JP4092492B2 - 自動ブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自車両と自車両前方の物体との接触可能性に応じて自動的に制動力を発生するようにした自動ブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の自動ブレーキ制御装置としては、自車両と自車両前方の車両との相対距離及び相対速度から前方車両との衝突時間を算出し、この衝突時間が所定値以下となったときに、前方車両と接触する可能性があると判断して警告ブレーキを作動し、自車速が高いほど車両減速度が大きくなるように車速を低下させるというものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平09−286313号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の自動ブレーキ制御装置にあっては、先行車両の速度に関わらず、自車速の大きさによって車両減速度の大きさを決定しているので、例えば、先行車両が自車両の前に割り込み、その先行車両の速度の方が自車速よりも大きい場合には、先行車両が遠ざかっていくのに対して自車両は減速されてしまうため、運転者に違和感を与えるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、運転者に違和感を与えることなく、円滑な制動制御を行うことが可能な自動ブレーキ制御装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る自動ブレーキ制御装置は、前方物体検出手段で自車両前方の物体を検出し、車速検出手段で自車両の車速を検出し、評価指標演算手段で、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と前記車速検出手段で検出した自車速とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第1の評価指標、及び前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と相対速度とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第2の評価指標を夫々演算し、接触回避制動トルク演算手段で、前記評価指標演算手段で演算した第1及び第2の評価指標と前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度とに基づいて接触回避制動トルクを演算し、制駆動力制御手段で、前記接触回避制動トルク演算手段で演算した接触回避制動トルクと運転者の操作による制駆動トルクとに応じて制駆動力を制御する。
【0006】
【発明の効果】
本発明によれば、自車両と自車前方物体との接触可能性を判断する評価指標と前方物体との相対速度とに応じて接触回避制動トルクを算出し、この接触回避制動トルクにより運転者の操作による制駆動トルクを制御するため、先行車両が自車両の前に割り込んだ場合には、自車両と先行車両との車間距離が狭くなることにより接触回避のための制動力が作用した場合であっても、先行車両との相対速度に応じて接触回避制動トルクの大きさが変更されるので、運転者に違和感のない走行制御を行うことができるという効果が得られる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明を後輪駆動車に適用した場合の実施形態を示す概略構成図であり、図中、1FL,1FRは従動輪としての前輪、1RL,1RRは駆動輪としての後輪であって、後輪1RL,1RRは、エンジン2の駆動力が自動変速機3、プロペラシャフト4、最終減速装置5及び車軸6を介して伝達されて回転駆動される。
前輪1FL,1FR及び後輪1RL,1RRには、夫々制動力を発生する例えばディスクブレーキで構成されるブレーキアクチュエータ7が設けられていると共に、これらブレーキアクチュエータ7の制動油圧が制動制御装置8によって制御される。
【0008】
ここで、制動制御装置8は、ブレーキペダル9aの踏込みに応じて制動油圧を発生すると共に、後述するブレーキ制御用コントローラ20からの制動圧指令値PBRに応じて制動油圧を発生し、これをブレーキアクチュエータ7に出力するように構成されている。ブレーキペダル9aの近傍には、ブレーキペダル9aの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ9bが設置されており、ブレーキペダル9aの踏込量に応じた運転者が要求する制動トルク(以下、ドライバ要求制動トルクという)は、図2(a)に示すようなドライバ要求制動トルク算出マップを参照して算出される。このマップは、ブレーキ踏込量センサ9bで検出したブレーキペダル踏込量が0から増加するときに、これに比例してドライバ要求制動トルクも0から増加するように設定されている。
