JP4020184B2 - 平版形成用感熱型版材 - Google Patents
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Description
本発明は、平版形成用感熱型版材とその製造方法、前記版材の製造に使用される液状感熱材料、および前記版材を熱により製版して得られる平版に関する。
背景技術
コンピュータを利用した平版の製版方法が従来より提案されている。特に、CTP(Computer To Plate)システムでは、DTP(Desktop Publishment)で編集および作製された印刷画像情報を、可視画像化することなく直接版材に、レーザ若しくはサーマルヘッドで印字することにより製版を行っている。このCTPシステムは、製版工程の合理化と製版時間の短縮化、材料費の節減が可能となることから、商業印刷の分野で大いに期待されている。
このようなCTP用版材に関し、本出願人は、情報に応じた熱による描画を行うことにより、版面(印刷時にインキを付ける面)に親油性部と非受容部を形成する感熱タイプの版材であって、現像工程が不要で耐刷性に優れた平版が得られる版材を提案した。
この版材を製版して得られた平版は、例えば、油性インキを使用する印刷に使用され、製版時に、版面に油性インキの受容部(親油性部)と非受容部(親水性部)が形成される。印刷時には、版面の親油性部にインキが保持され、オフセット印刷法では、このインキがゴムブランケットを介して紙に押し付けられることにより、版面の親油性部に対応する画像が紙に形成される。
例えば、特開平7−1849号公報には、版材用の感熱材料として、熱により親油性部(画像部)となる成分(親油性成分)が入ったマイクロカプセルと、親水性ポリマー(親水性バインダーポリマー)とを含有するものが開示されている。また、この親水性ポリマーは、3次元架橋し得る官能基と、熱によりマイクロカプセルが破壊した後にマイクロカプセル内の親油成分と反応して化学結合する官能基を有している。
この公報には、また、上述の感熱材料からなる感熱層(親水層)を支持体面に形成した後に、親水性ポリマーを3次元架橋させた版材が開示されている。この公報によれば、この版材は、製版時の熱によってマイクロカプセルが破壊すると、マイクロカプセル内の親油性成分がポリマーとなって親油性部(画像部)となり、これと同時にこの親油性成分と親水性ポリマーとが反応して化学結合が生じる構成となっている。
その結果、この版材は、製版工程で現像が不要であって、得られる平版の耐刷性に格段に優れ、親水性部(非画像部)の性能にも優れているため地汚れのない鮮明な画像の印刷物を得ることができると記載されている。
また、WO(国際公開)98/29258号公報には、親水性ポリマーの3次元架橋を、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分と、錫等の多価金属イオンとの相互作用によって生じさせることにより、特開平7−1849号公報に記載の版材の耐刷性をさらに高くすることが開示されている。
この公報には、また、感熱層(親水層)の表面に、表面の保護剤として親水性ポリマー薄膜層を形成することにより、版面の親水性部(非画像部)を安定化させるとともに、版面に汚れが付着することを防止することが記載されている。
これらの公報に記載の版材によれば、上述のように、現像工程が不要で耐刷性および親水性部(油性インキの非受容部、非画像部)の性能に優れた平版が得られる。しかしながら、これらの版材には、製版して得られた平版の機械的強度および耐印刷性能(特に、親水性部に汚れが生じ難くすること)の点で改良の余地がある。
平版の機械的強度が十分に高くないと、平版の表面に傷が入り易くなるため、取扱いに十分な注意が必要となる。また、印刷機の版とブランケットとの間の圧力が高い過酷な条件で印刷を行った時に、版本体(版材で感熱層であった部分)と支持体との間で剥離が生じ易くなる。その結果、比較的少ない印刷部数で耐印刷性能が劣化するようになる。
親水性部に汚れが付着していると、特に、前述の過酷な条件で印刷を行った時に、ブランケット面の非画像部にインキが付着し易い。ブランケット面の非画像部にインキが付着した場合には、印刷物の地汚れを防ぐために、一定部数の印刷毎にブランケットの洗浄が必要になる。その結果、印刷作業の効率低下を招く。
上述のWO98/29258号公報に記載の方法によれば、平版の機械的強度および耐印刷性能を向上させることは可能であるが、この方法では、精製工程または長時間の洗浄工程が必要となって手間がかかるため、量産時のコストが高くなるという点で改善の余地がある。
一方、WO99/04974号公報には、現像工程が不要で値段も易く容易に製造できる版材として、特定の親水性層を支持体上に有するものが記載されている。
この親水性層は、特定の金属の酸化物または水酸化物からなるコロイドと、高強度の光熱放射によってインキ受容可能となる材料とを含む、架橋された重合体マトリックス(a crosslinked polymeric matrix)からなる。前記特定の金属として、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、珪素、ガドリニウム、ゲルマニウム、砒素、インジウム、すず、アンチモン、テルル、鉛、ビスマス、遷移金属が挙げられている。
この公報には、長期間に渡って印刷を行うためには、親水層は架橋されている必要があると記載されている。また、現像工程を不要とするためには、親水層は十分に水を保持する必要があると記載されている。そして、この発明では、イオン基を含む架橋剤で架橋された金属コロイド(例えばコロイダルシリカ)のオーバーコートが水を保持し、印刷性能を改善することを見出したと記載されている。
また、この公報の実施例では、この版材の親水性層を、コロイダルシリカ:5%と、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(シランカップリング剤):1%と、カーボン:2%とを含む混合物を、ポリエチレンテレフタレート上に塗布して乾燥させることにより作製している。
この公報に記載の版材では、金属酸化物同士の結合や、金属酸化物とシランカップリング剤との間の脱水縮合で、親水層を架橋構造としていると考えられる。しかしながら、この方法では、OH基などの親水性基の縮合によって架橋が行われるため、架橋点を増やすことは親水基を減らすことにつながる。したがって、この公報に記載の版材により、機械的強度と耐印刷性能の両方に優れた平版を得ることは難しい。
本発明は、現像工程が不要な平版形成用感熱型版材において、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高く、しかも大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる版材を提供することを課題とする。
発明の開示
[第1の版材]
本発明は、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子(以下「親油性部形成粒子」と称する。)と、有機ポリマーからなる親水性ポリマーとを含有する感熱層が、支持体に支持されている平版形成用感熱型版材において、前記親水性ポリマーは、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有し、前記感熱層は、親水性ポリマーの硬化剤として多価金属酸化物(原子価が2以上である金属の酸化物)を含有することを特徴とする平版形成用感熱型版材を提供する。この版材を第1の版材とする。
この平版形成用感熱型版材によれば、感熱層の親水性ポリマーは親水性でありながら水に不溶となる。また、この感熱層の親水性ポリマーの硬さは、多価金属酸化物が含まれていない感熱層の親水性ポリマーと比較して硬くなる。
上記効果が得られるメカニズムは解明されていないが、以下のように推測される。この推測は、NMR、X線散乱など種々の解析結果に基づいてなされているが、現時点では推測の域を脱しない。
一般に、金属酸化物からなる粒子の表面には、金属原子および/または酸素原子が不飽和な状態で(いずれかの原子価が満たされていない状態で)露出している部分と、OH基が存在している部分がある。この露出している金属原子および/または酸素原子と、OH基が、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーの架橋剤として機能すると考えられる。特に、OH基は、親水性ポリマーのルイス塩基部分と安定な水素結合を形成する。
そのため、金属酸化物からなる粒子は、親水性ポリマーの効果的な架橋剤となると推測される。
ただし、原子価が1である金属の酸化物は、イオンでない状態で感熱層に含有させることが困難である。イオンでない状態で感熱層に含有させることができた場合でも、1価の金属酸化物の粒子は、多価金属酸化物の粒子と比較して、粒子を構成する分子間の引力が弱いため、親水性ポリマーの効果的な架橋剤とはならない。したがって、本発明では1価の金属酸化物を使用しない。
例えば、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーがポリアクリル酸であり、金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)である場合には、図2に示すように、ポリアクリル酸の複数のカルボキシル基(ルイス塩基)の間に、Al2O3粒子が存在し、このAl2O3粒子の表面に複数個存在するOH基が、それぞれポリアクリル酸のカルボキシル基と水素結合する。
これにより、ポリアクリル酸がAl2O3粒子で架橋される。また、この架橋によっても、ルイス塩基部分の親水性は損なわれない。その結果、この架橋されたポリアクリル酸は、親水性でありながら水に不溶となり、架橋されないポリアクリル酸よりも硬くなる。また、架橋度が高くても、親水性部の高い親水性が保持される。
さらに、多価金属酸化物は吸着能が高いため、製版時に親油性部形成粒子の親油成分を吸着して、親油性部の耐印刷性能を高くする効果も得られると推測される。
また、多価金属イオン(原子価が2以上である金属のイオン)を含有する感熱層の場合のように、精製工程または長時間の洗浄工程を行わなくても、良好な感熱層が得られる。これにより、この第1の版材によれば、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高いだけでなく、大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる。
[第1の版材用の多価金属酸化物]
第1の版材の多価金属酸化物としては、原子価が2以上である金属原子または半金属原子をMとしてMxOyで示される化合物や、金属化合物の水和物(MxOy・nH2O)が使用できる。また、過酸化物、低級酸化物、複合酸化物も使用できる。複合酸化物の場合、複合酸化物を構成する金属酸化物のうち少なくとも1つが多価金属酸化物であればよい。すなわち、1価の金属酸化物と多価金属酸化物とからなる複合酸化物も使用可能である。
