以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る微生物は、アミド化合物耐性ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス(Rhodococcus)属に属する新規微生物である。
ロドコッカス属に属する微生物は、放線菌目(Actinomycetales)ノカルジア科(Nocardiaceae)に属する放線菌類である。本発明に係る微生物としては、アミド化合物耐性ニトリルヒドラターゼを有するロドコッカス属に属する微生物であればよく、例えば、ロドコッカス・ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)MS-38株(以下、「MS-38株」という)が挙げられる。なお上記微生物において、自然的又は人工的手段によって変異させて得られ、且つアミド化合物耐性ニトリルヒドラターゼ活性を有する変異株は、本発明に含まれる。
本発明に係る微生物の単離方法として、栄養培地や選択培地を使用し集積培養を行うことができる。培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類、更に微量の有機栄養物などを適当に含有するものであれば天然培地又は合成培地のいずれを用いてもよい。
また、イソバレロニトリルなどのニトリル類またはプロピオンアミドなどのアミド化合物を少量培地に添加することにより、ニトリル化合物からアミド化合物生成能力の高い微生物を得ることができる。
実際には、岐阜県内の土壌サンプルを、選択培地(選択培地組成:1%フルクトース、1.3%カザミノ酸、0.3%ポリペプトン、0.2%酵母エキス、1%グルタミン酸ナトリウム、0.05%MgSO4・7H2O、0.2%KH2PO4及び0.25%イソバレロニトリル) において集積培養を行うことで、MS-38株を単離できた。
以下に単離したMS-38株の分類学的性質を説明する。
〔分類学的性質〕
MS-38株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に平成16年4月16日付で受領されており、その受領番号はFERM AP-20007である。
MS-38株について、株式会社エヌシーアイエムビー・ジャパン(NCIMB Japan Co., LTD)に委託して、MicroSeq 500 16S rDNA Bacterial Sequencing Kit (Applied Biosystems, CA, USA)を使用して、16S rRNA遺伝子の塩基配列(500bp)を決定した。決定されたMS-38株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す。
さらに16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹を作製し、系統分析を行った。まず、得られた16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いて相同性検索を行い、相同率上位10株を決定した。更に検索された上位10株とMS−38株の16S rRNA遺伝子を用いて近接結合法により分子系統樹を作製し、MS-38株の近縁種及び帰属分類の検討を行った。相同性検索及び系統樹の作製には、MicroSeq Microbial Identification System Software V.4.1を使用した。また、相同性検索を行う際のデータベースとして、MicroSeq Bacterial 500 Library v.0023(Applied Biosystems,CA,USA)を使用した。
相同性解析の結果、MS-38株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列は相同率96.02%でロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous)の16S rRNA遺伝子に対し最も高い相同性を示した。分子系統樹上でも、MS-38株の16S rRNA遺伝子は、ロドコッカス・ロドクロウスの16S rRNA遺伝子とクラスターを形成し、且つロドコッカス属の16S rRNA遺伝子が形成するクラスター内に含まれた。
さらに、MS-38株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に類似する塩基配列をGenBank(GenBank/EMBL/DDBJ 国際DNA配列データベース)から検索するために、BLAST(Altschul, S. F.ら, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997)による相同性解析を行った。その結果、MS-38株の16S rRNA遺伝子塩基配列とロドコッカス・ピリジニボランスPDB9株の16S rRNA遺伝子塩基配列は、100%一致した。
上記特許文献1には、ロドコッカス・ピリジニボランスPDB9株がニトリルヒドラターゼ活性を有していないことが記載されている。一方、MS-38株は、アミド化合物耐性ニトリルヒドラターゼ活性を有する。従って、MS-38株とロドコッカス・ピリジニボランスPDB9株とは、16S rRNA遺伝子の塩基配列が一致するものの、MS-38株は、新規なロドコッカス・ピリジニボランス菌株であると判明した。
一方、MS-38株を含む本発明に係る微生物の培養方法は、当該微生物が生育できるものであればいずれのものであってよい。
培養に使用する培地は、本発明に係る微生物が生育することができれば、天然培地又は合成培地のいずれであってもよい。また、培地は、本発明に係る微生物が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有することができる。炭素源としては、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース及びデンプン等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、エタノール及びプロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物、酵母エキス、ペプトン、肉エキス並びにコーンスティープリカー等が挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム、塩化第二鉄及び塩化コバルト等が挙げられる。
さらに、ニトリルヒドラターゼ誘導剤を培地に添加することで、本発明に係る微生物が生産するニトリルヒドラターゼの酵素量を高めることができる。ニトリルヒドラターゼ誘導剤としては、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル及びベンゾニトリル等のニトリル化合物、並びに、尿素、アセトアミド及びプロピオンアミド等のアミド化合物が挙げられる。
本発明に係る微生物の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、20℃〜40℃、好ましくは25℃〜30℃で行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行い、pH5.0〜9.0、好ましくはpH6.5〜7.5に設定すればよい。
本発明に係る微生物は、アミド化合物耐性ニトリルヒドラターゼ活性を有する。ニトリルヒドラターゼは、以下の反応式に示すように、ニトリル化合物のニトリル基に作用し、対応するアミド化合物に変換する水和反応を触媒する酵素である。
(ここで、Rは、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは置換又は無置換の飽和又は不飽和複素環基を意味する)
従って、ここで、「ニトリルヒドラターゼ活性」とは、ニトリル化合物のニトリル基に作用して対応するアミド化合物に変換させる活性を意味する。本発明に係る微生物が有するニトリルヒドラターゼ活性の測定方法としては、例えば、ニトリル化合物の1つであるアクリロニトリルを用いる方法が挙げられる。この方法では、ニトリルヒドラターゼ活性の結果としてアクリロニトリルに対応するアミド化合物、アクリルアミドが得られる。従って、本発明に係る微生物をアクリロニトリルに接触させ、生成するアクリルアミドの量の増加を定量することで、ニトリルヒドラターゼ活性を測定することができる。あるいは、アクリロニトリルの消費量を定量することによってもニトリルヒドラターゼ活性を測定することができる。
