JP4102127B2 - アクリル系紡績糸及びそれを用いた布帛 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、非常に柔らかい風合いを保持しながら、吸湿性を有し、安定して優れた抗ピリング性を有するアクリル系紡績糸及びそれを用いた布帛に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりアクリル繊維は風合いや発色性の独特の特徴から衣料用素材として幅広く使用されているが、春夏用途の場合、吸湿性の機能の要求があり、綿などの吸水性原綿との混紡品として、使用している場合が多い。
春夏用途の場合、綿100%品、綿とポリエステルの混紡などでの展開が主流であるが、風合い、発色性、形状安定性の特徴を要求される衣料や靴下などの商品においては、アクリル繊維と綿の混紡での商品が展開されている。しかしながら、通常、アクリル繊維と綿の混紡糸使いの布帛においては、その表面形態が毛羽っぽく、ピリング性が悪く、ピリングが発生して外観が損なわれることが多く、また、風合いがカサツキ気味となる等の問題を有している。
【0003】
一般に、アクリル繊維が抗ピリングタイプ(以下、抗ピルタイプという)の場合、当然抗ピルタイプのアクリル繊維が100%使いの場合、その紡績糸及び布帛においては、ピリングを抑えることができる。また、綿100%使いでの紡績糸及び布帛についてもピリングの発生はさほど多くはなく、問題になることはない。
しかしながら、アクリル繊維として抗ピルタイプの原綿を使用して綿との混紡による紡績糸を用いた布帛の場合、着用を繰り返していると、その着用による磨耗が原因で、布帛表面が毛羽立ち、ピリングに成長していくという問題が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、吸湿性をもちながら、抗ピリング性を有して、かつソフトな風合いを有するアクリル系紡績糸及びそれを用いた吸湿性と抗ピリング性に優れた布帛を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記問題を解決するために、検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)アクリル繊維と再生セルロース系繊維を複合してなる紡績糸において、該アクリル繊維は単繊維繊度0.5〜2.0デシテックス、引張強度2.5〜4.0cN/デシテックス、引張伸度20〜32%、引掛け強さ2.0cN/デシテックス以下の抗ピリングアクリル繊維(ただしY字形断面繊維はのぞく)からなり、該再生セルロース系繊維は単繊維の繊維軸方向捩れが10回/インチ以下の繊維からなることを特徴とするアクリル系紡績糸。
(2)アクリル繊維が50〜90重量%と再生セルロース系繊維が50〜10重量%からなることを特徴とする前記(1)記載のアクリル系紡績糸。
(3)アクリル繊維がトウであり、再生セルロース系繊維がトウであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のアクリル系紡績糸。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリル系紡績糸からなることを特徴とする布帛。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下に具体的に説明する。
アクリル繊維は、布帛の衣料としての風合いやピリング性能維持のために単繊維繊度が0.5〜3.3デシテックス(dtex)の範囲で用いる必要があり、より好ましくは1.0〜2.0dtexである。単繊維繊度が0.5dtex未満では、衣料として使用できる範囲でのアクリル側の物性を調整しても抗ピリング性が損なわれ、3.3dtexを超えると、風合いが固くなり、好ましくない。
ピリング性は、後述する方法で測定させるが、本発明に用いる抗ピリング性アクリル繊維とは、ピリング性が3級以上の布帛を構成する繊維が好ましく、より好ましくは4級以上である。
【0007】
紡績糸や布帛において、その実用的強度を保ちながら、ピリング性能3級以上の抗ピリング性を確保するためには、アクリル繊維として、引張強度2.5〜4.0cN/デシテックス、引張伸度20〜32%、引掛け強さ2.0cN/デシテックス以下にする必要があり、より好ましくは引張強度2.5〜3.5cN/デシテックス、引張伸度25〜32%、引掛け強さ1.5cN/デシテックス以下である。
引張強度が2.5cN/デシテックス未満、引張伸度が20%未満では、糸を形成する紡績工程や布帛を形成する編、織り工程で、糸強度不足による生産性が低下し、単繊維の切断が起こり、品質が低下する傾向であり好ましくない。
引張強度が4.0cN/デシテックス、引張伸度が32%、及び引掛け強さが2.0cN/デシテックスを越えるとピリング性能が低下するため、好ましくない。
