JP4015935B2 - 水浸超音波探傷による鋼中介在物検出評価方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水浸超音波探傷法を用いた鋼中介在物の検出評価方法に関するものであり、詳しくは、所定の深度における非金属介在物およびポロシティの中心周波数がそれぞれ所定の範囲に存在することを用いて、欠陥の存在する深度と中心周波数から、非金属介在物かポロシティかを区別する鋼中介在物の検出評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平9−125199号公報
【特許文献2】
特開平9−125200号公報
【特許文献3】
特開平8−75712号公報
【特許文献4】
特開平9−171005号公報
【特許文献5】
特開2001−4602号公報
【0003】
近年、高清浄度鋼も安定して製造されるようになってきており、鋼中における小中径領域の非金属介在物は、一段と少なくなっている(本明細書では、「非金属介在物」のことを単に「介在物」という場合がある)。
【0004】
その一方で、大型(√AREAが100μm以上)の酸化物系介在物(例えばAl2O3、MgO・Al2O3、CaO・Al2O3+MgO・Al2O3など)は、依然として存在しており、例えば軸受鋼や機械構造用炭素鋼などの鋼材において疲労破壊の原因となっている。
【0005】
しかし、こうした大型介在物は、極めて低い確率で出現するために、その検出が非常に困難であった。
【0006】
従来、鋼中介在物の検査方法としては、被分析対象の鋼材から試験片を採取して光学顕微鏡により試験片の表面を検査する等の方法が一般的であり、このための規格としては、「JIS G 0555 鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」、「ASTM E45 Standard Practice for Determining the Inclusion Content of Steel」、などがある。しかしながら、顕微鏡による検査方法は、試験片の被検面積が例えば100〜200mm2/個と小さいため、大型介在物の検出精度が極めて低いという問題点があった。
【0007】
数10〜数100gオーダーの検査方法としては、鋼材料から酸溶解により介在物を抽出し、その介在物の粒径を顕微鏡で評価する方法が提案されている(例えば、【特許文献1】、【特許文献2】参照)。しかし、酸溶解法は、介在物が酸に溶解したり、介在物まで溶損して介在物が小径化する場合がある。また、外乱物質にも注意しなくてはならない。さらに、酸溶解に時間がかかるなど、処理の迅速性に劣り、製品の量産工程に対応することも困難であった。
【0008】
数kgのオーダーの検査方法としてスライム法がある。しかし、この方法も迅速性に欠ける。
【0009】
一方、超音波探傷により鋼中介在物を検査する方法として、従来は、欠陥波の簡易位相情報(P/A)を使用することにより、異なる2種類の異物を弁別している(例えば、【特許文献3】参照)。
【0010】
また、欠陥エコーパラメーター(欠陥エコーの位相・中心周波数・強度)と、欠陥近傍の底面反射エコーの波形より得られるパラメーター(底面エコー強度、欠陥面積)とに基づいて欠陥の種類を介在物とポロシティとに判別している(例えば、【特許文献4】参照)。
【0011】
また、超音波探傷にあたり、大型の探触子と小型の探触子の2種類の探触子を用い、双方の探触子で検出できた欠陥をポロシティと、大型の探触子のみで検出できた欠陥を非金属介在物と判別している(例えば、【特許文献5】参照)。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述の超音波探傷に関する先行例においては、以下のような問題点がある。すなわち、【特許文献3】に記載の方法によっては、長焦点の探触子([焦点距離/振動子径])が大きいものを使用することができず、所定以上の厚さを有する試験片については、P/Aによる波形解析を行なうことができない。また、【特許文献4】に記載の方法および【特許文献5】に記載の方法によっては、大型介在物と小さいポロシティの区別が困難である。すなわち、欠陥波形の情報としては、位相、欠陥波強度および中心周波数がある。しかし、焦点型探触子(例えば、振動子径1/2インチ、−水中焦点距離6インチ)では、原理的に介在物に対する位相正転条件を満たさないため、位相は使用できない。また、欠陥波強度によっては、大きい介在物と小さいポロシティの区別が困難である。
【0013】