原子価が2以上である金属原子および半金属原子としては、Cu、Ag、Au、Mg、Ca、Sr、Ba、Be、Zn、Cd、Al、Ti、Si、Zr、Sn、V、Bi、Sb、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ni、Co、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、および希土類元素が挙げられる。
第1の版材に使用可能な多価金属酸化物の具体例としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、二酸化マンガン、酸化すず、過酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化ゲルマニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、および酸化タングステンが挙げられる。これらの多価金属酸化物を単独で使用してもよいし、複数種類を併用して使用してもよい。
第1の版材に好適な多価金属酸化物としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化すず、過酸化チタン、酸化チタンが挙げられる。これらの多価金属酸化物を使用することによって、感熱層の親水性ポリマーを水に対して不溶化し且つ硬くする効果が特に大きくなる。
多価金属酸化物の結晶構造も特に限定されず、ルチル型、アナタース型、赤銅鉱型、食塩型、CuO型、ウルツ鉱型、スピネル型、ペロブスカイト型、コランダム型、Sc2O3型、ホタル石型、逆ホタル石型、ReO3型、イルメナイト型等のいずれの結晶構造であってもよい。また、アモルファス状態の多価金属酸化物であってもよい。
第1の版材の感熱層において、多価金属酸化物は粒子状で存在している。この金属酸化物粒子は、平均一次粒径が1μm以下であることが好ましく、0.1nm以上100nm以下であることがより好ましい。また、この金属酸化物粒子の表面には、金属原子および/または酸素原子が不飽和な状態で露出していもよく、OH基が存在していてもよい。
第1の版材の感熱層において、多価金属酸化物は微分散されていることが好ましい。微分散とは、一次粒子が高次粒子を形成せずに分散すること、または、一次粒子が凝集して高次粒子になっているが、この高次粒子の粒径が一定の値より小さく、且つこの高次粒子同士が互いに実質的に接触していないことを意味する。一次粒子が凝集して高次粒子になっている場合には、この高次粒子の平均粒径を1μm以下あるいは0.1nm以上100nm以下とする。
多価金属酸化物が感熱層内で微分散せず、三次元網状の凝集構造などを形成していると、親水性ポリマーと多価金属酸化物との接触面積が小さくなって、前記効果が十分に得られなくなる場合がある。
第1の版材の感熱層において、多価金属酸化物の含有率は、感熱層全体の質量に対して1質量%以上90質量%以下であることが好ましく、5質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。多価金属酸化物の含有率が低すぎると、多価金属酸化物添加による効果が十分に得られない場合があり、高すぎると十分な感度が得られない場合がある。
[第1の版材用の感熱材料]
本発明は、また、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子と、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、多価金属酸化物と、この酸化物を前記親水性ポリマーに対して不活性にする安定化剤とを含有することを特徴とする平版形成用液状感熱材料を提供する。
この安定化剤は酸または塩基であることが好ましい。この安定化剤として使用可能な酸および塩基としては、ブレンステッドの定義あるいはルイスの定義による全ての酸および塩基が挙げられる。ブレンステッドの定義あるいはルイスの定義による全ての酸および塩基については、例えば日本化学会編、化学便覧、改訂4版、基礎編II、p.316−333、丸善、1993に記載されている。これらの酸および塩基のうち、塩化水素、硝酸、アンモニア、ヒドロキシアミン、リン酸、硫酸、安息香酸、蟻酸、クエン酸を用いることが好ましい。また、成膜後に安定化剤を容易に除去できることから、塩基としてアンモニア、酸として塩化水素を使用することが特に好ましい。
この安定化剤による多価金属酸化物の安定化(前記親水性ポリマーに対する不活性化)は、例えば以下のようにしてなされていると推定される。
図3に示すように、例えば、多価金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)である場合には、Al2O3粒子の表面に複数個存在するOH基のHと、安定化剤として添加されているアンモニアのNとの間に水素結合が生じる。これにより、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと多価金属酸化物粒子と間に相互作用が生じ難くなると考えられる。
上述したように、第1の版材の感熱層は、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子(親油性部形成粒子)と、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、多価金属酸化物とを含有する。この感熱層を形成する方法としては、次の2つの方法が挙げられる。第1の方法は、親油性部形成粒子、親水性ポリマー、および多価金属酸化物を含む液状の感熱材料を用意し、この液体を支持体に塗布することにより塗膜を形成した後、この塗膜から溶媒を蒸発させる方法である。
第2の方法は、親油性部形成粒子と親水性ポリマーは含むが多価金属酸化物を含まない液状の感熱材料を用意し、先ず、この液体を支持体に塗布することにより塗膜を形成する。その後、この塗膜に、多価金属酸化物を含む液体を浸透させること等によって、多価金属酸化物を含有させた後、この塗膜から溶媒を蒸発させる方法である。
これらの方法を比較すると、第1の方法の方が簡便であり、量産時の製造方法としても好ましい。しかしながら、前者の方法では、感熱材料中に多価金属酸化物と親水性ポリマーとが共存しているため、支持体上に塗布する前に多価金属酸化物と親水性ポリマーとの架橋が生じ易い。その結果、支持体上に塗布する前に、感熱材料の粘度が上昇したり、感熱材料中の親水性ポリマーが部分的に硬化またはゲル化したり、感熱材料中に沈殿物が生成したりする恐れがある。
これに対して、本発明の平版形成用液状感熱材料は、多価金属酸化物を親水性ポリマーに対して不活性にする安定化剤を含有しているため、支持体上に塗布する前に、多価金属酸化物と親水性ポリマーとの架橋が生じることが防止される。したがって、この感熱材料によれば、通常の期間であれば、保管中に、粘度の上昇、親水性ポリマーの部分的な硬化またはゲル化、沈殿物の生成等の問題が生じることが抑制される。
ただし、液状の感熱材料を長期間保管する場合には、多価金属酸化物を、親油性部形成粒子および親水性ポリマーとは別にしておき、支持体上に塗布する直前に、多価金属酸化物以外を含む液状の感熱材料と、多価金属酸化物とを混合して使用してもよい。
この感熱材料の溶媒としては、親油性部形成粒子および親水性ポリマーとともに、粒子の多価金属酸化物を分散または溶解できる液体を用いる必要がある。そのため、この溶媒としては、水か、主成分が水である液体を使用することが好ましい。水と水に溶ける液体とからなる混合分散媒を用いても良い。また、粘度を調整する目的で、感熱材料に有機溶剤が添加されていてもよい。この有機溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロバノール、1−プロパノール、アセトン、およびメチルエチルケトンが例示できる。
この感熱材料は、保管中に一部の成分が沈降する場合があるが、塗布する直前に再度撹拌すれば問題なく使用できる。再撹拌の方法は、沈降の程度によっても異なるが、密閉容器で振とうする方法、撹拌羽根で回転撹拌する方法が採用できる。
[第1の版材の製造方法]
本発明はまた、本発明の平版形成用感熱材料を支持体に塗布して塗膜を形成した後に、この塗膜から安定化剤を除去することにより感熱層を得ることを特徴とする平版形成用感熱型版材の製造方法を提供する。この方法は第1の版材の製造方法として好適である。
この方法によれば、感熱材料を支持体上に塗布する前に、多価金属酸化物と親水性ポリマーとの架橋が生じることが防止される。また、安定化剤の除去の後に得られる感熱層の親水性ポリマーは、前述のように、多価金属酸化物との相互作用によって水に不溶で硬いものとなる。
塗膜から安定化剤を除去する方法としては、塗膜を加熱するか常温で放置することによって安定化剤を蒸発させる方法、安定化剤が酸である場合には塩基性液体で洗浄する方法、安定化剤が塩基である場合には酸性液体で洗浄する方法が例示できる。これらの方法を組み合わせて、安定化剤を蒸発させた後に、塩基性液体または酸性液体による洗浄を行ってもよい。安定化剤の蒸発は、大気圧下で行っても良いし、減圧下で行っても良い。
塗膜の加熱により安定化剤を除去する際には、加熱温度を、感熱材料に含まれる親油性部形成粒子(例えばマイクロカプセル)および親水性ポリマーの性質が損なわれない範囲の温度とする必要がある。また、加熱源も特に制限はなく、通常の電気炉、赤外線加熱炉などを用いることができる。
塩基性液体または酸性液体による洗浄で塗膜から安定化剤を除去する場合は、常温の液体以外に、加熱または冷却した液体を用いることができる。その際の液体温度は、塗膜の膨潤性や機械的強度、親油性部形成粒子のの温度特性等に応じて、良好な性質が損なわれない範囲の温度とする必要がある。
第2の方法で本発明の平版形成用感熱型版材の感熱層を形成する場合には、予め形成された塗膜に多価金属酸化物を分散状態で含有させる。この場合に、多価金属酸化物そのものではなく、加熱、加湿、エイジング等の処理によって多価金属酸化物に変化し得る前駆体を含有させてもよい。その場合には、前記処理を行うことによって、この前駆体を塗膜内で金属酸化物に変化させる。また、この前駆体は、感熱材料に添加しておいてもよい。
予め形成された塗膜に、多価金属酸化物またはその前駆体を分散状態で含有させるためには、先ず、多価金属酸化物またはその前駆体を含む水溶液あるいは分散液を、この塗膜(感熱層)の表面から浸透させる。その後、この水溶液の溶媒あるいは分散液の分散媒を塗膜から蒸発させる。
前記水溶液あるいは分散液を塗膜に浸透させる方法としては、前記水溶液あるいは分散液に塗膜を浸漬する方法、この水溶液あるいは分散液を塗膜に噴霧する方法、バーコーターやロールコーターなどでこの水溶液あるいは分散液を塗膜に塗布する方法が挙げられる。
複数種類の多価金属酸化物を感熱層に含有させる場合には、各多価金属酸化物毎に液体を用意して逐次処理してもよいし、全ての多価金属酸化物を含む液体を用意して一括処理してもよい。
また、塗膜から溶媒あるいは分散媒を蒸発させる方法としては、室温での風乾、減圧乾燥、熱風あるいは赤外線等を用いた加熱による強制乾燥等のいずれの方法を採用してもよい。場合によっては、室温での風乾の後に加熱処理を実施してもよい。ただし、加熱による強制乾燥を行う場合には、加熱温度を、感熱材料に含まれる親油性部形成粒子(例えばマイクロカプセル)および親水性ポリマーの性質が損なわれない範囲の温度とする必要がある。