【0008】
布帛での抗ピリング性能を得るためには、抗ピリングアクリル繊維を50重量%以上含有する必要があり、より安定した性能を得るためには70%重量以上の含有が好ましい。
この際、抗ピリング性のあるアクリルを多く含有したとしても、綿に代表されるような、捩れ度合いの大きなセルロース繊維を混紡して布帛とした場合には、この布帛を繰り返し着用すると、上記の捩れ度合いの大きなセルロース繊維がピリングの足部になり、捩れがあるため、アクリル繊維もからまり易くピリングの中に取り込まれ、ピリングが成長していくという現象が見られ、本発明者は、このピリング発生のメカニズムを解析することで本発明を完成した。
【0009】
ピリング発生のメカニズムにおいて、ピリングの足部のほとんどはセルロース繊維から形成されており、セルロース繊維の繊維軸方向のストレート性が高い程、糸表面から飛び出したアクリル繊維とのからまりが少なく、ピリングの形成、成長がしにくくなるという顕著な効果を有している。
セルロース繊維において、繊維軸方向にストレート性の高い繊維としては再生セルロース繊維が好ましく、その捩れ率は、捩れ10回/インチ以下が好ましく、さらに好ましくは5回/インチ以下であり、特に好ましくは1回/インチ以下である。この様な再生セルロース繊維を使用することにより、布帛表面の毛羽立ちが少なく、ピリングの形成がしにくい布帛の提供ができる。
【0010】
繊維軸方向の捩れとは、単繊維の撚がS方向あるいはZ方向のいずれかに長さ1インチ当たりに存在する捩れの個数であり、その際の捩れの個数を捩れ回数とする。繊維の捩れは、ランダムに5本の単繊維を選択して、その中で長さ1インチにおける捩れの個数を顕微鏡で観察してカウントし、その平均値を求めた。
本発明における再生セルロース繊維は、ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、銅アンモニア法レーヨン、リヨセル等、セルロースを溶解して再生した繊維なら何れでも良いが、糸品質、布帛での風合い上、単繊維繊度が0.6〜3.5デシテックスの範囲が好ましい。
【0011】
布帛での吸水性能を得るためには、再生セルロース繊維の混率は10重量%以上あればその機能を得られ、混率が大きいほど吸水性効果は高まるが、混率が増えるに従い、ピリング性能は低下してくるため、その上限は50重量%以下である。また、より安定したピリング性能を得るためには、再生セルロース繊維の混率は30重量%以下が好ましい。
布帛の表面形態は毛羽立ちが少ないほうが、ピリングができにくく、糸を構成する単繊維の繊維長は長いほうが、紡績糸を構成する単繊維先端の数が少なくなるため毛羽数が少なくなり、ピリングが発生しにくく、繊維長30mm以上の繊維で紡績糸を構成されることが好ましい。
【0012】
その中でも、抗ピリングアクリル繊維及び再生セルロース繊維がトウであり、それを牽切後、混紡して紡績糸を製造した場合が、極端に糸毛羽を減らすことができ、良好なピリング性能が得られる。
トウ牽切後繊維長と同等レベルの繊維長のステープル繊維を用いて、カードを使用した紡績糸を製造しても構わないが、ネップなどの糸品質上、トウを用いて紡績糸を製造した場合が良好なものとなる。
また、本発明は混紡に限られるものでなく、精紡段階で抗ピリングアクリル繊維のステープルに再生セルロースフィラメントを巻きつけたサイロフィル方式でも高い抗ピリング性能が得られる。
【0013】
以下に本発明を実施例などを用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明で用いた評価方法を下記に示す。
(1)ピリング性:JIS−L−1076A法により測定した。
(2)吸水性:JIS−L−1907バイレックス法により測定した。
【実施例1】
単繊維繊度1.0dtex、繊維長51mm、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度25%、引掛け強さ1.2cN/デシテックスの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.4dtex、繊維長51mm、捩れ1回/インチ以下の銅アンモニアレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0014】
【実施例2】
単繊維繊度1.0dtex、繊維長51mm、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度25%、引掛け強さ1.2cN/デシテックスの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.7dtex、繊維長51mm、捩れ5回/インチ以下のビスコースレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0015】
