JP4028644B2 - ペルオキシダーゼ活性の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学発光法を利用するペルオキシダーゼ活性の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ペルオキシダーゼは水素受容体の存在下で水素供与体の酸化反応を触媒する酵素である。このような触媒活性は例えばヘモグロビンのような非酵素物質においても観察され、ペルオキシダーゼ活性と総称される。ペルオキシダーゼの触媒活性は微量でも高感度に検出しやすいので、ペルオキシダーゼ酵素活性の検出のみならず、種々の検出対象物質の指標となる分析用試薬として幅広い分野で利用されている。このようにペルオキシダーゼを標識物質として用いる分析方法には、抗原抗体反応を利用する免疫学的測定法、核酸の相補性を利用する核酸ハイブリダイゼーションアッセイ法、その他にアビジン−ビオチン、ホルモン−ホルモン受容体、糖−レクチン等の特異的な親和性を利用する分析系に用いられる。
【0003】
また、このようなペルオキシダーゼ活性の測定には、過酸化水素を水素受容体として水素供与体を酸化し、色素を生成させてその発色量を分光光度計等で測定する比色法、または蛍光物質を生成させてその蛍光を蛍光分光光度計で測定する蛍光法等が行なわれている。しかしながら、ペルオキシダーゼ活性の測定に比色法を用いる場合には、ペルオキシダーゼの低濃度領域での定量性に欠けると云う問題点があり、これを解決する目的で蛍光法が開発されたが、低濃度領域での定量性に関しては未だ充分とは言えない。この問題点を解決する目的で、化学発光法によるペルオキシダーゼ活性の測定法が開発されている。化学発光法は、ペルオキシダーゼ酵素の触媒活性によって化学発光性物質が中間体を経て励起状態となり、この状態から基底状態に戻る際に放出される発光量を測定することによりペルオキシダーゼ酵素活性を定量する方法であり、化学発光性物質にルミノールを、水素受容体に過酸化水素を、そして発光増強剤にp−ヨードフェノールを用いる化学発光系が開発されており、ペルオキシダーゼ活性を高感度に定量することが可能になっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ペルオキシダーゼ酵素活性の測定を酵素免疫測定法に応用する場合には、酵素の低濃度領域での定量性を更に高める必要性が生じるケースが多く、ペルオキシダーゼ酵素活性測定の更なる高感度化が望まれていた。本発明は、上記事情に鑑み、ペルオキシダーゼ活性をより高感度で測定可能な化学発光法による新規な測定系を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、化学発光性試薬としてN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類−N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物複合体を用い、水素受容体として過酸化水素をそして発光増強剤として特定のフェノール系化合物を用いる化学発光系が、化学発光性物質にルミノールを用いる系より高感度にペルオキシダーゼ活性を定量することが可能なことを見い出し、これらの知見に基いて本発明に到達したものである。
【0006】
従って、本発明の第一は、
下記一般式(1)
【化3】
(上記一般式(1)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよく、R3 、R4 、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよく、Xはn価の陰イオンであり、nは1又は2である。)で表わされるN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類とN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物と接触させて調製した化学発光試薬を用い、水素受容体の存在下にペルオキシダーゼ酵素活性を測定することを特徴とする化学発光法によるペルオキシダーゼ活性の測定方法に関するものである。
【0007】
また、本発明の第二は、
下記一般式(1)
【化4】
(上記一般式(1)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよく、R3 、R4 、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよく、Xはn価の陰イオンであり、nは1又は2である。)で表わされるN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類とN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物と接触させて調製した化学発光試薬を用い、水素受容体の存在下にペルオキシダーゼ活性を測定する際に、発光増強剤としてフェノール性化合物を用いることを特徴とする化学発光法によるペルオキシダーゼ活性の測定方法に関するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のペルオキシダーゼ活性の測定方法は、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類とN,N’−ジ置換カルボン酸アミド化合物とを接触させて調製した化学発光試薬を水素受容体の存在下に、そして場合により、発光増強剤の存在下にペルオキシダーゼ酵素活性を測定するものであり、その測定方法は任意であるが、一般に、化学発光試薬、発光増強剤及びペルオキシダーゼ酵素を含有する測定試料を混合し、特定塩基性pH領域において水素受容体溶液を添加して化学発光反応させ、この化学発光量を発光測定装置で測定する方法等が行なわれている。
次に本発明のペルオキシダーゼ活性の測定方法に用いられる化学発光試薬について説明する。化学発光試薬の成分であるN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類は、
下記一般式(1)
【0009】
【化5】
で表され、一般式(1)において、R1 及びR2 は、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、各々、互いに同一でも異なるものでもよい。
【0010】
アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基は、炭素数1〜20を有するものであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜10のものである。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等の直鎖状アルキル基又はこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。また、アリール基は、炭素数6〜20のものが好ましく、フェニル基、トリール基、キシリル基等を挙げることができ、さらにアルキル基で置換されたものでもよい。アリール基としては、特に、フェニル基が好ましい。ハロゲン化アリール基としてはハロゲン化フェニル基、ハロゲン化トリル基、ハロゲン化キシリル基等を挙げることができ、特に、クロロフェニル基が好ましい。
【0011】
一般式(I)において、R3 、R4 、R5 及びR6 は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、各々、互いに同一でもまたは異なるものでよい。炭化水素基の炭素数としては、例えば1〜20、好ましくは1〜14を挙げることができる。
また、上記一般式(1)において、Xはn価の陰イオンであり、nは1又は2である。陰イオンとしては、具体的には硝酸イオン、ハロゲンイオン、リン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン等が挙げられる。これらのなかで、特に、硝酸イオンが好ましい。
【0012】
上記N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類の具体例としては、N,N−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N−ジエチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N−ジフェニル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジ−m−クロロフェニル−9,9’−ビスアクリジニウム塩等を挙げることができ、対イオンとして上記の陰イオンが好ましいが、特に、硝酸イオンが好適である。N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類としては、これらに限定されるものではないが、N,N’−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウムジナイトレート(ルシゲニン)が好ましい。
【0013】
化学発光試薬の製造に用いられるN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が比限定的に挙げられるが、特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が好ましい。
【0014】
これらのN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物のうち、常温で液体のものは溶媒を兼ねて大過剰に用いることもできるし、他の適当な溶媒を用いてもよい。また、室温で固体のものは加熱溶融させて用いてもよく、また、適当な溶媒を用いることもできる。このような溶媒としては、ジメチルスルホキサイド、ヘキサメチルホスホアミド等を挙げることができる。
【0015】
化学発光試薬の製造においては、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類とN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物とを接触させることにより、その接触時間により発光強度が増大し、ピークを形成して減衰していく現象が観察されることから、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物がN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類と反応して活性化状態を形成した後、経時的に変化して不活性化するものと考えられる。
【0016】
従って、上記化学発光試薬は、基本的にはN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類とN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物との接触処理により製造されるものであり、以下に述べる反応条件下において両者を混合、保持することに行なわれる。具体的には本発明の化学発光試薬を用いて化学発光分析を行なう際に、これらの化学発光試薬の各成分を調合して所定時間反応させてから使用する方法が採用される。
【0017】
上記の反応条件として、反応温度は用いられる試薬及び溶媒の種類によって異なるが、一般的に−10〜+200℃、好ましくは0〜120℃、特に好ましくは20〜60℃の範囲の温度である。反応時間は1分〜一昼夜、好ましくは5分〜12時間、特に好ましくは10分〜5時間の範囲の時間を採用することができる。また、化学発光試薬の各成分の割合は、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類1モルに対してN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物当モルから大過剰の範囲でよい。
【0018】
上記のようにして得られる化学発光試薬は、pH7.5〜13の塩基性条件下において過剰の水素受容体の存在下ペルオキシダーゼの濃度に依存した量で発光する。この発光はフェノール性化合物等の発光増強剤によって増強することが認められる。このようなフェノール性化合物としては、p−ヒドロキシ桂皮酸、p−フェニルフェノール、p−(4−クロロフェニル)フェノール、p−(4−ブロモフェニル)フェノール、p−(4−ヨードフェニル)フェノール、p−ヨードフェノール、p−プロモフェノール、p−クロロフェノール、6−ヒドロキシベンゾチアゾール、2−ナフトール、ホタルルシフェリン等を非限定的に挙げることができる。
上記水素受容体としては、ペルオキシダーゼの基質になり得るものであれば特に限定されるものではないが、有機過酸化物、無機過酸化物等を任意に用いることができるが、特に、過酸化水素が好ましい。
