JP4096427B2 - ヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法 - Google Patents

ヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法に関するものであり、詳しくは、安定性の優れたヒドロキシアルキルアクリレートの工業的に有利な製造方法に関する。
【0002】
ヒドロキシアルキルアクリレートは、分子内に疎水性のアルキル単位と親水性のヒドロキシル基を共有するため、柔軟性や親水性を適当に備えた実用上興味深い物性をする重合体または共重合体の原料として有用であり、また、そのヒドロキシル基が反応性に富むため、架橋性重合体または共重合体として塗料関係の用途に期待されている。
【0003】
【従来の技術】
ヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法としては、アルカンジオールとカルボン酸とを酸性触媒の存在下でエステル化反応させる直接エステル化法が公知である(ドイツ特許第1518572号明細書、特開平4−69353号公報、特開平7−126214号公報)。
【0004】
ところで、直接エステル化法は問題点が多い。例えば上記ドイツ特許第1518572号明細書に記載された方法は、強酸触媒を使用するため、反応装置の腐食が懸念されると共に、原料のアルカンジオールの環化反応や生成物の高沸化を伴うため、目的物であるヒドロキシアルキルアクリレートの選択性が低下する等の欠点を有する。更に、上記の方法は、水溶液の状態で反応触媒および未反応のアクリル酸を中和するため、水溶性であるアルカンジオールの回収再使用の際に中和塩類との分離が困難である。
【0005】
そこで、本発明者らは、上記の問題点を克服するため、アルカンジオールとアクリル酸低級エステルとをジスタノキサン触媒の存在下でエステル交換するヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法を開発して先に提案した(特願平10−152175号)。
【0006】
ところで、上記のエステル交換反応で得た反応液からの液液抽出による反応触媒の分離は、抽出時のジスタノキサン触媒の安定性を高めるため、遊離カルボン酸の存在下に行うのが好ましい。
【0007】
しかしながら、遊離カルボン酸が製品に混入した場合は、ヒドロキシアルキルアクリレートの不均化反応によりジエステル体の生成が助長され、製品の品質が低下する欠点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、抽出時のジスタノキサン触媒の安定性を高めた液液抽出工程にて回収されて遊離カルボン酸を含有する製品含有有機溶液中の当該遊離カルボン酸を除去することから成る、安定性の優れたヒドロキシアルキルアクリレートの工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨は、炭素数2〜10のアルカンジオールと下記一般式(I)又は(II)で表されるアクリル酸エステルとをエステル交換反応してヒドロキシアルキルアクリレートを製造するに際し、反応触媒として下記一般式(III)で示されるジスタノキサン化合物を使用し、精製工程として、遊離カルボン酸の存在下の液液抽出により反応液から反応触媒を分離する工程と、ヒドロキシアルキルアクリレート及び遊離カルボン酸を含む有機溶液をアルカリ水溶液と接触させる工程とを包含することを特徴とするヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法に存する。
【0010】
【化2】
Figure 0004096427
【0011】
〔一般式(III)中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表わし、これらは互いに異なっていてもよく、X及びYは、互いに異なっていてもよい、−OH、−O(CH2nOH、−O(CH2nOCOCH=CH2、−OR、−OCOR、−OCOCH=CH2(nは1〜10の整数を表わし、Rはアルキルを表わす)及びハロゲン原子から成る群から選ばれる基を表す。〕
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を各工程毎に詳細に説明する。
【0013】
<反応工程>
本発明におけるエステル交換反応の1つの原料物質は、炭素数2〜10のアルカンジオールである。斯かるアルカンジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、デカンジオール等が挙げられる。特に、1,4−ブタンジオールが好適に使用される。
【0014】
本発明におけるエステル交換反応の他の1つの原料物質は、前記一般式(I)又は(II)で表されるアクリル酸エステルである。
