JP4090702B2 - ガソリン組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術的分野】
本発明は、ガソリン組成物に関し、詳しくは、特定の性状のガソリンに高い潤滑性能を有する化合物を含有させることにより、従来の性能に加え、更に燃費および出力特性が改良されたガソリン組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
省資源及び地球温暖化抑制の観点から世界的に化石燃料の使用を減らすことが求められており、ガソリン自動車に対しては燃費の向上が最大の課題となっている。
従来、車両および燃料の改善により車両燃費の改善が鋭意試みられ、一部が実用化されている。車両による燃費の改善策としては、例えば、筒内直接噴射式ガソリンエンジンの採用、ハイブリッド機構の採用及び車両の軽量化等による事例が数多く報告されている。また燃料による燃費の改善策としては、例えば、ポリエーテルアミン、ポリブテニルアミンに代表されるエンジン清浄剤を含有した燃料を使用することによってエンジン内に堆積したデポジットを除去し、ひいては、車両燃費を向上させた例などが知られている。
【0003】
近年、新たなタイプの添加剤をガソリンに含有させることにより、車両燃費を向上させる方法が提案されている。例えば、特開平11−310783号公報には、アミン化合物およびカルボン酸の多価アルコールとのエステルを同時に燃料に含有させた燃料組成物および摩擦の低減、燃費の向上方法が開示されている。EP0869163A1の明細書には、アミン化合物を含有した燃料による、エンジンフリクション低減方法および燃費の改善方法が開示されている。第7回燃料及び潤滑油アジア会議会報「PROCEEDINGS OF THE 7th ANNUAL FUELS & LUBES ASIA CONFERENCE 」には、ガソリン摩擦調整剤「gasoline friction modifier」を使用することによって燃費が4%以上向上することがトーマスイー・ハイデン「Thomas E. Hayden 」により報告されている。
本来、自動車用の燃料の性状としては、排出ガスの浄化特性、燃費特性、及び運転性能を高度にバランスさせ得るものであることが望まれる。特に新たなタイプの添加剤を添加し、燃費および運転性能(特に出力特性)を向上させるためには、他の性能を高度に維持させながら、該添加剤による燃費および出力特性向上効果を十分に引き出すように添加剤にあわせたガソリン性状の設計が求められる。しかし、上記のような添加剤と従来のガソリン又はガソリン組成物との組み合わせにおいては、マッチングが十分とはいえず、従って充分な燃費および出力特性向上効果が得られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の性能に加え、高い燃費および出力特性をもつガソリン組成物を提供することである。特に本発明の目的は、高い潤滑性示す添加剤化合物の添加効果を最大限に引き出すように該化合物と特定の性状のガソリン又はガソリン組成物とをマッチングさせることで高い燃費および出力特性を実現したガソリン組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、20mg/L添加した場合のガソリンHFRR試験における摩耗痕径が、無添加の試験用ガソリン(JIS K 2202に規定される1号ガソリン)の場合に比べて10%以上の改善率を示す化合物を含有し、かつ(1)リサーチオクタン価(RON)が95以上、(2)モーターオクタン価(MON)が83以上、(3)蒸気圧(37.8℃)が44〜65kPa、そして(4)硫黄分が10ppm以下であることを特徴とするガソリン組成物にある。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のガソリン組成物は、ガソリン(あるいはガソリン組成物)とガソリンHFRR試験で所定の高潤滑性能を示す化合物とからなるものである。
本発明で用いる高潤滑性を示す化合物は、ガソリンHFRR試験において該化合物を20mg/L添加した場合における摩耗痕径が、試験用ガソリン単独の場合に比べ10%以上、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上の改善率を示すものである(以下、単に潤滑性向上剤と称する場合もある)。ガソリンHFRR試験における摩耗痕径の改善率が10%未満の場合、充分な燃費および出力特性向上効果を得ることができない。ここでガソリンHFRR試験の摩耗痕径とは、下記の条件でHFRR試験を行い、試験後の試験球に付いた円状の傷の振動方向の直径と振動方向に垂直な方向の直径を測定した平均摩耗痕直径(WSD:μm)を意味する。
【0007】
ガソリンHFRR試験は、基本的にJPI−5S−50−97の規定に従って行われる試験であって、HFRR試験に用いたガソリンの性状、測定器具及び測定条件は下記の通りである。