また、本発明に係る微生物が有するニトリルヒドラターゼは、さらにアミド化合物耐性としての性質を有する。ここで、「アミド化合物耐性」とは、他の微生物由来のニトリルヒドラターゼと比較して、アミド化合物存在下でニトリルヒドラターゼ活性を維持することができることを意味する。本発明に係る微生物が有するニトリルヒドラターゼが耐性であるアミド化合物しては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の化学式で表されるアミド化合物:
(ここで、Rは、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは、置換又は無置換の飽和又は不飽和複素環基を意味する)
が挙げられる。特に、式中、RがCH
2=CHであるアクリルアミドが好ましい。
アミド化合物耐性は、例えば、本発明に係る微生物の培養物又は本発明に係る微生物から単離したニトリルヒドラターゼを、アクリルアミド等のアミド化合物(例えば、30〜50%等の高濃度)存在下で、基質であるアクリロニトリル等のニトリル化合物の消費量又は消費速度を分析することによって評価することできる。そして、他の微生物由来のニトリルヒドラターゼと比較して、例えば、消費量又は消費速度が1.1倍を超えた場合に、アミド化合物耐性であると評価することができる。
さらに、本発明に係る新規微生物MS-38株から、ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を同定した。その結果、αサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列は、配列番号1に示される塩基配列であった。一方、βサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列は、配列番号3に示される塩基配列であった。また、αサブユニット及びβサブユニットのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2及び4に示されるアミノ酸配列であった。
よって、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子である。
(a) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ニトリルヒドラターゼαサブユニット機能を有するタンパク質。
(a)に記載のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質をコードする遺伝子(以下、「ニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子」という)である。
ニトリルヒドラターゼは、αサブユニットタンパク質(以下、「ニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質」という)とβサブユニットタンパク質(以下、「ニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質」という)とを含む複合体(以下、「ニトリルヒドラターゼタンパク質」という場合がある)である。
本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子は、上述した本発明に係る微生物であるMS-38株から単離することができる。例えば、MS-38株由来の染色体DNAを鋳型として、他の微生物等に由来する既知のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子において相同性が高い領域に対応するアミノ酸配列に基づいて設計したプライマーを用いたPCRにより、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を単離することができる。あるいは、得られたPCR産物が、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子の一部である場合には、MS-38株由来の染色体DNAを用いて、染色体DNA断片を組み込んだ組換えプラスミド(組換えベクター)などの組換え体DNAライブラリーを作製する。組換え体DNAを大腸菌などに導入し、形質転換体を作製する。次いで、形質転換体に対して上述したPCR産物をプローブとして用いるコロニーハイブリダイゼーション法により、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を含む形質転換体を選別する。そして、選別した形質転換体から本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を単離する。
本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子の塩基配列としては、遺伝コードの縮重の点から限定されるものではないが、例えば、配列番号1に記載の塩基配列が挙げられる。
本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子と他の微生物由来のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とのアミノ酸レベルでの相同性分析の結果を表2に示す。相同性分析は、Genetyx ver6(株式会社 ゼネティイクス)を用いて行われる。
なお、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous)J1(H型)、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(L型)、ロドコッカス・ロドクロウスM8(H型)、シュードノカルジア・サーモフィラ(Pseudonocardia Thermophila)及びバシラス・エスピー(Bacillus sp.)RAPc8由来のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子の塩基配列及びその対応するアミノ酸配列は、それぞれ以下の表1に示す登録番号で登録されている。
表2に示すように、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子は、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(H型)やロドコッカス・ロドクロウスM8(H型)由来の既知のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とアミノ酸配列レベルで90%以上の相同性を有している。
一方、ニトリルヒドラターゼは、活性中心に補欠分子として非ヘム鉄原子又は非コリン核コバルト原子を有していることが既に知られている。非ヘム鉄原子を有するニトリルヒドラターゼは、鉄型ニトリルヒドラターゼと呼ばれ、また非コリン核コバルト原子を有するニトリルヒドラターゼは、コバルト型ニトリルヒドラターゼと呼ばれている。コバルト型ニトリルヒドラターゼは、システインクラスター(Cys Thr Leu Cys Ser Cys)と呼ばれる活性部位を有する(Eur. J. Biochem. 271,429-438 (2004))。本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質のアミノ酸配列を示す配列番号2においては、当該システインクラスターが102-107番目に認められる。
以上から、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子は、新規なニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子であると特定できる。