【0015】
一般式(I)中、Rで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、好ましくはメチル基である。一般式(I)で表されるアクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0016】
一般式(II)で表されるアクリル酸エステルの具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート等が挙げられる。特に、一般式(II)で表されるアクリル酸エステルとしては、原料のアルカンジオールの炭素数と同じmの値を有するアクリル酸エステルを使用するのが好ましい。斯かるアクリル酸エステルは、反応原料であると同時に、例えばアクリル酸メチルとアルカンジオールの反応によるヒドロキシブチルアクリレート製造時の副生物として反応系に存在する。なお、原料のアルカンジオールが1,4−ブタンジオールの場合、一般式(II)で表されるアクリル酸エステルとしては1,4−ブタンジオールジアクリレートが好適に使用される。
【0017】
本発明における反応触媒は、一般式(III)で表されるスタノキサン化合物である。一般式(III)中、R1、R2、R3及びR4で表されるアルキル基は、通常、炭素数1〜20のアルキル基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられる。また、置換基を有していてもよいフェニル基における置換基は、通常、アルキル基であり、その具体例としては、上記と同様のアルキル基が挙げられる。R1〜R4におけるアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基は、互いに異なっていてもよい。R1〜R4としては、特に、反応後工程の抽出分離での触媒抽出回収率および触媒溶解性の観点から、炭素数C4〜C12のアルキル基およびフェニル基が好ましく、中でも工業的な入手のし易さから炭素数8のアルキル基が特に好ましい。
【0018】
また、一般式(III)中、X及びYは、−OH、−O(CH2nOH、−O(CH2nOCOCH=CH2、−OR、−OCOR、−OCOCH=CH2(nは1〜10の整数を表わし、Rはアルキルを表わす)及びハロゲン原子から成る群から選ばれる基を表す。中でも、触媒の耐加水分解性が良く、抽出効率が高いという点で、−OCOR又は−OCOCH=CH2が好ましい。上記のnは2〜6が好ましく、Rは炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。また、上記のハロゲン原子としては、Cl、Br等が挙げられる。
【0019】
上記のスタノキサン化合物は、例えば、アドバンシス イン オルガノメタリック ケミストリー(Advance in Organometallic Chemistry)第5巻第159ページ(1967年)等に記載された方法により容易に得ることが出来る。
【0020】
アルカンジオールと一般式(I)及び(II)で表されるアクリル酸エステル(以下、両者をまとめてアクリル酸誘導体と略記する)との使用割合は、特に制限されない。
【0021】
本発明において、アルカンジオール1モルに対するアクリル酸誘導体の使用割合としては、アクリル基換算として、通常0.5〜5モル、好ましくは0.5〜2モルの範囲である。この範囲の使用割合により、アルカンジオールを適度に転化せしめて反応生成物中のヒドロキシアルキルアクリレートの割合を最大限にすることが出来、生産性を上げ、全体の抽出効率を高めることが出来る。
【0022】
一方、反応触媒であるスタノキサン化合物の使用割合は、原料に対し、通常0.01〜50モル%、好ましくは0.1〜20モル%である。
【0023】
本発明において、必要であれば、反応溶媒として、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、テトラクロルエチレン、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を使用してもよい。
【0024】
反応に際しては、原料および生成物の重合防止のため、反応系に重合防止剤を添加するのが好ましい。重合防止剤としては、フェノチアジン、ハイドロキノン類、ジアルキルジチオカルバミン酸の銅塩などの銅化合物が挙げられる。更に、反応系内に分子状酸素を存在させることにより、通常は、空気を直接または窒素などの不活性ガスで希釈して反応系に連続的に導入することにより、重合防止効果がより高められる場合が多い。
【0025】
