JP3792886B2 - 化学発光酵素免疫測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学発光方法を利用する酵素免疫測定方法に関するものであり、更に詳しくは、ペルオキシダーゼ酵素を標識物質として用い、特定のビスアクリジニウム塩類の還元生成物を化学発光物質として用いる抗原又は抗体の免疫学的測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酵素免疫測定方法は、標識物質に放射性同位元素を使用しないので良好な測定環境を保持することが可能であり、人体に対して危険性の少ない免疫測定方法として開発され、種々の物質の測定系に利用されている。この酵素免疫測定方法において使用される酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ等の種々の酵素が使用されている。これらの酵素を用いた酵素標識抗体又は抗原の酵素活性を検出する方法としては、過酸化水素/o−フェニレンジアミン、4−ニトロフェニル−ホスフェート、2−ニトロフェニル−β−ガラクトシド等の酵素基質の酵素による分解反応に伴い生成する発色性物質の発色量を測定して酵素活性を定量し、この酵素活性と相関性を有する抗体又は抗原の量を定量する比色法が一般的である。しかしながら、臨床化学分析においてはその測定対象が生体試料(主として血清、尿等)であり、その測定値は病態の診断又はその経過観察等に用いられることが多く、そのために、より高感度及び高精度な測定が求められているが、比色法によりこの要求を完全に満足させるのは難しい。そこで、この要求を満たすことを目的として蛍光法が提案されている。蛍光法とは、標識に用いた酵素の触媒活性により、4−ヒドロキシフェニル酢酸、4−メチルウムベリフェリル−β−ガラクトシド、4−メチルウムベリフェリル−ホスフェート等の蛍光基質を分解して蛍光を発生させた後、この蛍光強度を測定して酵素活性を定量し、この酵素活性と相関性を有する抗体又は抗原の量を定量する方法である。しかし、蛍光法では、励起光の散乱が存在するため前記の要求を満たすには充分とは云い難い。また、比色法及び蛍光法では、キセノンランプ等の光源が必要であり、光源からの光に由来する迷走現象や溶媒に由来するラマン光が原因となり、バックグラウンドのレベルを上昇させてしまうので、比色法及び蛍光法による測定の高感度化は原理的に困難である。近年、比色法及び蛍光法を上回る高感度な酵素免疫測定方法として、化学発光酵素免疫測定方法(CLEIA)が開発され、注目されている。
【0003】
化学発光酵素免疫測定方法(CLEIA)は、酵素の触媒活性によって化学発光物質が中間体を経て励起状態となり、この状態から基底状態に戻る際に放出される発光量を測定して酵素活性を定量し、この酵素活性と相関性を有する抗体又は抗原の量を定量する方法であり、化学反応により化学発光物質を発光させるため光源が不要であり、光源に起因するバックグラウンドの上昇等がないため測定の高感度化が可能である。
【0004】
化学発光酵素免疫測定方法(CLEIA)に用いられる酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、デヒドロゲナーゼ等が挙げられるが、取り扱い易さ、入手し易さ等の点でペルオキシダーゼが好適に用いられ、化学発光物質としてルミノールを用い、発光増強剤としてp−ヨードフェノールを用いる化学発光系が開発され、種々の物質が化学発光方法により免疫学的に高感度で定量することが可能になっている。
【0005】
しかしながら、ペルオキシダーゼ酵素を標識物質とする化学発光酵素免疫測定方法(CLEIA)においては、測定対象物質の低濃度領域での定量性を、更に、高める必要性が生じるケースが多く、ペルオキシダーゼ酵素を標識物質とする化学発光酵素免疫測定方法(CLEIA)の更なる高感度化が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、前記事情に鑑み、測定対象物質をより高感度で測定可能な化学発光方法による新規な免疫測定系を利用した酵素免疫測定方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、化学発光物質としてN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物、更に、蟻酸の存在下において還元剤と紫外線照射下で接触させて調製した化学発光試薬を用い、更に、発光増強剤として特定のフェノール系化合物を用いる化学発光系が、化学発光物質としてルミノールを用いる系より高感度に測定対象物質を免疫学的に定量することが可能なことを見い出し、これらの知見に基づいて本発明の完成に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、ペルオキシダーゼ酵素標識した抗体若しくは抗原を試料中の測定すべき抗原若しくは抗体又はそれらの凝集物と混合し、抗原抗体反応によりペルオキシダーゼ酵素標識−抗原抗体錯体からなる免疫複合体を生成させた後、化学発光物質としてN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において還元剤と紫外線照射下で接触させて調製した化学発光試薬を添加し、水素受容体の存在下に化学発光させ、その発光量を測定することにより試料中の抗原又は抗体の量を定量することを特徴とする化学発光酵素免疫測定方法に関するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0010】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法は、抗原抗体反応により測定すべき抗原又は抗体をペルオキシダーゼ酵素標識した免疫複合体として捕捉する免疫反応段階と、生成した該免疫複合体をその分子中に存在する標識酵素を用いる化学発光方法により測定する化学発光反応段階とからなる。