドラターゼ活性が熱や高濃度のニトリル化合物及び、アミド化合物に対して高い安定性を兼ね備えることを示した。また、精製した酵素の各サブユニットのN末端のアミノ酸配列をもとに該微生物の染色体DNAよりニトリルヒドラターゼ遺伝子を単離し、そのアミノ酸配列および遺伝子配列を初めて明らかにした結果、既存のニトリルヒドラターゼとの相同性は非常に低いことが判明した。また、その遺伝子下流に存在する活性化タンパク質と推定される遺伝子配列を同時に発現することにより、該酵素を大量に発現する遺伝子組換え菌株を作出することにも成功し、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1) 下記の理化学的性質を有することを特徴とする蛋白質をコードするDNA。
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
(b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
(c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである。
サブユニットα 分子量 25000±2000
サブユニットβ 分子量 28000±2000
(d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
(e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
(f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
(2) 下記の(A)または(B)のいずれかのDNA。
(A)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列をコードするαサブユニット遺伝子を含有する塩基配列と、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列をコードするβサブユニット遺伝子を含有する塩基配列との組み合わせからなることを特徴とするDNA。
(B)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットのいずれか一方、または両方のそれぞれにおいて、1若しくは複数個のアミノ酸に置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており、その改変、または改変されていないαサブユニットと、改変、または改変されていないβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(3) 下記の(C)または(D)のいずれかのDNA。
(C)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNAと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNAとの組合わせからなることを特徴とするDNA。
(D)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。但し、上記(C)となる場合を除く。
(4) 配列表の配列番号:4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNA,またはそのアミノ酸配列中の1若しくは複数個のアミノ酸に置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており且つニトリルヒドラターゼの活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載のDNA。
(5) 配列表の配列番号:3の塩基配列の1325−1663位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズし且つニトリルヒドラターゼ活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載のDNA。
(6) 配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼのαサブユニット遺伝子を含有するDNA。
(7) 配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼのβサブユニット遺伝子を含有するDNA。
(8) 配列表の配列番号:4記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼの活性化に関与することを特徴とする遺伝子を含有するDNA。
(9) 該DNAが、ジオバチルス(Geobacillus)属由来である(1)〜(8)の何れかに記載のDNA。
(10) 該DNAが、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)種由来である(1)〜(8)の何れかに記載のDNA。
(11) 該DNAが、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)Q−6株(FERM BP−08658)由来である(1)〜(8)の何れかに記載のDNA。
(12) (1)から(11)の何れかに記載のDNAを組み込んだ組み換えベクター。
(13) (1)から(11)の何れかに記載のDNAにより形質転換された微生物、またはジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)Q−6株(FERM BP−08658)およびその変異体のいずれかの微生物。
(14) (1)から(11)の何れかに記載のDNAにより形質転換された微生物を、培地において培養することを特徴とする、該蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物の製造方法。
(15) ジオバチルス属に属し下記の理化学的性質を有する蛋白質を生産し得る微生物を、培地において培養することを特徴とする、該蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物の製造方法。
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
(b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
(c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである。
サブユニットα 分子量 25000±2000
サブユニットβ 分子量 28000±2000
(d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
(e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
(f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
(16) (14)または(15)に記載のいずれかの製造方法により培養された微生物から取得された、該蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物。
(17) 下記の理化学的性質を有することを特徴とする蛋白質。
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
(b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
(c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである。
サブユニットα 分子量 25000±2000
サブユニットβ 分子量 28000±2000
(d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
(e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
(f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
(18) 下記の(A)または(B)のいずれかの蛋白質。
(A)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットとを含有することを特徴とする蛋白質。
(B)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットのいずれか一方、または両方のそれぞれにおいて、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており、その改変、または改変されていないαサブユニットと、改変、または改変されていないβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質。
(19) 下記の(C)または(D)のいずれかの蛋白質。
(C)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNAがコードするβサブユニットとを含有することを特徴とする蛋白質。
(D)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質。但し、上記(C)となる場合を除く。
(20) 少なくとも、配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列であるαサブユニットを含有するポリペプチドまたは翻訳後修飾されたものと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列であるβサブユニットを含有するポリペプチドまたは翻訳後修飾されたもののいずれか一方、または両方を含有することを特徴とする蛋白質。
(21) 下記の理化学的性質を有する蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物に、ニトリル化合物に作用させ該ニトリル化合物から誘導されるアミド化合物を取得することを特徴とするアミド化合物の製造方法。
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
(b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
(c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである
サブユニットα 分子量 25000±2000
サブユニットβ 分子量 28000±2000
(d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
(e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
(f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
(22) (1)から(11)の何れかに記載のDNAにより形質転換された微生物、またはジオバチルス属に属し下記の理化学的性質を有する蛋白質を生産し得る微生物のいずれかを、培地において培養して得た蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物であることを特徴とするアミド化合物の製造方法。
(a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
(b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
(c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである
サブユニットα 分子量 25000±2000
サブユニットβ 分子量 28000±2000
(d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
(e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
(f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
図1は、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6(Geobacillus thermoglucosidasius Q−6)株のニトリルヒドラターゼβサブユニット、αサブユニット及び下流遺伝子群の遺伝子構成及び制限酵素地図を示す。コロニーハイブリダイゼーションで取得した断片(Hin2.3)及び、大腸菌での発現に用いた断片(βα、βα1、βα12)の位置を示した。
先ず本発明のニトリルヒドラターゼを説明する。本発明において、ニトリルヒドラターゼ活性を有するとは、アセトニトリルではアセトアミド、n−プロピオニトリルではn−プロピオアミド、アクリロニトリルではアクリルアミドのように、ニトリル化合物に水分子を付加させて、アミド化合物に変換する活性を有することである。また、生成した化合物は液体クロマトグラフィーで分取した後、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)、赤外吸収スペクトル(IR)および核磁気共鳴スペクトル(NMR)等を用いて同定する。
本発明においてニトリルヒドラターゼ活性を測定するに際しては、例えば、0.1重量%のニトリル化合物溶液(0.05M−リン酸バッファーpH7.7)1mlにニトリルヒドラターゼ酵素溶液10μlを加え、反応温度27℃から60℃にて1分から60分間保温後、0.1mlの1N HClを加えることにより反応を停止し、反応液の一部を液体クロマトグラフィーにて分析し、アミド化合物の生成の有無を検定することができる。