本発明においては、温和な条件下で高いエステル交換活性で反応を進行させることが出来る。従って、反応温度は、通常60〜150℃、好ましくは70〜130℃である。反応温度が60℃未満の場合は、十分な反応活性が得られず、逆に、150℃を超える場合は、重合などの副反応が起こり易くなる。反応時間は、通常2〜15時間であり、斯かる反応時間により、反応は平衡に達する。平衡反応に達した後、未反応原料の他、溶媒などの軽沸成分を減圧蒸留などにより留去した後、次の抽出工程に供給する。
【0026】
また、この反応は平衡反応であるため、副生物である低級アルコールの存在によって反応転化率が抑制される。よって、低級アルコールを蒸留により系外に留去しつつ反応を行う反応蒸留形式を採用すると、転化率が更に向上する点で好ましい。
【0027】
低級アルコールは、常圧または減圧下で蒸留により除去される。また、他の不活性溶剤(共沸溶媒)を添加して共沸により除去することも出来る。原料の低級アクリル酸エステルと低級アルコールとの沸点差が近いため、共沸溶媒を添加して共沸により除去する方がより有利になる場合が多い。この場合も、必要に応じて共沸溶媒を除去した後、次の抽出工程に供給する。共沸溶媒として抽出溶剤と同じものを使用した場合には、そのまま抽出工程に供給しても何ら影響ない。蒸留温度は、生成物の熱安定性を考慮し、130℃以下とするのが好ましい。
【0028】
<液液抽出>
(液液抽出の概要)
先ず、本発明における液液抽出の概要について説明する。反応終了後、反応液を抽出工程に供給し、ジエステルとヒドロキシアルキルアクリレート/未反応アルカンジオールとを分離する。本発明においては、抽出溶剤として、水と非水溶性有機溶媒から成る2成分系抽出溶剤を使用する。抽出操作により、ジエステル及び触媒は有機相に抽出され、アルカンジオールは水相に抽出され、抽出に使用する非水溶性有機溶媒の種類によりヒドロキシアルキルアクリレートは有機相または水相に抽出される。ヒドロキシアルキルアクリレートをアルカンジオールと共に水相に抽出する場合は、更に、水相から非水溶性有機溶媒によりヒドロキシアルキルアクリレートを抽出する必要があり、ヒドロキシアルキルアクリレートをジエステル及び触媒と共に有機相に抽出する場合は、更に、有機相から水によりヒドロキシアルキルアクリレートを抽出する必要がある。何れの場合もアルカンジオールは水相に抽出される。
【0029】
非水溶性有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン、i−オクタン、i−デカン等の脂肪族炭化水素類、または、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が使用される。中でも、最初に脂肪族または脂環式炭化水素によってジエステル及び触媒を有機相に、ヒドロキシアルキルアクリレート及びアルカンジオールを水相に抽出し、次に、当該水相から、芳香族炭化水素、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、塩素系溶媒などを使用し、ヒドロキシアルキルアクリレートを有機相に、アルカンジオールを水相に抽出する、二段抽出法は、ヒドロキシアルキルアクリレートの精製を考慮に入れた場合、特に好ましい方法である。以下、上記の二段抽出法を中心に説明する。
【0030】
(ジエステル及び触媒の抽出)
本発明においては、ジスタノキサン触媒の抽出時の安定性を高めるため、遊離カルボン酸の存在下に液液抽出を行う。カルボン酸は、アシルオキシジスタノキサンの配位子である。カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が好ましく、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸の何れでもよいが、通常はモノカルボン酸が使用される。モノカルボン酸としては、アクリル酸または酢酸が好ましく、特にアクリル酸が好ましい。
【0031】
カルボン酸の添加量は、エステル交換反応に使用するジスタノキサン触媒に対し、通常1〜10モル倍量、好ましくは2〜6モル倍量の範囲から選択され、また、ヒドロキシアルキルアクリレートに対しては0.1〜5重量%であることが好ましい。カルボン酸の添加方法は、反応終了後の反応液に直接添加する方法、抽出に使用する抽出溶剤または水に添加する方法の何れでもよい。
【0032】
二段抽出法においては、反応終了後、反応液を抽出工程に供給し、ジエステル及び触媒を有機相に、ヒドロキシアルキルアクリレート及びアルカンジオールを水相に抽出する。この際、添加した遊離カルボン酸は水相に抽出される。非水溶性有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン、i−オクタン、i−デカン等の脂肪族炭化水素類、または、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が使用される。中でも、脂環式炭化水素または脂肪族炭化水素が抽出効率を高めるという点で好ましい。特に、n−ヘプタン又はn−ヘキサンから選ばれる有機相と水相とによる液液抽出法は、アルカンジオールの高い分配係数と比選択度を示すという点で好ましい。