【実施例3】
単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm、引張強度3.0cN/デシテックス、引張伸度27%、引掛け強さ1.2cN/デシテックスの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.7dtex、繊維長51mm、捩れ5回/インチ以下のビスコースレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0016】
【実施例4】
単繊維繊度1.0dtex、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度25%、引掛け強さ1.2cN/デシテックス、該単繊維で構成されたトウを牽切し平均繊維長80mmの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.7dtex、捩れ5回/インチ以下でトウを牽切し平均繊維長85mmのビスコースレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0017】
【実施例5】
単繊維繊度1.7dtex、引張強度3.0cN/デシテックス、引張伸度27%、引掛け強さ1.2cN/デシテックス、該単繊維で構成されたトウを牽切し平均繊維長85mmの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.7dtex、捩れ5回/インチ以下でトウを牽切し平均繊維長85mmのビスコースレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0018】
【比較例1】
単繊維繊度1.0dtex、繊維長38mm、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度25%、引掛け強さ1.2cN/デシテックスの抗ピリングアクリル繊維を70重量%の割合と天然より300回/インチのコーマー綿を30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0019】
【比較例2】
単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度35%、引掛け強さ3.2cN/デシテックスのアクリル繊維を70重量%の割合と単繊維1.7dtex、繊維長51mm、捩れ5回以下のビスコースレーヨンを30重量%の割合で混紡して、1/50Nmの紡績糸を製造した。
【0020】
【比較例3】
単繊維繊度1.0dtex、繊維長51mm、引張強度3.5cN/デシテックス、引張伸度27%、引掛け強さ1.2cN/デシテックスのアクリル繊維100重量%、1/50Nmの紡績糸を製造した。
実施例1〜5及び比較例1〜3の紡績糸を糸染め加工後、14ゲージ天竺組織で作成した編地をJIS−L−1076A法によりピリング性評価した。
この編地をJIS−L−0207−103法による洗濯処理後、JIS−L−1907バイレッグ法により吸水性を評価した。
結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
表1より、実施例1〜4の編地のピリング性、吸水性の結果が良好であるのに対して、比較例1〜2は吸水性はあるがピリング性が悪く、比較例3はピリング性は良好であるが吸水性が不足している。
【0022】
【発明の効果】
本発明の紡績糸及び布帛は、衣料用として用いた場合、非常に柔らかい風合いを保持しながら抗ピリング性と吸湿性の性能を同時に兼ね備えた繊維製品であった。
Claims (4)
- アクリル繊維と再生セルロース系繊維を複合してなる紡績糸において、アクリル繊維は単繊維繊度0.5〜2.0デシテックス、引張強度2.5〜4.0cN/デシテックス、引張伸度20〜32%、引掛け強さ2.0cN/デシテックス以下の抗ピリングアクリル繊維(ただしY字形断面繊維はのぞく)からなり、再生セルロース系繊維が単繊維の繊維軸方向捩れが10回/インチ以下の繊維からなることを特徴とするアクリル系紡績糸。
- アクリル繊維が50〜90重量%と再生セルロース系繊維が50〜10重量%からなることを特徴とする請求項1記載のアクリル系紡績糸。
- アクリル繊維がトウであり、再生セルロース系繊維がトウであることを特徴とする請求項1又は2記載のアクリル系紡績糸。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系紡績糸からなることを特徴とする布帛。
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