【0009】
また、エンジン2には、その出力を制御するエンジン出力制御装置11が設けられている。さらに、エンジン2にはエンジン回転速度NE を検出するエンジン回転速度センサ17が設けられている。このエンジン出力制御装置11では、アクセルペダル12aの踏込量及び後述するブレーキ制御用コントローラ20からのスロットル開度指令値θ*に応じてエンジン2に設けられたスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ12を制御するように構成されている。アクセルペダル12aの近傍には、アクセルペダル12aの踏込量を検出するアクセル踏込量センサ12bが設置されており、アクセルペダル12aの踏込量に応じた運転者が要求する駆動トルク(以下、ドライバ要求駆動トルクという)は、図2(b)に示すようなドライバ要求駆動トルク算出マップを参照して算出される。このマップは、アクセル踏込量センサ12bで検出したアクセルペダル踏込量が0から増加するときに、これに比例してドライバ要求駆動トルクも0から増加するように設定されている。なお、運転者がアクセルペダル12aから足を放したときの駆動トルク(エンジンブレーキトルク)はエンジン回転速度センサ17で検出したエンジン回転速度NE に基づいて、図2(c)に示すマップを参照して算出される。
【0010】
また、自動変速機3の出力側に配設された出力軸の回転速度を検出することにより、自車速Vsを検出する車速センサ13が配設されている。
一方、車両の前方側の車体下部には、前方物体検出手段としての前方物体センサ14が設けられている。この前方物体センサ14は、例えばスキャニング式のレーザレーダで構成され、一定角度ずつ水平方向にずれながら周期的に車両の前方方向に所定の照射範囲内で細かいレーザ光を照射し、前方物体から反射して戻ってくる反射光を受光して、出射タイミングから反射光の受光タイミングまでの時間差に基づいて、各角度における自車両と前方物体との間の相対距離L及び相対速度Vrを検出する。
【0011】
また、この車両には、図示しないステアリングホイールの操舵角δを検出する操舵角センサ15が備えられ、この検出信号はブレーキ制御用コントローラ20に入力される。
そして、車速センサ13から出力される自車速Vsと前方物体センサ14から出力される相対距離L及び相対速度Vrがブレーキ制御用コントローラ20に入力され、このブレーキ制御用コントローラ20によって、自車両の走行車線前方の物体との接触可能性を判断する第1の評価指標THW及び第2の評価指標TTCを算出し、第1及び第2の評価指標と前方物体との相対速度Vrとに応じて制駆動力補正トルクTcを算出する。制駆動力補正トルクTcは前方物体との接触を回避するための接触回避制動トルクであり、アクセルペダル12a又はブレーキペダル9aの踏込量に対応するドライバ要求制駆動トルクTdに加算することにより、制動力が作用するようにドライバ要求制駆動トルクTdを補正する。
【0012】
また、ブレーキ制御用コントローラ20では、前方物体との接触可能性TDDを算出し、接触可能性TDD及び相対速度Vrに応じて反発トルクTfを算出する。この反発トルクTfも前方物体との接触を回避するための接触回避制動トルクであり、制駆動力補正トルクTcに応じて補正されたドライバ要求制駆動トルクTdに加算することにより目標駆動トルクTW *を演算し、この目標駆動トルクTW *を実現するための制動圧指令値PBR及び目標スロットル開度θ*を制動制御装置8及びエンジン出力制御装置11に出力する。ここで、制駆動力補正トルクTc及び反発トルクTfは負の値として算出される。
このブレーキ制御用コントローラ20は、マイクロコンピュータとその周辺機器を備え、マイクロコンピュータのソフトウェア形態により、図3に示す制御ブロックを構成している。
【0013】
この制御ブロックは、前方物体センサ14でレーザ光を掃射してから前方物体の反射光を受光するまでの時間を計測し、前方物体との相対距離L及び相対速度Vrを演算する測距信号処理部21と、測距信号処理部21で演算された相対距離L、相対速度Vr及び自車速Vsに基づいて前方物体との接触可能性を判断する評価指標に応じた制駆動力補正トルクTcを演算する制駆動力補正トルク演算部30と、アクセルペダル12a又はブレーキペダル9aの踏込量に対応するドライバ要求制駆動トルクTdを算出するドライバ要求制駆動トルク演算部25と、制駆動力補正トルク演算部30で演算した制駆動力補正トルクTcに基づいてドライバ要求制駆動トルク演算部25で演算したドライバ要求制駆動トルクTdを補正するドライバ要求トルク補正部51と、相対距離L及び自車速Vsに基づいて前方物体との接触可能性に応じた反発トルクTfを演算する反発トルク演算部40と、この反発トルク演算部40で演算した反発トルクTfに基づいて、ドライバ要求トルク補正部51で補正したドライバ要求駆動トルクTdをさらに補正して目標駆動トルクTW *を演算する目標駆動軸トルク演算部52と、この目標駆動軸トルク演算部52で演算された目標駆動トルクTW *に基づいてスロットルアクチュエータ12及びブレーキアクチュエータ7に対するスロットル開度指令値θR 及び制動圧指令値PBRを演算し、これらをスロットルアクチュエータ12及びブレーキアクチュエータ7に出力する駆動軸トルク制御部60とを備えている。