免疫反応段階を構成する抗原抗体反応の方法は任意であり、いずれの方法をも採用することができる。
【0011】
例えば、
▲1▼不溶性担体に結合した抗体に試料中の測定すべき抗原を捕捉させた後にペルオキシダーゼ酵素標識抗体を反応させるサンドイッチ法、
▲2▼サンドイッチ法において、不溶性担体に結合した抗体と異なる動物種に由来する抗体を用い、生成したサンドイッチ錯体に対して、更に、この抗体に対する標識した第二抗体を反応させる二抗体法。
▲3▼不溶性担体に結合した抗体に試料中の測定すべき抗原をペルオキシダーゼ酵素標識抗原の存在下で反応させる競合法、
▲4▼測定すべき抗原又は抗体を含有する試料にこれらと特異的に反応する標識した抗体又は抗原を作用させて凝集沈殿させた後、遠心分離して分離した免疫複合体中の標識物質を検出する凝集沈殿法、
▲5▼不溶性担体に結合した抗原に試料中の測定すべき抗体をペルオキシダーゼ酵素標識抗ヒトガンマグロブリン抗体を作用させる抗体検出法、更に、
▲6▼ビチオン標識抗体にペルオキシダーゼ酵素標識アビジンを反応させるビチオン−アビジン法等
を非限定的に用いることができる。
【0012】
特に、本発明においては、ペルオキシダーゼ酵素標識した抗体又は抗原を試料中の測定すべき抗原又は抗体と混合し、抗原抗体反応によりペルオキシダーゼ酵素標識−抗原抗体錯体からなる免疫複合体を生成させ、免疫複合体を不溶性担体に固定化した抗体又は抗原と反応させて不溶性固体上に捕捉する方法が好ましい。
【0013】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法に用いられる不溶性担体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物、ガラス、金属、磁性粒子及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、不溶性担体の形状としては、例えば、トレイ状、球状、繊維状、棒状、盤状、容器状のほか、セル、マイクロプレート、試験管等の種々の形状で用いることができる。更に、これらの不溶性担体への抗原又は抗体の固定化方法は任意であり、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等のいずれも用いることができる。
【0014】
尚、本発明の酵素免疫測定方法において用いられる抗体類はモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれを使用することも可能であり、形態は全抗体又はF(ab’)2 、Fab等の断片を用いることができる。また、抗体の起源は任意であるが、マウス、ラット、兎、羊、山羊、鶏等に由来するものが好適に用いられる。
【0015】
更に、本発明の化学発光酵素免疫測定方法の後段の化学発光反応段階を構成する化学発光方法は、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において還元剤と紫外線照射下で接触させることにより得られる化学発光試薬を用いることができる方法であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明において、学発光試薬として、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において紫外線の照射下で還元剤と接触させることにより得られる還元生成物を含有する化学発光試薬を用い、更に、発光増強剤の存在下において水素受容体を作用させて不溶性担体上に捕捉された標識物質であるペルオキシダーゼ酵素の活性を測定するものであり、その測定方法は任意であるが、一般に、化学発光物質及び発光増強剤を含有する測定試薬を、ペルオキシダーゼ酵素標識抗体又は抗原を免疫学的に捕捉した不溶性担体に添加し、特定塩基性pH領域において水素受容体(過酸化水素水溶液)を添加して化学発光反応させ、その発光量を発光測定装置で測定する方法等が行なわれる。
【0017】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法に用いられる化学発光試薬は、
下記の一般式(1)
【0018】
【化2】
で表されるN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において還元剤と紫外線照射下で接触させることにより得られる反応生成物であり、単一化合物又は混合物である。
【0019】