【0033】
水の使用量は、合計全量として、抽出するヒドロキシアルキルアクリレートに対して1〜10重量倍使用するのが好ましい。また、非水溶性有機溶剤の使用量は、合計全量として、抽出するヒドロキシアルキルアクリレートに対して5〜100重量倍使用するのが好ましい。
【0034】
抽出は、一般的には常圧で5〜70℃で実施される。抽出装置は特に制約がなく、回分操作での繰り返し抽出(混合、静置、分液の繰り返し)、連続抽出の何れでもよいが、少ない抽出溶剤の使用量で効率的に抽出を実施するためには、向流接触型連続抽出塔を使用するが好ましい。連続抽出の場合の液液接触形式としは、充填塔、回転円盤形、往復動型、ミキサーセトラー等の種々の形式を使用することが出来る。
【0035】
本発明において、ジエステル及び触媒を含む有機相は、次の様に再使用することが出来る。(1)後処理することなく、そのままの状態で直接にエステル化/エステル交換反応系に循環する。(2)低温減圧蒸留などで有機溶剤が除去された後の残渣をそのままエステル化/エステル交換反応系に循環する。
【0036】
例えば、本発明における前述のエステル交換反応系にジエステル及び触媒を循環した場合、ジエステルは、アルカンジオールとのエステル交換反応によりヒドロキシアルキルアクリレートに再変換される。この際、触媒の活性低下は殆どない。特に、遊離カルボン酸の存在により、触媒の安定性が増す結果、長期間の使用による触媒の形態変化が防止され触媒の有機相への抽出効率が高められる。
【0037】
(ヒドロキシアルキルアクリレートの抽出)
前工程で分離された水相には、ヒドロキシアルキルアクリレートとアルカンジオールが主成分として含まれ、更に、添加した遊離カルボン酸も含まれている。この水溶液から、抽出溶剤として非水溶性の有機溶媒を使用し、ヒドロキシアルキルアクリレートを有機相に抽出し、水相にアルカンジオールを残す。遊離カルボン酸は、有機相と水相に分配される。抽出溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素、酢酸n−ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒、ジクロロメタン等の塩素系溶媒などが挙げられる。抽出条件および装置は、前工程と同様に選択される。
【0038】
有機溶剤の使用量は、その種類にもよるが、合計全量として、抽出するヒドロキシアルキルアクリレートに対して2〜50重量倍が好ましい。水の量は、合計全量として、抽出するアルカンジオールに対して1〜20重量倍となる様に調節するのが好ましい。水の合計量には、前工程で使用した水の他、アルカンジオールを効率的に水相に残すために追加的に使用される少量の水が含まれる。連続抽出塔を使用する場合、塔の中間段からアルカンジオールとヒドロキシアルキルアクリレートを含む水溶液を供給し、上段と下段から水と有機溶媒を向流接触させることにより、アルカンジオールの分離効率が向上する。
【0039】
<アルカリ洗浄>
本発明においては、前工程で得られたヒドロキシアルキルアクリレート及び遊離カルボン酸を含む有機溶液をアルカリ水溶液と接触させ、遊離カルボン酸をカルボン酸塩として水相側に回収する。上記の接触処理には、回分攪拌装置、向流式抽出塔、遠心抽出器などの装置が好適に使用され、接触時間は数秒から数10分とされる。
【0040】
アルカリの種類は特に限定されず、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニア水などを使用することが出来る。具体例としては、強アルカリ性物質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。また、弱アルカリ性物質として、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアクリレートの加水分解を抑制するという面から、弱アルカリ性物質、例えば、アルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩(具体的には炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム)を使用するのが好ましい。
【0041】
アルカリ水溶液中のアルカリの量は、目的とするカルボン酸の除去率にもよるが、原液中のカルボン酸に対し通常0.5〜20モル倍の範囲から選択され、特に強アルカリの場合は0.5〜2倍モル程度使用するのが好ましい。
【0042】