(b)に記載のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなり、且つニトリルヒドラターゼαサブユニット機能を有するタンパク質をコードする遺伝子である。なお「ニトリルヒドラターゼαサブユニット機能」とは、ニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質と結合し、複合体を形成する機能を意味する。本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子がコードするタンパク質がニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質と複合体を形成するか否かの確認は、例えば本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニットをコードする遺伝子(以下、「ニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子」という)とを同一の宿主に発現させ、免疫沈降やウエスタンブロット分析等により当該複合体に対応するバンドが検出されることで確認できる。さらに、発現させたニトリルヒドラターゼタンパク質がニトリルヒドラターゼ活性を有するか否かは、当該ニトリルヒドラターゼタンパク質を、例えばニトリル化合物の1つであるアクリロニトリルと接触させ、生成するアクリルアミドの量の増加を定量することで、ニトリルヒドラターゼ活性を測定することができる。あるいは、アクリロニトリルの消費量を定量することによってもニトリルヒドラターゼ活性を測定することができる。ここで「接触」した状態としては、発現させたニトリルヒドラターゼタンパク質が酵素として機能し、且つ当該ニトリルヒドラターゼタンパク質と基質であるニトリル化合物とが酵素反応する状態であればよい。
(b)に記載のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子は、部位特異的突然変異誘発法等によって上記(a)に記載のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子の変異型であって、変異前と同等の機能を有するものであってよい。
なお、(a)に記載のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子に変異を導入する方法としては、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法が挙げられる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
一方、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質をコードする遺伝子は、以下の(c)又は(d)のタンパク質をコードする遺伝子である。
(c) 配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(d) 配列番号4に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ニトリルヒドラターゼβサブユニット機能を有するタンパク質。
(c)に記載のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質をコードするニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子である。
本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子は、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子と同様に、本発明に係る微生物MS-38株から単離することができる。単離方法は、他の微生物等に由来する既知のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子において相同性が高い領域に対応するアミノ酸配列に基づいて設計したプライマーを用いる以外には、上述したニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を単離する方法と同様である。
本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子の塩基配列としては、遺伝コードの縮重の点から限定されるものではないが、例えば、配列番号3に記載の塩基配列が挙げられる。
本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子と他の微生物由来のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とのアミノ酸レベルでの相同性分析の結果を表4に示す。相同性分析は、Genetyx ver6(株式会社 ゼネティイクス)を用いて行われる。
なお、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(H型)、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(L型)、ロドコッカス・ロドクロウスM8(H型)、シュードノカルジア・サーモフィラ及びバシラス・エスピー(Bacillus sp.)RAPc8由来のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、それぞれ以下の表3に示す登録番号で登録されている。
表4に示すように、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子は、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(H型)やロドコッカス・ロドクロウスM8(H型)由来の既知のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とアミノ酸配列レベルで90%以上の相同性を有している。
以上から、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子は、新規なニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子であると特定できる。
(d)に記載のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4に記載のアミノ酸配列において1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなり、且つニトリルヒドラターゼβサブユニット機能を有するタンパク質をコードする遺伝子である。なお「ニトリルヒドラターゼβサブユニット機能」とは、ニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質と結合し、複合体を形成する機能を意味する。
本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子がコードするタンパク質がニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質と複合体を形成するか否か、あるいは発現させたニトリルヒドラターゼタンパク質がニトリルヒドラターゼ活性を有するか否かは、上記の本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子の場合と同様の方法で確認できる。
(d)に記載のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子は、部位特異的突然変異誘発法等によって上記(c)に記載のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子の変異型であって、変異前と同等の機能を有するものであってよい。
なお、(c)に記載のニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子に変異を導入する方法としては、上記(a)に記載のニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子に変異を導入する方法と同様であってよい。
なお、以下では本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とを合わせて、「本発明に係る遺伝子」という場合がある。
一旦、本発明に係る遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたクローンを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって、本発明に係る遺伝子を得ることができる。