上記一般式(1)において、R1 及びR2 は、各々、アルキル基、アリール基及びハロゲン化アリール基からなる群より選択され、互いに同一でも又は異なるものでもよい。アルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは、1〜14の直鎖状又は分岐状のいずれでも用いることができ、アリール基及びハロゲン化アリール基は、各々、炭素数6〜20のものであり、炭素数1〜14のアルキル基で置換されたものでもよいが、特にフェニル基及びハロゲン化フェニル基が好ましい。また、式中、R3 、R4 、R5 及びR6 は、各々、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、互いに同一でも異なるものでもよい。アルキル基、アルコキシ基は炭素数1〜20、好ましくは、1〜14の直鎖状又は分岐状のものでもよく、アリール基、アリーロキシ基は炭素数6〜20のものであり、アルキル基で置換されたものでもよい。
【0020】
上記N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類の具体例を例示すると、N,N’−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩が好適に用いられるが、その他に、N,N’−ジエチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジプロピル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジブチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジペンチル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジフェニル−9,9’−ビスアクリジニウム塩、N,N’−ジ−m−クロロフェニル−9,9’−ビスアクリジニウム塩等を非限定的に挙げることができる。これらのなかで、特に、N,N’−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウムジナイトレートが好適である。
【0021】
上記一般式(1)において、Xn-はn価の陰イオンであり、nは1又は2である。陰イオンとしては、特に限定されるものではないが、硝酸イオン(NO3 -)、ハロゲン化物イオン(例えば、塩化物イオン、フッ化物イオン等)、(メタ)リン酸イオン(PO3 -)等を挙げることができる。これらの陰イオンのなかでは、特に硝酸イオンが好ましい。
【0022】
本発明の化学発光免疫測定方法において用いられる化学発光試薬の製造に供されるN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物は、例えば、次の一般式(2)
【0023】
【化3】
で表すことができる。一般式(2)において、R1は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基であり、アリール基はアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基、アミノ基等で置換されていてもよい。R2は、メチル基又はエチル基てあり、R3は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基であり、アリール基はアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基、アミノ基等で置換されていてもよい。また、R1及びR3は互いに結合して、各々が結合しているカルボニル基の炭素原子及びアミド基の窒素原子と共に環を形成していてもよい。N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の具体例を例示すると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピオンァミド、N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチル−2−ピロリドン及びN−エチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。このN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物は、本発明の化学発光試薬の製造には必須であり、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類と複合体を形成した後、アクリジニウム塩構造の還元反応に伴い、より発光収率の高い化合物へと変化するものであり、本発明の化学発光試薬の製造反応に反応成分として関与し、反応生成物の水溶性の付与等に寄与しているものと推定される。従って、その使用量はN,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類に対して1〜1000当量、好ましくは1.5〜500当量、特に好ましくは2〜300当量の割合で採用される。
【0024】