【0014】
ドライバ要求制駆動トルク演算部25は、運転者がアクセルペダルを踏んでいるときには、アクセル踏込量センサ12bで検出したアクセルペダル踏込量に対応する駆動トルクをドライバ要求制駆動トルクTdとして算出し、運転者がアクセルペダルから足を放し、且つブレーキペダルを踏んでいないときには、エンジン回転速度センサ17で検出したエンジン回転速度NEに基づいたエンジンブレーキトルクをドライバ要求制駆動トルクTdとして算出し、運転者がアクセルペダルから足を放し、且つブレーキペダルを踏んでいるときには、エンジンブレーキトルクとブレーキ踏込量センサ12bで検出したブレーキペダル踏込量に対応する制動トルクとの加算値をドライバ要求制駆動トルクTdとして算出する。
【0015】
ドライバ要求トルク補正部51は、ドライバ要求制駆動トルクTdに制駆動力補正トルクTcを加算することにより、自車両に制動力を作用させるようにドライバ要求制駆動トルクTdを補正し、補正したドライバ要求制駆動トルクTdを目標駆動軸トルク演算部52に出力する。ここで、制駆動力補正トルクTcは負の値として算出されるため、図4(a)の実線に示す実際のドライバ要求制駆動トルクTdは、図4(a)の破線で示すように補正される。
【0016】
また、目標駆動軸トルク演算部52は、制駆動力補正トルクTcにより補正されたドライバ要求制駆動トルクTdに反発トルクTfを加算することにより、目標駆動トルクTW *を演算し、この目標駆動トルクTW *を駆動軸トルク制御部60に出力する。ここで、反発トルクTfは負の値として算出されるため、図4(b)の実線に示す制駆動力補正トルクTcにより補正されたドライバ要求制駆動トルクTdは、反発トルクTfにより図4(b)の破線で示すように補正される。
【0017】
また、駆動軸トルク制御部60は、目標駆動トルクTW *を実現するためのスロットル開度指令値θR とブレーキ液圧指令値PBRとを演算し、スロットル開度指令値θR をエンジン出力制御装置11に出力すると共に、ブレーキ液圧指令値PBRを制動制御装置8に出力する。
なお、上述したドライバ要求トルク補正部51、目標駆動軸トルク演算部52及び駆動軸トルク制御部60で制駆動力制御手段を構成している。
【0018】
次に、第1の実施形態の動作を制駆動力補正トルク演算部30で実行する制駆動力補正トルク演算処理手順を示す図5を伴って説明する。
この制駆動力補正トルク演算処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS1で、前方物体センサ14で検出した相対距離L及び相対速度Vr、車速センサ13で検出した自車速Vsを読込み、次いでステップS2に移行して、自車両と前方物体との接触可能性を判断する第1の評価指標としての車間時間THW及び第2の評価指標としての衝突時間TTCを算出する。車間時間THWは、自車速Vs及び相対距離Lに基づいて下記(1)式をもとに算出し、衝突時間TTCは、相対速度Vr及び相対距離Lに基づいて下記(2)式をもとに算出する。
【0019】
THW=L/Vs ………(1)
TTC=L/Vr ………(2)
また、前方物体センサ14で複数の物体を検出した場合には、各物体について、車間時間THW及び衝突時間TTCを得る。
次にステップS3で、車間時間THWが最小となる物体を選択し、この物体の車間時間THWが、車間時間THWの比較に用いる所定の閾値THW*以下であるか否かを判定する。THW≦THW*であるときには、ステップS4に移行して、下記(3)式をもとに制駆動力補正トルクTc1を算出する。これにより、制駆動力補正トルクTc1は負の値として算出される。
【0020】
Tc1=K1×(THW−THW*)×Vs×α ………(3)
ここで、K1はバネ定数、αはトルク換算係数であり、それぞれ所定の値とする。
一方、ステップS3の判定結果が、THW>THW*であるときにはステップS5に移行して、Tc1=0とする。
次にステップS6で、衝突時間TTCが最小となる物体を選択し、この物体の衝突時間TTCが、衝突時間TTCの比較に用いる所定の閾値TTC*以下であるか否かを判定する。TTC≦TTC*であるときには、ステップS7に移行して、下記(4)式をもとに制駆動力補正トルクTc2を算出する。これにより、制駆動力補正トルクTc2は負の値として算出される。