本発明において基質となるニトリル化合物とは、例えば、アセトニトリル、n−プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ヘキサンニトリル等の脂肪族ニトリル化合物、2−クロロプロピオニトリル等のハロゲン原子を含むニトリル化合物、アクリロニトリル、クロトノニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和結合を含む脂肪族ニトリル化合物、ラクトニトリル、マンデロニトリル等のヒドロキシニトリル化合物、2−フェニルグリシノニトリル等のアミノニトリル化合物、ベンゾニトリル、シアノピリジン等の芳香族ニトリル化合物、マロノニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物等およびトリニトリル化合物を挙げることができる。
本発明のニトリルヒドラターゼの基質特異性は、上述の測定条件において、基質を各種変更してそれぞれの基質に対しニトリルヒドラターゼ活性を有するか否かを測定することにより判断することができる。基質特異性が広ければ、製造できる対応するアミド化合物の種類も増え、好ましいが、本酵素は少なくとも、アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質とすることができる。
本発明のニトリルヒドラターゼは、還元型SDS(ソディウムードデシルーサルフェイト)−ポリアクリルアミド電気泳動法により、分子量25000±2000と分子量28000±2000の二つのサブユニットがクマシーブリリアントブルーによる染色によって検出され、前者をαサブユニット、後者をβサブユニットと呼ぶ。
本発明のニトリルヒドラターゼは、活性測定に先立ち、有機酸等の安定化剤を含まない水溶液中の状態で70℃で30分間加熱処理した後も、加熱前の活性の35%の活性を保持することができる。
また、高濃度のニトリル基質は化学的に酵素を失活させることが報告されているが、本発明のニトリルヒドラターゼは6重量%のアクリロニトリルを基質として用いても、そのような現象が観察されない。
さらに、高濃度の反応産物であるアミド化合物が反応を阻害することが報告され,高濃度な反応産物を得る際に大きな問題となるが、本発明のニトリルヒドラターゼは35重量%のアクリルアミドを活性測定溶液に加えても、基質であるアクリロニトリル濃度の減少が有意にみられ、活性を保持する。
また、本発明としては上記(18)に記載のものが例示される。すなわち、本発明のニトリルヒドラターゼとしては、配列表の配列番号:1に示される205個のアミノ酸の配列により示されるαサブユニットおよび配列表の配列番号:2に示される226個のアミノ酸の配列により示されるβサブユニットにより構成されることが好ましい例として挙げられる。この二つのサブニット以外にも、金属や他のペプチド等を含有してもよい。金属としては、特に鉄やコバルトを含有することが多い。さらに、このサブユニットのどちらか一方を含有する蛋白質でもよい。また、個々のサブユニットのアミノ酸配列としては、他のサブユットと複合体を形成してニトリルヒドラターゼ活性を有する限り、アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、または挿入を有していてもよく、宿主の種類により、翻訳後に修飾を受けることも当然予想される。特に、ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいてはシステイン残基が翻訳後、システインスルフィン酸またはシステインスルフェン酸に修飾されることが多い。該アミノ酸配列のうちの1〜30個アミノ酸が置換、欠失、挿入、または翻訳後修飾されているアミノ酸配列も好ましい例として挙げられ、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個である。なお、このような置換、欠失、または挿入を有するアミノ酸配列を有するニトリルヒドラターゼ酵素は、公知の部位特異的変異導入法、例えばMolecular Cloning 2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載の方法により、塩基配列の対応する部位に置換、欠失、または挿入を導入せしめたDNAを用い、後述の通り、宿主微生物に導入し発現させることにより得ることができ、熱安定性や有機溶媒耐性の向上や基質特異性の変化等の産業上望ましい性質を付加した変異酵素を作出する試みも可能である。かかる技術水準に鑑み、それらがニトリルヒドラターゼ活性を有している場合は本発明に包含されるものとする。
また、本発明としては上記(19)に記載のものが例示されるが、これは本発明のDNAの説明において詳細に説明する。
上記のような理化学的性質を有するニトリルヒドラターゼは、例えば、ジオバチルス属に属する微生物を培養することにより取得することができる。本発明において使用される微生物は、ジオバチルス属に属し、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する微生物であれば、いかなるものでもよい。ジオバチルス属に属する微生物としては、ジオバチルス・カルドキシロシリティカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)、ジオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、ジオバチルス・リツアニカス(Geobacillus lituanicus)、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ジオバチルス・サブテラネウス(Geobacillus subterraneus)、ジオバチルス・サーモカテヌラタス(Geobacillus thermocatenulatus)、ジオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)、ジオバチルス・サーモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)、ジオバチルス・トエビー(Geobacillus toebii)、ジオバチルス・ユゼネンシス(Geobacillus uzenensis)が挙げられる。また、ジオバチルス属由来の微生物に特に限定されるものではなく、他の微生物株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子も含まれる。そのような微生物株としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、エアロモナス(Aeromonas)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シノリゾビウム(sinorhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ノカルディア(Nocardia)属、バチルス(Bacillus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属等が挙げられる。具体的には、本発明では下記の手法でスクリーニングを行った。まず、様々な場所で採取した土壌を少量とって、水または生理食塩水をいれた試験管内に入れて、2日から14日の間、65℃の振とう培養器の中で振とう培養する。この培養液の一部を取り、汎用的な微生物生育用培地、例えばグリセロール、ポリペプトン、酵母エキス等を主成分とした液体培地に入れ、65℃の培養温度にて、1日から7日間程度の間培養する。これにより得られる培養液の一部を、前述の微生物生育用培地成分を含む寒天平板培地に広げて65℃でさらに培養しコロニーを形成させることによって、微生物を単離することができる。このようにして得られた微生物を、前記培地成分にさらにn−バレロニトリル等のニトリル化合物あるいはメタクリルアミド等のアミド化合物を加えた液体培地を入れた試験管あるいはフラスコを用い適当な期間、例えば約12時間から7日程度の間、65℃の培養温度で振とう培養することによって増殖させ、上記のニトリルヒドラターゼ活性測常法に基づいて、目的の微生物を選択する。そのような微生物の代表的菌株の同定を16SrRNA及び下記の生化学的性質から行った所、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)であることが判明し、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6(Geobacillus thermoglucosidasius Q−6)の名称で、独立行政法人産業技術総合研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に番号FERM P−19351(受理日平成15年5月16日)として寄託され、FERM BP−08658としてブタペスト条約に基づく寄託へ移管された(受領日平成16年3月11日)。様々な特許・文献調査を行ったが、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスに属する微生物に関して、ニトリルヒドラターゼ活性を有する事に関しては何の記載もなかった。この事からジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株は新菌株と認められる。また、この新菌株の変異体、即ち、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より誘導された突然変異体、細胞融合株および遺伝子組み換え株を用いてもアミド化合物の製造が可能である。なお、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の性質は下記のとおりである。
(a)形態的性質
培養条件:Nutrient Agar(Oxoid,England,UK)培地 60℃
1.細胞の形および大きさ
形:桿菌
大きさ:0.8×2.0〜3.0μm
2.細胞の多形性の有無:−
3.運動性の有無:+
鞭毛の着生状態:周毛
4.胞子の有無:−
胞子の部位:端立
(b)培養的性質
培養条件:Nutrient Agar(Oxoid,England,UK)培地 60℃
1.色:クリーム色
2.光沢:+
3.色素生産:−
培養条件:Nutrient broth(Oxoid,England,UK)培地 60℃
1.表面発育の有無:−
2.培地の混濁の有無:+
培養条件:ゼラチン穿刺培養 60℃
1.生育状態:+
2.ゼラチン液化:+
培養条件:リトマス・ミルク 60℃
1.凝固:−
2.液化:−
(c)生理学的性質
1.グラム染色:不定
2.硝酸塩の還元:−
2.脱窒反応:−
3.MRテスト:−
4.VPテスト:−
5.インドールの生成:−
6.硫化水素の生成:−
7.デンプンの加水分解:−
8.クエン酸の利用
Koser:−
Christensen:−
9.無機窒素源の利用
硝酸塩:−
アンモニウム塩:+
10.色素の生成:−
11.ウレアーゼ活性:−
12.オキシダーゼ:+
13.カタラーゼ:+
14.生育の範囲
pH:5.5〜8.0
温度:45℃〜72℃
15.酸素に対する態度:通性嫌気性
16.O−Fテスト:−/−
(d)糖類からの酸産生/ガス産生
1.L−アラビノース −/−
2.D−キシロース +/−
3.D−グルコース +/−
4.D−マンノース +/−
5.D−フルクトース +/−
6.D−ガラクトース −/−
7.マルトース +/−
8.サークロース +/−
9.ラクトース −/−
10.トレハロース +/−
11.D−ソルビトール −/−
12.D−マンニトール +/−
13.イノシトール −/−
14.グリセリン −/−
(e)その他の性質
1.β−ガラクトシターゼ活性:−
2.アルギニンジヒドロラーゼ活性:−
3.リジンデカルボキシラーゼ活性:−
4.トリプトファンデアミナーゼ活性:−
5.ゼラチナーゼ活性:+
本発明方法において使用する微生物の培養方法は、一般的な微生物培養方法に準じて行われ、固体培養または液体培養いずれも可能である。バチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)は、通性嫌気性の微生物である為、通常の通性嫌気性微生物と同様な培養条件で培養することができる。培養温度は、微生物が生育する範囲で適宜変更できるが、例えば、40℃〜75℃の範囲である。培地のpHは、例えば、4〜9をあげることができる。特に、バチルス・サーモグルコシデシウスQ−6(Geobacillus thermoglucosidasius Q−6)の場合、45℃〜72℃、好ましくは、55℃〜70℃の範囲の培養温度で、5〜8の培地pHをあげることができる。培養時間は、種々の条件によって異なるが、通常、約1日〜約7日間程度が好ましい。一方、培地としては、一般的な微生物に用いる通常の炭素源、窒素源、有機ないし無機塩等を適宜含む各種の培地を用いる。炭素源として、グリセロール、グルコース、シュークロース、糖密、有機酸、動植物油等が使用できる。窒素源として、酵母エキス、ペプトン、麦芽エキス、肉エキス、尿素、硝酸ナトリウム等が挙げられる。有機ないし無機塩として、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸2水素1カリウム、リン酸水素2カリウム等を用いられる。本発明方法においては、使用する微生物が持つニトリルヒドラターゼ活性を高めるために、n−バレロニトリル、イソバレロニトリル、クロトノニトリル等のニトリル化合物、メタクリルアミド等のアミド化合物を培地に添加するのが好ましい。添加量として、例えば、培地11に対して、0.01g〜10gの範囲の適量を添加すると良い。また、好ましくはFeイオンあるいはCoイオンは0.1μg/ml以上存在させるとよい。
本発明の酵素のアミノ酸配列情報を取得するためには、本件発明の酵素を精製後、還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動により各サブユニットを分離後、ゲルより各バンドを切り出し、タンパク質シークエンサーによりアミノ酸配列の一部を決定することができる。