また、化学発光試薬の製造において、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類をN,N’−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において還元剤と接触させる際に、更に、蟻酸を添加することが好ましく、また、還元処理には有機溶媒を用いることが好ましい。蟻酸は、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類に対して0〜5000当量、好ましくは、0.5〜1000当量、特に好ましくは、1〜500当量の割合で用いられ、還元反応を促進し、化学発光試薬の反応収率を著しく高める作用を有するものである。
【0025】
化学発光試薬の製造において、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類の還元処理に用いられる還元剤としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化リチウムボロン、水素化ナトリウムボロン等が挙げられるが、水素化リチウムアルミニウムが特に好ましい。
【0026】
還元処理を行なう際には、反応溶媒を使用することが好ましく、反応試薬に対して不活性であり、反応試薬に対する溶解性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、テトラヒドロフラン、ジオキサン類等の環状エーテル類等の有機溶媒が特に好ましい。
【0027】
また、化学発光試薬の製造に用いられる紫外線の光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、殺菌灯等を非限定的に用いることができるが、高圧水銀灯が好ましく用いられる。この紫外線照射により得られる化学発光試薬は、紫外線を照射せずに製造した化学発光試薬に較べて同濃度で使用した場合に、非常に高い発光強度を示すことが認められることから、化学発光性化合物の生成反応を促進する作用を有するものと推定される。
【0028】
反応温度は用いられる還元剤及び反応溶媒の種類によって異なるが、一般的に、−10〜+150℃、好ましくは、0〜120℃、特に好ましくは、20〜90℃の範囲の温度を採用することができる。また、反応時間は、1分〜一昼夜、好ましくは、10分〜12時間、特に好ましくは、30分〜5時間の範囲の時間でよい。
【0029】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法に用いられる化学発光試薬は、pH7.5〜13の塩基性条件下、過剰の水素受容体の存在下において、ペルオキシダーゼの濃度に依存した量で発光する。この発光はフェノール性化合物等の発光増強剤によって増強されることが認められる。このようなフェノール性化合物としては、p−ヒドロキシ桂皮酸、p−フェニルフェノール、p−(4−クロロフェニル)フェノール、p−(4−プロモフェニル)フェノール、p−(4−ヨードフェニル)フェノール、p−ヨードフェノール、p−ブロモフェノール、p−クロロフェノール、6−ヒドロキシベンゾチアゾール、2−ナフトール、ホタルルシフェリン等が非限定的に挙げられる。
【0030】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法に用いられる化学発光試薬の濃度は、10-8〜1M、好ましくは、10-6〜10-2Mの範囲であり、その使用量は10〜500μl、特に、50〜300μlの範囲が好ましい。また、発光増強剤の使用量は、化学発光試薬の0.01〜100倍モル、好ましくは、0.1〜10倍モルの範囲であり、その濃度は10-6〜1M、特に、10-4〜10-2Mの範囲が好ましい。
【0031】
ペルオキシダーゼを標識物質として利用し、抗体、核酸等を標識して種々の物質を定量する場合には、特に限定されるものではないが、ペルオキシダーゼとして、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いることが好ましい。
【0032】
また、化学発光反応に用いられる水素受容体としては、ペルオキシダーゼ酵素の基質となり得るものであれば、特に限定されるものではなく、有機過酸化物、無機過酸化物等が任意に用いられるが、過酸化水素が好ましくい。この水素受容体の使用量は化学発光性物質に対して充分に過剰な量で用いることが必要であり、その使用量は、化学発光物質に対して3〜1万倍モル、特に、10〜1000倍モルの範囲が好ましい。
【0033】
化学発光反応に用いられる塩基性緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ほう酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液等を挙げることができる。これらの緩衝液は1mM〜1Mの濃度範囲で用いることが好ましい。また、反応時に界面活性剤、キレート剤等の添加剤を任意に用いることもできる。