(1)ガソリンの性状(JIS K 2202に規定される1号ガソリン)
リサーチオクタン価(RON):96.0以上
密度(15℃):0.783g/cm3以下
蒸留性状:
10容量%留出温度(T10):70℃以下
50容量%留出温度(T50):75〜110℃
90容量%留出温度(T90):180℃以下
蒸留終点:220℃以下
残油量:2.0容量%以下
銅板腐食(50℃、3h):1以下
硫黄分:0.01質量%以下
蒸気圧(37.8℃):44〜78kPa
酸化安定度:240分以上
ベンゼン含有量:1容量%以下
MTBE含有量:7容量%以下
色:オレンジ
未洗ガム:20mg/100mL以下
【0008】
(2)測定器具
(試験球)
材質:ANSI52100
硬度:645HV30
表面粗さ:0.1μmRa以下
直径:6.25 mm
【0009】
(試験板)
材質:ANSI52100
硬度:180HV30
表面粗さ:0.1μmRa以下
【0010】
(3)測定条件
荷重:2N
試験温度:20℃
ストローク:1.0mm
振動数:50Hz
時間:30分
試験室温度:15℃
試験室湿度:60%
【0011】
上記ガソリンHFRR試験における摩耗痕径が、10%以上の改善率を示す化合物としては、具体的には、高級アルコール;ヒドロキシル基を1〜4個有する炭素数1〜30のアルコール化合物;高級カルボン酸;高級モノカルボン酸とグリコールまたは3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル;高級ポリカルボン酸と多価アルコールとのエステル;>NR(Rは炭素原子数5〜40の炭化水素基である)基を含む組成を示し、1以上の置換基を有する少なくとも1個の窒素化合物とを組み合わせた多価アルコールのエステル;高級カルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物等があげられる。これらは、単独であるいは混合物として用いることができる。これらのうちでは、炭素数10〜25の高級モノカルボン酸とグリコールまたは3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル及び/又は炭素数5〜25の高級カルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物が好ましく、炭素数10〜25の高級モノカルボン酸とグリセリンエステル及び/又は炭素数5〜25の高級モノカルボン酸とジエタノールアミンとのアミド化合物が最も好ましい。
【0012】
上記潤滑性向上剤の添加量は特に制限はないが、十分な燃費および出力改善効果を発揮させる、一方、それ以上添加しても効果の向上が期待できないなどの点からガソリン組成物1L中に10〜300mgの含有量となるように添加することが好ましい。更に好ましくはその含有量は、30mg以上、250mg以下である。
【0013】
本発明のガソリン組成物は、上記潤滑性向上剤をベースとなるガソリン(又はガソリン組成物)に添加して調製される。用いるベースとなるガソリン(又はガソリン組成物)の性状に付いては、最終的に得られる本発明のガソリン組成物の性状が、上記潤滑性向上剤の添加により殆ど影響を受けないために、ベースガソリン(又はガソリン組成物)の性状は、そのまま本発明のガソリン組成物の性状に反映される。従って、ベースガソリン(又はガソリン組成物)の性状は、基本的に本発明のガソリン組成物の性状と同等な性状を示す。
【0014】
ガソリン(又ガソリン組成物)は、調製後のガソリン組成物が、本発明で規定する性状を有するように一種又は二種以上のガソリン基材を混合し、所望により必要な添加剤を添加することで調製することができる。
ガソリン基材は、従来公知の任意の方法で製造することができる。ガソリン基材としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる軽質ナフサ;接触分解法、水素化分解法などで得られる分解ガソリン;接触改質法で得られる改質ガソリン;オレフィンの重合によって得られる重合ガソリン;イソブタンなどの炭化水素に低級オレフィンを付加(アルキル化)することによって得られるアルキレート;軽質ナフサを異性化装置でイソパラフィンに転化して得られる異性化ガソリン;脱n−パラフィン油;ブタン;芳香族炭化水素化合物;プロピレンを二量化し、続いてこれを水素化して得られるパラフィン留分などが挙げられる。
【0015】
典型的なガソリンの配合例を以下に記載する。但し、各ガソリン基材の個々の配合量は、最終的に得られるガソリンが、本発明のガソリン組成物としての規定を満足するように調整される。
(1)改質ガソリン:0〜70容量%
(2)改質ガソリンの軽質留分(沸点範囲:25〜120℃程度)
:0〜35容量%
(3)改質ガソリンの重質留分(沸点範囲:110℃〜200℃程度)
:0〜45容量%
(4)分解ガソリン:0〜50容量%