さらに本発明は、ニトリルヒドラターゼをコードするDNAに関するものである。具体的には、配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位を含むDNAと配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位を含むDNAが例示され、各々がαサブユニットとβサブユニットをコードするが、これに限定されるものではなく、この塩基配列を含むDNAであればよい。またこれらの配列と相補的な塩基配列からなるDNAに対して、ストリンジェントな条件下にてハイブリダイズすることができるDNAであっても、ニトリルヒドラターゼ活性を有する限り、本発明に包含される。すなわち、これらのDNAを用いて本発明のニトリルヒドラターゼを発現することができる。ストリンジェントな条件下としては、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて、マニュアル記載の条件(wash:42℃、0.5xSSCを含むprimary wash buffer)が例示される。ストリンジェントな条件下にてハイブリダイズすることができるDNAとしては、例えば、前述のストリンジェントな条件下、配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位を含むDNAとまたは配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位を含むDNAにおける相補的な塩基配列の任意の、通常は少なくとも20個、好ましくは少なくとも50個、特に好ましくは少なくとも100個の連続した塩基配列を検出試料として、これにハイブリダイズするDNAが例示される。
本発明のニトリルヒドラターゼをコードするDNAは、以下の方法によって得ることができる。本明細書において、特に記載がない限り当該分野で公知である遺伝子組換え技術、組み換えタンパク質の生産技術、分析法が採用される。
本発明のニトリルヒドラターゼをコードするDNAは、本願明細書において開示される塩基配列、またはアミノ酸配列、場合によれば前記した精製酵素から決定したアミノ酸配列等の配列情報にしたがって、本発明のニトリルヒドラターゼを含有する微生物、例えばサーモグルコシデシウスQ−6株から取得することができる。アミノ酸配列にしたがって合成されたオリゴヌクレオチドをプローブとして用い、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の染色体DNAを制限酵素により消化したDNA断片をファージやプラスミドに導入し、宿主を形質転換して得られるライブラリーから、プラークハイブリダイゼーションやコロニーハイブリダイゼーションなどにより本発明のニトリルヒドラターゼをコードするDNAを得ることもできる。また、オリゴヌクレオチドをプローブとせず、前記した精製酵素から決定した両サブユニットのN末端のアミノ酸配列情報等にしたがってプライマーを作製し、ニトリルヒドラターゼ遺伝子の一部をPolymerase Chain Reaction(PCR)により増幅したものをプローブとして、同様の過程により取得することもできる。得られたDNAは、プラスミドベクター、たとえばpUC118に挿入しクローニングし、ジデオキシ・ターミネーター法(Proceedings of the National Academy of Sciences.USA,74:5463−5467,1977)等の周知の方法により塩基配列の決定を行うことができる。このようにして調製された遺伝子は、該遺伝子を用いて形質転換した大腸菌宿主中の発現産物を上記にて記載の活性測常法を用いることにより、ニトリルヒドラターゼをコードするDNAであることを確認することができる。
さらに本発明は、上記のDNAがベクターに連結されていることを特徴とする組換えベクターを提供する。
本発明における組換えベクターとは、宿主微生物に適したプロモーター領域の下流に、上記方法で得られたDNAの5’末端側が機能し得るように連結して、必要に応じてその下流に転写終結配列を挿入し、適切な発現用ベクターに組み込み調製することができる。
適切な発現ベクターとしては、宿主微生物内で複製増殖可能であれば特に制限されない。また、染色体に遺伝子挿入が可能な宿主であれば、該宿主における自律複製可能な領域を有する必要はない。例えば、宿主として大腸菌を用いるのであれば、強力なプロモーター、たとえば、lac、trp、tac、trc、T7,PLやピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター(特許公報第2579506号)などを含むpUC系、pGEX系、pET系、pT7系、pBluescript系、pKK系、pBS系、pBC系、pCAL系などを含む、通常大腸菌で使用される任意のベクターから選択できる。また、αサブユニット遺伝子及びβサブユニット遺伝子が各々のプロモーターより独立のシストロンとして発現されてもよいし、共通のプロモーターによりポリシストロンとして発現されてもよい。さらには、独立のシストロンの場合、各々のサブユニット遺伝子が別のベクター上にあっても良い。
さらに本発明においては上記のニトリルヒドラターゼの組換えベクターに、本発明のニトリルヒドラターゼ遺伝子の下流にある遺伝子を発現するDNAを組み込むことにより,ニトリルヒドラターゼの活性がより上昇することを見出し、このようなベクターも提供する。具体的には、上記と同様に発現に必要なプロモーターや転写終結因子等を含むプラスミドベクターを用い、ニトリルヒドラターゼの活性化に関与するタンパク質をコードする遺伝子、ニトリルヒドラターゼのαサブユニット遺伝子及びβサブユニット遺伝子が各々独立のシストロンとして発現されていてもよいし、共通の制御領域によりポリシストロンとして発現されていてもよい。同様に、各々の遺伝子が別のベクター上にあってもよい。
それゆえ、本発明は、ニトリルヒドラターゼの活性化に関与するタンパク質をコードするDNAを提供する。具体的には、配列表の配列番号:3の塩基配列の1325−1663位が例示されるが、これに限定されるものではなく、この塩基配列を含むDNAであればよい。またこれらの配列と相補的な塩基配列からなるDNAに対して、ストリンジェントな条件下にてハイブリダイズすることができるDNAであり、ニトリルヒドラターゼの活性化に関与する限り、本発明に包含される。すなわち、これらのDNAを用いて本発明のニトリルヒドラターゼをより活性化することができる。ストリンジェントな条件下としては、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて、マニュアル記載の条件(wash:42℃、0.5xSSCを含むprimary wash buffer)が例示される。ストリンジェントな条件下にてハイブリダイズすることができるDNAとしては、例えば、前述のストリンジェントな条件下、配列表の配列番号:3の塩基配列の1325−1663位を含むDNAにおける相補的な塩基配列のうち、任意の、通常は少なくとも20個、好ましくは少なくとも50個、特に好ましくは少なくとも100個の連続した塩基配列を検出試料として、これにハイブリダイズするDNAが例示される。また、本発明のニトリルヒドラターゼの活性化に関与するタンパク質は、配列表の配列番号:4に示される112個のアミノ酸の配列により示される蛋白質であるが、ニトリルヒドラターゼの活性化に関与する能力を有する限り、アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、または挿入を有するアミノ酸配列を有していてもよく、宿主の種類により、翻訳後に修飾を受けることも当然予想される。該アミノ酸配列のうちの1〜25個アミノ酸が置換、欠失、挿入、または翻訳後修飾されているアミノ酸配列も好ましい例として挙げられ、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個である。
また、本発明は、上記のDNAが宿主細胞に導入され、形質転換せしめられたことを特徴とする形質転換体を提供する。
形質転換体は、上記方法にて作成した発現ベクターを用い、宿主細胞を形質転換することにより、取得することができる。宿主細胞としては、微生物、哺乳類細胞、および植物細胞などが含まれるが、微生物を利用することが好ましい。微生物の例としては後述の実施例のように大腸菌が挙げられるが、特にそれに限定されることなく、バチルス属、シュードモナス属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ロドコッカス属、放線菌や酵母などが例示される。
宿主微生物への遺伝子の導入法としては、たとえば、形質転換、形質導入、接合伝達、またはエレクトロポレーションなどの当技術分野で周知の任意の常法によって、好ましい宿主に導入することができる。
さらに本発明であるニトリルヒドラターゼまたはそれを含有する菌体処理物の製造方法としては、前述の通り、該ニトリルヒドラターゼを生産し得る微生物、例えば、ジオバチルス属の微生物、特に好ましくは、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の培養物から公知の精製方法を適宜組み合わせて該酵素を取得することができるが、さらに、上述の通り、ニトリルヒドラターゼの遺伝子を用い形質転換された形質転換体から取得することもできる。
該酵素を取得するにあたり、ジオバチルス属の微生物の培養方法は前述のとおりであるが、上記形質転換体は、通常これらの微生物が資化可能な栄養源を含む培地で培養することが好ましく、例えば、酵素や抗生物質などを生産する通常の方法で培養することができる。培養は、通常、液体培養でも固体培養でもよい。例えば、グルコース、シュークロース等の炭水化物;ソルビトール、グリセロール等のアルコール;クエン酸、酢酸等の有機酸;大豆油等の炭素源またはこれらの混合物;酵母エキス、肉エキス、硫安、アンモニア等の含窒素無機有機窒素源;リン酸塩、マグネシウム、鉄、コバルト、マンガン、カリウム等の無機栄養源;およびビオチン、チアミン等のビタミン類を適宜混合した培地が用いられる。より好ましくはそのような培地成分にFeイオンあるいはCoイオンを0.1μg/ml以上存在させるとよい。培養条件は、通常、好気条件下で行うことが好ましい。培養温度は、宿主微生物が生育し得る温度であれば特に制限はないが、通常、5℃〜80℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは25〜42℃で行うことが例示される。また、培養途中のpHは宿主微生物が生育し得るpHであれば特に制限はないが、通常、pH3〜9、好ましくはpH5〜8、さらに好ましくはpH6〜7で行うことが例示される。
また、本発明においては、本発明の酵素を用いて、ニトリル化合物を製造することができる。この発明において、前述の酵素を用いるに際しては、本発明の酵素の作用を阻害しないかぎり、特別に精製程度等は限定されず、精製された本発明の酵素の他、その酵素含有物を用いてもよく、さらには、その酵素を生産する微生物やその酵素の遺伝子を導入して形質転換された形質転換体等を使用してもよい。微生物や形質転換体等を使用する場合には、菌体を利用してもよく、菌体としては、生菌体、もしくはアセトンやトルエン等の溶媒処理または凍結乾燥等の処理を施して、化合物の透過性を増した菌体を使用することができる。場合によっては、菌体破砕物や菌体抽出物等の酵素含有物となっていてもよい。該酵素を含有する菌体処理物の作成方法を例示すれば、まず培養物を固液分離し、得られる湿菌体を必要に応じてリン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液などの緩衝液に懸濁せしめ、次いで超音波処理、フレンチプレス処理やガラスビーズを用いる粉砕処理、あるいはリゾチームやプロテアーゼ等の細胞壁溶解酵素による処理などの菌体破砕処理を適宜組み合わせて、菌体内から該酵素を抽出し、粗製のニトリルヒドラターゼ含有液を得ることができる。この粗製の酵素含有液を、必要により、公知のタンパク質、酵素などの単離、精製手段を用いることにより、さらに精製することができる。例えば、粗製の酵素含有液に、アセトン、エタノールなどの有機溶媒を加えて分別沈殿せしめるか、硫安などを加えて塩析せしめるかして、水溶液からニトリルヒドラターゼを含有する区分を沈殿せしめ回収する方法が例示される。またさらに、陰イオン交換、陽イオン交換、ゲル濾過、抗体やキレートを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて精製することができる。勿論、酵素や菌体、酵素を含有する菌体処理物等は、公知の方法により、カラムにおいて充填されていてもよく、担体に固定化されていてもよく、特に菌体の場合はポリアクリルアミドゲル等の高分子中に抱埋してもよい。菌体または菌体処理物を水またはリン酸緩衝液等の緩衝液等の水性水溶液に懸濁し、これにニトリル化合物を加えることにより、反応を進行させる。使用する菌体もしくは菌体処理物の濃度は、0.01重量%〜20重量%、好ましくは、0.1重量%〜10重量%である。反応温度の上限は、好ましくは90℃、さらに好ましくは85℃、一層好ましくは70℃を、反応温度の下限は、例えば1℃、好ましくは4℃、さらに好ましくは10℃を、反応pHは、例えば、5〜10、好ましくは、6〜8を、反応時間は、例えば、1分間〜72時間を挙げることができる。また、ニトリル化合物を徐々に滴下することによって、アミド化合物を高濃度に生成蓄積させることもできる。反応液からのアミド化合物を回収するには、菌体や菌体処理物等をろ過や遠心分離等で取り除いた後、晶析などの手法で取り出す方法等がある。
以下に、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:菌体分離
