JP4090210B2 - 水系不斉ミカエル反応方法 - Google Patents

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  • Organic Low-Molecular-Weight Compounds And Preparation Thereof (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、水系不斉ミカエル反応方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、有機溶媒を実質的に使用する必要がなく、水系溶媒中で、しかも、高い収率と不斉選択性で炭素−炭素結合の形成にともなう付加体化合物を合成することのできる、水系不斉ミカエル反応のための新しい技術手段に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明の課題】
ミカエル(Michael) 反応は、重要な炭素−炭素結合の形成反応の一つとして知られており、β−ケトエステル化合物とα,β−不飽和ケトンとの付加反応生成物を得るものとして、化学合成において欠くことのできない手段の一つとなっている。
【0003】
このミカエル反応は、通常、塩基性条件下で行われるが、強塩基に由来する副反応の進行等の問題があるため、近年ではルイス(Lewis) 酸触媒を用いることが注目されている。
【0004】
一方、化学反応に通常用いられる有機溶媒のなかには有害なものがあり、環境保全、健康等の観点において問題となっている。このことから、有機溶媒に代わって水もしくは水を主とする水系溶媒を用いることができれば、その意義は極めて大きなものとなる。
【0005】
以上のことを考慮して、この出願の発明者らは、水系溶媒中で機能するルイス酸触媒を開発し、水系溶媒中において有効なアルドール反応法やミカエル反応法等を実現してきた。
【0006】
しかしながら、ルイス酸を用いる水系溶媒中での触媒的不斉合成は極めて困難であった。
【0007】
そこで、この出願の発明は、水系溶媒中でのルイス酸触媒による反応方法の特長を生かし、しかも高い収率と優れた不斉選択性でミカエル付加化合物を合成することを可能とする、新しい水系不斉ミカエル反応方法を提供することを課題としている。また、この出願の発明は、この新しい方法による不斉ミカエル付加化合物の製造方法とこれによる不斉ミカエル付加化合物、並びに上記方法のための新しい触媒を提供することも課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、水系溶媒中において、β−ケトエステル化合物とα,β−不飽和ケトンとをキラル銀触媒の存在下に反応させることを特徴とする水系不斉ミカエル反応方法を提供し、第2には、水を溶媒とすることを特徴とする上記の水系不斉ミカエル反応方法を、第3には、キラル銀触媒は、銀のルイス酸と光学活性な配位子化合物により構成されることを特徴とする水系不斉ミカエル反応方法を提供する。
【0009】
また、この出願の発明は、第4には、銀のルイス酸は、次式
AgOSO
(nおよびlは1以上の数を示し、mは0、または1以上の数を示し、m+l=2n+1であることを示す。)
で表わされるものであることを特徴とする水系不斉ミカエル反応方法を提供する。
【0010】
そして、この出願の発明は、第5には、上記のいずれかの方法により不斉ミカエル付加化合物を合成することを特徴とする不斉ミカエル付加化合物の製造方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0012】
なによりもまず、この出願の発明においては、反応溶媒が水系であることが特徴である。ここで「水系」とは、水を主成分としていることを意味している。つまり、不可避的に混入する成分を除いては、水のみを溶媒とすること、もしくは50重量%未満の水と相溶性のアルコール等の有機溶媒と水との混合溶媒であることを意味している。そして、この発明について強調されることは、上記の有機溶媒を全く使用しなくてもよいということである。水を溶媒とすることによって、高い反応収率と不斉選択性が得られ、しかも有機溶媒を使用する場合のような環境や健康への負荷が少ないという優れた効果が得られる。
【0013】
このような水系溶媒を用いるこの出願の発明の不斉ミカエル反応方法では、触媒としてキラル銀触媒を用いることを特徴としている。そして、このキラル銀触媒としては、光学活性な銀触媒の一種として、より好適には、銀のルイス酸と光学活性な配位子化合物とが用いられる。
【0014】
銀のルイス酸としては、たとえば、銀のフルオロスルホン酸塩、フルオロ硫酸塩、あるいは過塩素酸塩等の各種のものが考慮されるが、なかでも、前記のとおりの、