(5)分解ガソリンの軽質留分(沸点範囲:25〜90℃程度)
:0〜45容量%
(6)アルキレート:0〜40容量%
(7)プロピレンを二量化し、続いてこれを水素化して得られるパラフィン留分
:0〜30容量%
(8)異性化ガソリン:0〜30容量%
(9)MTBE :0〜15容量%
(10)軽質ナフサ:0〜10容量%
(11)ブタン :0〜10容量%
【0016】
ガソリン(又はガソリン組成物)を製造するにあたって、ベンゼンの含有量を低減させる場合、その低減方法は任意であるが、特にベンゼンは改質ガソリン中に多く含まれていることから、改質ガソリンの配合割合を少なくする方法、あるいは改質ガソリン中のベンゼン濃度を低下させる処理を行った後にガソリン基材として用いる方法を利用することが好ましい。ベンゼン濃度を低下させる処理としては下記の方法を挙げることができる。
(1)改質ガソリンを蒸留してベンゼン留分を除去する
(2)改質ガソリン中のベンゼンをスルホラン等の溶剤を用いて抽出する
(3)改質ガソリン中のベンゼンを他の化合物に転化する
(A)ベンゼンを水素化しシクロヘキサン、メチルシクロペンタン等に転化する
(B)ベンゼンおよび炭素数9以上の芳香族炭化水素化合物とを反応させ、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等に転化する
(C)ベンゼンを低級オレフィン(エチレン、プロピレン等)または低級アルコール(メタノール、エタノール等)を用いてアルキル化する
(4)接触改質装置の原料として、炭素数6の炭化水素化合物を蒸留して除去した脱硫重質ナフサを用いる
(5)接触改質装置の運転条件を変更する
【0017】
上記ガソリン(又ガソリン組成物)に添加することができる清浄分散剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどのガソリン清浄分散剤として公知の化合物を挙げることができる。特に、用いる清浄分散剤としては空気中300℃で熱分解を行った場合にその残分が無いものであることが望ましい。これらの添加剤の添加によりIVDを防止し、CCDを低減させることができる。清浄分散剤の添加量はガソリン全量基準で通常1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。
【0018】
以上のようにして調製される本発明のガソリン組成物は、燃費および出力特性向上という本発明の効果が十分に発揮されるために下記(1)〜(4)の性状を同時に満足することが必要である。
(1) リサーチオクタン価(RON)が95以上
(2) モーターオクタン価(MON)が83以上
(3) 蒸気圧(37.8℃)が44〜65kPa
(4) 硫黄分が10ppm以下
また、本発明の効果をさらに向上させるために上記(1)〜(4)の性状は
それぞれ(1)99.5以上、(2)86以上、(3)50〜60kPa、(4)8ppm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のガソリン組成物のリサーチ法オクタン価(RON)は95以上、好ましくは、98以上であり、さらに好ましくは99.5以上である。RONが95に満たない場合には耐ノッキング性が悪くなり好ましくない。また、モーター法オクタン価(MON)は83以上、好ましくは、86以上である。MONが83に満たない場合には高速走行中の耐ノッキング性が悪くなり好ましくない。ここで、リサーチ法オクタン価およびモ−タ−法オクタン価とは、それぞれJIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価およびモ−タ−法オクタン価を意味する。
【0020】
本発明のガソリン組成物の蒸気圧(37.8℃)は、その上限が65kPa、好ましくは60kPaである。蒸気圧が65kPaより大きくなると、ベーパーロックによる高温運転性の不具合や、エバポエミッションの量が増加する等の不都合が生じる可能性がある。またその下限は44kPa、好ましくは50kPaである。蒸気圧が44kPaより小さくなると、冷機状態での始動性に不具合が生じる可能性がある。ここで蒸気圧とは、JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リ−ド法)」により測定される蒸気圧(リード蒸気圧(RVP))を意味する。
【0021】
本発明のガソリン組成物は、その硫黄分が組成物全量基準で10ppm以下、好ましくは8ppm以下である。硫黄分が10ppmを越える場合、排出ガス処理触媒の性能に悪影響を及ぼし、排出ガス中のNOx、CO、HCの濃度が高くなる可能性があり、またベンゼンの排出量も増加する可能性がある。ここで、硫黄分とは、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される硫黄含有量を意味する。
【0022】