埼玉県の温泉近傍で採取した土壌を少量(約1g)とって、生理食塩水を5ml入れた試験管内に入れて、3日間、65℃の振とう培養器の中で振とう培養した。この培養液の一部(0.5ml)を取り、グルコース1.0重量%、ポリペプトン0.5重量%、イーストエキストラクト0.3重量%からなる培地(pH7.0)に加え、2日間65℃で往復振とう培養した。これにより得られる培養液の一部(0.1ml)を、前述の培地成分を含む寒天平板培地に広げて65℃でさらに2日間培養しコロニーを形成させることによって、微生物を単離した。単離した微生物を、上記と同組成の培地に0.1重量%のn−バレロニトリルを添加した液体培地に接種した後、65℃で24時間培養することにより、ニトリル資化性の高い微生物を有する培養液を得た。この培養液1mlを9mlの1.1重量%のアクリロニトリル溶液(0.05M−リン酸バッファーpH7.7)に加えて、反応温度27℃にて反応を開始した。10分後、1mlの1N HClを加えることにより反応を停止した。反応液の一部を液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析し、アクリルアミド生成の有無を検定することによって、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物をスクリーニングした。このようにしてニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する微生物としてジオバチルス・サーモグルコシデシウス Q−6株を得た。
(液体クロマトグラフィー分析条件)
本体:HITACHI D−7000(日立社製)
カラム;Inertsil ODS−3(GLサイエンス社製)
長さ;200mm
カラム温度;35℃
流量;1ml/min
サンプル注入量;10μl
溶液:0.1wt%リン酸水溶液
実施例2:菌体培養の生育上限温度
実施例1により得られたジオバチルス・サーモグルコシデシウス Q−6株を、実施例1で使用した培地成分を含む寒天平板培地に塗布し、複数の異なる温度で培養を行い、菌体の生育状況を調べた。その結果を表1に示す。ジオバチルス・サーモグルコシデシウス Q−6株は、70℃までは通常の増殖を示し、72℃でも生育が可能であった。
Figure 0004108095
実施例3:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の菌体中のニトリルヒドラターゼ活性の測定とその温度依存性
グリセロール0.2重量%、クエン酸3ナトリウム2水和物0.2重量%、リン酸2水素カリウム0.1重量%、リン酸水素2カリウム0.1重量%、ポリペプトン0.1重量%、酵母エキス0.1重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、n−バレロニトリル0.1重量%、硫酸マグネシウム7水和物0.02重量%、硫酸鉄(II)7水和物0.003重量%、塩化コバルト6水和物0.0002%を含む滅菌済培地(pH7.0)100mlを500ml三角フラスコに入れたものにあらかじめ同培地で培養したジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の培養液1mlを植菌した。これを65℃で1日間、200stroke/minで回転振とう培養し、菌体培養液を得た。このジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の菌体培養液300mlから遠心分離(10000×g,15分)によって菌体を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5)にて洗浄後、同緩衝液50mlに懸濁した。こうして調製した菌体懸濁液について、上述の方法で、5分間反応し、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を測定した。酵素活性の単位(ユニット)を、1分間に1μmolのアクリロニトリルをアクリルアミドに変換する活性を1ユニット(以下、Uと記す)と定めると、27℃における湿菌体重量当たりのニトリルヒドラターゼ活性(U/mg)は9.37U/mgであった。さらに10℃において、5U/mlになるように0.5重量%のアクリロニトリルを含む菌体懸濁液を調製し、この菌体懸濁液を用いて、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃の条件で同様にニトリルヒドラターゼ活性を求め、表2に示した。その結果、菌体を反応に用いた時の至適温度は60℃近傍にあり、高温域において特に高い活性を示した。
Figure 0004108095
実施例4:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の菌体中のニトリルヒドラターゼの熱安定性
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の菌体中にあるニトリルヒドラターゼの活性の熱安定性を調べるために、実施例3の培養法で得た菌体を10U/mlとなるように蒸留水に懸濁し、30分、所定温度での保温処理を行い、残存活性を測定した。0.5mlの1重量%アクリロニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に0.5mlの保温処理後の菌体液を加えて、27℃にて攪拌しながら反応を開始した。5分後、100μLの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。保存処理前の活性に対する保存処理後の活性を算出し、保存処理前の活性を基準(100)とした換算値として表3に示す。この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の菌体中のニトリルヒドラターゼの酵素活性は、高温下においても安定に保持されるといえ、70℃という高温下においても80%以上の活性を保持することができ、80℃の高温下においても30%以上の活性を保持することが出来る。
Figure 0004108095
実施例5:各種ニトリル化合物を基質とした反応
下記表4に記載している各種ニトリル化合物を対応するアミド化合物に変換させるニトリルヒドラターゼ活性について調べた。9mlの1.1%ニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に1ml菌体懸濁液を加えて、反応温度30℃にて反応を開始した。10分後、1mlの1N HClを加えることにより反応を停止した。HPLCによる分析条件は実施例1と同様であるが、溶液を10wt%アセトニトリルを含む蒸留水とした。その結果、表4に記載したすべてのニトリル化合物を基質としてニトリルヒドラターゼ活性を有していた。
Figure 0004108095
実施例6以降に記載のジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼαサブユニット(ORF2)、βサブユニット(ORF1)及びニトリルヒドラターゼ活性化因子(ORF3)のアミノ酸配列及び塩基配列を解明するに至った本発明の流れを以下に要約した。
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株を培養して得られた菌体を破砕後、硫酸アンモニウムによる沈殿、陰イオン交換カラムロマトグラフィー、DEAEカラム、ハイドロキシアパタイトカラムに供し、ゲルろ過クロマトグラフィー、透析を行い、ニトリルヒドラターゼ酵素を精製した。
精製したニトリルヒドラターゼのαサブユニット及びβサブユニットのN末約30残基のアミノ酸配列を決定し、該菌の属に基づくアミノ酸のコドン使用を考慮して遺伝子増幅用オリゴヌクレオチド縮重プライマーを作製し、該菌体から抽出した染色体DNAを鋳型として縮重PCRを行い、増幅DNA断片を取得した。増幅されたDNA断片をクローニングし、挿入断片の塩基配列を決定した。該塩基配列より推定されるアミノ酸配列と、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットのN末端アミノ酸配列を比較し、クローニングされた配列がニトリルヒドラターゼをコードしていることを確認した。
その結果、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株において、5’末端側上流よりニトリルヒドラターゼ遺伝子はβサブユニット、αサブユニットの順に隣接して存在することが明らかになった。
公知の様々ニトリルヒドラターゼαサブユニットの下流遺伝子における相同性の高い配列から、遺伝子増幅用オリゴヌクレオチド縮重プライマーを作製し、該菌体から抽出した染色体DNAを鋳型として縮重PCRを行い、増幅DNA断片を取得した。得られた該菌のαサブユニット部分の増幅DNA断片をクローニングし塩基配列を決定した。
以上より取得されたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットを適当な発現ベクターに導入した。構築した発現プラスミドを用いて、適当な宿主菌を形質転換した。宿主の例としては、ロドコッカス属、コリネ属、大腸菌などが挙げられる。好ましくはアミダーゼを有していない宿主が良い。更に、得られた形質転換体を培養して得た菌体とアクリロニトリルを水性媒体中で接触させることによりアクリルアミドが生成することを確認し、その生成効率及びニトリルヒドラターゼ活性を比較した。
次に、上記より得られたDNA断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーションを行い、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットの下流遺伝子を含む周辺遺伝子をクローニングした。
下流遺伝子をニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットと共発現させ、ニトリルヒドラターゼ活性を比較した。その結果、下流遺伝子がニトリルヒドラターゼ活性を顕著に上昇させる活性化に関与する遺伝子であることを見出した。
実施例6:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来ニトリルヒドラターゼ酵素の精製
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株を培養し、種々のカラムに供することでニトリルヒドラターゼ活性画分を精製した。
クロマトグラフィーにおけるニトリルヒドラターゼ活性画分の測定方法は以下のように行った。HEPESバッファー(100mM、pH7.2)により希釈した各画分の溶出液に1重量%のアクリロニトリルを添加して27℃で1分間反応させた。1N HClを10液量%反応液に添加することにより反応を停止させ、生成したアクリルアミド濃度を実施例1に記載のHPLC分析法により測定した。
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来ニトリルヒドラターゼ酵素を精製するために、まず0.1重量%のn−バレロニトリルを含有するV/F培地(グリセロール0.2重量%、クエン酸3ナトリウム2水和物0.2重量%、リン酸2水素カリウム0.1重量%、リン酸水素2カリウム0.1重量%、ポリペプトン0.1重量%、酵母エキス0.1重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、n−バレロニトリル0.1重量%、硫酸マグネシウム7水和物0.02重量%、硫酸鉄(II)7水和物0.003重量%、塩化コバルト6水和物0.0002重量%)にジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株を植菌し、65℃で24時間培養した。培養には、96穴2mlの深底プレート(COSTAR社)を用いた。培養終了後、8000g、10分間の遠心分離により集菌し、得られた湿菌体3gを20mLのHEPESバッファー(100mM、pH7.2)に再懸濁した。菌体を冷却下で超音波破砕機を用いて破砕し、菌体破砕液に硫酸アンモニウム(30%飽和濃度)を加えて4℃で30分間緩やかに攪拌し、20000g、10分間の遠心分離を行い、上清を得た。遠心上清液に硫酸アンモニウム(70%飽和濃度)加え4℃で30分間緩やかに攪拌した後、20000g、10分間の遠心分離により得られた沈殿物を9mlのHEPESバッファー(100mM、pH7.2)に再溶解し、1Lの同液中において4℃で24時間透析し、陰イオン交換クロマトグラフィー(アマシャムバイオサイエンセス社;HiTrap DEAE FF(カラム体積5mL×5本))に供した。展開液はHEPESバッファー(100mM、pH7.2)を用い、塩化カリウム濃度を0.0Mから0.5Mまで直線的に増加させることにより分画を溶出し、ニトリルヒドラターゼ活性を含む画分を得た。その画分をアパタイトカラムクロマトグラフィー(BIO−RAD社製;CHT2−I(カラム体積2mL))に供した。0.01Mリン酸カリウム水溶液(pH7.2)を展開液とし、リン酸カリウムを0.01Mから0.3Mまで直線的に増加させることにより分画を溶出し、ニトリルヒドラターゼ活性を含む画分を得た。その画分を0.15M NaClを含む0.05Mリン酸ナトリウム水溶液(pH7.2)を展開液としたゲルろ過クロマトグラフィー(アマシャムバイオサイエンセス社;Superdex 200 HR 10/30)に供し、ニトリルヒドラターゼ活性画分を取得した。こうして得られたゲルろ過クロマトグラフィーのニトリルヒドラターゼ活性画分を用いて以下の実施例を行った。
実施例7:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼ活性画分におけるニトリルヒドラターゼの反応温度依存性