本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質は、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子によりコードされるタンパク質である。例えば、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を大腸菌等に由来するベクターに組込み、次に得られた組換えプラスミド(組換えベクター)で大腸菌を形質転換する。その後、大腸菌内で合成されたタンパク質を抽出することで、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質を得ることができる。一方、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質は、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子によりコードされるタンパク質である。本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質の場合と同様の方法に従って、本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質を得ることができる。
一方、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質は、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質とニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質とを含むタンパク質である。本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質は、上述した本発明に係る微生物であるMS-38株に由来する。例えば、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とを大腸菌等に由来するベクターに組込む。本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とは、同じ又は異なるベクターに組込んでもよい。次に、得られた組換えプラスミド(組換えベクター)を大腸菌に形質転換する。なお、異なるベクターに本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とが別々に組み込まれた場合には、得られた別々の組換えプラスミド(組換えベクター)を同一の大腸菌に形質転換する。その後、大腸菌内で合成されたタンパク質を抽出することで、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質とニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質とを含む複合体、すなわち、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を得ることができる。なお、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質は、アミド化合物耐性という特性を有する。アミド化合物耐性の評価方法は、上記で本発明に係る微生物において説明した方法と同様である。
本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)は、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子及び/又は本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子を含有する組換えプラスミド(組換えベクター)である。適当なベクターに本発明に係る遺伝子を挿入することにより、本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)を得ることができる。本発明に係るDNAを挿入するためのベクターは、宿主中に導入可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA及び人工染色体DNAなどが挙げられる。また該ベクター自体に複製能がない場合には、宿主の染色体に挿入することなどによって複製可能となるDNA断片であってもよい。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET30bなどのpET系、pBR322およびpBR325などのpBR系、pUC118、pUC119、pUC18およびpUC19などのpUC系、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13などのYEp系、YCp50などのYCp系等)などが挙げられる。またファージDNAとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、カリフラワーモザイクウイルスなどの植物ウイルス、またはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
また、本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)を導入する宿主が大腸菌である場合には、大腸菌において発現効率の高いベクター、例えば、trcプロモーターを有する発現ベクターpKK233-2(アマシャムバイオサイエンス社製)又はpTrc99A(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いることが好ましい。
ベクターに本発明に係る遺伝子を挿入するには、まず適当な制限酵素で本発明に係る遺伝子のcDNAを切断し、次いで適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が用いられる。またベクターと本発明に係る遺伝子のcDNAのそれぞれ一部に相同な領域を持たせることにより、PCRなどを用いたin vitro法または酵母などを用いたin vivo法によって両者を連結する方法であってもよい。
また本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)は、本発明に係る遺伝子の他に、例えばプロモーター、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル及びリボソーム結合配列(SD配列)などの遺伝子制御配列並びに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、限定されるものでないが、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子及びカナマイシン耐性遺伝子が挙げられる。遺伝子制御配列や選択マーカーの挿入方法は、ベクターに本発明に係る遺伝子を導入する方法と同様であってよく、遺伝子制御配列及び選択マーカーが宿主内で機能しうるようにベクターに連結する。
なお、本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)としては、例えば、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とを大腸菌ベクターpUC18に組込むことで作製された、組換え体プラスミドpMS38が挙げられる。組換え体プラスミドpMS38は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に平成16年4月16日付で受領されており、その受領番号はFERM AP-20006である。
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を含有する組換えプラスミド(組換えベクター)と本発明に係るニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子を含有する組換えプラスミド(組換えベクター)とを同一の宿主中に導入することにより得ることができる。また、本発明に係るニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子とニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子とを含有する組換えプラスミド(組換えベクター)を宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明に係る遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではないが、細菌が挙げられる。細菌としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア(Escherichia)属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス(Bacillus)属、並びに受託番号ATCC12674、ATCC17895及びATCC19140として特定されるロドコッカス・ロドクロウスの菌株等のロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌が挙げられる。