アルカリ水溶液中の水の量は、アルカリ洗浄処理する有機溶液に対し0.01〜3重量倍の範囲から選択するのが好ましい。すなわち、ヒドロキシアルキルアクリレートが比較的高い水溶性を有するため、水の量が上記の範囲より多い場合はヒドロキシアルキルアクリレートの水相への損失が大きくなり、水の量が上記の範囲より少ない場合は、カルボン酸塩が析出して接触効率が低下する恐れがある。
【0043】
アルカリ水溶液の濃度は、上述したアルカリの量と水の量で決められるが、代表的には0.05〜30重量%であることが好ましい。濃度が高すぎる場合は、カルボン酸塩が溶解度を超えて固体となりハンドリングが困難になり、濃度が薄すぎる場合は、使用する水の量が多すぎてプロセス的に生産性が低下する。
【0044】
水への溶解度が比較的低いアルカリを使用する際は、中性またはは弱アルカリ性の電解質を添加して水相中の電解質濃度を高めることにより、ヒドロキシアルキルアクリレートの水相への分配を低減して損失を抑制することが出来る。
【0045】
上記の電解質としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の硫酸塩、りん酸塩、ハロゲン化物、カルボン酸塩などが挙げられるが、水に対する溶解度が通常10重量%以上(好ましくは20重量%以上)の電解質が好適に使用される。斯かる電解質の具体例としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、りん酸カリウム、酢酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム等が挙げられるが、特に、硫酸ナトリウム及び塩化ナトリウムが好適に使用される
【0046】
電解質の濃度は、アルカリと電解質の合計の濃度が10重量%以上であることが好ましい。使用後の電解質を含むアルカリ水溶液は、アルカリを添加して再びアルカリ水溶液として再使用することも出来る。使用するアルカリが炭酸ナトリウムの様な水に対する溶解度の高い弱アルカリの場合は、電解質を添加しなくても、アルカリ水溶液中のアルカリ濃度を高めることにより、ヒドロキシアルキルアクリレートの溶解損失を低減することも出来る。
【0047】
アルカリ洗浄の際の温度が低温ほどヒドロキシアルキルアクリレートの加水分解が抑制される傾向にあり、また、高温ほど塩類の溶解度が高くなる。従って、アルカリ洗浄の温度は、これらを勘案して適宜決定されるが、通常は5〜70℃とされる。
【0048】
アルカリ洗浄後の有機溶液に残存する遊離カルボン酸の濃度は、ヒドロキシアルキルアクリレートに対し、通常0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%とされる。有機溶液には少量のアルカリ物質が混入する場合があり、必要に応じて少量の水または中性電解質の水溶液と接触させてアルカリ物質を除去する。この有機溶液から有機溶媒を留去し、必要に応じて蒸留精製を行い、製品のヒドロキシアルキルアクリレートを得る。
【0049】
アルカリ洗浄処理を行わない場合、遊離カルボン酸は有機溶媒または製品中に分配される。その結果、蒸留によって製品と分離できた場合でも、カルボン酸を含む回収した有機溶媒を抽出にそのまま再使用した場合はカルボン酸の蓄積が問題となり困難である。
【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例においては、特に断りがない限り、反応には、精留塔、温度測定管、空気導入管、溶媒導入管およびジャケット(スチーム加熱対応)を備え、上記の精留塔(70φ)には1/4インチ マクマホンパッキンが60cm高さで充填されている、20Lのステンレス製反応器を使用し、抽出には、向流接触型液液抽出塔(住友重機械工業製:カールカラム25φ×1.5m)を使用した。
【0051】
実施例1
反応器に、1,4−ブタンジオール:5.41kg、アクリル酸メチル:4.70Kg、n−ヘキサン:0.46kg、ジスタノキサン触媒:313.1g、フェノチアジン:23.9gを仕込み、n−ヘキサンを添加しながら次の要領でエステル交換反応を行った。
【0052】
空気導入管から、750ml/minで6体積%酸素/窒素を吹き込んだ。反応器のジャケットに蒸気を流通して加熱を開始した。約80℃の液温で沸騰が開始した。全還流を1Hr行い、精留塔の塔頂および塔中段の温度が50℃で安定した後、1L/Hrで留出を開始した。留出開始後、反応液の温度が85〜95℃になる様にヘキサンを反応系に供給した。塔頂からヘキサン/メタノールの共沸混合物が留出し、反応が進行するにつれメタノールの生成速度が小さくなると過剰のアクリル酸メチルがヘキサンと共に留出した。反応液のアクリル酸メチル濃度が0.5重量%以下となった時点で反応を終了して冷却し、反応液8.08kgを得た。この反応液(8.08kg)にアクリル酸49gを添加した後、次の精製工程に供給した。
【0053】