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼ活性画分溶液(3.2mg/mL、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5))について、表5に示した反応温度でニトリル化合物をアミド化合物に変換させるニトリルヒドラターゼ活性を測定した。1mLの0.5重量%アクリロニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)にニトリルヒドラターゼ活性画分溶液を加えて、各温度にて攪拌しながら反応を開始した。2分後、100μLの1N 塩酸を加えることにより反応を停止した。酵素活性の単位(ユニット)は、1分間に1μmolのアクリロニトリルをアクリルアミドに変換する活性を1ユニット(以下、Uと記す)と定めて、酵素重量当たりの水和活性(U/mg)を表5に示した。この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼ活性画分におけるニトリルヒドラターゼの活性は60度という高温まで、反応温度の上昇に伴い上昇している。最適温度は菌体を反応に用いた時と同様に60℃近傍にあると考えられ、70度という高温下においても大変高いニトリルヒドラターゼ活性を示している。
Figure 0004108095
実施例8:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼの熱安定性
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼの活性の熱安定性を調べるために、ニトリルヒドラターゼ活性画分溶液(3.2mg/ml、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5))を30分、所定温度での保温処理を行い、残存活性を測定した。1mLの0.5重量%アクリロニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に保温処理後のニトリルヒドラターゼ溶液を5μl加えて、27℃にて攪拌しながら反応を開始した。2分後、100μlの1N HClを加えることにより反応を停止した。保存処理前の活性に対する保存処理後の活性(残存活性)を算出し、保存処理前の活性を基準(100)とした換算値として表6に示す。この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼ活性画分における水溶液中のニトリルヒドラターゼの酵素活性は、高温下においても安定に保持されるといえ、60℃という高温下においても60%以上の活性を保持することができ、70℃の高温下においても35%以上の活性を保持することができる。
Figure 0004108095
実施例9:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼのアクリロニトリル濃度依存性と濃度耐性
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼに関して、基質であるアクリロニトリル濃度への依存性と耐性を調べるために、4μlのニトリルヒドラターゼ活性画分溶液(3.2mg/mL、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5))を各種重量%のアクリロニトリルを含む5ml溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に加えて、27℃にて攪拌しながら反応を開始した。5分、10分、20分、40分後に1mlずつを取り出し、100μLの1N HClを加えることにより反応を停止し、生成したアクリルアミドの濃度をHPLCにより定量し、表7に示した。この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼ活性画分における水溶液中のニトリルヒドラターゼの酵素活性は、高いアクリロニトリル濃度においても安定に保持されるといえる。6%という高濃度のアクリロニトリル溶液中において40分反応させても、より低いアクリロニトリル濃度の場合に比べての活性の低下は観察されず、逆に基質濃度の上昇に伴って活性は上昇した。
Figure 0004108095
実施例10:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼのアクリルアミド濃度耐性
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼに関して、生成物であるアクリルアミドによる阻害を調べるために、10μlのニトリルヒドラターゼ活性画分溶液(3.2mg/mL、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5))を0.5重量%アクリロニトリルと35重量%アクリルアミドを含む溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)の1mlに対して加え、27℃にて攪拌しながら10分間反応を行い、反応後の液中のアクリロニトリル濃度をHPLCで定量したところ、すべてのアクリロニトリルがアクリルアミドに変換されていた。この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より精製したニトリルヒドラターゼ活性画分における水溶液中のニトリルヒドラターゼの酵素活性は、35%という高いアクリルアミド濃度においても活性が保持されるといえる。
実施例11:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼβサブユニット及びαサブユニット部分の遺伝子のクローニング
(1)ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼ酵素の確認及びN末アミノ酸配列決定
実施例6により得られたゲルろ過クロマトグラフィーでのニトリルヒドラターゼ活性画分溶出液を還元条件下において還元型SDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供した。泳動後、クマシーブリリアントブルー(CBB)による蛋白質染色を行い、脱色した結果、約25Kダルトン及び約28Kダルトンの分子量を有する2本の主要なバンドが確認された。この2本の主要な精製蛋白質を、ブロッティング装置(BIO−RAD社)を用いてPVDF膜(MILLIPORE社製)に転写し、CBB染色し、目的の2本のバンドが吸着している部分をPVDF膜から切り出した。次に、全自動タンパク質一次構造分析装置PPSQ−23A(島津製作所)を用いて2種類の蛋白質のN末端アミノ酸配列を解読した。その結果、分子量25Kダルトンの蛋白質のN末アミノ酸配列は、配列表の配列番号:23に記載の配列であり、分子量28Kダルトンの蛋白質のN末アミノ酸配列は、配列表の配列番号:24に記載の配列であった。
既知のニトリルヒドラターゼ酵素のアミノ酸配列と比較した結果、25Kダルトンのポリペプチド鎖がニトリルヒドラターゼαサブユニット、28Kダルトンのポリペプチド鎖がニトリルヒドラターゼβサブユニットと低いながらもホモロジーを示し、該蛋白質をコードすることが示唆された。
(2)N末端アミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドプライマーの合成
上記で解読した2種類の蛋白質のN末端のアミノ酸配列から、該菌属のコドン使用に基づいて縮重PCR用オリゴヌクレオチドプライマーを以下の12種類合成した。配列表の配列番号:5に記載のプライマー1(αF1)、配列表の配列番号:6に記載のプライマー2(αF2)、配列表の配列番号:7に記載のプライマー3(αF3)、配列表の配列番号:8に記載のプライマー4(αR1)、配列表の配列番号:9に記載のプライマー5(αR2)、配列表の配列番号:10に記載のプライマー6(αR3)、配列表の配列番号:11に記載のプライマー7(βF1)、配列表の配列番号:12に記載のプライマー8(βF2)、配列表の配列番号:13に記載のプライマー9(βF3)、配列表の配列番号:14に記載のプライマー10(βR1)、配列表の配列番号:15に記載のプライマー11(βR2)、配列表の配列番号:16に記載のプライマー12(βR3)である。尚、yはcまたはtを表し、rはaまたはgを表し、mはaまたはcを表し、kはgまたはtを表し、sはcまたはgを表し、wはaまたはtを表し、dはa、gまたはtを表し、nは、a、c、gまたはtを表している。また、αサブユニット及びβサブユニットをコードする遺伝子の染色体上での位置を考慮し、プライマーを作成した。
(3)ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株より染色体DNAの抽出及び縮重PCR
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株を実施例6と同様の方法により培養、回収し、QIAGEN社のGenomic−tip System(500/G)キットを用いて菌体から染色体DNAを抽出した。TE溶液に溶解させたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNA0.1μgを鋳型として縮重PCRを行った。縮重PCRは、配列表の配列番号:5から10に記載のプライマー1から6と、配列表の配列番号:11から16に記載のプライマー7から12の組み合わせ36通りを行った。100pmolのプライマー2種類を各々、5UのTakara社のEx Taq DNAポリメラーゼ及びバッファーを含む全量100μlの反応液を用い、縮重PCRを行いDNA断片の増幅を試みた。反応条件は以下の通りである。96℃、3分の熱変性後、96℃、30秒熱変性、42℃、30秒アニーリング、72℃、1分30秒伸長反応を35サイクル行った後、72℃、5分間伸長反応をさせ、4℃にて保冷した。各々のPCR産物を1重量%アガロース電気泳動に供し、DNAの増幅の確認を行ったところ、配列表の配列番号:9に記載のプライマー5(αR2)と配列表の配列番号:11に記載のプライマー7(βF1)の組み合わせ及び配列表の配列番号:9に記載のプライマー5(αR2)と配列表の配列番号:12に記載のプライマー8(βF2)の組み合わせで行ったPCRの場合のみ、約700bpのDNA断片の増幅が確認された。
(4)縮重PCR産物のクローニング及び増幅DNA断片の塩基配列解読
増幅されたDNA断片をゲルから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて抽出し、pGEM−T Vector(Promega社)にT4 DNA Ligase(Takara社)を用いてライゲーションした。Ex TaqによるPCRの結果、3’末端にAが1塩基付加される性質を利用している。ライゲーション反応後、大腸菌JM109株を形質転換し、LB寒天培地(50μg/mlアンピシリン、0.5重量%バクト酵母エキストラクト、1重量%バクトトリプトン、0.5重量%NaCl、2.0重量%Bacto Agar(pH7.5))にて37℃で一晩培養し、アンピシリンにて形質転換体を選択した。アンピシリンを含むLB培地にて培養した形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出し、約700bpのインサート配列を、ベクター上にあるSP6及びT7プロモーターの配列をプライマーとして用いて塩基配列を解読した。
その結果、増幅DNA断片内に681bpのオープンリーディングフレーム(以後ORF1と呼称)が確認された。ORF1の翻訳停止コドンと次のオープンリーディングフレーム(以後ORF2と呼称)の翻訳開始コドンATGの間は13bpであった。ORF1の塩基配列より推定されるN末端側25個のアミノ酸配列と上記にて精製した28Kダルトンのポリペプチド鎖のN末端側の25個のアミノ酸配列は全く一致しており、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列の1番目から25番目までの配列に相当している。ORF1のアミノ酸配列は、既知のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列と低いながらもホモロジーを示し、該蛋白質をコードすることが示唆された。
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニットは226アミノ酸をコードしており、既存のデーターベース中で相同性を有する蛋白質とのアミノ酸配列の一致度は、高い方から順に、クレブシエラ属MC12609株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと43%、アグロバクテリウム属のニトリルヒドラターゼβサブユニットと42%、ロドシュードモナス属CGA009株ニトリルヒドラターゼβサブユニットと40%と非常に低い。また、ジオバチルス属と近縁の属であるバチルス属由来の蛋白質とのアミノ酸の一致度も、好熱菌Bacillus BR449株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと35.0%、好熱菌Bacillus smithii SC−J05−1株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと34.5%と極めて低かった。一方、好熱菌Bacillus BR449株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと好熱菌Bacillus smithii SC−J05−1株のニトリルヒドラターゼβサブユニットは85.6%という高い一致度を有している。また、ORF2の塩基配列より推定されるN末端のアミノ酸配列と上記にて精製した25Kダルトンのポリペプチド鎖のN末端のアミノ酸配列は全く一致した。
以上より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株では、5’末端側上流より28Kダルトンのニトリルヒドラターゼβサブユニットをコードする遺伝子、25Kダルトンのニトリルヒドラターゼαサブユニットをコードする遺伝子がこの順番で隣接して存在していることが判明した。