本発明のガソリン組成物は、(5)その密度、(6)蒸留性状、及び(7)その組成が下記の通りであることが好ましい。
(5)本発明のガソリン組成物の密度は、0.71〜0.77g/cm3であることが好ましい。密度の下限値は0.71g/cm3、好ましくは0.735g/cm3である。0.71g/cm3に満たない場合は燃費が悪化する可能性がある。一方、密度の上限値は0.77g/cm3、好ましくは0.76 g/cm3である。0.77g/cm3を超える場合は加速性の悪化やプラグのくすぶりを生じる可能性がある。ここで、密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0023】
(6)本発明のガソリン組成物の蒸留性状は下記の通りであることが好ましい。ここで蒸留性状とは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定される蒸留性状を意味する。
蒸留初留点 :20〜37℃
10容量%留出温度(T10):35〜70℃
30容量%留出温度(T30):55〜77℃
50容量%留出温度(T50):75〜105℃
70容量%留出温度(T70):100〜130℃
90容量%留出温度(T90):115〜180℃
蒸留終点 :150〜220℃
【0024】
蒸留初留点の下限値は20℃であることが好ましく、更に好ましくは23℃である。20℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加する可能性がある。一方、上限値は37℃であることが好ましく、更に好ましくは35℃である。37℃を超える場合には、低温運転性に不具合が生じる可能性がある。
T10の下限値は35℃であることが好ましく、更に好ましくは40℃である。35℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加する可能性があり、また、ベーパーロックにより高温運転性の不具合を生じる可能性がある。一方、T10の上限値は70℃であることが好ましく、更に好ましくは60℃である。70℃を超える場合には、低温始動性に不具合を生じる可能性がある。
T30の下限値は55℃であることが好ましく、更に好ましくは60℃である。55℃に満たない場合は燃費が悪化する可能性がある。一方、T30の上限値は77℃であることが好ましく、更に好ましくは75℃、更に好ましくは70℃である。77℃を超える場合には、中低温運転性に不具合を生じる可能性がある。T50の下限値は75℃であることが好ましく、更に好ましくは80℃である。75℃に満たない場合は燃費が悪化する可能性がある。一方、T50の上限値は105℃であることが好ましく、更に好ましくは100℃、更に好ましくは95℃である。105℃を超える場合には、排出ガス中の炭化水素が増加する可能性がある。
【0025】
T70の下限値は100℃であることが好ましい。100℃に満たない場合は、燃費が悪化する可能性がある。一方、T70の上限値は130℃であることが好ましく、更に好ましくは128℃である。130℃を越える場合は冷機時の中低温運転性に不具合が発生する可能性があり、また、排出ガス中の炭化水素の増加、吸気弁デポジットの増加、燃焼室デポジットが増加する可能性がある。
T90の下限値は115℃であることが好ましく、更に好ましくは120℃である。115℃に満たない場合は、燃費が悪化する可能性がある。一方、T90の上限値は、冷機時の低温および常温運転性の悪化、エンジンオイルのガソリンによる希釈の増加、炭化水素排出ガスの増加、エンジンオイルの劣化およびスラッジの発生を防止することができるなどの点から、180℃であることが好ましく、更に好ましくは170℃、更に好ましくは160℃である。
蒸留終点の下限値は150℃であることが好ましい。一方、蒸留終点の上限値は、220℃であることが好ましく、更に好ましくは200℃、更に好ましくは195℃、最も好ましくは190℃である。終点が220℃を越える場合は吸気弁デポジット、燃焼室デポジットが増加する可能性があり、また、点火プラグのくすぶりが発生する可能性がある。
【0026】
(7)本発明のガソリン組成物中の芳香族分は、20〜45容量%であることが好ましい。芳香族分は、更に好ましくは25容量%以上、42容量%以下である。芳香族分が45容量%を越えると、吸気弁デポジット、燃焼室デポジットが増加する可能性があり、また、点火プラグのくすぶりが発生する可能性がある。また、排出ガス中のベンゼン濃度が増加する可能性がある。一方、芳香族分が20容量%を下回る場合には燃費が悪化する可能性がある。
【0027】
ガソリン組成物中のオレフィン分が0〜30容量%であることが好ましい。オレフィン分は、更に好ましくは5容量%以上、25容量%以下である。オレフィン分が30容量%越えるとガソリンの酸化安定性が悪化する可能性があり、また、排出ガス中のNOxが増加する可能性がある。
芳香族分およびオレフィン分とは、JIS K 2536「石油製品−炭化水素タイプ試験方法」の蛍光指示薬吸着法により測定されるガソリン組成物中のそれぞれの含有量を意味する。