【0034】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法における化学発光反応の発光量の測定は、発光光度計を用いて測定することができる。その際に、発光量測定の開始点及び積算時間は任意であるが、発光量が安定し且つ発光量の濃度依存性の高い時間を選択するのが望ましい。例えば、測定開始点は試薬混合後0〜1時間、好ましくは、0〜30分、特に好ましくは、0〜15分であり、測定の積算時間は1秒〜1分、好ましくは、1〜30秒、特に好ましくは、1〜10秒である。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態としては、
ペルオキシダーゼ酵素標識した抗体又は抗原を試料中の抗原又は抗体と混合し、抗原抗体反応によりペルオキシダーゼ酵素標識−抗原抗体錯体からなる免疫複合体を生成させた後、化学発光試薬として、N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類をN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物及び蟻酸の存在下において紫外線照射下で還元剤と接触させることにより得られる化学発光試薬を添加し、水素受容体の存在下において、化学発光させ、その発光量を測定することにより、試料中の抗原量又は抗体量を測定することからなる化学発光酵素免疫測定方法
を提供することができる。
【0036】
【実施例】
以下、参考例と共に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例等により限定されるものではない。
尚、参考例及び実施例等の%は重量%を意味する。
【0037】
[参考例1]
化学発光試薬の製造
ルシゲニン1mgを試験管に採り、これにN,N−ジメチルアセトアミド150μlを加えて溶解させた後、攪拌下に1,4−ジオキサン1ml中へ加えてルシゲニンを1,4−ジオキサン中に微分散させた。次に、これに蟻酸20μlを加えてよく攪拌してから、水素化リチウムアルミニウム粉末5mgを添加して、1KWの高圧水銀灯の照射下に、25℃で30分間攪拌して還元反応させた後、反応混合液を氷冷下に脱イオン水1ml中へ少量ずつ注入して過剰量の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次に、生成した水酸化アルミニウム等の沈殿を濾別してから、濾液のpHを1N塩酸で7.0に調整することにより新規化学発光試薬を得た。
【0038】
[参考例2]
不溶性担体固定化ポリクローナル抗体の製造
抗原に対し特異的反応性を有する兎等の動物由来のポリクローナル抗体を10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4 )(PBS)に10mg/mlの濃度で溶解した溶液を、白色マイクロプレート(ラボシステム社)の各ウェルに0.1mlずつ加え、37℃の温度で1時間放置した後、PBSで洗浄してから、1%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を0.3mlずつ加えて37℃の温度で1時間放置してポストコーティング処理を実施してポリクローナル抗体固定化白色マイクロプレートを得た。
【0039】
[参考例3]
ペルオキシダーゼ酵素標識モノクローナル抗体の製造
抗原に特異的反応性を有するマウス由来等のモノクローナル抗体を10mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4 )に1.0mg/mlの濃度で溶解した溶液1mlに、N−(m−マレイミド安息香酸)−N−サクシンイミドエステル(MBS)の10mg/mlの濃度のジメチルホルムアミド溶液0.1mlを添加し、25℃の温度で30分間反応させた。次いで、この反応混合液をセファデックスG−25を充填したカラムを用い、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0 )でゲル濾過を行ない、マレイミド化モノクローナル抗体と未反応MBSとを分離した。
【0040】
一方、ペルオキシダーゼ酵素としてホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)の1.0mg/mlのPBS溶液に、N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネート(SPDP)の10mg/mlの濃度のエタノール溶液を添加し、25℃の温度で30分間反応させた。次いで、この反応混合液をセファデックスG−25を充填したカラムを用い、10mM酢酸緩衝液(pH4.5 )でゲル濾過して精製、ピリジルジスルフィド化HRPを含有する画分を採取し、これをコロジオンバック中において氷冷下に約10倍に濃縮した。次に、これに0.1Mジチオスレイトールを含有する0.1M酢酸緩衝生理食塩水(pH4.5 )1mlを添加して、25℃の温度で30分間攪拌してHRP分子中に導入したピリジルジスルフィド基を還元した後、この反応混合液をセファデックスG−25を充填したカラムを用いてゲル濾過し、チオール化HRPを含有する画分を得た。
【0041】
次に、マレイミド化モノクローナル抗体とチオール化HRPとを混合し、コロジオンバックを用いて氷冷下に4mg/mlの蛋白質濃度まで濃縮し、4℃で一昼夜放置した後、ウルトロゲルAcA44(SEPRACOR社)を充填したカラムを用いてゲル濾過し、ペルオキシダーゼ酵素標識モノクローナル抗体を得る。