【0021】
Tc2=K2×(TTC−TTC*)×Vs×α ………(4)
ここで、K2はバネ定数、αはトルク換算係数であり、それぞれ所定の値とする。
一方、ステップS6の判定結果が、TTC>TTC*であるときにはステップS8に移行して、Tc2=0とする。
次にステップS9で、前記ステップS4又はS5、及びステップS7又はS8で算出した制駆動力補正トルクTc1及びTc2のうち、大きい方の値を選択して設定する。
Tc_max=max(Tc1,Tc2) ………(5)
ここで、max( )は、括弧内の大きい方を選択する関数である。
【0022】
次にステップS10に移行して、図6に示すマップを参照して前方物体との相対速度Vrに応じて設定した補正係数βに基づいて制駆動力補正トルクTc_maxを補正し、最終的な制駆動力補正トルクTcを算出する。
Tc=Tc_max×β ………(6)
ここで、補正係数βは、図6に示すように前方物体の速度が自車速以下であるとき、即ちVr≦0であるときにはβ=100%に設定される。一方、前方物体の速度が自車速より大きいときには、補正係数βは100%より小さい値となるように設定され、相対速度Vrが所定値VrSETまでは一定の減少変化量で変化し、所定値VrSET以上では所定値βSETを維持するように設定される。
【0023】
そして、ステップS11で、前記ステップS10で補正した制駆動力補正トルクTcをドライバ要求トルク補正部51へ出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
この図5の処理において、ステップS2の処理が評価指標演算手段に対応し、ステップS3〜S10の処理が第1制動トルク演算手段に対応している。
【0024】
次に、反発トルク演算部40で実行する反発トルク演算処理手順を、図7を伴って説明する。
この反発トルク演算処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS21で、前方物体センサ14で検出した相対距離L、相対速度Vr、車速センサ13で検出した自車速Vsを読込み、次いでステップS22に移行して、自車両と前方物体との接触可能性TDDを算出する。接触可能性TDDは、前方物体との相対距離Lを自車速Vsで除した車間時間であり、下記(7)式をもとに算出する。
【0025】
TDD=L/Vs ………(7)
次にステップS23に移行して、図8に示す反発トルクゲインマップを参照して、相対速度Vrに応じた反発トルクゲインGを算出する。反発トルクゲインGは前方物体の速度が自車速以下であるとき、即ちVr≦0であるときにはG=100%に設定される。一方、前方物体の速度が自車速より大きいときには、反発トルクゲインGは100%より小さい値となるように設定され、相対速度Vrが所定値VrSETまでは一定の減少変化量で変化し、所定値VrSET以上では所定値GSETを維持するように設定される。
【0026】
次にステップS24に移行して、前記ステップS22で算出した接触可能性TDDが所定の制御介入閾値TDD*以下であるか否かを判定する。TDD≦TDD*であるときには、ステップS25に移行して下記(8)式をもとに反発トルクTfを算出する。これにより、反発トルクTfは負の値として算出される。
Tf=G×K×(TDD−TDD*)×Vs×α ………(8)
ここで、Kはバネ定数、αはトルク換算係数であり、それぞれ所定の値とする。
【0027】
一方、ステップS24の判定結果が、TDD>TDD*であるときにはステップS26に移行して、Tf=0とする。
そして、ステップS27で、前記ステップS25又はS26で算出した反発トルクTfを目標駆動軸トルク演算部52へ出力してからタイマ割込処理を終了して所定のメインプログラムに復帰する。
この図7の処理において、ステップS22の処理が接触可能性演算手段に対応し、ステップS23〜S26の処理が第2制動トルク演算手段に対応している。
【0028】
したがって、今、自車両が先行車両と車速を一致させて走行中であるとする。この場合には、先ず、図5の制駆動力補正トルク演算処理において、ステップS2で、先行車両との接触の可能性を判断するために、先行車両に対する車間時間THW及び衝突時間TTCが算出される。このとき、自車両が先行車両に対してある程度の車間距離を有しており、車間時間THW及び衝突時間TTCが夫々の所定の閾値より大きいときには、ステップS5で制駆動力補正トルクTc1が0となり、次いでステップS8で制駆動力補正トルクTc2が0となる。したがって、ステップS10で最終的な制駆動力補正トルクTcも0となり、Tc=0をドライバ要求トルク補正部51に出力することにより、運転者のアクセル又はブレーキ操作に応じて算出される通常のドライバ要求制駆動トルクTdは、制駆動力補正トルクTcによって補正されることなく、そのまま目標駆動軸トルク演算部52へ出力される。