また、支持体上に予め、多価金属酸化物またはその前駆体を塗布しておいて、その上に前記塗膜を形成し、加熱やエイジング等の処理を行うことによって、多価金属酸化物またはその前駆体を支持体から感熱層に移動させて分散させてもよい。
[第2の版材]
本発明は、また、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子と、親水性ポリマーとを含有する感熱層が、支持体に支持されている平版形成用感熱型版材において、前記親水性ポリマーは、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有し、前記感熱層は、親水性ポリマーの硬化剤として、式(SiO2)nで表記される結合を有する分子からなる物質(以下、この物質を「物質A」と称する。)を含有することを特徴とする平版形成用感熱型版材を提供する。この版材を第2の版材とする。
この物質Aは、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムからなる群(珪酸のアルカリ金属塩)から選ばれた少なくとも一つが溶解している溶液と、前記親水性ポリマーとを共存させた状態で、この溶液から溶媒を除去する方法により、前記感熱層に容易に含有させることができる。この溶媒としては、珪酸のアルカリ金属塩を溶解できるものであれば特に限定されないが、水を用いることが好ましい。
即ち、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムからなる群から選ばれた少なくとも一つが溶解している溶液と、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性ポリマーとを共存させた状態で、この溶液から溶媒を除去する方法により形成された感熱層は、物質Aを含むため、第2の版材の感熱層である。
この平版形成用感熱型版材によれば、感熱層の親水性ポリマーは親水性でありながら水に不溶となる。また、この感熱層の親水性ポリマーの硬さは、前記物質が含まれていない感熱層の親水性ポリマーと比較して硬くなる。
また、多価金属イオン(原子価が2以上である金属のイオン)を含有する感熱層の場合のように、精製工程または長時間の洗浄工程を行わなくても、良好な感熱層が得られる。これにより、この第2の版材によれば、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高いだけでなく、大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる。
上記効果が得られるメカニズムは解明されていないが、以下のように推測される。この推測は、NMR、X線散乱など種々の解析結果に基づいてなされているが、現時点では推測の域を脱しない。
ケイ酸アルカリ塩(珪酸のアルカリ金属塩)の水溶液から水を除去すると、珪酸イオン部分が珪素原子と酸素原子との交互繰り返し結合を有する分子となる。この結合は、式(SiO2)nで表記され、4価の珪素原子と2価の酸素原子が交互に結合された3次元網状構造を有すると推測される。
ケイ酸アルカリ塩が溶解している水溶液とルイス塩基を有する親水性ポリマーとを共存させた状態で、この水溶液から水を除去すると、この親水性ポリマーは、物質Aをなす分子の(SiO2)n結合による3次元網目の中に入った状態になるか、物質Aと親水性ポリマーとが互いに入り組んだ状態(特殊な相分離構造)になると考えられる。この入り込み度合は、数nm〜数百nm程度であると考えられる。
このような状態になることにより、この親水性ポリマーは、親水性でありながら水に不溶となるとともに、(SiO2)n結合を有する分子が含まれていない感熱層の親水性ポリマーよりも、硬いものになると推測される。
また、親水性ポリマーが(SiO2)n結合の3次元網目に入った状態になることによって、感熱層の表面に(SiO2)n結合を有する分子が露出する。これにより、親水性ポリマーの水に対する不溶性が確実に得られるとともに、感熱層の表面の親水性を向上させる効果が発揮されると推測される。
また、(SiO2)n結合の末端にはOH基が存在するため、このOH基と親水性ポリマーのルイス塩基部分との間に水素結合が生じる。この水素結合も、親水性ポリマーの水に対する不溶性を向上させ、硬さを増すことに寄与していると考えられる。
なお、本発明においては、感熱層に上述の(SiO2)n結合を有する分子からなる物質が含有されていればよく、この分子と親水性ポリマーとの間に、前記水素結合を含む化学結合が生じていても良いし、生じていなくてもよい。
第2の版材において、前記物質Aは、水溶性の珪酸塩である前記アルカリ金属塩と、水に溶け難いか溶けないケイ酸塩とを水存在下で混合した液体(水分散液)を、ルイス塩基を有する親水性ポリマーとを共存させた状態で、この液体から水を除去する方法によっても、前記感熱層に含有させることができる。
水に溶け難いか溶けないケイ酸塩としてはCa、Mg、Ba、Mn、Co、Fe、Al、またはBeとケイ酸とからなるケイ酸塩、これらの珪酸塩の水和物が挙げられる。これらのケイ酸塩は単独で用いてもよいし、複数種類を併用して使用することもできる。
ケイ酸塩は、二酸化ケイ素と金属酸化物とからなる塩であり、二酸化ケイ素と金属酸化物との配合比率は様々である。ケイ酸塩は、その構造によって、オルトケイ酸塩(ネソケイ酸塩)、ソロケイ酸塩、シクロケイ酸塩、イノケイ酸塩、メタケイ酸塩(単鎖イノケイ酸塩)、フィロケイサン塩などに分類される。
本発明で使用する珪酸塩は、これらのいずれの構造であっても構わない。また、ケイ酸アルミニウムカリウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸マグネシウムカルシウムのような、2種類の金属よりなるケイ酸塩であっても構わない。
特に好ましい珪酸塩として、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムが挙げられる。これらを使用すると、感熱層の表面の親水性が特に高くなる。
[第2の版材の感熱層の形成方法]
前記物質Aを前記方法で感熱層に含有させる際に、珪酸塩の水溶液または水分散液と親水性ポリマーとを共存させるタイミングは、感熱層を支持体に形成する前であってもよいし、感熱層を物質Aを含まない状態で支持体に形成した後であってもよい。
前記タイミングが、感熱層を支持体に形成する前である場合には、先ず、液状の感熱材料(親油性部形成粒子と、親水性ポリマーとを含有する材料)中に珪酸塩を添加する。そして、この感熱材料を支持体上に塗布して溶媒を蒸発すれば、形成された感熱層内に物質Aが含有された状態となる。
この場合、ケイ酸塩の感熱材料への添加量は、質量比で(ケイ酸塩の水溶液を添加する場合でも水溶液に溶けている珪酸塩の質量比で)、親水性ポリマー100に対して5〜300であることが好ましく、10〜150であることがより好ましい。感熱層形成のための塗布方法は、ケイ酸塩を添加することによって特に変える必要はなく、通常の方法が採用できる。すなわち、塗布装置としては、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター等のいずれを使用してもよい。
また、感熱材料の塗膜から溶媒を蒸発させる方法としては、室温での風乾、減圧乾燥、熱風あるいは赤外線等を用いた加熱による強制乾燥等のいずれの方法を採用してもよい。ただし、加熱による強制乾燥を行う場合には、加熱温度を、感熱材料に含まれる親油性部形成粒子(例えばマイクロカプセル)および親水性ポリマーの性質が損なわれない範囲の温度とする必要がある。
前記タイミングが、物質Aを含まない感熱層を支持体に形成した後である場合には、先ず前記物質を含まない液状の感熱材料を、支持体上に塗布して溶媒を蒸発することによって塗膜を形成する。次に、上述の珪酸塩の水溶液あるいはケイ酸塩の分散液を、この塗膜の表面から浸透させる。次に、この水溶液あるいは分散液の溶媒あるいは分散媒をこの塗膜から蒸発させれば、この塗膜内に物質Aが含有された状態となる。これにより、物質Aが含有された感熱層が得られる。
前記水溶液あるいは分散液を前記塗膜に浸透させる方法としては、前記水溶液あるいは分散液に塗膜を浸漬する方法、この水溶液あるいは分散液を塗膜に噴霧する方法、バーコーターやロールコーターなどでこの水溶液あるいは分散液を塗膜に塗布する方法が挙げられる。
この場合、前記溶液中あるいは分散液中のケイ酸塩含有量は、質量比で、溶液あるいは分散液100に対して0.01〜30が好ましく、0.1〜5であることがより好ましい。
前記溶媒あるいは分散媒を塗膜から蒸発させる方法は、上述の、感熱材料の塗膜から溶媒を蒸発させる方法と同様に、上述のいずれの方法であってもよい。
前記物質Aを感熱層に含有させるもう一つの方法として、前記溶液あるいは分散液を、支持体から前記物質を含まない状態の感熱層に移動させてこの感熱層内に浸透させる方法が挙げられる。この方法では、予め支持体上に、上述の珪酸塩の水溶液あるいはケイ酸塩の分散液を塗布しておく。次に、この塗布面に前記感熱層を形成し、加熱やエイジング等を行うことによって、前記溶液あるいは分散液を、支持体から感熱層に移動させる。
この場合、溶液中あるいは分散液中のケイ酸塩含有量は、質量比で、溶液あるいは分散液100に対し0.01〜60が好ましく、0.1〜50であることがより好ましい。また、この場合も、感熱層の形成方法は特に変える必要はなく、前述の塗布装置を用いた塗布方法および溶媒蒸発方法が採用できる。ただし、ケイ酸塩の水溶液あるいは分散液を感熱層内に十分に浸透させるために、感熱層の塗膜を形成してから30秒以上経過した後に、溶媒の蒸発を行うことが好ましい。
前記各方法で使用する、珪酸塩を含む液体(水溶液または水分散液)は、pHが高すぎると、物質Aを感熱層に含有させることによって得られる効果が十分に発現されない場合がある。そのため、この液体に鉱酸や有機酸などを添加することにより、この液体のpHを適切な範囲に調整してから、この液体を前記塗膜に浸透させることもできる。
[第3の版材]
第2の版材の感熱層は、さらに、多価金属酸化物を含有することが好ましい。この版材を第3の版材とする。すなわち、この第3の版材の感熱層は、親水性ポリマーの硬化剤として、(SiO2)n結合を有する分子からなる物質(物質A)と多価金属酸化物とを含有する。
第3の版材に使用する多価金属酸化物としては、前述の第1の版材で例示した多価金属酸化物が挙げられる。さらに、前述の水に溶けないケイ酸塩とその水和物も含まれる。
これらの多価金属酸化物のうち、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化すず、過酸化チタン、酸化チタンから選ばれた少なくとも一つを使用することが特に好ましい。これにより、感熱層の親水性ポリマーを水に対して不溶化する作用が特に高くなる。
物質Aを前述の方法で感熱層に含有させる際に、多価金属酸化物が存在していると、珪酸イオン部分が変化して(SiO2)n結合を有する分子が形成される時に、図4に示すように、この分子が多価金属酸化物によって架橋されて、より強固な3次元網状構造が形成されると推測される。その結果、感熱層の親水性ポリマーの水に対する不溶性が更に高くなり、硬さもさらに硬くなる。なお、図4では、多価金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)粒子である場合を示している。