【0042】
[実施例1]
同時サンドイッチ法CLEIAによるα−フェトプロティン(AFP)の測定
兎抗ヒトAFPポリクローナル抗体を固定化した白色マイクロプレートに、精製したヒトAFP(標準物質)を0〜800ng/mlの範囲で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )50μlとペルオキシダーゼ酵素標識マウス抗ヒトAFPモノクローナル抗体を約3μg/mlの濃度で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )100μlとを加え、37℃の濃度で1時間インキュベートした。次に、ウェル内の溶液を吸引除去した後、生理食塩水で洗浄してから、各ウェルにp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlを加え、これに参考例1で製造した化学発光試薬の1000倍希釈液100μl及び0.0034%過酸化水素を含む0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4 )50μlを注入して発光させ、この発光量をルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間積算して測定し、この値を標準物質濃度に対してプロットすることにより、図1に示される濃度依存性の良い検量線を得た。この検量線を用いて血清検体中のヒトAFPを0.05ng/mlの濃度まで測定することが可能であった。
【0043】
[実施例2」
同時サンドイッチ法CLEIAによるプロラクチン(PRL)の測定
兎抗ヒトPRLポリクローナル抗体を固定化した白色マイクロプレートに、精製したヒトPRL(標準物質)を0〜200ng/mlの範囲で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )50μlとペルオキシダーゼ酵素標識マウス抗ヒトPRLモノクローナル抗体を約2μg/mlの濃度で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )100μlとを加え、37℃の温度で1時間インキュベートした。次いで、ウェル内の溶液を吸引除去し、生理食塩水で洗浄してから、各ウェルにp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlを加え、これに参考例1で製造した化学発光試薬の1000倍希釈液100μl及び0.0034%過酸化水素を含む0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4 )50μlを注入して発光させ、この発光量をルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間積算して測定し、この値を標準物質濃度に対してプロットすることにより、図2に示される濃度依存性の良好な検量線を得た。この検量線を用いて血清検体中のヒトプロラクチンを0.1ng/mlの濃度まで測定することが可能であった。
【0044】
[実施例3]
同時サンドイッチ法CLEIAによるヒト絨毛性ゴナドトロピンβ鎖(βhCG)の測定
兎抗ヒトhCGポリクローナル抗体を固定化した白色マイクロプレートに、精製したβhCG(標準物質)を0〜200mIU/mlの範囲で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )50μlとペルオキシダーゼ酵素標識マウス抗βhCGモノクローナル抗体を約2μg/mlの濃度で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )100μlとを加え、37℃の温度で1時間インキュベートした。
【0045】
次に、ウェル内の溶液を吸引除去した後、生理食塩水で洗浄してから、各ウェルにp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlを加え、これに参考例1で製造した化学発光試薬の1000倍希釈液100μl及び0.0034%過酸化水素を含む0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4 )50μlを注入して発光させ、この発光量をルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間積算して測定し、この値を標準物質濃度に対してプロットすることにより、図3に示される濃度依存性の良い検量線を得た。この検量線を用いて血清検体中のβhCGを0.1mIU/mlの濃度まで測定することが可能であった。
【0046】
[比較例1]
ルミノールを用いる同時サンドイッチ法CLEIAによるα−フェトプロティン(AFP)の測定