【0019】
本発明のペルオキシダーゼ酵素活性の測定方法において用いられる化学発光試薬の濃度は、10-6〜1M、好ましくは10-4〜10-2Mの範囲でよく、その使用量は10〜500μl、好ましくは50〜300μlの範囲が望ましい。発光増強剤の使用量は、化学発光試薬の0.01〜100倍モル、好ましくは0.1〜10倍モルの範囲である。
また、化学発光反応に用いられる水素受容体としては、ペルオキシダーゼ酵素の基質となり得るものであれば特に限定されるものではないが、有機過酸化物、無機過酸化物等が任意に用いられ、特に、過酸化水素が好ましい。この水素受容体の使用量は、化学発光物質に対して充分に過剰な量で用いることが必要であり、化学発光試薬に対して3〜1万倍モル、好ましくは10〜1000倍モルの範囲が好ましい。
【0020】
上記化学発光反応に用いられる塩基性緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液等を挙げることができ、これらの緩衝液の濃度は1mM〜1Mの範囲が望ましい。また、反応時に界面活性剤、キレート剤等の添加剤を任意に用いることができる。
【0021】
【実施例】
以下、参考例及び比較例と共に、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
ルシゲニン1mgを試験管に採り、これにN,N−ジメチルホルムアミド2mlを加えて溶解させた後、室温で90分静置してから純水2mlを加えて混合することによりルシゲニンとN,N’−ジメチルホルムアミドとの複合体からなる化学発光試薬を得た。
【0023】
[ペルオキシダーゼ活性の測定]
ルシゲニン−N,N’−ジメチルホルムアミド複合体を4.0×10-5M、及びp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlに、種々の濃度水準の西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)水溶液100μlを混合し、これに0.0034重量%過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間発光量を積算した結果、表1に示す如くHRPを1×10-18 mol/assayまで測定することが可能であった。
【0024】
【表1】
[実施例2]
ルシゲニン1mgを試験管に採り、これにN,N−ジメチルアセトアミド2mlを加えて溶解させた後、室温で90分静置してから純水2mlを加えて混合することによりルシゲニンとN,N’−ジメチルアセトアミドとの複合体からなる化学発光試薬を得る。次に、このルシゲニン−N,N’−ジメチルホルムアミド複合体を4.0×10-5M、及びp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlに、種々の濃度水準の西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)水溶液100μlを混合し、これに0.0034重量%過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間発光量を積算した結果、表2に示す如くHRPを1×10-18 mol/assayまで測定することが可能であった。
【0025】
【表2】
[実施例3]
ルシゲニン1mgを試験管に採取し、これにN−メチル−2−ピロリドン2mlを加えて溶解させた後、室温で90分静置してから純水2mlを加えて混合することによりルシゲニンとN,N’−ジメチルアセトアミドとの複合体からなる化学発光試薬を得た。次に、このルシゲニンとN−メチル−2−ピロリドンとの複合体を4.0×10-5M、及びp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlに、種々の濃度水準の西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)水溶液100μlを混合し、これに0.0034重量%過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間発光量を積算した結果、表3に示す如くHRPを5×10-18 mol/assayまで測定することが可能であった。
【0026】
【表3】
[比較例1]
ルミノールを5.6×10-5M、及びp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlを種々の濃度水準のHRP水溶液100μlを混合した後、これに0.0034重量%過酸化水素水溶液50μlを加え、ルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間発光量を積算した結果、表4に示すようなHRPを10-17 mol/assayまで測定できることが認められた。
【0027】
【表4】
【0028】
【発明の効果】
本発明のペルオキシダーゼ活性の測定方法により、ペルオキシダーゼ酵素活性を、従来から広く使用されているルミノールを用いる測定系よりも高感度で測定することが可能になり、ペルオキシダーゼを標識物質に用いる酵素免疫測定法により抗原、抗体類を、ハイブリダイゼーションアッセイ法により核酸類を、各々より高感度に検出もしくは定量することができる。
Claims (5)
- 下記一般式(1)
- 下記一般式(1)
- 前記N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類がN,N'−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウムジナイトレート(ルシゲニン)であり、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド又はN−メチル−2−ピロリドンである請求項1又は2に記載の方法。
- 前記水素受容体が過酸化水素である請求項1又は2に記載の方法。
- 前記発光増強剤がp−ヨードフェノール、p−フェニルフェノール、6−ヒドロキシベンゾチアゾールから選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物である請求項2に記載の方法。
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