【0028】
ガソリン組成物中のベンゼンの含有量は、1容量%以下であることが好ましい。ベンゼン含有量が1容量%を越えると排出ガス中のベンゼン濃度が高くなる可能性がある。ここでベンゼン含有量とは、JIS K 2536「 石油製品−炭化水素タイプ試験方法」のガスクロマトグラフ法で定量して得られるガソリン組成物中の含有量を意味する。
【0029】
(8)本発明のガソリン組成物は、含酸素化合物を含有していてもよい。
含酸素化合物としては、例えば、炭素数2〜4のアルコール類、炭素数4〜8のエーテル類などが含まれる。具体的な含酸素化合物としては、例えば、エタノール、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)、エチル−tert−ブチルエーテル、tert−アミルメチルエーテル(TAME)、tert−アミルエチルエーテルなどを挙げることができる。なかでもMTBE、TAMEが好ましく、最も好ましくはMTBEである。なお、メタノールは排出ガス中のアルデヒド濃度が高くなる可能性があり、腐食性もあるので好ましくない。またこれらの化合物は本来原料中に含まれているもので1種又2種以上のガソリン基材を混合して目的の性状のガソリンを調製する工程でその含有量が決まる。
含酸素化合物の含有量(原料の由来の含有量及び/又添加剤として加えた場合の含有量)は酸素元素換算でその上限が2.7質量%であることが好ましく、更に好ましくは2.0質量%、更に好ましくは1.5質量%である。2.7質量%を越える場合は、排出ガス中のNOxが増加する可能性がある。
【0030】
本発明のガソリン組成物中の各成分の含有量は何ら制限はないが、各成分の含有量は以下のような範囲にあることが望ましい。
1)V(Tol):0〜30容量%
2)V(C8A):0〜20容量%
3)V(C9A):0〜15容量
4)V(C10+A):0〜5容量%
5)V(PA)=0又は
V(PA)≠0の時V(MA)/V(PA)=1以上
6)V(C4):0〜10容量%
7)V(C5):10〜35容量%
8)V(C6):10〜30容量%
9)V(C7+p):10〜50容量%
【0031】
上記V(Tol)およびV(C8A)は、それぞれガソリン全量基準のトルエン含有量および炭素数8の芳香族炭化水素化合物含有量を示し、本発明では排出ガスのオゾン生成能を低く抑えるために、V(Tol)が好ましくは0〜30容量%、更に好ましくは0〜20容量%、V(C8A)が好ましくは0〜20容量%、更に好ましくは0〜15容量%にある。なお、炭素数8の芳香族炭化水素化合物には、エチルベンゼン、キシレン(全ての置換異性体を含む)等が含まれる。
上記V(C9A)は、ガソリン全量基準の炭素数9の芳香族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明では排出ガスのオゾン生成能を低く抑えるために、その値は好ましくは0〜15容量%、更に好ましくは0〜10容量%である。炭素数9の芳香族炭化水素には、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン(クメン)、エチルメチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)、トリメチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)等が包含される。
上記V(C10+A)は、ガソリン全量基準の炭素数10以上の芳香族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明では排出ガスのオゾン生成能を低く抑えるために、その量が好ましくは0〜5容量%、更に好ましくは0〜3容量%、更に好ましくは0容量%である。炭素数10以上の芳香族炭化水素化合物には、ジエチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)、ジメチルエチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)、テトラメチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)、n−ブチルメチルベンゼン(全ての置換異性体を含む)等が包含される。
【0032】
上記V(MA)およびV(PA)は、それぞれガソリン全量を基準としたモノアルキル置換芳香族炭化水素化合物の含有量(容量%)および2つ以上のアルキル基で置換された芳香族炭化水素化合物の含有量(容量%)を示し、本発明にあってはV(PA)が0であるか、またはV(PA)が0でない場合は、前者の含有量と後者の含有量の比、V(MA)/V(PA)が好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上である。