細菌への本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)の導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。
本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)を、上記細菌宿主に導入するのみならず、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、COS細胞及びチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞、あるいはアブラナ科等に属する植物などに導入して形質転換体を得ることもできる。
酵母への本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)の導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。また、YIp系などのベクターあるいは染色体中の任意の領域と相同なDNA配列を用いた染色体への置換・挿入型の酵母の形質転換法であってもよい。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、CHO細胞、マウスL細胞などが用いられる。動物細胞への本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)の導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法およびエレクトロポレーション法等が挙げられる。
植物を宿主とする場合は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)又は植物培養細胞などが用いられる。植物への本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法およびPEG法等が挙げられる。
本発明に係る遺伝子が宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法及びノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、本発明に係る遺伝子に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。その後は、PCR産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そしてPCR産物を検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相にPCR産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等によりPCR産物を確認する方法も採用してもよい。
一方、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法においては、本発明に係る微生物又は形質転換体を培養し、培養物中からニトリルヒドラターゼタンパク質を回収することにより、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を得ることができる。ここで「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法において、本発明に係る微生物を培養する方法は、上記で示した方法と同様である。一方、本発明に係る形質転換体を培養する方法は、本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)を導入した宿主の種類に応じて、適宜選択することができる。
細菌や酵母等の微生物を宿主として得られた本発明に係る形質転換体では、培養に使用する培地は、本発明に係る形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地又は合成培地のいずれであってもよい。また、培地は、本発明に係る形質転換体が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有することができる。炭素源としては、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース及びデンプン等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類が挙げられる。また、窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス及びコーンスティープリカー等が挙げられる。さらに、無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
また、本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)が有する選択マーカーに応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性プロモーターを有する本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)で形質転換した宿主を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)で誘導可能なプロモーターを有する本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)で形質転換した微生物を培養する際には、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを有する本発明に係る組換えプラスミド(組換えベクター)で形質転換した微生物を培養する際には、IAA等を培地に添加することができる。
さらに、ニトリルヒドラターゼ誘導剤を培地に添加することで、本発明に係る形質転換体が生産するニトリルヒドラターゼの酵素量を高めることができる。ニトリルヒドラターゼ誘導剤としては、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル及びベンゾニトリル等のニトリル化合物、並びに、尿素、アセトアミド及びプロピオンアミド等のアミド化合物が挙げられる。
細菌や酵母等の微生物を宿主として得られた本発明に係る形質転換体の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、20℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃で行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行い、pH5.0〜9.0、好ましくはpH6.5〜7.5に設定すればよい。
一方、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法において、培養物からのニトリルヒドラターゼタンパク質の回収は、まず、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素を用いた細胞溶解処理、超音波破砕処理又は磨砕処理等により菌体又は細胞を破壊する。次いで、濾過又は遠心分離等を用いて不溶物を除去し、粗タンパク質溶液を得る。得られた粗タンパク質溶液を、塩析、各種クロマトグラフィー(例えばゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等に単独で又は適宜組み合わせて適用することで、単離・精製することができる。