また、多価金属イオン(原子価が2以上である金属のイオン)を含有する感熱層の場合のように、精製工程または長時間の洗浄工程を行わなくても、良好な感熱層が得られる。これにより、この第3の版材によれば、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高いだけでなく、大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる。
第3の版材の感熱層においても、第1の版材と同様に、多価金属酸化物は粒子状で存在している。この金属酸化物粒子は、平均一次粒径が2μm以下であることが好ましく、0.1nm以上500nm以下であることがより好ましい。
第3の版材の感熱層においても、第1の版材と同様に、多価金属酸化物は微分散されていることが好ましい。一次粒子が凝集して高次粒子になっている場合には、この高次粒子の平均粒径を2μm以下あるいは0.1nm以上500nm以下とする。
多価金属酸化物が感熱層内で微分散せず、三次元網状の凝集構造などを形成していると、珪酸イオン部分が変化して(SiO2)n結合を有する分子が形成される時に、この分子と多価金属酸化物との接触面積が小さくなって、この分子と多価金属酸化物と架橋による効果が十分に得られなくなるため好ましくない。
[第3の版材の感熱層の形成方法]
第3の版材の感熱層の形成方法としては、以下の▲1▼〜▲5▼の方法が挙げられる。▲1▼物質Aを含まず、多価金属酸化物粒子と安定化剤とを含む感熱材料からなる塗膜を支持体に形成した後に、この塗膜に、珪酸塩水溶液を浸透させる。その後で、この塗膜から、安定化剤と溶媒である水を蒸発させる。
▲2▼先ず、第2の版材の感熱層を形成する際に使用する、珪酸塩が添加された感熱材料中に、多価金属酸化物の粒子を添加する。この感熱材料を支持体上に塗布して塗膜から溶媒または分散媒を蒸発させる。この時、多価金属酸化物の添加量は、質量比で、例えばケイ酸塩100に対して0.5〜300(好ましくは10〜100)とする。
▲3▼第1の版材の項で示した第2の方法で、粒子状の多価金属酸化物を、第2の版材の感熱層に対して添加する方法。
▲4▼物質Aおよび多価金属酸化物粒子を含まない感熱材料からなる塗膜を支持体に形成した後に、この塗膜に、珪酸塩および粒子状の多価金属酸化物(または多価金属酸化物の前駆体)を含む液体を浸透させる。その後で、この塗膜から溶媒または分散媒を蒸発させる。前駆体の場合には所定の処理を行う。この処理に関しては、第1の版材の製造方法の項に記載されている。
▲5▼珪酸塩および粒子の多価金属酸化物(または多価金属酸化物の前駆体)を含む液体を予め支持体上に塗布しておいて、この塗布面に前記塗膜を形成し、前記液体を支持体からこの塗膜に浸透させる。
[第4の版材]
本発明は、また、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子と、親水性ポリマーとを含有する感熱層が、支持体に支持されている平版形成用感熱型版材において、前記親水性ポリマーは、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有し、前記感熱層は珪酸塩を含有することを特徴とする平版形成用感熱型版材を提供する。この版材を第4の版材とする。
この平版形成用感熱型版材によれば、感熱層の親水性ポリマーは親水性でありながら水に不溶となる。また、この感熱層の親水性ポリマーの硬さは、珪酸塩が含まれていない感熱層の親水性ポリマーと比較して硬くなる。
また、多価金属イオン(原子価が2以上である金属のイオン)を含有する感熱層の場合のように、精製工程または長時間の洗浄工程を行わなくても、良好な感熱層が得られる。これにより、この第4の版材によれば、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高いだけでなく、大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる。
上記効果が得られるメカニズムは解明されていないが、以下のように推測される。この推測は、NMR、X線散乱など種々の解析結果に基づいてなされているが、現時点では推測の域を脱しない。
珪酸塩がルイス塩基部分を有する親水性ポリマーとともに感熱層に存在していると、珪酸塩の末端と、親水性ポリマーのルイス塩基部分とが何らかの結合を形成することにより、親水性ポリマーが珪酸塩によって架橋されると考えられる。この結合としては、例えば水素結合が考えられる。
第4の版材で使用可能な珪酸塩は、珪酸塩と称されるものであればいずれのものでもよい。珪酸塩の具体例については第2の版材の項に記載されている。これらの珪酸塩のうち、珪酸イオンが珪素原子を2個以上有する珪酸を用いることが好ましい。さらに、少なくとも珪酸アルカリ塩を含む珪酸塩を用いることが好ましい。また、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムからなる群から選ばれた少なくとも一つを使用することが好ましい。これらの好ましい珪酸塩を使用することにより、より高い効果および/または製造時の容易性を得ることができる。
この第4の版材には、第1の版材および第2の版材と同様に、多価金属酸化物を含有することが好ましい。
第4の版材の感熱層は、例えば、第2の版材の項で挙げた方法で形成することができる。すなわち、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムからなる群から選ばれた少なくとも一つが溶解している溶液と、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性ポリマーとを共存させた状態で、この溶液から溶媒を除去する方法により形成された感熱層は、前記物質Aを含むとともに、通常は、珪酸塩そのものをも含んでいる。したがって、この方法で形成された感熱層は、第2の版材であるとともに第4の版材の感熱層でもある。
[その他]
上述したように、本発明の版材は、熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子と、親水性ポリマーとを含有する感熱層が、支持体に支持されている平版形成用感熱型版材において、前記親水性ポリマーが窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有するとともに、前記感熱層に、多価金属酸化物、前記物質A、および珪酸塩の少なくともいずれかを含有することに特徴がある。
また、本発明の液状感熱材料は、多価金属酸化物と、前記安定化剤とを含有することを特徴とする。また、本発明の版材の製造方法は、本発明の液状感熱材料を使用して支持体上に塗膜を形成することと、この塗膜から安定化剤を除去することを特徴とする。
したがって、本発明の版材、版材の製造方法、および液状感熱材料に関する、これらの特徴以外の構成(親油性部形成粒子の構成や材質、保護剤、感熱層に含有可能なその他の成分、支持体の材質や構造等)と、版材の熱による製版方法等については、従来より公知の技術や公開特許公報(本出願人による特許出願:WO98/29258号公報)に記載の技術を採用することができる。
親水性ポリマーのルイス塩基部分としては、窒素、酸素、または硫黄を含む官能基と含窒素複素環が挙げられる。ルイス塩基部分となる官能基を以下に例示する。
カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、およびアミノ基と、これらの塩(すなわち、これらの基の水素が金属に置換された基)。アミド基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアミノ基。イソウレイド基、イソチオウレイド基、イミダゾリル基、ウレイド基、イミノ基、エピイミノ基、ウレイレン基、オキサモイル基、オキサロ基、オキサロアセト基。
カルバゾイル基、カルバゾリル基、カルバモイル基、カルボキシラト基、カルボイミドイル基、カルボノヒドラジド基、キノリル基、グアニジノ基、スルファモイル基、スルフィナモイル基、スルホアミノ基、セミカルバジド基、セミカルバゾノ基、チオウレイド基、チオカルバモイル基、トリアザノ基、トリアゼノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾ基、ヒドラゾノ基、ヒドロキシアミノ基、ヒドロキシイミノ基、ホルムイミドイル基、ホルムアミド基、3−モルホリニル基、モルホリノ基。
親水性ポリマー中のルイス塩基部分の比率は、多価金属酸化物の添加による効果を実質的に得るためには、親水性ポリマー全体のモノマーユニット数に対して1%以上であることが好ましい。この比率が高くなるほど前記効果が大きくなると考えられるが、この比率の上限は例えば400%以下とする。版材の感熱層の機械的強度を特に高くし、製版時に高い感度を得るためには、前記比率を50%以上100%以下とすることが好ましい。
ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーとしては、ルイス塩基部分と親水性基と炭素骨格とを有する有機ポリマーが挙げられる。親水性ポリマーのルイス塩基部分が親水性基である場合は、親水性ポリマーはルイス塩基部分以外の親水性基を必ずしも含有している必要はない。
ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーの具体例としては、1種類以上の親水性モノマーを用いて合成されたホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。親水性モノマーとしては以下のものが例示できる。
(メタ)アクリル酸と、そのアルカリ金属塩及びアミン塩。イタコン酸と、そのアルカリ金属塩およびアミン塩。(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンおよびそのハロゲン化水素酸塩。3−ビニルプロピオン酸と、そのアルカリ金属塩およびアミン塩。ビニルスルホン酸と、そのアルカリ金属塩およびアミン塩。
2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アッシドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミンおよびそのハロゲン化水素酸塩。
感熱材料に添加する親水性ポリマーの分子量は、数平均分子量で1000以上200万以下が好ましく、5000以上100万以下がより好ましい。分子量が低すぎると、版材の感熱層の機械的強度が十分に確保できない。分子量が高すぎると、感熱材料の粘度が高くなるため、支持体に感熱材料を塗布して塗膜を形成することが困難になる。
熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子(親油性部形成粒子)としては、以下の材料からなる微粒子と、親油成分を含有するマイクロカプセルが挙げられる。前記材料としては、▲1▼ポリエチレン樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、および熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、▲2▼ろう、▲3▼ワックスが挙げられる。