なお、上記V(Bz)、V(Tol)、V(C8A)、V(C9A)、V(C10+A)、V(C9+)、V(MA)およびV(PA)は、いずれもJIS K 2536「石油製品−炭化水素タイプ試験方法」のガスクロマトグラフ法で定量して得られる値である。
上記V(C4)は、ガソリン全量を基準とした炭素数4の炭化水素化合物の含有量を示し、本発明においては、エバポエミッションの量をより低く抑えられる点から、V(C4)が好ましくは0〜10容量%、更に好ましくは0〜5容量%、更に好ましくは0〜3容量%である。炭素数4の炭化水素化合物としては、n−ブタン、2−メチルブタン(イソブタン)、1−ブテン、2−ブテン、2−メチルプロペン等がある。
【0033】
上記V(C5)は、ガソリン全量を基準とした炭素数5の脂肪族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明ではその下限値が好ましくは10容量%、更に好ましくは15容量%、一方、上限値が好ましくは35容量%、更に好ましくは30容量%である。炭素数5の脂肪族炭化水素化合物の含有量を10容量%以上にすることで、常温運転性により優れたガソリンが得られる。また、これを35容量%以下にすることで高温運転性により優れたガソリンが得られる。そして、インジェクタ内でのガソリンのコーキング防止の観点から、炭素数5の脂肪族炭化水素化合物の中の不飽和炭化水素化合物の含有量(V(C5o))(容量%)が0であるか、あるいは炭素数5の脂肪族炭化水素化合物の中の飽和炭化水素化合物の含有量(V(C5p))(容量%)とV(C5o)との比、すなわち、V(C5p)/V(C5o)が通常1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、最も好ましくは3以上である。炭素数5の飽和脂肪族炭化水素化合物には、n−ペンタン、2−メチルブタン(イソペンタン)、2,2−ジメチルプロパン(ネオペンタン)等が包含され、同じく不飽和脂肪族炭化水素化合物には、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン等が包含される。
【0034】
上記V(C6)は、ガソリン全量を基準とした炭素数6の脂肪族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明ではその下限値が好ましくは10容量%、更に好ましくは15容量%、一方、上限値が好ましくは30容量%、更に好ましくは25容量%である。炭素数6の脂肪族炭化水素化合物の含有量を10容量%以上にすることで、常温運転性により優れたガソリンが得られる。また、これを30容量%以下にすることで高温運転性により優れたガソリンが得られる。そして、インジェクタ内でのガソリンのコーキング防止の観点から、炭素数6の脂肪族炭化水素化合物の中の飽和炭化水素化合物の含有量(V(C6o))(容量%)が0であるか、或るいは炭素数6の脂肪族炭化水素化合物の中の飽和炭化水素化合物の含有量(V(C6p))(容量%)とV(C6o)との比、すなわち、V(C6p)/V(C6o)は通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、最も好ましくは10以上である。炭素数6の飽和脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン等を挙げることができる。同じく不飽和脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン等を挙げることができる。
【0035】
上記V(C7+p)は、ガソリン全量を基準とした炭素数7以上の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明ではその下限値が好ましくは10容量%、更に好ましくは20容量%、一方、上限値が好ましくは50容量%、更に好ましくは45容量%である。炭素数7以上の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量を10容量%以上にすることで、常温運転性により優れたガソリンが得られ、これを50容量%以下にすることで高温運転性により優れたガソリンが得られる。炭素数7以上の飽和脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン等を挙げることができる。
なお、上記V(C4)、V(C5)、V(C5p)、V(C5o)、V(C6)、V(C6 p)、V(C6o)およびV(C7+p)は、以下に示すガスクロマトグラフィー法により定量される値である。すなわち、カラムにはメチルシリコンのキャピラリーカラム、キャリアガスにはヘリウムまたは窒素を、検出器には水素イオン化検出器(FID)を用い、カラム長25〜50m、キャリアガス流量0.5〜1.5ml/分、分割比1:50〜1:250、注入口温度150〜250℃、初期カラム温度−10〜10℃、終期カラム温度150〜250℃、検出器温150〜250℃の条件で測定した値である。