また、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、培養上清を得る。その後、タンパク質の単離・精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて、得られた培養上清に適用することにより、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を単離・精製することができる。
本発明に係るアミド化合物の製造方法においては、本発明に係る微生物又は形質転換体の培養物又はその処理物をニトリル化合物と接触させることで、培養物又はその処理物中に存在する本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の作用により該ニトリル化合物から変換したアミド化合物を得ることができる。本発明に係る微生物又は形質転換体の培養方法に関しては、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法において上記で説明した方法と同様である。また、「培養物」は、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法において上記で説明した定義と同様である。一方、「処理物」とは、培養物を、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を単離・精製するように1以上の処理工程に供して得られたものを意味する。処理物としては、例えば、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の製造方法により得られたものが挙げられる。
本発明に係るアミド化合物の製造方法においては、培養物又はその処理物中の本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を適当な担体に保持し、固定化酵素としてニトリル化合物に接触させてもよい。
本発明に係るアミド化合物の製造方法において、基質として使用するニトリル化合物は、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質が当該ニトリル化合物のニトリル基に作用して対応するアミド化合物に変換させることができるものであればいずれのものでもよい。また、生成されるアミド化合物は、基質として使用するニトリル化合物に対応するアミド化合物である。基質として使用するニトリル化合物としては、限定されるものではないが、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル及びアジポニトリル等の脂肪族飽和ニトリル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等の脂肪族不飽和ニトリル、ベンゾニトリル、フタロジニトリル等の芳香族ニトリル、並びに3-シアノピリジン、2-シアノピリジン等の複素環式ニトリルが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
本発明に係るアミド化合物の製造方法では、培養物又はその処理物をニトリル化合物と、アミド化合物が生成されるように接触させる。ここで「接触」した状態としては、培養物又はその処理物中の本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質が酵素として機能し、且つ当該ニトリルヒドラターゼタンパク質とニトリル化合物とが酵素反応する状態であればよい。本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質が酵素として機能する条件は、例えば、pH5.0〜9.0、好ましくはpH6.5〜7.5、温度は0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃であることに起因して、本条件下で、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質とニトリル化合物とを接触させることが好ましい。
本発明に係るアミド化合物の製造方法においては、反応液中のニトリル化合物濃度としては、特に限定されないが、例えば、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2.0重量%が挙げられる。上記ニトリル化合物濃度に対して接触させる培養物又はその処理物中の本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質濃度は、酵素反応が生じる濃度であれば、特に限定されない。また、酵素反応は、基質と酵素の濃度にも依存することから、基質であるニトリル化合物と酵素である本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質の濃度を最適化することで、酵素反応を効率的に進めることができる。
本発明に係るアミド化合物の製造方法において、アミド化合物の回収は、培養物又はその処理物とニトリル化合物との混合物が菌体又は細胞を含む場合には、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、次いで、濾過、濃縮、各種クロマトグラフィー、抽出、活性炭処理及び蒸留などの通常の方法に単独で又は適宜組み合わせて適用することで、回収・精製することができる。あるいは、混合物を、濾過、濃縮、各種クロマトグラフィー、抽出、活性炭処理及び蒸留などの通常の方法に単独で又は適宜組み合わせて直接適用することで、回収・精製してもよい。
以上のように、本発明に係るアミド化合物の製造方法によれば、ニトリル化合物からアミド化合物を効率よく製造することができる。また、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質はアミド化合物に耐性であり、アミド化合物存在下で失活することなく活性を維持することができる。従って、本発明に係るアミド化合物の製造方法においては、生成するアミド化合物によって本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質は、失活することなく活性を維持することができる。
さらに、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質が有するアミド化合物耐性という性質により、アミド化合物の製造において、他のニトリルヒドラターゼタンパク質を触媒として使用する場合と比較して、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質を触媒として使用する場合には、酵素量を少なくすることができる。このように、アミド化合物の工業的生産において、本発明に係るニトリルヒドラターゼタンパク質は、コストの観点から有用である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 MS-38株のニトリルヒドラターゼ活性
(1) 培養
MS-38株を以下の表5に示す条件下で培養した。
菌株を、白金耳により上記前培養培地10mlに植菌し、30℃で3日間振盪培養した。3日間の前培養後、本培養(100ml)を行うために、前培養した培養液を上記本培養培地に対して1%植菌し、30℃で3日間振盪培養した。次いで、本培養3日目に菌体を含む培養液のニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。
(2) ニトリルヒドラターゼ活性の測定
菌体を含む培養液のニトリルヒドラターゼ活性の測定は、以下の方法に従って行った。
まず、本培養後に得られた培養液1mlと50mMリン酸緩衝液(pH7.7)4mlとを混合し、さらに5.0%(w/v)のアクリロニトリルを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.7)5mlを混合液に加えて、10℃で10分間反応させた。次いで、菌体を濾別して、ガスクロマトグラフィーを用いて生成したアクリルアミドの量を定量するし、アクリルアミドの量からニトリルヒドラターゼ活性を換算した。なお、分析条件は、以下の表6に示す通りであった。
(3) 結果
測定の結果、3.4U/ODのニトリルヒドラターゼ活性が示された。
以上より、MS-38株はニトリルヒドラターゼ活性を有することが認められた。
〔実施例2〕 MS-38株が有するニトリルヒドラターゼのアクリルアミド耐性
(1) 培養