親油性部形成粒子がマイクロカプセル以外の微粒子である場合は、熱により複数の微粒子が融着することにより、版面に親油性部が形成される。親油性部形成粒子が親油成分(親油性部を形成する成分)を含有するマイクロカプセルである場合は、熱によりマイクロカプセルから親油成分が出てくることによって、版面に親油性部が形成される。特に、マイクロカプセルのカプセル膜中に、芯物質として液状の親油成分が入っている場合は、熱によりカプセル膜が破壊されてカプセル内から親油成分が出てくることによって、版面に親油性部が形成される。
親油性部形成粒子として親油成分を含有するマイクロカピセルを使用すると、マイクロカプセル以外の微粒子を使用する場合と比較して、製版時に必要な熱エネルギーを低く抑えることができる。そのため、親油性部形成粒子としては、親油成分を含有するマイクロカプセルを使用することが好ましい。また、マイクロカプセルを使用することによって、製版時のエネルギーに対して敷居値を設けることもできる。
親油性部形成粒子の粒径に関しては、平均粒径が10μm以下のものを使用することが好ましく、高解像力の用途には平均粒径が5μm以下のものを使用することが好ましい。親油性部形成粒子の粒径は小さいほど好ましいが、粒子の取り扱い性を考慮すると、平均粒径が0.01μm以上のものを使用することが好ましい。
また、親油性部形成粒子が親油成分を含有するマイクロカプセルである場合には、前記親油成分は反応性官能基を有することが好ましい。これにより、製版によって得られた平版の親油性部の耐印刷性能が高くなる。
この反応性官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アリル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。
親油性部形成粒子が親油成分を含有するマイクロカプセルである場合には、マイクロカプセルのカプセル膜内に上述の親油成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、色素、光熱変換物質、重合開始剤、重合禁止剤、触媒、その他の種々の添加剤が、芯物質として含有されていてもよい。特に、色素および/または光熱変換物質が添加されていると、製版時の熱源としてレーザを使用できるため好ましい。レーザ製版をすることで、より精細な画像描写が可能となる。これらの添加剤についても、WO98/29258号公報等に記載されている。
本発明はまた、本発明の版材、本発明の感熱材料からなる感熱層を有する版材、もしくは本発明の方法で製造された版材を用い、熱により前記微粒子(親油性部形成粒子)を変化させて版面に親油性部を形成することにより得られた平板を提供する。
本発明はまた、(1)〜(7)の平版印刷原版(平版印刷用版材)および平版印刷版(平版)を提供する。
(1)熱により画像部に転換する微粒子と、金属酸化物により硬化された窒素、酸素または硫黄を含むルイス塩基部分を有している親水性バインダーポリマーとを有する記録層、および支持体を備えることを特徴とする平版印刷原版。
(2)前記微粒子がマイクロカプセル化された親油成分であることを特徴とする(1)記載の平版印刷原版。
(3)前記親油成分が反応性官能基を有することを特徴とする(2)記載の平版印刷原版。
(4)前記金属酸化物の平均一次粒径が1ミクロン以下であり、かつ一次粒子が高次粒子を形成せずに分散しているか、一次粒子が形成する高次粒子の粒径が1ミクロン以下で高次粒子同士が実質的に接触していないことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の平版印刷原版。
(5)前記金属酸化物が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、二酸化マンガン、酸化すず、過酸化チタンから選ばれる少なくとも一種類以上の化合物であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の平版印刷原版。
(6)支持体上に、熱モードで印字された親油性の画像部および親水性の非画像部を有する記録層を形成してなる平版印刷版において、該記録層に窒素、酸素または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性バインダーポリマーを含み、かつ該親水性バインダーポリマーが金属酸化物によって硬化されていることを特徴とする平版印刷版。
(7)(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の平版印刷原版を熱モードで印字してなることを特徴とする平版印刷版。
本発明はまた、(11)〜(18)の平版印刷原版(平版印刷用版材)および平版印刷版(平版)を提供する。
(11)支持体と、その上に、窒素、酸素または硫黄を含むルイス塩基部分を有している親水性バインダーポリマーと、熱により画像部に転換する微粒子と、を有する記録層(感熱層)を備えた平版印刷原版であって、前記親水性バインダーポリマーがケイ素原子と酸素原子との交互繰り返し結合を介して硬化していることを特徴とする平版印刷原版。
(12)前記微粒子がマイクロカプセル化された親油成分であることを特徴とする(11)記載の平版印刷原版。
(13)前記親油成分が反応性官能基を有することを特徴とする(12)記載の平版印刷原版。
(14)前記ケイ素と酸素との結合と保護剤ポリマー成分とが共に版表面に存在していることを特徴とする(11)乃至(13)のいずれか一つ記載の平版印刷原版。
この平版印刷原版(平版形成用感熱型版材)において、記録層(感熱層)に保護剤を含有させる方法としては、以下の方法が挙げられる。
保護剤として含有させる親水性ポリマーの水溶液と、ケイ酸アルカリ金属塩(ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、またはケイ酸カリウム)の水溶液を、それぞれ単独で、あるいはこれらの混合水溶液(または有機溶媒溶液)を、感熱層の表面に浸透させる。これらの溶液を感熱層の表面に浸透させる方法としては、感熱層の表面に対するバーコータやブレードコータ等による塗布、あるいは噴霧器による噴霧、または感熱層を上記溶液に浸漬する方法がある。
このとき、ケイ酸アルカリ金属塩を含む水溶液のpHは、ケイ酸塩が溶液中で析出することなく安定に存在するために、pH7より高いことが好ましく、pH8以上pH11以下であることがより好ましい。
(15)前記ケイ素と酸素との結合がケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムの少なくとも一種類以上の化合物を含むケイ酸塩により形成されたものであることを特徴とする(11)乃至(14)のいずれか一つに記載の平版印刷原版。
(16)前記ケイ素と酸素との結合が酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、二酸化マンガン、酸化すず、過酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、酸化タングステンから選ばれる少なくとも一種類以上の金属酸化物を介して形成されること特徴とする(11)乃至(15)のいずれか一つに記載の平版印刷原版。
(17)支持体上に、熱モードで印字された親油性の画像部および親水性の非画像部を有する記録層を備える平版印刷版であって、該記録層に窒素、酸素または硫黄を含むルイス塩基部分を有する親水性バインダーポリマーがケイ素と酸素との結合によって硬化していることを特徴とする平版印刷版。
(18)(11)乃至(16)のいずれか一つに記載の平版印刷原版を熱モードで印字してなることを特徴とする平版印刷版。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施形態を具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
[版材の作製(No.1)]
▲1▼親油成分(熱により版面に親油性部を形成する成分)を内部に入れたマイクロカプセルの作製
トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとが3:1(モル比)で付加された付加体(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:コロネートL、25質量%酢酸エチル含有物)をマイクロカプセル壁形成材として4.24g、トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製)を1.12g、近赤外線吸収色素(日本化薬(株)製「KayasorbIR−820B」)を0.93g、グリシジルメタクリレート21.7g中に、均一に溶解させることにより油性成分を調製した。
次に、保護コロイドとしてアルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドLF」紀文フードケミファ(株)製、数平均分子量:2×105)を3.6g、マイクロカプセル壁形成材としてポリエチレングリコール(「PEG 400」三洋化成(株)製)を2.91g、精製水116.4gに溶解することにより水相を調製した。
次に、上記油性成分と水相を、ホモジナイザーを用いて回転速度6000rpmで室温下で混合することにより乳化した。次に、この乳化分散液を容器ごと60℃に加温したウォーターバス中に移して、回転速度500rpmで3時間攪拌した。これにより、平均粒径2μmのマイクロカプセル(MC−A)が水中に分散されている分散液が得られた。
このマイクロカプセル(MC−A)は、カプセル膜の内部に、親油成分(親油性部の形成成分)として、グリシジルメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートを含有し、色素として近赤外線吸収色素を含有する。なお、マイクロカプセルの粒度は、堀場製作所製の粒度分布測定器「HORIBA LA910」を用いて測定した。
次に、精製工程として、得られたマイクロカプセル分散液を遠心分離器にかけて、この分散液に含まれるマイクロカプセル以外の成分(マイクロカプセル内に取り込まれなかった油性成分、マイクロカプセルの壁形成材の残留物、保護コロイドなど)を除去した後、水洗を3回繰り返した。精製の後に得られたマイクロカプセル分散液のマイクロカプセル濃度は6.5質量%であった。
▲2▼親水性ポリマーの合成
セパラブルフラスコ内に、アクリル酸248.5g、トルエン2000gを入れ、この内容物を室温で攪拌しながら、さらにこのフラスコ内に、別途調製したアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と略記する。)のトルエン溶液を徐々に滴下した。このトルエン溶液は、AIBN2.49gをトルエン24.9gに溶解させて得られた溶液であり、この溶液を全て前記フラスコ内に添加した。
次に、フラスコの内容物を60℃に昇温しで3時間攪拌した。生成して沈殿した重合体を濾過し、濾過後の固形分をトルエン約2リットルで洗浄した。次に、洗浄された重合体を一旦80℃で乾燥した後、さらに恒量になるまで真空で乾燥させた。これにより、一次ポリマー235gを得た。次に、新たなセパラブルフラスコ内に蒸留水を355g入れ、さらにこのフラスコ内に前記一次ポリマーを35.5gを入れて、この一次ポリマーを水に溶解させた。