【0029】
そして、一方では、図7の反発トルク演算処理において、ステップS22で制御介入閾値TDD*より大きい接触可能性TDDが算出され、TDD>TDD*であるため、ステップS26で反発トルクTfは0となる。Tf=0を目標駆動軸トルク演算部52に出力することにより、前記ドライバ要求トルク補正部51で出力されたドライバ要求制駆動トルクTdがそのまま目標駆動トルクTW *として算出されるので、先行車両との接触回避のための制動力が作用することなく、運転者のアクセル又はブレーキ操作に応じた走行を継続する。このときのトルク特性は、図9(a)に示すような通常トルク特性T=Aθとなる。
【0030】
この状態から、自車両が加速を行って自車速Vsが先行車速Vp以上となり、先行車両との車間距離が狭くなるなどにより、車間時間THW及び衝突時間TTCが夫々の所定の閾値以下となったときには、ステップS9で、ステップS4で前記(3)式をもとに算出された制駆動力補正トルクTc1、及びステップS7で前記(4)式をもとに算出された制駆動力補正トルクTc2のうち、大きい方の値が選択される。Vs≧Vpより相対速度はVr≦0であり、図6に示すマップからβ=100%が算出されるので、ステップS10で、前記ステップS9で設定された値が最終的な制駆動力補正トルクTcとして算出される。そして、この制駆動力補正トルクTcをドライバ要求トルク補正部51に出力することにより、制駆動力補正トルクTcが通常のドライバ要求制駆動トルクTdに加算された値が目標駆動軸トルク演算部52へ出力される。この段階でのトルク特性は図9(b)の破線に示すような通常制御トルク特性T=Aθ+B0となる。
【0031】
そして、一方では、図7の反発トルク演算処理において、Vr≦0であるのでステップS23で反発トルクゲインGが100%として算出され、TDD≦TDD*であるのでステップS25で前記(8)式をもとに負の値となる反発トルクTfが算出される。これにより、反発トルクTfを前記ドライバ要求トルク補正部51で出力されたドライバ要求制駆動トルクに加算した目標駆動トルクTW *を実現するための制動圧指令値PBR及び目標スロットル開度θ* が制動制御装置8及びエンジン出力制御装置11に出力されるので、自車両に先行車両との接触回避のための制動力が作用する。したがって、このときのトルク特性は、最終的に図9(b)の一点鎖線に示すような通常制御トルク特性T=Aθ+B1となる。
【0032】
一方、自車両の前に、自車速Vsより大きい車速の先行車両が割り込んだ場合には、先行車両との車間距離が狭くなって車間時間THWが所定の閾値以下となり、さらに相対速度はVr>0であるので、ステップS10で、図6に示すマップから100%より小さい補正係数βが算出され、制駆動力補正トルクTcはVr≦0のときの制駆動力補正トルクより小さく算出される。また、図7の反発トルク演算処理において、ステップS23で反発トルクゲインGが100%より小さい値として算出されるので、ステップS25で、反発トルクTfはVr≦0のときの反発トルクTfより小さく算出される。これにより、自車両と先行車両との相対速度がVr≦0である状態で走行している場合と比較して、自車両に作用する接触回避のための制動力が抑制される。したがって、このときのトルク特性は図9(c)の破線に示すような制御トルク特性T=Aθ+B2となる。ここで、図9(c)の一点鎖線に示す特性は、相対速度がVr≦0である場合の通常制御トルク特性である。相対速度Vrが大きいほど補正係数βは小さく算出されるので、制御トルク特性は図9(c)の実線に示す通常トルク特性へ近づき、運転者の要求する制駆動トルクが発生しやすい方へ補正されることになる。
【0033】
このように、上記第1の実施形態では、前方物体との接触の可能性だけでなく、前方物体との相対速度に応じて制駆動力補正トルクの大きさを変更し、相対速度が大きいほど制駆動力補正トルクを減少方向へ大きく補正するので、先行車両が自車両の前に割り込んだ場合で、先行車速が自車速より大きい場合には、相対速度が大きいほど制駆動力補正トルクを小さく算出してドライバ要求制駆動トルクを発生しやすくすることができるので、先行車両が遠ざかっていくにも関わらず自車両に接触回避のための制動力が作用することによる運転者の違和感を抑制することができると共に、先行車速が自車速以下の場合には、先行車両への接近度合に応じて制駆動力補正トルクを大きく算出するので、安全走行を確保することができる。
【0034】