(5)ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株ニトリルヒドラターゼαサブユニット部分の遺伝子のクローニング
上記にて得られたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット部分の遺伝子の周辺遺伝子及びαサブユニット部分の遺伝子をクローニングするために、縮重PCRを行った。既知のニトリルヒドラターゼαサブユニットの下流に位置する遺伝子を参考にして、以下の縮重PCR用オリゴヌクレオチドプライマー以下2種類を作成した。配列表の配列番号:17に記載のプライマー13(pR1)、配列表の配列番号:18に記載のプライマー14(pR2)である。
また、先に塩基配列を解読したジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット内にPCR増幅用のオリゴヌクレオチドプライマー以下2種類を作成した。配列表の配列番号:19に記載のプライマー15(Q6AposF)、配列表の配列番号:20に記載のプライマー16(Q6abF1)である。ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNA0.1μgを鋳型として縮重PCRを行った。縮重PCRは、アニーリング温度50度にて、配列表の配列番号:17、18に記載のプライマー13、14と、配列表の配列番号:18、19に記載のプライマー15、16の組み合わせ4通りを行った。その結果、配列表の配列番号:17に記載のプライマー13(pR1)と配列表の配列番号:18に記載のプライマー15(Q6AposF)の組み合わせで行ったPCRで約0.8kbの増幅DNA産物の存在が確認できた。更に、配列表の配列番号:16に記載のプライマー13(pR1)と配列表の配列番号:19に記載のプライマー16(Q6abF1)の組み合わせで行ったPCRで1.5kの増幅DNA産物の存在が確認できた。なお、その他の組み合わせで行ったPCRの場合は、増幅DNA産物の存在が確認できなかった。
配列表の配列番号:16に記載のプライマー13(pR1)と配列表の配列番号:19に記載のプライマー15(Q6AposF)の組み合わせで行った縮重PCRにより増幅された0.8kbのDNA断片をアガロースゲルより切り出し、常法によりDNAを抽出し、pGEM−T Vector(Promega社)へ組み込み、大腸菌JM109株を形質転換し、50μg/mlのアンピシリンにより組換え体を選択した。アンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を培養し、常法によりプラスミドDNAを抽出し、約0.8kbのインサート部分の塩基配列を解読した。その結果、618bpのオープンリーディングフレーム(以後ORF2と呼称)が確認された。ORF2の塩基配列より推定されるN末端側29個のアミノ酸配列と上記にて精製した25Kダルトンのポリペプチド鎖のN末端側の29個のアミノ酸配列は完全に一致しており、配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列の1番目から29番目までの配列に相当する。ORF2のアミノ酸配列は、既知のニトリルヒドラターゼαサブユニットのアミノ酸配列と低いながらもホモロジーを示し、該蛋白質をコードすることが示唆された。
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニットは205アミノ酸をコードしており、既存のデーターベース中で相同性を有する蛋白質とのアミノ酸配列の一致度は、高い方より順に、好熱菌Bacillus BR449株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと66.3%、好熱菌Bacillus smithii SC−J05−1株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと63.9%と低い。一方、好熱菌Bacillus BR449株のニトリルヒドラターゼβサブユニットと好熱菌Bacillus smithii SC−J05−1株のニトリルヒドラターゼβサブユニットは88.8%が一致し、高い相同性を有している。
実施例12:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット部分の発現ベクターへの組み込みと、大腸菌での発現
(1)ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット部分の発現ベクターへの組み込み
上記にて解読した塩基配列をもとに、ニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット部分をPCRにて増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマー以下2種類を作成した。配列表の配列番号:21に記載のプライマー17(Q6ab−F1−T)、配列表の配列番号:22に記載のプライマー18(Q6ABall−R1−BglII−T)である。配列表の配列番号:21に記載のプライマー17は、制限酵素部位NdeIの中に、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニットの翻訳開始コドンを設計した。配列表の配列番号:22に記載のプライマー18には、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニットの翻訳終止コドンの直下に制限酵素BglIIサイトを導入した。ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNAを鋳型とし、配列表の配列番号:21、22に記載のプライマー17,18を各々100pmol用いてPCRを行った。Ex Taq DNAポリメラーゼを用い、全量100μlにて96℃、3分の熱変性の後、96℃30秒熱変性、60℃30秒アニーリング、72℃1分30秒伸長反応の条件でPCRを30サイクル行った後、72℃にて5分間伸長反応させた後、4℃に冷却した。PCR後の溶液を1.5重量%アガロース電気泳動に供したところ、で約1.3kbのDNA断片増幅が確認された。この増幅DNA産物をアガロースゲルより常法にて抽出し、Promega社のpGEM−Teasy Vectorへライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換体より、プラスミドDNAを抽出し、インサート部分の塩基配列を解読し、PCRによる増幅にエラーのないことを確認した。
次に、このプラスミドをNdeI,EcoRI制限酵素で消化し、1.5重量%アガロース電気泳動に供し、約1.3KbのインサートDNAをアガロースゲルから切り出し、常法により抽出した。発現ベクターにはNovagene社のpET−26b(+) Vector及びpET−28a(+) Vectorを用いた。この2種類のベクターDNAをNdeI,EcoRI制限酵素で消化し、1重量%アガロース電気泳動に供し、約5.3KbのDNA断片を常法により抽出した。これらのインサートとベクターを常法に従いライゲーション反応を行い、大腸菌JM109株を形質転換し、カナマイシン耐性で選択した形質転換体よりプラスミドDNAを抽出し、インサートが導入されたプラスミドを選出した。以上より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット部分がインサートとして導入された発現プラスミドを取得した。これらの完成したプラスミドを、pET−26b(+)−βα及びpET−28a(+)−βαと以下呼称する。
(2)大腸菌にて発現させたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼ活性
発現プラスミドpET−26b(+)−βα及びpET−28a(+)−βαを用いてNovagene社の大腸菌BL21(DE3)LysE株を形質転換し、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット及びαサブユニットの蛋白質をT7プロモーターにより、ポリシストロンとして共発現させた。
各々の発現プラスミドを用いて、Novagene社製の大腸菌BL21(DE3)LysE株のコンピテントセルへの形質転換を行い、30μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天培地(0.5重量%バクト酵母エキストラクト、1重量%バクトトリプトン、0.5重量% NaCl、2.0重量% Agar;pH7.5)上に形質転換処理後の菌液を撒き、30℃で一晩培養し、カナマイシンによる選択を行った。この形質転換体を30μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地2mlに植菌し、30℃で一晩200rpmにて振とう培養を行った。前培養液を20μg/mlの塩化コバルト六水和物(CoCl2・6H2O)及び30μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地10mlに2重量%植菌し、30℃で約3時間、200rpmにてOD600=0.5になるまで振とう培養を行い、0.1mMのIPTGを添加し、T7プロモーターからの発現を誘導後、4時間200rpmにて振とう培養を行い、菌体を回収した。
この菌体を用いて、27℃においてニトリル化合物をアミド化合物に変換させるニトリルヒドラターゼ水和活性を測定した。
ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼを発現させた大腸菌の菌体を、20mMのTris−HCl及び15mMのNaClを含むTBS緩衝液(pH7.5)に再溶解し、OD=0.2になるよう希釈し、終濃度0.2重量%アクリロニトリル溶液の反応液を作成した。27℃にて攪拌しながら反応を行い、30分後に100μLの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。酵素活性の単位(ユニット)は、1分間に1μmolのアクリロニトリルをアクリルアミドに変換する活性を1ユニット(以下、Uと記す)と定めて、湿菌体重量当たりの水和活性(U/mg)を表8に示した。
Figure 0004108095
この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットを大腸菌にて発現させた場合に、アクリロニトリルをアクリルアミドに転換するニトリルヒドラターゼ活性を有することが判明した。
実施例13:コロニーハイブリダイゼーションによるジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼ周辺遺伝子の取得
(1)蛍光標識DIGプローブの作成
配列表の配列番号:25に記載のジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット部分のDNAを鋳型に用いて、ロシュ社製のDIG−DNAラベリングキットにより蛍光標識プローブを作成した。作成方法はロシュ社のDIGマニュアルに従う。
(2)クロモソームサザンハイブリダイゼーション
実施例11にて調製したジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNAを様々な制限酵素を用いて消化し、1重量%アガロースゲル電気泳動に供した。アガロースゲル内のDNAを、ナイロンメンブレンHybond−N+(アマシャム社)に転写した後、先に調製した蛍光標識DIGプローブを用い、クロモソームサザンハイブリダイゼーションを行った。DNAが転写、固定されたメンブレンを1枚に当たり10mlのハイブリダイゼーションバッファー(1重量%スキムミルク、0.1重量%N−ラウロイルザルコシン、0.02重量%SDS、50重量%ホルムアミドを含有する5×SSC)に浸し、42℃で2時間プレハイブリダイゼーションを行った。上記と同様に作成した蛍光標識プローブ100ngを95℃で10分間の煮沸及び急冷処理により熱変性をさせ、プレハイブリゼーションバッファーに添加し、42℃で一晩、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後のメンブレンを150mlの0.1重量%SDSを含む2×SSCにて室温で2回洗浄した。次に65℃に加熱した150mlの0.1重量%SDSを含む1×SSC中で5分間の洗浄を2回行った。続いて100mlのマレイン酸バッファー(0.1Mマレイン酸、0.15M NaCl、NaOHを用いてpH7.5に調製済み)で5分間洗浄後、50mlのブロッキング溶液(0.3重量%Tween20、0.15M NaCl及び1重量%スキミムルクを含む0.1Mマレイン酸バッファー;pH7.5)中にて室温で30分間ブロッキング処理を行った。抗ジゴキシゲニン−APを75mU/mlとなるよう20mlのブロッキング溶液にて希釈し、室温で30分間の抗体反応を行った後、100mlの洗浄バッファー(0.3重量%Tween20、0.15M NaClを含む0.1Mマレイン酸バッファー;pH7.5)中でメンブレンを5回洗浄し、結合していない抗体を洗い流した。20mlの検出バッファー(0.1M Tris−HCl、0.1M NaCl、pH9.5)中で5分間平衡化処理を行った後、10mlの検出バッファーに100mg/mlのNBT(ニトロソブルーテトラゾリウムクロライド)溶液を34μl、50mg/mlのBCIP溶液を35μlを希釈した発色基質溶液NBT/BCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェイト)を作成し、メンブレンが完全に浸るように覆いかけ、遮光してインキュベートを1分から16時間行った。インキュベート中はディスクを動かしたり揺らしたりせず、発色の確認を行った。その結果、制限酵素HindIIIにより消化される約2.3kb遺伝子断片の中に、ニトリルヒドラターゼαサブユニット部分の下流遺伝子が含まれることが明らかになった。