次に、このフラスコ内に、グリシジルメタクリレート2.84gと、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(以下、「BHT」と略記する。)0.1gと、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド1gとからなる液を、滴下ロートから30分間かけて添加した。この添加は、乾燥空気をこのフラスコ内に流しながら、且つフラスコの内容物を攪拌しながら行った。この添加の終了後、フラスコの内容物を攪拌しながら徐々に昇温したところ、80℃で1時間攪拌した時点で所定の酸価になった。
この時点でフラスコの内容物(ポリマー)を冷却し、アセトン中でこのポリマーを単離した後、さらにアセトンでこのポリマーを揉み洗いした。その後、このポリマーを室温で真空乾燥することにより、親水性ポリマー(BP−A)を得た。
この親水性ポリマーをNMR法で分析したところ、グリシジルメタクリレート導入率は2.2%であった。また、GPCで分子量を測定したところ、このポリマーの数平均分子量は6×104であった。また、このポリマーは、ルイス塩基部分としてカルボキシル基を含有する。
▲3▼感熱材料の調製
二酸化珪素粒子と、アンモニア(安定化剤)を含有する水分散液として、日産化学工業(株)社製のコロイダルシリカ「スノーテックス−N」を用意した。このコロイダルシリカは、二酸化珪素(無水珪酸)粒子を20質量%含有し、二酸化珪素の粒子同士の付着を防止するためにアンモニアが添加されている。
このコロイダルシリカを56g、▲2▼で得られたポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、▲1▼で得られたマイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を137g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、スリーワンモーター(新東科学(株)社製、「BL600」)と撹拌羽根(SUS製、錨型、10cm幅)を用い、200rpmで1時間撹拌した。
これにより、親油成分を含有するマイクロカプセル(親油性部形成粒子)と、粒子状の二酸化珪素(多価金属酸化物)と、アンモニア(安定化剤)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲4▼感熱層の形成
支持体として、陽極酸化を施した厚さ0.24mmのアルミニウム板(310mm×458mm)を用意した。この支持体の板面に、上述の感熱材料をバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した。この塗膜が形成された支持体を、100℃の雰囲気に10分保持することにより、塗膜中の水とアンモニア(安定化剤)を蒸発させた。
次に、処理液として、ポリアクリル酸(「ジュリマーAC10P」日本純薬(株)製、数平均分子量:5×103)のカルボキシル基の60mol%をナトリウムで変性したポリマーの0.5質量%水溶液を用意した。この処理液は、前記ポリマーを、版面の親水性部(非画像部)を安定化させるとともに、版材表面に汚れが付着することを防止するための保護剤として含有している。
この処理液に、上述の塗膜が形成された支持体を1分間浸漬した後、この支持体を垂直に立てて24時間室温で風乾した。乾燥後の塗膜(感熱層)の厚さは2.5μmであった。なお、この厚さの測定は(株)セイコー製の「計太郎」を用いて行った。
これにより、図1に示すように、支持体1の上に感熱層2が支持された平版用の版材No.1を得た。
この感熱層2は、親水性ポリマー(BP−A)3と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)4と、多価金属酸化物(二酸化珪素)粒子5とで構成されている。親油性部形成粒子4は、カプセル膜41と芯物質(親油成分と色素)42とからなる。親油性部形成粒子4と多価金属酸化物粒子5は、感熱層2内に均一に分散されている。また、この版材No.1の感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
[版材の作製(No.2)]
▲1▼感熱材料の調製
酸化アルミニウム粒子と、塩化水素(安定化剤)を含有する水分散液として、日産化学工業(株)社製のアルミナゾル「アルミナゾル100」を用意した。このアルミナゾルは、酸化アルミニウム粒子を10質量%含有し、酸化アルミニウムの粒子同士の付着を防止するために塩化水素が添加されている。
このコロイダルシリカを150g、親水性ポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、マイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を137g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で撹拌した。
これにより、親油成分を含有するマイクロカプセル(親油性部形成粒子)と、粒子状の酸化アルミニウム(多価金属酸化物)と、塩化水素(安定化剤)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を用い、版材No.1と同じ方法で感熱層の形成を行った後、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行うことにより、図1に示す構造の平版用の版材No.2を得た。なお、感熱層形成工程で行う塗膜の乾燥の際に、塗膜中の塩化水素(安定化剤)は、版材No.1と同じ乾燥条件で十分に除去される。
この版材の感熱層2は、親水性ポリマー(BP−A)3と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)4と、多価金属酸化物(酸化アルミニウム)粒子5とで構成されている。また、この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
[版材の作製(No.3)]
▲1▼感熱材料の調製
親水性ポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、マイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を112g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で撹拌した。
これにより、親油成分を含有するマイクロカプセル(親油性部形成粒子)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した。この塗膜を一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。
この塗膜に対して、酸化アルミニウム粒子が水に分散されている液体(ゾル)を含浸させた。酸化アルミニウムゾルとしては、川研ファインケミカル(株)製の「アルミゾル−10」を使用した。このゾルに含有されている酸化アルミニウム粒子の平均粒径は2〜20nmである。前記塗膜を、このゾル1.5リットル中に1分間浸漬した後、精製水(和光純薬(株)製)1リットルを用いて30秒間水洗した。
これにより、親水性ポリマー(BP−A)と親油性部形成粒子とからなる塗膜内に、酸化アルミニウム粒子が分散状態で添加された。
次に、この塗膜に対して、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行うことにより、図1に示す構造の平版用の版材No.3を得た。
この版材の感熱層2は、親水性ポリマー(BP−A)3と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)4と、多価金属酸化物(酸化アルミニウム)粒子5とで構成されている。また、この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
また、得られた感熱層の厚さは2.5μmであった。さらに、酸化アルミニウム粒子は、粒径90nm以下の大きさで感熱層内に分散していた。すなわち、この感熱層内に酸化アルミニウム粒子は微分散されていた。なお、酸化アルミニウム粒子の感熱層中での粒径は、日立製作所(株)製の電子顕微鏡「S−2700」を用い、加速電圧5kVの条件で観察することによって測定した。
[版材の作製(No.4)]
No.3と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成し、一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。
この塗膜に対して、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子を含有する水分散液を含浸させた。この水分散液としては、E.I.du Pont de Nemours & Co.,Wilmington,Del,製の「Ludox 130M」を用いた。この水分散液に含有されている二酸化ケイ素および酸化アルミニウム粒子の平均粒径は13〜15nmである。
前記塗膜を、この水分散液を固形分(多価金属酸化物粒子)濃度が1質量%となるように希釈した液体中に、3分間浸漬した後、精製水(和光純薬(株)製)1リットルを用いて30秒間水洗した。
これにより、親水性ポリマー(BP−A)と親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)とからなる塗膜内に、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子が分散状態で添加された。
次に、この塗膜が形成された支持体を、ケイ酸ナトリウム1質量%水溶液に3分間浸漬した後、垂直に立てて24時間室温で風乾した。
これにより、平版用の版材No.4として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、二酸化ケイ素粒子と、酸化アルミニウム粒子と、物質A(式(SiO2)nで表記される結合を有する分子からなる物質)とを含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。
また、得られた感熱層の厚さは2.3μmであった。さらに、二酸化ケイ素粒子および酸化アルミニウム粒子は、粒径90nm以下の大きさで感熱層内に分散していた。すなわち、この感熱層内に、二酸化ケイ素粒子および酸化アルミニウム粒子は微分散されていた。
[版材の作製(No.5)]
No.3と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜に対して、粒子状の多価金属酸化物として過酸化チタン水溶液を含浸させた。この水溶液は以下のようにして作製した。
先ず、0.2mol%硫酸チタン(IV)水溶液を氷冷しながら、この水溶液中に、30%過酸化水素水100gを徐々に滴下した。次に、この水溶液を室温で18時間撹拌することにより、黄色の溶液を得た。次に、この溶液を10日間室温で保存した後、この溶液から過酸化水素を除去することにより、過酸化チタン水溶液を得た。