AgOSO
の一般式で表わされるものが好適に使用される。ここで、nは1〜8、mは0、または1〜5、lは3〜17程度であることが、一般的には好ましい範囲として考慮される。特に、AgOSOCF,AgOSO,AgOSO等のパーフルオロ化合物が好ましいものとして例示される。
【0015】
後述の実施例においては、AgOSOCF、すなわちAgOTf(銀トリフレート化合物)が用いられている。
【0016】
配位子としての光学活性化合物は各種のものが考慮されるが、なかでもBINAP系の光学活性化合物、(ジ)アミン系光学活性化合物、(ジ)ホスフィン系光学活性化合物等が好ましいものとして用いられる。
【0017】
反応には、β−ケトエステル化合物とα,β−不飽和ケトン化合物とを用いるが、これらは、脂肪族系、脂環式系、芳香脂肪族系等の各種の化合物であってよい。
【0018】
反応に際しては、β−ケトエステル化合物とα,β−不飽和ケトン化合物が、その当量比として、β−ケトエステル化合物1当量に対し、α,β−不飽和ケトン化合物を0.1〜10当量、より好ましくは0.5〜5当量の範囲で使用することができる。
【0019】
キラル銀触媒としては、前記のような銀ルイス酸を、0.05〜1.0当量、光学活性配位子化合物を、0.01〜0.5当量程度の割合で使用することが考慮される。そして、このキラル銀触媒は、あらかじめ、銀ルイス酸と光学活性配位子化合物とを混合することによって調製してもよいし、前記原料化合物とともに、反応系において混合することで使用してもよい。
【0020】
反応は、通常−10℃〜20℃程度のマイルドな条件下において、常圧下で行うことができる。もちろん、所望によって、減圧下や加圧下としてもよいし、Ar,N2 等の不活性ガス雰囲気において実施してもよい。
【0021】
いずれの場合においても、従来からは予期できない高い反応収率と優れた不斉選択性でミカエル反応付加化合物が合成されることになる。これらの付加化合物は、医薬、香料、化粧料、農薬、あるいはそれらの合成中間体等として有用なものとなる。
【0022】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しくこの出願の発明について説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【0023】
【実施例】
水を溶媒とし、AgOTfと、(R)、BINAPもしくは(R)−Tol−BINAP配位子とによって構成したキラル銀触媒を用いて、0℃の反応温度で、18時間、次式の不斉ミカエル反応を行った。
【0024】
【化1】
Figure 0004090210
【0025】
光学配位子として(R)−BINAPを用いた場合には、97%の反応収率で、72%eeで不斉ミカエル付加化合物を得た。また、(R)−Tol−BINAPを用いた場合には、収率は定量的であり、81%eeの成績であった。
【0026】
同様にして、ドナー化合物として各種のβ−ケトエステル化合物を用いて反応を行った。その結果を次の表1に示した。
【0027】
いずれの場合にも、優れた収率と、不斉選択性が得られている。
【0028】
なお、反応付加化合物とその同定値を表2および表3に併せて示した。
【0029】
【表1】
Figure 0004090210
【0030】
【表2】
Figure 0004090210
【0031】
【表3】
Figure 0004090210
【0032】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、水系溶媒中でのルイス酸触媒による反応方法の特長を生かし、しかも高い収率と優れた不斉選択性でミカエル付加化合物を合成することを可能とする、新しい水系不斉ミカエル反応が実現される。

Claims (5)

  1. 水系溶媒中において、β−ケトエステル化合物とα,β−不飽和ケトンとをキラル銀触媒の存在下に反応させることを特徴とする水系不斉ミカエル反応方法。
  2. 水を溶媒とすることを特徴とする請求項1の水系不斉ミカエル反応方法。
  3. キラル銀触媒は、銀のルイス酸と光学活性な配位子化合物により構成されることを特徴とする請求項1または2の水系不斉ミカエル反応方法。
  4. 銀のルイス酸は、次式
    AgOSO
    (nおよびlは1以上の数を、mは0、または1以上の数を示し、m+l=2n+1であることを示す。)
    で表わされるものであることを特徴とする請求項3の水系不斉ミカエル反応方法。
  5. 請求項1ないし4のいずれかの方法により不斉ミカエル付加化合物を合成することを特徴とする不斉ミカエル付加化合物の製造方法。
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