また、前方物体との接触の可能性だけでなく、前方物体との相対速度に応じて反発トルクの大きさを変更し、相対速度が大きいほど反発トルクを減少方向へ大きく補正するので、先行車両が自車両の前に割り込んだ場合で、先行車速が自車速より大きい場合には、相対速度が大きいほど反発トルクを小さく算出してドライバ要求制駆動トルクを発生しやすくすることができるので、先行車両が遠ざかっていくにも関わらず自車両に接触回避のための制動力が作用することによる運転者の違和感を抑制することができると共に、先行車速が自車速以下の場合には、先行車両への接近度合に応じて反発トルクを大きく算出するので、安全走行を確保することができる。
【0035】
さらに、前方物体との接触可能性と相対速度に基づいて制駆動力補正トルク及び反発トルクを算出し、両者に応じて自車両に制動力を発生させる方向へドライバ要求制駆動トルクを補正するので、前方物体との接触の可能性がある場合には目標駆動トルクTW *が小さく算出され、先行車両との接近に応じて運転者がアクセルペダルを放した場合に、自車両に大きな反発力が発生せず運転者に違和感のない走行を行うことができる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、前方物体との相対速度に応じた補正係数β及び反発トルクゲインGの減少変化量を、自車両の割り込み判断に応じて変化させるようにしたものである。
図10は、第2の実施形態において、制駆動力補正トルク演算部30において実行される制駆動力補正トルク演算処理の処理手順を示すフローチャートであって、図5に示す第1の実施形態における制駆動力補正トルク演算処理において、ステップS9の後に自車両の割り込み判断を行うステップS201と、自車両の割り込み判断に応じて補正係数マップを設定するステップS202とが追加され、ステップS10の処理が、前記ステップS202で設定した補正係数マップを参照して補正係数βを算出し、最終的な制駆動力補正トルクTcを算出するステップS203の処理に置換されていることを除いては図5と同様の処理を行い、図5と同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
【0037】
図10の処理において、ステップS201の処理が割り込み判断手段に対応している。
この第2の実施形態によると、ステップS201で、自車両が車線変更をして隣接車線の先行車両に割り込んだか否かを判定する。この判定は、運転者操作によるウィンカー信号やハンドル操舵角δを用いて行い、操舵角δが予め設定した操舵角設定値δS以上で且つウィンカー指示方向と操舵方向が一致しているときに、自車両が車線変更すると判断する。さらに、このとき前方物体センサ14で前方物体を検出しており、且つ前方物体との相対速度Vrが正の値をとるとき、自車両が自車速Vsより速い速度Vpで走行している先行車両に割り込んだと判断する。
【0038】
次いでステップS202で、自車両の割り込み判断に応じて図11に示すような補正係数マップを設定する。この補正係数マップは、前方物体の速度が自車速以下であるとき、即ちVr≦0であるときにはβ=100%を維持し、前方物体の速度が自車速より大きいときには、補正係数βは100%より小さい値となるように設定され、相対速度Vrが所定値VrSETまでは一定の減少変化量で変化し、所定値VrSET以上では所定値βSETを維持するように設定される。ここで、所定値VrSETは自車両が車線変更をして隣接車線に割り込んだと判断したときに小さい値となるように設定する。次いでステップS203に移行して、前記ステップS202で設定した補正係数マップを参照して相対速度Vrに応じた補正係数βを算出し、前記(6)式をもとに最終的な制駆動力補正トルクTcを算出する。
【0039】
また、図12は、第2の実施形態において、反発トルク演算部40において実行される反発トルク演算処理の処理手順を示すフローチャートであって、図7に示す第1の実施形態における反発トルク演算処理において、ステップS22の後に自車両の割り込み判断を行うステップS211と、自車両の割り込み判断に応じて反発トルクゲインマップを設定するステップS212とが追加され、ステップS23の処理が、前記ステップS212で設定した反発トルクゲインマップを参照して反発トルクゲインGを算出するステップS213の処理に置換されていることを除いては図7と同様の処理を行い、図7と同一部には同一符号を付与しその詳細な説明は省略する。
【0040】
図12の処理において、ステップS211の処理が割り込み判断手段に対応している。
この第2の実施形態によると、ステップS211で、自車両が車線変更をして隣接車線の先行車両に割り込んだか否かを判定する。この判定は、運転者操作によるウィンカー信号やハンドル操舵角δを用いて行い、操舵角δが予め設定した操舵角設定値δS以上で且つウィンカー指示方向と操舵方向が一致しているときに、自車両が車線変更すると判断する。さらに、このとき前方物体センサ14で前方物体を検出しており、且つ前方物体との相対速度Vrが正の値をとるとき、自車両が自車速Vsより速い速度Vpで走行している先行車両に割り込んだと判断する。