前記塗膜を、この過酸化チタン水溶液中に3分間浸漬した後、精製水(和光純薬(株)製)1リットルを用いて30秒間水洗した。これにより、親水性ポリマー(BP−A)と親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)とからなる塗膜内に、過酸化チタン粒子が分散状態で添加された。
次に、この塗膜に対して、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行うことにより、図1に示す構造の平版用の版材No.5を得た。
この版材の感熱層2は、親水性ポリマー(BP−A)3と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)4と、多価金属酸化物(過酸化チタン)粒子5とで構成されている。この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
また、得られた感熱層の厚さは2.8μmであった。さらに、過酸化チタン粒子は、粒径50nm以下の大きさで感熱層内に分散していた。すなわち、この感熱層内に過酸化チタン粒子は微分散されていた。
[版材の作製(No.6)]
No.3と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体を、珪酸リチウム1質量%水溶液に3分間浸漬した後、垂直に立てて24時間室温で風乾した。
これにより、平版用の版材No.6として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aとを含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.5μmであった。
[版材の作製(No.7)]
▲1▼感熱材料の調製
親水性ポリマーとして、ポリアクリル酸(「PAAc」と略称する。「ジュリマーAC10MP」日本純薬(株)製、数平均分子量:8×104)のカルボキシル基の60mol%をナトリウムで変性したポリマーを用意した。
このナトリウム変性ポリアクリル酸水溶液の10質量%水溶液を80.0g、マイクロカプセル(MC−A)分散液を256g、アルギン酸プロピレングリコールエステル(「ダックロイドLF」紀文フードケミファ(株)製、数平均分子量:2×105)の3質量%水溶液を100g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で撹拌した。
なお、アルギン酸プロピレングリコールエステルは、感熱材料中でのマイクロカプセルの分散性を向上するとともに、感熱材料を支持体上に塗布し易くする目的で添加されている。
これにより、親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、この塗膜中の水を蒸発させた。
次に、この塗膜が形成された支持体を、珪酸リチウムおよびケイ酸ナトリウムの濃度がそれぞれ0.5質量%である珪酸アルカリ塩水溶液に3分間浸漬した後、垂直に立てて24時間室温で風乾した。
これにより、平版用の版材No.7として、ナトリウム変性ポリアクリル酸(ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aとを含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.4μmであった。
[版材の作製(No.8)]
処理液として、ポリアクリル酸(「ジュリマーAC10P」日本純薬(株)製、数平均分子量:5×103)の1.0質量%水溶液を25gと、珪酸カリウムの1.5質量%水溶液を75gとの混合溶液を用意した。
No.3と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、この塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体を、前記処理液に3分間浸漬した後、垂直に立てて110℃で5分間で乾燥させた。
これにより、平版用の版材No.8として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aと、保護剤としてポリアクリル酸を含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.0μmであった。
[版材の作製(No.9)]
▲1▼感熱材料の調製
親水性ポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、マイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を112g、珪酸リチウムの25質量%水溶液を5g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、先ず、攪拌時間を4時間とした以外は版材No.1と同じ方法で撹拌した。次に、この容器の内容物に対して超音波分散を行った。
これにより、親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、珪酸リチウムと、水とを含む液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面に同じ方法で塗布して塗膜を形成した後、この塗膜が形成された支持体を110℃の雰囲気に3分間保持することにより、塗膜中の水を蒸発させた。次に、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行った。
これにより、平版用の版材No.9として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aとを含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.5μmであった。この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
[版材の作製(No.10)]
先ず、No.3と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を一晩室温で風乾することにより塗膜中の水を蒸発させた。これにより、親水性ポリマー(BP−A)と親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)とからなる塗膜を、支持体上に形成した。
次に、この塗膜内に、版材No.4と同じ方法で、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子とを分散状態で添加した。次に、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行った。
これにより、図1に示す構造の平版用の版材No.10を得た。この版材の感熱層2は、親水性ポリマー(BP−A)3と、親油性部形成粒子4と、粒子状の多価金属酸化物(二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子)5とで構成されている。また、この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
また、得られた感熱層の厚さは2.5μmであった。さらに、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子は、粒径90nm以下の大きさで感熱層内に分散していた。すなわち、この感熱層内に二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子は微分散されていた。
[版材の作製(No.11)]
先ず、No.7と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。
次に、この塗膜内に、版材No.4と同じ方法で、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子とを分散状態で添加した。次に、版材No.1と同じ方法で、保護剤による処理を行った。
これにより、図1に示す構造の平版用の版材No.11を得た。この版材の感熱層2は、ルイス塩基部分を含む親水性ポリマー(ナトリウム変性ポリアクリル酸)3と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルNC−A)4と、多価金属酸化物粒子(二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子)5とで構成されている。また、この感熱層内には、少なくとも版面側の部分に、ナトリウム変性ポリアクリル酸が保護剤として存在している。
また、得られた感熱層の厚さは2.4μmであった。さらに、二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子は、粒径90nm以下の大きさで感熱層内に分散していた。すなわち、この感熱層内に二酸化ケイ素粒子と酸化アルミニウム粒子は微分散されていた。
[版材の作製(No.12)]
▲1▼感熱材料の調製
先ず、酸化すず粒子(粒子状の多価金属酸化物)を含有する水分散液として、山中化学(株)製の「EPS−6」を用意した。この水分散液は、酸化すずのコロイド粒子(平均粒径6nm)を6質量%含有し、酸化すずの粒子同士の付着を防止するために、アンモニアが添加されている。
この水分散液を150g、親水性ポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、マイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を112g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で撹拌した。ただし、攪拌時間は4時間とした。
これにより、親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)と、粒子状の酸化すず(多価金属酸化物)と、アンモニア(安定化剤)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、この塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体を、下記の処理液に3分間浸漬した後、垂直に立てて110℃で5分間で乾燥させた。
使用した処理液は、ポリアクリル酸(「ジュリマーAC10P」日本純薬(株)製、数平均分子量:5×103)の1.0質量%水溶液を25gと、珪酸リチウム(日本化学工業(株)製)の1.5質量%水溶液を75gとの混合溶液である。
これにより、平版用の版材No.12として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aと、粒子状の酸化すず(多価金属酸化物)と、保護剤としてポリアクリル酸を含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.0μmであった。
[版材の作製(No.13)]