MS-38株及びロドコッカス・ロドクロウスJ-1株(以下、「J-1株」という)(対照)を、実施例1と同様の条件下で培養した。一方、ロドコッカス・ロドクロウスM33菌(以下、「M33菌」という)(対照)は、以下の表7に示す条件下で培養した。なお、J-1株は、既に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP-1478として寄託されている。また、M33菌は、既にロシア菌株センターIBFMに受託番号VKMAc-1515Dとして寄託されている。そこで、J-1株及びM33菌は、分譲により入手した。
本培養後に得られたMS-38株、J-1株及びM33菌のそれぞれの菌体を、50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で2回洗浄し、保存菌体液とした。次いで、保存菌体液のニトリルヒドラターゼ活性を実施例1と同様の方法により測定し、確認した後、保存菌体液を以下の反応に用いた。
(2) ニトリルヒドラターゼ反応
以下の表8に示す組成に反応液を調製し、30℃で攪拌しながら反応させた。なお、反応に用いるMS-38株、J-1株及びM33菌の各保存菌液中の菌量は、実施例1と同様の方法で測定した活性の測定結果に従い、同一の酵素活性単位(U)量となるように調製した。
反応開始前(0時間)、0.5時間後及び24時間後にそれぞれ反応液1.5mlをサンプリングし、0.22μmのフィルターを用いて濾過を行った。得られた濾液を、ガスクロマトグラフィーに供した。分析条件は、実施例1の表6に示すアクリルアミドの定量の分析条件と同様であった。
分析の結果、濾液中に残存するアクリロニトリルの割合(%)を表9に示す。
以上のように、MS-38株は、対照のJ-1株やM33菌より残存するアクリロニトリルが少ないことから、従来のニトリルヒドラターゼ生産菌が有するニトリルヒドラターゼに比べて、MS-38株が有するニトリルヒドラターゼは、高濃度のアクリルアミド存在下でも活性が維持され、アクリルアミドに対して耐性が高いことが判った。
〔実施例3〕 MS-38株からのニトリルヒドラターゼ遺伝子の単離
(1) MS-38株由来の染色体DNAの調製
MS-38株を、MYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、1%グルコース、0.2%K2HPO4及び0.2%KH2PO4、pH7.0)100ml中、30℃にて72時間振盪培養した。
培養後、菌体を集菌し、Saline−EDTA溶液(0.1M EDTA及び0.15M NaCl(pH8.0))4mlに懸濁した。次いで、懸濁液にリゾチーム8mgを加えて、37℃で1〜2時間振盪した後、-20℃で凍結した。
次に、凍結した懸濁液に、Tris-SDS液(1%SDS、0.1M NaCl及び0.1M Tris-HCl(pH9.0))10mlを穏やかに振盪しながら加え、さらにプロテイナーゼK(メルク社)(最終濃度0.1mg)を加えて37℃で1時間振盪した。
次いで、混合液に等量のTE飽和フェノール(TE:10mM Tris-HCl及び1mM EDTA(pH8.0))を加えて撹拌した後、遠心した。遠心後、上層を回収し、2倍量のエタノールを加え、析出したDNAをガラス棒で巻きとり、90%、80%、70%のエタノールの順に用いてすすぎ、残存するフェノールを取り除いた。
得られたDNAをTE緩衝液3mlに溶解させた。次いで、溶液にリボヌクレアーゼA溶液(100℃、15分間の加熱処理済)を10μg/mlになるよう加え、37℃で30分間振盪した。混合液にプロテイナーゼKを加え、37℃で30分間振盪した後、等量のTE飽和フェノールを加えて遠心し、上層と下層とに分離させた。
得られた上層について、上述した、等量のTE飽和フェノールを加えてから上層と下層とに分離させるまでの操作を2回繰り返した後、得られた上層に等量のクロロホルム(4%イソアミルアルコール含有)を加えて遠心し、上層と下層とに分離させた(以下、上記操作を「フェノール処理」という)。その後、上層に2倍量のエタノールを加え、ガラス棒でDNAを巻き取り、回収し、染色体DNAを得た。
(2) ニトリルヒドラターゼ遺伝子のプローブの調製
上記(1)で得られた染色体DNAを鋳型として使用し、以下の表10に示す反応液組成及びプライマーを用いてPCRを行った。
プライマーNH-01及びNH-02は、いずれも公知なニトリルヒドラターゼ遺伝子において相同性が高い領域のアミノ酸配列を参考にして作製した。なお、NH-01(配列番号6)において、sはg又はcを表し(存在位置:6及び15)、rはg又はaを表す(存在位置:9、12及び18)。また、wはa又はtを表す(存在位置:17)。さらに、NH-02(配列番号7)において、sはg又はcを表し(存在位置:3、6及び12)、rはg又はaを表す(存在位置:9及び16)。また、kはg又はtを表し(存在位置:10)、iはイノシンを表す(存在位置:18)。
反応液を調製した後、1サイクルが93℃:30秒、55℃:30秒及び72℃:3分である反応を、30サイクル行った。PCR終了後、GFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(アマシャムバイオサイエンス社製)を使用して、増幅されたDNAを回収した。回収したDNAを、0.7%アガロースゲル電気泳動により分離した後、ニトリルヒドラターゼ遺伝子の一部をコードすると考えられる約200bpのDNA断片を得た。こうして得られたDNA断片を、DIG DNA Labeling Kit(ロシュ・ダイアグノスティック社製)を用いて標識し、プローブとした。
(3) DNAライブラリーの作製
MS-38株由来の染色体DNA200μlに、10倍濃度制限酵素緩衝液40μl、滅菌水145μl及び制限酵素Sau3AI 15μlを加え、37℃にて6時間反応させた後、エタノール沈殿によりDNAを回収した。次いで、回収したDNAをアガロース電気泳動に供し、7kb付近のDNA断片をゲルから切り出し、GFX DNA回収キット(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて回収した。このDNA断片を、ライゲーションキット(宝酒造株式会社製)を用いて大腸菌ベクターpUC18のBamHI部位に挿入し、組換え体DNAライブラリーを作製した。なお、ライゲーションに用いた大腸菌ベクターpUC18は、タカラバイオから購入した。
(4) 形質転換体の作製および組換え体DNAの選別
大腸菌JM109株を、LB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス及び0.5%NaCl)1mlに接種し、37℃で5時間、前培養した。前培養後、培養物100μlを、SOB培地(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、1mM MgSO4及び1mM MgCl2)50mlに加え、18℃で20時間培養した。培養後、大腸菌を遠心により集菌した後、冷TF溶液(20mM PIPES-KOH(pH6.0)、200mM KCl、10mM CaCl2及び40mM MnCl2)13mlを加え、0℃で10分間放置した後、再度遠心した。上澄を除いた後、沈澱した大腸菌を冷TF溶液3.2mlに懸濁し、さらにジメチルスルホキシド0.22mlを加えて、0℃で10分間放置した。こうして作製したコンピテントセル200μlに、上記(3)で作製したMS-38株由来のDNA断片を含む組換え体プラスミドを含有する溶液(DNAライブラリー)10μlを加え、0℃で30分間放置した。次いで、混合液を、42℃で30秒間のヒートショックに供し、0℃で2分間冷却した後、SOC培地(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、20mMグルコース、10mM NaCl、2.5mM KCl、1mM MgSO4及び1mM MgCl2)0.8mlを加えて、37℃にて60分間振盪培養した。振盪培養後、培養液を200μlずつアンピシリン100μg/ml含有のLB寒天培地にプレーティングし、37℃で18時間培養した。
寒天培地上に生育した形質転換体コロニーについて、コロニーハイブリダイゼーション法を用いてMS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を持つ形質転換体を選別した。すなわち、寒天培地上に生育した形質転換体をナイロンメンブレン(バイオダインA:日本ポール株式会社製)上に移し、菌体を溶かしてDNAを固定した後、ナイロンメンブレンを上記(2)で作製したプローブ(約200kb断片)で処理し、DIG Luminescent Detection Kit (ロシュ・ダイアグノスティック社製)を用いて、目的の組換え体DNAを含むコロニーを選択した。