(3)コロニーハイブリダイゼーションによる目的クローンの取得
▲1▼コロニーハイブリダイゼーション用のプラスミドライブラリーの作成
次に、同蛍光標識DIGプローブを用い、コロニーハイブリダイゼーションを行った。ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNA10μgを1重量%アガロースゲル電気泳動に供し、アガロースゲルから約2.0kbから2.6kbのDNA断片を含む部分を切り出し、前記と同様の方法でDNA断片を抽出及び精製した。得られたDNA断片をDNAライゲーションキット(Takara社製)を用いてpUC118プラスミドベクター(Takara社製)のマルチクローニングサイト内にあるHindIII制限酵素部位に導入した。ライゲーションに用いたpUC118プラスミドベクターDNAは、制限酵素HindIIIで消化した後にフェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈澱による精製を行い、続いてアルカリフォスファターゼ(Takara社製)を用いた5’末端の脱リン酸化処理後に再度フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈澱を行い、アガロース電気泳動に供し、アガロースゲルから抽出による再精製を行ったものを使用した。
約2.0kbから2.6kbに断片化されたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株の染色体DNAをpUC118プラスミドベクターとHindIII制限酵素部位にてライゲーションした溶液を用いて、大腸菌JM109株を形質転換し、50μg/mlのアンピシリン、1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノサイド)及び2重量%X−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)を含有するLB寒天培地(0.5重量%バクト酵母エキストラクト、1重量%バクトトリプトン、0.5重量%NaCl、2.0重量%Agar;pH7.5)上に撒き、37℃で一晩培養した。その結果、1枚当たり50個から500個の白コロニーが出現しているシャーレを多数枚取得することが出来た。
これらの染色体DNAのプラスミドライブラリーに対して、先に調製した蛍光標識DIGプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、目的のニトリルヒドラターゼαサブユニットの下流遺伝子を含むクローンをスクリーニングした。
▲2▼コロニーハイブリダイゼーションによる目的クローンの取得
まず、出現した白コロニー約1000クローンを、滅菌済み爪楊枝を用いて新しいLB寒天培地にストリークしなおした。この時、メンブレンをハイブリダイズさせるLB寒天培地と、保存用のLB寒天培地に同様にストリークし、30℃で一晩培養した。
次に、コロニーの生えたシャーレ上にアマシャム社製のナイロンメンブレンHybond−N+を静かに置き、1分後端からピンセットを用いてゆっくりと取り除いた。剥がしたメンブレンを、菌体の付着している面を上にして変性溶液(1.5MのNaClを含む0.5MのNaOH水溶液)に7分間浸した後、中和溶液(1.5MのNaClと1mMのEDTA・2Naを含む0.5Mトリス塩酸水溶液;pH7.2)に3分間浸し、新しい中和溶液に更に3分間浸した。次に、2×SSC溶液(1×SSC1リットル中にNaCl8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを含む)にて1回洗浄を行った後、乾いた濾紙上でメンブレンを風乾した。さらに120mJ/cm2のUV照射を行うことによりメンブレン上にDNAの固定を行った。
▲3▼DIG抗体による検出及び目的クローンの単離
上記にて処理した、DNAの固定されたメンブレンを1枚に当たり10mlのハイブリダイゼーションバッファー(1重量%スキムミルク、0.1重量%N−ラウロイルザルコシン、0.02重量%SDS、50重量%ホルムアミドを含有する5×SSC)に浸し、42℃で2時間プレハイブリダイゼーションを行った。上記と同様に作成した蛍光標識プローブ100ngを95℃で10分間の煮沸及び急冷処理により熱変性をさせ、プレハイブリゼーションバッファーに添加し、42℃で一晩、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後のメンブレンを150mlの0.1重量%SDSを含む2×SSCにて室温で2回洗浄した。次に65℃に加熱した150mlの0.1重量%SDSを含む1×SSC中で5分間の洗浄を2回行った。続いて100mlのマレイン酸バッファー(0.1Mマレイン酸、0.15M NaCl、NaOHを用いてpH7.5に調整済み)で5分間洗浄後、50mlのブロッキング溶液(0.3重量%Tween20、0.15M NaCl及び1重量%スキミムルクを含む0.1Mマレイン酸バッファー;pH7.5)中にて室温で30分間ブロッキング処理を行った。抗ジゴキシゲニン−APを75mU/mlとなるよう20mlのブロッキング溶液にて希釈し、室温で30分間の抗体反応を行った後、100mlの洗浄バッファー(0.3重量%Tween20、0.15M NaClを含む0.1Mマレイン酸バッファー;pH7.5)中でメンブレンを5回洗浄し、結合していない抗体を洗い流した。20mlの検出バッファー(0.1M Tris−HCl、0.1M NaCl、pH9.5)中で5分間平衡化処理を行った後、10mlの検出バッファーに100mg/mlのNBT溶液を34μl、50mg/mlのBCIP溶液を35μlを希釈した発色基質溶液NBT/BCIPを作成し、メンブレンが完全に浸るように覆いかけ、遮光してインキュベートを1分から16時間行った。インキュベート中はディスクを動かしたり揺らしたりせず、発色の確認を行った。その結果、該メンブレン上の1000クローンのうち、ポジティブなシグナルを4箇所見いだし、その位置と重なるポジティブクローンを元のシャーレ上で確認した。
(4)ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット部分の下流遺伝子を含むポジティブクローンの解析
確認されたポジティブクローンをシャーレからアンピシリンを含有するLB液体培地に植菌し、37℃・250rpmで一晩振とう培養を行い、菌体を遠心により回収し、常法によりプラスミドDNAを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素HindIIIで消化した後に、1.5重量%アガロース電気泳動に供し、挿入断片の大きさの確認を行ったところ、約2.3kbの大きさであった。また、挿入断片がジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット部分を含むことを、数パターンのPCR及び、制限酵素による消化パターンにより確認した。
以上より取得された本プラスミドをpUC118−Q6Hin2.3と命名し、挿入断片の全塩基配列を決定した。ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼ及び下流遺伝子群の制限酵素地図及び遺伝子構成を図1に記載した。
その結果、挿入断片中に339bpの塩基配列からなるオープンリディングフレーム(以下、ORF3と呼称する)がニトリルヒドラターゼαサブユニット(ORF2)の5’末端側下流に同じ向きに存在することが確認された。ORF2の翻訳終止コドンとORF3の翻訳開始コドンの間は12bpであり、ORF3の翻訳終止コドンと更に下流に位置するORFの翻訳開始コドンの間は145bpであった。ORF3は112アミノ酸をコードしており、既存のデーターベース中の以下のタンパク質と大変低いながらも相同性を有していた。既存のデーターベース中で相同性の高い配列とのアミノ酸の一致する割合は、バチルス属BR449株のP12Kと31%、ロドコッカス・ロドクロウスJ1株のNhhGと31%、ロドコッカス・ロドクロウスJ1株のNhlEと21%、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095株のP16と23%であった。
実施例14:ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット及び下流遺伝子ORF3の発現プラスミドの構築
pET−26b(+)−βα及びpET−28a(+)−βαプラスミドを制限酵素HindIIIにて消化し、脱リン酸化反応を行い、フェノールクロロホルムで抽出することにより、脱リン酸化処理を行った。この消化産物を1重量%アガロース電気泳動に供し、約6.1KbのDNA断片を常法により抽出した。このDNA断片には、pETベクター及びジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット及びαサブユニットの60番目のアミノ酸に位置するHindIII制限酵素部位までが含まれている。
次に、pUC118−Q6Hin2.3プラスミドを制限酵素HindIIIにより消化し、1重量%アガロース電気泳動に供し、約2.3kbのインサートDNAを抽出した。このインサートを、先に抽出した断片とライゲーションを行い、大腸菌JM109株を形質転換し、カナマイシン耐性で選択した形質転換体より、インサートDNAを含むプラスミドを選出した。インサートの向きをPCRにより確認することにより、pET−26b(+)及びpET−28a(+)ベクターにジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニット及び下流遺伝子ORF3と更に下流域が含まれたプラスミドを取得した。こうして完成したプラスミドを、pET−26b(+)−βα12及びpET−28a(+)−βα12と以下呼称する。
次に、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット、βサブユニット及び下流遺伝子ORF3の翻訳終止コドンまでを導入し、3種類の蛋白質が共発現するような発現プラスミドを構築した。先に構築したプラスミドpET−26b(+)−βα12を制限酵素NdeI及びBglIIで消化し、1.5重量%アガロースゲル電気泳動に供し、αサブユニット、βサブユニット及び下流遺伝子ORF3の翻訳終止コドンまでを含む1.7kb遺伝子断片を常法により抽出した。同時に、発現ベクターpET−26b(+)及びpET−28a(+)を、NdeI及びBamHIで消化し、1重量%アガロースゲル電気泳動に供し、5.3kbのベクター部分の遺伝子断片を常法により抽出した。これらのベクターを先に抽出したαサブユニット、βサブユニット及び下流遺伝子ORF3の翻訳終止コドンまでを含む1.7kb遺伝子断片をインサートとして、常法に従いライゲーション反応を行った。この反応の際、BglII制限酵素で消化した末端とBamHI制限酵素で消化した末端が接着される。ライゲーション反応後の溶液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、カナマイシン耐性で選択した形質転換体よりプラスミドDNAを抽出し、インサートが導入されたプラスミドを選出した。以上より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット、βサブユニット部分及び下流遺伝子ORF3がインサートとして導入され、3種類の蛋白質が共発現するような発現プラスミドを取得した。これらの目的のプラスミドを、pET−26b(+)−βα1及びpET−28a(+)−βα1と以下呼称する。
実施例15:大腸菌にて下流遺伝子を共発現させたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼ活性
発現プラスミドpET−26b(+)−βα及びpET−28a(+)−βαを用いてNovagene社の大腸菌BL21(DE3)LysE株を形質転換し、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット及びαサブユニットの蛋白質をT7プロモーターにより共発現させた。同様に、pET−26b(+)−βα1及びpET−28a(+)−βα1を用いてNovagene社の大腸菌BL21(DE3)LysE株を形質転換し、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼβサブユニット、αサブユニット及び下流遺伝子ORF3の蛋白質をT7プロモーターにより共発現させた。コントロールとして、発現ベクターpET−26b(+)及びpET−28a(+)を用いてNovagene社の大腸菌BL21(DE3)LysE株を形質転換した形質転換体を用いた。
各々の発現プラスミドを用いて、Novagene社製の大腸菌BL21(DE3)LysE株のコンピテントセルへの形質転換を行い、30μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天培地(0.5重量%バクト酵母エキストラクト、1重量%バクトトリプトン、0.5重量% NaCl、2.0重量% Agar;pH7.5)上に形質転換処理後の菌液を撒き、30℃で一晩培養し、カナマイシン耐性による選択を行った。この形質転換体を30μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地2mlに植菌し、30℃で一晩200rpmにて振とう培養を行った。前培養液を20μg/mlの塩化コバルト六水和物(CoCl2・6H2O)及び30μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地10mlに2重量%植菌し、30℃で約3時間、200rpmにてOD600=0.5になるまで振とう培養を行い、0.1mMのIPTGを添加し、T7プロモーターからの発現を誘導させ、更に約4時間200rpmにて振とう培養を行い、菌体を回収した。