【0041】
次いでステップS212で、自車両の割り込み判断に応じて図13に示すような反発トルクゲインマップを設定する。この反発トルクゲインマップは、前方物体の速度が自車速以下であるとき、即ちVr≦0であるときにはG=100%を維持し、前方物体の速度が自車速より大きいときには、反発トルクゲインGは100%より小さい値となるように設定され、相対速度Vrが所定値VrSETまでは一定の減少変化量で変化し、所定値VrSET以上では所定値GSETを維持するように設定される。ここで、所定値VrSETは自車両が車線変更をして隣接車線に割り込んだと判断したときに、それ以外の走行時での所定値VrSETより小さい値となるように設定する。次いでステップS213に移行して、前記ステップS212で設定した反発トルクゲインマップを参照して相対速度Vrに応じた反発トルクゲインGを算出する。
【0042】
このように、上記第2の実施形態では、自車両が車線変更をして隣接車線の先行車両に割り込んだか否かを判断し、自車両が割り込んだと判断され、且つ先行車速が自車速より大きいときに、先行車両との相対速度に応じた制駆動力補正トルクを小さく算出するので、運転者が自ら先行車両に割り込んだ場合には、運転者は先行車両を認識しているため、先行車両との接触回避のための制動力が作用することによる違和感を抑制することができると共に、先行車両が自車両の前に割り込んできた場合には、自車両が先行車両に割り込んだ場合と比較して制駆動力補正トルクが大きく算出されるため、確実に制動力を作用させて安全走行を確保することができる。
【0043】
また、自車両が車線変更をして隣接車線の先行車両に割り込んだか否かを判断し、自車両が割り込んだと判断され、且つ先行車速が自車速より大きいときに、先行車両との相対速度に応じた反発トルクを小さく算出するので、運転者が自ら先行車両に割り込んだ場合には、運転者は先行車両を認識しているため、先行車両との接触回避のための制動力が作用することによる違和感を抑制することができると共に、先行車両が自車両の前に割り込んできた場合には、自車両が先行車両に割り込んだ場合と比較して反発トルクが大きく算出されるため、確実に制動力を作用させて安全走行を確保することができる。
【0044】
なお、上記各実施形態においては、前方物体センサ14としてレーザレーダを使用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ミリ波レーダ等を適用してもよく、ステレオカメラで自車両前方を撮像した画像を処理することにより前方物体の情報を検出するようにしてもよい。
また、上記各実施形態においては、後輪駆動車に本発明を適用した場合について説明したが、前輪駆動車に本発明を適用することもでき、また回転駆動源としてエンジン2を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動モータを適用することもでき、さらには、エンジンと電動モータとを使用するハイブリッド仕様車にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】アクセル又はブレーキペダル踏込量に対応する制駆動トルクの説明図である。
【図3】図1のブレーキ制御用コントローラの具体例を示すブロック図である。
【図4】図3の目標駆動軸トルク演算部で実行する制駆動力制御の説明図である。
【図5】第1の実施形態における制動制御用コントローラで実行する制駆動力補正トルク演算処理を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における補正係数マップである。
【図7】第1の実施形態における制動制御用コントローラで実行する反発トルク演算処理を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態における反発トルクゲインマップである。
【図9】第1の実施形態の動作を説明する図である。
【図10】第2の実施形態における制動制御用コントローラで実行する制駆動力補正トルク演算処理を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態における補正係数マップである。
【図12】第2の実施形態における制動制御用コントローラで実行する反発トルク演算処理を示すフローチャートである。
【図13】第2の実施形態における反発トルクゲインマップである。
【符号の説明】
2 エンジン
3 自動変速機
7 ディスクブレーキ
8 制動制御装置
11 エンジン出力制御装置
12 スロットルアクチュエータ
13 車速センサ