(5) 組換え体プラスミドの調製
上記(4)で選択した形質転換体を、LB培地100mlにて37℃で一晩培養し、FlexiPrep Kit(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてプラスミドを抽出した。こうして得られた組換え体プラスミドをpMS38と名付けた。図1は、組換え体プラスミドpMS38の構造を示す模式図である。図1において、「NHaseα」はニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を意味し、そして「NHaseβ」はニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子を意味する。
(6) 塩基配列の決定
組換え体プラスミドpMS38の塩基配列を、CEQ2000XL(ベックマンコールター社製)を用いて決定した。その結果、配列番号8に示される塩基配列が得られた。配列番号8に示される塩基配列には、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるニトリルヒドラターゼαサブユニットタンパク質と配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるニトリルヒドラターゼβサブユニットタンパク質とをコードするオープンリーディングフレームが見出された。
得られたMS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列と既知の微生物由来のニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列との比較を、以下の表11に示す。
表11に示すように、MS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子は、例えば、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(H型)やロドコッカス・ロドクロウスM8(H型)由来の既知のニトリルヒドラターゼとアミノ酸配列レベルでαサブユニット及びβサブユニットのいずれも90%以上の相同性を有していることから、得られたMS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子が新規なニトリルヒドラターゼ遺伝子であることが考えられた。
〔実施例4〕 MS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子の発現
(1) ニトリルヒドラターゼ遺伝子を含む発現プラスミドの構築
実施例3で得た組換え体プラスミドpMS38を鋳型として使用して、以下の表12に示す反応液組成及びプライマーを用いてPCRを行った。
PCRは、Thermalcycler personal(宝酒造社製)を用いて、1サイクルが94℃:30秒、65℃:30秒及び72℃:3分である反応を30サイクル行った。
PCR終了後、反応液5μlを0.7%アガロースゲルにおける電気泳動に供し、3kbのPCR産物の検出を行った。
PCR産物が検出されることを確認した後、反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(アマシャムバイオサイエンス社製)で精製し、制限酵素XbaIとSse8387Iで切断した。制限酵素処理を行ったPCR産物を、0.7%アガロースゲルにおける電気泳動に供し、3Kb付近のバンドを回収した。回収したPCR産物を、Ligation Kit(宝酒造社製)を用いてベクターpSJ34のXbaI-Sse8387I部位に連結し、組換え体プラスミドを作製した。得られた組換え体プラスミドを、pSJ-MS38と名付けた。図2は、組換え体プラスミドpSJ-MS38の構造を示す模式図である。図2において、「NHaseα」はニトリルヒドラターゼαサブユニット遺伝子を意味し、そして「NHaseβ」はニトリルヒドラターゼβサブユニット遺伝子を意味する。また、SK92-B1ニトリラーゼレギュレーターは、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)SK92-B1株由来ニトリラーゼ遺伝子の制御遺伝子を意味する。
組換え体プラスミドpSJ-MS38に挿入された遺伝子の塩基配列を確認し、MS-38菌由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子であることを確認した。
なお、上記ベクターpSJ034は、ロドコッカス菌においてニトリルヒドラターゼ遺伝子を発現させることができることが既に知られているプラスミドである。ベクターpSJ034は、特開平10-337185号公報に示される方法に従い、ベクターpSJ023から作製した。ベクターpSJ023は、形質転換体ATCC12674/pSJ023(FERM P-16108)として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に寄託されている。
(2) MS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を含む形質転換体の作製と活性測定
以下に示すように、組換え体プラスミドpSJ-MS38を、受託番号ATCC12674として特定されるロドコッカス・ロドクロウスの菌株(以下、「ATCC12674菌株」という)に導入した。
まず、ATCC12674菌株の対数増殖期の細胞を、遠心により集菌し、氷冷した滅菌水を用いて3回洗浄し、滅菌水に懸濁した。次いで、組換え体プラスミドpSJ-MS38 1μlと菌体懸濁液10μlとを混合し、氷冷した。さらに、キュベットに、組換え体プラスミドpSJ-MS38 1μlと菌体懸濁液10μlとの懸濁液を入れ、遺伝子導入装置 Gene Pulser (BIO RAD製)により2.0KV及び200 OHMSで電気パルス処理を行った。電気パルス処理液を、氷冷下で10分間静置した後、37℃で10分間ヒートショックに供した。ヒートショック後の処理液を、MYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、0.2%K2HPO4及び0.2%KH2PO4)500μlに加え、30℃で5時間静置した後、50μg/mlのカナマイシン含有MYK寒天培地にプレーティングし、30℃で3日間培養した。
3日間の培養後、得られた形質転換体(以下、「ATCC 12674/pSJ-MS38」という)をMYK培地(50μg/mlカナマイシン含有)10mlに接種し、30℃で72時間、前培養した。前培養後、本培養をMYK培地(50μg/mlカナマイシン及び10μg/ml塩化コバルトを含有)100mlで行うために、前培養の培養液を1%接種し、30℃で96時間培養した。次いで、本培養後、培養物を遠心分離し、菌体を集菌し、100mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄し、最後に少量の緩衝液に懸濁した。
一方、比較対照として、形質転換を行っていないATCC12674菌株(以下、「非形質転換体」という)をカナマイシン非含有培地で同様に培養した。
(3) 形質転換体によるニトリルヒドラターゼ活性の測定の結果
形質転換体ATCC 12674/pSJ-MS38と非形質転換体を用いて、ニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。なお、ニトリルヒドラターゼ活性の測定は、実施例1(2)と同様の方法により行った。結果を表13に示す。
表13に示すように、非形質転換体であるATCC12674菌株はニトリルヒドラターゼ活性を有しないのに対して、MS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を導入した形質転換体ATCC 12674/pSJ-MS38では、ニトリルヒドラターゼ活性が認められた。従って、MS-38株由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子は活性を有するニトリルヒドラターゼをコードすることが示された。