このようにして得られたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株由来のニトリルヒドラターゼを発現させた大腸菌の菌体を、20mMのTris−HCl及び15mMのNaClを含むTBS緩衝液(pH7.5)に再懸濁し、OD=0.2になるよう希釈し、終濃度0.2重量%アクリロニトリル溶液の反応液を作成した。27℃にて攪拌しながら反応を行い、10分後、30分後に100μLの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。酵素活性の単位(ユニット)は、1分間に1μmolのアクリロニトリルをアクリルアミドに変換する活性を1ユニット(以下、Uと記す)と定めて、湿菌体重量当たりの水和活性(U/mg)を表9に示した。
Figure 0004108095
この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼαサブユニット及びβサブユニットのみを発現させた場合と、下流遺伝子ORF3を共発現させた場合を比較すると、下流遺伝子ORF3の存在によりニトリルヒドラターゼ活性が著しく増加したことが分かる。ORF3がジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼの酵素活性を著しく上昇させる機能を有することが明らかになった。
実施例16:大腸菌にて発現させたジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼの熱安定性
活性の熱安定性を調べるために、発現ベクターpET26b(+)−βαを持ち、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼを発現させた大腸菌液(20mMのTris−HCl及び15mMのNaClを含むTBS緩衝液(pH7.5))を30分間30,65,70度での保温処理を行った。保温処理後、氷上にて冷却し、27度に保温し温度を一定にした後、反応温度27度にてニトリルヒドラターゼ活性を測定した。ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼを発現させた大腸菌の菌をOD=0.2の濁度に懸濁し、終濃度0.5重量%アクリロニトリル溶液の反応液を作成し、27℃にて攪拌しながら反応を開始し、30分後に10液量%の1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。30度での保温処理を行った場合の活性を基準(100%)とした換算値として表10に示す。
Figure 0004108095
この結果より、ジオバチルス・サーモグルコシデシウスQ−6株のニトリルヒドラターゼを発現させた大腸菌におけるニトリルヒドラターゼの酵素活性は、70度という高温下においても約8割の活性を保持することができ、大腸菌で発現させた場合においても高い耐熱性を有しており、工業的にも大変有用な酵素であるといえる。
本発明の組成物は、熱や高濃度のニトリル、アミド化合物に対して高い安定性を示し、ニトリル化合物を対応するアミド化合物に効率良く変換する効果を有する。本発明の組成物は、高温、および高ニトリル化合物濃度や高アミド化合物濃度下の反応においても、ニトリル化合物を対応するアミド化合物に変換する分野で好適に利用できる。

Claims (20)

  1. 下記の(A)または(B)のいずれかのDNA。
    (A)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列をコードするαサブユニット遺伝子を含有する塩基配列と、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列をコードするβサブユニット遺伝子を含有する塩基配列との組み合わせからなることを特徴とするDNA。
    (B)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットのいずれか一方、または両方のそれぞれにおいて、1若しくは複数個のアミノ酸に置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており、その改変、または改変されていないαサブユニットと、改変、または改変されていないβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  2. 下記の(C)または(D)のいずれかのDNA。
    (C)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNAと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNAとの組合わせからなることを特徴とするDNA。
    (D)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。但し、上記(C)となる場合を除く。
  3. 配列表の配列番号:4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNA,またはそのアミノ酸配列中の1若しくは複数個のアミノ酸に置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており且つニトリルヒドラターゼの活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のDNA。
  4. 下記の理化学的性質を有することを特徴とする蛋白質をコードするDNAであって、
    (a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
    (b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n-バレロニトリル、n-ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
    (c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS-ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである。
    サブユニットα 分子量 25000±2000
    サブユニットβ 分子量 28000±2000
    (d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
    (e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
    (f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
    配列表の配列番号:4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNA,またはそのアミノ酸配列中の1若しくは複数個のアミノ酸に置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており且つニトリルヒドラターゼの活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする、上記のDNA。
  5. 配列表の配列番号:3の塩基配列の1325−1663位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズし且つニトリルヒドラターゼ活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のDNA。
  6. 下記の理化学的性質を有することを特徴とする蛋白質をコードするDNAであって、
    (a)ニトリルヒドラターゼ活性を有する。
    (b)基質特異性:アクリロニトリル、アジポニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリル、n-バレロニトリル、n-ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサンニトリルを基質として、活性を示す。
    (c)分子量:少なくとも下記の2種類のサブユニットから構成されるタンパク質であって、各サブユニットの還元型SDS-ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が以下の通りである。
    サブユニットα 分子量 25000±2000
    サブユニットβ 分子量 28000±2000
    (d)熱安定性:水液中の酵素を70℃の温度で30分加熱後に、加熱前の35%以上の活性を残存する。
    (e)6重量%のアクリロニトリルを基質としても、それ以下の基質濃度の時に比べ、活性が減少しない。
    (f)35重量%のアクリルアミド水溶液中でもアクリロニトリルを基質とした活性を有する。
    配列表の配列番号:3の塩基配列の1325−1663位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズし且つニトリルヒドラターゼ活性化に関与することを特徴とする蛋白質をコードするDNAのいずれかのDNAが、さらに組合されていることを特徴とする、上記のDNA。
  7. 配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼのαサブユニット遺伝子を含有するDNA。
  8. 配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼのβサブユニット遺伝子を含有するDNA。
  9. 配列表の配列番号:4記載のアミノ酸配列をコードするニトリルヒドラターゼの活性化に関与することを特徴とする遺伝子を含有するDNA。
  10. 該DNAが、ジオバチルス(Geobacillus)属由来である請求項1〜9の何れかに記載のDNA。
  11. 該DNAが、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)種由来である請求項1〜9の何れかに記載のDNA。
  12. 該DNAが、ジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius) Q―6株(FERM BP−08658)由来である請求項1〜9の何れかに記載のDNA。
  13. 請求項1〜12の何れかに記載のDNAを組み込んだ組み換えベクター。
  14. 請求項1〜12の何れかに記載のDNAにより形質転換された微生物、またはジオバチルス・サーモグルコシデシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)Q-6株(FERM BP−08658)およびその変異体のいずれかの微生物。
  15. 請求項1〜12の何れかに記載のDNAにより形質転換された微生物を、培地において培養することを特徴とする、該蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物の製造方法。
  16. 請求項15に記載の製造方法により培養された微生物から取得された、該蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物。
  17. 下記の(A)または(B)のいずれかの蛋白質。
    (A)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットとを含有することを特徴とする蛋白質。
    (B)配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列を含有するαサブユニットと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列を含有するβサブユニットのいずれか一方、または両方のそれぞれにおいて、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠損、付加、翻訳後修飾がなされており、その改変、または改変されていないαサブユニットと、改変、または改変されていないβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質。
  18. 下記の(C)または(D)のいずれかの蛋白質。
    (C)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNAがコードするβサブユニットとを含有することを特徴とする蛋白質。
    (D)配列表の配列番号:3の塩基配列の695−1312位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするαサブユニットと、配列表の配列番号:3の塩基配列の1−681位の配列を含むDNA、またはそのDNAに対してストリンジェントな条件下にてハイブリダイズするDNAのうちのいずれか一方のDNAがコードするβサブユニットとを含有し、且つニトリルヒドラターゼ活性を有する蛋白質。但し、上記(C)となる場合を除く。
  19. 少なくとも、配列表の配列番号:1記載のアミノ酸配列であるαサブユニットを含有するポリペプチドまたは翻訳後修飾されたものと、配列表の配列番号:2記載のアミノ酸配列であるβサブユニットを含有するポリペプチドまたは翻訳後修飾されたもののいずれか一方、または両方を含有することを特徴とする蛋白質。
  20. 請求項1から請求項12のいずれかに記載のDNAにより形質転換された微生物を、培地において培養して得た蛋白質、または該蛋白質を含有する菌体処理物にニトリル化合物を作用させ該ニトリル化合物から誘導されるアミド化合物を取得することを特徴とするアミド化合物の製造方法。
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