14 前方物体センサ
15 操舵角センサ
17 エンジン回転速度センサ
20 ブレーキ制御コントローラ
25 ドライバ要求制駆動トルク演算部
30 制駆動力補正トルク演算部
40 反発トルク演算部
51 ドライバ要求トルク補正部
52 目標駆動軸トルク演算部
60 駆動軸トルク制御部
Claims (6)
- 自車両前方の物体を検出する前方物体検出手段と、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と前記車速検出手段で検出した自車速とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第1の評価指標、及び前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と相対速度とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第2の評価指標を夫々演算する評価指標演算手段と、前記評価指標演算手段で演算した第1及び第2の評価指標と前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度とに基づいて接触回避制動トルクを演算する接触回避制動トルク演算手段と、該接触回避制動トルク演算手段で演算した接触回避制動トルクと運転者の操作による制駆動トルクとに応じて制駆動力を制御する制駆動力制御手段とを備えていることを特徴とする自動ブレーキ制御装置。
- 自車両前方の物体を検出する前方物体検出手段と、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と前記車速検出手段で検出した自車速とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第1の評価指標、及び前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と相対速度とをもとに前方物体との接触可能性を判断する第2の評価指標を夫々演算する評価指標演算手段と、前記評価指標演算手段で演算した第1及び第2の評価指標と前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度とに基づいて第1の接触回避制動トルクを演算する第1制動トルク演算手段と、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対距離と前記車速検出手段で検出した自車速とをもとに前方物体との接触可能性を演算する接触可能性演算手段と、前記接触可能性演算手段で演算した接触可能性と前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度とに基づいて第2の接触回避制動トルクを演算する第2制動トルク演算手段と、前記第1制動トルク演算手段で演算した第1の接触回避制動トルクと前記第2制動トルク演算手段で演算した第2の接触回避制動トルクと運転者の操作による制駆動トルクとに応じて制駆動力を制御する制駆動力制御手段とを備えていることを特徴とする自動ブレーキ制御装置。
- 前記第1制動トルク演算手段は、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度が大きくなるに応じて第1の接触回避制動トルクが減少するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動ブレーキ制御装置。
- 前記第2制動トルク演算手段は、前記前方物体検出手段で検出した前方物体との相対速度が大きくなるに応じて第2の接触回避制動トルクが減少するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動ブレーキ制御装置。
- 自車両が車線変更をして隣接車線に割り込んだことを判断する割り込み判断手段を有し、前記第1制動トルク演算手段は、前記割り込み判断手段で自車両が隣接車線に割り込んだと判断したときに、第1の接触回避制動トルクをそれ以外の走行時での第1の接触回避制動トルクに対して小さくするように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の自動ブレーキ制御装置。
- 自車両が車線変更をして隣接車線に割り込んだことを判断する割り込み判断手段を有し、前記第2制動トルク演算手段は、前記割り込み判断手段で自車両が隣接車線に割り込んだと判断したときに、第2の接触回避制動トルクをそれ以外の走行時での第2の接触回避制動トルクに対して小さくするように構成されていることを特徴とする請求項2又は4に記載の自動ブレーキ制御装置。
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