【0036】
本発明のガソリン組成物は、JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航空燃料油−実在ガム試験方法−噴射蒸発法」により測定した未洗実在ガム量は好ましくは20mg/100mL以下であり、洗浄実在ガム量は好ましくは3mg/100mL以下、更に好ましくは1mg/100mL以下である。未洗実在ガム量および洗浄実在ガム量が上記の値を超えた場合は、燃料導入系統において析出物が生成したり、吸入弁が膠着する心配がある。
本発明のガソリン組成物の、JIS K 2279「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」により測定した総発熱量は、好ましくは40000J/g以上、更に好ましくは45000J/g以上である。
本発明のガソリン組成物の、JIS K 2287「ガソリン酸化安定度試験方法(誘導期間法)」によって測定した酸化安定度は、好ましくは480分以上、更に好ましくは1440分以上である。酸化安定度が480分に満たない場合は、貯蔵中にガムが生成する可能性がある。
本発明のガソリン組成物は、銅板腐食(50℃、3h)が好ましくは1、更に好ましくは1aである。銅板腐食が1を越える場合は、燃料系統の導管が腐食する可能性がある。ここで、銅板腐食とは、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」(試験温度50℃、試験時間3時間)に準拠して測定されるものである。
【0037】
本発明のガソリン組成物は、灯油混入量が0〜4容量%であることが望ましい。ここで、灯油混入量とはガソリン全量基準での炭素数13〜14の炭化水素含有量(容量%)を表し、この量は以下に示すガスクロマトグラフィー法により定量して得られるものである。すなわち、カラムにはメチルシリコンのキャピラリーカラム、キャリアガスにはヘリウムまたは窒素を、検出器には水素イオン化検出器(FID)を用い、カラム長25〜50m、キャリアガス流量0.5〜1.5ml/分、分割比1:50〜1:250、注入口温度150〜250℃、初期カラム温度−10〜10℃、終期カラム温度150〜250℃、検出器温150〜250℃の条件で測定した値である。
【0038】
本発明のガソリン組成物には、必要に応じて、その他の公知の燃料油添加剤を添加することができる。この様な添加剤としては、具体的には例えば、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒンダードフェノール類等の酸化防止剤;N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンのようなアミンカルボニル縮合化合物等の金属不活性化剤;有機リン系化合物などの表面着火防止剤;多価アルコールおよびそのエーテルなどの氷結防止剤;有機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩;高級アルコール硫酸エステルなどの助燃剤;アニオン系界面活性剤;カチオン系界面活性剤;両性界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;有機カルボン酸及びそれらの誘導体類;アルケニルコハク酸エステル等の防錆剤;ソルビタンエステル類等の水抜き剤;キリザニン、クマリンなどの識別剤;天然精油合成香料などの着臭剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種または2種以上を添加することができ、その合計添加量はガソリン全量基準で0.1質量%以下とすることが好ましい。
本発明のガソリン組成物は、四エチル鉛等のアルキル鉛化合物を実質的に含有しないガソリンであり、たとえ極微量の鉛化合物を含有する場合であっても、その含有量はJIS K 2255「ガソリン中の鉛分試験方法」の適用区分下限値以下である。
【0039】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を記載する。
【0040】
(実施例1〜14及び比較例1〜16)
表1に示すガソリン又はガソリン組成物(A〜E)及び表2に示す添加剤(a〜h)を用いて表3及び表4に示す本発明のガソリン組成物(実施例1〜14)及び比較用のガソリン組成物(比較例1〜16)をそれぞれ調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
(ガソリンHFRR試験)
HFRR試験用ガソリンに添加剤を20mg/L添加し、JPI−5S−50−97の規定に従ってガソリンHFRR試験を行った。そして添加剤を含有したガソリンの試験用ガソリン(無添加の試験用ガソリン:WSD=756μm)に対する摩擦痕径(WSD:μm)の改善率(%)を算出した。その結果を表2に示す。なお、試験用ガソリンの性状、測定器具及び測定条件は前述の通りである。