本発明は、超音波探傷の結果を用いて鋼中介在物とポロシティを明確に区別する方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、鋭意研究の末、介在物とポロシティの中心周波数は、深度に応じて変化し、同一深度に介在物とポロシティが存在する場合、介在物とポロシティの中心周波数は異なるものであり、介在物の中心周波数はポロシティの中心周波数よりも高く、それぞれの中心周波数が所定の範囲に属することを発見するに至った。そこで、介在物とポロシティの深度別の中心周波数をあらかじめデータ化しておき、超音波探傷の結果得られた欠陥波形の深度の記録および中心周波数より、欠陥種別を判別することとしたものである。
【0015】
すなわち、本発明は、鋼中介在物を検出評価する方法であって、評価対象である鋼の試験片につき、鋳片を6以上の圧鍛比で圧鍛した鋼材より採取する工程と、水浸超音波探傷法を用いて前記試験片に存在する非金属の介在物を検出する工程と、前記検出工程で得られた結果に基づいて鋼中の介在物を評価する介在物評価工程とを備え、前記介在物評価工程では、欠陥の存在する深度および中心周波数から介在物とポロシティとを識別することを特徴とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明において、鋼中介在物とは、例えば、酸化物、窒化物、硫化物をいう。また、水浸超音波探傷法とは、接触媒質として水を用いるものであり、特に、全没式の超音波探傷法とは、試験片全体を水に沈めて行うものである。また、欠陥とは、介在物、あるいは、ポロシティなど介在物以外に反射波を生じさせる原因となるものをいう。また、ポロシティとは、鋳造時に金属内部に発生する細かい空洞をいう。
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1に基づいて説明する。
【0018】
≪ステップ1≫
試験片を作製する。ここで、試験片の作成にあたっては、丸棒鋼を用いるが、本発明においては、丸棒鋼に限られるものではない。
【0019】
ここで、ビレットは、ブルームを圧鍛比6以上で圧鍛したビレットを用意する。金属材料においては、一般に鋳造のままでは、ミクロのポロシティが無数に存在し、上述の如く、検査が困難となる場合がある。これに対し、ブルームを圧鍛比6以上であって60以下で圧鍛したビレットより採取した試験片は、空洞の大部分が圧着されているため、試験片に入射した超音波の乱反射などの弊害が軽減され、正確な介在物の検出が可能である。
【0020】
試験片は、上記のビレットを軸方向に垂直な平面に切断し、さらに、中心軸から略等間隔に離れた略平行な2平面に切断する。その後、面Aおよび面Bをフライス加工により成形し、その後、熱処理を行う。これにより、凝固まま、圧延まま、鍛伸ままの組織を消して、微細かつ均質な組織とし、機械的性質を改善する。
【0021】
そして、最後に、面Aおよび面Bについて平面研磨を行い、試験片の表面を平滑なものとする。このように作成した図2に示す試験片1は、超音波の伝達損失が少なく、正確な介在物の検出評価が可能となる。
【0022】
≪ステップ2≫
次に、感度校正を行う。かかる感度校正は、例えば、試験片のφ1.5mm、深さ6mmの平底穴(Flat Bottom Hole(以下「FBH」という)について超音波探傷を行ない位置を特定し、そのφ1.5のFBHに超音波の焦点を合わせたときに得られる最大反射波強度を80%となるように超音波探傷装置を設定した。このとき感度設定値を基準感度とし、これより18dB分増感した感度設定値を探傷感度とした。
【0023】
≪ステップ3≫
次に、≪ステップ2≫の記載に従い作製した試験片1を水浸超音波探傷法により、超音波探傷を行なう。本発明の鋼中介在物検出方法においては、超音波探傷を行うが、超音波探傷を行う装置は、様々な種類が市販されており、本発明ではこれらのものを用いることができる。好ましい探触子としては、焦点型探触子などが挙げられる。フラット型探触子の検出能は1/2波長といわれているが、焦点型探触子では、1/4波長であり、検出が困難である√AREAが100μm程度以上の介在物の評価をするのに適している。
【0024】
図5には、焦点型探触子による超音波探傷装置の概略図を例示する。
【0025】
超音波探傷には、焦点型探触子を備えた全没式の水浸超音波探傷装置を用いた。超音波探傷装置は、焦点型探触子11、超音波探傷ユニット12、走査ユニット13、マイクロプロセッサを備えたパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)14、映像化ユニット15からなるものである。マイクロプロセッサには、図6に示すフローチャートに沿った演算処理プログラムが組み込まれる。このようなPCを超音波探傷装置に備えることにより、大量のデータ処理を迅速に行うことが可能となる。
【0026】
超音波探傷を行うにあたっては、試験片1を水槽にセットした後、PC14に試験片のデータ、測定感度、焦点位置、ゲート位置および探傷ピッチを入力する。そして、焦点型探触子11を作動させ、超音波探傷を開始させる。