処理液を以下のようにして調製した。先ず、ケイ酸リチウム(日本化学工業(株)製)の0.56質量%水溶液70gに、酸化チタン6質量%水溶液(多木化学(株)製の「タイノックA−6」)を20g加えて10分間撹拌することにより、ケイ酸リチウムと酸化チタンの混合溶液を作製する。次に、この混合溶液をゆっくりと撹拌しながら、この混合溶液中に、ポリアクリル酸(「ジュリマーAC10P」、日本純薬(株)製、数平均分子量:5×103)の5.0質量%水溶液を6.3g滴下する。
これにより、処理液として、ケイ酸リチウムと酸化チタン粒子とポリアクリル酸(保護剤)を含む混合溶液が得られる。
版材No.12と同じ感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した後、一晩室温で風乾することにより、この塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体を、この処理液に3分間浸漬した後、垂直に立てて110℃で5分間で乾燥させた。
これにより、平版用の版材No.13として、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマー(BP−A)と、親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)と、物質Aと、粒子状の酸化すずおよび酸化チタン(多価金属酸化物)と、保護剤としてポリアクリル酸を含有する感熱層が、支持体上に形成された版材を得た。感熱層の厚さは2.1μmであった。
[版材の作製(No.14)]
▲1▼感熱材料の調製
親水性ポリマー(BP−A)の5質量%水溶液を100g、マイクロカプセル(MC−A)分散液(マイクロカプセル濃度6.5質量%)を112g、所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で撹拌した。
これにより、親油性部形成粒子(親油成分を含有するマイクロカプセル)と、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーと、水とを含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した。この塗膜を一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体をそのまま平版用の版材No.14とした。すなわち、この版材No.14の感熱層は、親水性ポリマー(BP−A)と親油性部形成粒子(マイクロカプセルMC−A)とで構成されており、粒子状の多価金属酸化物、物質A、珪酸塩、および保護剤のいずれもが含有されていない。
[版材の作製(No.15)]
▲1▼感熱材料の調製
二酸化珪素粒子を20質量%含有する水分散液(日産化学製のコロイダルシリカ「スノーテックスXS」)を5g、シランカップリング剤(東芝シリコーン製の「TSL8350」)を0.2g、カーボン微粒子(三菱化学(株)の「#2600」)を0.4g、水を18.4g、を所定の容器に入れた。この容器の内容物を、版材No.1と同じ方法で攪拌した。
これにより、親油性部形成粒子としてカーボン微粒子を含有し、無機系の結合材としてシランカップリング剤を含有し、粒子状の多価金属酸化物として二酸化珪素粒子を含有し、溶媒として水を含有する液状の感熱材料を得た。
▲2▼感熱層の形成
この感熱材料を、版材No.1と同じ支持体の板面にバーコーター(ロッド20番)で塗布して塗膜を形成した。この塗膜を一晩室温で風乾することにより、塗膜中の水を蒸発させた。この塗膜が形成された支持体をそのまま平版用の版材No.15とした。すなわち、この版材No.15の感熱層は、カーボン微粒子とシランカップリング剤と二酸化珪素粒子とで構成されている。
[平版の作製および印刷]
電子組版装置に接続されたレーザ製版装置(1Wの半導体レーザ素子搭載)を用い、No.1〜15の各版材に対して、画像データに応じて制御されたレーザビームを照射することにより製版を行った。ここで、使用した画像データは、10mm×10の網点(2,5,10,30,50,70,90,95,98,100%)と文字(10,8,6,4,2ポイント)により形成される画像パターンである。
これにより、図5(a)に示すように、No.1〜14の版材では、版材10の感熱層2のうち、レーザビーム7が照射された部分8のみが加熱される。その結果、図5(b)に示すように、この加熱された部分8に親油性部(油性インキの受容部)91が形成され、それ以外の部分は親水性ポリマーが存在する親水性部(油性インキの非受容部)92となる。
すなわち、No.1〜14の版材によれば、画像データに応じて制御されたレーザビームを照射することにより、現像工程なしで、画像データに応じたインキ受容部91と非受容部92が版面に形成された平版100が得られる。版材10で感熱層2であった部分が平版100の版本体20となる。
この製版を全ての版材について同じ条件で行った。
ここで、版材No.1〜15から得られた版をそれぞれ平版No.1〜15とする。ただし、一部の版材No.13については、製版後に得られた版の表面に対して、ケミカルランプによって6J/cm2の光を照射する露光処理を施した。版材No.13から得られた平版のうち、この露光処理が施された版を平版No.13Bとし、施されない版を平版No.13Aとする。
得られた各版(平版No.1〜12,13A,13B,14,15)をトリミングしてオフセット印刷機(ハマダ印刷機械株式会社製「HAMADAVS34II」)に装着し、上質紙に対する印刷を行った。この印刷は、加速試験とするために、版とブラケットと間にアンダーシートを2枚入れることにより、版とブラケットとの間の圧力を通常よりも高くして印刷を行った。また、印刷時には、インキとして大日本インキ工業(株)製「GEOS−G」を使用し、湿し水として、富士写真フィルム(株)製「EU−3」を100倍希釈したものを使用した。
各版による印刷を、それぞれ、耐印刷性能が劣化するまで行った。耐印刷性能については、100枚毎に以下の点を調べた。第1に、5%網点の欠損があるかどうかを30倍ルーペにより調べた。第2に、印刷物の画像が鮮明であるかどうかと、印刷物の非画像部分に汚れがないかどうかを目視で判断した。第3に、ベタ部分の反射濃度を反射濃度計(「DM400」大日本スクリーン製造(株)製)で測定した。
印刷により、画像は、版面のインキ受容部(親油性部)にインキが保持されて、このインキがゴムブランケットを介して紙に押し付けられることによって形成される。また、印刷物の非画像部分とは、印刷時に、版面のインキ非受容部(親水性部)が、ゴムブランケットを介して紙に押し付けられた部分である。
これらの測定の結果、▲1▼5%網点の欠損がないこと、▲2▼ベタ部分の反射濃度が1.2以上であること、▲3▼目視で判断して印刷物の画像が鮮明であること、▲4▼目視で判断して印刷物の非画像部分に汚れがないことの4点を満たしていれば、その印刷物は十分な印刷性能を有していると判断した。
その結果、版材No.1〜5,10〜13を製版して得られた平版(No.1〜5,10〜12,13A,13B)による印刷物については、印刷枚数が5万部を超えても耐印刷性能の劣化が見られなかった。また、印刷枚数が5万部を超えても、目視による観察では、版に剥離(版本体20と支持体1との間での剥離)や傷が観察されなかった。特に、前述の露光処理が施されている平版13Bによる印刷物では、印刷枚数が6万部を超えても耐印刷性能の劣化が見られず、版に剥離や傷も観察されなかった。
また、版材No.6〜9を製版して得られた平版(No.6〜9)による印刷物については、印刷枚数が2.5万部を超えても耐印刷性能の劣化が見られなかった。また、印刷枚数が2.5万部を超えても、目視による観察では、版に剥離や傷が観察されなかった。また、2.5万部印刷した後のブランケットの汚れも極めて少なかった。
これに対して、版材No.14を製版して得られた平版No.14による印刷物では、印刷枚数が100枚程度で版に剥離が生じた。また、版に傷が生じ易く、版を注意深く取り扱う必要があった。
版材No.15を製版して得られた平版No.15による印刷物では、印刷枚数が1500枚程度で印刷物の非画像部分に汚れが生じた。また、この時点で、目視による観察では版に剥離や傷が観察されなかった。
以上のことから、本発明の実施例に相当する版材No.1〜13を製版して得られた平版No.1〜12,13A,13Bは、本発明の比較例に相当する版材No.14,15を製版して得られた平版No.14,15と比較して、著しく高い耐印刷性能を有することが分かる。
産業上の利用可能性
以上説明したように、本発明によれば、現像工程が不要な平版形成用感熱型版材であって、製版して得られる平版の機械的強度および耐印刷性能が高く、しかも大きなコスト上昇を伴わずに製造することができる版材が提供される。
したがって、この版材によれば、平版の取扱いにさほどに注意を払う必要がなくなるとともに、過酷な条件で印刷を行っても、一定部数の印刷毎にブランケットの洗浄を行う必要がなくなる。これにより、印刷の作業効率が向上する。
その結果、本発明の版材を使用することにより、製版工程の合理化、製版時間の短縮化、および材料費の節減が可能なCTPシステムを、商業印刷の分野で実用的なシステムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の平版形成用感熱型版材の一実施形態を示す図であって、第1の版材に相当する版材の一例を示す断面図である。
図2は、本発明の平版形成用感熱型版材において、第1の版材の効果が得られるメカニズムを説明する図である。この図は、ルイス塩基部分を有する親水性ポリマーがポリアクリル酸であり、多価金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)粒子である場合を示している。
図3は、本発明の平版形成用感熱材料において、安定化剤によって多価金属酸化物が安定化されている状態を示す推定図である。この図は、多価金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)であり、安定化剤がアンモニアである場合を示している。
図4は、本発明の平版形成用感熱型版材において、第3の版材の効果が得られるメカニズムを説明する図である。この図は、多価金属酸化物が酸化アルミニウム(Al2O3)粒子である場合を示している。
図5は、後述の実施形態で作製した版材No.1〜14の製版機構を説明する図であり、(a)では版材の断面図を、(b)では平版の断面図を示している。
Claims (1)
- 熱により変化して版面に親油性部を形成する微粒子と、親水性ポリマーとを含有する感熱層が、支持体に支持されている平板形成用感熱型版材において、前記親水性ポリマーは、窒素、酸素、または硫黄を含むルイス塩基部分を有し、前記感熱層は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸カリウムからなる群から選ばれた少なくとも一つが溶解している溶液と、前記親水性ポリマーとを共存させた状態で、この溶液から溶媒を除去する方法により形成されたものである平板形成用感熱型版材。
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