兎抗ヒトAFPポリクローナル抗体を固定化した白色マイクロプレートに、精製したヒトAFP(標準物質)を0〜800ng/mlの範囲で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )50μlとペルオキシダーゼ酵素標識マウス抗ヒトAFPモノクローナル抗体を約3μg/mlの濃度で含有する2%BSA含有PBS溶液(pH7.4 )100μlとを加え、37℃の濃度で1時間インキュベートした。次に、ウェル内の溶液を吸引除去した後、生理食塩水で洗浄してから、各ウェルにp−ヨードフェノールを10-3Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)100μlを加え、これにルミノールを5.6×10-5Mの濃度で含有する0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4 )50μlを注入して発光させ、この発光量をルミノメーター(ダイアヤトロン社製ルミナスCT−9000D)で0〜5秒間積算して測定し、この値を標準物質濃度に対してプロットすることにより、図4に示される濃度依存性を有する検量線を得た。この検量線を用いて血清検体中のヒトAFPを2.0ng/mlの濃度まで測定することが可能であったにすぎなかった。
【0047】
【発明の効果】
本発明の化学発光酵素免疫測定方法によれば、入手が容易であり、取り扱いも比較的に容易なペルオキシダーゼ酵素を標識物質として用い、安価で入手が容易であるルシゲニン等を出発原料とし、且つ容易に製造できる新規化学発光試薬を用いる化学発光法により測定対象物質である種々の抗原又は抗体類を免疫学的に高感度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1記載の反応系を用いて化学発光させた化学発光量をヒトαAFP(標準物質)の濃度の関数としてプロットして作成したヒトαAFP測定用の検量線である。
【図2】 実施例2記載の反応系を用いて化学発光させた化学発光量をヒトプロラクチン(標準物質)の濃度の関数としてプロットして作成したヒトプロラクチン測定用の検量線である。
【図3】 実施例3記載の反応系を用いて化学発光させた化学発光量をβhCG(標準物質)の濃度の関数としてプロットして作成したβhCG測定用の検量線である。
【図4】 比較例1記載の反応系(ルミノールを使用。)を用いて化学発光させた化学発光量をヒトαAFP(標準物質)の濃度の関数としてプロットして作成したヒトαAFP測定用の検量線である。
−
Claims (9)
- ペルオキシダーゼ酵素標識した抗体若しくは抗原を試料中の測定すべき抗原若しくは抗体又はそれらの凝集物と混合し、抗原抗体反応によりペルオキシダーゼ酵素標識−抗原抗体錯体からなる免疫複合体を生成させた後、化学発光試薬として、下記一般式(1)
で表される化合物であるN,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類を、下記の一般式(2)
で表されるN,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において紫外線照射下で還元剤と接触させることにより得られる化学発光試薬を添加し、水素受容体の存在下において化学発光させ、その発光量を測定することにより試料中の抗原又は抗体の含有量を定量することを特徴とする化学発光酵素免疫測定方法。 - 前記N,N'−ジ置換−9,9'−ビスアクリジニウム塩類が、N,N'−ジメチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩又はN,N'−ジエチル−9,9'−ビスアクリジニウム塩である請求項1に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類がN,N’−ジメチル−9,9’−ビスアクリジニウムジナイトレートである請求項1に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記N,N−ジ置換カルボン酸アミド化合物がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1〜3のいずれかの請求項に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記N,N’−ジ置換−9,9’−ビスアクリジニウム塩類を、前記N,N’−ジ置換カルボン酸アミド化合物の存在下において前記還元剤と接触させる際に、更に、蟻酸が添加されてなる請求項1〜4のいずれかの請求項に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記還元剤が水素化リチウムアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記水素受容体が過酸化水素である請求項1〜6のいずれかの請求項に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記化学発光反応を行なう際に、発光増強剤を更に、含有させてなる請求項1〜7のいずれかの請求項に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
- 前記発光増強剤がフェノール性化合物である請求項8に記載の化学発光酵素免疫測定方法。
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