【0027】
上記のように入力されたデータは、超音波探傷ユニット12および走査ユニット13に伝達され、かかる条件の下において超音波探傷が開始される。
【0028】
すなわち、焦点型探触子11から超音波が発信され、対象物にあたり、その反射波を検出して、その反射波強度および反射波形情報(グラフとして出力された波形、正半波強度、負半波強度など)に基づいて所望の情報を得るものである。焦点型探触子11による走査は、試験片1の所定の間隔をおいた複数箇所の超音波の発射、反射波の受信を行う(この間隔のことを「探傷走査ピッチ」または、単に「走査ピッチ」という)。
【0029】
試験片1に入射し、試験片表面、内部および底面で反射した超音波は、焦点型探触子11に反射波形情報として受信され、PC14に保存される。PC14には、介在物を検出するための演算プログラムが組み込まれたマイクロプロセッサが備えられており、大量のデータを迅速に処理することが可能となっている。
【0030】
超音波探傷される試験片1の探傷範囲は、図7に示すゲート部22であり、不感帯23、外周部24および端部25は、ノイズが多く介在物の正確な検出が困難であるため、走査範囲から除外される。なお、試験片の外周部とは、例えば、中心から略90〜100%の範囲とする。
≪ステップ4≫
超音波探傷の結果については、まず、図8に示すように、縦軸が反射波強度、横軸が深度を表すグラフに記録する。これにより、欠陥の存在する深度および該欠陥の反射波強度が明らかになる。なお、かかるグラフにおいては、縦軸が1目盛り50%、横軸が1目盛り6mmである。
【0031】
次に、欠陥波形に関する周波数分布を高速フーリエ変換機により図9に示すように、縦軸が中心周波数を1とした場合の相対強度、横軸が周波数(MHz)を表す周波数分布に関するグラフ得て、中心周波数を明らかにし、それを記録する。
なお、図9に示すグラフにおける中心周波数は、略13.4MHzである。
【0032】
そして、このようにして導き出された欠陥の存在する深度および欠陥の中心周波数を予め作成した、
介在物・ポロシティに関する深度‐中心周波数関係図に当てはめて、欠陥の種類を識別し、介在物かポロシティかを明らかにして鋼中介在物の検出を行なう。
【0033】
そして、かかる介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図は、以下のように作成する。
【0034】
ステップ1に記載の方法で作成した試験片について超音波探傷を行ない、その結果検出した各欠陥の深度および中心周波数を記録する。その後、該試験片を削り込み、記録した各欠陥が介在物かポロシティであるかを実際に確認する。その結果を、縦軸を中心周波数(単位はMHz)、横軸を欠陥深度(単位はmm)とするグラフにプロットする。この作業を単数または複数の試験片について行なう。そして、プロットした結果、介在物と判断された点のうち各深度における最も中心周波数の強い部分をつなぎ曲線を引く。次に、ポロシティと判断された点のうち各深度における最も中心周波数の強い部分をつなぎ曲線を引く。かかる2つ曲線に挟まれた領域に属する場合は介在物と、ポロシティと判断された点のうち各深度における最も中心周波数の強い部分をつないで作成した曲線より下の領域に属する場合は、ポロシティと判断される。
【0035】
介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図の例を示すと、図3のようになる。すなわち、5の領域に属する場合は介在物、6の領域に属する場合はポロシティであることを意味する。
【0036】
例えば、図3の欠陥深度20mmの部分においては、中心周波数が略14MHzから略14.9MHzの範囲が、介在物と判断される領域であり、中心周波数が略14MHz以下の場合には、ポロシティであると判断されることとなる。
【0037】
なお、かかる介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図は、鋼材の結晶粒度(超音波減衰挙動への影響)が同等の材料であり、試験方法(探触子の種類、試験片の劣化の状態および試験片の形状等)が同じであれば、鋼種や熱処理の方法が異なっても同一の介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図を用いることができる。例えば、SCM420およびSCM435の焼ならし材、およびSUJ2の焼なまし材より作成した試験片は、各々結晶粒度が同等であるため、同一の介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図を用いることができる。これに対し、SCM420、SCM435およびSUJ2の圧延まま材から作成した試験片は、上述の熱処理を行ったSCM420、SCM435およびSUJ2の試験片と結晶粒度が異なるため超音波減衰挙動が異なる。そのため、別途、介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図を作成する必要がある。