先ず、上記の反応液を連続抽出塔(n−ヘキサン12.15kgと水11.50kgを使用)で液液抽出し、ヘキサン相に1,4−ブタンジオールジアクリレートとジスタノキサン触媒を、水相に4−ヒドロキシブチルアクリレートと未反応1,4−ブタンジオールを回収した。
【0054】
次いで、得られた水相を連続抽出塔(トルエン使用)で液液抽出し、水相に未反応1,4−ブタンジオールを、トルエン相に4−ヒドロキシブチルアクリレートを回収した。トルエン相には少量のアクリル酸が同伴した。トルエン相の組成は、1,4−ブタンジオール:0.06重量%、4−ヒドロキシブチルアクリレート:7.6重量%、1,4−ブタンジオールジアクリレート:0.02重量%、アクリル酸:0.16重量%であった。
【0055】
次いで、上記のトルエン相200gと1.7重量%水酸化ナトリウム水溶液10gを500mlのガラス製回分攪拌装置に仕込み、10分間攪拌し、15分間静置後、分液ロートで水相11gとトルエン相199gに分液した。このアルカリ洗浄終了後の水相、水洗工程終了後のトルエン相よりサンプルを採取して、それぞれについてGC分析および酸価測定を行い、アクリル酸の転化率と4−ヒドロキシブチルアクリレートの損失率を下記の計算により求めた。 結果は、AA転化率:73.0%、4−HBAの加水分解率:2.6%、4−HBAの水相への損失率:3.4%であった。
【0056】
【表1】
AA :アクリル酸
4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
a:抽出分離後のトルエン相中のAA
b:抽出分離後のトルエン相中の4−HBA
c:アルカリ水溶液洗浄後のトルエン相中のAA
d:アルカリ水溶液洗浄後のトルエン相中の4−HBA
e:アルカリ水溶液洗浄後の水相中の4−HBA
AA転化率 :(1−c/a)×100(%)
4−HBA加水分解率:{1−(d+e)/b}×100(%)
4−HBA水相への損失率:(e/b)×100(%)
【0057】
実施例2
実施例1において、洗浄に使用するアルカリ水溶液の濃度を2.6重量%に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ水溶液洗浄後の水相:10.5g、アルカリ洗浄後のトルエン相:199.5g、AA転化率:98.8%、4−HBAの加水分解率:3.1%、4−HBAの水相への損失率:3.4%であった。
【0058】
実施例3
実施例1において、洗浄用アルカリ水溶液として2.6重量%水酸化ナトリウムと25重量%塩化ナトリウムとの混合水溶液を使用し、攪拌時間を5分、静置時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ洗浄後の水相:12.9g、アルカリ洗浄後のトルエン相:197.4g、AA転化率:99.0%、4−HBAの加水分解率:2.9%、4−HBAの水相への損失率:0.3%であった。
【0059】
実施例4
実施例1において、洗浄用アルカリ水溶液として8.3重量%炭酸水素ナトリウム水溶液を使用し、攪拌時間を5分、静置時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ洗浄後の水相:10.1g、アルカリ洗浄後のトルエン相:201g、AA転化率:98.4%、4−HBAの加水分解率:0.1%、4−HBAの水相への損失率:2.0%であった。
【0060】
実施例5
実施例1において、洗浄用アルカリ水溶液として、4.4重量%炭酸水素ナトリウムと17.2重量%硫酸ナトリウムの混合水溶液を使用し、攪拌時間を5分、静置時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ洗浄後の水相:9.7g、アルカリ洗浄後のトルエン相:200.8g、AA転化率:98.2%、4−HBAの加水分解率:0.6%、4−HBAの水相への損失率:0.4%であった。
【0061】
実施例6
実施例1において、トルエン相の使用量を500.0gに変更し、洗浄用アルカリ水溶液として、21重量%炭酸ナトリウム水溶液2.7gを使用し、攪拌時間を5分、静置時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ洗浄後の水相:3.2g、アルカリ洗浄後のトルエン相:496.1g、AA転化率:94.4%、4−HBAの加水分解率:0.4%、4−HBAの水相への損失率:0.2%であった。
【0062】
実施例7
実施例1において、トルエン相の使用量を500.0gに変更し、洗浄用アルカリ水溶液として、21重量%炭酸ナトリウム水溶液20.0gを使用し、攪拌時間を5分、静置時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、アルカリ洗浄後の水相:24.3g、アルカリ洗浄後のトルエン相:496.8g、AA転化率:99.0%、4−HBAの加水分解率:0.3%、4−HBAの水相への損失率:0.1%であった。