【0043】
【表2】
【0044】
(ガソリン組成物の燃費による評価)
上記で調製したガソリン組成物を燃費による評価を行った。
評価方法は下記の通りである。
試験雰囲気条件:35℃ 60%RH
供試車両:1.4L、L4、エンジン 搭載車両
試験方法:運輸省「長距離走行実施要領等について(自車第691号)」で規定された「長距離走行(その2)実施要領の3.2シャーシダイナモ上の走行方法」における参考モード
(通称11ラップ試験)
燃費計測法:ガソリン組成物をタンクに満たし、その満タン状態からガス欠で停止するまでの走行距離、および燃料タンク中のガソリン残量を測定した。そして基準のガソリンの走行距離(ガソリンCを用いた場合の走行距離)に対する上記走行距離を算出し、その向上率により評価した。評価結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
上記表3に示す結果から、ガソリンA又はB(共に本発明用)とガソリンHFRR試験において摩擦痕径の改善率が10%以上の化合物(本発明用:a〜e)を用いることで燃費特性の高いガソリン組成物を得られることがわかる。一方、得られたガソリン組成物において、ガソリンA又はBと、摩擦痕径の改善率が10%に満たない化合物(比較用:f〜h)を組み合わせた場合、ガソリンC、E(比較用)と、摩擦痕径の改善率が10%以上の化合物(本発明用:a〜c)とを組み合わせた場合、燃費特性が充分に改善されたガソリン組成物を得ることができない。なお、排出ガスの浄化特性は良好であった。
【0047】
(ガソリン組成物の出力特性による評価)
上記で調製したガソリン組成物の出力特性による評価を行った。
評価方法は下記の通りである。
試験雰囲気条件:25℃ 60%RH
供試車両:2.0L、L4、エンジン 搭載 FR車両
試験方法:シャーシダイナモ上におけるアクセル全開加速試験
30km/h走行状態でアクセル全開加速を行い、120km/hまで加速を実施し、その中の40km/hから100km/hまでの加速所用時間を計測し、その向上率により評価した。評価結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
上記表4に示す結果から、ガソリンA又はB(共に本発明用)とガソリンHFRR試験において摩擦痕径の改善率が10%以上の化合物(本発明用;a、d、e)とを用いることで出力特性(加速性)の高いガソリン組成物を得られることがわかる。
一方、得られたガソリン組成物において、ガソリンBと、摩擦痕径の改善率が10%に満たない比較用化合物fとを組み合わせた場合や、ガソリンC又はD(比較用)と、摩擦痕径の改善率が10%以上の化合物(本発明用;a、d)とを組み合わせた場合には、出力特性(加速性)が充分に改善されたガソリン組成物を得ることができない。
【0050】
【発明の効果】
本発明のガソリン組成物は、特定の性状のガソリン又はガソリン組成物と、規定以上の潤滑性を示す特定の化合物との両者によりマッチングよく調製されているので高燃費および高出力特性を示す。
Claims (3)
- 20mg/L添加した場合のガソリンHFRR試験における摩耗痕径が、無添加の試験用ガソリンの場合に比べて10%以上の改善率を示す(a)高級モノカルボン酸とグリコールまたは3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステルおよび(b)高級カルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物から選択される化合物を単独でまたは混合物として含有し、かつ(1)リサーチオクタン価(RON)が95以上、(2)モーターオクタン価(MON)が83以上、(3)蒸気圧(37.8℃)が44〜65kPa、そして(4)硫黄分が10ppm以下であることを特徴とするガソリン組成物。
- 上記10%以上の改善率を示す化合物の含有量が、10〜300mg/Lであることを特徴とする請求項1に記載のガソリン組成物。
- ガソリン組成物が、下記の性状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリン組成物。
(5)密度(15℃):0.71〜0.77g/cm3
(6)蒸留性状:蒸留初留点20〜37℃
10%留出温度(T10)35〜70℃
30%留出温度(T30)55〜77℃
50%留出温度(T50)75〜105℃
70%留出温度(T70)100〜130℃
90%留出温度(T90)115〜180℃
蒸留終点150〜220℃
(7)組成:芳香族分20〜45容量%
オレフィン分0〜30容量%
ベンゼン含有量1容量%以下
(8)含酸素化合物の含有量が酸素元素換算で0〜2.7質量%
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