【0038】
また、検出した介在物については、検量線を用いて介在物の粒径を換算する。
【0039】
即ち、本発明にかかる、介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図を用いて、介在物とポロシティの区別を明確にしたのち、介在物については検量線を用いて介在物の粒径を明らかにし、その結果をグラフに表す。
【0040】
これにより、従来不明確であった、鋼材中における介在物の粒径の分布を明らかとなり、検出の困難な大形介在物の存在の有無、併せて、鋼材の清浄度をも評価することが可能となる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、本発明の検出評価方法は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
以下においては、SCM420の切断面が380mm×490mmのCCブルームを圧鍛比8.5で直径167mmのビレットに圧鍛したものを用意した。
【0043】
次に、かかるビレットから図2に示す形状に試験片を切り出し、フライス加工で成形した後に900度で焼ならしを行い、その後フライス加工面を平面研磨し、a方向に40mm、b方向に167mm、c方向に80mmとし、面Aを走査面として、焦点型探触子(周波数15MHz、振動子径12.5mm、水中焦点距離150mm)を用いて本発明の介在物検出方法を実施した。また、検査を行なうにあたっては、測定条件として、測定感度は基準感度+18dB、焦点位置は試験片の表面下20mm、ゲートは試料の表面下10〜30mm、探傷ピッチとして0.2mm(平面走査)、また、図10に示すように、面Aの斜線で示した外周部Bを避け、中ほどのd方向に70mm、e方向に150mmの範囲を走査するよう、機器を設定して本願発明を実施した。その結果を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
かかる結果を事前に上述の場合と同様の処理を行ない作成したSCM420の試験片を用いて作成した介在物・ポロシティに関する深度‐中心周波数関係図に当てはめると、図4に示すようになり、その結果は表2に示すとおり、介在物とポロシティを明確に識別することが可能となる。
【0046】
【表2】
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、超音波探傷の結果を用いて鋼中介在物とポロシティを明確に区別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の工程を示すフローチャートである。
【図2】ビレットより作成した試験片を表す斜視図である。
【図3】介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図である。
【図4】超音波探傷の結果得られた欠陥の深度および中心周波数を介在物・ポロシティに関する深度−中心周波数関係図に当てはめた図である。
【図5】超音波探傷装置の概略図である。
【図6】マイクロプロセッサに組み込まれた演算処理プログラムの概略図である。
【図7】試験片の探傷範囲を示す斜視図である。
【図8】欠陥波に関するグラフである。
【図9】材料ノイズの影響が入らないように欠陥波のみにFFT(フーリエ変換用)ゲートを設定し、フーリエ変換することにより得られる周波数分布を表した図である。
【図10】試験片の探傷面を示す斜視図である。
【符号の説明】
1・・試験片
5・・介在物と判定される範囲
6・・ポロシティと判定される範囲
11・・焦点型探触子
12・・超音波探傷ユニット
13・・走査ユニット
14・・PC
15・・映像化ユニット
22・・ゲート部
23・・不感帯
24・・外周部
25・・端部
Claims (1)
- 鋼中介在物を検出評価する方法であって、
評価対象である鋼の試験片につき、鋳片を6以上の圧鍛比で圧鍛した鋼材より採取する工程と、
水浸超音波探傷法を用いて前記試験片に存在する非金属の介在物を検出する工程と、
前記検出工程で得られた結果に基づいて鋼中介在物を評価する介在物評価工程とを備え、
前記介在物評価工程では、欠陥の存在する深度および中心周波数から介在物とポロシティとを識別することを特徴とする鋼中介在物の検出評価方法。
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