【0063】
実施例1〜7における主要な条件と結果をまとめて表2に示す。
【0064】
【表2】
Figure 0004096427
【0065】
参考例1
4−ヒドロキシブチルアクリレート(アクリル酸として0.05%含有)試料(1)と、4−ヒドロキシブチルアクリレートに0.5重量%濃度のアクリル酸を添加した試料(2)を室温で半年間保管してジエステル含有量の変化を比較した。結果を表3に示す。同表に示す結果から、製品中のアクリル酸の量が多い程に4−ヒドロキシブチルアクリレートの劣化が促進されてジエステルが生成すること分かる。なお、4−ヒドロキシブチルアクリレートを樹脂にした際のゲル化はジエステルの濃度が高いほど促進される。
【0066】
【表3】
Figure 0004096427
【0067】
比較例1
実施例1と同様に反応した後、反応液にアクリル酸を添加し、水とn−ヘキサンにより液液抽出を行い、触媒および副生物の1,4−ブタンジオールジアクリレートをヘキサン相に抽出した。得られた水相に含まれるアクリル酸に対して1倍等量の水酸化ナトリウムを含む水溶液を添加し、この液をトルエンにより抽出し、4−ヒドロキシブチルアクリレートを回収した。この中には4−ヒドロキシブチルアクリレートに対し0.1重量%しかアクリル酸が含まれておらず、従って、アクリル酸の除去は可能であった。しかしながら、トルエンで抽出し、残った水相から1,4−ブタンジオールを回収しようとして、水を蒸留回収したところ、缶液の1,4−ブタンジオール中に硫酸ナトリウム及びアクリル酸ナトリウムの固体が生じて濃厚なスラリーとなった。そのため、濾過または更なる蒸留操作により1,4−ブタンジオールを回収するのは困難であった。
【0068】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、製品であるヒドロキシアルキルモノアクリレートへのカルボン酸の混入を抑制し、長期保存安定性に優れた製品を得ることが出来る。

Claims (7)

  1. 炭素数2〜10のアルカンジオールと下記一般式(I)又は(II)で表されるアクリル酸エステルとをエステル交換反応してヒドロキシアルキルアクリレートを製造するに際し、反応触媒として下記一般式(III)で示されるジスタノキサン化合物を使用し、精製工程として、遊離カルボン酸の存在下の液液抽出により反応液から反応触媒を分離する工程と、ヒドロキシアルキルアクリレート及び遊離カルボン酸を含む有機溶液をアルカリ水溶液と接触させる工程とを包含することを特徴とするヒドロキシアルキルアクリレートの製造方法。
    Figure 0004096427
    〔一般式(III)中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表わし、これらは互いに異なっていてもよく、X及びYは、互いに異なっていてもよい、−OH、−O(CH2nOH、−O(CH2nOCOCH=CH2、−OR、−OCOR、−OCOCH=CH2(nは1〜10の整数を表わし、Rはアルキルを表わす)及びハロゲン原子から成る群から選ばれる基を表す。〕
  2. 精製工程として、(1)水と非水溶性有機溶媒による遊離カルボン酸の存在下の液液抽出により、反応液中のヒドロキシアルキルアクリレートとカルボン酸およびアルカンジオールを水相側に抽出する第1抽出工程、(2)非水溶性有機溶媒による液液抽出により、第1抽出工程で回収された水相中のヒドロキシアルキルアクリレートと遊離カルボン酸を有機相側に抽出する第2抽出工程、(3)アルカリ水溶液との接触により、第2抽出工程で回収された有機相中の遊離カルボン酸を除去する酸洗浄工程とを順次に包含して成る請求項1に記載の製造方法。
  3. アルカリ水溶液のアルカリとしてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩もしくは炭酸水素塩を使用する請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. アルカリ水溶液のアルカリとして炭酸ナトリウムを使用する請求項1又は2に記載の製造方法。
  5. アルカリ水溶液のアルカリとして炭酸水素ナトリウムを使用する請求項1又は2に記載の製造方法。
  6. アルカリ水溶液が弱アルカリ性または中性の電解質を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
  7. アルカリ水溶液中のアルカリと弱アルカリ性または中性の電解質との合計濃度が10重量%以上である請求項6に記載の製造方法。
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